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尚六初夜SS「除夜」
1
:
名無しさん
:2007/12/31(月) 00:25:31
年末のご挨拶代わりに置いていきます。
よわよわ尚隆と深刻六太の、六太視点の初夜話です。
ベッドシーンはあるものの、内容的には15禁程度かと。
予定ではもっとメロドラマ度が高かったのですが、
実際に書く前に中盤のかなりの部分を忘れてしまい、結果的に随分湿度が下がりました。
地の文でさらりと流している箇所も、いろいろあったんですが。
でもまあ、最後までくどくど書くより、これはこれでいいかな、という感じです。
書き逃げに投下するつもりでしたが、思ったより長くなってしまったので
邪魔にならないよう単独スレにさせていただきました。
2
:
尚六初夜SS「除夜」(1)
:2007/12/31(月) 00:27:40
「鐘の音が聞こえるな……」
ふと尚隆がつぶやいた。臥室の玻璃の窓の傍らに立ち、夜の闇を透かすよう
に園林のほうを眺めている。真夜中の鐘まではまだ時間があったから、俺は読
んでいた書類から顔を上げて、問いかけるようにあいつを見た。
真冬の深夜。鐘の音どころか虫の音さえ聞こえず、あたりはしんと静まりか
えっている。
俺の様子には気づかぬふうに、相変わらず闇の向こうを見つめていた尚隆は、
ようやっと俺を振り返ると唐突に尋ねた。
「おまえ、除夜の鐘を覚えているか?」
俺が意図をはかりかねてじっと顔を見ていると、尚隆は続けた。
「蓬莱であったろう。大晦日の夜、一年の煩悩を払うために坊主が百八つの鐘
をつく、あれだ」
「ああ……」
俺はようやく合点がいった。もう今年も幾日も残っていないから、蓬莱では
確かにそろそろ除夜の鐘に思いを馳せても不思議はない。だが。
「……覚えているかって言ったら――覚えてないんだろうな」尚隆が尋ねたの
が、こちらの世界に来る前の話であることはわかったのでそう答えた。「そり
ゃ、知識としては知ってるし、実際に除夜の鐘を聞いたこともあるけど、それ
は随分あとになって蓬莱に遊びに行った時のものだから。子供の頃のことは何
となく覚えているような気もするけど、本当はそう思いこんでいるだけなんだ
ろうと思う」
「そうか……」
尚隆はつぶやくと、また窓の外に目を向けた。そうして長い時間が経ったあ
とで、やっと口を開いた。
「鐘の音がな、聞こえるのだ」
「え……」
「おかしなものだな。俺は辛気くさい坊主が苦手でな、朝に晩にやつらがつく
鐘のことは何とも思わなかったのに、この季節になるとな、どこからか鐘の音
が聞こえるのだ」
3
:
尚六初夜SS「除夜」(2)
:2007/12/31(月) 00:31:11
俺はぞくりとなった。尚隆は誰にも聞こえない鐘の音を聞いているのか。深
い深い闇の底から呼ぶものにこいつが引き寄せられているような気がして、俺
は思わず持っていた書類を握りしめた。とっさに笑い飛ばせれば良かったのに、
その一瞬を逃した俺は何を言うこともできず、ただ凍りついているしかなかっ
た。
普段は飄々として見えるくせに、こいつは案外もろい。ある日突然、本人す
らまったく予期せずに、何もかもを、自分さえ壊してしまうような危うさがあ
った。
俺が声を出せずにじっと息を殺していると、やっと尚隆が振り返って俺を見
た。先ほどまでの、妙に静かな横顔の気配は既にない。いつもの顔、見慣れた
昏君の顔だ。俺は詰めていた息をようやく吐いた。
「なに、今夜はやけに冷えるからな。褥でいい女が待っていてくれるわけでも
なし、淋しすぎて幻聴も聞こえるだろうよ」
「あのなあ……」
俺は呆れたように言った。闇の深淵の心象はまだ俺の心を捉えていた。それ
を気取られないように気をつける。尚隆は笑った。
「寒い夜に体をぬくめるには人肌が一番だぞ。何ならおまえが俺を慰めてはく
れんか?」
一瞬、意味をつかめずにぽかんとしたものの、すぐに理解して茫然とする。
いくら戯れとはいえ、こんなことを持ちかけられたこと自体が信じられなかっ
た。
「飢えてんなー」
冗談めかして返したものの、尚隆は何も答えずにこちらを見ているだけだ。
こうやってはかりがたい顔をしているときのこいつの心の内を探ることは不
可能だった。尚隆はゆっくりと俺のほうに歩み寄ると、榻に座っている俺を静
かに見おろした。尚隆を見上げる俺の頬に片手を伸ばして、そっと触れる。そ
の感触の思いがけない暖かさに、俺はうろたえた。
「俺はこれでけっこう優しい男だぞ」
静かな声。俺は追い詰められた心境で何とか言葉を探したものの、何も見つ
からなかった。
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