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第一外典:魔法少女管理都市『瀬平戸』

1名無しさん:2018/04/25(水) 15:48:01
                                    魔法少女で在り過ぎる      ラッキークローバー         
          ルシフェル               ゲームマスター                   
                       少女境界   
                  剣鬼                          永劫回帰
               骸姫

                              魔法少女管理都市『瀬平戸』

                                                   正直な心
             大いなる終幕
                          斬殺少女
                                  輝ける黒百合

96名無しさん:2019/07/06(土) 17:21:02

柔らかな、朝の光が差し込んでくる。
死屍累々、皆思い思いのまま一つのベッドの中で折り重なって力尽きるように、泥のように眠りこけていた。
皆、ここに来てこうまで油断しきっていたのは初めてだった。曲がりなりにも、仲間とともに在る、という事実が人間らしい欲求を思い起こさせたのであろう。

――――――――最初に目を覚ましたのは、此花立夏であった。

戦闘に特化している以上、中でも特に変化というものに鋭敏であったのは、ここに居る皆が知るところであった。
つられて隣に眠る来栖宮紗夜子が目を覚まし、連鎖して残る二人が目を覚ました頃には既に、立夏は締め切られたカーテンを開いて、外の景色を映し出していた。
雛菊ひよりと天王寺ヨツバは、この光景を理解できなかったが、立夏と紗夜子にとっては鮮明とは言わずとも、思い出させる物があった。

「――――――――まさか、結界!?」

紗夜子がそういうのに、立夏は頷いた。
二人にとっては預かり知らぬものであった。魔法少女として、魔法少女ロワイヤルには存在しなかった……少なくともここにいる四人はそれを持たなかった。

「……瀬平戸出身の魔法少女だけが持つ、謂わば専用のバトルフィールド……でも、今は使えないはずじゃ……」

二人への説明も兼ねて、それを立夏が補足する。
そも、この現在の瀬平戸には汎ゆる平行世界の魔法少女と呼ばれた存在が集結している。本来であればひより達はこの世界にとって異常な魔法少女ということになる。
故に、預かり知らぬ魔法、或いは基本能力というものがあったとしても不思議ではない……事情を知らぬ以上は、そう認識する他になかった。

97名無しさん:2019/07/06(土) 17:21:17

「それだけ藤宮明花の力が強大だった、ということでしょうか。ともあれ……こうなれば、最早時刻は関係ありません」

魔法少女達の戦いは基本的に深夜に行われていた。
被害を出さないように、誰かを巻き込まないように、何より大半が学生である以上は昼間の日常というものが存在するからだ……それはここに来ても変わらなかった。
だが、今度は違う。結界を張れば、いつ何処であろうとも、周りに被害を出すことなく存分に戦闘を行える。いつでも仕掛けることが出来る。

「眠っている時間は無い、ということですね」

ひよりの言葉を皮切りに、そこにいる少女達が魔法少女へと変身する。
眼下には――――魔法少女兵と、それに混じったMG-AIE……それらが、ホテルの周囲をぐるりと取り囲んでいる。
既に場所は特定されている。直ぐにでも総攻撃は始まるのだろう。ならば先手必勝だと、オーネストハートはホテルの窓の縁へとその右足を掛けた。


「良いですか、目標は藤宮明花ただ一人。それ以外を相手する必要はありません――――作戦も変わらず


 行きましょう。我々アケラーレが、勝利する瞬間を!」


翻って、少女達は空を駆け出した。
異界の空を駆けていく。右とも左ともつかぬ空の下、少女達の心の内は、迷いなく、不思議と今までの何時よりも軽いものとなっていた。

98名無しさん:2019/07/06(土) 17:21:50

ドレスを着込んだ、歯車の女王。
規則的に動き続ける、正しく機械の如く、彼女は其処に在り続けた。今がその頂点であった。
黒百合学院……藤宮明花にとって、全てが始まった場で、全てを終わらせるべき場だった。その屋上に、坐していた。
だからこそ、魔法少女兵達を放ち、追い立てて、ここまで追い詰めるつもりだったが、少々予想外だったのは獲物の方から、こちらへとやってきたことだろうか。

「……御足労頂き感謝します、魔法少女の皆様方」

スカートの端を摘みながら、カーテシーを振る舞った。そこに漲り、そして迸る力に、魔法少女の四人は背筋を冷たいものが這い上がっていった。
感情や、恐怖心とはまた別の方向から来る本能を揺さぶるもの……目の前に在るのは絶対的な支配者だ、逆らってはいけない、自然の摂理として上に立っている存在であると。
だがそれでも、立ち止まろうとは考えなかった。その中でもオーネストハートは、自身を律し、貫き、一歩前に踏み出して、目の前の女王を睨みつけるのだ。

「今度こそ。貴女を倒します。これ以上、貴女に魔法少女を、貶めさせない」

その言葉に、くっ、と……女王の口元が綻んだ。傍らに立っている、無色透明の少女、ゲームマスターのそれとは比べ物にならないほどに表情は豊かだった。
或いは、わざとらしいほどに、とでも言うべきか。口元に片手を添えながら、然し嘲笑するような笑いを隠しきれていない様子であった。

99名無しさん:2019/07/06(土) 17:22:06

「魔法少女を、貶める? 貴女が一体、何を言っているのか……全く分かりません」

「理解なんて求めてません。ただ、私達は貴女を打倒します」

オーネストハートが、双剣を構える。それと同時に、各々また同様に得物を構えた。
刀、槍、剣と盾……何れも、今正しく彼女へと斬りかからんとするような意思を見せていたが、然し女王は銃を構える素振りすらも見せることはなかった。

「そうですか、ですが……私には、その前に少しやることがあるのです」

どうでもいいと、切り捨てるかのようにそう言った。
傍らのゲームマスターへと、女王が視線をやると、それを受けた彼女が小さく頷いて、一歩近付き、そしてその右手を差し出した。
眼の前の光景に気圧されているかのように、四人は動かなかった、或いは動けなかった。何が起こるのか、その場にいる誰もが、理解していなかった



「――――――――さぁ、私に、この魔法少女ロワイヤルの"ゲームマスター権限を譲渡しなさい"」



全員が驚愕した。
ゲームマスター権限の譲渡。この戦いが魔法少女ロワイヤルであると仮定するのであれば、それは絶対的な、正しく神の如き力を手に入れるに等しい。
それはゲームを平等に運営するというゲームマスターの力があってこそ成り立つもの。もしも明確に、意思があり、目的が在る存在に譲り渡されたと為れば。
何も考えなくとも、何が起こることは、分かるだろう。

100名無しさん:2019/07/06(土) 17:22:30


「――――させるものか!!!」

「……貴女達に、届くとでも?」


縮地。真っ先に駆け出したのはコノハナ少佐であり、握り締めたその刃を振り下ろし、その手首ごとを断ち切らんと試みていた。
瞬間、女王が片手を掲げれば、命じた通りに時は静かに動きを止める。然しその中でも動くことが出来る魔法少女が存在していることを、女王もまた知っている。
連結したオーネストアローから、何度も矢が放たれた。エネルギーの塊を……防いだのは、"ティーテーブル"だった。

「――――アール、グレ……」

紗夜子の絶叫は、止められた時間の中では届かない。
放たれた魔法に意識を取られた一瞬、その手足を絡め取るのは鎖だ。先にも見覚えのあるそれが手足を絡め取り、何重にも拘束を仕掛けている。
この時間停止を打破するための要は、他でもないオーネストハート自身だ……その動きを、封じられてしまったのならば。


「――――――――さぁ、"ゲームマスター"」


差し出されたその右手を、女王が手に取った。これで最早、誰も、邪魔をする者は居ない。
白く、何者にも染まらない光が、ゲームマスターの片目に奔った。

「……魔法少女ロワイヤル、権限申請を許諾。再起動の後、ゲームマスター権限は藤宮明花へと権限委譲します。さん、に、いち……」

静かなカウントダウン。派手なエフェクトが迸るでもなく、静かにそれは実行されようとしていた。
機械的、機構的、設定された通りに……ゲームマスターという無色透明の存在は、その意義を失って、ゆっくりとその輝きを失いつつあり、それは全て。
女王、藤宮明花の元へと収束しようとして――――

101名無しさん:2019/07/06(土) 17:22:42

唐突に、繋がれた手の間に白く光が迸った。

それは痛みを生じさせ、女王は反射的に手を引いた。火傷に似た痕がそこには残っていた。
ゲームマスターの表情に薄っすらと困惑にも似たものが浮かんでいた。それから視線は……拘束された、オーネストハートへと向けられ、確信したように頷いた。

「権限委譲は却下された。ワタシと同等の権限が……申請を、拒否して」

「……"ゲーム、マスター"……」

雛菊ひよりの知る、オーネストハートの知る、ゲームマスター。たった一度、この瀬平戸で、自分達を助けたあのゲームマスターの力が……却下した。
この場には、二人のゲームマスターが存在することになる、そうなればその神の如き力も、お互いの権限が打ち消し合って、無意味なものになってしまう。
ならば……暫くの間、女王はゲームマスターを見下ろしていた。自身に寄り添った、その少女をだ。それから、一度だけ瞳を閉じて――――――――



「――――――――であれば、貴女は"不要"ですね」



――――――――乾いた炸裂音が響いた。


発砲煙が銃口から薄く立ち昇っている。
無色透明を赤色が染め上げていた。その腹部を、確かに女王が放った鉛玉が、無残に引き裂いていったのだ。口元には、何でもないかのように笑みを浮かべながら。
ゲームマスターの表情は、驚きのものではなかった。ただ、藤宮明花という少女に対する……罪の意識、"申し訳ない"という感情で、頭の中は一杯になって。

止まった時間の中、小さな身体が倒れ込むその音を背にして、女王は再度、魔法少女達へと向き直る。

102名無しさん:2019/07/06(土) 17:23:05











「――――さ、続けましょうか」














.

103名無しさん:2019/07/06(土) 17:23:23
第七話 重なる想い 第五節 終

104名無しさん:2019/07/24(水) 01:16:50

――――――――光差す。


「貴女が、ゲームマスターですね」

少女にとって、唯一人。彼女は光であった。
例えパラレルの箱庭の中に、他の輝きを見たとしても、彼女にとって、瀬平戸に立つゲームマスターにとって。藤宮明花だけが、唯一つの輝きであった。
深い闇の底、奥底深く、其処に少女は手を差し伸べた。ただ彼女にとっては、主導権を握るための手であったのかもしれない。 それでも、だ。

「今から貴女は、私の友人になるのです」

「……友人?」

たしかにその言葉に心を揺さぶられたし、無色透明の世界が、色付いていくのを感じた。
彼女は、名前を聞くことはなかった。ただ、ただ手を差し伸べて、友だちになると言った、ありのままの自分を受け入れて、それでいいのだと言ってくれた。
自分を気にかけて、隣りにいることを……無理矢理に許してくれた。

「ええ、友人です。光栄に思いなさい――――――――私の友人であることを、唯一人、貴女にのみ許すのですから」

唯一人、初めて出来た、私にとっての友だち。
欲が出来たのかもしれない。ゲームシステムであった"ワタシ"がただ一人の味方をするなんて許されなかった。ましてや、願い事を持つなんて。
……それでも、一つだけ。一つだけ、言えるとしたら。あの時、"彼女がそうしてくれたかのように"。


「――――――――さぁ。少しくらい、笑ってみたらどうでしょう?」


作りものであったとしても。偽りであったとしても。あの時の女王が、ワタシだけに見せてくれた、あの笑顔のように。

105名無しさん:2019/07/24(水) 01:17:02

「……ごめん、な、さい……明花。ワタシ、上手に……笑えなく、って」



銃を向ける彼女へと笑い掛ける。歪でぎこちなく、形の悪いものであった。
これから先、藤宮明花という少女はきっと独り歩き続けることだろう、それは疑う余地のないものであった、きっと彼女ならば、達成してくれる。そう信じて、送り出す。
その隣に、自分が居られなかったことは、とても、とても……悲しいけれど。


「――――――――がんばって。応援、してるから」


その身体が、光となって消えていくのを、ゲームマスターは留める術を知らなかった。
ただ、その言葉が、届いてくれているように――――――――魔女にすら願いながら、"無色透明に、消えていくばかりであった"。

106名無しさん:2019/07/24(水) 01:17:18




皆、一様にその姿を見届けた。
見慣れた姿が容易く引き裂かれ、剰え藤宮明花へと感情らしきものを見せて消えていったことに驚く人間も居たのであれば。
彼女はそうであると納得した者、こうなることを予見していた者、そして――――――――その非道に対して、怒り狂う者もまた一人、其処に居る。

「――――――――それは」

歪んだ世界に檻から、解き放たれた者が居る。
燃え盛る焔は、正しくその感情と連動していた。静止した世界に罅を入れるようにその指先が動き、唇が開いて、貫くように其処に言葉が響いたのであった。
もう一人、その静止世界に手を掛けたものが居た。不安定故にメインのプランから外れていた……冷却された世界を焼き尽くすかのように。


「――――――――ちゃうやろうがッッッ!!」


炎に包まれたラッキークローバーの姿が変化する。
ラッキークローバー・バーニングインバースは、咆哮とともに解放されると、真っ直ぐに女王へと駆け出した。
正しく一息。"三人分の魔法少女"の力を、単身に納めたその力は伊達ではなかった。一歩踏み出せば、音速を超えて女王との間を一瞬で縮め、その勢いの儘。
握り締めた拳が女王へと叩きつけられようとする――――――――それは容易く、女王が握る猟銃に受け止められるが。

107名無しさん:2019/07/24(水) 01:17:33

「……違う? 何の話でしょうか?」

何を言っているか。嘲笑うかのようにそう言いながら、二枚のプレートが宙に放り投げられ、そして起動する。
《炎神熾天》-FULL THROTTLE〝SERAPHIML〟- ――――――――嘗て黒百合学院に通っていた一人の魔法少女が有していた、強力極まりない炎熱の魔法である。
そして更に、『HIEROPHANT』……その、『剛斧の魔法』を同時に起動したのであれば、その巨大な斧が、女王の手元の中に出現、爆炎と共に叩きつけられる。
ガントレットを交差し、防御態勢を取る。然し、その威力は凄まじいもので、ラッキークローバーを高熱と衝撃が同時に遅い、その両足が地面に沈み込む。

「あの娘は……あの娘は!! アンタの味方やった!! そんなん、傍から見てたウチらでも分かった! だって言うのに、そんな、そんな……!!!!!」

だが、それでも倒れることはなかった。歯を食い縛って、睨み付けて、咆哮とともに噛み付いていく。
その様を、女王は冷めた瞳で見下ろし……ラッキークローバーの両手のガントレットが作動、自動銃じみた構造から、無数の薬莢が排出されたのを見た。
構造としては、コノハナ少佐の軍刀と同様のものであった。拳銃弾型のカートリッジを爆発させることによって、一時的に……


「  そ  ん  な  話  が  あ  る  か  ァ  !  !  !」


――――炸裂する。

「ヨツバさん……!!!」

全弾を開放した右ストレートが、大爆発と共に叩きつけられる。たった今起こした焔をすらも上回る爆炎が女王を包み込み、その身体を思い切り吹き飛ばした。
それと同時、全員の身体が解放される……思わずオーネストハートが、その姿に声を漏らすと同時、コノハナ少佐が飛び出していく。

108名無しさん:2019/07/24(水) 01:17:49

「オーネストハート!!!!」

その刀が振るわれると、彼女を拘束する鎖が断ち切られる。
レギナ・ルシフェルも加わったのであれば、ラッキークローバーを戦闘として並び立つ。盛る火炎の向こう側に、仕留めたと確信したものは誰一人として居なかった。

燃え盛る焔を、純粋な魔力の渦が吹き飛ばす。

そこには、"骸姫"としての力を開放した女王の姿がいる……大団円の機械仕掛けは、正しくそうであるかのように、表情を崩すこと無くゆらりと、立ち竦む。

「くだらない……余りにも」

冷静に吐き捨てるかのような台詞。或いは、嫌悪感をすらも滲ませる。

「感情などという不安定なもので、人は……少女は容易く"乱反射"する。やはり、魔法少女などというものは、災いを成すのみで、少女には過ぎたる力。
 私のような支配者が、それを制御しなければいけない。彼女はその役に立てなかった。だから始末した。ただそれだけです」

人間的な感情など、持ち得ぬかのように振る舞う。
ノブレス・オブリージュの機構として、女王は振る舞い続ける。そこには友への感傷など、生命の尊重など存在せず、ただ、ただ、過ぎた力を処分する機構となっている。
役に立たないのであれば、手に負えなくなる前に処分する。ただ、それだけだと、女王は言い切った。

109名無しさん:2019/07/24(水) 01:18:07

「……違う……!!!」


それが、ラッキークローバーには我慢ならなかった。

「ちょっとは正しいことかと、ウチは思った。確かにウチらは……不安定かもしれん。感情で動くし、簡単に騙されるし、魔法少女の力は危険や。
 でも! そこに在る気持ちを、全部上から踏み潰して、皆殺しにするなんて……こんなん、間違っとる!! そんなん、自分でも分かっとるやろ!」

――――――――その言葉は、女王の心には届かずとも、その背後に立つ人間にはよく響いた。

魔法少女ロワイヤルは凄惨な殺し合いになった。多数の犠牲者が出たし、中には一般人にもあった。
少女のエゴに圧倒的な力を委ねることは、確かに危険なことで……だが、その中には願いがあった。無数の願いがあった。
誰かを踏み躙ってでも叶えたい願いが。踏み躙られてでも叶えたい願いが。踏み躙られること自体を止めたいという願いが。様々に輝いて、瞬いて消えていった。
女王の手段は、全体を俯瞰する神の視点になったのであれば、正しいのかもしれないし、そう在りたいのかもしれないが。


「偉い人の言うことは分からんけど。ウチは頭良くないけど……それでも、それでもウチは」


その拳を、突きつける。
この場で、誰よりも声高に、そう叫ぶことができるのは。他ならぬ、天王寺ヨツバ、或いは、ラッキークローバーである、彼女のみだった。


「ウチは――――――――アンタを、赦せん!!!!」

110名無しさん:2019/07/24(水) 01:18:17

その願いに。この場に立つ者達は、賛同しないか、或いは出来ないかもしれない。ただ、それでもだ。
今、隣に並んでいる人々は、並び立つことができる。願い事は、人それぞれ。余りにも疎らで、皆一様に、歪んでいる瞳はあったけれども。
……その肩を、通りすがり様に軽く叩いた者が居た。外套を翻し、軍帽の鍔を片手で抑えながら、その隣に。

「……そういうことだ、藤宮明花。私達はお前の言う通り、危険分子であるが」

白翼を揺らめかしながら、その横に。

「皆、一様に譲れぬ願いを持っていますので。それこそ、貴女では抑え切れないくらいに」

そして最後に、フリルのスカートを靡かせながら、正道の魔法少女が、ラッキークローバーの隣へと並び立つ。


「受け入れてください、藤宮明花さん。貴女を、今度こそ、仕留めます」


――――――――女王の表情に罅が入ることはなかった。
ただ、ただ嫌悪が襲う。一息で潰すことできる相手であるのは間違いないというのに、こうもまた何度も立ち上がり、あまつさえ。
自身の欲望が、正当性をすら凌駕すると主張されていることがあまりにも。耐え難かった。



「……俗物は、どこまで行っても俗物でしか無いのでしょうね」



それはきっと、藤宮明花という少女が、ここまで生きてきて知ったことなのだろう。

111名無しさん:2019/07/24(水) 01:18:59
第八話 MAGICAL GIRL ROYAL 第一節 終

112名無しさん:2019/08/09(金) 00:36:56


「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!!!!」

――――ラッキークローバーが爆炎とともに疾走し、その拳を女王へと叩きつける。
慈悲深き禍いの剣《misericorde・Lavateinn》――――真紅色の剣を振るった藤宮が、それを弾き飛ばすと、ラッキークローバーが頭を低く下げる。

「避けてください!!」

「了解や、任せた!!」

追撃の間すらも許さぬと、飛び出てくるのはオーネストハートであった。連結し、弓の形状となったそれを発射、すかさずそれを二つに分解し、上段から同時に振り下ろす。

「行きますよ、立夏!」

「うん、任せて!!!」

それを真紅色の剣で受け止めたのであれば、次に来るのは左右からの挟撃である。
オーネストハートの攻撃を無理矢理に、二つの刃を巻き込みながら力任せに押し下げると、長い右足がオーネストハートの胸を撃ち抜いて吹き飛ばさせる。
『一郎』と呼ばれるバッドを右手に出現させると、それを両刃の剣へと変化させ、左右からの挟撃を受け止める。

「くぅ……!!」

両者の攻撃を受け止めた事自体は何の問題もない。女王の積み上げてきた物は、この程度はものともしなかった……だが、問題はその後に続く攻撃だった。
女王の予測通り、体勢を立て直したオーネストハートとラッキークローバーが、既に攻撃を仕掛けんと駆け出している。
だが、それでも女王はこの状況を容易に突破できる手段を豊富に持ち合わせている――――――――その背後に、また一つ、一枚のプレートが浮かび上がる。
『ARMY GIRL』、内包するのは武器庫の魔法。武器を取り出す魔法であり、それを頭上に展開しようとして――――――――

113名無しさん:2019/08/09(金) 00:37:13

「――――――――そこ!!」

「なっ!!!」

駆け出したオーネストハートは、そこで右足を無理矢理止めて、地面を刳りながらオーネストアローを展開、その照準をプレートへと合わせて弓を引き絞った。
放たれた矢は真っ直ぐにプレートを撃ち落として、その瞬間魔法の発動もキャンセルされる。そうなれば、迎撃の心配も、また左右の二人への対応も遅れる。

「やれ、ラッキークローバー!!!」

「応さ、ウチにぃ、任しとけやぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

爆炎を纏った拳が着弾する瞬間、同時にコノハナ少佐とレギナ・ルシフェルが離れる。真っ直ぐに放たれた拳が叩き込まれ、両の武器を捨てた女王は。
咄嗟に両腕でその直撃をガードする、が……それでもその衝撃は抑えきることが出来ず、身体が宙に浮く感覚に見舞われる。
すぐさま体制を立て直して、倒れることはなかったが……着地の瞬間という、致命的な隙を曝け出すことになる。


「――――――――終わりです」


その瞬間を、オーネストハートは見逃すことはなかった。
視線が定まった瞬間、眼前にその少女は居た。女王は――――――――藤宮明花は、この瞬間、初めてこのオーネストハートという少女に恐怖した。
攻撃を受けること? そんな物ではない。女王は聡明であるからこそ、少女の根底を理解できた。そしてその性質は、正しく女王とは近しくも相反するものであった。

114名無しさん:2019/08/09(金) 00:37:37

故に、この場に於いて再度確信するのだ。魔法少女は、必ず滅び尽くさなければならないと。

オーネストハートの刃が、駆け抜けるように女王を斬り裂かんとした。
その出力は、正しく姫獣……否、それは本来の姫獣そのものの能力を超えて、相乗し、魔法少女としてそのままに、その能力を底上げしている。
当てることさえ出来たのであれば――――――――女王すらも、刻むことが出来た。然しその胴部から両断せんとした刃は……女王の右腕のみを、斬り落とすに留まった。


「……貴女達は愚かです」


静かに、女王は……藤宮明花は語り出した。
一撃が失敗したことを見て、次を繰り出さんとオーネストハートがオーネストアローを構える。それを見て、他の三人も彼女達を取り囲み、武器を構える。
俯いて、血をとめどなく噴き出す右腕を気にする様子すらも見えなかった。ただ長い髪が、一枚、二枚、はらりと落ちる。
すぐさま、攻撃を加えても良かったが、彼女達の戦士としての直感がそれを押し留めた……少なくとも、今の藤宮明花の姿は、今までとは様子が違うと。

115名無しさん:2019/08/09(金) 00:37:52

「だから私が、管理しなければならない、確信しました。貴女達は滅ぶべきだ。この世界を、この街を、問題なく続けていくために。
 愚かな貴女達という不確定要素を潰し、恒久的な平和を……続く世界を……約束しなければならない……」

「……それで。そんな事は、何度も聞いたことです」

そうして、漸く顔を上げた。その視線は、オーネストハートへと向けられる。
それは高潔なる意思を以て、自我を完全に殺した"管理者"の表情をしていた。魔法少女を完全に排除し、恒久的な平和を齎す機構、ここに来て藤宮明花は。
確信と共に完成に至った。女王として……機構として。歯車として。その残された片手の中に握り締めるのは……『VALKYRIE LILLY』と刻まれたプレート。

内包される魔法は、『想いを力にかえる魔法』。

「なぁ、ヤバイんちゃうか!!」

「不味い……!!」

コノハナ少佐がいち早く、その剣に魔力の刃を纏い、発動を防ごうとするが――――――――噴出する魔力によって、それは余りにも容易く防がれた。
それを皮切りに、周囲を膨大な魔力が満たしていく。今までのそれよりも遥かに大きく、それこそ……正しく、"世界を覆い尽くしかねない程に膨大であった"。
暗く、黒く、空を染め上げていく。辺りを漆黒が包み込み、天上には無数の輝きが星の如く瞬いている。それら一つ一つが、藤宮明花という少女が刈り取ってきた命であり、"魔法"であった。
それら全てと、膨れ上がった女王の魔力が結実し、昇華される――――――――もはや人の殻をすらも捨てて、その身体はより膨大に、肥大化し、世界を満たすかのように。



「だから私は、絶対に負けるわけにはいかないのです! この私に課せられた――――――――ノブレス・オブリージュの為に!!!!!」



――――――――そこに現れたのは、天を衝くかの巨躯。歪な、様々な色の歯車によって構成される"女王"の姿。
魔法少女であることをすら棄てて、少女は"女王"であることを選択した。

116名無しさん:2019/08/10(土) 02:41:29
第八話 MAGICAL GIRL ROYAL 第二節 終

117名無しさん:2019/08/10(土) 02:41:45


「うわっ、一体何……?」

黒百合の魔法少女兵達の変身が、次々と解除されていく。
少女達の力の源であった星のかけら達は、全て……世界を包み込まんとする闇の中、魔力の渦へと呑み込まれて消えていく。
全て、力と化して一点へと集中する。そうなればもはや、元々はただの一般人であった魔法少女兵の少女達には、何が起こっているか、朧気にすら汲み取ることが出来なかった。

「落ち着いてくださいまし、皆様。遂に、遂に果たされるのです」

然し、混乱は直ぐに収束に向かっていく。
品行方正を重んじる、大和撫子達の集いこそが黒百合学院である。であれば、惑うこそあれども、取り乱すことはないように。収まらぬのであれば、年長者から諌めるように。
そして、それは正しくそのように成立する。最上級生である少女は、陶酔しきった様子で語りだす。

「私達の幸福を永劫まで果たす、生徒会長、藤宮明花お姉様の悲願が今こそ……であれば、私達黒百合の生徒達がすることと言えば」

然し、陶酔しながらも、その立ち居振る舞いは正しく黒百合学院の生徒の理想像であり、上級生として下級生達を導く姉の立ち居振る舞いであった。
少女達を団結させるのは、藤宮明花という少女への信奉、否、信頼であった。自分達の頂点に立つ、生徒会長への……多大なる信頼の心である。


「皆、帰りましょう。お姉様を信じ、私達は清く正しく明日を待つのですわ」


――――――――少女達の信頼は、女王へと至った少女には、終ぞ届くことはなかったが。
それでも、少女達は待ち続ける。他の誰でもない、生徒会長に教えられたとおりに、忠実に黒百合学院生としての務めを果たすべく、各々の日常へと帰るのだった。

118名無しさん:2019/08/10(土) 02:42:00





「……デカいな……」

「……せやな」

魔法少女ロワイヤルは凄絶な戦いであったが。果たしてこんな怪物が出現したことがあったかと言えば、答えは否になる。
あくまでもゲームマスターのルール上であったこともまた理由の一つだろうが。そうだとしても、こうまで法を逸脱した怪物が現れるなど、この場にいる誰もが思ってもいなかった。
加えて、その魔力量にも絶句する。こんな物が存在しても良いのかと思わせるくらいに、狂気的な魔力を、ただ存在しているだけで撒き散らしている。
歯車は常にカチカチと動き続ける。その頭部であろう物が、こちらを見下ろしている。

「私は、魔法少女を完全に駆逐し、この街に永遠の平穏を齎します。この世界の日常を永劫に守るために。
 その中に貴女達魔法少女は不要です。私の管理の下に置かれないのであれば――――――――」

その右の五指が開かれた。その一つ一つがグランド・フィナーレの砲口と化していて、その絶大な火力は先に知った通り……否、それ以上だろう。

「飛びます、皆さん、いいですね!!」

「ええ……!!」

レギナ・ルシフェルの掛け声に合わせて、全員が空中へと飛び上がる。その瞬間、足元の……黒百合学院の学舎の一つが、文字通り爆砕される。
その女王の大団円の砲火が牙を向いたのであろう。空中にまでその衝撃が襲い、自由を奪い取らんとすらする。

119名無しさん:2019/08/10(土) 02:42:36

「うわっ、ととと……!!」

「落ち着け、ラッキークローバー! 足を止めたら死ぬぞ!!!」

バランスを崩しかけたラッキークローバーをコノハナ少佐が支えつつ、各々が別方向から機を伺う。
出来るだけ固まらないように、誰かの隙を誰かがカバーするように動き、波状攻撃によって仕留める……先の話し合いで決めた、即席の戦闘手段であったが。
その完成度は、レギナ・ルシフェルすら驚くほどに高かった。実戦を一度も経験していないというのに、だ。
それだけアケラーレに所属する魔法少女の練度が高いということだろう――――――――故に、これだけ巨大な相手を前にしても、きっと果たせると、信じていた。


「皆さん、落ち着いて、取り乱すことのないよう……未知の相手でも、生物なら、必ず隙は……」


――――――――空へと、光り輝く『字』が描き出される。
それは失われたプレートの代替のように、主張するように。覆い尽くすように現れる。描き出されるのは……『FREESIA』『EULENSPIEGEL』の二つ。
歯車が激しく輝くと同時、周囲の温度が、魔法少女の肌にすらも感じられ……そう気付いた時にはもう遅い。

「……!? 翼が……!!」

レギナ・ルシフェルの羽が凍り付きはじめていた。それは彼女だけの話ではない。

「……不味い、この低温は……!!」

「あかん……こんなすぐ、眠くなることあるんか……」

コノハナ少佐の戦意も、ラッキークローバーの勇気をすらも凍て付かせて、ただ意識を保つことのみで精一杯にさせた。
そしてそれすらも、女王は許すことはなかった。

120名無しさん:2019/08/10(土) 02:42:57

「これで終わりにしましょう――――――――消えなさい、魔法少女!!!」

「くっ……!!」

――――――――放たれるのは、増幅された"音"による衝撃波。音の魔法によって、歯車が放つ軋みが無限に増幅されて、周囲に音響兵器として叩きつけられる。
レギナ・ルシフェルは考えた。これを叩きつけられて、生存する方法は、反撃する方法は、敗北に甘んじる事はできない、どうにかして勝たなければ、ならないのだと。
出された結論は――――――――最適解は、言葉にすること無く、ただ彼女の意思に反して、実行されることになった。

――――――――黒百合学院校舎の瓦礫へと叩きつけられる、三人の魔法少女。然しその中に、一人の魔法少女の姿がなかった。



「――――――――藤宮明花さん。貴女の行いは立派だと、私は思います」



その衝撃波の全てを、オーネストハートが受け切っていた。
その手に握るオーネストアロー、そこに集中する魔力が、その衝撃波と拮抗し、そしてそれすらも巻き込んで一部として、引き絞られているのだ。
無論、彼女自身の体もおおよそまともな状態ではない。既に寒波の影響を受けて身体は凍結し、その上衝撃波を一手に引き受けた――――その全てを吸収できてはいない。
パキ、パキ、という音と共にその身体は崩壊しようとするが、その体内に埋め込まれた『骸姫一位・魔法少女』の力が、そこで砕け散ることを許さず。そこに立たせる。

121名無しさん:2019/08/10(土) 02:43:15

「けれど、それがどれだけ切実で、代わりの利かない望みでも――そのために誰かを一人でも殺めてしまったなら。
どうしようもないくらいに捻れて、壊れて、めちゃくちゃになってしまう。そうでしょう」

生命力を魔力へと変換し、身体の維持と攻撃に回す。この大いなる女王に対抗するには、最初からこうするしか無かったのだろう。
女王が背負う罪は、命は、オーネストハートの物どころか。此処に居る全ての人間のものを束ねたとしても、叶うものではないだろう。
きっと彼女は、真っ直ぐだったのだろう。そして何より真っ直ぐすぎた――――――――何処か親近感をすら抱きながら、苦痛に苛まれつつ、照準を合わせている。

「何を分かったような口を……私には、誰の理解も必要無い!!」

「ええ、そうでしょう、ですからこれは、私の勝手な……押し付けです」

怒りを顕にする女王に、これはあくまでエゴイズムであると口にする。
目の前にいる女王が何を求めているかはわからない。ただその根底に、自身と同じものが流れているのだとしたら、彼女が今、求めているものについて。
オーネストハートは、雛菊ひよりは、それを手にとるように分かる。


「貴女の罪は、私が裁きます。私と一緒に――――消えましょう」


「させるものですか、そんなことを!!!」


収束した魔力が膨張していく。今この瞬間、オーネストハートは"魔法少女爆弾"と言える物になった。
命と引換えに……恐らく仕留めきることは出来ないだろう。だが、それでも突破口の一つは空けられると確信していた。そして、その後に続く彼女達であれば、きっとそれを果たせる。
そう確信していた。女王の、歪な機械の両腕が、自身を抑え込もうとするが……その両手を吹き飛ばせただけでも御の字だと、そう考えて……その生命を明け渡し、未来へ繋げんと。

122名無しさん:2019/08/10(土) 02:43:38


「――――――――巫山戯るなァ!!!!!!!!!」



槍と、軍刀と、両刃剣。その3つが、女王の腕に突き刺さった。
その叫びは、コノハナ少佐のものであった。凍てついた身体を無理矢理に引きずり起こして、三者の武器を投擲し、僅かながらもそれは女王の動きを封じるまでは行かなかったが。
オーネストハートの気を引くにはそれでも十分であった。

「オーネストハート、貴様! この期に及んでまだそんな戯言をほざくか!! そんな結論に至るのか!!」

怒号にすらも近い絶叫が響き渡る。
魔力が篭もっているわけでもなく、ただただ声を張り上げただけのそれは、僅かながら場を支配に至った。その声を通すだけの、無理を突き通していた。


「お前が、最期になんと言ったか、私は覚えているぞ!!! 言ってみろ、もう一度……お前がまだ、腐り切っていないなら!!!!!」


「……コノハナ、さん」


それに応じるように、ラッキークローバーが顔を上げた。


「……ひよりちゃん。ウチは……最後の最後まで、絶対、ひよりちゃんのこと、諦めんって決めた……。
 それは今でもそうや……ウチは、ひよりちゃんの幸せを。諦めとらん、から……」


凍てつく世界にたとうとするのを、コノハナ少佐が手を伸ばして支える。
それは最後に――――――――あの魔法少女ロワイヤルの最後に、雛菊ひよりへと叫んだその声は……届かなかった、叶わなかった。それどころか、拒絶すらされた。
だが、それでも、今、こうしているこの瞬間まで……それが死ぬ直前に見る走馬灯のようなものだったとしても、その中だけでも、彼女へと声が届くのであれば。

123名無しさん:2019/08/10(土) 02:44:02


「……願いを」


コノハナ少佐とラッキークローバー、二人に支えられながら、レギナ・ルシフェルは立ち上がった。
見上げ、そして彼女へと願う。彼女をああまで壊してしまったのは、他ならぬ来栖宮紗夜子であっただろう。それを許されようとは思わないだが、それでも。
贅沢を言えるのならば、このイレギュラーの、異端の世界の中に……一言だけ、雛菊ひよりに向ける言葉があるとしたら。


「貴女の願いを、此処で、もう一度、言ってください」


雛菊ひよりという少女の願いは。何だっただろうか。それは随分と昔に於いてきてしまった気がする。
最初から叶えられていたようで、終ぞ叶えられることはなかった。届くことはなく、その身体は願いを抱えたまま、朽ちていった。終わっていった。それが何だったか。
思い出せない。否、分かっている。知っている。覚えている。この街の中にだって、今までだって何回もそう思ってきた。それでも、直視するには、余りにも眩しい。


「私はッ……」


言ってどうする。それはきっと、自分の願いを汚すことにすらなるだろう。
血塗れて、罪に塗れたその手で、その口で、それを連ねたのであれば、それはきっと。ああでも、だと言うのに、今、この状況は。
何度も見たことがあるような気がする。何度も憧れたような気がする。何度も恋い焦がれた気がする。ピンチの時に、個性的な仲間が激励してくれる。

124名無しさん:2019/08/10(土) 02:44:34

この光景は――――――――






「言え、魔法少女!!! オーネストハートでなく、今、此処で、"雛菊ひより"として!!!」






――――――――これではまるで。








「私は――――――――魔法少女に、なりたい」
















――――――――まるで、魔法少女みたいだ。

125名無しさん:2019/08/10(土) 02:45:04




――――――――空を覆い尽くす闇が、一息に晴れていく。暗雲を晴らしたのは、オーネストハートの胸元から伸びる光であった。
そこには一人の少女が居た。宙に浮いてその手を差し出していた。
雛菊ひよりという少女と瓜二つの姿形をした少女は、オーネストハートの目を覗き込むと、その顔に小さな笑みを浮かべた後、光となって消えていった。
拡散した光は、女王、それから――――――――三人の魔法少女たちにも、降り注ぐ。

「なっ、なんやこれ、うわぁ、なんやなんや!!」

「待て、本当に何だこれは!! 紗夜子、何か知らないか!?」

「いえ、ちょっとこれは私にも……きゃっ」

降り注いだ光は、魔法少女達を包み込み、三つの光へとその身を変じさせる。
それらは螺旋を描くように空へと舞い上がり、女王の五指を擦り抜けてその中に在るオーネストハートを包み込む。
そしてその光はオーネストハートすらも巻き込んで、四つの違う色の輝きを放ち――――――――女王の腕をすらも擦り抜けて、舞い上がっていく。


「何が起こっているかは分かりませんが――――――――させません」


空中に浮かび上がるのは、『LOVER LOVER』の文字と、内包する『糸の魔法』によって無数の属性を纏った糸がその光へと向けて放たれる。
その一つ一つが魔法少女一人を仕留めるに余りある威力を秘めたそれは、然し――――光へと達すること無く、空中でその動きをピタリと止めることになる。


「……私の『黒百合の支配』に……抗っている……!?」


――――――――光はやがて収束し、形を成していく。空中を、歩むように進んでいくたびに、纏う光を払って、その姿が顕になっていく。

126名無しさん:2019/08/10(土) 02:45:22

それは、あどけなさと成熟が同居した絶世の美少女であった。左肩を覆うように黒いマントを、右の背には三枚の白い翼を揺らめかせている。
髪色は緑色と、黒色と、桃色と、瑠璃色が入り混じった美しい長髪で、そこに星のバレッタが一つ輝いている。
白と、薄いピンクとエメラルド色を基調としたドレスは、フリルやリボンで彩られる他にも、デフォルメされた蝙蝠や、刀剣のマスコットが取り付けられている。

「うわわわわわ、えらいこっちゃ、これバインバインや、バインバイン!!!」

「はしたないぞ、ラッキークローバー! 紗夜子、狭くはないか?」

「狭いと言うか……なんというか……ちょっとよく分かりませんが、ええ、大丈夫です」

「ああ、もう、皆さん!!」

そして現れるなり、自身の胸を右手が掴んだり、そうする手を左手が掴んだり、一人で会話をし始めたり……たった一人で、やり取りを繰り広げる。
そしてそれは最後に雛菊ひよりの声とともに諌められたのであれば、一つ咳払いをして。



「今、新たに名乗りましょう……私は、『私達』は!!!!」


高らかに挙げられる声は、一つのものではなかった。
四つの、性質の違う――――――――生まれも、育ちも、抱えた願いも、何もかもが違う魔法少女達の声が、一つに混ざり合って、不思議な音色を紡ぎ出す。



「魔法少女――――――――"アケラーレ"!!!」



勇ましく、強く、少女らしく、そして何より、可愛らしく――――――――その魔法少女は、誕生ととともに高らかに名乗りを上げる。

127名無しさん:2019/08/10(土) 02:45:45
第八話 MAGICAL GIRL ROYAL 第三節 終

128名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/16(金) 02:32:31 ID:KBQq0rw.00

「……新たな……魔法少女……ですか……」

――――魔法少女が生まれ続ける限り、際限はない。
故に此処に於いて、全ての魔法少女を処分し、ゲームマスターの力を用いて今後永劫に魔法少女を途絶えさせる。それが不可能なのであれば、星のかけらを用いて同様のことを願う。
藤宮明花の目的と計画は、際限なく生まれ続ける魔法少女にピリオドを打つ事に全霊が注がれている、故に目前で魔法少女が生まれることというのは。
如何な屈辱よりも耐え難いものであった。


「――――――――そんなことは認めない、私の許可無く、新たな魔法少女などと!!!」


激情に駆られながら、その巨大な右手が目前の新たな魔法少女、アケラーレへと迫っていく。
握り固められた拳が、彼女をそのままに打ち砕かんとした。ただの魔法少女であれば、幾つを相手にしても打ち砕こう、それほどの力を持つ怪力を持ちながら。
アケラーレの中の四人は分かっているかのように、それを真正面から見据えて――――その右手が、ゆっくりと掲げられる。


「それはあなたの力じゃない」


――――――――停止していた糸の魔法によって生み出された、無数の魔力を籠めた糸が動き出す。
それらは無数に伸び、絡み、その巨体を這い回って絡め取っていく。唯一つの魔法の行使では、動きを封じることなど、到底ありえない巨大な力を、その糸はたった一つで抑え込む。

「この期に及んで、まだ抵抗を……!!!」

最もそれに驚愕しているのは、女王そのものであった。
絶対的な支配権、圧倒的な戦力、重ねてきた罪そのものが力であり、少女の心を支えてきたものだ。絶対的な自信であった。それが今、脅かされようとしていること。
それは如何な暴力よりも恐怖に苛むのに最適なものであった。絶望を齎すのに十二分であった。

129名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/16(金) 02:32:58 ID:KBQq0rw.00

「貴女達は、貴女達は、何もかも勝手です、誰も、何も、理解しようとはしないくせに! そうして自由だけを主張して、後先なんて何も考えないで!」

空に浮かぶは魔法少女の名、動きを拘束されようが黒百合の支配者たる、魔法の支配権は未だ健在であった。
その名は『NANAKAMADO』、有する魔法は焔の魔法――――青白い焔がその全身を包み込んで、拘束する糸全てを焼き尽くし、焼き払っていく。
その熱量は無論、目前に立つアケラーレもまた感じ取っている。だがやはり、新たな魔法少女にとって、その叫びは脅威には至らない。


「返してもらいます、魔法少女の力を」


空に浮かぶ無数の魔法、そのうちの一つが輝いた。
そして"雨"が降り出した――――――――結界の中では、女王の支配の中では、決して降ることのない雨が……否、それは雨ではない。
水が降り頻っていることに変わりはない。但しそれは、"大きな水流の一端でしかなかった"。


――――――――『水竜』が、焔に包まれた女王へと食らいついた。


「ぐぅ、くっ!?」


身体を包む焔を、水流の魔法が鎮め、収めていく。更に水自体の膨大な質量によって発生した質量によって、その巨体が大きく揺らいだ。
それと同時に、女王を構成する"魔法"が消滅する。空に浮かぶ星々が一つ、また一つと明滅して、消え去っていくのだ。

130名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/16(金) 02:33:09 ID:KBQq0rw.00

「何故、何故ですか――――貴女達魔法少女全てを消して。未来からも、過去からも、魔法少女を抹殺する! そのために、
 私はここまで積み重ねたというのに!! 貴女達と違って、私は……!!」


「それこそが、お前の思い違いだ、藤宮明花」


もう一度、魔法が空に瞬いた。
白銀の輝きが、その手の中に納められる。"剣の魔法"。ヴォーパルアリスの振るう刃が、アケラーレの右手に握られている。
それはあくまで、剣であった。例えば、時間を斬り裂いたり、その身に炎をまとったりはしない。質実剛健で、常識的な範囲で鋭いというだけの、ただ剣であったが。
それで十分だった。握り締められた刃の切っ先が、女王へと向けられて。




「――――――――重ねてきたのは、お前だけじゃない」




閃いた刃は、音を置き去りに動き出して、その胴部からを二つに切り分けた。
無数に瞬いていた魔法が、また一つ、二つ、と消えていく。やがてその身体を構成している無数の魔法が消えていくことで、耐え切れなくなった女王の身体が崩れていく。
訳が分からないと、その姿を女王は追いながら……然し、未だ、立ち上がることは止めなかった。

131名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/16(金) 02:33:29 ID:KBQq0rw.00






藤宮明花を構成していた"虚像の身体"が崩壊し、等身大の少女の姿へと戻った藤宮は……落下する身体を、空中で立て直して、黒百合学院の屋上へと着地する。
その右手を魔力の残滓で構築し直す――――歯車が歪に重なり合った五指、人のテクスチャをすら張ることも許されないほど、藤宮は追い詰められていることを自覚する。
長らく戦闘に於いて感じたことのなかった焦燥と恐怖。万能感を奪われたことによって、極限状態のおける妙な精神の平衡と冷静を手に入れることとなった。

「……私の知らない未知の魔法少女。それが、一体何だというのです」

極彩色の魔法少女は、数瞬遅れて悠然と藤宮の前に立つ。
正しく、相手は藤宮明花の知らない未知の少女であったが。魔法少女と相対するということは、未知の脅威と相対するということになる、それが絶対的な基本であった。
それは嘗ての藤宮とて変わらない。それならば、目の前に在るこれは、その通りにやるのみなのだ――――――――その右手に握られるのは、長大な対物ライフルであった。
その銃身の先端には長い銃剣が取り付けられている。藤宮が操る本来の武器は、正しく大槍の如く構えられる。


「私ならばやれる。それが私に課せられた使命である以上は――――果たせないはずがない」


その上で、未だ抱えるのはノブレス・オブリージュであった。
それが何処までも歪に変形して壊れていることは、本人以外ならば誰にでも分かることだった。此処に対峙している魔法少女にさえ。分かっていないのは本人だけだった。
だが、その誰もがそれを口にしようとはしなかった。そうしたところで折れるほどに、彼女の心はもはや弱くはなかった。故にこそ、やはり、打ち倒さねばならなかった。


「……終わりにしましょう、明花。お互いに、罪を重ね過ぎましたね」


アケラーレの手に、二本の剣が握られる。
コノハナ少佐が有する軍刀と、レギナ・ルシフェルが操る剣の二つを握り締めると、ゆっくりとその腕を広げるように構えながら、歩み寄り……。

132名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/16(金) 02:33:48 ID:KBQq0rw.00

「ええ、終わりです。この私の……黒百合に、瀬平戸に、勝利を!!!」


それに呼応するように藤宮は駆け出すと、アケラーレもまた同様に……跳ねるように、風のように跳ねたのであれば、彼我の距離を一息に詰めた。
――――インパクトの直前、アケラーレに糸が絡みつく。それは藤宮が発動した、『スプリングシュピニン』の『蜘蛛の魔法』によって生み出された蜘蛛糸であった。
真正面から戦うことが、藤宮の本質ではない。それは藤宮とともにいるものであれば理解していた。
正々堂々であるようで、謀略を添えることによって、僅かだが致命的な損失を生み出し、そして――――崩壊に向かわせることこそが、その戦闘の本質であり。
そして、アケラーレの内の一人、その中には稀代の謀略家が居るからこそ、それを"成らせない"。

「そうくると思っていました。ええ、私も同類ですから」

「――――くぅ!!!」

その糸を留めたのは、ラヴァエル・ラヴァーの糸だ。お互いに絡み合い、もつれ合い、遂にはお互いに消え去って。空の星が二つ、そこから消えていった。
そのままの勢いでインパクトする両者の得物。その力は拮抗……否。
藤宮の額に冷や汗が伝う。そのただ一度の交錯だけで理解することが出来た。今目の前の魔法少女を相手するには、僅かながら、自分が力負けしているのだと。
二撃目……振り下ろす形で銃剣を。然しそれが右手に握る両刃の剣によって受け流されると、その心臓に向けて、左手の軍刀から突きが放たれる。
身を翻しながら回避し、その刃を銃身を用いて弾いた。勢いに乗せたその反撃は、大凡アケラーレの身体を後方へと後退させることには成功させていた。

「ならば、これでどうでしょう――――!!」

右手を掲げ、発動するのはフォーチュンが有する『未来視の魔法』。
三秒後の未来を視認することによって、その攻撃を完全に予測し回避する――――それが見たのは、上空へと跳ねると同時に、自身へと両の得物を頭上から振るうアケラーレの姿。
長大なライフル銃を横に、銃身と銃把によって受け止めると、そのまま叩きつけるように振り下ろせば、無理な力がかかったアケラーレの身体が体制を崩される。

133名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/16(金) 02:34:08 ID:KBQq0rw.00

「……ホント、頭の良い人らの言うことはぜーんぜん分からん」


しかしそれはダメージになることもなく、そのまま膝をついて着地する。
その手に握っている得物は、ラッキークローバー有する固有武器、アームズ・オブ・ラッキークローバーへと変化している。
槍の形へと変形状態のそれを、片手で回転させながら立ち上がり、その切っ先を藤宮へと向ける。……しかし、そこから一人、立ち向かうということはなかった。


「でも。アンタがウチの大事な人達を傷付けて、この先もそうするって言うなら。ウチはアンタを止めなあかん」


その石突が、コツンと床を叩いた――――それと同時に、アケラーレの背後に二つの影が現れる。
燃え上がるような焔の拳を持った少女に、落ち着いた姿の、拳銃と短剣を武器とする……インバースが有する鏡の魔法と、バーニングハンズが有する熱拳の魔法。
それが形を成した、正しく"影"と称することが出来る……そこに特別な意思が籠められているかどうかは、定かではないとして。

「どれだけ数を増やそうとも、先読みさえ出来るなら……!!」

「さぁー、それはどうかな!!」

その言葉と同時に、二つの影が動き出す。熱拳の影が燃え盛る拳を撃ち出すと、それと同時に鏡の影が銃弾を撃ち込む……更にその攻撃の影を掻い潜りながら。
アケラーレが接近すると、その槍による突きを繰り出した。藤宮は振るわれる熱拳を未来視によって回避し、更に撃ち込まれた弾丸を槍によって叩き落とすが。
最後に繰り出された突きに対して、紙一重で受け止めると……そこから更に三秒後の未来を予測して、それを確信する。

「……避け切れ、ない……!!」

「そういうことや、よっしゃ皆、行くでー!!」

未来視が意味を成さないほどに、分かっていたとしても避けられない量の攻撃を絶え間なく押し付け続けること――――それは何より力押しであるが。
正に彼女らしく、そして有効にそれは働いている。熱拳を撃ち落とすと、それをコピーした銃弾によって更にもう一つの熱拳が放たれ、それを往なしても……。
それを繰り返すうちに、疲弊しきったところに。

134名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/16(金) 02:34:33 ID:KBQq0rw.00

「そこやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


飛び出したアケラーレが、落下の速度を乗せて、勢いよくその槍を振り下ろした。


「っ、ぁぁぁぁああああッ――――――――!!!」


藤宮の身体へと、縦に一閃が奔った――――それは、血液と共に……いや、それすらも覆い尽くすかのようにその代わりとして膨大な魔力を流出させる。
光とともに流れ出た膨大な魔力は、藤宮が有する『黒百合の支配者』という固有魔法を維持するリソースである……それが流れ出るということは、すなわち、天空にて輝ける幾つもの星が。
"落ちていく"。そして落ちた星々へと、アケラーレはその手を掲げた。


――――落ちていく魂達が、放出された魔力と結実し、そこに幾つも姿を表した。



それらは全て影であった。魔法少女の有する、魔法が形を成した、魔法少女達の影――――そして、何より彼女達は。
映し身であった。それが影であるならば、魔法少女達が抱えた、夢、希望、野望、絶望、その全てを、最も近く見つめ続けてきた。最も、魔法少女達に近い"影"なのだ。
悪をその身に宿す魔法少女。善をその身に宿す魔法少女。無数の魔法少女達がそこに居ただろう。だが、今は、この瞬間だけは――――魔法少女達、それぞれが抱えた、希望も絶望も。
全てが無駄にならないように。無に還らないように。ただそれだけを願って。此処に、立っている。


「……貴女は正しかった、その全てではないけれど」


その右手には、真実を射貫く弓が握られている。
藤宮へと向ける感情は様々であった。一概に定義することすら出来ない、後悔や憤怒に近いものから、同情すらそこには存在していたのだから……ただ、一つだけ言えるとすれば。
彼女には正しさがあった、彼女が掲げる正しさは、きっと魔法少女ではない全ての人々が望む正しさだ。だが……それは魔法少女達にとっては、受け入れがたい正しさだった。

135名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/16(金) 02:34:57 ID:KBQq0rw.00

「ただ、私達には。魔法少女に願いを賭けて、希望を持った人、絶望した人、救われた人、救われなかった人、沢山の人が居た……それを……それは」


無数の魔法が溢れ出していく。
武器を召喚する魔法、ギャンブルの魔法、手品の魔法、農耕具の魔法、札を操る魔法、灼熱を操る魔法、水流を操る魔法、剣を操る魔法、怨霊を操る魔法。
多種多様に溢れ出した魔法達が、その弓という一点に収束していく――――それは一つの矢となって、もはや画一的な物理現象では表現できぬ程の魔法を内包した究極の一矢となって。

その矢に、番えられる。


「無かったことになんて、ならない。出来ない。させる訳にはいかないから」


声が重なっていく。
そこにある、たった四人の魔法少女達。ただそれだけでも、絶望し、希望し、救われて、救われず。何れもバラバラで、一つにまとまることは終ぞ出来なかったが、それこそが。
魔法少女であり、人間であり、何より少女であり、起こした過ちも、後悔の慟哭も――――そう、全て無かったことになんて出来ない。
誰かが覚えている。だから終わらない。例えやり直しを選択したって、誰かがそれを。そこで戦っていた皆を、覚えている。
だから、たった一人の手によって、その全てを焼き尽くそうとしたとしても。無かったことにしようとしても。





「だから、藤宮明花、貴女を倒す。この矢は、ただ、そのためだけにある。この一矢の名は――――――――」

136名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/16(金) 02:35:20 ID:KBQq0rw.00



きっと何処かで、誰かが抗おうと戦うのだろう。
番えた矢を引き絞っていく。虹色の光が輝いて、世界を満たしていく――――――――黒百合学院の結界は、それによって満たされていく。



「―――――――― Walpurgis nacht」



……背負うのは、"総て"だ。
魔法少女という歴史の総て。藤宮明花が重ねてきた罪の総て。魔法少女達が抱いた、感情の総て。そのどれもがきっと、合理的だとか、正しさからは、掛け離れている。
それで良かった。不揃いで歪な少女達の戦いや日常。その中には、藤宮という少女が、嘗て夢を見て、そして廃棄したものすらも含まれている。

放たれた矢は、藤宮という一人の少女へと向けて放たれる。


完全存在を目指した少女、完全終焉を目指した少女、完全管理を目指した少女にとって。それは何よりも耐え難く。それは何よりも。

137名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/16(金) 02:35:37 ID:KBQq0rw.00






















































――――――――ええ、それは、とてもとても、眩しくって。

138名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/19(月) 01:33:30 ID:9DnBN41U00
第八話 MAGICAL GIRL ROYAL 第四節 終

146名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/19(月) 02:19:05 ID:9DnBN41U00


――――――――魔法少女達の魂が解放されていく。

堕ち星は歴史の奔流とともに解放され、新たな旅路へと向かっていく。この魔法少女管理都市の檻足る女王の力が失われて、それを留める物はもはや何もない。
極彩色の魔法少女はそれを咎めること無く空を見上げ、昇っていく色とりどりの魂を見送っていく。藤宮明花が女王であり、管理者であるのならば、彼女は送り手であった。
その野望は最早瓦解し尽くした。内側から破壊された藤宮は、最早女王ではなく、ただ一人の魔法少女へと代わっていた。
身体は朽ち果てている。人の身に於いて骸姫と共にあり、本来少女のために設定されていない力を存分に振るったことによる当然の崩壊であった。

「……っ、とと」

「うわっ、もう終わりか!」

崩壊していく結界は、破片すら一つ残らず消え失せて残滓すらも残さなかった。まるで魔法少女という事実すら夢であるかのように。
極彩色の魔法少女もまた、光に包まれた後、それぞれの色に解きほぐされていく……オーネストハート、レギナ・ルシフェル、コノハナ少佐、ラッキークローバー。
その何れもが変身を解除されて、そこに立たされることになる。奇跡によって成立した極彩色の魔法少女は、同様の奇跡が起こるその時まで、訪れることはないだろう。
そして、奇跡は二度は続かない。何のリスクを負わない膨大な力もなく、寧ろ、変身を解除される程度で済んだことが奇跡であると、皆、思わずとも認識はしていただろう。
故に、誰一人不思議に思うことはなかった。一人を除いて、戦いが終わったとも、思っていた。



「……まだ立ち上がりますか」



雛菊ひよりは、尚、立ち上がる藤宮明花に最初に気付いていた。分かっていた、というべきだったかもしれない。
……止めを刺すべきか。あくまでも、生身の人間の姿をしている少女に。それぞれの脳裏にそれが過ぎった時、最初に動き出したのは、此花立夏でもなければ、来栖宮紗夜子でもなかった。
雛菊ひよりが片手を上げて、皆を制した。

「ひ、ひよりちゃん……ひよりちゃんがそこまで背負う必要は……」

「……いいえ。これは、そういうものじゃない。後は……」



――――これより先、行われるのは凄惨な殺し合いなどではない。

147名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/19(月) 02:19:40 ID:9DnBN41U00

「意地の張り合いでしょう。私には、分かります」



……超常の力も、余計な祈りも介在しない。そこに残っているのは、少女の"意地"……ただ一つだけ。
後は消えていくばかりであるとか、全身を貫く痛みだとか、そういうものは、藤宮明花にとってどうでも良い要素だった、ただ、ただ、最後の最後まで、立ち塞がる。
結果が決まっていたとしても。敗北で終わったのだとしても。最後の最後まで、ただただ、綺麗に終わることは許せない――――――――その意地、それだけが。
藤宮を、立ち上がらせた。


「……雛菊、ひより」


拳を握り固める。それに応じるように、ひよりもまた同様に拳を握り締めた。
普段の藤宮が有していた、銃弾のような鋭さも、頂点に立つカリスマも最早削ぎ落とされている。此処に居るのは、ただの、裸の一人の少女であった。

「あなたは私の鏡です。いつかどこかの世界では、私だったのかもしれません」

――――それと共に、藤宮は駆け出し、その拳が振るわれた。
冷静さも無ければ、鋭さもない、ただ本能のままに振るわれる一撃だった――――瞬間。ひよりは、オーネストハートへと変じて、その拳を左手が受け止めた。
一瞬の硬直。その至近距離で、二人の視線が交錯した。全てを剥奪された女王は、闘志とは最早程遠いそれを宿しながら、その瞳を大きく見開いた。

「貴女に何が分かるというのですか。貴女のような……ただの、一人の魔法少女に、一体何が!!」

誰に理解されることもなく。誰に理解されることも拒んだ。
それが今、誰かに理解されることなど有り得ない。許さない。そんなことが有り得てほしくなかった。そんな可能性は、一つだってこの世界にあって欲しくなかった。
それは、藤宮にとって切り捨てたものだった。心に壁を作り、誰にも理解されないと決めて、だからこそ此処まで進むことが出来た。それを今更、引っ繰り返されたくなどなかった。
次に、右膝をひよりの腹へと思い切り叩きつけようと右足を振るった。それもまた左手によって抑えられ、封じられる形となる。

148名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/19(月) 02:20:23 ID:9DnBN41U00

「いいえ、分かります。あなたは――――」

そしてそのままオーネストハートは両手に力を加えれば、押し退けられる形で藤宮の身体が後方へとよろめいた。


「――――あなたは大きな力を持ち過ぎた。才能を持ち過ぎた。全てを実行できるだけの力がありながら、あなたは何よりも、少女だった」


「何を――――――――!!!」


体勢を立て直した藤宮が、より洗練された右の拳を振り抜いた。それがオーネストハートの頬を殴打したと同時、藤宮の頬を同様にオーネストハートの拳が打ち抜いた。
お互いに身体がフラフラと揺らめいた。揺れる視界を、敵を視界に収めることで無理矢理定めさせようとしていた。
再度、藤宮から振るわれる拳を、オーネストハートが受け止めた。オーネストハートから振るわれる拳を、藤宮が受け止めて、睨み合いの形になる。

「あなたは魔法少女が怖かった。だけど人を殺すことだって出来なかった。だからあなたは心を閉ざした、だからあなたは血も涙もない女王になった!
 機械は痛みを感じない、感じられない。裏切られたって、見限られたって、なんとも思わないようになる……そうでしょう」

「分かったような口を……聞くな!!!」

その状態から、放った頭突き。お互いの額が叩きつけられて、皮膚が裂けて血が流れる。
藤宮明花の瞳には、確かな激情を。オーネストハートの瞳には、確かな既視感を映し出しながら……お互いの意思は、これを以て、漸く交錯したと言えるのだろう。
お互いに、反転した自らを見ているようであった。僅かでも違えていたのならば、行く末を同じくしていただろう。そういう自覚を、藤宮は抱えてしまったのだ。
そして目前の彼女が理解者足りうるのであれば――――


「分かるんですよ。私だって、同じだから」

「……やめろ」


――――――――それは、押し潰した後悔が。


「私は魔法少女になりたかった。私は魔法少女である以外の全てを棄ててここまでやってきた。それ以外に価値がないと思ってた」

「……やめろ」


――――――――濁流のように押し寄せることに他ならない。

149名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/19(月) 02:20:54 ID:9DnBN41U00

それでも、目前に映る鏡は紡ぐのを止めなかった。
どうしても叫んで、留めることが出来たなかったのは。きっと何処かで求めていたからなのだろう。藤宮明花という少女自身を、断罪してくれる何者かを求めていたのだろう。
だから止めることが出来なかった。壊れかけている身体以上に、その心が。その腕が、彼女の胸倉を掴んで、額を離して、俯いて。ただそれだけだった


「違うものがあった。魔法少女ではなくて、私を信じてくれる人達が居た。居たんです。それは死ぬまで……いいえ、たった今、気付いたこと。
 私が見返した、魔法少女達の歴史と、願いと、この街での戦いの中で。何人も……何人も」


――――――――オーネストハート、雛菊ひよりの一生は、きっと悲惨なものだっただろう。
魔法少女であることを望んで、それに自分の魂をすら捧げた。その最果てに、魔法少女でありたかったと望んで、死んでいった。
……きっとそれは、魔法少女という存在を間違えていたのだろう。死ぬまで気付くことが出来なかったけれど、そう、プリズムハートだってそうだった。
隣に、誰かが居た。支えてくれる誰かが居て、それに応えようとする。魔法少女は、決して――――"独り"では成立しない。自分と、誰かが居て、成立するものだったのだと。

最後まで、気付くことが出来なかった。

「今更気付いたって遅いと思います。取り返しなんてつかない。終わったことは、もう戻らない。けれど……気付くことが出来て、良かった」

自嘲気味に、少女は笑う。
あれだけ魔法少女というものに固執して、結局それ以外の何もかもが見えていなかったのは自分だ。こんなのは、何も分かっていない面倒な視聴者と何が違うというのか。
だからせめて、其処に居る鏡写しの彼女には、それを知っていてもらうべきだった。伝えるべきだったと思った。だからこそ、この役目を買って出た。
魔法少女とは、最後の最後まで……希望を与えて、去っていくものだろう。


「……藤宮明花さん。あなたは、どうでしたか。あなたの今までには……何が、ありましたか」

150名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/19(月) 02:21:16 ID:9DnBN41U00

――――藤宮明花は、顔を上げた。
記憶を遡ることはしなかった。そうすればきっと、後悔してしまう。そうすればきっと、ああすればよかった、こうすればよかった、と……届かない想いが溢れてしまう。
そんな後悔は自分には許されない。最善だと信じていた。そうして執行していた。だからそれを、今更後悔するなど、許されるはずがない。

「……分かっています、そんなことは。言われなくたって、反芻しなくたって」

小さく微笑んで、その手を離した。一歩、二歩、と。崩れ落ちそうな足取りで、その身体が後退っていく。
身体からは光が浮かんでいた。白い光、純粋な魔力だ。最早何になることもないだろう――――空気中に消えて、無へと還っていくばかりの、ただの光たちになって、終わっていく。


「魔法少女という脅威に怯えて、私は全ての魔法少女を管理する道を走った。裏切りに怯えて、全ての魔法少女を殺戮する道を選んだ。
 それでいいと思った。正しいと思った。ええ、きっと違うのでしょう。これは私の弱さが選んだ選択肢で、何処かに……誰かを信じることさえ出来たのなら。

 私は、きっと……いいえ。そんな理想を語ることも、私には赦されないでしょう。許しては、くれない」


藤宮明花は、恵まれ過ぎていたのかもしれない。
財力も、権力も、自身の才能も、そのどれもが誰とは一線を画するものであった。だからこそ、一人で全てを背負う覚悟を決めた。
その覚悟は暴走し、最後には自分以外の誰をも信じることのない機械になった。きっとそれは――――後悔することすらも、許されない罪なのだろう。だからせめて。


「だからせめて、私は……惨めに、独りで」


その身体が崩れ落ちた――――その身体を、抱き止める白い影があった。

151名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/19(月) 02:21:30 ID:9DnBN41U00

「ゲームマスター……!!」


その場に居た全員が驚いて、けれども動き出すことはなかった。その場にいる、魔法少女ロワイヤルの参加者達が知らない、別のロワイヤルの"ゲームマスター"。
藤宮明花の傍に仕えて、正しく藤宮に撃ち抜かれた彼女は、その腸からしとどに生血を吐き出しながら、無色透明を血の色に染め上げながらも、崩れ落ちる少女の身体を抱きとめて。
その場に座り込む。膝の上に彼女の頭を乗せて、相変わらず表情変化の少ないその顔で、藤宮のことを見下ろしていた。


「……死にたかったのに、貴女は……また、余計なことをして……」


明花の顔は、慈しむような微笑みとともに彼女を見上げていた。伸ばされた右手が、透明な髪を掻き分けて、そっとその頬に触れた。
その言葉に、ゲームマスターの少女は……その顔を綻ばせた。何処か儚げな色を持ちながらも、きっと純粋な、嬉しいという感情の表現であったのだろう。


「……明花は、ワタシの友達。最初に言ったのは、明花だから……ワタシは最後まで、明花の友達」


藤宮明花は、呆れすらもそこに抱いた。同時にそこに、愛おしさを覚えた。
彼女を助けた時、藤宮明花は洗脳するようにそういった。「貴女は私の友達だ」と。それは全て、彼女を利用するためだった……自らの目的のために、そのパーツにするために。
それを律儀に、最後まで彼女が守り通したのは、何も知らない愚かさからか……自分だから、なんて都合のいい現実を、抱えて死んでしまいたくはなかった。

152名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/19(月) 02:21:58 ID:9DnBN41U00



「上手く、笑えたかな」



ただ、それにはきっと、答えなければならないと思った。
女王としてでも。ノブレス・オブリージュでもない。自分のことを最後まで友達だと言い切ってくれた……彼女へと。ただ、一言だけでも。



「ええ、とっても……素敵な笑顔ですね、■■■」



誰も知らない、彼女の名を告げて。貴女の笑顔は、誰よりも素敵だと頷いて。
二人の魂が消えていく。身体はゆっくりと崩壊して、光は空へと昇っていく。本当に微かで些細な魔力の光、片方は無色透明、片方は黒い百合のように輝いていた。
何度も何度も交差して、何度も何度も離れては消えていく。

153名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/19(月) 02:22:20 ID:9DnBN41U00


















――――――――無色透明の空。悪い夢だって、薄らいでいくように。














                                   .

154名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/19(月) 02:22:40 ID:9DnBN41U00
第八話 MAGICAL GIRL ROYAL 第五節 終

155名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/19(月) 03:51:05 ID:9DnBN41U00

「……親玉を倒したら、全部解決やと、勝手に思っとったけども……別にそんなことなかったわ」

瀬平戸ショッピングモール。その中のフードコートで、雛菊ひよりと天王寺ヨツバの二人は気を抜いていた。
藤宮明花との最終決戦を終えてから三日――――魔法少女としての脅威を排除した今、目下の目的は元の世界……ゆりかご市の在る世界への帰還こそが最重要となってくる。
正確には、来栖宮紗夜子一人を送り返せばそれでいい……というのは暗黙の了解であるが。ともあれ、その手掛かりは、これっぽっちも掴めていないという有様であった。

「それはそうでしょう。……あの人は、寧ろ対応する側でしたから」

藤宮明花は、魔法少女達の鏖殺を目的としていたが、魔法少女を呼び寄せたわけではない。
寧ろ、呼び寄せられた魔法少女達への対応に追われていた側と言った方が正しいだろう。彼女の目的も併せて考えると、その気苦労自体は途方も無いものだろうとは思える。
ともあれ戦い自体が終わっている以上、多少気を抜いているというのが現状であった。

「そういえば、あの二人は何時くらいに来るん?」

「遅いと思いますよ。なにせ二人で生徒会の仕事してますし」

瀬平戸での住居は来栖宮紗夜子が有するホテルを使用するということで現状は賄っている。仕方ないこととは言えお小遣いまで貰っている。
本来であれば学生である二人、学校に通えるのが一番なのだが、立夏と紗夜子が滞りなく黒百合学院に通えたのは最大の権力者である藤宮が居たからこその話。
現在、生徒会長代行として紗夜子が仕事を請け負っている状態だが、その量は脅威的……というか、生徒会長の仕事だけでも何故一人でやれていたのか分からないレベルだとか。

「さて、今日もゲームセンター行きましょう! プリズムハートのプラチナレジェンドレアを出すまで引き続けるんです!」

「ま、またぁ!? 前出したのとは違うん?」

「違うんですよ、プラチナレジェンドレアはワンカートンに一枚しか入ってない特別仕様で……あれ」

156名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/19(月) 03:51:26 ID:9DnBN41U00

――――突如として、静まり返るフードコート。
先程まで、平日とは言えそれなりの人数が居たそこが静まり返っている。客どころか、店員の姿すらも見えない――――大凡ショッピングモールに有り得ない、異様な沈黙だ。
すぐさま変身できる準備をしながら、周囲を見渡すが、そこに人の気配はない……だというのに。かつ、かつ、と。甲高い足音が、静まり返ったショッピングモールに響いている。

意識を張り巡らせていたというのに、まるでそこに現れたことに気付かなかった。気が付いたら居た、とすら言いようがないほどに。

傍らのフードコートの椅子に腰を掛けていた。


「これにて、瀬平戸の物語は一度の終りを迎え、魔法少女達の物語にはピリオドが打たれる……おめでとうございます」


……"魔法少女ではない"。スーツ姿の男だった。黒い髪に青い瞳の男は、一冊の本へと目を通しているようであった。
彼女達には、全く未知の存在であった。超常の存在と言えば、魔法少女以外にほかならない……そういう世界に居た以上、"成人男性"が超常的であるように振る舞うというのは。
それだけでイレギュラー中のイレギュラーであった。


「な、な、なんやあんたは……いったいなにもんや……!?」


警戒しながらも、ヨツバが男へと声をかける。ページを開いたまま、その視線がヨツバへと投げかけられると、微笑みをその顔に湛えて立ち上がる。


「申し遅れました、私の名はリチャード・ロウ……ヘレネ・ザルヴァートル・ノイスシュタイン卿に代わって、と言えば伝わるでしょうか?」

「……ヘレネって、あの」


ヘレネ・ザルヴァートル・ノイスシュタイン。黒百合学院生徒会に所属していた魔法少女の一人……その戦いの過程を覚えては居なかったが、最後は覚えている。
光りに包まれて、消えた……それからどうなったのか分からなかった。生徒会の中にも何処にもその姿がなかった以上、それで消滅したのだと思っていたが。

157名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/19(月) 03:51:53 ID:9DnBN41U00

「ええ、"あの"です。少しばかり、彼女は他の方とは様子が違ったでしょう」

「……確かに、そうでしたけど。あなたは……一体?」

名を問うのとは違う。本質的な、その詳細に迫る。
必要であれば、オーネストハートとして質問の魔法を振るうことも辞さない――――だが、その前に、リチャード・ロウはその問いかけに対して口を開く。


「宜しい。折角達成したのです、その戦いに免じてお答えしましょう。

 我々は、この世界を編纂し、再生する――――"再生者"、と括られるものです」


何一つとして理解は及ばなかった。だが、一つ察することが出来るものが在る。
世界の編纂。そんなものが可能であるとしたのならば――――瀬平戸、天海、かごめ、ゆりかご、記憶にある五つの都市の名前。それらが全て、他の世界の存在だと考えると。
魔法少女達が――――パラレルワールドに偏在する魔法少女達を、彼らの思うがままに"一つの世界にまとめ上げたのだとしたら"。

「り、りぇね……」

「……なら、"この世界"は、あなた達が……」

「察しが早くて助かります。そういうことになりますね。最もこの世界は私の担当ではありませんが、まあ、兎も角……」

それは、凄まじい規模の存在だということになる。
魔法少女という枠にも収まらない、新たな超常の存在。それ自体にまだ、理解が及んでいないが、彼らという存在が何かを起こそうとしていることは分かる。


「おめでとう。貴女達には、束の間の平穏を味わう権利が与えられた」


――――新たな敵なのか、どうかすらも分からない。


ただ、脅威的な力を持っていることは分かる。そうでなければ、世界の編纂などという大言壮語も、事実として世界を融合することも出来はしないだろう。
束の間の平穏。では、その先に何があるのか。新たな戦いなのか、それとも……

158名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/19(月) 03:52:04 ID:9DnBN41U00

「それでは、皆々様方。やがて来る滅びの時まで――――幾久しくお健やかに」


パタン、と片手に開いていた本が閉じられる。天王寺ヨツバは、思わず……そこに刻まれた、本のタイトルを読み上げた、



「外典、英雄異端録」



本が閉じるとともに、その男はいつの間にか姿を消していた。フードコートは人で賑わっていて、不気味な静寂など嘘のように消えている。
雛菊ひよりは、天王寺ヨツバと顔を見合わせた。何が出来るのかは分からない。分からないが――――――――"きっとここから先には、新たな戦いが控えている"。
向こうから、車椅子を押してやってくる二人の少女の姿があった。この事は、先ず真っ先に二人へと話さなければならないだろう。



――――――――戦いは、まだ終わらない。

159名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/19(月) 03:54:30 ID:9DnBN41U00



第一外典 魔法少女管理都市『瀬平戸』 終幕



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160名無しさん (ワッチョイ 1698-bc14):2019/08/19(月) 03:55:50 ID:9DnBN41U00











for the next Apocrypha――――――――











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