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避難用作品投下スレ5

621終焉憧憬(了):2010/01/23(土) 04:28:58 ID:AA.5FDBE0
 
「やめて……やめてよ……」

息の詰まるような白に包まれて、少年の声は力ない。
花の海原は、既に見えない。
舞い上がり、雨のように、風のように大気を押し包む純白は、果て無く続くはずの花畑の、
その果てまでが散る如く、闇を染め上げていた。
夜はもう、終わろうとしていた。
終わる夜に浮かぶ月は、夕暮れの公園に取り残された子供のように物悲しく、痛ましい。

「待ってよ……こんなのは、違うだろう……?」

ふるふると首を振って、白い闇の中、少年が両手を広げる。
眼前に立つ水瀬名雪に向かって、震える声を張り上げる。

「これは、最後の戦いなんだ……僕の、僕たちの、最後の戦いなんだから……!
 こんな風に、こんな、こんなの……だめだよ、ちゃんと、ちゃんとやらなきゃ……」

言葉にならず、それでも絞り出された声に、水瀬名雪がほんの一瞬、目を向ける。

「……、」

何かを言おうとして口を開きかけ、しかし、すぐに視線を少年から外す。
見やった先、水瀬名雪に向けて歩む、姿があった。
それきり名雪が、少年を見ることは、なかった。

「これで終わりなんだ! これが最後なんだ!」

叫ぶような声も、届かない。

「もっと、もっと遊ぼうよ! ずっと、ずっと!」

伸ばす手に、差し伸べられる指はなく。
水瀬名雪はただ一人、相沢祐一だけを、見つめていた。

「待って……待って!」

月が、赤い月が、夜を吸い上げるような純白に覆われて、欠けていく。
緋色の月光も、救われた世界の欠片に掻き消されて、少年には、届かない。


***


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