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架空戦記系ネタの書き込み その86

516yukikaze:2017/04/22(土) 22:11:48
それでは投下します。御笑納ください。

戦後夢幻会世界ネタSS 『海軍で隼を一番上手く飛ばせた男』

「まあそうですなあ。あの直前は人生でも最悪な期間でしたな」

煙草をくゆらせながら、初老の男はそう答えた。

「ええ。だからと言って、203空の連中を恨むつもりはないです。あれは半ば自業自得です」

白煙が天井に昇るのを見ながら、男は遠い目をしつつ、言葉を紡いだ。

「ソロモンで負傷して、まあ死なずに済みましたが、視力は悪くなるわ、一時的にですが
左半身に痺れが残るわでしたから。小園中佐や笹井中尉が『坂井は絶対に治るから』と
強硬に主張してくれたお蔭で、軍に居残ることは出来ましたが」

おかげで、あの2人には足を向けて寝られませんわ、と、坂井は苦笑しつつ話を続ける。

「ただねえ。やはりあの時期のブランクは大きかった。復帰した私に命じられたのは、
大村空での教官職です。笹井中尉から『赤松さんのような教え方をしてくれ。貴様なら
出来ると思っているんだ』と言われ、私も『笹井中尉の期待に応えなくては』と、
私なりに努力はしましたが、空戦技術は異様なほどのスピードで変わっていっていました」

そう言うと、坂井は戸棚に飾っている2つの飛行機の模型を手にしながら、説明をし出した。

「御存じとは思いますが、私が乗っていたのはゼロ戦21型です。良い機体でした。パイロットの
意志に応えるかのように、まるで手足の如く動いてくれた機体です。相手の不意を突いて
敵を倒す場合、後下方からの攻撃が最適なのですが、低高度での動きが良いこいつは、本当に
良い飛行機でした」

そう言いながら、彼の右手に持たれたゼロ戦は、まるで舞の扇のようにひらひらと動いていた。
それはまるで、かつて彼が愛機を縦横無尽に天空を駆けさせたかのように。

「ですが、私が戦場から離れている間に、軍用機は進化していきました。高速での編隊空戦。
これまでの海軍の基本戦術とは真逆の戦法ですが、「攻撃的だが、味方の被撃墜率も高い」
従来の戦法ではパイロットが枯渇するという海軍上層部の判断は、今ならば間違っていないといえます」

『今ならば』という部分に力を入れつつ、坂井は左手に持った模型の台座を握りしめる。

「『局地戦闘機雷電』。この飛行機は確かに新たな戦法にあった機体でした。高火力に重防御。
高速域でのロール性も抜群の機体です。これが陸海の主力戦闘機になったのも当然でしょう。
ですが・・・こいつはゼロ戦21型ではなかった」

ゆっくりと何かを噛みしめるかのように、坂井は言葉を発する。

「思い通りの反応をしてくれんのですよ。21型では何でもないことがこいつではできなかった。
そのもどかしさ、苦しさを理解できる連中は、すでにこの世にはいません。
何故だかわかりますか?
私が、内地でヒヨッコ達と赤トンボ飛ばしている間に、戦法の転換を成し得なかった面子は
一人また一人と戦死していったんですよ。私よりもうまく飛ばせたパイロットですら例外では
なかった。あのソロモンでの戦はそう言うものだったんです」

そう言う坂井の顔は、まるで地獄の底を強制的に味わったような顔つきであった。
これまで自分が信奉していたもの、自分が築き上げてきた価値観や実績、それが目の前で音を立てて
崩れ去ったのだから、それは当然であったろう。

「辛かったですよ。自分の脳内に思い描いているイメージと、実際の機動が一致せんのです。
かつての同僚達も「怪我のせいだから」と慰めるのも癇に障りました。怪我のせいだったらどんなに
よかったか。あの戦闘機と私とでは決定的に合わんかったんですよ」

結果的に、復帰した坂井の技量が伸び悩む中、坂井が教えたヒヨッコ達が、すぐさま雷電の特徴を
掴んで、見る見るうちに技量を伸ばしていった事実に、坂井は耐えきれなかった。
部隊内でのトラブルは日を追うごとに多くなり、何度も坂井をかばい続けていた笹井や西沢ですら
坂井を持て余しつつあった。




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