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代理投下スレ

181遠き日の夢:2012/04/07(土) 00:02:38
「優れた武器は、自らの意思で主を選ぶという言い伝えがある。僕のデュランダルも
君のアルマーズも、今は僕達に力を貸してくれているけれど、僕達がその資格を失ったら、
また眠りについてしまう」
「もっとも、この町でその力を振るうときは、大抵しょうもねぇ事件に巻き込まれた時だけどな」
「茶化すなよ」
 彼の横やりに、眉根を寄せる。それなりに真面目な話をしているつもりだったのだ。
「まぁ、気持ちは分るけどよ。武器は自分の一部って言うからな。その武器がなくなれば、
そりゃつれえよ」
 武器は古来、英雄の象徴であった。自分がそういう大それた存在だとは微塵も思っていないが、
物語の主人公が最後に伝説の武器を手放すように、僕達も僕達の人生の中で象徴を持つに
ふさわしい時期、まさに自らが主人公だといえるような青春時代を過ぎたら、愛剣を
手放さなければいけないのかも知れない。
「そんな風に、病に倒れ、戦う力さえ残っていない自分を見るのが嫌だった。
苦しんでいる人がいるのに、それを助けられない自分を見せつけられるのが嫌だった」
 夢の中とはいえ、そんな自分を見るのが耐えられなかったのだ。話している内に、
夢を見ていたときに感じた妙な現実感が胸から込み上げて来て、また頭が痛くなってくる。
そっと、こめかみに指を添えた。
「所詮は夢だ。気にするなよ」
 そんな僕の様子を見て、ヘクトルが言う。
「分っているよ。分っているけど、例え夢だとしても許せないことがあった」
 僕は、まっすぐにヘクトルを見据える。あんな夢を見た直後に、彼とこんな話をしているのは
偶然ではないのかも知れない。
「ヘクトル。僕は、君との誓いを違えてしまった」
 言いながら、僕は自らの掌を見せる。闇夜でも、目を凝らせばうっすらと傷跡が見える。
 その傷跡を見て、彼は僕の言わんとしていることを全て悟ってくれたようだった。
「『僕達二人は、生涯志を同じくする者。一方が危機に陥った時は、命を掛けて相手を守る』
夢の中の僕達も、同じ誓いをしていたよ」
 それは遠い昔、近所の子ども達が集まった時に交わした誓い。結局その場で互いの手を
取ったのは兄弟である自分達だけだったが、それでも僕達二人の根幹にある、何よりも大切な誓いだ。
「夢の中の僕達が同じ誓いをしていたのは嬉しい。だけど、僕はその誓いを破ってしまった。
戦争で君が本当に危ない時、病を理由に駆け付けなかったんだ。夢の中の君は、どんなときでも
誓いを守ってくれたのに・・・!」
 夜中だということを忘れて、大きな声を出しそうになってしまうのを、なんとか堪える。
「その結果・・・夢の中の君は命を落としてしまったんだ」
 ――――。
 重苦しい沈黙だった。たかが夢の話。そんなことは分ってる。だけど、例え夢の中であろうと、
一番守らなければいけない約束を破ってしまったことが、重く僕の心に圧し掛かっていた。
「すまない。変な話をしてしまって。さぁ、もう寝ようか。大丈夫、明日の朝には、
夢のことなんて忘れているよ」
 言って、立ち上がろうとする僕をヘクトルの言葉が引きとめる。
「俺も――夢を見たぜ。俺が、死んじまう夢だ」
「!」
 ヘクトルが俯きがちに、呟くように言葉を紡ぐ。
「俺とお前が必死で助けた奴に、殺されちまう夢だ」
「ヘクトル、その夢は」
 先ほど、彼の表情が一瞬強張った理由に思い当たる。が、そんなことがありえるのだろうか?
「でもよ、最後の最後の瞬間、俺は安心して逝くことができたぜ。
親友が、誓いを守ってくれたからな」


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