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魔女と一緒
1
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/12/27(火) 06:32:04
序章 ――はじまり――
俺はこの日、『魔女』を生け捕りにする依頼を受けて、うっそうと茂る、深い森の中を歩いていた。
ガサガサと、茂みやら細い枝やらを掻き分け、不安定な足場を気にしながらも、魔物や動物が襲い掛かるかもしれない事を警戒しながら歩くのは、中々に神経を使う。
「……チッ、にしても、気が向かねぇな」
一旦足を止め、自分の茶髪の頭を乱暴にガシガシと掻き毟った。
ここで少し、俺の今の現状について説明しておこう。
俺の名はガンツ。今年で28になる冒険者の男だ。
冒険者っつーのは、ダンジョンとかで宝を漁ったり、村や町を襲う魔物だの退治したり、行商人の護衛なんかして金を貰ったり……まぁ、傭兵とか何でも屋で、ついでに宝探ししてたりする荒くれ共だな。
んで、俺は今回、この森の魔女を生け捕りにして、報奨金を得ようとやってきたってワケだ。
それが何で気乗りしないのかと言えば、人間相手である事と、相手が悪人であるとは限らない事だ。
何故悪人でもない魔女を捕らえる事で金が入るのかって思うかもしんねぇな。
簡単にいや、他の大多数が知らない魔法を知っているからだ。
昔、戦争だの魔物退治だのに魔法を使って、攻撃魔法だの回復魔法だの、戦いに役立つ魔法だけを習得した魔法使いを大量に育成されたんだが、それ以外の――たとえば、箒で空を飛んだり、服を出したり、カボチャを馬車にしたり――色々な魔法は、戦争から逃げたり、戦いに利用されたくなくてどっか行った魔法使いとかにしか伝わっていない。
そういう魔法を聞き出すために、『魔女を生け捕りにしろ』なんて依頼が出てくる。報酬も大抵いい金になる。
ああ、ちなみに、こっから先、大多数の、一般の魔法使いを『魔術師』、一般には知れ渡ってない、秘密で不思議な魔法の使い手を『魔法使い』って書くからな。魔女ってのは、女の『魔法使い』だ。
まぁともあれ、その魔法使いを捕らえるのが今回の俺の仕事だ。正直、山賊かゴブリン辺りでも相手にしていた方が気が楽なんだが……そんな都合のいい依頼は今回見つからなかった。
装備を売るワケにもいかねぇし、相手によっては剣が鈍るなんざ、三流だから別にいいんだが、な。
そうこう説明してる内に、森の中、ポツンと建っているちっちぇえ家を見つけた。
こんな所に普通の人が住んでるとは思えない、多分、魔法使いの家だ。煙突からは怪しい緑色の煙が噴き出してて、人がいる事も、魔法使いがいる確率を高めている様に見えるな。
俺は自分の装備の確認を開始した。
鍛え上げた長身の肉体の、致命傷になりやすい胴部のみを覆う鋼鉄の鎧に、140cm程の長さの、無理すりゃ片手でも使える長さの両刃の剣。
そして腰に挿した、サバイバルや調理用も兼ねたダガーに、今回は捕縛用にロープも腰のポーチに入れておくか。
機動力と防御力、両方の兼ね合いで選んだいつもの装備だ。
俺は片手に剣を握り締めれば、一気に森の家へと駆け出した。
2
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/12/27(火) 06:32:45
家の扉を思いっきり蹴っ飛ばし、素早く中に侵入を果たせば、中を見渡して目当ての『魔女』を探す。
荒っぽい侵入は、相手への威嚇をこめて、だ。俺は盗賊的な技能を持っちゃいねぇし、魔法も使えねぇ。なら、派手に登場してビビらせた方がイイ。
見えたのは、怪しげな大釜で、何かグツグツと火にくべながら、中身をかき回している女――否、少女だ。
予想通り、驚いた顔で、体を捻って、入り口から入ってきたこちらを見ている。
俺は真っ直ぐに突き進み、動けないでいるソイツの眼前に、切っ先を突きつける。
「動くんじゃねぇ! 怪しい真似すりゃ、その首掻っ切るぞ!!」
鬼の形相で睨み、牽制しながらも、俺はその『魔女』を観察する。
エプロンに三角巾という、まるで料理するみたいな格好をした、金髪の背の低い……15くらいか? の少女。驚きと恐怖のせいか、声も出てねぇ。
老婆でもなきゃ、黒いローブを着ているワケでもねぇ。
俺は若干戸惑ったが、それを表に出さない様に努めた。
「魔女、だな? 大人しく、付いて来て貰うぜ」
驚いて、こっちに向き直るぐらいしかできてねぇソイツの首の横に、剣をやって、そのまま服を乱暴に掴んで捕まえて、後ろに回りこむ。
後ろから捕まえて、首筋に剣を当てている様な格好になりゃ、とりあえず一安心か。
魔法の発動は主に呪文や、手の動き、それらに注意を払いつつ――一旦縛って猿轡でも噛ませるために気絶させるか、そう判断した時の事だった。
「っ!」
体に、いきなり電撃が走った。
いや、正確にいや、いきなり部屋の隅に置いてあった、黄色い水晶みたいな物体から、電撃が放たれて俺に直撃した。
電撃なんてメッチャ早いし、何よりも女を捕まえている時だ。避けられねぇ。
痺れるような痛みは、さほど無かった――が、不思議と体が動かねぇ。攻撃用の魔法というよりも、相手の体を麻痺させる魔法みたいだ。
その証拠に、ピッタリくっついてた癖に、女は痺れた様子も無くするりと束縛から抜け出し、俺の前に向き直ってきた。
「な……ぜ、だ。…じゅ、もん…も、あやし、い、う、ごきも、なか…ったぞ」
「魔法使いの家に、何の策も無しに乗り込むなんて。バッカじゃないの? ちゃあんと、いざって時の対策ぐらいしているもんね!」
べーっ、と舌を出して子供っぽく怒った顔をする女――女とか、魔女とか言うよりも、少女といった雰囲気だ――は、続けて口にした。
「魔女を襲うんだから、それなりの覚悟は出来てるんでしょうね? 『私の魔法』を見せてあげるわ」
俺を見上げる顔は、得意げに笑って、いつの間にか手に持っていた宝石付きの杖を突きつけて、俺には意味の分からない魔法の言葉を紡いでいく。
俺は必死に、自らの精神力で魔法の束縛を跳ね除けようとしたり、動けないなりに精一杯体を動かそうとしたが、指一本動かなかった。束縛とか、眠りの魔法とかは、気合いとかで跳ね除けた事もあるってのに。
俺の抵抗も虚しく、杖から放たれた魔力の波動に包まれた。
3
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/12/27(火) 06:34:38
魔力の波動に包まれると同時、俺の体の動きを止めていた戒めの力が緩んだ気がした。
俺にかかってた魔法効果を一旦解除しねぇと、新しい魔法がきかねぇのか??
だから、動いて反撃をしようとしたが、その瞬間、ガクッと膝の力が抜けたみたいに、一気に視界が低くなった。
それと同時に、片手に握り締めていた剣が急に重たくなって、ガチャンッ、と音を立てて取り落としちまった。
それから、腕の下辺りが、何か硬い物にぶつかって、仕方なく手を横に伸ばしてる様な、案山子みてぇな格好になる。
何だかよく分からねぇが、前に進んで、少女をぶん殴ろうと思ったが、自分の肩ぐらいの高さの壁に阻まれた上に、上を振り上げようとしたら、ベルトか何かがひっかかっちまった。
俺は一体『何』に束縛されているんだ?
まるで、でっかい筒か何かに入れられて、それに腕と顔を出す穴があって、そこから顔と、横に伸ばした手が外に出てるって感じだ。
気づけば目の前の少女が、得意げな顔で俺を見下ろしている。……見下ろしている? 俺の方が背が高かったハズなのに??
「あっら、かっわいい〜〜〜〜!!」
そんな声を上げて、俺の前でちょこんとしゃがみこむ少女。
俺は、今まで戦っていた相手の、あまりになめた態度にいきり立って、大声を上げた。
「ああ゛!! なにいってるんだあんた!」
! ……声が、変だ。まるで声に鷹揚が無いし、キンキンとやたら甲高く、慕ったらずな声。
「てめぇ! おれになにちやがったっ!」
……舌ったらずな声は、まるで自分の声ではないかの様。筒の様な何かに体を拘束されながらも、不自由な腕をぶんぶんと動かす。
少女はふふんと笑ったまま、そこらへんにあるテーブルから、手鏡を取って、俺の姿を映し出した。
「っ!!」
そこに映っていたのは、三〜五歳ぐらいの男の子。大人の戦士が身につける胴部のみの鎧の中に、すっぽりと体が包まれて、手を横に伸ばした状態で、ようやく腕がちょこっと出ている感じだ。
もう少し体が大きかったら、鎧の肩のベルトが肩に当たっていたかもしれない。
俺はそこに映っている自分の姿を否定したくって、ぶんぶんと首を振った。
「う、うそだ! へんなまほうのかがみなんかみちぇるな!」
「ええ〜〜? かわいいじゃない? 信じられないのなら、向こうのお部屋の姿見で全身映してあげよっか??」
「やめろぉ」
少女はすっくと立ち上がって、スタスタと自分から背を向けて歩き出していく、俺は自分の姿を否定したくって、それを追いかけようとしたが、自分の動きを阻害している鎧にぶち当たって、それを動かして追いかける力も無く、鎧ごとその場にゴロンッ、てな感じで転がった。
鎧のせいで手をつく事も出来ず、額と鼻を強かに打ちつけた。ガキの体のせいか、やたら痛みを感じて泣きそうになったが、立ち上がろうとして…これまた、鎧のせいで、ジタバタする事しか出来なかった。
少女は戻ってきて、俺の後ろに回り込めば
「はいはい、鎧から出してあげるから、手ぇひっこめなさーい?」
なんていいながら、ジタバタする俺の足をアッサリ引っつかみやがった。
拒んでもいい事無いと実感した俺は、素直に手を鎧の内側に引っ込めた。……こうすると、思いっきり亀みたいだ。引っこ抜かれる時も、頭が鎧の中を一旦入っていったしな。
ところが、この女、俺を鎧から抜け出させるだけじゃなくって、そのまま、ダボダボの服を俺の体に締める様にして、脱げにくい様に気をつけながら、そのまま俺を抱っこしようとしてきやがった。
俺は、女の体を手で押す様に抵抗したが、力の差があるのか、強引に抱っこされてしまった。
「今日からガンツちゃんはぁ、私と一緒に暮らすの。拒否権はないわよぉ?」
「はぁ!?」
俺は抱っこされたまま、少女を見上げる。ってか何故俺の名前を? 人の名前を知る魔法でも知ってるのか?
「だってガンツちゃん、こっから一人でおうちに帰るなんてできないでしょう? それにぃ、たとえば私を殺しちゃっても、その魔法は解けないわよ??」
……こういう魔法は、術者を殺せば解けるものもある。解けないものもある。と、俺は知っている。この女の言っている事が正しいかどうかはしらねぇが、間違っているかも知らない。
不満げに唇を尖らせながらも、抵抗も、反論できずに、「ぐぬぬぬぬ……」と、唸る俺に、少女――魔女は、俺の頭を優しく撫でた。
4
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/12/27(火) 06:40:00
再びスレ立てをして、長めの物語にチャレンジしてしまいました……!
どうやら私に短編とかは無理の様です。(遠い目)
宣言していた通り、主人公は男です。
……なんというか、前作のシャルロットとだだ被りですが、楽しんで頂けると幸いです。
以降の更新は来年になると思います。それでは、良いお年を。
5
:
名無しなメルモ
:2011/12/28(水) 01:26:59
新小説開始、おめでとうございます
うまいですねー!
最初の文章は立木文彦さんの声で再生
魔女の少女の声はハルヒかな(笑)
幼児に戻ったガンツちゃん、うんといじめられて欲しいですー!
6
:
名無しなメルモ
:2011/12/28(水) 17:59:53
りんごじゅうす様、よいお年を!
7
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/01(日) 00:45:30
第一話 ――本棚――
魔物も出る深い森の中にある、魔女の家。
そして今の俺の体は、ちっこい魔女でも余裕で抱っこ出来るサイズの、魔女よりも更にちっちぇー幼児。
抱っこされて、よしよしと撫でられて、だからと言って、抵抗も出来なければ、帰ることすら一人で出来ない状況に、さっきまで屈辱で唸っていたが、いい加減、観念した様に息を吐いた。
「……わかったから、いいかげんおろちてくれ」
……相変わらず、これが己の声だとは実感しづらい程、甲高くって、鷹揚の無い聞き取りづらい声。
だが、魔女は俺をギュッと強く抱きしめて、更には顔を近づけて、頬づりまでしてきやがった。満足げな魔女の声が聞こえてくる。
「ああ〜〜〜。あったかくって、やわらか〜〜い」
「! な、なにちゅるんふぁ」
……下っ足らずな甲高い声と、頬をすりすりされたせいで、後半、全然意味不明な発音になって、妙に恥ずかしい。
それでなくても、大の大人な俺にとって、こうやって体を摺り寄せてくる女なんて、酒場や色街にでも出ない限り中々いなくて、この状況は中々に気恥ずかしい。いや、誰も見ていない森の奥地ではあるんだが。
「ふふっ。ガンツちゃんの声、かわいい」
「うるちぇえ」
俺の声を聞き逃して無かったか、スキンシップを止めないままに言った魔女の言葉を、俺は短く一蹴。
だが、魔女は俺の言葉を無視して歩き、扉を開いて別の部屋に入った所で、ようやく俺を降ろした。
「ガンツちゃん。私はちょっと、準備してお出かけするから、ここで大人しくしてなさいね? 家の外に出たら魔物に襲われちゃうから」
膝に手をついて、幼い子供に言い聞かせる様な言葉使いがシャクに触るが、逆らってもいい事は無いと、俺は頷いた。
「って、まて。……いいかげん、あんたもなのったらどうだ?」
「そ、ね。私はキャラメリゼ。メリゼおねぇちゃん、って呼んでねガンツちゃん」
魔女――メリゼの言葉に、いつまでママゴトする気かと顔を顰めていたら、パタン、と扉を閉められた。扉に耳を当てて澄ませば、あのグツグツ煮込んでいたでっかい窯の火を消す音と、何やらパタパタと軽い足音が聞こえてきた。
出かける、ってんなら、この魔法を解く方法を探すチャンスだと、俺はまず、この部屋の探索から始める事にした。
部屋に窓は無く、代わりに、部屋の脇に置かれた、水晶の様な球が、魔法特有の青白い光を放って、部屋を照らしていた。
隅に机が一つ置かれているが、その机の上は、俺の背が足りなくて、何が置いてあるのか近寄って背伸びでもしなきゃ分からねぇ。
そして、机と灯りの反対側の壁一面に、ビッシリと本が詰まった本棚が並べられていた。
……ひょっとして、手掛かりがある部屋はこの部屋か?
「……なめてんのか」
つい、言葉が出た。
確かに俺は魔法は使えねぇ。『魔術師』が良く戦闘で使う魔法にどんなのがあるかとか、使えない側から見ての知識しかねぇし、どうすりゃ元の体に戻れるのか、今現在は見当もつかねぇのは確かだが。
とりあえず俺は、本棚の前まで歩いていこうとして、ふと、足をとられた。
下を見れば、体に合わなくなったズボンが足首に引っ掛かっている。
俺はズボンを履くのを諦めて、それから、歩くたびにずり落ちそうになるパンツも脱ぎ散らかした。
どうせ、上の服が、体全部を覆ってくれているし、パンツが無くてスースーするのと収まりが悪くて落ち着かないのと、長袖の服なせいで、しょっちゅう腕まくりしなきゃいけないのを除けば、問題はねぇ。……大問題な気もするが。
ともかく! 俺は本棚の探索をする事にした。
近寄ったら、でっかい本棚を見上げる。全然手が届かない所にも、ビッシリと本が詰まっていて、でけぇ、と思ったが、すぐに自分が小さい事に気付いた。
使われている本棚は、下の部分がスライド式のドアになっていたので、試しに開いてみたが……良く分からんガラクタを詰め込む場所になってるみたいだ。
となると手掛かりはとにかく本、だが、ほとんどの本は手が届かねぇ。ついでにいや、俺が魔女なら手掛かりになる本は手の届かねぇ所におく。
俺は本棚を見上げて、昇る決心をした。
8
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/01(日) 00:46:46
俺はまず、手の届く範囲で適当な本を一冊抜き取り、その本を開いた。
(やっぱりな)
思った通り、魔法の事を書いた本だからって、全部が全部魔法語で書かれているワケじゃねぇ。
外国語の教科書には、その国の言葉以外にも、ちゃんと自分が読める言葉が書いてあるのと一緒だ。
その魔法の注意点、や解除法、といった項目が普通の言葉で書かれている可能性は十分にあると確信して、俺はにやりと笑う。
すぐにその本をほかって、俺は本棚の棚に手をついて、更に足も下の棚に乗せて、よじ登る。
適当に二段程昇って、本の背表紙を追う。
……それっぽい本は、ねぇな。
いきなりビンゴってワケにはいかねぇか。俺は、本棚によじ登った体勢のまま、横方向へと移動する。
しかし、意外とこの姿勢、つれぇな。手が結構痛いし、本棚の角が足裏に食い込んでちょっと痛ぇし。今の俺の体がちびっこだからか??
苦労しながらも、時間をかけて一冊の本を見つけた。『中級魔法大全』。
……正直、俺にかかっている魔法が中級なのかも、この本に乗ってるかも分からねぇが、『若返りの魔法』だの『年齢変化の魔法』だのダイレクトなタイトルの本があるかどうかも分からねぇ。
俺は意を決して、その本に手を伸ばして、本を引きぬいた。その拍子に、体が揺れた。
ヤバい! 本を引きぬいた時の勢いと、片手を本棚から離している状態だった事もあり、体が後ろの方へと泳いでいく。
体勢を立て直そうと思うのも空しく、俺は本棚から落ちて、背中をしたたかに打ちつけた上に、バサバサと、重たい本が上から大量に降り注いで、その内の一冊がゴンッと頭にぶつかった。
思わず俺は手に持っていた本を取りおとして、思わず両手で頭を押さえた。
いてぇ。……いや、痛いは痛いんだが、この程度の痛みには慣れっこのはずだし、何でかしらねぇが、目が潤んで来やがった。
ぐっと口をつぐまねぇと、涙が出てきそうだ。
くそ……泣くな。俺。泣きやめ。
ぐしぐしと目をこすって、顔を振る俺の姿は、傍からみたらただの子供に映ってしまうのだろうか?
ふと、そんな事を考えていたら、俺じゃねぇ声がした。
「あーーーーっ!」
振り向いたら、扉を開けて、口を大きく開けつつ、俺を指さしてる魔女――メリゼがいた。
「なんてことしてんのよアナタわぁ!!」
「うるちぇえ!」
ただでさえ、本棚から落ちるわ痛いわ。それもこれもこんな姿にしたこの女のせいだ。
不機嫌な俺は、手近にあった本を一冊掴み、メリゼへと投げつけようとした……が、予想以上に重たくて、振りかぶる際にまた体が揺らいでしまう。…ええい! どんだけ非力なんだこの体は!
メリゼはつかつかと俺へと歩み寄ると、ゴンッ、とゲンコツを一つ落とした。
「まったく! 大人しくしなさいって言ったのにこんなに散らかしちゃって! 片付けるの大変だし、貴重なモノなんだからねコレ!」
「う…うるちぇえっつってんだろ。」
俺は、ふいと顔を背けながら反論する。貴重なモノなら俺をこんな部屋に連れてくなよ。
背を向けたのは、反抗的な態度をとるためというのもあるが、さっきから頭にダメージを追いすぎて、涙が本気で出てきそうだったから、それを隠すため、というのもあった。
だが、メリゼにはそれも気に食わなかったらしく
「そんな事言うんだったら、こっちにも考えがあるわ!」
そして、魔法の言葉が上から聞こえて来た。
俺は立ち上がって、邪魔しようと思ったが、下半身が本に埋もれているせいで、魔法を唱え終わる前に立ち上がる事すらできなかった。
最後の言葉らしき言が聞こえると同時に、俺は再び魔力の波動に包まれたかと思うと、また、ガクッと視界が下がる感覚と共に、力が抜けて、座ってもられなくなってしまった。
俺の視界が上を向き、部屋の天井と、勝ち誇った顔の、メリゼが見下ろしてくるのが見えるのみだ。
立ち上がろうと思っても、がに股に開かれた足はぷらぷらとしか動かせねぇし、腹に力を入れても上半身が起き上れないし、手も地面を押す力が入らねぇ。
何しやがった。そう言おうとした。
「だぁ〜だぁ〜、ぶぅ」
だが、口から出て来たのは、赤ん坊の声。上手く、喋れない。
本の山の上で寝っ転がる事しか出来ない俺を、魔女は再び、優しく抱き上げた。
9
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/01(日) 00:52:24
皆様、あけましておめでとうございます。
小説書きながら年越し…何やってるんでしょうね自分わw
前作は更新頻度が安定しなかったので、今作はある程度安定させたいなとか思っています。
次回は来週…かな?
>>5
様
ありがとうございます。
声優には詳しくないですが、ウィキペディア先生に聞いたら知っているキャラクターの声もあててる方でした。渋い声ですよね。
カッコいいイメージを持って下さったら狙い通りなので嬉しいです。
ハルヒは、振りまわすキャラとしてはピッタりですね。
今回の話はイジメるネタはあまりありませんでしたが、時間の進みがゆっくりなお話になる予定ですので、のんびりお待ち下さい。
>>6
ありがとうございます。そして、あけましておめでとうございます。
今年はバリバリ書いていきたいですねー。
10
:
名無しなメルモ
:2012/01/01(日) 23:46:51
りんごじゅうす様、あけましておめでとうございます
ガンツちゃんはとうとう赤ん坊にされてしまいましたね!
幼児や赤ん坊姿のまま街中の大勢の人前に出されてしまうなど
恥ずかしい思いをいっぱいしてほしいですw
字が読めなくなっちゃうなんてことはないのかな?
11
:
サルド
:2012/01/02(月) 22:32:34
あけましておめでとうございます!(遅いかな?)
個人的に男のARは大好きなので、続きを期待しています!
12
:
りんごじゅう
:2012/01/05(木) 04:38:34
第二話 ――はだか――
赤ん坊。
それが、今の俺の姿だった。
だぼだぼの大人用の上着に包まれたまま、仰向けに寝転んでいる事しかできねぇ俺を、メリゼは優しく抱き上げて、ほっぺたにツンと、軽く指を押し付けた。
……自分の物とは思えない、やわらかいほっぺただ。
「もう、ダメでしょガンツちゃん。大人しくしてなきゃ」
「だぁ〜あ、だぁ!」
うるせぇ! なんて言おうとしても、言葉にならない。
メリゼは無視して、俺を適当なテーブルの上に寝かせたと思うと、俺の体を包んでいた上着を剥ぎ取った。
ズボンやパンツといった下半身の衣服は、幼児の姿の時にダボダボで脱ぎ捨てていたから、これで俺は一糸纏わぬ姿となった。
筋肉のきの字も知らない様な、ぷにぷにとした裸体(赤ん坊なら普通にしらねぇか)に、横でパタパタと動かすしかできねぇ手。ガニ股にだらしなく開かれた両足……自分で描写すんのも嫌だからこんなモンでいいか。
とにかく、裸の赤ん坊がテーブルの上に置かれて、それを、魔女――メリゼが見下ろしている光景だ。
「あらかわいい」
クス、と意地の悪い笑みの先にあるのは、俺の股間だった。
そのまま、ツイと股間へと手を伸ばし、そこにある俺のチンコを手でいじくりだした。
俺はその感覚に、思わず身じろぎをする。
「だぁ! ばぁーぶ! ぶぅ!」
本当は、その手を払いのけてやりたかったが、手をいくら伸ばした所で、メリゼの手を払いのける事はできなかった。
まず、体がうまく動かない。特に足だ。その手を蹴飛ばしたいと思ってもロクに動きやがらねぇし、ねっころがったまま起き上がれない体勢の現在じゃ、足の方から伸びる手に、そもそもこっちの手が届かない。
俺は真っ赤になって、ジタバタともがくが、それは無駄な努力だった。
幸い、この体が幼すぎるせいか、恥ずかしさやら何やらで、チンコがでかくなったりしなかったために、余計恥ずかしい思いはしなくてすんだが、正直それどころじゃない。
いじる事に飽きたのか、メリゼは今度は俺に顔を近づけて来て、語りかけてくる。
「あはっ! 恥ずかしがる必要はないわよ? 今のあなたは赤ん坊なんだから。おっぱいは上げられないけれどね。ガ・ン・ツ・ちゃ・ん」
語尾にハートマークでもついてそうな言い方だ。くそっ。
それからメリゼは、近くにあった袋の中をゴソゴソと漁り出した。――あんなモノ、この部屋にあったか? ひょっとしたら、さっき出かけたのは、その袋の中身を調達するためか?
俺の予想は、すぐに当たっている事が分かった。
出てくるは出てくる、俺用だと思われる子供服。
察するに奥の方から取り出されたT字型の布は、最初それが何なのか分からなかったが、メリゼのヤツが俺の下半身を持ち上げ、お尻の下に布を置いた段階で、何となく察した。
おいばかやめろ!
「だぁ〜あ。ばぶ、ばぶ!」
しかし俺が精一杯体を動かしても、口で主張しても、股間を包む様に布は折り返して、Tの横の線に当たる部分の布を腰から回して、パンツの様に俺の股間あたりをふっくらと包んだ。
典型的なおむつだった。
それから、上半身裸の俺に「お着替えしましょうね〜♪」なんて語り掛けつつ、赤ちゃんサイズの服を俺に被せる様に着せて、よだれ掛けを俺の首につける。
「ふふっ。ぬいぐるみみたい。ふっくらとしたおむつが可愛いっ!」
……わざと上着だけを着せて、下半身がおむつだけなのは、コイツの趣味か!
俺は必死で手足をジタバタさせるが、正直されるがままだった。
にまにまと、楽しそうな顔を浮かべる魔女を、精一杯睨み付けたが、全く意に返されない。っつーかこの体、顔の表情をうまく変えられてない気がする。
「しばらく、その姿で反省してなさい」
そう言ったら、メリゼは俺が散らかした部屋の片付けに入ったのか、向こうの部屋への扉をパタンと閉めて行ってしまった。
足掻こうにもこの体では、な。
テーブルの上だし、落ちたら死ぬかもしれん。大人しくしているしかないか。
13
:
<削除>
:<削除>
<削除>
14
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/05(木) 05:19:13
メリゼが部屋を出て行ってしばらくして、俺の体に異変が起こった。
体の下半身に違和感がきて、体をぶるっと震わせた。
俺はすぐ、尿意だと察しがついたが、我慢しようと思う頃には、すぐに股間から生暖かい液が流れ出ていた。
我慢しようにも、全く力がはいらねぇし、感じた頃にはもう垂れ流していた。という感じだった。
下半身を包んでいたおむつに生暖かい液がしみこみ、じんわりと暖かくなる。
それと同時に、ぐちょぐちょとした気持ち悪さが……っておいおいおい、これはまずいって言うか、洒落にならねぇぞ!
助けを呼ぶべく、叫ぼうかと思ったが、ふと魔女の意地の悪い顔を想像して、やめた。
恥ずかしいし、屈辱だ。
だが、そんな俺のプライドも、見計らったかの様に戻ってきた魔女によって、打ち砕かれた。
「あっらー。ガンツちゃん、おしっこしまちたかー? おむつハキハキしましょうねー♪」
……俺は精一杯、手足をバタつかせて、おむつの履き替えを拒んだが、次の魔女の一言で、沈黙する事となった。
「ダメでしょガンツちゃん。おむつはちゃんとかえなきゃかぶれるんだから。あ、それともノーパンで、下半身はだかんぼがいいの??」
俺は、パチッと目が覚めて、ガバッと体を起こした。
……そうか、赤ん坊の体で、あそこまで大暴れしたんだ。疲れて眠ってしまっても全くおかしくはないか。
そう、思った所で、体の違和感を感じた。『体を起こした』?
自分の体を見下ろせば、赤ん坊にされる前の俺の肉体――4歳ぐらいの、幼児の裸があった。
って、何で裸!?
「あら? 目ぇ覚めた?」
メリゼの声に目を覚ませば、そこにも魔女の裸が!
俺は慌てて、目を横に逸らした。
メリゼの向こう側に見える部屋の奥には、湯船が見えて、煙が立ち込めている所を見るに、どうやらこれから風呂ってトコか…。
「なんで、おれもあんたもはだかなんだよ!」
「何でって、せっかくだからお風呂で洗ってあげようかと思って。どうせロクにお風呂入ってないんでしょ?」
「ちょういうもんだいか! はずかちくないのかよ」
「やーね、子供がいっちょまえに言ってんの。……あ、ここだけいっちょまえだ」
裸の魔女から離れる様にあとづさっていた俺の股間を指差して、メリゼはにたりと笑った。
……俺の股間のチンコが、小さなガキのチンコだってのに、一生懸命堅くなって、上を向いていた。
俺は慌てて両手で隠そうとしたが、片方の手を無理矢理捕まえて、魔女は風呂場へと俺を連れていった。
そして、風呂場の簡素な椅子に俺を座らせ、お湯を被せた。頭から。
「わっぷ! ……いきなり何しやがる!」
「あっ。ごめんごめん。一言言っておくべきだったわ。それじゃ、髪洗うわよー」
「一人で」「ダ〜メ。言うこと聞きなさい」
……赤ん坊にされた後だし、言うこと聞いておくか。絶対、聞き入れやしねぇだろうしな。
……それにしても、こんなちっこい家に、風呂場があるとは驚きだ。
今、この時代。大抵の人は、公衆浴場を利用や、宿の風呂を利用する。利用頻度は、そいつの稼ぎと衛生観念次第だ。
沸かしたり、水を持ってくる作業を、女の細腕でやっているとは思えねぇから、多分、魔法を何らかの形で利用してるんだろうな。
石鹸で、俺の頭をゴシゴシと一通り洗い終えたのか、目を閉じている俺に声がかかった。
「は〜い、じゃあお湯流すわよぉ。目と口を閉じて〜」
そのまま、俺は体の方も洗うというメリゼに、今度は断固として体は自分で洗うと主張して、体を洗った。
15
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/05(木) 05:29:14
「や、やめろよ! おれは『ほんと』はがきじゃねぇんだから」
「いまは子供なんだからい〜の」
体を洗い終えたメリゼに、抱っこされたまま、俺は湯船にいれられた。
浴室の壁に、メリゼがもたれかかって座り、そのメリゼの体の前に、腕で体を固定された俺が座る形になる。
……これなら、メリゼの裸が俺の背中に当たる形だから、見なくてもすむが……だが、これは正直、見るよりもドキドキした。
女の胸が頭の両脇にある上、彼女の体と密着していて、しかも動こうにも両腕で拘束されているために、動けない。というかもがけば余計に体が当たりそうだ。
こんな、女と密着する機会なんて、ここ数年、エッチな事をする時ぐらいしかなかったし、今回は『それ』じゃない。
慣れない感覚に、心臓が早鐘を打っていた。
「……なぁ」
「ん? なぁに?」
「あんた、なにがちたい?」
「?」
「じぶんにきがいをくわえちゃ『ぼうけんちゃ』なんて、ころちてすておけばいいじゃねぇか。わざわざがきにちて、なにかとくでもあんのか?」
「殺されたかったの?」
「んなわけあるか」
「じゃあねぇガンツちゃん。ガンツちゃんは今日から私の奴隷。戦って負けたんだから、これなら文句ないでしょ?」
メリゼは、俺を抱きしめる手を強くした。ギュッと、愛おしい物を抱きしめる様に。
「……ちつもんの『こたえ』にはなってねぇ」
「ん〜。それは、まだ言いたくないなぁ。ガンツちゃんがぁ、私にもっと懐いたら教えてあげる」
「…………。」
「…むくれないでよぅ。じゃあ、これだけは言ってあげる。
私は誰でもよかったってワケじゃないの。ガンツちゃんだから、こうして生かして、手元に置いてあげてるの。誰でも良かったワケじゃないわ」
「……なんなんだ」
「……あなたは忘れてるかもしれないけど、ガンツちゃんはぁ、私にとって特別なの。」
忘れる? 俺が?
俺はこの女にあった事あるか? 金髪でキャラメリゼって名前の女。そんな名前の女に出会ったなら、忘れるなんて事ねぇとは思うが……。
メリゼは続ける。俺を抱きしめたまま。
「特別な人だから、ガンツちゃんが悪い事しなければ、わたしも悪い事しないから。だから、しばらくはわたしの奴隷。いい?」
「……分かったよ。……クソババァ」
ぼそ、と俺の呟きに、目ざとく聞きつけたのか、メリゼは俺の頬を抓る。
笑顔ではあるが、怒っているな。丸分かりだ。
「いだだだだだ!!」
「な・ん・で・す・っ・て!」
「……まほーで、じぶんの『ねんれい』もいじっちぇるんだろ?」
「そんなことないもんっ! 失礼ね! ガンツちゃんマイナス1歳!」
「ぬわっ!?」
すすすす、と魔力の波動を浴びて、体がじょじょに縮んでいく感覚を味わった。……だが、元が幼児で、1歳しか動いてないせいか、大した変化は、今のところねぇな。
俺は思わず振り向いた。
「なにすりゅんだ!? っつーか、えいちょうもなにもなくてどうやった!」
「べーだっ! アンタさっき、私の奴隷って言葉に同意したでしょ? これでもう、アンタは私の魔法から逃れられないわよ!!」
………っ! あれ『契約』だったのかよ!
悪魔とか、魔物とか、使い魔とかとの『契約』は、魔術師には使えない。失われた『魔法使い』の代表的な魔法のひとつだ。
箒で空を飛ぶとかに比べりゃマイナーだが、それぐらいは俺も知ってはいた。…知ってはいたが、まさか日常会話の中に折りませてくるとは思ってもいなかった。
俺は、今ここで風呂のお湯をかけて逆襲してやりたい所だったが、また赤ん坊にされる恐怖から、握りこぶしを作って、あっかんべをするメリゼをにらみつけてやる事しかできなかった。
16
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/05(木) 05:36:00
うわああああああ!!
自分のハンドルネーム途中までしか入れてなかったぁああああ!
メモ帳のコピペミスったぁあああああ!
ち、違うんですよ? 名前を途中まで打ったら、下の欄が出て「りんごじゅうす#なんたら」って出てきたのでそれをクリックした…のに、反映されてないとかOTL
ふぇえん、子供に戻りたいです……。
言い訳はともかく、少しペースを上げようと思います。
今のままじゃ街中に出るのにかなりかかりそうですし、もっと開けた環境になって、登場人物が増えるまではペースを上げたいと思います。
そうなったら参加型企画また立てたいなと。
そして
>>6
様、敬称が抜けておりました申し訳ありません。
>>10
様
人前に出すのはもう少しかかりますが、満足して頂けたでしょうか?
とりあえず一人称視点&前回との差別化という事で、精神面の若返りは今のところ検討はしていません
>>サルド様
いえいえ、遅くなどありませんとも。あけましておめでとうございます。
私も男のARは好きですので、楽しんで書いています。
元々屈強な戦士の話を書きたくてのファンタジー路線ですしねw
お楽しみいただけて、こちらもうれしいですー。
>>
17
:
<削除>
:<削除>
<削除>
18
:
10
:2012/01/05(木) 22:28:29
満足です(て、偉そうにすみません)
てか思った以上にエロいです
ガンツちゃんが赤ん坊に戻ったシーンが何となく「べるぜバブ」
(というジャンプ漫画)で再現されました
どうなるのかわかりませんが、オチが既に考えてあるっぽいところがすごいです!
一人称視点、納得です!
更新ありがとうございました
これからも楽しみです!
19
:
<削除>
:<削除>
<削除>
20
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/09(月) 21:38:58
第三話 ――からだ――
風呂上がり、なんとかあの、恥ずかしさで風呂の熱さとは別の意味でのぼせそうな風呂が終わって、洗面所で体を拭きながら、己が体を観察していた。
……裸のメリゼを観察した方がいいんじゃないかって?
それは俺も思わなくもないっつーか、それもしたんだが、自分の体を拭いているんだから、メリゼよりも先に嫌でも己の体ってモンが見えてくる。
風呂前までの体が3〜5歳程、そしてマイナス一歳だから、3歳前後か。
見降ろしたら、地面が近い。座ったりしゃがんだりしてる時よりも地面が近いんじゃないかと感じて、足元を見ると違和感が凄い。
筋肉なんてついてない、ぷよぷよとした手足は、今までの冒険と戦いで鍛えられた筋肉特有の膨らみがなく、柔らかくて、凹凸の少ない体だ。試しに、腕を軽く指で摘まんでみる。
……俺の体だとは思えない程やわらけぇ。
手だってそうだ。
次に、お腹辺りだ。筋肉の凸凹っていやぁ、腹筋の割れたお腹を想像するだろう。俺だって、腹筋ぐらい割れていた。伊達に金属の鎧と、大振りな剣を担いで冒険してきたワケじゃねぇからな。戦士なら、それなりに太ってない限り当然だ。
ガッチリした逆三角形の体格が、今じゃ脇の下から股下まで一直線の、くびれも無い……どころか、お腹がぽっこりと膨らんだ幼児体型だ。腕と同じく、筋肉なんて見る影もねぇ。
その代わり、全身見ても、今まで付けて来た、戦いの傷跡がキレイサッパリ無くなっていたのには、心の中で「おおー」と感動を覚えていた。
傷は男の勲章だとか言うが、その時の仲間に回復魔法で治して貰ってすら、跡が一生残るであろう程の深い傷ですら、時間を戻したら文字通り「なくなって」しまったのだから、それについては感心してやってもいい。
そしてその下は………小さい。風呂場でも実感したし、メリゼの裸を見ても興奮し疲れたのか、恐らく今がデフォルトの大きさなのだろう。
皮を被った、申し訳程度にちょこんとついているソレ。
…………いや、幼児の体だから、別にいいんだけど、な。ここだけデカいってのも、それはそれで嫌だし。
体を拭き終えたら、そのバスタオルを持ったまま、メリゼを見上げる。
メリゼの方が体が大きく、また、髪の毛も女だから長いせいか、まだ体を拭いている真っ最中だった。
女性で、インドア派なのだろう。白い陶器の様な染みの無い肌に、それなりに整ったプロポーションで、束ねてない金髪はまだ乾ききっておらず、背中へと纏まって垂れていた。
初めて会った時は、女にしても小柄な部類で、15歳ぐらいに見えたが、今は17〜18ぐらいにも見えた。
おそらく、俺の視線が低くて、でっかく見える分年上に見えるのと、服の上からではそんなに大きくは見えなかったが、裸で見ると形の良い胸のふくらみのせいだろうか?
そんな俺の視線を感じたのか、メリゼは髪を拭きながら、俺を上から見下ろして来た。
「ん? 何?」
「……ん、あぁ、…おれのきるもんはどこだ?」
「あっち」
俺の誤魔化して顔を反らしながらの言葉に、メリゼは指で答えた。
21
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/09(月) 21:47:43
メリゼが指し示した指の先には、俺が手に取りやすい様にか、中に衣類らしき布の入った編みカゴが床に置かれていた。…あったんだが…その一番上にあるのは…。
「またおむつかよ!」
俺は思わず叫び、髪を拭いているメリゼを見上げて詰め寄る。
だがメリゼはシレッとした様子で
「仕方ないじゃない。あなたは来たばっかりで服が足んないんだし、今日の所はオネショでもされたら困るのよ」
「……赤ちゃん用の服はある癖に……。」
俺はそうぼやきつつも、とりあえず今は逆らわない方が良いと、服を着る事にした。
赤ん坊の時のヤツは前でとめて外から付けるヤツだったが、今回ははくタイプか。…いや、オムツの事なんざどうだっていいんだが、ノーパンよかマシだ。
下着のシャツは普通に着て、いよいよ今日の寝巻きになるであろうパジャマ(?)を手に持つ。
……なんとなく、嫌な予感がしてたんだ。この魔女が用意した服だぞ? 普通の服じゃないよーな気がしてたんだ。
広げて見ると、タオル地で茶色いフード付きの、上下一体のつなぎ状の服だって事が分かった。
足を通して、前の方でボタンでとめて全身を覆う服だな。赤ん坊とかが良く着ているアレだ。ご丁寧にも、足先まで覆うタイプみたいだ。…流石に手は露出してる。
ちなみにこの時の俺は知らなかった事だが「オールインワン」っていうらしい。……戦士で男な俺にとっちゃ、激しくどうでもいい。
仕方なしに俺は足を通して、手も通して、体の前に来るボタンを止めにかかる。
……が、どうにも指が小さくて不器用で、ボタンを止めるのに四苦八苦したが、どうにか自力で着替える事が出来た。
丁度、メリゼが着替えを終えて、俺の手伝いをしようかと思っていたタイミングだった。
……だが、この服はなんだ?
体の前の方だけ茶色が薄くて、他が濃い色をしていたり、足裏に、肉球の様な模様がついていたり。
フードには黒いツブラな瞳の模様がついていて……要するに、クマの着ぐるみみてーじゃねーか。
着ておいてなんだが、俺はメリゼに突っ込みを入れた。
「なんでこんな『ふく』よういちてんだよ! たりないんじゃなかったのかよ!!」
「アッハッハッハッ! ぐーぜん手に入ったのよ。ぐーぜん! そ・れ・に。抱き枕は可愛い方がいいじゃないのっ」
思わず詰め寄る様に前に出て勢いよく話しかけた俺に、着替え終わったメリゼは手を伸ばして、クマのフードをかぶせて、満足気に微笑んだ。
22
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/09(月) 21:48:49
メリゼは俺を便所に案内した後、抱き枕、という宣言通りに、俺を抱き上げて自分の寝室へと連れて来た。
そして、ベッドへと俺を降ろせば、一緒に入ろうとばかりに、掛け布団をめくり、先に中に入って来た。
だが、俺はベッドに座ったまま、まだ布団には入らない。
「べちゅにおれはゆかでいい」
旅の荷物を開ければ、野営用の毛布ぐらい用意してあるしな。
ベッドから立ち上がり、部屋を出ようとしたら、その前に後ろ手を掴まれてしまった。
「だぁ〜めっ。ガンツちゃんはぁ、わたしと寝るの。あなたは今、私専用の抱き枕なんだから」
「だったら、ふちゅうのぬいぐるみでいいだりょ」
奴隷の次は抱き枕か。俺は努めて冷たく言い捨てて、手を払い退けて立ち去ろうとした。……だが、払えない。女が寝転がったまま手を伸ばして掴んだ手なのに。こっちが力を込めて思いっきり腕を振ろうとしても、メリゼの対して力を入れてない腕の力に負けてしまう。
「駄目よ。ぬいぐるみより、子供の方が体温高くて気持ちいいんだから。そ・れ・に!」
ぐいっと、言葉と共に俺は引っ張られた。力が無いだけでなく、体重も軽いのか、そのまま転んでしまう。幸い、転んだ先はメリゼが先に寝ているベッドだ。柔らかいいいベッドなのか、別段痛くも無かった。
そのまま寝かされて、掛け布団を上からかけられた。
何すんだ! 俺はそう言おうとしたが、その前にメリゼが手で俺を抱き寄せて来た。
それに面喰って、メリゼの胸元に収まる俺に、彼女は言葉を続けて来た。
「私はガンツちゃんが大好きなんだから」
「……なんでだ」
風呂場での『特別』発言といい、ワケが分からない。
俺はコイツに会った事がある、けれど、俺は忘れている。らしいが。再会にしたって、敵同士だったんだぜ? どうせ、対した関係じゃなかったんだろ?
「出来れば自分で思い出して欲しいんだけどなぁ。それに、これから寝るんだから、考え事して眠れないのもなし! いいわね」
「……昼間腐るほど寝たんだがな」
赤ん坊姿だったしな。
ってゆーか、年頃の女に腕を回して抱っこされて、胸元へと押し付けられているんだぞ?
服越しだし、風呂場程では無いが、それなりに落ち着かないシチュエーションには全く違いない。
だが、メリゼは笑う。楽しそうに。
「大丈夫よぅ。寝れる寝れる! 私も試してみたけど、子供の体って良く眠れるのよ??」
そして俺の体と、タオル生地の俺の服を堪能してるのか、「あ〜…あったかい」なんて言ってやがる。
俺が元の体で、マトモなシチュエーションなら、無邪気な雰囲気の、まだまだガキの15やそこらの女、で済むんだが、すぐ横で一緒に眠る、となれば話は別だ。
こんな近くまで抱き寄せてきて、もし向こうが先に寝たら、穏やかな寝息が良く聞こえてきそうな距離だ。
リラックスして眠れるかってんだ。
向こうは、俺がガキの姿だから、そんな事気にも留めないんだろうが、そこんとこ分かってんのか??
………そう、俺は思っていたんだがな。
ガキの体っつーのは、睡眠の欲求には随分素直らしくて、そんな心配いらなくて、ヤツの寝息を聞く前に、気づけば朝になっていた。
23
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/09(月) 21:56:57
……いくらなんでも、一話辺りの文章がありすぎるorz
特に序盤は、若返ったキャラクターの自分の体の戸惑いとか、違和感とか、今までと全く違う扱いとかを詳しく描写したくなって、ついつい長々と書いてしまいます。
一人称なせいで、心理描写が前作よりも濃くしちゃうのも原因ですね。
お陰でサッパリ話が進みません。翌朝まで行きたかったのに…。
そして前話では、管理人様にお手数をおかけして申し訳ありませんでした。そして、ありがとうございます!
>>18
いえいえ、聞いたのは私ですから。
オチは考えてあるというか、なんとなく程度です。
ベルゼばぶですかー…私は読んで無いですが、偶然ですね。
実は二話には、意図的にとある漫画と状況をかぶせていますがw(詳しくはいいませんが)
ご理解頂けて&楽しみにして下さってありがとうございます。これからも頑張ります。
24
:
名無しなメルモ
:2012/01/10(火) 00:03:02
りんごじゅうす様は文章が上手いです
なぜ文章が上手いのか?と考えると小説・漫画・アニメ・ゲームなどお好きで
よく読みこんでらっしゃるからなのではないでしょうか(広い範囲で)
特にファンタジー系にお詳しいように思えます
私自身も漫画アニメ系は好きなのですが詳しいというほどではないですし
ゲームはあんまりできません…なので2章に隠された意図がわからず残念!
文章はさほど長いようにも感じませんが…心理描写、詳しい話好きです
これからも楽しみにしております!
25
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/12(木) 15:03:08
第四話 ――『まち』へ――
俺はパチリと目が覚めた。
あまり朝が強い方では無い俺だが、今日はヤケにすっきりと目覚めた。
だが、それよりも驚いた事は、目が覚めた時に一番最初に目に映った物だ。
なんと、金髪の美少女が目の前で、無防備にすやすやと寝息を立てていたのだ。
一瞬うろたえたが、俺の『小さな』体を、彼女の腕が抱きとめている構図になっている事に気づいて、昨日の事を思い出した。
……ああ、夢だった、なんてオチはねぇか。
俺は小さく溜息をついた。3歳のガキの姿にされていいように遊ばれた、なんて夢であってすらほしくないが。
腕を払って起き上る事も出来たが、俺はしばらくこの体勢でいる事にした。
森の中、逃げられねぇ。寝込みを襲っても呪いが解ける保障は無い。となればやる事は朝、顔を洗うぐらいだ。
なら、布団の中でぬくぬくしてた方がマシだ。
(に、しても……。)
寝顔だけを見りゃ、まだ幼さを残す、どこにでもいそうな少女だ。十分『美少女』と呼べるレベルの。
とても、魔女には見えねぇ。
ふと、その美少女――メリゼの体が、もぞもぞと動いた。
「んん……っ!」
そんな寝息を立てながら、俺を拘束する腕に力がこもり、俺の体を引きよせた。
「ちょっ、まてまちぇ…っ!」
胸元に抱き寄せられて、彼女の柔らかな体が急速に近づいてくる。胸の膨らみが俺の顔へと近づいてくる……!
慌てて手で押し返そうとするか、それとも声を出して起こすか。
あぁでも気持ち良さそうに寝てるし今起こしたら機嫌悪くてまた赤ちゃんにされるかもっつーか俺は別にこのままでも柔らかなくて気持ちいい様なってあああ何考えてるんだ俺!!
と、ともかく、急に密着する距離まで抱き寄せられて、ドキドキとしていた所で、ようやくメリゼがゆっくりと目を開けた。
「んん……おはよ。ガンツちゃん。朝早いのね」
「お……おう。……はなちぇ」
俺は真っ赤であろう顔をそむけて、ぶっきらぼうに返した。
ところがメリゼは、より俺を強く抱きしめて、背中をぽんぽんと叩いてきた。
「うん。寝てる間に逃げちゃわないなんて、いい子いい子♪」
ご機嫌な様子でそう言えば、ようやく俺は彼女の腕から解放された。
俺はとっととベッドから降りて、洗面所へと向かう。
その後をメリゼは追いかけてきた。
「待ってよガンツちゃん。あなたじゃ水をくめないでしょ?」
……確かに、洗面所に置かれた水がめは、水を気軽に使える様になみなみと水が入っていたが、俺の身長程もあり、桶で水をくむのすら苦労しそうな有様だ。
昨日の風呂場の前の洗面所まで辿り着いた俺は、水がめの前で、憮然としか顔で後ろ髪をぼりぼりとした。
それから、メリゼがくんだ水の入った桶で、顔を洗う。
壁に取り付けられた鏡は、俺の背丈が足りなくて顔が映らねぇが、別に見たくもないから問題ない。
洗ってて気付いたが、ヒゲが無い。
当たり前っちゃ当たり前なんだが、三歳ではヒゲなんざ生えねぇ。
大人だと、たとえヒゲをそって見た目が綺麗になっても、触ってみりゃザラザラと痛い、なんて良くある話だ。
そういや、昔、15ぐらいからヒゲが生え出して、その時はやたらと面倒くさかった記憶があったっけか……。
俺がガキの体について珍しく感動していると、メリゼが俺に手鏡を差し出してきた。
「はい。これ持って。髪といてあげるから」
「……べちゅに、ガキだち、だれかに『あう』わけでもねぇだろ?」
「ダ〜メ、今日はお引っ越しするんだから」
「はぁあ!?」
26
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/12(木) 15:03:41
「だって、冒険者が私を捕まえにやってくる様になったのよ?? 逃げなきゃいけないじゃないの」
言われてみれば、その通りだ。理に適っている。だが、しかし、
「…って、まりょくのかんちとかでばれりゅだろ。おれがいりゅと」
呪われた俺が一緒にいるんだ。
魔力に包まれている俺を、どっかの魔術師辺りが見つけて、メリゼが『魔法使い』だとバレるのがオチだろ。
だが、メリゼは俺の髪をクシでとかしながら「ふっふーんっ!」と得意げな声を上げた。
「だいじょーぶよっ! 『魔術師』の『魔力感知』じゃ気付かれない魔法のかけ方だから。『魔力感知Lv3』は必要だわ! あ、ちなみに、『制約』もかけといたから、私が魔女だとか、魔法の話とか、他の人に出来ないからね! ガンツちゃん!」
…俺は魔法に関しては、『魔術師』が比較的良く使う魔法しか知らない。失われた『魔法使い』の魔法など未知の領域だ。
だがとりあえず、バレない自信がある事。ついでに、俺は他に助けを呼ぶ事が出来ない事は把握して、はぁと息を吐いた。
ついでに、仮に助けを求めても、助けを得られるとは思えない。
まずは高位の神官に、神の力を借りた『奇跡』で呪いを解いて貰う手段だが、ある程度上級の術をかけて貰うには、それに値する人間だと認められなければならない上に、多額の寄付金を要求される。
仮に俺がこのメリゼを捕えた報奨金を得たとしても、寄付金の方が高い。他の冒険者に協力を得られたとして……報酬を受け取るどころが、身銭を切ってまで俺の呪いを解く資金にあててくれるよーなお人好しに出会える確率なんざ、限りなく低いのだ。
メリゼのヤツも、そこん所よ〜く分かってんだろうな。畜生め。
ご機嫌な様子で俺の髪をとくメリゼを、手鏡に映して睨みつけた。
「てゆーか、やめりょよそんなかみがた。だちゃいじゃねぇか」
「え〜? 可愛いじゃない、『おぼっちゃま』ってカンジで」
「だからいやなんだよ」
元々、地味な茶髪。綺麗に整えれば、地味で大人しそうに見えて、ガキの頃、この自分の髪が嫌いだった。
それで、10ぐらいの頃から前髪をかきあげたり、刈り上げた短い髪型にしてみたりしたモンだが……。
「だぁめ。今日は色んな人と初めて会うんだから。」
そしてメリゼは、ムフッ。と、楽しそうに、意地悪気に微笑んで、言葉を続けた。
「赤ちゃんとしてガンツちゃんを紹介しちゃったら、もう向こうじゃずっと赤ちゃんよ? ガ・ン・ツ・ちゃ・ん?」
それだけはゴメンだ。
俺は、ぎゅっと口を噤んで、唇を尖らせて、黙って髪をとかされるしか無かった。
引っ越し、とは言っても、驚くほどアッサリと終わった。
軽く朝食を食べた後、メリゼが描いた、でっかい魔法陣の上に乗って、メリゼの呪文詠唱が終わるのも待つだけで、そこはもう、別の家の中にいた。
……どうやら魔法の本やら道具やらは、昨日、俺が赤ん坊にされて、そのまま疲れて眠っちまった間に移動済みだったらしい。
「にもつとかどうすりゅんだよ?」とか言って、本棚があった部屋に入ったら、ものの見事に空っぽだったのには驚いたモンだ。
俺はさっそく、この家を探検してみようと歩きだした。
これから…どれだけかは知らないが、世話になる家だ。まずは調べなきゃな。
ざっと説明すっと、二階建てで、一通りの物が揃った小さな一戸建てだな。一階にキッチン、リビング、トイレに、二階は寝室と、家具はどうやら前に住んでたヤツが置いてったのをそのままって感じだ。
『魔法使い』という事は秘密なメリゼは、魔法関連の道具は全て屋根裏部屋に押し込んだらしい。
一通り探索した所で、メリゼが俺の手を掴んで、家の外へと引っ張っていった。
「さ! お隣さんに挨拶に行くわよ!」
俺は嫌だったが……今、赤ちゃんにされたら、この街でず〜っと赤ちゃんとしてすごさなければならない。
仕方なしに俺はしぶしぶ、手をつないで外へと出た。
27
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/12(木) 15:09:54
ようやく深い森の中で一対一という状況を終わらせられました!
これで一杯登場人物だせる! あんまり多くしすぎると私がパンクしますがー。
沢山の人が出せる様になったので、後1〜2話やったら、参加型企画立てます! それまで頑張るぞーっ。
>>24
様
別に広い範囲で読みこんではないと思いますが…ファンタジー系列では深い方かもしれません。
二話の意図については、メリゼの『特別』発言かな? それとも、私の『意図的にとある漫画と状況をかぶせてる』発言でしょうか?
前者は、この段階で分かったらエスパーですので、深く気にしなくてもいいですよ〜。
後者は…ある漫画の好きなシュチレーションを持ちこんだってだけです。
お風呂場でおちんちん見て「ここだけいっちょまえだ(笑)」っていうおねーさんがある漫画にいたので、使わせて貰ったってだけの話ですよ〜。
長いと感じてないのなら良かったです。ありがとうございます。
28
:
サルド
:2012/01/12(木) 21:02:24
おー前作ネタだ。
これでこのオチで(というか解決方法で)終わる事はないですよ的な感じですかね。
にしても、話が個人的にどストライクなので、これからも頑張ってください!
29
:
名無しなメルモ
:2012/01/12(木) 23:40:59
そうなんですよね
AR物語的にはAR対象が赤ちゃんになってしまったら最終勝利?かもしれませんが
キャラ的には赤ちゃんにしてしまうと動かしづらくなってしまいますよね
基本幼児で時々お仕置きっぽく赤ちゃんにするぐらいが丁度いいのかな?
30
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/14(土) 11:50:04
第五話 ――しりあい――
メリゼは俺の手を引いて、隣の家の戸を叩いた。
「はーい」と中から出て来たのは、10歳程の女の子。
続けて、5歳くらいの男のガキをつれた、オバさんが現れる。
全員、黒髪。普通に親子だろう。
メリゼはにこやかな顔で、元気良く挨拶した。
「はじめまして。今日からお隣で暮らす事になった、メリゼ・リープリヒって言います! こっちは弟のガンツです」
俺はメリゼとは対照的に、ムスッとした無愛想な顔だ。…とはいえ、今の俺は三歳の体。どうせ『人見知りが激しいのかな?』程度の認識で終わるんだろーさ。
あたり前だが、メリゼが『魔法使い』で俺が呪いをかけられた大人だ。なんて言えるワケが無い。そのためメリゼが用意した『設定』は次の通りだ。『リープリヒ』なんて名字も偽名だ。
・俺とメリゼは歳が離れた姉弟。
・親は商人だが両親揃って仕入れの旅の途中で死去。
・親の屋敷やら財産やら売り払ってこっちに引っ越し。
・幼い弟(つまり俺)が手のかからない歳になるまで親の財産で生活するつもりだが出来れば内職など家で出来る仕事が欲しい。
……よくもまぁ、スラスラと思い付くもんだ。『魔法使い』として、住居を転々とする生活に慣れているのかもしんねぇな。
メリゼとオバさんが社交辞令な会話をしてるのを見上げているのも首が疲れる。視線の角度を水平にした辺りで、5歳のガキと目があった。
俺が不機嫌な顔をしてるのを察しているからか、人見知りでもしてんのか知らねぇが、俺の事をジーッと見てやがる。
『何ガンつけてんだコラ』と思わなくもないが、メリゼが近くにいるし、5歳程度のガキの事だ。黙って見られてやる事にする。
……今の俺はコイツより大体10㎝もちっこいんだな。
もう一人の女のガキも、大人たちの会話をただ聞いているだけに飽きたのか、折り曲げた膝に手をついて、俺を見下ろしながら話しかけてくる。
「ガンツくん、だっけ?? あたしは、イリス。こっちは、弟の、ウル。…これからよろしくね?」
「ああ。……うん、よろちく」
『ああ』が予想外に不機嫌そうな響きになってしまったのと、3歳児には相応しくないと思って、慌てて言いかえた。
俺が挨拶すると同時、メリゼとオバさんの会話も、俺たちが話題へと変わっていった様だ。
「可愛いお子さんですね。二人姉弟なんですか?」
「いえ、もう一人、一番上の姉がいるんですけどねぇ……。」
聞けば、その姉は、冒険者としてゴブリン退治だのの仕事をこなしたりして収入を得ているらしい。とりあえず仕事の無い日はこの家に戻ってくるらしいが。
なんでも、一家の大黒柱の父が病に倒れていて、オバさんも家事と育児があるから働けないから始めたらしい。
「あの子は昔っからヤンチャだったし、剣術も習った事があるけど、あんまり危険な事はしてほしくないのよねぇ……。」
「ぜったいだいじょうぶだって! おねーちゃんおにみてーにつえーもん」
オバさんの心配に、一番下の弟、ウルが興奮した様に腕をぶんぶんと振り回す。
そんな時、俺たちの後ろから、声がかかった。
「ありり? お客さん?」
振り向けば16歳程の、これまた黒髪の女がいた。
女にしちゃ短い髪のこの女に、俺は見覚えがり、ぼそりと呟いた。
「アリーゼ……?」
俺がそもそも、魔女の捕獲の依頼を受けた、酒場兼、宿屋兼、依頼斡旋所。いわゆる『冒険者の店』で見かけた事のある少女だ。
俺に、『一緒にパーティ組みませんか!』と言って来たのを覚えている。
ただ、コイツはこの街に実家があり、仕事を探して家族を養うのが目的で、俺は色んな場所に旅をする人間(しばらくこの街を拠点にしてたが)なのと、どう見ても新米っぽかったので、結局1〜2回共に仕事しただけだ。
確か、名字は『カーディ』っつったっけな。
てゆーか、今更ながらこの街だったのか。
アリーゼは、見知らぬ子供の姿をした俺に名前を呼ばれて戸惑ったのだろう。きょとんとした顔をしながらも、俺の目の前にしゃがみこんで、言葉を返して来た。
「え? うん、アリーゼはあたしだけど…なんで知ってんの? 坊や?」
「お隣さんに引っ越してきた方たちらしいわよ」
俺に代わり、言葉を返したのは、この家のオバさんだ。
幸い、俺が名前を知っていたのは、オバさんが家の事情を語っている間にいつの間にか姉の名前を出していた。となった。
アリーゼはしゃがんだまま、俺に向けて手を差し出して握手を交わした。
剣を振るう、マメの出来た硬い手だ。
……前に見た時は、『少しは心得があるみたいだがまだまだだな』という感想だったのに、今は俺の手の方が柔らかくて、小さいため、随分と硬い、頼りになる手に感じた。
31
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/14(土) 11:51:06
他のご近所さんにも挨拶に回ったが……わりぃが、省略させて貰うぞ。
特に変わった事があったワケでもねぇしな。
終わった後、メリゼが手をつないだまま、俺に話しかけて来た。
「ガンツちゃんって、この街にいたのねぇ。すっごい偶然! ねぇ、せっかくだから色々案内してよ! お昼はあなたのお気に入りの店で食べましょ」
メリゼの言葉に、俺は頷いて案内する事にした。
手を繋がれた状態で、ズンズンと先に歩いて行きたかったが、なんせ足の長さが違いすぎる。余裕で横を歩いて、俺の事を微笑ましそうに見ているのが腹が立つ。
町並みも、見覚えがあるハズなのに、何もかも大きく見えたり、大人の人間が巨大に見えたり、全然違う街に見えた。
まぁ、ともかく。大人の俺が、昼飯とかたまに食っていた店に辿り着いた。
一番良く食うのは冒険者の店だが、子供と小娘がいく店じゃないとメリゼに怒られるのがオチだし、夜の酒を飲む店は営業時間外。来るならこの店だ。
メリゼが店に入りながら、掃除の行き届いた店内を見渡して、「へぇ」と感想を漏らす。
「明るい雰囲気の、いい店じゃない!」
その感想の通り、明るい雰囲気で、価格も手頃で家族連れが来たりする店だ。
冒険者の店みたいな、屈強な男たちが集う店とは全く感覚が違うし、俺らだっていつも武器防具フル装備、ってワケじゃねぇから、たまにフラリと来て食う分には、違う気分になれるお気に入りの店の一つだ。
店員が席に案内し、それから、子供用の椅子を持って来た。
俺は最初断ろうかと思ったが、メリゼに脇の下から腕を通されて抱っこされて、アッサリと乗せられた挙句、体をベルトで固定されちまた。
「ふちゅうのせきでいい」
「無理はダメよ〜。ガンツちゃん。朝ご飯食べる時も、難しそうだったじゃない」
確かに、朝食の時は座高が足りなくて、上手く食器の上の物が食べられなくて、椅子の上で立って食べた。……流石に飲食店でそれをやったら怒られてしまう。
メリゼはパスタと、それから、お子様ランチを注文した。
「かってにちゅうもんすんなよ!」
「どーせほかのは食べきれないって。あ、店員さん、もう行って」
俺の文句をシャットアウトすべく、店員を下がらせやがった。ウェイトレスの少女も、子供のわめきよりも、メリゼの言葉に従った方がいいと判断したらしく、一礼して下がる。
俺はメリゼを真っすぐに睨んだ。……そんな時だ。
俺が、『この姿の』俺が、名前を呼ばれたのは。
「……ガンツ…?」
「「えっ?」」
俺とメリゼの甲高い声が重なって、二人ともそちらへと視線を向けた。
メリゼ曰く、俺の呪いは通常の『魔力感知』には引っ掛からないらしい上、この街はしばらく拠点にしてはいたが、幼い頃の俺を知っている人間などいないハズだ。
……それなのに、俺の名前を呼んだその人物は、またも俺の知り合いだった。
銀髪で青い瞳で、黒いラフな服装をしたその人物は、今日で二人目となる、『大人の俺』の知り合いの冒険者としての知り合いだった。
「ふりぇでりっく!」
名前は、フレデリック・スカイアーチ。
『魔術師』だが剣も使える、いわゆる『魔法戦士』ってヤツだ。
魔法戦士となりゃ、他の冒険者から引っ張りだこになりそうなモンだが、俺と同じく特定の仲間とパーティを組んで活動するなんて事はせず、一人で依頼をこなす事が多い一匹狼。
こう書くと冷たく非社交的に感じるかもしれないが、そこそこ気のいいヤツだ。
たまに酒を飲み交わしていたが、何故一人で行動してるかまでは聞いた事ねぇな。
彼は驚きと戸惑いで立ち尽くしていたが、
「一体何がどうなった……? …色々聞きたいトコだが、立ったままじゃ周りから注目浴びるな。相席していいかい?」
そう言って、さっきからフレデリックを警戒しているのか、睨みつけているメリゼへと許可を求めた。
「ええ。」と短く答えたメリゼの対面、つまり俺の隣へと、フレデリックは腰掛けた。
そしてメリゼは、フレデリックに言葉を投げかけた。――ただし、今までとは違う言語で、だ。
この辺りでは使われていない言葉だ。『魔法使い』として込み入った話をするにあたって、そのままでは危ないと踏んだのだろう。
「この言葉は分かるかしら?」
「あぁ、分かるよ。」
「おれもわかるぞ」
俺も理解できる。伊達に様々な所を冒険しちゃいない。
「良かった。……それで、あなたは何者なのかしら?」
「『魔法使い』の冒険者さ。剣も使えるけどね」
「なにぃ!」
俺は思わず声を上げた。『魔法使い』!?
32
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/14(土) 12:21:07
俺の驚愕の声に、フレデリックはアッサリと答えた。
「そりゃ『魔法使い』です。なんて言えないだろ? 結構いるぜ? 『魔術師』って事にしてる『魔法使い』って」
おさらいしとくが、『魔法使い』は少数派の魔法の使い手で、多数派の『魔術師』と呼ばれる魔法の使い手が知らない魔法を知っている。…が、それ故、狙われたりする。
だから、フレデリックの言葉は理に適っている。けど、ヤツがそうだとはな。
「んで、察するにお嬢さんも『魔法使い』で、ガンツに呪いをかけたってトコか」
「……ええ、そうよ。」
相変わらず、メリゼはフレデリックを睨んでいる。そこまで理解して、知り合いに呪いをかけている事までバレたのだ。警戒しない方がおかしい。
だが、フレデリックは肩を竦めて、気楽な態度だ。
「そう警戒しないでくれよ。君をどうこうするつもりは無いんだからさ」
「どーだか。アンタも冒険者なら、私を捕まえたらお金になるのは分かってるんでしょ?」
「同じ『魔法使い』と戦いたくないね。…なんなら、お互いに秘密を漏らさない、危害を加えないって契約をしてもいいよ」
この場合の『契約』とは、魔法的な事だろう。
フレデリックは言葉を続けた。
「そう言えば、こないだガンツみかけたのって『魔女』の捕獲の依頼受けてるトコだっけ。『アンタもどうだ?』って言われたな」
「……ああ。あんたがいっちょにいってくれりゃ、こうはならなかっただりょうさ」
俺は恨みがましげに答える。
だが、ヤツは『ぷっ』と俺の言葉を聞いて笑いやがった。
「舌っ足らずだなぁ。なんかかわいい」
「うるちぇえ!」
「だけど、俺は『魔法使い』とは戦いたくないからな。……だから、一人で冒険してんだ」
フレデリックは、真面目な態度でそう言った。
一人で冒険するのは難しい。大抵は気の合う仲間と数人で冒険するものだ。
俺やフレデリックのような、普段は一人で、場合によっては一時的なパーティを組むヤツは珍しい。
……だって、冒険者なんざ、ならず者や傭兵に近い人種だぜ? そんな人種で、知り合って間も無いヤツをすぐに信頼して共に旅できるか?
それでも特定のパーティを組まないのは、仲間と歩調を合わせたり、妥協したくない『何か』があるんだろう。とは思っていた。
フレデリックの場合は、『魔法使いと戦いたくない』か。あと、多分『魔法使いの魔法を他人に見られるワケにはいかない』ってのもあるかもな。
彼は改めてメリゼに向き直る。
「だから、君が俺や、俺の知り合いに危害を加えない限り、俺も君に手を出さないよ。同じ『魔法使い』だしね」
「ガンツちゃんは?」
「ハハ。正当防衛、ってコトで」
「たちゅけてくれよ!」
まぁ、向こうからすりゃそんな義理は無い。薄っぺらい関係だが。
フレデリックは、そんな俺の口を塞ぐ様に、俺のほっぺたをひっぱってきた。
「い・や・だ・ね。『魔女』を襲ったんだ。蛙とかに変えられなかっただけでもマシだろ? ……そんな魔法、使えるのか知らんけど」
「……。」
「しっかしまぁ、可愛くなっちゃってまぁ。ガンツにもこんな可愛い頃があったんだねぇ」
「うぜぇ!」
今度は頭を撫でるフレデリックに、完璧に不機嫌な俺は、腕でそれを払った。
その時、店員が戻って来た。料理を持ってきて、だ。
「お待たせしました。トマトのパスタと、お子様ランチでございます」
……よりによってこのタイミングでか!
俺の目の前に置かれる、『お子様ランチ』。
それに、フレデリックがまた小さく笑った。
「わりゃうな! めりぜがかってにたのんだんだ」
「悪い悪い! にしても本当にガンツ……なんだよな?」
「……ああ。」
認めたくないけれどな。
それに……コイツとは、ある程度対等だと思っていた。
お互い基本一人で冒険する人間で、それ相応の実力があり、たまに『どっちが強いのか』なんて周りが気にする事もあった。
まぁ、お互い金にならないのだから勝負なんかしないし、精々、たまたま同じ獲物をとり合いになる事があったくらいだし、酒を飲み交わしたりもした事もある。
それが今じゃコレだ。
俺の姿がガキで、目の前にはお子様ランチが置かれた状況を、フレデリックが笑ってやがる。
「もういいだりょ。いけよ。」
「そうだな。これ以上アンタを不機嫌にするのも悪いし、別席で食うか」
それからフレデリックは、メリゼと連絡先を教え合ってから、店の遠くの席へと移動した。
さっき言ってた『契約』とやらを実行する場所がいるんだろうな。
俺は黙って、お子様ランチを、ちっちゃいスプーンで食べた。
不機嫌なのもあって、全然うまくねぇ。
33
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/14(土) 12:31:31
今週の週末は暇なので、第五話を早めに上げられました。
新しい登場人物を一気に増やしたのは、参加型企画のためです。
こんな感じで登場人物を作れますよ〜。みたいな。
まぁ本編に登場する彼らを掘り下げるのは、もっともっと後の話になりそうですが!
ともかく、これで企画を立てる準備は出来ました。
以前よりも知り合いのキャラクターを出しやすい様に配慮したつもりです。
それはめでたいのですが、これからは小説の方は、投稿ペースが落ちたり、一話辺りが短くなると思います。
…流石にこのペースでコレはちょっとキツいですorz
>>サルド様
前作では、知り合いに会う=解決フラグでしたから、今回は対策を立てました。
『儀式の準備が整うまで数日かかる』とか言う引き延ばし案もあったんですが、更新が滞ってたので一気に終わらせてしまいました。
男のARで女の子に弄くられるため、ちょっぴり羨ましい話を目指していますw
これからはのんびり頑張っていきますねー。
>>29
様
動かしやすい&会話出来ないは小説として致命的ですね…。
一枚絵だったり、小説のオチとしては使いやすそうではありますが、それが書きやすそうです。
筆者の本当の理由は、若返らせたい好みの年齢が幼児〜小学2年生ぐらいまでで、物語的にはメリゼの意図的な所もあります。
34
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/19(木) 20:57:18
第六話 ――まほう――
俺は今、最高に不機嫌だった。
理由はもちろん、大人の姿だった頃からの知り合いに、正体を見破られた上で、レストランでお子様用の椅子に座ってお子様ランチを食っているトコなんて見られた上にからかわれたからだ。
対照的に、その原因を作った『魔女』メリゼは、このレストランのパスタに満足したのか、ご機嫌な様子だ。
「美味しかったねぇ。ガンツちゃんがいい店知ってて良かったわぁ。…あ、食後の飲み物何にいい?」
そう言って俺にメニューを差し出してくる。てっきり勝手にジュースでも頼むのかと思っていたが、選ばせてくれるなら素直に答える。
「こうちゃ」
不機嫌だが、昼間っから酒は飲まない。っつーか絶対に止められるしな。
メリゼは、店員を呼びとめて、紅茶を二つ注文した。
……あぁ、もう店を出たら、大声で助けを呼んじまうか。この女を誘拐犯だという事にでもして。
そうすりゃ、メリゼからは解放されるだろ。
あるいは『それ』すらも制約の魔法で封じられているかもしれないが、試してみてもいいと思えた。
だが、それだと俺の呪いは解けないままだ。家族のいない子供として、孤児院送りか。…それは得策ではないと、理性で押しとどめる。
店員が持ってきた紅茶が、俺とメリゼの前に置かれる。
俺は一杯だけ砂糖を入れて、紅茶に口を付けた。
「あぢっ!?」
想像以上に熱い茶、いや、ガキの俺が猫舌だった。一口飲んだだけで、口の中が火傷しそうで、思わずカップを取り落としちまう。
テーブルがビチャビチャになり、子供用の椅子から落ちない様に、ベルトで拘束されていた俺の服も濡れていく。
メリゼと、近くの店員が慌てて俺の方へと来る。
「わわ! ガンツちゃん大丈夫!?」
「大丈夫ですか!?」
口の中で熱いモンは、体に触れても熱い。大丈夫じゃない。俺は思わず拘束された状態で、手足をバタつかせた。
テーブルを挟んだ位置に座るメリゼは、おしぼりでテーブルを拭き、俺にこれ以上お茶がかからない様にする。
慌ててやって来た店員が、タオルで俺の服を拭く。
やっとこさ、熱いのも収まって、俺は落ち着きを取り戻した。
だが、ズボンの濡れは、まるでお漏らしでもしたみてぇに見える。上の服も茶色く濡れてるから、違う様にも見えるかもしれないのが幸いだが。
……しかし、男のズボンまで給仕の娘は拭いたのか。いや、今の俺がガキだけど、なんとなく、恥ずかしい。ガキなんだから、気にするコタ、ないんだと分かるんだが。
しっかし、せっかく紅茶を飲んで気分を変えようと思ったのに、零しちまうわ、熱い茶でビショビショになっちまうわだ。今日は厄日か。
……あるいは、これから毎日が厄日か。俺は重たく、大きな溜息をついた。
「ねぇ、ガンツちゃん」
「……なんだ?」
店員が下がってから、口にしたメリゼの言葉は、フレデリックと会話した時と同じ、こことは違う異国の言葉。周りに聞かれては困る会話なのだろうかと、俺は同じ言語で返す。ただし、極めて不機嫌にだ。
だが、メリゼの言葉は、俺のそんな気分を吹き飛ばす、驚きの言葉だった。
「魔法、覚えてみない?」
「はぁ!?」
「ホントはもっと、ガンツちゃんと仲良くなってから言うつもりだったケド…、良ければ私、ガンツちゃんに魔法を教えたいの」
「…なぜだ」
「ガンツちゃんが大好きだから。……それに、奴隷でもご褒美は必要でしょ? 暇な時間は山程あるし、魔法を覚えたら、冒険者としてもますます強くなれるじゃない」
「っちゅーか、もとにもどちゅきあるのかよ」
「一応は考えてるわよぉ? ま、そのまま成長しなおすのもアリかもしんないケド、どっちみち悪い話じゃないと思うけど。どう?」
つまり、この不快な歳の離れた姉弟ごっこに付き合う代わりに魔法を教えてやる。という事か。
俺は、すぐには答えず無言で考える。
魔法っつーのは、簡単に習得できるもんじゃない。専用の教材と師匠がいて、それでもなお習得にはかなりの時間がかかるモンだ。
金も時間もかかるし、冒険者は街の外に、下手すりゃ数ヶ月も出て働く事もある商売だ。『学院』に通うなど無理だし、独学なら更に時間がかかる。
そんなら、魔物に関する知識を付けたり、剣の修行をした方がいいと諦めた。
だが、コイツに教えて貰うなら、金の心配はねぇし、確かに時間は腐る程ありそうだ。
「…いいだりょう」
別に、今すぐ戻る事を諦めたワケじゃねぇが、いつ戻れるかも分からない現状。頷いて損はねぇと見た。
頷きを素直にとったのか、メリゼは飛び跳ねそうな程に喜んだ。
「やったっ! そうと決まれば、ここから出ましょ!」
メリゼと俺は、席を立って会計を済ませた。
35
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/19(木) 21:04:13
だが、レストランを出てからも俺の受難は続いた。
お茶、零しちまったろ? ズボンの前とか、思いっきり濡れてるだろ??
まるで、お漏らしでもしちまったみてぇに。
俺は柄にも無く、ホントのガキみてぇに、メリゼの足にしがみついて、前方からの視線から隠れる用に店を出た。
「……なぁ、まほうで『ふく』だちぇたりちねぇ?」
「ん〜、無理! 私、そんな魔法知らないし!」
あっけらかんと笑って言うなよ! こっちは恥ずかしいんだから。
「くちょ!」
「あ、待ってよガンツちゃん!」
俺は意を決して、走り出した。1秒でも早く、家に帰れる様に。
だが、この行動はかえって裏目に出た。
まず、走ると人目につく。特に幼い子供ならなおさらだ。
冷静になって考えてみりゃ、メリゼと一緒に堂々と歩いてた方が、ただの姉弟か親子連れ、で終わったのに、幼い子供が一人で走っていりゃ、嫌でも注目を浴びるってモンだ。
そして、遠い! いや、俺が遅い! たとえ走っていたとしても、この体は小さくて、足が遅い、体力もねぇ。
さらに、体のバランスも未だ分かってねぇモンだから、少し疲れて来たと感じた矢先、盛大にコケた。べちゃ、と前に倒れちまった。
「いってぇ……!!」
石畳に叩きつけられりゃ、そりゃ痛い。
……けど、幼い体じゃ余計に痛く感じた。普段、もっと痛いのを経験してるハズなのに、目が潤んできやがった。
じわ、と涙が目に溜まる。もうちょっとで、泣きだしちまいそうだ。…くそ、泣いてたまっか!
そんな時、後ろからメリゼの声がかかってきた。俺は全力で走ってたが、メリゼからしてみりゃ、ちょっとした小走り程度で追いつける速さだったらしい。
「あぁ、もう! いきなり走り出すもんだから、驚いちゃったわよ。そんなに恥ずかしい?」
「とーぜんだ」
「仕方ないわねぇ。」
「っ! な、ななななにちやがる!」
いきなり、メリゼの両腕が俺を抱きあげられた。
3歳になってまだ一日しか経ってない。軽々と体が持ち上げられる感覚に慣れてなくて、俺は驚いた。
そしてそのまま、俺は抱っこされた。
体とは逆向きで、肩ごしに後ろの風景が見える抱かれ方だ。
……確かにこれなら、前が濡れたズボンは見えないわな。
けど、
「……これはこれで、はずかちいんだが」
「気にしなくてい〜の、ガンツちゃんは今、3歳なんだから」
そう言って、俺の背中をぽんぽんと叩く。
柔らかくて、あったかい体で、優しく俺を抱きしめる。
……本当に、『魔法使い』ってだけで、ただの少女なんだなって、思う。今の体がガキだからか、少し落ち着く気がする。恥ずかしいが。
「………なぜだ?」
「んー、何が?」
「おまえは、ただのおねぇちゃんごっこがちたいだけなのか?」
「そんなワケないじゃない。……というか、昨日から何度目? この会話」
「おまえが『いみふめー』だからだよ!」
クスりと笑うメリゼに、俺はツッコミを入れる。
だがメリゼは相変わらず優しく、俺の体を抱きしめながら歩くのみだ。
「ガンツちゃんの事、大好きなの。愛してるわ。」
「……そりゃ、ガキのおれを、か?」
「んー、ガンツちゃんがぁ、私の事思い出してぇ、二度と私に剣を向けなくて、約束を思い出してくれたら、数日で戻してあげるケド?」
「いまちゅぐ、じゃないのかよ!」
「だってー、ガンツちゃんちっちゃくてかわいーんだもん。からかうと面白いし!!」
「おいっ!」
ぎゅう、と俺の事を嬉しそうに、楽しそうに抱き締めて来たメリゼを、俺はツッコミと反抗を兼ねて、小さな手でペチペチと背中を叩く。
メリゼは、またぎゅっと俺を抱きしめた。
「大好きだよ。ガンツちゃん」
……なんなんだ。本当に。
家に帰ってから、ゴロ寝をしながら、俺は考えた。
『魔法使い』の知り合いはいない。となればおそらく、フレデリックが言ってた様な、『隠れ魔法使い』だったのだろう。
だとしても、知り合いに『金が無いから』って理由で、知り合いに剣を向ける程、俺は腐っちゃいねぇ。
……となれば、本当に俺は忘れてて、しかもメリゼは俺の事が好き?
冒険者時代、感謝されたりした記憶はそれなりにある。村を脅かすゴブリンの討伐とか、行商人の護衛で山賊を撃退したとか。……もちろん暗殺とか、裏の商人の護衛とか、汚い仕事もやったが。
……その中の、一人か? 誰だ?
それとも、冒険者になる前かもしれない。そうなりゃ、全く思い出せる自信はねぇ。
俺は頭をかきむしった。ずっと考え事してたら頭が痛くなる。今日、メリゼとの出会いを思い出すのを諦めた。
36
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/19(木) 21:07:48
第六話投稿しました。
これからは、外伝とこちら、共に1週間に一度くらい更新できたらなって思います。
シャルロットちゃんの時は、サラサラ投稿したり、長らくお待たせしてしまったりしたので、こっちでは出来るだけ定期的な更新を心がけたいです。
しかし外伝では、シャルロットちゃんの時とは違って、いじめたりいじったりする様なコメントが少ないのがちょっと意外です。男の子だからかな? 精神まで幼児化していないからかな? それとも、本編自体が前作ではシャルロットちゃんが酷い目に合うだけの話だったのに対して、こっちではちょっと毛色が違うから?
とりあえず原因は分からないですが、楽しければ何でもよし! なのでのんびりやっていこうと思います。
37
:
サルド
:2012/01/19(木) 22:31:05
6話拝見しました。
はい、可愛いですね。
自分は男ですけど、男の子は女の子以上に可愛いと思います。
後、個人的にいじめたりいじったり系の質問するようなSではないので(いや、リアクションは好きですよ?)
そういうのは他の方に任せて、自分はふつーに質問しようと思います。
38
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/28(土) 09:11:51
第七話 ――おとなりさん――
引っ越しをした翌日、俺とメリゼは、部屋のリビングで丁度、朝メシを食い終わった頃、コンコン、と玄関がノックされる音が聞こえた。
「はーいっ! ……なんだろ? ガンツちゃん、いこ?」
と、メリゼが答え、俺の手を引いて、玄関へと向かう。
別に、俺が付いて行く意味はねぇ気がすんだが……拒む理由も特に見当たらねぇし、とりあえず手を引かれるままに、玄関へと向かって行った。
ガチャリと、玄関を開けると、そこにいたのは、黒髪の三人。
昨日挨拶した、隣の三人姉弟だ。
一番姉の、冒険者もやっているアリーゼが、まずは元気よく挨拶した。
「おはようございますっ! メリゼさんにガンツちゃん。……って、あら? ガンツくん、今日の髪型カッコいいね」
「……ああ」
俺は小さく呟くように返事する。「ああ」じゃ可笑しいかもしれないが、子供っぽく「うんっ!」と返事するには、大人としての意思を捨てられてねぇ。
まぁ、メリゼのすぐそばで縮こまってりゃ、人見知りなのかな? 程度で終わるだろう。
ちなみに、今日の俺は、自分で、いつもの(大人の時の)髪型だ。昨日みたく、勝手にお坊ちゃんな感じの髪型にされたんじゃ気分がしまらねぇからな。……このガキの体じゃ、どんな髪型でも『カッコいい』感じにならねぇんだが。
メリゼが、アリーゼに挨拶を返す。
「おはよう。アリーゼさん。こんな朝早くから、どうかしたの?」
「あっ、はい! 朝早くから迷惑かなって思ったんですけど、まだ色々この街の事とか…ゴミ出しの日とか場所とか…分かんない事があるんじゃないかって思って、良ければ案内とか、どうでしょう?」
「えっ? うーん……。そうね。お願いしようかな?」
メリゼは少し考えてから、頷いた。
……俺がいるから、そこら辺は必要ないんじゃないかって? 確かに俺はこの街を冒険の拠点にしてた事もあったが、基本宿をとってたんで、ゴミ出しの日とか、細かい日用品を売ってる店までは分からないから、確かに助かる。
アリーゼは、「やったっ!」と小さくガッツポーズをとって、歳の離れた妹と弟を見下ろし、声をかけた。
「やったね。イリス、ウル。ガンツくんと仲良くね」
……ああ、なるほど。妹と弟を連れているのは、ガキ同士の親睦も一緒に深めようって魂胆か。
俺は面倒くさそうに後ろ頭をガリガリとかいた。……ガキのふり、しなきゃダメか? 10歳のイリスはともかく、5歳のウルよりも小さな俺。…素を出してりゃ、すぐに不自然に思われそうだし、だからってコイツらに話を合わせられる自信もねぇ。
どうしたモンかと、俺は頭を抱えたくなったが……ふと、まてよ? と思い立った。
俺が変だったりなんだったりして困るのは、むしろ俺じゃなくってメリゼなワケで。
ついでに外で、知り合いと一緒なら流石にメリゼも俺をいきなり赤ん坊に変えたりとか、魔法で罰を与えられないワケで。
俺が、他のガキ共とどういう態度で接するべきか、なんて悩みは、まだ正解が見えてこねぇが、今までのうっぷんの何分の一かはメリゼに仕返しできるチャンスだと見て、俺はにやりと、ひとりコッソリと邪悪な笑みを浮かべた。
こりゃあ、チャンスだ。と。
39
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/01/28(土) 09:18:02
すみません、7話はまだ途中です。
定期的な更新を心がけるつもりが、いきなり躓いているよ自分……。OTL
調子が悪くなるとガタガタになるタチなのはなんとかしたいですが、とりあえず生存報告&レス返しを兼ねて。
>>サルド様
男の子、可愛いですよね。幼児と呼べる歳の男の子には、女の子とは違った趣の可愛さがあると思います。本当。
いじめたり…との事ですが、トランプは掲示板上難しいと感じたので、ああいう形になってしまいました。
いじる系に誘導する様な形ですが、ケモ耳とか変にいじりたくなかったら、適当にガンツ君に似合いそうな可愛い服でもメリゼに注文してやって下さい。
40
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/02/01(水) 23:24:47
さて、チャンスはいいんだが、どーしたモンか。
俺はメリゼに手を引かれて歩きながら、そんな事を考えていた。
お隣さんの街の案内。メリゼに恥かかせるにゃ絶好のチャンスとはいえ、具体案は今んトコ何も無い。
単に「うんこー」とか下品な言葉を言いまくるだけでも効果的ではあるんだろうが……あいにく、そこまでガキになりきれる程プライドを捨てちゃいねぇ。
「ガンツちゃーんっ。疲れたら抱っこしてあげるから、遠慮なく言ってね♪」
「いらね」
そんなご機嫌なメリゼの声が降ってくるが、俺はつっけんどんに返す。誰が世話になるかってんだ。
続けて高い位置から聞こえる声は、街の案内をかってでた、お隣さんの長女、アリーゼだ。
「えっとー、まずはゴミ出しの場所と、商店街と、それから、この子たちが遊べそうな場所、かなぁ。公園とか、色々あるケド」
最後は、俺と、アリーゼ本人が手を引いている妹と弟を見下ろしながらだ。子供たちの親睦会も兼ねての道案内なのだろう。俺は、ガキ共相手にどう接すりゃいいのか分からねぇが。
「あ、そうそう。良かったら公衆浴場の場所も教えてくれない? 昨日の引っ越しで、汗かいちゃって、でも疲れたから寝ちゃったんだよねぇ〜」
「あ、まだ知らなかったんだ? それなら、商店街にあるよ」
さらりと言うアリーゼの返答。しかし、わざわざ浴場の場所を聞く辺りで、メリゼがニヤリ、と笑ったのを俺は見逃さなかった。
……また俺をオモチャにする気か。
俺は引っ越し前、メリゼに無理矢理、一緒に風呂に入れられたのを思い出して…柔らかい肌の感触とか、色々思い出して、顔が赤くなるのを感じた。そしてそれを振り払う様に、首をぶんぶんと振り回す。
くそったれ。この機会に、何分の一かでも、うっぷんを晴らしてやる!
……残念ながら、ゴミ捨て場では特に変わった事したワケじゃねぇから、パスさせてもらうぜ。
まぁ、しいて言うなら、アリーゼんトコの末の弟…ウルだったか?
そいつが「つまんないー。早く別の場所いこー!」ってギャーギャーうっさかったぐらいだな。…リアルガキの凄さっつーか、やかましさを実感したぐらいだ。
さて、そんなこんなでゴミ捨て場経由して、商店街についた…ワケだが…。
「はぁ…はぁ…。」
こ、この体、体力ねぇ!
三歳児にとってみりゃ、結構な距離を歩いた感じだ。
体力がねぇ。歩幅もねぇ。メリゼもアリーゼも、俺たちガキ共の足に合わせているのか、随分とゆっくり歩いていたみたいだが、それでも俺からしちゃ、普通に歩いてるつもりだったのに、もう疲れが見えてきやがった。
アリーゼの妹の、10歳のイリスはともかく、5歳程度のウルにしたって、まだまだ元気元気! と言った風なのに、たかが2歳程度の差で、ここまで体力に差が出るもんか? …いや、5歳の半分とちょっとの体だから、この差は当然っちゃ当然なのか?
イリスが、軽やかな足取りで、俺の前までやってくる。
大人が手を繋がなくていい年齢で、ある意味大人たちよりも元気な様子だ。そして、俺を心配そうに語りかけてくる。
「ガンツくん、だいじょうぶ? まだ、歩ける?」
「だ、だいじょうぶっ…!」
自分よりもはるかに幼いはずの少女に、上から語りかけられるこの光景。しかも心配されてると来たもんだ。
不思議な感覚だが、思わず大丈夫と答えちまうのは、大人の意地か。咄嗟に答えちまう。
アリーゼに手を繋がれている、ウルからも、声がした。
「ムリすんなよー」
「だいじょうぶだっちゅのっ!」
流石に五歳児には言われたくねぇ!
俺は、気合いを入れて、努めて足を引きずらない様に歩きだした。
……と、そんな風に、俺が大人たちに遅れをとらない様に、張りきって歩きだして少しした時だった。
俺は異変を感じて、立ち止まった。
つられてメリゼも立ち止まり、アリーゼたちも、何かあったのかと、俺の方を見る。
俺は…俺だって、こんな事はあんま言いたくないし、微妙に恥ずかしいんだが、……言わなきゃいけない事だ。
「アリーゼおねえちゃん、『といれ』、どこ?」
……見習い冒険者で、はるかに年下にすぎないハズの彼女を『お姉ちゃん』と呼ぶのには違和感があるが、これは由々しき事態だった。
41
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/02/01(水) 23:25:23
ヤバい、ヤバいヤバい!
出先でトイレ、しかもお隣さんと一緒に外出中で、とは。
このままトイレが間に合わなかったら、メリゼに恥をかかせるどころか、俺が赤っ恥だ。
引っ越して一日で、お漏らし小僧の印象をお隣さんに与えちまうなんて冗談じゃねーぞっ!
俺はアリーゼから、トイレの場所を聞いたら、一目散に走って行こうとした、が。
疲れているのもあるし、トイレが遠いのもある。そして何よりも、この体はトイレに耐える事すら、大した力を発揮できねぇのか!
すぐに、もう、なんつぅか、我慢が効かなくなって、もじもじと足を動かして、ゆっくりとしか歩けなくなっちまった。
ヤバい。とゆーか、もうすでに手遅れ。トイレははるか遠くで、俺はもう走る事すら出来ない程に限界にきている。
もう無駄だと分かっていても、我慢は解かない。限界まで、耐えるつもりだった俺の体が、ふと、誰かに持ち上げられた。
メリゼだ。メリゼが、俺の体を掴んで、必死に走っているのか、持ち上げられた俺の体が揺れる。
幼い三歳の体で、おしっこに耐えながらでははるか遠くにあった、公衆トイレは、メリゼの足では数十秒程で辿りつき、その前で俺の体は降ろされた。
メリゼを見上げて見れば、全力で走ったのだろう。髪が乱れているし、ぜーぜーと荒い息を立てている。
だが、俺の股間だって限界だ。それを観察したり、何か言ったりする余裕なんてねぇ。
俺は、急いでトイレに駆け込んだ。
俺がトイレから戻ると、近くにあった椅子で、メリゼたちは体を休めていた。
全力疾走をしたメリゼは元より、それを追いかける形になった、アリーゼたち三姉弟も、それなりの疲れてるのか、それとも、単に座る場所があったから座ってるだけか?
ともあれ、俺が戻ってきたのを見て、アリーゼが声を上げた。
「あっ。ガンツくん。…間にあった?」
「……うん。」
トイレの話なんざ、あんましたくねぇが、素直に頷いた。
良かった、とメリゼとアリーゼが息を吐く。…それなりに、心配をかけちまったんだな。
再び、道案内のために、立ち上がって歩きだそうとする彼女たち。
俺は、メリゼにそっと手を繋ぎながら、ぽつりと、喋りかけた。
「その、めりぜ………すまねぇ」
「…。」
メリゼは、謝られると思って無かったのか、きょとんとした顔をした後、すぐににんまりと、まさしく『魔女』の様な悪戯な笑みを浮かべて、俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「違うんでしょ〜。ガンツちゃん。こういう時は『ありがとう』よ」
「……どっちだって、いっちょだろ」
「違うわよ〜全然違う! 反対の意味じゃない。『すまない』って謝罪でしょ??」
なんて、指を一本、ピンと立てて、まるで説教するみてぇに喋り出しやがった。
……まぁ、なんだ。
必死に困らせてやろうと思ったが、俺のために全力で走って、すげぇ疲れた様子のメリゼの顔を思い出して、今日の所は、迷惑をかけて思いっきり恥をかかせてやろう、なんて計画は、引っ込めといてやるよ。
42
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2012/02/01(水) 23:29:07
はい。更新がぶつ切りになってしまいましたが、これにて七話は終わりでございます。
とりあえず、私は好調・不調の差が激しいので、定期的な更新は難しいやもしれませんが、とりあえず、外伝企画の方は、毎週月・火のどちらかに更新していこうと思っています。生存報告も兼ねて。
誰も投稿してなかったら、ガンツ君の一言呟きや、ファッションショー的な、極々短いトークだけするつもりです。それを見て、ガンツ君にちょっかい出したいと思える方が出てくるといいなぁ……的な希望も込めて(何)
あまりにもそればっかになったら、企画を畳むかもしれませんけど。そうならない事を祈ってます^^;
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