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大人の分娩室

1藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2013/12/14(土) 11:52:40
【大人の分娩室 ファイル1樫木陽菜】

「あれ? ここはどこ?」
 私は見知らぬ部屋でそう呟く。
 ウサギやクマのぬいぐるみ、所々にアニメのキャラクターが描かれたポップでファンシーな壁紙、そして幼児用のベッド。私が閉じ込められている部屋は薄暗い監禁部屋ではなく、幼稚園や保育園を連想させる幼児向けの部屋だ。オネショ対策の為か、床もビニール製の厚くて柔らかいカーペットに覆われている。ここは一体どこなんだろう。
 私は平静を装っていたけど、その実、内心の動揺が隠せず、足早にドアの方へ歩を進める。一歩、そしてまた一歩と。
 ドアの前には、保育園などで安全の為に設置されている木製の柵がある。私はその柵を軽々と飛び越え、ドアを開けようとする。案の定と言うべきだろうか、ドアは当然の事ながら施錠されていた。そんな矢先──。

「お目覚めのようね、樫木陽菜さん──いや、この場では樫木陽菜(かしきひな)捜査官とお呼びした方がいいのかしら?」
 上部に設置されているスピーカーからの呼び掛けに、私は背筋が寒くなる。
 西暦2053年、増加の一途を辿るナノテクノロジー犯罪に対抗する為、新設された先端ナノテクノロジー及び改造医療ナノマシン対策室。私はその対策室の捜査官の一人で、上司の命令である組織の取引現場に張り込みをしていた。でも不覚にも敵に見つかり、後ろから睡眠薬を嗅がされて今に至ると言う訳だ。
「単刀直入に聞くわ。貴女達の目的は何? 貴女達は身寄りのない男性や女性を誘拐して、新型医療ナノマシンの実験台にしているんでしょ?」
 私は強気にスピーカーの声の主に詰問する。
「あらあら、それは悲しい誤解よ樫木さん。私達は身寄りのない“あの子”達に、新しい人生と家族を与えてるの」
「新しい人生? どういう意味なの!?」
 私はスピーカーの女性の倨傲な態度に声を荒らげる。
「額面通りの意味よ。私達は身寄りのない大人を探して、新型医療ナノマシンで赤ちゃんや幼児に戻し、新しい家族を与えてあげるの」
「それは本人達の願いなの?」
「さすが敏腕捜査官、着眼点がいいわね。うふふ、冷静に考えれば分かるでしょ? 私達は本人の意思なんかどうでもいいの。依頼人である資産家の望み通りの年齢に若返らせ、里子として引き渡す。ただそれだけ。それ以下でも以上でもないわ。愛情を知らない大人達は親の愛を求めるし、“元大人”だから育てやすいって評判なのよ」
「な!?」
 私は組織の恐るべき秘密に驚愕する。大人を幼児や赤ちゃんに若返らせ、里子として子供のいない資産家に引き渡す。私はこれまで多くの非合法組織を壊滅させてきたけど、こんな発想の組織は始めてだ。
「人間を若返らせるナノマシンは誰が開発したの? 貴女のボスは誰なの?」
「貴女は知る必要のない事よ。だって貴女は今から、この“大人の分娩室”で幼児として生まれ変わるんですもの」
「な!?」
 スピーカーの女の声を合図に、部屋の上部に設置されているガスの活栓が開き、シューと言う音を響かせながら部屋中にガスが充満する。これが例の若返りガス状ナノマシン。私は咄嗟に息を止めたけど、すぐに呼吸が苦しくなってガスを大量に吸ってしまう。そう、在りし日を思い起こさせる甘く優しい香りのガスを。

「うふふ、若返りのガスをたっぷり吸っちゃったわね。さあ、体の幼児化が始まるわよ」
 私がガスを吸ったのを確認した後、部屋の上部にあるモニターに女性の顔が映し出される。年齢は私と同じ26歳前後だろうか。雪を欺く白い肌と眼鏡が印象的な女性は、白衣姿で妖艶な笑みを浮かべている。そう、さながら私を観察するように。
 次の瞬間、デジカメの映像がぶれたように目の前の景色が歪み、視界がぐっと低くなる。手や指が少しずつスーツの袖に隠れ、履いている革靴が緩くなる。胸にも擦れるような違和感があり、ブラと胸の間に隙間が広がってゆく。私は脱兎の如くこの場から逃げ出そうとしたけど、全身の力がすうっと抜けて立てなくなってしまう。
「今の樫木さんは身長145cm、体重37kg。肉体年齢は約11歳。丁度小学6年生くらいね。あんなに目立っていた胸もすっかりお子様サイズだし、大人びたメイクも全然似合わない童顔になってきたわね」
「くっ……」
 私はブラウスのボタンを開けて胸元を確認したけど、私のブラは既にぺこんとへこみ、胸の周りがほのかに膨らんでいるのみ。私は狼狽して自分の胸を握りしめたけど、胸に激痛が走って転げ回ってしまう。胸を少し押すだけで蹲るほどの痛みが走る。緩くなったブラと胸の先端が擦れて痛む。そう、この感覚は──。

2藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2013/12/14(土) 11:57:18
「あらあら、膨らみ始めの胸をそんなに乱暴に掴んじゃだめよ。まあ、もうすぐ胸の膨らみとお別れだから、名残惜しいのは分かるけどね」
「いや、私は子供に戻りたくない!」
 私の抵抗など些末な事だと無視するように、私の若返りは尚も続く。
 私は胸は瞬く間に真っ平らになり、触っても何の感触もなくなってしまう。手や指は既にスーツのジャケットとブラウスに呑み込まれ、サイズが合わなくなった革靴も脱げ落ちる。黒いパンツスーツも次第に緩くなり、ブラウスの中でブラの肩紐がずり落ちる。天井の鏡に映る私には既に大人の面影はなく、小学生の女子児童そのもの。

「うふふ、もう樫木さんじゃなくて、陽菜ちゃんって感じね。今の貴女は身長133cm、体重は29kg。肉体年齢は約9歳。丁度小学4年生くらいね。そろそろ生理がなくなる頃ね。子供が産める体から、自分自身が子供に戻っていく気分はいかが? ねえ、陽菜ちゃん?」
「ちゃん付けはやめて! 私を子供扱いしないで!」
 私はモニターの女にそう反駁するけど、若返りは加速度的に進む。
 骨盤の退行に伴いヒップラインは小さくなり、丸みを帯びた自慢のヒップは、脂肪が薄い小振りなお尻に逆戻り。スーツのヒップラインががばがばになったせいで、何度ベルトを調節してもパンツスーツが脱げ落ちそうになる。何度腕捲りしても、ジャケットとブラウスに手が隠れてしまう。女性らしいウエストの括れも次第に肉付きがよくなり、大人の女性らしい3サイズの起伏がなくなってゆく。
 天井の鏡に映る私は、メイクが崩れてぶかぶかの服を身に纏っている。そんな私は、正に母親のメイク道具やスーツで遊ぶ幼児そのもので。

「今の陽菜ちゃんは身長114cm、体重20kg。肉体年齢は約6歳。丁度小学1年生ね。うふふ、大人用のブラウスがぶかぶかでワンピースみたいよ。あ、今日から小学2年生や小学6年生の事は、お兄ちゃん、お姉ちゃん、って呼ばなきゃだめよ。だって今の陽菜ちゃんは小学1年生だもの」
「おねがい、もとにもどして!」
 体が6歳まで縮んだせいで、知らず知らず舌足らずな発音になってしまう。舌が上手く回らない。何なのこの甲高い私の声は──。
「残念だけど元に戻す事はできないの。陽菜ちゃんにはもっと若返ってもらうわ」
「いや! もう、ちいさくなりたくない!」
 私の絶叫も虚しく、私の体は緩やかに幼児化を迎える。
 スーツジャケット、パンツスーツ、大人用の黒のレースショーツ、革靴、夜色のブラ。サイズが合わなくなった服は次々と脱げ落ち、シーツのようにだぼだぼになったブラウスに被さって私の若返りは止まる。私は涙ながらに自分の体型を確認したけど、お腹はぽっこりと膨れ、すらっとしたお腹回りは柔らかくてぷにぷにに変わり果て、体型は正に砂時計型からリンゴ型に逆戻り。

「今の陽菜ちゃんは身長98cm、体重は15kg。肉体年齢は3歳10ヵ月から4歳0ヵ月ってとこね。26歳の大人の女性から、ただの幼児に戻った気分はどう? 陽菜ちゃんは生理用ナプキンが必要な年齢から、夜尿症でオムツが必要な年齢に退行したのよ」
「バカにちないで! オムツなんかひちゅようないわ!」
 先程よりも舌が回らない。声に抑揚を付けて話す事ができず、慌てて喋ると舌足らずな話し方になってしまう。それに何なのこの幼児みたいな甲高い声は。
「あらあら、中身は大人なのに上手く発音できないのね。うふふ、本当にオムツが必要ないの? 貴女を捕らえてからもう何時間も経過しているけど、おしっこの方は大丈夫なの?」
「え?」
 私はモニターの女の言葉にハッとする。
 次の瞬間、私は唐突に激しい尿意を催す。それは生まれて始めて感じる強い尿意で、瞬く間に意識が尿意に占領されてしまう。加速度的に高まる尿意に、私は苦々しく唇を噛みしめる。額と背中に変な汗が滲む。何なのこの感覚は──。
「ねえ、陽菜ちゃん。幼児期って言うのは多かれ少なかれ“オネショ”や“オモラシ”のリスクを秘めてるの。幼児期の失禁や夜尿症の原因は諸説あるけど、膀胱の小ささ、自律神経やホルモンの未発達が主な要因ね。今の陽菜ちゃんは平均的な4歳児より小さいし、ホルモンバランスも幼児と変わらないから、尿意を我慢するのが辛いでしょ?」
「くぅ……」
 底意地の悪いモニター女の説明に、私は苦虫を噛み潰したような表情になる。

3藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2013/12/14(土) 11:58:59
「おねがい、トイレにいかちぇて、ドアをあけちぇ!」
 私は尿意を我慢する為に地団駄を踏みながら懇願する。
「うふふ、敵の私に懇願するなんて情けないわね。貴女、それでも捜査官なの?」
 モニターの女は私の醜態をクスクスと笑う。
「でも……もうがまんが……」
「分かったわ。ドアの鍵を解錠したから、今すぐトイレに行きなさい。トイレはドアを出て、突き当たりを右に行けばあるから」
「うぅ……」
 モニター女の説明と同時に、私はシャギーを入れたロングの黒髪を振り乱して一目散に駆け出す。
 でも私は失念していた。ドアの前には、子供用の木製の安全柵がある事を。
 幼児用の木製の柵は、丁度今の私の背丈と同程度。幼児化する前の私は身長が169cmだったから、この柵も軽々と通れたけど、今の私は逆立ちしてもこの柵を跨げない。私は柵の出口部分から出ようとしたけど、この柵は保育園や幼稚園で幼児が逃げ出すのを防ぐ為のもので、幼児化した私の筋力じゃビクともしない。
「おねがい、さくをあけちぇー!」
「あらあら、陽菜ちゃんはもう4歳になるのに、一人でトイレに行く事もできないの? うふふ、そんな陽菜ちゃんに相応しいプレゼントがあるわ。隅にあるタオルケットを捲ってみなさい。今の陽菜ちゃんにピッタリのものがあるから」
 私は激しい尿意を我慢する為に両手で股を押さえながら、タオルケットまでゆっくりと歩を進める。一歩、そしてまた一歩と。でもタオルケットを捲った私が目にしたのは、正に驚愕の品物で。
 タオルケットの中にあったのは、オムツが外れたばかりの幼児が着用する、いわゆるパンツタイプのオムツで、ご丁寧にピンクのパッケージから取り出してある。こんな花柄や幼児向けキャラクターが描かれたオムツを穿けだなんて、完全に私を見下している。
 私はあまりの怒りに唇をわなわなと震わせる。
「そんなに幼児用オムツが嫌なの? 早く穿かないと漏れちゃうわよ。だぼだぼのブラウスをオモラシで汚すのは、惨めな気持ちになると思うけど。まあ、掃除しやすいように幼児用のビニールカーペットを敷いてあるから、私はどっちでも良いけどね」
「うぅ……」
 私は目を閉じて逡巡する。正に二者択一の選択だ。大人としてのプライドを捨てて幼児用オムツを穿くべきか、ブラウスを大きく濡らしてオモラシをするべきか。オモラシをすれば楽になれる。大人としてのプライドさえ捨てれば。尿意を我慢する為に噛みしめている下唇に、血の味が滲む。でも私の尿意は既に限界で──。
「え? あっ……ちょっと、イヤ!」
 私の下腹部のダムは呆気なく決壊する。
 私が床に腰を下ろした瞬間、シーツのようにぶかぶかのブラウスの一部に、淡い小さな染みが現れる。ブラウスの裾は、水を吸ったように少しずつ変色してゆく。次の刹那、淡い染みは加速度的に大きくなる。瞬く間に変色部分は広がり、ヒップラインを伝ってブラウスの裾の大部分が染みに覆われてしまう。
「あっ……あぁ……うぅぅ……」
 下腹部に生温かい濡れた感触が広がってゆく。
 生温かい尿に濡れたブラウスがべたっとお尻に張り付く。
 私は慌てて立ち上がったけど、太ももから大量のおしっこがこぼれ落ちてしまう。私の足下の床にはうっすらと水溜まりができ、微かに湯気が立ち上る。私の意に反しておしっこは止めどなく溢れ、太ももを伝って床の水溜まりを広げてゆく。大人になってから初めてしたオモラシに私は茫然自失とし、虚ろな眼差しで太ももから落ちる生温かい水滴を見つめた。

4名無しなメルモ:2013/12/14(土) 19:05:58
藤色ずきん様、新作の連載ありがとうございます。
26歳の捜査官から一転、無力な3歳児に戻されておもらし、最高ですね。
若返っていく過程の言葉攻めも凄く的確で興奮しました。
子供を産める身体から自分自身が子供に…小学生をお兄ちゃんお姉ちゃんと呼ぶ立場…
これから着替えで裸を晒す羽目になるでしょうからまた言葉攻めを期待してます。
もっと小さくして産まれたばかりの赤ちゃんにしてあげましょうか?とか今の惨めな姿を同僚や後輩達が見たら?
という攻め方も面白いかもしれませんね、それでは続きを楽しみにお待ちしております。

5名無しなメルモ:2013/12/15(日) 03:38:53
GJ(≧∇≦)

6青年A:2013/12/15(日) 12:29:20
新作ですね。
藤色ずきんさんは素晴らしいセンスの持ち主だと思います。
忙しい中本当にお疲れ様です。
無理せず自分なりのペースで頑張ってもらえればと思います。
続きを期待して気長に待ってまーす。

7藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2013/12/15(日) 17:39:28
>>4
感想とアイデアありがとうございます。
実はこの話、短編集なのです。
毎回、違う人物に焦点を当てて若返らせたらネタぎれしないかな、と思ったのですが、一人の人物を中心にして書くのもいいですね。

8藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2013/12/15(日) 17:41:50
GJありがとうございます。

9藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2013/12/15(日) 17:43:28
>>8
は5さんにです。アンカー付け忘れました。

10藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2013/12/15(日) 17:46:45
>>6
青年Aさん感想ありがとうございます。
そう言って頂けると幸いです。
実は行き当たりばったりで書いてるだけで、この話も一時間ちょっとでさっと書いた話なのですが、続きを更新できるように善処します。

11青年A:2013/12/15(日) 18:46:59
もし書きにくかったら人物を変えて気持ちを入れ替えてでもOKです。
ぜひ作品と投稿をお願いします。

12藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2013/12/15(日) 19:28:42
>>11
善処します。
ただ次の更新がいつになるかは明言できません。

13青年A:2013/12/15(日) 21:04:45
了解です。
気長に待つことにします。
焦らずゆっくりでいいので気分が乗ったら頑張って下さいね。

14名無しなメルモ:2013/12/15(日) 21:33:27
>>7
藤色ずきん様レスありがとうございます。
毎回違う人物というのも良いですね、ひなちゃんが帰って来ないことで、
次は後輩の捜査官が捜査に送り込まれてきて、ひなちゃんは助けてもらえると大喜びしてたら
期待むなしくナノマシンのガスによって赤ちゃんにされて里親の元に送られて行ったり(笑)
また、組織視点や組織に依頼してる人物視点も良いかもしれませんね。
人気女優やグラビアアイドル、好きな女性を自分の手で育ててみたい、
という依頼で女の子を若返らせるのも有りだと思います。

15名無しなメルモ:2013/12/16(月) 21:10:27
新作すごく楽しみです、藤色ずきんさんと言えば才色兼備な女性が全てを失う作風と
巧みな言葉攻めを得意としてるイメージがありますので、すごく期待してますよ。
優秀な女刑事が赤ん坊にされて里親に送られていく展開を楽しみに待ってます。

16名無しなメルモ:2013/12/17(火) 21:06:22
可愛い赤ちゃんに若返らせた女の子を、育てる目的だけでなく、“鑑賞用”にコレクションする人達が登場するという展開を考えてみました。
ナノマシンの作用で、可愛い赤ちゃんの姿のまま、いつまでもじっと眠り続けた状態で、ガラスケースに保存されて、
生きたまま、お人形さんのように飾られ目覚める事なく眠り続ける赤ちゃんたち…
というのはいかがでしょうか?

17名無しなメルモ:2014/01/06(月) 22:10:19
ワカガエリアと箱庭も素晴らしいですが、こちらも素晴らしいですね…
若返りの途中の描写がとても良い!
私も画像掲示板の方で一本長編を投稿させて頂いている最中ですが、仕事が忙しくて中々腰を据えて続きを書く事が出来ずにいます…

18藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/10(金) 00:34:53
>>15
感想ありがとうございます。
はい、言葉攻めは好きですね。

19藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/10(金) 00:38:06
>>16
アイデア、ありがとうございます。
うーん、コレクションですか……。私は動きのないシーンを書くのが苦手なんで、そういう話を書くのは難しいですね。

20藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/10(金) 00:42:50
>>17
ありがとうございます。そう言って頂けると、作者冥利に尽きます。
若返りシーンを書くのが好きなんで、この話も気合いを入れて一気に書きました。
画像掲示板の方は私も見ているんで、もしかしたら17さんの話も読んでるかも知れませんね。

21藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/11(土) 01:46:50
 私は目の前の無惨な光景に顔を赤らめる。
 尿はサイズが合わなくなった私のブラウスの裾を広範囲に濡らし、裾から溢れる尿は太ももを伝い、ビニール製の厚くて柔らかいカーペットを濡らしている。篠突く雨に濡れたように肌に貼り付くブラウスの裾が不快だ。床に描かれた恥辱の地図から立ち上る湯気も次第に薄れ、生温かいぶかぶかのブラウスの裾も、刻一刻と冷え始めてくる。そんな矢先──。
「あらあら。陽菜ちゃん、本当は26歳なのにお漏らししちゃったの? 身体だけじゃなくて、中身もすっかり幼児の仲間入りね。これからはオムツを穿いた方がいいんじゃない?」
「あっ、あなたは……」
 すらりと伸びた手足に冷淡な瞳、初雪のような真新しい白衣、心に突き刺さる木枯らしのごとく冷酷な口調。間違いない、口元はガスマスクで隠れているけど、目の前に居る妙齢の女性は、部屋の上部にあるモニターに映っていたあの女だ。
「よくもやっちぇくれたわね、かくごちなさい!」
 私は威勢よく啖呵を切ったけど、所々上手く発音できず舌足らずな口調になってしまう。
 今の私の目線は、丁度白衣の女の腹部の辺り。この体で見上げると、眼前の女はさながら巨人だ。私と彼女の間には、見上げ過ぎて首が痛くなるほど身長差がある。私は幼児化した自分と目の前の女との体格差に息を呑む。正直、勝ち目は万に一つもない。それでも私は膝を屈する訳にはいかない。命を懸けて職務を全うする仲間の為にも。
「うおー!」
 私は相手を怯ませるように咆哮を上げ、渾身の力を振り絞って眼前の女に突撃する。
「うふふ、どうしたのスキンシップ? ライオンのマネをしながらじゃれてくるなんて、もうすっかりお子様ね」
 私は目の前の女をひ弱な研究者だと思っていたけど、彼女は女性アスリートのごとく体が引き締まってて、幼児をあやす保育士さんのように私を軽々と受け止める。体に全然力が入らない。まるで水の中を歩いているみたいだ。私はいつもと同じ感覚で殴り掛かっているのに、目の前の女は涼しそうな顔をしている。
「どんなに鍛え上げた捜査官も、幼児に戻ると無力なものね。格闘技のスキルもその体じゃ役に立たないでしょ?」
「この、この!」
 私は女の侮蔑に満ちた言葉を意に介さずポカポカと叩き続ける。
「あらあら。無駄な抵抗を続けるのね。幼児の腕力でも、さすがに何回も叩かれたら痛いし、そろそろ仕上げをするね」
「しあげ……? あ!」
 眼前の女は白衣のポケットから小型の機械を取り出し、しゅっと私に吹き掛ける。しまった、これは若返りガス状ナノマシン。私は慌てて息を止めたけど、時すでに遅く、口元に吹き掛けられたガスをむせりながら吸い込んでしまう。
「さあ、陽菜ちゃん。自分では何もできない、無力な赤ちゃんに戻りなさい」
「いや、イヤ! あかちゃんになるのはイヤ!」
 私の言葉と抵抗も空しく、私の肉体は再び若返ってゆく。
 目の前の女は、大きめの手鏡で私の変化を映す。赤ん坊に若返っていく私の身体を、私自身の記憶に焼き付ける為に。
 私の手や足は熱を帯びながら緩やかに縮み始め、園児のように丸みを帯びていた指はさらに短くなり、矮小で丸い、さくらんぼを彷彿とさせる不器用な指に変わり果てる。私は赤ちゃんに若返っていく自分の体に取り乱し、脱兎のごとく女の側から逃げ出す。でも、徐々に脚の筋肉が低下して走るのが遅くなり、走ったりジャンプするたびに足がもつれて転んでしまう。
「今の陽菜ちゃんは身長86cm、体重12kg。肉体年齢は2歳3ヶ月ってとこね。生後27ヶ月の体に退行した気分はどう? そろそろ足元がおぼつかなくなってきたでしょ? それは、陽菜ちゃんの足の筋肉が低下してるからなんだよ。もうすぐ陽菜ちゃんはハイハイしかできなくなるの。うふふ、そうしたら、一日中オムツを着けてトイレトレーニングからやり直しだよね」
 眼前の女はガスマスクを外し、口元に手を当ててクスクスと笑いながら、タブレット型の機械で私の若返る映像を分析する。ああ、彼女は良心とか罪悪感と言う感情が欠落した人間なんだ。
「いやぁ! ハイハイもおむちゅもじぇったいにいやぁ!」
 私は声を荒らげて眼前の女に食って掛かったけど、先程より発音が不明瞭になってしまう。

22藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/11(土) 01:48:05
 私の若返りは加速度的に進み、脚がガクガクし始めて私は尻餅を付いてしまう。
 私はどうにかこうにか柵に掴まって立ち上がったけど、足の運びも次第にたどたどしくなり、走る事や片足でバランスを取る事ができなくなる。
 両手を横に広げて必死にバランスを取り、私はがに股気味でよちよちと歩く。でも方向転換が上手くできず、何度もカーペットの上で転んでしまう。それでも私は、幼児用の木製の柵に掴まって一歩ずつ白衣の女から逃げようとする。

「あらあら、陽菜ちゃんはあんよが上手なのね。でも無理しないで。今の陽菜ちゃんは身長75cm、体重は9kg。肉体年齢はもう1歳2ヶ月ぐらいなの。この年齢で一人歩きできる子は全体の50パーセントなのよ。うふふ、もうハイハイで歩いた方が早いんじゃない? その方が今の陽菜ちゃんに似合うと思うけど。ねえ、陽菜ちゃんはもうすぐ乳歯がなくなって喋れなくなっちゃうけど、最後に言い残す事はある?」
「おねぎゃい、いうこときくから、あなたたちのなかまになるから、もとのからだにもどちて……。あかちゃんになるなんてイヤァ! ハイハイなんてイヤァ、おむちゅなんてイヤァ、しゃべれなくなるなんてイヤァ!」
 私はハイハイして女に接近し足下で頭を下げ、一際甲高い声で泣き叫ぶ。
 小刻みに震える不器用な手で握った手鏡に映る私は、目鼻立ちがはっきりしない赤ちゃんの顔になり始めていて、肉体年齢は1歳を通り越して乳児に近づきつつある。
 シャギーを入れたロングの黒髪も短くなり始め、次第に肩に掛かるセミロングになり、さらに縮んで耳が隠れる程度のショートヘアに変わり、尚も縮んで耳が見えるベリーショートになり、最終的に赤ちゃんのような細く繊細で短い髪になってしまう。
 発音の不明瞭さと共に歯も短くなる。徐々に短くなった奥歯は完全に歯茎の中に戻り、左右の犬歯も一本、そしてまた一本と歯茎の中に戻ってゆく。さらに上下の歯が4本歯茎に呑み込まれ、上の前歯も歯茎の中に戻り、最後に残った下の前歯も歯茎の中に消えてしまう。

23藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/11(土) 01:49:48
「うふふ、今の陽菜ちゃんは身長66cm、体重は約7kg。肉体年齢は生後6ヶ月。もうどこから見ても、ママのおっぱいが恋しそうな立派な赤ちゃんね。26歳の大人の女性から、今年生まれたばかりの赤ちゃんと同い年になった気分はいかが? 陽菜ちゃんの同級生にはもうママになってる人も居るでしょ? 同級生の子供より年下になっちゃったなんて、何だか滑稽な話ね」
 ぶかぶかのブラウスの中で埋もれた私を抱き抱え、白衣の女は笑いながら私を抱っこする。私は彼女を睨み付けようとしたけど、フォーカスが合ってないカメラのような視界に戸惑ってしまう。目の前の女の顔はかろうじて見えるけど、何度瞬きしても遠くの物がよく見えない。私は両目とも視力が1.5以上あるのに。
「視力が低下して驚いたでしょ? 一歳になる前の赤ちゃんは目から脳に情報を伝える神経が発達段階だから、物の細部を見る力、遠近を整える力、立体で物を認識する力が不十分なの。当分は視力が0.1前後で大変だと思うけど、一歳になる頃には大人とほぼ同じように見えるわ。だから今日から、しっかりミルクを飲んで離乳食をたくさん食べようね」
「だぁ……ばぶぅ……あ……あ……」
 私は白衣の女を罵倒しようとしたけど、乳歯がなくなったせいで何度口を動かしても言葉にならない。
 音声を発する咽頭部の空間が狭くなったせいで、口内で舌を上手く動かせず、何度試しても複雑な発声ができない。ぼんやりした視界や、上手く動かない舌の感覚を感じるたびに、水の中に潜っているような錯覚に陥ってしまう。赤ちゃんって、私の想像以上に何もできないんだ。私は本当は26歳の大人の女性なのに。
「うふふ。言葉も満足に喋れないなんて、もう誰が見ても本物の赤ちゃんね。今の陽菜ちゃんは一人でご飯を食べる事も、一人でトイレに行く事も、一人で着替える事もできないの。生活の全てを私達に委ねるのは屈辱でしょ?」
「ばぶぅ……だぁだぁ……」
 私を愚弄しないで、私には大人の女性としての誇りがあります。私はそう言いたいのに、何度試しても舌が自由に動かない。私は、私は赤ちゃんじゃないのに。
 この状況を打破する方法を考える為、私は目を閉じて黙考しようとしたけど、目を瞑ると強烈な睡魔に襲われてしまう。何この感覚は?
「あらあら。陽菜ちゃんはもうおねむの時間なんでちゅね」
「ぶーぶ……だぁだぁだ……あ……あ……」
 赤ちゃん言葉で私を小馬鹿にする白衣の女に、私は必死に食って掛かる。でも睡魔は尚も増すばかり。こんな女に抱っこされたまま眠りたくないのに。もう私は──。
「無理しないで睡魔に身を任せて。今の陽菜ちゃんは1日14時間の睡眠が必要な、1日の半分以上を寝る事に費やす赤ちゃんなんだから。その体じゃ何もできないし、寝てる間にオムツを穿かせてあげるから、もうねんねしなさい。おっぱいとねんねを繰り返して、早く大きくなりまちょうね」
「だぁ……あ……」
 屈辱的な赤ちゃん言葉に反論する事も叶わず、私は白衣の女に頭を撫でられながら夢の世界に誘われてしまう。そう、本物の赤ちゃんと同じように穏やかな表情で──。

24青年A:2014/01/17(金) 09:24:47
お疲れ様です。
女性が無力になっていく過程や気持ちの変化などの表現があってとても面白いです。
次も楽しみなのでぜひ書いて欲しいです。
この続きになるのか、違う話になるのかはわかりませんが、気長に待ってます。
気が向いたら頑張ってくださいね。

25名無しなメルモ:2014/01/19(日) 02:35:18
お疲れ様です!
描写もアイデア豊富で、素晴らしいッス。

26藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/02/12(水) 01:46:35
>>24
青年Aさん、感想ありがとうございます。
一応、ファイル1はこれで終了です。次に更新するのはファイル2なので、視点と主役が変わる予定です。

27藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/02/12(水) 01:49:18
>>25
描写は色々イメージしながら書いたんですが、所々荒い部分もあるので、そう言って頂けると恐縮です。

28青年A:2014/02/12(水) 12:39:52
それはさらに楽しみになりました。
無理せずに頑張ってくださいね。

29藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/02/13(木) 00:33:15
>>28
励ましのお言葉、ありがとうございます。

30青年A:2014/02/28(金) 09:34:44
お疲れ様です。
今回は僕がへたくそながら小説を書いてみました。
これが少しでもライターの皆さんの励ましにつながればと思っています。
まだまだだなと思って読んでみてくださいね。
次回作を期待しています。

31青年A:2014/04/02(水) 22:11:58
お久しぶりです。
1ヶ月くらい更新がないため忙しいことと思います。
できたらでよろしいので、新作が読みたいです。
気長に待ちますね。

32けいこ:2014/04/13(日) 14:04:33
>はじめまして!楽しくみてま〜す!
>頑張って 最新が みたいわ・・よろしくね!

33藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/05/13(火) 01:03:14
>>31
青年Aさん、遅ればせながら、作品拝読しました。人形のアイデアが秀逸で面白かったです。

34藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/05/13(火) 01:04:23
>>32
けいこさん、感想ありがとうございます。

35<削除しました>:<削除しました>
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