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理想のヒト(仮)

1Long Song:2009/07/03(金) 18:57:58
予想に反して続いてしまったので、スレッドを立てさせていただきます。
やはりヒドイ出来かもしれませんが、ご容赦ください。
題名もピンとくるものが思いつけないので、これで……orz

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 それは全くの偶然。
 一学期の最終日、いつもは通らない道を通り、いつもは決してしない寄り道をして、家へ帰った。
 空はすっかり暗くなり、むしむしする熱帯夜。
 煌々と灯る街燈に無数の虫が群がる、不快な夜。

 不快の理由は何も気候のせいだけではない。
 何とか赤点を免れただけの、低空飛行を続ける数字たちの並んだ通知表。
 夏休みを有名無実化する、膨大な量の夏季課題。
 加えて、口うるさい担任からの親展の封筒、一時間あまりの御小言付。

 自分でも思う。
 僕は、人で好かれる質ではない。
 身長は低いし、ガリガリに痩せ細っている。
 勉強も出来なければ、スポーツも苦手。
 本を読むこと以外は取り立てて趣味もない。

 担任教諭も、僕を扱いかねていることがよく分かる。 

「成績が良くないのは構わな……いや、構うんだが……」

 中学の時からそうだった。
 こういうセリフの後は、絶対にこう繋がる。

「もっと、皆と仲良く出来ないか?」

 僕の中に、とりたててクラスメイトと不仲という認識はない。
 でも、誰一人として僕に話しかけてくる人間はいない。
 それが自分自身の性格によるものだということも、よく理解している。

 僕は人と話すのが苦手だし、鏡を見たって褒められた見た目でないことは分かる。
 趣味は読書だけだから皆とは話が合いにくいし、テレビも見ない。

 そして一番の問題は……人が怖いということだ。

「まぁ、休まず学校も来ているし、それはそれで個性だからな。
 悪いとは言わないが、友達は良いものだぞ?
 この夏休みを利用して、誰かと遊びに行くのも良いかもしれないぞ?」

「……頑張ります」

 口うるさいとは言ったが、担任教諭の中尾は何かにつけて、僕に声を掛けてくれる。
 背は普通か若干低め、体系もどちらかと言えば痩せ気味で、僕と似た体格の若い教諭だ。
 担当教科は現代国語で、アウトドアよりもインドア派であることが、白い肌からも分かる。
 
 けれど、彼は明るく笑い、生徒からも人気のある、僕とは正反対の性格だった。

 僕は……彼に憧れていた。
 彼のような人間になりたいと思っている。
 それと同時に、憎くも思う。

 どうして彼と僕には、これほどにも差があるのだろうかと。
 どうして彼と僕は似ているのに、彼と僕は似ていないのだろうかと。

「ま、事故に遭わないように、楽しい夏休みを過ごしてこいよ。
 来学期、元気な姿をみせてくれ」

「……はい」

 学校を出て、いつもなら一直線に帰宅するはずが、その日はどうしてもその気になれなかった。
 胸がモヤモヤした。
 軽い腹立ちを覚えていたのかもしれない。

 そして僕は……馴染みの本屋で思う様、立ち読みをした。
 僕に出来るのは、その程度のことだった……。

 胸のモヤモヤが晴れなくて、本屋を追い出されるように出てからも、僕は町を徘徊した。
 家に帰ったところで、どうせ誰もいないのだから……。
 一人息子が何処で何をしているかよりも、それぞれの愛人が気になって仕方がないのだ。
 とがめだてされることもない……というより、そもそも、僕が家にいないことすら知らないだろう。

(もう、消えてしまいたいなぁ……)

 ぼんやりと、そんなことを考えながら歩いていた。
 人気のない路地。
 あと数分で家に着くという所。
 時刻は10時過ぎ。

(補導でもされれば、両親は来るだろうか?)

 いや、来ないな。
 馬鹿げた自問に自答した時、突然風が吹いた。
 僕の顔面に、何か紙のようなものが叩きつけられた。

(今日は厄日かな……)

 顔から引き剥がしてみてみると、それは広告だった。
 
『アナタの理想のヒト、お届けしますっ!』

2Long Song:2009/07/03(金) 18:59:21
「ただいま〜っと……」

 おかえり、とは返ってこない。
 当然だ。
 今、僕が鍵を開けるまで、この家には誰もいなかったのだから。

 いつものことなので慣れてしまっているが、それはそれで悲しいことなのかもしれない。

「………」

 リビングに入れば、これまたいつも通り、テーブルに一万円札とデリバリーチェーンのメニューがばら撒かれている。
 置かれているのではない、ばら撒かれているのだ。
 それすら煩わしいと言わんばかりに乱雑に積み重ねられたメニューの中から、ピザ屋のメニューを取り出した。
 写真だけ見て、適当にお腹の膨れそうなものを注文する。

 注文の電話を切り、すぐに自室に籠った。
 机の上に、さっき拾った……顔にぶつかってきたチラシを広げる。

『アナタの理想のヒト、お届けしますっ!』

 表題だけで胡散臭い。
 白無地の、市販されているA4のコピー用紙に、とってつけたようなゴシック体の黒文字が躍っている。
 町内会の催し物のチラシにしたって、ここまで粗末なものはないだろう。

(理想のヒト、ねぇ……)

 不思議と気になって、書かれている文章を読んでいくと、こんな感じだ。

・チラシに書かれている設問の答えを付属の用紙に記入し、キリトリ線で切り取る。
・切り取った用紙を封筒に入れて、書かれている住所に送る。
・すると数日後に、記入した"理想のヒトのタネ"が送られてくる。

 要約してみると、尚更に胡散臭いし、馬鹿げている。
 大体、"理想のヒトのタネ"とは何なのか?
 そしてこの住所は、本当に実在するものなのだろうか?

 そうは思った。
 けれど、その時の僕は不思議と、一笑に付してゴミ箱へ捨てる気にはならなかった。
 気がつけば、記入欄にボールペンで書き込み始めている自分がいた。

 最初の設問……。

『自分と"理想のヒト"との関係は?』

 関係……か。
 何が良いのだろう。
 設問の横に例として、『父・母・兄・姉・弟・妹・息子・娘etc...』と書いてある。

 なるほど、自分が望む関係の人間……"理想のヒト"というわけか……。

 例はどれもピンと来なかった。
 というよりも、書いてあるものを安易に選びたくないとも考えたのかもしれない。
 僕はペンに導かれるまま、二文字の言葉を記入した。

『彼女』

 どうして『友達』と書かなかったのかは分からない。
 もし、このチラシがただの悪戯だったとしても、損をするのは精々が切手代と封筒代程度。
 なら、思いっきり高望みをしてみても良いかもしれない。
 そんな風に思ったのかもしれない。

 僕は人と話すのが苦手で、勿論、女の子と話すのも苦手で……。
 人に誇れる特技もないし、読書が好きと言っても、国語系科目の成績は芳しくない。
 我ながら情けなくなるほど、女の子にモテる要素は皆無だった。

 彼女どころか、ガールフレンドすらいたことがない。
 少なくとも、物心ついてからは……。

 いっそのこと、そんな自分を嘲る為の『彼女』だったのかもしれない。

 あとの設問には、かえって真面目に答えてみた。
 僕と同い年で、身長は僕より少し低くて、御淑やかで優しくて……。
 料理や裁縫が出来て、綺麗な黒のロングヘアで、スタイルも良くて……。

 思いつく限りの理想の女の子を思い描いた。
 女の子と話も出来ない僕だけど、人並み以上に興味はある。
 クラスの胸の大きな女子を、本を読むふりをしながら横目で追いかけることもある。

 書き終えたら、すぐに投函した。
 ちゃんと量っていないけれど、100円切手を貼っておけば届くだろう。
 一週間待って何も送られてこなければ、馬鹿な自分を嘲笑すればいい。
 そして、いつもの年と変わらない、一人だけの夏休みを過ごせばいい。

 そんな風に思いながら、ポストに封筒を突っ込んだ。

3Long Song:2009/07/03(金) 19:00:27
 数日後。
 僕はインターホンの音に目を覚ました。
 身体が怠くて仕方がない。
 昨晩、それどころか空が白み始める頃まで読書に熱中していたのだから、当然と言えば当然か……。

 どうにも起き上がるのが煩わしくて、僕は居留守を決め込むことにした。
 どうせ、新聞か何かの勧誘、もしくは郵便の配達だろう。
 前者なら相手にするのも面倒……結局のところ、押し切られて契約をさせられたこともある。
 後者なら、起きてから電話で呼び出せば良い。
 音声ガイダンスなら、僕にも問題なく出来る。

 薄掛けを頭まで被って目を閉じた。
 そのうち、諦めて帰るだろう。

 ところが……。

 ピンポーン。
 ピンポーン…。
 ピンポーン……。

 ベルの音は鳴り止むことなく、むしろ、そんなはずはないというのに、段々と大きくなってくるような気さえする。
 多少しつこい訪問者は今までにもいた。
 ……契約を取られた新聞販売員も、その一人なのだけれど。
 そういう人間は呼び鈴を鳴らすタイミングが段々と短くなるか、とても良識のある大人とは思えない連打で攻めてくるのが常だった。

 しかし、今回は違った。
 一定の間隔を守りながら、一回一回、ベルは鳴らされていく。
 試しに、枕元の時計で計ってみると、きっかり十秒。
 寸分の狂いもない。

 ピンポーン。
 ピンポーンっ。
 ピンポーンっ!
 
 その間もインターホンは鳴らされ続けた。
 そして僕は……白旗を揚げた。

「は〜い……?」

 僕は恐る恐る言った。
 五分近く、夏の暑さの中に立たせていたのだ。
 しかも居留守だったと知れば、相手が怒っても無理はない。

 玄関扉の覗き穴から外を見てみれば、この暑い盛りだというのに真っ黒な宅配便のユニホームに身を包んだ、
 身の丈二メートルはあるのではないかと思える程の大柄な男が、何か箱のようなものを脇に抱えながら立ち尽くしていた。
 帽子の鍔の影になっていて顔はよく見えないが、眼光鋭い双眸が、僕を射抜くようにこちらを見つめている。

(………っ)

 思わず、後ずさってしまう。
 僕が覗いていることなど分かるはずがないのに、その視線は確実に僕を捉えていたように思える。
 怒っているかどうかは伺い知れないが、とても僕の手に負える相手ではない……。

 ピンポーン。

 自室へ逃げ帰ろうとした僕を見透かしたように、再び鳴らされるインターホン。
 観念するしかなさそうだ……。
 意を決して、扉を開けた。

「す、す、す、すみませっ……、お、おま、おま、おまたっ……」
「稗田慧様、ですね?」

 どもって言い切れない内に、黒服の男は言った。
 低く響くバスの声は言い知れぬ迫力を持っていたが、怒気は感じられなかった。

 稗田慧(ひえださとる)。

 男の発した言葉が、僕自身の名前であることに気がつくまで、数秒を要した。
 確かに僕は、そんな記号で呼称される人間だった。
 もっとも、その固有名詞を口にするのは担任教諭の中尾ぐらいのもので、彼にしても苗字で呼ぶだけだ。
 苗字は僕だけの物ではなく、もう何ヶ月も顔を合わせていない両親の物でもあった。


 世界にたった一人の人間しか存在しないのであれば、名前も言葉も必要ない。

 何かの本に書いてあった言葉。
 それは真理に違いない。
 独りの僕に、僕の名前は必要ないのだから。

4Long Song:2009/07/03(金) 19:01:09
「稗田慧様、ですね?」

 再び響くバス。
 再び、夏の蒸し暑い空気を揺らす、僕の名前。
 ……少なくとも、今この時だけは、僕は一人ではなかった。
 一緒にいる人物が、僕にとって好ましいものかどうかは別として……。

 目の前に聳え立つ黒い影。
 近距離で漸く確認できた顔は、僕のはるか上空にあるような錯覚を覚える。
 本当に二メートル以上もあるのではなかろうか……。
 太い眉、高い鼻。
 全体的に彫りの深い顔立ちは美男子と呼ぶには当たらないが、美丈夫と呼ぶに相応しい。
 その中で一際光る、鋭利な刃物を想起させる鋭い目。

 目を合わせているだけで身震いするほどの威圧感。
 すぐにでも目を背けてしまいたかった。
 けれど、目を背けることにも恐怖を感じられた。

「稗田慧様、ですね?」

 三度紡ぎ出される、僕の名前。
 僕の心までも見透かすように見つめる切れ長の目は、無表情を通り越し、無機質なまでに、精神のさざ波を微塵も感じさせない。

(もしかして……)

 恐怖に占領されているはずの頭脳は、僕自身の制御を超えて回転を続ける。
 そして、一つの仮説を提示する。

(この男は、ロボットか何かでは?)

 有り得ない。
 勝手に頭に浮かんできた愚にもつかない仮説を、僕は否定しようと試みた。
 が、この暑い夏の昼日中に、全身黒ずくめで立っているにも関わらず汗一つかかずに聳え立つ巨大な黒い壁がそれを遮る。
 その姿を喩えるに適切な名詞までもが、非条理で非科学的な仮説を肯定させようとする。

 そう。
 顔も服装も違うが、男の姿はまるで映画から飛び出したターミネーターそのものだった。

「は、はひっ!?」

 男の問いに返答したのではない。
 ただ、彼が小脇に抱える荷物が拳銃や爆発物、化学兵器等の危険物である可能性に思い至っただけだ。
 これとても、本能的な脊髄反射であって、それすら声が裏返るのが情けない……。

 しかも、この危惧は杞憂に終わることになる。

「お届け物です」

 僕の奇妙な悲鳴を返答と取ったのか、長身の男は抱えていた箱を目の前に差し出した。
 それは幅一メートル弱の、大きな直方体のダンボール箱だった。
 目の前の巨漢だから脇に抱えられるのであって、僕では両手で抱えなければならない。

 それに、雰囲気だけでかなりの重量を誇っていることが分かる。
 その証拠に僕が手を差し出そうとすると、首を微かに横に振り、それを制した。

「中までお持ちいたします。よろしいですか?」
「は、はひ……」

 有無を言わせぬ男の口調に、僕はまた反射的に、声を裏返らせながら答えた。

5名無しなメルモ:2009/07/03(金) 21:32:07
スレ立てありがとうございます。
文章読みやすいですよ、全然ひどくないです。
AR・AP期待してますので頑張って下さいね!

6Long Song:2009/07/13(月) 03:07:49
 黒服の男が玄関を、身を屈めるようにして入ってくる。
 それをただ茫然と見つめながら、僕は後悔していた。
 本当に、この男を家に上げてしまって良かったのだろうかと。

 僕宛という荷物は確かに大きくて、男は軽々と持っているように見えるが、相当に重いのかもしれない。
 どう贔屓目に見ても"貧弱"の部類に入る僕には、とても持ち運べないものなのかもしれない。

 けれど、現時点で僕は、この男が本当に宅配便の配送員とは思えずにいた。
 この男自身はもちろん、黒尽くめの制服なんて見たことも聞いたこともない。
 何より、荷物の送り主も明かしていない。
 箱の大きさから考えれば、家具か何か、それなりに大きなものだろう。
 そんなもの、注文した覚えもないし、送ってくる相手もいない。

「稗田慧様の、書斎はどちらでしょうか?」

 その体格に似ず、繊細な仕草で自身が脱いだ靴を綺麗に揃えてから、男は尋ねた。

 今し方、無理を承知で追い出そうと伸ばしかけていた両手を、慌てて引っ込める。
 男はそれを気にする風もなく、僕の返答を待つようにジッと見据えてくる。

 書斎……というより、つまりは自室のことだろう。
 これもまた、妙な話である。
 普通の宅配便であれば、玄関先まで運んで帰るはずである。
 当然、靴を脱いで上がりこむ必要などない。

 靴を脱ぐ背中を見守りながら、その疑問に辿り着かなかったわけではない。
 が、それを指摘することはできなかった。

(土足で上がられなくて良かった……)

 なんてトンチンカンなことを考えながら、口をつぐんでしまったのだ。

 後から考えてみれば……。
 悪意あって我が家に押し入ったのであれば、インターホンの件から不自然過ぎた。
 僕の知る強盗の行動と反する男の行動が、僕の危機感を薄らがせてしまったのかもしれない。
 恐怖は感じるが危機を感じないという、二律相反な精神状態が僕を混乱させたのだろうか。

 最初に男を見た瞬間から、少しずつ男への恐怖も弱まっていくのを感じていた。

「自室……ですか?
 リビングの方が……」

 小さい声ながら、何とか疑問を言葉にできたことに安堵する。
 何故だか、黒服の男は怒らないであろうという確信があった。

「ええ、理由は自室までお持ちしてから、ご説明致します」

 かくして。
 僕は、自室に珍客を招き入れることとなった。

7名無しなメルモ:2009/07/13(月) 21:45:32
作者さん更新ありがとうございます、どんな展開になるのかドキドキしながら読んでますよ。
これからも続きを頑張って下さいね。

8名無しなメルモ:2009/07/20(月) 20:49:51
どんな理想の彼女が出てくるのか楽しみです。
その彼女の能力がどんなものなのか気になりますね


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