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避難用作品投下スレ5

794エルサレムⅤ [少女の檻]:2010/05/23(日) 18:23:56 ID:NGfemGc.0
 はしゃぐように問いかける少女に、舞はこくりと頷く。
 始まりは母の病気からだった。
 一向に良くならない母の体調。どんなに医者が手を尽くしても良くなることのなかった母。
 日に日にやつれてゆく母の姿を見ながら、舞はそれでも一生懸命快復を願った。

 自分には母しかいなかったから。
 父の存在を知らず、親類とも縁遠かった自分はいつだって一人ぼっちだったから。
 家もあまり裕福ではなく、母だけが唯一の心の拠り所だと感じていた舞に、
 いなくなってしまうかもしれないという恐怖はあまりにも大きすぎた。

 願った。願って、願って、願い続けた。
 神様。神様。神様。
 自分の言葉などちっぽけでしかなく、何の意味も持たないと半ば理解しながらも、それでも舞は祈り続けた。
 一人になってしまうのは嫌だから。このぬくもりを失ってしまうことがあまりにも怖かったから。
 お願いします。何だってします。絶対に嘘もつきません。いい子になりますから……
 ありとあらゆる言葉を並べ立てた。弱々しい力で頭を撫でてくれる母の手を感じながら、
 痩せ細ってゆく母の手をぎゅっと握りながら、精一杯の笑顔を向けながら、舞は願った。

 奇跡が起こったのは、ある日の朝だった。
 それまで悪化の一途を辿っていた母の体調が、突然快復の兆しを見せ始めたのだ。
 夜通し手を握り、夢の中でも祈り続けていたあの日からだったと記憶している。
 快復の原因は全く分からず、医者でさえも信じられないといった様子だったが、何が原因かなんて舞にはどうでもよかった。
 母がいなくならずに済むと分かって、ただそれだけが嬉しかった。
 もっと早く良くなればいい。良くなって、また自分と遊んでくれるようになれれば、それで良かった。

 母が退院できるまでに良くなったのは、それから一年と経たない時間だった。
 尋常ではない快復ぶりだったらしい。人体の奇跡とでも表現するしかなく、
 ここまで来れば医者も困惑よりも素直に感心するほかなかったようだ。
 苦笑交じりに送り出してくれた医者や看護士の顔を見ながら、舞と母は元の生活に戻っていった。


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