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避難用作品投下スレ5
790
:
エルサレムⅤ [少女の檻]
:2010/05/23(日) 18:22:46 ID:NGfemGc.0
一片の隙もない、二段構え。後は自分達の集中力の問題だった。
もはや人間の体を為さず、あちこち切り裂かれて金属骨格むき出しのアハトノインは動くのもやっとの様子だった。
舞は猛攻を止めない。アハトノインが一歩後退したのをきっかけにして詰め寄ってゆく。
必然、アハトノインは後ろへ追いやられ、致命傷となる一撃は回避しながらもじりじりと下がっていった。
剣を振るう舞の顔からも玉のような汗が飛んでいる。息も弾んでいる。いくら凄腕の剣士とはいっても女であることには違いなく、
スタミナを消費しているのが目に見て取れる。
焦るな。お前がトドメを刺す必要はないんだ……!
往人の動く気配に舞も気付いたらしく、長髪が縦に揺れた。
よし。冷静さを失わない舞を頼もしいと思いながら、往人が牽制のP−90を向ける。
剣を腕でガードした直後、隙を窺っていたアハトノインは鋭敏に往人の挙動を察知し、また一歩退いた。
が、下がらせることこそ往人の狙いであり、舞の狙いでもあった。
ガツンという音が空間に響き渡る。アハトノインがコンテナに背をぶつけたのだ。
左手からは舞、右手には往人。囲んだ形。敵に逃げ場はない。回避さえもできない状況で、為す術はない。
気付かなかったとでもいうように首を振り向かせたアハトノインの隙を見逃すほど舞は甘くない。
一瞬の間隙を突き、日本刀を真っ直ぐ、突きの形にして走った。
頭部を破壊しても尚倒れないというのならば、他の動力源……つまり、駆動部を狙うしかない。
腹部か、或いは胸部。防弾コートの厚い壁で守られているそこに弱点はあるに違いなかった。
舞が狙ったのは胸部だった。その選択は理に叶っている。突き刺した後に切り下げれば、腹部も攻撃できるからだ。
連携できるこちらの勝利だ――確信し、P−90を下ろし掛けた往人の思考が吹き散らされたのは次の瞬間だった。
普通は、例え追い詰められようとも避ける素振りはする。それが戦闘に臨む者の思考であり、生き延びるための思考だ。
しかしアハトノインは逃げも隠れも、防御さえしなかった。
コンテナを背にした彼女がやったことはそのいずれでもなく……全力でコンテナ群を殴るという行為だった。
「なんのつもり……」
呟いた往人の頭が真っ白になるまでに、それほどの時間はかからなかった。
コンテナ群の上部が揺れ、ぶるりと生物のように身を震わせたかのようにして――直後、落下した。
冗談だろ!? このような反撃など全く想像の外であっただけに、往人はP−90を構えることも忘れ、舞に叫んでいた。
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