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第三外典:無限聖杯戦争『冬木』

2名無しさん:2018/11/14(水) 22:54:59

そこには幾つもの棺が並び、彼方には既に聖杯の姿が見えていた。

けれども、籠目琉花という少女の身体は既に半身を崩壊させ、最早立ち上がることすら出来ずに、その戦いを虚ろに見上げているのみであった。
セイバーの身体が翻り、その英霊へと立ち向かっていった。幾つもの剣閃が煌めいて、無数の触手が尽く斬り落とされて、サーヴァントへと肉薄する。
その聖剣が振り下ろされるが、純白の槍がそれと打ち合った。幾度も幾度も剣と槍を重ね合わせ、斬り結び、それでもその刃が届くことはなかった。
最後に叩き付けられた穂先がセイバーの腹部を叩き、その身体が叩き付けられる。ヒツギをいくつも破壊しながら、その身体が転がっていき、それでも尚白銀の騎士が立ち上がる。

「……もう、いいんだ、セイバー。十分頑張ったと、思うんだ。私の終わりとしては、十分だから。君は、もう」

既に、敗北と消滅は確定している。ここまで崩壊してしまえば、霊子崩壊は逃れられない。
ここに至るまで、幾つもの命を踏み越えてきた。何度だって覚悟を決めてきた。その喉元に刃を突き立ててきた。その最後が、こうだというのは。
少し寂しく、少し悔しかった。セイバーにも申し訳ないと思っても、その少女に最早歯を食い縛る力すらも残されていないのだから、最早どうしようもない。
セイバーとの繋がりも薄くなっていくのを肌で感じとっている。見上げる先、聖杯の前に立ちはだかる、触手の怪物は……醜く、恐ろしい姿をしていた。

「数える程、六五五三五回目。今回も、ハズレか」

棺の上、そこに胡乱に座り込む神父服の男が、その光景を眺めてそう呟いた。
幾度も、幾度も、幾度も、繰り返された聖杯戦争の最果て。その最果ては、こんなものか――――何のために。何故、こんなことを起こし続けた。
ムーンセルは何時から狂い始めたのか。聖杯戦争はいつからこの形になったのか。この男の目的は……いや、そもそも。本当に、狂っているのか?
思考が結果に結びつきそうな感覚。けれども、どうしても、時間が足りない。最後の最後に至ってまで、自分の至らなさを呪いながら。

「……終わりでもいい、最後でも良い。ルカ。私は、貴女の戦いの証を……せめて、こんな終わりを認めないために!!

――――最後の令呪を。貴女の命を、私にください」

最後に一つ、残された令呪。月の聖杯戦争の生存権。これを失えば、ここに生きることすらも、叶わなくなるが。
このまま沈みゆくばかりなのであれば。彼女の言う通り……欠片ばかりの意味を、残す。そのくらいの我儘は、きっと許される。
それに。セイバーと共に歩んできた、色んな命を踏み躙ってここにいる自分が、最後の最後にすべて投げ出して終わるなんて、そんなことは……確かに、許したくない。
その手を掲げた、今は届かないその中枢へ。その聖杯へ。令呪が紅く光り輝いて、燃えるような感覚が自分を包み込んでいく。


「――――令呪を以て命じる。セイバー。この、聖杯戦争を――――」


この次の、もしかしたら次の次の、いや、次の次の次かもしれない。繰り返される聖杯戦争の最果てに、至ろうとする誰かが。
この世界の理を崩し、この世界の危機を崩し、そしてその聖杯を手に入れることができるように。その願いが、どんなものであれ、戦いの果てに叶えられるように。
霊子が虚数へと分解される。籠目琉花という存在が壊れていく。最後の最後、セイバーのその勇姿を見ることは終ぞ出来なかったけれど。その温かい手が触れていることは分かった。


そうして、自分は月の海へと溶けていく。余りにも広大な、そのリソースの中の一つへと。


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