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第三外典:無限聖杯戦争『冬木』
29
:
名無しさん
:2019/03/12(火) 23:02:45
「ふん、少々浅かったか」
右手に握り締めた輝く剣は、朱く染め抜かれていた。瞬きとともにその光に焼かれて、煙となって消えていった。
その刃を見下ろし、撫でる。
あの男は、自分を仕留め損なったことを確かに認識しているようであった。ならば、この僅かな時間の生存など、誤差でしか無いのだろう。
「如何に私の霊基と、令呪による強制力があれども、ムーンセルの拘束力には抗えない……」
流れ続ける鮮血を抑えながら、ゆっくりと這っていく。伝えないと、助けてもらわないと、近くには先輩がきっといるはずだ。
叫んで助けを求めたいが、そうしたならばきっと倒れ込んでしまうだろう。身体の真正面を、縦断するように刻まれた傷跡は、きっとそれに耐えられない。
這ってでも、廊下に出なければならない。死にたくない、死にたくない。そう思う一心で、教室の扉へと手を伸ばして――――
「――――とは言え、小娘一人を殺すなど訳無いが」
ずく、と。その腹を貫いて、串刺しにする剣。
一際大きく体が震えて、血を吐き出した。意識が遠退いていく。何が何だか分からない。誰も助けてくれる人はいない――――当然か。
いや、なぜ当然だと断言できる。それすらも分からない。記憶は靄のかかったように覆われていて、それすらも血飛沫に塗りつぶされていく。
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