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AR9038ワカガエリア

1藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2013/04/26(金) 01:31:57
「やっぱりコウコウのセイフクはぶかぶかだ……」
 眼前の姿見に映る私の姿は滑稽だ。
 丈の合わない制服のブラウスはさながらワンピースの様で、グリーンチェックのプリーツスカートはがばがばですぐに脱げ落ち、大人用の黒いショーツもサイズが合わずぶかぶかだ。先月まで着用していたブラもサイズが合わなくてずり落ち、革靴のサイズも全然合わない。
 今の私はもう“女子高生”ではなく、“小学一年生”の女子児童。頭の中では分かっているけど、鏡に映る自分の姿を見る度にやりきれない思いに駆られてしまう。私は本当は何でも一人で出来る年齢で、青春を謳歌しているはずだったのに──。

 事の始まりは一ヶ月前の持ち物検査まで遡る。
 当時の私は高校二年生で、人々の羨望の眼差しを集める生徒会の副会長だった。当然持ち物検査に引っ掛かる物は持ってきていないし、これまで頭髪検査や持ち物検査で叱責された事もない。だから、この日の検査も滞りなく終わるはずだった。そう、私の鞄からある物が出てこなければ。
 AR9038ワカガエリア。通称「快楽の檻」。
 私の鞄から出てきたのは、巷を席巻している恐るべき薬で、一粒飲むだけで極上の快楽が味わえると云う代物だ。でも、違法な薬だから当然リスクはある。この薬は依存性が強く、禁断症状が出る度に体や脳が若返り、最終的に赤ちゃんから受精卵に戻り消滅してしまうのだ。
 私は職員室に連れて行かれ、その後、駆け付けた警察官に逮捕されてしまう。
 この薬は社会を混乱させる非常に危険な代物で、その為、所持者や使用者は未成年でも隔離されて取り調べを受ける事になる。私はそこで無実だと主張したけど、私の尿からAR9038ワカガエリアの陽性反応が出て、時を同じくして捕まった密売グループが私の通っていた高校の生徒に売ったと証言し、私の罪状は決定的なものになってしまう。
 その後、私は家庭裁判所に送致され、そこで“減年齢十年”の判決が言い渡される。
 ──減年齢十年。この薬を体から抜くには特殊な処置が必要で、この処置をされた者はその過程で必然的に若返ってしまう。中毒者であればある程、若返る年齢は大きくなり、赤ちゃんまで戻さなければ薬が全部抜けない者もいる。私は中毒者ではないから十歳若返るだけで薬が抜けたけど、十歳若返るという事は六歳に戻るという事で。
 赤ちゃんや幼児に若返った者を、少年院や刑務所に収監するのは無理がある。その為、この薬の使用者は若返る事が刑罰になる。私は誰かに嵌められたと無実を主張し続けたけど、体から薬を抜かないと禁断症状で受精卵になるまで若返って消滅してしまうので、泣く泣く処置を受け入れて今に至るという訳だ──。

「せめてこの『タグ』がなければなあ……」
 私の左耳には、「AR5」と彫られた金属製の黒い耳環が付けられており、この耳環によって私は能力を制限されている。
 AR5の5とは五歳児という意味で、私と同じ刑罰を受けた者は皆一様にこの耳飾りを付ける事になっている。この耳飾りは、AR9038ワカガエリアから生まれた副産物を用いた技術で作られており、付けられた者の能力を低下させる。
 とどのつまり、AR5の耳飾りを付けた者は五歳児としての能力しか発揮できないのだ。
 私は頭の中では難しい事を考えられるけど、この耳飾りのせいで喋ると同年代の子供と同じ口調になってしまうし、頭の中では理解できても、実際に手や口を動かすと足し算でさえ難しいと感じてしまう。でもそれも無理からぬ事。私はこの耳環のせいで、幼稚園や保育園の“年長”と同じ能力しか発揮できないのだから。
 この耳飾りは毎年交換する事になり、体の年齢に合わせた能力しか発揮できない様に制限する事で、体と同年代の子供と馴染みやすくする為の処置だ。でもそれは表向きの理由で、実際は処置された者に羞恥心を抱かせる事で、自らの犯した罪の大きさを実感させる意図もあると思う。
 今の私の体は“六歳”だけど、私の耳にはAR6ではなくAR5が付けられている。これは未成年の私に罪の大きさを自覚させる為の処置で、私はこの忌々しい耳飾りのせいで、他の小学一年生より手が掛かる児童だ。私は本当は女子高生なのに。

38名無しなメルモ:2014/01/07(火) 02:50:07
>>紫色ずきん様
素晴らしい続編ありがとうございます!妄想が捗ります!
ひらがなを書く事で幼児と何時の間にか本気で張り合っている所に理緒の精神が徐々に肉体に引き寄せられ始めていると見て興奮が収まりません!
>>37
確かに3歳の幼児と6歳の女子児童には大きな違いがありますよね!
身長もそうですが、最大の違いは6歳くらいだとお腹は括れてはいないもののスッと真っ直ぐになっていますが、三歳児だと下腹がぷくっと出てしまってるんですよね〜
//i.imgur.com/wpLDhbX.jpg

39藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/09(木) 01:54:16
「今日は暑いので、これからプールに入ります。でもその前に、皆がこの半年でどれだけ大きくなったか測ります。それじゃあ皆、下着姿でここに並んでください」
「は〜い!」
 私は北村先生の言葉に凍り付く。
 着替えるってここで?
 更衣室はないの?
 身体測定は男女別じゃないの?
 私のそんなとりとめのない疑問なんて些末な事だと言うように、年長組の園児は嬉々とした表情で園服を脱ぎ捨てる。男の子はサスペンダー型のショートパンツを脱いでブリーフ姿に、女の子もサスペンダー型のスカートを脱いでショーツ姿に。

「いくぞ、レッドへんしん!」
「あ、ズルいぞ。じゃあ、オレはブルーにへんしんだ!」
 目の前の園児には、当然の事ながら恥も外聞もない。
 男の子は皆一様にヒーロー物が描かれた白いブリーフ姿で、戦隊物のヒーローになりきり、何だか訳の分からないポーズを決めている。小学一年生も子供だと思ったけど、授業中に変身ポーズを始める子はさすがに居なかった。たった一歳の差なのに、小学一年生と年長組はこんなに違うんだ。私はこの子達とは違う、私は十六歳なのに。
「理緒ちゃん、どうして着替えないの? あ、もしかして一人で着替えられないのかな?」
 右側で束ねた栗色の髪を初夏の日差しに照らしながら、北村先生は私に語り掛ける。他の園児に話し掛ける時と同じように膝を屈め、私の顔を笑顔で覗き込みながら。
「えーと。すずなせんせい、その……ここできがえないとダメなの?」
 北村先生、お手数をお掛けしますが、別室で着替えさせて下さい。私はそう言ったはずなのに、口にした言葉は幼児口調そのもの。高校生らしく敬語で丁寧に喋りたいのに、AR4のせいで園児らしいタメ口になってしまう。
「皆と一緒にお着替えした方が寂しくないでしょ? あ、そうか。理緒ちゃんはお気に入りのパンツを穿いてこなかったのかな?」
「ちっ、ちがうもん!」
 ちっ、違います。子供向けのショーツなんか、むしろ私は穿きたくないです。そう言いたいのに、口した途端に幼児口調に変換されてしまう。
「無理しなくていいんだよ、理緒ちゃん。理緒ちゃんは何のアニメが好きなの?」
「アニメ……?」
 脈絡のない北村先生の質問に、私は思わず聞き返す。
 そうか、北村先生は私が高校生だった事を知らないから、他の園児と同じように子供向けアニメを見ていると思ってるんだ。私は子供向けアニメなんか見てないのに。
 年長組の女の子は、皆一様に子供向けのアニメキャラクターや、絵本のキャラクターが描かれたパンツを穿いている。デザインも高校時代に私が穿いていた物とは違い、ゆったりとゴムが伸びていていかにも園児向け。どれもこれも高校生の私が穿くには、羞恥心と恥辱感を否応なしに刺激される代物だ。
「くっ……もう!」
 羞恥心のあまり茹で蛸のように顔を赤らめながら、私はサスペンダー型のスカートを脱ぎ始める。
「あれ?」
 でも、私は失念していた。今の私は、AR4のせいで四歳児相応の能力しか発揮できない事を。
 サスペンダー型の留め具が中々下ろせず、苛立ち紛れに勢いよく外してしまい、私は勢い余って尻餅を付いてしまう。お尻の痛みで溢れ出しそうになった涙を堪え、私はゆったりとした水色のスモックのボタンを外そうとしたけど、生地が硬くてボタンが外しにくく、最後の一つが外せなくて涙が溢れ出してしまう。
「うっ……ひっぐ……」
 涙が止まらない。嗚咽も止まらない。私は本当は高校生なのに、ボタンも全部外せないなんて惨め過ぎる。
「どうしたの、りおちゃん? したのボタンがはずせないの? うーん、ちょっとまってて」
「え?」
「はい、はずしおわったよ」
「あっ、ありがとう……」
 私の醜態を見るに見兼ねたのか、園児の一人が近付いてきて、私が上手く外せなかった下のボタンを外してくれた。数瞬、私は呆気にとられて呆然としていたけど、年長の園児に着替えを手伝ってもらった事実を前に、私は顔から火が出そうになった。私は本当は十六歳なのに、十一歳も年下の女の子に着替えを手伝ってもらうなんて。
 私の着替えを手伝った咲はご満悦のようだけど、私はただただ惨めで、苦虫を噛み潰したような表情で唇を噛み締めた。

40藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/09(木) 01:55:26
「はい、それでは年長組の測定の番です。一人ずつ順番に測るので、皆さん、ここに座って待っててくださいね」
「はい!」
 年長組の甲高い声が耳元に響く。
 今、私は年長組の園児と同じように座り、ファンシーなエプロンを身に着けた保育士さんの話に、静かに耳を傾けている。私の隣や後ろに居る園児は、皆一様に子供向けのパンツを穿いていて、私は眉根を寄せて自分の姿を確認する。
 先週まで私は、苺や果物が描かれた幼稚なジュニアショーツを穿かされていて、母さんと妹に憤慨していたけど、今の私はそれ以上に幼稚な下着を穿かされている。そう、他の園児と同じように。
 今朝、私が妹に穿かされたのは、子供向けのアニメキャラクターが描かれたパンツで、着替えやすいようにゴムの部分がゆったりした物だ。何で私がこんな物を穿かないといけないんだろう。高校生だった時は自分で下着を買いに行けたし、体育の着替えがない日は校則に縛られる事なく、大人向けのレースをあしらった際どい下着を穿く事もできたのに。私は、私の本当の体は──。
 この体になってから気が付いたけど、世の中にある物のデザインは、それを使う人の年齢や性別を意識している。例えば、中高生は大人向けのシックなデザインの下着も身に着けられるけど、小学生向けのジュニアショーツはファンシーなデザインが多い。園児向けのパンツはさらに羞恥心を刺激するもので、正直、私はこんなパンツを穿いた姿を誰にも見られたくなかったのに。

「凛くんは、身長111cmで、体重は18kgね」
「センチ? キログラム? すずなせんせい、それってスゲーのか? オレ、もうすぐヒーローになれるかな?」
「うん、ヒーローになれるよ。だから、ピーマンも玉葱も残さず食べようね」
「ちぇっ、すずなせんせいはよくみてるな……」
 短髪の似合う凛くんは、幼稚なブリーフ姿で北村先生の前で変身ポーズを披露する。
 年長組って曲がりなりにも保育園の最高学年なのに、私の想像以上に幼い。私が本当は高校二年生で、先週まで仮初めの小学一年生をしていたから、余計に年長組の幼さを感じるのかも知れない。私はこの子達の仲間だなんて思われたくない。cmやkgすら理解できない園児と同列に扱われるなんて屈辱だ。
 一人、また一人と身体測定は進む。
 座った姿勢で見る保育士さんは完全に巨人に見え、男女混合の身体測定を見るたびに現実感が薄くなる。何で私はこんな所に居るんだろう、と思ってしまう。
 年長組の男の子は、高校のクラスメイトだった男子と比べると皆一様に貧弱で頼りない。年長組の女の子も、高校のクラスメイトだった女子とは似ても似つかない。高校の女友達は皆一様にオシャレなブラを着用していたけど、私の目の前に居る年長組の女の子は、誰もブラなんてしていない。勿論、私も。
 改めて貧弱になった自分の胸を見ると、情けなさで涙がこぼれそうになる。今の私の胸は完全に真っ平らで、洗濯板のような胸は触ってもくすぐったいだけ。高校のクラスの中でも大きい方だった胸は、私の密かな自慢だったのに。

41藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/09(木) 01:56:26
「次、如月理緒ちゃん」
「はい……」
 私はおもむろに立ち上がり、茹で蛸のように顔を赤面させながら測定機械に向かう。
 私が本当の五歳児だったら、こんな風に羞恥心を抱く事はなかったと思う。でも、私は本当は高校二年生。保育士さんの目には、他の年長組と同じように映っていると思うけど、私には他人に裸体を見られて恥ずかしいと思う羞恥心がある。

 鏡に映る私は完全に園児だ。

 母さんに束ねてもらったツインテールの黒髪に、子供向けのアニメキャラクターが描かれた女児用のパンツ。上半身は他の園児と同じように裸で、私の真っ平らな胸は保育士さんにも男児にも見られている。胸を男性保育士や男児の前に晒されると言う事は、今の私に女としての魅力がないと言う事。私の胸、異性には見られた事なかったのに。
 クラスメイトの体型が気になるセンチメンタルな年齢の私は、大人の女性として全てを否定された気分になり、ただただ惨めだった。今頃、休み時間のクラスメイトは、彼氏の話や男性アイドルの話で盛り上がっていると思うのに、私は年長組に混じって身体測定。
 もう一度私が高校生に戻るためには、十一年の年月が必要になる。
 十一年──一年を十一回も繰り返す。来年再び小学校に入学し、そこで六年も我慢して中学校に入学し、さらにそこで三年も我慢する。高校生に戻るための道のりは正に苦難の連続で、私が高校生に戻った頃には妹は25歳、同級生は27歳だ。密かに思いを寄せていた男子はその頃には結婚しているかも知れない。切ないよ何もかも。

「理緒ちゃんは、身長115cm、体重は20kgね。理緒ちゃんは大きいね。このまま好き嫌いせずに一杯食べれば、もっとお姉さんになれるよ」
 北村先生は私の頭にメモリを合わせて身長を測り、間髪容れずに体重を測定する。北村先生は遠くから見ると華奢な体格に見えたのに、近くで見ると見上げるほど大きくてヘビー級の女子プロレスラーみたいだ。勿論、私の体が幼児化したからそう見えるだけ。
「えーと、センチ? キロ? それってどのくらいおおきいの? あたしはいつオトナになれるの? いつコーコーセーになれるの?」
 cmもkgも頭の中では分かっているはずなのに、冷静に自分の身長と体重を分析しようとした途端、頭の中が真っ白になってしまう。私は本当は高校二年生なんです。そう言いたいのに、それを口にする事すら叶わないなんて。
「あはは、高校生!? 理緒ちゃん、高校生のお姉さんになるのはまだまだ先の事なんだよ」
「ちょっと、佐野先生、そんなに笑ったら理緒ちゃんが可哀想でしょ。えーとね、理緒ちゃんが来年入学するのは小学校って所なの。そこでお勉強を終えると次は中学校って所に通うの。高校生のお姉さんになるにはね、保育園と小学校と中学校を卒業しなきゃダメなんだよ? 分かった理緒ちゃん? 高校生って言うのはとってもお兄さん、お姉さんなんだよ」
 北村先生はお腹を抱えて笑う佐野先生を諫め、膝を屈めて私に目線を合わせ、聞き分けのない幼児に語り掛けるように優しく私を諭す。
「あたしはコーコーセーになるの! いますぐコーコーセーになるの!」
 私は本当は高校二年生なんです。北村先生、信じてください。私に力を貸してください。私はそう言いたいのに、AR4のせいで言葉が変換されて体も勝手に地団駄を踏み、泣きながら駄々をこねる幼児そのものになってしまう。
「こら、理緒ちゃん。来年小学校に入学するのに、それじゃあ笑われちゃうよ。理緒ちゃんは年長組なの。年中組や、年少組のお手本になるお姉さんなんだよ」
 北村先生に両肩を掴まれて再び諭され、私は天を仰いでその場に立ち尽くした。

42藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/09(木) 01:59:02
>>33
すみません、それほど壮大な話にはなりません。

43藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/09(木) 02:00:06
>>34
感想ありがとうございますm(__)m

44藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/09(木) 02:03:11
>>35
もう書いてしまった後でそう言われても、私も困惑してしまいます。
具体的で面白いアイデアやアドバイスがあるなら、先に細かく書いて欲しかったです。

45藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/09(木) 02:06:18
>>36
私もこっちの展開の方が好きなんですが、色々とままなりませんね。
全ての若返り急成長ファンを喜ばせるのは、私には無理そうです。

46藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/09(木) 02:09:13
>>37
うーん、その展開にしてしまうと、完全に風呂敷を畳めなくなるので、三歳や赤ちゃんに戻すネタは『大人の分娩室』にご期待頂ければ幸いです。

47藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/09(木) 02:11:51
>>38
肉体描写は色々と難しいですね。
余談ですが、精神や心の退行ネタはまだまだ続きます。

48藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/09(木) 02:22:41
>>38
この絵は38さんが書いたのですか?
表になってて見やすいです。綺麗な絵ですね。

49名無しなメルモ:2014/01/09(木) 08:11:03
今回も素敵な展開で
続きが楽しみです。
ありがとうございます!

50藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/09(木) 20:39:46
「それでは、これから水着に着替えます」
「やったー!」
 年長組の園児はプールで遊べる事に歓声を上げているけど、私は上の空だ。
「はあ……」
 朝、母さんから手渡された水着を見やり、私は深く嘆息する。
 暖色系のワンピースタイプの水着は、下半身の所にふんだんにフリルがあしらってあり、色とりどりの模様が描かれている。高校生はこんな幼い水着は着ないし、私も着たくない。でも園児が着る水着は押し並べてこんなデザインで、中高生が着る用なツーピースタイプの水着はぶかぶかで着れないから、私は観念してこれを着るしかない。
「ほら、ゾウさんだぞ!」
「やだー、ソウマくんったら」
 目の前の光景に私は目が点になる。
 男女一緒の部屋で着替えさせられるだけでも恥ずかしいのに、相馬とやらは、女児の前でアソコを丸出しにして見せびらかしている。小さな相馬のゾウさんを見せられた咲も、ケラケラとお腹を抱えて笑うだけ。高校生男子だったら確実に露出狂として捕まる行為なのに、誰も男児を強く叱責しない。ここは無法地帯すぎる。
 改めて周囲を見渡してみると、タオルを巻かないですっぽんぽんで着替えている園児は多い。仮にも保育園の最高学年の年長組ですらこの有り様。こういう言い方をしたら語弊があると思うけど、ここは正に動物園だ。この年頃の子供は本能のままに生きてるから、言葉や行動の威力は計り知れない。
「こら、相馬くん。アソコを丸出しにしちゃダメでしょ」
 北村鈴菜先生は膝を屈めて相馬に目線を合わせ、寒色系の水着を着るように促す。
「えー。でも、このまえママとおんなゆにはいったときも、なんにもいわれなかったぜ」
「ママとおふろ!? おんなゆ!?」
 相馬の言葉に私はすっとんきょうな声を上げてしまう。
 冷静に考えたら相馬は五歳だし、女湯に入っても何ら咎められる年齢ではないけど、本当は女子高生の私は、その言葉の重さにカルチャーショックを受ける。異性のお風呂に入れると言う事は、異性から恋愛対象として見られない事と同意義だ。相馬の小ゾウはまだ毛も生えてないから、用を足す以外に使い道はないし、彼自身もそれ以外の用途は知らないはず。
「なんだよ、リオ。オマエはひとりでおふろにはいれるのか?」
「う……それは……」
 相馬の質問に私は押し黙る。
 高校生だった時は当然の事ながら一人で入っていたけど、幼児化した今は、恥ずかしながら私は母さんや妹とお風呂に入っている。本当はこんな体を母さんや妹に見られたくないけど、私はAR4のせいで不器用になっているから、シャワーを上手に扱えないし、シャンプーが目に入ってしまうから一人で洗髪もできない。おまけに我が家の浴槽は少し深いから、母さんや妹に手伝ってもらわないと湯船に入るのも難しい。
「ほら、リオだってパパやママとおふろにはいってるんだろ!」
「パパ!? あたしはパパとおふろになんてはいらない! あたしはもうすぐコーコーセーになるの! オトナになるの!」
 父さん!? 高校生の私が父親とお風呂に入る訳ないでしょ! 私は本当は高校生なの、いずれ元の高校に戻るの! 私は子供じゃないの! 私はそう言いたいのに、AR4のせいで幼児口調に変換されてしまい、激昂した事と相まって、傍目から見たら癇癪を起こした幼児そのものだ。
 今の自分が、父親と一緒にお風呂に入れる年齢だなんて認めたくなかった。父親とお風呂に入れる年齢と言う事は、男湯に入れる年齢と言う事。とどのつまり、今の私は、異性の目に映っても何とも思われないお子様だと言う事。十六年間、ひたすら真面目に生きてきて、やっと大人の女性としての階段を上り始めたばかりなのに、五歳からやり直しだなんて認められるはずがない。
「なにがコーコーセーだよ、オレたちが、らいねんいくのはショーガッコーなんだよ。リオ、そんなこともしらないのか? そんなんだから、まだ“ひらがな”がぜんぶおぼえられないんだぜ」
 私に見せびらかすように子ゾウをぶらぶらさせながら、相馬は私を小馬鹿にする。私が気にしているひらがなの事を嘲笑うなんて、絶対に許せない。お子様の癖に、お子様の癖に、お子様の癖に!
「あやまれ! あたしはもうすぐコーコーセーになるの! オトナのおねえさんになるの!」
 謝罪して! 私は本当は高校生なの! 君達のような園児とは違うの! 私はそう反駁したいのに、体は癇癪を起こした幼児と同じように地団駄を踏み、口調は幼児口調に早変わり。

51藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/09(木) 20:40:49
「こら、相馬くん。理緒ちゃんをからかっちゃ駄目でしょ。理緒ちゃんもドラマの見すぎだよ。高校生のお姉さんはね、そんな駄々ばかり言ったりしないんだよ。高校生のお姉さんに憧れてるなら、早く水着に着替えようね。ほら、お姉さんならできるよね?」
 北村先生は私に目線を合わせてそっと抱きしめ、幼児に語り掛ける口調でゆっくりと私を諭す。森の動物やお菓子が描かれた北村先生のエプロンは、在りし日の郷愁を思い起こさせる懐かしい匂いがして、私は無意識の内に先生の胸に顔を埋めていた。
「なんだよ、リオ。やっぱりオマエ、あまえんぼうじゃん。ホントはパパとおふろにはいってんだろ」
「うっ……ひっくひっく……あたしはこどもじゃないもん!」
 私は再び相馬に掴み掛かろうとする。
 私は本当は女子高生なんだから、年長組相手に向きになるなんて可笑しいのに、以前のように感情をコントロールする事ができず、私はしゃくり上げながら相馬を怒鳴る。高校生としての私はそれを滑稽だと思っているのに、感情が暴走して体が勝手に動いてしまう。もしかして私は、心まで本当の幼児に近付いてるのだろうか。年長組の園児相手に本気で張り合うなんて。
「こら、相馬くん。いい加減にしなさい! 理緒ちゃんも早く着替えて。お姉さんだったら、一人でお着替えできるよね?」
 私に目線を合わせた北村先生は、私を試すようにそう語り掛ける。
「アタリマエよ。あたしはオトナだから、ひとりできがえられるもん!」
 私は、身に着けていた女児用のパンツを恥も外聞もなく脱ぎ捨て、真っ裸になって水着を着ようとする。
 先程までは、保育士さんや園児に裸を見られるのが恥ずかしかったのに、今は不思議と羞恥心が湧かず、私は真っ平らの胸とツルツルの下腹部を堂々と北村先生や相馬に見せる。真っ裸になっても全然恥ずかしくないなんて、不思議な気分。得も言われぬ高揚感が心に去来し続け、左耳に付けられたAR4がほのかに熱を帯び、何だか頭がぼうっとする。
「リオ、オレみたいにゾウさんがついてないんだな。ダセー」
「なにをー!」
 私は向きになって真っ裸で相馬を追い掛け回す。
 十六歳の女子高生が真っ裸で年長組を追い掛けるなんて、顔から火が出るほど恥ずかしい事なのに、今は全く恥ずかしくない。私は完全に年長組の女児になりきり、平らな胸とツルツルの下腹部を晒し、すっぽんぽんのまま相馬を追い掛ける。
 一糸纏わぬ姿で走るのは意外と楽しい。元の体だったら裸体で走るなんてできないし、それをしたら露出狂や痴女だと思われてしまうけど、この体なら平気。園児になりきっている間は、幼児化した惨めな自分と向き合わなくていいんだ。だったら、私はこのまま心も本当の園児になりたい。
 そんな私の現実逃避と呼応するように、髪に隠れた左耳のAR4は淡い光を放つ。そのたびに心から何かが吸われていく感じがしたけど、その感覚は筆舌に尽くしがたいほど気持ちよくて、ビターチョコと砂糖をない交ぜにしてるようで、私はAR4に身を任せてしまう。

52藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/09(木) 20:42:16
「こら、理緒ちゃん。女の子が真っ裸で走り回っちゃダメでしょ。咲ちゃんや心音ちゃんを見習いなさい。二人とも、もうお着替えが終わってるでしょ? まだ着替えてないのは相馬くんと理緒ちゃんだけだよ」
 北村先生は後ろから手を回し、私の体を軽々と持ち上げる。
「うぅ……だってソウマが、ソウマが!」
 すっぽんぽんのまま北村先生に抱き抱えられ、私は膨れっ面でそっぽを向いてしまう。
 着替えてないのは私と相馬だけ。他の年長組に負けた事は私のプライドを刺激し、私は無我夢中で水着に着替えようとする。でも、焦っているせいで中々水着に足を通す事ができず、何度か転びそうになってしまったけど、何とかかんとか一人で水着に着替える事ができた。
「おい、リオ。オマエうしろとまえがぎゃくだぞ。ひとりで、みずぎにきがえられないなんて、リオはおこさまだな〜」
「え?」
 相馬の指摘通り、私は水着の前と後ろが逆になっている。
 私は急いで水着を脱ごうとしたけど、水着は園服以上に脱ぎにくくて、密着した肩と背中の部分が外せなくて悪戦苦闘してしまう。高校生だった時はこんなに着替えに手間取らなかったのに。
「ほら、理緒ちゃん。じっとしてて。先生が脱がしてあげるから」
「うん……」
 北村先生は手早く私の水着を脱がせる。
 洗濯板のように真っ平らな胸元、短くて丸い手足、くびれのないウエスト、丸みのない薄いヒップ、そして毛なんて一本も生えていない下腹部。
 大人の女性としての魅力を全て失った体を、大人の女性の北村先生に見られる事は、高校生としてはこの上なく恥ずかしい事なのに、今の私は顔を赤らめる事なく堂々としている。不思議と羞恥心が湧かない。まるで大人の女性としての恥じらいが全て消えてしまったみたい。何だか心の重荷が消えたようで、心が羽のように軽い。
「すずなせんせい、リオのきがえてつだって!」
 先程まで、私の一人称は“あたし”と変換されていたはずなのに、私は自然と自分の事を“リオ”と名前で呼んでいた。他の園児と同じように無邪気に、そして子供っぽく。
「仕方ないなあ。もう時間もないし、今日だけだよ理緒ちゃん。理緒ちゃんは来年小学校に入学するんだから、これからはもっと上手にお着替えしようね」
「はーい!」
 私は満面の笑みで元気よく返事をする。
 年長組の園児が見てる前で、保育士さんに着替えを手伝ってもらうなんて、以前の私だったら断固として拒否したのに、今の私は、北村先生に甘えられるのが嬉しくて仕方がない。大人としての心がAR4に吸われているって薄々気が付いてるのに、私はこのままでいいと思ってしまう。羞恥心だけじゃなくて、大人としての感情を全てAR4に吸ってもらおう。
 不思議の国のように広く見える園内、動物の絵が貼られた壁、ひらがなで書かれた壁の文字、高くて大きな窓、子供用の安全柵、園児向けのファンシーなおもちゃや絵本、部屋の後ろに貼られた無邪気な花の絵、ボードに書かれたカラフルなひらがなの注意書き、巨人のように見える保育士さん。
 あんなに恥ずかしかった保育園が、今は何だか楽しい。早く保育園のプールで泳ぎたい。高校生としての私は、心の奥底で正気に戻ってと叫んでいるのに、私は高校生としての自分の感情に耳を塞ぐ。どうせ元に戻れないんなら、心も幼児に戻ってしまえばいい。そうすれば、もう恥ずかしい思いなんてしなくていい。そう、私は身も心も本当の園児に──。

53藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/10(金) 00:56:49
>>49
感想ありがとうございます。
そう言って頂けるとモチベーションも上がります。

54名無しなメルモ:2014/01/10(金) 09:58:01
おおお、キレイにまとまってオチがついてる。
矯正成功ですね!
保育園送りにした先生は仕事が出来る方だったという事にw
退行しても元の自我が、ちゃんと残ってるのが萌えッス。

55名無しなメルモ:2014/01/10(金) 12:57:27
そろそろ、受精卵に戻ってしまう女性達と、受精卵がどの様な扱いを受けるのかを、見てみたいと思います。
再び細胞分裂から人生をやり直すのか、それとも、受精卵の姿のまま、保存容器の中で眠り続けるのか…

5633:2014/01/10(金) 20:34:43
AR4が大人としての理緒を吸い続ける展開が楽しめました!
年長組の他の園児より手のかかる幼児と化し馴染んでいく理緒…
今後がより気になります。良作ありがとうございます。

ちなみに元に戻れないまま成長して高校生になっても元の優等生にはなれないのだろうか?

57藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/11(土) 01:55:36
>>54
感想ありがとうございます。
今回はオチが付いてますが、もう何話か続きます。
ですがもうクライマックスに入ってるので、最後は理緒を嵌めた犯人をネタばらしして終わる予定です。

58藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/11(土) 02:02:00
>>55
受精卵?
何の事か分からなかったので、慌てて最初の部分を読み返しました。はい、確かにそんな設定を書いてますね。
ですがこれはあくまで設定上の話なので、本編で書く予定はないです。ご期待に添えなくて申し訳ないのですが、受精卵の話を書いても私が楽しめないので。
私はあくまで若返りネタが好きなので、受精卵の話をどう書いていいか分からないのです。

59藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/11(土) 02:07:39
>>56
本当はラストシーンのネタバレはしたかないのですが、ラストシーンで十年後の理緒を書く予定です。勿論、最初の優等生とは掛け離れた姿で。
十年後の理緒達はどうなってるのか、数話後の最終話までお待ちいただければ幸いです。

60藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/01/11(土) 02:09:44
>>59
打ち間違えました。
ネタバレはしたかないのですが、
ネタバレはしたくないのですが、
です。

61名無しなメルモ:2014/01/11(土) 10:40:58
> 勿論、最初の優等生とは掛け離れた姿で
喪失シチュが好きなので、この一文だけでとても興奮できました。
どのような結末が来るのか、楽しみにしています。

6233:2014/01/20(月) 00:34:36
ラストシーンのネタバレすみません…
でも優等生と掛け離れてしまう十年後の理緒がどんな姿・立場になってしまうのかとても楽しみ
にお待ちしております。果たして冒頭で着ていた元の制服は着られるのだろうか?

63名無しなメルモ:2014/01/20(月) 20:15:14
(o^^o)楽しみだー。
外野の意見なんて無視して
藤色ずきん先生の世界観で貫いてやってくださいませ!!

64藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/02/12(水) 01:57:35
>>62
一応、ギャルっぽくなる予定です。
ただ若返りや急成長とは関係ない話なので、あくまで後日談程度の小話ですよ。確か、この掲示板は若返りや急成長要素の低い話は非該当なので。

65藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/02/12(水) 02:01:03
>>63
励ましの言葉、ありがとうございます。
過度なリクエストに目を通していると頭が痛くなるので、書きたいアイデアだけ受け取ってマイペースに書きます。
なので私がリクエストをスルーしたら、そのネタは書けないとご理解頂けましたら幸いです。

6633:2014/03/01(土) 11:00:57
>>64
遅くなりましたが…
ギャルっぽくなるラストは私も期待していた所です。
本来は年上かつ優等生だった理緒が本来ずっと年下だった子より堕落して劣等生になる…
後日談程度でもそんな描写があると再成長による屈辱が際立って良いと思いました。

マイペースでも描きたいものを最後まで楽しみにしております。

67名無しなメルモ:2014/03/24(月) 19:12:06
続きまだかなぁー!?

68名無しなメルモ:2014/04/01(火) 08:33:02
面白いのに、なかなか次が読めないのが残念だなぁ(> <)

69名無しな初心者:2014/04/01(火) 16:08:51
AR系統の作品だとこういう風に勉強も最初からやり直す話がよくありますが、
私だったら最初から勉強やり直せるならやり直したいですね。
特に数学が苦手で、今そのことをとても痛感しているので……

70藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/05/13(火) 00:05:52
 ──バスルームの電子パネルが故障した。
 この夏日和にお風呂に入れるかどうかの一大事なのに、母さんと沙良は私を蚊帳の外に置き、先程から熱心にリビングで話を続けている。私だってバスルームが直るのか気になるのに。

「ママ、サラ。おふろはどうなったのぉ? なおる〜?」
 母さん、沙良。バスルームの調子はどう? 修理業者には電話したの? 今日中に直りそう? 私はそう言ったはずなのに、左耳に付けられたAR4のせいで、四歳児みたいな空気の読めない舌足らずな口調になってしまう。
「こら、理緒。私の事は“サラおねえちゃん”って呼びなさい。何度言ったら分かるの!?」
 セーラー服姿の沙良は、私を見下ろして威圧しながら声を荒らげる。怖い。今の私は沙良のお腹程度の身長しかないから、怒った妹が巨人族の女に見える。
「ごっ、ごめんなさい……サッ、サラおねえちゃん……」
 私は赤面しながら、妹の沙良の事をお姉ちゃんと呼んだ。
 妹の沙良は中学二年生。そして今の私は保育園の年長組。体格や筋力の差は一目瞭然だ。この幼児化した体では、どう足掻いたって中学生の妹には勝てない。見上げるほど大きな沙良は、今の私には気難しいお姉さんに見えた。
「沙良、理緒はまだ保育園の年長組なんだから、そんなにムキにならないで。もう沙良の方がお姉さんなんだから。さあ、理緒。今、大事な話し合いをしてるから、向こうでアニメでも見てなさい」
 母さんは膝を曲げて私に目線を合わせ、穏やかな口調で私の頭を撫でた。一見すると、沙良より母さんの方が優しいけれど、今の私には母さんの言葉の方が残酷だった。
 ──“保育園の年長組”。
 母さんはもう私を高校生の長女として扱ってくれない。この家の新しい長女は沙良。そして私は次女の理緒。母さんはそう割り切っているのだ。
 娘がAR9038ワカガエリアを所持して捕まっただけでもショックなのに、その上、小学一年生に若返り、さらに素行不良で保育園の年長組に落第するなんて、到底受け入れられるはずがない。だから母さんは、高校生だった私の事を思い出さないようにしている。受け入れがたい現実から目を逸らすために。
「ほら、理緒。あんたが好きな『マジカルるんるん3』が始まったよ」
 沙良は口元に手を当ててクスクスと笑いながら、テレビの方を指し示した。

 幼児向けアニメが始まると、私はテレビ画面に釘付けになってしまう。
 幼児化する前は、この時間にニュースを見ながら新聞を読んでいたけど、今の私は別のチャンネルで幼児向けアニメを見ている。その落差にやるせない気持ちに駆られてしまう。でも、AR4のせいでニュースや新聞はちんぷんかんぷん。これさえなければ、大人らしい口調で話せるのに。
 この間まで高校二年生だった私が、幼児向けアニメを食い入るように見るなんて恥ずかしかったけれど、オープニングが始まると胸が高鳴るのを抑えられなかった。どんなに抵抗しようとしても、AR4が淡い輝きを放って私の羞恥心を吸ってしまい、私の心はどんどん幼児化してしまう。
『マジカルるんるん3』の主役の女の子達は、妹の沙良と同じ中学二年生。この体になる前は、中学生の事を子供っぽいって思っていたのに、今の私には彼女達が大人びて見えた。
 目の前のアニメに出てくる女の子は、今の私と違って手足がすらっとしててスタイルがいい。着ている制服も大人っぽくて、私が身に着けている園服が酷く幼稚なものに思えてくる。本当は私だって高校の制服を着て、青春を謳歌しているはずだったのに。
 物語りの中盤で恋ばなの話が出てくると、私はマジカルるんるんを直視する事ができなかった。今の私は恋愛なんかできない。私の新しい同級生は、恋も愛も分からない園児だから。
 しばらくの間、私は言い様のない郷愁に打ちひしがれていたけど、AR4は私がそんなセンチメンタルな感情を抱く事さえ許さず、淡い熱を帯びながら思春期の少女としての心を吸い続ける。
 何だか頭がぼうっとする。気が付くと私は、
「マジカルるんるんメイクモードぉ♪」と声を上げながら、無意識の内に変身ポーズを決めていた。そう、昼間子供っぽいと笑った園児と同じように。
 沙良はそんな私を見て、「お子様は呑気ねえ」とお腹を抱えて笑っていた。

71藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/05/13(火) 00:07:15
「ちょっとまって、セントーにいくまえに、リオ、きがえたいの!」
 この格好でスーパー銭湯に行くのは抵抗があるから、私服に着がえていい? 私はそう言いたいのに、AR4のせいで自動的に幼児口調に変換され、玄関先で駄々を言う幼児そのものになってしまう。
「理緒、私だって中学の制服のままなんだから、あんまり我が儘言わないで」
「イヤー! リオ、おきにいりのふくじゃなきゃイヤなの!」
 この園服を他の人に見られるのが嫌なの。お願いだから察して。私は沙良にそう伝えたいのに、AR4に邪魔されて複雑な説明ができず、癇癪を起こした子供みたいになっていた。
「ったく、だから小さい子供は嫌いなの! 理緒、あんたこの間まで高校二年生だったのに、そんなに我が儘ばかり言って恥ずかしくないの!? 少しは小学校のお兄さんとお姉さんを見習いなさい。あんた、来年もう一回小学校に入学するんでしょ」
「くっ……」
 見習え? 何で私が小学一年生なんか見習わなきゃなんないの。私の方がずっと年上なのに。私は子供じゃないのに。
「サラ、ふざけないでぇ!」
 私は舌足らずな口調で声を張り上げ、妹の脚を思いっきり蹴った。脛は敏感だからさすがに痛いらしく、沙良は蹴られた場所を軽く押さえている。その様子に私が笑みを浮かべた瞬間、
「こら、理緒。何であんたは次々と面倒ばかり起こすの!」
「マッ、ママ……」
 怒りの色を帯びた声に反応して慌てて振り返ると、母さんが鬼気迫る形相で私を見下ろしていた。
 母さんは私を軽々と持ち上げて太ももに乗せ、園服のスカート捲り上げて下着を下ろした。まさかこの体勢は──。
 私がそう思った瞬間、お尻に鈍い痛みが走った。
「いっ、いたい! ママ、いたいよ……。ごめんなさい!」
「駄目。理緒はお尻ペンペンしないと分からないでしょ」
 母さんは、私を怪我させない絶妙な力加減で、お尻をペンペンと叩く。私は涙ながらに抵抗したけれど、幼児の腕力じゃ母さんには手も足も出ず、沙良の前で丸出しにしたお尻を何回も叩かれた。妹に丸出しにしたお尻を見られているだけでも、恥ずかしくて堪らないのに、あまつさえ母さんにお尻ペンペンされる姿を見られるなんて。沙良はそんな私を一瞥し、勝ち誇ったように笑みを浮かべていた。

「来年から理緒は、もう一回ランドセルを背負って小学校に行くんでしょ? ひらがな、カタカナ、あとちょっとだけ漢字。それから算数の足し算と引き算。あとはお歌とかお遊戯とか。一杯お勉強するんだよね〜」
 スーパー銭湯への道すがら、沙良は私を見下ろしながらそう語った。
 一見すると手を繋いだ仲睦まじい姉妹が歩いてるように見えるけど、沙良は私が高校生だった事を知っているし、小学校から落第して保育園送りになった事も知っている。それなのに傷口に塩を塗るような事を言うなんて。私の事を馬鹿にしているんだ。これから何年も、私は沙良に腕力で勝てないから。
「ふん、バカにしないでよぉ。リオ、もうオトナなんだから!」
 あまり愚弄しないで。私の方が本当は年上なんだから。そう言いたいけど、やっぱり幼児口調に変換されてしまう。
「へえ、理緒は大人なんだ。じゃあ5+6はいくつか分かるかな?」
「そんなの……」
 そんなの11に決まっている。答えはすぐに出たのに、口に出そうとするとAR4のせいで頭が真っ白になってしまう。私は妹に見下されるのが悔しくて、両手を使って必死に計算したけど、答えられずに言葉に詰まってしまう。駄目だ。AR4のせいで四歳児相応の能力しか発揮できないから、これを外さなきゃ足し算に答えられないんだ。
「えーと、9……」
 一か八か口にした答えを聞いた瞬間、沙良は目元に笑みを浮かべた。そう、私を見下すような冷たい笑みを。
「ふふっ、答えは11だよ。園児の理緒にはまだ難しかったみたいね。でも、これで分かったでしょ。小学校一年生の方が、あんたよりお兄さん、お姉さんだって」
 沙良は波打つ黒髪を指先で整えながら、したり顔で私に話す。
 セーラー服姿で大人びた顔立ちの妹。
 園服を身に着けた子供っぽい顔の私。
 私の左胸には、「ももぐみ きさらぎりお」と書かれた桃型の名札がぶら下がっているし、園服のスカートも子供っぽいサスペンダー型。中学のセーラー服や校章とは何もかもが違う。私と沙良の格好の違いは、そのまま二人の距離の違いに感じた。

72藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/05/13(火) 00:13:14
67>>
遅ればせながら、続きを書きました。

73藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/05/13(火) 00:14:44
>>67
ごめんなさい、アンカー付けるのミスりました。

74藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/05/13(火) 00:15:30
>>67
ごめんなさい、アンカー付けるのミスりました。

75藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/05/13(火) 00:17:22
>>68
ありがとうございます。スローペースで申し訳ないです。

76藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/05/13(火) 00:20:28
>>69
名無しな初心者さん、感想ありがとうございます。私も文系で理数系が苦手なので、そう思う時があります。

7733:2014/05/15(木) 17:00:30
更新乙です。今回も良い展開でした。
妹に敵わず反論しようとも思うように出来ないもどかしさ…
家族内の立場も完全に園児扱いで”小学生を見習え”
と言われる屈辱…AR4に思春期の感情を吸われてアニメに夢中に
なってしまう所も良かったです。
優等生がかつてとは正反対に育て直されてて面白いです。
また理緒の過去の経歴は全く無い事にされてるのか?
とかARが理緒にもたらす今後の影響がどんなものかなど
気になりますが…マイペースでお続け頂ければと思います。

78名無しなメルモ:2014/05/15(木) 17:44:16
マジで萌えます、最高ッスよ。
このシチュエーションの言葉攻めは替えが利かないよ。
続き楽しみにしてます!

7933:2014/06/06(金) 13:07:59
更新終了・削除
非常に残念ですが致し方ない事かと思います。
藤色ずきんさん今まで面白い作品をありがとうございました。
投稿できるかわかりませんが同作のその後的なものは考えてみたいと思います。

80藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/06/11(水) 00:31:07
>>79
ありがとうございます。陰ながら応援しています。

8133:2014/06/15(日) 00:52:27
>>80
伊織や分娩室も若返りにより能力を失う屈辱の旨みがよく出てる作品だと改めて思いました。
今はただゆっくりして頂ければと思います…
そして出来の悪い幼児になってしまうワカガエリア大好きでした。
最後のわがままに…
藤色ずきんが想定していた本作クライマックスのあらすじだけでもお教えいただけないでしょうか?

82藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/06/18(水) 01:00:53
>>81
クライマックスのあらすじは、理緒が県内一の不良高校に進学する、的な感じです。ちなみにタグのせいで小、中学校でも劣等生扱いになる予定でした。努力しても良い成績にならず、中学入学前に不良仲間とつるむって感じです。もっと詳しく説明したいのですが、詳細な書き込みをする気力がないので、これで終わりにします。この先、何か質問されても返信できない可能性が高いです。
最後に謝辞を。
今まで拙作をご一読いただきまして、本当にありがとうございました。

8333:2014/06/20(金) 06:09:22
>>82
わがままにお応えいただきありがとうございます。
小、中学校でも劣等生扱いされて県内一の不良高校に進学するという部分が聞けただけでも本当に良かったです。

84名無しなメルモ:2014/06/29(日) 15:02:05
結局、理緒を嵌めた?のは誰だったんだろう...

85藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/07/12(土) 01:08:34
>>妹です……。

86藤色ずきん ◆dBQtRqra3s:2014/07/12(土) 01:09:22
>>84
妹です……。

87名無しなメルモ:2014/07/18(金) 00:50:13
>>86
わざわざ返信していただきありがとうございました。
そうか...妹が嵌めたのか...
優秀な姉に嫉妬したか...


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