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SS投稿スレッド(ノーマル版)第二投稿スレッド

1管理人:2006/08/03(木) 13:17:22
こちらは、SS投稿用スレッド(ノーマル版)です。

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この掲示板の利用に当たっては、SS投稿スレッド(ノーマル版)第一投稿スレッドの冒頭を熟読して下さると幸いです。

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<削除>

3あろーんさん:2007/05/06(日) 02:41:33
公園にて

 放課後、部活も終り私はいつものように公園に向かう。多分、いや絶対アイツが
待っているからだ。日も落ちかけたくらいの公園のベンチでアイツはのんびりと
座っている、あまりにぼんやりとしているので悪戯してやろうと後ろの茂みから
声をかけた。
「おーい玖月」
「うわ・・こんにちは、相田さん」
流石に三日連続だとさして驚かなくなったようだ、次のイタズラを考えた方が
よさそうだな〜。
「相田さん?」
「なんでもないっなんでも」
「ならいいんですけど・・」
私の慌てたのを何か勘違いしたのか不安になっているこの玖月葵という男は
私のクラスメートで「自称変人」な友人である。最初に会った時、玖月は
入学四日目に「自分は変人だから、近づくとこうなる」と言って前の中学で
一緒だったというクラス一可愛いといわれていた子をこき下ろして、
結果私を含めたクラスの半分以上の敵にまわしてしまうという伝説を作った。
その後「いろいろ」あって玖月を友人と呼ぶほどになるとは思わなかったが、
「で・・またなんかあったの?」
「あ、はい。実はまた失敗をして物を壊してしまって・・」
「どれくらい?」
「ガラス器具を二、三個です」
「ずいぶんハデにやったね〜。それで先生とかに怒られたの?」
「いえ、『いつものことだけど気をつけろよ』と言われました」
「じゃあいいじゃん。怒られてないのなら」
「自分としてはそれが当たり前だと思われてて悲しいです」
そう言うと玖月は俯いて小柄な体をさらに小さくさせてしまう、
落ち込んでいる玖月も悪くはないのだがそのまま暗くなっていくと止まらないので
背中を思いっきりパーンと引っ叩いてできる限り明るくいってみる、
「だったらなりなよ、それが当たり前じゃない自分にさ」
「でも、ムリですよ」
「やってダメだったらいってからいいなよ。少なくてもできると思ってるから
 言ってるのだから」
玖月はしばらく黙り込む、そして髪の毛が少し伸びていく。
「わかりました。ダメだろうけどやってみます」
「やってみな〜、でも何でもカンペキにできる玖月よりもあたふたしてるいつもの
 玖月の方が私は結構好きだけどね」
「そんなにあたふたしてないです。でも嬉しいです」
耳まで真っ赤になって照れている、よく見るとちょっと顔や手とか学生服に
隠れていないパーツが小さく可愛らしくなってきた。そんな事を観察していると
玖月がえらく真剣な顔で私を見ている、何事かと思っていると玖月が口を開いた。
「相田さん何でいつもここに来てくれるのですか?」
「うーん・・ほっとけないから。大体ここに玖月がいる時は何か悩んでる時だし」
「ありがとうございます。でも・・」
「でも・・何?」
「いつも相田さんにいろいろしてもらってるから悪いです」
「そんな事無いって。私も玖月と話しているは楽しいから」
「本当ですか?」
「本当だよ、つまんなかったらとっくに来てないって」
子犬だったらしっぽをパタパタしているだろうというくらい目をキラキラさせて
近づいてくる、もう玖月は完全に女の子になっていた。

4あろーんさん:2007/05/06(日) 02:42:17
これが最初に書いた「玖月のいろいろ」なのだ、話は半年くらい前に遡る。
放課後、試験に図書館でいろいろ調べ物した帰り自分の教室の前で誰かが泣いていた。
何事かと声を掛けたら玖月だった。声を掛けてしまったので理由を聞くと
科学部の実験で大失敗をしてしまったらしい、仕方が無いので慰めていると
徐々に変身していき女の子になってしまったのだ。これはマズイと言う事で
病院とかに行ったが理由は分からないと言う事なので全てを知ってしまった私が
自然とフォローをする事になってしまったという訳である。どうやら恥ずかしかったり
嬉しかったりすると変身するらしいのだが基本ネガティブな玖月は滅多に変身
しない、しかしフォロー役としていろいろ世話を焼いてる内に私に好意を
持ったようで最近だと普通に二人で話しているだけで変身しかけてしまうので
こうやって外で会話をしているという訳だ。まあ・・長く付き合ってみると
なかなか面白いのでこのままこうしたりするのも悪くはないと思う今日この頃だが。
「あの・・でもいつも失敗ばかりですし、変人ですし」
「そうかな、いつも頑張ってるじゃん。それに変人だってホントは違うんだろ?」
「だって変人って言ってああすればだれも攻撃してこないじゃないですか。
 それに嫌われれば皆ほっといてくれると思うし・・」
女の子になって更に身長が低くなったようで足をぶらぶらさせながらそう答える、
訂正、玖月葵という人間はズレてるとかそんなレベルの人間ではないようだ。
「あのねー・・そんな事したら目立つ事この上ないしヘタすればいじめられるよ」
「そうなんですかっ?」
「普通はね・・」
びっくりして口をパクパクさせる人間と言うのを初めて見れた事に感動しつつ
私は大きなため息を吐いた。
「だったらなおさら相田さんがこんな自分と話してくれる理由がわかりません」
「だから玖月と話したりするのがたのしーんだよ、それに可愛いしね」
「あの。えと。可愛くないですよ」
マンガとかだったら文字がでてくるくらいもじもじしている。やっぱり可愛いので
ちょっとくしゃくしゃと頭を撫ぜてしまった・・恐るべし玖月。
「あの。いきなりなんですか?」
「あんまりに可愛いから、つい・・ね」
「えと。ですから自分は可愛くないですっ」
「そうかな〜。じゃあ見てご覧」
そう言って私はカバンから鏡を出して玖月の顔を写した。
肩まで伸びたちょっと茶のかかった髪、大きくてキレイな目、ちっちゃくて可愛い口
どれをとっても可愛いを否定する事はできない。
「これでも?」
「コ・・これでもです。」
あまりにしつこく否定するので少しムキになった私は玖月の手を取って
玖月の体格の割には大きい胸をつつかせてみる。
「こんなにおっきなに胸してて可愛い顔をしてるんだからいいかげん認めなさいっ」
「あの。えと。そんな」
「それにこんなに可愛い玖月が私は大好きなんだから」
「あの。えと。だから。その。きっと。けど・・」
ぷしゅーと湯気が噴き出し玖月はゆっくりと倒れていった、どうやら恥ずかしさが
限界にきたようだ。そんなに玖月を私の膝に載せて頭を撫ぜる、気絶しているが
撫ぜられるのは嬉しいようで微笑んでいる。
「かわいーなぁ・・コイツ」
改めてそんな事を呟きこんなのも悪く無いなぁと思いつつ玖月が起きるのを
待つことにした。

8あろーんさん:2007/07/15(日) 00:06:10
2+1+1=3

まずぐらぐらと煮立っている湯の中に乾麺のうどんを入れて十分ほど待つ。
硬そうだった乾麺が湯の中で柔らかくなっていくのをじーっと見ている・・、
"まるで玖月みたいだなぁ"そんな事を言って我ながらヘンな事を言った物だと
自分に呆れる。
あの後、公園で正気に戻った葵(周りにばれない様に女の子の時は
葵と呼ぶ事にした)は私に三十分ほど謝り続けた。特に気にして無かったので
別にいいと言ったら「何かお詫びをしないと気が済みません」の一点張りなので
どうしようかと考えたら昼休みの玖月が思い浮かんだ。いつも玖月は一人でご飯を
食べている、見かねて一緒に食べようと誘っても「相田さんも嫌われちゃいますから」
と断わっていた。という訳で、
「一緒にご飯を食べよう」
「えっと。それでいいんですか?」
「うん。いつも絶対にしない事だからたまにはいいでしょ」
「でも・・」
「嫌なら別にいいんだけどね」
「あ、はい。ありがとうございますお願いします」
葵はふかぶかとお辞儀をしている、かなり嬉しかったのだろう。
「嬉しいけど一緒にいると相田さんも嫌われるから」とずっと断わっていた玖月の
優しさは分るし嬉しいけど現状はかなり違う。
確かに嫌ってる奴もまだいるがかなり少数派になってきている、
どうも変身する体質になり私と関わるようになってから玖月本来の
"心優しいドジっ子"な部分が多く見られるようになり結果としてクラスに
受け入れられるようになっていた。しかし本人に自覚がまったくないため
「自分は嫌われている」と未だ思い込んでいるのだ。
いつも公園で話す時その事を言っているのだが思い込みが激しい玖月は
信じてくれない上にその話を振ると混乱してしまう、そこで昼休みに一緒に
食べる時にその事をちゃんと言ってあげようと言う私の自分勝手なのは
重々承知な作戦なのだ。以上、回想おわり。

9あろーんさん:2007/07/15(日) 00:08:52
用事があって遅れる玖月にできるだけおいしいうどんを食べてもらうために
家のコンロと火力の違いを調べるために試しに茹でていると言う訳だ。
充分柔らかくなったらザルにあけて冷水で麺を締める、後はこれを氷を入れたツユで食べる。
「おいしい」
火力もわかったので次のうどんも入れて試しに茹でたのは勿体無いので私が食べる。
わざわざ貴重な昼休みにゴハンを作って食べるというツワモノは私以外には
中々居ないようで、私は一人静かに家庭科室で昼休みに部活動の一環として
弁当ではないモノを食べれるという料理部の特権を噛み締めながらうどんをすする。
「美味しそうですね」
振りかえると女の子が何時の間にか家庭科室に入っていた、
「おーヒトミン」
「瞳ですよ」
「いいじゃん、可愛いから」
「可愛ければいいって訳じゃないですよ・・・全く」
まだブツブツ言っているのは玖月の部の後輩で弓野瞳、いつもハードカバーの小説を
持っていて見た目もどうみても図書委員なのだが科学部員でしかも一番得意なのは
音楽と言うなかなか形容のし難い子である。そして科学部の中でなぜか一番
玖月と仲がいいのでその流れで仲良くなった、まあはっきり言えば変わり者である。
「でも何でうどんなんですか?」
「カンタンだしね、それに今日は暑いじゃん。だから」
「はぁ・・」
「それよりもゴハン食べた?」
「いえ、まだですけど」
「ツユもうどんもまだあるから一緒に食べない?」
「・・それはちょっと」
「でもここに来たって事は何か話したい事があるんでしょ?」
さっきまでの呆れ顔から一気に厳しい顔に変わる、とても分りやすい。
玖月と仲が良いだけあってこういう所は似ているようだ。
「・・頂きます」
どうやら観念したらしい、私は敢えてソコは突っ込まずにツユとうどんの入った
ザルをヒトミンに渡す。ヒトミンはそれを受け取ると無言ですする、
「美味しい・・」
「料理部だからね一応」
ヒトミンは黙り再びうどんをすする、そして私もすする。
「ヒトミンは料理するの?」
「別にしません普通です」

10あろーんさん:2007/07/15(日) 00:10:41
会話が続かない・・あんまり会話をしたくないようだ。二人とも黙々とうどんを
すする事約五分、いろいろ限界です。思いっきり机を叩いて叫ぶ、
「あーーーーっ喋れー」
「え、え?」
流石のヒトミンも呆気に取られて呆然としてる。自分と玖月の為に折角作ったうどんを
ヘンな空気の中で食わされたイライラも込めて一気に捲くし立てる。
「大体、何かあるからここにいるでしょうがっ。それなのに何も言わずに
 気まずい空気だしまくってさ」
「いや、あの・・」
「言い訳は聞きたくなーいっ、私に言いたい事があるならはっきりいいな」
「は、ハイッ」
ヒトミンは慌てて姿勢を正す。やり過ぎたかもしれないが一度キレて強気で行った
以上、強気のまま行くしかない。
「あ・・あの絶対笑わないで下さいね」
「モノによる」
「お願いします、笑われるかもしれないと思うとすっごく恥ずかしくて・・」
「笑ってから恥ずかしがりなさいな」
「念の為です」
「そんなに言い辛い事なの?」
「そういう訳では・・」
玖月もそろそろ来るだろうからはやく内容を聞きたい所だがヒトミンの様子を
見る限りこれはよっぽどの告白なのかもしれない、誘わない方がよかったかなぁ・・。
「実はですねぇ・・」
「実は?」
「いや、やっぱりダメですっ」
「別に聞いたからってなんもしないって」
「また別の機会にします。ごめんなさい」
そう言って一礼するとヒトミンはドアの方にものすごい勢いで向かっていく、
一、私に関わりがあるからヒトミンは私に話そうとしていた。二、ヒトミンにとって
かなり恥ずかしい事。この二つの情報を冷静に照らし合わせたらあっさり結論がでた。

11あろーんさん:2007/07/15(日) 00:12:52
「玖月となんかあった?」
「・・なんで分ったんですか」
ロボットのようにギギギとこちらを向いたと思ったら今度はものすごい勢いで
私に向かってきた。しかも顔が真っ赤、うーん・・・本当に分りやすい。
「だって、私とヒトミンの接点って玖月くらいじゃん」
「あ、そうですね」
「ここまで内容は特定されちゃっんだから全部言っちゃいなよ」
「・・ですね」
少し冷静になったようで持っていたハンカチで汗を拭きつつまた座る。
落ち付かせる為に水の入ったコップを渡すと一気に飲み干して大きく息を吐いた。
やっといつものヒトミンの顔に戻ったので話を続ける、
「で・・玖月と何があったの?」
「部活での玖月センパイって見た事あります?」
「見てはないけど話は聞くね、失敗の事ばかりだけど」
「確かに失敗はありますけど基本はちゃんとしてますし私達みたいな後輩にも
 優しいです、けど・・」
「けど?」
「いっぱいいっぱいになるとたまにヘンな事を言うんです」
「どんな?」
「"ヒトミンさんの恥ずかしい言葉をいいたいと思います"とか"ヒトミンさんのことを
 恋愛先生と呼んでみます"みたいな事を言うんですよっ」
玖月が頭の中に目をうずまきにしてあわあわして口走っているのが
あっさりと浮かぶ。もちろん周りの人間がそれを見てでっかいハテナを
頭の上に浮かべてるのもセットで、流石と言うべきか・・。
「全く、玖月は困るとすぐ誰かに全部押しつけて逃げようとするからねぇ」
「"ヒトミンさんは頑張り屋さんですね"とか"ヒトミンさんはステキです"とか・・」
「ヒトミン?」
「オマケに"ヒトミンさんはしっかりしてるから恋人さんは幸せさんですね"
 なんて・・そんな」
「おーいっ」
聞こえてないなーコレは・・どんどん顔が真っ赤になってリアクションも
オーバーになってるし、正直ノロケを聞いててもしょうがないので
さっき茹でたうどんをザルにあけながら適当に相槌を打つ。
「それでその時、玖月センパイが緑の液を・・って聞いてます?」
「聞いてるよ。楽しそうだね〜」
「あ・・スイマセン」

12あろーんさん:2007/07/15(日) 00:14:00
よっぽど恥ずかしいらしくまた擬音がでるくらい一気に縮こまっていく、
しっかしこんな短時間で喜怒哀楽を全部出せる人も珍しい。
「面白い子だね〜ホントに」
「相田先輩だからですよっ、いつもはこんなんじゃないですよ」
「分ってるって。玖月がヒトミンに対してばっかりへんな事を言ってると」
「はい、それで一昨日にあんまり何回も言うもんだからつい・・」
「照れ隠しで怒っちゃった訳か」
「一部違いますがそう言う事です・・それからずっと避けられちゃって」
「で、何とかして欲しいと?」
「相田先輩は玖月センパイの事を一番分っている人で有名ですから
 何か助言を頂ければと思って」
「マジで?」
「はい、"玖月を操縦できるのは相田だけだって"学校内で有名ですよ」
うーん・・確かに玖月に一番近いのは認めるがそこまでの評価になっているとは。
と言うか玖月そんな有名なのか・・、
「でもさ〜そういうのは私がどうにかするとかじゃなくてさ、ヒトミンが
 玖月に強引に話しかけるなりしてなんとかしないといけないんじゃないの?」
「分ってるつもりなんですけどねぇ・・」
ヒトミンは遠い目になって静かにつるつるうどんをすする、正論で返されて
かなりショックだったようだ。ヒトミンのシュンしてる具合が
雨に濡れてる子犬な感じなのでついつい葵にしてるように頭を撫でてしまった。
なでなでなで・・クセっ毛のようで葵のよりも少し硬い、
「何するんですかっ?」
「いや、可愛くて・・」
「あ、相田先輩に言われても嬉しくないです」
「ゴメンゴメン、代わりと言ってはなんだけど切っ掛け位は作ってあげよう」
「ありがとうございます、で・・いつですか?」
「今」
「ハイ?」
「もうすぐ玖月が来るから一緒にここでうどん食べてさっさと誤解を解いちゃえば
 いいじゃない」
「でも・・心の準備が」
「そんなの関係あるかーいっ、そんなんだから避けられてるんだよ。
 さっさと根性見せてシュバーンと言えば全部終るんだから・・ヒトミンだって
 また早く玖月と仲良く部活したいんでしょ?」
「そうですけど・・」
「よっし分った。今すぐ来るように呼ぶ」
ヒトミンのあまりにも煮え切らない態度にイラついた私はカバンから携帯を取り出して
素早く玖月に電話をかける。ヒトミンは慌てて止めに入る、
「相田さん落ちついて下さいって」
「断わる、ヒトミンは来るまでに腹を決めな」
「そんなムチャクチャですっ」
「来るまでに逃げたら・・煮込むよ?」
「なんですか、その妙に怖い脅しは・・」

13あろーんさん:2007/07/15(日) 00:16:13
私の勢いに怯えるヒトミンは無視して待つ事一分、やっと繋がったので玖月が
何か言う前に喋る。
「玖月、終った?」
「あっはい相田さん。終りましたよ」
「すぐ来て。うどんが今一番美味しいから」
「そうなんですか。分りました。あの・・」
「何?」
「体育館の整理してたのでジャージなんですけどいいですか」
「いいよ、玖月においしいの食べて欲しいから早く来てねっ」
「えと。わかりました」
少し戸惑った言い方だったのが少し気になったが私が急かしたから慌てたのだろう、
電話を切りヒトミンのほうを見ると少し睨んでいる・・、
「なんで?」
「なんでもないです・・」
「何でも無くは無いリアクションだけど」
「別にいいじゃないですかっ」
頼まれたからいろいろやったのにその態度だと正直腹が立つが、まあこれで
積極的になってくれれば早くカタがつくのでそこら辺は突っ込まない。
携帯をしまいまだ睨んでいるヒトミンをまた無視してうどんをすすりながら待つ。
しばらくすると遠くからこっちに向かって廊下を走る音が聞こえてくる、
玖月が私の言った事を信じて急いでいるのだろう。
その音が近づくほどにヒトミンの挙動がロボットのようになっていく・・

14あろーんさん:2007/07/15(日) 00:20:52
いつも部活で玖月と一緒のときはどうしているのだろう。そんな事を数秒間
考えているとドアが勢いよく開く、
「あの。相田さんお待たせしました」
「誰ですか?」
「あ、ヒトミンさんこんにちは」
「こんにちは・・」
そこにいたのは息が切れ気味でダボダボの少し汚れた体操服とジャージに身を包んだ
小柄な女の子・・、その子は私以外にここに人が居るのにびっくりしたようだ。
「あれ。ヒトミンさんが何でここに?」
「あーおーいー」
私は全力で葵の襟首引っつかんでヒトミンから離し葵にしか聞こえない声で話す。
ヒトミンは何がどうしたのか分ってないらしく呆然としている、
「えっと・・どうしたのですか相田さん?」
「葵、お前変身してる」
イマイチ理解してないようでゆっくりと自分の体を観察した結果・・ぷしゅーと
頭から湯気を吹いて気絶・・、
「するなっ」
「あっ、はい」
「なんで変身してるっ」
「高校に入って初めて誰かと一緒にゴハンを食べるので、すごく嬉しくて
 変身したようです。ごめんなさい」
「それはとてつもなく嬉しいから謝らなくていい」
「そうですか、勘違いをしてごめんなさい」
このままだといつもの無限ループに突入しそうなのでさっさと本題に入る。
「現状を説明するとヒトミンは『玖月と話したいことがあるから同席させて欲しい』と
 頼まれたからここに居る」
「そうなんですか。あの、怒ってましたか?」
「そんな理由なら私が同席させないでしょ。普通」
「はい、そうですね」
理解はしたようだが表情はまだ暗い、葵の中ではヒトミンはまだ怖いようだ。
うーん・・これは思ったより根が深い、ヒトミンはまだ誰だろうと首をひねっている
どうやら"葵"という名前もこの少女の正体も分ってないみたいだ。
「つーか、実験の失敗で変身したのになんでヒトミンが知らないんだよ?」
「最初に変身した時は教室でしたし、学校で知ってる人は先生方と相田さんだけです」
「そっか・・どうするヒトミンに話す?」
「今日はいいです。ちゃんと時間がある時にじっくり話します」
「そっか・・。じゃあ誤魔化すからヒトミンに見られないように私に電話して、
 でたらすぐ切っていいから」
「あ、はい」
とりあえず混乱しているヒトミンをこっちに注意を向けるためにヒトミンに
話しかける。チラっと見ると葵は後ろを向いて携帯を動かしているようだ。
「相田先輩あの方は?」
「ゴメン、いろいろあって説明するの忘れてた。あの子は同級生で玖月の親戚の
 葵 美里ちゃん。彼女は玖月と一緒で人としゃべるの苦手ですぐ混乱しちゃうから
 その辺は気をつけてね。それとヒトミンの事も知ってるから安心して」
「はぁ・・」
ちょっと捲くし立てて喋り過ぎたかどうもヒトミンは腑に落ちてない様子・・。

15あろーんさん:2007/07/15(日) 00:22:43
ヤバイと思っていると私の携帯が鳴る、とりあえず葵からのだと確認して出る。
こっからは私が一人で思いつくまま玖月と喋ってる振りをする、うーん・・
なんかどんどん厄介な方向に来てる気がするが動いた以上止められない。
「もしもし玖月、早く来いって・・。え、来れない?どうした、
 ついでにって仕事を頼まれた?ああ・・。いや、謝らなくていいって。
 だからホントにいいって、うん。じゃあ葵ちゃんと食べるから。
 はい、りょーかい。また後でねー」
「相田先輩どうしたんですか?」
「科学部の顧問についでにって仕事を頼まれたから来れないって」
「そうなんですか、フフ・・神笠のヤツ」
我ながら上手くごまかせたようだが神笠先生を巻き込んでしまったのを
少し後悔した。だって ヒトミンがものすごく怖い顔で笑ってる・・、
あ〜あ葵がぷるぷる震えている。
「ホラホラ葵ちゃんが怖がってるから」
「あ・・すいません。葵さんアナタが怖がらなくても」
「えと。なんか自分が怒られてるみたいで」
恥ずかしそうにしている葵も可愛いけどこのままだとボロが出そうなので
また葵にしか聞こえないように話しかける、
「ヒトミンには葵美里という玖月の親戚ってことにしたから、それに合わせてね」
「はい、でもヒトミンさんやっぱり怖いです」
「分らなくは無いがとりあえず"玖月の親戚の葵"として会話してれば怒られたりは
 しないはずだから。ふつーにしてればいいんだよ」
「わ・・わかりました、頑張りますっ」
「う、うん。頑張って」

16あろーんさん:2007/07/15(日) 00:26:15
普通にしてねと言ったそばからそんなに気張らなくても、葵はとりあえず大丈夫そう
なので今度はまだ怖い笑顔をしているヒトミンに相手しか聞こえない声で話しかける。
「ヒトミンヒトミン」
「ナンデスカ」
「いい加減その顔止めて、怖いから・・」
「ごめんなさい。つい熱くなってしまいました」
熱くなったらあの顔するんだとしたら冷めた時はどんな顔をするのだろう、
一瞬考えたけど怖いのでやめた。
「それよりさ、どうするの?」
「確かに玖月センパイが居ないとなると仲直りもできないですよね」
「うーん、作戦を変えよう。このまま一緒にうどんを食べて葵と仲良くなろう」
「どうしてですか?」
「"将を射んとすればまず馬を射よ"って言うでしょ。ソレ」
「そんなカンタンに行きますかねぇ」
「言ったでしょ"玖月と一緒"だって。良い事してあげればずっと感謝する子だよ」
「つまり恩義を感じやすいんですね?」
「そーそー、それに外見も親戚だから似てるし玖月との会話の練習になるかもよ」
「なるほど・・流石です相田さん」
「まあね。それに仲良くなったら玖月との仲を取り持ってくれるかもよ。
 上手くいけばデートをセッテイングしてくれるかも・・」
「デ、デートですかっ。あぁ・・」
一気にヒトミンの顔が朱に染まる。どうやらまたヘンな事を考えているようだが
めんどくさいので体を揺すってさっさと正気に戻す。
「おーい、帰ってこーい」
「は、はいっ」
「それにさ別に葵と友達になりたくないわけじゃないでしょ」
「それは・・嫌ではないですけど」
「だったらいいじゃないの。ハイ、決定」
「そんな強引な・・」
「ヒトミンは積極性がないんだからたまには一気にに動きなって」
「でも・・」
「ヒトミンさんは自分がキライなんですか?」
いつのまにか近くにいたらしく葵が会話に割ってきた。小動物のような
うるうるおめめで悲しそうにじっとヒトミンを見つめている。
ものすごく困ったヒトミンが"どーすればいいんですか?"目で私に訴える、
私は"がんばれっ"と親指を立てて笑顔というアクションで答える。

17あろーんさん:2007/07/15(日) 00:28:44
「自分はお友達になりたいのですけど・・」
更にずいっとヒトミンに近づく葵、なぜかヒトミンの顔が真っ赤に・・。
んーどうやら玖月そっくりの葵(本人だけど)に迫られて混乱しているようだ。
「あーうー」
「ヒトミンさん?」
「も、もうだめですっ」
ヒトミンのいろいろが限界だったらしく突然がばっと葵を抱きしめた。
葵はびっくりして動けないでいる、あーあヒトミンの目が完全にイッている・・。
「あの。えと。ヒトミンさんどうしました?」
「あ・・あの私は大好きです。ものすごく大好きです。キライになれないですっ」
さらにギュっと抱きしめるヒトミン。葵はそれが意外だったらしく呆然とした後、
にっこりと微笑みヒトミンの背中をさする。
「ありがとうございます。ウソでも嬉しいです」
「どうも・・葵さん」
テレながら葵に笑い返すヒトミン、私はどうしていいの分からないので無言でじっと
この状況を整理する。半べそで笑ってるヒトミン、心の底から嬉しそうな葵、
そして抱き合う女二人・・。
「ナニコレ?」
「相田先輩、後生ですから言わないで下さい・・」
あまりに常識の範囲外なので呟くように突っ込むと茹でだこのようになったヒトミンが
擦れるような声で一連の行為を嘆くように返した。
「じゃあカタが着いたみたいだしうどんのびちゃうからさっさと食べようか」
「ですね相田さん」
私が促すと葵は何事もなかったかのようにするりとヒトミンの腕から抜け出て
イスに向かって走っていく、ヒトミンはまだ抱きしめの格好のまま後悔モードに
入っている。あまりに居たたまれないので肩をポンポンと叩き慰めるように言う。
「ヒトミン、食べよう・・」
「ハイ・・」
ブツブツとナニカを呟きながらのたりのたりとゾンビのようにイスに向かうヒトミン。
後悔とか恥ずかしさとかいろいろが混ざった約十分がよっぽど堪えたようだ。
「おいしいです相田さん」
幸せそうな顔をして美味しそうにうどんをすする葵、ヒトミンよりもうどんの方に
意識が行ってしまっている様だ。

18あろーんさん:2007/07/15(日) 00:29:47
「相田さん、なんで泣いているんですか?」
「あまりに哀れで・・」
「?」
私が泣いてる理由を全く分らずキョトンとしている葵。ヒトミンはまだゾンビ状態で
この状況をまだ理解するだけ精神が回復してないのがある意味救いか・・、
「でも変わってますねぇ。こんなに付け合せのあるおうどんは初めてです」
「まあ、できるだけ美味しく食べて欲しいからね。それにこれだったら家から
 持って来れるし」
「そうなんですか」
時間がそれほどないし大量の食材を持って来れないのでうどんにしたのだが葵は
よろこんで食べてるようだ。
「でも煮豚とかは珍しいですね」
「あ、復活した」
「いちいち私の解説はいいですって」
やっとヒトミンが正気に戻って安心したので私もずるずるとすする。
葵とヒトミンはまだうどんの付け合せの話をしている。
「そんなに珍しいのかね?」
「まあ煮豚やピーマンの炒め物はつけ合わせには普通はないです」
「こういうのどこで教わるんですか?」
「コレは本で読んだんだよね〜。面白いからやってみたくてね」
「変わった料理の本もあるんですね」
「ううん。エッセイ」
「スゴイですよ相田さん」
葵が目をキラキラさせている。多分、本気で尊敬してるのだろう。
「別にそんなすごい訳でも無いんだけどね、親が料理屋やっててそれでやるように
 なっただけだから」
「どんな料理ですか?」
「うーん、なんでも屋かな。スパゲッティから豚汁までーみたいなの」
「なんか相田先輩の家って感じですね」
「どういう意味かな〜ヒトミン?」
「失言でした・・」
「それは相田さんがなんでも作れそうだからスゴイって事ですよね?」
「・・・・」
「どうしました相田さん?」
「ゴメン、かなりハズイ」
どうも葵の感想は真っ直ぐなのでかなり気恥ずかしい、私もこれをマトモに
食らうと顔が熱くなってしまう。またヒトミンがウ〜と野犬のように睨んでる、
正直こんな事でいちいち嫉妬しないで欲しいものだが恋すると当たり前なのかも
しれない。

19あろーんさん:2007/07/15(日) 00:31:48
「そんなこと言ったらヒトミンのがすごいって科学部いるのに楽器弾けるんだから」
「いや・・あの、急に何を」
「料理部いて料理少し作れるより科学部いて楽器弾けるほうがスゴイと思ったから」
「だからって・・」
「いいですねぇ。部活での態度も立派だと聞いてますしヒトミンさんは本当に
 すごいですよ」
「葵さんまで・・茶化さないで下さいよ」
「茶化してないです。素直にヒトミンさんはすごいという感想を言ってるんですよ。
 自分なんかに何もできませんから」
ヒトミンは真っ赤になって照れている、ヒトミンでも葵の真っ直ぐおめめからの
"スゴイです"にやられてしまったようだ。逆に葵の表情は暗い、
「どうしたの葵?」
「あの。お二人ともスゴイのに自分は全然だから・・」
「そんな事無いって」
「相田さんの言葉はうれしいです。けどそんな事あります」
「葵さん、そんな急に落ち込まなくても・・」
「部活とかでも失敗ばかりだし、失敗しなくても人に迷惑かけちゃいますし」
「失敗なんて誰だってあるじゃん。こんな所でへこまなくても」
「いいえ、自分なんてとてつもなくダメな人間です」
マズイなぁ、葵ちゃんマイナスモードになり過ぎて"葵美里"なの忘れて"玖月葵"
として喋ってる。このままじゃヤバイ・・、
「あお・・」
「葵さんはダメじゃないですっ」
「ヒトミンさん?」
「相田さんがいってました、"葵さんは玖月センパイにそっくりな人だ"って、
 だったらダメじゃないです」
「あの。でも・・」
「玖月センパイはいつも私や部員に優しいし失敗してもいつもずっと頑張ってます。
 自分のミスも誰かの所為にしないでちゃんと受けてます、たまにヘンな事を
 しますけど・・それでも部員みんなに愛されてます。そんなセンパイに
 そっくりな葵さんは絶対ダメじゃないです」
「え、う・・」

20あろーんさん:2007/07/15(日) 00:34:24
ヒトミンはとてつもなく強く優しい目で葵を見つめている。やっぱりこの子は
玖月の事を大好きでいろいろ私の見てないところまで見てるのだなぁ・・。
私は素直に感心してしまった、今度は葵が混乱している。それはそうだろう
ついさっきまで嫌われてると思ってた人間からものすごく褒められたような物
なんだから。
「葵さんもっと自分を信じてあげてください。きっと上手く行きますから」
「えっと。相田さん・・」
チラリと私のほうを見た、私は出きる限りの満面の笑みでこたえる。
「葵の負けー」
「えぇっ・・そんなぁ」
「よかったね〜こんな良い友達ができて」
「はい、でも自分はこれからどうしたら?」
「とりあえずこんなに思ってくれてるヒトミンになんか言ってあげたら?」
「そうですね。ヒトミンさんありがとうございますっ、頑張ってみます」
「別に・・友達ですから」
ヒトミンが照れくさそうに答えると葵の顔がまた一気に顔が赤くなり
またゆっくりと後ろに倒れ・・、
「気絶禁止っ」
「まだダメですかぁ・・」
「それで無かった事にしようとするのは葵の悪い癖だよ」
「うう・・相田さん厳し過ぎます」
「それが普通の人としての常識だよ」
「あの。そうなんですか?」
「そうなのっ」
「っていうか、葵さんってある意味とんでもなく器用ですね」
「いや。えと褒めないで下さい。不器用です。ホントです」
「褒めてはいないと思うぞ葵・・」

21あろーんさん:2007/07/15(日) 00:35:17
「あっ、後二十分くらいで昼休みが終りますよ」
「なにぃ」
時計を見ると確かに残り二十分・・、片付けて次の授業の教室に行く時間を考えると
残りは約十分。いろいろあったので残りまくってるうどんがまだザルに山盛り一杯、
「・・急いで食べろー」
「はい相田さんっ」
「ええっ先輩いくら勿体無いからって」
「つけ合わせは持って帰れるからうどんだけでもー」
「そうですようどんの神様に悪いですからヒトミンさんも早くっ」
「・・分りましたよ、食べればいいんですねっ」
そのまま三人黙々とうどんをすする事五分、どうにか自分が食べる分のノルマの
うどんを食べ終えた。ヒトミンを見ると気持ち悪そうにしている、
そっちもなんとか食べ終えたようだ。
「ぷはー食べたー」
「げふっ・・作り過ぎですよ相田先輩」
「いやー何事も無ければもっと余裕をもって食べれたんだけどね〜。
 誰の所為だったかな?」
「こっち見ないで下さい、分ってますけど言いたくなっただけですから」
ヒトミンはバツが悪そうにそっぽをむく、
「ヒトミンはマジメで可愛いね〜」
「な、何ですか。さっきからちょこちょこそんな事ばっかり言って」
「まあ、魅力再確認?」
「ハイ?」
「ふしー・・」
「どーした葵・・ってどうした?」
ほっぺをものすごく膨らませた葵がふしーぷしーとヘンな息遣いをしながら
我々の方を見てコクコク頷いている、
「相田先輩これは・・」
「うーん、多分だけど『ヒトミンは可愛い』って私が言った事に対する同意だと」
「ふしー」
またコクコクと頷く、どうやら当たりだったようだ。改めて見るとよくもまあ
あれだけのうどんをつめ込んだ物である、ハムスターのようにほっぺにつめ込むのは
かなり辛いようで目を潤ませてながら一生懸命うどんを飲み込もうとしている。

22あろーんさん:2007/07/15(日) 00:36:42
「相田先輩、あのハムスター持って帰っていいですか?」
「ダ・メ♪」
「んーんー」
身の危険を感じたらしく葵はものすごい勢いで首を振っている、
やっぱりなんだかんだあってもまだヒトミンが怖いようだ。
「葵っ、そんな事より着替える時間無くなるからそろそろ行った方がいいぞ」
「ふしーぷすー」
「別に片付けは私一人でやるからヘンな心配はしないで急げっ」
「ちゃんと会話になってるし・・」
「ぷしー」
葵は理解したようでペコリとお辞儀をして来た時と同じくらいのスピードで
走り去っていった。いろいろ終ったので私は急いでつけ合せのネギや炒め物を
タッパーに入れていく、
「ヒトミンも行っていいよ」
「え、いいんですか?」
「いいよ別に。迷惑もかけちゃったし」
全部つけ合わせを詰め終えたのでザルとお椀を洗おうと流しに向かうと
ヒトミンが隣にやってきた。
「行かないの?」
「迷惑ではなかったですしそれに感謝すべき所もあったので、
 それに借りは返さないと気が済まない性分ですから」
ゴシゴシと二人で黙々と会話無く使った物を石鹸で洗っていく。さっきのように
イラつきはしない、とりあえずヒトミンのいろいろな部分を観れたからだろうか?
「負けませんからね・・」
「何が?」
「いろいろですっ」
「あっそう。勝つ気は無いから応援するわ」
「本気ですか?」
「どうだろね」
「ホントに掴みにくい人ですね」
「よく言われる。まあ誰かのための料理くらいなら教えてあげるからさ」
「・・どうも」
必死なヒトミンはなんか面白くて少し笑ってしまった。ヒトミンはよく分らず
困ってしまったようだ、本当に私の周りの人間は良い奴だが変わり者ばっかりだ。

24あろーんさん:2009/03/21(土) 01:03:00
それゆけダタラちゃん

 ここはあの町の外れにある森の中の薄汚れた大きな洋館、誰も住んで居な
さそうな洋館だがここには町一番の変わり者と言われている男が住んでいる。
その男は洋館には不釣合いな”心霊研究所”と書かれた木製の看板を門に掛け、
月に一度家から出れば良い方というかなりアレな変わり者なのだ。町の人間は
どうやって生活しているのか不思議がっていたが、あまり関わりたくも無いの
で直接聞くことも無かった。元々精悍な顔なのだが長年の不精で髪はボサボサ
でヒゲも伸び放題の男は電気も窓も無い部屋で一人、パソコンに向かっている。
頭を掻きながらゼロとイチが無数に散りばめてある画面を操作していたが、急
に時計を見ると回転イスをくるりと向きをクルリと反転させた。
「ちょっと来いダタラっ」
「ほーうぃ」
部屋のドアが開き、そこからピョコンピョコンと飛び跳ねながらナニカが男の
前に現れる。ナニカは身の丈二メートル近くあり、野良着の上着を羽織って
一見すると人のように見えるが目と足が一つしかない。目は真ん中に一つ、
そして股から足が分かれずに生えた一本の太い足にゲタが履かれている。男は
平然と見据えながらポケットから目の前の異様な生き物に五千円札を投げた。
「食料が切れた……買って来いイッポダタラ」
「ほーうぃ」
大きく頷いたイッポンダタラはお金を拾うとすぐさま部屋を出ようとする。
「ちょっと待て、そのままで行くつもりかお前は?」
「ほうぃ……ダメか?」
「ダメだ。いつもの”あの姿”で行け」
“あの姿”と言う言葉に反応してイッポンダタラは顔をしかめた。
「あの姿かよぉ……オラァ男だでよぅ」
「だが”あの姿”しか一般人に見せれる姿は無いだろ?」
「うぅ〜……わぁったよぅやるでよぅ」
そう言うとイッポンダタラは天井スレスレにジャンプしながらくるりと一回転
をすると髪が伸び、太い一本の足が二本に裂けて細くきれいな足になった。
そして着地したソレはさっきまでのイッポンダタラでは無く、セミショートで
前髪で右目を隠した可愛らしいメイド服の少女に姿を変えた。
「こんで文句ねぇよなぁ?」
「ちゃんと言葉も合ったものにしろ」
「う〜……これでいいですかご主人さま?」
元が元だけにかなり恥ずかしいらしく、言いながらスカートをギュっと掴んで
もじもじしている。そんなイッポンダタラの姿を見ながら楽しそうに笑う。
「ああ、それでいい。とりあえずこの前と同じ二、三日分の食料を買って
きてくれ」
「わあった……いやいや、分かりました」
「では頼んだぞダタラ」
男は言い終わってまたパソコンに向き直るがダタラが部屋を出ようとせず、
じっと男を見ている。男はそれを無視しようとしていたが、しばらくすると
視線の重圧に耐えられなくなったようで再びイスをダタラに向けた。
「……分かったよ、金が余ったらお前も好きな物を買っていいぞ」
「ありがとうございますご主人さまっ♪」
ダタラはにっこりと微笑み、少し跳ねながら部屋を出て行く姿を男は一人
ため息を吐いて呟く。
「”男だ”と言っている割にこういうのはきっかり覚えやがって……」
男はブツブツ言いながらパソコンにイスをくるりと向けると、また作業に戻る
のであった。

25あろーんさん:2009/03/21(土) 01:05:59
 洋館を出たダタラは町への道をとぼとぼ歩いている。どうやら好きな物を
買える喜びから冷静になり、女の子の姿での買い物する事に対する物が
少しずつ出てきたようだ。
「……何でこんなヒラヒラしたカッコでオラが買い物せにゃならんのかね。
そもそもこの姿に化けるように仕向けたのはご主人様のクセに……」
今の姿には似合わない口調でグチると勢いをつけ、ぴょーんと三メートルは
ある森の木々を超えるジャンプをしてから自分の顔をパンと張る。
「うしっ、うじうじ考えてもしょーがねぇ。さっさと終わらせて好きな物を
買って帰るぞぉ」
思いっきり跳んで気分を切り替えたダタラは元気よく町へと駆け出した。
町に着いたダタラは通っている商店街の門の前に行くと何度か深呼吸をする。
「私は女、私はメイド、だからキチンとするっ……すーはー。うん、オッケー」
ボロを出さないように自分は女の子だと言い聞かせてから門をくぐると”茶屋
茶山”のおばちゃんが話しかけてきた。
「こんにちはダタラちゃん」
「茶山のおばさまこんにちは」
ダタラが姿勢を正してキチンとお辞儀をするとおばちゃんは一瞬呆気に
取られてからガハハと豪快に笑う。
「やだよーいつもみたいにおばちゃんでいいって」
「でも一応メイドで家政婦ですし……」
「いいじゃないの、アンタの所の主人が見ている訳でもないんだから〜」
おばちゃんの言葉に考える事しばし……ダタラはキリッとしていた顔を緩める。
「確かにムリしてもしょうがないですよね〜」
「そうそう人間素直がイチバンッあっはっは」
「あははー……」
流石に”人間ではないです”とも言えないので、ダタラは頭をボリボリと掻き
ながら乾いた笑いをするしかなかった。
「あ、それじゃあこのお茶貰っていいですか?」
「はいよ、しっかしアンタの所の主人って何やっている人なの?」
「えっと、本人は研究者だと言ってます」
本人がそう言っていただけでダタラは男の職業を何だかは知らない、だが男が
研究している事の過程で出会ったのは知っている。おばちゃんは腑に落ちない
ような反応をしてお茶の袋を取り出す。
「ふーん……まあ、アタシはアンタの味方だから、ヒドイ事されたら一緒に
警察とか行ってあげるわね。ハイ、八百円」
「は、はぁ……」
おばちゃんの優しさはありがたいが力強すぎて困ってしまうのでありました。
 とりあえず八百屋と魚屋を周ったダタラは最後に肉屋で鶏肉と豚肉を買うが
貰ったお金は五円も残らないのに気付く。
「野菜も魚もお肉もみーんな安いの選んだのに……おやつのコロッケ買おうと
思ったのに……」
「ダタラちゃん……」
心底残念だったようで、屈んでケースの百円のコロッケを潤んだ瞳で見ている。
これに困ったのは肉屋の店主、この不況の中で流石にタダであげる訳にも行かない。だが店の前に買わないのにずっと居られても迷惑になる……お得意様の
しかも(見かけは)女の子を強引に追い出す訳にも行かない。
「そろそろ他の客の迷惑に……」
「おじさんのコロッケおいしーのにぃ……」
次第に商店街の人々やそこを通りかかった人が何事かと集まってきた。端から
見たら肉屋の前で女の子がへたり込んでいるように見えるこの状況、観衆は
店主がとんでもない事をしでかしたのではと冷たい視線を送る。どんどん
追い詰められていく店主はついに決断した。
「今回だけだからねっ」
「へ?」
「お得意様だから今回だけコロッケ一個サービスするって言ってるの」
そう言ってヤケクソ気味に渡されたコロッケを受け取るとダタラの顔は一気に
笑顔に変わる。
「ありがとーおじさん♪」
「い、いいって……」

26あろーんさん:2009/03/21(土) 01:09:30
笑顔に照れる店主に見送られたダタラはコロッケを食べながら商店街を散策
していると背後から叫び声が聞こえた。
「引ったくりだー」
意味を理解した刹那、後ろから誰かに突き飛ばされる。
「うわっと」
思わず転んでしまった拍子にダタラは残り二口のコロッケを地面に落とす。
パンツが見えているのも気にせずに転んだ時の体制のまま、半ベソで地面に
落ちたソレをただただ見つめる……。どうやら地面に突いた手や足の痛みより
も落としたコロッケのダメージが大きいようだ。そして走り去ろうとしていた
男を見つけてキッと睨むとものすごい勢いで追いかける。
「待てぇコラー」
食べ物の恨みの怖さか元が人間ではないからか、あっという間に二人の距離が
縮まっていく。そしてダタラは射程距離に相手を捕えると両足に力を込めて
町への道で見せた大ジャンプすると相手の背中目掛けてドロップキックを
仕掛けた。
「てりゃーー」
「ぐぁぉおおおーーーーーーーーー」
衝撃でゴロゴロと転がり電柱にぶつかって倒れる男にダタラは馬乗りになって
襟首を掴む。
「コロッケ返せー」
ダタラが男に向かって叫んだ所で周囲から拍手が起こる。よく分からないが
拍手されたのが自分のようなのでペコリとお辞儀をしたダタラであった。
 洋館の一室、男はまだパソコンを無言で打ち続けている。しかし流石に
疲れてきたらしく時計を見ると午後五時、男は納得したように頷くと軽く伸び
をしようと腕を伸ばした所で部屋のドアが開いた。
「ようやく帰ってきたかダタ……ら?」
男がその言いながらクルリとイスを回転させると目の前にはメイド姿のダタラ
が両手に買い物袋と台車に小さい段ボール箱が沢山といった状態で男の前で
微笑んでいる。
「……最近は五千円でそんなに買えるのか?」
「引ったくりを捕まえたらお礼だって、だから台車のはオラのだよご主人さま」
「あんまり目立つマネは控えて欲しい所だが……まあいい。それで箱の中身は
なんだダタラ?」
「えっへへー♪」
ダタラが楽しそうに箱を開けるとそこには沢山の果物とプリンが入っていた。
果物とプリンという商店街の店で両方置いている店が無さそうな組み合わせに
男は首を傾げる。
「???」
「引ったくられた人が”ぱーらー?”って所の人で、お店で使う果物と商品の
かぼちゃプリンだってー」
「なるほど」
「冷やしておきますから後で一個あげますねー。ほんじゃまた」
上機嫌のダタラは一礼すると鼻歌を歌いながら部屋を出て行く姿を男は
少し笑って見送った。
 満月がキレイに浮ぶその日の夜、ダタラは貰ったかぼちゃプリンを片手に
洋館の屋根の上で一人夜風を浴びている。万が一の為に元の姿ではなくメイド
の姿だが、夜のひんやりとした空気を心地良さそうに目をつぶっていた。
「んー……気持ちいいけど元の姿でぴょんぴょん飛びたいなぁ」
ぽつりと本音をこぼし、そんな気持ちを振り切るようにかぼちゃプリンを
一さじすくって食べると心の底から幸せそうな顔に変わる。
「でもプリンがおいしーから良しっ」

……イッポンダタラとは、本来は一本足と一つ目で山道や雪の中をぴょん
ぴょんと飛び回る妖怪である。しかしこの洋館に住むイッポンダタラは外を
自由には飛び回れないが本人はそれなりに幸せのようだ。

27あろーんさん:2009/03/21(土) 01:13:28
悪魔来たりて
「我はファリン・デリス……悪魔であるぞ」
いきなりドアを開けて現れたマントの男は仰々しく私にそう名乗った。
時間をかけて状況を整理した私は側にあった二つ折り携帯を開き一一〇の
ポタンを……、
「押すなー」
自称悪魔はすばやく私から携帯を奪い電源を切った。
「悪魔なら警察ごとき慌てるなよっ」
「我は面倒臭い事はキライなだけだ」
荒く息をしながら反論する自称悪魔、正直これ以上相手をしたくないので
さっさと本題を切り出す。
「用件は何だよ悪魔?」
「ふふふ……用件だと?よくぞ聞いてくれた人間っ」
自称悪魔は真っ赤なマントをはためかせて高笑いを始める。他の家族も
居るのにハタ迷惑な奴だ。
「笑ってないで早く言えよ」
「順序があるから最後まで聞け、今から貴様の願いを叶えてやろう」
「随分ベタだな……」
「うるさいっその代わり……」
「魂よこせって言うんだろ?」
私がそう言った瞬間、自称悪魔がピタリと動きが止まったと思ったら
怯えるように私から距離をとった。
「な、何故それを……」
「ずいぶんベタな奴だなお前、そんなの子供でも知ってるぞ」
「そうなのか?」
「おう」
「そうか……なら話は早い、早速願いを言うがいいっ」
幾らなんでも”願いを叶える代わりに命くれ”と言われて願いをいう奴は
よっぽど追い込まれている奴だけだと思うのだが……。まあこの手のヤツは
ヘタに断ると何するか分からないので家族が二階に来て異常に気付くまで
もう少し付き合う事にした。
「願いを言ってもいいけど妥協してくれ」
「妥協だと?」
「正直、命をかけるほどの願いは無い。だから妥協してくれ」
「ふむ……」
私の言葉を理解したらしくしばらく考え込んだ自称悪魔は納得したように
頷いた。
「こちらも事情があるのでしかたない……だが無償という訳にはいかんから
寿命三日分で勘弁してやろう」
「そこまで妥協するなら願いを言ってもいい」
「但しこちらも条件がある」
「聞ける物なら聞く」
「我をここに泊まらせろ」
「何を言ってるんだオッサンっ」
あまりにとんでもない発言に思わず声を荒げて怒鳴る。
「泊まらせろと言ってるだけだ」
「悪魔とかでその格好から家ぐらいあるだろ」
「嫁とケンカして飛び出したんだから仕方あるまいっ。安心しろ別に何も
食べんし他の家族には姿が見えないようにしておく。文句は無いだろ?」
「何日間?」
「とりあえず明日まででいい」


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