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避難用作品投下スレ5

230末期、少女病:2009/08/28(金) 14:57:56 ID:yHwYMvpU0
 
がつ、と鈍い音が千鶴の鼓膜を揺らす。
どうやら頭から地面に落ちたようで、がりがりと尖った岩が頬を削るのを感じる。
びたりと受身も無しに妙な角度で叩きつけられた左の上腕が嫌な痺れ方をしていた。
まず間違いなく、肩口で折れている。
構わない。砕けているのでなければ、すぐに繋がる。
僅かな間を置いて、視界がゆっくりと回復していく。
周縁部に闇をまとわりつかせた中途半端な視野の中、捉えたのは赤い斑模様の裸身。
倒れ伏した千鶴に対して、姿勢は高い。
左腕を持ち上げようとして指先に鋭い痛み。
ならばと振った右腕が、あらぬ方へと走って空を切った。
抑止にもならぬ一閃を気にした風もない綾香の足が、前蹴り気味に伸びて千鶴の顔面を捉える。
さすがに、防いだ。
正面からの真正直な一撃ならば、『耐えられる』。
みずかと名乗る得体の知れぬ少女から授けられた、それが力の一つだった。
闇雲に振り回した迎撃の爪を避けるように、綾香の裸身が離れる。

腹筋だけで身を起こし、ぜひ、と喘鳴を漏らしながら伝線だらけのストッキングに覆われた膝を立てた、その瞬間。
吸った酸素が、まるで悪意でも持っていたかのように。
肺の内側を目の細かい紙やすりで擦られるような、圧倒的な嫌悪感が、千鶴を襲っていた。
咄嗟に吐き棄てた吐息が、ぬるぬると濡れている。
つんと鼻をつく異臭に、千鶴は初めて己が反吐を漏らしていることに気付いた。
嘔吐感はない。痛むのは肺腑であって、胃でも食道でもない。
それなのにただ胃液がせり上がって口の端から零れている。
異常を異常と認識できぬ、それこそが真に異常であると千鶴が自覚すると同時、ぐにゃりと視野が歪んだ。
まずい、と思ったその瞬間には、再び顔面から岩場に倒れこんでいた。
事ここに至って、千鶴はようやくに理解する。
どの段階で負ったものかは分からない。
分からないが―――柏木千鶴は脳神経系に、極めて深刻な打撃を受けている。
単純な脳震盪であればまだいい。或いはどこか、出血しているかもしれない。
危険だった。いかなエルクゥの驚異的な回復力といえど、脳への直接打撃は致命となり得る。
まして今は交戦中。相手は宿敵、来栖川。
そうだ、来栖川。敵だ、敵が、今、目の前に。
と。
ともすれば散逸しようとする意識を掻き集めて見上げた千鶴の視界を覆ったのは焔と闇と、
それから赤と白の斑模様だった。


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