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尚六SS「永遠の行方」

300永遠の行方「呪(204)」★オリキャラ中心★:2010/03/14(日) 12:41:05
 あんなふうに磊落に笑う男が、暗い目で冷笑を浮かべていた王と同一人物と
は思えなかった。これではその辺を歩いている凡庸な只人と同じではないか。
 延麒が彼を見上げて話しかけ、答えた王が延麒の肩をたたいて再び笑った。
そうして彼らは雑踏を歩きだし、偶然にも暁紅と浣蓮が座りこんでいる城壁の
ほうに向かってきた。かつての謀反に連なる者がここにいることを知られては
まずいとは思ったものの、暁紅は目をそらすことができなかった。
 ふと彼らは周囲を見回し、明らかに暁紅たちに視線を向けた。しかしその目
は、ぎくりとした彼女らの上をあっけなく素通りし、少し離れたところにある
屋台で止まった。駆け出す延麒のうしろから王はゆっくりと歩いてついていき、
暁紅たちのかたわらをあっさり通り過ぎていった。
「――あの男。お嬢さまに気がつきませんでした。はっきりとこちらを見たの
に」
 浣蓮が放心した声でつぶやいた。暁紅は答える気にもなれず、黙って彼らの
後ろ姿を見送った。
 こんな貧しい汚れたなりなのだから、ごく親しい知り合い以外は顔を認めら
れずとも仕方がないだろう。そもそも疲れきって座りこむ荒民など、裕福な雁
の者には城壁と同じ背景でしかない。
 だが暁紅は失意のうちに真実を悟った。王が自分のことなど覚えていないこ
とを。貞州で過ごした何十年もの間、浣蓮とふたりしていかに王に意趣返しを
するかを楽しく語らったものなのに、当の相手は、恨みを持つ彼女たちを覚え
てさえいなかったのだ。この調子ではあの謀反の前、閨に侍らされた梁興の寵
姫たちに下卑た侮辱を与えたことさえ忘れているかもしれない。
「ひどい……」
 声を震わせてうつむいた浣蓮を、だが暁紅は冷え冷えとした心で無視した。
大国雁の最高権力者である王に比べ、何の力も持たない自分の惨めさを思い知
らされた気分だった。
 王が恨めしかったが、それ以上にあれほど自分を引きつけた危険な香りを失
った彼が情けなかった。自分があんな平凡な男に惹かれたはずはなく、つまら
ない男への復讐のためにかつて日夜考えをめぐらせていたとは思いたくなかっ
た。




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