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【原作】ドラキュラ・キャスバニ小ネタ/SSスレ【準拠】

84古歌-イニシエウタ-【五ノ歌】18/4:2011/03/28(月) 00:26:30
「魔力の結晶です」とヘクターは言った。「危険が迫れば孵化して、命令に従ってくれま
す。どうか、これだけでも持っていてください。俺たちを安心させるためだけでも」
「そう言われては、断るわけにもいきませんね」
 女主人は困ったように笑って鎖を指にからめた。鎖を首の後ろで留めると、息づくよう
に魔力の石はゆっくりと明滅した。
「これはあなたが造ったの、それともアイザックが?」
「石は俺です」ヘクターはいくぶん恥ずかしげに言い、同僚のほうに首を傾けた。
「でも、その銀細工はアイザックがやりました。魔力を物にこめることについては、俺よ
り彼のほうが上ですから。俺はあまり手は器用な方じゃないし」
「奥方様にめったな物を差しあげるわけにはいかないから」アイザックはむっつりと答
え、自分の答えに頬を赤くした。奥方は笑って赤毛の若者を引き寄せ、本当の母親のよう
に接吻した。
「ありがとう、二人とも。必ず身につけることを約束します。でも、人を驚かせないよう
に、そっと、内緒でね」
 そして母が出かける時になると、公子は自分の剣帯をしっかり締め、母は魔力の石の飾
りをつけて、きらめきが漏れないよう胸元に石を入れた。ヴェールをかぶった母のあとに
ついて篭や瓶をかかえ、苦しむ人々の家を回った。貧しい人々の上にかがみ込む母の美し
い姿に、公子は、幼いころ自分やヘクターたちの、また城に迎えられた人々の上に傾けら
れたと同じやさしい慈愛の輝きを、誇らしい思いで見つめるのだった。


 だが、外の世界では不穏な動きが起こりはじめていた。魔物や悪魔の襲撃を受けなくな
った周辺の領主や聖職者たちは、自分たちが課している重税や教区税から、人々の目をそ
らす目標を失ってしまったことに気づいたのだった。
 これまでは魔物や悪魔が出現したとの知らせがあれば、兵士を派遣し、あるいは悪魔祓
いを行って、お前たちの納めている税はこのためにこそ遣われているのだと見せつけるこ
ともできた。だがそれがなくなったこの数年、人々は無意味に収奪される金や収穫物に不
満を高めていた。守ってもらうべき魔物の襲撃もないのに、なぜ理不尽な重税に耐える必
要があるのか?


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