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【原作】ドラキュラ・キャスバニ小ネタ/SSスレ【準拠】

49 古歌-イニシエウタ-【二ノ歌】11/17 :2010/07/12(月) 22:30:48
 人間の上に病や災害の種をまき散らして悦に入ったことも何度かある彼だったが、この
数年、そういった興味はまったく失せていた。彼の興味、彼の想念を占めていたのはほと
んどこの娘ひとりだけであり、他のことなどほとんど忘れ去っていたのである。娘をさし
だしてきた村のことさえ、気にしたこともなかった。
「配下のものがそのようなことを言っていたらしいな。余には関係のないことだ」
「お願いがございます、尊いお方」
 いつになく性急なようすで、娘はその場に膝をついた。
「わたしをほんのしばらくの間だけ、お城から出してくださいまし。村の人々に、病気に
効く薬を届けたいのです。この地で育てた薬草は、人間の世界で育てたよりもずっと効き
目があります。この薬を呑ませてあげれば、死んでいく子供たちや老人が、どんなに助か
るかしれません。お願いでございます。どうぞ、わたしを村へ行かせてくださいまし」
「ならぬ!」
 彼の咆哮は雷鳴のように周囲をゆるがした。後ろで心配げに控えていた侍女たちはおび
えた声をあげて縮こまり、同じく少し離れていた小妖精たちは、吹き消されるように姿を
消してしまった。
 花々は怯えて丸まり、草木も身をかがめてちぢこまった。微光に充たされた精霊界は、
闇の王の怒りによって世界そのものが針で充たされたように肌を突き刺す空気に変わって
いた。彼の目は久しく忘れていた血の色に爛々と燃えていた。娘だけが怖れなかった。
「きっとお怒りになることとは存じておりました。けれども、わたしが行かなければ、た
くさんの弱い人々が死ぬのです。子供や年寄りがまっ先に病に倒れました。そうでなくと
も、世話をする大人が倒れれば、誰も面倒を見てくれない子供も死ぬしかありません。罪
もない人々が苦しんで死んでいくのを、わたしは黙って見てはいられません」
「薬を届けるだけならそこにいる侍女どもに持っていかせるがよかろう。なにもそなた自
身が持っていく必要はない」
「あの村には魔物よけの札と浄めの茨が張りめぐらされています。疫病の侵入を、魔物の
しわざと考えた人々が、教会のお坊様のご指導でしたのです。そのために、彼女たちでは
中に入れないのです、この小さな子たちではなおさらです。人間のわたしでなければ、あ
の中に入って薬を置いてくることはできません」
「ならぬと言ったぞ、娘!」
 ふたたびの怒号が轟いた。びりびりと天地が揺れ、精霊界の緑の茂みは今にも枯れそう
な灰緑色に色をなくした。


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