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作品投下用スレ

1gere★:2005/06/17(金) 22:07:06 ID:4/fBJ1aQ
1、結界により、各能力は使用不可、あるいは弱体化してます。
  この結界は当分破壊できません。

2、各キャラはアイテムを一つずつと1日分の食料+水を配布してもらってます。
  アイテム管理のために、例え話の中でアイテムの状態が変わっていなかったとしても、話の最後に、

  【019 柏木千鶴 装備:トカレフ(残り弾数5)】
  【2日目 14時頃 学校の保健室】

  のようにアイテム、時間、場所を明記することを強く推奨します。
  それと本文に無かった描写を【】内で補足するのは紛らわしいので禁止とします。

3、送信する前にかならずリロードをしてください。
  かぶって投下すると読みにくくなり皆凹みます。

4、書き手の方はできるだけ実況スレをチェックするように心がけてください。
  矛盾点、ルール抵触等の問題発生時に円滑な進行が出来なくなる恐れがあります。
  また物語も佳境ですので書き手IRC及びまとめサイトの方も出来る限りチェックして書き手同士の足並みを揃え、
  矛盾点・未使用の複線を減らしたいと思いますので、そちらの方も推奨しておきます。
  書き手IRCは『#ロワ2書き手専用』です。

133カルラのゆくさき ◆gereKU42C6:2005/07/28(木) 14:58:10 ID:2ux0d/sU
 カルラがベナウィたちと別れてしばらく経った頃。
 明日菜の消えた方向に進んでいたカルラだったが、その先にはすでに影も形も無く。
 それに空腹による判断力の低下も合わさり、気が付けば同じ所をぐるぐる回るという結果に。
「仕方ありませんわね」
 不意にカルラはハクオロの鉄扇を地面に垂直に置くと、その手を離した。
 支える力を失った鉄扇は当然の如く地面にぱたりと倒れる。
「あるじ様を信じてこちらに向かいますわよ」
 倒れた鉄扇を拾い、カルラは自分の主が示した方角へと歩き始めた。
 それから数時間、独特の芳香がカルラの鼻を刺激すると同時に、赤黄色の小花を満開にする木を視界に捉える。
 それは金木犀であるが、カルラの住んでいた世界にそのような樹木は存在するはずもなく。
 よって、隣に立っている葉桜と見比べて芳野のように違和感を抱くこともない。

134カルラのゆくさき ◆gereKU42C6:2005/07/28(木) 14:58:23 ID:2ux0d/sU
「あら、綺麗な花ですこと。それに比べて隣の木ときたら――」
 その芳野が葉桜の上に登って一箇所を注視している姿を、偶然にも見つけてしまったのは幸か不幸か。
 いくら気配を消す装置といっても、姿形が消えるわけではない。
 即座に身を隠したカルラ、その目は自然と芳野の視線が向かっている先へ。
 そこには先刻会ったばかりの三人――エディ、真希、早苗――の姿が。
(あれは先程の……? どうやら木の上の男には気付いていない様子)
 そして芳野もカルラのことには気付いていない。
 芳野は気配を消す装置を手に入れたことで気が緩んでいたのかもしれない。
 もしくは戦慣れのしていない、元はただの電気工であるが故か。
 いずれにしてもカルラにとっては有利な状況。
(あるじ様が与えてくださったこの機会、逃すわけにはいきませんわね)

135カルラのゆくさき ◆gereKU42C6:2005/07/28(木) 14:58:40 ID:2ux0d/sU
 カルラの切れるカードは三枚。
 一つ目は、木の上に潜む芳野を地上に引き摺り下ろす。
 怪我のことがあるので無理はできないが、大刀があれば木の一本や二本など軽々切り倒すことがカルラには可能だ。
 そのことでエディたちも芳野の存在に気付く。
 二つ目は、同じく木の上の芳野に対して鉄扇を投げつける。
 芳野を負傷させれば成功、上手くいけば毒も盛れて致命傷を与えることができる。
 三つ目は、例の胞子が入った小袋を使う。
 幸運にもカルラのいる場所は風上になっている。
 小袋の口を開けば、木の上の芳野は無理としても、風下に当たる場所にいるエディたちには効果がある。
 どちらにしても面白い結果になる、とカルラは思った。
(さて、どうしましょうかね……)

【026 カルラ 所持品:自分の大刀、セイカクハンテンダケと胞子を入れた小袋、ハクオロの鉄扇、トゥスクル製解毒剤
 状態:背中・肩を強打右手首負傷、握力半分以下】
【場所:森の中、金木犀の木付近】
【時間:三日目午前十一時頃】

136あけのそら、こがれて:2005/11/12(土) 00:52:56 ID:DXGblr/M
 劫と音を立てて景色が燃えている。
 熱せられた空気そのものが朱(あけ)に色づき、知覚しうるもの全てに濃淡のフィルターをかけている。
 それが視覚であれ、聴覚であれ変わりはない。誰しもが迫る炎を、痛みを――危険を、感じ取ることができた。
 しかし、そこから判断し、行動することはまた別の過程である。
 ナイフが刺さったままの親友の亡骸をかき抱いた皐月、弾がきれた銃を握り締め、その場から動かないカミュ。
 焼け落ちた木塀の間から芳野が逃げるさまと、木造の母屋への延焼を確認した光岡もまた、動けずにいた。
 兵士としての理性は、避難のための行動を是としている。感じうる全ての風が、警鐘を鳴らしている。
「っ……かさっ……、み……おかさん」
 熱風に混じる、うわ言めいた声。
 それが己の名であることに気づき、光岡はようやく踏み出すことができた。
 呪縛を解いたのは、声を出すという行動で最初にそれを示したのは、川名みさきだった。

 肩を抱きとめ、歩けるか、と問うた。
 万全であれば否やもなく抱えあげ、残る二人に脱出を促すことも出来たが、動かせぬ肩ではそれもかなわない。
 返事はない。ただ、空をさまよう指が光岡を求めていた。
 頬を伝い、長く垂れた前髪を梳き、熱を持った右肩の傷へと――
 触れさせてはならない。
 そう直感し光岡がすんでのところで掴んだのはみさきの手首だったが、
「ひっ――」
 悲鳴未満のその声に驚き、手を離してしまう。
 肩越しに感じた全身の強張り、離した手に僅かに手に残る震えの残滓。
(怯えて、いるのか――)
 身じろぎの気配に、彼女が振り向く。かっと見開かれた色のない瞳に、己の姿が揺らいで映る。
(そうか、そうだったな――)
 首に手を回し、長い黒髪に触れた。そのまま抱きすくめる。
「みさき、俺だ。敵は逃げた。もう大丈夫だ」
 囁くように訴えかける。反応はごく小さな頷きというかたちで返ってきた。
「少し歩く。俺が支えになるが、立てるか? 」
 再び同じ反応を得て、光岡は立てていた片膝をゆっくりと地から離した。
「湯浅! カミュ! 此処から離れる。火がまわりきらないうちに――」
 顧みつつ、他の二人に避難を促す。
 その視界に入ったのは我に返って顔を上げるカミュと微動だにしない皐月だった。

137あけのそら、こがれて:2005/11/12(土) 00:53:26 ID:DXGblr/M
 火元となったバッグはすでに燃え滓になっている。
 木塀は芳野が崩した一角を除いて火勢を増すばかり。
 母屋からも煙が立ちはじめていて、火を消す方法がない以上全焼は時間の問題。
 しかし湯浅皐月の意識はそのようなことなど意に介していなかった。
 認識しているのは手の中の重みと、視線の先、木塀に程近い場所に咲く炎の花。
 ――紫陽花が、燃えていた。
「湯浅! 」
 ああ、そうか。
 やっぱり正解は血のような赤。
 人が下に埋まっているから、花はその色を映すんだ。
 花の種類が違っても、同じなんだろう。
 お花見のときの、桜と。
 きっと。ねえ、ゆかり。
 答えは、手の中のぬくもりというかたちで返ってきた。
 手の中だけじゃない。体全体が、というより空気自体が熱い。
 多分酔っているせいだ。ろれつが回らなくなって宗一に絡んで。
 ゆかりは変なとこで寝ちゃうし。
「湯浅、行くぞ! 」
「ああ、ごめんなさい光岡さん。ゆかりがなかなか起きないんで」
 ごく自然に交わされた台詞が、奇妙に歪んでいた。
 口から出た澱みのない言葉は、酔ったときの台詞とは似ても似つかない。
 酔っているせいなんだ、ここはお花見の席で、ゆかりは寝ていて。
 そう思いたかった、のに。
「何を、云っている――」
「あたしも、ちょっと酔っ払っちゃったみたいなんで少し休んでますね。周りじゅう揺れて見えるし
 ゆかりこんなだし、起きるまで動けそうにないんで」
 そう、思い込みたかった、のに。
「湯浅、しっかりしろ。伏見はもう――」
「もう、何だっていうのよ」
 そう思いたがっていた自分はあっけなく崩れる。自らの言葉で。
 日ごろ「意思」そのものを相手に叩きつける瞳に今あるのはただクリアでソリッドな「現実」。
 酒精による濁りも狂気による凝りもそこには見出せない。
「わかってるんだから、こんだけでっかいナイフ背中から生やして無事なわけないなんてこと。
 水溜まりんなるくらい血が出てて、寝てるだけのはずないことなんてこととっくに。……だったら」
 湧き上がる乱気流。それは出口を見出さず。
「だったら何であったかいのよ! 何で血の色がはっきり分からないの! 何……でっ――」
 息が詰まる。塊を吐き出すように皐月はえずき、ゆっくりと吸い込んだ熱気に言葉をのせて
「ゆかり――なのよっ……」
 そう、呟いた。

138あけのそら、こがれて ◆94qEoEmea.:2005/11/12(土) 00:54:16 ID:DXGblr/M
 す、と。
 炎の赤い光の中でも通常と変わらぬ黒という色彩を誇示するもの――影が、皐月の視界をさえぎった。
 入射角の低い逆光に描き出されたシルエットは小柄な少女のもの。
 そして人間ではありえない形の器官――翼の色も、黒。
「ゆかりちゃんは私が背負うから」
 判然としない色。空気ごと揺らぐ世界。
 見つめる眼差しの向こう――瞳の色も、皐月にはわからない。
「行こ」
 その世界でただひとつはっきりと知覚できる、影の少女。
 その声が、しんと、響いた。

 立ち上がり、脱出する。
 生存本能に従うならとっくのとうにとっているはずの行動である。
 その行動ひとつにこれだけの儀式を必要とする「ヒト」という存在を嘲るように、炎は母屋を飲み込み、
 明けの空のより高みを焦がしていく。
 しかし遠ざかる五つの影の持ち主は誰一人として、その行動を迂遠なことだと嗤いはしなかった。
 すでに魂のないひとつの影も含めて。

【028 川名みさき 白い杖、ゴム手袋、ハンドタオル】
【089 光岡悟  日本刀 [右肩使用不可能]】
【095 湯浅皐月 セーラー服、風子のナイフ、鉛筆一箱(1ダース入り)、猫目カッター、ハンドタオル  [左腕使用不可能、鳩尾鈍痛]】
【025 カミュ 気配を消す装置 レミントン・デリンジャー(装弾数0発 予備弾4発)、ゆかりのバッグ(新・宗一の手記 グレネード(殺傷力は無し。スタン&チャフ効果))】

【イーグルナイフはゆかりの背中に刺さったまま死体とともに移動】
【炎の中のデザートイーグル(残弾3)はその場に。壊れているかは未確認】
【場所:森の中の離れ民家】
【時間:3日目 午前七時台】

139 ◆94qEoEmea.:2005/11/12(土) 01:20:12 ID:DXGblr/M
っとぉぁ、訂正。
カミュはもう気配を消す装置持っていませんでしたね。持ち物欄から削除よろしくお願いします
自演にも程がある気もするけど、そこは脳内ということでひとつ。

140間奏曲――Twilight ◆94qEoEmea.:2007/07/01(日) 20:28:41 ID:exZIqCT6
     昔々、ある小さな“物”が生まれました。
     その“物”は自身の複製、つまり子孫を残しません。ただ自分の身体の部分にかぎり複製できます。
     生き物に似ていますが、そんな“物”は、自分自身が無くなればそれでお終いです。
     生き物とは呼べません。
     だから“物”です。
     事実ほとんどすべての種類が消えて無くなりました――

死体があった。
ひとつではない。同じ部屋に三つ、そしてドアを隔てた向こうの柵にひとつ。
桜井あさひがこの場を去ったあと、既に熱の失せたその部屋には息づくものは何一つとしてなく。
破られたガラス窓から吹き込んでいた風も夜明けとともに凪ぎ、ストップモーションの空間を形作っていた。
畳の上に広げられたビニールシート。
きちんと積み重ねられたコンビーフの空き缶。
それら全てが、濃密な血臭ををまつわりつかせている。
――そう、長い夜を閲してなおも、血は乾いてはいなかった。

それらの死体の一つが、ほんの僅かに動いていることに気づきうるものはいるだろうか?
生き物とすら呼べないとある“物”が、己の生存をかけて行動しているさまを確認しうる者はいるだろうか?
人間達の生死をかけた闘争の中で、種の終焉を回避せんと、その死体を利用する者を誰が知るというのか……?
かつて「安宅みや」と、そして「石原麗子」と呼ばれていた体のうちに宿る仙命樹と呼ばれる細菌に似た生命。
生物と呼び得ない“物”の原体が、誰知らぬところで蠢動している。

     でもいくつかの“物”は、その頃に成功していた子孫を残せる“生き物”の助けを借りて存在していました。
     自分自身の身体を維持するために、生き物から栄養をもらう必要があったのです。
     その代わり、生き物に不思議な活力を与えました。
     生命の星の活力であったといいます。
     そうやっていくつかの“物”が存在し続けていました――

141間奏曲――Twilight ◆94qEoEmea.:2007/07/01(日) 20:29:17 ID:exZIqCT6
ミトコンドリアという細胞小器官がある。酸素からエネルギーを獲得する際に働く器官だが、これはかつて細胞生物に
共生したバクテリアであったといわれる。仙命樹は、人間に取り入ることで第二のミトコンドリアたることを思考した
のだろうか。
……生き物とすら呼び得ない生命が思考と称されるものを持つかどうかは定かではない。
生存本能、いや、種の保存本能とでも云うべきかもしれない。
仙命樹と呼ばれる“物”が時代に根付くための努力を、「安宅みや」は欠かさなかった。
群体の存在する国をその当時覆っていた国家主義に取り入り、生命の覆製という技術に便乗する形で強化兵なる
存在をこの世に生み出した。そのどれもが、人間としては多少の欠陥を持っていたが、ついに完全な融合体――被験者
は坂神蝉丸という名の青年であった――を得るに至り、生命の星を現在のところ席巻する「人間」という“生き物”に
仙命樹を植え込む作業を終えたのだった。

そして、現在。篁と呼ばれる理外の存在によって隔離されたフィールド上にも今なお坂神蝉丸、欠陥品であった光岡悟、
そして三井寺月代という仙命樹保菌者が生存している。しかし太古の昔からその生き物未満の存在を見守りつづけて
きた原体の保有者――石原麗子はすでに息絶えている。

そのような存在に思考が存在するなら――どのような“想い”で満たされているだろうか。
――無念?
――憎悪?
――諦観?
――あるいは……

     しかしある日“物”は気付いてしまいました。
     恐ろしい未来に。
     この星の行く末を……。
     この星はいずれ焼き尽くされる運命にあると“物”は気付いたのです。
     いまは暖かな輝きを持つ太陽に、焼き殺されるのだと――

未だ、かつて石原麗子であった死体の僅かな、ほんの僅かな動きは止まらない。
夜の明けたそのストップモーションの空間を隔てるドアが今―――開いた。


【仙命樹原体 麗子の死体の中でなおも生存中】

142扉はひらく、いくたびも:2007/07/02(月) 22:14:49 ID:exZIqCT6
 岡崎朋也が当面の答えとなりうるものを藤林椋の冷たい手の中に見出し、学校へと走り始めたのと同時刻。
 爆弾を回収した後での再会を期して別れた神尾観鈴、橘敬介の両名は目的の場所に未だ至っていない。
 まっすぐ向かっていれば洞からそう大して離れているわけでもない。
 それがなぜ数時間のロスを余儀なくされたか。――話は現在、つまり正午より数時間遡る。

「見晴らし、いいね。地図もかけそう」
「……描くかい?」
 溜息交じりの言葉とともにメモと鉛筆を取り出す。
 住宅街を一望できる木造アパートの屋根の上。小さなイチョウの木が見えるそこに、僕らはいた。
 この建物自体はあっけないほど簡単に見つかった。
 洞から数十分歩いた先。森がひらけて住宅街への道がつながっていたのだ。
 しかしそこで問題が発生した。観鈴が覚えているはずのあの娘――智代の死体がどちらにあるかが分からない。
 曰く、右か左か。
「ええと、時紀さんが住宅地でわかれようっていって、そこでわかれる前に見たはずだから」
 方向としては住宅地方面で合っている。だがその先が要領を得なかった。
 暗くなりかけていたせいもある。別行動となったあと、穴に落ちたせいもあるだろう。
 まるで不思議の国のアリス。方向も、距離も、時間すら彼女には意味をなさなくなってしまう。
「あせっても仕方ないさ。雨が降る前にできればれことを済ませたいところだけれど」
 今はまだ雲も少なく、目に見える形での天候の崩れはない。
 観鈴の感じた「雨の前の風」は僕には見ることができない。
 肌で感じうる気圧の変化なのか、湿度のそれなのか、それとも匂いでもするのだろうか。
 郁子だったら、もしかしたら見えたのかもしれないな。
 真剣な面持ちでメモ帳に向き合う娘の横顔を眺めながら、そんな埒もないことを考えた。
「うん、まだ雨は降らない。まだ。大丈夫」
 根拠の不明瞭な確信。でも僕は反証となりうるものを持ち合わせていないのだった。

143扉はひらく、いくたびも:2007/07/02(月) 22:15:22 ID:exZIqCT6
(そういえば……あさひちゃんがアパートに向かったと云っていたな、時紀君は)
 昨日得た情報は朝のうちに整理していた。そうしていなくては何を考えてよいか分からなかったせいもある。
 何より、夜が明けるまで何もせずあの場に留まりつづけるのは、精神的に堪えた。
 話に聞いていたアパートというのはこの建物のことに間違いないだろう。朋也もこの場所に来たことがあり、
位置的にも特徴的にも話のそれと符合する。
 言い辛そうにしていた朋也の表情を思い出した。今ならそれも得心がいく。
 屋根から下りたところにある金属の手すり――そこにひどい状態の死体がぶら下がっていたから。

 ――4人、そこで死んでるはずだ。護りきれなかった。俺は……
 ――人殺しを何とかすることしか、できなかったんだ……

 もしかしたら、と朋也は云った。

 ――もしかしたら、武器をそこに置いてきたかもしれない。
 ――猪名川たちもある程度物とか情報を集めてた。それに、あいつは……
 ――襲ってきたあいつは、銃を持っていたんだ……
 ――もし、あのとき忘れてなかったら、俺は……

 失念していたことを咎めたりはしなかった。
 逃げのびるにしろ戦うにしろ、物資は集めておきたい。とくに拳銃を確保するということはこの状況下では
大きな意味を持つ。とはいえ、混乱した中ですべての行動に最善を尽くすなど、映画に出てくるエージェント
でもない限り無理な話だ。逆にそういった取りこぼしの情報を聞けたことを感謝すべきなのだろう。
 二階の角部屋のドアノブを廻すと、僅かな軋みとともに扉が開いた。

144扉はひらく、いくたびも:2007/07/02(月) 22:15:57 ID:exZIqCT6
 この部屋で何があったか、詳しく聞いたわけではない。
 だが目の前の状況を日本語でどう表現すべきかは一応心得ている。
 「酸鼻をきわめる」、その一言につきた。
 具体的に描写して見せるまでもないだろう。部屋に撒き散らされた血の赤黒い染みと鉄の臭い、それだけでも胃が
どうにかなる上に充分お釣りがくる。
 その中に不自然な部分があるのに気が付いて、僕は胸の下を押さえつつ部屋の中へと歩を進めた。
 血のしみに上に敷かれた青いビニールシートと、ご丁寧にもきちんと積み重なったコンビーフの缶。
 様子からして明らかにこの惨劇が起こったあとに置かれたものだ。
 それはすなわち、朋也のあとに誰かが来たことを示す。誰が? 何故? 何の為に?
(あさひちゃん、か――?)
 死体から目を背けると部屋の隅に固めてある荷物が見える。そこは明らかに物色されていた。
 床に転がっている両断された黒衣の女性――彼女がおそらく朋也の云っていた襲撃者なのだろうが、その手元にも
拳銃らしきものは見当たらない。
 あさひちゃんがこの惨状を目にしたとは考えたくないが、何者かがめぼしい物を持ち去ったか――。
 そこまで思考を進めながら荷物のほうへ向かおうとする。
 途端、足元を崩された。

145扉はひらく、いくたびも ◆4AaWdVkDK.:2007/07/02(月) 22:16:32 ID:exZIqCT6
 ありえないことだった。この部屋には生者は自分ひとりで、足元には細心の注意を払っていたから死体に足を
引っ掛けたという間抜けを演じたということも断じてない。
 感覚としては誰かに足をつかまれたそれに近かったか。
 崩れた体制を整え膝をつく。まさか。
 まさか――死人に足をつかまれたなど何処の三流ホラーだろう。
 目を上げると黒衣の女性が恨めしげにこちらを見ていた。彼女の手は確かに僕の足元に伸びていて――。
 やめよう、僕は思った。そんなことはありえない。間抜けにも死体につっかかって転んだと考えるほうが
それよりかは数百倍現実的だ。
 転んだ拍子に死体の爪に引っかかれたのか、足首に薄く血が滲んでいた。
 幾分の釈然としなさと足首のちくりとした痛みを抱えたまま、僕は荷物のほうへ向かい使えそうな物を回収した。

 結論から云えば、地図は半ばほど出来ていた。一応は。
「充分かな? かな?」と云いたげな観鈴の視線を横顔に受けて僕は溜息をつかざるをえなかった。
 ……とりあえず位置関係は合っているものと仮定して、これからの方針を決めるとしよう。
 白い虎の中の爆弾を回収する。爆弾解除の方法を模索する。ここで手に入れた救急セットを使って助けられそうな
者は助ける。助けられなさそうな者は……そのような状態でも何かしらの救いがあればいい。
 犬死を大量に築き上げてきたこの島で、いくらかの救済を経験してきたこの親子の、それは結論だった。


【023 神尾観鈴 観鈴マップメモ 鉛筆 裁縫道具 タオル 救急セット 約二日分の食料と水 
右耳の鼓膜が破れている 応急手当済み】
【055 橘敬介 歪んだマイクロUZI(残弾20) 鎌 タオル ヘアスプレー ピアノ線 大判ハンカチ
 筋弛緩剤の注射器(3セット)手帳サイズのスケブ 手品用品 救急箱  鉈 腕に万国旗】
【智代及びトンヌラの死体の方向へ】
【三日目正午までの話】

146よせる、なみのさき ◆4AaWdVkDK.:2007/07/08(日) 22:59:49 ID:exZIqCT6
「……すまない、カミュ。俺はみさきの精神疾患を鎮めねばならない。――湯浅と、その……伏見のことを、頼む」
「大丈夫だよ、光岡のおじ様。えっと、おじ様も蝉丸おじ様と同じ――なんだよね? 」
 炎上する民家を後にして、延焼の危険が一番少ない家――はす向かいの、こぢんまりとした立て付けの一戸建てへと
とりあえずの避難を終えたあと、四人の間で交わされた会話といえそうな会話はこれだけだった。
 そう云ったきり、カミュは俯いて光岡と目をあわせようとしない。
 同じ、とはどうやら仙命樹の催淫効能のことを指しているらしい。坂神の奴め、年端も行かぬ娘にどういう教え方を
したのかと光岡は内心で訝しんだが、すぐに埒もない思考を頭の隅へ追いやった。
 まあいい。カミュの云っていた船へ向かえば奴とは自然、再び相まみえることになるのだ。
 それは確信にほど近い予感。
 坂神が爆弾解除に奔走しているという少年との合流を期するならそこへ向かうより他ない。
 そして奴が自分の名を挙げたという事実に対して、その信を違えるような真似はできまい。
 生きて在る限り、その存在の全てを賭して相対する者に応える。
 それが光岡悟と坂神蝉丸との間に半世紀を閲してもなお存在する流儀であり、友誼だった。
 それよりも――
 光岡は思考を現在へと引き戻す。

 今、この場で、俺の身体を求めている者がいる。
 彼女は、坂神との因縁、そしてきよみへよせ続けている想いに比すればはるかに経た時間の短い、しかし、彼女の
存在はひたひたとしみるように、そこにある。
「みさき」
 名を呼び、その呼びかけに答えて、彼女は光のない視線を光岡に向けた。光岡は思わず視線をはずした。
 すまない、という言葉が光岡の喉から出かかった瞬間、みさきの上体が光岡に向けて倒れてきた。彼女は
その身体を支えようと一歩踏み出して、しかし、その震えるひざは彼女の身体を支えるにはあまりにももろく……。
 光岡は手がその肩に触れた。
 熱に震えていた。
「……光岡さん、ごめんなさい」
 言葉がでない。いつも彼女がいい続けていた、彼女が大切にしてきた言葉、それが、今、伝わらない。入り混じった
感情は言葉にはならない。

147よせる、なみのさき ◆4AaWdVkDK.:2007/07/08(日) 23:00:15 ID:exZIqCT6
 凭れかかった上体は小さく、黒いつややかな髪が光岡の鼻孔をくすぐった。その黒髪に手を回し、抱きすくめれば
いいのだろうか。
 求めることは簡単だ。だがそうして、どうすればいいのだろうか。その先、どうすればいいのだろうか。
 ――みさき。今お前が感じている感情は精神的疾患の一種だ。治し方は俺が知っている。俺に任せろ、と。
 そう口早に告げればいい。そして、奪ってしまえばいい。だが、俺は……。
「忘れられない人が、いるんだね」
 みさきは視線をおろした。

 何かがちくりと刺さった。

 みさきは両の腕で自らの身体を抱いて小刻みに震えている。その、抗いようのない何かに必死で抗っている。

 俺は、何をしている?今、俺の目の間に彼女がいるのに、俺は……。
 
 光岡はみさきを抱き寄せた。
 そう、きっと、これで、正しい。

「もう、いいんだ。楽になって、いい。俺は、ここにいる」
 答えるように、みさきの唇が光岡の唇に重なった。
 柔らかな薄暗がりの中で、長い吐息とともに時間が去る。ゆっくりと光岡の口からみさきの唇が離れた。
 それは、答えるようにではない、はっきりとした答えだった。
「わかってるよ、光岡さんも苦しいんだよね。勝手だよね。でも……私にはこの想いしかないんだよ」
 変わらぬ涙声で、そう重ねる。
 この行動が精神的疾患だとでもいうのか。いや、これが疾患なものか。
 光岡が触れたのは、彼へと向けられた深い情という名の氷山の、波間にあらわれた一角であった。
「……光岡さん、私怖いんだと思う」
 ぽつりと、みさきが口に出した。
「私って、目が見えないからね」
「もういい、よくわかっている」

 *

148よせる、なみのさき ◆g2WJ9kWoYE:2007/07/08(日) 23:01:36 ID:exZIqCT6
 再び、今度は光岡のほうから唇を重ねあう。彼女にこれ以上語らせないために。もはや、二人には言葉は必要
なかった。そっと触れた、その豊かな胸からトクトクと脈打つ彼女鼓動が伝わってくる。
二人は息継ぎでもするように唇を離した。銀の糸が二人の唇をつないでいる。そこから、言葉にならない言葉が、
伝わっていく。
光岡はみさきの身体をやさしく畳の上に寝かし、こぼれた髪を梳いたその手を、豊かな胸に伸ばす。
今度は、強く彼女に触れる。布地越しの柔らかな感触が、指先からかすかな電流となって神経に伝わる、
それがはっきりと感じられる。
甘い息が漏れる。そのさまがいとおしく思えて、あまり自由の利かない右手を頬に這わせた。耳朶が熱い。
ぎゅっ、とみさきの腕が光岡の背中に回される。火がついたように熱い光岡の身体の存在を、はっきりと感じる
ことができる。
「う……ふあっ……」
ぱさりと音を立てて、光岡の長くのびたなりの前髪がみさきの身体へと零れ落ちる。
畳に広がった黒髪に白いひとふさが紛れ込む。
豊かなみさきの胸が、光岡の手でもみしだかれていく。弾力のある乳房の形が光岡の手を受け取って形を変える。
「あ…」
ビクッとみさきの身体がはねた。それは、豊かなふくらみの突起にほんのわずかに触れた瞬間だった。
ゆっくりと上着を脱がし、上気したかのようにうっすらと紅をまとい、汗の湿り気をおびる肌を啜った。

緊張したからだを解きほぐすように、その身体に舌を這わせる。突起をそっと含み、
舌で転がす。彼女の呼吸に合わせるように、硬くなった突起は張りのある胸の上で、右に
左に、ときには豊かな乳房に埋もれるように、激しい舞を舞っている。
左手がその舞のリズムを刻む。美しく広がる彼女の髪を救い上げる。自らの身体に
走る感覚に戸惑うようにさまよう、彼女の手をとり、指を絡め、肩を抱く。恥らうように
ゆれる他方の胸をなぞり、腰へ手をかけた。

149よせる、なみのさき(ここまで18禁) ◆4AaWdVkDK.:2007/07/08(日) 23:02:49 ID:exZIqCT6

左手をそっとスカートに手を忍ばせた。そこは、すでにムッとするような彼女の香りに満ちている。
「あ、あっ」
みさきは、思わず、その手を払いのけようとして、傷のある光岡の右腕に触れた。
「うっ」
「ごめんなさい」
ふと、光岡の笑みがこぼれる。そして、改めて、彼女の身体を抱きしめる。
みさきは、ぎゅっと、目をとじて、それを待っていた。
光岡の指先が、ねっとりと湿った下着に触れるのがわかる。それは、神経を直接
なでられるような感覚。羞恥と快楽と温もりと安心と、みさきが持つありとあらゆる
感情が入り混じった感覚だった。


光岡の指が、下着越しに彼女の入り口をなでた。表面張力を破られた水のように、
液体が触れて、その指をぬらした。その布切れに指をかける。
みさきは、わずかに腰を浮かした。
しわになったスカートの中で、彼女を守っていたも、彼女を押さえつけていたものは、
取り払われた。同時に、ねっとりした感覚があふれてくるのがわかる。
それは、あるいは光岡の指先に掬い取られ、あるいは絹のような彼女の太ももを伝って
畳を濡らした。

互いの感情が高まっていくのを感じた。

彼女の部分に触れた指は、そっとそこを開き、様子を探るような愛撫を繰り返す。
敏感な入り口を、互いの気持ちを開いていく。

「ああ」
思わず腰が浮く。

怒張したそれを、そっと握らせた。みさきは、おそるおそるそれを「みつめる」。
そして、わずかに、身体を開くと、ぎゅっと目をとじ、光岡の腰に手を回した。

奪ってしまうのではない。

互いを重ねあうのである。

 *

150よせる、なみのさき ◆4AaWdVkDK.:2007/07/08(日) 23:03:17 ID:exZIqCT6

 「言葉がなくても、話はできるんだね」
 光岡がそうつぶやく彼女の髪を優しくなでたとき、彼女はすでに寝息を立てていた。
 俺は、ここにいる。確かに、今、彼女の前にいる。

 しかし……、
 
 それでも、光岡は、そっと立ち上がった。みさきの手荷物の中、血色の残るハンドタオル。
 みさきを惑わせた、己の血。
 叩きつける。握ったままのそれを。

 それは……、

 激情。戦場にあるまじき感情。

 ――――――俺の、血は、何者だ?


【028 川名みさき(睡眠中) 白い杖、ゴム手袋】
【089 光岡悟  日本刀 [右肩使用不可能]】
【095 湯浅皐月 セーラー服、風子のナイフ、鉛筆一箱(1ダース入り)、猫目カッター、ハンドタオル [左腕使用不可能]


【025 カミュ レミントン・デリンジャー(装弾数0発 予備弾4発)、ゆかりのバッグ(新・宗一の手記 グレネード(殺

傷力は無し。スタン&チャフ効果))】
【森の中の離れ民家(皐月と沙耶の民家のとなり、火事の家のはす向かい)】

151 ◆g2WJ9kWoYE:2007/07/08(日) 23:05:07 ID:exZIqCT6
ごめんなさい。>>148のトリップはミスです。IDで照合できるはずですが念のため。

152飛べない手、折れない翼:2007/07/16(月) 21:46:14 ID:exZIqCT6
――どうして、大神(オンカミ)はヒトをそういうふうに造ったか、わかるかい?
昔のこと。ディーがそんな話をしてくれたことがあった。

 周りには大人たちしかいなくて。
 翼が真っ黒なの、カミュだけで。
 大人たちの向ける視線がなぜだか余所余所しいって気づいて。
 なんでも完璧にこなすお姉様とは違うんだと、思って。
 術を習っても、学を修めても、お姉様にはなれない。
 だから、ムントの困った声を背に、にげた。
 術式の張り巡らされた大人たちの世界は窮屈で、抜け出しては嫌われ者の「あのコ達」と遊んだ。
 禍日神(ヌグィソムカミ)と呼ばれる、人にあだなすといわれているコ達。
 きっと、さみしがりなだけなんだ。
 他の人には見えないから、見つけてほしくて、いたずらをする。
 似ていたから、なんとなく分かった。

 そんな中で、哲学士でお姉様の先生をしていた頃のディーは時々だけどカミュの話もきいてくれた。
 いつだったか、ディーがお姉様の勉強をすっぽかしたことがあって、そのとき、ちょっと話したんだ。

「我らオンカミヤリュー族は躰はとてももろいが強い術の加護を得ている。だから術無しだとこの翼で飛ぶことすら
ままならないだろう? 逆にラルマニオヌを統治するギリヤギナなどは力強い体躯を持っているけれど空を飛んだり
はしない。シャクコポルはするどい感覚とすばしこさと強い仲間意識をもっているが力は弱い……実にさまざまだが
皆道具や火を使う手をもっている」

――どうして、大神はヒトをそういうふうに造ったか、わかるかい?
 そう、ディーは言ったのだ。

153飛べない手、折れない翼:2007/07/16(月) 21:46:36 ID:exZIqCT6
「原初のヒトは我らが使うような術法も、途轍もない膂力も持っていなかった。だから力の代用品である道具を作り、
使いこなすための手を与えられた。生きのびるための力であり、手だったんだ。手を授かることでどの種族も、生き
のびる機会を同じように与えられた、と考えることはできないかな」

 そのときは、そんな難しい話カミュにはわからないよ、とわらって答えた気がする。
 事実、こんな話の内容なんてすっかり忘れていた。
 ――こんなことに巻き込まれて、生きのびるなんて言葉が至近にせまってくるまでは。

 ナイフをそっと抜き、ゆかりの死体を横たえたテラスに、声もなく座る。
 座ったままじっと動かない皐月さんも何も言わないまま。

 この島では翼があっても飛ぶことはできない。
 手を前に伸ばして念じても、火の術法や土の術法は使えない。
 カミュは戦さ場で、剣を持つことはなかった。――しかしここでは道具を使って生きのびなくてはならない。
 膝の上に小さな鉄の道具を乗せた。
 なぜあのとき、2回しかこの道具が発動しなかったかは分からない。
 ……あのとき、撃てていたら。
 ……あのとき、はずさなかったら。

「その銃、貸して」

 不意に、現実から声が聞こえた。皐月さんの乾いた声。

154飛べない手、折れない翼:2007/07/16(月) 21:46:58 ID:exZIqCT6
 カミュは頷いて、鉄の道具を差し出した。
 皐月さんは、かちゃりかちゃりと音を立てて、無心に鉄の道具をいじっている。
「ちーちゃんで、慣れているから」

 その声はひびが入ったようにざらりとしていて、無機質だ。
 誰にかけた言葉でもないことを、傍らのカミュもわかっていた。
 そのままの語調で続ける。

「ゆかりは、宗一のことが好きだったのに」

 バカ宗一、とつぶやく。
 皐月さんは無心で手を動かしているように見えた。
 そして、ああそうか、と何か納得したようにつぶやいた。
「……バカはあたしか」

 何かを埋めるのに必要な、沈黙のとき。
 それは銃身を戻す音とともに終わりを告げる。

「宗一には会えない」
 ゆかりを殺してしまってそのまま宗一に会うのはずるいことだから。

 その横顔を見ていたカミュはなんとなく気づいてしまった。
 皐月さんも、宗一さんのことが好きでたまらないんだって。

 そして、ふと、カミュを見た。
「カミュちゃん、いてくれてありがとね」
 不意に、涙があふれた。
「カミュの手は、まだまだ小さいから」
 皐月さんの手がそっとカミュに頬に触れた。差し出されたその手は
 まだ冷たいままだったけれど――。

「どうして、泣いてるの?」
「わからない」

ヒトは手をもって生まれてきた。
こんなふうに誰かにふれて自分自身を、そして向かい合う相手を感じるための手を。
どうして、大神(オンカミ)はヒトをこんなふうに造ったんだろう……。

155飛べない手、折れない翼 ◆4AaWdVkDK.:2007/07/16(月) 21:47:19 ID:exZIqCT6
「今はまだ、宗一には会えない。許してもらえないかもしれない。
でも、いかなくちゃ。宗一が、ゆかりの帰りを待ってるから」
皐月さんは、手に持った道具を握り締めた。
「光岡さんには、仕事がある。だから、私たちが、カードと蝉丸さんを探さなくちゃ、ね」

その眼差しはまっすぐだった。

 
【095 湯浅皐月 セーラー服、風子のナイフ、鉛筆一箱(1ダース入り)、猫目カッター、ハンドタオル、レミントン・デリンジャー(装弾数2発 予備弾2発)[左腕使用不可能]】
【025 カミュ 新・宗一の手記 グレネード(殺傷力は無し。スタン&チャフ効果)イーグルナイフ】
【028 川名みさき(睡眠中) 白い杖、ゴム手袋】
【089 光岡悟  日本刀 [右肩使用不可能]】
【森の中の離れ民家(皐月と沙耶の民家のとなり、火事の家のはす向かい)】

156幻想遊戯:2007/07/17(火) 19:56:53 ID:exZIqCT6
その変化は突然やってきた。
大地に舞っていた無数の光は消えてなくなっていた。
……寂しい? と彼女が聞いたから、僕はガラクタの首でうなずいた。
この世界で心があるのは傍らの彼女だけだ。
僕には意思が、感情があるけれど、それはきっと形だけのものだ。
このガラクタの体はただの入れ物だ。
そして僕は影だ。あの光と同じだ。
でも僕は消えなかった。
そのかわりもう一人の僕が生まれた。
なぜだろう。考えてみた。
でも、何もわからなかった。

この世界には、僕の体と同じガラクタがそこかしこに散らばっている。
まるでそれは、何かの死体を思わせた。
たくさんの死体。
いろんなものの死体。
彼女が作ってくれた僕の体。
僕の身体のような人形を作れば、光も戻ってくるかもしれない。
僕のような意志をもったガラクタ人形ができるかもしれない。
そう思ったから、ガラクタを小さな身体で拾い集めた。
……友達がほしいの?
僕は首をふった。
それは僕なりに光を呼び戻す方法を考えた結果だったけれど、彼女にどう伝えればいいかわからなかった。
……寂しいんだよね?
僕はうなずいた。
そうだ。
あの幻想的な光すらないこの世界は、あまりに寂しすぎるから。

157幻想遊戯 ◆4AaWdVkDK.:2007/07/17(火) 19:57:17 ID:exZIqCT6

僕はガラクタを積み上げた。
つながりそうなところを差し込む。
ばらばらと音を立ててガラクタが崩れ落ちた。
……失敗しちゃったね。
こくりと頷いて、ガラクタの前をあける。
彼女の番だった。
今度は外れなかった。
彼女は、ガラクタを組み合わせて、何かを作ることができる。
彼女だけができる、特別なことだった。
そうやって、彼女は僕の体を作ったのだろう。

そうやってできた不恰好な人形は、動き出すことはなかった。
この世界では、新しい心が、新しい存在が生まれることはない。
それを思い知らされた。

……ごめんね、ごめんね。
彼女は泣いていた。

この世界でたったひとつの小屋の中で、彼女は泣いていた。

僕らは、動かないガラクタ人形を土に埋めた。
埋葬だ。
その間、彼女はずっと黙っていた。

何かが動いた。
自然を食い荒らす心のない動物ではない、何かが動いた。
僕はそれを見た。
光の玉。
たったひとつ、風に煽られるようにして光が舞っていた。
いつか、遠い昔…
あるいは、遠い未来…
違う世界にいた僕が、あの影をつかまえたのだ。
向こうには、ここよりももっと暖かな世界がある。
その中で、変わってしまう危険を孕んだ儚い世界で、光をみつけたのだ。
そう思った。


【幻想世界】
【少女とガラクタ】
【#229 親友 の光の玉の話のあと】

158侵蝕:2007/07/21(土) 20:44:56 ID:exZIqCT6
 野ざらしにされた死体は有機物であるにもかかわらず、ひどく冷たく強張った印象を見るものに抱かせる。
 周囲に飛び散った血の褐色の彩りでさえ、ごわごわとへばりつくような手触りを連想させるばかりで、本来その色が
持つべきイメージは微塵も見せないものらしい、そう敬介は思った。
 娘の描いた地図を何とか読み解き、今、またそんな屍の前にいる。
 血は渇き、あるいは地に吸い込まれ、赤みを持つ黒の痕跡を描いている。
「観鈴、水を持ってきてくれないか」
 できればこの先は娘には見せたくない。
 これから、その赤黒さにまみれて爆弾を探すことになる。
 幸い、この場所からなら敬介がいちばん最初に倒れていた沢、おそらく川か何かに注ぐだろう水源に近いはずだった。
「分かった、この先なら大丈夫だと思う」
 聞き分けよく、観鈴は答えた。

 観鈴が充分遠ざかったことを確認すると、敬介は彼女の置いていった裁縫道具から大き目の裁ちばさみを取り出し、
改めて、かつては白かった大きな獣の死体に向き直った。毛皮に手を這わせ、それを切ろうとする。
 めざすは腹である。しかし、その腹にできた大きなどす黒い傷口に気おされたせいもあり、素人考えで適当な場所を
まずは裂こうとしたのだが、はさみの刃に当たる硬い感触に阻まれた。
「まさか、この毛が……」
 はさみの進行を阻んでいるのは身体全体を覆っている硬くしなやかな毛であった。
 はさみを置き、地面に散らばったそれを拾う。ためしに鎌で切ろうとするが、まるで火花でも散りそうな感触が
するだけで切れる気配すらない。
 とするとやはりあの傷口から広げにかかるしかない。一つ溜息をつくと、そちらのほうに回り込んだ。

159侵蝕:2007/07/21(土) 20:45:20 ID:exZIqCT6
 傍らに膝をつき、はさみを入れる。その冷たい、しかし独特のぐにゃりとした柔らかさをもつ死体の感触に、
蟻走感が走る。思わず怖気づきそうになる自分を叱咤して、その先を進める。
 どろりと、粘性をもって傷口から流れ出てくる臓物にも、暖かさはない。その臓物のどれか、あるいはまだ腹腔の
内部に残っている臓器のどれかが胃だろうが、それがどれだか素人目には分からない。赤黒いそれらを掻き分けて、
一つ一つ切り裂いて探すしかない。
 なぜこんなことをやっているのか、血の臭いで目的を忘れそうになる。背筋に伝う汗の感覚に意識野を侵食される。
 それでも、進むしかなかった。
 白いはずのシャツはすでに前半分が血に浸されたようになっている。頭髪が汗と血で額に張り付く。
 頭が痛い。昨晩、したたかに岩壁にぶつけたあとが熱を持っている。
 血が頭にめぐって、心臓に戻っていく。それを追尾するように、感覚が醒めていく。
 何かを、思い出しそうになる。思い出してはいけない何かを。

 ――――しんでしまったんだよ

 胃からこみ上げてくる感覚を紛らわせるために、顔を上げた。
 息をつく。血の臭いで飽和した嗅覚の中枢に空気を送り込む。
 死んだ者を侮辱する気はない。しかしこの近づき難さはなんなのだろう。
 見知った者が死んだときはそうでもなかった気がする。この差異は傷口と血の存在のせいだろうか。
 見知った者に先立たれることが多いから、死には人より慣れていると思っていた。
 思い出す、少し前の光景。
 晴子が、動かない。
 埋葬したとき触れた義妹の頬は、指がかじかむ感覚を想起させるほどに冷たくて。
 痺れたようなその感覚に郁子を奪ったあの熱を重ねていた。
 これで三度目。
 いったい僕は何度、目の前でかけがえのない存在を喪えばよい?

160侵蝕:2007/07/21(土) 20:45:55 ID:exZIqCT6

 ――――……は、しんでしまったんだよ
 
 その感覚が全身に広がったように、やがてさむけが訪れる。
 と同時に、指先に違和感を覚える。爆弾か、という僅かな期待は即座に裏切られる。
 内臓からはみ出した、人の、手。
 それはその臓物が、人食いの胃であることの証左だったが。
 ……敬介には耐えられなかった。
 目を背ける。膝が浮く。この場から逃げ出したい衝動に駆られる。
 強く目を瞑り、恐慌状態の精神を理性で制御しようと試みる。
 冷たい血が、また心臓から脳に達して沸き返るイメージ。
 そして、思い返すのだ。己の思考の矛盾点を。

 これで三度目、だって?

 鼓動が、自らの思考にダウトを叫ぶ。
 夜中、岩壁にしたたかぶつけた後頭部が共鳴するように疼く。
 家族を喪うのは三度目。
 一度目は郁子、三度目は晴子。
 ――二度目は誰を喪った?

 ――――……は、しんでしまったんだよ、と

 こんな風に殺し合いを強制される前、どこで何をしていた?
 2000年の8月半ば、一体何があった?
 これ以上、思い出してはいけない。理性の警告を無視して回想は勝手に進んでいく。
 晴子は泣き顔しか見せない。
 対照的に僕は泣くことすら出来ない。
 観鈴の顔が――思い出せない。
 
 咄嗟に見えた銀色の小さな塊を掴んで立ち上がる。
 急激な動きに対応しきれず、心臓が血を送り出すペースが乱れる。

161侵蝕:2007/07/21(土) 20:46:37 ID:exZIqCT6

 ――どくん

 照り付ける弱い日に立ち眩む。
 その先に人影が見える。

 ――どくん

 まるでつじつまの合わない悪夢のように、最後に残った可能性が歩みを進める。

「……来るな」

 死者は生き返らない。そんなことがあってはならない。
 たとえ、それがただひとつの願いだったとしても。
 そう、あの日かなえられなかった願いが今更かなうはずがないではないか。
 郁子だって、晴子だって、戻ってきやしないのに。

 ――――……、は、しんでしまったんだよ、と、告げる。

 血に支配された感覚器官。その内部で、なにものかがそれを告げる。

 観鈴は、しんでしまったんだよ、と、告げる。

「お前は、何者だ」

 ――わたし? わたしは、神尾観鈴

「違う」

 ――お父さん……なんかヘンだよ?

「違う、お前は――」

 自らの叫びを聞いた敬介は崩れ落ちた。

 *

162侵蝕 ◆4AaWdVkDK.:2007/07/21(土) 20:47:09 ID:exZIqCT6

「お父さん! 」

 突然目の前で何かを叫び倒れた父親に、観鈴は駆け寄った。
 頬を叩き、揺り起こそうとする。
 何度も、何度も。
 しかしそれは徒労に終わった。
「お父さん、どうしちゃったの」
 卒倒したままの敬介を横たえ、持っていたタオルをさっきまで運んでいた水につけ、固く絞って血まみれの顔を拭う。
 他の部分も拭こうとして、観鈴は気がついた。
 敬介の左の手足に、見慣れない痣が出来ていた。
 それは肘や膝までに達する勢いで成長を続けているように見える。
 気味が悪い。
 そう思うと同時に、観鈴は考えた。
 誰かを呼ばなきゃ、と。
 誰か助けて、そう叫びだしたかった。
「お父さん、ちょっと待ってて」
 そう気絶した父親に声をかけると、観鈴は住宅街の方向へ走り出した。

 誰か。
 誰か誰か。
 ……お願いだから、お父さんを助けて。

 その願いを聞き届ける者がいるとすれば、そのような存在がめぐり合わせたのだろう。
 観鈴の視界の先、人影があった。

「お願いです、お父さんを助けて!」


【055 橘敬介 歪んだマイクロUZI(残弾20) 鎌 タオル ヘアスプレー ピアノ線 大判ハンカチ
 筋弛緩剤の注射器(3セット)手帳サイズのスケブ 手品用品 救急箱 鉈 爆弾 腕に万国旗 気絶中】
【023 神尾観鈴 観鈴マップメモ 鉛筆 裁縫道具 救急セット 約二日分の食料と水 右耳の鼓膜が破れている】

163Here,and there:2007/12/23(日) 15:54:09 ID:exZIqCT6
 風が耳朶をたたいていく音がした。
 まるで、屋上を吹き抜けて行ったあのときの風のように。
 その中に聞こえるのはなんだったか。
 ――――亮は、はっきりと思い返すことができた。
 屋上で待っていた白い卵形の、パールホワイトと呼ばれている"具象化した思念"(エゴ)。
 その周りを吹き抜けていった風と同種の――――重さを、力を持ったそれは。

 *

 入り江の扉。
 小さな波が重々しいそれにさえぎられてぱしゃりとはねる。
 人が十分入り込めそうなこの洞窟のさきは住宅地の下水にでもつながっているのだろう。
 朝までいた家のキッチンを思い返しながらあかりは二人に予想を告げた。
「そうですね、あまり深い意味はないんじゃないでしょうか」
「む……」
 芽衣の賛同に、亮は渋い顔を返す。
「何か、気になるんですか?」
「どこが気になるのかまでははっきりとはわからない、が」
 首肯はしかめ面のまま。
「神岸、春原。スタートのとき、ホールにどれだけ人がいたか覚えているか」
「え、主催の篁っていう人と集められた人たち百人でしょ」
「主催側の人もいましたね」
「ああ、それだ。俺が気になるのは主催側の駒になっているやつらのことだ」
 あごに手を当てて、亮は考え込む。
「この島で生きてるのは俺たち二十七人と主催だけではないんだ……こんな大規模なことをするのにはそれだけの
人手がかかっているはずだ。実際ホールには監視の兵隊が大勢いた。生死の情報以外にもやつらには筒抜けになって
いると考えたほうがいいだろう」

164Here,and there:2007/12/23(日) 15:54:28 ID:exZIqCT6
 何を考えたのか、芽衣がわずかに顔を赤らめた。
「そっ、それって盗聴とか」
「十分ありえるな」
 顔の赤みがやや増した芽衣を横目に、亮は続ける。
「こんなことがが始まってから三日経った。その間監視側の人間も生活しなきゃならない。水道や火が使えない環境で
やつらが作業しているとも思えないしな」
「そうだよね、まずしっかり食べなきゃいけないし、寝る場所も必要だし」
「食糧や寝床の確保は地下を使えばできるだろう。発電もよっぽどのものでなければ賄えるが……」
 問題は水だ。そう口に出したきり黙りこくった亮に、あかりはくすくすと笑った。
「松浦さん、ため込むのは体によくないよ」
「む、すまん」
「考えてることがあったら声に出すのがいいよ。そのほうが頭の整理がしやすいし私たちも一緒に考えられるし、ね」
「……すまん」
「松浦さん、あやまってばっかりだ」
 くすくすという笑いが、あはは、という笑いに変わる。
 そんな笑みに何とはなしに蛍を思い出して、彼女がこんなことに巻き込まれないでよかったと安堵する自分に、少し苛立った。
 今感じたそれを、うまく表に出せない。
 いや、それは出さなくていいものだ、と思う。
 この気持ちは胸の奥底にしまっておくべきなのだ。

 あの扉を開ける、と告げて階段から立ち上がった。
 もしホールの付近にこれと同じ扉があれば、主催に近づく突破口となるかもしれない。
 アビスボートに向かう前に一応調べておくべきだ、と結論をつけてから起こした行動である。
 その後を二人が追ってきた。
「危険ではないと思うが、注意はしておくんだ」
 そう言って、重い扉をゆっくりと押した。

 *

165Here,and there ◆94qEoEmea.:2007/12/23(日) 15:55:30 ID:exZIqCT6
 屋上の風には似ても似つかない、湿り気と臭気を含んだ風。
 そのはずなのに、扉を押す圧力と扉にまつわりつく気流の感覚に連想が働いた。
 重さのある風。
 耳をたたいていったその風の中に、修二の声がした。

 目を見張る。
 先の薄暗がりに、ぼんやりと何かが見える。
 ゆっくりと、回転運動を続けているそれは銀色の――――

「松浦さん!」

 駆け出す。
 ひどくおぼろげな輪郭のそれを逃すまいと。
 触れることのできない幻に、手を伸ばした。
 感触は一切なく、いっそううつろになった輪郭が白い光を発して溶けていった。
 その光は球形をなして、手のひらに吸い込まれていく。
 光が、収束していく。

「松浦さん、今の……」
「見えなかったか、銀色のギアが」
「ううん、ぴかーって光って、それが消えていったのは見えたけれど」
「む……そうか」
「なんだったんだろうね」
 そう首をかしげるあかりに、亮はどう説明してよいかわからず「すまん」とだけ返した。


【084 松浦亮 修二のエゴのレプリカ(バッテリー満タン)】
【024 神岸あかり 所持品 無し】
【047 春原芽衣 きよみの銃の予備弾丸6発 筆記用具(情報交換で得られたことが追記)
 黒うさぎの絵皿 木彫りの熊 水風船2コ 予備食料の缶詰が残り2つ】

【取り合えずアビスボートへ向かう。亮は、二人を送り届けた後PKとして単独で行動開始の予定】
【午前9時頃】
【住宅地東の海岸線沿いにある洞窟内】

【亮、修二のエゴ(#250)を発見、回収】

166co-incidence:2007/12/31(月) 00:26:08 ID:exZIqCT6
 カルラの手にした三枚の切り札。
 それらを吟味し、彼女が手にしたのは鉄扇だった。
 この場をかき回すという意図からはどの選択肢も外れないが、傍観者を気取る身としては大刀での挙動は荒すぎたし、
例のキノコの胞子のような不確定要素を使う挙に出ることも憚られたからである。
 木の上の男を確実に殺す必要があるわけでもない。
 ただ、武名を轟かせたゲンジマルですら生命を落としたと伝え聞くこの歪な島で、ここまで生き延び、猶も狩る立場を
貫き続ける樹上の男に興味を抱いただけの話だ。
(偶々ここまでの運がよかっただけか、あの礫火矢のおかげか、まあそんなところでしょうけれどね)
 鉄扇の溝―――ハクオロが決して使おうとしなかった毒の流れを確認する。
 余計なことを、と少々憤慨するが、その甘さがハクオロを殺したのかもしれない、と思い返した。
 生きるべき者たちが死に、身を捧げたはずの自分が生き残る。
 そんな歪んだ死を運ぶ者が、鉄扇を構えた先にいる。
(あの男が生きるべきか否かは、あるじ様が決めてくださいますわ)

 一方、樹上の芳野祐介はカルラの存在にも、その思惑にも感づいていない。
 無防備な獲物三人をいかにして殺すか、その一点を思案していた。
 セオリーに従えば、まず狙うべきは唯一の男性である黒人だろう。特に武器らしい武器を持たぬ女と女学生は後でよい。
 願わくば一撃で仕留めたいところだが、銃の扱いはいくらかなれた素人がせいぜいだ。過信が慢心を生み、慢心は死に
つながる。これから自分はこの島の人間を狩りつくし、なお生き延びねばならない。用心にこしたことはないだろう。
(まず一発、こちらに気づいて動きが止まったところでもう一撃といったところか)
 思い当たって、今自分が拠っている葉桜の枝を確かめる。
 木のかなり上部にかかわらず、しっかりした太い枝、その根元だ。
 武器がそろっていない分近接戦闘はできれば避けたいが、その必要に迫られたときとっさに降りられる範囲である。
 脳内で緻密に計算を構築し、祐介は葉陰から獲物を透かし見る。
(さあ、こっちはオーケイだ。役者が舞台に上がれば、すべてが始まる)

167co-incidence ◆94qEoEmea.:2007/12/31(月) 00:26:45 ID:exZIqCT6

 狙う三人組が近づいてくる。
 葉桜の陰に位置する祐介のライフル、その銃口がそれを捕らえる。
(――――今だ)
 引鉄に、力がかかった。
 
 その挙動を注視していたカルラのてにある広げられた鉄扇が、光をわずかに反射する。
 わずかな緊張を孕んだ祐介の吐息に、呼応するように構える。
(――――今だわね)
 手に、力がこもった。

 偶然にもほぼ同時に放たれたそれらは各々に与えられた物理力のみに従って大気を縫う。
 各々の主の手を離れた瞬間から、何者の意図も思念も受け付けることはない。
 ――――その慣性力の向かう先は、果たして。
 
 そして。
(あの茂み――――何か光った?)
 その挙動が生んだもうひとつの同時発生。
 広瀬真希の視線が動くと同時に、光の速さにほんの僅か立ち遅れた銃声が、至近に響いた。
 

【026 カルラ 所持品:自分の大刀、セイカクハンテンダケと胞子を入れた小袋、ハクオロの鉄扇、トゥスクル製解毒剤
 状態:背中・肩を強打右手首負傷、握力半分以下】
【098 芳野祐介 所持品:M16A2アサルトライフル(残弾6)、手製ブラックジャック、スパナ、バール、気配を消す装置、
救急箱(包帯、絆創膏、消毒液は全て使用)、ランタン、煙草(残り3本)、ライター、テープ、糸、ハーバーサンプル1袋
食料2日分】


【010 エディ 所持品:尖った木の枝数本、カッター、ワイヤータイプのカーテンレール(3m)、盗聴器
状態:右手負傷(応急処置済)】
【072 広瀬真希 所持品:スコップ、水入りペットボトル
状態:頭部負傷(応急処置済)】
【080番 古河早苗 所持品:トートバッグ(ビスケット1箱、ペットボトルのジュース(無果汁微炭酸)、少し破いたタオルケット

、女性用下着1セット)】

【場所:森の中、金木犀の木付近】
【時間:三日目午前十一時頃】

168華◇rkFpeT0nBo:2009/04/09(木) 15:15:52 ID:O5FslHiI
――紅い華が咲いた。
成り行きを楽しんでいたカルラの表情が引き締まった。
扇子を投げたと同時に、銃弾を放ち終わった芳野が姿勢を整えたからである。
扇子はつい先程まで芳野の頭があった場所を通り過ぎ、木の幹に深々と突き刺さった。

――紅い華が咲いた。
相手の数が多く、弾を無駄にできないと考え、数発連射したと同時に芳野は再び三人から身を隠した。
それと同時に風を切りながら扇子が、芳野の目の前を通過していった。
一拍おいて状況を理解した芳野の背中に、ここ数日で何度目になるか解らない、冷たい嫌な汗が流れ出る。
慌てて木の幹を盾にしながら、扇子が飛んできた方向と逆の枝に飛び移った。

――紅い華が咲いた。
「危ねェ、伏せロ!」
銃声が脳にまで届いたとき、状況を理解する前にエディの口と身体は動いていた。
頬を掠めた銃弾から弾が飛んできた方向と状況を把握しながら、エディは横に思いっきり飛んだ。
両隣にいる非戦闘員は二名。
しかし銃声に反応できるのは自分自身だけ。

――紅い華が咲いた。
茂みから漏れた光を捕らえた真希であったが、次の瞬間には世界が反転していた。
銃声の方向とは違う方向を向いて突っ立っていた真希の後頭部を、横っ飛びしたエディが押さえて無理矢理身体を倒させた。
真希は現状が把握できず、抗議しようとしたが伸びてきた手に口を塞がれた。
仕方なく眼で抗議しようと振り向いた真希であったが、その眼に入ってきたのは、頬から血を流しながら悔しげな表情をしたエディと、森の中に可憐に咲いた一輪の紅い華であった。

――紅い華が咲いた。
エディと真希が見つめたその先には、胸部を射貫かれ崩れ落ちる早苗の姿だった。
島に来てから何度も眼にした紅い華が、森の地面に広がっていく。
この地獄のような島にいながらも、常に明るかったその笑顔から血色が奪われていく。
広がる赤と、失われていく赤。
しかし広がる赤には、今の今まで隣にあった早苗の笑顔と違い美しさの欠片も存在しなかった。

169華◇rkFpeT0nBo:2009/04/09(木) 15:16:47 ID:O5FslHiI
「……逃げるゼ」
即座に頭のスイッチを入れ替えたエディが、真希を抱えるかの様にして立ち上がった。
第二波の銃声の代わりに、何か甲高い音がした。
それから察するに、敵に第二波が撃てないようなアクシデントが起こったらしい。
なら、逃げるのは今しかない。
脳に浮かんでくる早苗の笑顔や、真希ではなく早苗の方に飛んでいたらという仮定を押し殺し、エディは真希を抱えて森を駆け抜けた。
今大切なのは早苗の死を悔やむことではない。
これ以上最悪な状態にしない事なのだ。
「――ヘッドはクール、ハートはヒート」
いつも頼もしい相棒が口にしていた言葉をエディは呟いた。
なぜ隠れていた狙撃手に気付けなかったのかという、自己批判を頭から追い出す為に。



逃げる芳野に一別をくれてから、カルラは投げた扇子を回収した。
ミコトを殺す可能性のあるあの男を放置しておくのは危険であった。
しかし折角手に入れた、今はなき聖上の形見である扇子をここに残すもの躊躇われた。
血で汚れた自分の手では聖上の忘れ形見であるミコトを抱く事は許されない。
今の彼女に許された最後の物が、ハクオロがいつも手にしていた扇子だったのだ。
ここに置いていっては、誰かに回収されるかもしれない。
その考えが頭を過ぎった時には、芳野を追うカルラの足は止まっていた。
「精々今の内に逃げ回るが良いですわ」
回収した扇子をカルラは大切そうに抱きしめた。
聖上の御子を危険にさらす存在はこの島にいてはならない。
例えそれが自分と同じ殺戮者であっても、この馬鹿げたゲームの主催者であっても。
目下の指針は決まった。
あの男を追いかける事だ。
一目見た時は疑問に思えたが、姿を隠し狙撃する武器、危険と察知したらすぐ逃げる判断力、そしてなにより強運。
殺戮者という危険な橋を渡りながらも、あの男がここまで生き延びてる理由が解った気もする。
「次はもうありませんわ」
カルラは芳野が逃げた方向に足を向けた。

170華◇rkFpeT0nBo:2009/04/09(木) 15:17:15 ID:O5FslHiI
安全になった事を確認して、エディが真希を下ろした。
「――さっきカルラって人がいた」
銃声がなる前に眼にした光。
そしてその光の先には、別れたばかりのカルラと呼ばれていた女がいた。
あの位置では自分たちに気がついてなかったって事はないだろう。
「もしかして助けてくれたのかな」
カルラを悪い人ではないと言っていた、早苗の言葉を真希は思い出した。
「危険なヤツかラ、始末しただけかもしれネぇ」
エディは冷静にそう言っていたが、真希にはそう思えなく――否、思いたくなかった。
彼女をそういう眼で見たら、死んでいった早苗の思いを踏みにじる様な気がしたからだ。
北川と香里の強さ、そして早苗の優しさ。
ただの女子高生が一人で抱えるには、それは重すぎるかもしれない。
けれどもその重さを背負っていく事が、一人では何もできない女子高生の真希にとって唯一できる事だった。



【026 カルラ 所持品:自分の大刀、セイカクハンテンダケと胞子を入れた小袋、ハクオロの鉄扇、トゥスクル製解毒剤
 状態:背中・肩を強打右手首負傷、握力半分以下】


【098 芳野祐介 所持品:M16A2アサルトライフル(残弾3)、手製ブラックジャック、スパナ、バール、気配を消す装置、
救急箱(包帯、絆創膏、消毒液は全て使用)、ランタン、煙草(残り3本)、ライター、テープ、糸、ハーバーサンプル1袋
食料2日分】


【010 エディ 所持品:尖った木の枝数本、カッター、ワイヤータイプのカーテンレール(3m)、盗聴器
状態:右手負傷(応急処置済)、頬に軽い裂傷】
【072 広瀬真希 所持品:スコップ、水入りペットボトル
状態:頭部負傷(応急処置済)】

【古河早苗の荷物はその場に放置】


【080 古河早苗 死亡】
【残り26人】

【場所:森の中、金木犀の木付近】
【時間:三日目正午頃】

171鏡の中のアクトレス ◆rkFpeT0nBo:2009/04/12(日) 08:51:33 ID:O5FslHiI
「あたしがセミマルって呼ばれてた人に会ったのは大体十二時間前。往復するとそれだけで一日。それだけの時間住宅街にいるって可能性の方が少ないと思う」
「うん、解ってる。でもそれしか手がかりがないから」
無邪気な笑顔で迷いもなく月代はそう答えた。
まるで絶対蝉丸と会える、と信じて疑わないかの様に。
それがあさひには少し羨ましかった。
今でも少年の事は忘れていない。
思い出す度に甘酸っぱい感情が胸を支配する。
しかしそれは毎回どす黒い、復讐という感情ですぐ上書きされてしまうのであった。
強引な月代に為すがままになっているのも、もう戻れない昔の自分を見ている様で、懐かしく思えたからかもしれないなぁ、とあさひは自己分析していた。
(でも晴香を生き返らせる為には、月代さんとセミマルさんのどちらかは死んで貰わないといけないのかぁ……)
昔の自分を否定する様で、あさひには彼女を殺す事が躊躇われた。
かといってセミマルを殺しては、あさひが晴香にされた事と全く同じ事を彼女にしてしまう事になる。
(セミマルさんが住宅街にいなければいいなぁ、一番良いのはあたしの知らない所で死んでくれてる事だけど)
「ほんと、ありがとうございます。出会えたのがあさひさんみたいな人で良かったです」

172鏡の中のアクトレス ◆rkFpeT0nBo:2009/04/12(日) 08:52:11 ID:O5FslHiI

葛藤しているあさひに、月代は笑顔で礼を言う。
それがあさひに対して更に葛藤を抱かせる事になっていたのだが、蝉丸に会える事で頭が一杯な月代に解るはずもなかった。



(あ〜あ、人の声がしてると思って来てみたら、あの子かぁ……)
晴子とまだ行動していた時に、一時期一緒に行動していた記憶がある。
名前は確か三井寺月代。
危なかった。
これでまた助けを求めて飛び出ていたら、笑い事にもなりやしない。
もう逃げるのも、銃口を向けられるのも御免だ。
彼女――麻生明日菜は少し離れた木の陰から二人の様子を観察していた。
四方八方に逃げていたので、先回りされている事だってあるってのを忘れていた。
岡崎朋也と橘敬介と神尾観鈴が一緒ではないのが気になったが、死んだにしろ別行動になったにせよ運が良かった。
これで自分が参加者を騙して、人殺しをしている一人だって事を知ってる人間を一人口封じできるのだから。

月代の隣にいる少女にも、見覚えがある。
こちらは桜井あさひ、だったっけ。
大切な人を殺した犯人を目の前にしていながら、銃の引き金も引けなかった可愛いお嬢さん。
その茶番劇を手伝ってあげたのだから、それなりに信頼はして貰ってるはず。
(私は何もしてなかったけどね〜☆)
となれば、今度は演じる役が変わってくる。
明日菜は木陰から様子を窺いながら、リュックから南部十四年式を取り出し安全装置レバーを回転させた。

173鏡の中のアクトレス ◆rkFpeT0nBo:2009/04/12(日) 08:52:48 ID:O5FslHiI
「動かないで下さい」
明日菜は二人の前に飛び出すと共に、銃口を月代に向けて立ち塞がった。
「桜井あさひさん、そいつから離れて下さい。そいつは私の大切な時紀クンを殺した犯人です」
いきなり月代を撃つ事もできたが、そうすると今度はあさひが明日菜を疑うだろう事は容易に想像できた。
ならこの場の全員に状況を理解して貰ってから、退場して貰った方が後々も楽である。
「え?ち、違う!私は木田クンを殺してないっ!人を殺してるのは向こう、木田時紀クンも、神尾晴子さんもそいつが殺したの!あさひちゃん私を信じ……」
「動かないで下さいって言ったの聞こえなかったんですか。次は本当に撃ちますよ」
必死の月代の弁解を明日菜は敢えてある程度喋らせてから止めた。
「あさひさん思い出して下さい。私が晴子さんと一緒に行動してた事を。私が晴子さんを殺すわけ無いじゃないですか。それは全て月代さんの嘘ですから信じないで下さい」
「嘘っ!嘘っ!嘘はそっちじゃない。晴子さんはあなたのやってきた事を全てばらして、だからあなたに殺されたんじゃない!」
「三井寺月代さん。いい加減見苦しいですよ。私が晴子さんと仲違いする理由がないじゃないですか。晴子さんにしても殺されるリスクを背負ってまで、私とのコンビを解消する理由はないと思いますけど」
あぁこれ以上ないって位に完璧に決まった。
(流石は私、ここを出たら女優になるってのもいいわね〜☆)
案の定月代は、明日菜と晴子が道を違えた理由を証明できずに見苦しいまま弁解しようとするだけであった。
(そろそろ最後の駄目押しといきますか)
「あさひさんも大切な人を殺されて、あの後一人で追って行かれましたよね。なら私の気持ちも理解して下さい。こいつだけは私の手で殺さないと気が済まないんです」
(――そうよ、私がこの先も生き残る為にもね)

174鏡の中のアクトレス ◆rkFpeT0nBo:2009/04/12(日) 08:53:11 ID:O5FslHiI
そこまで聞くと、あさひはすっと銃を構えた。
桜井あさひは揺らがない。
その銃口と瞳の先は一人の少女を射貫いていた。
「冗談はやめて下さいよ。私とあなたは同じ境遇同士、止められないってのはあなたが一番理解してくれると思ったんだけどなぁ」
あさひから銃口を向けられた明日菜であったが、狙われているのにも関わらず態度を少しも崩す事はなかった。
明日菜には自信があった。
あさひが自分を撃てるわけがないと。
目の前の仇でさえ、見逃してしまう様な甘ちゃんに、仇でも何でもない自分を撃てるはずがないと。
「――あたしとあなたが同じ境遇?それこそ冗談はやめて下さいよ」
例え台本がアドリブで埋まり尽くしていたとしても、物語には揺らいではいけない場所がある。
「あなたの台詞からは大切な人を失った悲しみも、最愛の人を奪った奴に対する恨みも感じられません」
桜井あさひの物語のハッピーエンドは決まっている。
このゲームを勝ち残り、この物語での完全悪である巳間晴香を復活させ、それを自分自身の手で再び殺し、全てに決着を付ける事だ。
そしてその物語の主人公である『桜井あさひ』というキャラも決まってる。
そのハッピーエンドにたどり着くなら、どんな障害にも負けないという決意をした少女である。
例えエンディングに辿り着くまでにアドリブが入り、多少寄り道をしてしまったとしても、物語の大筋からは決して離れない――揺るがいないと決意したのが私である。
その物語の主人公が、目の前の口から出鱈目しか出せない大根役者と同じ境遇?
「桜井あさひを――人気声優を甘く見ないで下さい。あなたの下手なお芝居なんてお見通しなんです」

175鏡の中のアクトレス ◆rkFpeT0nBo:2009/04/12(日) 08:54:03 ID:O5FslHiI
(あ〜あ、どこで歯車が狂っちゃったんだろうなぁ)
「えぇ、こうなったら正直に話しちゃいますよ。あさひさん、私と組みませんか?」
昔のあさひであったら、何の役にも立たなかったであろう。
だが今のあさひを見る限りでは、少しは役に立ってくれるかもしれない。
「私の願いはただ一つ、時紀クンを生き返らせる事。それには嘘偽りは全くないわ。そしてこのゲームは二人まで願いを叶えて貰える。少年さんも一緒に生き返らせて貰って四人で元の暮らしに戻りませんか?」
橘敬介も言ってたっけ――彼女はアイドル声優って。
まんざら自称人気声優ってのも嘘じゃないんだろう。
なら素人芝居で嘘をつくより、本当の事を話した方がいいのかもしれない。
なんだかんだで立場は同じなのだ、今となっては嘘をつくリスクの方が高い。
「それがあなたの本性ですか。――しかし二点ほど勘違いしていませんか?私の願いは少年さんを生き返らせて貰う事じゃありませんよ」
「あれ〜?てっきりそうだと思ったんだけどなぁ。でも私の願いに嘘はありませんよ」
「だからそれが勘違いの一点目なんです。私の願いは少年さんを殺した巳間晴香をこの手で殺す事。つまりそのハッピーエンドの為なら、この引き金だって引けるって事です。以前組んでいた晴子さんを殺しちゃう様なあなたと、手を組めるはずがないじゃないですか」
慌てて月代に向いていた銃口をあさひに向ける。
だが明日菜のその行動より早く、あさひのベレッタが火を噴いた。
「痛っ!」
あさひから放たれた銃弾は明日菜の右肩に当たり、明日菜は痛みにより手にしていた銃を落とした。
「――二点目は、明日菜さん。あなたの台詞からはこれっぽっちも愛が伝わってきませんでした。あなた本当に時紀クンって人の事愛してたんですか?」

176鏡の中のアクトレス ◆rkFpeT0nBo:2009/04/12(日) 08:54:32 ID:O5FslHiI
それは禁句だった。
彼女が無意識に忘れようとしていた事。
時紀の身体から滝のように流れ落ちてきた、錆の様な血の匂い。
至近距離で撃ったときの、焦げた皮膚のいい匂い。
時紀から止め処なく流れる、熱くてねっとりとした血液の手触り。
そして、次第に冷たくなっていく熱い筈のKiss。
ついこの間に起こった事であったが、大分昔の様にも思える。
忘れたくても、脳裏の奥に刻み込まれた忌まわしき記憶。
「う、嘘よぉぉぉぉおおおお!!!私は、私は時紀クンを心から愛していたわ!時紀クンの心も身体も唇も血液もぉぉお!」
明日菜の視線は自然と落ちている南部十四年式に向かった。
時紀の命を奪ったその銃。
その銃でまた忌まわしき記憶を封印する為。
目の前で囁く悪魔を撃ち殺す為。
「――あたしとあなたが同じなのは、この島のお陰でどこか手遅れなまで狂ってしまった事だけです。さようなら、あたしと殆ど違ったけど、どこか同じだった人」
あさひの指に再び力が籠もる。
「殺しちゃ駄目ぇぇええええ!!!」
第三者の必死な声と共に、森に二発目の銃声が鳴り響いた。

177鏡の中のアクトレス ◆rkFpeT0nBo:2009/04/12(日) 08:54:50 ID:O5FslHiI
後に残されたのは、倒れている昔の自分ににていた少女。
そしてその彼女に護られ生き延びた、今の自分と同じくこの島に狂わされてしまった少女。
この島は少女達の運命の歯車を――アドリブだらけの台本を更に狂わせていく。




【42番 桜井あさひ 所持品:食料、眼鏡、双眼鏡、ペン、ノート、ハンカチ、腕時計、懐中電灯、
十徳ナイフ、果物ナイフ、三節棍(ロッドにもなる)、ボウガン(矢5本)、S&W M36(残弾5・予備弾19)、ベレッタ(残弾3)
状態:『短髪』】
【02番 麻生明日菜 所持品:南部十四年式(残弾3)、ワルサーPP/PPK(残弾4)、
状態:左肩負傷(応急処置済み)、右肩負傷(銃創)、軽度の疲労】

【三井寺月代の荷物はその場に放置】


【085 三井寺月代 死亡】
【残り25人】

【場所:島北部道路から少し離れた森の中】
【時間:三日目午後3時頃】

178鏡の中のアクトレス@>>175修正 ◆rkFpeT0nBo:2009/04/12(日) 08:57:49 ID:O5FslHiI
「あははははっ、ちょっと見なかった間に銃を構える姿も様になるようになったじゃないですかぁ〜」
もうこうなっては退けない。
晴子にばらされ、早苗に見破られ、黒人の男にもばれていた。
これで何人目?
合計で何人に私が殺人鬼だってばれてる?
全員死んでいないとしたら目の前の二人合わせて十人。
確か生き残ってたのが二十八人、自分を引いたら二十七人中、十人に正体がばれている事になる。
生き残った奴らから噂が流れているとすれば、下手すれば今はもっと多いかもしれない。
(あ〜あ、どこで歯車が狂っちゃったんだろうなぁ)
「えぇ、こうなったら正直に話しちゃいますよ。あさひさん、私と組みませんか?」
昔のあさひであったら、何の役にも立たなかったであろう。
だが今のあさひを見る限りでは、少しは役に立ってくれるかもしれない。
「私の願いはただ一つ、時紀クンを生き返らせる事。それには嘘偽りは全くないわ。そしてこのゲームは二人まで願いを叶えて貰える。少年さんも一緒に生き返らせて貰って四人で元の暮らしに戻りませんか?」
橘敬介も言ってたっけ――彼女はアイドル声優って。
まんざら自称人気声優ってのも嘘じゃないんだろう。
なら素人芝居で嘘をつくより、本当の事を話した方がいいのかもしれない。
なんだかんだで立場は同じなのだ、今となっては嘘をつくリスクの方が高い。
「それがあなたの本性ですか。――しかし二点ほど勘違いしていませんか?私の願いは少年さんを生き返らせて貰う事じゃありませんよ」
「あれ〜?てっきりそうだと思ったんだけどなぁ。でも私の願いに嘘はありませんよ」
「だからそれが勘違いの一点目なんです。私の願いは少年さんを殺した巳間晴香をこの手で殺す事。つまりそのハッピーエンドの為なら、この引き金だって引けるって事です。以前組んでいた晴子さんを殺しちゃう様なあなたと、手を組めるはずがないじゃないですか」
慌てて月代に向いていた銃口をあさひに向ける。
だが明日菜のその行動より早く、あさひのベレッタが火を噴いた。
「痛っ!」
あさひから放たれた銃弾は明日菜の右肩に当たり、明日菜は痛みにより手にしていた銃を落とした。
「――二点目は、明日菜さん。あなたの台詞からはこれっぽっちも愛が伝わってきませんでした。あなた本当に時紀クンって人の事愛してたんですか?」

179Realization/Here,and there (>>163- リライト):2009/05/06(水) 08:26:53 ID:exZIqCT6
 風が耳朶をたたいていく音がした。
 まるで、屋上を吹き抜けて行ったあのときの風のように。
 その中に聞こえるのはなんだったか。
 ――――亮は、はっきりと思い返すことができた。
 屋上で待っていた白い卵形の、パールホワイトと呼ばれている"具象化した思念"(エゴ)。
 その周りを吹き抜けていった風と同種の――――重さを、力を持ったそれは。

 *

 入り江の扉。
 小さな波が重々しいそれにさえぎられてぱしゃりとはねる。
 人が十分入り込めそうなこの洞窟のさきは住宅地の下水にでもつながっているのだろう。
 朝までいた家のキッチンを思い返しながらあかりは二人に予想を告げた。
「そうですね、あまり深い意味はないんじゃないでしょうか」
「む……」
 芽衣の賛同に、亮は渋い顔を返す。
「何か、気になるんですか?」
「どこが気になるのかまでははっきりとはわからない、が」
 首肯はしかめ面のまま。
「神岸、春原。スタートのとき、ホールにどれだけ人がいたか覚えているか」
「え、主催の篁っていう人と集められた人たち百人でしょ」
「主催側の人もいましたね」
「ああ、それだ。俺が気になるのは主催側の駒になっているやつらのことだ」
 あごに手を当てて、亮は考え込む。
「この島で生きてるのは俺たち二十七人と主催だけではないんだ……こんな大規模なことをするのにはそれだけの
人手がかかっているはずだ。実際ホールには監視の兵隊が大勢いた。生死の情報以外にもやつらには筒抜けになって
いると考えたほうがいいだろう」

180Realization/Here,and there (>>163- リライト):2009/05/06(水) 08:27:29 ID:exZIqCT6
 何を考えたのか、芽衣がわずかに顔を赤らめた。
「そっ、それって盗聴とか」
「十分ありえるな」
 顔の赤みがやや増した芽衣を横目に、亮は続ける。
「こんなことがが始まってから三日経った。その間監視側の人間も生活しなきゃならない。水道や火が使えない環境で
やつらが作業しているとも思えないしな」
「そうだよね、まずしっかり食べなきゃいけないし、寝る場所も必要だし」
「食糧や寝床の確保は地下を使えばできるだろう。発電もよっぽどのものでなければ賄えるが……」
 問題は水だ。そう口に出したきり黙りこくった亮に、あかりはくすくすと笑った。
「松浦さん、ため込むのは体によくないよ」
「む、すまん」
「考えてることがあったら声に出すのがいいよ。そのほうが頭の整理がしやすいし私たちも一緒に考えられるし、ね」
「……すまん」
「ほら、まただ、松浦さん、あやまってばっかり」
 くすくすという笑いが、あはは、という笑いに変わる。
 そんな笑みに何とはなしに蛍を思い出して、彼女が、蛍がこんなことに巻き込まれないでよかったと安堵する自分に、他方で少し苛立った。
 たった今神岸に向けられた笑顔が惹き起こした、苛立ちと同時に胸中に湧き起こったそれを、うまく表に出せない。
 いや、それは表に出さなくていいものだ、と思う。
 この気持ちは、蛍ではなく今そばにいるひとに向けたその感情は胸の奥底にしまっておくべきなのだ。

 あの扉を開ける、と告げて階段から立ち上がった。
 もしホールの付近にこれと同じ扉があれば、主催に近づく突破口となるかもしれない。
 アビスボートに向かう前に一応調べておくべきだ、と結論をつけてから起こした行動である。
 その後を二人が追ってきた。
「危険ではないと思うが、注意はしておくんだ」
 そう言って、重い扉をゆっくりと押した。

181Realization/Here,and there (>>163- リライト):2009/05/06(水) 08:28:05 ID:exZIqCT6
 *

 屋上の風には似ても似つかない、湿り気と臭気を含んだ風。
 そのはずなのに、扉を押す圧力と扉にまつわりつく気流の感覚に連想が働いた。
 重さのある風。
 あの時青空を背にして立っていた芝浦八重のエゴを、自らの手が透過していった感触と似た冷気と圧力を帯びたそれ。
 
 耳をたたいていったその風の中に、修二の声がした。

 目を見張る。
 先の薄暗がりに、ぼんやりと何かが見える。
 ぼんやりとした、広がり。
 ひどくおぼろげなそれは何かの物体として捕らえるには大きすぎて、一目では判別できない。
 しかし闇の中の空気の歪みが、その存在を控えめではあるが亮の触覚に語りかけてくる。
 さらに目を凝らす。
 その希薄な幻影は僅かずつ拡散し、さらに薄くなっていく。
 亮はふと、その中の一部が少しずつスライドしていく凹凸で構成されていることに気づいた。
 ゆっくりと、しかし途切れることなく運動を続けているそれは銀色の――――回転する歯車の一部。

「松浦さん!」

 駆け出す。
 ひどくおぼろげな輪郭のそれを逃すまいと、懐かしい重さを持った幻に、手を伸ばした。
 触れたのは、歯車の歯にあたる突起。それは亮の知るエゴとは違い、手で触ることができた。
 すり抜けてしまうこともない。触れ合い、弾きあう。
 力を掛けるまでもなく、触れただけのエゴの幻影はその回転を止める。
 それに気づくことのできる者を求めて島中に拡大していたその薄い影が、手の中で収斂していく。
 密度を増した幻は、次第に亮の知る銀色のギアへと収まっていった。
 透過しないエゴ。その感触は亮自身のエゴで八重のエゴに触れた時の感触を想起させる。
 すなわち「存在感」。いまそこにあるものとしての感触である。
 この島に連れてこられた亮の知っている者たちは、浅見邦博を除いて皆もうこの世にない。
 だというのに、手の中のエゴは「ここにある」ことを声高に主張している。
 気づくことのできるものを求めて、誰かに何かを伝えるために、「存在」を続ける。
 それは、彼岸と此岸とを繋ぎ得る細い一本の糸。

182Realization/Here,and there ◆94qEoEmea.:2009/05/06(水) 08:28:51 ID:exZIqCT6
 手の中のギアは、いつしか淡くなり、うつろな輪郭が白い光を発して溶けていった。
 その光は球形をなして、手のひらに吸い込まれていく。
 光が、収束していく。

 ふと気づいた。
 エゴ自体が変化してこの手をすり抜けなくなったのではない。
 この手が、亮自身がエゴとして存在しているのだと。
 自分のエゴがどんな形状であるのかは具現化が封じられている今はわからない。
 初期の靴のような形のそれか、八重のエゴと融合した後の翼のあるそれなのか、それともまた別の形をとっているのか。
 しかしわかる。すでに彼岸の存在である者たちがそれを形作っていることが。
 そして形を持った「代行者」(プロクシ)は、確実に己の裡に存在しているのだということが。

「松浦さん、今の……」
「見えなかったか、銀色のギアが」
「ううん、ぴかーって光って、それが消えていったのは見えたけれど」
「む……そうか」
「なんだったんだろうね」
 そう首をかしげるあかりに、亮はどう説明してよいかわからず「すまん」とだけ返した。
 

【084 松浦亮 修二のエゴのレプリカ(バッテリー満タン)】
【024 神岸あかり 所持品 無し】
【047 春原芽衣 きよみの銃の予備弾丸6発 筆記用具(情報交換で得られたことが追記)
 黒うさぎの絵皿 木彫りの熊 水風船2コ 予備食料の缶詰が残り2つ】

【取り合えずアビスボートへ向かう。亮は、二人を送り届けた後PKとして単独で行動開始の予定】
【午前9時頃】
【住宅地東の海岸線沿いにある洞窟内】

【亮、修二のエゴ(#250)を発見、回収】


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