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尚六SS「永遠の行方」

932永遠の行方「絆(80)」:2017/08/09(水) 19:44:51

 靖州府の書類は令尹が厳しく検分しているので、普段の六太はあまり時間
をかけずに承認する。だが今は何かしていないと精神がどうかなってしまい
そうで、じっくりと書類を読み詳細を確認してから署名や押印をした。
 そうやって脇目も振らず、せっせと作業していると、一刻ほど経ったころ
に正寝の女官のひとりが訪れた。
「台輔。失礼いたします」
 靖州府の官が退出していったとはいえ、人払いというほど強く退出を求め
たわけではない。だから途中で一度、侍官が新たな書類を持ってきたりもし
た。訪れた正寝の女官も、執務室の前で警備している夏官に咎められること
なく、しとやかに入室してきた。
「主上からのご伝言でございます。本日のお茶は、玉華殿の東の四阿にてお
待ちしているとのことでございます」
 落ち着いた印象の年輩の女官は、にこやかにそう告げた。六太はぎこちな
いながらも何とか笑みを浮かべたが、内心では混乱していた。
「玉華殿の……東……」
「四阿でございます。ご政務のきりがよろしいようであれば、このままご案
内いたしますが。いかがなさいますか?」
「あの……さっき尚隆が出奔したって……」
「まあ」女官は、ほほと軽やかに笑った。「確かにどこぞにお出ましのよう
でございましたが、つい先ほど還幸なさいました」
「そう、なんだ」
 つまり尚隆が姿を消していたのは一刻ほどということだ。六太はいっそう
混乱したが、それだけ時間があれば女を買って息抜きすることはできるだろ
うと考えなおした。六太に配慮してこっそり行ったのだろうか。そして文で
はなく女官にお茶の場所を伝えさせるのは、あわてて戻ってきたから文を書
く時間がなかったのだろうか。
「台輔、本日のお茶はどうぞ楽しみになさっていてくださいませ」
「え……」
「さ、わたくしはこれ以上申しあげられませんが、ほんの少々、嬉しいこと
がございますよ」




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