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尚六幾星霜

216「後宮生活」10:2019/07/01(月) 00:14:41
六太の手首をつかんだ両手に、尚隆はほんの僅か力を込めた。
「……少しおとなしくしろ。いくら暴れても無駄だと分かっているだろう?」
反抗的な六太も可愛いものだが、もう少しだけ素直な態度でいてほしかった、とも思う。
六太はむすっとした表情をしたものの、組み敷いた身体からは力が抜けた。
「……ちと、確かめたいことがあるんだがな」
「……確かめたいこと?」
「お前が昨夜あんなに感じていたのは、開発の成果か、それとも酒に酔っていたせいか」
「……は?」
「酔いが醒めた今抱けば、どちらなのか分かる」
極力真面目な表情と声音で尚隆は言う。六太は瞬き、一拍おいて意図を理解したようで、勢いよく首を振った。
「い、今はやだ!」
「どうしても駄目か」
「どうしても!今は駄目、絶対!」
案の定、全力で拒否された。
今朝抱くのは無理だろうとほぼ諦めてはいたものの、心の片隅に僅かな期待があったことは否めない。尚隆は落胆の溜息をついた。
「……仕方ないな」
言いながら軽く身を起こして手を緩めてやると、六太は素早く拘束を解いて、尚隆の下から抜け出した。そのまま寝台の端まで逃げるように這い、帳に手をかけ隙間から出て行こうとする。
「待て、六太。どこへ行く」
「え、湯殿だけど?」
「そのまま行く気か」
六太は今何も身につけておらず、隠そうとする様子もない。
「うん」
あっさりと六太は頷いた。尚隆が咎めた意図さえ分かってなさそうだ。
「そのまま行くな。何か着ていけ」
尚隆は起き上がり、寝台の上に視線を巡らせて、六太の被衫––––昨夜尚隆が脱がせたものだが––––を探す。
「めんどくさい。どうせ脱ぐんだし」
「駄目だ」
足元の方でくしゃくしゃに丸まっていた被衫を見つけ、尚隆はそれを拾い上げる。
「他に誰もいないのに」
「いや、官が来るかもしれん」
後宮を開けさせた官には、その後も食料など最低限必要なものを持って来るよう言いつけてある。彼らはこっそり物を置いてすぐに立ち去るので基本的には顔を合わせることはないのだが、いつ来るかは分からないから鉢合わせしかねない。
「別に、それくらい……」
「俺が許さん」
言いながら六太に近寄り、背後から肩に被衫を掛けてやると、素直に袖を通した。
「……お前って、意外と世話焼きなんだな」
六太は顔だけ振り返り、くすりと笑ってそう言うと、羽織っただけの被衫の前を手で合わせ、今度こそ帳の隙間から出て行った。

六太の足音が遠ざかってから、尚隆は深く溜息をついた。
まったく六太の鈍感さには困ったものだ。別段、尚隆は世話を焼きたかったわけではない。
どうも六太は裸を見られることに対する抵抗感が薄いようだ。抱かれるのは嫌だと言いながら無防備に素肌を晒すなど、随分と矛盾している。

褥に転がって、尚隆は目を閉じた。
昨夜の六太の乱れた姿が瞼の裏に鮮明に浮かんで、ついほくそ笑んでしまう。
「今は」駄目、と六太は言ったが、裏を返せば今夜なら良いということだ。それが尚隆の勝手な解釈であろうとも、期待で高揚するのを抑えられない。
とりあえず昼間は六太の気が済むまで街散策に付き合ってやろう。無論尚隆にとっても、二人で久しぶりに出掛けること自体が楽しみでもある。
そして夜は思う存分可愛がってやりたい。出来れば酒を飲む前と飲んでから、合わせて二回は抱きたいところだが、六太はいいと言うだろうか。
六太の意思を尊重しつつ、なるべく自分の欲求も通したい。さてどうすればうまく事を運べるだろうかと、尚隆は戦略を練り始めた。




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