したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

避難用作品投下スレ5

710来栖川綾香:2010/03/02(火) 13:33:27 ID:wvXD0MO.0
今、何を言おうとした。
否、何を、言った。
一瞬前の、記憶の空白。
一本、と。
確かにそう言った。
しかし、それは何だ。
何のことだ。
何を、一本。
何が、一本。
何のことを、言っている。
己が内に湧き出した空白に、綾香の心中がざわめいていく。
一本。そうだ。それは、この左足の、喪失だ。
それを、言った。言おうとした。そのはずだった。
喪失とは、何だ。
論理が、破綻している。
左足の喪失。喪失とは、何だ。
左足は、左足だ。何も喪われてなど、いないはずだった。
見やる。そこには、足がある。
右の脚に、目を移す。
そこには腿があり、膝があり、脛があり。
踝があって、踵があって、腱があり、甲があり、指があり、ならば左にも、同じものがあるはずなのに。
同じものとは、何だ。
左の脚にも、腿がある。
膝があり、脛があり、踝があって、甲があって、指があった。
それが、左足の全部で、何一つ、喪われてなど、いないように思えた。
分からない。
ならば、自分は今、何を言おうとしていたのか。
分からない。
それではまるで、左の足には、今はない何かが、あったようでは、ないか。
そんなものは最初から、ありはしないというのに。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板