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尚六SS「永遠の行方」

1名無しさん:2007/09/22(土) 09:45:00
シリアス尚六ものです。オムニバス形式。

21:2007/09/22(土) 09:49:39
夏の間、書き逃げスレでいろいろ投下させていただいた尚六ものは、
3Pのエロネタ以外、すべて同じ設定を背景に持つ話です。
最初は何作もこちらに上げるつもりはなかったのと (せいぜい三作くらいのつもりだった)、
My設定の説明をされてもうざいだけだろうと思って、これまで言及しませんでした。
何かとワケワカメで申し訳ない。

でもこのままではさすがに中途半端ですし、他にもエピソードはあるため、
この際なので書き逃げスレの邪魔にならないよう専用にスレを立てて、
片隅でひっそりやらせていただくことにしました。

もっとも最後まで書ききれるかどうかわかりませんし、
各話で主人公が一定していない上に時間軸も過去と未来を行ったりしますが、
それぞれの話でいちおうのオチはついているのでご容赦ください。
イメージとしては雁主従の想いが通じ合う「永遠の行方」という話を基軸に、
その前後を含めて描くという感じです。
「永遠の行方」本編を書き上げていないため、まだ「前後」のほうしかありませんが。

参考までに、今まで書き逃げスレに上げていた話は、
時系列順だと以下の通りになります。

 ・後朝
 ・続・後朝
 ・腐的酒場
 ・腐的酒場2
 ・体の相性

もしかしたらたまにコメディ的なものもあるかもしれませんが、基本は超シリアス。
投下ペースはかなりゆっくりめのつもりですが、年内にかぎり月一本は投下します。

3たゆたう岸辺(1):2007/09/22(土) 09:52:37
 路寝にある広大な園林のはずれ。雲海を臨むわびしい岸辺で数日ぶりに主の
姿を見かけた六太は、いったんはそのまま見なかったふりを決め込もうとした
ものの、立ち止まってもう一度主の遠い後ろ姿に目をやった。
 あんなふうに王宮で物思いにふける尚隆は珍しい。そんなときは大抵、市井
に降りて、名もない大勢の民に紛れることが常だと今の六太は知っている。
 ひとりになりたいのだ。しかし誰かにそばにいてもらいたいのだ。
 そんなことまで何となく感じ取れるようになってしまったのは肉体関係がで
きたからだろうか。わからない。これまで知らなかった彼のいろいろな顔を見
るようになったのは確かだけれど。

 しばらく雲海を眺めていた尚隆は、やがてその場に腰をおろすと、ついでご
ろりと仰向けに寝転がった。
 潮の香り、寄せては返す波の音。目を閉じれば、今でも遠い記憶がおぼろに
蘇ってくる。遮るものもなく降りそそぐ太陽の光を忌むかのように、閉じた目
の上に腕を置く。
 どのくらいそうしていただろう。草を踏み分けて近づく足音に気づいたが、
身じろぎもしなかった。
 ゆっくりとした足音は尚隆の頭のあたりで止まり、そのまま座りこむ気配が
した。腕をずらしてちらりと見やると、視界の端で金色の光が揺れた。別に尚
隆を見てはいない。両膝をかかえて静かに雲海を眺めている。
 尚隆はそのまま腕を投げだし、ふたたび目を閉じて潮騒の中に身をゆだねた。
 静かな時間が、ただ過ぎていく。
 ふと相手の気配が動いて、尚隆の閉じた目を温かな掌が優しく覆った。
「尚隆。悲しいときは泣いていいんだ。人は悲しいときに泣くことで慰められ
る」
 静かな言葉。見かけは年端もいかぬ少年のくせに、こいつはときどき誰より
も包容力があるところを見せる、と少しおかしく思う。
「王は人ではなかろう」
「人だとも。笑いも怒りもする、飲食できなければ飢えもする。王も人だ。た
だちょっと丈夫で長生きするだけで、心のありようは只人と何も変わらない」
 淡々と綴られる言葉は、不思議と心に染みいっていく。岸辺に寄せる波のよ
うに。
 それとも目を閉じているせいだろうか。闇は人を素直にする。互いの顔が見
えないときのほうが、思いを言葉に乗せやすく、受け入れやすいのは確かだ。
暗い閨での睦言のように。

4たゆたう岸辺(2):2007/09/24(月) 21:12:50
「泣けぬのだ。俺は」
 つぶやくように答えた声が、思いがけずかすれた。
 そうだ、俺は蓬莱にいた頃から、長らく泣いた記憶はない。こちらの世界に
来てからも五百年以上経つというのに、泣いたのはただ一度。
 俺の身代わりになって謀反人の呪を受け、永遠に意識を封じられたままで終
わると思われた六太が、長い眠りのあとで思いがけず目覚めた――それを目の
当たりにしたときだけ。
 お笑いぐさなことにあの事件が起きるまで俺は、自分が六太から離れること
はあっても、その逆の可能性を考えたことは一度もなかったのだ。こいつが殺
されるのでも幽閉されるのでもなく、肉体は側にありながら、心が永劫の彼方
に行ってしまうなどとは。
 この世界に来てからあれほど孤独を感じた時間はなかった。なのに自分は誰
の支えもなくひとりで立っているつもりだったのだ。
 六太こそは、遠い蓬莱での自分を知る唯一の存在だった。俺の根を知ってい
る唯一の。ひとりで蓬莱の亡き民を懐かしむよりも、ほんの一部とはいえ思い
出を共有する者がいると無意識に考えられることが、何よりの慰めだったこと
にやっと気づいた……。
 そんな彼の物思いをよそに、何を考えているのかしばらく沈黙していた六太
は、やがて言葉をつなげた。
「尚隆。人と人は支え合うことができる。助け合うことができる。ただしお互
いの距離は手を伸ばさなければ届かない程度には離れている。片方だけではだ
めなんだ。双方が手を伸ばさないと届かない。しかし手を伸ばしさえすれば何
かが触れる」
「……」
「后妃を娶ってもいいんだぞ」
「莫迦を言うな」
 尚隆は即座に言い返した。――こいつは包容力があるどころか、時折とんで
もないことを言い出すから困る。
「好いた女はいないのか? 偽名ではなく真の名前で呼ばれたいと思う女は?」
「後宮に女人を入れたらどうすると言ったら泣いたおまえがそれを言うか」
 沈黙がおりた。やりこめたと思った尚隆がほくそ笑む。しかしすぐに、絶句
したのではなく、溜息をついていたのだと悟る。まさか俺がこいつに憐れまれ
るとはな……。
「六太としての俺の気持ちは、麒麟としての俺が抑える。おまえが俺を気にす
る必要はない」

5たゆたう岸辺(3/E):2007/09/28(金) 00:25:23
 六太は静かに答えた。淡々と、それでいて優しく。
「俺はおまえが大事だ。麒麟として王が大事、六太として尚隆が大事。その前
には俺のことなどどうでもいい。俺ではおまえの悩みの役に立てないなら、役
に立てる人間をいくらでも側に置いていい」
「……」
「俺は想いを遂げた。僥倖みたいなもんだと思っている。おまえとこうなると
きが来るなんて思わなかった。これ以上は望めない」
「おまえは何も言わなかったな……。長い間、何も気取らせなかった」
 くすりと笑う気配がした。
「宴席で話の種にでもされたらたまらないと思ったからな」
「そこまで主を信用しないか」
「あいにく誰かさんは日頃の行ないが悪いから」
 おどけた調子が声音に混じる。こればかりは分が悪いので、尚隆は黙ってい
る。六太の反応がおもしろくてからかったことが多いのは事実だったから。
「なあ、尚隆。麒麟は王のもので、俺は尚隆のものだ。でも王は麒麟のものじ
ゃない。尚隆も俺のものじゃない。おまえは俺から自由でいていいんだ」
 ある意味では、恋人と距離を置け、と言ったも同然の残酷な言葉。淡々と告
げる六太は慈悲深いようでいて冷たい。冷たいようでいて優しい。
 なぜなら彼は知っているのだ、良きにつけ悪しきにつけ、人というものが変
わることを。変わるなと枷をつけて相手を縛るのではなく、変わってもいいの
だと許す。そうして自分は変わらずにそばにいると無言で慰める。そんな彼を
見る相手がどれほど切なくなるか知らぬげに。
 尚隆が沈黙していると六太も、もはや何も言わなかった。永遠に続く潮騒に
包まれて、時間だけがゆっくりと過ぎていく。
 やがてうとうとし始めた尚隆の耳に、六太の声がひそやかに届いた。
「少し眠れ。眠って夢の中だけでも泣いて人に還るといい」
 尚隆の意識の中で、夢幻と現実の境目がにじんでいく。沈みゆく意識の中で
彼は、六太の掌がそっと離れるのを感じた。足音だけを残して、気配が遠ざか
る。
 まったく主を見捨てて行くとは薄情なやつだ……。
 完全に眠りに落ちる前の一瞬でぼやく。そうして苦さと切なさがないまぜに
なった思いをいだいたまま、二度とくだらぬことを言い出さぬよう今夜は仕置
きをしなければな、と意地悪に考えた。

6たゆたう岸辺(後書き):2007/09/29(土) 12:40:20
「体の相性」の少し前の話になります。
書き逃げスレ300-303の「王后」はこの話から派生した没ネタでした。

「後朝」あたりの六太と同一人物には見えませんが、
あの話の前後は一時的にかなり情緒不安定になっていましたので。
またあれからけっこう時間が経っているため、初々しさも失せています。

最初のイメージでは六太が尚隆を膝枕してあげていたのですが、
そんな甘々はさすがにあんまりだろうということで変更しました。
とはいえ、いつかどこかで膝枕もしてあげていると素で思っています。

7贈る想い(1):2007/10/22(月) 19:31:49
雁主従の想いが通じあったあとの「後朝」などのラブラブ話より数年ほど前の話です。
表面上の主役は鳴賢で、主題は彼のノーマルな失恋を慰める六太の図ですが、
副題は、長いこと片思いをしている六太の心中です。オリキャラあり (名前だけですが)。
-----


「まー、なんだな、女なんて星の数ほどいるさぁ。それに俺たちゃ、卒業して
高級官吏になりゃあ、色街でもモテモテだぞぉ」
「そーそー。そんなあばずれ、縁が切れて正解だぜぇ」
「どうせ最初から間男とよろしくやっていたに違いないって」
 深更の大学寮。すっかりできあがって、それでもいちおう慰めてくれていた
つもりなのだろう、失恋した鳴賢に何かとからんでいた悪友たちは、楽俊と六
太に引っ張られて千鳥足でそれぞれの房間に引き上げていった。
 そんなあばずれ。
 最初から間男とよろしく。
 幼なじみの娘の地味でおとなしい面影がよぎり、わずかに心が痛んだが、鳴
賢はそんな思い出を振り払うように頭を振った。誰もいなくなって静かになっ
た自分の房間で、ささやかな酒肴を載せていた懐紙や酒杯が散乱しているのを
片づける。さんざん飲んだはずなのに、まったく酔った気がしなかった。
 ふと扉が開く音がしたので振り返ると、そこに六太が立っていた。さっきま
で彼が使っていたものだろう酒杯を差し出し、「水だ。飲めよ」と言った。鳴
賢は「ああ……」と頷いて受け取り、書卓の椅子に腰をおろすと酒でひりつい
た喉を潤した。
「楽俊も自分の房間に戻ったぜ」
「ああ」
 六太はさっさと奥の臥牀に座りこんだ。組んだ足の一方の膝に頬杖をついて
鳴賢を眺める。悪友たちに劣らず、この少年も相当飲んでいたはずだが、酔っ
ているようにはまったく見えなかった。
 子供と言っても差し支えない年頃なのに、座りこんでいるその仕草自体が妙
に大人びているのを、鳴賢はあらためて不思議に思った。よほど家庭が荒れて
いて、すれてしまったのか――いや、六太からそんな無秩序でささくれ立った
気配を感じたことは一度もない。口は悪いし、この少年は一見、ただの悪ガキ
のように思える。しかし普段はふざけているようでも実際には真面目な気質だ
し、意外にも繊細で気配り上手でもあった。

8贈る想い(2):2007/10/22(月) 19:33:53
「あんまり気にすんなよな」
「え?」
「玉麗のことをあばずれだとか何だとか――あいつらはそれでおまえを慰めて
いるつもりだったんだよ。気にするな」
 鳴賢は絶句した。自分でさんざん玉麗を悪く言ったくせに、いざ悪友たちに
彼女を罵られてみれば不快だったことを悟られているとは思わなかったからだ。
動揺を隠すために、既に水を飲みほして空になっていた杯に誤魔化すように再
び口をつけ、そして言った。
「別に、つきあっていたわけじゃないんだ。単に幼なじみだったってだけで何
か約束をしていたわけでもないし、それが休暇でたまたま帰省したら結婚して
他の里に移っていて、それをあいつらが勝手に誤解して――」
 言い訳が勝手に口をついて出る。実際、それは本当のことだった。鳴賢は玉
麗と何の約束もしていなかった。内心でずっと、彼女が自分の卒業を待ってい
ると思っていたとか、向こうの態度の端々からもそれを感じ取れたとか、里で
の周囲もそういう目でふたりを見ていたというのは、鳴賢が知らないうちに玉
麗が他の里に移って結婚してしまった今となっては無意味だ。
 もっとも酔いに任せたとはいえ、さっきの飲み会でさんざん、彼女とは目と
目で通じ合う仲だったというようなことを言ってしまっていたので、相手が六
太でなくても誤魔化しにしか聞こえなかったろう。
 だんだん支離滅裂になっていく鳴賢の言い訳が、やがて尻すぼみになってお
さまったところへ、一言も口を挟まずに黙って聞いていた六太が言った。
「年末年始ってのは農閑期でもあるから帰省者も多いはずだけど、その娘は親
元に帰ってこなかったのか。普通、年始の祭りって親戚が集まるから賑やかだ
ろ」
「さあな。亭主のほうの親元にでも行ったんじゃないか」
 鳴賢は投げやりな態度で首をすくめた。六太は「そっか」とつぶやいて目を
伏せた。
「鳴賢は去年は帰省しなかったわけだから、それじゃあ今年はきっと帰ってく
るとわかるよなあ。とてもじゃないが顔を合わせられねえか」
 その言葉に、鳴賢は胸をえぐられたような気がした。実際、故意に避けられ
たと思っていたからだ。六太は目を伏せたまま淡々と続けた。




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