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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

112煌月の鎮魂歌6 24/29:2015/08/27(木) 00:43:03
「離せ!」
 アルカードが低い声で叫び、ようやく身をもぎ離した。
 つかまれた手首を押さえ、壁際にちぢこまった彼は、いつもの氷の無表情で淡々と
言葉を発する彼とはまるで別人だった。苦しげに胸を──違う、シャツの下の何かを
押さえ、色を失った唇を震わせている。
 わかった。理屈ではなく、ユリウスは悟った。
 読まされていた書物の中に、この男の名を何度も見ていた。なぜ気づかなかったの
だろう。アルカードと最初に出会い、ともに戦ったベルモンドの男。アルカードが
いまもベルモンド家に身を置き、彼らともに、彼らのために、働いている理由を
作った男。
 鋭いナイフのように言葉が口から飛び出た。
「こいつがあんたを抱いた男なんだな」
「やめろ──」
「こいつがあんたを仕込んだ。自分のものにして、毎晩さんざん可愛がって、あんたに
男の味を覚えさせたんだ」
「黙れ!」
 猛然とアルカードがつかみかかってきた。冷静さも何もない、ただの激情にかられた
子供の突進だった。
 ユリウスは簡単に身をかわし、細い手首をとらえてひねりあげた。そらした喉から
かすかな悲鳴があがるのを耳にし、暗い嗜虐の炎が燃え上がるのを感じた。
「半月も留守にして忘れちまったか? あんたは俺の牝犬なんだぜ。今はな」
 アルカードはかたく目をつぶって顔をそむけている。長い睫が震え、白い肌は血の気
をなくしてほとんど透き通りそうに青ざめていた。
「五百年も前の男がいまだに忘れられないってか? 大したもんだ、泣かせるよ。だが
こいつはとっくに土の下だ、骨だってもう残っちゃいねえ。そいつがわかってて、まだ
操立てか? こいつ以外の男じゃ、身体は開いても心は許しゃしないってか? よく
言うぜ、この淫売が」


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