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試験投下スレッド

1管理人◆5RFwbiklU2 :2005/04/03(日) 23:25:38 ID:bza8xzM6
書いてみて、「議論の余地があるかな」や「これはどうかなー」と思う話を、
投下して、住人の是非をうかがうスレッドです。

472トリプルインパクト(三重激突) ◆E1UswHhuQc:2005/07/17(日) 01:41:12 ID:/lTxp5NM
 ぎりぎりの均衡は、わずかにこちらが不利だった。
「要しゃん……」
 背後で、シロがこちらの名を呼んだ。そして、言葉を続ける。
「……ボクが相手してる間に、逃げるデシ」
 聞こえた瞬間に、視界に白の巨体が入ってきた。
「――駄目!」
 気が逸れた一瞬で、破壊精霊が動きを取り戻した。
 拳の一打で白竜の腹を突き破り、鮮血と肉片を飛び散らせる。
 要の頬に、血が飛んだ。
 それを震える指でなぞり、目の前に持ってきて、
「……血」
 意識が揺らいだ。視界が揺らいだ。感覚の全てがおぼろになった。
 揺らぐ視界の中で、白竜が頭を潰された。勝ち鬨をあげた破壊精霊が、こちらに向き直るのが見える。
「……驍宗さま……」
 呟きと同時に、視界が銀一色となり、そして消えた。
「――――!!」
 破壊精霊ウルトプライドは獲物を屠った喜びに大きく咆吼をあげ、
「――――」
 力尽きて消滅した。
 あとはなにも残らない。
 すべてが終わったそこに、暗鬱な笑い声が短く響いた。


【C-3/商店街/1日目・16:30】
【ミリア・ハーヴェント 死亡】
【哀川潤 死亡】
【フリウ・ハリスコー 死亡】
【ハックルボーン 死亡】
【シロ 死亡】
【高里要 死亡】
【残り60人】

[備考]:
商店街に、巨大なクレーターが出来ました。
アイザック・ディアン、ミリア・ハーヴェント、哀川潤、フリウ・ハリスコー、ハックルボーン神父の死体及び各自の持ち物は、水晶眼の爆発によって消し飛びました。

473暗殺者に涙はいらない 1改 ◆CDh8kojB1Q:2005/07/17(日) 18:05:10 ID:D7qZuQnc
 パイフウは陽光が降り注ぐ平原を歩いていた。
 いずこかより吹く風が彼女の長い髪をなびかせ、肌をくすぐる。
(エンポリウムに吹く乾きを運ぶ風とは違う……心地よい風ね)
 心に思うのは、荒廃した世界に反抗する活気有る機械の町と、
 僅かな安らぎを与えてくれる己の職場。
 しかし内心とは裏腹に、豊かな緑の大地を見る物憂げな瞳は常に周囲を警戒し、
 まるで散歩をしているかのような歩行には一切の隙がない。
 それでも見晴らしの良い平原を単独で移動するなど、
 この殺し合いの場においては無謀とも言える行為だ。
 暗殺者としての自分が、いつ誰から狙われるか分からないこの状況に危険信号を発している。
 だが構わない。
 一人を除いた、この島にある全ての命をただ刈り取ろうと自分は決めた。
 ならば今は一人でも多くの獲物と遭わねばならない。
 故に危険を避けては通れない。
(こんなギャンブル、暗殺者の取る行動とは思えないわね)
 一人失笑する彼女の視界が捉えたのは、森と問答無用の巨大な力で抉られた大地だった。

 数分後、彼女は人間数人分がすっぽり入る大きさの穴(恐らく何らかの範囲攻撃の跡だろう)の
 淵に立っていた。
 一体どれほどの戦力がここで衝突したのか見当もつかない
(塵ひとつ残さず消し飛ばすなんて……あれは?)
 ふと、視線を森の方に向けたパイフウは一本の樹の下に残った物に注目した。
 僅かに周囲の大地よりへこんだそれは、
「――着地跡ね」
 ならば、この樹の上に誰かが隠れていたという事になる。
 そして、穴の付近で戦闘が起きていたのは間違いない。
 僅かながら穴の近くに、謎の範囲攻撃以外でできたと思われる血痕が有るからだ。
 ならば第三者が樹の上に姿を隠す理由とは、

 一番ありえそうなのは漁夫の利を狙ったから。
 二番目は近づくと正体がバレて警戒される可能性が有ったから。
 三番目は範囲攻撃を仕掛けたのはこいつで、その攻撃にはチャージもしくは反作用が伴うため、
 時間稼ぎが必要だったから。

 特に三番目はかなり危険だ、もしも自分の推測が正しい場合、
 樹上に居た者は、数人の参加者を一撃で吹き飛ばせるスキル又は支給品を所有していることになる。
(冗談じゃないわ。私の龍気槍さえ制限されて大した威力が出ないのに……)
 もう少し、周囲を詳しく調べる必要が有る。
 そこまで考えて、パイフウは自分に降り注いでいた陽光が樹木で遮られている事に気づいた。
 いつの間にか、心地よい風も止んでいた。

474暗殺者に涙はいらない 2改 ◆CDh8kojB1Q:2005/07/17(日) 18:06:00 ID:D7qZuQnc
「――見つけた」
 誰かが潜んでいたらしい樹の幹。そこには何かを突き刺した跡が有った。
 抉れ具合から察するに強固な刃物の可能性が高い。
 この樹は下部には枝が無いから登る足場にでもしたのだろう。
 それは、樹上に居た者は刃物の支給品と強力な範囲攻撃を有する事を示している。
 パイフウにとっては、アシュラムやその主と同等の警戒すべき人物に違いない。
 
 しかし、パイフウが見つけたのは樹の刃物跡だけでは無かった。
 次に彼女が見つけたのは、何者かに刈り取られた後に穴を穿った一撃で吹き飛ばされたと思われる、
 生々しい女性の左腕と……その手が掴んだデイパックだった。
 死後硬直によって硬く握られているためか、パイフウがデイパックを持ち上げても
 その腕が離れて落ちる事は無い。
 穴の付近の血痕を辿って発見する事ができた、唯一残っていた被害者の体。
 穴を穿った者は自分が樹上から攻撃した後に、これを探して回収する余裕が無かったらしい。
 ならば樹上の者が謎の範囲攻撃を行った後に、その音を聞きつけて寄ってくるであろう
 他の参加者から逃げたという事だ。
(無敵ってわけじゃあないのね)

 何はともあれ、パイフウはデイパックを開けて支給品を探した。
「武器が入ってれば最高なんでしょうけど……これは服……防弾加工品みたいね」
 手に持って取り出したのは、さらりとした肌触りの白い外套だった。
 他には手付かずの飲食物などの備品一式と説明書らしき物が入っている。
「『防弾・防刃・耐熱加工品を施した特注品』『着用することで表面の偏光迷彩が稼動』
ステルス・コートの類似品かしら?」
 性能を確かめるために外套を着込んだところ、本当に自分の体が見えなくなった。
 着心地もそれほど悪くなく、まるでさらりとした布の服を着ている様な感覚だ。
 恐らく、周囲の光景をリアルタイムで表示する事によって、
 中の人間を透明に見せるシステムだろう。
 防弾・防刃・耐熱加工品を持たせた迷彩服。
 パイフウの世界なら、確実にテクノスタブーに引っかかるであろう代物だ。
 普通に歩行する程度では、まず他者から発見されることは無い。
(気配を消せる私には便利この上無いわね)
 試しに蹴りや手刀を何発か放ったところ、服の周囲に僅かな歪みが発生した。
(……高速運動に偏光処理が追いつかない)
 だが暗殺には十分すぎる性能だ。これ以上の物を期待するのはわがままだろう。
 これなら自分の技能と併せる事によって、ある程度の強敵とも戦える。
 己が殺人機械へと変わるのを自覚しながら、パイフウはその長い髪を掻き分けた。

475暗殺者に涙はいらない 2改 ◆CDh8kojB1Q:2005/07/17(日) 18:06:51 ID:D7qZuQnc
 殺戮の用意は整った。自身の能力の下方修正を行い、己の可不可も見極めた。
 後は……ただ狩り尽くすのみだ。
 血に飢えた白虎は、全身全霊を持ってこの豊かな大地を真紅の色に染め上げるだろう。
 脳裏に浮かぶのはハデスの教えの一つ。

 ――殺せる者は冷静かつ最速に残さず殺せ。心は捨てろ、鈍るだけだ――

(私はもう後悔しない。後退しない。ディートリッヒ……次に尻尾を出した時は……覚悟しなさい)
 偏光迷彩で姿を消し、心とともに殺意を消した死神は、
 静かに、しかし高速で陽光の下に歩を進める。
 
 後には、抉られた大地と刈り取られた左腕に掴まれたデイパックだけが残された。
 再び吹き始めた風は、それらの周りで怨嗟の叫びを挙げた後に、いずこかへと去っていった。


【E-4/平地/1日目・13:55】

【パイフウ】
[状態]:左鎖骨骨折(ほぼ回復・休憩しながら処置)
[装備]:ウェポン・システム(スコープは付いていない) 、メス 、外套(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]:デイパック(支給品一式・パン12食分・水4000ml)
[思考]:1.主催側の犬として殺戮を 2.火乃香を捜す

[備考]:ディードリット支給品(飲食物入り・左手付き)がE-4/平地に放置されています。
    外套の偏光迷彩は起動時間十分、再起動までに十分必要。
    さらに高速で運動したり、水や塵をかぶると迷彩に歪みが出来ます。

476暗殺者に涙はいらない 3改 ◆CDh8kojB1Q:2005/07/17(日) 18:07:35 ID:D7qZuQnc
 殺戮の用意は整った。自身の能力の下方修正を行い、己の可不可も見極めた。
 後は……ただ狩り尽くすのみだ。
 血に飢えた白虎は、全身全霊を持ってこの豊かな大地を真紅の色に染め上げるだろう。
 脳裏に浮かぶのはハデスの教えの一つ。

 ――殺せる者は冷静かつ最速に残さず殺せ。心は捨てろ、鈍るだけだ――

(私はもう後悔しない。後退しない。ディートリッヒ……次に尻尾を出した時は……覚悟しなさい)
 偏光迷彩で姿を消し、心とともに殺意を消した死神は、
 静かに、しかし高速で陽光の下に歩を進める。
 
 後には、抉られた大地と刈り取られた左腕に掴まれたデイパックだけが残された。
 再び吹き始めた風は、それらの周りで怨嗟の叫びを挙げた後に、いずこかへと去っていった。


【E-4/平地/1日目・13:55】

【パイフウ】
[状態]:左鎖骨骨折(ほぼ回復・休憩しながら処置)
[装備]:ウェポン・システム(スコープは付いていない) 、メス 、外套(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]:デイパック(支給品一式・パン12食分・水4000ml)
[思考]:1.主催側の犬として殺戮を 2.火乃香を捜す

[備考]:ディードリット支給品(飲食物入り・左手付き)がE-4/平地に放置されています。
    外套の偏光迷彩は起動時間十分、再起動までに十分必要。
    さらに高速で運動したり、水や塵をかぶると迷彩に歪みが出来ます。

477あと2時間30分(1/11) ◆eUaeu3dols:2005/07/19(火) 07:40:04 ID:ZlTtJbTg
「……さて」
森に踏み入っていくダナティアとテッサを見送り、リナとシャナがそこに残った。
「あたしたちも行くとしましょうか」
「言われなくてもわかってる」
ダナティアとテッサは仲間を増やすために別行動を取る。
リナとシャナは仲間と合流するために道を行く。
「でも、ちょっくら面倒そうね。
 東は禁止エリアでかなり塞がれてるし、直進すると罠が有るエリアだわ」
「そんなの関係ない。わたしは直進する」
あっさりとシャナが答える。堂々と、傲慢不遜な自信を漲らせて。
「ったく。力が有り余ってる時の正面突破は望む所だけど、もうちょっと考えなさいよ」
(まあ、あたしが言えた事じゃないけどさ)
ダナティアにもテッサにもそれを諫められている。
他人が同じ行動を取るのを見たおかげで、ようやく自分の無謀さが身に浸みた。が。
「ま、今回は正面から踏み潰しますか。安全な道を確保しておければ便利だわ」
それに、どちみち東回りの道は殆ど塞がれている。
リナは携帯電話に連絡を入れた。

「あと一時間は掛かる? なんでだ」
ベルガーが携帯電話に聞き返す。
既にC−6エリアに到着した彼らは、数棟ほど林立するマンションの一室で休憩していた。
狭い通路や幾つもの曲がり角、逃げ場の少ない構造は戦いになった時に危険だが、
簡単に調べた所、このマンションには他に誰も居ないようだった。
『スネアトラップが仕掛けられた森を突破するわ。あと1時間くらいかかるかもしれない』
「スネアトラップだと? 迂回すれば……いや、禁止エリアが有るのか」
『それに、道を開いておけば後で使えるわ。あと、ダナティアとテッサは遅れるわよ。
 テッサの捜し人の首根っこを掴みに別行動中よ』
(それじゃ最初に来るのはあの二人かよ)
ベルガーは、電話の相手に聞こえないように小さく溜息を吐いた。
よりによって面倒な二人が残ったものだ。
シャナの方はあの通りの性格だし、リナは……もう、捜し人が居ないのだ。

478あと2時間30分(2/11) ◆eUaeu3dols:2005/07/19(火) 07:41:15 ID:ZlTtJbTg
「ま、なんにせよ捜し人が見つかったのは良かったじゃないか」
『そう素直に喜べればいいんだけどね』
リナが言葉を濁す。
「……どうかしたのか?」
『…………。! って、ちょっとシャナ、待ちなさいよ! あ、着いたら話すわ!』
「あ、おい!」
プツリと通話が途切れた。
セルティ・ストゥルルソンと、相手の番号の名前が表示されている。
「まったく、あの嬢ちゃんは相変わらずだな」
『大丈夫なのか?』
リナの使う携帯電話の持ち主が、少し不安げに文字を示す。
「なに、あの二人だってバカじゃないさ。罠の中を無理に突っ走ったりは……しそうだな、おい」
独走型のシャナと、どちらかというと過激派なリナ……組み合わせとしては最悪に近い。
『大丈夫なのか!?』
セルティが『大丈夫なのか』と『?』の間に無理矢理『!』を書き足した紙を突きつける。
「大丈夫ですよ、きっと」
そう言ったのは保胤だった。
「あのリナさんという方は、怨念が噴出しない限りは冷静で、警戒心も強い人です。
 そう無茶な事をする人ではありません」
「……だと良いんだがな」
そう、普通に考えれば何の不安も無いはずだった。

実際、二人は時間こそ掛かったものの何の問題もなく森を抜ける事が出来た。
その後ろには累々と破壊された罠が転がっている。
「しっかし時間がかかったわねぇ。なんか雨も降ってきちゃったし」
「リナが休憩をとったからじゃない」
「あんたが無造作に進むからでしょうが! 神経が磨り減って仕方ないわ」
C−6に入った二人は、互いに悪態を吐きながら近くにあるマンションに近づく。
「まず雨宿りも兼ねて適当な所に入って、そこから電話するわ」
リナは何事もなく冷静に行動していた。
誰一人予想出来なかった事が有ったとすればそれは、彼女達が別れた仲間と合流する前に、
海野千絵と佐藤聖に出会ってしまった事だった。

479あと2時間30分(3/11) ◆eUaeu3dols:2005/07/19(火) 07:42:03 ID:ZlTtJbTg
その予想できなかった者達には、海野千絵と佐藤聖の二人までも含まれる。
本来二人は『如何にもファンタジー』といった外見の連中を避ける事に決めていた。
なのに自分達の隠れているマンションにそんな格好の参加者が近づいてきてしまったのだ。
一人は比較的現代風の格好をしているし、少々偉そうな以外は割合普通の少女なのだが、
もう一人の少女はファンタジーっぽい格好をしている上に、背中に長い剣を背負っていた。
(やばいっ)
一瞬隠れようとし……だが、千絵は気づいた。
ファンタジー風の少女の風貌が、アメリアから聞いていた『リナの風貌』に似通う事に。
雰囲気や意匠こそ違えど、彼女の衣服がどことなく同じ世界を感じさせる事に。
「待って、聖」
そして、耳を澄ませると聞こえてきた二人の会話と、その断片……リナという一言に。
「彼女を狙うわ。彼女はアメリアの知り合いよ。うまくやれば、罠に掛けられるわ」
アメリアの仲間なら吸血鬼は知っているだろう。
だが、同時に強い力を持った、罠に掛けられる相手でもあるのだ。
聖に対抗する時が来れば『アメリアを殺したのは彼女だ』と吹き込めば仲間に出来るのも魅力だ。
アメリアが死んだのがあの時とは限らないが、彼女がアメリアに重傷を負わせたのは事実だし、
そもそもそれが真実である必要は無い。
聖が言い返した所で、自分が短い間なりともアメリアと過ごしたアドバンテージは崩せない。
「私はもう一人の子の方が好みなんだけどなぁ」
聖が欲望に澱んだ目で返す。
千絵は不安を感じながらも説得した。
「別に片方だけとは言わないわ。
 刀を持ってるけど、見たところただの女の子みたいだし後に回せばいいじゃない」
「……ちぇっ。判った、前菜と思う事にするよ」
千絵は聖に手筈を伝えると、リナとシャナに会いに向かった。

「ふうん、そっちの方から出てきてくれるなんて手っ取り早いわ」
千絵が声を掛けようと思ったその瞬間に、先んじてリナが声を掛けてきた。
(まさか、見てる時から気づかれてた!?)
予想以上に相手が鋭い事に気づき、動揺しながらも反撃する。
「リナ・インバースさんですね? アメリアさんの仲間の」
今度はリナが動揺する番だった。

480あと2時間30分(4/11) ◆eUaeu3dols:2005/07/19(火) 07:42:57 ID:ZlTtJbTg
「アメリアを……アメリアを知ってるの!?」
「はい。私は、ゲーム開始直後にアメリアさんと行動していましたから」
つらつらと語る。今や何の感慨も抱けなくなったあの時間の事を。
その記憶には、完全に理解出来ない喪失感だけが残っていた。
(私はそんなにあの子の血が吸いたかったんだろうか?)
何か違った気がする。
今からでも彼女の死体を捜してその血を啜れば、その理由が判るだろうか。
――彼女の思考は、既に根底から冒されている。
「その後はどうなったの?」
「アメリアさんは襲ってきた人から私を逃がすために残って……最期は、知りません」
襲ってきたのが聖である事は伏せ、その時は夜中だったから判らないと誤魔化す千絵。
「雨が降り出して、もしかしたら……野ざらしで雨に打たれているかもしれませんから。
 だから、せめて死体を埋葬する為に捜しに行きます。あなたも来ますか?」
「行くわ」
即答するリナ。シャナが少し不満げに問い掛ける。
「合流はどうするの?」
「少し待たせりゃ良いわ。シャナ、アンタだって勝手を通してたんだし、少しは付き合いなさい」
「……別に良いけど」
(かかった)
千絵はリナを自分の顎に掛けた事を確信した。
「それじゃ行きましょう。あなた達の分の雨具も有れば良かったんですけど」
「良いわよ、そんな大袈裟なの無くても」
千絵は自分達が吸血鬼である事を隠すためのマントをそう誤魔化すと、雨の中に歩き出した。

リナは実際、完璧に冷静ではなかった。
だが、それでも警戒心と観察力は鈍っていなかった。
(こいつら、吸血鬼だわ)
マントの隙間から見える青白い肌。赤く充血し、微かに光って見える眼。
そして、仄かに漂う嗅ぎ慣れた……血の臭い。
(アメリアを殺したのはこいつらかもしれない)
リナは何気ない風を装い、彼女達に付いて歩いて行った。
シャナも相手の正体に気づいている事を、考えるまでもなく確信して。

481あと2時間30分(5/11) ◆eUaeu3dols:2005/07/19(火) 07:43:48 ID:ZlTtJbTg
だが、シャナは完全に油断していた。
海野千絵と佐藤聖と名乗った二人(日本人だろうか?)は完全に素人だ。
戦いの訓練を積んだ様子も戦い慣れた様子も全く無い。
マントから垣間見える腕だってまるで鍛えた様子の無い細腕だった。
シャナ自身もその外見からは想像できない怪力を秘めてはいるが、
その挙動の端々には歴戦の戦士ならば見て取れる『戦いへの慣れ』が潜んでいる。
二人にはそれが無い。
そして、シャナには吸血鬼の知識も無い。
元の世界では伝説や娯楽の世界にしか登場しなかった存在。
彼女は、そういった知識を与えられる事なく育てられた。
(でも、この微かな臭い……なんだっけ)
更にもう一つの盲点。
それは、血の臭いを嗅ぎ慣れていない事だ。
幾ら仄かに漂うだけとはいえ、その臭いを嗅ぎ慣れた物なら確実に気づく血の臭い。
リナは当然のように、シャナも気づいていると思っていた。
しかしシャナが抜けてきた戦いにおいて、血を流す者は殆ど居ない。
敵も、その犠牲者も、血を流す事無く消えていく。
最近までは一人で戦ってきたから、血を流すのは自分だけ。
自分が傷を負った時は嗅覚より先に痛覚に来るのだから、臭いはあまり記憶に残らない。
だから。

歴戦の戦士でありながら、シャナは吸血鬼に気づく材料を何一つ持ち合わせていなかった。


それでもまだ、千絵の計画が成功する要素は何一つ存在していなかった。
彼女はシャナは無力だと油断し、リナを狙おうとしていたのだから。
リナもまた、積極的に話しかけ、アメリアの事を知る千絵を警戒していた。
実際、彼女の計画は成功しなかった。だが……

聖の欲望に任せた襲撃を阻止しえる要素は、何一つ存在していなかった。

482あと2時間30分(6/11) ◆eUaeu3dols:2005/07/19(火) 07:44:40 ID:ZlTtJbTg
「ぁ……ああああああああああぁっ!?」
「な、バカ!」
「しま……っ!?」
シャナの絶叫と千絵の悪態とリナの驚愕が次々に口を衝いて出た。
シャナの首筋に、純白の牙が深々と突き立っていた。
それが見る見るうちに色を塗り替えられ、紅い牙になっていく。
(そんな、なんで!?)
背後から自分に噛みついた女性は、確かに素人だったはずだ。
だがその動きは、油断していたとはいえシャナが捕らわれる程に速かった。
「このっ、放せ!」
強引に振り払おうと力を篭める。しかし……
(振り払え……ない!?)
シャナと拮抗し、僅かに上回るほどの怪力が彼女を掴んでいた。
振り回すシャナの腕が引っかかり、聖のマントは薄紙のように引き裂かれた
それを見て千絵も、シャナがただの少女ではない事に気づいた。
それでも聖の表情は揺らがない。
本当にちょっとした悪戯心に溢れた、自らの不利を考えもしない楽しげな笑顔。
「シャナちゃんだっけ。そんなに暴れなくても殺しやしないってば。ふふふ」
暴れるシャナによりマントが完全に剥ぎ取られ……聖の首筋が見えた。
千絵も気づき、自らの首筋に手を当てた。
(痕が、無くなってる……!?)
魔界都市において、吸血鬼の付けた吸血痕は身も心も吸血鬼化した時に消え去る。
アメリアに一撃で破れた時、聖の吸血鬼化は完了していなかった。
だからこそ、アメリアは聖を救えるかもしれないと夢見たのだ。
だが、完全に吸血鬼化……それも美姫直々の寵愛を受けた吸血鬼化を完了した聖は、
日光の遮られた雨空の下、圧倒的な肉体能力を思うがままに使いこなしていた。
その肉体能力に支えられた傲慢な自信が、計画に反した襲撃を実行させた

しかし、シャナもそれだけで手も足も出なくなるほどに弱くもない。
「放せって言ってるでしょ!」
精神を集中し、それを求める。
求めるは……炎!

483あと2時間30分(7/11) ◆eUaeu3dols:2005/07/19(火) 07:45:26 ID:ZlTtJbTg
吹き上がった爆炎が降りしきる雨を蒸発させ、大量の水蒸気が周囲を覆った。
続けざまに高熱が上昇気流を呼び、水蒸気を巻き上げて立ち上っていく。
「――――っ!?」
押し殺した声が上がり、聖がゴロゴロと地面を転がる。
水たまりを転がり、雨水でボロボロに燃える衣服を消火する。
「もう、ひどいじゃない……っ!?」
ギリギリで身を放したため、火傷はそう酷くない。だが。
「まだよ! ファイア・ボール!!」
ずいぶん前からこっそりと詠唱を終えていたリナの火炎球が炸裂した。
「きゃあああああああああぁっ!!」
悲鳴を上げて飛びすさる聖。
更に、水蒸気の雲を抜けてシャナが跳びかかる!
「さっきはよくも!」
「ひぃっ!!」
肉体能力では聖の方が上だ。だがシャナは、刀を持ち、技を持ち、炎を操る。
ここに来て敗北を悟った聖は、背中を向けて全力で逃げ始めた。
「この、待てっ!」
シャナが追いかけるも、肉体能力の差が有る以上、追いつけるはずもない。
そしてそれ以上に……
「ふぅ……ふぅ……くそっ」
深々と咬まれた上に、聖を振り払うため自分を中心に爆炎を巻き起こしたのだ。
肉体的な損傷や消耗も、そう軽い物ではなかった。

一方、千絵も聖が逃げ出すのを見て脱兎の如く逃げていた。
(あの馬鹿! あんなタイミングで欲望に流されるなんて……!)
いずれ時期が来たらと思っていたが、さっさと縁を切るべきだ。
だが、それ以上に予想外だったのはもう一人の少女の方まで強敵だった事。
どういうわけか誰も追いかけて来ないが、とにかく少しでも遠くに逃げないといけない。
幸い、この雨空は彼女達吸血鬼を動きやすくしてくれるし、逃走にも好都合――
そう思った次の瞬間、千絵の意識は闇に沈んでいた。
「ぇ……?」
最後に見えたのは、鳩尾にめり込む拳と、男と、男と、バイクに乗った首の無い…………

484あと2時間30分(8/11) ◆eUaeu3dols:2005/07/19(火) 07:46:21 ID:ZlTtJbTg
マンションの一室に、どこか陰鬱な空気が漂っていた。
薄暗い外からはざあざあという音が流れ込んでくる。
「……あの二人、来ないな」
ベルガーはベランダから、雨の降りしきる外を注意深く監視していた。
もう3時を過ぎたが、ダナティアとテッサはまだ来ない。
「罠のある森も有るし、雨も降り出したから、雨が止むまで待つのかもしれないわ」
そう言うリナも少し自信なさげだった。
捜し人がゲームに乗っていたとすれば、一騒動起きていてもおかしくない。
「まあ、彼女達は……いや。彼女達も冷静だ。なんとかなるだろう」
「……『は』って何よ」
「気にするな」
(こいつ、わざと言い間違えてからかったんじゃないでしょうね)
からかうのではなく試した可能性も有るし、故意に言った可能性は十分だ。
もっとも、そんな事はどうでも良いのだが。
「それより、あんたは大丈夫なの? シャナ」
咬まれた傷。爆炎による火傷。
更に短時間とはいえ戦闘を行った事により、腹部の弾は僅かに内出血を引き起こしていた。
「大丈夫。もう、痛みも引いてきたし」
だが、シャナの傷は異様な速度で治り始めていた。
元からシャナが備えていた自己治癒のレベルよりも、早い。
「……だからこそヤバイんじゃない。どんな具合?」
「やはり、リナさんの言う吸血鬼化という物なのでしょう。確かにそのような兆候が見られます」
シャナの具合を見ていた保胤が答えを返す。
「まだなりかけの状態ですが……悔しいですが、私の手持ちでは対処出来ません。
 その吸血鬼というのがどういった妖物なのかも判らないのでは、手が付けられません」
「あたしの世界の吸血鬼像なら教えられるんだけど……
 どうも、あたしの世界の吸血鬼とも違うみたいなのよね」
ベルガーも首を振る。セルティも判らないという素振りを返した。
「……それじゃやっぱり、そいつが起きるのを待って聞き出すしかないわね」
保胤が複雑な表情を浮かべる。彼にとっては彼女も被害者なのだろう。
シャナとは違い、既に吸血鬼化が完了してしまっているとしても。
シャナの隣のベッドに縛り付けられた海野千絵は、未だ昏倒状態にあった。

485あと2時間30分(9/11) ◆eUaeu3dols:2005/07/19(火) 07:47:29 ID:ZlTtJbTg
「何か可能性が高い治療法は無いの?」
シャナが不満げに問う。
「そうね。やっぱり吸血鬼なら……咬んだ奴を殺すとかかしら」
シャナを咬んだ聖は何処かへ逃走してしまった。
千絵が起きるのを待って問いつめれば行動パターンくらいは読めるかもしれない。
だがそれしか無いとしても、シャナは悠長な方針に苛立ちを隠せなかった。
(手遅れになる)
まだ大丈夫だ。
そう思うのに、何故かそんな言いようのない予感が彼女を追い立てる。
『それより、吸血鬼という物は血を吸いたくなる物だ。それは大丈夫なのか?』
「別に。なんてこと無い」
心配するセルティにそっけなく返す。
シャナはセルティに対し、どこか余所余所しく対処していた。
さっき初対面の時に敵だと勘違いして刃を向けてしまい、どうも気まずいのだ。
大事にはならなかったし、セルティも気にしないと言ってくれたのだが。
セルティのように奇怪な容貌は、概ね敵に多かった。
「そうですか。それならしばらくは大丈夫かもしれませんね」
なってこと無い。
シャナのその答えに保胤は安堵すると、真剣な顔で付け加えた。
「どうやら吸血鬼化とは、肉体だけではなく精神も蝕む現象のようです。
 有効な治療法が無い以上、精神力で抑え込む他に有りません」
「問題無い。こんなの、半日は持つ」
「コンニャクの構えってやつだね」
……………。
「……盤石の構え?」
「うん、それそれ」
エルメスがいつものように諺を間違える中で、ベルガーは密かに顔を強張らせた。
半日。それは追跡して戦うには十分な時間かもしれない。
だが、耐えられる時間としてはあまりにも短い。
(思ったより余裕は無いみたいだな)
溜息を吐く。
(あんまり抱えこむんじゃねえぞ、シャナ)

486あと2時間30分(10-11/11) ◆eUaeu3dols:2005/07/19(火) 07:48:11 ID:ZlTtJbTg
事実、シャナは追いつめられていた。
体の奥底からこみ上げてくる強烈な渇きと獰猛な衝動。
――血を啜り喉の渇きを癒したい。

(違う! わたしはそんなこと思ってない!)
フレイムヘイズとしての誇りと、傲慢でありながらも気高き意志で衝動を抑え込む。
だが、そうする間にもその衝動は強まってくる。
半日は持つというのは、嘘だ。
半日持たせるのが限界なのだ。
そして、何よりも辛いのは……孤独である事だった。
(悠二……)
リナには頼れない。
二回目の放送の時、リナには酷い事を言ってしまった。
一回目の放送の時から悠二の名が呼ばれるのが怖くて、まるで冷静になれなかった。
だから、ムンク小屋で休んでいる間に無理矢理に心を落ち着けて。
そうしたら飛び出してしまった酷い言葉。
きっとまだ内心では怒っているだろう。
(アラストール……)
ベルガーにも頼れない。
口喧しく贄殿遮那を返せと罵り、初対面の時は無理矢理奪おうとさえした。
きっと、自分を嫌っている事だろう。
贄殿遮那が有れば生き残れる。
そう思ったのだって、いつも自分の側に居てくれる人達が居ない不安の裏返しじゃないのか。
(ダナティア……)
悠二には未だに会う事が出来ない。
自分の中に在るアラストールと話す事さえ出来ない。
アラストールにシャナを頼まれ、真摯になってくれるであろうダナティアも、居ない。
弱いけど合理的に冷静に考える事が出来るし、仲が特別悪くも無いテッサも、居ない。
さっき会ったばかりの上に、刃を向けてしまったセルティにも、
彼女とチームを組んでいた保胤にも頼れない。
エルメスに頼って何になるか。
気づいた時、シャナの周りに心を許せる相手は誰も居なくなっていた。



――もう間に合わない。手遅れになる。
(そんな事無い!)
湧き上がる不吉な予感を振り払う。
(悠二……きっと悠二に会えれば……)
何とかなる。そう思う。
悠二ならきっとなんとかしてくれる。
吸血鬼なんかにならないで済むと思う。
だから……
(悠二……早く会いたいよ……)
それに縋り、必死に自分を保っていた。

彼女は気づいていない。
自分の予感が何を指し示しているのかを。
本当に手遅れになろうとしているのが何なのかを。

あと1時間でそれは決まり。
あと2時間と30分でそれが報される。

487あと1時間30分【状態】(1-2/2) ◆eUaeu3dols:2005/07/19(火) 11:14:30 ID:ZlTtJbTg
【C-6/住宅地のマンション内/1日目/16:30】
『不安な一室』
【リナ・インバース】
[状態]:平常。わずかに心に怨念。
[装備]:騎士剣“紅蓮”(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]:支給品二式(パン12食分・水4000ml)、携帯電話
[思考]:仲間集め及び複数人数での生存。管理者を殺害する。
千絵が起きたらアメリアの事も問いつめ、内容によって処遇を判断する。

【シャナ】
[状態]:平常。火傷と僅かな内出血。吸血鬼化進行中。
[装備]:鈍ら刀
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
[思考]:聖を発見・撃破して吸血鬼化を止めたい。悠二を見つけたい。孤独。
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
     手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。
     吸血鬼化は限界まで耐えれば2日目の4〜5時頃に終了する。
     ただし、精神力で耐えているため、精神衰弱すると一気に進行する。

【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:心身ともに平常
[装備]:エルメス、贄殿遮那、黒い卵(天人の緊急避難装置)
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
[思考]:仲間の知人探し。シャナが追いつめられている事に気づく。
 ・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。

【セルティ・ストゥルルソン】
[状態]:やや疲労。(鎌を生み出せるようになるまで、約3時間必要です)
[装備]:黒いライダースーツ
[道具]:携帯電話
[思考]:静雄の捜索及び味方になる者の捜索。

【慶滋保胤】
[状態]:不死化(不完全ver)、疲労は多少回復
[装備]:ボロボロの着物を包帯のように巻きつけている
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))、「不死の酒(未完成)」(残りは約半分くらい)、綿毛のタンポポ
[思考]:静雄の捜索及び味方になる者の捜索。 島津由乃が成仏できるよう願っている

【海野千絵】
[状態]:吸血鬼化完了(身体能力向上)、シズの返り血で血まみれ、厳重な拘束状態で気絶中
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(パン6食分・シズの血1000ml)、カーテン
[思考]:気絶中。聖を見限った。下僕が欲しい。
     甲斐を仲間(吸血鬼化)にして脱出。
     吸血鬼を知っていそうな(ファンタジーっぽい)人間は避ける。
     死にたい、殺して欲しい(かなり希薄)
[備考]:首筋の吸血痕は殆ど消滅しています。
[チーム備考]:互いの情報交換は終了している。
         千絵が目を覚ましたら、吸血鬼に関する情報を聞き出して行動。


【X-?/????/1日目/14:30】
『No Life Sister』
【佐藤聖】
[状態]:吸血鬼化完了(身体能力大幅向上)、シャナの血で血塗れ、多少の火傷(再生中)
[装備]:剃刀
[道具]:支給品一式(パン6食分・シズの血1000ml)、カーテン
[思考]:身体能力が大幅に向上した事に気づき、多少強気になっている。
     千絵はうまく逃げたかな。
     己の欲望に忠実に(リリアンの生徒を優先)
[備考]:シャナの吸血鬼化が完了する前に聖が死亡すると、シャナの吸血鬼化が解除されます。
     首筋の吸血痕は完全に消滅しています。
     14:30に逃走後、16:30に生存が確認(シャナの吸血痕健在)されています。

488十叶詠子の人間試験:2005/07/22(金) 17:53:14 ID:pBSSTsig
「残念、ちょっと遅かったみたいだね」
 言葉とは裏腹な笑みを浮かべて、彼女は現れた。
 右手に抜き身の短剣。それ以外はディパッグすらも持っていない。
 薄手のセーターとデニムのパンツは、絞ればバケツ一杯分の水が出てくるんじゃないかと思うほどに濡れそぼっている。
 彼女は唐突に、それこそ気配から足音まで何の予兆もなく人識の後ろに立っていた。
 みれば水溜りは玄関から途切れることなく続いていて、人識は足音の不在に首をかしげる。
 そんな殺人鬼を見ることもなく、ぴちゃり、と濡れた水音を引きずって、彼女は事切れた少年へと歩み寄った。
 血だまりに躊躇いなく足を踏み入れ、その手をそっと差し伸べる。
 絡みつく水草から滴る雫が、ぽつり、ぽつりと血の池をうがつ。
 体温を感じさせない白い指が、そっと彼の瞳に添えられた。
「かわいそうな子。せっかく本質を見る瞳と、世界を知る資格をもっていたのにね」
 慰めの言葉とともに、ゆっくりと閉じさせ、黙祷。
 こうまでされると流石に人識も萎えた。
「あー、知り合いだったか? 悪ぃな」
 ぼりぼりとその髪を掻きあげ、彼なりに謝罪。
 悪びれる風もなく、しかし重さのない口調で。
 彼女は濡れそぼった髪を青白い頬に張り付かせ、緩慢な動作で振りかえった。会釈の代わりかにこり笑う。
 そして静かに首を振った。
「ううん、初対面」
 とたん人識の首ががくりと落ちる。なんだよ、だの、ダセー、だのとぶつぶつ呟き、
「『二死満塁から逆転の一撃、ただしデットボール』みたいな! ってかんじだぜ。つーか謝り損じゃねぇか」
 がぁぁー、と髪を掻き毟った。と、その手をぱたりと止めて。
「んで、結局こいつ誰なのよ」
 自らがばらした死体を指差した。

489十叶詠子の人間試験:2005/07/22(金) 17:54:01 ID:pBSSTsig
「この子は‘彷徨う灯火’君、昔は燃え滓だったみたいだけど、中身があんまり眩しいものだから、いろんなものを引き寄せてしまう。
でも自分の光じゃ自分の足元は照らせない、自分を見出すことは出来ない。だからいつまでも自分の立ち位置を決められないの」
 濡れた服を全て脱いだ彼女、今は患者用と思しきガウンを羽織っている。
 説明しながら少女は部屋の隅で見つけた姿見を遺体の前に置く。ちょうど窓と向かい合わせになるように。
「彼はここでも彷徨ってた。でも私の選別を受けて、物語を知って、自分の瞳を取り戻して。後は訓えを受けるだけだったのに! 
あぁ、“出会えなかった魔女の弟子”!」
 手を休め、嘆くように諸手をあげて宙を抱く。
 慣れない力仕事が裾がはだけさせ、襟元が覗かせる。
 その肌の色は蒼白を通り越してすでに淡い赤。
 濡れ鼠になって風邪でもこじらせたか。湖に落ちた、という彼女の言からすればタチの悪い感染症も考えられる。
(近寄りたくねぇ)
 適当に距離をとって適当に聞き流して、人識はなぜかお湯の入れてあったカップ麺すする。
 どこまでも優しくない男、零崎人識。
「幕はまだ残っている。最終章まではたどり着けなくても、せめて想い人には逢わせてあげたいな」
 そうじゃないと可哀想だものね。視線に気づいたか、呟く彼女は作業で乱れたガウンの裾を正す。
「彼はね、とっても特別なチカラととっても大きなチカラを秘めてるの」
 彼女の弁はまだ続く。
 語りに全く温度がないのによくも続くもんだと頷き、人識はのびっきた麺をかきこんだ。
 兄をはじめ、こういう手合いは話す内に熱をあげてくものだと思っていた彼だが、
(これが真性てやつか)
 認識を改めるとともに危険人物から一歩退く。
「でも生き残るには不十分だったんだね。あ、責めてるわけじゃないんだよ。君の殺人鬼の物語には犠牲者が必要だもの
 ただ彼は最期にその特別なチカラと大きなチカラで願うの、ああ、僕を待ってるあの娘に逢いたいって」
 そこで彼女は言葉を止めた。凄惨な、それこそ零崎のような笑顔を人識に向ける。
「魔女のあたしは彼の魂を鏡に送る」
 壁に這わせた細い手が部屋の電気のスイッチにかかる。
「私はここに合わせ鏡をしにきたの」
 かちりと部屋に光が満ちる。
「そういえば挨拶がまだだったよね」
 窓は一瞬で鏡となって、倒れた少年を無限に写す。
「夜会にようこそ、‘合わせ鏡の殺人鬼’君」

490十叶詠子の人間試験:2005/07/22(金) 17:57:48 ID:pBSSTsig
「もうすぐ四時四十四分。放課後の怪談の時間。ねぇ、君は不思議だと思わない? 
 時間なんて本当はどこでも同値だよね。十時五十二分も八時時十七分も区別がつかないはずなのに、何故四時四十四分なんだと思う?」
「不吉な数字てのは明らかに後付だよな。あれだろ。薄明、誰彼、逢魔ヶ時てのもあったな。柳田國男だったか? まぁいいや。
 とにかく山とか海に入った人間が帰ってこなくなる時間だ。『はないちもんめ』や『かくれんぼ』の最中に消えたりな。
 ようはさ、昼から夜に変わる中で『違う世界につながっててもおかしいねぇ』て感覚がどっかにあるからじゃねぇの?」
 魔女は彼の身体を鏡へ寄せる。死体は力なく姿見にもたれかかった。
「そうだね、最後のチャイムを聞いた人は、夜の学校に入ってしまう。黒板に円を書くと四次元の世界に連れて行かれてしまう。
 山に遊びに行った兄弟、兄は帰ってきたけれど、弟は帰ってこなかった。
 ほとんどの物語が『連れ去られる』『帰ってこない』で終わるのは、人が『違う世界』との繋がりを見出してるから
 私は鏡の世界にこの子を送るの。見立ては好きじゃないけれど、この子が望んだことだから、私はこのコを物語にする」
 欠陥製品のヤローも物語とか何とか言ってたな、人識はそんなことを思い出す。
「そして死後の世界は虚像の世界、鏡像世界は冥府の姿。狭間の時間、もしも彼女が鏡を見たら、そこにはきっと彼が映っている」
 魔女は呟く、四時四十四分。
 空気が変わる。よどんだ鉄錆の臭い。腐った水の臭い。
 零崎が注視する中で、肢体はそのまま、ずぶりと沈んだ。
 波紋のように波立つ鏡面が腕をひたし、肩を飲み込み、首までつかる。
 彼女はもはや手を離しているのに死体はゆっくりと鏡の中へと落ちていく。
 気がつけば、あれほどの雨音が消えていた。
 世界にあるのは扉だけ。何もない空間に、ただ水底の闇がぽっかり口をあけている。

 こんなにも異常な世界で二人だけが変わらない。

「すごいね、君はもう『合格』してるわけ……」
 瞬間人識のの右手が閃いた。
「悪いな、どっかの誰かのせりふとあんまり似てたもんだから」
 一筋の亀裂が世界に走る。
「殺しちまった」

 砕けた。
 ガラスの破片は水しぶきのように、光をばら撒き、床で弾ける。
 人識が覆った目の向こうで、反射光が世界を隠し、水音が世界を満たす。
 目を開ければ、全てが現実に帰還していた。
 割れた窓からは雨が容赦なく降り注ぎ、床は水とガラスで一杯だ。
 蛍光灯の明かりの下でそれらは無機質に光を反射し、空白の足跡がくっきりと玄関のほうへと続いていた。
 時計を見れば長針は、まだ行儀よく真横を指している。
 全ての異常が終わったことを知り、零崎はそれらをただ一言で締めくくる。
「ま、退屈はしなかったな」
【残り69人 】
【C-8/港町の診療所/一日目・16:45】

【零崎人識】
[状態]:平常
[装備]:出刃包丁/自殺志願
[道具]:デイバッグ(地図、ペットボトル2本、コンパス、パン四人分 保存食10食分、茶1000ml、眠気覚ましガム、メロンパン数個
          消毒用アルコール、総合ビタミン剤、各種抗生剤、注射器等の医療器具)
    包帯/砥石/小説「人間失格」(一度落として汚れた)
[思考]:電波だったなぁ、
[備考]:記憶と連れ去られた時期に疑問を持っています。
    雨が止んだら港を見てまわってから湖の地下通路を見に行きます。

【C-8/港町/一日目・16:45】

【十叶詠子】
[状態]:全身ずぶぬれは一応ふき取りました、衰弱、肺炎、放っておくと命にかかわる
[装備]:魔女の短剣、
[道具]:濡れた服
[思考]:1.悠二を物語化。
    2.物語を記した紙を随所に配置し、世界をさかしまの異界に。
[備考]:服は全て脱いで、診療所にあった患者用のガウンを着用しています。

491案内役の魔女の使徒(仮):2005/07/24(日) 21:09:02 ID:vfBNLoRM
あなたは彼女を覚えてる?
忘れているなら、思いだしてあげて。
忘れられるのはとてもとても哀しい事だから。
だから、みんなに思いだしてもらうの。
私が殺した少女の事を。

        落ちる先は湖。
         湖には水面。
           水面は鏡。
            鏡は扉。
  扉の向こうに誰が居る?
  扉の向こうに何が在る?

彼女は闇夜で殺された。
彼女は海辺で殺された。
彼女はメスで殺された。

夜は異界が近づく時間。
闇夜に異界が隠れてる。
海は神様が住まう場所。
海に呑まれたお供え物。
メスの用途はなおす事。
裂かれた人の病を癒す。

そして誰か、覚えているか。
殺された少女の名前を覚えているか。

魔女は言う。
「あの子の魂のカタチは『陸往く船のお姫さま』。
 王子様に誘われて陸を進むようになっても、船を降りたわけじゃない。
だって、“彼女こそが船だから”」
――そして船は、海と陸とを橋渡す。

492案内役の魔女の使徒(仮):2005/07/24(日) 21:09:42 ID:vfBNLoRM
「あなたが魔女になれなかったのは残念だよ」
其処は異界。
水面の鏡面から飛び込んだ、鏡の異界の何時かの何処か。
澱んだ水の臭いと、耳が痛くなるほどの静寂に包まれた世界。
「カタチを与えてあげる事さえ遅くなって、本当にごめんね」
ピチャピチャと湿った音がする。
魔女の手首から滴る一筋の紅い血を、白い少女が舐めている。
「ふふ……しばらくはそれで保つかなぁ」
魔女は血を水面に滴り落とした。
水面は鏡。鏡は門戸。血は鏡の世界に滴り落ちた。
門戸は鏡。鏡は水面。血は水面から海へと流れ……
海に呑まれた『陸往く船のお姫さま』へと贈られた。
魔女の生き血はヨモツヘグリ。
なりそこなった哀れな子に、仮の体を与えてあげる。
そうして魔女の使徒が一人生まれた。
「…………」
ピチャピチャと音がする。

「…………」
やがて、血を舐め終わった少女が立ち上がる。
魔女の手首に傷は無い。
「さあ、案内してね。私は様子を見るために、一度島へと帰るから」
「…………」
魔女の使徒はこくりと首肯すると、魔女を異界の出口へ誘った。
魔女は使徒を手に入れた。
使徒は魔女を案内し、異界の準備を整える。
24時の異界のために。

そして魔女は、再び島へと門戸を潜る。
鏡を抜けて、水面を抜けて、海から陸へと帰り着く。
物語を広めるために。

493案内役の魔女の使徒(仮):2005/07/24(日) 21:10:25 ID:vfBNLoRM
魔女は港に佇んでいた。
港は海から人が帰る場所だ。
「さあ、どうしようかな。
 法典君はきっと不気味な泡さんと一緒だね」
戦おうと思えば、佐山を味方に付け自分を殺そうとしたブギーポップと戦えるだろうか。
しかし、彼女にそうする理由は無い。
「そうだね、しばらくは様子を見ようかな。物語はもう広がっている」
くすくすと笑い、詠子は歩き始めた。
島を一望出来る場所……灯台へ。


【C-8/港/1日目 13:20】
【十叶詠子】
[状態]:健康
[装備]:魔女の短剣、『物語』を記した幾枚かの紙片
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)
[思考]:灯台に向かう

鏡の異界の中に魔女の使徒ティファナが出現しました。
肉体が失われているため、異界の中にしか居られません。
魔女の使徒は記憶や人格などは有していますが、詠子に従うだけです。
基本的に言葉で相手を堕落させるだけで、戦闘能力は有りません。

494疑惑のあやとり(1/8) ◆eUaeu3dols:2005/08/03(水) 00:34:15 ID:ASvCsZpo
され竜は読み始めようかという所でクエロ知りません。
思考とか口調について齟齬が無いか意見お願いします。
ついでにアイテムに増える奇怪肉塊Xについても。
……使用時は原作設定を利用出来そうなネタは有るけど、
現時点では原作には無かったよく判らない物体でしかないので、
変な使い方しようとしたらNGになりそうな役立たずアイテム。
流れ上、ヨルガに何か手を加えないと変なので処理しておいたとも言える。

――――――――――――――――――――――

「ん…………」
うっすらとクエロは目を開いた。
目に映るのは白い天井と蛍光灯の明かり。それと周囲を囲む白いカーテン。
保健室のベッドだ。
微かに雨音がする事からして、どうやら雨が降っているらしい。
(あれから3時間という所ね。調子は……)
シーツに肘を突いて起きあがる。
……予想以上に全身が気怠い。
最初は咒式の反動が主要因だと思っていたが、思い返してみるに
ゼルガディスに受けた崩霊裂(ラ・ティルト)の効果もかなり大きかったようだ。
3時間の睡眠を取ったというのに、あまり疲れが取れていない。
(もうしばらくは大人しくしておくべきね)
元より、身が危うくなるまでは派手に動かない予定だ。
少なくともクリーオウの信用は十分に得ているし、他の4人にもそう疑われてはいないはずだ。
そこまで考えて、ふと気づく。
「誰か居ないの?」
返事はすぐに返ってきた。
「おや、起きていたのか。おはよう」
カーテンの向こうから聞こえるのは抑揚が小さいサラの声だ。
「いいえ、今起きたわ」
「そうか。クリーオウがトイレに行くからと同伴を交替した所だ。
 クリーオウが戻ったら、眠っていた間の議事録を見せてもらってくれ」
「助かるわ」
クリーオウが自分に嘘を吐く事はまず無いだろう。
なら、彼女の見せる議事録も確実な情報と見て良い。
「ところで少し話が有るのだが、良いだろうか」
「話……?」
「クエロが持っていた弾丸についてだ」
(……何か気づかれたの?)
クエロはベッドの脇に置いていた贖罪者マグナスと高位咒式弾が無い事に気づいた。
(まずい事には気づかれてないと良いのだけれど……)
内心で少し警戒しながら続きを待つ。

495疑惑のあやとり(2/8) ◆eUaeu3dols:2005/08/03(水) 00:35:02 ID:ASvCsZpo
「あの弾丸を借りて、少し調べさせてもらったのだが……」
サラがカーテンを開けて姿を見せる。
予想通り、その左手には4発の高位咒式弾が乗っている。
右手に持っている贖罪者マグナスも予想通りだ。予想外だったのは束ね持っている……
(断罪者ヨルガ!?)
――の、柄だけだ。どういうわけか刀身が無くなっていた。
「昼前の別行動で拾った、この刀砕けた剣に付いている弾倉にもピッタリと合うようだ。
 クエロが拾った魔杖剣とやらの別種だろう。
 それらを調べて仕組みを解明してみた所……私なら、この剣で弾丸を使う事が出来そうだ」
クエロはサラが何を言おうとしているかに気づいた。
「そういうわけで、弾丸を分けてもらえるだろうか。
 クエロもこの剣で弾丸を使えるなら話は別だが」

(……まずは慎重に行こうかしら)
下手な返答をすれば疑われる危険が出てくる。
「解明したって……異世界のアイテムなんでしょう? 本当に使えるの?」
如何にも驚いたという表情を浮かべ、返事を返す前に逆に質問を投げかけた。
魔杖剣の仕組みを知識も無く理解出来ているはずがない。
その問いに対し、サラは淡々と答えを返す。
「問題無い。もちろん本来の使い方は出来ないだろう。
 剣に仕込まれた術式とでもいう物を発動させる部分は遂に解明出来なかった」
(そう、そこは判っていないのね)
本来の用途で魔杖剣を使う為には咒式を使いこなす必要がある。
つまり、『咒式を知らない素人には使えない』のだ。
クエロは『魔杖剣と弾丸は知らない物で、説明書が有ったから使えた』と説明した。
今更明かせば、経歴に隠し事をしていたという傷が付いてしまう。
つまり、サラに咒式をどうやって発動させるかに気づかれてはまずいのだ。
「もっとも、逆に言えばそれ以外の機能は理解した。後はフィーリングだ。
 本来の術式の代わりに、わたしの魔術を流し込んでその機能の恩恵を受ける。
増幅の要となる刀身が失われているのは痛いが、
それでもこの刃無き剣と特殊な弾丸から得られるメリットは十分にすぎる」

496疑惑のあやとり(3/8) ◆eUaeu3dols:2005/08/03(水) 00:35:49 ID:ASvCsZpo
サラは弾丸を使える。
もしクエロが弾丸を使えないならば、それを渡さない理由が無い。
「それで、クエロの方はどうなのだろう」
「……ええ、私の方も弾丸を使えるわ」
疑念を抱かれる危険が有っても、そう答えるしか他に無い。
「昼過ぎの時は疲れていて詳しい説明をし忘れてしまったけれど、
 付いていた説明書にその使い方も書いて有ったわ。
残念ながらその説明書は落としてしまったけれど」
サラなら既にクエロの荷物を調べる位はしているだろう。
もしかすると、汚れていた上着を脱がせたのも身体検査の意味が有ったのかもしれない。
そうなると説明書は落とした事にしておくべきだ。
「なるほど。
 詳細な説明書付きで対となる支給品に出会えた事は運が良いといえるだろう。
 しかし、そうすると弾丸を4発とも頂く事は出来ないな。
 ……半分の2発だけ頂いて良いだろうか?
 クエロは元々戦い向きではないのだろうし、今はその様子だからな」
否……と答える事は出来ない。
クエロはあまり強くないように装っているのだし、
ゼルガディスを殺せる程の力は無いと思われている方が良い。
「良いわ、うまく役立ててね」
クエロはサラの手から2発の咒式弾を取り返し、残り2発をそこに残した。

(それにしても、つくづく化け物揃いね。この島は)
サラはその科学知識と己の世界の魔術で高位咒式弾を使える状態を手にした。
それはつまり、もしも彼女と対立する事が有った時に、
魔杖剣による高位咒式が決定打にならない可能性が出てきたという事だ。
下手な手は打てない。
もっとも、逆に味方としてこれほど心強い者もそう居ない。
(せいぜい利用させてもらうわ)
そう考え、クエロはサラとの正面衝突を避けるように思考を組み立て始めた。
――全て、サラの目論見通りに。

497疑惑のあやとり(4/8) ◆eUaeu3dols:2005/08/03(水) 00:36:39 ID:ASvCsZpo
(どうやらうまく行ったようだ)
クエロの魔杖剣と弾丸の関係に気づいてなかったフリをする事で、疑われてないと思わせる。
更に、弾丸を自分も使えると主張すると共に弾丸の半分を奪う事で、
自分達を裏切る事に大きな危険性を想像させる。
自分の切り札を相手も同じ数だけ使えるかもしれない。
冷静で慎重な人間ならば、そんな相手に正面衝突を挑む事は無いし、
もし衝突するとしても真っ先に排除対象として選ぶだろう。
だが、『誰が誰を狙う』事が予想される奇襲など不意打ちにはならない。
サラが仕掛けたのは疑惑で編んだ守りの網だ。
サラが確実に、本当に咒式弾を使えるかどうかは関係ない。
人を疑う事が出来る人間には『かもしれない』という疑惑だけで十分なのだ。
大胆なハッタリはサラのもっとも得意とする所だった。

  * * *

「あ、クエロ、起きたんだ!」
クリーオウが保健室に入ってくる。続いてそれに付き添って空目も。
空目は無表情なまま、すぐに横を向いた。
「どうしたの……ああ、そういえばそうだったわね」
開かれたカーテンの向こうに見えるクエロの姿は、寝る前の下着姿のままである。
実に目の保養になる姿だった。
もっとも、この場で唯一の男性である空目にそういった感想は期待できないのだが。
「私の服はどこ?」
「今から取って来よう。ひとまずはこれを着たまえ」
サラはどこから見つけてきたのかワイシャツを差し出して言った。
「裸ワイシャツで悩殺度アップだ」
「………………」

結局、一度カーテンを閉めて姿を隠して、服を取ってきてもらった。

498疑惑のあやとり(5/8) ◆eUaeu3dols:2005/08/03(水) 00:38:40 ID:ASvCsZpo
「それじゃ、今はせつらもピロテースも居ないの?」
「うん。せつらは洗浄が済んだワイヤーを装備して地下湖の調査に向かったわ。
 ピロテースは城周辺の調査に行ってて、そろそろ帰って来ると思う」
「『実験』が終わったのはさっきだからな。ワイヤーの血が落ちる方が早かった」
サラが補足する。
続けて宣言した。
「そしてその議事録にある予定通り、わたしもしばらく寝させてもらう。
 クエロ、隣のベッドを使って良いだろうか?」
「ええ、私は構わないわ」
隣で寝るとなれば、すぐ間近に無防備な姿を晒す事になる。
クエロは内心で少し意外に感じたが、すぐに思い直した。
自分の状況は多少悪くなったように思えるが、疑われる要素は見せていないはずだ。
別に奇妙な事ではない。
「では、わたしは寝よう。
 せつらが使わなくなった銅線で簡単な警報を仕掛けておいたが、
もしピロテースやせつら以外の誰かが来る様だったらすぐに起こしてくれ。
これでも寝起きは良い方だ」
「任せて。
 せつらから銃ももらったし、何かあっても少しくらい時間を稼いでみせるから!」
クリーオウが銃を見せて言う。
慢心している様子は無い。
銃を得た所で、この殺人ゲームの中で安心を得る程の寄る辺にはならない。
それを確認して、皆は頷いた。
「頼りにしているわ」
クエロがそう言うと、クリーオウは少し嬉しそうに笑った。

(さて、他にやるべき事は寝る事だけか)
やれる事は色々有ったが、やれるだけはやっただろう。
断罪者ヨルガの刀身は、如何なる処理を経たのかピンク色の肉塊に変わっていた。
かつてサラが作ろうとしたとある魔法生物を欠片だけ作り出した物だ。
刻印解除か何かの役に立つ……かもしれないし、全く立たないかもしれない。
というより、刀身よりは可能性が高いだけできっと役には立たないだろう。

499疑惑のあやとり(6/8) ◆eUaeu3dols:2005/08/03(水) 00:39:54 ID:ASvCsZpo
せつらの使わなくなった装備は、拳銃はクリーオウに融通し、
銅線は簡単な警報装置の材料にした。
城に行ったら城に仕掛ければ良い。
……城に電源が有るかは判らないが。

そしてクエロに対する対策は、この最後の添い寝作戦を持って完了する。
そこまで考えた所で、ふと改良案を思いつきクエロに声を掛けた。
「では、隣で寝させてもらう。
 ところで、わたしは同じベッドで仲良く寝ても良いのだがどうだろうか?」
「私はそういう趣味は無いわ」
すげなく断られた。
「……残念だ」
大人しく眠る事にする。
クエロが無防備な自分に危害を加える事はまず有り得ない。
この状況ではサラが危害を受ければクエロ以外に疑われる者が居ないのだし、
クエロにとってこのチームはとても価値のある事は間違いないからだ。
(だから、今は眠る。そして――)
サラすやすやと寝息を立てていった。

その無防備な様子を見ながらクエロは考えこむ。
彼女、サラに関する情報を纏め直す。
(私はまだサラに疑われていない。
 そして、サラは強い力と高い知性を持っており、利用する価値は高い)
何度確認してもその点は同じだ。
(サラは死体を使い捨てられる合理的思考を持つが、今の所は敵では無い。
 それどころか信用した相手にはこうやって無防備な姿も見せる。だけど……)
クエロはサラの目的が読めないでいた。
クリーオウ、ピロテースやゼルガディスなどと違い、人捜しに懸命になる様子は無い。
参加者のダナティアという女性は仲間らしいが、合流に躍起になってはいない。
これは秋せつらにも言えるが、彼にはまだ捜し屋という仕事意識が存在する。
空目の厭世的な感とはかなり近い気がする。
だが、彼ほど流れに身を委ねる性格ではないようだ。

500疑惑のあやとり(7-8/8) ◆eUaeu3dols:2005/08/03(水) 00:42:04 ID:ASvCsZpo
他の仲間をダシにすれば利用は出来るだろう。
自分を信用もしているようだ。
にも関わらず目的の読めない事に、少々の不気味さを感じながらも……
「……まあいいわ。おやすみなさい、サラ」
(少なくとも今は利用できる)
そう結論を出すと、クエロもまた眠りに就いた。


【D-2/学校1階・保健室/1日目・15:00】
【六人の反抗者】
>共通行動
・18時に城地下に集合
・ピロテースは城周辺の森に調査に向かっている。
・せつらは地下湖とその辺の地上部分に調査に向かっている。
・オーフェン、リナ、アシュラムを探す
・古泉→長門(『去年の雪山合宿のあの人の話』)と
悠二→シャナ(『港のC-8に行った』)の伝言を、当人に会ったら伝える
>アイテムの変化
強臓式拳銃『魔弾の射手』:せつら→クリーオウ
鋼線(20メートル)   :せつら→簡単な警報装置になった。音は保健室で鳴る。
ブギーポップのワイヤー :バケツの中→せつら
断罪者ヨルガの砕けた刀身:変な肉塊になった。

【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]: 健康
[装備]: 強臓式拳銃『魔弾の射手』
[道具]: 支給品一式(地下ルートが書かれた地図。ペットボトル残り1と1/3。パンが少し減っている)。
    缶詰の食料(IAI製8個・中身不明)。議事録
[思考]: みんなと協力して脱出する。オーフェンに会いたい
[行動]: 空目と共に起きておき、誰か来たら警戒。

【空目恭一】
[状態]: 健康。感染。
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式。《地獄天使号》の入ったデイパック(出た途端に大暴れ)
[思考]: 刻印の解除。生存し、脱出する。
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。
     クエロによるゼルガディス殺害をほぼ確信。
[行動]: クリーオウと共に起きておき、誰か来たら警戒。

【クエロ・ラディーン】
[状態]: 疲労により再度睡眠中。
[装備]: 毛布。魔杖剣<贖罪者マグナス>
[道具]: 支給品一式、高位咒式弾(残り4発)
[思考]: 集団を形成して、出来るだけ信頼を得る。
     魔杖剣<内なるナリシア>を探す→後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)
[備考]: サラの目的に疑問を抱く。信頼は得ていると考えている。

【サラ・バーリン】
[状態]: 睡眠中。健康。感染。
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子、断罪者ヨルガ(柄のみ)
[道具]: 支給品二式(地下ルートが書かれた地図)、変な肉塊
    『AM3:00にG-8』と書かれた紙と鍵、危険人物がメモされた紙。刻印に関する実験結果のメモ
[思考]: 刻印の解除方法を捜す。まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。クエロを警戒。

せつらとピロテースは別行動中です。

501Let's begin a fake farce(1/8)  ◆l8jfhXC/BA:2005/08/03(水) 15:18:48 ID:nPGFhp1g
「……今にも降ってきそうだよね。放送で言ってたのはやっぱり雨のことなのかな」
「おそらくね。どれくらいの強さでどれくらいの時間降り続けるかはわからないけど」
 窓の外は、先程までの青空が嘘だったかのような灰色に包まれていた。
 この曇天だけで終わってくれればいいのだが、あの性格の悪そうな主催者達がそんな甘いもので終わらせることはないだろう。
「わたしたちはここにいるからいいけど……ピロテースは大丈夫かな。
雨の中戦ったりして疲れると、風邪引いちゃうかもしれないし」
「彼女は大丈夫だよ。濡れることは承知で行っただろうし、己の限界はちゃんとわきまえている人だと思う」
 せつらは先程の会議で決まった通り、しばしの休息を取っていた。
 適当にパンをかじって腹を満たしながら、同じく待機中のクリーオウの雑談に付き合うことにした。
 不安そうな顔で仲間の心配をするクリーオウは、しかし一度目の会議のときよりは明るさを取り戻している気がした。
 本来はもう少し快活な少女なのだろうが、この状況では仕方がないだろう。
「そういえば、せつらの知り合いは捜さなくていいの?」
「ん? ああ、大丈夫。あいつらは簡単には死なないから。ほっといていいよ」
「そうなの……?」
 茫洋とした表情を崩さぬまま言った。クリーオウはあまり納得がいっていない不思議そうな顔をしていたが。
 希望的観測ではなく、真実だ。
 メフィストも屍も、このような特殊な状況下には慣れているし、武器がなくとも十分戦える。
 その気になれば、大半の参加者を殺害できる人間だ。奇人や化け物が多いここでも、彼らクラスの者はそうはいないはずだ。
 だが同時に、主催者の言うとおりに動くような人間でもない。
 メフィストはここから脱出する術を考えているだろうし、屍はゲームに乗っている馬鹿を容赦なく消し去っている最中だろう。
 むしろ合流せずに別行動のまま島内にちらばり、このゲームを三方から破壊した方がいい。

502Let's begin a fake farce(2/8)  ◆l8jfhXC/BA:2005/08/03(水) 15:20:04 ID:nPGFhp1g
(まぁ、情報も増えるし会えることに越したことはないけれど……)
 どちらかというと、彼らに匹敵する美姫の存在の方が気になっていた。彼女は危険すぎる。
 おそらく名簿を見てメフィストが対処方法を練っているところだろうが、彼一人ではややつらいかもしれない。
 昼の間に居場所が見つかれば楽なのだが──護衛を一人くらいはつくっているだろう。厄介だ。
「……そっか。信頼してるんだね、その人達のこと」
「そうとも言うね」
 ──信頼って言うよりは絶対的な事実って言った方が近いけれど──そう言葉を付け加えようとして、
「…………っ!」
 ベッドが軋む音と荒い息に混じった呻き声が耳に入り、せつらとクリーオウは部屋の奥へと目を向けた。
 ──身体を起こし、絶望と憎悪を入り交じらせた瞳で虚空を見るクエロがそこにいた。



「……! クエロ、大丈夫!?」
「……ええ、大丈夫。夢見が悪かっただけだから」
 心配してこちらに駆け寄ってきたクリーオウに向けて、クエロは歪んだ笑みを見せた。
 もう少しまともな表情をつくりだすこともできたが、ここは無理に演技をしない方がいいだろう。
(最悪の寝覚めね……)
 ガユスと鉢合わせしたせいか、あの過去の事件のことを夢に見た。
 ──師と仲間を裏切り、そして自分の唯一の望みをも、彼が断ち切った瞬間。
 あの瞬間にすべてが壊れ、すべてが絶望と憎悪へと変わった。
(こんなところで二人を、特にガユスを楽に殺させるわけにはいかない。
彼らのために無惨に死んでいった者達と……私自身のためにも)
 そう心の中で改めて決意し、溢れそうな激情を無理矢理抑えつけた。いつまでも夢に動揺している余裕はない。
「……少し、つらいものを見てしまっただけ。もう落ち着いたわ。心配してくれてありがとう」
 不安そうにこちらを見るクリーオウに対して微笑みをつくった時には、もう平常心に戻っていた。
「身体の方は大丈夫ですか? 精霊力が弱まっている、とピロテースさんが言ってましたけど」
「まだ少し疲れが残っているみたい。激しい動きは多分無理ね。……他の三人は?」
 部屋にはクリーオウとせつらがいるのみ。
 どうやら寝ている間に会議が終わり、皆次の行動に移ったようだ。

503Let's begin a fake farce(3/8)  ◆l8jfhXC/BA:2005/08/03(水) 15:21:07 ID:nPGFhp1g
(少しまずいわね。早めに状況を確認しないと)
 自分がどの程度疑われているのか。その情報を早く得て対策を取らなければまずい。
 ……別行動を取った途端に相手が死に、怪しい──あの弾丸が入りそうな外見をした剣を持って帰ってきた。
 疑念がまったく生じなかったということはないだろう。
 このようなゲームの中で、証拠もなしに相手の話を鵜呑みにすることは(クリーオウのような人間は別だが)ありえない。
 態度や行動によりいっそうの注意を払わねばなるまい。
「恭一とサラは、拾ってきた剣とクエロの剣と弾丸を理科室で調べてる。ピロテースは城辺りの森に行ったよ。
これが話した内容を書いた紙で…………あ、せつら、ちょっと」
 クリーオウの言葉が止まったことに疑問を抱き──今更になって、今の自分の状況に気づく。
「話は後で聞くわ。……せつら、服を着るから、少しの間後ろを向いていてくれると嬉しいのだけど」
 下着しか着けていない胸に毛布を押しつけ、少し顔を赤らめ──させてせつらに言った。

「なら、私はあなたがいない間ここを守ればいいのね」
「はい。休息もかねて。襲撃された場合は無理をせずにみんなで逃げてください」
 服を着、議事録を読み終え地図にメモもした後、せつらに確認を取った。
 紙には議論された内容が簡潔に、しかし要点を欠かさず丁寧に書かれていた。
 嘘は書かれていないだろう。何らかの理由で書く必要があったとしても、すぐクリーオウにばれるので無理だ。
 しかし、何か重要な点が“書かれていない”可能性はある。行動の裏の意味や──ゼルガディスの件について。
「禁止エリアに地下、そして謎のメモ……ね。捜し人は見つからないけれど、この世界に関する手がかりは結構順調に集まってるのね」
「だいぶ楽になりました。特に地下は何かあったときの逃走経路として最適だ。武器が手に入ったことも心強い」
 部屋の隅にあるバケツに目線を移しながらせつらが言った。確かにこれがあれば彼はかなり楽になる。

504Let's begin a fake farce(4/8)  ◆l8jfhXC/BA:2005/08/03(水) 15:22:39 ID:nPGFhp1g
(……私の立場は楽ではなさそうだけれどね)
 胸中で呟く。
 消費された一つの弾丸。議事録の内容から推測される行動。各々の思考と性格。
 それらを材料を元に状況と自らの立場を推測。既に結論は出ていた。
 ────少なくとも、空目とサラにはかなり疑われている。
(律儀に五つすべてを見せたのがまずかったわね。今更悔いてもしょうがないけど)
 支給品の確認時に弾丸をすべて見せたことを後悔する。ゼルガディスに無理に調べられる可能性を危惧しての行動だったが、失敗だった。
 現在ポケットに残っている弾丸はゼロ。一つは消費し、残りの四つは理科室に持って行かれている。
 弾丸をポケットから回収した際に、五つあったはずの弾丸が一つ無くなっていることが二人に気づかれたことは間違いない。
(ここから二人が推測するであろう事象は二つ。偶然落としたか、もしくは剣と合わせて効果を発揮させたか)
 前者は厳しい。
 ──偶然剣を見つけ、偶然それが弾丸と合う剣だった。偶然仇敵がやってきてゼルガディスを殺害し、逃亡する際偶然弾丸を落とした。
 最後の一つと結果以外は本当に事実で偶然なのだが──第三者から見れば怪しいことこの上ない。
 では、後者の場合。
 逃亡手段に使ったとするならば、疑われないだろうか。
 あの剣を偶然見つけ、マニュアルを読む。逃亡手段にすることができる効果を持っていると知る。
 その後偶然仇敵に遭ってしまい、逃げる際にそのマニュアルに記されていた通りに、何らかの逃亡できる効果を発動させた。
(……だめ。事の顛末を説明した時に、そのことをあえて言わなかった理由がない)
 もし言っていたとしても、問題を棚上げするだけだ。
 今はいいが今後窮地に陥り逃亡を強いられた場合、その効果を使えないことが知られると非常にまずい。
 こんなゲームの最中だ。窮地に立たされない確率の方が低い。危険すぎる嘘だ。
 ならばやはり、疑われることは避けられない。

505Let's begin a fake farce(5/8)  ◆l8jfhXC/BA:2005/08/03(水) 15:24:35 ID:nPGFhp1g
(あの剣を偶然見つけ、マニュアルを読む。
自分に支給された弾丸をこの剣に装填することで何らかの現象を起こし──人間を殺害することが出来ると知る。
邪魔者を消せる好機と判断し、不意を討つ。ゼルガディスの反撃を受け精神を摩耗させられるも、なんとか彼を殺害。
──襲撃者の二人は、殺害する前に出会っていた、友好的な赤の他人──もしくは敵意を持たれていない元の世界の知り合い。
“相手を騙し油断させて寝首を掻く”スタイルと言ってしまえば、とぼけられても信用はできない。
……やっぱり、こちらの方が説得力があるわね)
 あの二人ならば、状況証拠からこのような結論に容易に達することができるだろう。
 ゼルガディスのこちらへの疑念は、その素振りから観察眼のある第三者にも見て取れるものだった。動機は十分にある。
 もちろん“確定”にまでには至っていないだろう。情報が少ない。
 だが、相当疑われていることは確かだ。
(一度疑われると完全にそれを払拭するのは難しい。……どう足掻く?)
 現時点では“マニュアルがあった”としか言っていないことが唯一の救いか。
 何をするために弾丸を消費するのか、また、具体的にどういった効果が出るのか──そのことはまだ言っていない。
 “弾丸を消費して咒式を使用可能にする”という真実はまだ隠されている。
 確かに自分はある武器を媒体に“咒式”というものが扱えるということを既に言ったが、それと魔杖剣を繋ぐ線はまだない。
(マニュアルの内容について捏造しなければならない。何ができるのか──何を使ってもいいのかを考えなければいけない。
……雷撃を扱えるというのは隠さないとだめ。
ゼルガディスの死体の切り口を調べれば、強大な熱量で一気に切り裂かれたことがわかってしまう。
地底湖とその周辺を探索に行く予定のせつらが、彼の死体を見つける可能性は高い。
さらに、電磁系以外の咒式は使えない。
高位咒弾は下位互換ができない。今の状況を考慮すれば、電磁系以外の高位咒式は脳を焼き切ってしまう事が容易に想像できる。
残るのは、ただ一つ)

506Let's begin a fake farce(6/8)  ◆l8jfhXC/BA:2005/08/03(水) 15:26:42 ID:nPGFhp1g
 ──電磁電波系第七階位<雷環反鏡絶極帝陣>(アッシ・モデス)。
 超磁場とプラズマを利用した究極の防御咒式。
 能力が制限されナリシアがない今では、本来の展開速度と効果は期待できないが──それでも大抵の攻撃は防ぐことが出来る強力なものだ。
 攻撃咒式がすべて使えないのは痛いが、この場合はどうしようもない。
(そういえば、議事録には“クエロの持ってきた剣と同じタイプの剣の柄を拾った”ともあったわね。
……ナリシアでないことを願うけれど)
 魔杖剣の核は<法珠>と呼ばれる演算機関にあたる部分だが、刃の部分もただ殺傷武器としての機能のみを担当しているわけではない。
 咒印と組成式を描き、咒式を増幅させるために不可欠なものだ。折れれば使い物にならない。
(後は……脳に多大な負担を与えることと発動までに時間がかかることを伝えておく。
そして、魔力のようなものを持っていなければ使えないことにすれば、いける)
 前者を配慮すればクリーオウや空目には使わせないだろうし、後者でせつらも消える。
 ピロテースやサラも、小回りの良さを潰して防御結界に時間を割くよりも、魔術の使用を優先すべきなのは明確だ。
 やることがないのは自分だけだ。
(問題はあの二人自体をどうやり過ごすか。疑念を持っていることは当然隠してくる。
……ならばこちらも、それに気づかれないふりをし続けなければならない。今のところ、彼らを敵に回す利点はない)
 目標はあくまで脱出。
 そのための有能な人材を手放し、敵対しても何一ついいことはない。
(疑いは強い。それでも、まだこちらを利用する価値はあるでしょうね。
──武器を取ってしまえば反抗はできない。そして、今までの行動からして積極的にこのグループが不利になることはしない。
おそらくそう予想されている)
 事実だ。
 自分は彼らを殺すためにここにいるのではない。
 彼らを利用し脱出する──もしくは円滑に殺戮を行う下準備のためだ。
 そして彼らは、こちらに利用されているのを逆手にとって利用してくることだろう。彼らの手中に完全に収められている。
 ──上等だ。

507Let's begin a fake farce(7/8)  ◆l8jfhXC/BA:2005/08/03(水) 15:29:34 ID:0wNbWEVw
(素直に魔杖剣と弾丸を返す気はないでしょうね。何とかこちらをやりこめて、戦力を割いてくることが予想される。
二人──特にサラは手強い。あの無表情からは感情がほとんど読み取れない)
 相当に厄介な相手だ。
 どこで妥協し、どこで踏み込むか。難しいところだ。
(それでもやるしかない。もう舞台の上にあがってしまっているのだから。
劇を上から眺めることが出来る<処刑人>ではなく、物語を自ら紡ぐ者として)
 ならば真実に気づいていない道化を演じ、手のひらの上で踊りきってやろう。
 演技なら得意分野だ。詐術は言うまでもなく。滑稽に騙されてやることも容易だ。
(こんなところで止まっている暇はない。あの二人をこの手で殺すまでは、行動に支障を来されるわけにはいかない)
 くすぶる憎悪を胸に感じながら、胸中で呟く。
 そして、覚悟を決めた。

 ──さぁ、道化芝居を始めましょう。

508Let's begin a fake farce(8/8)  ◆l8jfhXC/BA:2005/08/03(水) 15:30:41 ID:0wNbWEVw
【D-2/学校1階・保健室/1日目・14:30(雨が降り出す直前)】
【六人の反抗者・待機組】
【クエロ・ラディーン】
[状態]: 疲れが残っている。空目とサラに疑われていることを確信
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式(地下ルートが書かれた地図・パン6食分・水2000ml)、議事録
[思考]: 疑われたことに気づいていないふりをする。
 ここで待機。せつらが戻ってきた後に城地下へ
 集団を形成して、出来るだけ信頼を得る。
 魔杖剣<内なるナリシア>を捜し、後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)

【秋せつら】
[状態]: 健康。クエロを少し警戒
[装備]: 強臓式拳銃『魔弾の射手』。鋼線(20メートル)
[道具]: 支給品一式(地下ルートが書かれた地図・パン5食分・水1700ml)
[思考]: 休息。サラの実験が終ったら地底湖と商店街周辺を調査、ゼルガディスの死体を探す。
 ピロテースをアシュラムに会わせる。刻印解除に関係する人物をサラに会わせる。
 依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]: 刻印の機能を知る。

【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]: 健康
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式(地下ルートが書かれた地図・パン4食分・水1000ml)
 缶詰の食料(IAI製8個・中身不明)。
[思考]: ここで待機。せつらが戻ってきた後に城地下へ
 みんなと協力して脱出する。オーフェンに会いたい

※保健室の隅にブギーポップのワイヤーが入った洗浄液入りバケツがあります(血はもうほぼ取れてる)

509天国に一番近い島(1/7) ◆5KqBC89beU:2005/08/20(土) 18:45:48 ID:eLGqWuUQ
 第二回放送の少し前、B-7の地下通路では、二人の男女が相談をしていた。
 EDの指さした地図の一点を見つめ、麗芳が溜息をつく。
「G-8の櫓? なんでまた、そんな逃げ場の限られた僻地を拠点にしたいのよ」
 いぶかしげな様子の麗芳を見て、EDの口元が、笑みの形に弧を描く。
「だからこそ、好都合なのですよ」
「ごめん、判りやすく簡単に説明して」
「そうですね……主催者側が禁止エリアを設置している理由は、何だと思いますか?」
「行動範囲を制限したり、人の流れを作ったりして、参加者たちが逃げ隠れしにくい
 状況を作りたいから、かな」
「僕も同意見です。だから、今、この小さな半島を封鎖しても、あまり効果的では
 ないと思われます。仲間を探す場合も、誰かを殺しに行く場合も、参加者たちは
 半島から離れたがるはずですから。隠れ場所としては良かったのですが、H-6が
 禁止エリアと化したために、逃走経路の選択肢が減り、立地条件が悪化しました。
 もはや、半島地区全域が、ほぼ無人になっている可能性さえあります」
「ああ、そうか。すごく不便だからこそ、安心して休憩できそうだ、ってことなのね。
 半島が本当に過疎地なら、禁止エリアに囲まれる可能性だって低いでしょうし。
 でも、同じように考えた人がいたらどうするの? 人の数が減るまで隠れる作戦で、
 近づく相手だけ襲うような、性格の悪い奴がいるかもよ? ……それも承知の上?」
「ええ。危険は伴いますが、賭けてみるだけの価値は充分にあります。そもそも、
 完璧に安全な場所など存在しませんし、行動しなければ状況は変えられません」
「ここまで念入りに相談したのに、次の放送で半島が封鎖されちゃったら間抜けよね」
「その時は、E-7の森を拠点にしましょう。海と湖で逃走経路が限定されている上に、
 湖と道が近いので、周囲を通過する参加者が多く、隠れ場所としては危険な部類に
 入りますが――誰も隠れたがらなそうな場所だからこそ、隠れられると思います。
 いったん隠れてしまえば、僕らの方が先に、他の参加者を発見できるでしょう。
 ただし、能動的な殺人者に会う確率も高くなります。注意しなければなりません。
 E-7も禁止エリアになった場合は、このまま現在地を拠点にしておきましょうか」
「なるほどね。……ちょっと調べたい場所があるんだけど、行ってきていいかな?」
 麗芳の問いに対して、EDは頷く。彼の手が、再び地図上のG-8を指さした。
「次の放送が終わったら単独行動しましょう。ここを拠点にして、仲間を探すんです。
 そして、第三回の放送が始まる頃に、この場所で合流したいと思います」

510天国に一番近い島(2/7) ◆5KqBC89beU:2005/08/20(土) 18:46:49 ID:eLGqWuUQ
 曇り空の下、仮面の男が、地図と方位磁石を持って歩いている。
(やれやれ、さすがに疲れた)
 EDは今、H-4の洞窟から外に出て移動している。麗芳と別れた後、彼は地下通路を
通ってここまで来た。E-6が禁止エリアになるよりも早く通過できたのは、彼が必死で
全力疾走してきたからだ。E-7からE-5にかけての部分は、都合良く下り坂だった。
けれど、そこから城の地下までは上り坂だったので、楽ができたとは言い難い。
 汗をかいた分だけ、かなり水を消費したが、これは不可抗力だろう。
 城を探索するつもりは今のところなかった。人が集まる可能性が高く、下手をすると
何人もの参加者が殺し合いをしている最中かもしれない、と推測して、素通りした。
 EDは半島付近を、麗芳は島の東端を、それぞれ探索しながらG-8に行く予定だ。
(探している誰かか、あるいは“霧間凪”に会えるといいが)
 “霧間凪”。名簿に記された、EDが関心をもつ名前。それは、人の名であるという
感覚と共に、とある印象を、見る者に与える言葉でもある。
(“霧間凪”――“霧の中の揺るがぬ大気”。“霧の中のひとつの真実”と、何らかの
 縁がある人物なのかもしれない)
 “霧の中のひとつの真実”とは、界面干渉学で扱われる研究対象の一つだった。
界面干渉学は、一言で表すなら、異世界から紛れ込んでくる漂流物を研究する学問だ。
異世界の書物の中には、“霧の中のひとつの真実”と書かれた物もあって、それらに
EDは興味を持っている。要するに、EDは界面干渉学の研究者でもあるのだ。
 胡散臭くて怪しげな研究分野だが、彼らしいといえば彼らしいのかもしれない。
 異世界で造られた銃器も、界面干渉学の研究対象だ。業界用語ではピストルアームと
呼ばれている。研究の過程で、EDはピストルアームの扱い方をいくらか覚えていた。
 無論、彼の手元に銃器がない現状では、まったく役に立たない技能だが。

511天国に一番近い島(3/7) ◆5KqBC89beU:2005/08/20(土) 18:48:45 ID:eLGqWuUQ
 どこからか雷鳴が聞こえてきた。天を覆う暗雲を見上げ、戦地調停士は思案する。
(この天候が、放送で言っていた『変化』なのか?)
 今までに得た情報から、有り得る、と彼は判断した。もうすぐ雨が降るだろう。
(雨の中、体力を余計に消耗してまで、探索を続行するべきかどうか……)
 考え事をしながらも、彼は警戒を怠らない。熟考した末に、EDは決断した。
(まず櫓の周辺を調べて、雨が降りだした時点で探索は中断しておくか)
 確かに、索敵は済ませておくべきだろうが、それで自滅しては本末転倒だ。
 地図と方位磁石をしまい、EDは崖に身を寄せて立った。崖の陰から顔を出し、
草原の様子をうかがう。奇妙な建築物らしき塊がある。地図に載っていない物体だ。
だが、その近くには、変な小屋などよりも気になる存在が倒れていた。
(動かない……あれは死体のようだな)
 細心の注意を払い、もう一度だけ周囲を見回し、EDは少しだけ死体に接近する。
 心当たりのある髪型や背格好などを確認し、仮面の下の唇から、表情が消えた。
 屍の周囲では、草の一部が焦げている。不自然な痕跡が、戦闘行為を連想させた。
 草原に、他の誰かの姿はない。倒れた犠牲者の荷物もない。風の音しか聞こえない。
 しばし、何も起きない時間が過ぎる。EDは動かない。遺体が動きだすこともない。
 やがてEDは、北東の森へ足を向けた。あえて、もう死体には近寄らない。
 殺人者が戻ってくる可能性があった。死体そのものが罠である可能性もあった。
 こつこつと音をたてて、EDの指が仮面を叩く。
(あの死体が、袁鳳月だったとしたら……)
 麗芳は300年以上の歳月を過ごしてきたそうだが、精神年齢は外見通りだった。
そして彼女は、鳳月との関係を「仲のいい友達よ」とだけ言っていたが……。
(恋仲ではなかったろう。けれど、いずれ、そうなるかもしれない相手だったはず)
 優れた洞察力なくして、戦地調停士は務まらない。些細な手掛かりからでも、EDは
他者の心理を読む。己の味方に襲いかかる絶望の、その重さと大きさを、彼は正確に
理解していた。仮面を叩く指先が、かすかに苛立たしげな雰囲気を滲ませる。

512天国に一番近い島(4/7) ◆5KqBC89beU:2005/08/20(土) 18:49:50 ID:eLGqWuUQ
 森へ入って数分後に、EDは他の参加者と遭遇した。
「……こんにちは」
 EDの挨拶に対し、無邪気な笑顔で会釈するのは、傷だらけの強そうな巨漢だ。
 とりあえず交渉の余地はあるようだし、油断させて襲う作戦の殺人者にも見えない。
というか、こんな外見の参加者が現れたら、普通の人間は絶対に油断できまい。
 それに、表層的な部分だけを見て、安易に悪人だと断定するべきではない。殺人者に
襲われれば、争いたくなくても怪我はするし、返り血を浴びることもあるだろう。
(ここで逃走を選んでも、追われれば、おそらく逃げきれない)
 話し合い以外の対応策を、EDは思考の中から切り捨てた。
「僕の名は、エドワース・シーズワークス・マークウィッスルといいます。EDと
 呼んでください。ちなみに僕は、あなたと敵同士になりたくありません」
 EDの自己紹介を聞き、巨漢は満足げに頷いた。心の底から嬉しそうな仕草だ。
「私はハックルボーン。この島で苦しむ者たちを、一人残らず救いたいと考えている」
 とてつもなく純粋な善意が、言葉と共に放たれた。熱く激しい思いは、万人に届く。
他者の心理を読む技術に長けた者が相手ならば、なおさらだ。そして……。
「……素晴らしい。あなたのような人がいて、僕はとても嬉しく思います」
 思いは正しく伝わらない。
「参加者たちは、複数の異世界から集められているようです。中には、未知なる力の
 使い手もいると思われます。闘争を調停し、人材を集めれば、刻印を解除する方法を
 発見できるかもしれません。協力者が多ければ多いほど、成功率は上がるでしょう。
 刻印さえ無効化できれば、皆が殺し合いをする理由は、ほとんどなくなるはずです」
 ハックルボーン神父の尋常ではない信仰心を、既にEDは察知していた。
 だが、それ故にこそ、彼は見極めそこなった。
 偽善によって身勝手さを正当化したがる人間なら、EDは山ほど見て知っている。
だが、ハックルボーン神父は彼らと違う。本気で皆の幸福を願っている。強者も弱者も
善人も悪人も区別せず片っ端から救っていく、正真正銘の聖人だ。それが彼には判る。
 EDの誤算は、神父の救済手段が殺害だった、という一点に尽きる。
「つまり僕の目的は、殺し合いをやめさせることです。同盟を結成し、殺人者たちに
 対抗できる戦力を手に入れるため、今も、こうして活動しています」
 仮面の男が巨漢に言う。命令ではない。懇願でもない。対等な交渉だ。
「ハックルボーンさん。ぜひとも僕の仲間になってください」

513天国に一番近い島(5/7) ◆5KqBC89beU:2005/08/20(土) 18:50:48 ID:eLGqWuUQ
 遭遇者の申し出に、ハックルボーン神父は黙考する。今すぐ神の下へ送るよりも、
まだEDに地上で頑張ってもらった方が、きっと神は喜ばれる、という結論が出た。
 自らの手で救うまで、参加者たちには生きていてもらわねば困る、というわけだ。
 だが、ハックルボーン神父にとって、神に与えられた使命よりも優先される目的は
宗教的に有り得ない。迷える子羊たちを昇天させるために、EDと別れる必要がある。
「私は行かねばならない。こうして話している間にも、誰かが苦しんでいる」
 神父の返答からは、利己や私欲の気配が感じとれない。だから、EDは自分の判断に
疑問を抱かない。神父の情熱が狂信であると、彼は気づけない。
「行動を共にしてほしい、とは言いません。手分けして探せば、他の参加者たちと
 出会える確率も高くなるでしょう。けれど、今ここで、最低限の情報交換だけでも
 しておきたいと思います。構いませんか?」
「手短に頼む」
「では、まず僕の方から話しますので、メモの用意をお願いします」
「記憶力には自信がある」
「そうですか。では……」
 EDは要点だけを簡潔に述べる。鳳月や緑麗など、探している参加者の話もする。
草原にあった死体が鳳月ではない可能性もあったので、鳳月の特徴も説明した。
「……この四人が、僕の探している参加者です」
 EDの話を聞いて、神父は悲しげにかぶりを振った。そのうちの二人は、さっき
昇天させてきたが、彼らの仲間も、あの二人と同じ場所へ送ってやらねば可哀想だ、
という意味の仕草だ。それを見たEDは、また勘違いをして勝手に納得した。

514天国に一番近い島(6/7) ◆5KqBC89beU:2005/08/20(土) 18:51:52 ID:eLGqWuUQ
 続いて神父が、体験談を語る。時間が惜しいという理由で、大部分が省略された。
 刻印を解除する方法は知らないということ。自分の力が弱められているらしいこと。
デイパックの中から頑丈な武器が出てきたのだが、今はもう持っていないということ。
いかがわしい行為をしようとしていた男女を見つけて、たしなめたら逃げられたこと。
湖のほとりで邪悪な怪物と遭遇したので、全力で神の愛を教え、罪を償わせたこと。
その後で何人かと出会い、少し話をしたこと。城に行き、そこで襲撃されたこと。
幽霊と、幽霊に取り憑かれてしまった少女を、救おうと努力したが見失ったこと。
どうやらオーフェンという極悪人がいるらしいこと。気の短い男たちが争いを始め、
それを仲裁しようとしたら、殴られて気絶させられてしまったこと。目覚めた後は、
今度こそ皆を救済しようと決意し、他の参加者たちを探し歩いているということ。
 大雑把に説明しているため、まるで神父が穏当な人間であるかのように聞こえる。
別に、嘘をついてEDを騙そうとしている、というわけでもないのだが。
 こうして、どうにか平和的に情報交換が終わった。仮面の男が、また口を開く。
「ハックルボーンさん。また後で、僕と会ってくれますか?」
 巨漢は無言で頷いた。参加者全員を効率よく救うための手段を、神父は求めている。
EDの同盟が、無力な参加者たちを一ヶ所に集めるだけだったとしても、問題はない。
少なくとも、自分一人で探し回るよりも、参加者たちを昇天させやすくなる。
「それでは、待ち合わせをしましょう。……第四回の放送が始まる頃に、この場所で
 会う、というのはいかがでしょうか? ここが禁止エリアになった場合はこっちで、
 こっちも駄目な時はこちらで、こちらも無理ならこの辺で会う、ということで」
 地図を指さし、EDが提案する。神父は待ち合わせ場所を暗記し、首肯した。
「可能な限り、その時間までに、その場所へ行こう」
「ありがとうございます。それでは、これでお別れですね」
「無事を祈る」
「お気をつけて」
 こうして、神父とEDは、それぞれ別の方角に向かって歩き始めた。

 雨が島を濡らし始めた頃、EDは森の中で地下遺跡を発見していた。
(ここで雨宿りするか、それとも櫓に行くか)
 どちらにしろ、同じくらい危険だった。故に、EDは消耗の少ない方を選ぶ。
 地下遺跡を調べるために、デイパックの中を覗き、彼は懐中電灯を探した。

515天国に一番近い島(7/7) ◆5KqBC89beU:2005/08/20(土) 18:53:12 ID:eLGqWuUQ
【G-6/地下遺跡の出入口/1日目・14:30頃】
【エドワース・シーズワークス・マークウィッスル(ED)】
[状態]:疲労
[装備]:仮面
[道具]:支給品一式(パン5食分・水1200ml)/手描きの地下地図/飲み薬セット+α
[思考]:同盟の結成(人数が多くなるまでは分散する)/ヒースロゥ・藤花・淑芳・緑麗を探す
    /地下遺跡を調べる/鳳月らしき死体と変な小屋が気になる/麗芳のことが心配
    /ハックルボーンから聞いた情報を分析中/今後どう行動するか思考中
[備考]:「飲み薬セット+α」
    「解熱鎮痛薬」「胃薬」「花粉症の薬(抗ヒスタミン薬)」「睡眠薬」
    「ビタミン剤(マルチビタミン)」「下剤」「下痢止め」「毒薬(青酸K)」以上8つ
[行動]:第三回放送までにG-8の櫓へ移動
※地下遺跡のどこかに、迷宮へ続く大穴が開いています。


【G-5/森の中/1日目・14:30頃】
【ハックルボーン神父】
[状態]:全身に打撲・擦過傷多数、内臓と顔面に聖痕
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:万人に神の救い(誰かに殺される前に自分の手で昇天させる)を


【B-7/湖底の地下通路/1日目・11:30】
【李麗芳】
[状態]:健康
[装備]:指輪(大きくして武器にできる)、凪のスタンロッド
[道具]:支給品一式(パン4食分・水1500ml)
[思考]:淑芳・藤花・鳳月・緑麗・ヒースロゥを探す/ゲームからの脱出
[行動]:第二回放送後から単独行動開始/第三回放送までにEDと合流

516 ◆5KqBC89beU:2005/08/26(金) 02:09:05 ID:zKv2G9e2
>>509-515の【天国に一番近い島】は没にします。

517メメント続き◇fg7nWwVgUc:2005/09/02(金) 00:18:09 ID:hNdeEao2
疲弊し、負傷した体が森の中を疾駆する。
彼、ウルペンを突き動かすのはある種の慕情――ひょっとするなら愛とも呼べる類いの――であった。
彼の目前で多くのものが消えていった。
確かだと思うものすら、消えていったのだ。
自分の命すら失い、気付けばこの狂気の島。
もう、何も信じられない。確かなものなど、何もない。
そう感じたからこそ、彼自身もここで命を奪い、奪おうとしている、いや、していた。
だが、先ほどの確かな炎はどうだ!
あの、鮮明で、鮮烈な力の輝きを!!
常に絶対的な力とともにあった獣精霊、ギーアと再びまみえたあの瞬間、彼の中で確かに何かが変わった。
あの精霊ならば、絶対ではないのか?
確かな存在として彼とともにある事ができるのではないか?

しかし…またこうも考える。
自分の思いなど、文字どおり精霊は歯牙にもかけないかもしれない。
深紅の炎を纏ったかぎ爪が己の胴を両断する様を思い描く。
(それもまたいい)
悔いはない。美しい力の前にひれ伏すのなら、それは喜ばしい事ではないか。
実際、彼はミズーに倒された事に関して今も不思議と、憎しみを感じてはいない。
華々しくもなく、互いに疲弊しあった人間同士――そう、彼女は獣ではなかった――の戦い。
それでも彼女の力は美しかった。その時は何故だかわからなかったが。
今ならそれが分かる。
意志の力。
意識を無意識に喰わせた獣の瞬間ではなく、自分で決意し、戦い、選びとって進んでいこうとする力。
(俺にも――あの力が手に入るのだろうか)
姉妹を愛した精霊に、姉妹が愛した精霊に、触れる事ができたなら。
妻を失い、帝都も失った世界を再び愛する事ができるだろうか?

「それ」は動揺していた。「それ」に感情などはないと、「それ」自身も知っていたがそれでも。
「それ」の望みを根本から無為にしかねないイレギュラーが発生したのだ。
イレギュラー、それは排除しなくてはならない。
「それ」は静かに動き出す…

518メメント続き◇fg7nWwVgUc:2005/09/02(金) 00:19:03 ID:hNdeEao2
はた、と意識が現実に戻り、足を止める。
何故か、ここが目的地であると感じたのだ。
禁止区域との境目のほど近く。
視線が自然と境界上の大木の手前、そこの虚空に定まる。
そこにひとひらの炎が見えた。
と、思った瞬間それは一気に増大し、紅蓮の炎を纏った獅子の姿を形成した。
まだ距離は遠いが炎熱が皮膚を焦す錯覚に襲われる。
「獣精霊!」
叫び、彼は一息に駆け寄った。
足を踏み出す毎に気温が上がるのが分かる。
あと数歩。数歩で致命的な熱波の圏内に入る。
その数歩のうちに自分は死ぬだろう。精霊に触れる事もなく。
いや、炎そのものが精霊であるとするなら自分はあの獅子に抱かれて死ぬのかもしれない。
一歩。また一歩。
ふと彼は違和感を覚えた。
あれほどまで激しかった熱気が…消えている?
足を止めて見上げると、獣の深紅の瞳がそこにあった。
そっと右腕をのばす。その時
『若き獅子、そしてあらたな獅子の子よ、お前を認めよう』
脳裏に低く振動するような声。
直感的に、それが目前の精霊のものであると知る。
若き獅子。彼もまた、ある意味あの姉妹を守ってきた。
敵としてなんどとまみえたミズーにたいしてさえ、彼は常にある種の愛情を感じてきたのだ。
獅子の子。今、彼は決意という力を手にしようとしている。
『獅子の子らを守る、それが獅子の務め』
それだけ残して、精霊は鬣を振り上げ、きびすを返した。
のばした右腕には触れさせない。それを許すのは優しさではなく甘さだから。
それを知ってか知らずか、彼は腕をおろした。
精霊が、どこに、何をしにいくのか彼には分かっていた。
獅子の子らを守る。
この狂気を…終わらせる気なのだ。
ゴォオオッ!
と音をたてて精霊の前方の湿った生木が一瞬にして燃え上がる。
まるで戦の前の篝火のようでもある。
訓練された精霊は、戦闘に余計な時間はかけない。
が、それでもこれは精霊の、いや、獅子の意志の現れであった。
力強い後ろ足が大地を蹴る。その一瞬だけで平穏を保っていた地面が赤熱する。
空気が膨張したのか、鐘の音にも似た低音が響き渡る。
それでも炎は彼を焼かない。
その炎はといえば視界の全てを埋め尽くすかのように広がり…
そして消えた。
「…っ!?」
胸の奥が締め付けられるような感情。真実への予感。
光に焼かれた隻眼の視力が回復した時、彼は確かに見た。
儚く舞い散る火の粉の中で、揺れ動く、人を醜悪に模したような奇妙な影。
「アマワァァッァァァアアアアア!」
いったんおろしていた腕を再度振り上げる。
失う事には慣れていた。
しかし、やっと掴んだ、確実なもの、それすら失い感情が崩れ落ちる。
再び甦る想い。
結局は信じるに足るものなど何もなかった!!

影は消える。
火の粉も消える。
だが、一片の火の粉が傷付いた眼の上――妻を見つめ、義妹に奪われた眼の上――
に小さな火傷を遺した。
まるで、消滅する精霊の形見のように。

519メメント続き◇fg7nWwVgUc:2005/09/02(金) 00:19:57 ID:hNdeEao2
【E-7/絶壁/1日目・14:40】
【ウルペン】
[状態]:一度立ち直りかけるが再度暴走。前より酷い。精神的疲労濃し。
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:アマワを倒す。参加者に絶望を
[備考]:第二回の放送を冒頭しか聞いていません。黒幕=アマワを知覚しました。

【E-7/絶壁/1日目・14:30】
【オーフェン】
[状態]:脱水症状。
[装備]:牙の塔の紋章×2
[道具]:給品一式(ペットボトル残り1本、パンが更に減っている)、スィリー
[思考]:宮野達と別れた。クリーオウの捜索。ゲームからの脱出。

『サードを出ようの美姫試験』
【しずく】
[状態]:右腕半壊中。激しい動きをしなければ数時間で自動修復。
    アクティブ・パッシブセンサーの機能低下。 メインフレームに異常は無し。 服が湿ってる。
    オーフェンを心配。
[装備]:エスカリボルグ
[道具]:デイパック一式。
[思考]:火乃香・BBの詮索。かなめを救える人を探す。

【宮野秀策】
[状態]:好調。 オーフェンを心配。
[装備]:エンブリオ
[道具]:デイパック一式。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
    美姫に会い、エンブリオを使うに相応しいか見定める。この空間からの脱出。
 
【光明寺茉衣子】
[状態]:好調。 オーフェンを心配。
[装備]:ラジオの兵長。
[道具]:デイパック一式。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
    美姫に会い、エンブリオを使うに相応しいか見定める。この空間からの脱出。

(E-7の林の木がなぎ倒されています。 閃光と大きな音がしました)
(E-7の木(湿った生木)が燃えていました。数十秒ですが誰かが見た可能性あり)

520メメント続き◇fg7nWwVgUc:2005/09/02(金) 00:21:40 ID:hNdeEao2
以上です。あと、何故か専ブラウザが壊れてしまって繋がらないので、
誰かよろしければ本スレで試験投下した、とお伝え下さい

521我が家族に手向けよ業火 ◆E1UswHhuQc:2005/09/02(金) 00:57:20 ID:2hhtcUkM
 獣精霊が封じられていた檻は、思念の通り道で紡がれた、ただそれだけの寝台に過ぎなかった。
 照らし染める光も、凍て付いた夜もない、隙間でしかない空虚。確立した自我を持っているのなら、そこは確かに退屈なところだった。
 その一方的な閉鎖に満ちた空間から、全方向に広がる空間へ――つまりは外界へ、獣精霊は解き放たれた。
 獣精霊は思考する。焦りを抑えて思考する。
 水晶檻の中で、なぜか聞こえていた放送。そこで呼ばれた――ミズー・ビアンカの名前。彼女は本当に死んだのだろうか?
 答えはない。
 もとより、誰に対しても発していない問いかけに、答えが返って来るはずはない。そんなことは分かっていた。相手のない問いかけに答えが返って来る道理など、この世界にはない。
 答えを望んでいない問いかけに、答えが返って来ないのと同じ様に。
 獣精霊は疾駆する。素早く迅速に疾駆する。
 何をするにせよ、彼女が本当に死んだのであるか、確かめてからでなければ始まらない。
 周囲にいた者達を――黒が目に映える二人を無視して無抵抗飛行路に飛び込み、彼女の元へと馳せ参じる。
 これは容易なことだった。自分に彼女の居場所が分からないということなど、あろうはずがないのだから。
 そんなことは、あってはならない。彼女の――獅子となった獅子の子の居場所が分からないなど、あってはならない。
 獣精霊はうなりを発する。ほんの小さくうなりを発する。
 彼女は既に獅子となった。なのに――死んだというのか?
 だが、今は考える時間などはない。
 時間は限られている。水晶檻は退屈な空虚ではあるが、硝化の森と同等の環境を約束している。硝化の森の無い此処で、自分はどれだけ存在を示していられるのか。それは誰にも分からない。
 急ぐに越したことはない。
 獣精霊は前進する。迷いを棄てて前進する。
 近付けば近付くだけ、嫌な感覚が増していく。だが停滞には意味がない――事実はこちらが確認しようとしまいと、確実にこちらを蹂躙してくる。既に過ぎ去った事柄であるがゆえに、抗いもできない。それが恐ろしくないわけではない。
 唯一ともいえる対抗手段は、信じることだけ。彼女の生存を信じ、先の放送が虚言であったと信じる。裏切られることになろうと信じるしかない。
 獣精霊は発見する。ほどなく順調に発見する。
 無抵抗飛行路から抜ければ、無数の水滴が降り付けてくる。焦燥感から生まれる熱気が幾らかを蒸発させるが、それは湿り気を助長させるだけだった。
 そして、それを見つける。視界を狭める豪雨の中で、それは人為の直立さをもって建っていた。
 とはいえ。
 なにを見つけたわけでもない。簡単に言えば、それはただの建造物だった。力を少し振るえばそれで消え去ってしまうような、脆弱な木と石の集合体。
 ただしそれは――血の臭いに浸されていた。
 これ以上は進めないと、本能が告げている。進んでしまえば彼女への信頼を奪われることになると、奥底に潜む何かが訴えている。
 だがそれでも。

522我が家族に手向けよ業火 ◆E1UswHhuQc:2005/09/02(金) 00:58:11 ID:2hhtcUkM
 進んだ。爪の一振りで扉を打ち破り、建造物の中へ。彼女の元へと前進する。
 部屋が湿気に満ちているのは、雨が降っている為か。それとも、血が溢れている為か。
 部屋の中には三つの死体があった。
 二つは男。一つは女だがミズー・ビアンカではない。
 若干の安堵を手に入れ、すぐにそれが無意味だと知る。三つの死体の存在は、ここで殺戮が行われたことを示している。
 それに、ミズー・ビアンカが巻き込まれていないと、どうやって証明できる?
 体当たるようにして次の扉を抜け、進んだ。進んだだけ、彼女への信頼が奪われていく。
 そしてすべてをうしなった。
 獣精霊は憤怒する。深く悲しく憤怒する。
 大量の血液を流し、壁に寄りかかって事切れている――ミズー・ビアンカの存在の残滓。
 その近くに二つ、少女の死体が倒れていた。そのうちの一つからは、ミズー・ビアンカの血が付着している。
 奪われてしまった。
 大きく、吼える。降り続ける雨水の叫びをかきけすように、大きく、強く、そして哀しく。
 咆吼と同時に広がった爆炎が、周囲を紅蓮に染め上げた。
 赤が呑み込み、紅が切り裂き、朱が渦を巻く。緋色の焚滅が蹂躙し、赫々とした火葬が覆い尽くす。
 雨滴の侵蝕すらをも駆逐する獣の炎勢の前に、全てが焼き尽くされた。
 弔葬の業火が消し飛ばした廃墟は、もはやなにもかもがない。愚かな信頼も、外れた期待も、無為な激怒も、触れ合う距離も、愛を語る言葉すらも。なにもかもが消え去った空隙に、白い灰が積もっている。
 それだけだ。
 炎が静まれば、灰は水の進撃を阻めない。一つの水滴が熱を奪い、二つの水滴が乾きを奪い、三つの水滴が灰であることを奪った。貪欲な激流と交じり合った灰は泥となり、地表と共に何処とも知らぬ処へと流れ去っていく。
 わずかにだけ残っていたすべてが、雨の中に潰えていった。豪雨の中で大きく風が吹き、無数の水滴が舞い散る。
 なにもかもがどうでもよく、一瞥もせずに歩き出した。目的がないのなら、無抵抗飛行路に入る意味はない。雨の中を、噛み締めるように歩いていく。
 ぬかるんだ土を踏みしめ、ただ悔いる。なぜ彼女を死なせてしまったのか。
 降り付ける雨を無視して、ただ怒る。なぜ彼女は死んでしまったのか。

523我が家族に手向けよ業火 ◆E1UswHhuQc:2005/09/02(金) 01:00:52 ID:2hhtcUkM
 後悔。憤怒。それらがない交ぜになれば、哀しみと大差はない。
 どうすればいいのだろう。これから。
 怒りに任せて、この島を焼き尽くすか。獣の業火ですべてを蹂躙し、彼女への手向けとするか。
 そんなことを彼女は望んでいない――それは分かっている。既に居ないのだから当然ではあるが。居たとしても、望むはずがないだろう。
 ふと、空を見上げた。黒の雨雲で覆われた曇天を。
 雨が容赦なく降り注いでいる。陽は雲に隠れ、灰色の闇がそこに横たわっている。
 無数の水滴による雨音は他の音の存在を覆い隠し、隙間なく降り行く水滴は視界を無数の線で埋め尽くす。むせ返るような水の臭いは血の臭いすらも洗い流し、降り付ける水滴の連続が毛皮を濡らす。舌に来る刺激は金属にも似た雨の味。
 そうして。
 獣精霊は決意する。その意味を考えながら、決意する。
 何をするのか。そんなことは最初から決まっていた。
『獅子は――』
 豪雨の中、無尽の雨音を吼声が引き裂き、声が響く。
『獅子の子を守る』
 決意が生まれれば、力が生じる。
 鋭利に研ぎ澄まされた感覚が、『それ』の居場所を探り当てる。同時に、若き新たな獅子の存在も。
 行く。
 戦火を身に纏い、獣精霊は前に進んだ。

【D-1/公民館/1日目・14:55頃】
※公民館が焼失しました。落ちていた物品もほぼ全て焼失しました。

524ホワイト・アウト(白い悪夢)(1/5) ◆5KqBC89beU:2005/09/07(水) 21:47:59 ID:rxWyBrZc
 そこは霧に満たされていた。視界は白く閉ざされて、どこを見ても変わらない。
(これは、夢)
 自分が眠っていることを、淑芳は知覚する。自覚したまま、夢を見続ける。
 数時間の睡眠でようやく回復した体調。慣れぬ術で異世界の宝具を使った影響。
制限された状態で全力の一撃を放った反動。目の前で想い人を殺された動揺。
 記憶が蘇っていく。これまでの出来事を、娘は思い出していく。
(あの後、わたしは気を失って……)
 ここには他者の姿がない。銀の瞳を持つ彼女だけが、霧の中に立っている。
 だが、それでも淑芳は言葉を紡ぐ。聞くものがいると、彼女は気づいている。
「あなたは、何です? 勝手に夢の中へ入ってくるだなんて、無粋ですわよ」
 答える声は、霧の彼方から届けられた。
「わたしは御遣いだ。これは、御遣いの言葉だ」
 どこからか響く断言。年齢も性別も判然とせず、不自然なほどに特徴のない声。
 淑芳は、既に身構えている。不吉な予感が、油断するなと彼女に告げていた。
「御遣い……? 御遣いとは、何ですの?」
「御遣いのことを問うても意味はない。わたしの奥にいる、わたしの言葉の奥にある
 ものこそが本質だ」
「意味が判りませんわ。判るように話す気は、最初からないんでしょうけれど」
 霧の向こうから、声が発せられる。まるで、霧そのものが喋っているかのように。
「わたしは君に、ひとつだけ質問を許す。その問いで、わたしを理解しろ」
 袖の中を探る手が、一枚の呪符にも触れないことを確認し、淑芳は顔をしかめた。
「ひょっとして、わたしたちを殺し合わせようとしているのは、あなたですの?」
「その通りだ、李淑芳」
 一瞬の躊躇もなく、即答が返ってきた。

525ホワイト・アウト(白い悪夢)(2/5) ◆5KqBC89beU:2005/09/07(水) 21:48:59 ID:rxWyBrZc
 真っ白な世界に少女が一人。見えざるものとの対峙は続く。
「……さて、主催者側の親玉が、わたしに何の用でしょう? わざわざ現れたのは、
 挨拶がしたかったからじゃありませんわよね?」
 余裕綽々を気取る口調だ。彼女は必死に虚勢を張っている。
「愛こそが心の存在する証だと、人は言う……わたしは、愛の力を試すことにした。
 参加者の中から、容易く恋に落ちそうな娘を選び、密かに実験を始めた」
 聞こえるのは、昨日の天気でも説明しているかのような、何の感慨もない声。
「…………」
 淑芳の両手が、固く握りしめられて、小刻みに震えだした。
 声は決して大きくなく、けれど、はっきりと耳に流れ込んでくる。
「様々な偶然を操って、君を守り、導いた。強く優しく勇気ある青年を、君の窮地に
 立ち会わせ、助けさせるよう仕向けた。知人の死を哀しむ君は、彼の保護欲を充分に
 刺激したはずだ。誘惑の好機は幾度もあっただろう。邪魔者たちは遠ざけておいた。
 お互いの魅力をお互いに実感させるため、長所を活かせるような状況を作りもした」
「何故……どうして、そんなことを……?」
 愕然とする娘に向かって、ただ淡々と宣告が続けられる。
「愛は奪えないものなのか……それを確かめるために、わたしは愛を用意した」
 淑芳の苦悩を無視して、声は無慈悲に連なっていく。
「もしも愛が奪えないものなら、それはつまり、心の実在が証明されたということだ。
 しかし君は、愛した相手を守ることができなかった。わたしに奪われてしまった」
 侮辱の言葉が、とうとう彼女の逆鱗に触れた。銀の瞳が、虚空を睨みつける。
「いいえ! わたしが憶えている限り、カイルロッド様はわたしと共にあり続ける!
 あなたは何も奪えてなどいない!」
 涙をこぼして激昂する娘を、声は冷ややかに嘲った。
「それは都合の良い錯覚というものだ、李淑芳」

526ホワイト・アウト(白い悪夢)(3/5) ◆5KqBC89beU:2005/09/07(水) 21:49:58 ID:rxWyBrZc
 しばしの間、一切の音が消える。長いようで短い沈黙を、先に破ったのは淑芳だ。
「……平行線ですわね。あなたは、わたしの言葉を信じないのですから」
「錯覚にすがって生きていくというのなら、君の解答に価値はない」
「あなたを満足させるため、この想いを捨てろとでも? 冗談じゃありませんわよ」
「思考の停止は、答える意志の喪失だ。それでは、契約者となる資格がない」
 声が遠ざかっていく。同時に霧が濃度を増す。夢が終わろうとしている。
「李淑芳。君に未来を約束しよう。約束された未来は、既に起こったことなのだ。
 必ず起こる未来ならば、それは過去と同じだ……君は仲間を失っていく……
 もうすぐ、また君は味方を失う……」
 白く塗り潰された夢の中で、淑芳は何かを叫ぼうとして――。

 ――彼女が目を開くと、そこには白い毛皮の塊があった。
「目が覚めましたか」
 よく見ると、毛皮の塊には、笑っているような顔が付属している。犬の顔面だ。
陸が、淑芳の顔を覗き込んでいたのだ。安堵しているのか、単にそういう顔なのか、
いまいちよく判らない。別に、どうだっていいことだが。
「わたしは……」
 ようやく淑芳は、自分が床に寝ていると気づいた。ゆっくり上半身を起こそうと
するが、陸の前足に額を踏まれ、床に押さえつけられる。
「まだ横になっていた方がいいと思いますよ。いきなり倒れて頭を打ったんですから」
 陸の前足を払いのけ、額についた足跡を拭いながら、彼女は言った。
「話したいことがありますの」

527ホワイト・アウト(白い悪夢)(4/5) ◆5KqBC89beU:2005/09/07(水) 21:51:15 ID:rxWyBrZc
 淑芳が語った夢の話を聞き終え、陸は溜息をついた。
「夢の中への干渉ですか。それが事実だとすれば、もう何でもありですね」
「普通の単なる夢だったかも、と言いたいところですけれど、そうは思えませんわ」
 困惑している犬を見もせずに、淑芳は言う。玻璃壇を俯瞰しつつ話しているのだ。
 どこが禁止エリアになるのか判らないため、彼女たちは迂闊に動けなくなっている。
とりあえず13:00寸前まで現在地で待機して、玻璃壇で人の流れを把握してから、
安全そうな場所まで移動する予定だ。ちなみに、カイルロッドを殺した青年は、ここに
戻ってくる様子がない。彼もまた禁止エリアの位置など聞いていなかったはずなので、
何も考えずに彼を追えば、禁止エリアに突入してしまう可能性があった。
「主催者が本当に偶然を操れるとすれば、どうやったって倒せない気がしますよ」
「支給品である犬畜生には、呪いの刻印がないんですから、禁止エリアに逃げ込んで
 隠れていたらどうです? きっと、最後まで生き延びられますわよ」
「あなたらしくありませんね。……『君は仲間を失っていく』、でしたっけ? そんな
 馬鹿げた予言を気にしているんですか」
 視線を合わせないまま、一人と一匹の対話は続く。
「あなたのそういう無駄に小賢しいところ、大っ嫌いですわ」
「そもそも私はカイルロッドの同行者だったんです。あなたの仲間じゃありません。
 こうして隣にいるのは、あなたが心配だから――なんて誤解はしないでください」
 要するにそれは、傍らにいても失われない、と保証する発言だ。
 まったく可愛くない犬ですわね、と淑芳は思った。
「……そんなこと、最初から判ってましたわよ」
「では、そろそろ移動先を検討しておきましょう」

528ホワイト・アウト(白い悪夢)(5/5) ◆5KqBC89beU:2005/09/07(水) 21:53:19 ID:rxWyBrZc
「F-1から南へ向かっている参加者たちがいますわ。おそらく神社で休憩するつもり
 なのでしょう。F-1・G-1・H-1は、しばらく禁止エリア化しないと考えられます。
 どうにかして情報を集めないといけないんですけれど、神社に向かった人たちは、
 殺人者の集団だったりするかもしれません。安易にこの人たちと接触するわけにも
 いきませんわね。でも、利用できる出入口は、神社にしかありませんから……」
「とにかく神社まで行って様子を見るしかない、ってことですか。そうと決まれば
 早く出発しましょう。……何をぐずぐずしているんですか」
「玻璃壇を停止させようとしてるんですけれど、操作を受け付けないみたいで……」
「やれやれ。どうやら、そのまま放置していくしかないみたいですね」
 玻璃壇の前を離れ、淑芳は、カイルロッドの遺体へ黙祷を捧げた。
 彼女の横で、陸は目を閉じ、カイルロッドの冥福を祈った。
 カイルロッドの死に顔は、眠っているかのように穏やかだ。
 短い別れを済ませ、一人と一匹は、格納庫の外へと歩きだす。
 振り返りは、しなかった。


【G-1/地下通路/1日目・13:00頃】

【李淑芳】
[状態]:頭が痛い/服がカイルロッドの血に染まっている
[装備]:呪符×19
[道具]:支給品一式(パン9食分・水2000ml)/陸
[思考]:麗芳たちを探す/ゲームからの脱出/カイルロッド様……LOVE
    /神社周辺にいる参加者たちの様子を探る/情報を手に入れたい
    /夢の中で聞いた『君は仲間を失っていく』という言葉を気にしている
[備考]:第二回の放送を全て聞き逃しています。『神の叡智』を得ています。
    夢の中で黒幕と会話しましたが、契約者になってはいません。
    カイルロッドのデイパックから、パンと水を回収済みです。

※カイルロッドの死体と支給品一式(パンなし・水なし)が、格納庫に残されました。
※玻璃壇は稼働し続けています。

529使徒の消滅(1/2) ◆5KqBC89beU:2005/09/09(金) 14:54:15 ID:rxWyBrZc
 薄暗い部屋の中で、古惚けた家具に囲まれて、美貌の男が眠っていた。
 真の名品にしか醸し出せない独特の空気が、男を優しく包み込んでいる。
 彼の傍らには包帯の巻かれた椅子があった。一度は無惨に砕かれたが、尊い犠牲と
適切な処置によって、その芸術品は華麗に蘇ったのだ。
 彼の愛娘は、まるで彼の着席を待ちわびるかのように佇んでいる。
 室内の光景を、もしも絵画に例えるとしたら、題名は「楽園」だろうか。
 静かな場所だ。聞こえる音は、まどろむ美丈夫の微かな寝息のみである。

 何の前触れもなく、壁に掛けられた鏡の中に“それ”が出現した。

 ドラッケン族の剣舞士は、奇妙な気配を感じると同時に一瞬で覚醒してみせた。
意識が状況を把握するよりも早く、右手の五指が剣を掴み、刃の残像を虚空に刻む。
起きあがりながら剣を構え、床を蹴った直後には“それ”の眼前に到達していた。

 びしり。

 刺突が“それ”の眉間を垂直に貫き、蜘蛛の巣に似た形の傷を全身に生じさせた。
 何が起きたのか理解できない、といった顔で、“それ”が鮮血を吐く。
「……ひどい」
 少女の姿をした“それ”は、罅割れた鏡面から戦士を見つめている。
 異界の彼方へと逃げる暇も無く、“それ”は魂砕きに抉られている。
 茫洋とした表情の上にも、血涙に濡れた目の上にも、大きな亀裂が走っていた。
 全身の傷口から血が滲み出し、鏡面を流れ落ちて、赤黒い血溜まりを床に広げる。
 魂砕きの刃に精神を蹂躙され、自身を人の形に留めていた“魔女の血”をも失い、
“それ”は存在を維持できなくなっていった。
 美しい顔を不満そうにしかめて、男が口を開く。
「何だ貴様は? 〈異貌のものども〉の亜種か? 〈禍つ式〉にしては脆弱すぎるが」
 そこまで言って、彼は思考を放棄した。無力な怪物などに、彼は興味を持たない。
「とにかく目障りだ。消え失せろ」
 “それ”を全否定する美声と共に、剣が90度ほど捻られる。
 澄んだ音を響かせて、鏡が砕け散った。

530使徒の消滅(2/2) ◆5KqBC89beU:2005/09/09(金) 15:04:09 ID:rxWyBrZc
 完全に、完璧に、完膚なきまでに破壊され、“それ”は跡形もなく消滅した。


【G-4/城の中/1日目・??:??】

【ギギナ】
[状態]:健康/空腹
[装備]:魂砕き
[道具]:支給品一式、ワニの杖、ヒルルカと翼獅子四方脚座の合体した椅子(今のところ名称不明)
[思考]:食料を探す

※魔女の使徒ティファナが消滅しました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
すぐに消滅させれば使徒話を通せないかなーと思い、書いてはみたものの
微妙だったので封印してた話です。こんなのでもいいなら提供しますけど、
正直、もっと上手く使徒を消滅させてくれる人を待ってます。

531忘れられた少女の物語(1/4) ◆eUaeu3dols:2005/09/18(日) 19:53:02 ID:vt5D4D06
あなたは彼女を覚えてる?
忘れているなら、思いだしてあげて。
忘れられるのはとてもとても哀しい事だから。
だから、みんなに思いだしてもらうの。
私が殺した少女の事を。

        落ちる先は湖。
         湖には水面。
           水面は鏡。
            鏡は扉。
  扉の向こうに誰が居る?
  扉の向こうに何が在る?

彼女は闇夜で殺された。
彼女は海辺で殺された。
彼女はメスで殺された。

夜は異界が近づく時間。
闇夜に異界が隠れてる。
海は神様が住まう場所。
海に呑まれたお供え物。
メスの用途はなおす事。
裂かれた人の病を癒す。

そして誰か、覚えているか。
殺された少女の名前を覚えているか。

魔女は言う。
「あの子の魂のカタチは『陸往く船のお姫さま』。
 王子様に誘われて陸を進むようになっても、船を降りたわけじゃない。
だって、“彼女こそが船だから”」
――そして船は、海と陸とを橋渡す。

532忘れられた少女の物語(2/4) ◆eUaeu3dols:2005/09/18(日) 19:53:56 ID:vt5D4D06
「あなたが魔女になれなかったのは残念だよ」
其処は異界。
水面の鏡面から飛び込んだ、鏡の異界の何時かの何処か。
澱んだ水の臭いと、耳が痛くなるほどの静寂に包まれた世界。
「カタチを与えてあげる事さえ遅くなって、本当にごめんね」
ピチャピチャと湿った音がする。
魔女の手首から滴る一筋の紅い血を、白い少女が舐めている。
「ふふ……しばらくはそれで保つかなぁ」
魔女は血を水面に滴り落とした。
水面は鏡。鏡は門戸。血は鏡の世界に滴り落ちた。
門戸は鏡。鏡は水面。血は水面から海へと流れ……
海に呑まれた『陸往く船のお姫さま』へと贈られた。
魔女の生き血はヨモツヘグリ。
なりそこなった哀れな子に、仮の体を与えてあげる。
そうして魔女の使徒が一人生まれた。
――いや、生まれようとしていた。
「…………」
ピチャピチャと音が響き続ける。
白い少女は魔女の手首から血を舐め続け……突然、びくんと痙攣した。
「…………あれ?」
魔女が僅かに怪訝な表情を浮かべ……次に目をまん丸にして驚き、それを理解した。
そして、悲しげに目を細めた。
深い慈悲と哀れみをその瞳に湛え、白い少女を悲しげに、ほんとうに悲しげに見つめる。

「この島では、可哀想なあなた達に仮初めのカタチを与えてあげる事もできないんだね」

魔女の血を飲み、仮初めのカタチを手にいれたはずの白い少女の輪郭が、儚いまでに揺らぎだす。
今さっきまでの様に、その姿が白い塊に還ろうとしている。
魔女の使徒は水子だった。
生まれることさえ出来ないままに、その姿が崩れゆく。

533忘れられた少女の物語(3/4) ◆eUaeu3dols:2005/09/18(日) 19:55:19 ID:vt5D4D06
「あなたのカタチは崩れちゃうね」
「…………」
白い少女は揺らぎながら、微かに笑みを浮かべていた。
それは魔女の使徒の笑み。
必死に与えられたカタチに縋り、生き延びようとするように。
その笑みは少女が本来浮かべられる物ではないけれど、
在り続けようとするこの足掻く意志は、きっと少女の物だろう。
与えられた居場所を離すまいとするこの想いは、きっと少女の物だろう。
「無理だよ。ここでは、無理」
少女の体の揺らぎはどんどん激しくなって……
気づけば彼女の背丈は小柄な詠子の胸ほどになっていた。
足は、膝は、既に白い肉塊へと変貌していた。

「髪をもらうよ」
魔女は魔女の短剣を手に握り、少女の短い髪を、一房だけ切り取った。
「ごめんね。今のわたしに、あなたが帰る場所は作れない」
「…………」
少女の無言は変わらない。いや。
「……イヤ」
白い少女の唇から言葉が漏れだした。
「イヤ! おいていかないで!」
魔女の使徒にもなりそこなった、だから残った、少女の想い。
人になろうにも死んでいて、死者になろうにも在り続けて、
なりそこないとしても不完全で心が残り、魔女の使徒になるにも世界がそれを赦さない。
何処にも居場所が無い少女。忘れ去られた白い少女。
「忘れないで! おいていかないで!」

534忘れられた少女の物語(4/4) ◆eUaeu3dols:2005/09/18(日) 20:10:08 ID:vt5D4D06
「大丈夫だよ」
魔女の言葉は甘く、安らぎに満ちていた。
「あなたはまた死者に戻るけど。覚えている人は居ないけど」
魔女は囁く。
「きっとあなたの居場所を作ってあげる。
あなたのカタチを作って上げる。
 あなたを呼び戻してあげる。
だから心配はいらないよ」

そして、白い少女は今度こそ白い肉塊に成り果てた。
せきそこないは異界に消えて、それは最早死者と等しい。
この世界にいる限り、死者の法は超えられない。

「それにしても、残念だねぇ」
魔女は誰にともなく呟いた。
――“船”を失った魔女の体は、湖の岸に流れつく。
「あなたが力を貸してくれれば、この世界でもあの子を魔女の使徒に出来たのに」
異界はいつしか闇に呑まれ、魔女の心は闇の中で呟いた。
――船を失った魔女の体は、傷付き凍え、弱っていた。
「でもそれがあなたのルールなら、仕方ないことだけど」
返事は何処からも返らない。魔女は一人呟いた。
――魔女の体は吸血鬼達の助力によって、幸運にも救われる。
「ねえ、神野さん」
そこは闇の中。そこは闇の底。そこは闇の奥。そこは闇の淵。そこは――

【D-7/湖/1日目 16:00】
【十叶詠子】
[状態]:夢の中、体温の低下、体調不良、感染症の疑いあり
[装備]:『物語』を記した幾枚かの紙片 (びしょぬれ)
[道具]:デイパック(泥と汚水にまみれた支給品一式、食料は飲食不能、魔女の短剣、白い髪一房)
[思考]:夢の中
[備考]:ティファナの白い髪は、基本的にロワ内で特殊な効果を発揮する事は有りません。

535濃霧は黙して多くを語らず 1 ◆CDh8kojB1Q:2005/09/21(水) 20:41:28 ID:fmBZ14cE
「ロシナンテ! フリウ! 何処にいるの?」
 商店街の一角を高里要はふらふらと歩いていた。
(途中まではフリウと手を繋いでたのに……)
 謎の襲撃者から逃れる為、民家から飛び出したのは良かったが、辺りは濃い霧に覆われていて
 3メートル先も見通せない。要達は夢中で走っているうちに散りじりになってしまった。
 今現在、この街には要独り。
 手探りで進む為に、手で触れている商店の壁面はどこまでも冷たい。
 要の脳裏に、開始直後の自分以外誰もいなかった倉庫が浮かんだ。

 ――真っ暗な目の前。
 ――永遠のような孤独。
 ――死への恐怖。

 扉を開いて入ってきたアイザックとミリアにどれだけ元気付けられた事か。
 やたらと強気な潤さんにどれだけ安心させられた事か。
 しかし、三人は約束した時間には帰って来なかった。
 フリウに対して「潤さんは大丈夫だ!」などと言い切ったが、
 彼らとはもう再開出来ない事は理解していた。
 フリウもロシナンテも恐らく分かっているだろう。彼らの身に一体何が起こったのかを。

 ――分かっていても、認めたくない。
 ――あの泥棒二人が、人類最強が、死んだなんて認めたくない。

536濃霧は黙して多くを語らず 2 ◆CDh8kojB1Q:2005/09/21(水) 20:42:41 ID:fmBZ14cE
 気付くと、要は以前訪れた八百屋の近くに来ていた。
 確かここでは、人参スティックを食べたはずだ。
 その後、奥の民家で救急箱を探そうとした時に、二人は「わぁびっくり」のジェスチャーを見せ、
『さすが知能犯のイエロー!』
『イエローロジカルだね!』
『キイロジカルだな!』
『いいから早く探しましょうよ……』
 果てし無くハイな二人の事を思い出すと、少しだけ頬が緩んだ。
(参加者全員を誘拐して、ゲームを終わらすんじゃなかったんですか……?)
 このまましんみりするのはいやだったので、そのまま記憶を遡ってみた。
 
 火を放つ少年と老紳士の決闘。
 鍵を開けるのに便利なグッズを見て喜ぶ泥棒二人。
 放送を聞き、片手で顔を覆う潤さん。
 そして――、
『別れがあれば出会いあり!』
『私たちだっていっぱい別れて悲しかったけど、それ以上にいっぱい出会った嬉しさの方がおっきいもん!』
 天上抜けに明るいカップルの励まし。
(……アイザックさん、ミリアさん、貴方達二人と一緒で本当に良かった)
 
 回想を終えた要は頬を叩いて気合を入れ、
「……頑張ろう」
 勢い良く持ち上げた顔の動きにあわせて長い黒髪が踊る。
 霧で濡れて顔にかかった髪をのけ、湿った空気を吸って、大きく吐き出した。
「ロシナンテ! フリウ! ぼくはここだよ!」

537濃霧は黙して多くを語らず 3 ◆CDh8kojB1Q:2005/09/21(水) 20:43:26 ID:fmBZ14cE
 同時刻。
 殺戮を誓った暗殺者・パイフウは、無人の肉屋の店先でその声を聞いた。

「ロシ……テ! …リウ! ぼ……こ…だ…!」
 仲間を探して彷徨っていると思われる、少年らしき者の声。
 音量と直感からおおよその位置を割り出して、まだ音源との距離が有る事を確認する。
 開いた名簿に“ロシ……テ”なる人物は存在しなかったが、
 “…リウ”は恐らくNo13,フリウ・ハリスコーの事だろう。
 相手は最低でも三人。自分に暗殺技能が有るとはいえ、全員を仕留めるのは容易ではない。
 以前出会った魔女の少女とスーツの少年の事が思い出される。
 昼間と同じ轍を踏むのは危険。故に合流される前に片付けた方が好都合と判断する。
 ならば先手必勝だ。相手の明確な位置が判明し次第、攻撃しなければならない。

 パイフウは名簿をしまい、周囲を確認した。
 向かって右に、抱き合って死んでいる赤い女と筋肉質の男。
 肉屋の中には、首がちぎれた二人の男女。
 他者が存在した形跡は無いので、四人は互いに争って全滅したのだろう。
 彼らの支給品は自分の足元に転がっている。先程まで自分はその中身を探っていたからだ。
 そして、
「ほのちゃんのカタナ……」
 パイフウは、首を失った女の手から一振りのカタナを取り上げた。
 血糊が刀身の半分近くまでこびり付いているために、
 切れ味は随分と落ちてしまっているだろう。
 しかし、身になじんだカタナが有るのと無のとでは火乃香の実力に大きな差が出る。
 幸い刀身自体は傷ついてはいない。
 火乃香と出会った時に手渡すために、それを自分のデイパックに突き刺しておいた。

538濃霧は黙して多くを語らず 4 ◆CDh8kojB1Q:2005/09/21(水) 20:44:18 ID:fmBZ14cE
 その時、
「ロシナンテ! フリウ!」
 再び少年の声が聞こえた。
 音源との距離はおそらく30メートル前後。位置は肉屋を挟んだ向こうの通り。
(……霧が濃くて銃撃は不可能。一撃で仕留められる距離まで接近するしかないわね)
 幸い濃霧で相手も視覚は死んでいるはずだ。音さえ消せば背後を取れる。
 しかし、パイフウが向こうの通りへ移動しようと、肉屋の横の路地へと歩を進めた瞬間に、
「要しゃんの声がしたデシ!」
「要! あたしはこっちだよ!」
 少年がいる反対方向から返事が返ってきた。
 恐らく少年の仲間だろうとパイフウは察する。
(歩行音は聞こえない……まだ距離が有るわ。今ならまだ姿を見られずに殺れる)
 仲間が来ようとも全く障害は無い。
 このまま濃霧に乗じて少年を襲撃し、その死体を隠して待ち伏せするだけだ。
 だが次の一声を聞き、その打算は崩れることとなる。
「何だか血の臭いがプンプンするデシ。大丈夫デシか、要しゃん?」
(この距離で気付かれた?)
 かなりの嗅覚だ。相手は亜人種か強化人間の類かもしれない。
 これでは姿は見られないまでも、臭いで正体がバレる可能性が高い。
 万が一逃亡されると、今後の奇襲に支障をきたす。
 そう判断したパイフウは計画を取り止め、一時機会を待つ事にした。

「ぼくは無事だよロシナンテ。……たぶん血の臭いは八百屋の近くのお爺さんの物だと思う。
あの人が死ぬところをアイザックさん達と見たんだ」
「そうデシか。とにかく要しゃんが無事でよかったデシ」
「途中まであたしの横を走ってたのに。どこに行ってたの?」
 合流した少年達はパイフウの存在に気付かなかった。
 運良く自分の周囲の死体の臭いと遠くにある死体の臭いとを勘違いしたようだ。
 しばらく談笑した後に、
「あたしはやっぱり移動したほうが良いと思う」
「潤さん達が待っててくれてるかもしれないしね……」
「……一番近いのは学校デシ」

 行動指標を定めた三人は、最後までパイフウに気付かぬまま行ってしまった。
 しかも彼らの会話は筒抜けであり、パイフウは三人の内で最も場慣れしているのは、
 フリウ・ハリスコーなる少女だと推測した。
 更に嗅覚の優れているロシナンテ(フリウはチャッピーと呼んだ)は会話から
 しゃべれる犬だという事も判明した。
 風下から霧に紛れて接近すれば一撃離脱戦法での各個撃破は可能だろう。
 だが、問題が無いわけではなかった。
(学校で“潤さん”が待ってるって言ってたわね……)
 学校まで直線距離にして数百メートルしかない。
 短時間で三人。気付かれること無く無力化するのはかなりハードだ。
「……」
 パイフウは無言でデイパックを肩にかけると、霧に溶け込むかのように走り去った。
 肉屋には、物言わぬ死体が残された。

539濃霧は黙して多くを語らず 5 ◆CDh8kojB1Q:2005/09/21(水) 20:45:07 ID:fmBZ14cE
【C-3/商店街/1日目・18:00】

『フラジャイル・チルドレン』
【フリウ・ハリスコー(013)】
[状態]: 健康
[装備]: 水晶眼(ウルトプライド)。眼帯なし 包帯
[道具]: 支給品(パン5食分:水1500mm・缶詰などの食糧)
[思考]: 潤さんは……。周囲の警戒。
[備考]: ウルトプライドの力が制限されていることをまだ知覚していません。


【高里要(097)】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品(パン5食分:水1500mm・缶詰などの食糧)
[思考]:二人が無事で良かった。 とりあえず人の居そうな学校あたりへ
[備考]:上半身肌着です


【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:前足に浅い傷(処置済み)貧血 子犬形態
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:三人ともきっと無事デシ。そう信じるデシ。
[備考]:回復までは半日程度の休憩が必要です。



【パイフウ】
[状態]:左鎖骨骨折(ほぼ回復・休憩しながら処置)
[装備]:ウェポン・システム(スコープは付いていない) 、メス 、外套(ウィザーズ・ブレイン)
火乃香のカタナ(ザ・サード)
[道具]:デイパック(支給品一式・パン12食分・水4000ml)
[思考]:1.主催側の犬として殺戮を 2.火乃香を捜す
    3.フラジャイル・チルドレンの暗殺
[備考]:外套の偏光迷彩は起動時間十分、再起動までに十分必要。
    さらに高速で運動したり、水や塵をかぶると迷彩に歪みが出来ます。


[備考]:肉屋の周囲にアイザック・ディアン、ミリア・ハーヴェント、ハックルボーン、
    哀川潤の死体と支給品(火乃香のカタナを抜かした)が転がっています。

540懲りない彼女修正案  ◆MXjjRBLcoQ:2005/09/24(土) 22:29:16 ID:pBSSTsig
少し遅くなって申しわけないです。
懲りない彼女後半(港町のくだりから)の修正案を出します。ご指摘待っています。

 さて、場面移してここは港町である。
 ドッグからも中心街からも比較的離れた南部の住宅街、ここにもやはり人影は見えない。
 建売の住宅が疎らに並び、木造漆喰の平屋と融合している様は、実に懐かしき田舎島の情景といえる。
 だだ家々に明かりは灯らず、犬猫だけが町を闊歩する様は、耳を澄ませば終末の気配が聞こえてきそうだ。
 そんな町の一角で、煌煌と照らす蛍光灯の元、再生機から教育シリーズ日本の歴史DVD第一巻を第二巻へと
差し替える影があった。
 誰かは語るべくもない。
 ドイツはグローワース島が領主ゲルハルト=フォン=バルシュタイン子爵である。
 西へと赴くEDと別れた後、彼は手分けをする意味だろうか、先ほどの港町に舞い戻ってきたのであった。
 収穫は無かった。光不足を考えれば骨折り損とも言える。
 すでに赤銅髪の青年は去っていた。港の南部は死体ばかりが目立った。
 14:30を過ぎ、雨は銀河をひっくり返したように降り注いだ。
 黒い空に、光は一篇たりとも望めなかった。
 そこに至って彼はそれ以上の行動を全て放棄した。すなわち雨宿りである。
 幸いにも住宅は生きていて、電気も水道も、電波やガスさえその営みを止めていない。
 コンロはひねれば紅茶が沸かせた、リモコンを押せば心地よい音楽が流れる。
 ゲルハルト城には及ばないながらも、島のなかでは群を抜く快適空間であった。
 ディスクの入れ替えはほどなく終わった。子爵の念力がスイッチをたたく。
 がしょん、と音を立ててDVDが飲み込まれた。そして、
 がしょん、と音を立てて、わずかに遠くで雨戸が閉まった。
 子爵はあわてた風もなく、付けたばかりのDVDとテレビを止めた。
 照明を落とせば、雨戸の閉められた隣家から、わずかに光が漏れていた。
 明かりをつけた住宅は誘蛾灯、つまりはそういうことであったのだ。
 荷物を放置し、子爵はおもむろに窓を開けた。
 無風であった。
 彼ははしばしその場に立ち竦んだ。
 この豪雨の中に隠れ潜む、邪悪と静寂を感じているのだろう。
 不吉の気配、とでも言うものが、虚空に深く根付いている。
 空はいよいよ重く、あるいはこの雨は、それらを押し流そうといているようにも見える。

541懲りない彼女修正案  ◆MXjjRBLcoQ:2005/09/24(土) 22:31:04 ID:pBSSTsig
 さて、隣家は比較的大きなもので、軒下には宿の文字があった。
 窓は多くが規則正しく並んでおり、影がそれらを順にめぐっている。部屋を検めているのであろう。
 子爵は玄関を避け、裏口から三和土へと回り込んだ。裏には給湯器が起動しているのか、かすかに熱気が漂っていた。
 三和土はよくよく使い込まれており、かすかに煤と魚の臭いが残っている。
 そこを上った先は八畳間となっていた。おそらくはダイニングとして使われていたのであろう。
 背の低いテーブルが中央に鎮座し、そしてその上に少女が一人。
 見知らぬ少女であった、意識はなく、しかしその幼い顔に笑みは絶えない。
 ふむ、と小さく血文字が浮かび上がった。小波のように揺れるそれには、逡巡の色が濃く映る。
 子爵の知覚は魂を見る。少女の深淵を覗き見たのかもしれない。
 いまださざめく子爵は、その手をそっと少女に伸ばし、足音を捕らえて三和土へとさがった。
 あたりを見渡すように蠢いて、竈の中に隠れこむ。
 乱入者は女であった。
 ふむ、とふたたび文字が浮かぶ。
 女は子爵の見知らぬ、しかし心当たりのある者だった。
 ロザリオをした長身の女。吸血鬼。子爵の聞いた特徴に符合する。
 と、その間にも、女はリビングを離れ、すぐに浴衣とタオルを抱えて戻ってきた。
 電子音が響いた。風呂の合図である。
 女は膝を突き、横たえた少女そのカーディガンの裾に手をかけた。少女の細い腹と、形のよい臍が覗く。
【まぁ、待ちたまえ】
 それは紳士としてか、決意の表れか。子爵は女の眼前へ姿を現した。
 女は果たして、この現象をどう捉えたのであろうか? 
 腰を落とし少女を抱き上げあたりを警戒し周囲を探る様は、その事実を知るものには滑稽ですらある。
 子爵はさらに呼びかけた。
【落ち着きたまえ、ここに余人はいない、そして、私は隠れてなどいない。これが、この血液が! 私の現身である。
 信じる信じないは君たちの自由だが、私にはこの身体しか意思伝達の手段がないのでね、しばし辛抱してくれたまえ。
 いずれ理解にも達しよう】
 漆喰の壁すら赤い液体、子爵にとってはノートである。
 その筆術はいかなる技か、文字配列の緩急が、その大小が、女に会話の錯覚すら与る。
【いや、驚かせてすまなかった。私はドイツはグローワース島が前領主ゲルハルト=フォン=バルシュタイン子爵!
 市政こそ既に委ねたが、21世紀も今なおかの地に君臨する紳士であり、ご覧のとおり吸血鬼である! 
 いや、すまない冗談だ】
 女の柳眉が釣りあがるよりも早く、子爵は次の言葉を言い放った。
【まぁ、君の同胞であることも元領主の身分も真実だがね】
 その言葉に、幾分落ち着きを取り戻したのか、女はしかししかと少女を抱えて、子爵と対峙した。
 もっとも、彼は他人の警戒を歯牙にかけるような男でもない。優しく諭すのみである。
【私は紳士だ。暴力に訴えるような真似ははしない。最も、この身体ではそれも叶わないが……
 とりあえず、私は君が血を吸うことも、配下を増やすことも咎めるつもりはないことを理解してほしい。
 君より遥か昔に生を受け吸血鬼となり、それから数百年の時を生きてきた、
 中には奇麗事の言えない時代を過ごしたこともあったとも】
 血液が、ふ、と細く伸びる。おそらく、それが彼の「遠い目」なのだろう。
『表情』は一刹那に消え、血文字がすぐに、先ほどと同じ調子に紡がれた。
【ともあれ私が君に望むことはそう多くない。繰り返すが私は紳士で、吸血鬼だ。
 いかに君が多くの者の血を吸ってきたとしても、私はそれに干渉する気はない!】
 そこで子爵はその言葉を止めて、少女の手に触れる。
 少女の肌にその赤は、不吉なほど良く映えた。
【だいぶ冷えているね、早くしたほうがよいようだ。一つでいい、質問をすることを許して欲しい。
 他は君達の湯浴みの後にしよう。
 なに、そう難しいものではないよ、あるいは答えてくれなくてもそれは一向にかまわない】
 あごに手を当てるような仕草、一拍の間、そして
【貴女は佐藤聖嬢で間違いはないかね?】

542懲りない彼女修正案  ◆MXjjRBLcoQ:2005/09/24(土) 22:33:19 ID:pBSSTsig
【D-8/民家/1日目/16:00】
【Vampiric and Tutor】

【十叶詠子】
[状態]:体温の低下、体調不良、感染症の疑いあり
[装備]:『物語』を記した幾枚かの紙片 (びしょぬれ)
[道具]:デイパック(泥と汚水にまみれた支給品一式、食料は飲食不能、魔女の短剣)
[思考]:???

【佐藤聖】
[状態]:吸血鬼化完了(身体能力大幅向上)、シャナの血で血塗れ、
[装備]:剃刀
[道具]:支給品一式(パン6食分・シズの血1000ml)、カーテン
[思考]:身体能力が大幅に向上した事に気づき、多少強気になっている。
    詠子の看病(お風呂、着替えを含む)
[備考]:シャナの吸血鬼化が完了する前に聖が死亡すると、シャナの吸血鬼化が解除されます。
首筋の吸血痕は完全に消滅しています。
16:30に生存が確認(シャナの吸血痕健在)されています。

【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン(子爵)】
[状態]:光不足
[装備]:なし
[道具]:なし(隣家に放置)
[思考]:アメリアの仲間達に彼女の最後を伝え、形見の品を渡す/祐巳がどうなったか気にしている
    聖にどこまで正気か? どこまで話すべきか?
[補足]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません。
    この時点で子爵はアメリアの名前を知りません。
    キーリの特徴(虚空に向かってしゃべりだす等)を知っています。

543魔女の見る夢【虚像庭園】前半 ◆eUaeu3dols:2005/09/30(金) 01:59:15 ID:3ksTxgaA
――そこは夕焼けの学校。
「ねえ、キョン」
「なんだよ」
SOS団の部室で、涼宮ハルヒがキョンに唐突な言葉を放つ。
「退屈よ! 最近、何か変な事って無いの?」
「……そんなもん、ほいほい転がってるわけないだろ」
うんざりした様子でキョンが答える。
「みくるちゃんも何も知らないわよね?」
「は、はい。何も知りません」
矛先が向いた事に少しびくつきながら、朝比奈みくるが答える。
「古泉、有希。あんた達もなんか見つけてないの?」
「知らないな」
「同じく」
「そう、なら仕方ないわね」
――『古泉』と『長門』が答え、ハルヒは何事もなく矛先を下ろした。
キョンは何か違和感を感じ、二人を見やった。
「……何か?」
『長門』がキョンを見つめ返し、尋ねる。
「……いや、なんでもない」
何か気に掛かる様子で、しかしキョンも引き下がる。
――誰も気づかない。そういう風に決められた世界だから。
「はい、お茶をどうぞ」
「みくるちゃん気が利くじゃない。えらいえらい」
「朝比奈さんいつもありがとうございます」
「ああ、ありがたい」
「頂こう」
三者三様の返事が返り、またもキョンと、今度は朝比奈みくるも怪訝な顔をした。
「どうしたのよ?」
「…………何でもない」「……なんでもありません」
「…………?」
問い掛けたハルヒも問い掛けられた二人も首を傾げた。
――そしてすぐにそれを忘れた。

「あー、それにしても退屈ね。なんでこんなに退屈なのかしら」
涼宮ハルヒがカレンダーを見やる。
――行事の少ない6月の初めという月日が書かれていた。
期末テストは有っても、わざわざ詰め込む必要がない、あるいはする気が無い者に無関係な時期。
「……やっぱりここは、あたしが直々にイベントを起こすしかないようね!」
――時計の短針が5時を指す。
「明日にしろ。今日はもう下校時刻だ」
「……それもそーね。プランを考える時間も必要だわ。
 それじゃ、明日は召集掛けるからよろしく!
 今日は解散!」
SOS団は帰宅を始める。
――そこに時間の意味は無い。明日も来ない。

「では、また」
帰宅途中の分かれ道で『長門』はSOS団の皆と別れて、自宅へと歩く。
歩き、歩き、自分の住むマンションに辿り着き、エレベーターで階を上がると、
通路を歩き、自分の住む部屋の前に立ち、鍵を開け、扉を開けて――

「それにしても奇妙な世界だった。興味深い」
舞台裏で、サラ・バーリンは長門有希の配役を脱ぎ捨てた。

サラ・バーリンは闇色の荒野に立っている。
振り返ると、そこには明らかに周囲の光景とは隔絶した、箱庭世界へ繋がる扉が在った。
扉を閉めると扉は消えて、そこに在った世界は見えなくなった。

544♪なんにも出来ないバット愚神礼賛♪:2005/10/05(水) 23:07:10 ID:vVvnnpSU
「♪めーめー目ー さんずい つけたら 泪なの──♪」
ここは名も無い地下道です。
ドクロちゃんは脱水症状からも復活して陽気に歩いていました。
まったく井戸に落ちたり流されたりしたのに元気ピンピンです。この天使。
え? 僕は誰かって?
僕は背景たる地下道の壁です。
自慢じゃないですが、堅牢長大にて地下水豊富、完全無欠で将来有望な壁です。
さあ僕を殴<ごがあぁん!>
あいててて………
今度はシームレスパイアスで、何かの民族の踊りのような動きをし始めたドクロちゃんが勢いあまって僕の体の一部を粉砕したようです。
僕の一部は数百の細かい破片に変形、ドクロちゃんの周りに飛び散りました。
こらドクロちゃん! 僕を撲殺しようとしたら駄目だよ!
ええ僕はさっき見ていたのです。僕の友のイド君がドクロちゃんに撲殺、粉砕されているところを──!
「♪せめせめ責め〜る さんずい つけたら 漬けるなの──♪」
僕は親友のエド君の分まで生きますとも! 僕は凄く大きいので部分部分を破砕した程度では死にません。
流石に全体の5割以上破壊されると僕でも危険な状態になります。その点でも全面破壊されないように注意せねば!
しかし僕の"壁神経超融合"により判別した結果、このままではドクロちゃんは1人の青年と対面します。
さらになんと彼は強力な殺人者のようです!
僕はなんとかドクロちゃんに注意を呼びかけたいところですが、悲しいかな僕は壁。喋る口はついていません。
不本意ながら僕は何も出来ないまま殺人者とドクロちゃんとの対面を静観しなければなりません。
ドクロちゃん、どうか死なないで──!

545♪なんにも出来ないバット愚神礼賛♪:2005/10/05(水) 23:08:51 ID:vVvnnpSU
「あれ?」
ドクロちゃんがついに青年と対面しました。
彼の名前はアーヴィング・ナイトウォーカー。武器は強力な対戦車狙撃銃を持っています。
どうか何事も無く、少しの会話を済ませて分かれますように──!
「お兄さん、だぁれ?」
明らかに常人の姿ではない彼にドクロちゃんは無邪気に話しかけます。
もうドクロちゃん! よく見てよ、銃で撃たれてるっぽい怪我に左腕がフックだよ!?
「え、あぁ…君は?」
「もぉ──っ質問に質問で返しちゃ駄目だよ♪」
「そう…だね。俺は──」
「ボクは三塚井ドクロ! ドクロちゃんって呼んでね!」
「え?」
ああああ! もうこのアホ天使! 話を問答無用で進めたら駄目でしょっ!
僕は何もできずこの青年が修羅モードを発動させないかハラハラ見ています。
「お兄さんはこんなところで何をしてるの?」
「俺は、ミラって女の子を探してるんだけど…君は知らない?」
「ミラちゃん……? うーん知らないような知らないような……」
知らないんじゃないかい!
僕の音速ツッコミも誰にも聞こえないと少々切なくなります。
「知らないのか……なんでどこにも居ないんだろうな……」
"壁神経超融合"が彼から立ち上る異様なオーラを感知しました! ドクロちゃん逃げて!
あああ! もうこんなときにこの天使は呑気に顎に手をやって名探偵おうムルみたいな表情をしています!

546♪なんにも出来ないバット愚神礼賛♪:2005/10/05(水) 23:09:42 ID:vVvnnpSU
「どうしてだろう……」
「うん! よく分からないけど、困ってるならボクが手伝ってあげるよ──」
その瞬間、殺人者の手に凶悪な対戦車狙撃銃が出現しました! ドクロちゃんは気づいてません!
「そしてこの愛の天使によってめぐり合った2人は!」
<ばぁん!>爆竹一箱を一点集中させたような破裂音と共に音速の弾丸がドクロちゃんの体めがけて放たれました──
いつの間にかシームレスパイアスを握ってたドクロちゃんは目を閉じながら自分の演説に聞き入ってます!
しかしその演説の手振りなのでしょうか、ドクロちゃんが音速を超越する速度でバットを振りました。
<かきぃぃん!>
丁度その振られたバットが狂気の弾丸にジャストミート。弾丸は半ば形を変形させつつ近くの僕の体に突き刺さりました!
岩盤を突き破った弾丸は僕の体内で瞬時に分解、あたりの地質に豊富な鉛と鉄分を加えて消えました。ビバ鉱物資源。
「あれ、おかしいな……なんで死なないんだろう」
<ばぁん!><ばぁん!><ばぁん!>連続で狂気の凶器がドクロちゃんの体を血の華に変えようと襲いきます。
「2人は! 愛し合う2人は! 出会い、無事の再開を喜んで抱き合い!」
<ぎぃん!><かっ!><びしっ!>ドクロちゃんは再び全てを弾きます。しかもは弾いている本人は状況を理解していません。
彼女は脳内で展開されてるスペクトルに熱中です。この危険極まりないソニックブーム発生させているスイングなど言わばオマケ!
それらを全て左手一本でやってのけるのがドクロちゃんの脅威です。腕相撲したくないランキングがかなり高いです。
一方ドクロちゃんに弾丸を弾き返された彼は何の不幸か、対戦車狙撃銃に跳ね返った銃弾が直撃しました。
発射された初速以上の速度で跳ね返ってきた銃弾は狙撃銃を完全粉砕、さらに暴発まで起こして彼の唯一の右手を吹き飛ばしてしまったのです!
「あ、あぁ…う、痛、い……」
「そしてその後2人は! もう──お兄さんのえっち!」
ドクロちゃんがはぢらいから3m前にいる両手を失った青年に向かってシームレスパイアスを投げつけました。
エレベーターでブザーが鳴ると真っ先に睨まれそうなバットは、ミサイルのように青年に頭に一直線!
「────」
思わず先端が水蒸気爆発を起こすほど加速したバットは有無言わず空間ごと青年の頭を<がうん!>と消滅させました。
青年の頭が明らかに元より質量が少ないパーツに分かれて、シームレスパイアスは僕の体こと壁に根元まで突き刺さりました。
最後に彼は何か言おうとしていました。しかしそれは大気を切り裂き、生命を一瞬で有機的な肥料に変えてしまう一撃に阻まれて聞こえませんでした。

547♪なんにも出来ないバット愚神礼賛♪:2005/10/05(水) 23:10:42 ID:vVvnnpSU
「あ、ああ──! ごめんなさいっ!」
青年は完全に肩の上が無くなり、時々筋肉の収縮で動くスプラッタな物体に変わってしまいました。
ドクロちゃんは壁に突き刺さったバットを片手で引きずり出します。痛てててててて! もっと優しく!
突き刺さってたシームレスパイアスには傷一つついてません。恐らくドクロちゃんの天使パワーでしょうか。

「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー♪」

ドクロちゃんがバットをチアリーダーのようにくるくる回転させ魔法の擬音を唱えます。
しかし魔法の擬音の効果は、突き刺さった僕のクレーターを治しただけで、頭部が完全に消失している彼の死体はぴくりともしません。
それどころか彼の飛び散った死肉と血漿から新しい生命が、植物の芽がぽこぽこ生えだしました。
「あれぇー? 何でかな?」
もう忘れたの!? ドクロちゃんの天使の不思議パワーが弱まってるし、それはエスカリボルグじゃないでしょ!
「どどど、どうしよう! このままじゃお兄さんの体から妙に色の赤い花が咲いちゃうっ!」
そもそも天使力の弱まった今じゃあ完全復活させるのは無理じゃあ……
ちょっと待てっ! 復活させられないドクロちゃんって、ものすごくデンジャラス。
彼女は愛用のバットが何でも出来ちゃうバットじゃないことを思い出して納得したような顔になりました。
「ボボボク、エスカリボルグ探してくるからお兄さんちょっと待ってて!」
ドクロちゃんはシームレスパイアス軽々担ぎ上げて、今度は勢いよく走り出しました。
しかし以前負傷した左足のせいで思いっきりすっ転びます。
「きゃうん! いたぁ──い……もぅ桜君ボク初めてなんだからもっと優しく……」
意味不明な寝言を呟きつつドクロちゃんは歩き出しました。
どうやらさっきのぴぴるで傷がまた少し塞がったようです。天使の異常な回復力も加担しているのでしょうか。
僕はその場に残された哀れな青年の死体に黙祷を数秒捧げ、意識はドクロちゃんを追い始めました。

──これは、ちょっぴりバイオレンスだけど悪気のない天使ドクロちゃんが繰り広げる、愛と親切さと少しバトルロワイヤルな物語。

548♪なんにも出来ないバット愚神礼賛♪:2005/10/05(水) 23:11:47 ID:vVvnnpSU
【E-1/地下通路/1日目・14:40】
【アーヴィング・ナイトウォーカー:死亡】残り72人

【ドクロちゃん】
[状態]:左足腱は、歩けるまでに回復。
     右手はまだ使えません。
[装備]: 愚神礼賛(シームレスパイアス)
[道具]: 無し
[思考]: エスカリボルグを探さなきゃ!

549懲りない彼女 修正  ◆MXjjRBLcoQ:2005/10/06(木) 12:29:04 ID:pBSSTsig
かなり遅くなりましたが、懲りない彼女の修正版です、後半部を以下に差し替えてください。

 さて、場面移してここは港町である。
 ドッグからも中心街からも比較的離れた南部の住宅街、ここにもやはり人影は見えない。
 建売の住宅が疎らに並び、木造漆喰の平屋と融合している様は、実に懐かしき田舎島の情景といえる。
 だだ家々に明かりは灯らず、犬猫だけが町を闊歩する様は、耳を澄ませば終末の呼び声が聞こえてきそうだ。
 そんな町の一角で、煌煌と照らす蛍光灯の元、再生機から教育シリーズ日本の歴史DVD第一巻を第二巻へと
差し替える影があった。
 誰かは語るべくもない。
 ドイツはグローワース島が領主ゲルハルト=フォン=バルシュタイン子爵である。
 手分けをする意味だろうか、西へと赴くEDと別れた後、彼は先ほどの港町に舞い戻ってきたのであった。
 収穫は無かった。エネルギーの残量を考えれば骨折り損とも言える。
 すでに赤銅髪の青年は去っていた。港の南部は死体ばかりが目立った。
 14:30を過ぎ、雨は銀河をひっくり返したように降り注いだ。
 黒い空に、光は一片たりとも望めなかった。
 適当な住宅へと侵入し、彼はそれ以上の行動を全て放棄した。すなわち雨宿りである。
 幸いにも住宅は生きていて、電気も水道も、電波やガスさえその営みを止めていない。
 コンロはひねれば紅茶が沸かせた、リモコンを押せば心地よい音楽が流れる。
 ゲルハルト城には及ばないながらも、島のなかでは群を抜く快適空間であった。
 そして現在に至るという具合である。
 ディスクの入れ替えはほどなく終わった。子爵の念力がスイッチをたたく。
 がしょん、と音を立ててDVDが飲み込まれた。そして、
 がしょん、と音を立てて、わずかに遠くで雨戸が閉まった。
 子爵はあわてた風もなく、付けたばかりのDVDとテレビを止めた。
 照明を落とせば、カーテンの閉められた隣家から、わずかに光が漏れている。
 明かりをつけた住宅は誘蛾灯、つまりはそういうことであったのだ。
 荷物を放置し、子爵はおもむろに窓を開けた。
 無風であった。
 豪雨の中に隠れ潜む邪悪と静寂が、子爵をその場に押しとどめた。
 不吉の気配、とでも言えばいいのであろうか、圧倒的な存在感が虚空に深く根付いていた。
 彼ははしばしその場に立ち竦む。
 空はいよいよ重く、あるいはこの雨は、それらを押し流そうといているようにも見えた。

550懲りない彼女 修正  ◆MXjjRBLcoQ:2005/10/06(木) 12:29:53 ID:pBSSTsig
 さて、隣家は比較的大きなもので、軒には宿の文字があった。
 窓は多くが規則正しく並んでおり、足音がそれらを順にめぐっている。何者かが部屋を検めているのであろう。
 子爵は玄関を避け、裏口から三和土へと回り込んだ。裏では給湯器が起動しているのか、かすかに熱気が漂っていた。
 三和土はよくよく使い込まれており、かすかに煤と魚の臭いが残っている。
 そこを上った先は八畳間となっていた。おそらくはダイニングとして使われていたのであろう。
 背の低いテーブルが中央に鎮座し、そしてその上に少女が一人。
 見知らぬ少女であった、意識はなく、しかしその幼い顔に笑みは絶えない。
 ふむ、と小さく血文字が浮かび上がった。小波のように揺れるそれには、逡巡の色が濃く映る。
 子爵の知覚は魂を見る。少女の深淵を覗き見たのかもしれない。
 いまださざめく子爵は、その手をそっと少女に伸ばし、足音を捕らえて三和土へとさがった。
 あたりを見渡すように蠢いて、竈の中に隠れこむ。
 乱入者は女であった。
 ふむ、とふたたび文字が浮かぶ。
 女は子爵の見知らぬ、しかし心当たりのある者だった。
 長身の女。吸血鬼。胸ポケットには火傷を避けるためか、ハンケチーフで包れたロザリオ。
 子爵の聞いた特徴に符合する。
 吟味の間も、女は忙しそうに動き回った、廊下を行ったりきたり、そして浴衣とタオルを抱えて戻ってきた。
 電子音が響き、女が後ろを振り仰いだ。風呂の合図である。
 女は優しくかつ邪に笑った。膝を突き、横たえた少女そのカーディガンの裾に手をかける。
 少女の細い腹と、形のよい臍が覗くいた。
【まぁ、待ちたまえ】
 子爵の赤がその上を走る。
 それは紳士としてか、決意の表れか。子爵は女の眼前へ、ついにその姿を現した。
 女は果たして、この現象をどう捉えたのであろうか? 
 腰を落とし少女を抱き上げあたりを警戒し周囲を探る様は、その事実を知るものには滑稽ですらある。
 子爵はさらに呼びかけた。
【落ち着きたまえ、ここに余人はいない、そして、私は隠れてなどいない。これが、この血液が! 私の現身である。
 信じる信じないは君たちの自由だが、私にはこの身体しか意思伝達の手段がないのでね、しばし辛抱してくれたまえ。
 いずれ理解にも達しよう】
 漆喰の壁すら赤い液体、子爵にとってはノートである。
 その筆術はいかなる技か、文字配列の緩急が、その大小が、女に会話の錯覚すら与る。
【いや、驚かせてすまなかった。私はドイツはグローワース島が前領主ゲルハルト=フォン=バルシュタイン子爵!
 市政こそ既に委ねたが、21世紀も今なおかの地に君臨する紳士であり、ご覧のとおり吸血鬼である! 
 いや、すまない冗談だ】
 女の柳眉が釣りあがるよりも早く、子爵は次の言葉を言い放った。
【まぁ、君の同胞であることも元領主の身分も真実だがね】
 その言葉に、幾分落ち着きを取り戻したのか、女はしかししかと少女を抱えて、子爵と対峙した。
 もっとも、彼は他人の警戒を歯牙にかけるような男でもない。優しく諭すのみである。
【私は紳士だ。暴力に訴えるような真似ははしない。最も、この身体ではそれも叶わないが……
 とりあえず、私は君が血を吸うことも、配下を増やすことも咎めるつもりはないことを理解してほしい。
 君より遥か昔に生を受け吸血鬼となり、それから数百年の時を生きてきた、
 中には奇麗事の言えない時代を過ごしたこともあったとも】
 血液が、ふ、と細く伸びる。おそらく、それが彼の「遠い目」なのだろう。
『表情』は一刹那に消え、血文字がすぐに、先ほどと同じ調子に紡がれた。
【ともあれ私が君に望むことはそう多くない。繰り返すが私は、おせっかいと無干渉を身上とする紳士で、吸血鬼だ。
 いかに君が多くの者の血を吸ってきたとしても、私はそれを責める気も罰する気もない!】
 そこで子爵は言葉を止めて、少女の手に触れる。
 少女の肌にその赤は、不吉なほど良く映えた。
【だいぶ冷えているね、早くしたほうがよいようだ。一つでいい、質問をすることを許して欲しい。
 他は君達の湯浴みの後にしよう。
 なに、そう難しいものではないよ、あるいは答えてくれなくてもそれは一向にかまわない】
 あごに手を添える仕草、一拍の間、そして
【貴女は佐藤聖嬢で間違いはないかね?】

551懲りない彼女 修正  ◆MXjjRBLcoQ:2005/10/06(木) 12:34:12 ID:pBSSTsig
【D-8/民宿/1日目/16:00】
【Vampiric and Tutor】

【十叶詠子】
[状態]:体温の低下、体調不良、感染症の疑いあり。外見的にもかなり汚い。
[装備]:『物語』を記した幾枚かの紙片 (びしょぬれ)
[道具]:デイパック(泥と汚水にまみれた支給品一式、食料は飲食不能、魔女の短剣)
[思考]:???

【佐藤聖】
[状態]:吸血鬼化完了(身体能力大幅向上)、シャナの血で血塗れ、
[装備]:剃刀
[道具]:支給品一式(パン6食分・シズの血1000ml)、カーテン
[思考]:身体能力が大幅に向上した事に気づき、多少強気になっている。
    詠子の看病(お風呂、着替えを含む)
[備考]:シャナの吸血鬼化が完了する前に聖が死亡すると、シャナの吸血鬼化が解除されます。
    首筋の吸血痕は完全に消滅しています。
16:30に生存が確認(シャナの吸血痕健在)されています。

【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン(子爵)】
[状態]:ややエネルギー不足、戦闘や行軍が多ければ、朝までにEが不足する可能性がある。
[装備]:なし
[道具]:なし(隣家に放置)
[思考]:聖にどこまで正気か? どこまで話すべきか?
    アメリアの仲間達に彼女の最後を伝え、形見の品を渡す/祐巳がどうなったか気にしている
    EDらと協力してこのイベントを潰す/仲間集めをする
    3回目の放送までにEDと地下通路入り口で合流する予定 
[補足]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません。
    この時点で子爵はアメリアの名前を知りません。
    キーリの特徴(虚空に向かってしゃべりだす等)を知っています。

552 ◆MXjjRBLcoQ:2005/10/06(木) 12:55:58 ID:pBSSTsig
貼る場所間違えました、ほんとに申し訳ないです。

553霧の町 黄昏の道 ◆685WtsbdmY:2005/10/08(土) 16:50:47 ID:sgEbU7iY
「今度は、手を離さないで」
「…はい」
 差し出した手を握る少年の手を握り返し、フリウは歩き出した。
(あたしが、守らないといけないんだ)
 潤さんはいない。
 チャッピーはもとより、要が戦えるとは到底思えない。
 自分が硝化の森に初めて入ったのは十二の時。互いの身の上話などはしていないが、少年の年齢がそれにすら届かないことは容易く知れた。
 おそらく、十かそこらといったところだろうか。
(四年前くらいかな…)
 ふと、自分が少年と同じ年のころを思い出そうとしてみた。しかし、その記憶はぼんやりとかすみのようなものに覆われていて、いくら覗き見ても判然としない―まるで、今の自分たちの姿のように。
 それよりも、
 父に守られ、初めて森に足を踏み入れたあの日からの二年間。追いつくことのない背中。
 “殺し屋”ミズー・ビアンカとの出会い。自分が壊し、サリオンにつれられて後にした故郷。
 牢からの脱出。差し伸べられた手。二人旅。狩り。
 精霊使い、リス・オニキス。彼に導かれて進む帝都への旅。
 そして…精霊使いになった夜。
 それらの情景が、浮かんでは消えていく。
 あの、近いようで遠い日々、自分は誰かに守られてばかりだった。
 けれど、今は違う。自分は、もう、泣くことしかできない子供ではない。
 ならば、一人の精霊使いとして…
(あたしは、あたしの役目を果たす。潤さんたちが戻るまで、二人のことはあたしが守る)

554霧の町 黄昏の道 ◆685WtsbdmY:2005/10/08(土) 16:52:26 ID:sgEbU7iY
(…汕…子)
 触れた指の感触は、自分にもっとも近しい者の名を想起させた。
(…傲濫…驍宗さま)
 驍宗。一度その名が浮かんでしまうと、わきあがる思いを抑えることはできなくなった。
 異常な状況に対する恐怖、孤独、死への不安、他者への気遣い。
 そういったもろもろの感情の下に隠されていた―いや、むしろ無意識のうちにおしこめていたのかもしれない―思いが、踏み出す一歩ごとに要の中で形をとり、大きく膨れ上がり始めた。
 悲嘆ではない。ただひたすらに驍宗の元に帰りたい、帰らなければいけないという強い意志、ただそれだけに体の全てを支配される。
 …帰らなければ。
 でも―。

  要の額の一点―そこには麒麟の妖力の源たる角がある―に集まった熱は、得体の知れない何かに阻まれ、形をとれずに霧消する。
 
 どうやって?

  髪も、服も、空気も。湿って重くなり、体にまとわりついてはなれない。

555霧の町 黄昏の道 ◆685WtsbdmY:2005/10/08(土) 16:53:32 ID:sgEbU7iY
 名を呼ぶ声に、要はあわてて顔を上げる。いつのまにやら足が止まっていたようで、連れの二人が心配そうに顔を覗き込んでいた。
「どしたの? 何かあったの?」
「ごめんなさい。なんでもないの」
 こちらを見上げる子犬にも、大丈夫だよ、と声をかける。
 二人ともそれで納得ができたわけではないのだろう。しかし、問い詰めても無駄だと判断したのか、それ以上は何も聞こうとしなかった。
 フリウはかすかな苛立ちや、気遣い、そういった思いのない交ぜになった表情を浮かべると、要の顔から視線をそらした。
「じゃあ、行くよ。学校はすぐそこだし」
 言って、歩き出した。その手に引かれるようにして、要もまた歩き出す。

 要は深く息を吸って、吐き出した。そうすることで、気持ちを落ち着かせる。
 帰還への意志は、一向に消えることなく心の中に残っていた。しかし、一度明確に認識してしまえば、それによって周囲の状況を忘れてしまうということもない。
 たとえ一時といえど、立ち止まり、連れをも危険にさらしたことを要は恥じていた。
 自分は何もできない。それでも、自分のために。そして、ここで出会えた人々の気持ちに応えるために、しなければならないことがある。
 だからこそ、「頑張ろう」と気持ちを固め、行動に移した。それなのに、先程は…。

 戦うことのできない自分のために、二人をこれ以上の危険にさらしてはいけない。

556霧の町 黄昏の道 ◆685WtsbdmY:2005/10/08(土) 16:54:39 ID:sgEbU7iY
「わっ!! とっと」
 フリウしゃんが声を上げて、ボク、後ろを振り向いたデシ。フリウしゃん、要しゃんがいきなり立ち止まったから前につんのめっちゃったんデシね。
「要?」
「要しゃん? どうしちゃったデシか?」
 前に回り込んでボクが聞くと、要しゃんも気づいたみたいデシ。一瞬きょとんとした顔をしてボクを見ると、フリウしゃんの顔を見上げるデシ。
「どしたの? 何かあったの?」
「ごめんなさい。なんでもないの。…大丈夫だよ、ロシナンテ」
 こっちを向いて、ボクに声をかける要しゃん。けど、顔色もあまり良くないし、なんだか心配デシ。
「じゃあ、行くよ。学校はすぐそこだし」
 フリウしゃんがそう言って、また歩き出すのについてくデシ。
 さっきは要しゃん、いきなり立ち止まっちゃって、ちょっとビックリしちゃったデシ。
 本当は学校までもう少しかかるはずデシ。危険が危なくはないみたいデシけど、気をつけなきゃデシ。
 …あれ?なんか変デシ。
 さっきの人来たとき、ボク、何にも気づかなかったデシ
 もしかして悪い人じゃなかったんデシか?ボク、よくわかんないデシ。
「チャピー、そこにいる?」
「はいデシ」
 周りは、霧で真っ白デシ。暗くなってきてるし、きっと、要しゃんのむこうを歩いているフリウしゃんからだと、ボクのことよく見えないんデシね。
 ずっと前にもこんな霧見たことあるデシ。その時は朝だったデシけど。
 あれは…たしか、復活屋しゃんのところに行く途中だったデシか?
 …
 …
 アイザックしゃん、ミリアしゃん、潤しゃん。
 これでお別れだなんて…ボク、いやデシよ。
 ボク、あきらめないデシから。

 だから、必ず待っててくださいデシ。

557霧の町 黄昏の道 ◆685WtsbdmY:2005/10/08(土) 16:59:06 ID:sgEbU7iY
【C-3/商店街/1日目・17:59】 

『フラジャイル・チルドレン』 
【フリウ・ハリスコー(013)】 
[状態]: 健康 
[装備]: 水晶眼(ウルトプライド)。眼帯なし 包帯 
[道具]: 支給品(パン5食分:水1500mml・缶詰などの食糧) 
[思考]: 潤さんは……。周囲の警戒。 
[備考]: ウルトプライドの力が制限されていることをまだ知覚していません。 


【高里要(097)】 
[状態]:健康 
[装備]:なし 
[道具]:支給品(パン5食分:水1500mml・缶詰などの食糧) 
[思考]:二人が無事で良かった。 とりあえず人の居そうな学校あたりへ 
[備考]:上半身肌着です 


【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】 
[状態]:前足に浅い傷(処置済み)貧血 子犬形態 
[装備]:黄色い帽子 
[道具]:無し(デイパックは破棄) 
[思考]:三人ともきっと無事デシ。そう信じるデシ。 
[備考]:回復までは半日程度の休憩が必要です。

558霧の町 黄昏の道 ◆685WtsbdmY:2005/10/08(土) 16:59:46 ID:sgEbU7iY
なお、時間は本スレッドPart6.315〜320の「濃霧は黙して多くを語らず」の最後の段落。もしくはそれとその前の段落との境界部分です

559危険に対する保険 ◆685WtsbdmY:2005/10/09(日) 15:04:29 ID:pSQa79Ko
―エリアC-4
 霧の中を歩く、小さな影があった。
 民族衣装である毛皮のマントを羽織ったその姿は、見もまごうことなくマスマテュリアの闘犬―ボルカノ・ボルカンその人だった。

 さて、彼はなぜこんなところにいるのだろうか?
 奇矯な男をどうにかあしらい、偶然発見した  から外に出た後は、とりあえずG-4あたりの森に潜伏していた。
 しかし、彼は不屈の―というより懲りない―男だったため、地図に商店街という文字を見て何か金目のものでも無いかと見に行くことを決心したのである。
 昼過ぎ、雨が降り始める直前にE-5に移動。D-5周辺では罠に引っかかりもしたが、たまたま知人特有の頑丈な頭蓋骨に滑って軽傷ですんだ。
 雨が降っている間も森の中を移動し、暗くなるまではとD-4で出て行くのに都合のよさそうな時間を待った。
 実は、結果的に神父と似た経路を、大きく寄り道をしつつ後から追う形になっているのだが、当の本人には知る由も無い。
 その後は、霧が出てきたところで森を抜け商店街に向かったのだが、方向を見失ってこのあたりに来てしまったのだ。

560危険に対する保険 ◆685WtsbdmY:2005/10/09(日) 15:05:11 ID:pSQa79Ko
霧のむこうに、ボルカンは黒い、大きな影を見た。
 近づいてみると、それはソファ、冷蔵庫、机など。雑多な家具や調度品でできた小山だった。
 どうやらすぐそこのビルから投げ落とされたものらしく、落下の際の衝撃で破壊されているものもいくつかある。
 何を思ったか、ボルカンはそれをよじ登り始めた。少々の運動の後に頂上にたどり着く。そして、
「はーはっはっはっはっはっはっはっは」
 哄笑する。特に意味はない。
 意図していたのかいないのか、西の方角を向いていたので、霧さえ出ていなければ夕日を正面から浴びていたことだろう。
「はっはっはっは…は?」
 と、そこでボルカンは笑うのをやめた。何か物音が聞こえてくるような気がしたからだ。
 耳を澄ますと、ふもっふぉふぉふぉ、と聞こえるが、くぐもっていていまいち判然としない。
「これは俺様の声ではないが、ここには俺様しかいないのであるからして、つまりは俺様の声ということに…」
 ボルカンはそこで言葉を止めた。いつのまにやら不気味な音声(?)はやみ、それに変わって足元からは激しい振動が伝わってくる。
「うむ、地震か!? まずは机の下に隠れろ!!」
 頭上に何もないのに机の下に隠れる必要など当然ないのだが、いつもならその辺を指摘するはずの弟は、彼のそばにはいない。
 そして…突然

561危険に対する保険 ◆685WtsbdmY:2005/10/09(日) 15:05:54 ID:pSQa79Ko
「ぬおおおおおおっ!!」
 足元で起こった爆発に、家具の残骸と一緒くたになって宙を舞う。しばしの空中散歩の末に、頭から地面に突き刺さった。
 その逆転した視界の中央―先ほどまでボルカンの立っていた場所―で何者かがゆっくりと立ち上がるのが見えた。
 “それ”は、ふもふぉ…、と何かをつぶやきかけたが、一瞬動きを止めると全身に力をこめる。
 すると、ぼろぼろになったベルトやら金属部品やら、かつて“ポンタ君”と呼ばれしものの残骸がはじけ飛んだ。
 そして…
「おのれ、あの非国民め!!このあたくしを突き落とすだけでは飽き足らず、頭上から塵芥まで降らすとは、無礼千万、売国朝敵、欲しがりません勝つまでは!!
 けれど正義の味方は死ななくてよ。をほほほほほほほほ」
 着ぐるみの残骸の中から青紫色の巨大な影が姿を現した。本人は「正義の味方の美しき復活」と思っているようだが、傍から見ればまるっきり「大怪獣出現!!」である。
 なお、彼女の身にまとうチャイナドレスは最高級の絹で織られている。そのため、哀川の置き土産である細菌兵器は文字通り単なるプレゼントと化し、疲労の回復のみを彼女にもたらした。後は右腕さえ完治すれば万全の状態である。
 謎の怪物の哄笑を聞きながら、ボルカンは勢いよく跳ね起きた。
「貴様!! この民族の英雄、マスマテュリアの闘犬ボルカノ・ボルカン様を吹き飛ばし、あまつさえ地面に突き刺すなど、言語道断問答無用!! 霧吹きで吹きかけ殺されるのが必定と…」
 どうやら、妙な対抗心を起こしたらしい。支給品のハリセンをつかみ、(元)小山の上の影に向かって吼える。
 しかし、怒鳴られたほうはまったく表情を変えず、ボルカンに向かって歩き出した。身の丈は約190センチ。重量にして優に100キログラムを超える巨体が、ハリセンを構える身長130センチそこそこの地人族の少年の前に立ちはだかる。
「…ええと…当方としましては…つまり…」

562危険に対する保険 ◆685WtsbdmY:2005/10/09(日) 15:10:32 ID:pSQa79Ko
「ふんっ」
 最初の勢いはどこへやら、口ごもるボルカンを無視して怪物―天使のなっちゃんこと小早川奈津子―は鼻から息を吹き出した。
 同時に左腕を突き出し、下から掬い上げるようにしてボルカンの顔面を打つ。
 比喩ではなく殺人的な威力の拳がボルカンの顔面にめり込み、彼は再び宙へとたたき上げられた。
 身長の数倍に相当する距離を垂直に移動し、同じだけの距離を落下する。
 その体が地面に届かないうちに頭部を蹴り飛ばされ、ボルカンは大地に転がった。
「をっほほほ。マスマテュリアだかマンチュリアだか知らないけれど、大和民族の誇りに敵う訳は無くてっよ」
 そして、ひとしきりあの奇っ怪な哄笑をあげると自分の姿をしげしげと見回す。
「さてと。この身を守る鎧も壊れてしまったことだし、なにか武器が必要だわね」
 言って、何か武器になりそうなものでもないかと、先程自分が蹴り飛ばした相手の元に向かう。
 ボルカンを足元に見下ろして小早川奈津子は眉を顰めた。霧のせいでそれまで分からなかったが、足元に転がっているオロカモノは生きていた。
 熊すら一撃で葬り去れるような打撃を二度も頭部に受けているというのに、首の骨どころか鼻すら折れていない―もっとも、さすがに額が割れて血が流れ出るくらいのことはしていたが。
 使えそうな武器が何もないことを見て取ると、小早川奈津子はそのまま歩き出そうとして、そこで、動きを止める。
 もう一度ボルカンを見下ろして考え込むようなそぶりを見せた。
 その目が怪しく光る。


 一方、危険に対する保険その一といえば、自分を待ち受ける運命も知らず、ただひたすらに気絶していた。

563危険に対する保険 ◆685WtsbdmY:2005/10/09(日) 15:11:16 ID:pSQa79Ko
【C-4/商店街/1日目・17:30】 

『天使のなっちゃん無謀編(つまりは日常)』 
【小早川奈津子(098)】 
[状態]: 全身打撲。右腕損傷(殴れる程度の回復には十分な栄養と約二日を要する)生物兵器感染  
[装備]: コキュートス 
[道具]: デイバッグ(支給品一式)  
[思考]: これは使えそうだわさ。をほほほほ。 
[備考]: 約10時間後までになっちゃんに接触した人物も服が分解されます
     10時間以内に再着用した服も石油製品は分解されます
     感染者は肩こり、腰痛、疲労が回復します

【ボルカノ・ボルカン(112)】 
[状態]: 頭部に軽傷。気絶。 
[装備]: かなめのハリセン(フルメタル・パニック!)  
[道具]: デイパック(支給品一式) 
[思考]: ・・・・・・ 
[備考]: 生物兵器感染。ただしボルカンの服は石油製品ではないと思われるので、服への影響はありません。

564坂井悠二  ◆MXjjRBLcoQ:2005/10/09(日) 21:54:27 ID:pBSSTsig
「では、君も日本から来たというのかね?」
「ああ。いや、アメリカかもな。テキサスはヒューストン、ER3の本拠だ」
「えっとER3はともかく、その前は京都にいたんですよね」
「いや、神戸のような気もするな、とにかく出身は日本だぜ」
「気もする、か。ずいぶんとご大層な記憶力だね。一度脳の手術をすることをお勧めしよう。二度と忘れ物に悩まれずにすむ。
 で、IAIは知らないと? 私が企画したこのまロ茶もかね?」
「そんな個人情報だだ漏れの面白製品にはお目にかかったこともねぇよ」
「ふふふ、これも愛故に、だよ」
「佐山さん、胸押さえてますけど、大丈夫ですか?」
 あーだこーだと15分。情報交換に始まり、診療所から設備の一部を失敬して、現在は腹ごしらえの最中である。
 食卓の大部分は少年の持ち物であったものだ。
 佐山の視線の先では、藤花が黙々とメロンパンを頬張っている。
 気丈さというよりあの少年の人格の影響だろう、と佐山は思う。
 そう、階下にはまだ少年の亡骸が散乱している。そして食事は血の着いたディパックから取り出したものだ。
 縁とは不思議なものである。
 荷物を検めたおりに、佐山は二枚の地図を見つけていた。魔女の手紙と彼の遺書だ。
 IAI缶詰はなくなっていた。
 一つ食べて捨て置いた可能性もあるが、もし彼がその全てを食べたのだとしたら。
「勇者だ」
 きっと先天的に脳の欠陥があったのだろう。佐山は同情と敬意をもって呟いた。
「いや、いきなり誰がだよ」
 心持ち怪訝な顔で突っ込む零崎を、佐山は手振りでこちらの話だ伝える。
「なに。なんでも美味と感じるのはすばらしいことだと思ってね、私は真っ平だとも。
 ともかく、これからの指針を確かめたい。先ずは行動か、留まるかだ」
「留まる、てのが引っかかるな、じっとしてるのは性にあわねぇ」
 零崎は辟易と答える。
「私もここにいるのはちょっと……」
「だろうね」
 そこで佐山は言葉を止めた。
 盗聴はすでに話してある。ここはこちらの意図を嘘と真実で図られないことが肝要だろう。
 現に彼は零崎君に殺された、まだ即殺害のレベルではない。
 佐山は決定した。
「さらにここで一つの選択がある。さて、この地図を見てほしいのだが」
 佐山は古びた地図をテーブルの中央に差し出し、みなの注目を確認し裏返した。
「下の彼の遺書だ。これによると彼は人間でなく、さらには世界脱出の鍵となりうるらしい。
 常識的にみると……誇大妄想も甚だしいね。自分を特別だと直感する思春期特有の症状が見て取れる」
「へ、俺にしてみればあんたもご同類だぜ」
「零崎君、茶々を入れるのはやめてくれ給え。中心は唯一つの特異点なのだよ。私が特別でない理由が見えない」
 やれやれと佐山は首をすくめた。
「話を戻してよいかね。特別なのは彼ではなく、彼がその身に蔵するといっている「零時迷子」と呼ばれる秘宝だそうだ。
 突拍子もない話だが、魔女が現れ、殺人鬼が誘拐される世界だ。もし彼が真実を言っている場合を考えよう。
 彼の仲間に会ったときもあわせて、このことは格好の交渉材料と成り得る。手放すのは愚かだと私は思ってるのだが」
 佐山の顔が零崎を向き、藤花を向き、
「皆の意見を聞きたいね」
 反り返るように椅子へ身を預けた。
「あの」
 おずおずと、藤花が手を挙げる。
「男の子一人って、結構重いと思うんですけど」
 遠慮がちな彼女に、佐山はあくまで不遜に答える。
「それぐらいは考慮の内だよ、藤花君。こう見えてそれなりに鍛えている。血液の抜けた高校男子程度なら問題ない。
 零崎君も異存はないかね?」
「異存はな、しっかし誘導癖といい戯言といい、どっかの欠陥製品そっくりだぜ」
「私にそっくりという表現を用いるのはやめてもらいたいね、私と本人の両方に対する侮辱だよ。
 賠償金は100万でも足りないな。次があれば、現実に帰還した際には法廷に持ち込ませてもらうので覚悟してくれたまえ。
 ともかく我々の目的は人と会うことだ、消耗を避けるて屋内に避難している者を探そうと思う」
 佐山の指が地図の上に止まり、港町を中心にぐるりと円を描く。
「もう一度聞くが異存はないかね」

565坂井悠二  ◆MXjjRBLcoQ:2005/10/09(日) 21:55:20 ID:pBSSTsig
 人体がぶちまけられた部屋というのはとにかくひどい匂いがするので一発でわかる。
 明かりを見つけ、たどり着いたのは診療所。
 ベルガーの言葉に幾分落ち着きを取り戻したのか、シャナもベルガーを待って診療所のドアを開けた。
 現場というのはいつだって陰惨なものだ。
 採血をひっくり返したというのならどれほど安心できるだろう。
 曲がりそうになる鼻を押さえて、まだ彼は白い壁へと背を預ける。
「ゆう、じ、」
 呟いて、シャナは血の海に足を踏み入れ、うつむいた。
 何かがごろりと転がった跡が、彼女の目の前に空白として残っていた。 
 たまらないな、首を振ってベルガーは、壁から身を起こし、奥へと向かう。
 入り口とは対照的にきれいなままな覗いた休憩室を横目に覗き、診察室へ。
 そこには明確に捜索の痕跡があった。棚の空け方、不要物の扱い、手本どおりの捜索が行われたかがよくわかる。
 調べれば何かの痕跡はつかめるだろうがなにぶん時間がない。
 ポケットの中で携帯をもてあそびながら、ベルガーは待合室へと引き返した。
 途中、もう一度、休憩室を覗く、ゴミ箱は空、テーブルも椅子も自然な行儀よさで並んでいる。
 何となしに、休憩室に入って、ベルガーは気づいた。
 生活臭が、それもほんの数分前まで食事を取っていたような濃密なそれがあった。
 ベルガーは待合室へと身を翻す。 
 シャナは未だ立ちすくんでいた。
 ベルガーは拳を握り締める彼女の横に屈み、指を血溜まりに、すぅっ、と走らせた。
 血はわずかな粘性を持って、彼の一刺し指を朱に染める。
「シャナ、よく見ろ」
 ベルガーが指と指をこすり合わせて見せる、まだ乾ききっていない血液が、指全体に広がった。
「近くに誰か『存在』しないか?」
 シャナも彼の発言の意味を理解する。
「いる、近くで、ここから離れてく」
 頷き、ベルガーは外に出て、エルメスを押して戻ってきた。とスタンドを立てて固定する。
「あれ? お留守番?」
「そうだ。追うぞ、シャナ。俺の後ろ、『存在の力』がわかる程度に離れて追ってきてくれ」
 シャナが眉をひそめる。
「尾行するの? なんで?」
「何も情報がないからだ。悠二は無事か否か、無事でないとすれば大集団か小集団か、戦力規模はどれぐらいか。
 襲撃者に備えてわざと分進している釣りの可能性もある」
 さすがに君が暴走することのないように、とは言わない。
「始終事項ってやつだね」
「二重尾行だ」
「そう、それ」
 告げて、ベルガーは携帯を取り出した。短縮を押してセルティを呼び出す。
 コール10回。
「もしもし?」
 出たのはリナだった。
「リナか? 例の悠二の痕跡を見つけた。これから追うので少し遅くなる」
「え、ちょ、ちょっと待ちなさいよ」
「なんだ?」
「あ、えーと、どれくらいかかる?」
「わからん」
「わからんって、あんたはストッパーなんでしょ、その辺わかってる? ちゃんとその自覚はあるの?」
「君の言いたいことはわかる。が、リナ=インバース、果たして」
「あぁっ、もうわかってるわよ、君なら彼女を止めれるか? ていうんでしょ」
「違うな」
 ベルガーはちらりと横目にシャナを捕らえる。
 疲弊こそしているものの、彼女の頭は先ほどより冷えているように見える。
 今も少しでも情報を引きずり出そうと考えてるように見えた。
 彼女は土壇場で冷静さを取り戻しつつあった、よく訓練された証左である。
 もしかすると悠二に対する感情も、依存というより信頼に近いものだったのかもしれない。
 それらを踏まえてベルガーは応えた。
「俺は彼女を止める不利益を言っている。ここで連れ帰ることはできるがそれで果たしてその後に結束は保てるのか?
 俺の目的は安全の確保などではなく、このゲームからの脱出だ。必要とあらば時には危険な橋も渡る。
 それは君も同じだと思っていたのだが」
 リナが無言を返す。
「では切るぞ、頃合を見てまた連絡する」
 通話を切って、ベルガーは携帯をポケットにねじ込んだ。
「そうだ、血があるんだ」
 と、シャナが唐突に閃いた。
「悠二はトーチなのにこんなに大量の血液が残るなんておかしいのよ」
 シャナと悠二のはじめての接触、彼女は悠二を袈裟懸け切り飛ばした。
「トーチの悠二は血を流さない」
 言い切るシャナに、ふむ、とベルガーは顎をなでる。
「もしこのおびただしい血液が彼のものだとしたら。シャナ、それは実に興味深いことだ。
 だが今は先を急ごう。雨は収まってきているが、入れ替わりに霧がでてきている」
 彼が死ぬ前に、ベルガーはその言葉を飲み込んで、そして一歩を踏み出した。

566坂井悠二  ◆MXjjRBLcoQ:2005/10/09(日) 21:56:30 ID:pBSSTsig
《C-8/港町/一日目・17:10》
『不気味な悪役失格』

【佐山御言】
[状態]:全身に切り傷 左手ナイフ貫通(神経は傷ついてない・処置済み) 服がぼろぼろ
[装備]:G-Sp2、閃光手榴弾一個
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)、地下水脈の地図
[思考]:参加者すべてを団結し、この場から脱出する。  怪我の治療
[備考]:親族の話に加え、新庄の話でも狭心症が起こる


【宮下藤花】
[状態]:健康  零崎に恐れ 
[装備]:ブギーポップの衣装
[道具]:支給品一式
[思考]:佐山についていく


【零崎人識】
[状態]:全身に擦り傷 額を怪我(処置済み)
[装備]:出刃包丁/自殺志願
[道具]:デイバッグ(地図、ペットボトル2本、コンパス、パン三人分)包帯/砥石/小説「人間失格」(一度落として汚れた)
[思考]:気紛れで佐山についていく 怪我の治療
[備考]:記憶と連れ去られた時期に疑問を持っています。

【C−8/診療所/1日目・17:15】
『ポントウ暴走族』
【シャナ】
[状態]:平常。火傷と僅かな内出血。吸血鬼化進行中。
[装備]:贄殿遮那
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
[思考]:聖を発見・撃破して吸血鬼化を止めたい。
    ベルガーをそれなりに信用 
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
     手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。
     吸血鬼化は限界まで耐えれば2日目の4〜5時頃に終了する。
     ただし、精神力で耐えているため、精神衰弱すると一気に進行する。

【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:心身ともに平常
[装備]:エルメス、鈍ら刀、携帯電話、黒い卵(天人の緊急避難装置)携帯電話
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
[思考]:仲間の知人探し。不安定なシャナをフォローする。
 ・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。
 ※携帯電話はリナから預かりました

567 ◆Sf10UnKI5A:2005/10/09(日) 23:52:39 ID:HBjOjtXg
「……ここよ。誰かいる」
「病院、というより町医者か? 随分至れり尽くせりの島だな」
 狭い港町を探索する、ベルガーとシャナの声。
 少し前、シャナは調べたい場所があると言いエルメスを止めさせた。
 ベルガーが物陰にエルメスを隠すとシャナはすぐ歩き始め、少し離れた診療所の前で足を止めた。
「佐藤聖がいるのか?」
「判らない。でも、この感じは多分違う」
 『存在の力』について、シャナはマンションで簡単に説明を済ませていた。感度が鈍っていることも含めて。
 ベルガーが港への強行軍を提案したのも、多少はそれを当てにしてのことだ。
「知らない奴なら情報交換だけして、後は医療品でも貰って帰るか。……開けるぞ」
 シャナが頷いたのを見て、ベルガーはそっと扉を開けて中に入った。
 視界に誰もいないのを確認し、シャナを招き入れてベルガーは待合室へと進む。
 しかし、すぐにその足は止まった。
 もはや“それ”を見慣れたベルガーはわずかに嘆息するだけだったが、
「……悠二……?」
「ッ!?」
(こいつが坂井悠二だと!? よりにもよって最悪のケースか……!!)
 坂井悠二は、腕と首が胴体から離れ、血溜まりの中にその三つを転がしていた。
 切断面から大量に流れた血は、彼にまだらな血化粧を施している。
 目と口は開かれたままで、表情には恐怖が張りついている。
 とても楽に死ねたとは思えない状況だった。

「――――いやあああぁぁぁああぁぁぁぁっっっ!!!」

568 ◆Sf10UnKI5A:2005/10/09(日) 23:53:30 ID:HBjOjtXg
 服が汚れるのも構わずシャナは血溜まりに膝を着き、悠二の頭部を取り上げた。
 開いたままの彼の瞳を覗き込み、泣き叫ぶ。
「悠二っ! 悠二っ!! 何で!? どうして!? 誰が、こんなっ……!!」
「落ち着けシャナ!!」
 ベルガーが横から肩を掴む。が、
「触らないでっ!!」
 叫び、ベルガーの顔も見ずに手を振り払う。
 悠二、悠二と物言わぬ彼の名を呼び、その頭を胸に抱き込んだ。
 胎児が丸まる様の如く悠二の頭を抱きかかえ、そのまま血溜まりにうずくまる。
 炎髪はところどころ血の色に染まり、雨に蒸す室内は血の臭いを増幅させシャナに擦り付ける。
「悠二……悠二ぃ…………」
 そこにいるのは気高きフレイムヘイズではなく、悲劇的な現実をぶつけられた一人の少女。
 想う相手の変わり果てた姿に心乱されるただの少女だった。

 悲惨の一語に尽きるこの状況で、ベルガーはシャナに声を掛けず『観察』していた。
(まだ吸わない、か。吸血衝動よりも、単純に死のショックの方が大きいのか?)
 うずくまったまましゃくりあげるシャナだが、血を飲んでいる様子は無い。
(こんなことになるなら、少しは手加減して殴るべきだったか)
 自分が気絶させた吸血鬼の少女――海野千絵を思い出し、ベルガーは後悔した。
 少しでも吸血鬼自身から情報が得られれば、何か対処法があっただろうに。
 そんなことを思いながら、ベルガーはゆっくりとシャナに近づき、軽く肩を叩いた。
「起きれるか?」
 慰めでも励ましでもなく、まずは状態を確認する。
 シャナは悠二を抱えたまま、ゆっくりと体を起こした。
 蒼白とした顔に血と灼眼だけが彩りを与えている。
 半開きになった口からは犬歯が覗いているが、それに血は付いていない。
「話、出来るか?」
 先ほどまでの強気な態度が欠片も見られないシャナに対し、ベルガーは慎重に話しかける。

569 ◆Sf10UnKI5A:2005/10/09(日) 23:54:13 ID:HBjOjtXg
「ベルガー……悠、二が……」
「落ち着け。確かに死んでいるし、それは悲しむべきことだ」
 ベルガーは更に声を落とし、
「気をしっかり持てシャナ。よく聞け。
――坂井悠二が殺されてから、まだそれほど時間が経っていない」
「え……?」
 全く気づいていなかったという風に、呆然とした顔に驚きを浮かべるシャナ。
「床や壁に飛び散った血でも、乾ききっていないものがある。
それにシャナ、君はここに来る時に『誰かいる』と言ったろ?
その誰かが坂井悠二を殺した犯人の可能性もある」
「悠二を殺した奴がいるの!?」
 突然声を荒げたシャナに、ベルガーは、
「落ち着け! 悲鳴のお陰で、そいつは俺たちに気づいている可能性がある。
既に逃げたかもしれないし、逆に襲い掛かる隙を窺っているのかもしれない。
まずはこの診療所の中を調べよう。その後で、……坂井悠二を弔おう」
 弔うという言葉にシャナはひるんだが、ショック状態から多少は落ち着いたのか頷きを返し、
「……判った。でも私は、悠二のそばにいたい……」
「…………」
 うつむき目を伏せるシャナに対し、ベルガーは返答出来ない。
 今のシャナは不意の襲撃者に対処出来そうにないし、一人でいる間に血を吸われたら面倒なことになる。
 どうしたものかと思うベルガーだったが、すぐに思考する必要が無くなった。

「どうやら落ち着かれたようだね? 侵入者諸君」

570 ◆Sf10UnKI5A:2005/10/09(日) 23:55:18 ID:HBjOjtXg
 別室に続くドアが開かれ、声に続いて奇妙な三人組が入ってきた。
 一人は右手に長槍を持ったスーツ姿。一人は顔の半分を刺青が覆っており、
一人はシャナのものとは違う制服を身に纏った女子だ。
 スーツ姿の少年が前に出て、口を開いた。
「お初にお目にかかる。私は――」
「そこで止まれ」
 少年の言葉を打ち切り、彼へと刀を向けたベルガーが警句を放つ。
 足を止めた少年達とは十歩ほどの距離が空いている。
「それ以上許可無く近づいたら敵と見なす。…………まだ切りかかるなよ」
 最後の言葉は、既に贄殿遮那を手に取っているシャナへの注意だ。
「ふむ、初対面だというのに嫌われたものだね? だが安心するといい」
 そう言うと、少年は槍から手を離し床に倒した。
 槍に浮かんだイタイノ、という意思表示は誰にも気づかれなかった。
「戦う気は無いのでね。まずは話し合おうではないか。
私の名は佐山御言。世界の中心に位置する者である。
………………無反応とは寂しいものだね?」
「悪いが、下らない冗談に付き合うつもりはない」
「それは残念だ。ちなみにこの派手な顔をした不良が零崎君、
後ろのピチピチ現役女子高生が宮下藤花君だ。君達の名は?」
「その前に聞くが、お前らはこの死体に関係しているのか?」
 友好度皆無の剣呑極まりない質問だが、答える声は軽いものだった。
「ああ、そいつは俺がさっき殺した――――そんな怖い顔するなよ。そいつだって悪かったんだぜ?」
 殺した、という言葉を聞いた瞬間シャナは飛び出そうとし、ベルガーに腕を掴まれ阻まれることとなった。
「何すんの」
「三対二だ」
「関係無い」
「俺が困る」
 ベルガーは溜め息を一つ吐き、
「今の最優先事項は、君の吸血鬼化をどうにかすること、そしてそのために佐藤聖を探すことだ。
悪いようにはしないから、ここは俺に任せろ」
 あからさまに不満を顔に出すシャナを無視し、ベルガーは零崎を刀で指し示した。
「その殺人者を置いて消えてくれ。そうしたらアンタら二人には手を出さない」

571 ◆Sf10UnKI5A:2005/10/09(日) 23:56:18 ID:HBjOjtXg
 ベルガーの言葉に対し佐山は眉根を寄せ、
「その申し出は承諾しかねる。なんせ零崎君は私の団結決意後の仲間第一号だからね。
凶刃に晒されると判っていて見捨てることは出来ない」
「団結? 生き残るために殺人者同士で手を組もうってわけか」
「誤解してもらっては困る。私は参加者全てを団結させ、
ゲームを終わらせるために皆力を合わせようと言っているのだ。
参加者同士で争うのは、ゲームを作り上げた者に踊らされていることに他ならない。
生きて帰りたいと思うのならば、まず戦いを止め、手を組むことから始めるべきだ。
現に君達も行動を共にしているではないか。それと同じことだ」
「違うな。俺は単にか弱い少女を一人にはさせておけなかっただけだ。
同行者の友を殺した馬鹿野郎に出くわせば、仇討ちに手を貸すくらいの甲斐性はある」
「目先の仇にこだわるよりも、このゲーム自体を壊す方が先ではないかね?
恨みの連鎖で殺し合いが続くことを一番喜ぶのは誰だ?
――最初のホールにいた連中、そしてこの馬鹿らしいゲームの影で暗躍する者だ!!」
「ッ!?」
 佐山の一喝が待合室の壁に反射する。
 シャナはその言葉にひるみ顔を歪ませたが、一方のベルガーは涼しい顔だ。
「……御立派な正論だ。だが、既に殺人を犯した馬鹿に死をもって報いることがそんなに否定されたことか?」
「目には目を、かね。下らない私怨はゲームが終わった後で晴らしたまえ」
「平行線だな。既に殺さなければ生き残れない人間がいるってことを判ってない。
お前、初めて人を殺したってわけじゃないんだろ? ツラで判る」
 言葉の後半は零崎に向けられていた。
「かははっ、勘がいいねえお兄さん。でもこの島じゃそんなに殺してないんだぜ?
三塚井は手足の腱を切っただけだし、あの兄ちゃんも両腕切り落としただけで逃げられたし、
あのガキは見逃したし……」
 指折り数えつつ、物騒なことを呟く零崎。
 随分と暴れまわっていたようだね、と佐山も呟く。
「あー、やっぱ全然殺してねえって。
結局殺したのは、そこに転がってるそいつとでけえ義腕のオッサンだけだ」

(『でけえ義腕のオッサン』だと……!?)


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