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【尚六】ケータイSS【広達etc.】

460「槐安夢」2/18:2008/09/20(土) 19:03:25
 杜鵑は慶国の東部、和州の生まれだと語った。
 早くからその才能を認められ、若くして瑛州の国立大学に進んだが、元来身
体があまり丈夫でなかった事もあり、長期の休学を挟みながら少しずつ允許を
取得し、何とか今まで退学を免れつつやって来たのだと云う。
「老師が良い方でね、あまり咎められない休学申請の仕方なんかを、全部算段
して下さったんだよ」
 古書店近くの茶館で熱い甜茶を啜りながら、杜鵑は笑って言った。
 季節は新春。つい先日、年が明けたばかりと云う事もあり、街には春節独特
の明るく安穏とした空気が漂っている。奏国は現在、既に十数年来続く空位の
時代の只中にあったが、仮朝が良く機能している事や妖魔に対する備えが厚か
った事などもあり、人々の表情にさほどの暗さは見受けられない。世界の最南
に位置する奏の国民性として、元来あまり悲観的にならない性根の持ち主が多
いと云う事が関係しているのかも知れないし、真冬の季節でも殆ど上着を必要
としない程に暖かな気候のお蔭なのかも知れなかった。
「慶の冬は寒さが厳しくてね……折角だから、年越しを挟んで奏へ行く様にと
勧めて下さったのも老師なんだよ」
 それにしてもこの国は本当に暖かいんだね、とにっこり笑いながら同意を求
められ、利達は釣られて微笑みつつも一瞬、返答に窮した。
「……ええ、確かに暖かいとは思いますが、他の国と比べてどうなのかは良く
分かりません。俺は、この国から一度も出た事が無いので……」
 杜鵑は、その言葉にほんの僅か驚いた素振りを見せた。ここ交州は、赤海に
面した港街だ。他国との定期航路も発達している為、行こうと思えばいつでも
他の国に渡航出来る環境にある。しかし利達が今まで敢えてそうして来なかっ
たのは、偏に経営する舎館の切り盛りで多忙な両親を支える為だった。自分の
境遇を不運と思った事など終ぞ無いが、他国に行ってみたいと思った事が皆無
な訳でも勿論、無かった。
「──あ。でも俺の弟は、結構あちこちの国に行った事があるんですよ。今も
丁度、出掛けているところで……」


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