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尚六SS「永遠の行方」

141永遠の行方「呪(53)」:2008/11/29(土) 13:09:04
 正月のめでたい飾りつけをしたままの里で、住み慣れたわが家で命を終えた
いのだと、父親はつぶやいた。そんな彼のすがるような視線に、ゆがて珱娟は
座っていた床几から立ちあがった。病み衰えた老人ひとりとはいえ、彼女ひと
りで抱えることはできない。
「父さんを里へ連れていって」
 仮小屋の隅で見張っていた兵士らに頼む。だが彼らは無言でかぶりを振った。
何度頼んでも同じだった。
「人でなし!」
 珱娟は金切り声でわめいたが相手にされず、つかみかかろうとして取り押さ
えられた。
 その騒ぎの中、別の兵が仮小屋に入ってきて同僚に告げた。
「おい、病人がひとりいなくなったそうだ。捜索隊を組むぞ」
「またか」
 応えた兵は、溜息とともに珱娟の父親が横たわる臥牀をちらりと見た。あの
老人がこっそり仮小屋を抜けだしたときも捜索隊を組んだからだ。おそらくま
た里に戻ろうとして抜けだしたのだろう。
 無人となった幇周の里は別の兵士らが警備しているが、正直なところ近づき
たくはなかったから誰もが舌打ちをした。それにもう日暮れだ。病人の足では
さほど遠くへはいけないだろうが、探すのに難儀するかも知れないと思うと億
劫だった。
「昨日、子供を亡くした女がいたろう。その女が子供の亡骸ともども消えたら
しい」
「ああ、あの女か」
 子供の死を信じず、半狂乱になって騒ぎを引き起こしたから、話を聞かされ
たほうもうなずいた。自暴自棄になって当てもなくさまよい出たか、里へ戻っ
たか。
 いずれにしろその女も病が重いから、里にたどりつくことはできないかもし
れないが、病に感染した者を放置するわけにはいかない。いくら他の里の者に
はうつらないようだと瘍医が言ったとて、万が一ということもある。
 兵たちは舌打ちとぼやきとともに、当番をひとり残して仮小屋を出ていった。




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