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避難用作品投下スレ3

1管理人★:2007/10/27(土) 02:43:37 ID:???0
葉鍵ロワイアル3の作品投下スレッドです。

2静かに、ただ静かに:2007/10/28(日) 00:39:29 ID:xmQbL7dc0
あれから夜通し探し続けたにも拘わらず、柏木耕一と柏木梓が求めていた柏木千鶴の消息は一向に掴めないままであった。

加えて山中を歩き回ったこともあり、いかに鬼の血をその体内に宿す二人でも疲労感を覚えずにいられなかったのは言うまでもないことだった。

そして決定打になったのが、朝方の放送だ。幸いにして千鶴や初音ら家族の名前が呼ばれることはなかったものの、そのあまりの人数の多さに気が滅入ってしまい精根尽き果てたというのが現状だった。

「まったく、もうどうしてこんなに人が死んでるんだろ…あたしたちはここまで誰にも会ってないってのに」

複雑な表情になりながら、梓は路傍の木の幹に背を預けるようにして座り込む。何か思うところでもあったのか、天を仰ぐようにして息を吐く。
自分同様、梓にもここまでに出会った人間はいるはず。ひょっとしたらその人が放送で呼ばれたのかもしれない、と耕一は思った。

「休憩にしよう。こんな調子で千鶴さんに会っても止められやしないからな」
耕一もデイパックから水を取り出し、水分を補充していく。美味くない上に温かったが、それでもノドを潤してくれるのはありがたいことであった。まだ生きている、そのことも実感できる。
「…なあ、耕一」
ん、とペットボトルに口をつけながら返事をする耕一。
「柳川のやつ、まだ生きてるんだよな」
「そうだな…それがどうしたんだ?」

放送で名前が呼ばれなかった以上、柳川が生きているのは間違いないだろうし、あの実力ならそうであってしかるべきだ。
「なんであいつは楓を助けよう、って思ったんだろう」
以前に話したことだが、柳川は楓と共に行動し、そして守れなかったことを悔いていたらしい。あれだけ敵対していたというのに――どうして柳川はあんなことをしたのだろう?

「俺にも分からない。こっちが聞きたいくらいさ。けど、なんとなく予想はつく」
「どんな?」
「家族…だからじゃないか? 意識はしてなくても、心のどこかでそう考えてたのかも」
「まさか」
鼻で笑う梓だが、小馬鹿にしたようでもなかった。完全に否定はできないのだろう。
「血は繋がってるんだ。ありえないことじゃない。それに…俺たちの見てきたあいつは、本当のあいつじゃなかったのかもしれない」
「元々は優しかった、ってか? 信じられないね。信じられないけど…確かに、ありえない話じゃない、かも」

3静かに、ただ静かに:2007/10/28(日) 00:40:02 ID:xmQbL7dc0
梓は実際に柳川と出会って、そのありのままの姿を見てきた。あまりにも梓の知っている『柳川』と違う『柳川』に最初はどうしても違和感を拭えなかったが、今はそうでもない気がする。
もし、もう一度出会えたら…その時は、分かり合うことが出来るのだろうか?
梓の心の内に生じたその疑問は、今はまだ疑問として留めておくことにした。
「何にせよ、俺はまだあいつと会っちゃすらいない。真偽は自分の目で確かめるさ」
空になったペットボトルを握りつぶすと、耕一はそれを空高くへと放り投げた。

     *     *     *

「壁に耳あり障子に目あり、誰が言ったか雲隠れまーりゃん…って自分で言ったんだけどさ。はてさて、こっからだとちっとばかし遠いんだよねぇ。どーしよっかな」
耕一たちが休んでいる地点から少し離れた茂みの中で、ボウガンを構えたまーりゃんこと朝霧麻亜子が、いつ攻撃を仕掛けるかと機を窺っていた。

山中を縦横に歩いていた耕一たちを発見するのは目ざとい麻亜子にとっては造作も無いことだったが、耕一の屈強な体つきを一目見て一筋縄ではいかないと悟った麻亜子は、密かに尾行して物陰から狙撃してやろうと考えたのだ。
――がしかし、自覚しているのかそうでないのか、意外と警戒心が高いようで物音には敏感に反応するわ立ち止まっているときでも常に辺りを見回しているわで容易に近づけない。

おまけにもう一人いる女(柏木梓のことだ)も尾行してきて分かったのだが女とは思えないくらい体力は高そうだった。
こいつらは化け物コンビだと麻亜子が認識するにそれほど時間はかからなかった。つまりそれは不意打ちや騙し討ちが通じにくいことを示していた。

麻亜子の得意とするのは前述の戦法であり正々堂々と真正面から向かっていくのは苦手というか、好みではなかった(卑怯の女神とあだ名されている所以だ)。だから迂闊に攻撃もできず、こうして手をこまねいているだけなのだが…

「時間がないんだよ、こっちにゃ」
今も自分を探しているであろう久寿川ささらや河野貴明のことを考えると、ちんたらしているわけにもいかない。早くなんとかしたいところではある。
いっそ無視して別の獲物を探そうかとも思ったがこいつらの行動指針がどんなものか分からない以上放置しておくのも危険だ。せめて誰かと接触してくれればいかようにでもできるのだが。

4静かに、ただ静かに:2007/10/28(日) 00:40:28 ID:xmQbL7dc0
「あ、ペットボトル投げ捨てた。いけないんだぞぅ、ゴミのポイ捨ては。環境破壊なんだぞー」
そう言いながらも自身の背後にあるパンの袋が無造作に投げられていることについては、ここでは言及すまい。
「んー…アブナイ人が暴れたりミサイルが飛んできたりしないもんかねぇ」
まずありえないことを言いながら、麻亜子は二人の観察を続ける。
しかしその『ありえない』ことは、すぐ側にまで近づいていた。

     *     *     *

篠塚弥生は、七瀬留美が追ってきていないことを確認すると目立たぬよう木陰に身を隠しながら、乱れた呼吸を落ち着かせるべく大きく深呼吸をした。
由綺のマネージャーとして様々な激務をこなしてきた弥生だが流石に肉体労働は慣れてない。ましてやそれが殺人だというなら尚更だ。
腹部もまだ痛んでいる。

らしくない『感情』に任せて冬弥を撃ち殺したまではよかったが手にこびり付いている血の跡が違和感となってしょうがない。拭き取ったはずなのに濃密な死臭が弥生にまとわりついているような――そんな感覚さえ覚えていた。
「……」

だがこれしきのことで参っていてはこれから先、由綺の敵を取るどころか到底生き残ることなどできやしない。
強引に弱気の虫を追い払い、P-90を携えて次の獲物を狩りに行こうとした時、不自然に木々がかき鳴らされる音が聞こえた。
気づかれたのかと思い、慌てて姿勢を低くした弥生だったがどうやらそれは勘違いだったようだ。

「休憩に………こんな調子で………からな」
遠くから聞こえてくる男女の声。よくは聞き取れないが弥生を認識して近づいてきたものではないことは分かった。偶然か、あるいは天が与えてくれた好機か…
P-90の銃把を握り締め、弥生は狙撃できる位置までその二人が来るのを待った。
願わくば、その二人が由綺の敵であることを信じて。

     *     *     *

「つっ…あのガキンチョ、最後までウチのことオバハン呼ばわりしよって…次おうたら絶対半殺しにしてやるさかいな…って、半殺しじゃアカンやんか…」
機転によりうまく難を逃れ、そのまま偶然見つけた廃屋で一夜を過ごした晴子は傷を押しながらも娘の観鈴を生き残らせるためにまた参加者を探してうろついていた。

傷は洗って縛ってはいるものの消毒をしたわけではないので運が悪ければそのまま感染症にかかってしまう恐れがあった。
それだけではなく右手にも力が入らなくなっている(あのナタのせいだ、クソッ)。となれば銃は左手で撃つしかないのだが、その左半身も肩口を銃弾が貫いており銃を撃てば反動で激痛が走るのは間違いない。

「にっちもさっちもいかへんな…ホンマムカつく」
命があるだけマシなのだがどうしても文句が出てしまう。どうもこの島に来てからツイてないことが多すぎる。これも全部ヒキの悪い敬介のせいだ、ちくしょう――
文句を言われたからかは分からないが、晴子の声に応えたかのようにどこからともなくあの忌まわしい放送の声が聞こえてきた。

5静かに、ただ静かに:2007/10/28(日) 00:41:00 ID:xmQbL7dc0
「…来たか」
怒りで眉間に皺が寄っていた晴子の顔がいっそう険しいものになる。今回は、どれほどの人間が死んでいるのだろうか。そしてその中に、神尾観鈴の名前は入ってはないだろうか。
極度の緊張と不安で胸が押しつぶされそうになる。ごくり、と生唾を飲み込んだところで一人目の名前が読み上げられていった。

「…116、柚原春夏――以上…です」
それに続いて、何やら優勝者には願いが叶えられるだの何だのという例のウサギからのおありがたい言葉があったが、観鈴が生きている時点で晴子にはどうでもいい事柄だったし、どちらかと言えば晴子は現実主義者であるので信じる気もなかった。

大方もっとこの殺し合いを加速させるために焚き付けたのだろうが、敵が増えるという可能性を孕んでいる以上むしろ余計なお世話だとすら思う。
「ホンマムカつく」
何もかも敬介のせいだ、と心の中でもう一度言い直して右手を開いたり閉じたりしてみる。
が、やはり力が入らない。

「こら生き残っても仕事辞めなアカンな…この就職難の時代にどーせーっちゅーねん」
自らは絶対に生き残れないということを知りつつも、晴子はそんな冗談を言わずにはいられなかった。
とにかく、どうにかしてより強力な武器を手に入れ参加者たちを駆逐していかねばならない。手持ちのVP70も残弾は残り少なそうだ。ジリ貧だけはどうしても避けたい。

どうしようかと晴子が思案していると、遠くの方から男女と思しき二人組の声が聞こえてきた。まだ距離が遠いのか内容までは聞き取れないが、声が聞こえるくらい近い距離にいるのは確実だ。
「ツイてるわ…! この辺りは隠れる場所も多いから、不意打ちも余裕や」
ニヤリと八重歯を覗かせて笑うと、晴子は茂みをかき分けるようにしてできるだけ悟られないようにその声の元へと近づいていった。

萎えかけていた闘志が再び燃え盛ってきたのが、晴子自身でも分かってくる。今度こそ、絶対に勝つ。


暢気に休憩している柏木家の二人に、まったくバラバラな方向から、しかし大切な人のために殺し合いに乗ることを決意した人間たちによる、誰もが予想しえない包囲網が完成しつつあった。

――いい加減、あたしのほうから仕掛けちゃおっかな? う〜む、しかし手ごわそうだしねぇ…仕留め損なうと面倒そうだよなぁ…あたしゃ面倒は嫌いなんだよね〜…究極の選択、さぁまーりゃんはどちらをえらぶのでしょーか!? つづく!…なんてね。

――相手は確実に私の方角へ近づいてます…確実に当てられる距離まで来ればいいのですが…でなければ、機先を制して奇襲をかけるしかないでしょう。全ては運次第、ですか。好みではありませんが…

――ここまで来たんや、何が何でもブチ殺して風向きを変えんとな。一気に後ろから近づいて仕留めたる! 短期決戦やな…しくじったら…終わりや。腹くくっていくで!

6静かに、ただ静かに:2007/10/28(日) 00:41:31 ID:xmQbL7dc0
【場所:F-06上部】
【時間:二日目午前8:30】

柏木耕一
【所持品:大きなハンマー・支給品一式】
【状態:疲労、初音の保護、千鶴を止める】
柏木梓
【持ち物:特殊警棒、支給品一式】
【状態:疲労、初音の保護、千鶴を止める】
神尾晴子
【所持品:H&K VP70(残弾、残り7)、支給品一式】
【状態:右手に深い刺し傷、左肩を大怪我(どちらも簡易治療済み)、耕一と梓に接近(F-5方面から)】
篠塚弥生
【持ち物:支給品一式、P-90(34/50)】
【状態:マーダー。脇腹の辺りに傷(痛むが行動に概ね支障なし)、耕一と梓を待ち伏せ(E-6とF-6の境界線あたり)】
朝霧麻亜子
【所持品1:デザート・イーグル .50AE(3/7)、ボウガン、バタフライナイフ、支給品一式】
【所持品2:ささらサイズのスクール水着、芳野の支給品一式(パンと水を消費)】
【状態:マーダー。現在の目的は貴明、ささら、生徒会メンバー以外の排除。最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。スク水の上に制服を着ている。耕一と梓を追跡中】

→B-10

7青い宝石:2007/11/03(土) 02:40:30 ID:PVyrIZlU0
「ここは……」

今、湯浅皐月の前には一つの大きな建築物があった。
自分の荷物の中から地図を取り出し確かめてみる皐月、場所からいってホテル跡で間違いはないだろう。
菅原神社から全力で逃げてきた皐月の辿り着いた場所が、ここだった。
閑散とした雰囲気に人の気配は感じられない、それでも用心するに越したことはないと足音を潜めながら皐月は中へと足を踏み入れる。
入ってすぐの場所はエントランスだ、これはホテルなら当たり前の造りである。
高い天井にシャンデリア、明かりがついていないため不気味な雰囲気を醸し出しているがそれだけである。

「本当に、誰もいないわよね」

血濡れの少女に一つの遺体、思い出しただけで吐き気を催すその光景は皐月にとってトラウマ以外の何物でもないのだろう。
他者に対し過敏になっている今の皐月に、セイカクハンテンダケの時の冷静な面影はない。
那須宗一や伏見ゆかりなどの親しい知人等が傍にいないという現実は、彼女の心細さを膨張させるだけである。

(ゆかり……そう言えば、何かゆかりのことで考えなくちゃいけないことがあったはずなんだけど……)

セイカクハンテンダケ使用時の記憶がすっぽり抜けている今の皐月は、行われた放送の情報が入っていない状態である。
しかし大切な友人に関わることだからだろうか、微かに覚える違和感が皐月の脳に何かを訴えている。
考えようにも答えの出ないその迷宮、一先ず皐月はそのことを置いておとくことにしホテルの探索を始めた。

「うわ、綺麗……」

エントラス脇、西洋風の少女の肖像画がそこには飾られていた。
少し埃の積もったそれ、暗闇の中こちらに微笑みを向けている絵に皐月はゆっくりと近づいていく。
斜めに差し込む月の光が絵の一点を指し示していた、皐月もそれでこの絵の存在に気づいたことになる。
石。宝石か何かだろうか、光を反射し自己主張するそれは絵の中の少女の身に着けているネックレスの先端に埋め込まれていた。

8青い宝石:2007/11/03(土) 02:40:56 ID:PVyrIZlU0
「凝った作り〜、高価なものなのかな」
『こんにちは』
「え?」

声、少女の声。
皐月の耳が捉えたものは、人の声に間違いなかった。
すぐに姿勢を正すと、皐月は周囲に人の気配がないか神経を研ぎ澄まさせる。
しかし静まり返ったエントランスには足音一つ響かない、どうしたものかと皐月が首を捻った時だった。

『ここ。お姉さんの目の前、ちゃんと見て』
「……へ?」

きょろきょろと首を動かした後、先ほどの少女の絵の前で皐月の目線は再び止まった。
まさかね、そんなまさか。超常現象を目の前に皐月の頬がぴくりと引きつく。

『こんにちは』
「え、うっそ本当?! 絵がしゃべってるの?!!」
『似たようなものだけど、そう思いたいならそれでいいよ』

舌っ足らずな少女の声は年端かのいかないものに違いない。
幽霊でも乗移ってるのか、突飛ではあるがそのような発想しか皐月はできなかった。

『お姉さんに聞きたいことがあるの』

絵の少女は問いかける、それは唐突としか表せないほど場の空気を読んでいないものだった。
胡散臭げにメンチを切る皐月を無視して、少女は静かに問いかける。

『お姉さんは、大事な人のためなら人を殺すことが出来る?』
「な……っ!」

9青い宝石:2007/11/03(土) 02:41:19 ID:PVyrIZlU0
訝しげな皐月の表情が、一瞬で消し飛んだ。
少女の問いに含まれるストレートな残虐性は皐月の度肝を抜き、彼女の中に再び警戒心を呼び起こす。

『ねえ、お姉さんにも大事な人がいるんでしょ?』
「そりゃ、いるけど……」
『どうするの?』
「な、何よ急に! あんた何が目的なの?」

少女は答えない。
あくまで問う側は自分であるかのような、そんな意固地な主張にも見えるだろう。
焦りを抑えるため、皐月は大きく息を吐いた。
だがそうやって改めると、自分が今後そのような場面にあった場合どう行動を取るかなど皐月は全く考えていないことに気づく。
前はどうだったのか、思い出そうにも襲ってくる鈍痛が皐月に消えた数時間の出来事を教える気はないらしい。
ではこれからどうするのか。それは、きちんと前もって決めていなければいけない事ではないのか。
今後宗一やゆかりが危険な目に合っていた場合、皐月自身はどう動くのか。

「あたしは……」
『うん』
「やっちゃう、かもしれない」

フラッシュバックするあの光景、拳銃を抱くように抱えた少女は笑いながら皐月を見ていた。
少女の足元にいた女性、血に濡れたそれはシルエットから言って皐月の知り合いでないことは確かだった。
だが、もしあの女性が……それこそ、例えばリサだったとしたら。

「あたしは、宗一やゆかりを守るためならきっと……手を、汚せると思う」
『ふーん』
「だ、だって、当たり前じゃない! ううん、あたしがやらなきゃいけないのよっ。
 特にゆかりはこんなことに巻き込まれて、きっと心細くなっちゃってるはずだもの。
 あたしが守ってあげなくちゃ、あたしがやらなきゃ、あたしが」
『落ち着いて、お姉さん』
「っ! ご、ごめん……」

10青い宝石:2007/11/03(土) 02:41:46 ID:PVyrIZlU0
ムキになってしまっていたことに気づき、さつきは思わず押し黙る。
それによりただでさえ暗いエントランスはさらにその不気味さを増していった。
しんと静まり返ったエントランス、それは音という概念がこの場から消えてしまったという錯覚さえをも皐月に植え付けようとする。

(バカみたい、何やってんだろあたし……もう少し、落ち着こ)

そう思い、また一つ深呼吸を皐月がしようとした時だった。

『じゃあ、いいや』
「え?」

冷ややかな少女の声からは感情というものが全く読み取れず、その淡々とした雰囲気に思わず皐月は顔を上げる。
だが、浮かび上がる疑問符の形が凝固するその前に。それは、鳴った。
ピピピピピ……と電子音が辺りに響き渡る、何事かと構える皐月だが音の出所はすぐ傍であった。
目で確認することは出来ない、それは彼女の視野に入る位置に取り付けられているものではないからである。
そう、彼女の首に嵌められた首輪。音の出所はそれだった。
チカチカと警告を表すかのごとく点滅する赤の光、それは暗闇の中電子音と共に首輪が尋常でない状態であることを皐月に訴えかける。
一瞬で青く染まっていく皐月の顔色、彼女の中でも嫌な予感が瞬時に沸き立つ。

『あたし、お姉さん嫌い。いらない』

宣告。幼い少女の台詞は、その声質からは想像も出来ないほどの冷淡なものだった。
何がいいのか、いけなのか。
皐月が考える暇などない。

『さよなら。人殺しは、嫌い』

嫌悪に満ちたそれ。
皐月が最期に耳にした音はそんな少女からの悪意が込められた台詞と、耳がつんざくような爆発音だった。

11青い宝石:2007/11/03(土) 02:42:22 ID:PVyrIZlU0
【時間:2日目午前0時30分】
【場所:E−04・ホテル跡】

湯浅皐月 死亡

皐月の荷物(セイカクハンテンダケ(2/3)・支給品一式)は遺体傍に放置

(関連・452・530)(B−4ルート)

瑞穂の名前の語表記の指摘ありがとうございました、また申し訳ありませんでした。
まとめサイト様も素早い修正に感謝いたします。
それと一番下の状態表がおかしいことになってましたので、お手数おかけしますが以下の物に修正させてください。
すみませんが、よろしくお願いします。

電動釘打ち機5/16は廊下に放置
観鈴の持ち物(フラッシュメモリ・支給品一式(食料少し消費))は観鈴の遺体傍に放置

12或る愛の使途:2007/11/05(月) 01:34:28 ID:ZrWf.p0Y0

暴力は、それを振るうものにとっては快楽なのだろうと、思う。
だから、それを振るうものが何を掲げようと、そこに正義はない。

ぼたぼたと垂れる鼻血を他人事のように眺めながら、七瀬彰はそんなことを考えていた。
引き起こされる。
襟首を掴んだまま何事かを怒鳴っているのは藤田浩之だった。
正真正銘の化け物と組んでいる、自身も化け物のような力を持った、得体の知れない少年だ。

頭から水をかけられて、目が覚めた。
目を開けると同時、殴りつけられていた。
彰が何かを言う機会はなかった。
一発、二発と殴られる内、感覚が鈍くなっていく。
眩暈と頭痛がして、何もかもが億劫だった。
ただでさえ体調は最悪だったところに、冷水を浴びていた。
寒気が止まらない。熱を持った傷は痛みではなく熱さを伝えてくる。
節々が痛い。熱さと、寒さと、内部からの痛みが、殴られているという感覚を麻痺させていく。
垂れる鼻血に混じる白いものは欠けた歯なのだろうと、ぼんやりと思う。

弁解も、釈明も、何もする気になれなかった。
高槻は死んでいた。
その傍に倒れていた自分は生きている。
転がるアイスピックについた血は、すっかり乾いていた。
ミステリにもならない殺人現場。
何があったと、聞く方が愚かだろう。
いや、もしかしたら聞いているのかもしれない。
何があった、言えるものなら言ってみろ、と怒鳴っているのかもしれない。
けれど酷い耳鳴りのせいで、浩之が何を言っているのかはわからなかった。

13或る愛の使途:2007/11/05(月) 01:35:03 ID:ZrWf.p0Y0
何もかもが面倒だった。
熱くて、だるくて、つらい。
このまま殺してくれるならそれでも構わないと、そう思った。
誰も彼も、自分勝手なことばかりを言って、自分勝手なことばかりをして、
そうして生きて、死んでいく。
力をひけらかして、力を振り回して、壊して、殺して、殺しあって死んでいく。

皆、死んでしまえ。
怒りではなく、憎しみでもなく、ただ静かに、七瀬彰はそれだけを思う。
恐れもなく、痛みもなく、ただそれだけを願いながら死ぬのだと、そう思っていた。
高槻の死体が見えた。
血に塗れ。目を見開き。無念と失意を彫り出したような顔で死んでいた。
醜かった。

吐き気がして、思わず目を閉じる。
こんな醜いものに守られていた程度の、それが自分の価値なのだと思った。
病気持ちの野良犬が、塒に掘った穴に埋める宝物。
そんなガラクタ程度の自分など、もっと早くに壊れてなくなってしまっていればよかった。
そうすれば、痛い思いも怖い思いもしなくてすんだのに。

目を開けた。
野良犬は死んでいた。
何かが頬を伝うのを、彰は感じていた。
どうしてか、涙が流れていた。
泣きながら、彰は笑う。
殴られた。

14或る愛の使途:2007/11/05(月) 01:35:22 ID:ZrWf.p0Y0
殴られて、なお彰は笑っていた。
おかしくてたまらなかった。
何も知らないくせに、何も分かっていないくせに自分を殴る浩之がおかしかった。
自分を守ると言っていたくせに、その目の前で自らの喉を突いてみせた高槻がおかしかった。
嫌悪と軽蔑しか覚えなかった男の醜い死体を見て涙を流している自分がおかしかった。
だから、殴られても殴られても、思い切り笑っていた。
ズタズタに切れた唇と口内が腫れ上がって、奇妙に掠れた声しか出せなくなっても、彰は笑っていた。

暴力の中に正義はなく、しかし同時に暴力はそれを振りかざすものにとって正義の象徴で、
だからきっと、紛れもない快楽を伴うのだろう。
自分を殴り、手加減を知らず、今にも殺しそうになっている彼も、あんなに楽しそうに拳を振るっている。
同じ顔だ、と彰は笑う。
幼い頃からずっと見続けてきた顔だ。
自らを、自らの行いを微塵も疑わず動く人間の顔だ。
それは醜く、理不尽で、どこまでも澄んでいる。
振るわれる力はだから純粋に、彼にとっての正義を体現しているのだろう。
そんな手前勝手な正義に押し潰されて、自分は死んでいく。
それがひどく滑稽で、彰は自らの痛みを笑っていた。

唐突に、どこまでも続くかに思われた私刑の、鈍い音がやんだ。


***

15或る愛の使途:2007/11/05(月) 01:35:43 ID:ZrWf.p0Y0

七瀬彰の生命と精神を削り取り続けていた殴打を止めたのは、藤田浩之の内省でも、彰の死でもなかった。
それを成したのは、一本の黒光りする腕だった。
罅割れた、鱗状の硬質な皮膚に包まれた丸太のような腕。
それが、浩之の拳を握り止めていた。

醜いな。
彰は腫れ上がってほとんど開かなくなった視界の中にかろうじて見えたそれを、醜いと感じていた。
高槻の醜さとは対極にある、しかし同等の醜さだ。
剛く、醜い。
藤田浩之がその化け物を何と呼んでいたか、思い出すことはできなかった。
思い出す必要もなかった。
人のかたちをした人でないものは、皆一様の醜悪さを内包している。
それは恐怖であり、畏怖であり、尊崇であり、そのいずれもが人の弱さの鏡写しだ。
だからそういうものをひと括りにして、化け物と呼び習わす。
折れた歯の欠片を吐き出す力もなく、切れた舌の上で転がしながら、彰は鉄臭い息を吐く。
溜息のつもりで漏らしたそれがひどく弱々しく感じられた。
他人の正義に殺されるのと、化け物に殺されるのでは、どちらが七瀬彰という人間の完結に相応しいのだろう。
そんなことを考える。
いや、このまま全身を包む倦怠に身を任せてしまえばそれで済むのかもしれない。
眠るように目を閉じれば、もう目を覚ますことはないだろう。
既に恐怖はなく、ただ朦朧とした意識の中、弱い吐息の感触だけが熱かった。

眼前、少年と化け物が何事か言い交わしている。
聞こえないし、聞く気もなかった。
自分を殺す算段に耳を傾ける意味はなかった。
ただ、早くしてほしかった。
痛みの戻る前、感情と感覚の戻る前、色々なものが麻痺している内に、終わらせてほしかった。

16或る愛の使途:2007/11/05(月) 01:36:02 ID:ZrWf.p0Y0
しかし、―――終わらない。
いつしか少年の顔に、一つの色が浮かんでいた。
激昂。怒りに任せて彰を殴りつけていたときとは別の、もっと指向性のはっきりした感情。
少年は化け物に対して何事かを怒鳴っているようだった。
時折こちらに目線を向ける、その間中ずっと化け物に掴まれたままだった腕を、少年が振り払う。
その手に、ゆらりと光るものが見えた。
見る間に赤々とした自己主張を始める、それは炎だった。
照らし出された影が、洞穴の壁面に描かれた奇妙な紙芝居のように揺らめく。

大袈裟なことをする。
学校で少女たちをまとめて焼き殺した炎を目にした七瀬彰の、それが率直な感想だった。
そんなことをしなくても、その拳で少し強く殴れば、あるいは傍らの化け物の腕を一振りすれば、
自分は呆気なく死ぬ。
わざわざ焼き尽くすまでもない、と苦笑のかたちに表情を歪める。
同時に、ようやく待ち望んだ救済の時が来たのだと、彰は安堵に近い感覚を抱いていた。
終われるのだと、そう思った。

だが次の瞬間、彰は自らの願いがまたしても踏み躙られたことを知った。
ゆっくりと閉じられようとした彰の視界が、しかし腫れた瞼が落ちるよりも早く、闇に覆われていた。
巨大な影。
化け物の身体が、洞穴の入り口から射し込む光と、少年の手に宿る炎の明かりを遮っていた。
何かが焦げるような臭いと、重量物が岩壁に当たる硬い音、それから奇妙な浮遊感。
鋭敏さを失った五感が同時に刺激され、彰は戸惑う。
それらより一瞬遅れて、最後に彰を襲ったのは、暴力的なまでの光量だった。
視界が白く染まる。
反射的に硬く瞑ろうとした彰の瞼に鋭い痛みが走る。
滲んだ涙に血が混じり、ひどく沁みた。
太陽の下に出たのだと彰が思考を整理するまでに、しばらくの時間がかかった。

17或る愛の使途:2007/11/05(月) 01:36:20 ID:ZrWf.p0Y0
太陽の下。
それはつまり、洞穴の外に出たということだった。
どうやって。
身体全体に感じる浮遊感と、定期的に伝わってくる小さな震動。
腰の辺りを支えるごつごつとした感触の正体に思い至って、彰はようやく事態を理解していた。
化け物が、自分をその胸に抱きかかえて走っているのだ。
つい最近、似たような体験をしたと記憶を辿ろうとして、苦笑する。
高槻に抱えられていたのは、ほんの数時間前のことだった。
それがひどく遠い昔のように感じられて、どうしてだか再び涙が滲みそうになって、
彰はそれ以上自らの思考を掘り下げるのをやめた。

代わりに、飛ぶように流れていく周囲の景色をぼんやりと眺めながら、化け物が
自分を連れて走っている理由を思う。
考えるまでもなかった。
高槻、軍服の男、芳野祐介。
そうしてこの化け物が四人目というわけだ、と彰はどこか他人事じみた感慨を抱く。
誰の手も届かない場所に連れ込んで犯す気か。
それとも手足をもいで血肉でも啜るのか。
化け物の嗜好など想像もつかなかったが、いずれまともではあるまい。
舌を噛んで死のうか、とも思う。
流れる景色を眺めるうちにそれが案外といい考えに思えてきて、試してみた。
ずたずたに切れた舌に折れて尖った歯が触れた瞬間に諦めた。
殴られるのとは別種の痛みに、とても耐えられなかった。
死を選ぶこともできないまま、ただ化け物の塒に運ばれていく。
そんな扱いすら今の自分には相応しいと、彰は自虐に身を浸す。
それが一種の逃避だということも、理解していた。


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