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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第六章

1 ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:10:47
――「ブレイブ&モンスターズ!」とは?


遡ること二年前、某大手ゲーム会社からリリースされたスマートフォン向けソーシャルゲーム。
リリース直後から国内外で絶大な支持を集め、その人気は社会現象にまで発展した。

ゲーム内容は、位置情報によって現れる様々なモンスターを捕まえ、育成し、広大な世界を冒険する本格RPGの体を成しながら、
対人戦の要素も取り入れており、その駆け引きの奥深さなどは、まるで戦略ゲームのようだとも言われている。
プレイヤーは「スペルカード」や「ユニットカード」から構成される、20枚のデッキを互いに用意。
それらを自在に駆使して、パートナーモンスターをサポートしながら、熱いアクティブタイムバトルを制するのだ!

世界中に存在する、数多のライバル達と出会い、闘い、進化する――
それこそが、ブレイブ&モンスターズ! 通称「ブレモン」なのである!!


そして、あの日――それは虚構(ゲーム)から、真実(リアル)へと姿を変えた。


========================

ジャンル:スマホゲーム×異世界ファンタジー
コンセプト:スマホゲームの世界に転移して大冒険!
期間(目安):特になし
GM:なし
決定リール:マナーを守った上で可
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし

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2 ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:11:30
【キャラクターテンプレ】

名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:
種族:
職業:
性格:
特技:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:


【パートナーモンスター】

ニックネーム:
モンスター名:
特技・能力:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:


【使用デッキ】

合計20枚のカードによって構成される。
「スペルカード」は、使用すると魔法効果を発動。
「ユニットカード」は、使用すると武器や障害物などのオブジェクトを召喚する。

カードは一度使用すると秘められた魔力を失い、再び使うためには丸一日の魔力充填期間を必要とする。
同名カードは、デッキに3枚まで入れることができる。

3崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:16:13
黄金色に実った麦畑が、見渡す限り続いている。
アルフヘイム屈指の農業地域、穀倉都市デリントブルグの誇る広大な田園だ。
デリントブルグの産出する農作物はアルメリア王国内のみならず世界各地へと輸出され、人々の腹を満たしている。
肥沃な大地によって良質な食物を大量に収穫できるデリントブルグは、まさにアルフヘイムの胃袋と言っていい。
そんなデリントブルグ田園地帯のあぜ道を、ゴトゴトと車輪を軋ませながら幌馬車が通る。
アコライト外郭での戦いを終えたアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちは、
ユメミマホロに別れを告げ、ジョンの『ブラッドラスト』の呪いを解くと同時にプネウマ聖教の協力を得るため、
一路万象樹ユグドラエアの麓に位置する聖都エーデルグーテを目指していた。
まずはエーデルグーテへと渡る紺碧湾都アズレシアへと至るため、橋梁都市アイアントラスへと向かわなければならない。

「はぁ〜……、のどかですなぁ〜」

幌馬車の御者台で手綱を握りながら、なゆたは大きく伸びをした。
アコライト外郭を出発してからというもの、天気は快晴、気温も快適。
景色はどこまでも続く牧歌的な田園風景と、とにかくのんびりした時間を過ごしている。
デリントブルグはゲームでも割と序盤に足を運ぶ場所のため、目立って警戒すべきモンスターも存在しない。
エーデルグーテを目指してはや四日ほどが経過したが、襲撃らしい襲撃も皆無である。
昼間はあぜ道に沿ってアイアントラスへの道を進み、陽が沈んだら野営する。
食糧や日用品は馬車に満載したし、各『異邦の魔物使い(ブレイブ)』のスマホのインベントリにも入っている。
もう、ガンダラの試掘洞のように歯ブラシ味の缶詰肉を食べなくてもいいし、旅は快適そのものだ。
バロールによって地球から無理矢理アルフヘイムに召喚されて以来、
なゆたは初めてと言ってもいい平和を満喫していた。

《あはは、ピクニック気分やなぁなゆちゃん。
 うちもその景色には親近感覚えるわ〜。実家を思い出すってこういう感じやろか?
 ほやけど油断したらあかんえ? 平和に見えても、何が起こってるかわからへんよってなぁ》

「はぁ〜い」

みのりに通信で窘められ、なゆたは大きく振り上げていた腕を下ろした。
そして、前方の景色に注視する。――もっとも、変わり映えしない一面の麦畑で危険も何もあったものではない。

《ま、うちも周辺のことはモニターしとるさかい、心配あらへんとは思うけど……。
 エンバースはんやカザハちゃんもおるし、第一ここいらのモンスターならみんなの敵やないやろしねぇ。
 それより、問題は――》

そう。
物理的な脅威よりも、なゆたたちにはもっと逼迫した脅威がある。

ジョンだ。

結局ジョンはアコライト外郭で他のメンバーが準備を整えている間、ずっと地下牢に入っていた。
それから、夜な夜な壁に向かって叫んでいるジョンの姿が兵士たちに目撃されている。なゆたもそれを聞いた。
帝龍との戦いが終わった際の状況と同じだ。ジョンはずっと、見えない何かへと語りかけている。
恐らく――かつて彼が殺したのであろう相手と。

また、ジョンは地下牢の石壁を殴りつけるという行為も繰り返していた。おかげで牢の中はボロボロである。
誰の目から見ても、ジョンの精神状態が危機的状況だというのは疑いようがない。
その原因がブラッドラストにあるのだとしたら、早急に手を打たなければならない。
時間が経てば経つほどその症状は重篤になり、いずれ彼は死ぬだろう。
文字通り、この旅は時間との戦いだった。

単に強大なモンスターを倒せというクエストなら、比較的簡単だ。自分が強くなればいいだけなのだから。
しかし、今パーティーが戦っている相手はモンスターではなく――『時間』である。
こればかりは鍛錬ではどうにもならない。
ゲームの中のクエストならカウントダウンが表示されているかもしれないが、この世界は現実。親切な表示は何もない。
一年後か、それとも明日か……ジョンがいつ血の終焉を迎えてしまうのかは、誰にも分からないのだ。

――今は……とにかくジョンを刺激しないようにしなくっちゃ。

ブラッドラストは戦闘スキルだ。それを使わせないためには戦闘をしなければいい。
戦いを連想させることも極力避ける。ジョンにはこの旅の最中、常に心穏やかでいてもらわなければならない。
モンスターのエンカウント率が極端に低いのが幸いした。それに、みのりの言うとおりエンバースとカザハもいる。
カケルに乗って哨戒するカザハが敵をいち早く発見し、エンバースがそれを屠る。
それで今のところは上手く行っている。今後もこのままの体制を維持できればベストだろう。

4崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:19:08
カザハとカケルが索敵、エンバースは敵がいた場合の迎撃担当。
明神は幌馬車の荷台後方に座って背後を警戒し、ガーゴイルに跨ったガザーヴァがそれに続く。ジョンは馬車の中で待機。
パーティーは各々役目を持っているが、その中でなゆただけが浮いている。
一応、御者台に座って馬の手綱を持ち、幌馬車を操っているという建前だが――馬は御者がおらずとも勝手に進む。
道は一本しかないのだから、よほど緊急の事態が起こらない限りはなゆたが何かしなければならない状況にはならなかった。
が、だからと言ってこのまま田園風景をボーッと眺めていていい、ということではあるまい。

とすれば――

「あー、おしり痛い! わたし休憩ー! エンバース、ちょっとここ代わってもらっていい?
 カザハと一緒に前方警戒よろしく!」

「……ああ」

当然、農道はアスファルトで舗装されていたりはしない。なゆたはゴトゴト揺れる馬車に座り続ける苦痛を訴え、
馬車の横を歩いていたエンバースに頼むと、御者台から後方の幌の中へと入った。
薄暗い幌の中には食料や日用品、人数分の毛布などの旅に必要な荷物が置いてある。
そして、ジョンの姿も。

「ジョン、遊びに来たよ〜」

幌の入り口にかけられた垂れ布をめくって中に入ると、なゆたはジョンに声をかけた。
大きな荷台の前方と後方にある入り口には垂れ布がかけられ、外界と隔絶されている。
万一の襲撃の際、ジョンが余計なものを見ないための備えだ。

「ごめんね、こんなところに押し込めて。ジョンも外の空気を吸いたいと思うんだけど……もう少しだけ辛抱して。
 アイアントラスに到着して魔法機関車と合流すれば、こんなこともしなくてよくなると思うから……」

そう慰めるように言ってみるものの、正直な話それも定かではない。
確かにアイアントラスへ到着すれば今よりも境遇はマシになるだろうが、彼の症状が良くなるわけではない。
それどころか時間経過によって悪化している場合も想定される。そうなれば、今より厳重な拘束もする必要が出てくるだろう。

「ここ、座ってもいい?」

なゆたはジョンの隣を指さすと、許可を得る前からそこに座った。
横座りの楽な姿勢で、荷物に凭れてジョンを見る。

「もし、何かして欲しいことがあったら遠慮なく言ってね。外に出すことはできないけれど――
 それ以外のことなら、出来るだけ叶えるから!」

なゆたはぐっ、と拳を握ってガッツポーズをしてみせた。
とはいえ、馬車の中でできることなどタカが知れているだろう。

「……どうして、僕のことを見捨ててくれないんだろう。
 どうして、こんなに世話を焼くんだろう。いつ暴走するかもしれない僕のために……
 って。思ってる?」

揺れる馬車の中で、なゆたは不意に訊ねる。

「ジョンは言ったよね。アコライトで――
 旅に僕は必要ない、って。
 それは違うよ。わたしたちの旅にあなたは必要なのか、それとも必要じゃないのか。
 決めるのはあなたじゃない……わたしたちだよ」

人の価値というものは、自分自身で決めるものではない。
例え100人中99人が不要だと。いらないという判断をしたとしても、たったひとりが必要だと――そう言うのなら。
その人には価値がある。なゆたは父からそう教わっていたし、自身そう信じてもいた。
そして。なゆたはジョンのことを必要だと思っている。
なゆただけではない、明神も。カザハも、エンバースもそうだろう。だとしたら、悩む要素はどこにもない。

「それにね。ぶっちゃけちゃうと、わたしはジョンのためにこうしてる訳じゃないんだ。
 わたしは、わたしのためにジョンを助けようと思ってる。
 アコライトでエンバースが言ってた。マホたんはわたしたちを守るため、守備隊のみんなを守るため、命を懸けてもいい……。
 そう考える自分のため、自分の望みのために死んだって。
 わたしもそう。あなたを助けるため、出来る限りのことをしたい。全力を尽くしたい。
 そう考える自分のため、自分の望みのためにそうするんだよ」

ね。
そう言って、なゆたはにっこり笑った。

5崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:23:31
「……わたしね。お母さんがふたりいるんだ」

ほんの少しの静寂を挟んで、なゆたは静かに話し始めた。

「ひとりは、わたしを産んでくれたお母さんで……もうひとりは、わたしを育ててくれたお母さん。
 わたしは……どっちのお母さんも、とっても好きだった」

軽く幌馬車の天井を見上げ、なゆたは過去の思い出を手繰るように言葉を紡ぐ。
地球にあるなゆたの家に、現在母と呼べる存在はいない。
なゆたの生母はなゆたが小学校低学年のころに離婚し、家を出ていった。
多数の檀家を抱える寺の住職で、新興宗教の教祖ばりの弁舌を用い日々豪遊に明け暮れる浪費家の父と、
平凡な一般家庭で育った母の夫婦生活は上手くいかなかったらしい。
生母はなゆたが幼いうちに家を去ったため、なゆたは生母から母らしいことは何もしてもらえなかった。
父ひとり、子ひとりのさみしい家庭。母の愛を知らない娘。

そんななゆたに母親の愛情を教えてくれたのは、隣家に住む幼馴染――赤城真一の母親だった。
なゆたの父は寺の仕事が忙しく、母屋にいることがほとんどない。
いつもひとりぼっちのなゆたを不憫に思ったのか、真一の母親は頻繁になゆたを赤城家へ招き、
またそうでないときは自身が隣の崇月院家へ出向いては、なゆたに惜しみなく母親としての愛情を注いだ。
本来娘が母親から伝授されるであろうすべてのこと、掃除、洗濯、料理、家事全般――を、なゆたは真一の母親から教わった。
赤城家の好物であるハンバーグの作り方も、秘伝だとこの母親に教えてもらったのだ。
幼いころに自分を捨てていったものの、生みの母親とは今では時々外で会う程度には仲良くやっている。
しかし、なゆたにとって本当の意味での母親は、生みの母親ではなかった。

「一緒にいるときは、おばさんって呼んでたけど。
 心の中では、ずっとお母さんって呼んでた。
 お母さんはきれいで、優しくて、でも時々厳しくて、柔らかくて、とってもいいにおいがして……。
 一緒にいるだけで幸せだった。わたしの憧れだった。
 わたしは将来きっと真ちゃんと結婚して、お母さんは本当にわたしのお母さんになるんだ。
 誰に気兼ねもしないで、お母さんって呼べるんだって。ずっと楽しみにしてたんだ――」

だが。
なゆたのそんな願いは、叶うことなく終わった。

なゆたが中学二年生の時、真一の母親が病に倒れたのだ。
難病だった。今まで聞いたこともないような病名で、臨床サンプルにするのだと連日多数の医師が入院した母の病室を訪れた。
静かな闘病の時間は、母には与えられなかった。

「真ちゃんは不良になってて、おじさんには仕事があって。雪ちゃんはまだ小さくて――
 お母さんの看病ができるのは、わたしだけだった。
 わたしはできる限り時間を作って、お母さんのお見舞いに行ったよ。お医者様にお願いして、宿泊許可を貰って。
 病院からそのまま学校へ行ったこともある。
 大変だったけど……でも、それでよかった。少しでもお母さんと一緒にいたかった。看病したかった。
 その苦痛をほんのちょっぴりでも、取り除いてあげられたなら……そう、思ってた」

だが、医療技術も看護資格もない中学生が甲斐甲斐しく病人の世話を焼いたところで、何になるだろう?
母親はみるみるやつれていった。医師たちが試しにと使用した新薬の副作用で髪は抜け、肌は乾き、往時の美貌は永久に喪われた。
それでも安寧は訪れない。母へ死後の献体に関する署名を迫る医師を、なゆたは花瓶を振りかざして追い払った。

「お母さんね……わたしの前じゃ、絶対に苦しいとか。つらいとかって言わないんだよ。
 投薬の副作用で、のたうち回りたいくらい苦しいはずなのに。死にたいくらい痛いはずなのに。
 わたしの顔を見たら、決まってこう言うの……『なゆちゃんの顔を見たら、元気になっちゃった』って……。
 浅い呼吸のままでね……」

なゆたの懸命の看護も虚しく、母親は発症して一年と二ヶ月後に亡くなった。
献体を提供はしなかった。なゆたは実父に乞い、少々強引な手段で病院から遺体を引き上げると、実家の寺で荼毘に付した。

「お母さんが亡くなる二日前に、わたしを枕元に呼んでね。
 身体を起こすことさえつらいだろうに、わたしの頭を胸に抱いて、こう言ったんだ。
 『なゆた、わたしのかわいい娘』って。
 『あなたのお陰で、とっても幸せだった。これからも、その優しさをみんなに分けてあげてね』って――」

母にとっては、それは心よりの言葉だったのだろう。
今わの際に悔いを残さぬように。母として与えた愛情に倍する、与えられた娘としての愛情に対する感謝。
だが――

6崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:26:11
「でもね――わたしは言えなかったんだ。『お母さん』って――お母さんは、わたしのことを娘って言ってくれたのに。
 わたしにもお母さんって。そう言って欲しかったはずなのに。
 わたしは言えなかった……あんなにも、お母さんの本当の娘になることを望んでいたのに……」
 
ジョンに語るなゆたの声が、かすかに震える。
母親が最後に言った言葉、それは紛れもなく遺言だった。
なゆたはそれを認めたくなかった。だから、だからこそ、母親の無言の要求に応えられなかった。
そこで『お母さん』と言ってしまったら、遺言を認めたことになる。彼女が死ぬことを認めたことになってしまう。
母親と一緒にこの先の未来を生きることを、諦めることになってしまう――。

結局、なゆたが声に出して『お母さん』と言ったのは、母親の棺の前でだった。
母親の棺に縋りつき、なゆたはそこで真一や遺族が見ているのも構わずお母さんと何度も呼んでは号泣したのだ。

「今でも夢に見ることがあるよ……お母さんの夢。元気だったころ、一緒に料理を作ったお母さんの夢と……
 病院のベッドで横になったお母さんの夢、どっちも。
 姿は全然違うけど……でも、どちらのお母さんもわたしを見つめてる。
 そんな夢を見るのは。わたしがまだ、そのときのことを引きずっているから……なんだろうね」

視線を落とし、なゆたは呟くように言った。

「お母さんって呼ぶべきだったのか、それとも呼ばない方がよかったのか。
 あのときのわたしは、答えを出せなかった。今も出せない。
 でも――これからまた同じような状況になれば、ひょっとしたら。答えが出せるのかもしれない。
 だから、わたしはこれからも人を助ける。お母さんが望んだように。わたしが望むように。
 ……ジョン、わたしがあなたのことを見捨てないのは、そういう理由だよ。
 わたしはわたしのことしか考えてない。
 単なるエゴで、あなたを救って。気持ちをすっきりさせたいだけなんだ」

全然優しくなんてないでしょ? そう言って眉を下げ、困ったように笑う。
だが、それで軽蔑されるようなことになったとしても、それはそれで構わない。
人間は行動に理由を求める。とにかく助けたい、理由もなく救いたい、ではジョンも納得できないだろう。
なゆたはジョンに胸襟を開くことで、彼が守られる理由を明示した。
それを聞いたうえでジョンがなゆたのことをどう思うかは、彼次第ということだ。

「わたしの力で誰も彼も救おうなんて、そんな神さまみたいなことを考えるほど自惚れてはないけれど。
 でも、このまま困っている人たちを助けて。出来る限りの、救える限りの人たちを救っていければ。
 何かを見つけられる気がする、何かが分かる気がする……。
 それはまだ、どんなものかさえ分からない。見当もつかないんだけど。
 それでも絶対あるはずなんだ。
 わたしの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』としての戦いは、わたしの気持ちにケリをつける戦いでもあるの。
 付き合ってもらうわよ……ジョン。最後まで、わたしのこの戦いにね。
 ドロップアウトなんて、絶対許さないから!」

右手の人差し指でジョンを差し、それから茶目っ気たっぷりにウインクしてみせる。
そして後ろ頭を掻きながら、照れ臭そうに笑う。

「なんか、わたしのことばっかりベラベラ喋っちゃってゴメン! 退屈だった?
 わたしそろそろ戻るね。休憩とか言ってぐうたらしてばっかりだと、エンバースに怒られちゃう。
 それじゃまたあとで!
 エンバース、お待たせー! 休憩終わり! 手綱代わるねー!」
 
軽く片手を振ると、なゆたは元気よく幌を出ていった。

7崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:30:19
「あーぁー、ひーまー! ひまひまひまひま、ひぃぃ〜〜〜〜まぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!」

パーティーの最後列でガーゴイルに跨っているガザーヴァが、辺り憚らず不平を漏らす。
アコライト外郭での復活劇からアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に加わったガザーヴァだが、
今はトレードマークの黒甲冑を纏わず、軽装のままで同行している。
出発当初は敵襲を警戒するのと、戦いに備えて――ということできちんと鎧を着こんでいたのだが、それも二日で飽きた。
尤も、仮にモンスターが現れたとしてもこの近辺のモンスターはガザーヴァなら指で捻れるレベルである。
ゲームの中でプレイヤーと激戦を繰り広げたレイド級ボスモンスター、ニヴルヘイム最高戦力の一角という肩書は伊達ではない。
ということで、戦いもなく警戒する必要さえないガザーヴァは退屈を持て余し、だらけきっていた。
そのため、とりあえず近くにいる明神に対し、

「ねー明神、なんか面白い話して」

とか、

「ちょっとそこら辺の畑に火ぃつけてみない? ヒュー! おもしろそー!」

とか、

「あっち向いてホイしようず。負けたら槍で刺されるかほっぺにちゅーするかの二択で」

とか、ひっきりなしに話しかけている。
元々落ち着きのない性格で、脈絡もなくついでに理性も常識も通用しない喋り方からプレイヤーをイライラさせるのに定評がある。
アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に味方することを決めたからと言って、ウザさが解消されるわけではない。
三つ子の魂百まで、である。
ガザーヴァはしばらく馬腹を無意味に蹴ってガーゴイルをイラッとさせたり、
鞍の上で逆立ちしてみたり、突然歌を歌ってみたり(妙に上手い)、暇つぶしをいろいろと試行錯誤していたが、

「そーいえば、お前アコライトでパパに十二階梯の継承者は仲間じゃないのかーって言ってたけど」

と、思い出したように口にした。

「ホントにそう思ってんの?
 お前、ゲームやってたんだよな? 地球でブレモンのプレイヤーだったんだろ?
 なのに、そんなことも分かんないのかよ?」

さらにガザーヴァは言い募る。

「あいつらはパパの仲間なんかじゃないぞ。
 連中が従うのは正義とか悪とか、アルフヘイムとかニヴルヘイムとか。そんなんじゃなくて――
 ただ、大賢者ローウェルの意志だけ……だからな。
 モーロクじじいの意に沿うならアルフヘイム側にもなるし、ニヴルヘイム側にもなる。
 じじいの集めた、じじいの忠実な駒。それが十二階梯の継承者ってこと。オーケイ?」

まー、そんなじじいにも従わないよーな出来損ないもいるけどさー。とガザーヴァは両手を頭の後ろで組んで言った。
ゲームの中では、十二階梯の継承者たちはプレイヤーの選択肢によって敵にも味方にもなる。
徹頭徹尾味方というスタンスを取るのは『虚構の』エカテリーナくらいのものだ。
実際、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちはゲームの中でデリントブルグに侵攻した『覇道の』グランダイトと戦ったはずだし、
魔王バロールの護衛を務める『真理の』アラミガとも幾度となく矛を交えたはずである。
決して、十二階梯の継承者は協力者ばかりではない。
そして――

「これからは、敵はニヴルヘイムの連中ばっかりだと思わない方がいいと思うよー?
 黎明あたりはじじいの意図に反してるパパのこと殺したくて仕方ないだろーしー。
 アイツ、じじいにどっぷり心酔しちゃってるからさ。
 そんな黎明の息のかかった禁書とかが攻めて来たって全然おかしくないもんなー」

ガザーヴァは何でもないことのように、ひとつの重要な情報を零した。


『バロールは大賢者ローウェルの意図に反している』。


当初、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちはバロールもローウェルも一貫して『侵食』に対抗するため動いていると思っていた。
しかし、ふたりの目的は異なっており、特にバロールは明確にローウェルの思惑とは違う行動を取っているという。
だが――そういうことであれば、キングヒルで初めてバロールに会った際に彼が言っていた言葉も辻褄が合う。

『え? そうなの? どこでそんな話を聞いたんだい? ご老人に会った……んじゃないよね?』
『聖灰たちには指示を出しているみたいだし、師は師で侵食に対していろいろ考えているんだと思うが――』

バロールはローウェルがどこにいるのか把握していなかったし、ローウェルが何をしているのかも確認していなかった。
当時は単なる連携の不備かと思っていたが、両者が反目あるいは敵対しているというのなら、分からないのは当然だ。

そう。

最初から、明神たちの認識はズレていたのである。

8崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:35:23
「えーっ? 知らなかったのかよ?」

ガザーヴァは意外そうに驚いた表情を浮かべた。

「パパがあのモーロクじじいの言うことなんて聞くかよ。トーゼン刃向かってるよ、刃向かうしかないじゃん。
 てーか、そもそもパパがじじいのくたばったショックで悪堕ちしたとか超ウソんこだし。
 あんなん、連中がパパを悪者に仕立て上げようとして都合よく捏造した大本営発表に決まってるだろ!」

ははーん! とガザーヴァは肩を竦めた。
それから、ちょうどいいヒマつぶしのネタを見つけたとばかりに熱っぽく話を続ける。
バロールは話したくなかったのか、まだ時期尚早と思っていたのか――のらりくらりと明神の追及をかわしたが、
おしゃべりで有名なガザーヴァにそんな忍耐を要求する行為ができるはずもなかった。
おまけにガザーヴァは誰よりもバロールの近くでその行動を見てきた、文字通りの生き証人である。

「お前ら、パパの目的も分かんないままパパの下で働いてたのか……。きゃはッ、まぁそれはそれでいっか!
 そんで? パパがローウェルと敵対してる事実が明るみになって、十二階梯が敵になるってのが分かったワケだけど。
 どーすんの? 今からでも行先変えて、じじいに仲間にして下さいって言いに行く?
 間違って魔王の傘下になっちゃってました、ゴメンなさーいって?」

くくッ、とガザーヴァは真紅の目をチェシャ猫のように細めて嗤う。
こういうときのガザーヴァは心底楽しそうだ。基本的に混乱を好む、根っからの『混沌・悪』属性である。
バロールは確かに酷薄な人物であるし、犠牲を厭わない非情なところがある。
人好きのする笑顔とフニャフニャした態度で誤魔化されがちだが、すでに多くの罪を犯している。
……しかし。

「パパが悪党だからって、ローウェルが善人だとは限らないよなー?」

そうだ。
物語の世界ならともかく、現実の世界では単純な勧善懲悪の構図は成り立たない。
アコライトで帝龍が十二階梯から助力を受けている旨の発言をしたこと。
敗北した帝龍のスマホがアルフヘイムに鹵獲されないよう、マリスエリスと思しき狙撃手によって破壊されたこと。
それらの状況から推察するに、十二階梯の何名かは確実に現在ニヴルヘイムに手を貸している。
一方でバロールに手を貸す十二階梯は存在しない。それは、ローウェルの意図がニヴルヘイム側にあることを意味している。
アルフヘイムに侵攻し、すべての破壊を目論むニヴルヘイムのどこに正義があるのだろう?
或いは、明神たちの想像さえできないマクロな観点から、何事かを推し進めようとしているのか――。

「じじいのやろうとしてることは知らんけど、パパのやりたいことなら分かるぞ。
 パパの目的は今も昔も変わらない……パパはこの世界を守りたいだけなんだ。
 このアルフヘイムと、ニヴルヘイムと、そして地球の三界。
 それがずっと続いていけばいいと思ってる。
 もっとも、パパにとって大切なのはこの『世界』、つまり器であって、その中身……ヒュームとかモンスターとかは、
 さして重要じゃないんだけどさ」

バロールは創世の魔眼を持つがゆえ、神にも等しい視座を有する。
だが、その視座には欠点も存在する――世界全てを見通せる代わり、あまりに小さなものに焦点を当てることができないのだ。
そのためバロールはひとつひとつの命を重視できない。『種族を構成する単位のひとつ』としか認識できない。
人間がシムシティやシムアースなどの環境ゲームをするときと同じだ。
それらのゲームにおいて人間の個々の人格などは反映されず、ただ総人口数がウインドウに表示されるだけであろう。
だからこそ、使えないと思った者を平然と切り捨てられる。
バロールはその視座でもって『一巡目』でもこの世界を救おうとした。
その最短の方法としてアルフヘイムに侵攻し――魔王と呼ばれ、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に討伐され、死んだ。

だが、それで果たして世界は平和になっただろうか?
真一の垣間見た幻視では、バロール亡き後ニヴルヘイムを滅ぼしたアルフヘイムの民は地球へ侵攻している。
バロールが死亡することで、最悪の結末のフラグが立ったのだ。
そして、何者かが禁じられた魔法『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』を発動し、すべてが巻き戻った。

「パパがこの二巡目でも死ねば、間違いなく一巡目と同じことが起きるだろーな。
 単に地球に攻め込む連中がアルフヘイムからニヴルヘイムに変わるだけさ。
 ローウェルの目的なんて知らないし、ぜんぜん興味もないけど、連中はどうしてもそれをやりたいみたいだ。
 パパをやっぱり悪者だった! って決めつける前に、連中の目論見を暴くのが先だと思うけどね。ボクはさぁー」 

そう言うと、ガザーヴァはさんざん喋り倒して満足したらしく、ガーゴイルに縛り付けたザックをまさぐってお菓子を食べ始めた。
単に所属をアルフヘイムに変更しただけで、一巡目としていることが全く変わらないバロール。
一方ニヴルヘイム陣営に手を貸し、地球侵攻に繋がる何事かを成し遂げようとしている大賢者ローウェル。

どちらが正しいとも、間違っているとも言い難い状況のまま、荷馬車はアイアントラスへ向けて進んでゆく。

9崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:38:14
「……なあ、フラウ。いい加減に機嫌を直したらどうだ」

馬車の右側を歩きながら、黒ずくめの焼死体がスマホの中のフラウに話しかける。
その声は小さく、他人には聴き取れない。

《お言葉ですが、機嫌は悪くありません。ただ自問自答しているだけです》

スマホの中からフラウが返す。無機質な、冷淡とも取れる声音だった。
アコライトでフラウはそれまでのパートナー、マスターであった男と離別した。
今、フラウに向かって話しかけている男は、マスターとそっくり同じ外見で、同じ記憶を有し、同じ感覚を有する――
しかし、マスターとは違う存在だった。
外見も中身も、何もかもが同一であれば、それは同じ人物ではないのか?
フラウはスマホの中でそれをずっと考え続け、そして――暫定的にひとつの結論を出した。
そうではない、と。

ユメミマホロがいい例だ。アコライト外郭の帝龍との戦いで、マホロは我が身を犠牲にして活路を開き、死んだ。
現在アコライト外郭にいるのは、死んだユメミマホロとまったく同じ記憶と外見を有する別人。二代目ユメミマホロだった。
それと同じことがエンバースの身にも起こった、ただそれだけだ。

「もう過ぎたことだ。不可逆的な事象を振り返ったとしても、それは感傷でしかない。違うか?」

《あなたに聞かせてやりたいものです。そのセリフ》

過去の未練、妄執、悔恨がすべてだった、かつてのエンバースに。
そんなフラウの皮肉を、今のエンバースは無機質に受け流す。

「……共感しろとは言わないさ。ただ、慣れろ」

《善処します。何年かかるか分かりませんが》

会話はそれで終わった。
そのまま、一行は大した障害もなく農道を進んでゆく。

《なゆちゃん、みんな、聞こえとる? この先、あと4kmくらいの場所に小さな村があるみたいやねぇ。
 今日はそこに泊まるのがええんちゃう? 長旅やからね、野営ばっかりじゃ疲れてまうやろし。
 体力は極力温存していかなあかんえ?》

「そうだね、そうしよう。わたしもお風呂に入りたいし……」

なゆたは小さく頷いた。
夕刻になり、太陽がゆっくりと遠くに見える山の向こうへ沈んでゆく。
茜色の夕映えが黄金色の麦穂を、まるで火のついたように真っ赤に染め上げている。
そう――

『火のついたように』。

「……ねぇ、なんか焦げ臭くない?」

くんくん、と鼻をひくつかせ、御者台のなゆたが怪訝な表情を浮かべる。
最初は夕照の赤さかと思っていたが、違う。実際に麦畑が燃えている。その証拠に遠くで黒煙が空へと立ち昇ってゆくのが見えた。
それは瞬く間にその量を増してゆき、やがて猛火となって周囲に燃え広がっていく。

「これは……!」

自然災害か、それとも野焼きの火が燃え移ったか。いずれにしても放っておける事態ではない。
ガザーヴァが慌てて両手を振る。

「ボ、ボクじゃないぞ!? ボクはやってないからな! 無罪! ノットギルティ!」

「消火しなくちゃ、早く! みんな、炎がこれ以上燃え広がらないように食い止めて!
 わたしに時間をちょうだい、ゴッドポヨリンで一気に消し止めるから!」

なゆたは素早く御者台から飛び降りると、スマホを取り出しスペルカードを切った。
水属性のレイド級モンスターであるG.O.D.スライムならば、大規模火災であっても消火することは充分可能だろう。
ただ、ゴッドポヨリン召喚には時間がかかる。パーティーはそのための時間稼ぎをしなければならない。

「これ以上焼けるのは御免蒙りたいな」

エンバースがスマホからフラウの触手を召喚し、燃える麦の穂を刈り取って延焼を防ぐ。
ガザーヴァも闇属性の魔法を駆使し、炎を闇に呑み込ませ鎮火を図る。
しかし。

「思ったよりも火勢が強い……!」

見渡す限りの麦畑に対し、火災に当たる『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はたったの6人。
ゴッドポヨリンが召喚されない限り、燃え広がる速度の方がずっと早い。
そして――

10崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:41:27
チュンッ!

消火活動に当たるカザハの右頬を、突然飛来してきた何かが掠めた。
カザハの頬が薄く切れ、血が滲む。もし直撃したとしたら、きっと甚大なダメージを負っていたことだろう。
それは明らかに何者かによる攻撃だった。
アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちを、さらに遠距離よりの飛来物が襲う。

「狙撃を受けてる……!」

なゆたの脳裏を、アコライト外郭の戦いの最後で帝龍のスマホを破壊した狙撃手の存在がよぎる。
『詩学の』マリスエリス――
大賢者ローウェルの高弟、十二階梯の継承者のひとり。
アルフヘイム最高戦力のひとりに数えられ、ゲームでは幾度となくプレイヤーを助けてくれた、魔弾の射手。
もしも彼女がバロールに味方するなゆたたちを敵と認識していたとしたら、襲撃を受けてもおかしくはない。

麦畑に放火し、炎と煙、熱でパーティーを包囲しながらの狙撃。
周囲の被害というものをまるで度外視した、非情な戦法だ。だがこの上なく有効である。
なゆたたちは火を放ってはおけない。自分たちだけ安全な場所に逃げるという手段を好まない。
何とかして炎を鎮めようとする。結果的にこの場に釘付けになることになり、襲撃者への対処もままならない。
襲撃者はなゆたたちの手の届かない場所から、悠々とパーティーを狙い撃ちにすればいいだけだ。

「く……、こんな、ところで……!」

麦畑の燃える猛烈な炎を前に、馬車を曳いている馬が怯え棹立ちになっていななく。
煙を吸い込まないように口許を押さえながら、なゆたは歯を食い縛った。
ゴッドポヨリン召喚までには、あと数ターンはかかる。
だが、このままではその前にみんな炎に巻かれて全滅するのは明らかだった。

――間に合わない――!

少し前までののどかな日常から一転、絶望的な状況に立たされる。
各人の奮闘も空しく、燎原の火は留まることなく燃え広がってゆく。事態を収拾する効果的な方策は存在しない。
なゆたは思わず空を仰いだ。

しかし、次の瞬間。

「スキル! 『急転直下の大瀑布(エンジェル・フォール)』!!」

どこかから、そう声が聞こえた。
そして、火災に抗う『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちの頭上に一体の巨大なモンスターが出現する。
光背を輝かせ、王冠と神の金環を頂き、三対の翼を持った巨大な黄金のスライム。

G.O.D.スライム――

『ゴオオオオオオオオオオオム!!!!』

G.O.D.スライムは純白の翼を一打ちさせると、その全身からスプリンクラーのように莫大な量の水を撒き始めた。
『急転直下の大瀑布(エンジェル・フォール)』。G.O.D.スライムの持つスキルのひとつである。
本来は水属性の全体攻撃だが、それを消火のために使用している。
その水量たるや、地球最大の滝であるエンジェル・フォールの名を冠するに相応しい。
あれほど燃え広がっていた炎は、ものの5分ほどですっかり消え失せてしまった。
麦畑の火災が鎮まると、何者かからの狙撃も止まった。
恐らく、火が消し止められ作戦が崩れたために攻撃を中断し撤退したのだろう。
マリスエリスは気のいいお姉ちゃんという物腰の反面、機を見るに敏な性格である。
少しでも仕事の成功確率が下がれば、強行はしない。撤退は正しい判断と言えるだろう――こちらにとっては甚だやり辛いが。
襲撃者は去った。
だが、謎がまだ残っている。

「……な……んて、こと……」

なゆたは愕然として目を見開いた。
頭上にいるのは、紛れもなくG.O.D.スライムである。
だが、『ポヨリンではない』。
ポヨリンはなゆたの足許でスペルカードによるバフを待っている最中だ。まだG.O.D.スライムには進化していない。
だとしたら――このG.O.D.スライムはいったい、どこから来たのだろう?

11崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:47:03
「危なかったわね。怪我はない?」

キラキラと光を纏いながら、一仕事を終えたG.O.D.スライムが消えてゆく。
麦畑の焼け跡に佇む『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の前に、そう言いながら現れたのは、三人の人影。
ひとりは長い栗色の髪をバレッタで纏め、ブラウンのスカートスーツに身を包んだ、30代前半くらいのキャリアウーマン風の女性。
もうひとりはウェーブのかかったアッシュブロンドの髪の、何やらやたらフリフリしたゴスロリ衣装を着た20歳前後の女性。
最後のひとりは黒髪をボブカットにした小柄でぽっちゃりした体格の、パーカーにジーンズという出で立ちの20代中盤程度の女性。
全員女性だ。しかも、明神たちの見慣れた格好――つまり地球の衣服を身に着けている。
ぽっちゃりした女性の足許に、王冠をかぶり緋色のマントを羽織った何やら偉そうなスライムがいる。
スライムヴァシレウス――膨大なスライム系統樹の上位に位置するモンスターで、
ヴァシレウス(君主)の名にふさわしく準レイド級の強さを持つスライムである。

考えるまでもなく、この三人はなゆたたちと同じ地球から来た『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だった。
恐らく先ほどのG.O.D.スライムも、このスライムヴァシレウスがコンボによって進化したものだったのだろう。

「自分たちがたまたま通りかかってよかったっスね。恩に着て欲しいっス」

「だよねだよねぇ〜☆ ウチらがいなかったら、今頃死んでたんじゃなぁ〜い? キャハッ☆」

長身のキャリアウーマンを中心にして、左右に控えるぽっちゃりとゴスロリが口々に言う。
なゆたは三人に向かってぺこりと頭を下げた。

「あ……はい……。その、危ないところを助けてくれてありがとうございます。えと、あなたたちは……」

「見てワカるっしょォ〜? ウチらも『異邦の魔物使い(ブレイブ)』! この世界の危機に召喚されたの☆」

「ま〜た活躍してしまったっス。向かうところ敵なしっスね、自分ら」

「やっぱり……!」

なゆたは思わず満面に気色を湛えた。
バロールはとにかく下手な鉄砲とばかりにアルフヘイム各地へ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を召喚した。
多くの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は死亡したが、中にはなゆたたちのように生き残っている者もいるのだ。
この三人はそういう『生き残り』のうちの三人なのだろう。
モンスターの跋扈する過酷な世界で生存している辺り、実力的にも申し分のないプレイヤーなのは間違いない。
そのうちの一人がなゆたと同じスライム使いだというのは、奇遇というしかないが。
だが――

なゆたと明神が驚愕するのは、これからだった。

「自己紹介がまだだったわね。私は悠木沙智(ゆうきさち)――ハンドルネームは『さっぴょん』よ。よろしくね」

三人のリーダーらしいキャリアウーマン風の女性が、凛とした佇まいで告げる。
外見の割にかわいいハンドルネームである。

「ウチは柳沢りゅくす☆ ハンネは『シェケナベイベ』! シクヨロ☆」

ゴスロリがきゃるんっ☆ とばかりに目許にピースサインを添えてポーズを取る。
外見通りにはっちゃけた性格らしい。

「そして自分が佐野喜奈子っス。ハンドルは『きなこもち大佐』。三人揃って――」

ぽっちゃりがニィ……と右の口角に不敵な笑みを浮かべる。
三人はポケットや懐からばばっ! とスマホを取り出すと、液晶画面をなゆたたちに向けて突き出した。
スマホのホーム画面、その待ち受けには、なにやらキラキラした感じのイケメンの画像が設定されている。
その相貌を見間違えることなどありえない。ブレモンのプレイヤーなら誰しもが知る、その人物は――



「「「マル様!! 親衛隊!!!」」」


三人は口を揃えてそう名乗った。

「マル様……親衛隊……!」

なゆたは再度驚愕して目を見開いた。

そして。

「おお……、これは全知全識なる智慧の神の御手か、あるいは叡知の頂に座す我が賢師の御導きか!
 神の掌に等しく雄大なるこの大地に於いて、よもや再びかたがたと相まみえられようとは!
 これぞ砂海に一粒の砂金(いさがね)を見出すが如し! まさに不思議の業、神変霊異と申すしかありますまい!」

やたらと通るイケボと共に、三人の後ろから青年がひとり歩み出てくる。
腰まであるサラサラの長い白金色の髪、これぞイケメンとでも言うべき整った顔立ち。
動きやすく改造された白灰色のローブを纏い、手甲とブーツを装備し手にはバロールのものと同じトネリコの杖を持った美丈夫。

『聖灰の』マルグリット。


【ジョンに身の上話をする。ガザーヴァは明神と問答。
 襲撃者による狙撃と火災、マル様親衛隊登場。『聖灰の』マルグリットと再会】

12ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/03/29(日) 23:02:55
--------------------------------------------------

「ほんとうにどんっくさわねアンタ!」

地面に叩きつけられた僕を見下ろす少女が一人。

「そんな事いったってこんなのかてっこないよ〜」

「ジョン!女の子に投げられて悔しくないわけ?あんた本当に男?さっさと立ち上がりなさい!」

彼女は父と母の知り合いの一人娘で、武術で名を上げた家の一人娘。
彼女の才能は小学生の時点で大人を遥かに超え、倍の身長・体重の僕を軽々と投げ飛ばすほどだった。

「いたいのもうやだよ〜」

一方この頃内気で、日課以外の運動がそれほど好きじゃなかった僕。
体は成人男性の平均程大きいが、彼女以外の友達を作れず、体ばっかり大きくて小心者・・・それがこの頃の僕
痛い事なんかキライだったし、戦うという行為なんて論外だ。

「はあ〜あ・・・私もあんたくらい体がおっきかったらな〜」

「僕も君ほど才能があったらすこしはこの内気な性格もなおるのかな・・・」

彼女は常にトップにいたが、体の成長と共にそう遠くない内に身体的な差で抜かれる事を予見していた。

「うるさい!あんたが才能に目覚めたら私の練習台にならないでしょ!」

「や〜め〜て〜よ〜!!!」

何度も畳に叩き付けられ!痛くはないが小さい女の子に一切の抵抗ができず投げられているという
精神的ダメージが限界に達しそうなそのとき・・・!颯爽と救世主が!

「ワヒューン」

「・・・?犬?」

ぐったりしている僕の目の前に変な泣き声の犬が現れる。

「あ!こら部長!ここには入っちゃいけないっていったでしょ!」

「・・・ヘッ」

主人に怒られているのにこのふてぶてしい態度・・・。

「っていうか部長って名前?えーと・・・このダックスフンドの・・・」

「コーギー!この子の種類はコーギー!見た目からして全然違うでしょ!?どうやったら間違えるわけ!?
 そしてこの子の名前は部長って名前!こいつすっごく偉そうでしょ?だから部長!」
「ワヒューン」

世の中の部長は偉そうにしているという偏見オブ偏見、そして致命的なネーミングセンス。

「いやこれネーミングセンスないなんてレベルじゃ・・・」

「へえ・・・?まだそんな生意気な事言えるほど余力あるんだ?じゃ休もうと思ったけどもうちょっと付き合ってもらおうかしら?」

「や〜め〜て〜〜〜!!!!」

「うるさい!その腐った根性叩きなおしてやるわ!」

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13ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/03/29(日) 23:03:15

「それで君に何回も投げられて・・・同情した部長に止められてさ・・・
 お前には才能も足りなければ度胸もない!あたしを超える才能と度胸を身につけなさいって!できればアンタは---」

僕は目の前にいる彼女の成れの果てに向かってずっと話しかけていた。
当初は目の前にいるという事に動揺し、錯乱していたが・・・今はもう馴れてしまった。
最初こそ喋っていたがそれからというもの、一切喋らずしかし僕の視界から外れずを貫いている。

>「ジョン、遊びに来たよ〜」

皆頻繁に様子を見に来てくれる。
その優しい心が僕を冷静にしてくれる・・・でもそれと同時に僕にその優しさが重くのしかかる。

>「ごめんね、こんなところに押し込めて。ジョンも外の空気を吸いたいと思うんだけど……もう少しだけ辛抱して。
 アイアントラスに到着して魔法機関車と合流すれば、こんなこともしなくてよくなると思うから……」

優しさは人を救う光になりえる・・・だが

>「もし、何かして欲しいことがあったら遠慮なく言ってね。外に出すことはできないけれど――
 それ以外のことなら、出来るだけ叶えるから!」

罰を求める人間には・・・これほど苦痛な物はないだろう。
なゆが優しさを僕にくれるたび、僕の淀んでいる心をほんのすこしだけ綺麗にしてくれる。

でも少しだけだ。
綺麗になったより倍の淀みになって僕の心を締め付ける。
許してなんてほしくない、ただお前なんていらないと、お前なんて居なければいいと言ってほしかった。

>「……どうして、僕のことを見捨ててくれないんだろう。
 どうして、こんなに世話を焼くんだろう。いつ暴走するかもしれない僕のために……
 って。思ってる?」

なゆが優しい言葉を言うたびに僕の心が綺麗にそして壊れていく。
優しい言葉に異を唱えることすらできずに・・・

>「ジョンは言ったよね。アコライトで――
 旅に僕は必要ない、って。
 それは違うよ。わたしたちの旅にあなたは必要なのか、それとも必要じゃないのか。
 決めるのはあなたじゃない……わたしたちだよ」

優しさは、時にどんな凶器よりも鋭いという。

>「それにね。ぶっちゃけちゃうと、わたしはジョンのためにこうしてる訳じゃないんだ。
 わたしは、わたしのためにジョンを助けようと思ってる。
 アコライトでエンバースが言ってた。マホたんはわたしたちを守るため、守備隊のみんなを守るため、命を懸けてもいい……。
 そう考える自分のため、自分の望みのために死んだって。
 わたしもそう。あなたを助けるため、出来る限りのことをしたい。全力を尽くしたい。
 そう考える自分のため、自分の望みのためにそうするんだよ」

時に、どれだけの現実よりも酷で、地獄より激しい痛みに苛まれると。

14ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/03/29(日) 23:03:30
>「……わたしね。お母さんがふたりいるんだ」
>「ひとりは、わたしを産んでくれたお母さんで……もうひとりは、わたしを育ててくれたお母さん。
 わたしは……どっちのお母さんも、とっても好きだった」

「・・・とても素晴らしい人だったんだろうね」

>「一緒にいるときは、おばさんって呼んでたけど。
 心の中では、ずっとお母さんって呼んでた。
 お母さんはきれいで、優しくて、でも時々厳しくて、柔らかくて、とってもいいにおいがして……。
 一緒にいるだけで幸せだった。わたしの憧れだった。
 わたしは将来きっと真ちゃんと結婚して、お母さんは本当にわたしのお母さんになるんだ。
 誰に気兼ねもしないで、お母さんって呼べるんだって。ずっと楽しみにしてたんだ――」

>「真ちゃんは不良になってて、おじさんには仕事があって。雪ちゃんはまだ小さくて――
 お母さんの看病ができるのは、わたしだけだった。
 わたしはできる限り時間を作って、お母さんのお見舞いに行ったよ。お医者様にお願いして、宿泊許可を貰って。
 病院からそのまま学校へ行ったこともある。
 大変だったけど……でも、それでよかった。少しでもお母さんと一緒にいたかった。看病したかった。
 その苦痛をほんのちょっぴりでも、取り除いてあげられたなら……そう、思ってた」

>「お母さんね……わたしの前じゃ、絶対に苦しいとか。つらいとかって言わないんだよ。
 投薬の副作用で、のたうち回りたいくらい苦しいはずなのに。死にたいくらい痛いはずなのに。
 わたしの顔を見たら、決まってこう言うの……『なゆちゃんの顔を見たら、元気になっちゃった』って……。
 浅い呼吸のままでね……」


なゆは辛そうにその当時の事を語る。
その顔を見ればわかる・・・その人がいかになゆに救われたのか。
優しさがない人間にはこんな顔はできないだろうから・・・。

>「でもね――わたしは言えなかったんだ。『お母さん』って――お母さんは、わたしのことを娘って言ってくれたのに。
 わたしにもお母さんって。そう言って欲しかったはずなのに。
 わたしは言えなかった……あんなにも、お母さんの本当の娘になることを望んでいたのに……」

>「お母さんって呼ぶべきだったのか、それとも呼ばない方がよかったのか。
 あのときのわたしは、答えを出せなかった。今も出せない。
 でも――これからまた同じような状況になれば、ひょっとしたら。答えが出せるのかもしれない。
 だから、わたしはこれからも人を助ける。お母さんが望んだように。わたしが望むように。
 ……ジョン、わたしがあなたのことを見捨てないのは、そういう理由だよ。
 わたしはわたしのことしか考えてない。
 単なるエゴで、あなたを救って。気持ちをすっきりさせたいだけなんだ」

だからといって悪人まで助ける必要はないだろう。
僕みたいな悪人を・・・。

15ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/03/29(日) 23:03:48
>「わたしの力で誰も彼も救おうなんて、そんな神さまみたいなことを考えるほど自惚れてはないけれど。
 でも、このまま困っている人たちを助けて。出来る限りの、救える限りの人たちを救っていければ。
 何かを見つけられる気がする、何かが分かる気がする……。
 それはまだ、どんなものかさえ分からない。見当もつかないんだけど。
 それでも絶対あるはずなんだ。
 わたしの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』としての戦いは、わたしの気持ちにケリをつける戦いでもあるの。
 付き合ってもらうわよ……ジョン。最後まで、わたしのこの戦いにね。
 ドロップアウトなんて、絶対許さないから!」

>「なんか、わたしのことばっかりベラベラ喋っちゃってゴメン! 退屈だった?
 わたしそろそろ戻るね。休憩とか言ってぐうたらしてばっかりだと、エンバースに怒られちゃう。

「まってくれ」

立ち去ろうとするなゆを引き止める。

「僕に・・・こんな事言う資格はないが・・・」

「親が子の為命を捧げる事はあっても、子が親の為に命を捧げる道理なし・・・だ」

「君がその人の事を本当に母親と思っているなら・・・縛られるな。
 その人だってなゆを悩ませる為に、縛るために言ったんじゃないと思う
 完全に忘れろといってるわけじゃない、だがそれに悩み、縛られ続けて危ないことする必要はない」

「親は子を命掛けで守る義務があるし・・・子供には親に心配させない義務がある」

一つの考えに縛られる程危険なものはない、それも母親同然の人に関してなら尚更だ。
言葉は人を強くする無限の可能性を秘めている。だが同時に強烈な呪いになる事を僕はしっていた。

「・・・すまない・・・出すぎたことを言った・・・所詮人殺しの言葉だ・・・聞き流してくれ」

軽く片手を振ると、なゆたは出て行った。

なにやってるんだ俺は・・・明かりがついた場所にいるなゆと
道を踏み外し、戻れないとわかっているのにそれでも元の道に帰ろうとする愚か者の僕。

絶対相容れない存在のなゆに・・・僕が偉そうに・・・。

正直にいえばいつでもこの場から逃げ出すことはできる。
バロールのかけた封印も半分解けているし、なんなら自力で全部解除できるだろう。

僕が今それをしない理由は・・・彼女だ。視界の端に必ず存在し、僕が逃げ出そうとするとそれを阻止しようとする。
かといって最初のようになにかを話すわけでもなくただ視界の中を移動したり、ただじっとしていたり。

「わかるだろう?なゆの明るさを、彼女のような子の近くに僕みたいな危険物はいらないんだ
 だから僕を解放してくれ・・・頼むよ・・・」

彼女は実態のない僕がみている幻覚だ。
だから彼女を無視するのはこの場所を静かに抜け出すより遥かに簡単だ。

でも僕にはそれをする度胸は・・・ない。
彼女をもう一度・・・どうにかするなんて事は・・・。

16ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/03/29(日) 23:04:08
少し時間が立った後、異変が置き始める。

「・・・焦げ臭い?」

なにかが燃えている臭いがするが、少なくとも中にあるものが燃えているわけではないようだ。

「なゆ!おーい!なにかあったのか!?なゆ!」

>「狙撃を受けてる……!」

「なっ・・・!?」

外の景色を直接みていないのでわからないが・・・狙撃されているという事を見晴らしがいい場所。
そしてこげた臭い・・・周りに燃えやすいなにかがある状況。

狙われるべくして狙われた状況という事か・・・。

「なゆ達より僕のほうがスナイパー処理に慣れている!僕がでる!許可をくれ!」

当然なゆ達からの許可の返答はない。
内心舌打ちをする。僕なら弾丸ではなく矢なら撃ち落しながら前進できる自信がある。
完全に接近することはできずとも、体勢を立て直せる時間くらいは稼げるだろう。

くそ・・・許可なんて必要ない・・・!いくしかない!

>「……な……んて、こと……」

飛び出した僕が・・・見たのは・・・巨大なスライム。

「これは・・・ポヨリンじゃない・・・?」

しかし周辺の火を鎮火している様子を見るに敵ではないだろうが・・・。

>「自分たちがたまたま通りかかってよかったっスね。恩に着て欲しいっス」

>「だよねだよねぇ〜☆ ウチらがいなかったら、今頃死んでたんじゃなぁ〜い? キャハッ☆」

なんだがとってもうざい・・・もといとっても個性的な女性3人組が現れた。

顔の確認だけしたジョンは中に戻り様子を伺う。

>「自己紹介がまだだったわね。私は悠木沙智(ゆうきさち)――ハンドルネームは『さっぴょん』よ。よろしくね」
>「ウチは柳沢りゅくす☆ ハンネは『シェケナベイベ』! シクヨロ☆」
>「そして自分が佐野喜奈子っス。ハンドルは『きなこもち大佐』。三人揃って――」
>「「「マル様!! 親衛隊!!!」」」

やっぱりとってもうざい・・・もとい非常に個性的な彼女達が自己紹介をする。

とってもうざい・・・いや能天気な・・・いやノータリンなこいつらが今までこの世界で生きてこれたのか・・・。
女性は男性よりも生存率は高いとは思う。理由はちょっとゲスだが男性より用途が多いから。
しかし、ノータリンな・・・少しオツムが足りないこいつらが上手く世間を渡っていけるとは思えないし・・・いや
あえてやばい奴を演じて身を守っている説もあるか・・・?。
たしかにアコライトの兵士もふざけていたけど根はマジメだったし・・・。

ジョンがどこまで信用していいのか悩んでいるその時。

>「おお……、これは全知全識なる智慧の神の御手か、あるいは叡知の頂に座す我が賢師の御導きか!
 神の掌に等しく雄大なるこの大地に於いて、よもや再びかたがたと相まみえられようとは!
 これぞ砂海に一粒の砂金(いさがね)を見出すが如し! まさに不思議の業、神変霊異と申すしかありますまい!」

やっぱりこいつらを信用するのはやめようと決心するのだった。

17ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/03/29(日) 23:04:26

「変な奴を信仰する変な奴ってそれはもう変な奴でいいのでは?」

と思わず周辺の身内に聞こえてしまうほどの大きな音量で零れてしまうほど。
ジョンにとってとってもうざい4人組はどうでもよかった。
どうでもいいというか係わり合いになりたくないタイプだった。

ちょっと混乱してしまったが・・・敵であればすぐ制圧する必要があるし、味方であるというなら適当に同調しておく。

「なあ!なゆ!煙が充満して結構辛いんだ!一回外にでてもいいか?」

見たところ3人+一人は対術に関しては素人であるようだし、なにかあったら直ぐ制圧するためにも近づく事にする。

「ゲホッゲホッ」

わざとらしい演技をしながら外にでる。

「失礼しました・・・僕の名前はジョンアデル・・・気軽にジョンとお呼びください
 こちらは相棒の部長です。ちょっとふてぶてしい奴ですがかわいい子ですよ、ふかふかです」

営業モード全開で女性陣に近づいていく。
たとえ嫌いな人間であろうと愛想よく立ち回る
友達がいない期間がながかった僕が身に着けた表面上だけでも仲良くするテクニック。

嫌いな奴に嫌いだ。というのは簡単だ・・・だがそれではそれ以上利益も、情報も手に入らない。
情報やコネは武器になる・・・特に日本という国や・・・この世界では・・・。

マホロの時はついカッとなって対立してしまった・・・。
それを反省し、今回は最初から営業モード100%でいく作戦だ。

今こそバロールにもらった最強の兵器を出すときがきた・・・!
バロールをも唸らせた・・最強の兵器・・・それは・・・!

「お嬢様方、お近づきの印にこれをどうぞ。王都で話題のケショーヒンセットです。
 僕達のしっている化粧品とはちょっと違う物ですが・・・効果は間違いないですよ!あのバロールもみとめた品です」

実際はバロールはケショーヒンを伝手で調達してくれただけで認めた事などないがそんな事は関係ない。
だが知っている有名人が認めたと聞けばそれだけでなんかいい品感がでる。

完璧だ!そうジョンは思っていた・・・しかし!
ジョンは長いアイドル生活で基本的な事が抜けていた!
親しくない人間からのプレゼントは割とガチで重いということを!

しかもそれが軽い物ではなく高そうな瓶に入っているようなケショーヒン(化粧品)セットなどという
ちょっとお高めな物は人によっては普通に嫌がられる事なのだと!

「?どうしたんだみんな?」

たとえ周囲からこいつまじかよ・・・という視線を送られてもまったく理解できないのである!
なぜなら基本的な事をわかっていないから!プレゼントすれば泣いて喜ぶが基本のアイドル生活基準なジョンには!

「ニャー・・・」

「?」

【ジョン・適当な理由をつけて外に
 営業(アイドル)モードフルパワー
 

 もし敵だった場合直ぐに始末できるように4人に接近】

18カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/01(水) 00:08:19
「ジョン君、なんか久しぶりだね」

カザハは出発して最初の野営の見張り(ジョン君の見張りを兼ねている)の時、ジョン君に話しかけた。
ジョン君は出発までずっと地下牢に入っており、幻覚に苛まれていたらしい。
なのでこうしてゆっくり話すのは祝勝会の時以来となる。

「観念して大人しく連れてってもらった方がいいと思うよ。
ゲーマーの矜持だか何だか知らないけど超お人好し頑固者が3人も揃ってるんだもの。
逃げ出したところで地の果てまで追われる羽目になりそう」

カザハはそう言って苦笑する。

「ボクは違うよ? 今までなんとなくいい奴っぽく見えてたとしたら前の飼い主の意思を投影してただけだ。
もともとこっちの世界のモンスターだったんだ。我に返ってすぐ脱走しようと思った。
異邦の魔物使いなんてやってられるか!ってね。でも……出来なかった。何故なら――」

解放《リリース》をタップして私を解放する操作をして見せる。

「スマホが呪われてるんだもん! ほら見て! 出来ないでしょ!?」

【いつもうちのバカ達がお世話になっております】

「呪いは黙ってて! つーかお前誰だよ!?」

また怪文書が出てきた。誰なんでしょうね、本当に!

「そんなわけで……少なくともエーデルグーテまでは一緒に行くよ。
あの3人に乗せられてだとしても最終的にはボクのことを助けてくれたでしょ?
だから今度はボクが乗せられてみるのも悪くないかなって」

見張りが終わると、私はカザハに抱き枕にされた。

《まだ脱走するつもりなんですか?》

「分かんない……」

19カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/01(水) 00:10:12
===================================

>「おるんかーーーーーい!!!」

「明神さん、どうしたの……あ゛あ゛ぁあああああああああああああああ!!」

いきなりずっこけながら登場した明神さんに、努めて平静を装って反応しようとするカザハだったが、
その手に置き手紙が握られていることに気付くとローマ字入力では表現できない奇声をあげた。

「カケル、食べて食べて今すぐ食べて!」

あろうことか投げつけられた手紙を私に食わせて証拠隠滅しようとしてきたので断固拒否した。
カザハがブツを処分し忘れているのに気付かなかった私もうかつだったけど!

《白ヤギさんじゃないですよ!? モンスター虐待反対!》

>「いいか、この先絶対に、こんな書き置き一つで消えるんじゃねえぞ。
 お前が飽きようが嫌になろうが知ったこっちゃねえ。
 俺の伝説を歴史に刻むのは、お前だ。ガザ公がそうであるように、お前の代わりなんかどこにも居ねえんだ」

「…………」

カザハは言われた言葉の意味を噛みしめるかのように明神さんを見つめ返した。
無言の数秒間が流れ、一陣の風が吹き抜けていく。そして――

「ずきゅーん!」

謎の効果音を口で言いながら胸に手を当てて大袈裟な動作で膝から崩れ落ち、そのまま正座した。
一瞬情緒ありげな雰囲気だったのに何その意味不明なリアクション! 急所を撃ち抜かれたんですか? クリティカルヒットですか!?

>「あとなぁ、前からお前には言いたいことがあったんだよ。
 昨日なんやかんやで結局言いそびれちまったから今言うぞ、謹聴しとけ」

カザハは正座したまま有難いお言葉を拝聴する。

>「……おかえり、カザハ君」

「た、ただいま……!」

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20カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/01(水) 00:12:59
「おかえりってどういう意味だったんだろう……」

(どこまで察してるんでしょうね……)

もちろん単純に向こう側に行きかけて帰ってきた、という意味かもしれないが、それ以上のことを直観的に理解しているのかもしれない。
ガザーヴァが体を自由に動かせなかったのと同様に、カザハは何も自分の意思で考えることを許されなかった。
それがガザーヴァの精神干渉に対する唯一にして最強の防衛策だったからだ。
何かを考えようものならすぐに隙を突かれて乗っ取られていただろう。
カザハは胸のあたりを押さえて大真面目に言った。

「この辺が変な感じだ……。どうしよう、心筋梗塞で死ぬかもしれない……!」

(そこまで歳じゃないですよね!? いや、こっちの世界ではガチで年寄りだったか! ……じゃなくて!)

大変だ、別の意味で致命傷かもしれない!
あれ本当にクリティカルヒットしてたんですか!? ふざけてるようにしか見えませんでしたよ!?

「じゃなかったら何?」

(いや、なんでもないと思います!)

こんな感じで旅は何日か続いた。

「あぁ……逃げたい……」

アコライトを出発してから何度目かの逃げたいである。

「静かにしたら息出来なくて死ぬの? マグロなの!?
しかもなんでグラフィックが全身鎧か怪しからんヘソ出しファッションの両極端の二択なの!? 風紀が乱れるでしょ!」

《ヘソ出しはNGで絶対領域はOKなんだ……》

カザハはガザーヴァの騒々しさが耐えられないらしい。
私達は幸いにも哨戒担当だから行軍中は直接は騒がしさの被害に遭わなくて済むのが救いだ。
1巡目で何回も会ってたからああいうキャラなのは知ってたけどまさか素で常にあの調子とは思いませんでした。
敵だった時は全くの演技ではないにしてもちょっとテンション上げてキャラを大袈裟に演出ぐらいはしてると思ったけど甘かった。
でも、狂暴性はともかく落ち着きの無さという点では昔のカザハも似たようなもんだった気がする。
元飼い主に「ちょっとは静かにしんさい!」ってよく叱られてたっけ。
昔の自分を見ているようでいたたまれない説かなり信憑性あるけど言ったら怒られそうだから黙っておこう。

21カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/01(水) 00:15:21
「あー、あー、マイクテストマイクテスト。エンバースさん、聞こえるー?」

糸電話のようなことが出来る風属性のスキル《ウィンドボイス》で戦闘班と音声を繋ぎ、ジョン君が敵襲の気配を察する前に敵を排除する体勢を作っている。
モンスターとのエンカウント率は極端に低く、弱いモンスターにたまに遭遇する程度だ。
そしていつの間にか夕方になり、この日の行軍も何事もなく終わると思われた。

「ああ、夕日が綺麗だなー」

>「……ねぇ、なんか焦げ臭くない?」

「……って燃えてんじゃん! 誰だタバコをポイ捨てしたのは!」

>「消火しなくちゃ、早く! みんな、炎がこれ以上燃え広がらないように食い止めて!
 わたしに時間をちょうだい、ゴッドポヨリンで一気に消し止めるから!」

「カケル、《カマイタチ》!」

風属性の私達はどっちかというと炎を燃え広がらせる方は得意だが、その逆となると地味に草を刈るぐらいしか出来ることはない。
ゴッドポヨリンさんなら消し止められるかもしれないが、召喚までに時間がかかるのが難点だ。
と、目にも止まらぬ閃光が一瞬だけ至近距離を通り過ぎていったような気がした。

「……ん?」

カザハは右頬に手を当てて、その手をまじまじと見た。

「ぎゃあああああああああああああ!? 血が出てるぅうううううううううう!
一歩間違えたら死んでるじゃん! もう嫌だぁああああああああああああ!!」

>「狙撃を受けてる……!」

「みんな麦の中に隠れて! 全員でゴッドポヨリンさん召喚の援護をするんだ!」

私達はなゆたちゃんの横に降り立ち、カザハは地面に降りて伏せた。
延焼範囲は広く、地味に消火活動をしたところで焼石に水だろう。
一刻も早くゴッドポヨリンさんを召喚する方に注力した方がいいかもしれない。
カザハがなゆたちゃんに【ヘイスト】をかけようとしたときだった。

>「スキル! 『急転直下の大瀑布(エンジェル・フォール)』!!」

G.O.D.スライムが現れ、大量の水を撒き始めた。

「あれ? ゴッドポヨリンさん意外と早かった……?」

が、どうやらポヨリンさんではないようで。

22カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/01(水) 00:16:22
「え、じゃああのスライムは誰……?」

>「危なかったわね。怪我はない?」
>「自分たちがたまたま通りかかってよかったっスね。恩に着て欲しいっス」
>「だよねだよねぇ〜☆ ウチらがいなかったら、今頃死んでたんじゃなぁ〜い? キャハッ☆」

全体的にテンション高めな三人娘が登場。
リーダーっぽいセンターを左右が固めるそのスタイル、水戸黄門と助さん角さんですか!?
なゆたちゃんが若干引き気味にお礼を言う。

>「あ……はい……。その、危ないところを助けてくれてありがとうございます。えと、あなたたちは……」

>「見てワカるっしょォ〜? ウチらも『異邦の魔物使い(ブレイブ)』! この世界の危機に召喚されたの☆」
>「ま〜た活躍してしまったっス。向かうところ敵なしっスね、自分ら」
>「自己紹介がまだだったわね。私は悠木沙智(ゆうきさち)――ハンドルネームは『さっぴょん』よ。よろしくね」

あ、さちだからさっぴょんなのね。

>「ウチは柳沢りゅくす☆ ハンネは『シェケナベイベ』! シクヨロ☆」

ハンネはともかくりゅくすって本名なんですかね……? いわゆるキラキラネームというやつなんでしょうか。

>「そして自分が佐野喜奈子っス。ハンドルは『きなこもち大佐』。三人揃って――」

なるほど、きなこだからきなこもち大佐……待って、なんか嫌な予感がしてきた。

>「「「マル様!! 親衛隊!!!」」」

>「おお……、これは全知全識なる智慧の神の御手か、あるいは叡知の頂に座す我が賢師の御導きか!
 神の掌に等しく雄大なるこの大地に於いて、よもや再びかたがたと相まみえられようとは!
 これぞ砂海に一粒の砂金(いさがね)を見出すが如し! まさに不思議の業、神変霊異と申すしかありますまい!」

「マル様親衛隊がリアルにマル様の親衛隊してるだと……!?」

>「失礼しました・・・僕の名前はジョンアデル・・・気軽にジョンとお呼びください
 こちらは相棒の部長です。ちょっとふてぶてしい奴ですがかわいい子ですよ、ふかふかです」

ジョン君が部長さんを駆使して営業活動を始めた。部長さんは女子受け抜群のはずだ。

23カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/01(水) 00:17:30
「デリントブルグに寄ろうと思ってたんだけどいきなり火事に巻き込まれて……。助かったよ。
君たちはどこに行くの? もしかして聖地巡礼? ボク達この前アコライト防衛戦に勝ってきたんだ。
今も超頼りになるブレイブが守ってくれてるから君達の聖地はしばらく安泰だと思うよ」

1巡目で味方だった者も、今回も味方とは限らない。
このタイミングで助けに現れたということは、少なくともマリスエリスと繋がっていることはなさそうだが……。
マルグリットが今どの勢力に属しているか等の情報を聞き出せたらいいのだが、マル様親衛隊は悪名高い過激派集団でもある。
マル様本人と話したら怒られそうだし、明神さんのプレイヤーネームがバレでもしたら乱闘騒ぎ待った無しだろう。
カザハはきなこもちさんの足元にいるポヨリンさんより大分偉そうなスライム(スライムヴァシレウス)をまじまじと見る。
スライム使いのきなこもちさんにターゲットを定めたようだ。

「立派なスライムだね……!
ボクらのクラスじゃなくてパーティーのリーダーは元祖ゴッドスライム提唱者のモンデンキント先生なんだ!
折角だから一緒に記念撮影とかどうかな?」

モンデンキント先生の威光でまずはスライム使いから陥落させる作戦ですかね!?

>「お嬢様方、お近づきの印にこれをどうぞ。王都で話題のケショーヒンセットです。
 僕達のしっている化粧品とはちょっと違う物ですが・・・効果は間違いないですよ!あのバロールもみとめた品です」

ジョン君がいきなり文字通りの営業を始め、暫し微妙な沈黙が流れた。
これ絶対試供品をたくさんあげておいてから最後に高額な商品を買わせる手口だ……。

>「?どうしたんだみんな?」
>「ニャー・・・」

「ガンダラの酒場のマスターにでもあげたら喜ばれるんじゃないかな?」

そう言ってケショーヒンの話題を終了させようとしたカザハだったが、気付かなくていい事に気付いてしまった。

「……待って。それってもしかしてガチで魔法のアイテムだったり? ちょっと面白そう!」

適当にセットの中の一つを取ってインベントリの中に入れてしまった。

「効果を実演してみるから見ててね! ケショーヒン使用、対象ジョン君と明神さんとエンバースさん!」

《何故に男性陣を対象にする!?》

なんか魔法っぽい謎エフェクトが発動しちゃってるし……! どうなっても知りませんよ!?
エンバースさんに至ってはこれこそまさにエンバーミングってか。誰が上手い事言えと。


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