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架空戦記系ネタの書き込み その86

907弥次郎:2017/05/01(月) 23:41:48

だが、彼らにとってそんなことは重要ではない。愛する娘が助かるかどうかだけが重要だった。
企業の言い分によれば、娘の顔は綺麗にすることができるのだという。おまけに治療費も非常に安く、信じられないほど安価であった。
最初は半信半疑であった。一体、何のためにこんなことをするのかと。
しかし、このままではより迫害されるか強制入所の目に遭うかもしれないと説得を受け、了承したのだ。
少しでも助かる可能性があるならば、その可能性に彼らは賭けたのだ。
そして、両親は施術を受けた娘と面会する日を迎えた。

「では、始めます」

彼女の、患者の症状は顔への皮膚症状と顔の神経障害の発生。
外見からもそれは徐々に広がっており、周囲には苦しい言い訳が続いていた。
それが無くなるかもしれない。そんな期待と治るのだろうかという不安がないまぜのまま、今日を迎えた。
今、彼女の顔は包帯で覆われており、彼らは知りえないが、ミイラのようにも見える。
徒に撒いたのではなく、術後に包帯をとりやすいように、それでいて内部を保護するように巻かれたそれは、
するすると、医者の手慣れた動作で解かれていく。

「これで…最後ですね」

最後の包帯がハラリと落ちる。そこに現れたのは、少女の素肌。
少々治療の痕跡が見える以外は、綺麗に整えられている。
醜く変化していた皮膚は綺麗に整えられ、年相応の柔らかな肌が蘇っている。

「いかがでしょう?」

「あ、あ、あ……?」

言葉を失っていた父親が、促されてそっと娘の顔に触れる。
滑らかな、手触りも見た目も、とてもきれいな柔肌。
傍らにいる妻も、言葉を失って、穴が空くほど眺めている。
あれほどかわいらしかった娘を蝕んでいたそれが、影も形もない。
いや、ほんの少し治療の痕跡はあるが、それも大して目立つものではない。

「せ、先生……!」

「経過は良好。施術の痕跡もあと5年もすればよく見なければわからないレベルにまで治りますね」

ついで、医者は鏡を傍らから取り出す。丁度手に持つことのできるサイズだ。
そっと差し出されたそれを、その娘は恐る恐る受け取る。
今日という日が来るまで、自分の顔がどのような経過をたどったのかは意図的に伏せられていた。
勿論、ガラスや水面に移したり、看護師や医者に聞いたことは何度もあった。その度に、良くなっているとは言われていた。
しかし、どうしても、どうしても信じられずにいた。色々と便宜を図ってくれたことは知っているし、感謝している。
だからこそ、というわけではない。そこまで親切にしてくれる理由を理解できなかった。
ひょっとしたら騙されているのでは?という、恐怖さえもあった。

「う、そ……」
「嘘ではありませんよ。これが、貴方の顔です」

だが、それを覆すものが目の前にある。
いつだったか、治療の前に自分に見せられた「復元された自分の顔」をそっくり写したかのような姿が鏡に映っている。
こんぴゅーたー、というもので自分の顔の模型を作って、その上で施術をしたのだという。ひょっとすると、一両前よりも綺麗になったかもしれない。
そんな自惚れのような感情さえ、沸き上がってきてしまう。目の前の鏡の中の自分は、手前味噌だが、整っている。
夢のような現実。それが、目の前にある。
数瞬遅れ、悲鳴のような歓声が上がった。




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