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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

52煌月の鎮魂歌4 2/16:2015/05/25(月) 01:06:17
「アルカード様!」「よくぞご無事で──」と我勝ちに駆け寄りかけた奴らが、後ろ
に佇む半裸に革のジャケットとパンツだけをひっかけた、どう見てもストリート・
ギャングのユリウスを見たとたん、蒼白になって足を止めたのだ。
「彼がユリウス・ベルモンドだ」
 アルカードが言った。
「彼は私の要請を受け入れてくれた。すぐに本家に戻り、ラファエルとの対面と鞭の
授受に入る。ドアを開けてやってくれ」
 運転手がぎくしゃくした動きでリムジンの扉に手をかけた。ユリウスはすばやく
そいつよりも先に取っ手をつかみ、大きくドアを引き開けた。
「おっと失礼」
 蒼白に加えてひきつっている相手の顔に牙をむく笑いを返してやる。
「上流のマナーって奴には慣れてなくてね。赤ん坊じゃないんだ、車のドアくらい
自分で開けるよ。気分を悪くしたんなら謝るぜ?」
「ユリウス」
 穏やかな叱責が飛んだ。自分に対するものか、それとも立ったままわなわな震えて
いる運転手の気を静めるためかどちらかはわからなかったが。
 なんとか気を取り直した運転手はアルカードのためにドアを開け、貴公子はそうさ
れることに慣れきった動作で滑り込んできた。ユリウスの腹の奥でまた黒い何かが
うごめいた。ほとんど振動を感じさせることなくリムジンが夜の街を走り始めても、
その何かは消えることなくユリウスのはらわたをつついていた。
 目の前のアルカードはあの暴行の跡すらとどめていない。黒いスーツも白いシャツ
も、ぴったりと身に沿った新品そのものだ。
 ユリウスは彼が、それらを闇の中から呼び出して纏うのを目の当たりにした。壁に
身を寄せ、肩で息をしている青年の身体に甘えるように闇がまつわりつき、みるみる
うちに、部屋に入ってきたときとまったく変わらない衣装ひとそろいを織り上げた。
乱れた髪さえも見えない手で整えられ、もつれて汚れた髪はみるみるうちに輝きと艶
を取り戻した。顔をあげたときのアルカードは、すでに、ユリウスの前に現れたとき
とまったく変わらない、遠く輝く虚空の月に戻っていた。


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