したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

避難用作品投下スレ5

635/死:2010/02/06(土) 04:30:03 ID:D/ovS9dk0
少年は、下がらない。
下がらない少年に、更に一歩を近づいて、その目を真っ直ぐに見返して、言う。

「―――夜はもう、明けてるんだ」

残りの距離は、八歩分。
遠い、遠い、八歩。
しかし、ただの、八歩だ。

「私は誰だ? 私たちは誰だ? 天沢郁未だ。鹿沼葉子だ」

踏み出せば、七歩。

「それで、あんたは誰なの?」

六歩が、五歩に。

「名前もまだない。私はあんたをなんて呼べばいいのかだって分からない!」

四歩は、三歩になる。

「―――こっち、来なよ」

ほんの三歩の向こう側へ、手を伸ばす。
それが、最後の一歩分。
残りの二歩を、その向こう側に、託して。
天沢郁未が、足を止める。

「……」

差し伸べられた手を、少年はじっと見詰めていた。
ただ一歩を踏み出して、手を伸ばせば、残りの距離は、零になる。
零の向こうに、目を凝らすように、耳を澄ますように。
少年はその手を、じっと、じっと見詰めている。

「―――」

何度目かの風が、吹き抜けた。
風に背を押されるように、少年が顔を上げる。
天沢郁未を見て、その傍らの鹿沼葉子に目をやって、もう一度天沢郁未へと目を戻して、

「―――、」

そうして口を開こうとした、その瞬間。

聲が、響いた。


***


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板