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神崎島ネタSS――「連合航空艦隊演習」その4
――1937(昭和12)年3月26日 小笠原諸島東方 連合艦隊「第一機動艦隊」
「おい。聞いたか?中攻隊(陸上攻撃機隊)の連中、昨日3回やって3回とも全滅らしいぜ。」
「本当か。連中口ほどにもないな。」
空母「加賀」の艦上で小気味いい笑い声が響く。
それから悪口につながらないのは、いかにガラが悪いこの「加賀」の飛行隊といえども、驚きの方が勝っているからだろうか。
「しかも最後は、うちが使っているような96式艦戦のみ。これには血気盛んな奴らもぐうの音も出なかったらしい。」
「やれやれ。やっぱり俺たちのお守りがいるわけか。」
「航続距離さえあればここまで近づく必要もなかったんだがなぁ…」
搭乗員たちがそんなことをいっているのを聞きながら、板倉光馬中尉は一緒に笑ってやった。
普段は鬼の甲板士官といわれる板倉は、その実こうした細やかな心遣いを忘れていない。
上がきちんと見ていれば、風紀というやつは自然と改善するものだからである。
事実、この頃の「加賀」の風紀は明らかな改善傾向にあった。
「今度は俺たちの番だ。このままじゃぁおさまらんからな。俺たちが守ってやらんと。」
そのために、「第一機動艦隊」はここにいる。
航続距離の短い96式艦戦を護衛につけるために父島の飛行場に移動したものとあわせ、第一機動艦隊の艦上戦闘機隊を中攻隊につけるためだ。
明日以降は陸攻をはじめとする攻撃機隊に対する艦隊の防空演習だったが、今日だけは艦隊の航空隊は彼らの味方をしなければならない。
「皆、無事で。」
階級が下の者にも、そして飛行長などの雲の上の存在に向けても、ひとしく板倉はいった。
――同日 午前5時 神崎島東方沖合
「第1梯団護衛機、戦闘に入りました!」
「いいぞ…陸をおがめなかった昨日と比べて格段の進歩だ。」
編隊から離れて飛行する攻撃機の機上で野中五郎中尉は舌なめずりした。
「しかし高高度飛行です。このままいけるかどうかは…」
「神崎島製の発動機は安定しているから大丈夫だろう。速度に関しては比べるべくもないが…」
細心の注意を払いつつ操縦を行い、いつもより余計強くなった轟音に肌を震わせながら野中は口ごもる。
いずれにせよ、現在の国産発動機ではこの芸当は不可能だっただろう。
品質のバラつきが大きく、高高度の編隊飛行をやれば落伍機が相次ぐのだ。
「阻止線、突破された模様!敵機は毎時350ノット以上で飛び回っています!」
「中尉!」
「予想をしていたとはいえ…これは…」
昨日は手加減されていたのだ、という感覚に、屈辱感よりも恐ろしさが先に立った。
よく考えてみれば、最新鋭機の発動機や燃料弾薬をポンと出してのけたのだからそれ以上をもっているのは当然と思われたのに。
「だが、その余裕もここまでだぜ…」
江戸っ子口調を思わず出しつつ、野中は思い切り口もとを釣り上げる。
「水面すれすれからの超低空侵攻。電波ってのは低空では遠くまで届かない。
今度こそ爆撃を成功させてやる!」
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