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尚六SS「永遠の行方」

659永遠の行方「王と麒麟(246)」:2013/10/27(日) 20:46:01

 陽子のおかげで気晴らしができたためだろう、主君の様子はかなり改善され
たように見えた。一時のどこか苛立ったような気配は鳴りをひそめ、逆に人当
たりが柔らかくなりさえした。そして近習に様子を聞いても、朱衡自身の目か
ら見ても、かなり丁寧に六太の世話をしていた。
 にぎやかなほうが良かろうと、女官を含めた大勢でいろいろな噂話をしなが
ら六太にも普通に声をかけ、彼も話に混ざっているかのように振る舞う。何も
ないときは六太の眠る臥室に留まり、みずから優しくも根気よく手足をさすっ
たり関節を動かしたり寝返りを打たせたりし、その間も宮城でのできごとを話
して聞かせる。毎日の着替えでさえ、女官の手を借りながらも尚隆自身がやっ
ていた。朱衡や他の六官が見舞えば彼らにも談笑に加わるよう促すので、主君
の臥室は、開放的で活気がありながらなごやかな場所になった。
 本来なら昇殿できない官位の下官らも大勢招こうとしたため、さすがに警備
上まずいと官が進言し、代わりに外殿の一室に場所を設けて六太を連れだして
は、六太と親しかった下官たちを見舞わせて近況報告がてら談笑させるように
もした。仁重殿にいたときほど花は飾られていないが、それでも臥室を訪れる
人々の目を楽しませる程度には飾りつけがなされ、趣味の良い香が焚かれ、毎
日三度、時間を決めて楽人による演奏が行なわれた。水や果汁を飲ませるのも
女官まかせにすることなく、政務を中断して戻ってきてまで、かならず尚隆が
口移しで飲ませた。
「どうせなら関弓の街にも連れていって、六太の親しかった者たちと会わせて
やりたいものだがな」
 尚隆はそう言ったものの、使令がいない今、万が一を思えばさすがに無理と
いうものだろう。足を伸ばすのを許容できるのはせいぜい国府どまりと思われ
た。
 そうこうしているうちに尚隆は、下界に行く代わりにいくつかの凌雲山にあ
る離宮に六太を連れていくと言いだした。ずっと宮城にいては六太もつまらな
いだろう、場所を変えれば気分転換にもなる、と。少しでも六太が喜びそうな
ことは片っ端から試すつもりらしい。
「せっかくだ、おまえたちもつきあえ」




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