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尚六SS「永遠の行方」

9贈る想い(3):2007/10/22(月) 19:36:05
「好きな相手を諦めて結婚してさ、でもその相手に会っちまったら、自分が惨
めだもんな……」
「そんなことあるもんか……」鳴賢は顔を背けた。「単に比べただけだろ。比
べて、将来性のあるほうを取っただけだ。俺は卒業も危ういし」
 脳裏に浮かんだ娘のはかなげな顔に、そんな計算高さはまったく似合わなか
ったが、鳴賢は吐き捨てるように言ってのけた。六太は目を上げて静かに彼を
見た。無言のままの様子に、何だか鳴賢は自分が責められているような気分に
なった。
「そりゃ、手紙も書かなかったけど。毎年帰省して会っていたわけでもないけ
ど。でもこっちは允許を取るのに忙しいし、大学に入ったからには卒業しない
と意味ないだろ」
「手紙、一度も書かなかったのか?」
 鳴賢は言葉に詰まった。
「その、つい面倒で――さ。どうせ帰省すれば会うし。でも会っても別に変わ
りはないようだったし」
「恨み言も何も言われなかったのか」
 鳴賢はうろたえて目を泳がせた。手紙のことにしろ、痛いところを突かれて
しまったからだ。
「最初の二年くらいは遠回しに言われたかな……。でも、何て言うか、そうい
うのうるさく感じてさ、適当に受け流して……。大学に入ったばかりの頃は関
弓での生活が楽しかったし。そしたらいつのまにか何も言われなくなってさ。
そうなるとそっちのほうが面倒がなくて」書卓に肘をついて、片手で目を覆う。
「―― 自業自得、か……」
 六太は黙っていたが、やがてつぶやくように言った。
「その子、鳴賢のことがとっても好きだったんだろうな」
「……」
「でも人の心なんて弱いもんだ。鳴賢のことが好きで好きで。鳴賢に会えない
のが寂しくて。それで耐えられなくなっちゃったのかな」
「……」
「それとも自分よりもっとふさわしい女性がいるって思ったのかな。首尾良く
卒業して官吏になったら、鳴賢は高級官吏だ。最低でも下士にはなれて仙籍に
載る。年も取らなくなるし、普通の民にとっては雲の上の存在になってしまう」




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