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【お気軽】書き逃げスレ【SS】

1名無しさん:2004/11/03(水) 14:07
ここはなんでも書けるスレです。初心者、エロエロ、ムード系、落ち無し、
瞬間的モエ、特殊系、スレ内SS感想等なんでもщ(゚Д゚щ)カモーン!!
どんなカプでもお気軽にドゾー!!
投稿ルール、スレ説明は>>2、その他意見・質問はまずロビスレへ。

※もちろん個人での派生スレ設立は、さらに大推奨※

170名無しさん:2004/12/05(日) 09:06
いかん・・・
続きが読みたい。春怨。
六太と尚隆の微妙な駆け引きが・・・ああん
私を殺す気ですか姐さん

171春怨二人6:2004/12/05(日) 20:56
払った手が、払われた手がそのぬくもりが去っていく事が少し寂しい。
「仕方なかろう。俺も、年寄りだからな」
爺臭いのは勘弁しろ、と言って笑う。
「あのさ、思ってもない事言うなよな。どこにこんな好色な年寄りが居るんだよ。世の
お年寄りが聞いたら呆れるぜ?」
「お前こそ、何時までも子供のつもりだろうが」
お前は変わらんな、と腕を伸ばし六太の頭をくしゃりと撫で付ける。それに少し眉を寄せ。
「そんな事ねえよ。中身はちゃんと大人になってる。気付いてないのは、お前だけ」
そして、尚隆こそ、と言いかけ主の顔を覗き込む。―そうしようとした時。突風が吹き
付け尚隆の黒髪を掻き乱した。
六太は腰を上げ手を伸ばし、彼の面に掛かった髪を側面に除けた。小さな手が頬に触れ、
どうにもこそばゆい。だが、されるがままにしていた。
六太は尚隆の面を、瞳を凝視している。何かを探るように。
面と面が近付き、近付き過ぎ、尚隆は緊張する己を感じた。
このまま腕を伸ばし、この「自分は大人だ」と言う子供の腰を抱き、肩を抱いて少し顔
の角度を変え、目を閉じれば―。

「…うん、今は良い感じだな。悪くない。前は少しやばかった」
不意に身体を離し、一人六太は納得する。だがこちらは納得がいかない。何が良くて何
が悪いのか。そして、己は一体何をしようとしていたのか。
「前?」

172春怨二人7路線変更シリアスくずれ:2004/12/05(日) 21:49
主が問えば、六太は言うつもりではなかったのか顔を顰め、背ける。
「そうだな…。百年くらい前、かな?」
ぽつりと漏らしたそれに、尚隆は思わず身を固くした。
「あの頃さ、なんか上手く言えないんだけど…。仕事するのも、遊びにも、目が死んで
たっつーか。…精彩を欠いてた、っつーの?そのくせ妙にぎらぎらしててさ、…とにか
く変だった、お前」
漸う語り出した六太も、尚隆も互いに顔を逸らし、ただ正面を見やる。先程の突風に吹
かれた花弁はまだゆらゆらと辺りを漂っている。舞い散る桜の花弁が暗示するもの。
「おれさ、あの頃雁の歴史とか、各国の王朝の昔を調べたりしてたんだ。…成笙がさ、
そうしろって」
成笙も無茶を言う。各国の歴史など、麒麟には酷な陰惨な事も多かろうに。だが、前王、
梟王の忠臣としてその変貌する様を知る男は、現王の半身たる麒麟に訴えたい事が有っ
たのだろう。
「で、何が分かった?」
「…立朝三百年頃、善政を敷いていた王が暴君と化して国が滅びる事が多い…って事と
か、かな」
二人は漸く面を向け、瞳を合わせた。六太は固く膝を抱いている。
「…お前がその頃、俺にそのような話をした覚えが無いが」
「お前に説教とか忠告すんの?…お前がその気になったら、おれ達が何言ったって無駄、
かえってお前を煽るだけだろう?」
「それは、突き放しているのではないのか?」
尚隆は眉を寄せる。己が暴走しても、誰も止めてくれぬとは。
「いや、絶対ムキになる。だから、自然の成り行きに任せた」
腑に落ちない尚隆を横目に、でも、と言う。
「おれは、思ってたよ…。お前がそんな例通り、暴君と化す様なつまんない、三流の王
なんかじゃないって…」
「三百年持たせて三流と言うか。…そうなったら、朱衡が嬉々として下らん諡を付ける
様が目に浮かぶわ」

尚隆は否定も肯定もしない。だが六太はこう読んだ。尚隆にも暴君となり得る時期が有
ったのだ、と。
主の顔を仰ぎ見、恐る恐る、慎重に言葉を吐く。ずっと確かめたかった事を聞く。合わ
せた目を、目を逸らさないでくれ、と祈りながら。
「…昔の話、だよな?」
「ああ」
目を逸らさず事も無げに言ってのければ、六太はにんまりと、輝くように笑った。

173春怨二人8:2004/12/05(日) 22:27
「あーあ、心配して損しちゃったなあ。なあ、たま」
倒れ込む様にたまにしがみ付いた。その小さな背中は、肩は震えていた。声を押し殺して、
泣いているのだろう。
背を向け隠しても、こちらから見えるたまはくおんくおん、と鳴き、慰めるように主の頬
を舐めていた。
その涙は、唯一無二の主に仮にも裏切られた悔しさ悲しさの為、しかし現状を省みての安
堵ゆえ。その身体に、きっと百年もの間その憂いを封じ込めていたのだろう。
尚隆に今、六太に掛ける言葉は無い。ただ、気の済むまで泣かせていた。

どれくらい経ったのか、泣き止んだ六太が尚隆を振り返る。少し作った感が有るが、笑顔
を浮かべていた。
「でもさ、良く考えたら、いや良く考えなくても、雁が四百年も持ってる方がキセキ、ま
ぐれな訳だしな!おれ、いつでも覚悟は出来てるよ?」
雁はお前の好きな時に、好きな様にしろ、と言外に言った。
「…そう言われると何やらつまらんな」
「それが、ねらい」
お前の性格なんかお見通しだ、と小さく作った拳を伸ばし、主の頬にぐりぐりと押し付ける。
―この子供の、気丈さ強さが何より好きだ。踏みにじられても、決して折れぬ。もっとも、
これを踏みにじるのは己以外有り得ないが。
「…泣いたくせに」
「はあ?泣いてねえよ?お前何か見間違えたんじゃねえの?」
惚けてみせる六太の、泣き腫らした面の頬を摘み、ぎゅう、と引っ張る。
「どの顔で言うか、鴉かお前は」
そうすると、六太の頬は餅のように良く伸びた。
「いてててててっ!麒麟の御尊顔を引っ張るな!!」
「お前のどこが尊いのだ。よく食うわ遊ぶわ、低俗麒麟が」
「低俗って言うな!てめーだって似たようなもんだろうが、この振られ男!」






コメントに冷や汗する心苦しい中の人です。
春怨=恋に嘆き悲しむさま。って事らしいです。
で、誰も気にしてないと思いますが、台詞に有った「春怨の君」ってのは
「自分を恋に嘆かせるあなた」、てな風に強引に。ウソ語ですが。ウソ日本語。
でも「春怨」→「春エン」→「春雁」と被るのがちょっと良いかと。
恐らくレス15前後掛かるかと思われますが、一応内容もラストも決まりましたので
どんなご都合主義もグダグダヌルい内容も笑って許せるお優しい方、チラシの裏の隅の落書きに
お付き合い下され。
一人リレー気分…。語彙と脳が足リナイヨ!!

174名無しさん:2004/12/05(日) 23:04
春怨、どこまでもついていきます姐さん
突っ走ってください。
どういったらいいのやら
エロがないのにこの上なくエロい…
姐さんの書く尚隆はいい男だ、人間の弱さもありながら
踏みとどまる強い男っぷりに惚れます。
六太がけなげでかわいいし。どうしてくれるんだ、この胸の高まりを。

175心の傷痕モエモエ:2004/12/05(日) 23:31
六太は、一人湯船に浸かってあれやこれやと考えを巡らせる。
勅命だから仕方が無いとようやく心を決めて湯の用意をさせる頃には
すっかり日は傾きかけてしまっていた。
そうしてようやく女官に準備は整えてもらい、一人湯を使っている。
しばらく身体を暖めた後、湯船から上がって小さく口中で女怪の名を呼ぶ。
白い鱗に覆われた手が背後に現れる。
「髪を洗うのを手伝ってくれ。」
醜くなった俺だけど、髪だけは昔と変わらないから。
尚隆が気に入っているこの髪だけでも、せめて綺麗にしておきたい。
ゆったりと髪をすく手に身を任せる。

尚隆は俺に何を求めてるんだろう。
俺の為に、部屋に幕を引き明かりを消すと言った。
まるで自分の心の渇きや身体の疼きを読まれてしまったようで落ち着かない。
そうまして俺を抱いて、尚隆にどんな利点が有るのか皆目見当が付かない。
思考はグルグルと同じ所を回り続ける。
でも、勅命だもの。逆らう事なんて出来ない。
自分にどんな理由があれ、これで主の傍に侍るしか無いのだ。
不安や期待がないまぜな己の心におののいて、六太は小さく身体を震わせた。
「お寒う御座いますか?」
女怪の言葉に我に返った。
「いや、大丈夫だ」
言って心を決める。
何もかも考えても詮無い事だ。
尚隆は俺に伽を命じたけど、俺の姿は見ないで呉れると言った。
その心に、今は素直に甘えたいと思った。


えええん;;;

湯殿に伽!!
ネタ的にはかぶってるので、先に書かせてもらいましたー・・
149さん〜〜〜汗


そして、春怨も台輔の勤めもむっちゃ気になります!ドキドキです!

176『台輔の勤め』15:2004/12/06(月) 00:29
久々にリレスレ書いてこっちも。春怨も心の傷跡も萌え…!!



用意の整った湯殿に氾王を案内する。
「じゃあ…俺、先に行くから」
湯世話をする者の入り口は奥に別にある。六太はそちらに足を向けた。
控えていた女官が手際よく六太を浴着に着替えさせる。
重い着物を脱がされ鬣を飾っていた簪が外されると六太はほっと息をついたが、
それも束の間、今度は手際よく金の髪が結われていく。唇を彩っていた赤い紅は拭き取られ、
薄桃色の紅を塗られた。
「それは…いいよ」
拒んだものの、なりませぬ、とぴしゃりとやられて口ごもる。
「かの氾王のお世話です。そこには一分の隙も許されませぬ」
「……」
朱衡に余程言いつけられているのか、それとも女官の意思なのか。
とにかく普段身世話をさせない六太に、彼女達はここぞとばかりに情熱を燃やしているように見える。
実はそうであった。女官らは、普段六太があまり装いに頓着しないのを口惜しく思っていたのである。
ただでさえ愛らしい容姿のこと、髪を結い、美しい着物を着せめかしつけたなら、
さぞお綺麗になられるでしょうにと語り合ってきたのである。
そのように涙を呑んでいた女官らに、この機会を逃す手はなかった。
──かくして新たにめかしつけられた六太は何とも可憐な湯女であった。
このようないでたちで湯世話をされたなら誰もが心を怪しくさせるであろう、そのような出来であった。
尚隆が見れば頭から湯気を沸かせて憤るに違いない。
「──湯世話の者はまだ来ぬかえ」
しまった、と六太は顔を上げる。
「今──!行くから」
返事を返しながら慌てて湯殿へ入る。
先に来ていた氾王は既に髪も解き、玉で出来た台座にゆるりと腰をかけていた。
「ごめん…遅れた」
六太の姿を見て氾王はくすりと笑った。
「…また愛らしい湯女に化けたものだね。何、構わぬよ。その姿は気分が良い」
六太の身に着けているのは桜色の薄い襦袢であった。頭のやや片側に寄せた形で
高くまとめた金の髪は、耳の横と遅れ毛のみを少しだけ垂らし、何とも艶めかしい。
対して氾王は一糸纏わぬ姿であった。着衣の状態からは予想だにし得ないその裸体は
がっしりとした骨格に沿うように美しく筋肉がついていて、六太は不覚にも鼓動が高くなるのを覚える。
胸がどきどきとして、まともにその体を見ることが出来ない。
「…えと、まず何をすればいい?」
思わず伏し目がちになるのを隠しながら口を開いた。

177名無しさん:2004/12/06(月) 00:51
お風呂祭りですね。いやっほう
どっちも素晴しい。
台輔の勤め、女官の気持ちになって読んでいます。
ろくたんにおめかしさせたい…

178名無しさん:2004/12/07(火) 00:51
祭りに春怨に、いろいろあってクラクラです。
傷痕続きの姐さんほんとにありがとう。私には続き思いつけなかったです。
期待しまくってます!

179春怨二人9:2004/12/07(火) 17:28
「ああ、そうやって主の傷を抉る。不死でも心の傷はなかなか癒えぬものだぞ?」
悲しそうな面を作ったが、それも一蹴される。
「知ってるよ、んな事。でもお前の遊びの心の傷なんか、一晩寝りゃ治るだろ。てか、傷
なんて元々付いてないだろ」
「ばれたか」
「とーぜん」
そして笑い合った。こんな下らぬ遣り取りは、仕事時以外では常の事。共に居る時の同じ
空気。それは、心地の良いものだった。

庭園の、離れの四阿で主従はのどかな春光を受けていた。
「…で、お前はこんな所で何をしておったのだ?政務をさぼりおって」
「お前にだけは言われたくないけどな。午前中に午後の分もまとめてやっちゃったから良いの」
六太はたまの隣に寝転がった。見下ろしてくる主の視線は疑わしげだ。
「今は、日向ぼっこしながら昼寝。邪魔が入っちゃったけどさー」
そう言って欠伸を一つする。寝転がると先程の眠気が再びやって来た。
「昼寝か。気楽な奴。たくさん寝て良く育つ事だな」
「嫌味言うなってのー。…お前は何しにここに来たんだよ?」
すると尚隆は少し言い淀む。六太はちらと主を横目で見やった。
「…下界から帰って来たら空から派手な金が見えたでな、少し遊ぼうと思ったのだ」
「何だよー…。おれは…玩具じゃ、ふわあ…ねえ、ぞ…」
この睡魔は尚隆の王気が気持ち良い為だろうか。そう、今の尚隆は大丈夫。
尚隆がかつて己を裏切る気持ちを起こしたとしても、それは過去の事。それならば良い。
「でもまあ…久し振りにお前と…こんな風に……喋れて……良かった………かなー…」
その言葉は徐々に、すう、と寝息と共に消えていった。

寝入ってしまった六太の隣で、尚隆は軽くその頭を撫でる。
「…俺は、お前に会いに来たのだ」
誰に言うでもなく、そう呟いた。

180春怨10辻褄合わせの為尚隆が純、六タンハアハアに…(不本意:2004/12/07(火) 19:35
尚隆には六太をしばしば放置していた節が有る。それは、この子供の気性を考えれ
ば「王と麒麟」という関係に縛られる事を哀れんだからだ。―六太にとっては残酷
な優しさだろう。
だが今は、尚隆から六太に会いに来た。己の寂しさ、人恋しさを埋める為に。
寂しい、その気持ちを認めてやる。それは心が老いていない証拠だ、と自らに弁明
する。

六太の髪に次第に降り積もる花弁を払ってやる。その面には泣き腫らした名残があ
った。
―泣いたくせに。いっそ泣いて縋れば良いものを。「覚悟は出来ている」などと小
賢しい。あの頃の、国も己をも焼き滅ぼし尽くさんとする炎は今は鎮火している。
燻る火種を心のどこかに感じるが、それでも今、雁は安泰を保っている。
「たまには、褒美をくれても良かろう…?」
卑怯な事をする。春草出る地面に手を置き、眠る六太の上に影を作る。起きぬよう
そっと顎を捉え、微かに上を向かせる。そして面を近づける。先程誘惑に駆られた
事を、行った。
それは軽く触れるだけ。それでも、六太の一部が欲しかった。柔らかく、瑞々しさ
を湛えるそれ。ああ、白粉や紅の匂いはしないのだな、と当たり前の事を思った。
唇を離れる際、舌先で軽く舐める。それは甘く、桃か何かの味がした。恐らく尚隆
がここに来る前に食していたのだろう。

六太に気付かれぬよう、唇を盗んだ。己の心を明かさず相手の心も確かめず、この
卑怯な真似。それは男同士である、等を気にしての事ではない。ただ、この子供を
いつ裏切るとも知れない己が居たからだ。

181名無しさん:2004/12/07(火) 21:08
姐さん、いっそ殺してくれ。
萌え死ぬよ
春怨!!!
いいですー
早く続きを・・・お願いします、早く・・・

182春怨二人11:2004/12/07(火) 21:50
身体を起こしつつ自嘲する。望めばどんな贅沢も出来る己が、これが褒美とはささ
やかに過ぎるのではないか。
知らず唇を主に捧げた六太は安らかな寝息を立てている。もう暫くして、風が冷え
てきたら仁重殿にでも運んでやろう、そう思った時遠くに人の気配を感じた。

「お前らー――!!こんな所におったかー!!すぐに捕まえてくれるわ!!」
「主上は三日分の政務、台輔は午後の政務が残っていらっしゃるでしょう!!」
突然の官吏の声に、尚隆は振り返り六太は目を覚まして身を起こす。
「お前、午後の分もまとめて片付けたのではなかったのか」
「へへへ」
三人の官吏は今にも捕まえん、と二人目掛けて駆けて来る。だが、こちらにはたま
が居た。
「たま、帰って来たばかりですまんが、もう一働きしてくれんか」
その囁きにたまはくおん、と鳴き返す。尚隆はたまに飛び乗り、反射的にたまに手
を掛ける六太の身を掬い上げ、己の前に乗せた。
「こらー――!!逃げるな貴様ら!!」
その声に縛られる事無く、「行ってくれ」という声と共に二人を乗せたたまは駆け
出し舞い上った。
庭園の柵を越え、桜の回廊をくぐり抜ける。その際、尚隆は手を伸ばし桜の小枝を
数寸ほど手折った。

たまを走らせ、空の上から振り返れば官吏達はもう小さく見える。それでも腕を挙
げ、盛んに非難している様は見て取れたが。
「どこ行くんだよ?」
たまの上で六太が主に問うと、特に決めてない、と返ってきた。
「別に政務を執っても良かったのだがな。追われた為、反射的に逃げてしまった」
「お前なあ…。でもそれは、分かる」
二人は互いに顔を向け合うと、楽しげに笑った。

183春怨二人12 ラヴコメ(臭:2004/12/07(火) 22:32
「とりあえず関弓に降りるか」という主の言葉に、六太は常に持っているのか胸元
から巾を取り出す。それを頭に巻こうとしたところ、遮るように声が降ってきた。
「六太」
呼び掛ければ振り返る子供の耳の上、流れる金色の隙間に先程の桜の小枝を挿して
やった。
「…何のつもりだよ」
「いや、少し動くな。…ふむ」
鑑定人よろしく手を顎に当て、暫し見つめる。後、軽く吹き出した。
「…呆れるほど良く似合う」
「お前な、そんな下らない事言う為に花を手折んなよ」
顰めた顔を向けてやれば、主は更に顔を覆いたくなるような事を言い出した。
「なに、お前の髪に飾られて花も幸せだろうて」
「うっわー!尚隆寒いよー、おれの周りだけ冬が来た!」
寒そうに体を抱きつつ簪と化した小枝を抜き、それを手に持ち見つめる。
己の為に手折られたその枝を捨てる気にはならず。そうしていると尚隆は六太の手
からそれを取り、六太の衣の襟元に挿した。
「まあ…勘弁してやる」
仕方なく受け入れた、己の胸元に咲いた花を見やり思う事がある。
それは、主に与えられたもの。

「お前さっき、おれが寝てる間、おれにく…、いや何かした?」
「いや?…墨と筆が有ればお前の顔に落書きでもしてやったところだが」
振り返って問うた六太に恍けてみせた。
「あのなあ。餓鬼かてめーは」
そっか、と前を向き面を伏せる。唇に手の甲を当てる。気のせいだったか。朧に感
じた、その行為が愛情表現の一種である事は六太も知っている。男と女の。
尚隆が自分にそんな事をするわけが無い。願望を夢に映したのだろうか。…そんな
願望を己は抱いているのだろうか。そんな莫迦な。おれは男で、こいつも男で。

六太が思いを巡らせている内に、主従を乗せたたまは間も無く関弓の街に降り立った。





次回、…関弓デート…(鼻汁

184名無しさん:2004/12/07(火) 23:17
萌えすぎて呼吸が苦しいです姐さん!
尚隆の言葉を本気に取ろうとしない六太がじれったい!
非情にイイです。続きをみたい…!

185名無しさん:2004/12/08(水) 18:28
姐さんに人生狂わされそうだよ
尚隆のご褒美キス泥棒にくらくら・・・
続きをくれなければ死ぬので
お願いしますよ

186春怨二人13 萌エ無シダラダラホノボノ。:2004/12/08(水) 19:50
夕を迎えるまで幾らかの時間を残す関弓の街は、道行く人々でひしめき合っていた。
もっとも、数百年前からこの街は静寂を知らなかったが。
そこに有る風景。活気の有る商人達。露店で売られる菓子や点心が蒸篭で蒸され立
ち上る湯気。路上で芸をする朱旌たち、またそれに群がる人々。他国からの旅行者
か、この春に妙に着膨れした者、薄着な者。学生と思われる集団が茶店の店先で何
やら熱心に語り合う様子。子らが駆け回るその横を酔っ払い達が通り過ぎる。
この活気に満ち溢れた街は、延主従にとっての庭だ。

二人がたまを宿屋の厩に預けた後、六太が早速提案した。
「おれ、腹減った。茶店に行きたい」
「そうだろうよ、お前は。先程桃を食っただろうに」
「え?何で知ってんの?」
「いや、…いつも食っておるだろうが」
後、飯を奢れだの手持ちが少ないだの言い合いをしていると、道行く広い通りに妖
獣の群れが現れた。
それは旅の商人に騎獣として躾けられた、売りものであると知れた。
近寄り様、尚隆は何気に一頭の天馬を撫でる。すると天馬は尚隆を気に入ったのか
盛んに頭を擦り寄せている。それに可愛げを見出したのか、尚隆はその背や顎の下
を楽しげに撫で返していた。

六太はその光景、天馬に羨望を覚えた。己は、このように素直に尚隆に甘えた事が
そう有るだろうか。
六太には、尚隆との距離を度々置いていた節が有る。それは己の「王を慕う麒麟の
本能」ゆえ。己が尚隆に纏わり付く事、慕情を示す事を、ただの「本能」ゆえとは
思われたくはなかった。
尚隆を想う故に、尚隆と距離を置いた。矛盾する思いを抱える。
だが、その想いとは一体?

187春怨二人14 萌エ無シダラダラホノボノ。:2004/12/08(水) 19:57
一しきり天馬を可愛がった後、去ろうとした二人の尚隆の袂が引っ張られた。気付
き振り返れば、先程の天馬が袂を銜えていた。行くな、とその瞳が訴える。
中年の騎獣商人がそれに気付き、ずかずかとやって来て尚隆を訴えた。
「おい兄ちゃん、売りものを懐かせないでくれよ!困るよ!」
「そんな気は無かったのだが」
頭を掻きながら、天馬と目の高さを合わせる。そして獣に尋ねた。
「俺のものになるか?それとも、黄海に帰りたいか?」
「おっおい、兄ちゃん、何勝手な事言ってんだよ!あんたのにするも、黄海に帰すも、
まずは金払ってくれよ!」
六太は呆れて呟いた。この、女たらしに獣たらしが―。
「兄ちゃん、どうするんだよ?」
腕を組み睨む商人に、言われ尚隆はその天馬の値札を手に取り見やる。民には法外な
その額に、驚くでもない。
躊躇無く胸元から財嚢を取り出すが、しかし大した額は入っていなかった。
「うむ、俺が買おう。だが今は手持ちが少なくてな。付けで…」
「旅商人に付けが利くかっ!飲み屋じゃねーんだ」
手に顎を置き、財嚢と天馬を見比べ唸り考える、その暫し後。
「では待っておれ。少々金策するでな」
「いやに偉そうだな、兄ちゃん…」
訝しげに見てくる商人を尻目に、尚隆は当てが有るのか何処かへ歩き出した。

「おい、金策って何か当ては有るのかよ?」
天馬と戯れていた六太は、意思の疎通が出来るのか何事か語らっていたが、駆け足で
主を追い掛けた。
「…何か質草にするしか思い付かんな」
尚隆は溜息を吐きながら袂を漁る。何か、金目の物は有っただろうか。その様子を見
て六太は微笑んだ。
「…お前って、意外と優しいんだな」
「意外と、とは何だ。俺は俺を慕うものを邪険にはせんぞ。もっとも、去るものは追
わんが」
―本当に?ただの本能で慕うものも、受け入れてくれるのか?
六太の胸に、そんな思いが去来した。

188春怨15 伏線になるのかこの辺…:2004/12/08(水) 22:43
脚は何処へ向かうのか、袂を漁る手が何かを掴む。「あったあった」と呟きな
がら、取り出した物は。
「範の奴が送ってきた物だ。わざわざ俺宛にな。どうせ、俺の趣味には合わん。
いずれ売っ払ってやろうと思っていたのだ」
そこそこの額にはなるだろう、と天にかざせばきらきら輝く、それは帯留めで
あった。翡翠に細工が施され、見るからに趣味が良い美しい品である。
「それを売ろうってのー?止めとけよ。あの御仁、お前の事〝まだ見込みが無い
訳じゃない、あと百年も有ればなんとか〟とか言ってたぜー?」
「ふん、見込みが無くて結構だ。大体、あと百年あいつが玉座に居るのか」
かの国の王の話となると途端に不機嫌になる自主を宥めつつ、売った後で氾王に
その帯止めの事を問われたらまずい、などと説得しどうにか思い留まらせた。

「風漢さん…。これは買い取れませんねえ」
暫し後、尚隆の馴染みらしき質店に辿り着いた。薄暗く古書や珍品等が佇むそこ
で、彼は勘定台の店主にある物を軽く、投げつけるように渡したのだ。
店主の老人がその渡された包みを開いた後、現れた物。
「〝延王御璽〟とありますねえ。本物ではないでしょうが風漢さん…。何やら犯
罪の臭いがしますねえ…」
尚隆の隣で様子を窺っていた六太は思わず目を疑った。
「おっ、おまっ、あれっ、ぎょっぎょくっ…、んッんんー――!!」
指差して呂律も回らず叫ぶ六太を、尚隆が肩を抱くようにその口を押さえ込んだ。
暴れる子供を訝しみながら見やり、店主は玉璽を元のように包みに戻した。そし
てそれを尚隆の元へ押し戻す。
「ま、お得意さんですから深い事情はお聞きしませんが…。私も善良な関弓市民
として、こういった事には関わりたくありませんねえ」
「それはすまん」と、尚隆は軽く謝罪して突き返された玉璽を袂にしまった。六
太を押さえ込んだ手を離せば、暴れ止んだ六太は大きく息を吐いていた。

もう質草にするような物が無い為か、尚隆は何とはなしに店内をうろうろと見渡
した後、店主に尋ねた。
「今すぐ大金が要るのだが。何か得られる方法は無いものか」
「そう言われてもねえ。…ああそうそう、あんたには打って付けかも…」

189名無しさん:2004/12/09(木) 02:33
姐さん連投お疲れです
いっぱい読めて今日は幸せだあ…
ありがとう
明日もたくさん書いてください
待ってます

六太と尚隆が自分の意志なのか…の意志に踊らされているだけか迷いながら
惹かれ合う様子が…たまんねえ!!
尚隆ご褒美キス泥棒のシーンはマイベストシーンとして何度も読返しちゃいます

190「春怨」中の人:2004/12/09(木) 18:18
>189
すみません、昨日休日だったんでドバッといきました。
これから少し間を置いて、書き溜めてからドバッといこうかと。

結局レス20前後掛かるかと思われますが、どんなご都合主義も
グダグダヌルいゲロ甘内容も耐えられるお優しい方、お付き合い下され。

皆さんのSS、このスレの連載の続きもリレスレも楽しみです!!(エロ待ち)

191名無しさん:2004/12/09(木) 23:35
>190
人類が死に絶えるほどのゲロゲロに甘いの読みたい。

192名無しさん:2004/12/10(金) 01:00
191さん、同意
人類が死に絶えるに笑った
どんなものですかそれは

193春怨16ダラダラ長く…:2004/12/12(日) 21:02
「打って付け?」
店内の商品を物色していた六太も尚隆と共に老人を覗き込む。老人は頷き、そっ
と尚隆の腰に佩いた剣を指差した。
「あんた、剣は強いんだろう?なんでも、市の広場で剣術の競い合いが有るそう
だよ。賞金も出るらしい」
尚隆はふと己の腰の剣を見やり、水を得たとばかりに目を光らせた。
一方六太は自主のその様子に辟易していたが。

競合はもう始まっている頃だろうが、間に合えば飛び入り参加も受け付けるだろ
う、と言う質店の主に礼を言い、路地裏に有るその店を出、早足で広場に向かう。
歩んだ途端、尚隆は己の横に虚を感じ、後ろを振り返る。
果たして、数歩離れたところにその虚ろに居るべき子供―六太は佇んでいた。そ
れを呼ぼうと尚隆が口を開きかけた時。
「おれ、お前が傷付いたり人を傷付けるところ、見たくない…」
だから、この辺で数刻待ってる。どうせお前の居場所は分かるから、と言う。や
や眉を寄せつつ。
「俺に傷を付ける奴が居ると思うか?それに俺も、人を傷付けたりはせぬ」
離れた六太の側近く寄るが、六太は面を伏せ表情を硬くしている。
「では、お前に血を見せぬと約束する。全て、剣を弾いて勝ってみせよう」
尚隆は更に言い募る。
「剣は、俺の唯一の特技なのだ。知ってる奴が見て、褒めてくれねばつまらん」
そう言うと六太は漸く面を上げ主を見やり、小さく笑った。
「…絶対だな?よし、じゃあもしもお前が人を傷付けずに優勝出来たら、おれも、
お前に何かして…」
途中言い淀んだ六太の面を尚隆は背を曲げ、面白そうに覗き込んだ。
「ほう?何かしてくれるのか?」
「…ああ、でもおれがお前にしてやれる事って、あんまり無えよなあ。お前の仕
事を代行しようったって、おれには埒外だし。…せいぜい、お前が出奔する時囮
になってやるくらいかなあ」
己が主に施せる事は何も無い事に気付く。それは、妙に六太を寂しくさせた。

194春怨17 ダラダラ強引に:2004/12/12(日) 21:08
説得に応じた六太は尚隆と共に広場に向かい歩き出す。
「でも、あの天馬買ってどーすんだよ?家にはたまととらが居るだろ」
確かに騶虞が二頭も居れば、天馬に乗る機会などあまり無いかもしれない。
「うむ、それだがな。成笙か毛旋あたりに下賜しようかと思う。…それか」
「それか?」
「白沢の爺にくれてやるのはどうだ?あの爺が妖獣を乗りこなす様はなかなか見も
のだと思わんか?」
「ひっでーなあ、お前。乗りこなせるかよ。白沢の腰が抜けたらどーすんだよ。…
でも」
白沢がふらふらと天馬に乗る様を想像したのか、六太は軽く吹き出した。だがやや
あって表情を戻す。
「…でもさ、あいつお前の事気に入ってたみたいだから。お前の側近く置いて、た
まには乗ってやれ」
必要とされないのは寂しいから、と続ける。一拍の後、尚隆はそれに頷いていた。

広場に近付くにつれ、ざわめく周囲の喧騒は大きくなっていった。


「…お前、気付いてたか?観客皆白けてたぞ?何だよ、五合も合わせずに勝ち抜きや
がって。何か、八百長みたいだったぞ…」
六太は尚隆から投げ渡され、受け取った包みから賞金を取り出し面白くも無さそうに
数えていた。

結局、観客溢れる競合に「風漢」として飛び入り参加をした、世界一の剣豪は難無く
優勝してしまった。
玄人の卓越したその剣技は見る者が居れば唸ったであろうが、素人の観客相手には派
手さを欠き、その試合は面白味の無いものだった。
今はその競合の後に、騎獣を売っていた大通り目指し歩いている最中である。
「人を傷付けるな、というお前の希望に沿ったではないか」
「でもなあ…。そもそもお前が出る事自体、反則みたいなもんだしな。王が民の娯楽
を奪うなよ」
「以後気を付けよう」
その気など無さそうな主に呆れ、六太は賞金を数え終えた。少し首を捻りながら。
「この額で…あいつを買えるかなあ?」

195春怨18 色無し強引に:2004/12/12(日) 21:14
黄昏時も間近、目指す大通りに近付けば人垣が出来ており、何やら様子がおかしい。
野次馬と思しき人垣の隙間から目を凝らせば官府の卒がうろつき、縄に掛かっている
―騎獣商人達。
「何か…夏官が動いているのか?」
「ああ、取引中詐欺が有ったらしいよ。商人連中は官府に連行、騎獣も押収、だとよ」
六太が覗き見呟いた言に、野次馬の一人が節介にもそれに答えた。

項垂れ、卒に連行される罪人達を目に、暫し立ち尽くし呆然とする主従。
―金策に走ったのは何だったんだ。
主従は呆気に取られていたが、六太は見やる現場に見知ったような者を見掛けた気がし
た。卒達を指揮するその男。
「…おい、尚隆。あの、ほらあそこで指揮してる色黒い奴、成笙じゃねえの?」
隣を見上げ小さく指差せば、主よりも先に件の成笙がこちらに気付いた。
「お、お前ら…!!」
成笙は瞬時、身近な部下に指示を出す。恐らくこう言っている、捕らえろ、と。
「あの、背が高くて桃色の巾で髪を結わいている男と、その連れの頭を巾で覆った子供、
そう、子供共、両方だ!!」
気配を感じ取った主従は駆け出した。それは騎獣など要らぬかのような勢いで。
「おっ、おい!?何でいきなりおれ達が追い掛けられるんだよ!?…そりゃ、政務さぼ
ってるけどさー!!」
道行く人並みを縫って走る。怒鳴る六太が遅れそうになれば、尚隆はその手を引いた。
「知らん!俺達があいつらを見ると反射的に逃げたくなるように、あいつらも反射的に
俺達を捕まえたくなるのだろう!!」
追手を撒こうと路地へ路地へと入り込む。それが功を奏しているのかどうか、遠くで無
口な成笙の叫ぶ声が聞こえた。
「その男は、国一番の詐欺師だー!!」
ひどいことを言う。

196春怨19 あと5レスくらい…:2004/12/12(日) 22:19
関弓を良く知る二人が逃走すれば、徐々に追手の気配は失せていった。
気付けば大分街外れに来たらしく、黄昏時にその辺りは少々の侘しさを感じさせた。近
くには河原があり、数本の桜が植わっている。
河原で走る脚を休め、弾む息と上下する胸を落ち着かせる。
大きく息を吐いた後、河原の向こうを眺めつつ六太は呟いた。買えなかった天馬の事を。
「…あいつ、良い主人に恵まれると良いな」
「そうだな。…だが、その点お前は恵まれている」
主たる尚隆が六太を見下ろし笑み掛ければ、従たる六太は一瞬首を捻る。だが直ぐに思
い至り、不愉快な色を面に浮かべる。
「どこがだよ、ばーか」
主の言に急に疲れが出たのか、六太はその場にへたり込んだ。

「尚隆、おれ腹減った。疲れたし…って、最初茶店に行く予定だったんだよな」
「そう言えばそうだったな。金も十分有る事だし、少し早いが飯でも食いに行くか」
先程剣で稼いだ銭を手にすれば、「奢ってやる」と笑む者と、「当然」という顔をした者。
飯屋を探すべく近辺に目をやれば、白い煙を吐く店は直に見付かった。

街の外れらしく少々鄙びた店であったが、既に歩くのが面倒なのか、二人とも異論無く
その狭く薄暗い店の卓に着く。尚隆が菜譜から適当に品を選び、酒と共に注文する。
直に料理が運ばれてくれば、六太は飯に生臭が有ればそれを取り除く。それを残す事は
せず、「人に食われる為に死んでるんだ」と取り除いたものを尚隆の皿に移す。それは
二人で街で食事をすれば常なのか、尚隆は気にするでもなくそれを口にする。

飯に箸を付けながら、六太は今日の出来事を頭に巡らす。何か色々有った。色々な思い
が有った。
ちら、と主を見やりつつ、雑談に紛れて心中を織り交ぜる。
「…ほんと、お前は莫迦だよなー」
違う。そんな事が言いたいんじゃない。
「でも、退屈しない。お前と居ると」
それも違う。そうじゃない。
「…お前と居ると、楽しいよ。王とか関係無く」
珍しく素直に告げた。その思いは最上ゆえに、恐らく手放せない。
そう言われた彼は意外そうに眉を上げ、だがやや目を細め、口元を綻ばせていた。

197春怨二人20:2004/12/14(火) 16:06
尚隆はただ小さく笑い、「そうか」と答えるのみだった。少々の自嘲を込めて。
己は何時まで六太を楽しませる事が出来るのやら。
思いを告げた相手の向かい、六太は改めてその様な事を言った為か、照れ気味
に俯いていた。だが、口にしてしまった為か急に戸惑いを覚える。
己は尚隆と居ると楽しい。けれど尚隆はどうか。ただ、子供の相手をしている
だけではないのか。
これまで思いもしなかった事が不安となり、口数の多い六太を黙らせた。

沈黙したまま、二人は黙々と箸を進める。その為周囲の会話が聞くとはなしに
耳に入ってきた。主従の隣の卓に着いた、恐らく仕事帰りだと思われる男達の
雑談である。
「…恭に新しい王が立ったってさ」
「らしいな。何でも餓鬼だって話じゃねえか」
「まあこれで柳からの荒民が少しは減ると良いが…餓鬼じゃあなあ」
「全くな。柳だか慶だか知らんが、荒民は何とかならんもんかね」
男達の話題が荒民に移ると、彼らのその口が荒れだした。
「そうそう、あいつらのせいで治安が悪いったらありゃしねえ」
「この間なんか、俺の連れが荒民に財嚢を掏られたってさ」
一瞬店内の空気が止まり、他の客達も彼らに注目し出し、話に入り込んでくる。
「何だそりゃあ。荒民ってのは性質が悪いな。…国はちゃんと、そこんとこ考
えてるのかね」

その後も周辺の客同士でざわざわと語り合っていたが、六太はそれには意識を
逸らした。勝手な事を言う民に少々気分が悪い。荒民も好きでその国に生まれ、
そして逃げ出した訳ではあるまいに。
「尚隆…。罪を犯して、捕まった荒民は――雁で裁かれるんだよな…」
「それはそうだ」
間髪置かぬ尚隆に、六太は溜息で返す。それに対し、だが、と彼は続けた。
「これから荒民を保護し、最低限の暮らしを保障する制度を整える。…前から
考えていた事だ」
そうする事で雁の民も守られるだろう、と。
酒を口に運びつつ、だが王の顔を見せる尚隆に、六太は瞳を輝かせ、すごく、
すごく抱きつきたい衝動に駆られた。既に、心は尚隆に抱きついている。
「まだ、やる事は山と有るな…」

198春怨二人21:2004/12/14(火) 17:12
家に帰るか、と六太の気は知らず席を立つ。勘定を済ませ外へ出てみれば既に
陽は落ち薄暗く、地平線にほんの僅かな紅を残すのみ。

その春の残照の紅を、暫し二人佇み見やる。そして尚隆が六太、と呼び。
「―この国が俺を必要とする限り、俺はこの国の王だ」
見上げた主は遠く、地平線の彼方を見つめていた。その瞳は何処を見ているの
か。この緑溢れ、豊かかつ広大な雁国の地か。それとも、六太も知る、彼が成
し遂げられなかった遺恨を残す地か。
「じ、じゃあ、やる事が無くなって、お、お前を必要としなくなったら…?」
問うた矢先。ざあ、と強風が吹き、辺りの桜が風に踊る。尚隆が六太の胸元に
挿した桜の小枝も、花弁を散らし六太の胸から飛び去った。六太は思わず手を
伸ばすも、それはもう何処とも知れず。
強風の後には散り落ちるばかりの桜の花弁。…舞い散る桜の花弁が暗示するも
の。それは、吉とは言えず。
「…さあな。ああ、今年の春も逝くか」
桜を見つつ強風に乱れた着衣を整える、そんな主が恨めしく。
そんな事を言わないでくれ。六太は面を伏せ、その肩を震わせ呟いた。それな
らば、と。

「やる事が、有ればいいのか…?」
その声は尚隆の耳に届かなかったのか、彼は六太に小さく首を傾げて見せた。
為に六太は面を上げ、主に届くよう目一杯叫んだ。
「大昔に約束した、…覚えてるか!?緑の大地は一生受け取らない!!いつか
更夜に会ったら、「雁はまだまだ住めたもんじゃない」って言ってやる!!…
…尚隆、おれは、おれは…」
叫んだ筈の声は徐々に勢いを無くす。
「仕事して…でも出奔して遊んで、帷湍に、追っかけられて、…朱衡に、嫌味
言われて、成笙に、嘆かれて……でも、官は育って、…国は少しづつ発展して
さ、民も、もっと豊かになって…。それで、たまにこんな風にお前と遊んで、
……お前と居られたら、…お前が、居てくれたら!」
知らず胸の内を吐きながら、六太はそうか、と己の心を確認し、納得した。
「…おれは、幸せなんだ…。だから、だから尚隆、お願いだから…!!」
―ずっと優しい王で、おれの王でいて。
おまえの代わりなど、居ないのだから―
慈悲の麒麟が、王の慈悲に縋った。民のために、己のために。
己は我儘だろうか。己の我儘がこれから先、尚隆を縛るのだろうか。
六太はその場に立ち尽くし、泣いた。ただ子供のように。

199春怨二人22:2004/12/14(火) 20:35
毒にも薬にもなる強力な、雁州国の稀代の名君。その半身は弱い民を象徴するか
のような小さな子供。
長い六太の告白を黙って聞いた後、尚隆は六太を掬い上げた。大丈夫だ、と。
その尚隆のぬくもりに緊張を解いたのか、六太は未だ泣き止まずその首にしがみ
つく。
掬い上げ、身を預けてくる六太を安堵させるよう、そっと背を撫でてやる。
きっと己はこんな風に六太が泣けば、何度でも掬い上げるだろう。
この子供の気丈さ強さ、それと併せ持った脆さが愛しい。

「…覚悟は出来ているのではなかったのか?」
嗚咽が止まぬ六太にそう問えば、その彼の首を一層力を込めて抱く。
「そんな訳、そんなわけないっ…!!お前が、おれにいろいろくれたくせに…!!」
六太の幸せ。それはごくありふれた。だが己がそれらに幸せを見出した事が無か
ったと言えるのか。
かつて全てを無くした己が、無から始まった子供の幸せを否、とする事が出来るのか。
与えられた、滅びかけの国に力を注ぎ、その結果国が完成された達成感の後に己
が注いだ力と同等の虚脱感に苛まれ、それを無に帰したいと願った事が有ったと
しても。そして己の命にも見切りをつけ、最愛のこの子供も道連れにしようと思
った事が有ったとしても。

この子供と、六太と共に同じ幸福に生きる道も有るのではないか。完成された国
が己を必要としなくなっても、六太が己を必要とすれば、己は生きていけるので
はないか。
そう思い六太を見上げれば、しがみついて来るこの子供がどうしようもなく可愛く、
愛しかった。

尚隆は暫し六太が落ち着く迄を見計らい、小さく息を吸い込み、そして言った。
「…お前はそれで幸せで良かろうとも、俺は幸せではないな」
六太がそれに身体を大きく震わせ、面を上げればそれは蒼白であった。
「尚隆、そんな…」

200春怨二人23:2004/12/14(火) 21:48
六太は涙でぼやけて尚隆の顔がよく見えていなかったが、彼は微笑んでいた。
「俺にも、幸せになって欲しいか?」
問われ、こくん、と頷く。己の掛替えの無い人、それの幸福を願わぬ訳がない。
「ならば、お前にはして貰わねばならん事が有る」
我ながら卑怯な事を言おうとしている、そう思いつつ尚隆は六太のきれいな面を濡
らす涙を袖で拭ってやる。
「でもっでもっ、…おれがお前にしてやれる事なんか、何も無いっ…!」
「そんな事は無いぞ?俺にはお前が必要だ。例えば…」
六太に何事かを耳打ちすれば、その意を理解したのか、理解出来たのか、衝撃の為
に嗚咽が止まる。そして徐々に、六太の頬が紅に染まった。
「こ、こんな、真面目に話してる時にお前何言って、じょ、冗談は…」
「冗談ではない。お前にはこれ位はっきり言わねば理解せんだろうが。面倒な奴め」
「お、お前には適当な相手がいっぱい居るだろ?何で、おれ…」
「お前でなければ嫌だ」
そう言うと、腕の中に抱き上げていた六太の身を肩に担いだ。歩き出すその脚は一
体何処へ向かうのか。
「嫌って、お前…。大体、おれ男だぞ!?男同士だろーが!!」
「出来るのだな、それが」
「で、出来るって…」
「なに、男同士でも口付けを交わしたではないか。そんな感じだ。…多分」
尚隆の肩に担がれ、暴れていた六太はふと動きを止め考える。口付けを交わした?
そんな事をした覚えは無い。そんな事をした覚えは――。
「…あー!!お前さっき、おれが寝てる時やっぱり本当にやりやがったな!?」
「したかったのだ、すまん」
「謝罪に心こもってねえ!何だよ恍けやがって!!おれは、嬉しかったんだ!!……あ」
「嬉しかった?」
慌てて口を押さえる六太に対し、そうか、と尚隆は顔を綻ばせた。

201春怨二人24 了:2004/12/14(火) 21:53
肩に担いだ六太を下ろし己と向かい合わせに立たせ、尚隆は腰を落し六太と目の高
さを合わせる。辺りは既に夕を過ぎ夜を向かえ、暗がりの中で六太の泣き腫らした
赤い顔が見えた。
「…遠回しな事ばかり言ってすまんかったな」
六太には何が遠回しだったのか分からなかったが、尚隆は手を伸ばし、そっとその
泣き腫らした頬を撫でる。慈しむように。尚隆の、光を宿す漆黒の瞳と六太の菫色
の瞳は暫し出会ったまま二人は動かなかったが、やがて尚隆が口を開いた。
「俺は、おまえに惚れている。…これは俺の偽りなき真心だ」
それは、初めて言った言葉。言えた言葉。六太と共に生きる、そう決めたから。

六太は知らず収まった瞳が、身体が熱を持つ事を感じていた。惚れている。…尚隆
が、自分に。本当に?それを受け入れて良いものか。また己は尚隆によって無上の
喜びを知ってしまったのではないか。そう戸惑う中、尚隆は真摯なまなざしで、お
まえはどうだ、おまえは俺が好きか、と問うてくる。
その問いに六太は声にはならず、ただ頷いた。
何度も何度も頷いた。
懸命に首を縦に振る、それが肯定である事は尚隆にも知れた。


雁州国の、今年の春の終わり。この春は六太の心にある感情――種は植わっていた
のだろうが、それを芽生えさせた。
そして、尚隆の春怨の終わり。




202「春怨」 後書きして良いですか。:2004/12/14(火) 22:05
見 事 な チ ラ シ の 裏 っ ぷ り よ !!
日々不足する尚六分を補う為に書いた。尚六なら何でも良かった。正直スマンカッタ。今は猛省している。
設定で「碁石集めに飽きた頃」なんて書いてしまった為に浅く薄いシリアスくずれに…。
自分でも展開と無駄な長さに驚いてます。通しではきっと読めない…。
「春怨」コメント下さった方、読んで下さった方、ありがとうございました!!
とりあえず、尚六の下らん会話シーンが書いてて一番楽しかったです。そして、自分的糖度臨
界点は見事突破致しました…。アマッ!カユッ!
とにかく、全てにおいて書き逃げって事で勘弁汁。むしろ許すと言え。…ですが一つ言い訳。
六タンの尚隆への想いが本能か自我か、ってな件は話中ちょっと触れながらも最初からその辺は
華麗にスルーの予定でした。それに触れると只でさえアレなのに更に収拾がつかなくなるんで。

ここは私の心のオアシスなのですが、より沢山の萌えで満たされる事を祈りつつ。

203名無しさん:2004/12/14(火) 22:24
春怨、姐さん乙でした!!まさにGJ!!…萌えた…感動した…身悶えた…!!
何じゃこりゃあって感じにやられました。
流れるような文章の上手さが情景を鮮明に瞼の裏に浮かばせました。二人の気持ちも。
尚隆はいい男だしろくたんは可愛いく…二人とも気丈で切なく、何と言ったらいいものかもう。
この二人の過去の一つの史実として私の中で勝手に公式に加えさせていただきます…。
本当に素敵でした。いいお話をありがとう…。
ハラシマ真っ最中の我が身が癒されました。姐さんの文章を見習いたい氾六の中の人…。

204名無しさん:2004/12/16(木) 23:41
春怨の姐さん、ありがとう!!
幸せでした。
もっと続きが読みたいけど、これでいい!!
エロがないのに究極のエロ、姐さんこそ究極のエロ職人!!
いい仕事をありがとうございました!!

205名無しさん:2004/12/17(金) 01:31
姐さん、ありがとう!おいらの尚六不足も解消されました。
個人的に尚隆に背を向けて泣くろくたんに心臓鷲掴みにされました…。
萌えをありがとう!

206名無しさん:2004/12/17(金) 22:29
姐さん、いうほど甘過ぎではないとおもいます。
ベルギー王室御用達という感じです。甘さひかえめでおいしいです。
私は羊羹に水飴と蜂蜜をかけ砂糖100gとチョコホイップをとっぴんぐで食べて
も平気です。
でも今夜はセコ○ヤチョコで甘さひかえめでいこうと思います。

207すとれす解消ss未満:2004/12/17(金) 23:01
セコ○ヤ 本館のネタ続きss未満

常世に来たばかりの尚隆。蓬山に行く前に雁国を見てまわっているところ。
いろんなところで農家の日雇い労働など。夜は焚き火して六太と共に野宿です。
ろくたんは期待でいっぱい。尚隆は雁をどのような国にしてくれるのかと。
「これから‘しょうりゅう‘って呼ぶから」
と勝手に決めて嬉しそうになついています。
でも不安もあります。女仙から以前に聞いた話だと雁の官は厳しいとか。
王宮に行けば式の準備その他、忙しくてなかなか尚隆と時を過ごすことも難しく
なります。その上、ろくたんは仁重殿に住まねばならず、尚隆とこのように添い寝
できるのも今のうちだけでしょう。さらに。王ともなれば王后を持つのが一般的で
す。官たちも后を押しつけてくるかもしれず、尚隆が気に入った女性を迎えいれる
かもしれず。尚隆が大切に扱う女性にろくたんはどのように接すればよいのでしょうか。
そのように考えてろくたんは小さな胸をいためています。
それにしても。昨晩のあれはなんだったのでしょうか。尚隆がろくたんのほっぺたに
唇で ちう と触れたのです。その時ろくたんの体に電流のようなものが流れました。
それで昨晩は尚隆の側に身を寄せてまるくなって寝ようとしても、もんもんとしてしまい
眠れなかったのです。
今、二人は焚き火の前に座っています。ろくたんはふと思いつきました。昨日、ちう さ
れたとき、すごくすごく嬉しくて、なにか赤くなって気が遠くなりそうだった。
あれを自分が尚隆にしてみたらどんな感じがするだろう。それでろくたんは本能的に
そうしてしまったのです。正面から尚隆にしがみついて、右頬に、左頬に、と
ちゅっ、ちゅっ、と繰り返してみました。ちょっと恥ずかしかったけど、良い気持ち
になれました。その往復を5回ほど繰り返してみました。
あっ、でも尚隆の様子が変になってしまいました!
なにかろくたんの見たことのない表情です。しばらく何かこらえているようでしたが
急に立ちあがると、ろくたんを置き捨ててどっかに行ってしまいました。

208すとれす解消ss未満:2004/12/17(金) 23:14
あーもう、あのまま続けられたらモエモエしんぼうたまらんちんとなるところだった…
と尚隆はろくたんから見えないところまで避難してくると、ほっと息をついた。
さて、焚き火のところに戻ってみると、ろくたんの様子が変です。尚隆が近づくと
くりと背中を向けてしまいました。
「ん? どうした」
ろくたんの正面のほうへまわってみると、膝を抱えたろくたんの大きなお目目が
うるうるとしています。ろくたんは ちう をしたのは悪いことだったのだと勘違い
して悩んだのです。それに昨晩のように尚隆が ちう してくれないので少しすねて
いたのでした。
あっ、ろくたんが立ち上がり、焚き火から少し離れたところで寝転びまるくなって
しまいました。一人で寝るつもりでしょうか?! 尚隆はろくたんの側に行くと
掬い上げていつもの場所に置きました。そしてろくたんを抱え込むようにして
いつも通りに添い寝したのでした。

209すとれす解消ss未満:2004/12/17(金) 23:48
さて、尚隆が王になってから、あっという間に月日が流れました。
最近ろくたんはすごく心を痛めています。女官達の間に妙な噂が流れているのです。
主上が寝室の続きの間の改装をお命じになった。いろいろな物も運び入れている。
官がうるさいので非公式に行っているが、あれはどう見ても王后となるべきお方を
迎え入れる準備のようだ。後宮ではなく続きの間を与えられるとは、なんと愛され
ているお方か。官の反対を受けても迎え入れるおつもりのようだ。主上がよく
行かれる下界の宿の女性かもしれない・・・。
ろくたんは最近、もう気が気ではありません。厳しい官達のせいで尚隆に自由に
会えない日々が続いており、しかもこの噂。ろくたんは王気不足で体調もおもわしく
ありません。今日の昼間は「お願い、ちょっとだけ尚隆に会わせて」と尚隆の執務室
の扉の前まで行ったのですが、「お仕事がお忙しいので」と追い返され、涙を飲んだ
のです。おまけに「主上とお呼びになって下さい」と注意も受けました。
その夜。そんなさびしいろくたんの仁重殿に尚隆がやってきたのです!
ろくたんは嬉しさで胸がはちきれそうになりました。おまけに尚隆は
「今夜は六太に贈り物があるぞ」と言い出しました。そしてろくたんを抱き上げると
いいというまで目を瞑っているようにと言いました。
尚隆はろくたんを抱っこしたままどんどん歩いていくようです。相当歩いて、さらに
別の建物の中をも相当歩き、扉を開けてどこかの部屋に入ったと思ったら、
「目を開けていいぞ」と聞こえてきました。
床に降ろされ目を開けてみると、目の前にすばらしい置物がありました。
どうやらこれが贈り物のようです。ろくたんは胸がいっぱいに!
「しょ、尚隆、ありがとう! オレ、ちょうどこんなのが欲しかった!」
ほんとは置物など興味が無いろくたんです。でも尚隆のくれるものなら違います。
ろくたんは、うんしょ、とそれを持ち上げようとしました。しかし重くて動きません。
「だめだ、持てない。後で誰かに運んでもらうよ」
「いや、その必要はない」
その言葉にろくたんはこおりつきました。贈り物を持ち帰ってはいけないなんて。
ろくたんは不安そうな顔で尚隆を見上げました。すると尚隆は言いました。
「ここもお前の部屋にするといい。俺の部屋と続きだ」
ろくたんは置物だけが贈り物だと思っていましたが部屋全部を貰えたのです!
そうです。尚隆はろくたんの輿入れを考えたのでしたが、麒とケコーンするなど、と
厳しい官の人たちに諌められ、非公式にろくたんをものにすることにしたのでした。
ここも改装したとはいえ尚隆の部屋の一部なのですが、ろくたんも自由に使って
良いのです。ろくたんは幸せでした。
   
一応おわり   この文体だと書いてて自分で少し気持ちわるくなりながらも。

210心の傷痕:2004/12/18(土) 01:06
六太が湯から上がり衣をつけていると、どやどやと足音がした。
「台輔、入ってよろしいでしょうね?」
女官たちである。えっ、ちょっと待ってくれ、と六太は思ったが扉は開けられてしまい
女官たちが入ってきた。
「まあ、本当だわ、やはり以前以上にお美しい」
女官たちはひそひそと囁きかわす。
しかし六太は抉り痕だらけの顔を見られていると思うと自然、俯いてしまう。
女官長は厳しい声を上げる。
「さっき、お聞きしたんですよ、台輔。どうして早く勅命のことを教えてくださらない
んです? こちらにも準備というものがあるのですよ? 私としたことが主上から
お聞きするまで知らなかったなんて。ま、台輔ぐらいお美しければ、もっと早く
こういうお話が出ていてもよかったのですけどねぇ」
あのような恐ろしい事件が起こる前であれば、と女官長は唇を噛む。この美しい
麒麟の初夜は当然、王のものであるべきであったのに。無礼者どもが妙な蔓植物を用い
台輔に狼藉をはたらいたことは、どこから洩れたか王宮の人々の間に密やかに知られ
はじめていた。しかしそれにしても、これは奇跡だ、と女官達は思った。常世一の
醜さに落ちぶれたと言われた台輔がこのように、以前に増して美しく甦るとは。
 さて、女官たちは六太を無理矢理別室に移すと、着替えさせ始めた。
「本当は正式な黒が良いけれど、準備の時間も無いしねぇ。台輔には、この白い衣が
お似合いだからこれにしよう。こちらの薄い色の玉石の首飾りをおつけしてね」
短い時間にどうやって準備したのか、六太にぴったりの大きさの衣である。長い首飾り
は六太の眼の色のような菫色やら桃色やらで白の衣を引き立てる。
顔にはなにやら粉をはたかれる。
髪も整えられ、自然な流れが少し緩やかになる。準備が整うと別室に連れていかれた。
「さ、この輿にお乗りあそばせ」
無理矢理、多くの玉が嵌めこまれた豪奢な輿に押し込まれると男たちが担ぎ上げる。
六太は思う。この醜さで、美しい衣をつけたり、あげくに化粧まで施されるとは、
お笑い以外の何物でもない。せめて普通の格好で歩いて行きたかった。
それにこれでは確実に、尚隆に顔を見られてしまうことになるではないか。

211心の傷痕:2004/12/18(土) 01:43
六太は、これは悪夢かもしれないと思った。決して今の醜い姿を恥じてはいない。
この姿は尚隆を守り通した、尚隆への愛の証しだ。しかしこの仰々しい輿やら、
美しい女が着るような衣やら化粧やら。似合わなさ過ぎる…。
跳ねあがりそうな心臓を抑えているうちに尚隆の部屋に輿は降ろされた。
「なんだお前達。こんな大げさにしろと言った覚えはないぞ」
と案の定の尚隆の声だ。何時になく怒気をはらんでいるようにさえ聞こえる。
人々は尚隆によってさっさと部屋から追い出された。すぐに約束通り部屋は真っ暗に
なったようだ。
「六太、たいへんな騒ぎになったようで済まなかったな。暗くとも俺が運んでやる故、
輿から出てこい」
六太は勇気を振り絞って輿を出るしかなかった。
輿から降りると、暗闇の中に薄明りを浴びたように尚隆の姿がぼおっと見える。
部屋は真っ暗だが、王気のせいだ。麒麟である六太には明りがなくともぼんやりと
尚隆の姿が見えたのだった。尚隆にはそのことは知られていないはずなのに、
尚隆の表情に嫌悪感はない。尚隆はオレのことを本心、気味悪がってはいない。いや、それ
どころか、オレの王はなんと優しい慈しみ深い表情をしているのか、と六太は胸が
熱くなった。
 そして尚隆も。六太はその事実を知らなかったが、尚隆にも六太と同じく相手の
姿が暗闇の中でも見えていた。六太の場合よりもはっきりと。麒麟の放つ光燐。
それはおそらく王と麒麟の繋がりが通常より深い場合にのみ見えるものなのだろう。
かつてこれほどまでに深い絆で結ばれた王と麒麟がいなかったため一般には知られて
いない事実ではあるが。美しく装ったこの世のものとも思えぬほどの麒麟の姿に
尚隆の心はうわずった。これほどまでに美しい者を抱けるとは、なんという僥倖。
尚隆の心はうち震えた。美しいものを救い上げ、愛を交わす場所へとそっと横たえる。
しばらく手を触れずにただその美を観賞した。そして静かに手を伸ばして触れる。
その瞬間、その美の化身は、びくん、と身を引いてしまった。
「い、いやっ…尚隆、ごめん、オレ、お前の気持ちはわかった。嬉しいよ。
でも、やっぱりだめだ。こんななりでそんなこと、自分が許せない。オレの王が
醜い者とそんなことするなんて。頼む、勅命を取り下げてくれ」
涙ぐみながら壁際に逃げて震えている。そんな姿を見せつけられると
尚隆は自分がこの美貌の者を捕まえて狼藉をはたらく無礼者になったような気分となった。

212名無しさん:2004/12/18(土) 01:45
ここまで書いた。「心の傷痕モエモエ」を書いてくれた姐さん、
続き書いてくれないかなあ。このあとちょっとまだ思いつけません。

213心の傷痕:2004/12/18(土) 11:36
 尚隆の胸は罪悪感で痛んだ。六太は姿を見られることはないと信じてここへ来たの
だ。それなのに見えてしまうとは。これは自分にも予想外であった。しかし尚隆はもう
抑えられない自分を感じていた。
「勅命をそう簡単に取り下げるわけにはいかん。
 真に命じる。勅命だ、従え」
 その声は六太をいたわる優しさに満ちたものでありながらも断固としていた。
「や、いや…」
「大丈夫だ」
励ますような語調でありながら、荒くなりそうな息を抑えている風情。
尚隆は自分の行為により六太に植えつけられてしまった恐ろしい記憶を拭い去って
やりたいと感じながらも、あの狼藉者達がいやがる六太の様子に煽られた気持ちも、
今ならわかるような気がした。美しい者が切なげにいやがる姿は男の劣情を煽らず
にはおかないのだ。
 尚隆は完全に気持ちがうわずり、もうわけがわからないほどだった。今晩は六太の
ための行為にするつもりだったのに、自制がきかない。
 それからはもう、ただ夢中だった。
 六太のほうはといえば、なんとか自制がきかなくなる前に逃げきろうと必死だった。
逃げ様とした体勢から、うつ伏せ状態で、逞しい尚隆の体の下に組み敷かれていた。
細い腕を尚隆の両手が敷布の上に抑えつける。
「あっ、やっ…」
いやいやをするように体をよじる。その悶えるような下半身の動きに尚隆の劣情はさらに
煽られた。
「六太、…六太…」
少しうわずった声で名前を呼びながら背中に優しく口付けてくる。
双方なにがなんだかわからなくなるうちに、いつのまにやら体勢はかわり、尚隆の唇が
六太の肉棒を捉えた。
「あっ、…あうっ…ああん」
抗議するような調子を帯びた甘い声に尚隆の中心は痺れ上がった。
口に含んだまま、両手の指が蕾の近くにまわされる。左右の手の指が小さな尻の双丘を
割り、それぞれの中指と薬指が蕾の左右にに触れるか触れないかのあたりを円を描く
ようにいやらしく揉みあげる。
さらに様々な甘い責め苦がいつまで続くのかと思った頃、ようやく六太の蕾の入り口に
尚隆のものの先端があたった。それが欲しい気持ちが高ぶり己の肉棒からは先走った
雫を恥ずかしく滴らせながらも、六太は尚隆を醜い生き物とは交わらせまいと必死で
尻を捩った。逃げるために体がせり上がる。
「逃げるなどして俺を悲しませるな」
尚隆のかすれた声が聞こえる。優しくいやらしい愛撫が続く中、とうとうそれは六太の
切ない部分に押したてられてしまった。
「あう! ああんっ!」
六太は絶望の声をあげたが、それすらも甘いものになってしまう。
もう抗えない、六太だって欲しいのだ。主を醜いものから守りたい気持ちとは裏腹に
六太の蕾はいやらしく収縮して尚隆自身をきつく絶妙に締め上げ、その動きは
自分の中に入れられたものを味わいつくそうとするかのようだった。

214心の傷痕モエ:2004/12/19(日) 11:32
は・・はう(大汗)御免なさい〜!姐さん!
時期が時期で・・オフ作業に手と頭を取られたりしていまつ・・
頭ん中は妄想で一杯なんですがははは

腰から登ってくる感覚に尚隆は軽く呻いた。
たまらんな・・・。
既に抗うことを止め、小さく震えながら己のものを咥え込む六太の秘所に、
より深く、ゆっくりと己を沈めて行く。
「・・・・あぁ・・・」
その質量に耐えかねてか苦しげに、しかし甘い吐息がその口から漏れる。
苦しげにそおして切なげに寄せられた眉、細い肢体、甘い声。
この上なく大切にしてやりたい気持ちと、粉々に壊してしまいたくなる嗜虐性。
相反する己の感情を沈めようと、ゆっくりその再奥まで己を収めると、
そのまま動かずにその相手、愛しい半身を見つめる。

一方六太は、逃げ切れずに主に犯される自分の身体に駆け上る快感に翻弄されて
身動きも侭ならず、ただその身を震わせる。
ゆっくりと進入してくる尚隆を、自分の身体はゆっくりと締め付けながらも
もっと奥へと引き込むように蠢くのを自身で感じる。
だめだ、と思っているはずなのに、確かに喜びを感じる自分も誤魔化せず、
六太は混乱する。
そんな自分を気遣うように労わるように、入ったまま尚隆は動かない。
そっと目を開くと、射るような視線を感じる。
己の顔に、肌に、善人に感じる視線に、自然身体が熱を持つ。
その視線を感じる肌が、焼けるようだ。
でも、その熱は、自身を焼くというよりは、ぞの熱で自身を溶かすように感じられて
自然に涙が溢れ、言葉が紡がれる。
「・・ごめん・・な。俺はお前のものなのに、こんなに醜くなって・・」

一瞬目を見張った尚隆は、すぐさま破顔した。
「ばかめ・・、それはもう止さんか。俺はお前が良いと言っとるだろう。」
その身体が、ゆっくりと律動を刻み始める。
「はっ・・あ・・ああ・・」
それはすぐさま六太の身体に快感を呼び起こしていく。

215心の傷痕モエ:2004/12/19(日) 11:42
あう・・続き書きたい〜〜
が・・野暮用が・・
イクのは夜までまってぇ〜

そして、自分でビックリ!セルフ突っ込み逃げます!

善人ってナニ?・・→全身と打ったと思われ・・・・ピー

216名無しさん:2004/12/19(日) 23:41
>215
姐さんまた書いてくれてよかった!
待ち望んでいたけど、でも用事があるときは焦らないで〜。焦らせてしまったかな?
書いてくれるなら年越してとかでも待ってますから、
オフがんばってください。

217『台輔の勤め』16:2004/12/23(木) 20:53
氾王はまずその長い髪を洗う。六太は台座に近寄り、湯を使いそれを手伝う。
洗いあげた細くしなやかな髪を手持ちの櫛で漉き、香油を振った布でくるむと
氾王はうむと頷き、口元に笑みを浮かべた。
「大分心地良うなったわ。先程までの埃はどうにもかなわぬ」
「じゃあ…背中流すな」
言って再び後ろへ回ろうとした六太の腕を、氾王のそれがくいと掴む。
「よい、そなたを先に流してくりょう」
「いっ…!いいよ俺は!」
「湯世話の者が汚れていては具合が悪かろうよ」
抵抗するものの、引かれた腕を無闇に振り払うことはやはり出来ず、
六太は結局氾王の前に向かい合う体勢となった。
台座に座る氾王とその前に立つ六太の目線は同じ高さだ。
濡れた指が頬に触れ、六太はぴくりと顔を背ける。流した視線の内にくすりと笑った瞳が映った。
「あ…」
するりと儒伴が肩から下ろされた。身じろぎした六太の脇に両腕を入れ軽く持ち上げると、
開いた脚の間にその体を挟むように引き寄せる。
「…そなたはじっとしておれ」
口を開くのを牽制するように先に釘を刺され、六太は仕方なく頷いた。
余りにも近くにある氾王の体は既に触れてはいるが、ならばせめて何も見ないようにと瞼を伏せる。
何しろ、こうして間近で他人の裸体に接したことがない。尚隆だけである。
不思議なことだが、実際己の肌を晒すのはそこまで抵抗を感じることではなかった。
それは己の本質が麒麟という名の『獣』であり、獣形をとる時には無論何も身に付けていない為であるからなのか。
とにかく今、六太は己の裸体が晒されることよりも、
氾王の肢体を見つめていることの方に耐えがたい戸惑いがあったのである。
そんな六太の胸中を知ってか知らずか氾王は、目を閉じてあたかも諦観の様を呈する六太の姿に唇を緩ませた。
(さても、こと対人に関しては傍若にして奔放な子供とばかり思っていたが…)
…面白い。
このような表情をするとは。
恥じらいに耐えかねて瞳は伏せたままの六太の唇から、かすかな溜め息が長く吐かれた。
腰紐に手をかければびくりと息を飲む。
氾王は堪えきれず吹き出した。
「そう怖がるでない。取って食おうなどと思ってはおらぬよ」
六太はこわごわ目を開ける。
「いいよ…俺、自分で洗うよ」
ふ、と氾王の眼が細まったのを見たと思った次の瞬間、視界に影が射し六太の体が固まった。

218『台輔の勤め』17:2004/12/23(木) 21:52
突然己の唇を覆ったやわらかなもの、それが氾王の唇であると認識するまでしばらくかかったように思う。
「〜〜〜…───!!」
抵抗する間もなく口中へ差し入れられた温かく濡れた舌。
それはそのまま躊躇することなく六太の舌を絡めとり、吸い上げる。
乱暴では決してないものの、攻める舌に迷いはなく、余すところなく口内を味わい尽される。
捕われた六太の唇が隙間から声を漏らした。
「んっ…ん…っ…んん〜〜〜…!」
相手の肩を両手で掴んで離れようと試みるが、肌に爪を立てる事が出来ない為うまく力が入らない。
六太の顎を唾液が伝う。息が苦しい。
力一杯顔を振ろうとした時ようやく解放され、六太は肩で息をした。
「はぁっ、はぁ…っ…」
一通り呼吸を紡いで涙目で見上げれば、そこには悪戯に瞳を煌めかせた氾王の微笑。
「な、に…。何なんだよ…」
薄い紅はとれたはずなのに一層赤みを増したように見える六太の唇は吸われたことによるものだ。
ふふ、と氾王が笑う。その顔は悪戯が成功した子供のそれ。
だが、揺らめいたその美しい瞳は不思議な妖しさを秘めていた。
「これで口は綺麗になったじゃろ」
「何言って…──、っ!」
不意に六太の背がびくんと反る。腰を降りた腕が着物の裾をまくり上げたのだ。
「…紐を解かれるのが嫌なら無理強いはせぬ」
笑いを含んだ声が耳元で囁き、腿の裏を撫で上げていく掌の感覚に六太は全身をこわばらせた。
「ちょ、ちょ…っ、やめ…!」
腿の付け根までゆるりと撫で上げた手が、双丘へ伸びる。
「や…!」
着物の下には何も着けていない。小さな丸い膨らみを、氾王の掌が直に包みこむ。
いつの間にか六太の体はぴたりと氾王の胸に押し付けられていて、その肩幅の中にすっぽりと収まっていた。
抱きすくめられたような体勢で、容易に身動きもとれなくなっている。
「あっ…あ…─!やめ…ろよ…っ…!」
強く、だが優しく揉みしだかれ、腰におかしな感覚が走るのを感じた。
胸にかすかな恐怖が沸き上がる。
氾王は何も言わず、六太の尻を両の掌で撫でる。
円を描くように大きく、時折軽く揉み込むようにしながら。
六太の顔は氾王の鎖骨のあたりにあって、肝心の相手の表情は見えない。
六太は抗議の声を上げながら眉を寄せ、息を荒くしていく。
両側から広げられた長い指が、膨らみの中心へと触れていく。
「あ…っ!やだ──、やだっ、て!…」
掠れた叫びが上がる。

219名無しさん:2004/12/23(木) 22:59
姐さん、六太がかわいいよ!!
氾王妖しい!!しかもテクニシャン!!
続きプリーズ!!

220心の傷痕モエ:2005/01/02(日) 16:35
あの最初の時のように、媚薬に侵されている訳ではない。
己の妄想の尚隆に抱かれている訳でもない。
はっきりと自分の身体で尚隆を感じられる幸せに酔い、
ゆっくりと己の中を突き上げられる感覚に、意識も飛びそうになる。
「んっ・・・あ・・あん・・・はっ・・しょ・・しょうりゅ・・・っ・・」
たまらず名を呼んでその背にしがみ付くと、同じようにきつく抱き返してくれる。
それが嬉しくて、その胸元に額を寄せると頭上から尚隆の静かな声が降る。
「六太・・すまん・・」
意味のわからぬ謝罪の言葉に、顔を上げると視線がぶつかる。
「俺にはお前の姿が見えているんだ。」

「え・・そ・そんな・・」
その余りの告白の衝撃怯えて、思わず身をよじって逃れようとするけれど
かっちりと身体を捉えられて動けない。
「逃げるな!」
尚隆のきつい言葉に思わず身がすくみ、動けなくなる。
「・・逃げないでくれ・・・」
しかし、続いた言葉は小さなつぶやきだった。
その声にドキリとして、思わず主に視線をもどす。
「お前が傷ついたのは俺の罪だ。お前が醜くなった自分を恥じねばならんのなら
その咎は俺にある。皆からその姿を隠したいならそれを俺が止める事は出来ん。
しかし、俺の前でまでその姿を隠すことは無い。」
尚隆の大きな手が頬を包むのを感じる。
「そもそも、お前の姿が変わったくらいで何で俺がお前を疎んじると思うんだ。
あまり俺を侮ってくれるな。
お前の姿を見たとて、お前の中の俺は萎えてはおらんだろうが。
これでも俺が信じられんのか?」
言われて今の自分の状況に思い至って、顔が熱くなる。
真摯なその視線にに見つられて、胸が高鳴る。
「こんな俺でも、お前の傍にいても良いのか?」
「そう誓ってくれたのでは無かったか?俺の側を離れるな」

ようやく気付いた。
尚隆の傷は俺自身だったんだ。
あの乱で、尚隆と生き延びた事に恥じることは何も無かった。
けれども、変わってしまった自分の姿を自分自身が受け入れられず、
尚隆から逃げ回る事によって、尚隆を傷つけ続けていたんだ。
そんな俺を、己の罪だと言って、責める事もせず見守ってくれた主の思いが嬉しくて
自分が情けなくて、たまらず涙が溢れた。
「ごめん・・ごめん、しょうりゅう・・」

221心の傷痕モエ:2005/01/02(日) 16:55
「・・泣くな・・」
涙を舐め取るように優しく尚隆が頬に口付けてくれる。
「おれ・・もうはなれないっ・・から・・・っ・」
言葉は、きつい口付けに奪われた。
口腔を犯され、息も奪われ苦しいけれど、
きつくなる愛撫や律動ももう構わない。
ただ全身で尚隆を感じられる、その幸せな感覚を六太はひたすら求めた。

あけおめです・・・
新年からこんなモノ書く愚かな私。
今年も尚六萌えで走れそうですよ。
きっと落ち用意されてたんでしょうにすまないです216>の姐さん。
懲りずに続投乞いまする。

222『台輔の勤め』18:2005/01/02(日) 23:51
氾王の指先が双丘の谷間をなぞる。
と、次の瞬間、六太は声を上げて背を反らせた。
「──ひっ…!」
何かぬるりとしたものが窪みに触れたのだ。
「や…やっ…、な、に…っ!?」
触れている質感は指のそれ。だがぬるぬると擦りつけられているものは──
「…そなたを洗ってくりょうと申したであろ」
耳元に響いた笑いを含んだ囁きに、それが洗料であることを悟る。
「いっ…!いいよっ、…やだって!そこ、は…っ…!」
顔を赤くして叫ぶ六太の抵抗は、氾王の体に封じられて全く動きに出せない。
ふふ、と愉快げに笑う声が湯殿に溶ける。
「忘れたかえ。…私は梨雪のようにそなたを愛でてくりょうとも申したぞ。
我が半身、梨雪は常に湯殿ではかように私に身を任せておるぞえ。…のう、」
延台輔、と声が続く。
長い指が優しく、六太の窪みをほぐすように撫でる。
「嘘っ…!──あ、や…っ──!」
片方の手が前に回り、反応し始めていた六太の花芯を捉えた。
掌にゆっくりと包みこまれびくん、と大きく体が跳ねる。
「あ─…あ…っ…」
六太は喘いだ。
ぬるりと握られた花芯は素直に反応しゆるゆると立ち上がり始める。
息が上がる。
氾王は静かに含み笑うと共に、前後への愛撫をきつくしていく。
花芯をしごくように上下に擦り上げ、親指の腹でその先を撫でつけてやると
六太の喉から声にならない喘ぎが上がる。
後口は強弱をつけて何度もくすぐり、円を描くように動かしたその指を徐々に狭めて中に沈めた。
「──っ!」
その瞬間、肩先に六太の爪が食い込んだ。大きく跳ねたその小さな体を押さえこみ、
内部に押し込んだ指先を少しずつ進めていく。
「…のう、台輔」
耳を刺激する甘い囁き。
「洗うという行為は身を清める儀式じゃ。表面だけ磨き上げても無粋よ…
常より目につかぬ、かように奥まった処から丹念に清めぬとの」
特にそなたのこと、と笑いが言葉を紡ぐ。
「…山猿の所有印が残っておるやも知れぬ」
六太は身を震わせて頬を朱に染めた。
「今度の滞在中、おぬしは私の麒麟じゃ。私の手で清めておくに不都合があろうかえ?」
六太は返す言葉につまる。
「そん…なの、詭弁だろうが…っ」
やっとそれだけ口にしたものの、語尾は掠れ、甘い喘ぎが口をついてしまう。
くちゅくちゅと卑猥な音が耳につく。
己の中を巧みに掻き回す指、前を優しくしごきあげる指がもたらす快感に、
六太は眉を寄せて耐えていた。

223『台輔の勤め』19:2005/01/03(月) 00:53
「ひ…──あぁ…!」
下肢から駆け昇る快感に腰が震える。
内部を犯す指はいつの間にか数を増し二本となっていた。
どうしてわかるのだろう、氾王の指先は器用に六太の弱い箇所を探り当て、
そこを執拗に攻めてくるのだ。
六太の先端に蜜が滲む。
執拗な愛撫に己の体が高まっていくのを押さえられない。
目尻に涙が溜っていくのがわかる。
緩急をつけた抜き差しと併せるように前を包み込んで擦り上げる掌の動きも激しくなる。
「ふ…、おぬしの中が熱うなってきたね…。気持ち良いかえ」
あまりの恥ずかしさに何も答えられない六太の、知らず腰が揺れる。
(元来過敏であるようにも見えるが…それにしても随分と開発されておるようじゃの)
撫でつけた洗料だけではなく、今は六太の先端から溢れる蜜が掌を濡らしている。
しごきあげる度にくちゅりくちゅりと水音を立て、
唇からは押しとどめられない甘い嬌声が上がる。
入念に攻め立てる中、六太の掠れた声がかろうじて囁いた。
「も…、や…!だめ…」
やめて、と切なく語尾が消えた。それを聞いた氾王は声もなく笑い、指の動きを早める。
「や、や…あ…っ──!」
大袈裟な程に大きく震えた体に、容赦なく快楽を与えていく。
敏感な箇所を指の腹で強く擦り、握った花芯を一際激しくしごきあげた。
「…っ!〜〜〜──!!」
直後大きく体を震わせた六太の内部がきつく収縮し、握り締めた掌の中のものが弾けた。
声にならない声を上げた六太の全身から一瞬力が抜け、がくりとその膝が折れる。
「…達したかえ」
へたりこみそうになった体を支え起こし、氾王は精を放った六太の
上気した表情を見やって微笑んだ。
荒い息をつき、ぼんやりと潤んだ瞳を向けてくる綺麗な子供の顔を満足げに眺める。
「…可愛らしい顔よ。気持ち良かったかえ」
囁いて目を細めてやれば、慌てたように頬がたちまち赤くなった。
「──おやおや、私が汚れてしまったようじゃの」
悪戯な目をして紡がれたその言葉に六太が目をやれば、
氾王の下腹に己が放った痕跡が散っているのが見えた。
「あ…」
あまりの恥ずかしさといたたまれなさに、すぐに反応を返せず、
六太はとりあえず下を向いて目を伏せる。

224名無しさん:2005/01/04(火) 01:00
氾王はこの後、さらに……なことをなされるのでしょうかっ? うわぁっ!!
は、はやくぅ〜

>221
姐さん、新年早々相変らずノリがいいですね〜。
私のほうは落ちは今のとこ思いついてないです。
もし思いついたら書いてネ。私も考えてみます〜

225名無しさん:2005/01/04(火) 01:19
氾王様のテクにハァハァ
尚六前提なのが更にモエー
純愛好きだけどこういうのもイイ!

226名無しさん:2005/01/05(水) 04:01
氾六に萌える日が来るとは思わなんだよ
氾王様好い!!

227『台輔の勤め』20:2005/01/11(火) 02:57
「背を流して貰う前にこちらを流して貰わねばならぬな」
その言葉に、六太は己が汚してしまった氾王の下腹に再び目をやる。
その下方まで視界に入るのは致し方なかったが、
今の今まで見ないようにしていたその部分が目に入ると、やはり意識せずにはおれなかった。
瞼を伏せた六太の様子を見て氾王はくすりと口の端を上げた。
「…今更照れておるか。可笑しなことよ。お主の王と何か違うものでもついておるかえ?」
見慣れたものじゃろうが、と悪戯めいた声音が笑う。
「そういう…わけじゃ…。別に、照れてるわけじゃねえよ…」
口を尖らして見せるものの、その頬はやはり赤く染まっている。
氾王は六太の体を引き寄せ、口付けた。
先程とは違う、ついばむような軽い口付けを六太も甘んじて受ける。
鼻先を合わせたまま、穏やかな低い声が囁いた。
「…さて、賢明な台輔には、どうするかわかっておるね…?」
六太は目を開く。眼前にある、細められた氾王の瞳が妖しく揺らぐのを見た。
「…口を清めたと申したね」
「……!」
その意図するところの行為に思い当たり、六太は抗議の声を上げようとする。
が、氾王の瞳に囚われて果たせない。
長い指が優雅に動いて六太の頭を撫でた。
促すようなその動作に、六太はあきらめるしかないことを悟った。
膝を折り、氾王の両脚の間に体を沈める。
下腹に唇を寄せ、先程放った己の精を舐め取っていく。
それは矜持高い麒麟にとって屈辱的な行為に他ならなかった。
…が、余りに未知な成り行きと行為であるが故に、
六太の心は本来感じるべき感情を見失い、半ば呆然となってしまっていたのである。
残りの半分は諦観であった。今回の責務に対して己が果たす役割の重要さを、
皮肉にも台輔たるその麒麟の本性が熟知していたのである。
氾王は六太の頭を撫で、愛らしく結われた金の髪を優しく梳く。
素直に全て舐めとり、息をついた六太の唇を伸ばした指でなぞった。
顎にかけた指をくいと持ち上げれば、上気した顔と目が合う。
幼さの残る容姿に浮かぶその表情は、やや眉を寄せた呆としたものであったが、
かすかに震えた菫色の瞳にとまどいの影が射していることは容易に読み取れた。
(…これは愛らしいことよ)

228『台輔の勤め』21:2005/01/11(火) 04:00
口元を緩め、ふ、と笑う。
「台輔…」
六太は氾王の笑みを見つめる。
「…そなたの舌は好い」
その口で、私を清めて貰えるかえ、と、ひどく優しい声が頭に降った。
――六太は息を呑んだ。
「おぬしも雁の麒麟、いくらこ度側仕えと申せ、私に頭は垂れられまい。
…が、この台座は丁度良い高さよの。その舌が私を洗ってくりゃるに不都合はなかろうよ」
言葉もない六太に含ませるように、それとも、と優しい声が続く。
「…この雁は、湯世話に侍ったというに客に体を洗わせたまま
置き捨てるような振る舞いを己に許す台輔がおる国かえ?」
六太は瞳を震わせ、優雅に微笑む氾王の顔を見上げる。
「…なん、か、…きたねえ…それ」
一瞬目を丸く開き、直後氾王は声を上げて笑った。
「ははは、汚いと申すか!…ふふ、さすがに延麒よの、
真から娘のようにはなれぬな。…」
暴言を気にするでもなく愉快気に面を崩した氾王は、
破顔したままじゃがな、と声音だけを低くした。
「…延麒なれば聡いはずよ。先刻も申したと思うたが。
台輔としてこれほど見事に歓待の役を果たしてみせたそなたなら」
覚悟を決めておったのではないかえ。
氾王の紡ぐ言葉に六太は反論の余地もなかった。
「――何、構わぬよ。無体はせぬと申したからね。
…ただ、常より大人振った延麒という子供、しかし内実その見目違わず、
やはり子供であったとね、範の官には知れたところになろうがね」
…六太は観念した。
「…わかった」
短く呟くと顔を伏せ、先程触れた部分に再び舌を這わせる。
しばらく逡巡した後、おずおずとその頭が下げられた。
心持ち変化しかけている状態であるかのようなそのものの、先端に舌先で触れる。
六太は目を閉じた。
唇を開き、口中に納めていく。舌の上をぬるりと過ぎていくそれは、
六太が唇を前に進めるごとに硬くなっていくようであった。
「ん…」
膨れていくにつれて押し上げられた先端が口中の奥を突き、
六太の喉から声が漏れる。

229「囚われた獣」1:2005/03/14(月) 16:51:46
*尚隆の王朝末期*

 酒に酔っているのとも違う不思議な熱が己の頭を蝕んでいる。だが、そのような感覚も
一瞬で、妙に狂おしい熱情にかき消されてしまう。
 そう、延王尚隆は破滅への道へ踏み出していた。それは本来己を助ける者であるべき
はずの麒麟の魅力に惑わされた為か、単に最愛の者を愛しすぎた為か、もはや自分
でも捉えられなかった。まともな思考能力さえ、いくばく残っているのか。ただ、
愛したい、守りたい気持ちだけがとめどなく湧き出でて苦しいほどに胸がつまる。
 ただただ自室へと足を速める。そこには極上の檻に入れた美しい恋人が待っているのだ。
玉をちりばめた銀の檻。そこへ駆けつければ最愛の者は菫色の瞳で上目遣いに見上げ、
「ね、遊んで」
とかわいらしく甘えてくれるだろう。
 延王尚隆は息を切らせながら自室の扉を開けた。

230「囚われた獣」2:2005/03/14(月) 17:20:21
 檻の中に金色の髪が見える。尚隆は懐から木の実を取り出しながら近づく。
「一人で寂しかったろう、すまぬな」
 寂しさに耐えかね縋るように檻に身を寄せて出迎える恋人がそこにいる…はず
だった。
 だが檻の中には、くずした胡座の上に片肘をついて頬を支えている少年が一人。
「どうしたのだ、何故駆けよって出迎えてくれぬのだ」
「血の臭いがするんだよ。いつも言ってるじゃねーか。いい加減にしてくれ」
「寂しかったろう? 遊んでやるぞ」
「遊ぶって何すんだよ。こんな檻の中で。つまんねーや」
 六太は以前の尚隆を思い出し、ため息が出た。昔は尚隆はこんなじゃなかった。
いつでも自由でいさせてくれたし、二人で街へ行き、楽しく遊んだものだった。
 一方、尚隆のほうも悲しげに息をつく。何かが違う。何かが…。
 それでも気を取り直して檻の間から桃を差し入れた。
「そら、桃だ。お前の好物であろう」
「いつも桃ばっかり…。いーかげん飽きたんだよ」
と言いながらも仕方なく手をのばして桃を受け取る。がつがつと齧るが、尚隆の手
から桃に移った血の臭いが鼻につく。それでも食べなければ飢えてしまうので
仕方がない。本当は食べ物にけちなんかつけたくない。腹が満たされるならなんでも
いいはずだ。そう、本当は桃にではなく尚隆に文句をつけたいのだ。
 そんな六太を尚隆はうっとりと眺めている。自分ではなく空想の中の美しい恋人を
見ている…そう六太にはわかっていた。愛らしく儚げな麒麟。王に愛され守られる
ことだけを願い、かわいらしく甘え、王に縋るように生きている…
何故、尚隆は現実が見えなくなってしまったのだろう。何故そのような架空の恋人を
六太に重ねるようになってしまったのか。

231「囚われた獣」3:2005/03/14(月) 17:57:24
 尚隆の頭の中では現実とは違う光景が展開されていた。
尚隆が部屋に入った途端、駆けよって来る六太。
「遅いじゃないか、尚隆。オレ、寂しくて。一人じゃつまらないよう。
遊んでよ」
「よしよし、遊んでやるぞ」
尚隆は檻の隙間から手を入れて六太の頭を撫でた。
「その前にまず食べ物だ。さ、桃だ。お前の好物であろう」
「ありがとう」
菫色の瞳で上目遣いに見上げられ、さらににこりと微笑まれ、尚隆は六太かわいさの
あまり恍惚となる。小さな口が桃を齧るのを尚隆はにこにこと眺めながら
「さて、今日は何をして遊ぶかな。いつものように鞠や玩具で遊ぶのも良いが、
のんびりするのも悪くないな」
六太が食べ終わると口のまわりを布でぬぐってやる。
「ね、ここから出して。尚隆のすぐそばに行きたいんだ」
もちろんだ、と鍵で扉を開け、六太の体を抱き上げて出してやる。
自然と首に手を廻してしがみつく六太に、己への信頼を感じとり満たされる気分だ。
そのまま長椅子へと運ぶ。長椅子の上に六太を降ろすと頬に軽く口づける。
「くすぐったい。尚隆にも」
もうすぐ六太の唇が己の頬に触れる…そう思ったとき
「やめろよー! 離せー!」
ぎゃあぎゃあという叫びとじたばたする感触で尚隆は別の世界へと引き戻された。
六太の足が尚隆の体を強く打った。

232微キチク尚六(?)1:2005/04/27(水) 11:21:39
ろくたんかわいそうなかんじ。時代設定なし。



 王不在時に、政務が滞る事を知らぬようになり早幾年という玄英宮。
けれど稀には王の決が急を要する事も有る。
活気溢れる城の中、延麒六太は官達に不在の王を探すよう促されていた。
正確には、首根っこ掴んででも連れて来い、といったところであろうか。
「ったく、何でおれが…」
「あなたほど、〝王の居場所が分かる〟という性質を生かしている麒麟は
他にはそうは居られぬでしょうねえ」
にこ、と朱衡の笑顔で六太は城を送り出された。

関弓の空の上、とらに騎乗し主を探るべく意識を集中する。間を置かず、
常と変わらぬ太陽の王気はここより大分離れた場所で感じられた。後は
そこに向けてとらを直線に走らせるだけである。

雁の隣国、国境を越えてすぐの辺りの寂れた歓楽街、彼はそこに居た。
夕暮れ時、小さな、やはり寂れた妓楼の門を六太は躊躇無くくぐる。
子供が出入りするような場所ではないため、店の者に咎められる前に
「風漢は」と切り出せば大抵「ああ」と案内される。
案内された房室の扉を押し開ければ、目的の人物、己の王が目に入る。
「…こんなとこに居たのかよ。何やってんだ。朱衡達が切れてんぞ」
軽く溜息を吐く六太に、尚隆は「よお」と手を上げた。

233微キチク尚六(?)2:2005/04/27(水) 11:23:55
突如現れた子供に、房室に居た数人の男達が振り返る。その部屋は酒と、
嫌な空気で満たされており六太は眉をひそめる。
傾き掛けた国の人心は荒み、あまり性質の良くない連中に見えた。

男達の好奇に満ちた視線を無視して、六太は尚隆の側近く寄る。
「急ぎの用なんだ。すぐ帰るぞ。こっからなら城、じゃない…家までとらを
飛ばせばそんなに掛かんねえから…」
「それがな、そうもいかんのだ」
六太は尚隆の腕を取り引いたが、彼は取り合わない。
尚隆によると、毎度の事だが博打で派手に負けて、今その借金の片をどう付
けるか話し合っているところだと言う。
「…どうすんだよ。おれ、立て替える金なんて持ってねえぞ」
「うむ。だからな、またこの店の雑用でも…」
「小間使いをしようってのか?お前、急ぎだって言ってるだろう」
そんな時間無いだろう、と六太が声を荒げれば男達から茶々が入る。
「おい、風漢さんよ。何でも良いが、踏み倒すのだけは勘弁してくれよ」
「分かっておる」
立て膝し、顎に手を当て考えた後、尚隆は突如側に居た六太の腰を抱き引寄せる。
「おいっ、尚隆?」
「今夜一晩、この餓鬼の身体で払う」
六太の訝しげな視線を余所に、周囲の男達――恐らく店の店員、用心棒、そして
博打を打った連中を見渡してそう言った。

234微キチク尚六(?)3:2005/04/27(水) 12:51:20
「ふざけんな、てめー何言ってやがる」
尚隆の借金の形の雑用事を手伝えとでも言うのだろうか。
「そんな小僧よりあんたの方がよっぽど働き手として使えるだろうが」
「今夜、と言ったのだ。分からんか?」
薄く笑い、六太の顎に手を掛け周囲に晒すように上向ける。
「見て呉れは…今一つだが、味の方は悪くないぞ」
どうだ?と問われ、男達は風漢が借金の形にこの子供の身体を売ろうとしている
事を理解した。

男達は六太に注目し値踏みする。そぐわないこの場に現れた時から、この子供の
美しい容姿は人目を引いていたが、良く見れば常人ならぬ、異常と言えるほどの
美形であった。それを今一つと言ってのけるからには、味の方はどれ程のものなのか。
そんな皆の考えを読んだのか、尚隆は六太の衣の襟口に手を掛け、首元から肩口に
かけて覗かせる。
未だ呆然とし、己の置かれている状況が理解出来ずに居たが、その指つきは妙に艶
かしく、六太は背筋に震えが走った。
「鳴き声は、まあ多少喧しいが…そうだな、子供ゆえ肌は良いな」
「尚隆…?お前、何考えて…」
あくまでモノとして扱うように、六太の言を無視して尚隆は取引を続ける。
そして、一通り男達を見渡し言った。
「どうだ?これで貸し借り無しにしては貰えんか?」
男達は互いに顔を見合わせた後、数刻置かずに決を出す。
「…あんたの借金をこの餓鬼一晩でチャラか。悪くねえ」
「餓鬼、しかも男を抱く趣味はねえが、たまには面白そうだ」
ここに至って、六太は漸く理解した。震えだす身で尚隆にしがみ付く。縋る瞳で、
口元は笑みを浮かべながら。
「…嘘だろ?なあ、尚隆、冗談だろ?何なら、おれが今から城に金を取りに…」
「決まりだな」
尚隆は男達の輪の中に六太を軽く突き飛ばし、もう用は無いとばかりに立ち上がる。

235微キチク尚六(?)4:2005/04/27(水) 14:23:40
「悧角、沃飛、連中に手を出すなよ」
身仕度を整えつつ放った言葉は、六太以外その場の誰にも意を捉えかねる事だろう。
部屋を出ようと扉に手を掛けたところ、六太を取り押さえる男の一人から声が掛かる。
「野暮な事を聞く気はねえが…。こいつあんたの何なんだ?子か?」
「俺の子でも弟でもないが、…俺のものだ。下僕だな」
その時、一瞬だが尚隆の面が苦く歪んだ事に、気付いた者は居るだろうか。
「何をしても構わんが、頭にひどい傷が有るで頭巾だけは取らんでやってくれ。」
見たら萎えるぞ、と冷笑を浮かべる尚隆が六太には恐ろしかった。
「やだよ、嫌だよ尚隆…!」
「お前もたまには従者らしく、主の役に立て」
主だの従だの、そんな割り切った関係ではないだろう、…割り切れずにいたのは、自分
だけなのか。
「ちゃんと帰って働くで、明日には迎えに来てやろうよ」
振り返りもせず背を向け出て行く男に、押さえ付けられる中で必死に手を伸ばすも、届
く筈が無く。

狭い臥牀では男達が乗り切れぬだろう、とそのまま床に組み敷かれる。
こんなのは嘘だ。いつでも己が迎えに行けば、尚隆はばつが悪そうに笑い、そんな彼の
頭を小突き、帰り道では剥れた己にご機嫌取りに飴だの煎餅だのを買ってくれ、「餓
鬼じゃねえんだ」などと下らぬ遣り取りを交わし、そして…。
「嫌だ、止めろ!!」
己に跨り体重を掛けてくる男に口ばかりの抵抗をする。男達の、己に注がれる視線が
ただ恐ろしかった。
「そうは言ってもなあ。風漢の借金を返して貰わねえと…!」
「風漢が主なんだろ?文句は主に言うんだな」
「お前は売られたんだよ、風漢に」
その言葉に、強く頭を殴られた。
泣くものか、と思うまでもなく涙は出なかった。心が瞬時に麻痺してしまったのか。

236微キチク尚六(?)5:2005/04/27(水) 15:05:33
四肢を強い力で押さえ付けられ抵抗も出来ぬまま、着物の合わせを左右に開かれ白く
すべらかな肌が露わにされる。
水物の菓子の様に柔らかく潤いが有る肌、そして桜色に色付く両の乳首。それらに、
誰とも知れぬ手が伸びる。
六太は己がこれから何をされるか分かっていた。
男に犯される、こんな屈辱的な行為は尚隆以外には許せるものではなかった。尚隆
以外とは、したくない。
けれど、尚隆によって投げ出されたこの身体。
混濁する意識の中、極度の怒りと、悲しみと、何故、と疑問符が心を占めていた。

男達は容赦無く六太を攻め立てる。
もう如何程の刻が経ったのか、頭部を覆う巾以外は全て取り去られた白い肢体に、
次々と傷痕が残される。柔らかく小さな尻を左右に割り開かれ、果てては入れ替わり
に肉棒を差し込まれるため、六太は下肢を閉じる暇も与えられず、またそうしようと
する意思も次第に潰えていった。
「坊主、可愛いなあ」
「…良い反応しやがる。なんだ?元々風漢の稚児かお前?」
「俺だったら絶対売らねえけどなあ。飽きちまったんかね?」
仰向けで犯されれば床の上ゆえ背が摩擦で痛く、うつ伏せで持ち上げられた尻を突か
れれば、胸と頬が痛かった。
けれど、本当に痛いのは身体ではなく――。


隣国から己が城に向けて、日の沈む方向へ尚隆はたまを走らせる。
既に、この空の上には聞こえる筈の無い六太の悲鳴を聞いていた。

尚隆は六太を憎んでいた。
己に好意を向ける六太を厭うていた。
絶対的に己のものであるのに、絶対的に己のものにはなりえない六太を。
この世における只の装置、と捨て置くにはあまりにも愛しい存在であるそれ。
意思など持たぬ人形に、虜となる愚かな己を肯定出来なかったのだ。




書きたいとこ書いたので終わりますよ…。

237名無しさん:2005/04/28(木) 18:09:18
ねーさん上げてくれたらいいのに。
しかし尚隆の気持ちもなんとなくわかるような。

238名無しさん:2005/05/03(火) 01:40:07
>書きたいとこ書いたので終わりますよ…。

なんかワロタ
>>1の鬼畜楽俊の続き、あなたに期待しております

239名無しさん:2005/05/04(水) 19:47:53
>237
>238
レスありが㌧。鬼畜楽俊は無理ぽ。
自分、ラッブラブでエッロエロな尚六スキーですんで…。
ってか、他の人が続き書いて良いのかな?

240『台輔の勤め』22:2005/05/18(水) 04:11:37
頭の中が白くなっていく。
己のしている行為と、その姿。
六太は目を閉じたまま氾王のものを口中に納め、舌を使う。
「ん、…ふ…っ…」
他の雑念に心を捕られぬようにとも見えるその一心な姿を見下ろし、
氾王は一人笑む。そしてふと、その表情の変化に気がついた。
湯気に濡れた前髪越しに見える六太の頬は赤い。
恥辱のせいもあろう、だが…。
「延麒」
不意に凛とした声で名を呼ばれ、六太ははっと我に帰った。
唇に先端を咥えたまま上を仰ぎ見る。
氾王は首を上に振り、六太にやめるよう指図した。
意味を量りかねて軽く見開いた眼に、氾王の毅然とした、だが穏やかな声が降る。
「もうよい」
「…へっ…?」
思わずおかしな声を出した。
「もうよいと申したのだよ。背を流してくりゃるかえ。おぬしも体を流して上がるがよい」
半ばぽかんとして動けなくなった六太を促すように、氾王の長い指が金の髪に触れる。
「さ、早う。」
背が冷えたのでな、と笑った顔にとりあえず安堵し、六太はゆるゆると体を起こす。
気が変わったのか、そのことにはほっとしつつ、だがとまどいを隠せない。
「でも…なんで…」
「続けたかったかえ?」
「いっ!いや全然!…って、あ…!ごめ…いや、そういうわけじゃ」
挑発するようににやりと笑まれれば慌ててかぶりを振る。
つい本音を口走ると焦り両手をぶんぶん振った。
「あ、いや…。あの、さ…」
そして小さく一つ湧いた不安を口に出してみる。
「おれ…何か失礼なこと…した…?」
我に帰れば、接待役としての今回の立場が頭に蘇る。
願ってもない展開とは言え中断は突然であった。
先程まで己の口で愛撫していた氾王自身は既に形が出来上がっている。
どのような術を用いるつもりであったかにしろ、その状態にしたままで
やめるというのは、如何に六太であっても理解し難かった。
向けられた当然の疑問に氾王は目を伏せて笑った。そして口を開く。
熱くはないかえ、と。
「随分と頬が上気しておる」
言われて六太はかすかな息苦しさを覚えていたことに気付いた。
「え…?うん、少し…暑い」
「大分長居をしたようじゃ。慣れぬ振舞いにさしもの小猿の頭ものぼせたかの」
湯疲れで倒れさせたとあってはこの呉藍滌の名が落ちる、
と、含めるような落ち着いた声が結んだ。





久々に続きを進めに来ました。誰もいない内にコソーリ書いちゃう…

241名無しさん:2005/05/18(水) 23:42:03
氾王さま、お久しぶりです。ろくたんが、んなことしてるというのに
我慢づよすぎです…

242『台輔の勤め』23:2005/05/22(日) 04:41:17
一通り体を洗い、六太は促されるまま自身も肌を清める。
結局なみなみと溢れこぼれる湯には浸かることなく、氾王は湯殿を出ようとする。
埃を流したかった故であるからね、とさらりと言った彼に、
六太はあのさ…と、尋ねたくて仕方のなかったことをためらいながら口に出す。
「それ、どうすんの…?」
ちらと目を向けた、それ、とは氾王自身。
六太によって高ぶった形になったものは幾分元の状態に戻りつつあるものの、
依然雄を鼓舞するかのように角度を保っている。
おずおずと言い憎そうに尋ねてくる六太に、氾王は思いがけぬことが起こったように
一瞬動きを止め、六太の顔をまじまじと見、それから軽く吹いた。
「なに、…うむ、そうじゃの──幼い延麒にはわからぬことやも知れねど」
まともに成人した男なればかようなもの幾らでも鎮める術がある、
と笑いを堪えた声が続いた。
「──その術を知りたいと申すかえ。如何ようにも出来ようぞ。
今なれば…そうだねえ、常に頭にある、我が国の案件を
一つ思い出してくりょう。──わかるかえ?」
男である前に王であるということじゃの、とさらりとした顔が言う。
六太はやおら目を見開いた。
「えっ、本当に?あんた──いや、氾王はそんなんで…萎えるのか!?」
思わず声を高くした六太に、氾王は失笑し、あからさまに眉をしかめて見せた。
「萎えるなどとそれこそ萎えるような言葉を遣うでない。
王とはかようなものじゃ。何時も政事が浮かべば身のしまる思いがする。
私の在りように全てを預けておる国と民とに、常に命の竦む思いを以て向こうておればの」
「…!…」
その毅然とした言葉と物言いに六太は思わず感嘆の吐息をついた。
二の句が継げない。
そういうものなのか。
いや、少なくともこの男──範国国王呉藍滌においてはそうなのだ。
もし次回、尚隆がその気であって己が拒みたい時、言ってみよう。──
六太は一人考えた。
(おれ達がそんな事やってる間も惜しみ無く働き、もしくは
何か心労があって安らかに眠りにつけないでいる民が必ずやいるはずだ)──
だが、その思いはすぐに儚く消えた。
あの尚隆がそんな言葉で萎えるような男でないことを
自分が一番知っている、ということをすぐに思い出したからである。

243名無しさん:2005/06/08(水) 02:15:40
>もし次回、尚隆がその気であって己が拒みたい時、言ってみよう。──
ワロス
尚隆とは別の意味で氾王さまは自在の下半身をお持ちだな。

244『台輔の勤め』24:2005/06/21(火) 03:20:19
(あいつに効くわけねえよなあ…)
六太は溜め息を漏らした。
五百年連れ添った王──彼に、今一瞬でもそのような
「かくあるべき王」の幻想を抱いた己の気の迷いに苦く笑い。

──さて、それぞれ女官に身繕いをさせ湯殿を後にした二人であったが、
背にした女官の内、数名の頬が赤かったのは気にするべくもないことである。


氾王の横を歩く六太の衣装は先程とは趣を異にし、
淡い紫を基調とした華やかなものとなっていた。
女官が自分に嬉しそうに着せるのを半ばげんなりと六太は受け入れたが、
もしかすると彼女らは何着も用意していたのかもしれない。
髪留めや帯などの飾り小物も着物に合わせて品よくまとめられ、
それは六太の瞳の色に良く似合っている。
「…雁にもほんに趣味の佳い女官がいるのだねえ。
日頃の鬱憤を晴らしておるようじゃの」
などと氾王が皮肉を言うのも今は甘んじて受ける。
実際自分も尚隆も服装には全く頓着せず、むしろ面倒としか思わないから、
その感性に秀でた女官には日頃口惜しい思いをさせていたのかもしれない。
今回思い切り好きなようにさせたのだから、
今後も口やかましいことを言われることはないだろう。

245名無しさん:2005/10/14(金) 21:51:57
つ、続き早く・・・・・滅茶苦茶気になるよー

246名無しさん:2005/10/23(日) 00:53:12
おふろでのことを尚隆が知ったら…続き期待してます!

このスレ読み返してました。
「春怨」と「微キチク尚六」、名作だと思います(同じ人かな?)。
ファンです。また書いてもらえたら嬉しいです。

247名無しさん:2005/10/27(木) 18:30:02
>246
舞い上がる様なレスありが㌧です!
「微キチク尚六」…好きな男を思いながらマワされるヒドイシチュ
が書きたかっただけなんて言えません。
「春怨」…流石に今とは尚六観が違って何とも;

文の書き方が未だに良く分からんのですが、尚六キチクものとか
書かせて頂きたいです。来年辺り。今度は同じ人だとバレないように…。

248名無しさん:2005/10/27(木) 21:55:38
来年尚六キチクですか!?
期待しております!!!

249氾六の中の人:2005/11/16(水) 15:44:56
仕事が忙しくて滞ってしまってすみません。
続き書きたい気持ちはあるのですが、遅くなりそうです。
誰か続き書きたい方いましたら、リレーにしてしまっても
いいかなとも思っているのですが…
今更ですねw

250名無しさん:2006/01/21(土) 21:28:38
ここって誰でも小説のせて良いんだよね?

251名無しさん:2006/01/24(火) 20:17:25
うむ 好きなように書くのだ!

252終宴1:2006/02/15(水) 22:14:55
尚隆末期系尚六にチャレンジ精神でお送りします。
(末声までは行きません)



こわいことは、ひとつ。
――尚隆が雁を滅ぼすこと。


常に変わらぬ繁栄を誇る雁国の、木々の静まった真夜中の玄英宮。
延台輔の住まう仁重殿に忍び込む影一つ。

月明かりだけが届く暗闇の臥牀で六太はその気配に気付き、打ち
掛けた寝返りを止めた。
影が帳を捲り牀榻に進入を果たしても、使令共々警戒するでもない。
するとギシ、と臥牀に上がり込む音を立て、既に己を覆う長身の
その正体を確かめる事はせず呟いた。
「…てめー、部屋間違えんな。正寝に帰れ、正寝に」
「あのな、お前に会いに来たのに帰されてたまるか」
「お呼びじゃねえんだよ、帰れ帰れ」
〝風漢〟の出で立ちのまま、豪奢な布団に潜り込んだその人に対する
六太の言葉は冷たいが、口調は冗談めかしていた。決して本心では
ないし、それを分かった上でなのか尚隆は六太を抱き締め、その幼い
柔らかな頬に唇を寄せる。
「俺にはお前が居れば良い…」
「白粉の匂いプンプンさせながら言っても説得力の欠片もねえよ」

253終宴2:2006/02/15(水) 22:23:52
もう遥かな昔、六太は延王の寵となった。尚隆の一となった。
それでも六太が尚隆のただひとりの相手という訳ではなく、彼にとって
女は趣味であるのか、女を愛し、侍らす事は辞めなかった。
六太は彼が女を愛でる事に妬くでもないが、すると尚隆は「妬いても
くれぬ」と臍を曲げるのだ。全く面倒くさい男であるが、そんな莫迦な
ところも愛しく思う。もっともそう思えるのは「己が彼に一番愛されて
いる」事から来る傲慢ゆえであろうか。

被衫の合わせから大きな手が差し込まれ、帯が緩く解かれる。胸や腹、
腹から下肢を愛撫され、月明かりの中白い六太の身体が薄らと色付いて見えた。
互いに裸身で向き合い、尚隆は彼らしからぬやや真面目な視線を送る。
「俺の帰る場所はここだけだ。…ここ、だな」
そう言いつつ六太の下肢を弄り秘所に指を押し入れる。びく、と跳ねた
細い腰を見る目は楽しげだ。
「蓬莱ならば男は女より出で還るのであろうが…」
「…お前、つまんねえ冗談言うなよな」
「つまらんか。本心であるのに」
そうして睦言の代わりに軽口を叩き合った後、夜が更けるまで睦み合った。


それはもう数十年前の夜の事で、時の経った今ではそういった事――身体を
繋ぐ事は無くなった。

254名無しさん:2006/02/17(金) 00:11:23
おお…お?
風漢の格好でしのび込むところが、人目を忍ぶ恋人同士プレイという感じで…!
とりあえず米5㌔買い足ししとかねば

255名無しさん:2006/02/18(土) 01:09:30
いっそ米俵ごと持っていけ。
馴染ませてからいきなり数十年放置プレイとは…尚隆、やるなw

256名無しさん:2006/02/18(土) 20:38:38
おお、更新されとる!
神よ!!

257名無しさん:2006/03/02(木) 05:56:53
変なの来てるので上げますね

258名無しさん:2006/04/19(水) 00:38:45
あげときます。

259終宴3:2006/08/19(土) 01:43:23
王、台輔の身辺を世話をする女御達は女の嗅覚でもって主従の破局を嗅ぎ取っ
た為、玄英宮において「主従がどうやら破局を迎えたらしい」という噂は女官
の間から広がった。
それを耳にした朱衡ら高官達は急ぎ城内に緘口令を敷こうとした。
何しろ常の男女の破局とは違い、一国を巻き込む、国の滅亡をも招きかねない
事件なのだ。真実は置いて、混乱の芽は早々に摘まねばならない。下界に噂が
漏れ伝わる、など有ってはならない。
そうして城内には一時緊張が走ったが、見れば王は以前にも増して出奔するよ
うにはなったが政務を放るでもなく、特に主従が仲違いをしたとも見受けられ
ない。
主従は恐らく以前のような恋愛関係ではなくなり、それによる睦まじさが失せ
たのだろう――官達の見解はこうであった。それならば、政務に国に関わらぬ
のであれば官が口出す事でもない。

だが台輔は麒麟、王を慕うもの。自然、主従の破局は王に原因が有りと思われ
口には出さぬが「台輔、御労しや」という皆の視線を六太は受けるのであった。

尚隆の出奔と共に、六太の出奔も増えていった。そういったものの煩わしさか
ら逃れるために、…己の矜持を保つために。

260終宴4:2006/08/19(土) 02:55:12
その、城での小さな波風となった件は昔の事。

城から出奔した六太は自国内を当てなく飛んでいた。このまま蓬莱まで掛けよ
うか――。だが騶虞に跨り天掛けながら、見下ろした桜は見事で夜中に仄かな
光を放つようであった。

春の終わりの夜中の桜に六太はかつての幻を見た。それは空中を掛け冷える身
体に確かに熱を篭らせる。あれは尚隆を王に迎え四百年が経った頃か。春の宵
口桜の下であの男から「惚れている」と告げられた自分。その幻。それを見る
事は今では酷ではない。
そして連珠のように、初めて尚隆と身体を繋いだ夜を思い出した。あの時もや
はり蓬莱に遊びに行ったのだ。
当時、蓬莱の情勢がかなりきな臭くなっている事は知っていた。だが生来の好
奇心で鳴蝕により飛んだ蓬莱は――。着くや否や、六太は瞬時に血に酔った。
これ程酷い穢れを体験した事が無い。血臭の源。人だけではなくその地に生け
るもの全てが死んでいた。
六太は運悪くも近代兵器による戦争を目の当りにしたのだ。空から撒かれる物
が地に落ち爆音と共に炸裂し、不死の麒麟であってもその命、王と繋がる命を
守れるか危うかった。
麒麟の俊足をもってその地を離れ、すぐに常世に逃げ帰った。

261終宴5:2006/08/19(土) 03:29:26
六太は蒼ざめ、尚隆の、唯一の光の元に帰って来た。生気を失い、地に付かぬ
感覚の脚を必死に動かして。
正寝の牀榻で横になっていた尚隆は明らかに常とは違う六太の様子に驚いた。
身体を起こし牀の上で腕を広げれば、六太はその胸元に縋り付き、泣き出した。
事情を話すように促せば、六太は嗚咽交じりに見て来た蓬莱の姿を語り出す。
「…それはあくまで蓬莱での事だ。こちらでは、雁ではそんな事は起きぬ、…
俺が決してそんな事は起こさせぬ。大丈夫だ。安心しろ」
縋り付いてくる恋人を、尚隆は優しく、だが強く抱き締めた。それでも震えが
止まらず「怖い怖い」と蓬莱での光景に怯え泣く六太を「大丈夫だ」と宥める
事に努めた。そして、安堵を与え、気を紛わすために六太を抱いた。

その夜の事は混乱の内に過ぎ去ったが、その後も暫く体調が優れぬ六太に尚隆は
優しく接したのだ。どんな風に優しかったか、もう記憶は切れ切れで具体的には
思い出せぬが、恋人として優しかった印象は残っている。

それから後、身体を繋ぐようになってから尚隆は己が欲望を全て六太にぶつける
が如く愛してきたし、六太もそれを受け入れていた。
だが、数十年前を機に、そういった事は無くなった。
彼の心は己から離れた。飽きられたのだ。己では彼の心、身体を満たす存在では
なくなったのだ。所詮、麒麟と違い王は麒麟に縛られる事など無いのだ。

今、尚隆は昼には城にその姿を見せるが、夜まで留まる事は無い。

独り寝には慣れた。六太は己の中の主に対する特別な感情――恋慕も風化を認めた。
傷付き心乱される事なく愛人であった昔を懐かしく思い出す事も出来た。

262名無しさん:2006/08/19(土) 05:41:47
おっ、更新されてる(゚∀゚) 神乙!

切ないろくたん、凄く好みだ。

263終宴6:2006/08/23(水) 02:24:55
「お早うございます」
「お早うございます台輔、お起きになって下さいませ」
「ん…おはよ…」
牀の幄が女御によって上げられ、もう何百年と変わらぬ清清しい朝を迎えた。
六太は仁重殿にて大人しく起伏していたが、以前のように「御労しや」といっ
た視線を寄こす者はもう居ない。かつての主従の破局の件は、大分皆の記憶か
ら薄れる位には時が経っていた。

未だ眠気の覚めぬ足取りで立ち上がり、女御達に身支度を任せる。彼女達は慣
れた手付きで六太の被衫に手を掛けるのであるが、昔には、情事の翌朝に自身
の身体を検めると首元や胸元に二、三の痕を得ている事がまま有った為、出来
なかった事だ。そして、朝の仕度の世話から逃げる六太の様子を尚隆は悦に入
ったように笑って見ていたのだが。

今、それとは違った意味で、六太は被衫を纏わぬ自身の身体を見下ろして確認
する。――何の変化もない。
「…どうかなさいました?」
女御の問い掛けに六太は気付き面を上げる。
「いや、何でもない」

朝目覚めたら何の前触れも無く突如として、己の子供の成りが十代後半の青年
の姿に変化しているのではないか。長い手足、大きな掌を持った大人の姿を得
ているのではないか――。
そんな劇的な事が有るのではないか。愚かにもそんなあり得ぬ期待を抱いている。
期待を、天帝に?そうではない。何か超常的なモノに。

別に数百年付き合ってきたこの子供の身体に劣等感を感じるでもない。仮にそ
んなものを感じた事が有ったとしても、過去の事だ。今更だ。なのに無性にこ
の子供の殻を捨てたくなった。
外見はともかく、内面はとうに大人であるのだから。
ここ数年、焦りにも似た感情を六太は強く抱いていた。




過去が飛び飛びで分かり難い…。ゴメー!!

264名無しさん:2006/08/27(日) 18:48:08
神、超乙!萌え萌えですよー!(*´Д`)ハァハァ

しかしこんなに可愛い六太んを捨て置くとは、尚隆めーーー!!

265名無しさん:2006/08/30(水) 00:24:48
おおすげぇ!
せつないろくたん、萌えだーーー!(*´Д`)

266名無しさん:2006/08/31(木) 02:33:53
新しいのキテルー!!!
切なくも気丈な六タンも、今のとこ何考えてるのかよくワカラン尚隆も、
共に気がかりだー!

267名無しさん:2006/09/22(金) 19:28:14
ところで 鬼畜王楽俊 は、もう書かないの?
かなり気になったんだが・・・・・
姐さん、誰かーーーーーーー!!

268名無しさん:2006/11/07(火) 12:50:47
267さんが、らくつんの続き書いてくだせい。
おながい…

269尚+利×六:2007/01/03(水) 01:22:23
誰もいないようなので、今のうちにコソーリと置いていきます。
利広と尚隆が宿の一室かなんかで、六太を襲ってる感じ。3p

条件:挿入なし(指などは可)の濃密でねちっこいエロ

上の条件を守りながら、二人には六太を襲ってもらいます。



ではスタート↓


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