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架空戦記系ネタの書き込み その86

522yukikaze:2017/04/22(土) 22:17:30
「まあ私が203空で浮いていたのが悪かったんですが、203空において『俺達だって苦労したのに、なんで
あいつばかり』という声が強くなったんですわ。13飛行戦隊の場合は『俺達の無念をよくぞ晴らしてくれた』
と、第四航空軍の面々から感謝されていたのでトラブルも起きなかったんですが。後は隼を褒めたことで
『俺達の戦法が間違っていたというのか』と曲解されたりもして・・・」

語っていくうちに陰鬱な気分になったのだろう。坂井の声の張りもなくなり、眼も虚ろになっていった。

「結局、司令や笹井さんでも抑えきることができなくなって、笹井さんと面識があった高田GF参謀長が
一肌脱いでくれて、13飛行戦隊への出向という形で事態を抑えてくれたんです。寂しかったですよ。
何しろ見送りに来たのが、笹井中尉に西沢に本田といった旧台南空の連中だけでしたし。むしろ
13飛行戦隊の面々の方が喜んで出迎えてくれましたよ。太田中尉なんか『あいつが帰ってくるまでは
責任もってあいつの隼を飛ばせ。あいつが帰ってきたら新しい隼調達してくるから心配するな』でしたよ」

そのころには、飛行第13戦隊は『ご褒美』として4式戦が受領されており、坂井もそれに乗ったのだが
評価は芳しくなかったという。

「一度だけ乗らさせてもらったんですが、やはり隼の方があっていましたね。操縦桿を力っぱい振れば
格闘戦用の旋回能力もかなりあるんですが、とにかく操縦桿が重くて、いざという時に不安を覚えましたし。
後はエンジンですね。栄と比べると無理がきかない。そこが不満でした」

頑迷と言われるかもしれないが、それでも戦果を上げ続けている坂井に対し、13飛行戦隊は『坂井少尉の
好きなようにさせてやれ』と、寛容であった。
そこには『坂井は海軍だから』という意識があったからとも言えるが、それ以上に、フィリピンで坂井が
単機で操る隼と、残りの重戦部隊との連係プレーによって得たスコアを無視することは不可能であった。

「そうこうしているうちに、いよいよアメちゃんが本土に迫ってくるということで、私らが派遣されたのが
沖縄でした。当時、アメリカが来ると思われたのはマリアナだったのですが、マリアナに進出したくても
マリアナでの受け入れ態勢が整っていませんでした。なので、我々は支作戦で沖縄や台湾に艦隊が来ると
判断されて、その防衛のために派遣されたんです。連合艦隊も悲壮だったようですが、うちらも悲壮でしたよ。
何しろ、マリアナにかかりきりの艦隊が助けに来る可能性は低いと見ていましたから。まあ本土で戦死
出来るのがせめてもの慰めと言い合っていましたね」

だが、沖縄での戦いは、坂井たちの想像をはるかに超えるものであった。

「いやもう最初から防戦一方ですよ。フィリピンの時よりも酷かったんじゃないですかね。何しろ
フィリピンの時は『決戦』の心構えがあったのに対し、ここでは『あくまで牽制』という意識が強かった
ですからねえ。全員が『ヤバイ。まともに戦ったら磨り潰される』って、慌てて退避しましたよ。
第八航空師団や第二航空艦隊が瞬時に消し飛んだのを見れば猶更ですよ」

嘉手納から必死の思いで、南部に作っていた臨時基地に移動した坂井たちであったが、翌日の空を見て
絶句したという。

「何が驚いたかって、ペロ8・・・ああ、P-38のことですが、あいつらが空を飛んでいるんですよ。
何でアメリカ陸軍機がここにいるんだって驚きましたが、向こうでも陸海軍の対立が激しくて、陸軍の不信
が元で、ニューギニアにいた精鋭部隊をわざわざ輸送させたと聞いた時は、どこも同じかと思いました」

こうした状況下で、第13飛行戦隊は「座して死を待つよりも打って出るべきでは」という意見が出されたが
戦隊長は絶対に首を振らなかったという。

「偉い人でしたよ。『自暴自棄になって戦うな。最後まで粘り強く戦うんだ。連合艦隊は必ず来てくれる。
フィリピンの時も来てくれたじゃないか。俺達が打って出るのはその時だ』といって、部隊の一人一人を
説得したんです。私もついつい『連合艦隊を信じてください。お願いします』と頭を下げて、出撃を主張
していた人たちも『戦隊長殿と坂井さんが言うのなら』とひいてくれました」

この時、坂井は心の底から神仏に祈ったというが、その後の展開に腰を抜かすことになる。

「翌日から天気が悪くなってきましてねえ。『こりゃあ明日はアメちゃんも空飛ばんだろ』と言い合って
いたら、気象班の人間が『おいマテ。こりゃあ嵐になるんじゃないのか』って言うんですわ。
4月にそんなことあるかいと思っていたら、例の『神風』ですよ。その時ほど私は『この世には神も
仏もいるんじゃな』と、呟いて、みんなと一緒になって『もっと降れもっと降れ』言って、飛行場班の
人らに『整地するうちらのことも考えやがれ』と言われましたわ」




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