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【尚六】ケータイSS【広達etc.】
481
:
「胡蝶夢」5/6
:2008/10/08(水) 18:10:04
すると不意に、眠っている筈の尚隆が腕を伸ばし、少年の細い身体を優しく
胸の中に抱き込んだ。その緩慢な動作の所為で、六太は主が寝惚けているのだ
と直ぐに気付いたが、ちょうど額の角の辺りに尚隆の唇が触れ、その温かく艶
かしい感触に思わずふるりと小さく身震いした。
「ちょ……尚隆、くすぐったい──……」
「……六太……」
僅かに掠れた低い響きの声音でいとおしげに名を呼ばれ、それが寝言と分か
っていても、六太は主の腕の中で寸分も身動ぎ出来無くなってしまう。
今や、彼に聞こえる凡ての音は、尚隆の規則正しい鼓動と吐息だけだった。
──ああ……これが、おれの一番大事なひとなんだ……。
今更乍にそう強く思い、六太は主の袍子の胸元をぎゅっと握り締めた。二度
とこの手を離さないと言う様に。
それから、彼はゆっくりと視線を巡らせた。この短時間の内にも、互いの衣
の上には沢山の桜の花片が積もっている。自分の密かな計画が順調に遂行され
つつある事に満足そうな笑みを浮かべながら、六太はそっと瞼を閉じた──お
そらく二度と醒める事の無い、永い眠りに就く為に。
「──た……六太……」
前髪を優しく梳かれつつ囁く様に幾度か名を呼ばれ、六太はうっすらと眼を
開けた。寝起きの淡く霞む視界で辺りを見廻せば、其処は漉水河岸の桜の森で
は無く尚隆の臥室の牀榻で、時刻も明るい昼間では無く真夜中を少しばかり過
ぎた頃だった。
「……尚隆……?」
小さく呟き尋ねれば、六太の顔を覗き込みつつほんの僅か、心配そうに狭め
られていた尚隆の眉間がふっと緩む。
「大丈夫か?六太……熟睡しているのかと思えば突然、俺に縋り付いて泣き始
めるから、驚いたぞ」
微笑いながらそう言って、少年の涙に濡れた頬をそっと拭った。
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