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避難用作品投下スレ5
94
:
it's all we could do Ⅲ/ Ein Sof Ohr
:2009/06/22(月) 23:26:03 ID:qsNVNyN.0
故に眼前の生にも死にも意味はなく、吉岡チエという命が喪われたことを、川澄舞は悔やまない。
それは自信の取り戻すべき力ではなく、護るべき、奪還すべき約束の地ではなく、
ならばそこにあるのはただ、果たすべき約定の果たされた、その結果でしかない。
吉岡チエという骸を見つめる舞の瞳は、だから何も映していないかのように揺ぎ無く冷ややかで、
その思考、その在り方が既に此岸に生きるもののそれではないことを自覚しないまま、
川澄舞という異形はじっと亡者の聲を聞いている。
「……あり……が……と……」
砂埃を散らしながら乾いた荒野を吹き抜ける風のように掠れた聲が最後にそう呟き、
やがて震える口を閉じ、どろりと重い瞼を閉じて、前触れもなく光が消えても、
川澄舞はただゆっくりと一つ、瞬きをしただけだった。
その瞳が見つめる先には、真黒い闇だけが残っている。
その先にあったはずの白い寝台は、もう見えない。
***
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