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避難用作品投下スレ6
1
:
管理人★
:2010/08/27(金) 21:44:35 ID:???0
葉鍵ロワイアル3の作品投下スレッドです。
2
:
名無しさん
:2010/08/27(金) 21:46:40 ID:w1hhOi020
終点/Nor shall my sword sleep in my hand,Till we have built Jerusalem
十四時四十五分/高天原
それは、騎士の鎧のように見えた。
全長五メートル程の上背にゴツゴツとした外部装甲。
殆ど隙間もなく、乗り込んだサリンジャーを完全に防護しているという意味では鎧には違いない。
ただ一方で、それは生き物のようでもあった。
リサを見下ろすカメラアイと思しき部分は常に緑色に発光し、ギラギラと照り輝いており、肉食動物特有の獰猛さのようにさえ思える。
吸気口の役割を果たしているのか定期的に開閉を繰り返す口のような部分は異物の侵入を防ぐためなのか鋭い牙のようなものが備わっており、
あの鋭い眼光と合わせて、今にもリサを食い殺そうとしているようだった。
細かく蠢く巨大な爪はマニピュレーターであると同時に機体の固定にも用いられるのだろう。
しかしそれ以上に機体色である真紅からか、作業に用いられるパーツと言うより獲物を抉り殺す獅子の爪という印象が強かった。
前傾姿勢のアベル・カムルは一昔前のサルに似ていたが、その内情は正しく獰猛な獣。
特有のエンジン音がグルルル、と唸りを上げる様もそれに拍車をかけていた。
趣味が悪い、とリサは感じながらも本能的な慄きを覚えずにはいられなかった。
太古の昔から、人類が身体能力では負け続けてきた獣に対する畏怖がそうさせるのか、正体不明の化け物に対する恐怖がそうさせるのか。
恐らくは両方なのだろう。徹底的に他者を見下し自らの優越感とするサリンジャーそのものを体現したアベル・カムルに、
ならば恐怖を感じなければいいとリサは結論した。
恐怖を恐怖で克服する以外の術を、今の自分は知っている。勝負だけではなく、誰かと触れ合うことで自らの存在を知ることができるのを熟知している。
少し見渡せば、世界はこんなにも広くなるということも、知っている。
鎧に篭ったサリンジャーはそれすらしようともしない、ただの我侭なだけの人間だ。
負ける道理はない。不敵な笑みを浮かべ、リサは自らを押し潰そうとする鎧の巨人と相対した。
人が作った兵器ならば必ずどこかに弱点がある。完璧なものなど、人間が関わっている限りは存在しない。
M4を構え、まずは頭部目掛けて発砲する。アベル・カムルの巨体では外そうにも外しようがなく、
吸い込まれるように銃弾が飛び込んでいったが巨人は身じろぎひとつせず、火花を散らせただけで5.56mmNATO弾全てを弾き返した。
「そんなもの効きませんよ! カメラアイを狙ったつもりでしょうが、生憎こちらも防弾仕様なんですよねぇ!」
3
:
名無しさん
:2010/08/27(金) 21:47:43 ID:w1hhOi020
ご丁寧に解説までしてくれたサリンジャーが嘲笑と共に爪を振り上げ、下ろしてくる。
図体の大きさとは裏腹にアベル・カムルの動きは意外に俊敏で、悠長に構えていられる暇はなかった。
腕の長さから射程を判断し、転がるようにして避ける。直後、振り下ろされた爪が床を抉り、コンクリートを破砕し破片を撒き散らす。
どうやらパワーも外見に違わぬものであるらしい。あの質量と速度では掠っただけで致命傷になりかねない。
まるで柳川のようだとリサは感想を結んだが、柳川ほどの小回りも効きそうにない分こちらの方が寧ろ楽だった。
素早く立ち上がり、更にM4を機体の各所に向けて乱射する。間接部の隙間を主に狙ってみたのだが、これも悉く弾き返された。
ちっと舌打ちするリサにサリンジャーの感心したとも取れる声が響いた。
「ほぅ。きっちり狙い撃ってくるあたりは流石、と言いたいところですが、弱点なんてものはありませんよ。このアベル・カムルにはね」
何も言わず、リサはM4の弾倉を交換した。反応を返さないことに、不快感を隠しもしないサリンジャーのため息が木霊する。
「感想くらい言ってくれてもいいと思いますがね。どうです、私の鎧は」
「下らない玩具ね。褒めてもらいたいならママにでも褒めてもらえば?」
「生憎、私の父母は既に他界していましてね。最後まで息子を省みない酷い親でしたよ」
「親御さんの気持ち、分かるわ。こんな親不孝の息子を持ったのだもの」
「その減らず口、すぐに黙らせてあげますよ……永遠にね!」
一足に駆けてきたアベル・カムルがそのままの勢いで爪を薙ぐ。
所詮は直線的な動き、軽く避けられるレベルだ。
サイドステップから着地し、M4を構えようとしたリサだったが、すんでの所で動きを中断して再び回避行動に移った。
俊敏なだけではなく、小回りも利くらしいアベル・カムルが巨大な足で回し蹴りを放ってきたのだ。
予想外の動きに翻弄される。図体のでかさを無視するように動き回る巨人に防戦一方の形となってしまう。
果断なく爪が振り下ろされ、足で踏みつけられ、反撃するどころか避けるのに精一杯だ。
これがアベル・カムル本来の動きか。通常兵器が意味を成さない防御力と俊敏な動作とパワーを生かした攻撃能力の高さを兼ね備えた、まさに無敵の鎧。
しかもサリンジャーのような素人でも簡単に動かせる手軽さといい、軍の人間が見れば涎を垂らして欲しがるだろうとリサは思った。
「そらそらどうしました? 逃げてるだけじゃ私は倒せませんよ?」
狩りを楽しむかのような口調で挑発してくる。
先程までアハトノインを失って狼狽していたくせによくここまで露骨に態度を変えられるものだと感心すらする。
しかし依然として不利な状況は変わらずサリンジャーが圧倒的優位な立場にあることには違いない。
懐に飛び込んでみようと接近を試みたが、攻撃射程にもまったく死角はなく、回り込んでも足元に張り付いても攻撃は激しくなる一方だった。
攻撃の精度も少しずつ高くなってきており、爪が髪の毛を掠ることもあった。
当然床に直撃した攻撃の煽りを食って破片が四方八方に飛び、それによっても少しずつダメージを受けてきている。
4
:
名無しさん
:2010/08/27(金) 21:48:16 ID:w1hhOi020
「これはどうですか!?」
手の出しようがないリサに、絶対的有利を信じて疑わないサリンジャーが隙を丸出しにしているのも躊躇わず、大きく両手を振り上げた。
爪を器用にクロスさせ、ハンマーの形を作る。加えてあの高度から振り下ろされれば威力はそれまでの比ではない。
これまでの調子で避けていては衝撃を食らいかねないと判断して大きく距離を取ろうとしたリサだったが、
逃げるのを待っていたというようなタイミングで腕が振り下ろされた。
巨大な質量が床に激突し、クレーターを形作る。
直撃こそ回避したものの、余波までを避けきることはできなかった。
それまでと比較にならない量と大きさの破片を浴びる結果となり、全身が傷つく羽目になったリサは受身も取れずごろごろと転がり、かはっと息を吐いた。
このままでは嬲り殺しだ。杖にしたM4を支えに立ち上がり、格納庫から脱出する。
「おやおや、もう終わりですか? ですがね、どこにも逃げられませんよ!」
余裕綽々といった様子で、アベル・カムルが追撃を開始する。
吸気口がかちゃかちゃと動き、まるで笑ったかのような動きをする。
笑っているがいい、とリサも負けずに睨み返した。サリンジャーが今見せているのは余裕などではない。
弱者をいたぶろうとする卑屈な性根を見せているだけだ。
確かに通常兵器は効かないし、死角も存在はしないだろう。
なら、通常兵器以外で対抗すればいい。
問題はそれまで逃げ切れるかということだったが、そこは何とかするしかない。いややってみせる。
腐ってもID13、地獄の雌狐の異名を持っている。やってやれないことはない。
この島を生き延びてきた意地を見せてやる。
後ろを追いかけてくるアベル・カムルは通路の狭さもスペースも無視して壁を破壊しながらこちらへと向かってくる。
最早無茶苦茶という領域を遥かに通り越して馬鹿げているという感想すら浮かんだが、動きは多少鈍い。
速度さえ落とさなければまだまだ逃げられると考え、そのまま走り続ける。
「逃げても無駄だと……言ったはずですよ!」
5
:
名無しさん
:2010/08/27(金) 21:48:42 ID:w1hhOi020
距離は詰められないと判断したのは向こうもだった。
腕を振り上げたアベル・カムルに嫌な気配を感じ、咄嗟に前転した瞬間、連続した火線がリサの横を通り過ぎた。
機銃らしきものまで装備している。普通に考えれば当たり前のことだとすぐに思ったが、格闘ばかりしていたことと特異な形をしていたために見落としていた。
露骨に舌打ちをしたサリンジャーが続けて方向を修正し、爪と爪の間にあるチェンガンを撃ってくる。
足元を掠めるチェンガンを巧みにかわしながら、リサはT字路の奥へと逃げ込む。
直線上に位置しなければ狙われることはない。音が途絶えたのはその証拠だった。
曲がれる道があれば即座にそちらへと方向を変え、リサはチェンガンを撃たせないまま逃げ続ける。
それでも振り切ることは難しく、後ろを振り返る度にぬっとアベル・カムルが姿を現すのだ。
お互い執念深いようだ。さてどこまでこの鬼ごっこを続かせるかと考えながらリサは走る。
逃走を続けながらも、リサは反撃できる場所を探して周囲を見渡すことを忘れていなかった。
ミサイル、火薬。何でもいい。とにかくアベル・カムルの装甲にダメージを与えられるものが必要だった。
「見つけましたよ!」
「く!」
チェンガンを構えたアベル・カムルが斉射してくる。ギリギリで次の曲がり角に飛び込み、辛うじて蜂の巣になるのを避ける。
どうやら徐々に距離も縮まってきたらしい。もう猶予はなさそうだ。それに狙いも正確になってきている。射撃する度に機械が修正をかけているのだろう。
全く何でもアリのトンデモ兵器だと感想を結びながら、リサは笑っていた。
懲りないことにまた、戦いを楽しむ軍人としての性分が頭をもたげてきたらしい。
或いは観察すればするほどその強さが明らかになってゆくアベル・カムルに対して笑うしかないと感じているのか。
慣れとは厄介だと考えながら目を走らせたリサが一つの案内板を見つける。
時間がない。半ば賭けになると思いながらもこれ以上の選択の余地はないと判断して、リサはその部屋へと転がり込んだ。
「ほう……ここを死に場所に選びましたか」
続けてサリンジャーのアベル・カムルが侵入してくる。
振り向き様にM4をフルオートで連射し、吸気口目掛けて狙い撃つ。
多少は破壊できるかと考えたが、素早く口を閉じられ、遮断される。お返しとばかりにチェンガンの掃射が飛んでくる。
緩慢な動作であったため致命的ではなかった。やはり遊ばれている。
6
:
名無しさん
:2010/08/27(金) 21:49:09 ID:w1hhOi020
「ふふふ、シオマネキを奪おうとしたようですが、無駄ですよ。シオマネキには侵入者の自動撃退システムが搭載されて……ん?」
何かを発見したらしいサリンジャーの動きが止まり、緑色のカメラアイが部屋の奥へと向けられる。
目まぐるしく動き回っていたためリサもはっきりとはシオマネキの機影を確認してはいなかった。
「馬鹿な、動きが止まって……いや、破壊されている……? 貴様、何をした!」
「知らないわ。誰かが勝手にやったんじゃない?」
じりじりと後ずさりしつつ、リサはサリンジャーのヒステリックな声を受け止める。
元よりシオマネキそのものを奪うつもりはない。その武装が目的だった。
Mk43L/eの構造は多少リサも知っており、機体内部にあるコンピュータから各種武装へと命令を伝え、遠隔操作による攻撃を行うものだ。
武装は各種取り替え、取り外しが可能になっており、武装の交換も行える。
要は現行の兵器を自由につけたり外したりして目的に合わせた運用ができるという思想だったが、裏を返せば武装はこちら側でもコントロールできる。
現にシオマネキに搭載されている機関砲やレールキャノンは外部からの操作も可能だ。
当然多少の妨害はあると踏んでいたのだが、誰かが取っ払ってくれたらしい。
改めて確認したシオマネキはハッチからもうもうと煙が吹き上がっており、とても動ける状態ではなさそうだった。
逆に武装にはほぼ損傷がなく、こちら側としては好都合極まりない状況だ。
が、不利益を被ったサリンジャーは怒り心頭という様子だった。
「ふざけるなっ! たかだか人間ごときにシオマネキがやられるわけがあるか!」
「でも、事実としてこんなになっちゃってるわよ? それに、もう一つ言いたいことがあるの」
チャンスは少しずつこちらに巡りつつある。
笑いを含んだ表情でサリンジャーを見上げながら、リサはある推測を言い放った。
「貴方言ったわよね、リミッターをかけた状態で私達を三人殺せたのは上出来だって」
「それがどうした……!」
「言っておくけど、いくら120人分武器があるからってそうそう強力なものじゃない。精々がアサルトライフルくらいだし、現に私達の主力は拳銃。
貴方のところの玩具は防弾防爆のドレスに痛みも感じない。……普通に考えて、貴方の方が有利極まりないのよ。いくら撃とうがそのまま斬り殺せばいいわけだしね。
でも私達は勝ちつつある。無茶な突撃作戦なのに、貧弱な武装なのにね。つまり……弱いのよ。貴方の言う神の軍隊とやらは。
私達にすら勝てない。貴方は負け犬。頭でっかちで誰にも勝てない負け犬よ!」
『……殺してやる』
7
:
名無しさん
:2010/08/27(金) 21:49:32 ID:w1hhOi020
言い返せるだけの理性も失ったらしいサリンジャーが感情を丸出しにしたドイツ語と共にアベル・カムルの爪を振り下ろす。
相当頭に来たようだ。爪の先にくず折れたシオマネキがいるにも関わらずの攻撃だった。
実際は違うのだろう。周到な作戦を立て、精一杯の武装をかき集め、ここまでの殺し合いを生き残ってきた人間を合わせても、三人もの犠牲を出してしまった。
今もなお戦っている連中には、ひょっとするとまた新たな犠牲が出ているのかもしれない。
しかし、犠牲を犠牲で終わらせてはならない。
命を弄び、己がためだけに力を振るう化け物に対抗するために、もう一度だけ力を貸して欲しい。
散ってしまった誰か。今はまだ名前も分からない誰かへと向けて、今も生きている者達を守るために。
自分自身もまた、生きるために。
リサ=ヴィクセンは祈りを捧げて、アベル・カムルとの第二ラウンドに臨んだ。
爪を避ける。正確にはシオマネキの外部装甲に阻まれ、弾かれたのだった。
『邪魔をするな、屑鉄が!』
無理矢理シオマネキを爪で押し退け、リサへと迫る。
もうなりふり構わぬという調子で攻撃してくるアベル・カムルの攻撃を必死で避けながらリサはシオマネキをちらりと見る。
押し退けられはしたが、体勢は崩れていない。優秀だ。なら、まだ生きている武装があるはず……!
シオマネキの元に駆けようとするリサにアベル・カムルが追い縋る。
『終わりだ! 死ねえぇぇぇぇぇ!』
「くっ……!」
驚くべきことに、アベル・カムルは跳躍まで行えた。
飛び上がると同時に爪が大きく振り上げられる。
冷たく輝く金属の色が、一瞬の後に自分を押し潰す――
「させるかっ!」
――その未来は、絶妙のタイミングで現れた、少年と少女によって阻まれた。
凄まじい爆音と共にアベル・カムルの額に何かが命中し、兜の形にも似ている頭部を押しひしゃげた。
空中でバランスを崩し仰向けに倒れるアベル・カムル。
その前に立ちはだかったのは、二人で対戦車ライフル、九十七式自動砲を構えていた、那須宗一と古河渚だった。
* * *
8
:
名無しさん
:2010/08/27(金) 21:51:21 ID:w1hhOi020
十四時五十分/高天原格納庫
呆然とこちらを見返すリサの顔を拝めたのは久しぶりだったかもしれない、と宗一は思った。
タイミング的にはギリギリだったとはいえ、それが結果としてこの副産物を生んだのだから儲け物だ。
ニヤと意地悪く笑ってみせると、リサは肩を竦めて「ヒーロー登場?」と皮肉混じりの言葉を返してきた。
「いいや違うぜリサ。ヒーローと、ヒロインだ」
渚を指し示してやると、リサの興味はそちらへと向いたようだった。
案の定、渚の窘めるような視線が突き刺さったがこればかりは性分なので仕方がないところだ。
「そうなの? ヒロインさん」
「……そういうことにしてあげてください」
そっけなく返す渚は無茶振りにも慌てることなく冷静に対処しているようだった。慣れてきたのかもしれない。
してあげてください、という表現からしても適当にあしらっているようにも感じる。
この牙城を崩すのには手間がかかりそうだと考えながら、宗一は床に倒れ伏している巨人へと話題を変えた。
「で、なんだよありゃ」
「最新鋭のパワードスーツ、ってのが一番簡単な表現ね。アベル・カムル。聞いたことあるかしら」
「噂だけは。でもそれ、冷却装置に不備があるとかなんとかで開発も見送りになってたんじゃなかったっけか」
「ところがどっこい、脅威の篁財閥の科学力」
「……なるほどな」
宗一は篁化学技研で研究していたサンプルについてのリストを頭から引っ張り出した。
『ラストリゾート』、『シオマネキ』を初めとする次世代の兵器群。
実現は当分先だと思っていたのだが。篁財閥は未来に生きているらしいと認識を新たにして、
宗一は隅に押しやられた鋼鉄の塊に目を移した。
「あれ、『シオマネキ』だよな」
「ええ。私が来たときには既に破壊されていたみたいだけど。ついでに言うと、『ラストリゾート』の披露試写会にも参加させてもらったわ」
9
:
名無しさん
:2010/08/27(金) 21:51:44 ID:w1hhOi020
ここはトンデモ兵器博覧会か、と宗一は頭を抱えたくなった。
それに一人で対抗してみせるリサも十分化け物染みているのだが。
話の流れについていけないらしい渚は困ったような表情でアベル・カムルの方を見ている。
未だ動かないとはいえ、完全に機能が停止したと思っていないのだろう。
当然宗一もそう考えていた。たかが対戦車ライフルの一発で動かなくなるほどヤワなものであるはずがない。
それにこの九十七式自動砲だって骨董品のようなものだった。ここに来る途中で何かしら武器を拝借しようとしたのだが、
道中で発見したのはこれを初めとした、『忘れられた兵器』とも言うべき古臭く実用性にも欠けるものしか見つからなかった。
恐らくは篁の趣味もあったのだろう。使えただけマシだと思うことにしたのだが、
実用性の高いものばかり使ってきた宗一にとってこの不便な感覚は慣れるものではなかった。
「そういえば、どうしてここが?」
「そりゃあ派手な音がしてたからさ」
「はい。しかもぐらぐら揺れてましたし、崩れる音がひっきりなしに聞こえてきましたし」
「……でしょうね」
さもありなん、という表情でリサはアベル・カムルを見ていた。
ようやく動き出した巨人はひどくゆったりとした動きで起き上がる。
あれだけの巨体だ。動かすのにも相当のエネルギーを使っているのに違いない。
緑色のカメラアイが、いきなりやってきた闖入者である自分達に対して向けられる。
機械の目であるにも関わらず、それは明確な悪意を含んでいるように思われた。
『許さんぞ……皆殺しだ……猿共……』
スピーカー越しに聞こえたくぐもった声は、聞きなれない国の言葉だった。ドイツ語だっただろうか。
日本語に翻訳しようとする前にリサが「死ね、ジャップ、だって」と言ってくれた。
ドイツ語など習ってもいないだろう渚は、それでも声色だけで悪意を感じ取っていたらしく、「分かりやすい言葉です」と反感を露にしていた。
怒っている。突き刺すような視線は今までに宗一も見たことのないものだった。
恨みでもなければ憎しみでもない、怒り。この島に敷衍し、様々な人間の運命を狂わせた狂気の根源に対する怒りだった。
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