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試験投下スレッド

1管理人◆5RFwbiklU2 :2005/04/03(日) 23:25:38 ID:bza8xzM6
書いてみて、「議論の余地があるかな」や「これはどうかなー」と思う話を、
投下して、住人の是非をうかがうスレッドです。

186Walking on the Blade </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/10(火) 00:31:12 ID:.pSpfsu2
【D-6/教会/1日目・12:00】

【アシュラム】
[状態]:健康/催眠状態
[装備]:青龍堰月刀
[道具];冠
[思考]:美姫に仇なすものを斬る

【パイフウ】
 [状態]右掌に浅い裂傷(処置中)、左鎖骨骨折(処置中)
 [装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない) 、メス
 [道具]デイバック(支給品)×2
 [思考]1.傷が治るまで休息 2.主催側の犬として殺戮を 3.火乃香を捜す

187未定  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/11(水) 01:15:13 ID:Hw7b583Y

(目標は単独で5人の暗殺、武器、弾薬の補給はなし、
制限時間は6時間、失敗すれば…彼女が死ぬ。)
相良宗介はさっきまでいた住宅街に戻っていた。
前に来たときに大体の地理は把握していた、
隠れるものも多く、人がやってくる可能性も高い、
この場所は彼にとって絶好の狩場だった。
そして宗介はとりあえずの優先すべき項目を
『武器の確保』
とした。
今の自分の装備では未知の敵

…オドーを殺した相手のような、

と戦闘になったらまず勝ち目はないだろう。
戦力差を覆すには策略が必要だが
策略を実行する武器がなければ話にならない。

宗介は端からまともに“決闘”をするつもりはなかった。
彼の身体能力はかなり高い水準とはいえ所詮は常人、
オドーのような超人がうようよいるであろう
この島では単体としての戦闘能力は低い方と見積もっていた。
(だからといってやられるわけにはいかない、
実戦は決闘ではない、策略を巡らせば必ず勝機はあるはずだ…!)
そう、彼には地の利があった。
無論地の利というのは住宅街に限ったことではない、
森の中にある毒草、
砂漠での身の潜め方、
見破られにくい罠、
彼本来の姿とはただの高校生ではない、
優秀なソルジャーなのだ。

そして彼は民家の前に絶好の獲物を発見した。
男が2人、片方は少年、
そして女が1人だった。
(人数、物腰などから見れば制圧は容易だが油断はできない。
ここは1人になったところを襲撃するのが適当か…。)
物陰に潜みつつ様子を見る、
やがて男女が
「いいかミリア。日本の伝説によれば、勇者だったら、
タンスの中身を持ってっても怒られないんだぜ!」
「泥棒勇者だね! 私たちと一緒だよアイザック!」
などと言いながら中に入り、少年が見張りとして立った。
(頃合いか…!)
疾風のごとき速さで相手に近づく、
相手が反応したときにはもう遅い、
腹部へ強烈な一撃を放ち、気絶させた。
何故殺さなかったかは自分でも分からない、
年端もいかない少年を殺すのは気が引けたのか?
なんだかんだで死体は人目についてしまうからか?
理由は分からないが気絶させた状態で引きずり、
先ほどまで自分のいた物陰に引きずり込む。
そして別の場所で予め確保していたロープで少年を縛り、
デイバックの中を確かめる。
少年の支給品は宗介を驚かせた。

188未定 その2 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/11(水) 01:16:11 ID:Hw7b583Y
デイバックの中から出てきたのは年期の入ったギターケース、
そのケースは間違いなく放送で名前を呼ばれた仲間、
クルツ=ウェーバーのものだった。
突然目の前に現れた友の形見に戸惑いつつ、
ケースの中身を確かめる宗介。
そして中から出てきたのは彼の愛用のギター……

……ではなく、自分が選択を迫り、
そして彼がギターの代わりに手に取ったあのライフルだった。
「…クルツ…」
手にとって再び友を思い出す、そのとき後ろから声がした。
『よお、いつも通り元気なさそうだな、ネクラ軍曹。』
驚きと共に宗介が振り返る、
すると周りの風景が変わり、
白で塗りつぶされたような空間になった。
その空間の中には、クルツ=ウェーバーその人がいた。
『どうしたんだよ?化け物でもでたか?』
「おまえ…本当にクルツなのか!?」
信じられないといった調子で宗介は尋ねる、
それに対しクルツは少し怪訝そうな顔をしながら
『あたりまえだろ?こんないい男が他にいるかよ。』
と答えた。
そして宗介が軽く言葉を失っていると
『おいおい、流すだけかよ。
マオ姐さんはいいツッコミかましてくれるのに、
このネクラときたら。』
軽く手を広げ、やれやれと首を振りながら言う。
『まあいいや、端から期待してねーし。
…さて、今回は俺が死神だ、おまえに…』
その言葉を聞いた瞬間宗介は距離をとり構えをとる。
敵の誰かの催眠術にかけられたのか?
それともこのクルツ自体が化けているてきなのか?
大分この状況に慣れてきたのか、
やや非現実的な見方をしているとクルツは呆れたように声をかける。
『バーカ、早とちりすんなよ、お前の悪い癖だ。
…前にこのライフルとギターを持ってお前が現れたとき、
俺がなんていったか覚えてるか?』
クルツの問いに宗介は記憶を手繰り寄せ答える。
「…《今回ばかりはお前が死神にみえるぜ。》だったか?」
『大当たりだ、で、今回俺からの選択は…』
一拍置いてクルツは選択を口にした。

『5人の他人の命、彼女1人の命、
さあ、おまえはどっちを選ぶんだ?』

覚悟ならとうにできていた。
当たり前のことを聞く友に軽い怒りを覚えながら宗介は答える。
「今更何を聞く…、当然彼女の…」

『あの娘がそれを望んでないとしてもか?』

189未定 その3 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/11(水) 01:16:53 ID:Hw7b583Y
「!!」
宗介は言葉を失う。
その言葉は宗介に重くのしかかった、
あえて考えないようにしていた事柄を突きつけられたから。
そう、当然彼女は望んでいない、
彼女がそういう人物だからこそ、
宗介は彼女を命がけで守ろうと誓ったのだ。
奥歯を噛み締める宗介、
その気持ちを見抜いたかのようにクルツは追い討ちをかける。

『もう1度聞くぜソースケ。5人の命…』

そのときクルツの右手に人の手が握られる、
その手は先ほど宗介が気絶させた少年の手だった。

『それとも、彼女1人の命…』

クルツの左手にコンバットナイフが握られる。
それは、宗介が今装備している武器だ。

『おまえは、どっちを選ぶんだ?』

宗介の中の葛藤、
何をするのが彼女のためなのか、
どうすれば彼女が苦しまずに生きていけるのか、
それのみを考える。
そして彼の出した結論は…。



『本当にこっちでいいんだな?』
「ああ。」
宗介の手に握られていたのは…殺戮を表すナイフだった。
『けどお前…あの娘に会えんのか?
血まみれの首を持ったままで。』
「いや、もう彼女には会わない、
俺は…彼女を幽霊(レイス)として守るつもりだ。」
宗介は彼女の前から姿を消すことを決断した。
彼は首をあの女に渡すとき、
2つの要求をするつもりだった。
1つは、彼女を誰か安全な人物の側におくこと。
そしてもう1つは…

…自分の記憶を彼女から消してもらうこと。
あの女ならそのようなことも出来るかもしれない、
そう思って考えた要求だった。
無論、交渉には細心の注意を払うつもりだ、
今度失敗すれば命はないだろう。
だが、あの女の性格を考える限りこの要求は通る気がした。
自分にこんな任務を与えた、あの女なら。

『《あの娘のために》ってことか?』
クルツは軽く哀しそうな顔をして尋ねた。
「いや、彼女だけではなく俺のためでもある。
俺は…彼女に嫌われてしまうからな。」
今までの《大嫌い》とは違う、
彼女は本気で自分を軽蔑するだろう、
それが宗介には耐えられなかった。
『そうか…。』
クルツはため息をつく、
そして…

ゴッという鈍い音が衝撃と共に宗介を貫いた。
クルツの右のパンチが彼をとらえたのだ。
倒れる宗介の胸倉を掴み、クルツは叫ぶ。
『とりあえず今はこんだけだ、続きはとっておいてやる…
今度まで自分の言ったことよく考えろ、鈍感ヤローが!』
そう言って宗介を突き飛ばす、
宗介は何故殴られたのか理解できず尻餅をつく。
そしてクルツはゆっくりと消えていった。
「まてクルツ!」
立ち上がったときには宗介は元の世界に
ライフルを持ちながら立ち尽くしていた。

(何故俺が殴られなければならない…)
「…一体俺の何が間違っている…答えろクルツ!」
天に向かって宗介は叫ぶ。
クルツが考えろと言ったこと、
それは彼が彼女の前から消えると言ったことだった。
まだ宗介は勘違いしていた、
彼女は確かに彼を軽蔑するかもしれない、
だが、決して彼のことを嫌いには、
記憶を消したいとは思わないだろう。
何故なら彼女は彼のことを…好きなのだから。
だがそのことに宗介は気づかない、
彼女にとって彼とは、彼が思っている以上に大きな存在だった。

190未定 その4 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/11(水) 01:19:21 ID:Hw7b583Y
そのとき民家から先ほどの2人が出てきた。
それまでの思考を止め、早急に少年を殺さなくてはならない。
コンバットナイフを振りかぶり、
少年の首を容赦なく切断しようとする。
「アイザック、要…かなめがいないよ!」
「本当だ、かなめが不眠不休だよ!」


…カラン、と宗介はナイフを落とした。
(かなめ…かなめというのかこの少年は…!)
これまであえてその名を口に、
思考の中でも呼ばなかった。
もう2度と合わないことを決めたそのときから。
その名前は宗介の中に波紋となって広がる。
(この少年はかなめではない…
いや、かなめではある、だが俺の知る千鳥かなめではない!
…俺はこれからかなめを殺すのか?
そんなことできるわけがない。
だがこの少年は…)
混乱の極地に陥りながらも宗介はナイフを拾い上げる。
(この少年はかなめではない、千鳥かなめではない…。
この少年はかなめではない、千鳥かなめではない…。
この少年はかなめではない…千鳥かなめではない…!)
自分に言い聞かせ再び振り上げる、
しかしそのとき少年が目を覚ました!
「…え?……うああああああああああ!!」

少年の絶叫に宗介は我に戻る。
SOSは完全に向こうまで聞こえたようだ。
2人がこっちに走ってくる。
(くっ!今からでは殺せたとしても
首の切断が間に合わない…退却すべきか。)
少年と自分のデイバック、
そしてライフルの入ったギターケースを担ぎ逃げる。
そして少年を一瞥すると即座に退却する。


宗介は自分があの少年を殺さなかったことをどこかで安堵していた。
だが少しずつカシムと呼ばれたあの頃の感覚は戻ってきている、
次からは獲物に容赦はしない。
そんな彼が背負ったギターケースが日光を受け煌いた。
そこに宿った友の魂は何を思うのか。
それは誰にも分からない、
だがあえて予想するとすればその感情は…


【C-3/商店街/一日目、12:15】

【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、コンバットナイフ、
    クルツのライフル、ギターケース
【道具】荷物一式、弾薬、 かなめのディバック
【思考】かなめを救う…必ず
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【アイザック(043)】
[状態]:超健康
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:商店街で泥棒!要が見つかってよかった。

【ミリア(044)】
[状態]:超健康
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:そうだねアイザック!!

【高里要(097)】
[状態]:やや不安定
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:救急箱を取らないと 潤さんとロシナンテ大丈夫かな、怖かった。
[備考]:上半身は服を着ました

この作品は◆3LcF9KyPfAさんにネタ、題名を提供してもらい、
一部の台詞を名も無き黒幕さんから頂いています。
こころより感謝!

191弾丸の選ぶ道 その1 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/11(水) 20:59:45 ID:Hw7b583Y

(目標は単独で5人の暗殺、武器、弾薬の補給はなし、
制限時間は6時間、失敗すれば…彼女が死ぬ。)
相良宗介はさっきまでいた住宅街に戻っていた。
前に来たときに大体の地理は把握していた、
隠れるものも多く、人がやってくる可能性も高い、
この場所は彼にとって絶好の狩場だった。
そして宗介はとりあえずの優先すべき項目を
『武器の確保』とした。
今の自分の装備では未知の敵

――オドーを殺した相手のような――

と戦闘になったらまず勝ち目はないだろう。
戦力差を覆すには策略が必要だが
策略を実行する武器がなければ話にならない。

宗介は端からまともに“決闘”をするつもりはなかった。
彼の身体能力はかなり高い水準とはいえ所詮は常人、
オドーのような超人がうようよいるであろうこの島では、
単体としての戦闘能力は低い方と見積もっていた。
(だからといってやられるわけにはいかない、
実戦は決闘ではない、策略を巡らせば必ず勝機はあるはずだ…!)
そう、彼には地の利があった。
無論地の利というのは住宅街に限ったことではない、
森の中にある毒草、
砂漠での身の潜め方、
見破られにくい罠、
彼本来の姿とはただの高校生ではない、
優秀なソルジャーなのだ。

そして彼は民家の前に絶好の獲物を発見した。
男が2人、片方は少年、そして女が1人だった。
(人数、物腰などから見れば制圧は容易だが油断はできない。
ここは1人になったところを襲撃するのが適当か…。)
物陰に潜みつつ様子を見る、
やがて男女が
「いいかミリア。日本の伝説によれば、勇者だったら、
タンスの中身を持ってっても怒られないんだぜ!」
「泥棒勇者だね! 私たちと一緒だよアイザック!」
などと言いながら中に入り、少年が見張りとして立った。
(頃合いか…!)
疾風のごとき速さで相手に近づく、
相手が反応したときにはもう遅い、
腹部へ強烈な一撃を放ち、気絶させた。
何故殺さなかったかは自分でも分からない、
年端もいかない少年を殺すのは気が引けたのか?
なんだかんだで死体は人目についてしまうからか?
理由は分からないが気絶させた状態で引きずり、
先ほどまで自分のいた物陰に引きずり込む。
そして別の場所で予め確保していたロープで少年を縛り、
デイバックの中を確かめる。
少年の支給品は宗介を驚かせた。

192弾丸の選ぶ道 その2 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/11(水) 21:00:40 ID:Hw7b583Y
デイバックの中から出てきたのは年期の入ったギターケース、
そのケースは間違いなく放送で名前を呼ばれた仲間、
クルツ=ウェーバーのものだった。
突然目の前に現れた友の形見に戸惑いつつ、
ケースの中身を確かめる宗介。
そして中から出てきたのは彼の愛用のギター……

……ではなく、自分が選択を迫り、
そして彼がギターの代わりに手に取ったあのライフルだった。
「……クルツ……」
手にとって再び友を思い出す、そのとき後ろから声がした。
『よお、いつも通り元気なさそうだな、ネクラ軍曹。』
驚きと共に宗介が振り返る、
すると周りの風景が変わり、
白で塗りつぶされたような空間になった。
その空間の中には、クルツ=ウェーバーその人がいた。
『どうしたんだよ?化け物でもでたか?』
「おまえ…本当にクルツなのか!?」
信じられないといった調子で宗介は尋ねる、
それに対しクルツは少し怪訝そうな顔をしながら
『あたりまえだろ?こんないい男が他にいるかよ。』
と答えた。
そして宗介が軽く言葉を失っていると
『反応無しかよ…まあいいや、端から期待してねーし。
……さて、今回は俺が死神だ、おまえに……』
その言葉を聞いた瞬間宗介は距離をとり構えをとる。
敵の誰かの催眠術にかけられたのか?
それともこのクルツ自体が化けているてきなのか?
大分この状況に慣れてきたのか、
やや非現実的な見方をしているとクルツは呆れたように声をかける。
『バーカ、早とちりすんなよ、お前の悪い癖だ。
……前にこのライフルとギターを持ってお前が現れたとき、
俺がなんていったか覚えてるか?』
クルツの問いに宗介は記憶を手繰り寄せ答える。
「……《今回ばかりはお前が死神にみえるぜ。》だったか?」
『大当たりだ、で、今回俺からの選択は…』
一拍置いてクルツは選択を口にした。

『5人の他人の命、彼女1人の命、
さあ、おまえはどっちを選ぶんだ?』

覚悟ならとうにできていた。
当たり前のことを聞く友に軽い怒りを覚えながら宗介は答える。
「今更何を聞く…、当然彼女の…」

『あの娘がそれを望んでないとしてもか?』

「!!」
宗介は言葉を失う。
その言葉は宗介に重くのしかかった、
あえて考えないようにしていた事柄を突きつけられたから。
そう、当然彼女は望んでいない、
彼女がそういう人物だからこそ、
宗介は彼女を命がけで守ろうと誓ったのだ。
奥歯を噛み締める宗介、
その気持ちを見抜いたかのようにクルツは追い討ちをかける。

193弾丸の選ぶ道 その3 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/11(水) 21:01:28 ID:Hw7b583Y
『もう1度聞くぜソースケ。5人の命―

そのときクルツの右手に人の手が握られる、
その手は先ほど宗介が気絶させた少年の手だった。

―それとも、彼女1人の命―

クルツの左手にコンバットナイフが握られる。
それは、宗介が今装備している武器だ。

―おまえは、どっちを選ぶんだ?』

宗介の中の葛藤、
何をするのが彼女のためなのか、
どうすれば彼女が苦しまずに生きていけるのか、
それのみを考える、そして彼の出した結論は…。


『本当にこっちでいいんだな?』
「ああ。」
宗介の手に握られていたのは、殺戮を表すナイフだった。
『けどお前……あの娘に会えんのか?
血まみれの首を持ったままで。』
「いや、もう彼女には会わない、
俺は彼女を、幽霊(レイス)として守るつもりだ。」
宗介は彼女の前から姿を消すことを決断した。
彼は首をあの女に渡すとき、
1つの要求、お願いをするつもりだった。

それは、彼女を誰か安全な人物の側におくこと。
今までの護衛方法は宗介が表から彼女を護衛し、
“レイス”と名乗る人物が彼女を影から護衛していた。
これからは自分がそのレイスとなり彼女を守る。
そして彼の要求とは自分の代わりを探してもらうことだった。
無論、交渉には細心の注意を払うつもりだ、
今度失敗すれば命はないだろう。
だが、あの女の性格を考える限りこの要求は通るだろう。
自分にこんな任務を与えた、あの女なら。

『《あの娘のために》ってことか?』
クルツは軽く哀しそうな顔をして尋ねた。
「いや、彼女だけではなく俺のためでもある。
俺は……彼女に嫌われてしまうからな。」
今までの《大嫌い》とは違う、
彼女は本気で自分を軽蔑するだろう、それが宗介には耐えられなかった。
だが彼女の元から立ち去る気はない、彼女は死ぬまで自分が守ると決めた。
これまでとすることは変わりない、表からか、裏からか、その違いだけだ。
『そうか…。』
クルツはため息をつく、
そして…

ゴッという鈍い音が衝撃と共に宗介を貫いた。
クルツの右のパンチが彼をとらえたのだ。
倒れる宗介の胸倉を掴み、クルツは叫ぶ。
『とりあえず今はこんだけだ、続きはとっておいてやる…
…今度会うときまで自分の言ったことよく考えろ、鈍感ヤローが!』
そう言って宗介を突き飛ばす、
宗介は何故殴られたのか理解できず尻餅をつく。
そしてクルツはゆっくりと消えていった。
「まてクルツ!」
立ち上がったときには宗介は元の世界に
ライフルを持ちながら立ち尽くしていた。

(何故俺が殴られなければならない…)
「…一体俺の何が間違っている……答えろクルツ!」
天に向かって宗介は叫ぶ。
クルツが考えろと言ったこと、
それは彼が彼女の前から消えると言ったことだった。
まだ宗介は勘違いしていた、
彼女は確かに彼を軽蔑するかもしれない、
だが、決して彼のことを嫌いには、
近くに居たくないとは思わないだろう。
何故なら彼女は彼のことを…好きなのだから。
だがそのことに宗介は気づかない、
彼女にとって彼とは、彼が思っている以上に大きな存在だった。

そのとき民家から先ほどの2人が出てきた。
それまでの思考を止め、早急に少年を殺さなくてはならない。
コンバットナイフを振りかぶり、少年の首を容赦なく切断しようとする。
「アイザック、要…かなめがいないよ!」
「本当だ!かなめが消えちまった!」


…カラン、と宗介はナイフを落とした。
(かなめ…かなめというのかこの少年は…!)
これまであえてその名を口に、思考の中でも呼ばなかった。
もう2度と合わないことを決めたそのときから。
その名前は宗介の中に波紋となって広がる。
(この少年はかなめではない…
いや、かなめではある、だが俺の知る千鳥かなめではない!
…俺はこれからかなめを殺すのか?
そんなことできるわけがない。だがこの少年は…)
混乱の極地に陥りながらも宗介はナイフを拾い上げる。
(この少年はかなめではない、千鳥かなめではない…。
この少年はかなめではない、千鳥かなめではない…。
この少年はかなめではない…千鳥かなめではない…!)
自分に言い聞かせ再びナイフを振り上げる、
しかしそのとき少年が目を覚ました!
「…え?……うああああああああああ!!」

194弾丸の選ぶ道 その4 </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/11(水) 21:02:11 ID:Hw7b583Y
少年の絶叫に宗介は我に戻る。
SOSは完全に向こうまで聞こえたようだ。
2人がこっちに走ってくる。
(くっ!今からでは殺せたとしても
首の切断が間に合わない…退却すべきか。)
少年と自分のデイバック、
そしてライフルの入ったギターケースを担ぎ逃げる。
そして少年を一瞥すると即座に退却する。


宗介は自分があの少年を殺さなかったことをどこかで安堵していた。
だが少しずつカシムと呼ばれたあの頃の感覚は戻ってきている、
次からは獲物に容赦はしない。
そんな彼が背負ったギターケースが日光を受け煌いた。
そこに宿った友の魂は何を思うのか。
それは誰にも分からない、
予想するとすればその感情は…

――鈍感な友の考えに対しての憤怒か、
    宿命に立ち向かうことに対しての悲哀か――



【C-3/商店街/一日目、12:15】

【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、コンバットナイフ、
    クルツのライフル、ギターケース
【道具】荷物一式、弾薬、 かなめのディバック
【思考】かなめを救う…必ず
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【アイザック(043)】
[状態]:超健康
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:商店街で泥棒!要が見つかってよかった。

【ミリア(044)】
[状態]:超健康
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:そうだねアイザック!!

【高里要(097)】
[状態]:やや不安定
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:救急箱を取らないと 潤さんとロシナンテ大丈夫かな、怖かった。
[備考]:上半身は服を着ました

195Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/11(水) 22:10:54 ID:HpSi88X6
「うーん腹減ったあ」
空きっ腹を抱えてうろつく竜堂終、永遠の欠食児童または食欲魔人の異名を持つ彼である。
想像に漏れず、支給品のパンはとっくに胃袋の中だった。
「しかもあのおばさん、人の身体で思い切りハッスルしやがって、あー腹減ったあ」
満腹の時はいざとなればそこらへんの野草でもむしって食べればいいやと思ってたが、
空腹になってみるとどうしても躊躇してしまう、ならバッタかコオロギでも食べるか…
いや、そこまでやってしまうと何かこう人間の尊厳とかそういう難しい何かが
音を立てて崩れてしまうような、そんな複雑な気分になってしまう。
商店街に戻るのも手だったが、カーラが好き放題してくれたおかげでしばらく表街道は歩けそうにもない。
(あの頬に傷の兄ちゃん…かなりやばいな)
強者は強者を知る、一瞬の出会いだったが、終は実のところオドーよりも宗介に危険性を感じていた。
(てっきり狙いはあっちだと思ったんだけど…おばはんの考えることはよく分からん)
「でもまぁ・・・俺竜だしなぁ、うん?」
くんくんと鼻を鳴らす終、漂うのは魚を焼く香ばしい匂いだ、誘われるように終はふらふらと歩いていった。

「そうですか、愉快な方なのですね」
「新宿に用の際は、彼にガイドを頼むといい、私の名前を出せば費用も融通してくれるだろう」
話すメフィストの口元を、魚を頬張る口元をぼんやり眺める志摩子、
「食べたまえ、冷めると味が落ちる…それとも魚は嫌いかね?」
「いえ…そんな」
返事もどこか上の空だ…。
メフィストと出会って以来、数時間…志摩子は常にこんな調子だ。
完全に彼女はメフィストの美貌に魅せられてしまっていた、いや美貌だけではない。
一人の人間としても彼は充分に尊敬に値する人物だ。
ただ、道中で見つけた誰かの墓を掘り返して何かを見つけ、そしてそれ以来
時折ひどく不機嫌な表情になるときがあるのが気になったが。

「まさかな…あの禁断の秘儀を知るだけでなく、実行するものがいるとも思えぬが」
そう…今のような。
何か心配事でも?とは聞けない、もとより聞く資格もちっぽけな自分にあるとは思えない。
「大丈夫だ、君には関わりのないことだよ…ああそれから」
そんな志摩子の心の内を知ってか知らずか、優しく声をかけるメフィスト
「そこの君もだ、早く来ないと全部食べてしまうぞ」
メフィストの呼びかけに応じるように、木立ちの中から終が姿を見せたのだった。

196Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/11(水) 22:11:42 ID:HpSi88X6
「いやあ食った食ったあ」
満足げにお腹をさする終。
「喜んでくれて何よりだ…では」
若鮎のような君の身体を隅々まで…と言いかけるメフィスト、
だがそこで何かを感じ取ったのか、身構えようとする終。
「どうしたのかね?」
「ああ…なんつーか独特の空気を少しだけ感じたんだ、いやあ多分大丈夫とは思うけど、
 竜堂家の家訓としてホモは宇宙の塵にしろってのがあるから」
まぁ、この子って鼻が利くわねと思いながら志摩子が口を開く。
「それは竜堂家だけじゃなく、田…」
「そこまでだ」
ついつい危険な領域に話を踏み込ませようとした志摩子を嗜めるメフィスト

「で、では何なんだよ?」
「あーその…つまり」
宇宙の塵になりかけた魔界医師がもったいぶってようやく応じる。
「食事代として君が今までに見てきたこと、知っていることを教えてもらいたい、
 我々が2匹食べる間に君は8匹も食べたのだからな…」

「祐巳さんが…そんな」
終の話は志摩子にとって衝撃そのものだった、敬愛する聖だけではなく親友までもが…。
やはりあの飾りをつけなくってよかった、と思いつつも
自分の代わりに親友が犠牲になってしまった、その忸怩たる思いが志摩子を締め付ける。

メフィストはさらに終から情報を引き出している。
彼がもっとも警戒する敵である美姫の動向を聞けたのも大きかったが、今はもっと重要なことを聞かねばならない。 
「それで主な戦法は何かね?」
「魔法を使うぜ、それもかなり強力な、でも注意すべきは戦場での経験値だな、力の入れ所、抜き所は
 まさに完璧だったぜ、ああいうのを歴戦って言うんだろうな…それから交渉は無理だぜ
 自分の正義に凝りかたまって、しかもまるで疑問にも思ってないからな」
「身体能力はどうなる?わかるかね」
「武術もけっこうなもんだ、けど多分つけた人間のそれに依存すると思う、俺の身体を手に入れて拾いものだって言ってたから」
「祐巳くんの身体能力はどんなものかね?」
「どちらかといえば苦手な方だと思います」
志摩子の言葉に反応する終、
「祐巳ってあの子のことか?運動が苦手?とんでもないぜ」

197Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/11(水) 22:12:25 ID:HpSi88X6
終は倉庫での出来事をおぼろげながら思い出す、こちらは断片的にしか覚えてなかったが。
「てな具合だ、姿はちょっと変わってたけど…うん?」
これまで冷静そのものだったメフィストの顔がかなり険しくなっている。
「もっと詳しく聞かせてくれないか」

悪い予感が現実のものに、しかも最悪のものになりつつある。
終が嘘を言うとは思えない、ただの人間である彼女が。福沢祐巳が突如そこまでの身体能力を得られるものなのだろうか?
考えたくはないが…メフィストは先程の墓での出来事を思い出す
あそこに埋葬されていたのはダンピール、しかも心臓の血が抜かれていた。
となるとやはり…。
「食鬼人…」

「志摩子くん、聞きたいことがある…彼女の靴のサイズが幾つなのか分かるかね?」
「えっと」
志摩子は聞かれるままに答える。
地面に残されていた足跡、歩幅…それから手形…メフィストの頭のなかで次々とパズルのピースが噛み合っていく
「最後に、身長と体重を教えて欲しい」
志摩子が答え、パズルのピースが合わさった、そして得られた結論は…。
「気を確かにして聞いて欲しいことがある、祐巳くんはおそらく」

「どうして…どうして…祐巳さん…」
耐え切れなくなったのだろう、涙を零しながら親友の名を呼ぶ志摩子。
祐巳の気持ちは分からなくも無い…でもだからってそこまで…。
「お願いします、祐巳さんを元に!人間に戻してください!先生なら出来るんでしょう!!」
「…無理だな」
「そんな!先生に治せない病はないって聞いてます、だったら」

「ただの病ならば数秒で治してみせることもできる、だが食鬼人とは病ではない…しかし」
メフィストは志摩子の肩を持つ。
「奇妙な言い方で申し訳ないが、唯一の救いは彼女が異形の姿になっていたということだ、普通の食鬼人ならば
 そのような現象は起り得ない、そこに彼女を人に戻す鍵があるやもしれん」

だが…問題は一介の学生に過ぎぬ彼女が何故その事を、食鬼人のことを知りえたのかということだ。
いったい誰が彼女を唆したのだろうか?
「でもこんな状況だろう?仕方ないんじゃないのか?」
「確かに…それは事実だ、だが自分の心を、身体を失ってまで得る生に何の意味があるというのかね」
終を睨むメフィスト。

198Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/11(水) 22:13:13 ID:HpSi88X6
終を睨むメフィスト。
「ここを生き延びても人生は続いていくのだぞ…君ならわかるはずだ、逆に聞くが、
 君は今の自分の力と、ささやかだが平凡で普通の暮らしとどちらか一方しか選べぬのなら
 どちらを取るかね?」
「んなもん決まってるだろ…」
そこまで言って、あっ!と声をあげる終。
「だよなぁ…」

確かに自分は人を遥かに超える身体能力を誇っているが、それを便利だと日常の中で思うことは、
ほとんどなかった…逆に余計な連中を引き寄せただけだ。
今は負ける気はしないし、今までも勝ち続けてきたが…いつまでこんなことしなきゃならんのだろうと、
思うことは多々ある…小早川のおばはんに出会ってからは特に。

「でも…私は大丈夫です、たとえ祐巳さんが」
そこで志摩子は絶句する。
終がどう考えても持ち上がらないだろうと思われる公園のベンチを蹴り上げ、
軽々とリフティングなどしてみせている。
「よっと!ほりゃ!」
鼻歌交じりに最後はベンチを真っ二つに蹴り割る。
「今の見て俺のことどう思った?」
えっ…と考え込む志摩子…その、あの…と多少の枕詞が漏れて、

「すごいって思いました」
だがその割りに表情は重い。
「正直に答えてくれ」
終の真摯な視線に耐えられず目を逸らし…そしてようやく、か細い声で志摩子は答えた。
「怖いと…思いました…ものすごく」

もし祐巳がそんな身体になってしまっているとして、
自分でもそう感じるのだ、他の見知らぬ他人がそれを知ればもっと怖いだろう。
まして彼女の家族はどう思うのだろう、我が子が人ならざる物になってしまったことを知れば…
隠し通せる物でもない、まして祐巳は隠し事が出来ない子だ。
つまりそれが代償なんだろう、どう考えても割の合う話ではない。

199Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/11(水) 22:14:29 ID:HpSi88X6
でも…祐巳の気持ちもわかる、どうしようもないやり場の無い思いを何とかするには
力にすがるしかなかったのだろう。
「でも…皆さんのそれは強い者の理屈です!、弱くってちっぽけな私たちには
そうするしか…選べるほどの選択肢は用意されてないんです!」
「君は十分に強い、本当に大切なのはどんな過酷な状況においても誘惑に負けず己の心を見失わぬことだ」
志摩子の嘆きを微笑で包んで受け流すメフィスト。
「だいたい自分はどうなってもいいから、なんて気持ちで誰かは救えないよなぁ、あー畜生め」
足元の小石を蹴り飛ばす終、一時のこととはいえ、誘惑に乗った自分を恥じているのだ。

「あ…ごめん君の友達のことを悪く言ってしまって」
頭を下げる終、志摩子はいいんですよと力なく応じる。
「だからこそ、君がしっかりしなければならない、親友なのではないのかね?
まぁ、女同士の友情ほど信用ならず脆いものは無いと私個人は思っているのだが」
無論、君に関しては大丈夫だと思うが…と付け加えることも忘れないメフィスト。
「そう…ですよね」

やっぱり自分しかいないと思う志摩子、正直祥子様では…今の祐巳を傷つけるだけのような気がする。
紅薔薇こと小笠原祥子、表面的には優雅で大人物っぽいが、その内面は臆病な小心者だ。
「でも…私なんかで」
「君だからこそだ、君だから我々は協力したいと集っているのではないか」
メフィストの言葉に成り行きでうんうんと頷く終、もちろん志摩子に協力したいのはいうまでも無い
カーラに仕返しもできるし、一石二鳥だ。
志摩子の瞳からまた涙が…しかし今度は嬉し涙だ。
「私なんかのために…すいませんっ!ありがとうございますっ!」
「君だけのためではない、ここに集うもの全てが私の患者、そして私は医者だと
 まぁそのカーラという女性には、速やかに安楽死していただくことになるかと思うが」
泣きじゃくる志摩子に優しく語りかけるメフィスト、絶世の美男子に美少女、実に絵になる光景だ。

しかし…納得いかない人もいる。
あー畜生、そうだよ…こんな役はどうせ続兄貴とかこんなんとかばっかが持って行くんだ。
俺なんざ結局小早川…ダメダメダメそれはダメ、絶対。
うらやましげにメフィストを見る終だった。
「年齢的にいってそれは俺のポジションだろうがあ」

200Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/11(水) 22:18:38 ID:HpSi88X6
C-4/一日目、12:30】

【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

【Dr メフィスト】
 [状態]:健康
 [装備]:不明
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る

【竜堂終】
[状態]:あちこちにかすり傷 
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける

201Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/12(木) 01:22:39 ID:Kdvo/N3A
(修正)
「祐巳さんが…そんな」
終の話は志摩子にとって衝撃そのものだった、敬愛する聖だけではなく親友までもが…。

の部分に以下を追加

最初は信じられなかった、しかし彼女が落としたというロザリオは間違いなく祐巳のものだった。

あそこに埋葬されていたのはダンピール、しかも心臓の血が抜かれていた。
となるとやはり…。
「食鬼人…」

の部分に以下を追加します。

特定の魔の血肉を取り込み、己が力とする忌まわしき外法の1つだ。
自分の存在する世界ではとうに絶えた術だが…
しかし容易かつ急激に身体能力を強化できる呪術であり、また状況から言って間違いはない
何者かがあの術を使ったのだ、しかも…

202Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/12(木) 01:36:53 ID:Kdvo/N3A
さらに
「お願いします、祐巳さんを元に!人間に戻してください!先生なら出来るんでしょう!!」
「…無理だな」
「そんな!先生に治せない病はないって聞いてます、だったら」



「お願いします、祐巳さんを元に!人間に戻してください!先生なら出来るんでしょう!!」
「…無理だな、ただの病ならば数秒で治してみせることもできる、だが食鬼人とは病ではない…しかし」
死者すらも蘇らせる男が苦渋の表情を見せる。

に修正

それから
「君だけのためではない、ここに集うもの全てが私の患者、そして私は医者だと
 まぁそのカーラという女性には、速やかに安楽死していただくことになるかと思うが」


「君だけのためではない、ここに集うもの全てが私の患者、そして私は医者だと
 それにこれを彼女に渡さねばならないのではないかね?」
祐巳のロザリオをそっと握らせるメフィスト。
「はい!」
泣きながらもしっかりとロザリオを握り締める志摩子。
「まぁそのカーラという女性には、速やかに安楽死していただくことになるかと思うが」

に修正

203最悪の支給品・改め・リサイクル(3/8) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b>:2005/05/12(木) 19:49:59 ID:dcYVsDDY
潮騒に紛れた筆談が終わってから少しすると、二人は神社へと到着した。
森に囲まれた、人気が無いがらんとした神社。
「やはり、禁止区域の袋小路に人は居ないか」
「ええ、生きた人は居ないようですね」
しかし、誰も『無い』わけではなかった。
神社の境内には、一つの死体がごろんと転がっていた。
銀色に輝く左腕を持つ、その死体の頭部は粉砕されていた。
それは、丁度3時間前にオドーに頭を叩き潰されたジェイスの死体だった。

サラは死体の数m背後の地面に屈み込んだ。
「何か見つかりますか?」
「ここに跳躍痕が有る。その姿勢と、手に握っている砕けた剣からして……」
地面を指差し、そこから死体へと放物線を示し、次に入り口の鳥居近くを指差す。
「跳躍して誰かに斬りかかろうとした所を、背後上空から何かに撃たれたようだ」
「背後上空からですか。鳥居の上に誰か居たのかもしれませんね」
鳥居を振り返るせつら。
サラは空を仰ぎ見た。
「あるいはそれこそ空を飛んでいたのかもしれない」
だが、澄み切った青い空には一片の影すら見当たらない。
例え空に何か居たにせよ、それはもうここには居ないのだ。
「どちらにせよ、今から気にする事でもないでしょう?」
「確かに。死斑と死後硬直が現れ始めている。死後2〜4時間という所か。
下手人は既に周辺には居ないと考えて良いだろう。
遭遇する事があるかも不明だ」
今考えるべきはカードキーの事。あるいは……
「しかし、限り有る資源は大切にしなければならない」
サラは、名も、顔も知らぬ首無し死体の残した物を見下ろした。

204最悪の支給品・改め・リサイクル(4/8) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b>:2005/05/12(木) 19:50:43 ID:dcYVsDDY
刀身を砕かれた魔杖剣・断罪者ヨルガの柄を握りしめる。
「それ、使えるんですか? 砕けてますよ」
「心配は無用だ。わたしの世界の“杖”は魔術のシンボル以上の役割を持たなかった。
それに対し、この“杖”は本来の機能こそ失われているが、
特殊な材質で作られた魔術の増幅具とでも言うべき物のようだ。
例えこんな有様になっていても――」
“杖”を一振り。それだけで空気中の水分が凍結し、氷の球体が生まれた。
空いている方の手で氷の球体を撫でると水に変わり、蒸気に変わり、霧散する。
「――そう捨てた物では無い。悪くない使い心地だ」
「なるほど。役に立つようですね」
「そう、役に立つ」
といっても、戦力としてではない。
元々、サラの世界の魔術は杖が無くても有る程度は使用できる。
(元の世界で杖が手元に無い時は、同時に魔術を封印されている事が多かったのだが)
また、そもそもサラは、戦いにおいてあまり魔術を使わないタイプだった。
彼女の得意とする武器は知略とハッタリと爆弾なのである。
彼女が魔術をよく使う場面は、格下の相手をあしらう時か、あるいはその逆。
ここぞという時、これという事の為だ。即ち、この状況では……
(刻印の解除の為に、杖は必要だ)

それと、サラはもう一つ気になる事が有った。
砕けた刀身を頭の中でパズルのように並べ、本来の形を復元する。
この“杖”は剣の形状をしている。
だが、弾丸を篭めるような奇妙な部分が有るのだ。
まるで杖であり、剣であると同時に、銃でもあるかのように。
そして、問題となるのはその弾倉。
(賭けてもいい。クエロが持っていた弾丸がすっぽりと納まる)
無論、たまたま同じサイズなだけかもしれない。
だが勿論、そうでないかもしれない。
(刀身も持っていった方が良いだろう。魔法生物の材料にだってなる)
サラは砕けた刀身を布でくるむと、デイパックの中に放り込んだ。

205最悪の支給品・改め・リサイクル(5/8) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b>:2005/05/12(木) 19:52:07 ID:dcYVsDDY
更に死者のデイパックを開封する。
「地図に禁止区域のメモが無いな。
どうやら6時より前、つまり3時間以上前に死亡したらしい。
水と食料が概ね残っている。……すまないが、頂いていこう。
おや、これは」
「どうしました?」
サラは『AM3:00にG-8』と書かれた紙と、鍵を見せた。
「どうやらわたしと同タイプの支給品は他にも有るらしい。
この男のものか、あるいはこの男が誰かから頂いた物だな」
それも、時間制限付きという、サラの物より更に制限の厳しい物だ。
「刀身に彼の物より乾燥した血糊が付いていたから、
もしかすると誰かを殺して奪った物だったのかもしれない」
「物騒な話ですね」
殺し殺され奪われる。仁義無き戦いだった。
「それで、リサイクルはもう終わりですか?」
「他に何か……いや、そうか」
サラはその問い掛けの意味に気づいた。
そう、恐らくジェイスの残した中で、最も価値のある物。
それは……
「………………死体か」

死体にまだ刻印の機能は残っているのか。
この死体をすぐ近くの禁止エリアに放り込めばどうなるのか。
あるいは、肉体が死を迎えれば、刻印は解除されるのか。
そのどれもが、これ以上無いほどに貴重な情報だ。
(だが、それは許される事だろうか?)
死者の物を勝手に頂いている以上、今更ではある。
医学を学んだ時に解剖実験に参加した事も有る。
前科無し傷害未遂の悪霊を狭い壺に押し込もうとしたり、
“本人”の許可が取れなくても死者の幻で悪人を脅かしてやろうと考えた事も有った。
禁断の死後の世界にずかずか踏み込んで見物して帰ってきた事も有った。
死者を、ではないが、罪無き恋する乙女を勝手に悪霊を呼ぶ囮にした事も有った。

206最悪の支給品・改め・リサイクル(6/8) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b>:2005/05/12(木) 19:53:00 ID:dcYVsDDY
(おや、振り返ってみるとなかなかの暴れん坊だな、わたしは)
実に今更であった。
既に魂の抜けてしまったこの死体が刻印を発動させても、誰も被害を受けない。
サラは、せつらに頷きを返した。

どうせ刻印に有ると思われる発信器としての機能で、この実験はバレるのだ。
ならばいっそ、宣言をした方が良いだろう。
「そうだな。禁止区域の範囲を正確に調べたい。その死体が使えるかもしれない」
そう、単なる禁止区域の範囲を正確に知るための実験と偽った。
地図ではその正確な位置は判らない。地図自体がやや大雑把な物だからだ。
だからこの建前は、十分に納得を与える物だろう。
「では、死体の方にご協力願いましょう」
せつらの鋼線が閃いた。
それに応え、ジェイスの死体がぎこちなく起きあがる。
秋せつらの魔技は人を意のままに操る事さえ可能とし、死者すらもその手中に落ちる。
例え扱いづらい鋼線であっても、視界内で簡単な動きをさせる程度は容易であった。
「行け」
せつらが重たげに腕を振る。
死体はゆっくりと歩き始めた。
……禁止エリアへ。

「あと1歩から10歩ほどのはずだ。ゆっくりとお願いする」
「判りました。10歩進んで発動しなかったら、戻りますからね」
死体の歩みが更に遅くなる。20秒に1歩。
……2歩。……3歩。……4歩。……5歩目を踏みだそうとしたその時。
忌まわしい刻印は、形骸へと役目を発揮した。

既に破壊されたその身が更に砕かれていく。
肉体としての器のみならず、魂としての器までもが浸食され、崩れ去る。
知識の為に行われる死体の更なる破壊。それは正しく、死体の解剖だった。
刻印の発動が納まると、せつらは鋼線を引き戻し、死体を回収した。

207最悪の支給品・改め・リサイクル(7/8) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b>:2005/05/12(木) 19:54:27 ID:dcYVsDDY
再利用は終わった。
実験にまで使わせてもらった死体を、データを取ってから浅く埋葬すると、
サラは、これでエリアの正確な位置が判ったと呟きながら、
この“解剖実験”により得られたデータを紙に書き込んでいた。
「少し顔色が悪いですよ」
「おや、そうか」
いつもながらの鉄面皮で首を傾げる。
そうかもしれない。彼女だって、気分を悪くする事は有る。
サラは僅かに寒気と吐き気を感じていた。
「問題無い。許容範囲だ」
間近で改めて見た、刻印のもたらす破滅は、相手が死体であっても残酷ささえ感じた。
だが、得られた情報も多い。
刻印の発動の様子。その後の破壊痕。死体だからか20秒ほど遅れた発動。
それらをしっかりとデータに纏め、紙に書き込む。

そんなサラを見やりながら考える。
(どうやら全くの冷血女でも無いようだ)
割と呑気に。せつらにとって、この実験は別に大した事ではない。
もちろん、得られた結果は重大な物だが、生憎とせつらの担当分野外だ。
サラに任せておくしかないだろう。
(よく冗談か本気か判りにくい事を言う癖は困ったものだけれど)
後腐れが無い貴方が好みだという発言の真偽は未だによく判らなかった。
冗談に思えたが、考えてみれば案外本気かもしれない。

しばらくすると、サラは顔を上げ、
びっしりと書き込まれたメモをデイパックの中にしまい込んが。
「それじゃ、行きますか」
「そうだな、行こう」
何処へ、と訊く必要は無かった。
まだ、ここへ来た最初の理由が残っているのだから。

208最悪の支給品・改め・リサイクル(8/8) </b><font color=#FF0000>(aeu3dols)</font><b>:2005/05/12(木) 19:56:18 ID:dcYVsDDY
賽銭箱に見つけたスリットにカードキーを通す。
すると賽銭箱がガラガラと横に移動し、その下に1m四方程の穴が開いた。
さっさと下に滑り込み、周囲を見回した。そこに有ったのは……
「地下連絡通路。それに案内板付きか。当たりかな、これは」
薄暗い通路が二方向に伸びていた。
北へ。海洋遊園地地下を経て学校、そこから地下湖に続く道。
東へ。海岸の洞窟を経て城の地下、そこから地下湖に続く道。
更にその通過地点全てに出入り可能を示すマークが付いていた。
つまり、隠された出入り口がそれらの地下に有ったのだ。
「ここを通れば、学校まですぐに帰れますね」
「それどころか城に寄って、地下から様子を見て地下湖を経て帰ってもいい」
顔を見合せる。
「さあ、どうしたものだろう」「どうしたものでしょうね」
恵まれすぎて恐い。

【H−1/神社の地下連絡通路/1日目・10:20】
【神社調査組】
【サラ・バーリン】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子、断罪者ヨルガ(柄のみ)
[道具]: 支給品二式、断罪者ヨルガの砕けた刀身、『AM3:00にG-8』と書かれた紙と鍵
[思考]: 刻印の解除方法を捜す/まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。
刻印が発動する瞬間とその結果を観測し、データに纏めた。

【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)
[道具]:支給品一式
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/刻印解除に関係する人物をサラに会わせる
依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]:せんべい詰め合わせは皆のお腹の中に消えました。刻印の機能を知りました。

209第二会放送改訂版:2005/05/13(金) 00:30:37 ID:Dml9zD3M
ゲームに参加するものに等しく聞こえる声がある。
それは絶望と憎悪を振り撒く鐘である。

「諸君、これより二回目の死亡者発表を行う。

001物部景 010ヴィルヘルム・シュルツ 019シズ 027アメリア 075オドー  
081オフレッサー 099鳥羽茉理 103イルダーナフ 105リリア

……以上、9名だ。
次に禁止エリアの発表を行う。13:00に○○、15:00に○○、17:00に○○が禁止エリアとなる。
ふむ、先程からすると大分少ないな。何人かで同盟を組んで行動している者が多いようだが、まあいい。
しかしこれ以上殺し合いが起きないとなると困るからな、不本意ではあるがゲームの進行のために
少々フィールドに変化を与えることにした。
介入に少々時間がかかるゆえ今すぐとはいかないが、まぁその時を楽しみにしてるといい。
今一度言っておくが、これは己が生死を賭けたゲームだ。勝者はただ1人のみ、例外はない。
その事をよく考えて、殺し合いに勤しむといい。それでは諸君等の健闘を祈る」


[備考]
14:30より3時間、島内全域に雨が降る。雨が上がった後の1時間は霧に包まれる。

210Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/15(日) 01:41:48 ID:s.j4Ec7Y
あれやこれやといけ好かない男の声で放送が流れる。
そんな中、かなめは戦っていた…己の内から湧き出る渇きに。

あたし…負けないから。
だって宗介はあたしのためにやりたくも無い人殺しをやるって…決めたんだから
本当は誰も殺してもらいたくない、でも…。
またズクリと胸が痛くなる…この痛みに負けたとき、自分は消えてしまう。
自分の目の前にはナイフ…宗介が残していったナイフがある。

いざとなれば…いや今しかない。
人でなくなるくらいなら…まだ人間のままで、相良宗介の知っている千鳥かなめとして、
あたしは死にたい!
あたしは恐る恐るナイフに手を伸ばした。


ここは…どこだろう?
誰かの声が聞こえる…にじみ出る後悔に耐え切れないようなそんな悲しい声。
この声…聞き覚えがある…宗介の声だ。

「千鳥…すまない、俺はお前を救えなかった」
そんなに泣かないで…宗介
ああ、わたし死んじゃったんだ…でも宗介が生きていてくれたのなら
それで充分だよ。
だから…今度はあたしの分まで宗介に幸せになって欲しい…もういいから
あたしの視界が開ける、誰かの部屋みたいだ…こじんまりとしてるけどそれでいて
温もりのあるそんな空間、
かつて…まだ生きていたあたしがほんの少しだけ夢見たのかもしれないそんな場所。

こうなるくらいなら…もっと正直になりたかった。
テーブルの上には写真がある…そこにはあたしが写っている、学校の制服を着て
ハリセン持ってにっこりと。

そんなあたしの写真を見て…また悲しげに微笑む宗介。
そこに誰かが入ってくる。
「いよいよ明日ですね…サガラさん」

211Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/15(日) 01:42:43 ID:s.j4Ec7Y
その声を聞いた途端、あたしの痛みが大きくなった…テッサの声を顔を見た瞬間。
どうしてだろう?
テッサは親友で戦友で同志だから、宗介のことが好きなのはわかっていたはずなのに、
だからあたしが死んだらそこにいるのはむしろ自然なことなはずなのに?

これまでも危ない目にはあってきた、もし自分が死んだら宗介はどうなるんだろうと
考えたことも1度や2度ではない。
彼があたしを守るのは任務でしかないとわかっていながら…それ以上をいつの間にか
心の奥底で望んでいたあたし。

その度にテッサなら…仕方ない、テッサなら大丈夫…という思いでいつも考えを打ち切っていた。
でも、今はっきりとわかった。
逆だ…彼女だから、親友で戦友で同志だから…許せない。
私の知らない誰かなら仕方がないと思う、けどテッサだけはダメなのだということに。

でも写真の中のあたしは笑ってる、今これを見ている私は多分泣いているのに。
「雨続きが終った今夜は星がたくさん見えますね」
「そうですね…千鳥にもみせてやりませんと」
テッサはなれなれしくも宗介の隣に座って、宗介の肩にしなだれかかっている。
何それ?何してるのあんた?
でもあたしは何も出来ない、だってもうあたしは写真だから…。
写真の中のあたしはずっと笑顔のまま…ずっとこれを見ていないといけない。
そんなのってひどい!

「明日はかなめさんの席も用意しているんですよ、もちろん特等席ですよ」
「千鳥、君にこそ祝福してもらいたいんだ、俺たちの一番の同志であり友であった君にこそ」
そんなのうれしくないよ

212Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/15(日) 01:43:35 ID:s.j4Ec7Y
「そして改めて誓う、君の分まで幸せになると…こんな汚れた俺にその権利があればの話だが」
宗介はぎこちないけど、険の取れた笑顔で写真の私に話しかける。
その笑顔は…その表情は、あたしがずっと見たかった…頭の中で想像するしかなかったそんな顔で、
そしてその隣には…あたしがいるはずなのに…、
でもあたしじゃなくって…その隣にいるのは…。

「情け無い話です」
あたしの写真を見ながら、寂しげに笑う宗介。
「闇に包まれると千鳥を失ったあの地下室を思い出してしまいます…暗闇を恐れる兵士、笑い話以下です」
「なら…恥ずかしいですけど、明るいままで…」
テッサは宗介をベッドに誘う…宗介も拒まない。

「中佐に知られれば自分は個人的に銃殺刑に処されるかもしれないです」
「怖いですか?」
「いえ、望むところです…では失礼いたします」
宗介はテッサの服を一枚一枚丁寧に脱がせていく。
その強張った表情に、苦笑するテッサ。

「私に敬語とかそういうのはもうやめていただけないでしょうか?私たちはもうミスリルを除隊した身ですし」
自分で言っていて照れて赤面するテッサ、その顔は紛れもなき勝者の顔だった。
少し時間が止まったような…そんな不思議な表情の宗介、その口元は止まった時間を動かそうと
なにやら呪文を唱えているかのようだ…やがて。
「なら…たい…いやテッサ…俺のことも宗介と呼んで欲しい、千鳥がそうしていたように」

その言葉は、何よりも鋭く、そして痛くあたしの心に突き刺さる。

213Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/15(日) 01:45:46 ID:s.j4Ec7Y
やめてやめてやめてやめてやめて…
あたししゃしんのなかじゃないここにいるのにここにいるのだからおねがいやめてそれだけは、
それいったらあたし。
額縁の中の私がテッサを睨む、笑顔のままで。
あなたをゆるさない。

でもテッサには何も届かない…聞こえない…
「わかりました…宗介」
2人はあたしの見ている前で…昼間のように明るい蛍光灯の下で…口づけを交わした。
手を握りあう2人の指には指輪が光っていた。
そしてあたしの中で何かが崩れた…。

「とてつも無き朴念仁じゃの、宗介とやら」
かなめの身体を膝に乗せ嘆息する美姫…これでは女の身はとてもじゃないが持つまい。
「かなめよ、お前が見ているそれはお前が最も恐れる未来よ…お前は何を望む…
 未来を受け入れるか?それとも抗って見せるか?…それにしても」
美姫は宗介のことを思う、今時おそらく珍しく一本気な男とみた。
己の手を血に染め、忠義を尽くすその姿はまるで古の趙子龍…いやいやそんな器ではあるまい。

「せいぜい虎痴というところかの?だが罪な男よ…愛するものを泣かせまいと思うほどに、
 女は逆に傷つくというのに」
放送はいつの間にか禁止エリアのことについて触れていた。
耳を澄ます美姫。

「つい先ほどまでは、このまま奴らの手にて踊るよりは潔く朽ちるも良しと
 思うておったがの」
また夢の中で苦悶するかなめの顔を優しく撫でる美姫。
「この2人…いや3人の行く末を見届けるのが楽しくなってきたわ…遊びの時間はまだ終わらぬ」

214Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/15(日) 01:47:29 ID:s.j4Ec7Y
【千鳥かなめ】
【状態】吸血鬼化進行中?精神面に少し傷
【装備】鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】苦悶中

【美姫】
 [状態]:通常
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:上機嫌

215そして不死人は竜と飛ぶ:2005/05/15(日) 15:37:28 ID:pBSSTsig
『……諸君らの健闘を祈る』
 放送が終わった。風見は自分の地図を広げ、BBと確認しながら禁止エリア、死者の名前にチェックを入れる。
 072 新庄運切  075 オドー  そして001 物部景
 一本づつ線を引く。気が一気に滅入る。

――馬鹿なやつ、私に誰かを重ねて見て、私を庇って死ぬなんて。

 全竜交渉でも死者は出ている。風見とてただの小娘ではないし、戦場での死は初めてではない。
 だが、今回は違う、と風見は考えている。景は私をかばって、つまり私のせいで死んだのだ、と。
 彼に失礼だとは分かっていても、風見はその後悔を捨てることが出来ない。
 自分は戦闘訓練を受けていた、というのも今思えば驕りでしかなかった。
 新庄も、オドーでさえも死んでいるというのに。
 まさしくいいとこなし、と言うやつである。
 BBは何も言わない。その気遣いが風見にはありがたい。
 新庄、オドーはどんな死に様だったのか。誰に殺されたのだろうか。
 相方が無言をいいことに、風見は自分の世界に沈み込む。
 装備型のEx−stはともかく、オドーの悪臭までは取り上げられてないだろう。
 だとすると機竜さえ打ち砕くオドーすら倒れるこの島で、銃ひとつとはあまりに心もとない。
 やはり先にG−sp2を探すべきだろうか。
 戦闘とあらば文字通り飛んでくる相棒を思い浮かべ、風見は大切なことを忘れていることにようやく気づいた。
「そうだ、飛んでこれるんじゃない」
 がっくりと肩を落とす風見。どうも今ひとつ調子が出ていない。
 打撃してないのが原因ではあるまいか、と風見は半ば本気で考えた。
「まさかアンタをぶっ飛ばすもいかないわよね、痛そうだし」
 どうも自分にはガンガン突っ込めるタイプの相方が必要らしい。
「何がしたいのかは分からんが、それが賢明だろうな」
 律儀に答えるBB。悪いとまでは言わないが、こうもお堅いとさすがにフラストレーションがたまる。
 風見は深呼吸して気を取り直した、G−sp2がくればBBにも手を痛めずに突っ込める、調子も戻るだろうと考えて、
「さて、ちょっと上をチェックしといて、どこから飛んでくるのか分からないから」
怪訝な様子のBBを無視して、
「G−sp2!」
声を張った。
 一拍の間をおいて、東から飛来する衝撃音とそれにつづく風切音を二人は捕らえる。
 そして風見は、また一つポカをしたことに気付いて頭を抱えた。
 

    *    *    *


 時刻は数分ほどさかのぼる。放送のメモを終えて子爵とハーヴェイは移動の準備に取り掛かった。
 少女の遺体を野ざらしにしておくのは忍びなかったが、埋葬する時間はない。たまたま今回の放送に名前は無かったが、
次の放送でキーリが呼ばれない保障はどこにもない。最悪、今この瞬間にも彼女が死の危地に直面しているかもしれなのだ。

216そして不死人は竜と飛ぶ:2005/05/15(日) 15:38:16 ID:pBSSTsig
「これで勘弁してくれ」
 二人は少女の亡骸を木に寄りかからせて、目をそっと瞑らせた。
【さて、放送も終わった。私は流離いの一人旅に出たいと思うのだが、君はどうするかね。尋ね人がいるのなら、協力するの
 にはやぶさかではない。かような私だが言付を預かることぐらいはできるつもりだが?】
「いや、いい。こんな状況で待ち合わせを頼むのにはアンタにも俺達にも危険だからな」
 ハーヴェイは真っ赤な自称吸血鬼のスライムにキーリの特徴と炭化銃の性質だけ教えてお別れを言った。
「アンタもしぶとさが売りなんだろうが、それでもこの島は危険だ。気をつけてな」
 子爵が赤い触手のようなものを伸ばしてきた、握手のつもりなのだろうと、彼は判断し、それを生身の手で握り返した。
 ほんのちょっぴり後悔した。 
 子爵は液体となって流れるように去っていく。彼は気取られないようにそっと手を拭きながら見送った。

「武器はこれだけか」
 その後、ハーヴェイは武器を求めてウルペンが置き捨てた長槍を手に取った。
 奇妙な形状、用途不明の突起、不可解な装甲。これも非常識な物体なのかと首をひねる。
 直後、コンソールに緑色の光がともった。
『コンニチワ!』
「ああ、こんにちわ」
 淡々と返すハーヴェイ。
『オドロカナイノ?』
「もう慣れた」
 穂首をがっくりと落とした、と思ったら今度は振り回す。誰かいるのか、とハーヴェイもそれに倣うが人影は見えなかった
『ヨンダ?』
「いや。誰もいないし、というか声すら聞こえなかったぞ」
『キコエタノ』
 疑問視を浮かべて答えるハーヴェイ。
『ハナシテ』
 言われるままに手を離してから、猛烈にいやな予感を覚えた。
『イマイクヨ!』
「ちょっと待て!」
 くるりと長槍が身を翻した。その柄を義手がとっさにつかむ。
 風船を破る、というよりアドバルーンを破るような音がして、ハーヴェイが気が付いたときには、その身ははるか上空を
飛んでいた。
「……どこに行く気だよ」
 すさまじい慣性がハーヴェイを後方に引きずる。
 地上を眼下に見下ろしながら、振り落とされないようペダルにしがみつくハーヴェイ。
 ほんの数秒の飛行後、ハーヴェイは自分が危機的状況にあるのに気が付いた。
 だんだんとハーヴェイにかかる慣性が消えていく、眼下の景色も地上からだんだんと水平線になっていく。
「おいおい、マジか」
 冷や汗が流れる。
「落ちてるぞ」

 衝撃。そして暗転。

 腕一本ですんだのは僥倖といえた。かばった腕はしばらく使い物にはならないが、行動不能よりはましである。
 ここは建物の内部、あたりには瓦礫が散らばっていて、天井に開いた穴から青い空が見えていた。
 しばらくの黙考の後、ハーヴェイは手元に長槍がないことに気が付き、とりあえず穴から上へよじ登る。
 集合住宅の屋上らしき場所、あたりに人影はない。
 あるものといえば、血痕のあと、ディバック、メガホン、そしてコンクリートに突き立つ槍。
『シクシク』
「まぁ、そう気を落とすな」
 自分を慰めるように、ハーヴェイはその装甲をたたいた。

217そして不死人は竜と飛ぶ:2005/05/15(日) 15:39:05 ID:pBSSTsig
【D-4/森の中/1日目・12:05】
【蒼い殺戮者(ブルーブレイカー)】
[状態]:少々の弾痕はあるが、異常なし。
[装備]:梳牙
[道具]:無し(地図、名簿は記録装置にデータ保存)
[思考]:風見と協力して、しずく・火乃香・パイフウを捜索。脱出のために必要な行動は全て行う心積もり。


【風見千里】
[状態]:精神的に多少の疲労感はあるが、肉体的には異常無し。
[装備]:グロック19(全弾装填済み・予備マガジン無し)、頑丈な腕時計。
[道具]:支給品一式、缶詰四個、ロープ、救急箱、朝食入りのタッパー、弾薬セット。
[思考]:G−sp2はどこ?。仲間と合流。景を埋葬したい。とりあえずシバく対象が欲しい。


【C-8/港町/1日目・12:05】

【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン(子爵)】
 [状態]:健康状態 
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック一式、 「教育シリーズ 日本の歴史DVD 全12巻セット」
      アメリアのデイパック(支給品一式)
 [思考]:アメリアの仲間達に彼女の最後を伝え、形見の品を渡す/祐巳がどうなったか気にしている 。
 [補足]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません。
     この時点で子爵はアメリアの名前を知りません。
     キーリの特徴(虚空に向かってしゃべりだす)を知っています。

【C-6/住宅街/1日目・12:05】

【ハーヴェイ】
[状態]:生身の腕大破、他は完治。(回復には数時間必要)
[装備]:G−sp2
[道具]:支給品一式
[思考]:まともな武器を調達しつつキーリを探す。ゲームに乗った奴を野放しに出来ない。特にウルペン。
[備考]:服が自分の血で汚れてます 。

【C-8】から【C-6】に向けてG−sp2が飛びました。音に気づき、場合によっては目撃したものがいると思われます。
ウルペンがハーヴェイの生存に気づいた可能性があります。

218ヒーローの条件・1  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:03:45 ID:lD9FiO4.
 青空の下の無人の商店街というものは、やはりどこか寂しく感じられた。
(ここにも、人が住んでいたのかな)
 それとも、わざわざこのゲームを開催するためだけにつくられたのか。
 前者の場合住人達はどこへ行ったのか──それを考えて、少し身震いする。
「どうした要! 寒いのか?」
「も、もしかして知恵熱? イエローいろいろ考えすぎだよ!」
「……知恵熱は赤ちゃんがなるものです」
 結局の所、その寂しい商店街の中にいても心細くならないのは、この二人のおかげだった。──しばしば頭痛がするけれども。
 そんなに大声でしゃべっていると“乗っている”参加者に気づかれないか──と言ったところ、
『大丈夫! この超絶勇者剣があればどんな化け物が来てもまっぷたつだ!』
『わあ! アイザックかっこいい!』
 そう返された。
 ……こうも緊張感がないことが、逆に相手を警戒させるかもしれない──そう思っておくことにした。
(……なんでこの人達は、こんな風にいられるんだろう)
 ふと、今更そんなことを思う。
 初めて会ったときも、必死で自分を励ましてくれた。
 壮大で無謀すぎる計画を立てて、勝手にイエローにされた。……知能派はブルーなのに。
 だが、ただのん気なだけのカップルではないのはわかっていた。
 ──先程あの悲惨な放送が流れたとき、彼らは悲愴な顔をして、本気で放送の主を助けに行こうとしていた。
 放送場所がわかっていたら、今すぐにでも駆け出しに行きそうなくらいの勢いで。
 きっと空気が読めないだけであって、事態が読めないわけではないのだ。
「……あの」
「どうしたんだ要?」
「どうしたの?」
「どうして……どうしてそんな風に明るく振る舞えるんですか?
ここじゃ、いつ誰が殺されてもおかしくないのに。どうして、そんなに」
 気がついたら、口が動いていた。
 先程の放送でぶり返してきた恐怖と絶望を、彼らの自信と明るさで吹き飛ばして欲しかった。
 ──彼らは顔を見合わせると、笑顔でこう言った。

219ヒーローの条件・2  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:04:25 ID:lD9FiO4.
「ヒーローってやつはさ、笑っていないとダメなんだよ!」
「そうそう! 誰かがピンチになったときに落ち込みながらかけつけてもダメなんだよ!
エニスみたいにさ! ぱーっとかけつけて、さーっと悪人をやっつけないとね! かっこよくないよ!」
「ああ! いつまでも泣いたままじゃあモリアーティーにも笑われちまうしな!」
「死んだ子供達にもね!」
「おう! だからさ、つらくてもとりあえずがんばる! なんとかする! 忘れる!」
「うんうん!」
「……」
「とにかくヒーローってのはさ、絶対落ち込むところをみせちゃいけないし、絶対死んじゃいけないんだよ!」
殺されていいのはライバルだけなんだ!」
「うん!……あれ? アイザックのライバルって誰?」
「…………ミリア?」
「ええ!? 私!? アイザック殺したくないよ!」
「……ってことはなんだ、俺達死なないのか! すげえ!」
「すごいね!」
「なんでそうなるんですか!?」
 ──言っていることは無茶苦茶。知識も相当いい加減。その根拠もやっぱりわからない。
 ……でも。
(この人達はそれ以前に……本当に単純に、いい人なんだ)
 どこか、暖かさを感じるような。どんな人も引きつけてしまいそうな、不思議な魅力があった。
(……最初に、この人達に会えて本当によかった)
 改めてそう思う。
 彼らでなければ、自分はあのまま震えていたか、誰かに殺されていただろう。
「……ありがとうございます」
「あれ? 何か感謝されたぞ!」
「なんでだろう? でもありがとう!」
「ありがとう!」

220ヒーローの条件・3  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:05:12 ID:lD9FiO4.
「……とにかく、食べ物を探さないと。約束の十二時までもうすぐだし」
 三人で笑い合った後、本来の目的を思い出す。
 彼女が言った、約束を破った場合の“お仕置き”はちょっと想像したくない。
「後調べてないのは北の方ですよね。まず、あそこの八百屋に行ってみませんか?」
「ヤオヤって何?」
「えーと、確か野球やフットボールの結果を賭ける、日本のマフィアの集まる場所じゃなかったか?」
「……全然違います。野菜を売ってるところです」
「むう、そうなのか。やっぱり要は物知りだな!」
「うん、すごいよね!」
 彼らの間違った日本の知識はどこから入ってくるのだろう。胸中で溜め息をつき



 刹那、ミリアの腹部から鮮血が吹き出した。



「…………!?」
「おおおおおおおおおおお!? ミリア!?」
 力なく倒れ伏すミリアに、アイザックが駆け寄る。
 目を見開き、悲鳴すら出せないままこちらを見つめるミリアが、見えた。
 赤い血が、見る間に地面に広がっていく。
「…………うあああああああああああああ!?」
 遅れて、絶叫。
(なんで!? なんでミリアさんが!?)
 頭の中が真っ白になる。
 ついさっきまで、自分を励ましてくれたのに。
 ついさっきまで、笑いあっていたのに。
 ──この人達となら、一緒に脱出できると思っていたのに。
「とととにかくミリアをビルに…………おおおおぅ!?」
 ──今度はアイザックの胸部から、赤。
 彼の血が、要の顔にぴちゃりと飛んだ。

221ヒーローの条件・4  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:05:57 ID:lD9FiO4.
「あ……、ぁぁあ、あ」
 温かな感触が、頬を伝う。足下にも血が侵食していく。
 ──限界は、すぐに訪れた。
「ぁぁあああああああああああ!」
 ──逃げないと、殺される。
 ──ここから離れないと、死ぬ。
 思考がそこまでたどり着いたときには、もう足は動いていた。



「ここからが本番ですね」
 逃げる少年の姿をスコープで確認して、子荻は気を引き締めた。
 ──ふたたび隠れようと思ったビルにたどり着くと、そこにはよくわからない着ぐるみがいた。
 見るからに怪しいその物体に接触することは危険きわまりない。
 結局この高架の上まで逃げることになり、小休止の後ふたたびライフルを握ることとなった。
 ……すなわち、哀川潤の殺害。
(追ってこなかった理由は……仲間に止められた、というところでしょうね)
 あの“赤き征裁”が、怪我を理由に追跡を止めるわけがない。
 ──彼女が身内に甘いのは有名だ。
 仲間の誰かが負傷していたか──こんな場所だ、負傷した彼女の足を一時的に止められる能力を持つ者がいたのかもしれない。
 ……さすがに、二時間近くも放置してくれるとは思っていなかったのだが。
(おかげで少し休めました。……今度こそ、仕留めます)
 こちらの姿は見られている可能性がある。
 ここから脱出しても一生追われるだろう。ならば、ここで殺すしかない。
(おとりは仕掛けました。仲間の状態と銃撃手の確認のために、“赤き征裁”なら必ず外に出てきます。
二時間経過し──さらに“人類最強の請負人”であるとはいえ、まだ本調子ではないでしょう。
こちらの位置が捕捉される前に、殺せます)
 ここから商店街はそれなりの距離があったが、それは萩原子荻にとっては些細な障害にしかならない。
「……では、逆殺です」
 ビルから出てくるであろう“赤き征裁”に、子荻は小さな声で宣戦布告した。

222ヒーローの条件・5  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:06:43 ID:lD9FiO4.
 胸元に抱いた子犬は、安らかな表情で寝息をたてている。
 その白い毛並みを撫で、哀川潤は口に微笑を浮かべた。
 こうしてみると本当にただの子犬にしか見えないが──身を挺して自分の命を救ったのは、他でもない彼なのだ。
「まったく、お前が死んだら意味がないだろうが」
 犠牲が出た時点で請負人失格だ。
 彼と、今は商店街にいる三人、そして福沢祐巳。──必ず彼らと共に脱出してみせる。
「祐巳は気がかりだが……あいつらはまぁ、大丈夫だろ」
 ごく普通の少年である高里要は少し心配だが、あの二人と一緒なら大丈夫だろう。奴らが死ぬところなどまったく想像できない。
(刀と銃器とあのバカ会話は牽制になる。放送も近いから、聞き逃さないために厄介ごとを避ける奴らが多い)
 たとえ知り合いの生死など関係のないマーダーであっても、禁止エリアの情報は必須だ。
 それに、いざとなったらいつでも飛び出せるよう聴覚を研ぎ澄ませている。
 左足の傷が開いてしてしまう恐れもあるが、彼らの命と比べたら些末なことだ。
(この足が治ったら祐巳を探して……子荻を何とかしないとな)
 彼女は“策師”だ。たった一人でこの島の全員を殺すことが不可能なことくらい理解している。
 邪魔な人間以外は殺さずに、巧みに策を練り駒にする。最終的に主催者を倒すかゲームに乗るかは知らないが。
 だが、彼女は“哀川潤”を殺し損ねたのだ。復讐を恐れて彼女は必ずこちらを狙ってくる。──手加減は無用だ。殺すしかない。
「なんであいつが生き返ってるのかは知らんが、本物だろうが偽物だろうがやることは一緒……────!」
 ──少年の絶叫が、耳に入った。
「要!」
 瞬時に身体を起こす。間違いなく緊急事態だ。
「ファルコン、すぐに戻ってくるからな」
 彼をソファの上から、見つかりにくい机の下へと移動させた。
「……待ってろ。真のレッドが今から行くからな」
 ヒーロー戦隊は、一人でも欠けたら意味がない。
 そしてそれを防ぐのがリーダーであるレッド──つまり自分の役目だ。断じてグリーンではない。
 後で決めポーズでも考えてやろうか──そんなことを思いながら、哀川潤はビルの入口へと急いだ。

223ヒーローの条件・6  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:09:48 ID:lD9FiO4.
「!」
 そしてビルから出ようとして──左足を狙う銃弾を、すんでの所で立ち止まってやり過ごす。銃撃手は近くに見えない。
(狙撃……子荻か!)
 ──迂闊だった。要の悲鳴も彼女が原因だろう。
 彼女が自分の仲間を餌におびき寄せることを想像しなかったことは、最悪のミスだ。
「全員あたしの方に来るんじゃねえ! 森の方へ逃げろ!」
 彼らを視認するより先に、外に向けて叫ぶ。こちらの隙をつくために、彼らが狙われる可能性が非常に高い。
 そして遅れて、遠くの方に要の姿だけを確認できた。あの二人は、いない。
 胸中で舌打ちしつつ、とにかく彼を助けるためにビルから飛び出そうとして、
 ────ビルの角から現れた新手の少年の銃撃が、右肩に掠った。
(……こんな時に!)
 銃創を抉られた右肩と体重をかけられた左太腿の痛みをなんとか無視して、長い右脚で足払いを掛ける。
 少年がバランスを崩した瞬間、伸ばしきった足を斜め左に向かわせる。
 少年も何とか後ろに飛び退こうとするが、遅く、蹴り上げた足がその胸部を抉った。
「がっ……ぁ」
 倒れる寸前にふたたびショットガンの引き金が引かれたが、難なくかわす。
 ──その刹那。
「あぁあ……ぁあああ!」
 要の悲鳴が、ふたたび耳に届いた。
 ──少年が持っていたショットガンと拳銃とナイフを素早く奪い取り、外を横目で見る。
 ……向かって右手、ビルの角辺りに要が倒れていた。──足を撃たれている。
「──っの!」
 奪った少年の武器三つを、時間差を付けて投げた。どこかにいるアイザックとミリアに当たらぬよう、飛距離を落として。
 稚拙なフェイクだが、一瞬でも子荻の意識がこれらに向けばいい。
(あたしが行くまで、死ぬなよ──!)
 胸中で叫びつつ、哀川潤は地を蹴り出した。

224ヒーローの条件・7  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:11:12 ID:lD9FiO4.
 ビル内で“赤き征裁”と戦っている一人の少年のことを、萩原子荻は既に感知していた。
 ある店の庭から出てきた後、三人をしばらく監視しているところも見ていた。
 ──こちらのすることを邪魔されなければ別にいい。あくまで目標は脱出だ。
 なによりこの唯一の武器であるライフルは、弾数という足枷がある。無駄に使うわけにはいかない。
(ゲームに乗った者でしょう。
こちらの意図を汲んだのかどうかは知りませんが……あの少年を殺さずにいてくれたことには感謝します。
……ついでに彼女を倒してくれるのなら僥倖ですが、無理でしょうね)
 いくら怪我をしているといっても、“赤き征裁”だ。あの少年に勝てるとは思えない。
(──少しだけ、手伝いますか)
 森へ逃げようとする少年の右足を、撃つ。その悲鳴が彼女の隙を呼ぶことだろう。
 ──そして、しばらくすると。
 視界の中で、何かが動いた。



 悲鳴をあげる左足を無視して外へ────行かずに、全力で二階へと疾走。一階に正面以外の入口がないからだ。
 要のいた位置の真上に近い、角の部屋へと急ぐ。……銃声が三発、聞こえた。
 ──萩原子荻とあろうものが、あんなフェイクに引っかかったのだろうか?
(あいつはフェイクに弾を使うような馬鹿じゃない。……他のものを撃ったのか?)
 あの三人でないことを願いつつ、ひたすら走る。
 ──そして部屋へとたどり着き、側面にある窓を開けて、躊躇なく飛び降りた。
「────っ」
「潤さんっ!」
 いつもならたやすく着地できる高さだったが、左足が限界を迎えてしまい、バランスを崩してしまう。
 それでもここで立ち止まっているわけにはいかない。ビルの壁に手を突いて右足で立ち上がり、要を抱き上げる。
 そして素早くビルの裏側へと逃げ込んだ。──どうやら子荻の意識がこちらを捕捉する前に間に合ったようだ。
 彼女達は、あのとき北西に逃げていた。ならば、ここにいれば狙撃はこない。

225ヒーローの条件・8  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:12:07 ID:lD9FiO4.
「潤さん! 足が……」
「ああ、確かにお前の足は早く止血しないとな」
 心配そうな顔をする要に、笑顔で返事をする。
 スーツの下に着ていたシャツの布地を破り、要の右足にきつく巻いて止血する。
「……っ」
「痛いだろうが我慢しろよ。男の子だからなー」
「……はい」
 ──まだ怯えと不安の色はあるが、強く頷いてくれた。
「……んじゃ、そこにいろ。あたしはアイザックとミリアを助けてくる」
「でも、その足じゃ……!」
「あたしを誰だと思ってる?」
「……グリーン?」
「違う」
「……、“人類最強の請負人”?」
「そうだ」
 泣きそうな顔をしている要の頭を、くしゃくしゃと撫でてやった。
「……気をつけてくださいね」
 そして、左足をひきずり立ち上がった。
「ああ。ちゃんとそこで待っ────」



 言葉が終る前に潤は要を突き飛ばし、その結果、乗り出した潤の胸を弾丸が貫いた。

226ヒーローの条件・9  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:12:58 ID:lD9FiO4.
【C−4/ビルの影(南側)/一日目/11:40】
【哀川潤(084)】
[状態]:内臓の創傷が塞がりきれてない。右肩が治ってない。左太腿が動かない。
[装備]:なし(デイバッグの中)
[道具]:生物兵器(衣服などを分解)
[思考]:──!
[備考]:右肩は自然治癒不可、太腿治癒にはかなりの時間がかかる
    体力のほぼ完全回復には12時間ほどの休憩と食料が必要。
【高里要(097)】
[状態]:健康・上半身肌着
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(ランダム武器不明)
[思考]:潤さん!?

【C−3/商店街/一日目/11:40】
【アイザック(043)】
[状態]:胸に銃創
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:不明
【ミリア(044)】
[状態]:腹部に銃創
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:不明

【C−4/ビル一階事務室・机の下/一日目/11:40】
【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:催眠術で気絶中。前足に深い傷(止血済み)貧血  子犬形態
[装備]:黄色い帽子
[道具]:なし
[思考]:気絶中
[備考]:回復までは多くの水と食料と半日程度の休憩が必要。

227ヒーローの条件・10  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:13:47 ID:lD9FiO4.
【B−4/高架上/一日目/11:40】
【萩原子荻(086)】
[状態]:正常
[装備]:ライフル(残り4発)
[道具]:支給品一式
[思考]:哀川潤の殺害。ゲームからの脱出?
[備考]:臨也の支給アイテムをジッポーだと思っている
【折原臨也(038)】
[状態]:正常
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ジッポーライター、禁止エリア解除機
[思考]:彼女についていく。ゲームからの脱出?
[備考]:萩原子荻に解除機のことを隠す

【C−4/ビル一階正面玄関/一日目/11:40】
【キノ】
[状態]:気絶?
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×4、カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ
[思考]:最後まで生き残る。

228Dooms・1  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:14:28 ID:lD9FiO4.
 少年──高里要の足を撃った直後。
 萩原子荻は、視界に何か動くものを捕捉していた。
(…………、睡眠は取ったのですが、まだ疲れがあるようですね)
 ──視界に映ったそれは、血液だった。
 もちろん、常識的に考えて血が動くわけがない。
 ただの睡眠不足が見せた幻だと判断し、ふたたびビルを睨もうとして、
「────!?」
 飛び散っていた血と肉が、撃って倒れたはずの──いつの間にかビルに向かって這っている男女の元に、ゆっくりと集まっていくのが見えた。



「うう、痛いよ、アイザック……」
「ががが我慢だミリア……。ビルに逃げ込んで休むまでの辛抱だ! 先に行った要も、潤を呼びに行ってるはずだ!」
 ──自分たちはどうやら狙撃されたようだ。それに気づいたのは、要が立ち去ってから少し経った後だった。
 始めは二人とも激痛のため動けなかったが、今は普通に会話もでき、少しずつ這うくらいなら動くことが出来た。
 痛みも急速に引いてきている。……きっと特殊な銃器だったのだろう。
「要は大丈夫かな?」
「大丈夫! きっと今ごろ俺達を撃った奴らをグリーンと一緒に懲らしめてるさ!」
「そうだね! 頭いいイエローと、強いグリーンが組んだら最強だよね!」
「ああ! だから俺達も早く合流、」

229Dooms・2  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:15:09 ID:lD9FiO4.
 ────ふたたび、銃声。
 アイザックの胸から、鮮血がほとばしった。
「ひゃあああああ! アイザック!」
 顔をくしゃくしゃにして、ミリアが泣き叫ぶ。
「だ、だだだ、大丈夫だミリア。……ピンクが恋人をおいて死んだら、ダメ、だからな……」
「そそそうだよ! ヒーローがこんなところで死んじゃうなんて、モリアーティーも死んだ子供達も許してくれないよ!」
「ぁ、ああ! レッドも、ピンクも、イエローも、グリーンも、ホワイトも、ブラックも! 誰かが欠けたらだめなんだ!」
「うん! ブラックもきっと戻ってきてくれる! またみんなでがんばれるよ!」
「だだだからそれまで、俺達は、死んじゃいけないんだ!」
「そうだよね! アイザック!」
 二人は強く決意して、先程よりもゆっくりと、ビルまでの道を這い始めた。

 ──────二つの銃声が響き、意識が白く染まるまで。


「ずいぶん驚いてるけど、何かあったの?」
「いえ、何も」
 問われ、そっけなく返す。──冷たい言葉とは裏腹に、胸中は穏やかでなかったが。
(やっと止まりましたね……)
 二人の頭を撃つと、男女と血と肉はやっと動くのをやめた。
(まったく……どんな化け物がいるんですか、ここは)
 “赤き征裁”も確かに化け物だが、それでも一応人類だ。
 血や肉自身が再構成されるなど、人間の範疇を超えている。
(まあ、殺せたのでどうでもいいです。……でも、一瞬でもビルから目を離してしまったのが痛いですね)
 “赤き征裁”、そして少年の姿はもう見えない。
 ビルの裏側か、森の中に隠れられたようだ。
(……また、逃がしたというのですか。不覚です)
 だが、まだこの周囲を狙っていることはわかっているだろう。そう簡単には動けないはずだ。
(……膠着状態ですね。我慢比べと行きましょう)
 ──まだ終ってはいない。そう自分に言い聞かせ、気を引き締めた。

 それが既に終っていることに気づくのは、約二十分後のことだった。

230Dooms・3  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:16:04 ID:lD9FiO4.
「ああ。ちゃんとそこで待っ────」

 少年の眉間を狙って撃った弾丸が、突き飛ばした結果乗り出してしまった女の胸を貫いた。
 先に少年の方を殺して女の動揺を誘おうとしたのだが──かえってよい結果になった。
 その僥倖に感謝しつつ、間髪を入れずに動きが止まった女の眉間を撃ち抜いた。
「ぐ──」
「……っ」
 顔から血を流して倒れゆく女の目が、こちらを強く射抜く。
 ──目をそらすことすら出来ない、強すぎる眼光。悪寒と震えが身体に走る。
 横向きに倒れて顔が空の方を向くまで、それはキノの眼を貫いていた。

 ──胸を蹴られたあのとき、気絶はしていなかった。
 あっさりと返り討ちにあってしまったときには死を覚悟したが──こちらの容体を確認せずに、少年の救出を優先してくれて本当によかった。
 弾が残っている拳銃が、それほど遠くに投げられていなかったことも幸運だった。

 そして、後に残ったのは、まだ現実を飲み込めていない少年のみ。

「あ──、あ、」
 少年が呆けた声を漏らす。
 また叫ばれると、邪魔な人間を呼び寄せてしまうかもしれない。そう思い、銃口を向けると、
「…………ど、して」
「……?」
 少年から何かの言葉が漏れ始めた。
 訝しんだ刹那、何かが切れたかのように少年の口が開いた。
「……どうしてっ! どうして殺すんですか! 僕らは何もしていないのに! 殺していないのに!
ここから出たいっていう希望はみんな同じはずなのに! どうして! なんでみんなで、」
 ──言葉の途中で、キノは引き金を弾いた。

231Dooms・4  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:16:46 ID:lD9FiO4.
 銃声と少年の途切れた声が、耳に入る。
 見飽きてしまった赤い血が、目に映る。
 慣れてしまった血の臭いが、鼻を刺激する。
「……」
 デイパックごと、二人の荷物を持っていく。中身を見るのは後でいい。
 それと、最初に狙撃されたうちの一人は自分の銃を持っていた。回収するべきだろう。
 疲労は限界に達していたが、しょうがない。
「……」
 ──生き残らなければならない。どんなことをしても。
 そのことを、再び胸に刻み込む。
 撃たれた左足をひきずりながら、キノは歩き出した。
 涙に濡れた少年の目が、いつまでもこちらを見つめていた。

【043 アイザック 死亡】
【044 ミリア 死亡】
【084 哀川潤 死亡】
【097 高里要 死亡】
【残り77人】

232Dooms・5  </b><font color=#FF0000>(jfhXC/BA)</font><b>:2005/05/15(日) 23:17:36 ID:lD9FiO4.
【B−4/高架上/一日目/11:40】
【萩原子荻(086)】
[状態]:正常
[装備]:ライフル(残り4発)
[道具]:支給品一式
[思考]:哀川達の監視。ゲームからの脱出?
[備考]:臨也の支給アイテムをジッポーだと思っている
【折原臨也(038)】
[状態]:正常
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ジッポーライター、禁止エリア解除機
[思考]:彼女についていく。ゲームからの脱出?
[備考]:萩原子荻に解除機のことを隠す

【C−4/ビル一階正面玄関/一日目/11:40】
【キノ】
[状態]:疲労が限界に近い。
[装備]:ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り7発)
[道具]:支給品一式×4、潤と要のデイパック(中身未確認・未整理)、カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ
[思考]:森の人を回収→D-4森へ。最後まで生き残る。

※ベネリM3(残弾なし)と折りたたみナイフがビル周辺のどこかに放置されています。
 火乃香のカタナと森の人が、アイザックとミリアの死体のそばに放置されています。

233勘違いと剣舞 その1  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/16(月) 01:07:47 ID:Hw7b583Y
11:00、巨木の下で一休みしているときに放送を聞いた九連内朱巳は、ただただ不機嫌だった。
彼女は被害者に対し感情を吐き捨てる。
(まったく、馬鹿なやつらね。放り込まれて、追い込まれて、助けを求めて、自滅して……。
冗談じゃないわ、そんな死に方真っ平ゴメンだわ、そういうのを甘えてるっていうのよ!)
彼女にとってこの状況はいつもと変わらなかった、周りに自分より弱い者はいない、
気を抜いてミスをした瞬間に命はない、それはここでも向こうでも同じだった。
彼らの行為はあのシステムの中で『皆で中枢を倒し、自由に生きよう!』等と叫んでいることと変わりがない。
そんな策もない愚かなことをしていれば、3日後にはその姿は消えている。
理想だけでは生き残れない、彼らはそのことを知らなすぎた。
朱巳は他の2人の表情を見る。ヒースロゥの眉間には皺がよっていた、少し話しただけだが彼の思考からして
怒りの矛先は自分とは違い殺した方に向けられているだろう。
屍は相変わらずの顔だ、なんの乱れも生じていない、この程度のこと、彼の言う魔界では日常茶飯事ということか……。

「そういや、あんたの支給品ってなんだったの?」
妙に居心地の悪い空気を変えるため、純粋に気になっていたのもあり朱巳は屍に質問をぶつけてみた。
「特に必要のないものだ。」
「分かんないわよ、使い道のない物を渡す意味なんてないし。」
とは言ってみたものの、朱巳も自らの支給品に使い道を見出せずにいた。
あんなもんを一体どうしろと?
「じゃあ使い道を教えてもらおうか。」
屍がデイバックを開け中身を取り出す、中からでてきたのは素っ気無い椅子だった。
「あら、使い道なんてみえてるんじゃない?」
「・・・・・」
屍は無言で睨み付ける、普通の人間ならそれだけで震えが止まらないほどの威圧感を持っている。
だがそれを受けてなお、朱巳の顔にはニヤニヤとした笑みが張り付いていた。
「とりあえずは普通の椅子だが、何か仕掛け、もしくは罠があるかもしれないな。」
言ったのはヒースだ、怒りが静まり、表情は落ち着きを取り戻している。
「仕掛ける場所なんて見当たらないけど。」
「印象迷彩で隠してあるのかもしれない、迂闊に座ったりしない方がいい。」
「とは言ってもねえ・・・・・。」
椅子を見る朱巳少しめんどくさそうだ。
「用心にこしたことは無い。」
言いながらヒースは鉄パイプで座る場所をつっついてみる、反応は特に無い。
「それで分かんの?」
「いや、他にも体熱で反応したり一定以上の重さを加えないと反応しない場合もある。」
「壊した方が早くないか?」
「まあそうだがもし何か有利になるものだったら・・・・・」
言葉をヒースは途中で切った、屍も気づいたのだろう、先ほどと比べてさらに目つきが鋭くなる。
「・・・・・来るな。」
「ああ・・・・・。」
「よく気づくわね、あんたらやっぱ化け物?」
呆れる様な表情で彼女は呟く。
朱巳も常人に比べたら遥かに気配を感じる能力は優れている、が、彼らはさらに異常だった。
戦闘タイプの合成人間と同等、いや、それ以上の危険察知能力だった。
「化け物というのは案外鈍感なものだぞ。」
「違いねえ!」
屍の言葉と同時に3人は散開する、直後、彼らのいた場所に1人の男が剣を振り下ろし舞い降りた。
「貴様ら、ヒルルカに暴行をはたらき、挙句殺そうと・・・・・首から下との別れを済ましておけ!」
舞い降りたこの世のものとは思えぬ美しい剣士は周りを睨み付ける、その剣士の名はギギナといった。

突然の襲撃と怒りの言葉を受ける。が、彼らにはさっぱりだった。
ヒースと朱巳はお互いを見て目で確認する、無論互いにそんな覚えはない。
「待て、俺たちはそんな人物は知らないしまして暴行など・・・・・」
「しらばっくれる気か!?」
ギギナの水平切りがヒースを襲う、突然のことだったが後ろに身を引いてヒースはその切っ先をかわした。
それを見てギギナの表情に笑みが浮かぶ。
「ほう、手加減したとはいえ今の一撃をかわすとは、性根は腐っていても腕はいいようだな、面白い!」
剣撃がヒースを襲う、一撃めとは明らかに違う、雷の如き一撃が首を飛ばそうとした。
2撃めもヒースはかわした、だが先ほどと違い余裕はない。
鉄パイプを構え、向かい合う。最早話し合いは通じない、ここで倒すつもりだ。
そしてギギナは3度襲い掛かる、2人の(動機の不明な)決闘が今始まった。

234勘違いと剣舞 その2  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/16(月) 01:08:31 ID:Hw7b583Y
「わけわかんないわよ、あいつ何者?」
屍のもとに向かいながら朱巳が愚痴る。
「さあな、だが腕は確かだ、このままじゃ殺されるぞ。」
「なんで?」
そう朱巳がいうのも無理は無い、2人の戦いは5分5分に見えた、決してヒースは劣っていない。
「単純なことだ、獲物に差がありすぎる。」
屍は2人の方を向きながら言う、自ら戦いに参加するつもりは無いようだ。
「見ろ。」
「!」
「楽しいぞ!そんなもので私と舞えるとはな!」
魂砕きが左の足元からヒースの胴を狙う、鉄パイプで受け止めるも鉄パイプはそのまま真っ二つになり、
切っ先はヒースに吸い込まれる!
「くっ!」
ヒースは体を右に捻った、魂砕きによるダメージを最小限に抑える。
だがそれでも避けきれず、わき腹に熱い痛みが走った。
同時に彼の体に生じる脱力感、体に力が入らない。
それを見た朱巳は若干かったるそうに呟く。
「まずいわね・・・・・まあ恩も売っておいて損はないし、ちょっと行ってきますか。」
あの手のには慣れてるし、と付け加えると彼女は2人のもとへ歩いていく。
「おい。」
屍が声をかける、それに対して彼女は振り向いてニヤッと笑い
「まあ見てなさいって、『傷物の赤』のお手並み、拝見させてやるわよ。」
とだけ言った。

「ハァ、ハァ。」
息を荒げるヒース、前の7割程の長さになった鉄パイプを相手に向ける。
「さあ、覚悟はいいな。」
対峙するギギナ、息一つ乱していない、その手に持つ大型剣、
魂砕きは血を浴びることが嬉しいのか、その輝きは増していた。
完全に窮地に追い込まれたヒース、だがその目は輝きを失っていない。
(止めをさす一太刀には必ず油断が生じるはずだ、そこに俺の勝機がある!)
集中の極地、2人の目には互いの姿以外何も見えてはいなかった。
「ヒルルカの報いを受けろ・・・・・行くぞ!」
同時に地を蹴る、互いの姿がどんどん近くなる、と、その間に・・・・・

「はいストップ。」

1人の少女、九連内朱巳が割り込んだ。
「なっ・・・・・!」
「くっ・・・・・!」
2人とも太刀筋をギリギリで止める、魂砕きに至っては髪の毛に触れていた。
思わず止めてしまったギギナは怒りに顔を歪め、押し殺した声で朱巳に言う。
「女・・・・・戦いを汚す気か?
 邪魔だ、後で始末はつけてやる。それとも今この場で物言わぬ屍となるか?」
そこにはギラギラとした殺気が篭っていた。
「あら、無抵抗の少女を手にかけるなんて随分と安いプライドね、色男さん。
 そんな接し方だと女の子も逃げちゃうわよ?」
ヘラヘラとした表情で言う、その表情に恐怖は無い。
ギギナは激昂した、女云々ではなく、『安いプライド』などとドラッケン族としての誇りを侮辱したことに。
「貴様、ドラッケン族の誇りを侮辱するとは……」
そのとき朱巳の手がスッと彼の胸元に動いた。
あまりにもゆっくりと、自然な動作で、ギギナは反応できなかった。
奇妙な形に手を捻る。

がちゃん

それは鍵を掛ける仕草に酷似していた。
「あんたもかわったところに鍵があるのね〜。」
言った直後首筋に剣を突きつけられる、動こうとするヒース、
だが朱巳はそれを手で制した。
「貴様…何をした!?」
「だから鍵を掛けたのよ、あんたのその『ムカムカとした気持ち』にね。
 そんなイライラした状態で戦闘が出来るかしら?」
相手が少し手を動かすだけであっさりと自分が死ぬというのに、朱巳の表情はまだかわらぬままだ。
「そんなバカなことが・・・・・」
言いながらも彼は自分の中にチクチクしたようなものが絶えず動き回っているような気がしてならない。
それを見越してか朱巳は言葉を続ける。
「ほらまだ怒ってる、そのままじゃ胃に穴が開くわよ。」
この状況でケラケラと笑っている彼女は、恐怖に鍵でも掛けているのだろうか。
だが事実はそうではない、彼女の手のひらは汗まみれになっていた、単純に隠しているだけだ。
隠しているのはそのことだけじゃない、今この場でついている嘘もだ。
彼女の鍵を掛けるという能力、『レイン・オン・フライデイ』とは全くの嘘っぱちだった。
ただの暗示をかけて、相手をその気にさせているだけだ。
その演技はついに、自らの体を知り尽くしている生体強化系咒式士まで騙したのだ。

235勘違いと剣舞 その3  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/05/16(月) 01:10:31 ID:Hw7b583Y
「外せ!」
握る剣に力を込める、断った瞬間に掻っ切るという意志が籠められていた。
「外すわよ、あんたがもう襲わないっていうなら。」
「それはできない。」
「は?なんでよ?」
驚く朱巳、ここで終わらせるはずだったのだが。
「貴様らはヒルルカを陵辱した、その行為は万死に値する!」
そういえば、と彼女はこの件の発端となった言葉を思い出した。
「だからヒルルカってだれよ?」
「知らないとは言わせん、今しがたあれだけのことをしていながら・・・・・」
「ちょっと待って、今しがたって・・・・・」
記憶を遡る朱巳、暴行?殺そうと?確かこいつが来る直前に・・・・
屍の言葉が蘇る

『壊した方が早くないか?』

「・・・・・もしかしてヒルルカってあれ?」
彼女の指差す先には先ほど

ヒースが鉄パイプでつっつき、

屍が壊したほうが早い

と言ったあの椅子があった。
「ああ、そうだ、そういえば言ってなかったな、あの椅子の名はヒルルカ、私の愛娘だ。」
激しくため息をつく朱巳、目を点にするヒース、くだらんといいそっぽを向く屍、
「……椅子に暴行とか殺害なんて正気?」
ただ疲れたという表情を満面に出しながら朱巳が言った。
「そう、正気の沙汰ではない、だからこそ貴様らは・・・・・」
「「「そういう意味じゃ(ねえ。ない。ないっつーの。)」」」
見事にヒースと朱巳、そして屍までもの声が重なった。


その後、心の鍵を外し、朱巳からの説明が始まった(無論一部を捏造し、一部を改変し、一部を削って)


そしてギギナはすっかり朱巳の作り話を信じた。
「そうか、貴様らがヒルルカを助けてくれたのか・・・・・。
 ならば今回はその行為に免じてひくとしよう」
そしてギギナはヒースの方に向きニヤッと笑う。
「貴様との戦いは楽しかった、名を聞いておこう。」
「ヒースロゥ・クリストフだ。」
「そうか、私の名はギギナ・ジャーディ・ドルク・メレイオス・アシュレイ・ブフ、
 次合うときは互いの命を賭け、死の淵まで存分に戦おう。」
一瞬の迷いを見せるがヒースはこの誘いに
「・・・・・ああ。」
と答えた。
「では――剣と月の祝福を。」
神をも惚れさせるような微笑を浮かべると、くるりと後ろを向きギギナは歩き出した、
左手にはヒルルカを持っている。
「どうして仲間に誘わなかったんだ?」
ヒースは朱巳に尋ねた、彼女のことだから自分と同じように誘うと思ったのだった。
「あの手の単細胞タイプに誘いは無理よ、一匹狼気取るのが性分だから。」
(そうかな・・・・・。)
彼は心の中で呟いた、同じ戦闘好きでも彼とフォルテッシモは違う気がしたのだ。
「それに、次仲間にするなら話上手がいいから。
 無口と堅物じゃやっぱり盛り上がらないわ。」
その言葉にヒースと屍が顔をしかめたが、朱巳は知らん振りした。
そのとき、12時の放送が鳴り響く。

【風により傷物となった屍】
【E3/巨木/一日目12:00】

【九連内朱巳】
【状態】上機嫌
【装備】なし
【道具】パーティゲームいり荷物一式
【思考】エンブリオ探しに付き合う、とりあえず移動。


【屍刑四郎】
【状態】呆れ気味
【装備】なし
【道具】荷物一式
【思考】とりあえずついていってみるか。


【ヒースロゥ・クリストフ】
【状態】腹部に傷(戦闘に支障あり)、虚脱感
【装備】鉄パイプ(切断され通常の7割ほどの長さ)
【道具】荷物一式
【思考】EDを探す。九連内朱巳を守る。ffとの再戦を希望する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【ギギナ】
[状態]:疲労。休息が必要なダメージ。かなりご満悦。
[装備]:魂砕き、ヒルルカ
[道具]:デイバッグ一式
[思考]:強者探索

236Refrain(1/4)◆3LcF9KyPfA:2005/05/16(月) 04:03:07 ID:IUdB/xsA
「正直言うて、俺もキツいんやけどなぁ……」
「すまないな。止血しても、流石に限界で……肩貸してもらわないと、歩けそうにもなくてな」
 クエロが去ったあの後。俺は傷の応急手当をすると、緋崎に肩を貸してもらいD-1の公民館へ向かっていた。
 最初は緋崎から「休憩せなあかん。もう一杯一杯や」と、有り難くも拒否のお言葉を貰っていたが、放送も近いので少し無理をすることにした。
 放送。それがただの定時連絡だったなら何も問題はなかっただろう。だが、問題は禁止エリアだ。
 もしD-1が次の禁止エリアになったりしたら目も当てられない。放送前に、公民館でミズー達と合流する必要がある。
 そして、クエロ……まさか、こんなに早く出会うとは思っていなかった。いや、思いたくなかった、だけかもしれない。
 昔の同僚。昔の相棒。そして――昔の恋人。
 クエロは、俺を許さないと言った。自分が殺すまで生き延びろ、と。
 俺もクエロを許さない。それは同じだ。だが、俺にクエロが殺せるのだろうか……
「……ユス……? おい、ガユス? どないしたんや!? おい、しっかりせんかい!」
「え? あ、いや、すまない。どうやら、考え事に没頭していたらしい」
「……何を、考えてたんや?」
「そのレーザーブレードのこと」
 即答で嘘を吐いた。
 俺はご丁寧にも指を突きつけると、緋崎のベルトに挟んである剣の柄に視線を送る。
「……便利な道具、や。あの白いマントの奴が説明書持ってへんかったからな、細かい使い方までは解らへんけど」
「そのことなんだけどな、ちょっと思いついたことがあって考えてたんだ」
 舌と頭が同時に動く。もしかしたらもうバレているのかもしれないが、それでも嘘は出来る限り隠し通さなければいけない。
 クエロの事を話すには、まだ早い。
 ――俺の、心の準備が。
「なんや、言うてみい?」
「さっき、最後にクエロが放った咒式だが……」
「『魔法』みたいなもんやな?」
「ああ、そう解釈して構わない。で、その咒式に触れた刃の部分が、咒式の一部を吸収して変色するのが見えた」
「魔法の上乗せが出来る光の剣、っちゅうわけか?」
「おそらくは、な」
 スラスラと言葉が口から滑り出ていく。こんな時でも、俺の舌は絶好調らしかった。
 クエロのことを頭から追い出す為、忌々しい想いを込めていつもの精神安定剤を心の中で言葉にする。
 ギギナに呪いあれ!

237Refrain(2/4)◆3LcF9KyPfA:2005/05/16(月) 04:03:57 ID:IUdB/xsA

「お、ようやく到着やな。ほら、見えてきたで、公民館」
「ようやく、休めるな……もう忘れたがビルの中で追いかけられたような気がしないでもない幻覚を見た時から休んでないからな」
「せやな。もう忘れたがビルの中で追いかけられたような気がしないでもない幻覚を見てから休んでへんもんなぁ」
 本当に、あの熊は一体なんだったんだろうな……でもそれ以上は思考停止。もう忘れた。熊ってなんだ?
 それより、ミズー達はもう公民館に辿り着いてるだろうか?
 いざとなったら新庄の剣があるので、俺達より遅れるということもないとは思うのだが……
「で、どないする? 念の為に裏口回ってく?」
 俺と同じことを考えていたのか、緋崎が目配せをしてくる。
「……いや、正面からでいいだろう。
 確かに彼女達以外の何者かが中にいれば危険だろうが、裏口から回って万が一にでもミズーに敵と間違われたらもっと危ない」
 言って、その状況を想像してしまう。こんな時ばかりは俺の明晰な頭脳が恨めしい。
「というわけで、正面からいくぞ。足音を消す必要まではないと思うが、警戒は怠るなよ」
「先刻承知や」
 方針が決まり、俺達は公民館に近付いていく。
 ボロボロの俺達を見たら、新庄はまた驚くかもな……膝枕をしてほしいとか言ったらしてくれるだろうか?
 多分盛大に引かれるから言わないけど。
 ミズーはどうだろう? ……きっと呆れたような溜息でも吐くんだろうな。
 悔しいので、またからかってみよう。拗ねた顔が可愛かったし。
 ……勿論後が怖すぎるので自粛するが。多分。
 そして、目の前に公民館の入り口が近付いてくる。
「……ええか?」
 緋崎は小さく「光よ」と呟くと、光の剣を構えて扉の前に立つ。
 あの白マント程は刀身が伸びず、光の剣というよりは光の短剣という風情だったが。
「ああ、いくぞ」
 俺はと言えば、何もできないので時計だけ確認して扉を開ける。

 現在、十一時五十七分。

238Refrain(2/4) </b><font color=#FF0000>(cF9KyPfA)</font><b>:2005/05/16(月) 04:04:55 ID:IUdB/xsA

『――ルツ、014 ミズー・ビアンカ、01――』
 煩い。黙れ。言われなくても解っている。
 目の前に、死体があるんだから。
『――原祥子、072 新庄・運切――』
 あぁ、畜生。頼むからやめてくれ。もう何も言わないでくれ……
「あ……あぁ……」
 何を悲しむガユス? 人の死なんざ見飽きているだろう? 仕方なかったんだ。今はそういう状況なんだ。
「違う……見ろ、この傷。まだ新しい。三十分も経ってはいないだろう。
 つまり、俺が最初から公民館を目指していればこうはならなかったんだ……クエロにも遭わなかったんだ!」
 違うな、冷静になれガユス。お前がいたからといってどうなる?
 咒式も使えず、満足に戦闘行動もできない。そんなお前がいて、彼女達を護れたのか?
 最初から公民館を目指していたとして、本当にクエロに遭わなかったのか?
「関係無い!! 俺は認めない。俺を認めない……黙れ。黙れ! 俺の思考を邪魔するなガユス!
 落ち着け。落ち着け! クエロのことは今は考えるな!」
 そうだ、落ち着け。いつもの俺になれ。龍理遣いは冷静沈着に、だ。
 クエロのことは忘れろ……
 ――よし、意味不明で支離滅裂な喚き声はこれで終了。まずは現状を把握だ。
 緋崎は、放送が始まる少し前に「一応、他に誰かおらんか探してくるわ」と言って建物の奥に入っていった。
 放送も聞き逃してしまったし、後で緋崎に聞こう。
 そして、ミズーと新庄の死の原因……恐らく、この女だろう。
 見覚えのない黒髪の女が、ミズーの近くに倒れていた。その胸には、やはり見覚えのない銀の短剣。
 新庄がトイレの中で倒れている状況と照らし合わせる。

239Refrain(4/4) </b><font color=#FF0000>(cF9KyPfA)</font><b>:2005/05/16(月) 04:05:48 ID:IUdB/xsA
 恐らくは一般人の振りをしてここに逃げ込んできた第三の女が、ある程度打ち解けたところで気分が悪いとトイレに行った。
 新庄ならば、心配して覗きに行っただろう。
 その新庄を隠し持っていた短剣で刺し、トイレの入り口で駆けつけたミズーと相討ち。そんなところか。
 黒髪の女の行為は、つまり――
「……裏切り……」
 また、裏切り。この言葉は、どこまで俺を苦しめれば気が済むというのか。
 さっきの醜態も、裏切りという単語がクエロを連想させたからか……
 それとも、ジヴの代わりをミズーに見出していたのか……
 どちらにせよ格好悪いことこの上ない。
 ところで……
「あぁ……それにしてもなんで……」

 なんで俺は、泣いているんだろう……

【D-1/公民館/1日目/12:10】

『罪人クラッカーズ』
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿負傷(処置済み)、左腿に刺傷(布で止血)。戦闘は無理。軽い心神喪失。疲労が限界。
[装備]:グルカナイフ、リボルバー(弾数ゼロ)、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ) 、ナイフ(太腿に装備)
[道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)
[思考]:これから、どうしようか……
[備考]:十二時の放送を一部しか聞いていません。

【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。精神的、肉体的に限界が近い。
[装備]:探知機 、光の剣
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本) 、風邪薬の小瓶
[思考]:カプセルを探す。他に、なんか人おったり物落ちてたりせぇへんかな?
[備考]:六時の放送を聞いていません。 走り回ったので、骨折部から鈍痛が響いています。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は、まだ正確に判断できていません)

【014 ミズー・ビアンカ 死亡】
【061 小笠原祥子 死亡】
【072 新庄運切 死亡】
【残り81人】

240Rainy Dog1/8◆7Xmruv2jXQ:2005/05/16(月) 07:55:35 ID:JdwCcAMg
「BB、火乃香……」
 この島の中で頼れる数少ない名前を唱えながら、しずくは湖岸を駆ける。
 地下墓地での一幕から二十分ほど。
 放送にはオドーの名前と祥子の名前があった。
 その事実に思考が停止しかけるのを、しずくは必死で耐えた。
 ほんの少しの間とはいえ、一緒にいた人に、もう会えない。
 死という現実に触れる痛みを知ってはいた。それが耐え難いものであることも、また。
 それでも、ここで泣いているわけにはいかないのだ。
(今かなめさんたちを助けられるのは、私しかいない)
 その事実がしずくの背中に確かな重みとなって存在していた。
 幸いにも、元の世界での知り合いたちは無事のようだった。
 ならばなんとしてでも合流して――――いや、彼らでなくてもいい。
 とにかく誰かに、自分が見た情報を伝え、助けを求めなければならない。
 しずくを袖口で目を拭いながら足を動かす。
 外見は人と変わらなくともしずくは機械知性体だ、その運動能力は生身の人間よりも高い。
 リスクを度外視してでも島を駆け回る覚悟はできていた。
 なんせ、タイムリミットは日没までだ。
 残された時間は決して多くないし、それに日没まで待たなくても宗介がその手を汚してしまう。
 千鳥かなめ。相良宗介。
 二人ともいい人だった。こんな島の中ででも、出会えてよかったと思えるほどに。
 だからこそ、しずくは二人を助けたいと思う。
 かなめを救い出したいと思うし、宗介に手を汚して欲しくないと思うのだ。
 再び溢れてきた涙を拭った時、視覚センサーが人影を捉えた。
 幸運としかいいようがない。
 こんなに速く誰かと接触できるのは予想外だった。
 しずくは速度を緩めて歩み寄ると、その人影――――皮のジャケットをまとった男に声をかけた。
「あ、あの!」
 声をかけられても、男は無反応だった。
 俯いているため顔は見えない。
 癖の悪い黒髪と、握り締めた両のこぶしが妙にしずくの印象に残った。

241Rainy Dog2/8◆7Xmruv2jXQ:2005/05/16(月) 07:56:21 ID:JdwCcAMg
「いきなりすいません! でも、すごい困ってるんです。力を貸して――――」
「悪いな」
 いきなり割り込まれ、しずくは思わず言葉を止めた。
 え? と呟いた後、男の言葉が拒否を表すものだと思い至る。
 そしてそれが誤解だと気づくのに、一秒とかからなかった。
 思わず歩み寄ろうとしたしずくを遮るように、男が右手を突き出し、握る。

「憂さ晴らしだ――――付き合えよ」

 しずくが何かを言うよりも男のほうが速かった。
 その眼光が紅く尖る。
 そして、頭上に巨大な影が出現した。



 ナイフのような背びれが空気を切り、筋肉に鎧われた巨体が宙を泳ぐ。
 その動きは見る者が優雅さを感じるほどに滑らかだ。
 大きく裂けた口。
 びっしりと並ぶ牙の群れ。
 赤い眼球。
 縦に長い瞳孔。
 いくつかの点で相違はあるが。
 男の頭上を旋回するそれに近い生物は、しずくの知識の中に確かに存在する。 
(これって……)
 半ば愕然としながら、しずくは認めた。
 彼女の世界では支配種ザ・サード以外は知りえないだろう生物。

 それは三メートルを超える、巨大な鮫だった。

242Rainy Dog3/8◆7Xmruv2jXQ:2005/05/16(月) 07:57:06 ID:JdwCcAMg
 甲斐氷太は暗い眼差しで少女を見た。
 久しぶりにカプセルを飲んだ高揚感も、悪魔を呼び出した興奮もない。
 体の芯にねっとりとした闇が巣食う感覚。
 血液という血液が死んだように冷たい。
 それもこれも、あの放送のせいだった。
 ありえない。許されない。
 あのウィザードが、物部景が――――……
 そこから先は言葉にせず、現実感が希薄なまま動く手足を確認して、甲斐は黒鮫に命令を下した。
 目の前の少女は細く、脆い。
 餌というのもおこがましい、惰弱な存在だ。
 言葉通り、ただの憂さ晴らしに過ぎない。
 子供がおもちゃを壊すように、あっけなく、容赦なく。

 ――――喰い千切れ。 


 猛烈な勢いで黒鮫が迫った。
 鼻先で突き殺そうとするかのような突進。
 切り裂かれた大気が悲鳴を上げ、巻き上げられた風にバランスを崩しかける。
 しずくがその一撃をかわせたのは奇跡に近い。
 横っ飛びに転がった数センチ横を、黒鮫が一瞬で通過していく。
 風に髪が叩かれる感触は、機械であろうとも背筋が寒くなるものがあった。
 デイバックから支給品を取り出しながら叫ぶ。
「は、話を聞いてください!」
 しずくの叫びを甲斐は黙殺。
 その時点でしずくは己の失敗に泣きそうになった。
 完全にゲームに乗った人間に声をかけてしまったらしい。
 それも理屈はわからないが巨大な鮫を操る危険人物に。

243Rainy Dog4/8◆7Xmruv2jXQ:2005/05/16(月) 07:57:47 ID:JdwCcAMg
 嘆く時間すら、相手は与えれくれなかった。
 小さな弧を描いて鮫が反転、再びこちらに鼻先を向ける。
 顎が開き、びっしりと並んだ牙が光を弾いた。
 陽光を塗りつぶすように、甲斐の両目が紅蓮に瞬く。

 セカンド・アタック。

 コマ落としにすら感じる突進。
 唸りをあげる大気を従えて、鮫が黒い砲弾と化す。
 しかし一度目よりはわずかに遅い。
 こちらが横に逃げても追撃可能な速度――――つまり今度は横に飛んでも回避できない。
 理解すると同時に、いや、それより速く体は動き始めている。
 ザ・サードのデータベースに接続してから吸収した情報は莫大な量だ。
 その中には高度な知識を必要とする先端技術もあれば、辺境の遊びなども含まれている。
 
 
 たとえば、バットの振り方。

 
 凶悪な棘つきバットであるそれを振りかぶり、思いっきりスイングする。
 タイミングを計る必要はなかった。もとより、最速でも分の悪い賭けなのだから。
 激突は刹那のことだった。
 黒鮫の顔の側面にバットが当たる。
 一瞬で足が浮き、鮫とバットの接触点を軸に独楽のように弾き飛ばされる。
 瞬間的に手首に甚大な負荷――――破損した。バットを手放す。
 だがそれと引き換えに、しずくの体は宙を飛んだ。
 黒鮫の上をまたぐ形で、ほんのわずかな時間、飛翔する。
 青い空が視界に広がった。
 しずくの故郷とすらいえる、空。
 そこにわずかに見とれながらも、次にくる衝撃に備えて体を丸める。
 ――――激突。

244Rainy Dog5/8◆7Xmruv2jXQ:2005/05/16(月) 07:58:47 ID:JdwCcAMg
 衝撃は予想よりもひどいものではなかった。
 足の短い草たちが、多少は衝撃を和らげてくれたらしい。
 それでも、行動に障害がでるレベルのダメージだ。
 駆動系の一部に異常。ただでさえ感度の落ちているセンサー類がさらにダウン。
「あ……」
 思わず声が漏れた。
 気がつけば後ろは湖だった。
 水まで一メートルといったところ。
 あれだけ勢いがついていて落ちなかったのは運がいいといえば運がいいが、次がかわせなければ意味がない。
 三度、黒い鮫と正面から対峙する。
 エスカリボルグは棘が肉に食い込み、鮫の顔面にそのままぶら下がっている。
 武器ももうない。

 サード・アタック。

 鮫の姿が近づいてくる。
 センサーの異常だろうか。
 なぜかゆっくりと見えるその光景を、しずくは自ら閉ざした。
 倒れたままきつく瞼を閉じて、最後を覚悟する。
 脳裏に浮かぶのは火乃香であり、浄眼機であり、オドーであり、祥子であり、
(ごめんなさい。かなめさん、宗介さん……さようなら、BB)
 いっそう強く眼を瞑り、しずくはその瞬間を待った。
 
 一秒、二秒、三秒……。
 
 何もおこらない。
 恐る恐る瞼を上げると、目の前に足が見えた。
「え?」
 呟きをかき消すように、背後で轟音が鳴る。
 そして。

245Rainy Dog6/8◆7Xmruv2jXQ:2005/05/16(月) 07:59:30 ID:JdwCcAMg
「きゃ!」
 降り注いだ無数の雫を浴びて、しずくは悲鳴をあげた。
 陽光は弾きながら、雨のように水が降り注ぐ。
 視覚センサーを手でかばいながら上空を見れば、まずはびしょ濡れの男が、そのさらに上に黒鮫が見えた。
 どうやら、鮫を湖に突っ込ませたらしい。
 この水滴は鮫の背中に乗った湖水が落ちてきたものだ。
 わけがわからず、しずくは目の前の男を見た。
 男――――甲斐氷太はあいもかわらず不機嫌そうに、赤い瞳でこちらを見ている。
 このままでは埒が明かない。
 しずくは口を開いた。


「あの……」
 少女がそこまでつぶやいて、再び黙る。
 こちらの顔が険悪になったのを見たからだろう。
 甲斐は胸中にわだかまる憎悪を意識した。
 ウィザード――――最高の好敵手を失った、憎悪。
 そう簡単にヘマをする奴ではなかったが、この異常な島ではいつも通りに立ち回れなかったのか。
 それとも他の理由があるのか。
 ひょっとすれば連れの女をかばったのかもしれない。
 あの女は、少し、姫木梓に似ていた気がする。

246Rainy Dog7/8◆7Xmruv2jXQ:2005/05/16(月) 08:00:25 ID:JdwCcAMg
 甲斐は一人回想した。
 初めて会った公園での対峙、地下街での戦い。
 長い探索を経て、倉庫で再戦を果たす。
 その後はなし崩し的に同盟を組んでセルネットと決戦。
 繁華街で無理やり悪魔戦を繰り広げたこともあった。
 王国では自分だけ犬の姿という理不尽な扱いを受けたが、まあそれはいい。
 塔での戦いでは少し助けてやっただけで、直接は顔を合わせていない。
 そして、この島で、果たされなかった決着をつける……はずだった。

「あの野郎。勝手にくたばってんじゃねえ……よ!」
 こぶしを思いっきり振り下ろした。
 鈍い音が響く。
 亜麻色の髪を数本巻き込み、甲斐のこぶしが少女の頬――――そのすぐ横にぶつかる。
 少女が眼を白黒させているのを見下ろしながら、こぶしを引く。
 濡れた髪から滴る水滴を払い、ぶっきらぼうに言う。
「悪かったな。もう行け」
 少女は余計に目を白黒させるが、甲斐は構うことなく背を向けた。
 なんの造作もなしに悪魔を消すと、背に残っていた水が激しく地面を叩いた。
 視界の端に自分と同じくびしょ濡れの少女を捉える。
 悪魔を使いはしたが、突撃させただけの素人以下の操作だった。
 悪魔に関してはいくつか引っかかることもあるし、その確認も必要だろう。
 それでも目の前の線の細い少女は、よくがんばた方だと甲斐は素直に思った。
 悪魔と渡り合う一般人など姫木梓だけだと思っていたが、なかなかにやる。
 ほんの少しだが、楽しかったのは事実だ。

247Rainy Dog8/8◆7Xmruv2jXQ:2005/05/16(月) 08:01:13 ID:JdwCcAMg
 だが、だからこそ、甲斐は許せないのだ。
 こんな素人相手でなく、もしも相手がウィザードなら。
 互いに死力を尽くし、生命を燃やし、ぎりぎりの戦いを行えたのなら。
 それは、最高の時間だったはずだ。
 もはや二度と手に入らない至高の瞬間。
 一度あきらめ、再び鼻先に吊るされた餌が、また寸前で取り上げられてしまった。

「俺が望んだのはこんな遊びじゃねえ。ウィザード、お前との……」
 
 
 身を起こしながら、しずくはぼんやりと男を見上げた。
 わけもわからず襲われて、わけもわからず見逃された。
 随分身勝手な人間だとは思うのだが……

(……泣いてるんでしょうか、この人は)

 しずくには、ずぶ濡れで空を見上げるその男が、やけに小さく見えた。
 
【D-7/湖岸/12:10】  
【しずく】
[状態]:右手首破損。身体機能低下。センサーさらに感度低下。濡れ鼠。
[装備]:
[道具]:荷物一式。
[思考]:1、かなめたちの救出のため協力者を探す

【甲斐氷太】
[状態]:左肩に切り傷(軽傷。処置済み)。ちょい欝気味。濡れ鼠。
[装備]:カプセル(ポケットに数錠)
[道具]:煙草(残り14本)、カプセル(大量)、支給品一式
[思考]:1.ウィザードの馬鹿野郎 2.ベリアルと戦いたい。海野をどうするべきか。
    ※『物語』を聞いています。 ※悪魔の制限に気づきました(詳細は別途確認するつまりです)
※エスカリボルグはその辺に落ちてます。

248悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/16(月) 15:34:55 ID:wMojAoZA
 骨折した部分が痛む。疲労で体が痺れてきた。昨夜の失血が体力を低下させている。
(あー、またしても死ぬとこやった……)
 小娘に吹き飛ばされ、熊に追い回され、今度は女に殺されかけた。
 二度あることは三度あると聞くが、三度あったことは何度あるのだろうか。
 前途多難な未来を憂い、軽い吐き気を感じたが、腹の中には水しかない。
 食事をとっていなかったことが幸いしたが、全然嬉しくなかった。
(曲がりなりにも連れができた途端に、連れの敵から目ぇつけられるとは……)
 自分もガユスも喋らない。お互い、そんな気分ではなかった。
 のろのろと力なくデイパックを開け、ガユスが止血を始めた。
 どう見ても、満身創痍の状態だ。殺そうと思えば、簡単に殺せそうだった。
(24時間後までに、誰も死なへんようやったら……その時、こいつが隣に居れば
 ……俺は、こいつを殺すんやろか?)
 そんなことを考えながらも、やるべきことは済ませておかねばならない。
 無惨に分断された死体の傍らに立ち、遺品をあさる前に、死者に声をかける。
「あんたの仇をどうにかする為にも、あんたの持ってた道具、使わしてもらうで」
 気分の良い行為ではないが、遺品は必要だった。作業しながら考え事を続ける。
(死人が出んと困るんは誰でも同じや。現時点で、そうそう多人数が殺されとるとも
 思われへん。まだ人口密度は高い。まず間違いなく他の誰かが殺してくれよる。
 まぁ一応、こんなんでも味方やしな。いつまでも味方とは限れへんけども)
 移動中にガユスと会話し、斧を持った女の方がミズー・ビアンカで、剣を持った
子供の方が新庄運切だ、とは聞いている。ミズーが敵の知人だったことも知った。
(……多分、そう遠くないうちに別行動せなあかん)
 フリウ・ハリスコーと合流すれば、ミズー・ビアンカは敵になるだろう。その時には、
おそらくガユス・レヴィナ・ソレルも敵になる。女に弱そうな傾向を見て確信した。
 フリウやミズーと再会しないままなら、ずっと協力できる可能性も出てくるはずだが、
そうならない可能性の方が高そうだ。やはり安心はできない。

249悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/16(月) 15:35:53 ID:wMojAoZA
(まぁ、主催者しか刻印を解除できへんようやったら、誰でも最後には敵になるか)
 主催者の思惑通り、最後の一人になるまで殺し合わねばならないと確定したなら。
(その時は、どないしようか……)
 この『ゲーム』の目的は何か。参加者を殺すことではない。では苦しめることか。
苦しめることそのものが目的か。それとも苦しめることによって何かを得るのか。
 競わせる為の手段なのか。ならば何を競わせているのか。おそらく戦闘能力ではない。
ただ力が強いだけでは生き残れない。主催者は、参加者に何を望んでいるのか。
 何故この顔ぶれなのか。無作為に集められたにしては、知り合い同士が多すぎる。
因縁が必要だったのか。誰かに殺意を抱く者。戦えぬ弱者と、弱者の為に戦う強者。
戦うことに価値を見出す者。殺さねばならぬと考える者。掌の上で踊る参加者たち。
 価値観の違う隣人と、常識の通じない空間。未知の存在と、予想外の出来事。
疑念と誤解と混乱と、刻印による死の恐怖。破滅の火種は無数にある。最悪だ。
 この状況下で、何をすればいいというのか。従うべきなのか、逆らうべきなのか。
 逆らうことさえもが、予定調和の展開だったのなら……どうすればいいのか。
(まぁ、どんなに悩んだところで、結局なるようにしかならへん。そんなもんや)
 溜息を一つ。長々と考えた末に出た答えは、最初と変わらぬものだった。
(俺は、生き残る。生き残ってみせる。最後の最後が、どんな結末やったとしてもな)

250悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/16(月) 15:36:41 ID:wMojAoZA
 特殊メイクじみた姿の男と、知性的な雰囲気の女が現れた、あの瞬間を思い出す。
 そこまでは良かった。少なくとも悪くはなかった。先手を取られてしまったものの、
攻撃の前に呼び声が来ただけでも幸運だった。そう、そこまでは。
 そこから悲劇が始まった。
 女はガユスの知り合いだった。男が女を疑い、女が男を裏切った。女はガユスの武器を
奪い、男は女を本気で狙い、自分は死闘に巻き込まれた。
 女は男と戦って、ド派手な大技をくらわせ、男を死体に変えてしまった。
 女の消耗が激しかったこと、女がガユスを苦しめたがっていたこと、自分の存在が
女にとって不確定要素だったこと――様々な事情が重なって、自分たちは生きている。
(あいつら、好き勝手し放題やったなぁ……あー、あれは『魔法』やったんやろか)
 女――クエロの使っていた技は、ずいぶん不可思議だった。ほとんど理解できない。
 悪魔と呪いの刻印には、分かりやすい類似点があったのだが。例えるならば、カラスと
コウモリ程度には似ていた。方法論が近いというか、同じ種類の機能美があった。
 同じように例えるならば、悪魔とクエロの技の関係は、カラスとペンギンのような
ものだ。根本的な共通点はあるが、それ以上に相違点が目立つ、といったところか。
 対して、男の使った技の仕組みは、おぼろげながらも理解できそうだ。もう一度だけ
例えてみるなら、悪魔と男の技は、カラスとハトくらいには似ているのだろう。
 特に、青い炎を出す術は、自分の得意技だった黒い炎に近いようだ。もっとも、
あの青い炎は、純粋に精神的ダメージを与える作用に特化していたようだったが。
 最初に使った、地面から岩の錐を出す術も、悪魔の物理的干渉に少し似ていた。
 自分の鬼火も、燃料こそ悪魔の力だが、炎自体は物理的なものだ。
(せやけど、『あの男だけが使える力』って印象やなかった。むしろ、あれは……)
 脳裏に少女の面影がよぎる。“最初の悪魔”にして“最強の悪魔”、女王だ。
(女王の加護みたいなもんか? 外界にある力を、術者が利用する技やとか)
 この島には、女王に似て非なるものが存在するのだろうか。悪魔によく似たそれは、
あるいは精霊などと呼ばれているものなのかもしれない。ふと、そう思った。
(……もしかしたら、それ、女王の遠い親戚なんかもしれへんな)

251悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/16(月) 15:38:21 ID:wMojAoZA
 考え事をしながらも回収していた品に目を向け、顔をしかめる。
(この剣、どないしようか……)
 柄と刀身を繋がない状態なら、片手でも振り回せそうな重さだ。
 結局、男の遺品で無事だったのは、剣の柄と、その付属品だけだった。
(メモも地図も名簿も、既に灰や。案の定、どんな情報も残ってへん)
 だからこそ、クエロは放置していったのだろう。最初から期待はしていなかった。
クエロは、この剣を“光の刃を出す便利な武器”くらいに思っていたようだ。
確かめたわけではないが、きっとガユスも同じような見解だろう。
 だがしかし、本当に、それだけの物なのだろうか。
 知っている剣ではある。一番最初の会場で、真っ先に殺された騎士が使っていた剣だ。
 この不吉な予感は、かつての持ち主が二人とも死んでしまったからだろうか。
 何故だか自分でも分からないが、できれば関わるな、と本能が警告している。
 この剣が、予期せぬ形で災いを招くような気がして、どうにも嫌な気分になった。
 とはいえ、武器としては貴重な上に強力だ。この場に放置していくわけにもいかない。
 とにかく持って行かねばなるまい。あえて、危機感は無視することにした。
 ガユスの方を見る。止血は終わったようだが、その横顔に覇気はない。
(……頭も体も思いっきり不調か。大丈夫やないな、明らかに)
 とりあえず、この場から少し離れて、それから休憩するべきだろう。
「こら、そこのへなちょこ眼鏡。いつまで腑抜けとんねん。用は済んだし、移動するで」
「おい、ちょっと待て、誰がへなちょこ眼鏡だ? ええ、そこの田舎なまり丸出し野郎」
 元気な演技をする余裕くらいは戻ってきたようだった。喜んでいいのか微妙な感じだ。
 そのまま景気づけに、軽く毒舌の応酬でも始めようかと思い、口を開いた時だった。
 謎の轟音が響き、そして、呼びかけと、銃声と、悲鳴が聞こえてきた。

252悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/16(月) 15:39:35 ID:wMojAoZA


【B-1/砂浜/1日目11:00】

『罪人クラッカーズ』
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿負傷(処置済み)、左腿に刺傷(布で止血)。戦闘は無理。精神的、肉体的に限界が近い。
[装備]:グルカナイフ、リボルバー(弾数ゼロ)、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ) 、ナイフ
[道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)
[思考]:D-1の公民館へ。

【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。精神的、肉体的にかなり疲労。
[装備]:探知機 、光の剣
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本) 、風邪薬の小瓶
[思考]:カプセルを探す。なんとなくガユスについて行く。
[備考]:第一回の放送を一切聞いていません。骨折部から鈍痛が響いています。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は把握できていません)

253そして不死人は竜と飛ぶ:2005/05/16(月) 16:27:38 ID:pBSSTsig
『……諸君らの健闘を祈る』
 放送が終わった。風見は自分の地図を広げ、BBと確認しながら禁止エリア、死者の名前にチェックを入れる。
 072 新庄運切  075 オドー  そして001 物部景
 一本づつ線を引く。気が一気に滅入る。

――馬鹿なやつ、私に誰かを重ねて見て、私を庇って死ぬなんて。

 全竜交渉でも死者は出ている。風見とてただの小娘ではないし、戦場での死は初めてではない。
 だが、今回は違う、と風見は考えている。景は私をかばって、つまり私のせいで死んだのだ、と。
 彼に失礼だとは分かっていても、風見はその後悔を捨てることが出来ない。
 自分は戦闘訓練を受けていた、というのも今思えば驕りでしかなかった。
 新庄も、オドーでさえも死んでいるというのに。
 まさしくいいとこなし、と言うやつである。
 BBは何も言わない。その気遣いが風見にはありがたい。
 新庄、オドーはどんな死に様だったのか。誰に殺されたのだろうか。
 相方が無言をいいことに、風見は自分の世界に沈み込む。
 装備型のEx−stはともかく、オドーの悪臭までは取り上げられてないだろう。
 だとすると機竜さえ打ち砕くオドーすら倒れるこの島で、銃ひとつとはあまりに心もとない。
 やはり先にG−sp2を探すべきだろうか。
 戦闘とあらば文字通り飛んでくる相棒を思い浮かべ、風見は大切なことを忘れていることにようやく気づいた。
「そうだ、飛んでこれるんじゃない」
 がっくりと肩を落とす風見。どうも今ひとつ調子が出ていない。
 打撃してないのが原因ではあるまいか、と風見は半ば本気で考えた。
「まさかアンタをぶっ飛ばすもいかないわよね、痛そうだし」
 どうも自分にはガンガン突っ込めるタイプの相方が必要らしい。
「何がしたいのかは分からんが、それが賢明だろうな」
 律儀に答えるBB。悪いとまでは言わないが、こうもお堅いとさすがにフラストレーションがたまる。
 風見は深呼吸して気を取り直した、G−sp2がくればBBにも手を痛めずに突っ込める、調子も戻るだろうと考えて、
「さて、ちょっと上をチェックしといて、どこから飛んでくるのか分からないから」
怪訝な様子のBBを無視して、
「G−sp2!」
声を張った。
 一拍の間をおいて、東から飛来する衝撃音とそれにつづく風切音を二人は捕らえる。
 そして風見は、また一つポカをしたことに気付いて頭を抱えた。
 

    *    *    *


 時刻は数分ほどさかのぼる。放送のメモを終えて子爵とハーヴェイは移動の準備に取り掛かった。
 少女の遺体を野ざらしにしておくのは忍びなかったが、埋葬する時間はない。たまたま今回の放送に名前は無かったが、
次の放送でキーリが呼ばれない保障はどこにもない。最悪、今この瞬間にも彼女が死の危地に直面しているかもしれなのだ。
 子爵もそれを察して、埋葬しようとは言わない。
「これで勘弁してくれ」
 二人は少女の亡骸を木に寄りかからせて、目をそっと瞑らせた。
【さて、放送も終わった。私は流離いの一人旅に出たいと思うのだが、君はどうするかね。尋ね人がいるのなら、協力するの
 にはやぶさかではない。かような私だが言付を預かることぐらいはできるつもりだが?】
「いや、いい。こんな状況で待ち合わせを頼むのにはアンタにも俺達にも危険だからな」
 ハーヴェイは真っ赤な自称吸血鬼のスライムにキーリの特徴と炭化銃の性質だけ教えてお別れを言った。
「アンタもしぶとさが売りなんだろうが、それでもこの島は危険だ。気をつけてな」
 子爵が赤い触手のようなものを伸ばしてきた、握手のつもりなのだろうと、彼は判断し、それを生身の手で握り返した。
 ほんのちょっぴり後悔した。 
 子爵は液体となって流れるように去っていく。彼は気取られないようにそっと手を拭きながら見送った。

254そして不死人は竜と飛ぶ:2005/05/16(月) 16:32:26 ID:pBSSTsig
「武器はこれだけか」
 その後、ハーヴェイは武器を求めてウルペンが置き捨てた長槍を手に取った。
 奇妙な形状、用途不明の突起、不可解な装甲。これも非常識な物体なのかと首をひねる。
 直後、コンソールに緑色の光がともった。
『コンニチワ!』
「ああ、こんにちわ」
 淡々と返すハーヴェイ。
『ビックリシタ?』
「もう慣れた」
 槍は穂首をがっくりと落とした。ハーヴェイがリアクションに困っていると今度は辺りをきょろきょろと眺め始める。
『ヨンダ?』
 ハーヴェイもそれに倣って、辺りを探るが気配すらない。
「いや。誰もいないし、というか声すら聞こえなかったぞ」
『キコエタノ!チサトダヨ!』
 疑問視を浮かべて答えるハーヴェイ。
『ハナシテ』
 言われるままに手を離してから、猛烈にいやな予感を覚えた。
『イマイクヨ!』
「ちょっと待て」
 くるりと長槍が身を翻した。その柄を義手がとっさにつかむ。
 風船を破る、というよりアドバルーンを破るような音がして、ハーヴェイが気が付いたときには、その身ははるか上空を
飛んでいた。
 さすがのハーヴェイも眩暈を覚えた。
「……どこに行く気だよ」
 すさまじい慣性がハーヴェイを後方に引きずる。
 地上を眼下に見下ろしながら、振り落とされないようしがみつくハーヴェイ。
 ほんの数秒の飛行後、ハーヴェイは自分が危機的状況にあるのに気が付いた。
 だんだんとハーヴェイにかかる慣性が消えていく、眼下の景色も地上からだんだんと水平線になっていく。
「おいおい、マジか?」
 冷や汗が流れる。
「落ちてるぞ!」

 衝撃。そして暗転。

    *     *    *

「取りに行くか?」
「冗談、あんな大騒ぎになりそうなとこ行ったら幾つ命があっても足りないわ」
 千里は腕組みして鼻を鳴らす。
「G−Sp2には悪いけど、あの子がいないと死ぬわけでもないし……当初の予定通り行きましょ」
「結局悩みの種が一つ増えただけだったな」
 風見は返す拳もない。
「まったくよ」
 いまだけはBBの装甲が恨めしかった。

    *     *     *

 気が付いたハーヴェイが最初に見たのは、天井に開いた穴とそこからのぞく青い空だった。
 もう、どこまでもブルーである。
「なんだったんだよ、今のは」
 全ての原因はG−Sp2に施された個人識別解除処理のためだが、そんなもの風見もハーヴェイもG−Sp2も知るわけ
がない。
 とりあえずハーヴェイは全身をチェック、一箇所を除いて傷らしいものも異常は見られなかった。
 その代償はぼろ雑巾と成り果てた左腕。
 腕一本ですんだのは僥倖といえた。かばった腕はしばらく使い物にはならないが、行動不能よりはましである。
 しばらくの黙考の後、ハーヴェイは手元に長槍がないことに気が付き、とりあえず穴から上へよじ登った。
 集合住宅の屋上らしき場所、ざっと見渡して確認できるものは、血痕のあと、ディバック、メガホン、そしてコンクリー
トに突き立つ槍。人影はない。
『シクシク』
「おいおい、泣くのかよ」
 自分を慰めるように、ハーヴェイはその装甲をたたいた。

255そして不死人は竜と飛ぶ:2005/05/16(月) 16:33:52 ID:pBSSTsig
【残り85人】

【D-4/森の中/1日目・12:05】
【蒼い殺戮者(ブルーブレイカー)】
[状態]:少々の弾痕はあるが、異常なし。
[装備]:梳牙
[道具]:無し(地図、名簿は記録装置にデータ保存)
[思考]:風見と協力して、しずく・火乃香・パイフウを捜索。脱出のために必要な行動は全て行う心積もり。


【風見千里】
[状態]:精神的に多少の疲労感はあるが、肉体的には異常無し。
[装備]:グロック19(全弾装填済み・予備マガジン無し)、頑丈な腕時計。
[道具]:支給品一式、缶詰四個、ロープ、救急箱、朝食入りのタッパー、弾薬セット。
[思考]:BBと協力する。地下を探索。仲間と合流。景を埋葬したい。とりあえずシバく対象が欲しい。


【C-8/港町/1日目・12:05】

【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン(子爵)】
[状態]:健康状態 
[装備]:なし
[道具]:デイパック一式、 「教育シリーズ 日本の歴史DVD 全12巻セット」
    アメリアのデイパック(支給品一式)
[思考]:アメリアの仲間達に彼女の最後を伝え、形見の品を渡す/祐巳がどうなったか気にしている 。
[補足]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません。
    この時点で子爵はアメリアの名前を知りません。
    キーリの特徴(虚空に向かってしゃべりだす等)を知っています。

【C-6/住宅街/1日目・12:05】

【ハーヴェイ】
[状態]:生身の左腕大破、他は完治。(回復には数時間必要)
[装備]:G−Sp2
[道具]:支給品一式
[思考]:まともな武器を調達しつつキーリを探す。ゲームに乗った奴を野放しに出来ない。特にウルペン。
[備考]:服が自分の血で汚れてます 。

【C-8】から【C-6】に向けてG−sp2が飛びました。音に気づき、場合によっては目撃したものがいると思われます。
 放送によりウルペンがハーヴェイの生存に気づいた可能性があります。
 個人識別解除処理が施されているため、G−Sp2は呼びかけない限り風見に気づけません。

256Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:42:35 ID:yKn.3DL2
「うーん腹減ったあ」
空きっ腹を抱えてうろつく竜堂終、永遠の欠食児童または食欲魔人の異名を持つ彼である。
想像に漏れず、支給品のパンはとっくに胃袋の中だった。
「しかもあのおばさん、人の身体で思い切りハッスルしやがって、あー腹減ったあ」
満腹の時はいざとなればそこらへんの野草でもむしって食べればいいやと思ってたが、
空腹になってみるとどうしても躊躇してしまう、ならバッタかコオロギでも食べるか…
いや、そこまでやってしまうと何かこう人間の尊厳とかそういう難しい何かが
音を立てて崩れてしまうような、そんな複雑な気分になってしまう。
商店街に戻るのも手だったが、カーラが好き放題してくれたおかげでしばらく表街道は歩けそうにもない。
(あの頬に傷の兄ちゃん…かなりやばいな)
強者は強者を知る、一瞬の出会いだったが、終は実のところオドーよりも宗介に危険性を感じていた。
(てっきり狙いはあっちだと思ったんだけど…おばはんの考えることはよく分からん)
「でもまぁ・・・俺竜だしなぁ、うん?」
くんくんと鼻を鳴らす終、漂うのは魚を焼く香ばしい匂いだ、誘われるように終はふらふらと歩いていった。

「…」
さめざめと涙を流す藤堂志摩子、また1人彼女の友が逝ったのだ。
メフィストも何も言わない、さしもの彼と言えどもこんな状況で何を言えばよいのか?
さらに、道中で見つけた誰かの墓を掘り返して見つけあるものが、
彼の心を時折ひどく不機嫌にしてもいた。
「まさかな…あの禁断の秘儀を知るだけでなく、実行するものがいるとも思えぬが」

そんな彼の顔を涙ながらにも興味深く覗き込む志摩子。
何か心配事でも?とは聞けない、もとより聞く資格も自分にあるとは思えない。
「大丈夫だ、君には関わりのないことだよ…ああそれから」
そんな志摩子の心の内を知ってか知らずか、優しく声をかけるメフィスト
「そこの君もだ、早く来ないと全部食べてしまうぞ」
メフィストの呼びかけに応じるように、木立ちの中から終が姿を見せたのだった。

「いやあ食った食ったあ」
満足げにお腹をさする終、しかも身体中のかすり傷は全てメフィストの手により全快している。
目の前の白き医師にとって、そんな程度の傷は怪我の内にも入らないようだ。
「喜んでくれて何よりだ…では」
若鮎のような君の身体を隅々まで…と言いかけるメフィスト、
だがそこで何かを感じ取ったのか、身構えようとする終。
「どうしたのかね?」
「ああ…なんつーか独特の空気を少しだけ感じたんだ、いやあ多分大丈夫とは思うけど、
 竜堂家の家訓としてホモは宇宙の塵にしろってのがあるから」
まぁ、鼻が利くわねと思いながら志摩子が口を開く。
「それは竜堂家だけじゃなく、たな…」
「そこまでだ」
ついつい危険な領域に話を踏み込ませようとした志摩子を嗜めるメフィスト

257Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:47:25 ID:yKn.3DL2
「で、では何なんだよ?」
「あーその…つまり」
宇宙の塵になりかけた魔界医師がもったいぶってようやく応じる。
「食事代として君が今までに見てきたこと、知っていることを教えてもらいたい、
 我々が2匹食べる間に君は8匹も食べたのだからな…」

「祐巳さんが…そんな」
終の話は志摩子にとって衝撃そのものだった、由乃、祥子は死に、敬愛する聖は闇に堕ち、
さらには親友までもが…。
最初は信じられなかった、しかし彼女が落としたというロザリオは間違いなく祐巳のものだった。

やはりあの飾りをつけなくってよかった、と思いつつも、
自分の代わりに親友が犠牲になってしまった、その忸怩たる思いが志摩子を締め付ける。
メフィストはさらに終から情報を引き出している。
彼がもっとも警戒する敵である美姫の動向を聞けたのも大きかったが、今はもっと重要なことを聞かねばならない。 
「それで主な戦法は何かね?」
「魔法を使うぜ、それもかなり強力な、でも注意すべきは戦場での経験値だな、力の入れ所、抜き所は
 まさに完璧、ああいうのを歴戦って言うんだろうな…それから交渉は無理だぜ
 自分の正義に凝りかたまって、しかもまるで疑問にも思ってないからな」
「身体能力はどうなる?わかるかね」
「武術もけっこうなもんだ、けど多分つけた人間のそれに依存すると思う、俺の身体を手に入れて拾いものだって言ってたから」
「祐巳くんの身体能力はどんなものかね?」
「どちらかといえば苦手な方だと思います」
志摩子の言葉に反応する終、
「祐巳ってあの子のことか?運動が苦手?とんでもないぜ」

終は倉庫での出来事をおぼろげながら思い出す、こちらは断片的にしか覚えてなかったが。
「てな具合だ、姿はちょっと変わってたけど…うん?」
これまで冷静そのものだったメフィストの顔がかなり険しくなっている。
「もっと詳しく聞かせてくれないか」

258Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:48:15 ID:yKn.3DL2
悪い予感が現実のものに、しかも最悪のものになりつつある。
終が嘘を言うとは思えない、ただの人間である彼女が。福沢祐巳が突如そこまでの身体能力を得られるものなのだろうか?
考えたくはないが…メフィストは先程の墓での出来事を思い出す
あそこに埋葬されていたのはダンピール、しかも心臓の血が抜かれていた。
となるとやはり…。
「食鬼人…」
特定の魔の血肉を取り込み、己が力とする忌まわしき外法の1つだ。
自分の存在する世界では文献の中にしか存在せず、とうに絶えた術だが…
しかし急激に身体能力を強化できる呪術であり、また状況から言って間違いはない
何者かがあの術を使ったのだ、しかも…

「志摩子くん、聞きたいことがある…彼女の靴のサイズが幾つなのか分かるかね?」
「えっと」
志摩子は聞かれるままに答える。
地面に残されていた足跡、歩幅…それから手形…メフィストの頭のなかで次々とパズルのピースが噛み合っていく
「最後に、身長と体重を教えて欲しい」
志摩子が答え、パズルのピースが合わさった、そして得られた結論は…。
「気を確かにして聞いて欲しいことがある、祐巳くんはおそらく」

「どうして…どうして…祐巳さん…」
耐え切れなくなったのだろう、涙を零しながら親友の名を呼ぶ志摩子。
祐巳の気持ちは分からなくも無い…でもだからってそこまで…。
「お願いします、祐巳さんを元に!人間に戻してください!先生なら出来るんでしょう!!」
「…無理だな、ただの病ならば数秒で治してみせることもできる、だが食鬼人とは病ではない…しかし」
メフィストは志摩子の肩を持つ。
「奇妙な言い方で申し訳ないが、唯一の救いは彼女が異形の姿になっていたということだ、普通の食鬼人ならば
 そのような現象は起り得ない、そこに彼女を人に戻す鍵があるやもしれん」

だが…問題は一介の学生に過ぎぬ彼女が何故その事を、食鬼人のことを知りえたのかということだ。
いったい誰が彼女を唆したのだろうか?
「でもこんな状況だろう?仕方ないんじゃないのか?」
「確かに…それは事実だ、だが自分の心を、身体を失ってまで得る生に何の意味があるというのかね」

259Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:48:55 ID:yKn.3DL2
終を睨むメフィスト。
「ここを生き延びても人生は続いていくのだぞ…君ならわかるはずだ、逆に聞くが、
 君は今の自分の力と、ささやかだが平凡で普通の暮らしとどちらか一方しか選べぬのなら
 どちらを取るかね?」
「んなもん決まってるだろ…」
そこまで言って、あっ!と声をあげる終。
「だよなぁ…」

確かに自分は人を遥かに超える身体能力を誇っているが、それを便利だと日常の中で思うことは、
ほとんどなかった…逆に余計な連中を引き寄せただけだ。
今は負ける気はしないし、今までも勝ち続けてきたが…いつまでこんなことしなきゃならんのだろうと、
思うことは多々ある…小早川のおばはんに出会ってからは特に。

「でも…私は大丈夫です、たとえ祐巳さんが」
そこで志摩子は絶句する。
終がどう考えても持ち上がらないだろうと思われる公園のベンチを蹴り上げ、
軽々とリフティングなどしてみせている。
「よっと!ほりゃ!」
鼻歌交じりに最後はベンチを真っ二つに蹴り割る。
「今の見て俺のことどう思った?」
えっ…と考え込む志摩子…その、あの…と多少の枕詞が漏れて、

「すごいって思いました」
だがその割りに表情は重い。
「正直に答えてくれ」
終の真摯な視線に耐えられず目を逸らし…そしてようやく、か細い声で志摩子は答えた。
「怖いと…思いました…ものすごく」

もし祐巳がそんな身体になってしまっているとして、
自分でもそう感じるのだ、他の見知らぬ他人がそれを知ればもっと怖いだろう。
まして彼女の家族はどう思うのだろう、我が子が人ならざる物になってしまったことを知れば…
隠し通せる物でもない、まして祐巳は隠し事が出来ない子だ。
つまりそれが代償なんだろう、どう考えても割の合う話ではない。

でも…祐巳の気持ちもわかる、どうしようもないやり場の無い思いを何とかするには
力にすがるしかなかったのだろう。
「でも…皆さんのそれは強い者の理屈です!、弱くってちっぽけな私たちには
そうするしか…選べるほどの選択肢は用意されてないんです!」
「君は十分に強い、本当に大切なのはどんな過酷な状況においても誘惑に負けず己の心を見失わぬことだ」
志摩子の嘆きを微笑で包んで受け流すメフィスト。
「だいたい自分はどうなってもいいから、なんて気持ちで誰かは救えないよなぁ、あー畜生め」
足元の小石を蹴り飛ばす終、一時のこととはいえ、誘惑に乗った自分を恥じているのだ。

260Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:49:41 ID:yKn.3DL2
「あ…ごめん君の友達のことを悪く言ってしまって」
頭を下げる終、志摩子はいいんですよと力なく応じる。
「だからこそ、君がしっかりしなければならない、親友なのではないのかね?
まぁ、女同士の友情ほど信用ならず脆いものは無いと私個人は思っているのだが」
無論、君に関しては大丈夫だと思うが…と付け加えることも忘れないメフィスト。
「そう…ですよね」

そうだ、由乃も祥子ももう亡き今、自分しかいないと思う志摩子、
その気丈な決意の内面は不安と恐怖で一杯だったが。
「でも…私なんかで」
「君だからこそだ、君だから我々は協力したいと集っているのではないか」
メフィストの言葉に成り行きでうんうんと頷く終。
「重い荷物も分担すりゃ多少は楽になるって!」
もちろん志摩子に協力したいのはいうまでも無く、カーラに仕返しもできるし、一石二鳥だ。
志摩子の瞳からまた涙が…しかし今度は嬉し涙だ。
「私なんかのために…すいませんっ!ありがとうございますっ!」
「君だけのためではない、ここに集うもの全てが私の患者、そして私は医者だと
 それにこれを彼女に渡さねばならないのではないかね?それこそ君の役目だろう?」
祐巳のロザリオをそっと握らせるメフィスト。
「はい!」
泣きながらもしっかりとロザリオを握り締める志摩子。

「まぁそのカーラという女性には、速やかに安楽死していただくことになるかと思うが」
 泣きじゃくる志摩子に優しく語りかけるメフィスト、絶世の美男子に美少女、実に絵になる光景だ。

しかし…納得いかない人もいる。
あー畜生、そうだよ…こんな役はどうせ続兄貴とかこんなんとかばっかが持って行くんだ。
俺なんざ結局小早川…ダメダメダメそれはダメ、絶対。
うらやましげにメフィストを見る終だった。
「年齢的にいってそれは俺のポジションだろうがあ」

261Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:50:35 ID:yKn.3DL2
【C-4/一日目、12:30】

【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

【Dr メフィスト】
 [状態]:健康
 [装備]:不明
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る

【竜堂終】
[状態]:健康 
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける

262Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:51:27 ID:yKn.3DL2
あれやこれやといけ好かない男の声で放送が流れる。
そんな中、かなめは戦っていた…己の内から湧き出る渇きに。

あたし…負けないから。
だって宗介はあたしのためにやりたくも無い人殺しをやるって…決めたんだから
本当は誰も殺してもらいたくない、でも…。
またズクリと胸が痛くなる…この痛みに負けたとき、自分は消えてしまう。
自分の目の前にはナイフ…宗介が残していったナイフがある。

いざとなれば…いや今しかない。
人でなくなるくらいなら…まだ人間のままで、相良宗介の知っている千鳥かなめとして、
あたしは死にたい!
あたしは恐る恐るナイフに手を伸ばした。


ここは…どこだろう?
誰かの声が聞こえる…にじみ出る後悔に耐え切れないようなそんな悲しい声。
この声…聞き覚えがある…宗介の声だ。

「千鳥…すまない、俺はお前を救えなかった」
そんなに泣かないで…宗介
ああ、あたし死んじゃったんだ…でも宗介が生きていてくれたのなら
それで充分だよ。
だから…今度はあたしの分まで宗介に幸せになって欲しい…もういいから
あたしの視界が開ける、誰かの部屋みたいだ…こじんまりとしてるけどそれでいて
温もりのあるそんな空間、
かつて…まだ生きていたあたしがほんの少しだけ夢見たのかもしれないそんな場所。

こうなるくらいなら…もっと正直になりたかった。
テーブルの上には写真がある…そこにはあたしが写っている、学校の制服を着て
ハリセン持ってにっこりと。

263Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:52:55 ID:yKn.3DL2
そんなあたしの写真を見て…また悲しげに微笑む宗介。
そこに誰かが入ってくる。
「またかなめさんのことを考えていたんですね…サガラさん」

その声を聞いた途端、あたしの痛みが大きくなった…テッサの声を顔を見た瞬間。
どうしてだろう?
テッサは親友で戦友で同志だから、宗介のことが好きなのはわかっていたはずなのに、
だからあたしが死んだらそこにいるのはむしろ自然なことなはずなのに?

これまでも危ない目にはあってきた、もし自分が死んだら宗介はどうなるんだろうと
考えたことも1度や2度ではない。
彼があたしを守るのは任務でしかないとわかっていながら…それ以上をいつの間にか
心の奥底で望んでいたあたし。

その度にテッサなら…仕方ない、テッサなら大丈夫…という思いでいつも考えを打ち切っていた。
でも。
「雨続きが終った今夜は星がたくさん見えますね」
「そうですね…千鳥にもみせてやりませんと」
テッサはなれなれしくも宗介の隣に座って、宗介の肩にしなだれかかっている。
何それ?何してるのあんた?
ああ…そうか、そうだったのか、今はっきりとわかった。
逆だ…逆なんだ、彼女だから、親友で戦友で同志だから…許せない。
私の知らない誰かなら仕方がないと思う、けどテッサだけはダメなのだということに。

でも写真の中のあたしは笑ってる、今これを見ている私は多分泣いているのに。
「明日はかなめさんの席も用意しているんですよ、もちろん特等席ですよ」
「千鳥、君にこそ祝福してもらいたいんだ、俺たちの一番の同志であり友であった君にこそ」
そんなのうれしくないよ…いやだよ。
でもあたしは何も出来ない、だってもうあたしは写真だから…。
写真の中のあたしはずっと笑顔のまま…ずっと見ていないといけない、いつまでも…。
そんなのってひどい!

264Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:54:16 ID:yKn.3DL2
「そして改めて誓う、君の分まで幸せになると…こんな汚れた俺にその権利があればの話だが」
宗介はぎこちないけど、険の取れた笑顔で写真の私に話しかける。
その笑顔は…その表情は、あたしがずっと見たかった…頭の中で想像するしかなかったそんな顔で、
そしてその隣には…あたしがいるはずなのに…、
でもあたしじゃなくって…その隣にいるのは…。

「情け無い話です」
あたしの写真を見ながら、寂しげに笑う宗介。
「闇に包まれると千鳥を失ったあの地下室を思い出してしまいます…暗闇を恐れる兵士、笑い話以下です」
「でも、そのおかげでサガラさんは人間の暮らしを取り戻すことができましたわ」
テッサは宗介の手を包み込むように握る。
「それも千鳥のおかげです、千鳥と過ごした時間があったからこそです」
頷くテッサ。
「だから…千鳥の分まで、大佐殿を…」
その続きを言おうとした宗介の口を指でふさぐテッサ。

「私に敬語とかそういうのはもうやめていただけないでしょうか?私たちはもうミスリルを除隊した身ですし」
自分で言っていて照れて赤面するテッサ、その顔は紛れもなき勝者の顔だった。
少し時間が止まったような…そんな不思議な表情の宗介、その口元は止まった時間を動かそうと
なにやら呪文を唱えているかのようだ…やがて。
「なら…たい…いやテッサ今こそ誓おう、千鳥の分まで君を幸せにすると…だから俺のことも宗介と呼んで欲しい、
 千鳥がそうしていたように…」

その言葉は、何よりも鋭く、そして痛くあたしの心に突き刺さる。

やめてやめてやめてやめてやめて…
あたししゃしんのなかじゃないここにいるのにここにいるのだからおねがいやめてそれだけは、
それいったらあたし。
額縁の中の私がテッサを睨む、笑顔のままで。
あなたをゆるさない。

265Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:55:04 ID:yKn.3DL2
でもテッサには何も届かない…聞こえない…
「わかりました…宗介」
テッサは私の写真を手に取り、そして、
「かなめさん、天国で見ていてください、私たちはあなたの分まで幸せになります」
あたしの負けだと言った。

そしてあたしの中で何かが崩れた…。

「とてつもなき無き朴念仁じゃの、宗介とやら」
かなめの身体を膝に乗せ嘆息する美姫…これでは女の身はとてもじゃないが持つまい。
「かなめよ、お前が見ているそれはお前が最も恐れる未来よ…お前は何を望む…
 未来を受け入れるか?それとも抗って見せるか?」
美姫が挑発めいた言葉を口にする中、かなめはまだ悲しみに満ちた表情で
苦悶の涙を流していた。

266Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:55:52 ID:yKn.3DL2
【千鳥かなめ】
【状態】吸血鬼化進行中?精神に傷
【装備】鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】苦悶中

【美姫】
 [状態]:通常
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:上機嫌

267魔法と魔剣と断末魔 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/17(火) 09:57:02 ID:gze6IUQc
>>248-252の【悪魔と魔法と光の剣】を改題。少し描写を書き足しました。

>>251の最終行から後を、以下のように変更。

『皆さん聞いてください、愚かな争いはやめましょう、そしてみんなで生き残る方法を考えよう』
 謎の呼びかけが響き、銃声に中断され、悲鳴が聞こえて、静寂だけが残った。


「どっちも俺の知らへん声やったわ。お前は、あの二人の声に聞き覚えないんか?」
 あれがフリウの声だったとしても、こう言ったはずだ。本当に知らない声だったが。
「さっき初めて聞いた声だ。会ったことはない。……多分、もう会えなくなったな」
 呼びかけの途中で襲撃された男女は、どこの誰だか分からないままだった。
 お互いに、無言で視線をそらす。黙祷したわけではない。閉口しただけだ。
「さっき狙われた二人が、探すべき相手じゃなければいいんだが……」
 あの男女は新庄の知人だったのかもしれない。新庄は今、泣いているのだろうか?
 ガユスは今、必死で冷静になろうとしている。ミズーと新庄が無事でいるかどうか、
気になっているのだろう。苛立たしげな舌打ちが、隣から聞こえた。
 自分は今、空を眺め、目を細めて、大きく息を吐いている。
(ふむ。これでまた、今から24時間、誰かを殺さんでも済むようになったか)
 これでも、酷いことを考えているという自覚はある。反省する気は微塵もないが。


【B-1/砂浜/1日目11:05】

『罪人クラッカーズ』
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿負傷(処置済み)、左腿に刺傷(布で止血)、右腕に切傷。戦闘は無理。精神的、肉体的に限界が近い。
[装備]:グルカナイフ、リボルバー(弾数ゼロ)、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ) 、ナイフ
[道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)
[思考]:D-1の公民館へ。

【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。精神的、肉体的にかなり疲労。
[装備]:探知機 、光の剣
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本) 、風邪薬の小瓶
[思考]:カプセルを探す。なんとなくガユスについて行く。
[備考]:第一回の放送を一切聞いていません。骨折部から鈍痛が響いています。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は把握できていません)

※この後の『罪人クラッカーズ』について書かれた作品が、既に存在しています。

268instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 01:31:12 ID:yxHCzzcQ
地図を眺めながら今後の計画を練る宗介。
タイムリミットは6時間、6時間で5人の命を奪う。
ギリギリだが出来ないわけではない、
問題は…。
「この広範囲をどう動くかだ、なぁ」
クルツ、と言いかけて宗介は寂しげに口をつぐむ。

そうだ、もうクルツはいない…、マオもここにはいない。
せめて2人のうちのどちらかがいてくれれば…いや無いものねだりをしても仕方が無い。
しかも14時30分から雨が降る、こういう状況ならばよほどのことが無い限り雨中の移動は基本的には行うまい。
と、なると14時30分から雨が上がる17時までは拠点内での制圧戦になる。
覚悟は出来ているがそれでも単身での突入は避けたかった。

「国際条約違反だがやむを得まい」
考え事をしながらもコンバットナイフでガリガリと手持ちの弾頭を削り十字の切れ込みを入れていく宗介、
ダムダム弾を作っているのだ。
ダムダム弾とは、弾頭を丸く削り、さらに十字状に切れこみを入れたもので、こうしておくと、
本来貫通するはずの弾丸が標的に命中した瞬間、破裂するようになり、したがって破壊力は、
通常弾の数十倍にも達する。

弾丸には限りがある、しかもこの地にはオドーや先ほどの女のように自分のまだ知らぬ強敵が
数多く潜んでいる。
ならば、弾丸一発一発の破壊力を可能な限り上げ、確実に一撃で沈める。
いかに頑丈を誇る相手でも、肉もろとも骨をも砕くダムダム弾の威力には抵抗しえまい。

「さてと…」
行くか、そう呟き立ち上がろうとした瞬間だった。
ソーコムを握る宗介の右腕が鋭く閃く!
僅かに遅れて弾丸同士が激突し、閃光、マズルフラッシュを直視しないように、
さらにもう一発追い撃ちを掛ける宗介。
(早速か…探す手間が省けたな)

269instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 01:32:37 ID:yxHCzzcQ
あの男…やる!
気配を完璧に消して、なおかつ後ろを取ったはずなのに…、
宗介の放った弾丸を回避し、柱の影に隠れるキノ。
(残り弾は…)
さっきの1発で合計8発、ショットガンは虎の子だ…今はまだ使えない。
なら、接近戦を仕掛けるしかない。
出来る限り相手を視界に捕らえ、その上で速射ち勝負をかける。
キノは猫のように身を屈め、廃墟の中を縫うように移動を始める、

そして一方の宗介も考える、相手は相当な早撃ち自慢…察知したのはこちらが早かったにも関わらず、
弾は撃ち落とされてしまった。
マガジンは今使っているのを含めてあと2つ…今後を考えると無駄撃ちは出来ない。
しかし節約して戦えば火力で押し切られる危険もある。
なら接近戦しかあるまい。
宗介はコンバットナイフを構え、キノと同じように廃墟の中を滑るようにやはり移動を開始する。

(どこだ…)
薄日が差し込む中、息を潜めつつも俊敏に廃墟を駆けるキノと宗介。
神の目を持つものならわかるかもしれない、
彼らは廃墟の中、お互いの背後を取り合うべく円を描くように移動している。

それは僅かな時間でしかなかったが、妙な均衡状態をその場にもたらしてもいた。
あとは崩れるのを待つだけだ…。
一羽の小鳥が廃墟の中に迷い込む…静寂の中僅かな羽音が響いた時、
いつの間にか移動のベクトルが変わっていたらしい、
正面から宗介のナイフが凶悪な唸りを上げて、キノの首筋へと迫る。
それをキノはヘイルストームの銃身で受け止める、がちんと乾いた火花が散る。
宗介が刃を滑らせナイフの軌道を変えるのと、キノがそのスキにトリガーを引くのは同時。
宗介が身をかがめ足元をなぎ払おうとした時には、彼の心臓の位置を弾丸が通り過ぎていた。

270instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 01:35:38 ID:yxHCzzcQ
「チッ!」
2人は同時に叫んで飛び退り、また距離を置く…
そして、一度は退こうとした彼らが何かを察知したかのように、その身体を翻した時。
かちゃりと冷たい音がまた2つ同時に響いた。
微動だにせず向かい合う宗介とキノ、宗介のソーコムはキノの眉間に向けられている、
一方のキノのヘイルストームは、宗介の眉間にポイントされていた、
距離は3M…お互いの技量なら必殺の距離だ。

だからこそ動けない、トリガーを引くことは簡単だ…だがそれは同時にどちらかが死ぬことを
意味する、それが自分か相手か…その確証が得られぬ限り引くわけにはいかない。
そして時間だけが過ぎていく、迷い込んだ小鳥がチチチと空気を読まずに囀る。
「らちがあかないですね?」
最初に口を開いたのはキノだった。

「ああ…」
表情を変えずに応じる宗介。
「お前は何のために戦う?」
今度は逆に宗介がキノに聞く。
「死にたくないから」

至極当たり前のように答えるキノ、それを受けてまた宗介。
「何人殺した?」
「聞いてどうすんですか?そんなこと」
キノの言葉には僅かな動揺、それを聞いて考えをめぐらせる宗介…やがて。
「俺と組まないか?」

宗介の言葉に沈黙と失笑で応じるキノ。
「ならここで死ぬまでやりあうか?俺も分が悪い駆けは張りたくないんでな、お前も同じだろう?
 続きは最後の2人になったとき、改めて行えばいいだけだ」
だが、俺はそこまで待つつもりはない、お前もだろうが、と心の中で呟く宗介。

271Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 01:36:25 ID:yxHCzzcQ
宗介の言葉に思考をめぐらせるキノ。
確かに地下での出来事から、1人で戦うことの焦りを感じ始めていた矢先だ。
まして相手の力量は互角…ここは従うか…。
いざとなれば寝首を掻けばいい、相手も同じ心境だろうが…その方が後腐れがなくって、
共に戦うにせよやりやすいはずだ。

一方の宗介…彼にとっては、無論これ以上の戦闘を避けたいというのもあるが、
これからの殺人ロードを行うにあたっての人手が欲しかったというのが第一だ。
それに相手の目的が生き残るという単純な物なのも好都合だ、
わけのわからないイデオロギーで振りかざすこともありえないだろう。
戦場においては利害関係こそがもっとも強固な絆となるのだ。
さらに言うなら殺人者を手元においておくことで、間接的にかなめやテッサの安全を守れることになる。
それに…首を1つ確保できたことにもなる。

どちらからともなく、2人は銃を下ろした。
それはこの瞬間に同盟が締結されたことを意味した。
「ボクの名前はキノ」
キノが自己紹介を始める、伏せ目がちなのはその瞳の奥の危険な本心を隠すためとしか思えない。
「相良宗介だ、よろしく頼む」
宗介は宗介でやはりその表情は不自然極まりないのだった。

272Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 01:40:40 ID:yxHCzzcQ
【B-5/1日目/12:15】

【キノ】
[状態]:通常
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガン、ショットガンの弾2発。
   :ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り7発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。

【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、コンバットナイフ。
【道具】荷物一式、弾薬。 かなめのディバック
【思考】かなめを救う…必ず

273◆91wkRNFvY:2005/05/19(木) 19:00:06 ID:YJtIx1B.
「でよ、ちょっと野暮用でな、商店街までの道を聞きてーんだけどよ」 
 顔に刺青を入れた少年はぶっきらぼうに訊ねる。
「商店街? お前地図持ってないのか?」
 スィリーの所為で多少疲れ気味になっているのか、割と投げやりに聞く。
「それが置いてきちまってよ」
 両手を上げ、やれやれ、といったポーズをとる。
「それなら、ここから北西に真っ直ぐ1kmほど行ったところですわ」
「おっ、サンキュー。んじゃな。」
 言うなり、茉衣子が指を差した方へ向け歩いていく。
「まぁ、待ちたまえ。キミは何か目的があって商店街に?」
「おうよ、ちょっと水が足んなくなっちまってな、俺が集めてくることになった」
 宮野に止められ、振り向く零崎。
「ふむ、ということはキミのお仲間がいるということだな?」
「仲間、仲間ねぇ。ま、どっちでもいいけどよ、何人かいるのは間違いねぇ」
「良かったら我々を案内してはくれまいか?」
「わりーんだけど、急いでるんだわ、また会ったら教えてやっても良いぜ、んじゃな」
「そうか」
 意外とあっさり引き下がる宮野。
「少年、これを持っていけ」
 懐を探り、持っていた自殺志願をホルダーごと零崎に放り投げる。
「うぉっ、っぶねーな…、って自殺志願じゃねーか?!」
 ホルダーから大鋏を抜き出し、確認する。
 自殺志願、かつて零崎人識が兄の双識から殺してでも奪い取ろうとしたアイテムだ。
「私にはそのような物は必要ない、君が使いたまえ」
「ラッキー、念願のマインドレンデルを手に入れたぜ。
 わりーな、次会ったら今度は案内してやっからよ。じゃーな」
 今度こそ、少年は森の中へと消えていった。

274◆91wkRNFvY:2005/05/19(木) 19:00:48 ID:YJtIx1B.
「良いのですか?」 
「ふむ、私には関係ない」
「…? 何故彼に?」
「彼が持っているべきだと、そう思っただけだ、そもそも私に武器は必要無い。
 私は自分自身の能力に絶対の自信を持っているからな!」
 拳を握り、高らかに掲げる宮野。
「行っちまったな、どうすんだ?」
「また人を探すまでだ。彼とは別の方向に向かってみようか」
 
 そして、やっぱり適当に歩き出す宮野であった。
 
*** *** *** *** *** ***

 先ほどの青年は、ひとしきり何かを呟いた後さっさと行ってしまった。
 しずくは黙って見送り、立ち上がる。
 思ったよりもすぐ側にエスカリボルグは落ちていた。
 半壊しかけた腕を垂らしながら、逆の手で拾い上げる。

 ―――はふ。

 溜息。先ほどの黒鮫を殴った所為で右手は暫くの間は使い物にならない。
 システムチェック、アクティブ・パッシブ共にセンサーの能力低下。
 右腕上腕から末部に到るまでの神経系の物理的切断箇所多数。
 幸いフレームにはこれといった異常は見当たらない。
 歩いていく分には問題は無いが、激しい動きは控えた方が良いだろう。
 数時間安静にしていればこの程度の損壊などは修復できるのだが、現時点で安静に出来るような場所の確保などは難しい。

275◆91wkRNFvY:2005/05/19(木) 19:01:39 ID:YJtIx1B.
 それに、のんびりも言っていられない。かなめを助けなければならないのだ。
 宗介には「誰にも言うな、次に会えば殺す」と言われたが、出来る事ならば彼も助けてあげたいと思う。
 彼の戦闘能力は常人よりも遥かに高い、もし出会ってしまったら彼を抑えられる人間は限られる。
 火乃香や"蒼い殺戮者"の様に高い戦闘能力を持っていれば何とかなるだろう。
 その2人なら宗介だけでなく、かなめも助けてくれるに違いない。
 問題は、出会えるかという事だ。
 火乃香やBBで無くても良い、戦闘能力が高く、尚且つこちらに手を貸してくれる者。
 いるだろうか。
 しずくは考える。これからは人に声をかけるときは気をつけなければならない。
 かなめやオドーの様にこちらに好意的とは限らないのだ。
 朝、神社で襲撃された時点、いや、この争いが始まった時から解っていた事なのに。

 どうするべきだろうか。しずくは半壊した腕を抱え、何処へともなく歩き始める。
 じっとしていても始まらない、腕を完治させるのは後回しだ。
 ふと、思い出す。あの地下で眠っていた女性は何者なのかと。
 宗介や自分よりも速く動き、得体の知れない雰囲気を纏っていた。
 あの女性を倒すか説得するかしなければ、かなめは救われずに、宗介も殺人を繰り返す。
 それだけは、避けなければ。
 BBの「野生の感」といったようなものは無い、火乃香の「気」もない。
 レーダーセンサーが能力ダウンした今、頼りになるのは聴覚・視覚センサーのみだ。
 耳を澄まし、眼を凝らし、一歩ずつ確かに歩いてゆく。
 森を抜け開けた海岸に出、見渡してみるが誰もおらず、仕方なく引き返そうとする。
 振り向きざまに森の奥を見渡す。 

 誰か、いる―――。

276◆91wkRNFvY:2005/05/19(木) 19:02:20 ID:YJtIx1B.
 警戒しつつ木陰に隠れ、先ほど映った人影を再生する。
 白衣の男性、黒衣の女性と男性、3人を確認。敵か、味方か。
 向こうにも気付かれたようで、緊張が走る。だが。
「案ずることは無いぞ!そこな娘っ子よ!
 我々はこのケッタイなゲームから脱出しようという目的を持つ、正義の魔術師なのだ!
 キミも良かったら我々の同志にならんかね?」
 若い男性の声と、それに反応するように女性の声。
「班長、いきなり声をかけるとはどういう了見でしょうか。
 先ほどの放送はお聞きになったでしょう?もう既に30人を超える方々が亡くなっているのです。
 ということは、それに近い殺人者が潜んでいる可能性がありましょう?
 もしかしてお忘れになったのですか?それとも聞いていなかったのでしょうか?
 でしたらやはり班長の脳ミソの中にはホンモノの代わりに蟹ミソでも詰まってらっしゃるのでしょうね」
「茉衣子くん、蟹味噌は蟹の脳ミソのことでは無いぞ!そんなことも知らんのかね!そもそも蟹味噌とはだな…」
「どうでもいいけどよ、あの子はほっといて良いのか?」 
 冷静な指摘で、最初の男はこほん、と咳をたて、
「む、そうであったな、では改めて。我々はこの空間から脱出できる人材を捜している。
 キミに心当たりは無いかね?」

 この人たちは、自分の頼みを聞いてくれるだろうか。

277たまには俺も考える:2005/05/19(木) 21:16:44 ID:mhhsWZag
「あーくそっ。遅れちまってる」
俺はようやく商店街に着きながら言った。
ちょっと前に三人組と会って道を聞いたまでは良かったが。
なにやら戯言昆虫がいたのは─まぁいい。予定外に時間を食われたのが間違いだったようだ。
コンパスも貰えばよかった…と手元の大鋏をくるくる回しながら考える。
危険極まりない大鋏だが、刃物の取り扱いは慣れている。
それにこのマインドレンデルは前から欲しかったものだ。
使うものが使えば首も容易に切断できる業物だ。
そしてこれは兄貴の形見──
「ん?」
疑問がよぎる。なんでこんなこと考えたんだ?そもそも兄貴って死んだっけ?
俺は、いつここの世界に連れ去られたんだっけ?
一つ一つ思い出す。欠陥製品との出会い。人類最強との戦い。そして逃走。さらに…
思い出せな──
そう思った瞬間様々な事が断片的に浮かんできた。
両手首の無い少女。倒れてる自殺志願。早蕨。舞織。死に顔。
止まる電車。ギザ十。『お前ら全員、最悪だ』知ってる。『人の死には悪が』俺が言ってる。
弾ける扉。入ってくる赤。言う少女。『それでは零崎を始めます』
そこまで考えて、記憶は雲散した。
もしかして、都合がいいように記憶が改変させられている?
「問題は『何』に都合がいいか、だな」
入ってきた赤との戦闘はまるで思い出せない。止まる物語。
デジャヴを感じたような、煮え切らない感じ。むかつく。
例えば<マンイーター>匂宮出夢。奴は「理澄が死んだ」と言っていた。
生憎そこまで殺し名世界の情報には詳しくないが、少なくとも<カーニバル>が死んだ、とは聞いていない。

278たまには俺も考える:2005/05/19(木) 21:18:01 ID:mhhsWZag
多分、違う時間に連れ去られてきたのだろう。何かの都合のために。
俺は最初殺した奴に「昼寝してた」と言ったが、どこで、いつ?
あの欠陥もあの人食いもあの策士も記憶が都合よく変えられ、奴らの物語は止まっているのだろうか。
そしてあの──
「さぁ盗むぞミリア!手始めは野菜だ!グリーンだからきっと青野菜が好きだな!」
一つ隣の通りで大声が聞こえた。さっきから気づいていたから今更慌てないが。
「ビタミンミネラルだねアイザック!」
「潤さんはむしろ赤って感じだけど…」
潤さん。…<砂漠の鷹>哀川潤だろうか。
仲間、か?あの赤の。
どうする。会ってみるか?俺より後の時間に連れてこられたとしたら、色々俺の疑問─あやふやになった記憶を保管できるが。
「んー」
考えながら手ごろな民家に入り込む。あいつ等はとりあえず無視。
炊事場を発見し、水道のコックを捻る。
「駄目、だよな。多分」
水が、では無い。哀川潤に会うのが。
俺より少し前に連れてこられたとしたら俺をぶっ殺すだろうし、後に連れてこられたとしても和解できてるとは思わねーし。
ボトルの中に水を注ぎ込む。あっという間に三本溜まった。
少し飲んでみたが、うれしいことにおいしい水道水だった。
デイパックを抱える。意外と軽い。まだ何か入りそうだが。
刃物はもういい。業物を持ってる。
食料は探してるとさっきの連中に会うかもしれない。哀川潤に俺の風貌を言われたら殺しに来るかもしれない。

279たまには俺も考える:2005/05/19(木) 21:18:42 ID:mhhsWZag
思い立って机を漁り、コンパスを取った。たしか南東を進めばいいはずだ。
ちらっと本棚を見る。本が大量に置いてある。
「なんだ。ライトノベルばっかだな」
端から見ていく。Dクラッカーズ、Missing、されど罪人は竜と踊る、アリソン、ウィザーズブレイン………かなりの種類のノベルが全巻揃ってる。
違う棚を見る。俺の好きな太宰治が置いてあった。それを嬉々ととり、デイパックに詰める。

──幸か不幸か、彼は「零崎双識の人間試験」と「撲殺天使ドクロちゃん」の背表紙を見ないで出て行った。

「よっし帰るか」
そういって彼は民家から飛び出す。
3キロの水と大鋏、それに太宰治の代表作をもって走り出した。
『皆さん聞いてください、愚かな争いはやめましょう、そしてみんなで生き残る方法を考えよう』
聞こえてきた放送、そして銃声にも何の感慨も示さず、連れの待つ森へと向かう。

【C−3/商店街/1日目・11:05】

【零崎人識】
[状態]:平常
[装備]:出刃包丁  自殺志願
[道具]:デイバッグ(ペットボトル三本、コンパス)  砥石  小説「人間失格」
[思考]:惚れた弱み(笑)で、凪に協力する。 F-4の森に帰る
[備考]:記憶と連れ去られた時期に疑問を持っています。
     大量の参加者たちのライトノベルを目撃しました。

280Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 21:29:06 ID:NLLJlQ1U
地図を眺めながら今後の計画を練る宗介。
タイムリミットは6時間、6時間で5人の命を奪う。
ギリギリだが出来ないわけではない、
問題は…。
「この広範囲をどう動くか、どう考える?」
クルツ、と言いかけて宗介は寂しげに口をつぐむ。

そうだ、もうクルツはいない…、マオもここにはいない。
せめて2人のうちのどちらかがいてくれれば…いや無いものねだりをしても仕方が無い。
しかも場合によっては拠点内での制圧戦を考慮に入れないといけない。
覚悟は出来ているがそれでも単身での突入は避けたかった。

「国際条約違反だがやむを得まい」
考え事をしながらもコンバットナイフでガリガリと手持ちの弾頭を削り十字の切れ込みを入れていく宗介、
ダムダム弾を作っているのだ。
ダムダム弾とは、弾頭を丸く削り、さらに十字状に切れこみを入れたもので、こうしておくと、
本来貫通するはずの弾丸が標的に命中した瞬間、破裂するようになり、したがって破壊力は、
通常弾の数十倍にも達する。

弾丸には限りがある、しかもこの地にはオドーや先ほどの女のように自分のまだ知らぬ強敵が
数多く潜んでいる。
ならば、弾丸一発一発の破壊力を可能な限り上げ、確実に一撃で沈める。
いかに頑丈を誇る相手でも、肉もろとも骨をも砕くダムダム弾の威力には抵抗しえまい。


「さてと…」
行くか、そう呟き立ち上がろうとした瞬間だった。
ソーコムを握る宗介の右腕が鋭く閃く!
僅かに遅れて弾丸同士が激突し、閃光、マズルフラッシュを直視しないように、
さらにもう一発追い撃ちを掛ける宗介。
(早速か…探す手間が省けたな)

281Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 21:29:50 ID:NLLJlQ1U
あの男…相当な技量だ。
気配を完璧に消して、なおかつ後ろを取ったはずなのに…、
宗介の放った弾丸を回避し、柱の影に隠れるキノ。
(残り弾は…)
さっきの1発で合計8発、ショットガンは虎の子だ…今はまだ使えない。
なら、接近戦を仕掛けるしかない。
出来る限り相手を視界に捕らえ、その上で速射ち勝負をかける。
キノは猫のように身を屈め、廃墟の中を縫うように移動を始める、

そして一方の宗介も考える、相手は相当な早撃ち自慢…察知したのはこちらが早かったにも関わらず、
トリガーを引いたのはおそらく向こうが速かった、弾が撃ち落とされたのは偶然に過ぎないだろうが。
マガジンは今使っているのを含めてあと2つ…今後を考えると無駄撃ちは出来ない。
しかし節約して戦えば火力で押し切られる危険もある。
なら接近戦しかあるまい。
宗介はコンバットナイフを構え、キノと同じように廃墟の中を滑るようにやはり移動を開始する。

(どこだ…)
薄日が差し込む中、息を潜めつつも俊敏に廃墟を駆けるキノと宗介。
神の目を持つものならわかるかもしれない、
彼らは廃墟の中、お互いの背後を取り合うべく円を描くように移動している。

それは僅かな時間でしかなかったが、妙な均衡状態をその場にもたらしてもいた。
あとは崩れるのを待つだけだ…。
一羽の小鳥が廃墟の中に迷い込む…静寂の中僅かな羽音が響いた時、
いつの間にか移動のベクトルが変わっていたらしい、
正面から宗介のナイフが凶悪な唸りを上げて、キノの首筋へと迫る。
それをキノはヘイルストームの銃身で受け止める、がちんと乾いた火花が散る。
宗介が刃を滑らせナイフの軌道を変えるのと、キノがそのスキにトリガーを引くのは同時。
宗介が身をかがめ足元をなぎ払おうとした時には、先程の彼の心臓の位置を弾丸が通り過ぎていた。

282Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 21:31:14 ID:NLLJlQ1U
「チッ!」
2人は同時に叫んで飛び退る、宗介のナイフの第2撃が今度はキノの胸元を狙う。
今度はくぐもった音、キノの手にはいつの間にか折りたたみナイフが握られている。
それは宗介の持つコンバットナイフの凶悪なフォルムに比べるとチャチだが、
キノの手首が閃き、逆にすべるような軌道で宗介の首筋に刃が伸びる…実用度では引けをとらない。
防ぐのは間に合わないと判断しまた後退する宗介、しかし背後は壁だ、どうする?
宗介は迷うことなく渾身の力でバックジャンプし、その反動で壁を蹴り、

その勢いのままキノへとび蹴りを見舞おうとする。
前のめりになっているキノには逃れる術がないように思えたが、キノはこれも瞬時の判断で
素早く身を伏せ、前転することで宗介のキックをやり過ごす。
そして宗介が着地し、キノが立ち上がると同時に、かちゃりと冷たい音がまた2つ同時に響いた。

微動だにせず向かい合う宗介とキノ、宗介のソーコムはキノの眉間に向けられている、
一方のキノのヘイルストームも宗介の眉間にポイントされていた、
距離は3M…お互いの技量なら必殺の距離だ。

だからこそ動けない、トリガーを引くことは簡単だ…だがそれは同時にどちらかが死ぬことを
意味する、それが自分か相手か…その確証が得られぬ限り引くわけにはいかない。
そして時間だけが過ぎていく、迷い込んだ小鳥がチチチと空気を読まずに囀る。
「らちがあかないですね?」
最初に口を開いたのはキノだった。
「ああ…」
表情を変えずに応じる宗介。
「お前は何のために戦う?」

今度は逆に宗介がキノに聞く。
「死にたくないから」
至極当たり前のように答えるキノ、それを受けてまた宗介。
「何人殺した?」
「聞いてどうするんですか?そんなこと」
キノの言葉には動揺はない、それを聞いて考えをめぐらせる宗介…やがて。
「俺と組まないか?」
宗介の言葉に沈黙と失笑で応じるキノ。
「考えろ、ここで死ぬリスクと俺と共闘することのメリットを、互いの利害が一致する以上、
 俺たちは共闘し、戦力を提供し合えるはずだ」
だが、俺は最後まで付き合うつもりはない、それはおそらくお前もだろう?、と心の中で呟く宗介。

283Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 21:33:26 ID:NLLJlQ1U
宗介の言葉に思考をめぐらせるキノ。
確かに地下での出来事から、1人で戦うことの焦りを感じ始めていた矢先だ。
まして相手の力量は互角…ここは従うか…。
いざとなれば寝首を掻けばいい、相手も同じ心境だろうが…その方が後腐れがなくって、
共に戦うにせよやりやすいはずだ。

一方の宗介…彼にとっては、無論これ以上の戦闘を避けたいというのもあるが、
これからの殺人ロードを行うにあたっての人手が欲しかったというのが第一だ。
それに相手の目的が生き残るという単純な物なのも好都合だ、
正義だの愛だの憎悪だの復讐だのと、わけのわからないイデオロギーを振りかざされると厄介だ。
戦場においては生存という名の利害関係こそがもっとも強固な絆となるのだ。
さらに言うなら殺人者を手元においておくことで、間接的にかなめやテッサの安全を守れることになる。
それに…首を1つ確保できたことにもなる。

どちらからともなく、2人は銃を下ろした。
それはこの瞬間に偽りながらも同盟が締結されたことを意味した、例えるなら
昨日の他人と明日の敵の間にはとりあえず今日の友人、という所だろうか?
「ボクの名前はキノ」
キノが自己紹介を始める、伏せ目がちなのはその瞳の奥の危険な本心を隠すためとしか思えない。
「相良宗介だ」
宗介は宗介でやはりその表情は不自然極まりないのだった。



【B-5/廃墟/1日目/12:15】

【キノ】
[状態]:通常
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガン、ショットガンの弾2発。
   :ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り7発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。

【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、コンバットナイフ。
【道具】荷物一式、弾薬。 かなめのディバック
【思考】かなめを救う…必ず

284Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 22:39:55 ID:NLLJlQ1U
「うーん腹減ったあ」
空きっ腹を抱えてうろつく竜堂終、永遠の欠食児童または食欲魔人の異名を持つ彼である。
想像に漏れず、支給品のパンはとっくに胃袋の中だった。
「しかもあのおばさん、人の身体で思い切りハッスルしやがって、あー腹減ったあ」
満腹の時はいざとなればそこらへんの野草でもむしって食べればいいやと思ってたが、
空腹になってみるとどうしても躊躇してしまう、ならバッタかコオロギでも食べるか…
いや、そこまでやってしまうと何かこう人間の尊厳とかそういう難しい何かが
音を立てて崩れてしまうような、そんな複雑な気分になってしまう。
商店街に戻るのも手だったが、カーラが好き放題してくれたおかげでしばらく表街道は歩けそうにもない。
(あの頬に傷の兄ちゃん…かなりやばいな)
強者は強者を知る、一瞬の出会いだったが、終は実のところオドーよりも宗介に危険性を感じていた。
(てっきり狙いはあっちだと思ったんだけど…おばはんの考えることはよく分からん)
「でもまぁ・・・俺竜だしなぁ、うん?」
くんくんと鼻を鳴らす終、漂うのは魚を焼く香ばしい匂いだ、誘われるように終はふらふらと歩いていった。

「…」
さめざめと涙を流す藤堂志摩子、また1人彼女の友が逝ったのだ。
メフィストも何も言わない、さしもの彼と言えどもこんな状況で何を言えばよいのか?
さらに、道中で見つけた誰かの墓を掘り返して見つけたあるものが、
彼の心を時折ひどく不機嫌にしてもいた。
「まさかな…」

そんな彼の顔を涙ながらにも興味深く覗き込む志摩子。
何か心配事でも?とは聞けない、もとより聞く資格も自分にあるとは思えない。
「大丈夫だ、君には関わりのないことだよ…ああそれから」
そんな志摩子の心の内を知ってか知らずか、優しく声をかけるメフィスト
「そこの君もだ、早く来ないと全部食べてしまうぞ」
メフィストの呼びかけに応じるように、木立ちの中から終が姿を見せたのだった。

285Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 22:40:59 ID:NLLJlQ1U
「いやあ食った食ったあ」
満足げにお腹をさする終、しかも身体中のかすり傷は全てメフィストの手により全快している。
目の前の白き医師にとって、そんな程度の傷は怪我の内にも入らないようだ。
「喜んでくれて何よりだ…では」
若鮎のような君の身体を隅々まで…と言いかけるメフィスト、
だがそこで何かを感じ取ったのか、身構えようとする終。
「どうしたのかね?」
「ああ…なんつーか独特の空気を少しだけ感じたんだ、いやあ多分大丈夫とは思うけど、
 竜堂家の家訓としてホモは宇宙の塵にしろってのがあるから」
まぁ、この子って鼻が利くわねと思いながら志摩子が口を開く。
「それは竜堂家だけじゃなく、たな…」
「そこまでだ」
ついつい危険な領域に話を踏み込ませようとした志摩子を嗜めるメフィスト

「で、では何なんだよ?」
「あーその…つまり」
宇宙の塵になりかけた魔界医師がもったいぶってようやく応じる。
「食事代として君が今までに見てきたこと、知っていることを教えてもらいたい、
 我々が2匹食べる間に君は8匹も食べたのだからな…」

「祐巳さんが…そんな」
終の話は志摩子にとって衝撃そのものだった、由乃、祥子は死に、敬愛する聖は闇に堕ち、
さらには親友までもが…。
最初は信じられなかった、しかし彼女が落としたというロザリオは間違いなく祐巳のものだった。

やはりあの飾りをつけなくってよかった、と思いつつも、
自分の代わりに親友が犠牲になってしまった、その忸怩たる思いが志摩子を締め付ける。
メフィストはさらに終から情報を引き出している。


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