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緊急投下スレッド2
1
:
謎のミーディアム
:2009/07/10(金) 00:25:39 ID:K6Yzme.s
ここは、VIPが鯖落ちの時やスレが無い場合。
さらにはアク禁の時にも投下できる、便利なスレッドです。
作品投下のルールは本スレと変わりありません。
474
:
"The Unknown"第七話
:2010/08/22(日) 16:17:11 ID:???
>>473
「侮らないで…もらえるかな……?」
それは、のっそりと苦しそうに起き上がる蒼星石であった。先ほどと同じくその表情に生気は見ら
れないが、その瞳の中には明らかな殺意が宿っている。状況が飲めないせいもあったが、その異常な
執念を宿した瞳に、真紅は一瞬たじろいだ。
「…太古に眠りし邪悪なる闇の…騎士よ、血塗られた……五芒の輝きを…その身体に刻み…我が血
肉を持ってしもべとして導かん…」
先ほどの言葉、というよりも『呪文』を、蒼星石は今度こそ唱えきった。その瞬間、彼女たちの頭
上に大きな、漆黒の魔方陣が出現する。
そしてその中からゆっくりと姿を現したのは、またも装着する人間を失った鎧。しかし、真紅が以
前打ち倒したものより、一回りも二回りも大きく、更には─恐らく猛者の着用していたものだったの
だろうが─その表面は、返り血らしきものでどす黒く変色していた。
「不思議だな…身体中に『力』がみなぎっていく。……不信心な猿と、邪教徒…覚悟するんだね…」
一転して彼蒼い女の表情が生気にみなぎり始める。しかし、それは何か歪な─まるで麻薬のような
ものでハイになった時のものと同様だった。
彼女は鋏のような鉄塊を構え、じりじりと真紅たちの方に近寄ってくる。
「……真紅、手を貸しなさい」
「…共闘、というわけ? …でも、四の五の言ってる状況ではないわね」
水銀燈と真紅はそれぞれ剣を構える。その場に緊張感がみなぎり、空気が張り詰めていくのを真紅
はその肌で感じていた。
475
:
"The Unknown"第七話
:2010/08/22(日) 16:17:50 ID:???
以上です
投下ペースが毎度遅くて申し訳ありませんがご容赦を…
476
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 16:49:31 ID:LlL0iIEo
「夏」企画参加SSを書いたのですが、ちょっと出かけないと行けなくなったので甜菜お願いします。
それと、読んでくださる方がいましたら、できれば企画をやっているスレで読んでくださると幸いです。
477
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 16:52:50 ID:LlL0iIEo
いちおうホラーコピペ系要素があるSSなので、苦手な人は避けてね。
NGID:horror
『ひゃくものがたりどる』
「『二人に【カミ】のご加護がありますように』Tさんはそう言って帰って行った。寺生まれってスゴイ、そう思ったかしら」
金糸雀は蠟燭を吹き消した。
金糸雀はみんなを怖がらせようと無表情を保とうとしているみたいだけれど、どう考えてもドヤ顔を隠しきれていない感じだった。
しばらく、沈黙。じとっとした空気は深い湿度の高い夏の夜のせいじゃなかった。
みんなの気持ちを代弁して、水銀燈が言う。
「それが最後の番が来るまで残しておいたおとっときの話ぃ?」
金糸雀はきょとんとした。
「その通りかしら」
「この世のどこにそんな珍奇な霊能者がいるのよ」
鼻で笑って、真紅が言った。畳み掛けるように翠星石が追い討ちをかける。
「『友達の友達』がうさんくせーからって、実体験風に語ればいいってもんじゃねーですぅ」
「本当に体験談かしら!」
金糸雀は抗弁する。正直怪談を盛り上げようと頑張るその姿勢は立派だと思うけれど、キャラ設定に無理ありすぎたと思う。「破ぁ!!」ってなに「破ぁ!!」って。
「蒼星石はどう思うかしら!?」
金糸雀が隣の蒼星石に助けを求める。蒼星石はにっこりと笑った。
「まぁ、金糸雀が百本目じゃなくて良かったかな?」
「かしらっ!?」
「金糸雀に怪談は似合わないのよー」
これだけ言いたい放題言ってても、本当に金糸雀が怒ったり悲しんだりする事にはならない。金糸雀の器がある意味大きいということもあるけれど、一番の理由はみんな気の置けない友人達だからだ。そう、スレスレの冗談も言いあえるような。
「それじゃ、百本目は薔薇水晶ね」
みんなの視線が私の方に向く。
「お父さん人形師をしてる…その、師匠から聞いた話…」
子供の頃からあまり話しをする機会がなかったから、話す事がすごく苦手だ。
けれどそれも百物語という舞台の上では、ちょっとした小道具になるみたいだった。
478
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 16:53:28 ID:???
百本目の蠟燭が消えて、部屋は暗闇に包まれた。暗闇の中で生暖かい風がみんなの間を通り過ぎる。換気のために窓を開けていたので、風で火が消えないようにずっと窓辺に立っていたけれど、あんまり意味はなかった気がする。
「結構怖かったわ。終わりよければ全て良しねぇ」
「百本目に金糸雀を持ってくれば良かったわ」
「ちょ、どういう意味かしらそれー」
ちなみに雛苺は百物語が始まる前は「貴女は怪談を話すよりも、みんなの前で苺スパゲッティーを食べてる方がよっぽど怖いんじゃない」なんて言われていたけれど、オディール仕込みの兎男の話はかなり怖かった。
「よ、余興としてはそこそこおもしろかったですね」
「そうだね、姉さん」
双子を見ながら、雛苺がひそひそ声で話しかける。
「どう見ても一番怖がっていたのは翠星石なの」
「…秘密にしとこう…」
「世話が焼けるのねー」
「…ね」
「誰か電気をつけて頂戴」
座りながら指示を出す真紅。蒼星石が立ち上がったようだった。
「うわぁ、すっかり足が痺れてるよ」
「ずっと座りっぱなしだったものねぇ」
「火のついた燭台を倒したら、火事になるもの。しかたないでしょう」
「さすがのおじじも別荘を丸焼けにしたら怒り狂うですよ」
「スイッチはどこだったかな。…あった」
「きゃああああ!」
明かりが付いた瞬間、雛苺が悲鳴を上げた。
「どうしたの!?」
「一瞬窓に映る薔薇水晶が真っ白に見えたのよ」
479
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 16:53:56 ID:???
「見間違い程度脅かすんじゃないですよ、まったくもう」
「本当に…見間違い?」
「うゆ…」
「本当に百物語を語り終えると心霊現象が起きるのねぇ」
「こういうのも一夏の経験っていうのかしら?」
「一夏の奇跡と呼びたいですわ」
「お馬鹿さぁん」
水銀燈と金糸雀は面白そうにしていた。
「みみ、見間違いに来まってるです!この話しはもう終わり!!」
翠星石が叫んで、この場はお開き。そうしないと何人か泣きそうだったし。
「僕はさっき作ったケーキを取り出してくるよ。みんなは寝室に戻っておいて」
「私も厨房に用事があるの。一緒に行くわ」
「珍しいわね、真紅ぅ」
「みんな喉が渇いたでしょう?美味しい紅茶を振る舞ってあげるわ」
「普通自分で言う?」
「生意気な子には淹れてあげないわよ」
「それは勘弁」
水銀燈は肩の前まで手を挙げて、冗談めかした降参のジャスチャーをした。
ふふん、と真紅は笑う。
蒼星石と真紅二人と別れて、五人は寝室に向かう。
「あれで高飛車に振る舞うのをやめれば真紅って本当にレディーなんですけどねぇ」
「…たぶん無理」
「カナもそう思うかしら」
「そうよねぇ」
「真紅は凄く照れ屋さんなのよ」
「チビ苺、ああいうのをツンデレっていうんですよ」
480
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 16:54:25 ID:???
五人はにんまりと笑う。
自分では滅多に淹れないけれど、真紅の紅茶は美味しい。
本当は優しい真紅の性格を表しているのか、とても暖かい味がするというのがみんなの評価だった。
まぁ、みんな照れ屋の真紅の前では言わないけれど。
五人は部屋に戻ってから次の余興の準備をし始める。テーブルを出して罰ゲームを用意した所までは順調だったけれど、トランプ派とUNO派で抗争が始まり、やがてトランプ派は大富豪派と七並べ派に分裂し枕で枕を洗う三つ巴の抗争が勃発した。
そうしてしばらくした後、翠星石はふと枕を投げる手を止めた。
「今、なにか音がしなかったです?」
「その手は食わないの!」
「本当に音がしたかしら」
「大方真紅がティーカップを落としたんでしょう。とりあえず翠星石、当たってるからどいて頂戴」
翠星石は音がした時点で水銀燈にしがみついていた。
扉を開けたとたん、奇妙な音が断続的に聞こえている事がわかった。
不安そうに翠星石が言う。
「蒼星石の笑い声ですね」
蒼星石は切り分けたケーキが床に散らばっているのにも構わず、くつくつと背を丸めて笑っていた。
「蒼星石、一体どうしたのよ?」
蒼星石に水銀燈の問いかけが聞こえた様子はなかった。
「素晴らしい。これが肉の器」
蒼星石は歯を剥き出して笑った。蒼星石がする訳もない、禍々しい笑いかた。
「蒼星、石?」
金糸雀の掠れた声は私にしか聞こえなかったと思う。
481
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 16:54:51 ID:???
異様な迫力の笑い方に、みんな蒼星石を見つめる事以外まともにできなかった。
蒼星石はゆっくりと両手を頬に添えた。
「何もかもが明瞭。くくっ素敵ですわ」
うっとりとしたまま、蒼星石が続ける。
「この体、私が貰い受けるとしましょう」
「お前は何者ですぅ!?」
翠星石は誰よりも早く蒼星石に駆け寄る。妹の危機を前にして、翠星石は本当に勇敢だった。
けれど、緑色の茨が蒼星石の背後から噴出した。それはまるで堰を切ったように溢れ出し、通路いっぱいに飛び出し。壁にぶつかり天井を擦り、噴出の勢いが終われば、それは蒼星石と私たちの間の通路を埋めていた。高さは私の膝ぐらいまであるだろうか。その間にいたはずの翠星石は茨の中に倒れてしまったのか、見る事ができなかった。
「急に茨が出て来たかしら!」
噴出したとき程の早さはないものの、うぞうぞと歩くような早さで茨は私たちに這い寄って来ていた。
「寝室に戻るわよ!」
もとよりたいした距離はない。みんな走って部屋に戻る。水銀燈は眉間に皺を寄せ、厳しい表情をしていた。
「刃物を探して!」
あくまで水銀燈は二人を助けようとしていた。大急ぎで荷物をひっくり返し、使えそうな物を探す。
「なにもないの!」
雛苺が叫び返す時にはもう茨は寝室の敷居を越えていた。
私は扉を叩き付けるようにもう一度閉めた。
所詮は実体のない霊が無理矢理顕現しているのだから、茨一本一本はもろい物で、扉に挟まれた茨はぶちりと千切れて消えた。
「ここは私が押さえるから、今のうちに窓から逃げて!」
482
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 16:55:17 ID:???
「なにがあったの?」
みんな激しく扉が打ち付けられる音に驚いたみたいだった。次の瞬間ドン!という思い切り扉に体当たりしたような衝撃。
微かにでも凄まじい量の衣擦れのような音が聞こえる。なにかを巻き取るような音。私は扉の向こうで何が起きているのかを悟った。
茨は脆く、動きは遅い。でもそれも一本一本でのこと。束ねられてしまえばそれは大きな丸太のような物だ。音からして、さっき扉にぶつけた時よりも確実に大きい奴がくる…。
「早く逃げて!」
私が叫ぶのと、束ねられて大蛇のようになった茨が扉を私もろとも吹き飛ばすのはほぼ同時だった。
「…うあ」
棘の付いた大蛇が鎌首をもたげ、部屋中を睥睨していた。その外周はここにいる人間が手をつないで輪になればちょうどいいぐらいだろうか。大蛇の表面は蚯蚓が這っているかのように動き続けている。
「これほどなんて」
これではとても敵わない。
「もうおしまいかしら!」
「破ぁーーーー!!」
腹の底から出している低い叫び声が聞こえたと同時に青白い光弾が炸裂した。
金糸雀が快哉をあげた。
「Tさん!Tさんが来てくれたかしら!!」
光が収まると、茨の蛇の姿は跡形もなかった。
そのまま、その人影は部屋を駆け抜け廊下に飛び出した。
「女性に取り憑いて急速に知恵をつけたらしいけれど、薔薇はおとなしく咲いているのがお似合いよ!」
「破ぁーーーー!!」
もう一度青白い光が見える。廊下でTさんがどうやら茨の幽霊にとどめを刺したようだった。
なにもかもが悪い冗談のような雰囲気に金糸雀以外の全員あっけにとられていた。
483
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 16:55:45 ID:???
「Tさん、三人は無事かしら!?」
「もちろん!はやく三人をベッドに運ぶのを手伝って」
言われて、ようやくみんなが動き出した。
事が落ち着いてみれば、Tさんは古風な顔立ちと泣きぼくろが印象的な近所の中学校の制服を着た女の子だった。
「Tさんの前ではあらゆる怪奇が無力かしら!」
「すごいのー!」
「拍子抜けよぉ」
「私が紅茶を淹れている間になにがあったのか、誰か説明しなさいよ」
「それがさっぱり思い出せないんだ」
「ですぅ」
みんなてんでばらばらに喋っていた。そんな中Tさんが私の方を向く。目が合う。
「騒霊のようなまねをするのは疲れるでしょうに、よく持ちこたえてくれましたね」
「…騒霊?」
「騒霊って。こんなときに人を霊に例えるのは感心しないかしら」
「いえ、私が声をかけたのはその紫の方じゃなくて、背後の白い方のほうです。私が来たとき、必死に扉を押さえこんでいました。あの数秒がなければ、誰かが危険な目にあっていたかもしれません」
Tさんはお辞儀をした。その拍子にぴょこんと背中に背負った竹刀袋が跳ねた。
みんな唖然とした表情で私を見る。薔薇水晶を見るから、その背後にいる私の方を向いているのではなく、本当に私を見ようとしているみんなの視線に、私は戸惑った。
「なんにも見えないの」
「その守護霊はたぶん紫の方の親類縁者でしょう。大切にしてあげてください」
Tさんはそう言って帰って行った。薔薇水晶の守護霊である私の姿を見、声を聞けるなんて。
寺生まれってスゴイ。私はそう思った。
484
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 16:56:16 ID:LlL0iIEo
あとがき
夏祭りの、美味しさよりも珍しさ重視の出店のノリで書きました。
些細な事ですが、この話は雪華綺晶の一人称で、雪華綺晶はTさん以外の誰にも見えず聞こえていないことを把握してから読むと端々の妙なキャラクターの反応と描写の意味が通ると思います。
485
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 16:57:10 ID:LlL0iIEo
甜菜をお願いします。
急いでいるため改行とかが雑で申し訳ないです。
486
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 20:33:48 ID:9SAZ83/k
それでは投下します。申し訳ないですが甜菜お願いします。
487
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 20:34:55 ID:9SAZ83/k
爽やかな風が気持ちいい初夏、僕と双子の姉はガーデニング用品を買いにホームセンターに来ていた。色とりどり、たくさん並ぶこの時期に植える花の種。その中から僕の目に入ったのは朝顔。
ふと笑みがこぼれる。この花を見たら思いださずにはいられない、僕の大切な記憶を思い出したから。朝顔は僕の夏の思い出の花。迷わずその種を手に取り、姉の元へ向かった。
488
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 20:35:46 ID:9SAZ83/k
―――夏休み、小学生は大抵、学校の宿題とか自由研究なんかで、何か植物を育てり、観察したりすると思う。ひまわりとかへちまとか。
小学4年生の夏、僕たちが育てたのは朝顔だった。定番中の定番。育てた経験が無い人はいないんじゃないかってくらい一般的で、小学生でも育てられる易しい植物。祖父母と一緒に小さい頃からガーデニングをやっていた僕たちにとっては易しすぎるくらいの植物……のはずだった。
休みに入る2カ月くらい前、養分たっぷりの良い土に種を蒔いた。それから水やりはもちろん毎日欠かさずに、日当たりも考えて、時々肥料を与えて。大切に、大切に、十分すぎるくらいに大切に育てた。
芽が出て、本葉が出て、蔓が伸びて、それを支柱に絡ませて、順調に育っていく様子を観るのはとても楽しかった。
でも夏休みが順調に過ぎて8月も半ば、という頃になっても僕の朝顔には肝心の花が咲かなかった。つぼみさえつく様子も無かった。一緒に育て始めた翠星石の朝顔にはとっくに花がついていたのに。
「今日はまだだけど明日はぜったいさくですよ!」
「……そうだね。」
こんなやり取りを朝顔の前で毎日繰り返したと思う。
一緒に庭に出ては、一緒に落ち込んだ。翠星石は僕より落ち込んでいるようにさえ見えた。立派に育った自分の朝顔の自慢なんて決してしなかった。
489
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 20:36:46 ID:9SAZ83/k
いつか咲く。翠星石も言ってくれていたし自分もそう信じていた。けれど、紅の可憐な花がこぼれ落ちそうなくらいにいくつも咲く翠星石の鉢と、葉だけの寂しい僕の鉢。嫌でも比べてしまう。
なんだかこの朝顔は僕自身みたい――。
いつも華やかな翠星石と地味な僕。
たくさん花が咲いている翠星石の鉢植えを、いや翠星石を羨ましい、少し妬ましいと思った。でもすぐにそんなことを思ってしまう自分を嫌悪した。
ある朝、いつもは隣で寝ているはずの姉の姿が無かった。早起きするなんて珍しかった。普段から僕が起こしてから起きる方が多いくらいだから。
きっと庭で朝顔を見ているのだろう、そう思い僕も急いで庭へ向かった。
予想通りに庭には朝顔の鉢植え二つと翠星石の姿。でもすぐにちょっとした違和感を覚えた。
何故かいつもと鉢の位置が逆だった。いつもは僕のは左、翠星石のは右のはずなのにその日は花がついていない鉢が右、ついているのが左に在った。
「翠星石?」
後ろ姿に声をかければ、僕が近付いていることに気づいていなかったようで一瞬肩がびくりと震えた。持っていた彼女のお気に入りのジョウロがカシャンと音を立てて落ちるのを僕は見た。
ゆっくりと振り返った翠星石。僕の予想に反してその顔は驚かされて怒った顔じゃなく満面の笑顔だった。
「蒼星石!見るです!!花がさいてるですよ!!」
自分の、花がついている方の鉢を指していう姉。ずっと前から咲いているのに今さら何を言っているんだ……と一瞬思ったが……違った。翠星石の鉢じゃなかった。
よくよく見ると翠星石が指した鉢のネームプレートには蒼星石、僕の名前が記されて
490
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 20:38:07 ID:9SAZ83/k
ていた。
そうか――。
姉の優しさに気付いた瞬間、僕は嬉しくて、嬉しくて胸がぎゅっとして、鼻がツンとして、涙が出そうになった。
でもそれはこらえた。泣いてしまったらきっと翠星石は困惑しただろうから。
早起きして、自分の鉢と僕の鉢の位置とネームプレートを交換した彼女は僕が笑って喜ぶのを見たかったのだろうから。
「ほんとうだ……。綺麗にさいてるね……」
僕は笑って言った。少しぎこちない微笑みだったかもしれない。
「蒼星石ががんばったからですよ」
翠星石も笑った。
今でもあの笑顔は思いだせる。朝顔みたいに綺麗な微笑みだった。
それから僕の……いや元僕ので、翠星石のものになった朝顔は夏休みが終わる頃になってからやっと花をつけた。
「きれいなあおですよ!蒼星石の好きないろです!」
「……いやーぜんぶ花がおちちゃった時はびっくりしたですけどちがう色もさくんですねぇ」
白々しく言う翠星石に僕はクスリと笑った―――。
姉の持っているカゴに朝顔の種を入れる。
「ん?あれ今年も育てるんですか、朝顔。蒼星石好きですね」
「うん。ずっとずーっと毎年育てるよ」
大切な記憶が色褪せないように。今年はいくつ花がつくかな。
491
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 20:40:57 ID:9SAZ83/k
以上です。よろしくお願いします。
最後のvipかもしれないのに規制だなんて…orz
492
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 20:58:32 ID:???
>>477-484
>>487-490
転載しました。
下の方のは、
>>489
最後と
>>490
最初を自己判断で変えて投下した部分があります。
お気を悪くされたら申し訳ない。
493
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 21:04:18 ID:9SAZ83/k
491ですが確認しました。ありがとうございます。
>>489
の最後が切れているのはこちらのミスでした…。
直していただいてありがとうございます。
494
:
或る夏の嵐の日に
:2010/08/31(火) 22:35:50 ID:9UAZ8/OM
転載おながいします
ごおおおおおおお、と大気がさわぐ。
ひきもきらずに打ち寄せる突風は、我が家の雨戸をあまねく乱暴に叩いて過ぎ行く。
閉め切った6畳間を白く照らし出す蛍光灯のヒモが、心なしか僅かに揺れているようだ。
それほどに、接近しつつあるこの台風の威力は容赦ないらしい。
「風、つよいね…。」
押入れの中に納められた布団の間におさまり、窓の向こうの重い雨戸が風に弄ばれているのを
見るともなしに見ている私と妹。
妹のぽつりと呟いた一言に、私はゆっくりと肯んじた。
「ええ…そうですわね。」
夏休みに入ったものの、私も妹も特にすることもなく、ただ日々冷房の効いた部屋の中から青空に浮かぶ
とめどない入道雲を見ていただけだった。
少し前にインドネシア沖で発生したという熱帯低気圧はいつの間にか台風に成長し、また知らぬ間に沖縄や
九州を抜けて、私達の住むこの街にまで足を進めてきたのである。
495
:
或る夏の嵐の日に
:2010/08/31(火) 22:39:28 ID:9UAZ8/OM
前兆はあった。
昨日の夕暮れは、なんと表現したら言いのだろう、自然な…ナチュラルな色彩ではない不気味なというか、
人の気持ちをざわつかせるような薄い血の色のような空が、夜の八時ごろまで広がっていたのである。
ベランダに出て見上げていた私の身体を心なしか強く打っていく風は、低く流れゆく雲をものすごい速度で
東へと押し流していた。
不気味な空を眺めていた私は、不意にすべてを破壊してしまうかも知れない圧倒的な力の訪れを感じ、なぜか
子供のように胸をドキドキと走らせてしまっている私自身に気づいた…。
そして、バタバタと打ち付ける風の音に目覚めたのが今日の夜明け。
横で寝ていた妹を起こしたのちにテレビを点けると、時折ヒビが入ってざわめく画面の中で、骨組みしか
残っていないビニール傘の柄を握り締めてマイクに叫ぶ、近所の薄暮の漁港に立って職務を全うしようと
している健気な男性アナウンサーがよろめいていた。
「すごいね、風…。」
「ええ…。」
私の妹は寡黙だ。だが別に私と仲が悪いなんて事はない。自分で言うのもなんだが、良すぎるほどだ。
しかし、その寡黙さが、今の妹が何を感じているのかを測るのを少し難しくさせた。
会話は続く事もなく、私達はそれぞれにケータイを開き、近所のお友達にメールで今の様子を聞いてみたりしてみる。
真紅も水銀燈は、何も出来ず暇すぎて死にそうだという。
翠星石と蒼星石は柴崎時計店の瓦が飛んだとかで大わらわで、金糸雀と雛苺はみっちゃんと三人で
トランプ大会に興じているようだ。
私と妹は身体を寄せ合い、二人で互いのメール画面を見せ合いながら、笑みを交し合ったりしていた。
496
:
或る夏の嵐の日に
:2010/08/31(火) 22:41:57 ID:9UAZ8/OM
・・・・・・・・・・
「それにしても、本当に何もする事がありませんわね。」
そう言ったのは、ケータイ画面が11時を示した頃だった。
「うん…。」
「テレビで何かおもしろい番組でもやっていないものでしょうか。」
「今あってるのはどこも台風関連のニュースばっかだかろうから、おもしろくないよ…。」
「ですわよね…。」
「…洋画のDVDか何か、今から借りに行く…?」
「…!!」
ぼそりと言った妹の口元が、悪戯っぽく笑っていたのを私は見逃さなかった。
外はあんなお天気なのに…?
そう答えようとした私は、妹が相変わらず笑みを浮かべているのを見て悟った。
今の妹の言葉は私への挑戦だ。
外の大風を盾にして、常識的な反応で妹の申し出を納めさせるのはあまりにもつまらない。
もしかしたら、この嵐の日に、妹が感じていることって…!
497
:
或る夏の嵐の日に
:2010/08/31(火) 22:44:37 ID:9UAZ8/OM
「ええ、行きましょうか…!」
そういった私も先ほどの妹と同じ表情を浮かべていたであろうことは、一瞬の驚きののちに返ってきた
妹のそれが雄弁に物語っていた。
思えば、私も妹も、何か尋常ならざる事を…嵐の訪れた時から待っていたのかも知れない。
・・・・・・・・・・
果たして外は、普段の様相をほとんどかなぐり捨てていた。
生暖かい空気の激流が道路を走り、身をかがめて歩き行く私達の足に粘っこく絡みつく。
空っぽのアルミ缶が甲高く間抜けな音を立てて私達の後ろへと流されていった。
薄暗い空を見ると、どす黒く積もった雲々までもが、行き足をはやる大気に運ばれて飛んでいく。
雨は降っていない。私も妹も、雨がっぱと長ぐつ姿で、長く伸ばした髪をたなびかせて、
重い足を必死に動かしていた。
大通りに出た。人影はおろか、走っている車もまったくない。
居並ぶどの家も、雨戸を固く閉じている。
はるか遠くに唯一開いているコンビニの、ガラス窓から漏れる蛍光灯の白い光を見て、私はなぜか
頼もしさの混じったような嬉しさがこみ上げてくるのを感じた。
その時だった。
498
:
或る夏の嵐の日に
:2010/08/31(火) 22:47:31 ID:9UAZ8/OM
「あっはっはぁ、見ろぉ、人がゴミのようだぁあああああ!!」
唐突に響いた大声が、存外に近くから発せられた。
挑みかかるような笑い声を上げている妹が、私の視線に顔を赤くして照れている。
「ばらしーちゃん?」
「…てへへ?」
「人がゴミって…この辺りには、私達のほかには誰一人いませんわよ?確かにゴミは吹き飛んでますけど…。」
我ながら無骨な突っ込みだ。
「うん…だから、こんな時だから…誰はばかりなく叫んでみたくなったんだ…。」
「…ええ!!その気持ち、お姉ちゃんは良く分かりますわ!!」
「うん!!」
「君の瞳に、乾杯!!ですわ!!」
「私の肝臓が、心配!!だよ!!」
「ジャック!!お願い、死なないで!!」
「ろーず…せめて、かわりばんこに木切れにのせてくれよ…がぼがぼ」
「じゃあああああっく!!」
色々な映画の物まねをしながら、無邪気な私と妹はレンタルビデオ屋へと歩き続けた。
…本当に、貴女はどこまでいっても私の妹なんですのね…。
嬉しさがこみ上げて仕方なかった。
499
:
或る夏の嵐の日に
:2010/08/31(火) 22:50:28 ID:9UAZ8/OM
・・・・・・・・・・・
「あっ!見てみてお姉ちゃん、ここだよ、ここ!!落ちていくガレキの中に、私の大好きな大佐さまが…!!」
「あらあら、うふふ!」
結局、ビデオ屋では妹お気に入りのアニメ映画を借りてきた。
プラズマテレビの画面の、ほんの小さな一箇所を一生懸命に指差し、興奮して叫ぶ妹の様子を、私は
ほほえましく見ている。
ああ、本当に幸せな時間だな…。
「じゃあじゃあ!次はどれ見る!?」
「『真紅の豚丼』なんてどうでしょう?」
「さんせー!!」
「そうそう、さっきコンビニで買ったお菓子、まだありますわよ?」
「うん、食べよ食べよ!」
妹はハイだ。ものすごくハイだ。
私も心が躍る。
よく言われたものだ。私達双子は、まるで鏡合わせの様だと。
その通りだ。しかし、それだけではない。
外面だけではなく、その内面、尊い感性までもが…。
「うふふ…」
「あはは…」
外では大風。だのに、ここは天国。
荒れ狂うゆえに隔絶された小さな空間では、二人だけの愉しい時間がゆっくりと過ぎていく。
…こんな時間も、たまには良いかも、ですわね。
おわり
500
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 22:52:53 ID:9UAZ8/OM
以上です。よろしくです。
板の移転とかの話は、一体どうなるのだろうか…。
501
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 23:07:01 ID:???
>>494-499
転載しました。
30行規制にかかったところはやむなく二つに分けさせてもらいました。
502
:
謎のミーディアム
:2010/08/31(火) 23:11:41 ID:9UAZ8/OM
あ、ありがとうございました
503
:
484
:2010/09/01(水) 08:53:54 ID:???
甜菜ありがとうございました!
しかし参加者全員甜菜かぁ…規制厳しすぎるね
504
:
謎のミーディアム
:2010/10/03(日) 10:03:16 ID:WykdsoLU
|゜)
少年時代3.2
505
:
少年時代3.2
:2010/10/03(日) 10:07:57 ID:WykdsoLU
注:強いて言うならbiero
506
:
少年時代3.2
:2010/10/03(日) 10:08:36 ID:WykdsoLU
号泣中の空の下、なんとか滑り台の腹の中に逃げ込んだものの、長袖のふたりは
スタートで出遅れたためこの短時間にすっかり雨にやられてしまい、髪や裾から
ぽたぽたと水を滴らせていた。
「はぁぁぁ、ぬれちゃったね」
「うわぁ、ぐっしょぐしょ」
蒼星石は肌に張り付く布の感触が気持ち悪いのか面白いのか、襟元のボタンをふたつ
外したYシャツの胸元をつまみ、冷めきった空気をべしゃべしゃ首元から服の中に
送り込んでいる。
「あーあ、みんな帰っちゃってる」
この雨には、公園で遊んでいたほかの子供達もすっかりまいってしまったらしく、
男子のみと女子のみでそれぞれ作られた5、6人づつ程のグループが逃げ場を
求めて右往左往していた。
が、ジュンたちが陣取った滑り台下も含めて、この公園には団体様で雨を凌げるような
ふところの広い場所などありはせず、結局10ではきかない元気の塊たちがどこか他の
雨宿り場所を求めて公園から大急ぎに駆け出ていく。
507
:
少年時代3.2
:2010/10/03(日) 10:09:10 ID:WykdsoLU
そんなこんなで周囲からは人影がすっかり失せて、図らずもジュンと蒼星石はこの公園で
ふたりっきりになってしまった。
「どうしよ、やみそうにないね」
「ああ、おねえちゃんがむかえにくるからだいじょうぶだよ」
ひとけの無くなった公園で聞こえてくるのは、ふたりの息遣いと一本調子な雨音。
寒々しさと前にもまして暗くなった空に不安さを煽られたのか、憂いげに外を見やる
蒼星石を、ジュンがしかと落ち着いて慰める。こういうときばかりは、心配性な
おねえちゃんに感謝というところか。
「へぇ、ジュンくんもお姉さんがいるんだね」
「蒼星石も?」
「うん。 ふたごなんだ」
濡れねずみのふたりだが、吹き抜けの狭い空間で気持ちの方までは冷えていないご様子
で、笑う顔に今の空のような陰りはない。姉を持つもの同士、またしても共感の種が
芽吹いていた。
「年もいっしょだしね、前の学校でもおんなじクラスだったんだ……
れ、ジュンくん?」
「ん、うん、ちょっとぬぐよ。きもちわるいし」
話を進める蒼星石を前にして、ジュンがもそもそと上着を脱ぎだした。そのまま
水気を蓄えた上着を象の鼻の真下にあたる所にある、ヘリに沿ってカーブを描いた
腰掛けのようなでっぱりにべちゃっと放りだす。
508
:
少年時代3.2
:2010/10/03(日) 10:09:54 ID:WykdsoLU
そんなこんなで周囲からは人影がすっかり失せて、図らずもジュンと蒼星石はこの公園で
ふたりっきりになってしまった。
「どうしよ、やみそうにないね」
「ああ、おねえちゃんがむかえにくるからだいじょうぶだよ」
ひとけの無くなった公園で聞こえてくるのは、ふたりの息遣いと一本調子な雨音。
寒々しさと前にもまして暗くなった空に不安さを煽られたのか、憂いげに外を見やる
蒼星石を、ジュンがしかと落ち着いて慰める。こういうときばかりは、心配性な
おねえちゃんに感謝というところか。
「へぇ、ジュンくんもお姉さんがいるんだね」
「蒼星石も?」
「うん。 ふたごなんだ」
濡れねずみのふたりだが、吹き抜けの狭い空間で気持ちの方までは冷えていないご様子
で、笑う顔に今の空のような陰りはない。姉を持つもの同士、またしても共感の種が
芽吹いていた。
「年もいっしょだしね、前の学校でもおんなじクラスだったんだ……
れ、ジュンくん?」
「ん、うん、ちょっとぬぐよ。きもちわるいし」
話を進める蒼星石を前にして、ジュンがもそもそと上着を脱ぎだした。そのまま
水気を蓄えた上着を象の鼻の真下にあたる所にある、ヘリに沿ってカーブを描いた
腰掛けのようなでっぱりにべちゃっと放りだす。
509
:
少年時代3.2
:2010/10/03(日) 10:10:53 ID:WykdsoLU
>>507
>>508
2重投稿です。失礼。
510
:
少年時代3.2
:2010/10/03(日) 10:11:15 ID:WykdsoLU
下に着ていた真白いTシャツにまで水が染み渡っているため、そのままの流れで
もう一枚脱ぎさって肌を出す。少年らしいみずみずしい肌は熱気が逃げてしまった
からか、先ほどよりも少し白さが目立っている。
まだ幼いことも合わさってだろう、男子ゆえにただでさえ性徴が無い胸部のふたつの
頂点は色素が薄く、周囲の肌との境界はほとんど無い。遠目に見たら肌色のなだらかな
板があるだけだ。
ギュウウ ピシャピタピタ、ポタタタ……
ぞうきんに追いうちをかけるかのように力を込めて絞り、Tシャツの残り水を追い出す。
ジュンの二の腕は無駄な肉もないが筋肉もないからだろう、この軽労働も彼にとっては
そこそこ大変なものらしく、ぐっと奥歯をかみしめている。
「蒼星石もぬげば?」
「そだね、ボクもぬご」
軽くなったTシャツをばっさばっさ小刻みに振り回し、乾かそう乾かそうとしている
ジュンの言葉にご同乗。自分もこの有様から抜け出そうと、負けず濡れているYシャツの
ボタンを外しはじめた蒼星石。
ばさりと剥いだ蒼星石の水衣の下は、ジュンと同じ白いTシャツ。水に濡れた丸い肩や
首の線は隣の小柄な男の子よりもなお華奢で、手を引っ込めてもそもそ肌着を脱ごうと
している立ち姿はリスか何かの小動物のようだ。
511
:
少年時代3.2
:2010/10/03(日) 10:11:46 ID:WykdsoLU
「んしょ、いよっと!」
ギュウッ パタパタパタパタ……
上半身がこの上なく涼しい姿になったところでジュンと向かい合い、彼に倣って
ぞうきん絞り。蒼星石は立ち振る舞いのひとつひとつが快活で力に満ちているものの、
それとは裏腹に身体の方は肉が付きにくいたちなのだろう、胸の下からわきにかけて
うっすらとあばらが浮いている。
肩甲骨や鎖骨の浮き上がりも顕著なもので、その在り方は言うなれば触れれば折れる
飴細工の儚さか。
性徴乏しくとも胸の頂点部は少年よりもほんの少しだけ鮮やかに色づいており、
季節外れの薄い桜の花びらが申し訳程度にちょんちょんと落とされている。うぶ毛すら
見つけられない驚くほどなめらかな肌の中で、それは明確なアクセントとなっていた。
「はぁーあ、くつもぐしょぐしょだね」
濡れてふやけた白いスニーカーと靴下の間の生ぬるい水気がどうにもなじまず、
蒼星石がしきりに踏み足を繰り返してはぐぽっ、ぐぽっとぬかるんだ音を立てている。
じっとしているのも嫌なのか、先ほどから殊更にジュンへ声をかけながらちょこちょこ
動いていた。
うー、と自分の肩を抱きながら身を縮めつつ、ジュンから目を外して雨を落とす空を
眺めている蒼星石。そんな背中をじいっと眺めつつ、少年が水気の切れていない自分の
上着を手に取ってそろーっと背後へ忍び寄る。
512
:
少年時代3.2
:2010/10/03(日) 10:12:21 ID:WykdsoLU
「ぃえーい!」
べしょっ!
「ひゃわぁっ!?」
剣聖ジュン之介の得物、銘刀びしゃびしゃ長袖が殺気も無く一閃。不意を討たれた剣豪
蒼星石衛門はひとたまりもなく、突然背中に襲い掛かった衝撃にただ驚きの声を上げた。
水気をたっぷり含んだままの上着が当たり、幼く未熟だがみずみずしさのつまった
背中の肩甲骨あたりではじける。勢いはあったが威力はそれほどでもなかったようで、
すべすべの肌は白い色合いを保ったままだ。
「もぉーっ! やったなぁ!」
べしーん!
「おわぁ!」
手負いの獣の濡れた牙が、ジュン之介の左肩に袈裟斬りのかたちで襲い掛かる。
業物ぐっしょりYシャツのきれあじをその身に受けた剣聖は衝撃に声をもらしたが、
得物を掴む手は緩めない。
見届け人もいないぞうさん下の決闘は苛烈さを増すばかりだ。
「いよっ! はっ! とりゃっ!」
「やっ! やぁっ! てやっ!」
513
:
少年時代3.2
:2010/10/03(日) 10:12:53 ID:WykdsoLU
打ち合うさなかにまだまだとばかりに蒼星石が振りかぶると、上身が反らされた分
薄い胸をつっぱらせる形となり、自然あばらの浮き上がりがいっそう顕著になった。
それでもその上に居る引っ込み思案な薄い胸はなんら自己主張せず、揺れもしなければ
形も崩さずただそこに佇んでいる。
壮絶なぶつかり合いにふたりの服は乱れ、肌は熱く朱がさし、濡れた髪が揺れる。
周囲の空には若き情熱とともに透明な飛沫が舞い、やがて訪れるであろう終焉の時に
向けてふたりの昂ぶりがいっそう増していく。
きゃいきゃいとじゃれあいながら濡れた衣服をぶつけ合うふたりは、この雨で足を
速めた寒気の中でも額に汗を、顔に笑いを浮かべていた。
「はぁ、はぁ、はぁーっ。 つかれたぁ」
汗に濡れたままの上半身を外気に晒して、荒い息を整える蒼星石。湯気がたたんばかりに
熱を持ち上気した肌は心地よい運動にほてり、こころもち血色を増している。
途中ジュンに執拗なまでに狙われたお尻が気になっている様子で、ハーフパンツ越しに
下穿きとその中の熟す前がごとき固い桃の実を自らの手でパンパンと叩いて気遣って
いる。
「んーっ、つかれた」
おあいてのジュンも、腰あたりを重点的に狙われたからだろう、特に痛みを覚えている
わけではないのだろうがなんとはなしに手を当てている。
もとより活動的なたちでないせいか、ジュンのくたびれの度合いは蒼星石のそれよりも
やや色濃い。少年の弱点である持久力のなさが浮き彫りになったかたちだ。
日常的におなごに絡まれることを宿命付けられた彼であるからして、このままでは
将来大変だろう。主に夜とか。
514
:
少年時代3.2
:2010/10/03(日) 10:13:20 ID:WykdsoLU
「なかなかこないね、ジュンくんのお姉さん」
「んー、いつもならもうそろそろ」
上着チャンバラというエネルギッシュな戯れの時を終え、湿気は残るが先ほどよりだいぶ
ましになったシャツをもそもそと着るふたり。運動の直後で身体はまだまだ熱を持って
いるが、いいかげんこのままでは風邪でもひきかねない。
「あぁ、あれ。 あのカサ」
じれてきた蒼星石の言葉を受けてジュンがきょろきょろ外を眺めると、細やかな水の
カーテンの向こうに若草色のカサが浮かんでいる。左手に1本のカサと膨らんだ
手提げを持ってゆったりとこちらへ向かってくる雨合羽を着込んだ子供が、なるほど
話にのぼったジュンのお姉ちゃんか。
「おねえちゃーん」
象の腹から手を振る弟に気がついたようで、こちらへと向かう姉の歩みが明らかに
速まった。赤い長靴で浅い水溜りをばちゃばちゃと踏み越えてまっすぐこちらを
目指す少女の姿に、彼女よりも更にちびっこなふたりの顔がほっと緩んだ。
「ジューンくーん、おまたせー」
完全防備でおむかえに上がったお嬢さんは、にこにこ顔がよく似合う眼鏡をかけた
女の子。ジュンよりも色素の薄い茶色がかった髪の毛は襟元にかかる程度で切り揃えて
あり、カッパに守られてさらさらふわふわ柔らかさを保っている。
弟くんと比べると、吹き消すお誕生日ケーキのロウソクの数は2つか3つ多いくらい
だろう、彼女自身もまだ幼いものの、既に年下の子をゆったりと包み込むような
穏やかさを我が物としている。彼女はきっと、生まれたときからお姉ちゃんだった
のではなかろうか。
515
:
少年時代3.2
:2010/10/03(日) 10:13:58 ID:WykdsoLU
「あら、こんにちは。お友だちかな?」
「あ、はい。はじめまして、蒼星石っていいます」
友達の姉と顔を合わせるのは、やはりちょっと緊張してしまうものなのか。恐縮する
蒼星石にお姉さんはお姉さんらしく優しい微笑みでもって、手提げに入った石鹸の香り
漂うタオルを手渡した。無論弟くんにも一緒にタオルを渡す。
弟ひとりのお迎えのために、念を入れてタオルを2枚用意しているとは、彼女ないし
そのご家族はなかなかに周到だ。
「じゃあ蒼星石ちゃんもいっしょにいらっしゃいね。着がえなくちゃ」
「え、いや、ボクはべつに」
「いいじゃんか、来なよ」
気後れの色を示す蒼星石に、桜田きょうだいのおせっかい挟撃が襲い掛かる。友誼を
結んだその日にさっそく我が家へご招待とは、なかなか高調子な友好関係だ。
面立ちからしてシャイなジュン少年らしからぬこの積極性、やはり彼も友人ができて
心が昂ぶっているのか。この蒼星石が少年の終生のパートナーたる存在になるのでは
ないかという不確かな予感を、あるいは感じているのかもしれない。
516
:
少年時代3.2
:2010/10/03(日) 10:14:30 ID:WykdsoLU
「ん、んん。じゃあおじゃまします」
「うん」
かくしてジュンは姉の傘を、蒼星石は本来ジュンのものであろう青い傘を差し、カッパに
守られた姉を挟むように手をつないで雨の下へと踏み出した。お姉ちゃんの携えていた
手提げは、濡れちゃいけないと今は弟くんが傘の持手に引っ掛けている。
お姉ちゃんの名前なのだろう、弟くんの持つ手提げや傘には、さくらだのり、と平仮名の
刺繍が施されている。
「帰ったらおふろ入ろうね」
お姉ちゃんこと桜田のりは、この弟とその友達と手をつないで帰るというただそれだけの
事柄が、お出かけか何かのようなうきうきとした楽しみとして感じられているようだ。
生来の構いたがりなのか、春の野の様な穏やかな気質なのか、おとぼけさんなのか。
ただそんな気を配ってくれる存在は、まだ街をゆく道にさえよそよそしさを感じている
蒼星石にとっては、とても心安らぐものに違いなかった。
「ジュンくんもお姉ちゃんといっしょに入ろうね」
「やだよそんなん、はずかしいだろ」
「えぇ〜、入ろうよぉ。お姉ちゃんさみしいよぉ」
「あははは」
やっぱり、単なるおとぼけさんなのかもしれない。
517
:
少年時代3.2
:2010/10/03(日) 10:15:02 ID:WykdsoLU
つづくのだわ
518
:
謎のミーディアム
:2010/10/03(日) 17:31:20 ID:???
乙です
転載はなしでしょうか?
519
:
謎のミーディアム
:2010/10/04(月) 01:20:17 ID:???
>>516
今回は特に素晴らしい…ボーイッシュ万歳
520
:
謎のミーディアム
:2010/10/09(土) 18:30:00 ID:9Yr.LCOw
乙
最近忙しかったけどここの投下みると安らぐ
521
:
謎のミーディアム
:2011/01/16(日) 20:17:39 ID:???
もしも雛苺が有り得ない程イチゴ嫌いだったら
第二回「お誕生日とヒナ」
紅「巴、まだ帰らないの?今日は、部活はお休みではなくて?」
巴「あ、真紅。……今日ね、雛苺の誕生日なんだ。」
紅「あら、そうなの。それなら浮かない顔してるのは何故かしら?」
巴「実は、最近、雛苺と大ケンカしちゃってお互いに口をまったく利いてないの。」
紅「それは難儀なのだわ。でも、仲直りすべきね。」
巴「だから、仲直りの印に誕生日パーティを開こうと思ってってるんだけど。」
紅「なるほどね。そう言う事なら私も協力を惜しまないのだわ。」
巴「ありがとう。早速だけど、雛苺に私の家に来るよう伝えてくれないかな?」
紅「お安いご用なのだわ。」
巴「さようなら。」
紅「ええ、また明日。」
紅(さて、雛苺を探さなきゃね。どこにいるのかしら……。)
雛「あっ、真紅。おーいなのー!」
紅「探す手間が省けたわね。雛い…ヒナ、ちょっと話があるのだけれど。」
雛「?」
紅「あなた、近頃、巴とケンカしたそうね。口も利いてないらしいじゃない。」
雛「うゆ……、その事なんだけど、ヒナ、トゥモエに謝りたいと思ってるの。」
紅「え……?」
522
:
謎のミーディアム
:2011/01/16(日) 20:18:47 ID:???
雛「この間トゥモエが買って来たうにゅーに苺が入っていたのは翠星石の仕業だったの。
だから、二度とこんな事が起きないように、ついさっき
翠星石の喉の奥に練りわさびを20本分ほど捩じ込んできたとこなのよ……。」
紅「あ、あらそう……。まぁ、ちょうど良いわ。それなら、今から、巴の家に行って謝ってきなさい。」
雛「うぅ〜、ちょっと顔を合わせづらいのよ……。」
紅「黙って言うとおりにしなさい。きっと良い事があるのだわ。」
雛「?……わかったのー?取り敢えずヒナは一旦、家に帰るのー。さよならなのー。」
紅「ええ、また明日ね。」
紅(雛苺はイチゴが絡まなければ、とても良い子なのだわ。巴、後は上手くやって頂戴。)
翠「うぅ、酷い目にあったですぅ。鼻が…鼻がぁ……づーんとするですぅ……あ、真紅。」
紅「まったく、自業自得なのだわ。あの子があなたに此処までするなんて余程の事よ?」
翠「こんな筈ではなかったんですがね。むしろ不意を突いて喜ばせるつもりだったんですが。」
紅「……?いったい、何があったというの?話して頂戴。」
523
:
謎のミーディアム
:2011/01/16(日) 20:19:33 ID:???
↓翠星石の回想シーン↓
雛「翠星石、苦しみ抜いた果てに懺悔するなのー。」
翠「ち、ちち、チビチビ。ほ、ほら、これをやるから勘弁しやがれですぅ……。」
雛「?……これ、もしかして、ヒナの大好きなダブルハバネロ大福なの?これをヒナに?」
翠「うぅ……、つべこべ言ってないで、ちゃっちゃと喰いやがれですぅ……!」
雛「とっても辛くて美味しいのー!翠星石、ありがとうなのー!」
翠「た、誕生日、お…おめでとうですぅ……。」
雛「…………。」
翠「……?チビチビ、どうしたですか?感動して声も出ないですか?
……!もしかして、大福を喉に詰まらせたですか?大変で(ry
雛「今、何て言ったなの?翠星石。」
翠「へ?……きゃああ!な、何をするですかぁ!?」
雛「誕生日なんて、めでたくないなの……!」
翠「ひぃいいいいぃやああああぁぁああああ!!!!」
雛「翠星石の口の中を緑でいっぱいにするのー。」
↑翠星石の回想終わり↑
紅「それって、もしかして……。」
翠「たぶん、今年であいつが……だからですぅ。」
紅「巴が危ないのだわ!!!!」
つづく
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