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尚六初夜SS「除夜」
4
:
尚六初夜SS「除夜」(3)
:2007/12/31(月) 00:34:25
「……そうしたいのか?」やっとのことでそれだけを口にする。
「ああ」
「男なんか抱いても、つまんねえだろ」
「そうかもな」
そう言いながら、尚隆はじっと俺の返事を待っている。
俺が麟だったら、こいつもこんなことは言わなかっただろう。麒だからだ。
男なら、体を重ねてさえ、たちの悪い冗談で済む。
「おまえがそうしたいなら――」思わず声が震えて目を伏せる。「――いいよ」
闇の深淵から呼ばわる鐘の音に、こいつを取られるくらいなら。
雁がこいつを失うくらいなら。
俺の心がどうなろうと、何ほどのことはない。密かに恋いこがれている相手
に一夜の戯れに抱かれ、単に暖かい褥の代わりにされることなど何でもない。
暗闇に沈んだ露台で、欄干にもたれて頭上を見上げると、満天の星空から星
が降りそそぐようだった。何の根拠もなく、雲海の下は雪だという気がした。
下界で夜空を見上げれば、きっと雪が星の光と同じように降りそそぐのだろう。
音もなくしんしんと降り積もる雪に抱かれて、雪像になってしまえればいいの
に。
俺は裸体に軽く上着を羽織っただけ、しかも素足だったが、すっかり感覚が
麻痺してしまって、凍えるような寒さはとうに感じない。むろん臥室に戻れば
体を温めることができるが、到底そんな気にはなれなかった。
今夜は冷える、と尚隆は言ったけれど、宮城の暖房設備は完璧だ。主な場所
には壁の中の配管に常時湯が流されているから暖かいし、特に王の居室である
この正寝は念入りに暖房がなされている。室内にいる限り寒さなど感じるはず
もなく、薄着でも支障がないほどだ。
でも冷えると言ったのも淋しいと言ったのも、あながち嘘でもないのだろう
と思う。
俺は尚隆が寝入ったのを見計らって、そっと牀榻を抜け出したが、気配に聡
いあいつのこと、普段ならそんな俺の動きで目を覚ますはずなのに今夜は違っ
た。いつもなら狸寝入りということもあり得るが、そういうわけでもないよう
だった。
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