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幕間

1名無しさん:2019/07/25(木) 22:39:10
 数多の物語の、他愛の無い空白。

2名無しさん:2019/07/25(木) 22:40:09
元旦。



「羽根突きをしましょう!」


黒百合学院生徒会室には、既に何人かの生徒会メンバーが待機していた。
そしてそこにいる全員が、少し不審に思っていた。いつもそこにいるはずの、藤宮明花の姿が見えない。
生徒会長は、毎朝毎日役員の誰よりも早く登校し、生徒会室に向かい、山のように積まれた書類を処理しながら魔法少女として、骸姫達への対策を練り、各部隊と情報を共有し……と。
過労死すら疑う人外じみた仕事量を、誰よりも早く、誰よりも遅くまで、朝から晩まで続けるのが日課であった。

そして、透明な少女、ゲームマスターと呼ばれる盤面の支配者と共に本振袖姿で、藤宮は現れた。
その手の中には紙袋。既に羽子板の取っ手がはみ出ており、傍らではゲームマスターが海苔を巻いた餅に齧りついている。上手く噛み切れず、びよんと伸びているが。

――――最初に嫌な予感を抱いていたのは、ヘレネ・ザルヴァートル・ノイスシュタインだった。

「嫌だ……」

こういう時、集中して被害に遭うのは大体ヘレネだった。
詳細は省くが、藤宮明花に対して一度完全敗北を喫し、以降忠誠を誓う代わりに"生かされている"状態である以上、彼女に対しては強く抵抗できない身であった。
思わずぽろりと出た拒絶の意思は、ほんの些細な抵抗だった。

3名無しさん:2019/07/25(木) 22:40:21
「此花さん、今現在手の空いている生徒会役員は?」

ヘレネの言葉を意にも介さず、もうひとりの生徒会役員へと視線を向ける。
正確には、二人。此花立夏と、来栖宮紗夜子――――両者ともに黒百合学院の制服を身に纏っている。
此花は眼鏡を掛けた完全オフモード、来栖宮に関しても、此花の押す車椅子に乗り、膝に毛布をかけて、すっかりと油断しきった様子で備え付けのテレビを見ていたところだった。

「え、あ、えっと、今は……」

「如月さんはばーちゃるゆーちゅーばー用の動画撮影、高辻先生は多分泥酔して寝ているのでしょう。
 岩畔さんと刀坂さんは二人で山階宮さんはその付添、待機状態になっているのはここにいる私達のみ、ですが……」

狼狽える此花に変わって、来栖宮がその質問に答え、それを聞いた藤宮が暫し考える様子を見せる。
その隙に、ヘレネがそろり、そろり、と背後から抜け出ようとしていたが。その襟首を、逃すまいと藤宮が手を伸ばし、容赦なく捕まえる。

「まあいいでしょう。それではヘレネさん、行きましょう。藤宮流羽子板術の妙技、お見せしましょう!」

「待て待て待て待て待てなんで私だけなんだふざけんな!!! せめて、せめてそいつらも連れて行けって!!!」

ならばと必死の抗議である。道連れは多いほうが良いし、藤宮の欲望の発散にしても対象が拡散していたほうが負担も減るだろうと。

「いえ、私は身体が弱いので……ごほっ、ごほっ」

「私は紗夜子のお世話をしなきゃいけないから……」

「お餅」

然しそれも虚しく、一人を除いて尤もらしい理由をつけて、それを回避するのであった。
わざとらしい病弱アピール、その咳に凄まじくイラつきながらも、ただ餅を食っているだけの少女に理不尽を感じながらも、引き摺られていくヘレネ。
実に軽やかな足取りで、ゲームマスターがその後ろを追い掛けていく。餅を頬張りながら。

4名無しさん:2019/07/25(木) 22:40:37
「――――明花、とっても楽しそう」


中庭に行くまでの道の中で、その顔を見上げながらそうゲームマスターは呟いた。
藤宮明花の表情には、自然な笑顔が浮かんでいた。作ったものでも、貼り付けるものでもない……少女が有する、ごくごく平凡な笑いであった。
その指摘に対して、ほんの少しだけ驚いたように眉を顰ませながらも。すぐに、また透明な少女へと藤宮は笑顔を返す。


「ええ、とっても楽しいです。見てください、山本さんに作らせた墨汁です。水では絶対落ちない特別性ですよ」




「――――――――ふ、巫山戯んなぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」



ヘレネの絶叫は虚しく、静かな黒百合の校舎へと響き渡るのであった。

5名無しさん:2019/07/25(木) 22:40:52
外伝 魔法少女鏖殺都市『瀬平戸』 特別編 終

6名無しさん:2019/07/25(木) 22:51:07


白く、白く続いていく世界。異音を放ちながら奏で続けられるピアノ。無限と錯覚するかのように、彼方まで続いている白い空間。
再生者(リジェネーター)と呼ばれる者達が、集まる場であった――――今回、そこに存在しているのは三人。
リチャード・ロウ、ヘレネ・ザルヴァートル・ノイスシュタイン、清宮天蓋。ピアノを引く何者かの前に、或いは坐して、或いは立ち竦んでいる、そしてその目前には。

白い空間、そこに形作られた椅子に思い切り腰を下ろして、机の上にどっかりと脚を乗せて、マゼンタの一眼レフカメラを覗き込む。
彼の前に立つ、合計四人にシャッターを下ろした。フィルムを送るその作業を、鼻歌と共に、暢気にしているばかりであった。

「……それで、誰かこの方をご存知で」

リチャード・ロウがそう言い出すが、全員がそこで顔を見合わせる。
全員が全員、彼が何者であるのか理解してなかった。……此処に居るものが知る由もなく、彼は唐突にそこに現れた。誰が認知するでもなく。

「再生者である私達が、認知しないまま現れた……私達の仲間である様子も見られませんが……」

「では、どうやって此処に至ったのか。……君は、一体"何者"か」

顔を上げるでもなく、首から下げたカメラを男は弄り回している。
だが、聞いていないわけではないようだった。その返答は、即座にとは言わずとも、大きくは間を空けずに帰ってくるのであった。

7名無しさん:2019/07/25(木) 22:51:22

「そいつに呼ばれたんだ」

不遜を感じさせる言葉であった。その言葉は、行動を伴わぬものであったが、"そいつ"が誰を指しているのかは全員、容易に理解できることであった。
ピアノをただ、ただ、引き続ける"それ"。他の者達がそうであるように、選ばれ、呼び出されたのであれば……"再生者"の可能性を持ち合わせているが。
先にヘレネがそう言及したように、そうではなかった。

「そうだな……存在としては、お前が一番近い。ま、近いというだけの話だが」

そして、ようやく顔を上げたのであれば、清宮天蓋の方向を指しながらそう言った。
だが、天蓋自身はそれを理解できなかった。彼自身、男との共通点を全く見出だせずに居た。彼以外も同様であった。彼は全く、この世界に異質だった。
そしてそれを、彼は……まるで自覚しているかのように、振る舞う。

「俺はお前達の敵でも味方でもない。ただ、この世界での俺の"役割"がある。それを果たす、それだけだ」

「役目、とは」

リチャードがそう問う。そしてそれに合わせて、演技がかって大袈裟な動きで男は机の上から足を下ろすと、胸元から一枚のカードを取り出した。
JOKER、そして奇怪な紋章が描き出された一枚のカードだった。
次に取り出したのは、赤色の宝石だった。球状で、首飾りのような形をしている。
そしてもう一枚、今度もカードであったが、先とは異なる。トレーディングカードゲームのそれであった。

8名無しさん:2019/07/25(木) 22:52:04

「お前達の中に、見覚えがある奴はいるか」

その問い掛けに、何れも黙りこくるのみであった。
その反応に、不満どころか、寧ろ当然だと言わんばかりに、何処か不遜な振る舞いを男は隠さない。

「まあ、そうだろう。これは……"混沌"から生まれて、"秩序"と共に消えていったものだ」

……その言葉には、どこか郷愁のようなものすら漂わせているものだった。
この中で、それをより強く感じたのはリチャード・ロウであった。それを否定してはいけないと、存在そのものが、そう識っているかのようであった。
不思議な感覚だった。

「……お前達にはお前達の物語がある。それは否定しない。寧ろ、良いことだ……だが、それ以前に"俺達"が在った。
 無数の物語へと、整えられていく、もっともっと前の時代。それは、お前達に関係は無いが……」

そこで彼は、一度言葉を区切った。終わらせた、というのが正しいかもしれない。
無駄な語りをしてしまった、と後悔をしているのかもしれない。ただ、理性が本心を留めたのかもしれない。不遜な態度が、感情を覆い隠すのであった。

「……お前達に俺達はもう、必要無い。お前達は、確かにお前達の物語を歩いている。
 だから、それを引き受けに来た。律儀なもんだ、放っておけば、忘れ去られていくだけだったのに」

そう言いながら、男は立ち上がった。背を向けると、その片手を掲げる。
白い空間に、現れるのは"オーロラ"だ。その向こう側には――――幾つかの、影が揺らめいている。
白く小さな魔法少女の影、紅い外套の英霊の影、薔薇の眼帯の人形の影、異能を打ち消す右手を持つ少年の影、艦船を纏った少女達の影、何れも……文字通り、"影"でありながら。

随分と昔、この世界に、確かに存在していた何者かの姿であった。

9名無しさん:2019/07/25(木) 22:52:15

そして、彼等へと向かい合うように、男はひらひらとその片手を振った。

「じゃあな、お前ら。"頑張れよ、これからも"」

そう言って、オーロラへと向かっていく。その背後に、リチャードが「待ちなさい」と声を掛けた。
背を向けたまま、立ち止まる。

「――――貴方は、何者ですか?」

二度目の問い掛けとなる言葉であった。
逡巡、暫し男は目を瞑り、考えた。それから、再度オーロラへと向けて歩み出し。


「……通りすがりの能力者だ。覚えなくてもいい」


そうとだけ言って、オーロラの中へと消えていく。
後には何も残らない。彼が机の上に並べていたものも、その存在の余韻さえも。


「……何だったのでしょうね、一体」


誰にともなく、リチャードはつぶやいた、それに反応を返すほどに、この場に集まった者達は親密なものでもない。
ただ、物語は何事もなく続いていく。願わくば、これから先――――いつまでも、何処までも、そうであることを願っている、誰でもない、誰かが。

10名無しさん:2019/07/25(木) 22:55:11
幕間 混沌より、愛を込めて 終

11名無しさん (ワッチョイ 5e85-0778):2019/11/04(月) 23:08:05 ID:iny/H3.E00
https://imgur.com/a/Z1Scgdb

12名無しさん (ワッチョイ 3d27-44b1):2019/11/14(木) 00:37:32 ID:ck7K2Gh200
https://imgur.com/a/WbVSBh9


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