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自作ロワ外伝-テロリストと戦ってみました-

1テストしたらば名無しさん:2009/08/13(木) 14:45:26 ID:jkTwpMO20
昔妄想スレで出てたネタを更に細かく妄想するスレ

学校に侵入してきたテロリストと戦うというシチュで
SSをリレーしていきます

自作キャラを生徒側とテロリスト側に分けて60人vs60人の
チーム戦を行います(キャラは使いまわしでもok)

どちらかが全滅したらゲーム終了です

564 ◆Y47IPLbgaw:2010/09/02(木) 23:42:13 ID:E7lxv33IO
そんな事を考えていた紗耶香の上の衣服が、明梨朱の手によって無惨にも破られた。
年相応、というと似合わないが、紗耶香の水色の下着があらわとなってしまう。

「―――!」

声にならない声を挙げる紗耶香。
殺されかける上に、同じ女子とはいえ下着姿を見られるとは。
紗耶香の心には、羞恥心と恐怖心、そしてほんの少しの抵抗心がごちゃごちゃに混ざり合い、訳が分からなくなっていた。

「天草さん、今どんな気持ち?」
「どんな…気持ち…?」
「私に殺されるかもしれないのにさ、こんな無惨な姿晒して、どんな気持ちかって聞いてんの」
「…」

『強いて言うなら最悪』と言おうとして辞めた。
言ってもどうにかなる訳では無い。
それは紗耶香には、よく分かった事。
しかしそんな紗耶香の事は知らずに、明梨朱は紗耶香の首元に光るペンダントに手を触れた。

「そ、それはっ!」

紗耶香が必死に明梨朱を離そうとするが、悲しくも手を拘束されている身。
明梨朱は紗耶香の首元のペンダントに触れる。

「天草さん、これ大事な物なの?」
「大事って…それは、そうですけど…」
「なんで?」
「なんで…って」
「ねぇ、話さないなら殺すよ?」

一回り大きい包丁を紗耶香の視界に食い入る様に、明梨朱はその刃をちらつかせた。
紗耶香はそれに目に涙を溜めながら、口を開く。

「…片身…」
「誰の?」
「お父さんの…片身、ですっ…大事な…大事な…お父さんの…っ!」

よっぽど話したくなかったのか、耐えきれずに泣き出す紗耶香。
声を殺して、しかしぼろぼろ涙を流す紗耶香を見た明梨はというと。

「ふふっ、泣いちゃってさ。そんなに言いたくなかった?」

表向きはこう、冷たく、見下す様に紗耶香に話すのだったが心の中では、

(かっ、可愛い!なにこれ持ち帰りたい!)

と、そう思わされたのだ。

565 ◆Y47IPLbgaw:2010/09/02(木) 23:42:48 ID:E7lxv33IO
…一応明梨朱には百合っ気も無ければ、お姉様キャラの様にリードが出来る訳でもない。勿論Sの気も無い。
好きなのは男である板倉竜斗だし、そっちの事は経験豊富では無い。
しかし、だがしかし。天草紗耶香の泣く姿は、彼女の心を捕らえてしまった。
そう、そんな気も無い彼女の心を、身勝手に。

(や、やっば…私そっちに目覚めた!?…でも、このままじゃ、動揺して殺せないし…)
「…」

紗耶香に視線をやる。
白く透き通った肌、それにしたたる首筋の汗。
少し視線を下にやると、自分程では無いが平均的な体に、可愛らしい水色の下着。
先程の制服の様にこの手で破りたくなる衝動を必死に押さえる。
そして○○○を○○った後、二人で○○○をしたくなってくる。

(おっ、おかしいわよ!あたしはノーマル!そっちの気は無いのに!なんで…なんで…)

遂に変な気でも出来たのだろうか?
そう思っていると、いつの間にか泣きやんだ紗耶香が明梨朱をじっと見た。

(うっ!?)

先程の小動物の様な可愛さがそのまま、威力倍増する様に明梨朱を見る紗耶香。
それにやられて鼻血が出かける明梨朱。

(だ、駄目っ!この子は、『私には合わない』!)

手の拘束を離す。
馬乗りの状態から、明梨朱は紗耶香を解放した。
何故なのか分からず、ぽかんとなる紗耶香。
明梨朱は、表面上はぶっきらぼうにこう言った。

566 ◆Y47IPLbgaw:2010/09/02(木) 23:43:20 ID:E7lxv33IO
「って、やーめた。今天草さん殺しても、あたしが疲れるだけだし。
あ、鎌近くにあるけど、向けたら殺すからね」

疑問符が頭に浮いたままの紗耶香を置いたままで、明梨朱は言葉を更に述べる。

「天草さん、ごめんね。服駄目にしちゃって。でも、変わりに殺さないから許して」

わざとらしく、舌を出して、謝る素振りを見せる明梨朱。
相手を挑発する手段の一種なのだが、こんな奇天烈なやり方をしたならば、こういう台詞も悪くないだろう。

「E-5ってとこにさ、映画館があるから、そこで服か布を探すといいわ。ま、天草さんが露出の趣味が無ければだけど」
(露出ってつまり天草さんの裸体が…っ!やばいわ、そろそろ私)

と、言って明梨朱は紗耶香に背を向ける。
大きな刃を持って、力強く、そして何故かときめきを抱きながら。

567 ◆Y47IPLbgaw:2010/09/02(木) 23:44:01 ID:E7lxv33IO
「…行っちゃった…」

天草紗耶香は訳が分からなかった。
先程まで自分を殺そうとした相手が突然殺そうとするのを止めた。
何故なのだろうか?
何か言った訳でもないのに、どうして自分は殺されなかったのだろうか?
疑問は増えるばかりである。

「そういえば、映画館、近くにあるって言ってた…」

敵の言葉を信じるな。
昔そう言っていた偉人が居た気がする。
でも、何処か場所を探していたところだ。そこに行ってみるのもアリだろう。

「…この格好じゃ恥ずかしいし、なんとかしないといけないし…ね」

はぁ、と溜め息をつきながら、あまりおぼつかない様子で紗耶香は映画館へと出向くのだった。

(ところで、鎌何処に行ったのかな?三住さんここらへんにあるって言ってたけど、まぁ良いよね)

天草紗耶香。
このクラス内で同じ様な境遇にある穂積宗一が『普通』と自負するならば、彼女は『普通以下』。
普通は、真似をすれば出来る。
しかし、紗耶香の様な超人に恐怖し、死に怯え、それでこそ戦う手段を持つ普通の少女ならば、殺し合いでは凡人以下だろう。
しかし、一部の非日常に居る者達はその『普通以下』に憧れるのだ。
本人が、知らぬまま。いつの間にかそれを代弁しているかの様な彼女に惚れ込んでしまう。
まるで我々日常で生活する者達が、芸能人やセレブを羨ましがり、憧れるのと同じ様に。
果たして、それが吉と出るか、凶と出るか。
天草紗耶香。彼女は殺し合いでの台風の目となれるか否か。
それは、まだ分からないだろう。

568 ◆Y47IPLbgaw:2010/09/02(木) 23:44:45 ID:E7lxv33IO
【F-5 山道/一日目・深夜】
【女子二番:天草紗耶香〈あまくさ・さやか〉】
【1:私(達) 2:貴方(達)、○○さん(達) 3:○○(名字)さん】
[状態]:上の制服が破れた、精神疲労(小)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本思考:映画館に行って、落ち着きたい。
0:このままじゃ恥ずかしいよ…何か隠す物見つけないと…
1:なんで三住さんは私を殺さなかったのかな…
2:ペンダント無事でよかった。
3:そういえば水原さんと嵐崎さん大丈夫かな?
[備考欄]
※全員が三住の様になる訳ではありません。ここ重要。
※ペンダントは他人の精神への干渉を防ぎます。
【女子十八番:三住明梨朱〈みすみ・ありす〉】
【1:私(ら) 2:○○さん(達)、あんた、あなた 3:○○さん(達)】
[状態]:ときめき、精神疲労(大)
[装備]:肉切り包丁
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本思考:殺し合いはやっておこうかな。
0:包丁戦いにくいなぁ。銃とか欲しい。
1:天草紗耶香にときめいた。私大丈夫か。
2:正直、あの子は私には合わない…
[備考欄]
※紗耶香に魅了されています。決して紗耶香に興奮してなった訳ではないと思いたいです。はい。

ところで先程二人が激闘を繰り広げた場所のすぐ近くでは。

「痛いよヤバいよ血出るよ〜!どうなってんだこれは〜!」

たまたま通りかかった時に紗耶香の鎌が足首に刺さった藤ヶ原二臣が、痛みと戦っていたのだった。

「ちょっ、おま、出番これだけかよ!?」

はい。これだけです。
【F-5 山道/一日目・深夜】
【男子十六番:藤ヶ原二臣〈ふじがはら・つぎおみ〉】
[状態]:足首に痛み
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本思考:まずはこいつをどうにかする。話はそれからだ。
0:なんでいきなり鎌が飛んできたんだ?
1:足首いてぇ〜〜〜っ!早く抜かねぇと!

569 ◆Y47IPLbgaw:2010/09/02(木) 23:48:32 ID:E7lxv33IO
投下終了。
ふざけすぎた。反省はしていない。
タイトルは
『若き血の目覚め』。
元ネタは三国志大戦の計略名から。
支給品説明。
【鎌】
手持ち鎌。主に雑草を切るのに使う手持ちタイプ。

【肉切り包丁】
別名中華包丁。一般の包丁よりもサイズが大きく、武器らしい包丁となっている。

570 ◆Y47IPLbgaw:2010/09/02(木) 23:49:20 ID:E7lxv33IO
あと国分寺多聞と問芒操を予約。
今度は早く書かねば…。

571テストしたらば名無しさん:2010/09/03(金) 08:28:34 ID:axRW.4ZU0
投下乙です!

紗耶香には私もときめきました。
こんなに可愛かったら殺せない、絶対無理www


そういえば数ヶ月前、このロワの参加者になって
マーダー化した有栖川桜に付け狙われる夢を見たorz

572テストしたらば名無しさん:2010/09/03(金) 09:17:19 ID:fwK/f0yM0
投下乙
あーも−女子がどいつもこいつも可愛過ぎて困るww
全員がなる訳ではないらしいがこの格好だとまた誰か落としそうだww
うん、野郎キャラのモブっぷりは相変わらずだな

573テストしたらば名無しさん:2010/09/03(金) 19:51:15 ID:6J3vG0Ac0
さやかちゃんマジさやかちゃん!

574テストしたらば名無しさん:2010/09/04(土) 22:20:38 ID:siiDBvog0
したらば避難所を作りました。

ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/13386/

今のところスレ立ては規制していませんが、
このスレで出来ることはこのスレで、って方向でお願いします。

575 ◆dXhnNxERuo:2010/09/05(日) 00:58:16 ID:sgLBY4rw0
中川いさ、穂積宗一、ジョナサン大山、功野錬司、サフィロ・シャリーノ
で予約します。

576テストしたらば名無しさん:2010/09/05(日) 10:03:18 ID:1HWXjBkE0
予約来た、wktk!!!

これで予約の入っていない未登場キャラは三木だけか。
そろそろ黎明に入るキャラも出てくる頃かな。

577 ◆dXhnNxERuo:2010/09/08(水) 00:48:39 ID:tuv9qMeo0
ジョナサン大山→砂野夕璃菜に変更します

578テストしたらば名無しさん:2010/09/08(水) 18:56:58 ID:gV6MSU3k0
了解です。
しかし恐ろしい面子だな…楽しみ。

579 ◆CUPf/QTby2:2010/09/11(土) 17:12:14 ID:Udk4Y67Q0
1レス程度の描写で終わらせるはずが、10kbを超える長さに…

そういうわけでごめんなさい。
嵐崎・キャラハン・蘭子の単独登場シーンを
一本分のSSとして投下します。

580汚れなき殺意 ◆CUPf/QTby2:2010/09/11(土) 17:13:04 ID:Udk4Y67Q0
あたしのもっとも古い記憶は、人形を解体する自分の手。
ママに買ってもらった着せ替え人形をその日のうちにあたしは壊した。
ママは激怒した。「そんなことをしたら、お人形さんが痛がるでしょ」って言って。
「お人形さんはもっともっと痛いんだから」ってヒステリックに怒鳴りながら、
何度も何度もあたしを叩いた。

悪いことをしただとか、そんな風には思わなかった。
むしろ、興味をそそられた。人形も痛みを感じる、という説に。
あたしは聴いてみたいと思った。人形の悲鳴を。苦痛を訴えるその声を。
人形もあたしと同じように痛みを感じるのか、それを知りたくて仕方がなかった。

そう、あたし……、
嵐崎・キャラハン・蘭子(らんざき・−・らんこ/女子二十番)と同じように。

581汚れなき殺意 ◆CUPf/QTby2:2010/09/11(土) 17:13:51 ID:Udk4Y67Q0
あたしの育った家は、常に暴力が満ちていた。
パパはママに暴力をふるい、ママはあたしに暴力をふるう。
問題が起きれば暴力で解決。それが日常、当たり前のことだった。

なのにどうして、人形を壊しただけのことで、ママはあんなに怒るんだろう。
違和感を覚え、あたしは苛立つ。人形の悲鳴を聞きたくて聴きたくて仕方がない。
けれどもウチには人形がない。あの日以降、ママは人形を買ってくれなくなった。
おねだりすれば、暴力の嵐。ぶたれ、殴られ、蹴られ、そして叩きつけられる。

だからあたしは他所の家でこっそり人形を解体した。
しかし人形は何も言わない。どういう経緯なのかはわからないけれど、
何故かいつもあたしの行為は親にバレ、そしてまた暴力を浴びる。

それでもあたしはやめられない。人形を見ると、壊したくなる。
あるとき、その日もいつものように、あたしは人形の手足をもいだ。
けれどもその日は少し違った。人形の持ち主に、現行犯で見つかった。
持ち主は、あたしよりもひとつ年下の女の子。
彼女は金切り声を上げ、両手をぐるぐる振り回しながら、あたしに殴りかかってきた。
泣きながらあたしの髪を引っ張り、頬をつねり、爪を立てて身体中を引っかく。
あたしは反撃した。問題が起きれば暴力で解決、それがあたしの日常だった。

パパのように、ママのように、あたしは彼女に暴力をふるった。
感情の赴くままに暴れることしか出来ない子供と、
幼いながらも他人の痛めつけ方を見知っているあたし。
あたしは彼女を圧倒した。まるで安物のおもちゃのように、
わんわんと泣き叫びながら、彼女は悲鳴を上げ続ける。

楽しかった。面白かった。胸の奥からもやが消えた。
あたしの意思、あたしの動き、あたしの力、そのすべてに彼女が全身で反応する。
あたしの心は自由になった。暴力の支配する家、ママの横暴、
自分を取り巻くすべての事象に流されるままの無力な子供から解放された。

もう、人形の悲鳴は気にならない。
生身の人間を痛めつける。その楽しさにあたしは目覚めた。

582汚れなき殺意 ◆CUPf/QTby2:2010/09/11(土) 17:15:09 ID:Udk4Y67Q0
          □ ■ □

……目を覚ますと、そこは知らない部屋だった。
明かりはない、それ以前に家具もない、生活感がまるでない。
窓から差し込む月明かりが、やけに眩しく感じられる。
まるで、パパとママがあたしを置いて夜逃げしちゃったあとみたい。
そんな錯覚に囚われる部屋に、あたしは独り横たわっていた。

二度寝なんて、出来そうになかった。
首を圧迫する違和感が、じっとしている場合じゃないぞとあたしを急かし、苛立たせる。
外には36人の獲物がいる。手加減なしで暴力をふるい、壊せる相手が36人。
早くしないと、誰かに取られる。それどころか、二度寝なんてしていたら――

あたしは勢いよく身を起こし、窓から外を覗き見る。
地面が遠い。自分のいる部屋は二階なのだと判る。
周囲には住宅が点在しているけど、どの家屋も明かりが消えていて、
生活音ひとつ聞こえてこない。まるで、町自体が先に死んじゃったみたい。

 ――そろそろ出発しよっかなー。他の誰かに獲物を取られちゃう前に。

そう思い、視線を室内に戻そうとしたとき、近くの路地で影が動いた。
人がいる。歩いている。あの様子では、まだこちらには気付いていない。
あたしは影を観察する。背格好や歩き方から、同じクラスの
有栖川桜(ありすがわ・さくら/女子二番)なのだと判る。

583汚れなき殺意 ◆CUPf/QTby2:2010/09/11(土) 17:15:59 ID:Udk4Y67Q0
有栖川桜。素行の悪い生徒をあたしが取り締っていると、
不満そうな、あたしを非難するような目つきで睨んでくる子。
それだけじゃない。派手すぎる頭の鹿狩瀬荻矢(かがせ・おぎや/男子四番)に
罰を与えようとすると、決まって横から顔を出し、あたしのやり方に口を挟む。
なんて生意気な。お仕置きしてやりたくなるけど、『生意気禁止』なんて校則はない。

だから、違反ポイントを探す。あたしはすぐに発見する。
彼女の手にはフライパン、理由もなく学校に持ってくるなんてアウトだ。
こうして荻矢だけでなく、桜も取り締まり対象に決定する。
でも、フライパンは高熱を帯びていて、触れたあたしが火傷する。
そうこうしているうちに授業開始のチャイムが鳴り、うやむやのうちに荻矢は解放。

荻矢をかばう。それが桜の目的だ。あたしは苛立つ。けれども取り締まれない。
先生や他の風紀委員が居合わせたときには、フライパンからは熱が引いている。
あたしだけが火傷をする不思議なフライパン。間違いなく、桜の仕業だ。
でも、証拠がない。下手に被害を訴えれば、こちらが変な目で見られかねない。

それ以前に、あたしは自分を被害者のポジションに置くのが嫌いだ。
何かされたら、自力で報復。二度とそんな真似が出来ないよう、徹底的に痛めつける。
それがあたしのジャスティスだ。起き上がってきたら? 歯向かってきたら?
むしろ、望むところ。だって、長く楽しめるから。くたばるまでの時間が長いってことは、
相手に叩き込める暴力の回数もバリエーションもいつもより多い、ってことでしょ?

だから、喧嘩を売られるのは、決して嫌いなんかじゃない。
問題は、桜には、あたしと正面から喧嘩をするつもりなんてないってこと。
そのクセに、妨害だけは一人前。リスクを背負わずあたしの邪魔をするなんていい度胸、
二度とそんな小ざかしい真似が出来ないように痛めつけてやりたいけど、彼女には隙がない。
まるで雪が降り積もるように、桜に対する淡い不満があたしの中に蓄積していく。
やがて、桜の顔を見るだけで、あたしは苛立つようになった。

584汚れなき殺意 ◆CUPf/QTby2:2010/09/11(土) 17:16:48 ID:Udk4Y67Q0
でも、今は違う。あたしは嬉しい。嬉しくて楽しくて心が弾んで仕方がない。
この場では、校則なんて口実がなくても、思う存分暴力をふるえる。
あたしと正面からやり合うつもりのない相手を一方的に叩きのめしたとしても黙認される。
そんな場所で最初に見つけたのが有栖川桜、痛めつけたくて仕方のなかった相手。
しかもこの歩き方、間違いなく桜は無傷だ。万全の状態の桜を壊れるまで痛めつける。

あたしには、人を殺した経験はない。
どこをどう痛めつければ人は死ぬのか、実際のところ、よく知らない。
だから、桜でお試し殺人。もし他の相手だったら、もし自分の手際が悪かったら、
あたしは自身の未完成な暴力にうんざりしちゃうかも知れない。
でも、桜なら問題ナシ。たとえ手間取ってしまっても、
苦痛を長引かせてやっているのだとポジティブに考えられるだろう。

路地を歩く桜の姿が隣家の屋根に遮られた。
とはいえここは流石に孤島、住宅街といってもさほど密集地しているわけではなく、
桜がどちらに向かってもまたすぐにあたしの視界に現れることは明白だった。

なのに、桜は出てこない。何よこれ、普通に歩いてるんじゃなかったの?
物陰で何をしているの? あたしは軽い苛立ちを覚え、すぐにはっと我に帰る。
立ち止まって何かをしてるなら、それってむしろチャンスじゃない?

窓に背を向け、足早に廊下を横切る。
階段を降り、一階の床板を踏みしめたとき、遠くでドアがバタンと閉まった。
ああそうか、ここはノイズが少ないから、音がよく聞こえるんだ。
自分の口元がほころんでいくのが分かる。

 ――桜、今行くから。待っててね?

          □ ■ □

585汚れなき殺意 ◆CUPf/QTby2:2010/09/11(土) 17:17:25 ID:Udk4Y67Q0
玄関扉の左手には庭があり、大きなガラス扉の向こうに暗いリビングが見える。
桜は椅子に座っていた。考え事をしているのだろうか。
手には何も持っていない。いつものフライパンもそこにはない。

植え込の陰に身を屈め、軍用クロスボウに矢をセットする。
それがあたしの支給品。飛び道具だけで終わらせるなんて、
そんな退屈なことはしたくもないしする気もないけど、あたしはふと、
初めて手にする殺傷器具の威力を確かめてみたくなった。

放たれた矢はガラスを貫き、数メートル先の壁に突き刺さる。その軌道は一直線。
桜は弾かれたように立ち上がり、慌てて玄関から出ようとする。
唇の端が釣り上がる。扉を開けて飛び出した桜を再度狙撃してやろう。
逃げられないよう足を狙い、それから――そんなことを考えながら、
ボウガンに矢をセットする。案外、手間のかかる作業。こういうのは好きじゃない。
もし、発射準備を終える前に、桜が玄関から飛び出してきたら。
ううん、そのときはそのとき。こんな面倒なモノは投げ捨てて直接殴りに行けばいいわ。
そうは思っているものの、淡く静かな焦燥が胸の奥底をざわめかせる。

不意に、足音が遠ざかる。しまった。あたしは立ち上がる。
桜はきっと気付いたのだ、矢の飛んできた方向から、あたしがどこに潜伏しているのかに。
しかし、不思議と気分はいい。彼女は逃げた。逃げる、ということはつまりそう、
あたしと正面からやり合うつもりはないってこと。それでいて、この足音。桜は今、焦っている。
襲撃者の正体を探り、逆に罠に嵌めるような、そんな冷静さは持ち合わせていない。
優位に立っているのはあたし。彼女は今、恐怖に駆られているのだから。

だからといって、このまま逃がしてあげるつもりなんてないけどね?

586汚れなき殺意 ◆CUPf/QTby2:2010/09/11(土) 17:18:12 ID:Udk4Y67Q0
あたしは玄関のドアを開けた。そこに桜の靴はない。
暗い廊下の曲がり角、その向こうで足音が止まり、代わりにがちゃがちゃと音が鳴る。
金属と何かが軽くこすれ合うような。これは多分、ドアの取っ手をひねる音。
あたしは廊下の角を曲がり、その奥に見える脱衣所に桜の後ろ姿を認める。
脱衣所の脇には小さなドア。そこから外に出るつもりなのだろう。

逃がすもんか。あたしは桜の足を狙う。
小さなドアが音を立てて軋み、外気が廊下に流れ込む。
クロスボウのトリガーを引く。宙を一直線に切り裂く矢、しかし狙いが少し外れた。
鉄製の矢は脱衣所の入り口の角をかすめ、桜の腕に突き刺さる。
桜がくぐもった悲鳴を漏らす。けれども次に聞こえたのは、裏口のドアが閉まる音。

「ぶぅー。つまんない!」

思わず不満が声に出る。
あたしは頬を膨らませ、軍用クロスボウをデイパックに投げ入れた。
ろくでもない点数だったテストの答案用紙をゴミ箱に放り込むように。

逃げられたことが気に入らないわけじゃない。
彼女は怪我を負っている。必ずどこかに身を隠し、応急処置をするだろう。
軍用武器で、鉄製の矢で射抜かれたのだ、骨や動脈にダメージを受けたかもしれない。
そう遠くには行けないし、手当てにはそれなりの時間がかかるだろう。
あたしの視界から消えたくらいのことで、あたしから逃げられるわけじゃない。

587汚れなき殺意 ◆CUPf/QTby2:2010/09/11(土) 17:18:55 ID:Udk4Y67Q0
あたしの不満、その正体は、武器に対するものだった。
安全圏からの狙撃によって、相手に深手を負わせること。
それがあまりにもつまらないことを知って、あたしは不満の声を漏らした。

だって、相手を傷つけた手応えを、この手で感じられないから。
悲鳴を、呻きを、苦悶の声を、手の届く距離で聞けないから。

たとえばこの、軍用クロスボウ専用の矢。
道具なんかで飛ばすよりも、この手に握って相手に突き刺す方がいい。
その方が、確実に、目的の場所を傷つけられる。
そりゃあ、機械弓のようなスピードは乗せられないし破壊力はないけれど、
それでも鋭利な鉄の棒を眼球に突き刺せばどうなるか。
眼球を貫き潰したあと、てこの原理を利用して、脳味噌をかき混ぜるのもいい。
当たるかどうかも分からない道具なんかを使うより、こっちの方がずっと楽しそうだ。

あたしは裏口のドアを開け、桜のくぐった出口を抜ける。
外には小さな裏庭があり、物干し竿がかかったままになっている。
ああそうか、このドアは、脱衣所の洗濯機で洗ったものをここに持ってくるためのものなんだ。
脱水直後の洗濯物を二階のベランダまで運ぶママの顔、不満げな表情を思い出す。
あたしは物干し竿を手に取った。夜気に熱を奪われた金属の冷たさが心地よい。

 ――これも、凶器として使えるわ。

あたしは心の中でそっと、不満顔のママに微笑んだ。

588汚れなき殺意 ◆CUPf/QTby2:2010/09/11(土) 17:19:40 ID:Udk4Y67Q0
【B-4 住宅街/一日目・深夜】

【女子二十番:嵐崎・キャラハン・蘭子】
【1:あたし(たち) 2:名前呼び捨て、アンタ(たち) 3:名前呼び捨て、アイツ(みんな)】
 [状態]:健康
 [装備]:屋外用物干し竿
 [道具]:軍用クロスボウ、クロスボウ専用の矢(10/12)、支給品一式
 [思考・状況]
  基本思考:バトルロワイアルを楽しむ。
  0:一人でも多くのクラスメイトを殺す。
  1:有栖川桜を優先的に狙う。
 [備考欄]
  嵐崎に支給されたクロスボウ専用の矢は鉄製です。
  表面に色が塗られていますが、鉄の性質を損ねるものではありません。


[支給品・現地調達品紹介]

●軍用クロスボウ

軍隊で使用されている対人用のボウガン。
クロスボウは消音・無音武器として優れた性質を有しており、
高性能のサイレンサー(消音装置)が登場する1970年代まで、
主に消音効果が必要となる場において、銃の代わりに使用されていたという。
(ただし、銃に比べると殺傷能力は劣るため、確殺目的の場合には
 矢に毒を塗るなどの細工を行なう必要があったとか)

また、トリガーで矢を放つという構造から、射撃時に腕力を必要とせず、
弓と比べて素人でも扱いやすいという点も長所といえるだろう。

その一方で、矢のセットに時間がかかるため、連射できないというデメリットを持つ。
また、構造や弾道距離、矢の軌道等が弓とはかなり異なるため、
弓の名手であったとしても、事前の練習なく目標を正確に射抜くのは難しいだろう。

使用する矢も通常の弓用のものとは異なっており、
短く矢羽の少ないものが用いられる。


●屋外用物干し竿

ホームセンター等で売っている家庭用の物干し竿。伸縮性がある。
本体はアルミ製、表面をステンレス等でコーティングしたものが一般的ではないだろうか。

589 ◆CUPf/QTby2:2010/09/11(土) 17:32:27 ID:Udk4Y67Q0
投下は以上です。


どことなくレイプ魔のストーカーに通じるものがあるような…
蘭子の作者さんマジごめんなさい。
でも、書いてて楽しかったです。とても。

作中の残り36人というのは、クラスの人数40人から
OP死者二名と板倉と自分を引いた数です。
黒嵜の不在には気付いていません。
状態表に追記したほうがいいかな?

「ローリンガール」で桜のいた部屋と入り口の位置関係は
これでいいのだろうか…ミスがあればご指摘ください。

脱衣所に出入り口がある構造は珍しいのかも知れませんが、
モデルハウスで見て印象に残っていたので取り入れました。


それでは、長くなりましたが、引き続き
有栖川・八十島・嵐崎・不動院・月元を予約という形で
よろしくお願いします。

590テストしたらば名無しさん:2010/09/13(月) 00:50:01 ID:xnOBApRo0
嵐崎が現地調達した新たな得物。 意外! それは物干し竿ッ!
自作1で楠森が調達してた木の棒なんかに比べればずっとマトモかww
このクラスの連中なら物干し竿どころかただの投石でも軽く人を殺しそうだけどなw

591テストしたらば名無しさん:2010/09/20(月) 17:09:52 ID:jXWoHam.0
自作ロワ2nd専用チャットを設置しました。
書き手の皆さんも読み手の皆さんもぜひご利用ください。

ttp://jisakurowa2nd.chatx.whocares.jp/

592 ◆Y47IPLbgaw:2010/09/20(月) 20:54:18 ID:mTOAlmsoO
書き込めない…携帯からじゃダメなのかな?

593テストしたらば名無しさん:2010/09/21(火) 07:57:18 ID:ladVdOkA0
入室・発言共に、携帯からでも出来ます。
また設定を見直しておきますね。

594 ◆.CzKQna1OU:2010/09/26(日) 10:55:57 ID:62bhEEzo0
テスト

595 ◆.CzKQna1OU:2010/09/26(日) 10:57:23 ID:62bhEEzo0
麓山留夏と藤ヶ原二臣で予約します。

596テストしたらば名無しさん:2010/09/26(日) 13:23:50 ID:N/7vm7io0
新人さん来た!!!

597 ◆dXhnNxERuo:2010/09/27(月) 02:37:40 ID:OBQxTBDg0
投下します。

598機獣咆哮 ◆dXhnNxERuo:2010/09/27(月) 02:39:40 ID:OBQxTBDg0

「…………あづぃ…………。」

海を漂い始めて早3日。残酷なまでに燦々と輝く太陽の下。
中川いさは木製のボートの上で干からびていた。
幼少の時から古流武術を徹底的に叩き込まれ碌に遊びにも行けなかった十余年。
PCもテレビもない過疎地の島に時々流れてくる雑誌に書かれている
煌びやかな世界を見る度に少女の胸中に溢れる思いは膨らむばかりであった。
―――外の世界を知りたい。
―――この腐った家を飛び出して。
そして先日、遂に家出を決行したのだった。
ただ誤算だったのは食料も水も持って行けなかったことだ。
長旅になると思い一週間掛かりで作っておいた大荷物が両親に見つかってしまったのである。
大いに揉めた両親の不意をついてこの間死に物狂いの修行の果てに
片鱗を手にした秘剣で吹き飛ばし、そのままの勢いで逃亡。
―――お父さん、お母さん、今まで有難うございました。
次に家に戻ったら死は免れないだろう。それくらいの覚悟だった。
さらば故郷よ。いさは新たな人生へ向かって旅立ちます。

「…………で、このざま…………?」

どうやら家に戻らなくても死は免れないようだ。
周りは水に囲まれているというのに脱水症状とはお笑い種である。
一体私の人生とはなんだったのか!?

ブロロロロロロ…………

ああ、とうとう幻聴まで聴こえてきた。
お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許しください。
はあ、、次に生まれてきたらちゃんと学校くらい行きたいな。

「――――おぃ、生きてる?ちょっと、しっかりしなさい!
 生きてるんなら学校くらい行かせてあげるわよ!」

「…………え…………?」

目を開けるとビキニ姿の天使が私の顔を覗き込んでいた。

それが彼女にとっての生き甲斐にして生涯を捧ぐと決めた主人、京終春日との出会いであった。

◇  ◇  ◇

599機獣咆哮 ◆dXhnNxERuo:2010/09/27(月) 02:41:13 ID:OBQxTBDg0

暗闇の中、何かが光った。

「うわぁ!また来た!」

慌てて首をそらして飛翔物を回避、飛んできたほうへ向かって発砲する。
銃口からうっすら煙が立ち込める。手ごたえはない。
飛んできたものを凝視する。それは……。

「……歯ブラシ?」
「ついてるな。俺は剃刀だったのによ。」
「……何がしたいんだろう。」
「油断してるところを狙って本命が来るんだろ。こっちが疲れるのを待ってるんだ。」

B-2とB-3の境辺りの森の中。
銃器を手にした功野錬司と穂積宗一は互いの背中を合わせて周囲に気を配っていた。
森に差し掛かった所で何者かに襲撃されたのだ。
数秒感覚で日用品にまぎれて刃物が飛んでくる。

「おい、功野。そっちはどうだ?」
「撃ったけどもう場所変えたかも。」
「くそ、右から上から左から……一体何処に居るんだ!?」
「ていうかそっちもたまには撃ってよ。」
「あー……こっちは予備の弾丸がないからな。」
「そんなこと言ってる場合?」

と、言うより穂積は攻撃することができない。
功野はともかく、穂積の武器は銃にみせかけたモデルガンなのである。
バレたら真っ先に狙われるだろう。

「感覚的にそろそろ何か飛んで着るんじゃないかな。」
「これ避けたら何も考えずとにかく逃げようぜ。」
「そうしたほうが無難かな。」

その時だった。

「どりゃぁぁぁぁぁ!!!!」

何かの叫び声とともに、穂積の目に前に何か大きなものが飛んできたのは。

「うおぉ!!」

穂積が避けようとした瞬間、物体は空中で停止し、何か長いものが穂積の顔面に延びてきて命中。
目の中に星空が広がり功野を巻き込んで地面に倒れる。
物体は回転して見事に着地し、口を開いた。

「行き成り後ろから襲うなんて酷いわね。」

「すまんな、隙だらけだったんで。」

目に視覚が戻った穂積は二人の生徒の姿を確認する。
手にナイフを持ち膝立ちの姿勢で片方を凝視する金髪ツインテールの美少女、サフィロ・シャリーノ。
そしてもうの一人の木刀を持ってる背がちっちゃいのは確か――――。

「大丈夫か?功野錬司。」
「お前……中川?中川いさじゃないか!?」
「……おい、俺は無視かよ?」
「え?ああ、いたのか、穂積宗一。」
「お前なぁ……。」

京終春日の付き人で彼女の用心棒的存在、中川いさと目を合わせた功野は驚愕した。

600機獣咆哮 ◆dXhnNxERuo:2010/09/27(月) 02:42:02 ID:OBQxTBDg0
「功野、春日様を見なかったか?」
「いや、まだ見つからないよ。」
「そうか。で、この女はなんだ?敵か?」

いさはサフィロに木刀の切っ先を向けた。
三人の視点が彼女に集中する。

「はぁ、三対一、てとこかしら。銃が欲しかったんだけど、戦わないほうがよさそうね。」

サフィロは立ち上がり、ナイフをホルダーにしまう。

「サフィロ・シャリーノといったな。お前はゲームに乗っているのか?」
「誰もあの人に危害を加えないなら無駄な殺生はしない。あなたもそうでしょう?中川さん。」
「……まぁ、そうだな。」

全員が立ち上がり一定の距離を取っている。
しかしさっきまでと違い緊張感は大分取れている感じがした。
そりゃそうだ、一番欲しいのは殺害数じゃなくて情報。
まだ始まったばかりでそれほど殺気立ってない今の時期が戦わずに話し合いができるチャンスなのだ。

「まだ誰も殺してないなら手を組むのも手を組むのもアリなんじゃない?サフィロさん。」
「油断するなよ功野、お前を襲うような奴だ。いつ寝返って京終様に危害を加えるか分かったものじゃない。」
「で、でも。」
「……私は……。」


ズシンッ



「―――あ?」

突然、地面が小刻みに揺れ始めた。

「……な……なんだ……この振動は……?」
「……これは、まさか!」

何かホバーの駆動音がこちらへ向かってくる音がし、サフィロが目を見開いた。

「――――死にたくないなら早く逃げなさい!!」

そういった彼女は、その場で跳躍し、木々の中へ姿を消した。

「おい、何が起きているんだ?中川さん!?」

中川いさは暗闇を凝視する。

「分からない、だが、何か禍々しい気配が……!」

そして、唐突に、闇が火を噴いた。

その強い光を正面から目撃した穂積宗一は、不動院凛華のことを急に思い出したくなった。
ポニーテールがトレンドマークの、元気な幼馴染。
あの人間観察手帳をまだ彼女は持っているんだろうか?
持っているのならあれを見て時々でいいから俺を思い出してくれたらいいな。
すげぇ普通な俺だが人を見極める能力だけは凄ぇんだぜ。
そういや周斗の奴はいま何やってんだろ。
血が騒ぐぜとかいってクラスメイトに喧嘩吹っかけてなきゃいいが。
ん?何でこんなことを今考えてるんだ?

ああ、そうか、

――――これが、走馬灯ぉぉぉぉ…………――――

瞬間。
暴風雨のような無数の弾丸が、穂積宗一の体を原型も留めないほど粉々に吹き飛ばした。

601機獣咆哮 ◆dXhnNxERuo:2010/09/27(月) 02:43:09 ID:OBQxTBDg0
突然起きた非現実的な事態に膠着する功野錬司と中川いさ。
頭にフラッシュバックするのは教室に集まった時最後に現れたふざけた巨大兵器。

「――――神楽雅光!奴だ!」
「穂積!!!!嘘だろ!!!!?」
「おい、逃げるぞ功野!」

いさが功野の手を引っ張ろうとしたその時、木々を押しのけそれは姿を現した。
機関銃になっている両腕の片方から煙を出している、チープなSF映画に出てきそうな鉄の巨人。
桐原さんは言っていた。中に居るのはクラスメイトの神楽雅光だと。
安佐蔵をあっさり殺したこの男を説得などできる筈がない。
だが、戦っても―――。
いさは木刀を持つ手に力を入れた。

「功野、一緒に逃げたかったがどうやら無理らしい。二手に分かれよう。」
「うん、そうだね。」
「私が、注意を引く。その間に全力で走るんだ。後ろを振り向かずに。」
「……もうちょっと冷静になってよ、中川さん。」
「何?」

功野錬司は、こんな時だと言うのに嫌味なくらいいい顔でこちらを向き、銃口を向けた。

「は?おい、何やってる!?」
「知ってるよ、君は強い。俺よりずっと、あいつの役に立つ。
 ――――――頼む、春日のそばに居て、あいつを護ってやってくれ。」

そして功野は引き金を引いた。

「が!?」

撃たれたショックで腹を抑える。だが痛みがない事にすぐ気付く。
…………違う、これはモデルガン?

顔を上げると両手に銃を持った功野がこちらから離れながら神楽が乗っている巨人へ向けて
銃を発砲していた。
それにつられ、巨大ロボは撃たれたと思っているのかいさを無視して銃口を功野の方へ
集中させ徐々にそちらに誘導されていく。

「こっちに来いよ!勝負だ神楽!」

だんだん離れていく二人を目にし、

「や…………やめろ!!!!功野!!!!!」

いさは叫んだ。


◇  ◇  ◇

602機獣咆哮 ◆dXhnNxERuo:2010/09/27(月) 02:43:56 ID:OBQxTBDg0
功野は走っていた。
後ろに居る巨人がいつ弾丸の雨で穂積のように自分をミンチにしてもおかしくない。

(でも、これでいいんだ。)

中川いさも、自分も。
昔、春日によって命を救われて以来春日を護ることこそ自分の使命だと思い込んでいる人間だ。
彼女は死ぬ気だった。だが、あの娘の本来の力はこんなところで無駄に散らしていいものじゃない。
死ぬのは、自分でいい。
後方からギュルギュルと不快な音がする。
――――ちゃんと、空気を読んで逃げてくれればいいんだが。

ババババババと、小刻みに音が鳴り、
京終春日のちょっと怒り気味の顔を最後に見た功野錬司の意識は肉体とともに四散した。



巨大ロボ、韋駄天がターゲットの破壊に成功したことを確信し、少し息をついた様子を見せたその瞬間。


「――――――――ふっ!」

ロープに逆さ釣りになった何か韋駄天の顔面に向かって襲い掛かってきた。
突然の襲撃に照準を合わせる間もなく接触を許してしまう。

「―――――――やぁ!」

遠心力によって威力を上昇させながら投擲した軍用ダガーナイフが右側のメインカメラを叩き割った。
急な出来事に慌てたのか韋駄天はバランスを崩し、数メートル先へ地面に跡をつけながら派手に転倒する。

そのまま車体を蹴った勢いで回転しながら地面に着地した少女、サフィロ・シャリーノはすぐさま
ミンチと化した功野のそばに転がった二丁の銃と予備弾薬を拾い、韋駄天のほうをちらりと睨み付ける。
与えたのは大したダメージではない、すぐに起き上がってくるだろう。
今からハッチをこじ開けて中にいる神楽に弾丸を叩き込むのは危険すぎた。

「……今の装備じゃ、これが精一杯、か……。」

ホバー音が再び起動しだすと同時に、サフィロは全力で駆け出した。
今ここで死ぬわけにはいかない。黒嵜さんを護らなければ!

◇  ◇  ◇

603機獣咆哮 ◆dXhnNxERuo:2010/09/27(月) 02:45:06 ID:OBQxTBDg0

どれだけ走ったのか。息を切らしながらふらふらと彷徨う少女、中川いさ。
…………何故自分は逃げたのだ?功野錬司を見捨てて。
二人とも助かる方法があった筈だ。何故それを選択しなかった。
そもそも自分は戦ってすらいない。
一体自分は何の為に修行してきたのか。こういう時に戦う為じゃないのか?
ふっと自虐的に笑う。
知っている。自分の流派は人間と戦う為の武術だ。戦車と戦う為のものじゃない。

「ははは……なんて様!」

功野錬司。あの男は春日様のなんだったのか?
いや、なんとなく気付いてはいた。
なんだかんだいってどんな時もあの男はずっと春日様の傍にいた。
いつも彼を振り回している春日様はどんなことをしている時よりも嬉しそうで。

――――春日様はあの男が好きだったんだな。

自然と、目に涙が溜まっていく。
自分は春日様の大切なものを護れなかった。

「……何ということだ……もう、様に合わせる顔がない。」

ぴたりと、足が止まる。
そうだ、逃げてどうする。
今、勝てないなら次会ったときに勝てるようにすればいいのだ。
そして玉砕すればいい。どうせ一人しか生き残れないのだ。
それが春日様と功野錬司に自分ができるできる唯一のことだった。
涙は止まり、目つきが変わる。

普通を手に居れた少女が、普通を捨てた瞬間だった。


――――私は、どんな手を使ってでも神楽雅光を殺す。



◇  ◇  ◇

「私は神楽君じゃないもーん。私は神楽君じゃないもーん。
 あははははは!あー、さっきはびっくりしたー。」

韋駄天のコックピットの中。
視界の回復が終了したのを確認した砂野夕璃菜は大きく背筋を反らした。
とはいえ壊れたカメラは直らず、ちょっと視界が左寄りになったのだがさほど問題はない。
カメラは真ん中と左、あと二つ。

いくら無敵状態とはいえ少し油断しすぎたかもしれない。次から気をつけねば。

さっきの所へ戻れば中川さんが残ってるかもしれないけど、
結構時間たってるし流石にもう居ないかな?

カメラをズームモードにして辺りを見渡す。
遠くに何か光っているのが見えた。
油断大敵とはいえ、やはりできるだけ人の多いところへ行き一気に片付けるのがベスト。

「次はあっちかなー?私は戦うぞ!碧ちゃんの為に!
 ひひひひひひひひひひひひっっっっっっっっ!!!!!!!!」

外装の狂気と内部の狂気。
二つ揃った怪物が、ホバー音を響かせ動き出す。





【男子五番:功野錬司 死亡】
【男子五番:穂積宗一 死亡】

【残り31人】

604機獣咆哮 ◆dXhnNxERuo:2010/09/27(月) 02:46:18 ID:OBQxTBDg0
【??? /一日目・黎明】

【女子十四番:中川いさ】
【1:私(達) 2:あなた(達) 3:あの人(達)、○○さん・君(苗字)】
 [状態]:健康
 [装備]:阿修羅(木刀)
 [道具]:支給品一式
 [思考・状況]
  基本思考:春日を守る。
  0:春日を保護する。
  1:神楽雅光(韋駄天)を殺す。
  2:もっと強い武器が欲しい。

【??? /一日目・黎明】

【女子十一番:サフィロ・シャリーノ】
【1:私(達) 2:あなた(達) 3:あの人(達)、○○さん・君(苗字)】
 [状態]:健康
 [装備]:H&KG36(30/30)
 [道具]:支給品一式、宿泊客用アメニティ一式
     シーツを切り裂いて作った簡易ロープ(200cm×1本、綿100%)
デザートイーグル(エアガン)(13/15)、H&Kの予備弾(30/30)
 [思考・状況]
  基本思考:任務の遂行(黒嵜暁羽の護衛)
  0:ゲームの脱出、もしくは優勝。
  1:邪魔者は間引く。他人は信用しない。
  2:首輪の解除方法を探す。
  3:神楽雅光(韋駄天)を倒す方法を考える。
  4:盗聴を警戒。

【B-2 草原 /一日目・深夜】

【女子十番:砂野夕璃菜】
[状態]:健康、高騰感
[装備]:グランドレプリカント"凡庸人型戦車"『韋駄天』GR-02
    ライトマシンガンアーム(160/200)
    レフトマシンガンアーム(200/200)
    対空地ミサイルランチャー(5/6)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
 基本思考:砂野碧衣の安全の為に彼女以外は誰であろうと見つけ次第全員殺害する
 0:人が居そうな場所へ向かう(現在F-2〜F-3辺りを目指して進行中。)
 1:碧衣ちゃんは全力で保護!
[備考欄]
※マニュアルを読んでないので操作に慣れてません
※ヘッドセットをつけてないので韋駄天の音声出力用スピーカーは機能しません
※コックピットが完全に封鎖してあるのでハッチを開けないと外から中の人が分かりません
※ホバー機動により通常の参加者より多くの距離を移動できます

605 ◆dXhnNxERuo:2010/09/27(月) 02:50:19 ID:OBQxTBDg0
投下終了。
最初はジョナサン大山大活躍の予定だったがいさが殺る気満々だったり
大山君が展望台から落下しても無傷だったり色々おかしいので出番カット。

606 ◆dXhnNxERuo:2010/09/27(月) 02:58:11 ID:OBQxTBDg0
砂野夕璃菜の状態表に追加。
[備考欄]
※右側のカメラが壊れました。視界は確保されてますが右側に死角ができてます。

607テストしたらば名無しさん:2010/09/27(月) 12:32:50 ID:OuISyYvQ0
投下乙です!

功野といさが切なカッコいい。
相変わらずこのクラスの女子は恐ろしいな…
狂気のにじみ出る夕璃菜の台詞にぞわぞわしつつ和みました。

608テストしたらば名無しさん:2010/09/27(月) 16:55:59 ID:OuISyYvQ0
>>606
そういえば、状態表の時間表記、
砂野夕璃菜だけ黎明ではなく深夜扱いですが、
これはこのままでいいのでしょうか?

609 ◆fGF8UWdRvM:2010/09/27(月) 18:35:10 ID:wHEWxD5oO
殆どゲームスタート直後の話なので全員深夜でも特に問題ないですね
一応、居場所が不明のサフィロ、いさは次の時間帯の現在位置
佐野は今の時間帯の現在位置という事になっています

610 ◆FTVoUZ8Vuw:2010/09/27(月) 18:37:19 ID:wHEWxD5oO
間違えました

611テストしたらば名無しさん:2010/09/27(月) 18:41:51 ID:wHEWxD5oO
む、PCからでないとあのトリにならないのか…?

612テストしたらば名無しさん:2010/09/28(火) 00:23:33 ID:1PC.ZW5w0
投下乙です。

元々の火力にパイロットの狂気がプラスされた韋駄天が危なすぎる。
サフィロはもう盗聴の可能性に気付いてるし、流石は暗殺者というべきか。
そして中川の木刀の名前が……魔界都市ww

時に、功野と穂積が死亡確認で二人とも男子五番になってます。

613テストしたらば名無しさん:2010/09/28(火) 00:36:46 ID:mZUdJtNgO
ま た 男 かwww 
このロワの男カワイソスすぎるwww

614テストしたらば名無しさん:2010/09/28(火) 17:54:12 ID:ipI8PdgQ0
>>609
時間帯の件、了解です。
ありがとうございました。

>>612
ホントだ…<男子五番 神楽の呪いか?
wiki収録のものを修正しておきました。

615 ◆dXhnNxERuo:2010/10/03(日) 20:22:05 ID:9fd.7jaw0
琴浦周斗、砂野碧衣、マイケルで予約

616テストしたらば名無しさん:2010/10/04(月) 00:35:33 ID:yB98pjjA0
>>51 
熊さん、すっかり忘れてたw
島で野生化してるんだろうか?w

617テストしたらば名無しさん:2010/10/04(月) 10:48:48 ID:5GQUSyrk0
好きなものと苦手なものの欄を見ているうちに
マイケルのビジュアルがねずみの国のアレになってしまった…

618テストしたらば名無しさん:2010/10/10(日) 21:53:30 ID:Hm1dVeY.0
レンタルしていたサーバのサービス終了につき
リアルタイム更新地図のアドレスを変更いたしました。
新しいアドレスは以下のとおりです。

ttp://www20.atpages.jp/akaihitomi/jisaku2/

619 ◆Y47IPLbgaw:2010/10/11(月) 09:27:46 ID:QNoaEiw.O
>>618
乙乙です。
サーバー変わったの知らなかったぜ…



投下致しますね

620 ◆Y47IPLbgaw:2010/10/11(月) 09:29:16 ID:QNoaEiw.O

草が一帯に繁茂する草原。
緑一色に染まった中に佇む男が一人。
その風貌は、金色と赤色という目立つ色に髪を染め、耳には銀のピアスを開けている。
更には目つきは獣の様に鋭く、その姿だけで間違いなく常人なら目を合わせるのを避けるだろう。

「チッ、調子に乗りやがって」

彼の名前は国分寺多聞(男子八番〈こくぶんじ・たもん〉)。古風な名前と反比例し、強者かつ変人揃いの高校の中でも最強と呼び名が高い不良である。
それもそのはず。
彼の父は有名な『鬼の国分寺』と呼ばれる柔道家であるからだ。
それゆえか、父からは嫌という程柔道を教え込まれている。

(まぁその父さんも母さんも、今は何処かの外国だろうが)

ちなみに多聞の母の職業は老古学者である。
といっても有名ではなく、父と息子二人揃ってその事について忘れていたが、高校一年のたまたま出かけたとある外国にて、

『なんかありそうだから私ここ掘るわ』

と旅行そっちのけで掘り始めたところが、なんと白亜紀の恐竜の化石があったのだ。
しかもその恐竜の化石は白亜紀の他の恐竜の生活が詳しく分かる物であり、そのまま発掘への参加を余儀なくされてしまったのだ。

そしてその後は父がとあるヨーロッパ在住のオリンピックに何度も優勝している柔道選手の講師に呼ばれてしまい、多聞は日本で一人暮らしを始めてしまう事になってしまったのだ。

621 ◆Y47IPLbgaw:2010/10/11(月) 09:30:59 ID:QNoaEiw.O
それでそんな二人の有名な親を持つ多聞だったがある日の事、不良グループの数人が多聞に絡んできてしまったのが彼を大きく変えた。

校舎裏にまで呼びつけられて、文句を言われていた時までは黙っていた。
だが不良グループの一員が、多聞を金属バットで殴ったのが悪かった。

『テメェ…人の体を勝手に傷つけて、入院させたらどうしようと思わねぇのか!』

…結果論で行くと、逆に怒った多聞が不良達を病院送りにしてしまったのだ。
(しかし、多聞も頭部を8針縫う大怪我をしたのだが)
それ以降、彼は一気に校内で恐れられてしまったのだった。

生まれつきの目つきもあってか、なんとなく一般生徒をチラ見しただけで、その生徒が泣いて謝ってきたり、
中にはプリントを落とした生徒を手伝おうと声をかけたら逃げられて、何故か呼ばれた風紀委員と勝負を繰り広げる羽目になったり、
噂を聞いた琴浦という同学年の男とも戦ったりと、勝負を挑むのならば、必ずと言っていい程それを受けた。

だがしかし、多聞は喧嘩は嫌いである。
父から教えてもらった柔道を、いざというとき以外そう簡単に喧嘩に使う事は、父に対して失礼と考えるからだ。
無論、立場を弱い人をいたぶるカツアゲなんてする奴なんてもっと嫌い。
夜に人に迷惑をかけて走り回る暴走族も、嫌っている。

622 ◆Y47IPLbgaw:2010/10/11(月) 09:31:37 ID:QNoaEiw.O
だからこそ、彼はなるべく人を避ける為に髪をわざと派手に染め、耳のピアスも穴を開けなくて良い様なタイプを付け、外見だけで威嚇出来る様な物にしたのだった。

無論、学業をおろそかにする事なぞ出来ない。
『質実剛健』をモットーとした父に育てられた多聞からしたら、学業は必要不可欠である。
日々売られた喧嘩で消えた授業を、独学での勉強に費やしているおかげか、テストでは毎回半分以上を取り無遅刻無欠席。
ついでに趣味は動物と遊ぶ事と読書という、『そんな不良で大丈夫か』と言われてしまいそうな男である。
だからそんな不良らしからぬ男が、国分寺多聞なのである。

「蝶野…絶対に、お前は許さねェ…絶対に!」

だからこそ、多聞は怒りに燃えていた。
残虐性に溢れ、人の命を弄び、『生徒』を守るべき役目である教師の職業を捨てた蝶野杜夫を、心の底から憎んでいた。

(テメェが俺らがあがく姿を見たいなら、お前の言う通りあがいてやるよ。
でもな、蝶野。そのうちテメェの面を原型留めない程に殴ってやる)

―――だから、覚悟しとけよ。馬鹿ヤロー。
そう思いながら、蝶野の醜く笑う顔を思い浮かべながら、多聞は高々と、夜空へと拳を突き上げた。
反抗の意志を貫くが如く、夜空を突き破るかの様な拳だった。

「…てか、そうやったとはいえここに居ても何も始まんねぇし…動くとすっか」

そう呟いて高らかに上げた拳を静かに下ろし、多聞は派手な赤色と金色の髪を掻きながらも歩みを進めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆

623 ◆Y47IPLbgaw:2010/10/11(月) 09:32:08 ID:QNoaEiw.O

「だーれもいねぇな…」

と、少し歩いてみた多聞であったが、何故か生憎、周りには誰一人とも居ない。
いや、多聞としても誰かに会った瞬間に殺されるなぞ決意を固めた直後としては、あまりにも腑抜けすぎるのだが。

(ま、流石にそんなアホみてぇな事はねぇだろ…と信じたいが)

そんな風になったら、ギャグ以外の他でもない。
―――もしそれで死んだら、安佐蔵と最強堂から笑われる覚悟しなきゃな。
と一人で勝手に思いつつ、ふと苦笑いが浮かんだ。

「しかし、こうも誰も居ないのもおかしいよな…俺、呪われてるのかなぁ」
「多分そうじゃない?ほら、キミ、案外馬鹿みたいだし…」
「そうだよなぁ…俺、結構頑張ってると思うんだけど」
「ていうかさ、もしかたらそんな風に殺し合いに反抗しようなんて、キミだけなんじゃない」
「そんな事言うなよ…大体周りには俺しか…ふぁ?」

妙に抜けた声を出してしまった。
今確実に自分は誰かと話していた。
気付くのが遅い多聞も多聞だが、目を見開いて、誰なのかを知る為に、後ろを振り向いた。

「やっほー」

624テストしたらば名無しさん:2010/10/11(月) 09:32:36 ID:QNoaEiw.O
そして振り向いた多聞のすぐそばには、髪を纏めてお団子頭にしている問芒操(女子十三番〈といのぎ・みさお〉)の姿があった。
やけに近かったので、多聞は少し仰け反ったが、睨む様にして、突如として自らと会話した操へと問い掛けた。

「問芒…どういうつもりだ?」
「どーゆーつもりだって…尾行?(笑)」
「…わざわざ【かっこわらい】って言うヤツ、初めて見たぞ…」


真剣に聞いた所為でか、操のやけに軽い答えに頭を抱えて突っ込む多聞。
一方の操は、どこからか取り出したかも分からない様な菓子パンを貪る。

「はむはむ…あー、一応言っとくけどさ。殺し合いなんて馬鹿馬鹿しくてやる気ないから。キミは?」
「お前と同じだ。生憎だが、あんなオッサンにどうこうされる訳にはいかねェ…」
「はむはむ…かっこいーじゃん。多聞クン」
「名前、分かってたのか」
「勿論!その目立つ頭してりゃ、誰だってキミって分かるよ」

「っせぇよ」とやや拗ねながらも、多聞は菓子パンを食べおわった問芒の瞳を改めて見る。
純粋な瞳が、こちらに敵意を無しに向けられている。
多聞には分かる。
これまで幾度と喧嘩を受け付ける度に相手に共通していた、人それぞれの『敵意』が。

625テストしたらば名無しさん:2010/10/11(月) 09:33:17 ID:QNoaEiw.O
そして彼が今現在一番憎む蝶野杜夫からは、それが多く感じられた。
ただ、憎悪とも殺意とも読み取れない。
なんとも言いづらい、『敵意』が自分達に向けられていたのだから。

(と、なると…一応問芒には敵意は無いって事にしとっか…)
「問芒、お前これからの予定無いなら、ちょっと付き合わないか?」
「え、別に良いけど…何処に行くの?」
「あ?何処に…って。何処にも行かねぇで行動をだな…」
「ダーメ!それはダメだよ!多聞クン!地図ってものがあるんだからさ」

と、操がまたこれも何処から出したか分からない様に、地図を取り出す。
丁寧に折り畳まれている地図を開くと、問芒は指でなぞりながら自分達の居る場所を探す。

「…えーと…さっき操が来た道を考えると、ここB-7らしいね…
ここから近い施設は多いけど一番良いのは診療所かな。多聞クンはどうかな…?」
「お前すげぇな…地図とか何処で見つけたんだ?」
「最初からディパックの中にあったよ?…もしかして見てないの」
「なっ!?ち、違う!み、見たんだからな!ただ、小さくて気付かなかっただけだ!」

「嘘バレバレじゃん…」と操は心の中で静かにそう思った。
一方の多聞はまだやけにテンパっているが、操としてはどうでもいい。

「とにかく!多聞クンが提案したのが『同行』なら、操は『行動』の提案があるはず!そのまま慌ててるんなら、れっつらごー!」
「や、やめろ!襟を掴むな!くそ、馬鹿力にも程があるだろお前ぇぇぇ!」

◇◆◇◆◇◆◇◆

626テストしたらば名無しさん:2010/10/11(月) 09:33:44 ID:QNoaEiw.O

ごめんね多聞クン。
操、一つだけまだキミに言ってない事があるんだ。
あのね、操ね。
本当はね、人間じゃないんだよ。
色々あって他人に体を改造された、改造人間。
だから、最初は『人間』じゃないから、キミ達普通の『人間』を殺してもいいかなー、って思ったんだ。
クラスメイトでも、正当防衛は成立するかな、なんて考えて。

…だからさ、キミを最初、殺そうとしたんだよ?
操に渡された武器がアイスピックでね。
後ろ姿を見つけた時は、油断した隙に殺そうって思った。
でも、無理だった。
ニーソに隠しておいたそれを出す直前に、キミがじろっと操を見たんだよ?
そしてそれは、操を信じきった目をしてたんだよ。

そこでね…操、戸惑ったんだ。
でも、やっぱりそのアイスピックを取り出そうとした瞬間に、操気付いたの。

―――あぁ、操…まだ人間らしいじゃん。

…だからさ、だからさ多聞クン。
操はキミに助けられたんだよ?
操はキミが見てくれたから、人間らしさを保てたんだよ?
だからね、多聞クン。

操も、君と一緒に行かせてほしいんだ。
だから、それがせめてもの操に出来ること。
だからどうか見ていて。
キミを信じる、操の瞳を。

【B-7 草原/一日目・深夜】
【男子八番:国分寺多聞】
【1:俺(ら) 2:お前(ら) 3:あいつ(ら)、○○(名字呼び捨て)】
[状態]:健康、蝶野に対しての怒り
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品
[思考・状況]
基本思考: 蝶野杜夫を殴る為に行動する
0:…もう抵抗は諦めた
1:戦闘はなるべくしたくない。
2:よかった、荷物の中身確認してない事バレてない。HAHAHA。
3:…どうせなら診療所で隠れて見るか…
【女子十三番:問芒操】
【1:操(達) 2:君() 3:皆、○○クン(下の名前)】
[状態]:健康
[装備]:アイスピック(ニーソの下に隠したまま)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本思考: 国分寺多聞とともに行く。
0:一応改造された体だけど、大丈夫かな。
1:診療所だったら薬あるかもしれないしね〜♪
2:…多聞クン、嘘付くの下手すぎ。

627テストしたらば名無しさん:2010/10/11(月) 09:37:18 ID:QNoaEiw.O
下終了。
タイトルは『すれ違い通信、成功?』で。
元ネタは…言わずとも分かりますよねw

【アイスピック】
氷を割る為に使われる器具。
割った氷はカクテル等の飲み物に使われる。
先端が尖っており、場合によれば致命傷を与える事もあり。

628テストしたらば名無しさん:2010/10/11(月) 11:56:06 ID:J08zUGLU0
投下乙です!

ヤンデレフラグキター!!!!!
や、このクラスって病んでるのは多いけど
デレる子はいなさそうだったから、貴重だなと…

629テストしたらば名無しさん:2010/10/21(木) 14:43:04 ID:veYyAhAM0
久しぶりに支援絵。水原とさやかちゃんです。
蘭子を描くつもりで描き始めたのにうまくいかなかったorz

(画像アドレス直リン)
ttp://www17.oekakibbs.com/bbs/srpgbr/data/15.jpg
(絵板)
ttp://www17.oekakibbs.com/bbs/srpgbr/oekakibbs.cgi

630テストしたらば名無しさん:2010/10/21(木) 21:50:49 ID:6XkbzC46O
風紀委員三人衆は見てみたいな。

631テストしたらば名無しさん:2010/10/21(木) 23:12:11 ID:Kjw203rsO
風紀委員共か…
ならば
いすみん→日笠
藍子→矢作
さやかちゃん→佐藤(聡)

というキャストになるのですね。分かります。

632テストしたらば名無しさん:2010/10/21(木) 23:17:41 ID:jpDZoDms0
いいえそれは生徒会です

633テストしたらば名無しさん:2010/10/30(土) 20:59:03 ID:PSP9XxqcO
桐野ラキ、ジョナサン大山、月元夢子


予約

634 ◆Y47IPLbgaw:2010/10/30(土) 20:59:13 ID:PSP9XxqcO
桐野ラキ、ジョナサン大山、月元夢子


予約

635 ◆CUPf/QTby2:2010/10/30(土) 21:41:58 ID:cP8GQNvY0
丁度良かった。予約から月元を外します。
自己リレーになる箇所は書きたい人に回したいので。

あと、投下はもう少し遅れます。ごめんなさい。

636 ◆Y47IPLbgaw:2010/10/30(土) 22:56:23 ID:PSP9XxqcO
あ、あれ!?
しまったぁ…予約気付かないままだったからなんか、申し訳ない…

637テストしたらば名無しさん:2010/12/04(土) 17:31:26 ID:WfIfnLE.0
テスト

638テストしたらば名無しさん:2010/12/04(土) 17:32:46 ID:WfIfnLE.0
こっちは書けるのに避難所には書けない。
そういう人、他にいますか?(by.したらば管理人)

639テストしたらば名無しさん:2010/12/04(土) 18:04:15 ID:WfIfnLE.0
改めましてこんにちは。したらば避難所管理人です。
自作2専用掲示板の設定を少しだけ変えました。

Proxyを通していないにもかかわらず
Proxy扱いになって書き込めなかった方は
今回の変更で書き込めるようになったと思います。

他に不具合のある方は、お申し出ください。
今後ともよろしくお願いいたします。

640 ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:25:18 ID:7oHJZWik0
大変お待たせいたしました。
嵐崎、有栖川、不動院、八十島のSSを投下します。

641あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:26:45 ID:7oHJZWik0
一刻も早く、人の気配に触れたかった。
ゲームに乗っていても構わない。殺意を向けられても構わない。
相手が人間ならば、顔見知りならば、クラスメイトならば、
出来ることは自分にもある。けれども、この森は手に負えない。
自然の前では、自分は無力だ。いや、無力だと思ってしまう。

一歩足を踏みしめるたびに、枯れ枝が乾いた音を立てる。
視界が悪い。枝葉が天を覆い隠し、星明りすらも遮ろうとする。
がさり、と近くで音がする。獣か、蛇か、虫けらか風か、
それとも己の踏みしめたものが離れた何かに繋がっていたか。
がさり、と再び音がする。誰もいないはずの場所から、這うような音。

獣だったらどうしよう。毒蛇だったらどうしよう。気持ちの悪い虫だったら。
逃げ足には自信がある。持久力にも自信がある。
しかし、視界が悪すぎる。足場も悪く、障害物にも事欠かない。
恐怖に屈して走り出せば、怪我を負う可能性のほうが高くなる。

 ――大丈夫。落ち着きを失ったら、出来る対処も出来なくなるわ。
 冷静に考えて。さっきの校舎。この島には、少なくとも学校がある。
 つまり、それなりに文明と共存している場所だってこと。だから……。

大丈夫。どうにかなる。そう自分に言い聞かせ、
不動院凛華(ふどういん・りんか/女子十六番)は前進する。
それでも恐怖は忍び寄る。周囲のすべてが不安を生む。
何度も怯え、足を止め、ようやく視界が開けたとき、
凛華はその場にへたり込んだ。

642あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:27:24 ID:7oHJZWik0
そう、たとえそこが、ゴーストタウンであったとしても――
町並みは暗く沈んでいても、その形には人の営みの痕跡がある。
凛華の見知った世界がある。だから凛華は安堵した。
大丈夫、どうにかなる。その言葉にようやく根拠が宿ったような気がして。

ふと視線を感じ、顔を上げると、同じクラスの女生徒が
住宅の外壁に背をもたせかけ、力なくこちらを見やっていた。
有栖川桜(ありすがわ・さくら/女子二番)。負傷しているのだと分かる。
右腕に何かが刺さっており、鮮血が流れ落ちている。
誰かに襲われたのだろうか。それとも返り討ちに遭ったのだろうか。
どちらにせよ、手当てをしなければ。自分には、それが出来るのだから。

凛華は桜に歩み寄る。桜の身体が強張るのが分かる。

「大丈夫。危害を加えるつもりはないわ」

凛華は両手を軽く挙げ、丸腰であることをアピールする。
桜は何も答えない。その強い視線からは、警戒心が見て取れる。

凛華はふと、思い出す。
両親の経営する動物病院、そこに運ばれてきた傷だらけの犬。
人間から虐待を受けた犬の様子に、今の桜はどこか似ている。

 ――誰かに襲われた可能性が高そうね。それも、一方的に。

彼女を休ませなければ、と思った。
怪我の手当ても必要だが、心の休息も不可欠だ。
一歩、また一歩、凛華は桜に歩み寄る。

「有栖川さん、歩ける?」
「……うん」
「近くに診療所があるようだけど……、そこに向かうのはあとね。
 手近な家に入って、そこで応急処置をしましょう」

          □ ■ □

643あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:28:12 ID:7oHJZWik0
誰かが点したその部屋の明かりが、暗いカーテンから漏れている。
黄色がかった淡い光は、そこに獲物が潜伏していることを物語っていた。

なんて迂闊なんだろう、取り締まらなければ、罰を下さなければ。
嵐崎・キャラハン・蘭子(らんざき・−・らんこ/女子二十番)は
唇の端を吊り上げて一歩、また一歩、着実にその住宅との距離を縮める。

 ――そこにいるのは桜なの? 随分と無用心じゃない。
 そんなことしてたらママが怒り出しちゃうわ。ほぉら、こんな風に!

自身の背丈よりもはるかに長い物干し竿の端を両手で握り、
まるで薙刀を振るうように、遠心力を乗せた先端をガラス窓に叩き込む。
その一撃で、ガラスは砕けた。ガタリ、と頭上で何かが動く。
明かりの点った二階の部屋から、慌ただしい物音が聞こえてくる。
獲物が外敵の襲撃に、己の迂闊さに気付いたのだろう。
今更気付いても遅いのに。腹の底から笑いが込み上げる。

とはいえ、侵入経路はいまだ不完全。
ガラスを砕いた窓の枠組みは小さく、無理に潜り抜けようとすれば、
豊かな胸がつかえてしまうに違いない。

644あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:28:51 ID:7oHJZWik0
不意に、中学時代のことを思い出す。
『蘭子ちゃん、胸が大きくて羨ましい』――無邪気な笑顔で
そんなことを言ったクラスの女子を、蘭子は即座に叩きのめした。
お仕置きだ。罰だ。巨乳には巨乳の苦悩があることも知らず、
安易に羨ましいなどと口にするなんて。ママなら激怒するだろう。
だから、教育してあげたのだ。その子のママの代わりに、自分が。

いいことをした、と思っている。ママだって絶対、そうするはずだ。
なのに、思い出すと苛々する。何もかもすべてが気に入らない。
何でもいい、誰でもいい、壊したくて殺したくて仕方がない。

チアガールがバトンを回すように、蘭子は物干し竿を回転させる。
ステンレス製の棒に遠心力を乗せ、次々と窓ガラスに叩きつける。
ガタン、と再び頭上で鳴る。慌ただしい音が二階から聞こえる。
しかし、明かりは点ったまま。足音も物音も、
同じ場所を行き来するだけで、逃亡の気配はうかがえない。

パニックに陥っているのだろう。蘭子は声を上げて笑った。
無駄なのに。逃げられないのに。勝てないのに。生き残れないのに。
あたしがいるのはそこじゃないのに。見当はずれな動きばかり。
無駄なことをして無駄なことを思って無駄に身構えて無駄に抵抗して、
そういうの、ママは大ッ嫌いなのに。知らないなんて重罪、死刑。

大窓を叩き割りながら、蘭子は甲高い笑い声を上げた。

          □ ■ □

645あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:29:54 ID:7oHJZWik0
静寂の彼方から、風に乗って、何かの割れる音が聞こえた。
聞き覚えのある女生徒の笑い声が被さるように遠くで響く。

「くっ、嵐崎の奴……」

桜の双眸が、にわかに力を取り戻す。
暗がりを力なく眺めることしか出来なかった彼女の目が、窓の外に向く。

桜がいるのは、凛華に手を引かれるまま転がり込んだ住宅内の一室。
襲撃者を警戒して、明かりは一度も点していない。
つい今しがたまで、桜の心は無力感に覆われていた。
理不尽極まる蝶野の命令、役立てられない超能力、負傷による激痛、
そして、ろくに言葉を交わしたことのないクラスメイトから受ける手当て。
緊張した。沈黙が心にのしかかる。次第に自己嫌悪が強くなる。

それを破ったのが、蘭子だった。
蘭子の声を耳にした途端、心が活力を取り戻した。

 ――そうだ。弱腰になっちゃダメだ。出来ることを全力でやらなきゃ。

手当てを続ける凛華の指を退けるように、桜は無言で身じろぎする。
凛華が小声で桜を制する。その声は穏やかだが、芯の強さを感じさせる。

「有栖川さん、動かないで」
「嵐崎が暴れてるんだ。止めに行かなきゃ」
「だったらせめて、処置が終わってからにして」
「嵐崎の奴が、誰かを襲ってるんだ。あたしは助けに行きたい」
「気持ちは分かるけど、あと少しだけ我慢して。私も一緒に行くから」
「や、いい、ひとりで行く。あたし、嵐崎のことはよく知ってるから。
 早く止めなきゃ、誰かが殺されるかも知れない。
 怪我なんて気にしてる場合じゃないんだ、だから!」

痛む右腕をもう一方の手で庇いながら、桜は凛華から身を離す。

「有栖川さん、待って」

感情を抑えた凛華の声が、桜の背中に突き刺さる。
けれども桜は振り向かない。月明かりを頼りに暗い廊下を走る。
凛華の足音が追ってくる。踏み出すたびに、振動が傷の奥深くに響く。

 ――諦めちゃダメだ。あたしの体はちゃんと動くんだから。

そう自分に言い聞かせ、廊下を抜けて、再び外へ。

646あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:30:28 ID:7oHJZWik0
……桜は今、凛華に対して苦手意識を抱いていた。
性格が合わないわけではない。むしろ、好感を持てる方ですらある。

元々、桜は女子特有の粘着質なコミュニケーションが苦手だった。
一緒にトイレに行ったりだとか、相手の話に相槌を打ちまくるだとか、
そういう人付き合いの形に馴染めないものを感じていたのだ。
その点、凛華のパーソナリティは中性的で、自分に近いものがある。
もっとも親しい友人が男子生徒、という点も、ふたりの共通点と言えた。
また、生まれつき体が弱く、入院生活を送ることの多かった桜にとって、
負傷した腕を見ても取り乱すことなく手当てを買って出た凛華の姿は、
幼い頃より幾度となく自分を助けてくれた看護師を思わせ、心強い。

しかし、だからこそ桜は引け目を感じる。
対等な友人として接したいのに、どうすればいいのかが分からない。
相手が自分にしてくれたこと、自分の心にもたらしたもの、
それと同じだけのものを、どうすれば相手に返せるのか、
それが分からなくて身動きが出来なくて、息が詰まりそうになる。

そんな桜にとって、蘭子の横暴は渡りに船だった。
今の自分に出来ることがあるとすれば、それは蘭子を止めること。
そうすることで凛華を守り、蘭子に襲われている誰かも守る。

それに、蘭子自身についてもそう。蘭子を危険視してはいるものの、
邪魔だと思っているわけでもなければ、別に殺したいわけでもない。
蘭子のやり方には到底賛同など出来ないし、擁護するつもりもないが、
暴力という形でしか他人とコミュニケーションを取ろうとしない
彼女の姿を見ていると、関わりを持たずにはいられないのだ。

桜にとってそれは、一種の仲間意識だったのかも知れない。

          □ ■ □

647あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:31:11 ID:7oHJZWik0
おっす! オラ八十島秋乃(やそじま・あきの/女子十九番)!
たまたま上がり込んだ民家の一室で、オラ、パソコンを見つけたぞ!
よーし、これでオラの支給品・USBフォルダも大活躍だ!

まずは部屋の電気を点けて、パソコンを起動……っと。
どんなデータが入ってんのか、オラもうわくわく。
その時、庭先ですんげー音がした。誰かがオラに戦いを挑んできたんだ。
……げげっ! その声は、嵐崎・キャラハン・蘭子!
こりゃ、すげぇ虐殺になりそうだぞ。



   次回、自作キャラでバトロワ2nd

   『八十島秋乃、最大の危機!』

   絶対見てくれよな!



 ――って、ちっがああああああああああああう!
 そんなこと考えてる場合じゃない! しっかりしろ、私の頭!

脳内番組の次回予告に登場するキャラクターの声を振り払い、
秋乃は意識を聴覚に向ける。

648あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:31:58 ID:7oHJZWik0
階下で床板が軋んでいるのが分かる。
襲撃者の足音がこちらに近付いてくるのが分かる。
ドスッと鈍い音がする。鈍器のようなものが壁に叩きつけられる音だ。
そして、蘭子の笑い声。破壊活動を満喫しながら、ゆっくりと、
しかし確実に、蘭子はこの部屋との距離を縮めていく。

逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ――
みんな! オラに元気を分けてくれ!
脳裏ではついに本編が始まる。しかもクロスオーバー企画の特別編。
秋乃はシンクロ率120%で狭い室内を動き回る。
部屋中の家具を入り口付近に集め、バリケードを築いて襲撃者に備える。

おいおい、逃げちゃダメだ×3にシンクロしてる場合じゃないだろ、
ATフィールドを張ってる暇があるなら逃げろよ、ベランダから。
そんなツッコミを入れる者など、室内はおろか脳内にすらいない。

折り重なった家具の向こうから、階段を踏みしめる足音が聞こえる。
蘭子の笑い声が防壁を抜けて、こちらに近付いてくるのが分かる。
もっともっと、もっともっともっともっと守りを固めなければ、隠れなければ。
秋乃は窓辺に走り寄り、カーテンをさらに固く閉ざしてうずくまる。

ドン、と全身に衝撃が走る。一体何が起きたのだろう。
事態を把握出来ず、目を白黒させる秋乃の体に再び、ドン。
中でも特に、窓辺に接している部分に衝撃を感じる。
秋乃は気付く。ガラス戸が振動している。ガラスに何かが当たっている。
いや、違う。ベランダに誰かがいて、ガラスを外から叩いているのだ。

649あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:32:41 ID:7oHJZWik0
「あっははははははは、見ぃつけた!」

扉一枚隔てただけの場所で、蘭子が無邪気に笑っている。
バリケードの向こうで、ドアノブががちゃがちゃと音を立てる。
心臓が早鐘を打ち、口の中がからからに乾く。鍵はかけた。でも――

生木を引き裂くような音を立て、衝撃が木製のドアを揺るがす。
蘭子が扉を蹴っている。笑いながら、罵りながら、何度も何度も蹴りつける。
その余波で、机の上に乗せた椅子が滑り落ちて床を揺るがす。
ドアは破られてなどいないのに、バリケードが先に崩れていく。

ドン、と背後でガラスが揺れる。誰かが再び戸を叩く。
恐怖で身体が動かない。声を出すことすらままならない。
二人の襲撃者に挟まれているのに、逃げ場がどこにも見つからない。
蘭子を阻む木製のドア、その上部に設けられた採光用の小さな窓、
そこに嵌った曇りガラスが、乾いた音を立てて砕け散る。
代わりに現れたのは見覚えのある赤毛、続いて蘭子の大きな目。
淡い色の瞳がきょろきょろと回り、秋乃を捉えて動きを止める。

「なぁんだ、桜じゃないんだ。ぶぅー、つまんないのー」

助かった。秋乃の胸に光が灯る。事情はまったく読めないが、
少なくとも自分は蘭子のターゲットからは外れていたらしい。
芽生えた希望に応えるように、蘭子が可愛らしくクスクスと笑う。

650あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:33:31 ID:7oHJZWik0
「そこで待っててね、秋乃。今行くから。すぐに終わらせてあげるから」

再びドアが衝撃に震える。積み上げられた家具が余波で軋む。
背後で誰かがガラス戸を叩く。何度も何度も何度も叩く。
もうダメだ、私は死ぬんだ、同じクラスの生徒に殺されるんだ、
やりたいこともいっぱいあるのに、会いたい人もいっぱいいるのに、
もう叶わないんだ、蝶野先生はどうしてこんなことをするの、
生徒の未来を犠牲にしてでもしなきゃいけないことって何なの、
先生はそんなに麓山さんのことが――その時だった。

「嵐崎! あたしと勝負しろ!」

離れた場所で、下の方で、有栖川桜の声がした。
蘭子の視線が自分から外れる。しかし、立ち去るには至らない。

「嵐崎! そこにいるんだろ! あたしと勝負しろ!」

蘭子はその場から動かない。背後で誰かがガラス戸を叩く。
まるで焦りを帯び始めたように、音は大きく、激しくなる。

「あたしと勝負出来ないのか? おまえ、ホントは怖いんだろ!」

舐めやがって。蘭子が憎々しげに吐き捨てた。
しかしその場からは動かない。桜の挑発はさらに続く。

「あたし、知ってるぞ。おまえがホントはすごい臆病者だってこと。
 臆病だからそうやって、すぐに暴力を振るって暴れて、
 必死になって自分を強く見せようとするんだ。違うか?」
「……桜、てめぇ……」

廊下で鈍い音が上がる。蘭子が怒りに任せて壁を蹴ったのだ。
そう、壁を。この部屋に通じるドアではなく、廊下の壁を。
それは彼女の殺意が秋乃から外れたことを意味していた。

「……ブッ殺してやる!」

蘭子の足音が遠ざかる。勢いよく階段を駆け下りるのが分かる。
ガラス戸を隔てたすぐそばから、見知った女生徒の声がする。

「お願い、ここを開けて! 私は不動院よ、あなたを助けに来たの!」

          □ ■ □

651あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:34:11 ID:7oHJZWik0
時は遡る――

桜が凛華に追いつかれるのは時間の問題だった。
運動部所属とはいえ幼い頃から病気がちで、怪我を負った身である桜と、
陸上部所属で長距離走を得意とする無傷の凛華。
ふたりのスタミナは、比較するまでもなかった。

とはいえ、凛華は桜を無理に連れ戻そうとはしなかった。
凛華もまた、蘭子とその相手のことが気がかりだったのかも知れない。
放心している桜に事情も聞かず、手当てを買って出たくらいだ、
死傷者が出かねない状況を見過ごすことなど出来ないのだろう。

簡易的な止血処置を行ないながら、蘭子の声に向かって歩く。
目指すべき場所はすぐに分かった。笑い声の聞こえる方角を見ると、
二階の一室に明かりの点った家があるのが遠目でも確認出来た。

近付くと、窓辺で人影が動いた。
その背格好は女子のように見えるが、誰なのかまでは判らない。
何をしているのだろう。蘭子の声と彼女の立てる物音は、一階から聞こえる。
ガラス戸を開けてベランダに出れば、塀を伝って逃げ出せるのに、
人影は右往左往するばかりで部屋から逃げ出そうとはしない。

 ――右腕がこんな状態じゃなかったら……。

桜は無言で歯噛みする。
彼女の右手は今、使い物にならない状態だった。
物を握ることはおろか、指一本動かそうとしただけで、
耐えがたい激痛に見舞われる。凛華の見立てによれば、
骨にヒビが入っているかも知れないとのことだった。

652あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:34:46 ID:7oHJZWik0
桜は塀を、ベランダを見上げる。
体操部所属の彼女の運動能力でなら、簡単に辿り着ける場所だ。
しかし、それは腕に怪我をしていなければ、の話だった。
ベランダを睨みつける桜に、凛華が小声で話しかける。

「有栖川さん、ここで待ってて」
「何するつもりなんだ……」
「ベランダから助け出すわ。嵐崎さんが来る前に」
「そういうことなら、あたしも手伝う」
「いいの。私ひとりで大丈夫。有栖川さんはここにいて」

言い終わるや否や、凛華は塀に手をかけて、頭上より高く跳ね上がった。
猫のようにしなやかな身のこなしで、塀からベランダへと飛び移る。
凛華がガラス戸をノックすると、人影の全身がビクッと跳ねた。
しかし、それ以上は動かない。人影はカーテンを開けようとしない。
蘭子の声が移動する。階段を踏みしめる足音が聞こえる。
凛華はノックを繰り返す。けれども人影はカーテンを開けない。
蘭子に聞かれることを警戒してか、凛華は言葉を発しようとしない。

 ――クソッ、あたしに出来ることは何もないのか……?
 超能力も運動能力も役に立たない、しかも声も出せないとなると――

そこまで考えて、ひらめいた。
声を出せば、蘭子に気付かれる。
ならば、この状況を逆手に取ればいいのだ。

凛華に察知されぬよう、忍び足で玄関方面に回り込む。
扉を開けると、吹き抜けの玄関の向こうに螺旋階段が見えた。
この上に、蘭子がいる。何かを蹴りつける音と蘭子の笑い声が聞こえる。
姿の見えない宿敵に向かって桜は叫んだ。

「嵐崎! あたしと勝負しろ!」

          □ ■ □

653あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:35:20 ID:7oHJZWik0
「鍵がかかっているわ……」

玄関扉の取っ手から、凛華はそっと手を離す。
この家の中に、桜と蘭子がいる。助けに行かなければ、と思う。
「あたし、嵐崎のことはよく知ってるから」と桜は先ほど言っていたが、
あれほど挑発したあとだ、今の蘭子の凶暴性は
桜の手に負えないレベルまで達しているだろう。

現に、聞こえてくるのは蘭子の笑い声と、そして桜の悲鳴ばかり。
一刻も早く助けなければ。凛華は振り返り、秋乃に問う。

「八十島さんの支給品は?」
「あ、ああ、私……私、私は……」

秋乃は声を震わせながら、デイパックの中を覗き込む。
やがて、弾かれたように顔を上げ、隣家の二階を指差した。
さっきまで彼女のいた部屋だ。今も明かりが点いたままになっている。
あの部屋に支給品を置いてきてしまった、と言いたいのだろう。
秋乃は今にも泣き出しそうな顔で、縋るような目でこちらを見ている。
彼女の精神はまだ、恐慌状態から抜け出していないようだ。

 ――仕方ないわ。怖い思いをしたばかりだもの。

安全な場所で休息させたいと思う。しかし、ひとりにはさせられない。
秋乃の神経は今、きわめて過敏な状態にある。
つまり、何の害にもならないような些細な物事に過剰反応し、
誤った行動を取りかねない、ということだ。
なら、多少の危険が伴っても、目の届く場所に置いておく方がいい。

視線を落とすと、秋乃の膝がかすかに震えているのが見えた。
履いている靴は、軽い運動に適した歩き易そうなものだ。
ベランダから脱出したとき、秋乃は裸足のままだったが、
動けない彼女の代わりに凛華が玄関まで靴を取りに行ったのだった。

「……他の入り口を探すしかないわね。
 八十島さん、ゆっくりでいいから私について来て」

          □ ■ □

654あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:35:57 ID:7oHJZWik0
……あたしは無力だ。
超能力も運動神経も料理の腕も、今はまったく使い物にならない。
特別な能力があっても、人とは違うことが出来ても、
こんなときに役立てられなきゃ意味がないのに。

この首輪を嵌められたときも、抵抗ひとつ出来なかった。
鉄の塊で命を脅かす蝶野に対して、文句ひとつ言えないまま、
今、蘭子に殺されようとしている。

でも、なんだろう。何かを忘れているような気がする。
何か、とても重要なことを。何か、とても恐ろしいことを。
でも、それが何なのかが分からない――

…………
……

655あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:36:36 ID:7oHJZWik0
自分の名を呼ぶ凛華の声、ベランダの向こうから聞こえる声が、
桜にはまるで別世界の物音のように感じられた。

体が動かない。蘭子にのしかかられ、身動きを封じられてしまった。
抵抗はした。持ち前の柔軟性を利用して、関節技から何度も逃れた。
しかし、怪我を負った腕を狙われては、どうすることも出来なかった。
激痛のあまり声も出せず、ただ身悶えているうちに、こうして自由を奪われた。

「ふぅん、これが桜の支給品……」

ぼんやりと狭くなった視界の片隅で、上機嫌な蘭子が
デイパックの中からペンのようなものを取り出したのが見えた。
彼女が漁っていたデイパックは、桜から奪い取ったものだ。
彼女は既に勝者の顔で桜の所持品を貪っていた。

「あたし、こんなの初めて見た。ねぇ桜、これは何?」
「説明書、入ってる……」
「あたし、そういうの読みたくない。桜が説明しなさいよ」
「……ガラスを切る道具……」
「これが? 刃なんてついてないじゃない」
「刃で切るんじゃない……。表面に傷を付けて、割れやすくする……」
「面倒だわ。ガラスを割りたいなら、殴ればいいのよ」

パンがないならケーキを食べればいいじゃない、
とでも言いたげな蘭子の様子に、桜は思わず失笑しそうになる。

656あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:37:28 ID:7oHJZWik0
桜への支給品は、破壊のための道具ではない。創造のための道具だ。
ガラスや鏡を任意の形にカットすること。そのために用いる道具だった。
とはいえ、単体では使い物にならない。液体油が必要なのだそうだ。
しかし、先ほど入った住宅には、植物油の一本もなかった。
たとえ創造のための道具でも、このような場に持ち込まれては、
そして蘭子の手に落ちては、凶器にしかなり得ないだろう。

けれども蘭子はさしたる興味も示さずに、
鉄のペン軸を思わせるそれをデイパックの中に戻した。

「ってゆーか、蝶野もセンスない。ケータイくらい持たせればいいのに」
「……外部に連絡、されたくないんだろ……」
「小心者。誰かが来る前に決着つけるもん」
「……おまえ、何怒ってんだよ……」
「だって……」

蘭子がクスクスと笑い出す。唇の両端が釣り上がる。
掘りが深く、それでいて幼い顔立ちが、みるみる悪意に歪んでいく。

「ケータイがあれば、桜の姿を荻矢に見せてあげられるもん」
「……おい、なんでアイツの名前が出てくるんだよ……」
「だって荻矢、桜のことが好きなんだもん」
「そんなわけ、ないだろ……」

悪質な冗談の類いにしか思えない。しかし、言葉に力が入らない。
鹿狩瀬荻矢とは友達同士、彼が自分を異性として見ているなんて有り得ない。
一体こんな自分のどこがいいのか。付き合いは悪いし、女らしくもないし、
大体、可愛い子ならクラスにいくらでもいるのに。有り得ない。絶対ない。
それに、蘭子よりも自分の方が、鹿狩瀬については知っている。
だから「そんなわけない」と言い切れる。蘭子の話は間違っている。
そう思っているはずなのに、胸の鼓動が激しくなる。

657あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:38:03 ID:7oHJZWik0
「桜、知らなかったんだ。いつも一緒にいたのに、気付かなかったんだ。
 荻矢って、桜の前では態度が全然違うのに。
 あんなにあからさまなのに、桜は何も気付かなかったんだ」

蘭子の無邪気な笑い声が、桜の胸に突き刺さる。
そんなわけない、と言いたかった。
おまえに鹿狩瀬の何が分かるんだ、と言いたかった。
しかし言えない、彼について知らなかったのは自分の方だと思えてならない。

……鹿狩瀬には、不可解な一面があった。
たまに、言動が一致しなくなる。わけのわからないことで不機嫌になる。
どうして鹿狩瀬がそうなのか、桜にはどうしても分からなかった。
でも、蘭子の言葉が真実だと仮定すると、不可解な言動の謎が解ける。
乾いた大地に水がしみ込んでいくように、納得が桜に浸透する。

 ――そうか、鹿狩瀬はあたしのことを……。
 え、でも待て、待って、そうだとしたらあたしって相当無神経じゃないか!
 あたし、鹿狩瀬の内心を知らずに、そういうのはおかしいとか言いまくってた。
 鹿狩瀬が不機嫌になる理由も知らずに。なんでおまえはそうなんだ、とか。
 どうしよう。あたし、相当嫌なやつだ。鹿狩瀬に嫌な思いをさせてたんだ。
 あたし、どうしよう。どんな顔をして鹿狩瀬に会えばいいんだ……。
 鹿狩瀬になんて言って謝ればいいんだ……。っていうかこれって、え、あ、
 あたし、鹿狩瀬と付き合うことになるの? どどどどどうしよう……。

蘭子がまた、笑っている。楽しそうに笑っている。
人の苦悩がそんなにおかしいのか、と普段の桜なら抗議するだろう。
しかし今の彼女には、黙って暗がりに視線を落とすことしか出来ない。

「あはは、その顔。ケータイがないのがホント残念。
 テレビ電話で荻矢に見せてみたいのに。
 動画に撮って、時間差で送りつけるっていうのも面白そう。
 でも、もっと楽しそうなのは、やっぱり――」

658あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:38:37 ID:7oHJZWik0
蘭子は少しだけ腰を浮かせ、桜のスカートをたくし上げた。
そのまま下着に手をかけると、一気に膝までずり下ろす。
下半身に流れ込む外気の冷たさが、桜の意識を現実に戻した。

「な……、何考えてんだ、この変態!」
「だってパンツが邪魔なんだもん。パンツが邪魔で入れられないんだもん」
「……は?」
「物干し竿。桜のアソコに入れるの。奥の奥の奥まで刺し込むの」
「アホか! 入るわけないだろ変態!」
「入るよ。死んじゃうけどね」

再び蘭子の体重が桜の身体を圧迫する。動けない。
右手はまったく使い物にならず、左手はそんな利き腕を庇うのに精一杯。
蘭子は大ぶりの物干し竿を片手で自在に操っている。
金属製の竿の先端を覆うプラスチックのキャップが陰部に触れる。

「このまま串刺しにして殺してあげる」
「や、やめろ!」
「ケータイがないのがホントに残念。荻矢に見せてあげたいのに。
 大好きな桜の処女喪失から死まで、みんな見せてあげたいのに。
 荻矢、どんな顔するかな。大好きな桜をあたしに取られて。あはは」
「おまえ、頭おかしいだろ!」
「あはは、桜はママにならなくていいのに、どうしてそんなに怒ってるの?
 桜はママにならなくていいのに。子宮をぶち抜いて殺してあげるのに」
「嫌だ、やめ、やめて……」

659あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:39:08 ID:7oHJZWik0
狂ってる。殺される。桜はとっさに左手を伸ばす。
手が届けば、物干し竿に指が触れさえすれば、超能力を発動出来る。
超能力で操った不安定な磁力を金属にぶつけ、発熱させることが出来る。
そうすれば、蘭子は熱さに耐えかねて、ステンレスの凶器を手放すだろう。
だが、届かない。上半身を押さえつけられていて。蘭子の体が邪魔をして。

「暴れないで! 入らないじゃない!」

蘭子は桜の胴に肘鉄を打ち込み、竿の先端を強引にねじ込もうとする。
けれども挿入には至らない。蘭子には正確な場所が分からないのだろう。
あらぬ方向に力がかかり、不自然な痛みに桜は思わず悲鳴を上げる。
純潔こそ保たれてはいるものの、蘭子の横暴は、先を丸めた棒で
神経の寄り集まった皮膚に穴を開けようとしているも同然だった。
痛みから逃れたい一心で、桜は本能的に手を動かす。

 ――金属が……、何か、金属さえあれば……。

自分に覆い被さる蘭子の視線が、顔と下腹部を往復している。
幼く形の良いその口元が、再び歪み、釣り上がる。
クソ、あたしが痛い思いをするのがそんなに楽しいのかよ。
悔しくて腹立たしくて仕方がない。あたしはこんなやつに殺されるのか。
嫌だ。絶対に嫌だ。まだ鹿狩瀬に謝っていないのに。桜はあがいた。
しかし、いくら手を伸ばしても、何ひとつとして掴めない。

喜びに歪んでいく蘭子の口元が忌々しい。
数センチ下には、黒い首輪が見えるのに。この差は一体何なんだ。
自分と同じ、鉄の首輪で、蝶野に命を握られている者同士なのに――

660あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:39:48 ID:7oHJZWik0
 ――鉄の、首輪……?

そうだ! 考えるよりも先に手が動く。見えない力を操りながら。
指先が蘭子の首輪に触れる。冷たい鉄に高熱を与える。
これで助かる。助かるはずだ。だが、蘭子の表情は変わらない。
笑いながら桜を見下ろし続ける。どうして? まさか、この首輪には通じない?
胸の奥底に冷たい何かがゆっくりと浸透していく。それは絶望だった。
もうダメだ。桜の気力が萎えていく。あたしは、本当に、無力なんだ。
心の底からそう思いそうになったとき、蘭子の身体がのけぞった。

「ああッ、熱い! 熱い、なんなのこれ!」

蘭子が床を転げ回る。悲鳴を上げ、罵声を吐き、両手で首をかきむしる。
髪や肌や肉の焦げる不快な匂いが桜の鼻腔にうっすらと絡みついてくる。
どうしよう。桜は恐怖に凍りつく。どうしよう。蘭子から視線を外せない。
どうしようどうしよう。何も考えられない。どうしようどうしようどうしよう。
今しがた自分が殺されそうになったことすら、遠い昔の出来事のようだ。
これまでにないスピードで心臓が早鐘を打っているのが分かる。
自分の血液が全身を流れる砂嵐のような音まで聞こえる。

蘭子がゆっくりと起き上がる。耳障りな悲鳴を上げながら。
己の頭を乱暴に揺さぶり、ぐるぐると回転させながら。
蘭子は足をもつれさせながら部屋の中を行き来する。
熱を打ち消そうとするかのように、頭を、体を、何度も壁に叩きつける。
淡い色の大きな目が、乱れた赤毛の合い間で光る。その目が再び桜を見た。

661あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:40:26 ID:7oHJZWik0
「くぅ、桜……、こんな首輪、ブッ壊してやる!」

蘭子は両手で首輪を掴み、力任せに引っ張った。
肉の焼ける音がする。甲高い電子音が鳴り響く。死の予兆が鼻腔にまとわりつく。
蘭子がガラス戸を突き破り、ベランダの柵に背を打ち付ける。
それでも彼女は両手を首輪から離さない。電子音がひときわ高く響く。

「ママ! ママ、あたしの首輪を外して、ママ!」

その刹那、蘭子の首輪が爆発し、ちぎれた血肉が宙に舞った。
鎖骨から上を失った体が何度か跳ね上がり、崩れ落ちる。
まるで壊れたポンプのように、鮮血をあたりに噴き出しながら。

桜は動けない、声も出せない。
恐怖に凍りついたまま、死体から目を反らせない。

この“殺人”を法で裁くことは、困難を極めるに違いない。
脅迫されて殺し合いを強いられるという特殊な状況下での、正当防衛。
加えて、超能力という非科学的な手段。
超能力で磁場を操って首輪を発熱させ、首輪内の基盤や配線を壊し、
爆発に至らしめたことを立証するなど、まず不可能だろう。

だから、法的には『白』だ。
桜が蘭子を殺したという証拠は存在しない。

しかし、激しく脈打つ心臓の鼓動が、何よりも雄弁に語っている。
一人の人間を、その未来を、この世から消した事実の重さを。
その重みに、自分が恐怖していることを。
たとえ法が見逃しても、自分の中から罪が消えることはないのだと、
耳を聾さんばかりに早鐘を打ち続ける自身の脈動が告げていた。


【女子二十番:嵐崎・キャラハン・蘭子 死亡】
【残り30人】

          □ ■ □

662あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:41:07 ID:7oHJZWik0
血の雨が降っている。二階のベランダから、蘭子の血が地に滴り落ちる。
付近の植え込みには、血肉や歯、そして赤毛が絡まっている。
さかさまになって鎮座する顔、口から下を失った蘭子の頭部だ。
見開かれた淡い色の瞳は、虚空を見据えたまま微動だにしない。

凛華はTシャツの上に羽織っていた薄手のカーディガンを脱ぐ。
遊びを我慢して家業を手伝い、欲しいものを我慢して小遣いを貯め、
ようやく買った憧れのアパレルブランド物、お気に入りの一着だった。
しかし、惜しんでなどいられない。凛華はその場に身を屈め、
熱を失った蘭子の首輪をカーディガンで包み込む。
破損した鉄の輪には人間の肉片が付着しているが、さほど気にならなかった。

……不動院凛華は猟奇的なものを好む類いの人間ではない。
クラスメイトだった蘭子の凶行や死にはショックを受けているし、
生徒に殺し合いを強いる蝶野に対しては憤ってもいる。
ただ、彼女はグロテスクなものに対する耐性が人より少しだけ強かった。

それは、両親の経営する動物病院の手伝いをすることで得たものだった。
怪我を負い、病を患う動物の姿を通じて凛華は知った。
生命とは決して美しいものだけで成り立っているわけではない。
表皮に覆われているグロテスクなものすべてが
あるべき形で機能して初めて、健康でいられる。普通でいられる。
そして、表皮の向こう側と真正面から向き合う人々のお陰で
自分たちは快適に、そして便利に生きられるのだ、と。

だから、今は、それを知っている自分が皆のために動かなければ。
それが、ひとりでも多くの級友と共に生還することに繋がるのだから。
そう信じているからこそ、首輪の回収にも迷いはなかった。

凛華は桜や秋乃のもとへ戻るべく、リビングのガラス戸を開ける。

663あたしが殺した ◆CUPf/QTby2:2010/12/08(水) 16:41:43 ID:7oHJZWik0
鍵を破ったのは、彼女自身だった。
内鍵付近のガラスを庭石で砕き、そこから手を入れて開錠した。
空き巣がよく使う手口、テレビの防犯番組で知った方法。
誰のものかも知らない家に、凛華は土足で上がり込む。
いつ何時、どのような場所から外に出る羽目になるかも分からないから
靴は体から離さない。桜や秋乃にもそうさせている。

凛華は彼女たちの待つ洋間のドアを開ける。
しかし、そこにいたのは桜のみ。秋乃の姿は見当たらない。

 ――八十島さん、トイレかしら……?

確認しようと思ったが、尋ねても答えはないだろうと考え直す。
桜の様子は、凛華が出て行く前と比べて何も変わっていなかった。
ソファの上で膝を丸め、虚ろに宙を眺めている。
短くカットした黒髪は乱れ、肩を包むタオルケットは今にも滑り落ちそうだ。

しかしそれも自然な反応だと凛華は思う。
蘭子の死んだ部屋に踏み込んだとき、桜の下半身は裸だった。
デリケートな問題なので詮索は避けたが、その場の状況から、
蘭子の仕業であることは明白だった。
変態、やめろなどと蘭子を罵る桜の声は、外にいた自分たちも聞いている。
その上、蘭子のデイパックから見つかった個別支給品の矢は、
桜の腕に刺さっていたものとまったく同じだった。

つまり桜にしてみれば、自分を傷つけ、生命と貞操を脅かした相手が
不可解かつショッキングな形でこの世から消えた、ということになる。
自分を極限まで追い込んだ相手を一撃で粉砕する理不尽な力が存在し、
しかもその殺人装置は自分の首にも密着していて、いつ発動するか分からない。
助かって良かった、の一言で簡単に片付く話ではないだろう。


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