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【伝奇】東京ブリーチャーズ・外典之一【TRPG】
1
:
那須野橘音
◆TIr/ZhnrYI
:2019/10/04(金) 10:42:47
201X年、人類は科学文明の爛熟期を迎えた。
宇宙開発を推進し、深海を調査し。
すべての妖怪やオカルトは科学で解き明かされたかのように見えた。
――だが、妖怪は死滅していなかった!
『2020年の東京オリンピック開催までに、東京に蔓延る《妖壊》を残らず漂白せよ』――
白面金毛九尾の狐より指令を受けた那須野橘音をリーダーとして結成された、妖壊漂白チーム“東京ブリーチャーズ”。
帝都制圧をもくろむ悪の組織“東京ドミネーターズ”との戦いに勝ち抜き、東京を守り抜くのだ!
ジャンル:現代伝奇ファンタジー
コンセプト:妖怪・神話・フォークロアごちゃ混ぜ質雑可TRPG
期間(目安):特になし
GM:あり
決定リール:他参加者様の行動を制限しない程度に可
○日ルール:4日程度(延長可、伸びる場合はご一報ください)
版権・越境:なし
敵役参加:なし(一般妖壊は参加者全員で操作、幹部はGMが担当します)
質雑投下:あり(避難所にて投下歓迎)
関連スレ
【伝奇】東京ブリーチャーズ・壱【TRPG】
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17870/1523230244/
【伝奇】東京ブリーチャーズ・弐【TRPG】
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17870/1523594431/
【伝奇】東京ブリーチャーズ・参【TRPG】
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17870/1523630387/
【伝奇】東京ブリーチャーズ・肆【TRPG】
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17870/1508536097/
【伝奇】東京ブリーチャーズ・伍【TRPG】
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17870/1515143259/
【伝奇】東京ブリーチャーズ・陸【TRPG】
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17870/1524310847/
【伝奇】東京ブリーチャーズ・漆【TRPG】
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17870/1540467287/
【伝奇】東京ブリーチャーズ・捌【TRPG】
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17870/1557406604/
【東京ブリーチャーズ】那須野探偵事務所【避難所】
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17870/1512552861/
番外編投下用スレ
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17870/1509154933/
東京ブリーチャーズ@wiki
https://www65.atwiki.jp/tokyobleachers/
104
:
ポチ
◆CDuTShoToA
:2020/01/15(水) 00:36:44
>「えー、ということで、東京ブリーチャーズブートキャンプの日程が無事終了したわけですが」
「たまには、こういうのもいいね。今度サブメンバーの人達にもやってあげたら?」
>「ロノヴェさんとヴァプラさんは、この短い間にだいぶ鍛えられたみたいですね。初日とは比べ物になりません!」
>「ありがとうございますぅぅぅぅぅ〜……」
「あ、分かっちゃう?ヴァプラ君は知れば知るほど便利な体質でさ、自信を持ってくれて良かったよ。僕も楽しかったしね!」
>「ベリスさんに関しては、ボクたちの認識不足というか、実力不足というか……どうにも処置なしですね、これは」
>「ムハハハ!いやぁ、ご期待に沿えず申し訳なかったであります!小官は猛省しているであります!」
>「こいつはアレだな……テメェの道楽の為に、他人を踏みつけに出来るタイプの輩だ。色男との喰い合わせが悪すぎる」
「……大した天魔だよ、君は」
吐き捨てるような皮肉――己の誇りすら嘘の材料と出来るこの天魔が、ポチは率直に嫌いだった。
>「ともかく、これで特訓は終わりです。この期間華陽宮へ行って、何とか盗難は誤魔化してきましたが……もうそれも限界です」
>「今日のうちにさっさと尻目さんたちを捕まえて、狐面探偵七つ道具を取り戻してしまいましょう」
ちゃんと管理してくれてればいいけどね――ポチはそう、ぼやこうとして、思い留まった。
口にしたところで仕方のない事だからだ。
>「さて。ポチさんの鼻によって、いやみさんたちの潜伏場所はだいたい当たりがついています」
>「これからそこに乗り込み、尻目さんたちにはそれ相応の報いを受けて頂く。おミソ三柱には自信をつけてもらう」
「頑張りなよ、ヴァプラ君。君は自分の弱点を知ったし、攻撃の仕方も見つけた。きっとやれるさ」
>「まぁ、いざとなったらボクたちが直接何とかしなくちゃいけないと思いますが。とりあえずはそんな感じでお願いします」
>「それでは――東京ブリーチャーズ、アッセンブル!やっぱりこのセリフはボクが言ってこそですね!」
>「アッセンブル!」
「アッセンブル……何か久しぶりに言った気がするな」
「アッセンブル!……ほら、ヴァプラ君もロノヴェ君も、折角だから言っときなよ」
それからポチ達は、尻目達の隠れ家――郊外の廃工場を訪れた。
>「この敷地内に、彼らは隠れているはずなんですが……」
「……ひどいにおいだなぁ、もう」
廃工場の、淀んだ錆と油のにおい。
それに、いやみの厚化粧のにおいが混じって――ポチは不快そうに咳き込んだ。
>「念を押しますが、彼らはバカですが強力なチートアイテムを所持しています」
>「彼らに狐面探偵七つ道具を使わせてはなりません。見敵必殺です」
「ビビるなよ、ヴァプラ君。君なら出来るさ」
>「ポチさん、シロさん、ヴァプラさんはいやみへ。驚かせるだけが能の変た……妖怪ですが、何をしてくるか予想ができません」
「丁度いい……君の力は相手を殺さずに、だけどとことん、痛めつけられる。
上手くやるんだ。あいつを無力化して……仕上げは、僕だ」
冷ややかな声――いやみには「褒美」をくれてやらねばならない。
狼王の怒りを、時が風化させる事はない。
>「ボクは三バカが逃げられないよう、後方で結界を張ります。ということで皆さん、お気をつけて!」
>「あいよ大将。それじゃあまあ……きっちり取り立てるとしますかね」
「楽しみだなぁ。僕が会いに来たと知ったら、きっとあいつは、喜んでくれるだろうなぁ。ねえ、シロ?」
両手の鋭爪に『獣』の妖気を通わせながら、ポチはシロを振り返って、笑った。
105
:
ポチ
◆CDuTShoToA
:2020/01/15(水) 00:37:08
>「とんだことになったな……」
>「連中はすでに我々の来訪に感付いているやもしれん。奇襲には充分注意しろ」
「そうだね。天神細道は奇襲にも使えるし……ヴァプラ君、僕らを薄く包んでおいて」
随伴するヴァプラを見上げて、ポチはそう指示を出した。
だが直後にポチは足を止めて、慌てて周囲を見回した。
「……シロ?」
ポチがヴァプラに意識を向けた、ほんの数秒――その間に、シロのにおいが隣から、はたと消えたのだ。
シロだけではない。いつの間にか天の邪鬼の姿も見えなくなっている。
>「こ、これは……ひょっとして、マズいのではないですか?であります……」
>「……ひょっとしなくてもマズいだろうよ。こうも簡単にポチ助の鼻まで欺く妖術なんざ、少なくとも俺は知らねぇな」
状況報告の為に一度工場の入り口に戻ってみても、そこに橘音はいなかった。
においは、やはり移動の痕跡すら残さず途絶えている。
>「き……教官〜」
「……そうだね。君の能力の見せ所だ。やってくれ」
ヴァプラが霧の体を工場全体に広げる。
嗅覚ではない、触覚による探査能力が――何らかの生命反応を捉えたようだった。
>「こここ……こちらです〜」
ヴァプラの案内を受けて、ブリーチャーズは工場の中へと進んでいく。
>「いたたたた!し、小官、ちょっと持病の癪が……!退路は確保しておきますので、どうか皆さま小官に構わずお先へ!」
>「ノエル。悪ぃが、最悪氷漬けにしてでも連れてきてくれ。そんな奴でも、罠に投げ入れる囮くらいにはなるだろうからな」
「……僕さぁ、今、気が立ってるんだよね。あんまりうるさいと、そのよく回る舌、引きちぎるからね」
>「……う」
そうして辿り着いた工場の倉庫区画――ロノヴェは臆さず、その先へと踏み込んでいく。
しかし――
>「あ……?」
倉庫の中には、三人の妖怪が倒れていた。
橘音たちではない――尻目、はらだし、いやみの三人だ。
>「お……、俺っちたちの夢が……。真・東京ブリーチャーズが……」
>「オ……オラ、おっかねぇダ……人間の街なんて出てくるもんじゃねぇダ……」
>「アタイの……アタイのハーレムがぁぁぁ……アタイを待ってる美少年たちがぁぁぁぁぁ……」
>「……橘音達を攫ったのはこいつら以外の輩って事か」
尾弐が尻目とはらだしの首ねっこを掴み、顔面を水溜まりに押し込む。
だが二人は目を覚まさない――完全に昏倒させられているようだった。
>「チッ……どうにも、こいつらから情報を引き出すのは無理みてぇだな」
>「とりあえず外に出よう……これは!?」
「……確かに、結界の中には三人のにおいは感じない」
もし下手人が逃亡を図っているのなら、すぐに追わなくてはならないのも事実。
だが――ノエルによれば、橘音の結界はまだ健在だったらしい。
つまり異変が起きてから、この工場の敷地外に出られた者は――まず、いない。
106
:
ポチ
◆CDuTShoToA
:2020/01/15(水) 00:37:45
>「閉じ込められてるじゃん! 何この脱出ものミステリーな状況!
>ファイト一発でぶち破ったり不在の妖術ですり抜けたり出来ないの!?」
>「橘音の結界に力技で挑むなんて無謀、オジサンにはできねぇよ。それに、何の手掛かりも無い今の時点で外に出るつもりもねぇ」
「……下手に結界を壊して、犯人を逃してもつまらないしね」
そうして、現場検証が始まった。
>「ベリス君は床に何か落ちて無いかよく見て。何か手掛かりが見つかるかもしれない」
>「なーんだ、ネズミか〜。まあ廃工場だしね」
>「ん? ポチ君がデフォで聞き耳頭巾の能力持ってなかったっけ!?」
「聞き耳頭巾……ああ、思い出した。そうだね。動物相手なら……」
>「ポチ君、敷地内の動物たちに目撃情報を聞いてみるのはどうだろう」
「……まぁ、試しにやってみるよ」
そう答えつつ――ポチはくんくんと鼻を鳴らす。
この状況下における尾弐の思考、行動方針を知りたかった。
嗅ぎ取れるのは疑念だ。
おミソ三柱の誰かが、或いは全員が、この状況を作り出したのではないか――そんな疑念。
>「……やめだ。疑い出せばキリがねぇ」
>「色男にポチ助。ここは敢えて二手に分かれるってのはどうだ?」
「具体的に言うなら、探索組とぶち壊し組への組分けだ」
「……探索は分かるけど、ぶち壊しって……何をするつもりなのさ」
>「俺はロノヴェに手伝わせて、片っ端から、工場の建物を解体して行こうと考えてる」
「ああ、うん、それは分かるんだけど……」
>「要するに追い込み式の狩りだ。仮に敵が結界の中に居た場合、逃げ隠れする為の遮蔽物をぶっ壊していけば、何れは出てこざるを得ねぇだろ?」
「……確かに」
>「それに、建物をぶち壊していく最中で橘音達か七つ道具を見つけられるかもしれねぇ。ついでに、空間が減れば減るほど探索すべき場所を絞っていける筈だ」
「分かった。じゃあ、追い込みは任せるよ……僕らは、どうしたものかな」
ポチはすぐに尾弐の提案を受け入れた。
断る理由がない――作戦は単純だが確かな効果が見込める。
各個撃破されるリスクもあってないようなものだ。
なにせ、既にポチのすぐ傍にいたシロが攫われているのだ。
ともあれ――ポチは考える。
尾弐は最初、おミソ三柱を疑っていた。
だが、すぐにそんな可能性は考えるだけ無駄と結論付けた。
ならば――それ以外の可能性はどうだろうか。
つまり、下手人は単独で尻目達から七つ道具を奪い取り、橘音達を攫った。
前半部分は、多少の戦闘能力と正常なおつむがある妖怪ならば実現可能だろう。
だが――後半はどうだろう。
もし単独犯である場合、下手人はポチに一切の気配を感じさせずに、自力で三人を攫ってのけた。
もしくは七つ道具を十全に活用して事を成した――この二択になる。
前者であれば、それは赤マント級の使い手。
後者であれば、七つ道具を完全に使いこなす知恵と妖力を兼ね備えた何者か。
もし、そのような存在が相手であれば――既に状況は、ポチの制御可能な段階にはないという事だ。
要するに――
107
:
ポチ
◆CDuTShoToA
:2020/01/15(水) 00:38:05
「……やっぱり、考えるだけ無駄だったかな」
ポチは溜息を吐いた。
結局、手探りでどうにかするしかないようだ。
シロの行方が知れず焦る気持ちを抑えて、ヴァプラを振り返る。
「とりあえず……ヴァプラ君、もっかい体を広げてくれる?
尾弐っち達が見落としそうなものを探すんだ。隠し部屋とか、地下室とか……」
かつて陰陽寮で訪れた芦屋易子の地下祭壇を思い出して、ポチはそう言った。
「僕は……聞き込みかぁ。まず話の聞ける相手が見つかればいいけど……」
ポチがぼやきながら、廃工場の入り口を目指して歩き出した。
聞き込み相手を探しつつ、シロや天邪鬼が消えた地点を目指しているのだ。
シロと天邪鬼、そして橘音。
この三人ならば、なんらかの痕跡や手がかりを残してくれているかもしれないと。
「……なーんか、嫌な予感がするな」
逆説もし何も見つからなければ、いよいよ事態は深刻だ。
下手人はブリーチャーズとは隔絶した力の持ち主である可能性が否めなくなる。
「……外れてるといいなぁ、この予感」
108
:
那須野橘音
◆TIr/ZhnrYI
:2020/01/16(木) 20:31:36
廃工場の敷地内で橘音、天邪鬼、シロの三名が忽然と姿を消してしまった。
残ったのはノエル、尾弐、ポチとベリス、ロノヴェ、ヴァプラのおミソ三柱、そして気絶している三バカ。
尾弐が無言で尻目とはらだしを引っ掴み、汚水の水たまりに顔を突っ込んだが、反応はない。
>チッ……どうにも、こいつらから情報を引き出すのは無理みてぇだな
情報収集が困難と悟ると、尾弐はダンボールの山へ二体を放り投げた。
それはそれとして、尻目の顔とは頭部と尻のどちらなのだろう?真実は誰も知り得ない。尻だけに。
>……確かに、結界の中には三人のにおいは感じない
ポチの鋭い嗅覚にも、橘音たちのにおいは感じられない。
よほどうまく隠されてしまったか――『すでにこの世にいないか』。
だが、工場の敷地はくまなく橘音の結界によって覆われている。これを脱出するすべはない。
>ファイト一発でぶち破ったり不在の妖術ですり抜けたり出来ないの!?
>橘音の結界に力技で挑むなんて無謀、オジサンにはできねぇよ。
まがりなりにも地獄の大公が張った結界である。通常の手段ではほぼ突破不可能とみていいだろう。
>行くぞベリス君――捜査の基本、現場検証だ
「えぇぇ〜〜……嫌であります……どこか安全な場所を探して、みんなで避難した方がいいでありますよ!」
ベリスは当然難色を示したが、みゆきが強行すると心底面倒という表情を浮かべながらも渋々手伝った。
所持品検査を実行しても、三バカは大したものを持っていない。
当然、橘音の事務所から盗み出したはずの狐面探偵七つ道具もどこかへ消えている。
>ベリス君は床に何か落ちて無いかよく見て。何か手掛かりが見つかるかもしれない
「何もないであります!」
二秒で返事が来た。もちろん、ベリスは床をチラ見しただけである。
だが、ベリスがよく調べたかどうかは別として、実際に床には三バカの生活の跡以外には目ぼしいものは何もなかった。
鍋でも食べようとしていたのか、カセットコンロに土鍋が乗っている。
その近くには半ばから真っ二つになった大根やら豚バラのパックなどが落ちていた。
>……手際が良すぎる。
そう。
尾弐の考える通り、犯人は『手際が良すぎる』。
今この工場跡地にいる12名の妖怪のうち、東京ブリーチャーズの6名は間違いなく全員が一流以上の妖怪である。
そのうちの三名を、他の仲間に一切感知されることなく拉致する――そんな手腕を持つ相手。
もしそんな相手が存在するとするなら、それはベリアルに匹敵する強大な脅威となるだろう。
>ん? ポチ君がデフォで聞き耳頭巾の能力持ってなかったっけ!?
>ポチ君、敷地内の動物たちに目撃情報を聞いてみるのはどうだろう
>……まぁ、試しにやってみるよ
>……やめだ。疑い出せばキリがねぇ
>色男にポチ助。ここは敢えて二手に分かれるってのはどうだ?
>具体的に言うなら、探索組とぶち壊し組への組分けだ
行き詰まった現状を打開するため、尾弐がひとつの作戦を提案する。
>……探索は分かるけど、ぶち壊しって……何をするつもりなのさ
「野蛮すぎるであります……日本のオーガは脳味噌まで筋肉でできてるでありますか……?だから、安全な場所に……」
ベリスがぼやく。
尾弐の提案したのは、この工場跡の破壊。
ロノヴェと二人でこの脆くなった廃工場を片っ端から破壊して回り、真犯人の潜伏場所をなくしていこうという作戦だ。
確かに、現在の工場内は入り組んでおり、身を隠す場所はいくらでもある。
それを、潰す。
109
:
那須野橘音
◆TIr/ZhnrYI
:2020/01/16(木) 20:32:01
>分かった。じゃあ、追い込みは任せるよ……僕らは、どうしたものかな
ポチは尾弐の提案を快諾すると、自分たちの行動を思案し始めた。
>とりあえず……ヴァプラ君、もっかい体を広げてくれる?
>尾弐っち達が見落としそうなものを探すんだ。隠し部屋とか、地下室とか……
「は……はいぃぃぃぃ〜〜〜」
ヴァプラはふたたび霧状の身体を拡散させ始めた。すぐに、橘音の張った結界の内側を乳白色の霧が満たしてゆく。
もし隠し通路や隠し部屋などがあるなら、すぐにヴァプラはそれを察知してポチに知らせるだろう。
>僕は……聞き込みかぁ。まず話の聞ける相手が見つかればいいけど……
敷地内にはノエルが見かけたネズミの他、カラスなどもいる。
ポチが話しかけてみてもあまり有用な情報は得られなかったが、たったひとつ。
ネズミとカラスからは、ここには尻に目の付いた奴と、腹の大きな奴と、女みたいなやつ以外はいない、という情報が得られた。
つまり、今しがた乗り込んできた東京ブリーチャーズ(ロノヴェとヴァプラ含む)とベリスの9名を含む12名。
それしかこの工場にはいないということだ。
ポチがかすかに天邪鬼の妖気の残る場所に行くと、変化があった。
濃い紅色の、ビー玉ほどの大きさをした宝珠がひとつ、地面に転がっている。
真新しく美しい宝珠は、前々からここに打ち捨てられていたものとは考えづらい。
となれば――
ポチが宝珠を拾い上げると、すぐに宝珠は風船のようにぱぁんっ!とはじけて消えた。
そして、そのはじけた中から妖気が立ち昇り、ポチの視覚を侵食する。
ポチの目の前に広がったのは、過去の映像。
ポチと尾弐、ノエル、おミソ三柱の他、天邪鬼とシロもこの時点ではまだ一緒にいる。
しかし。
『連中はすでに我々の来訪に感付いているやもしれん。奇襲には充分注意しろ――』
そう言って、パーティーの最後尾を歩いていた天邪鬼がひょいと足元の瓦礫を飛び越えたと同時。
突然、天邪鬼の背後に鳥居が出現した。
鳥居の中から、ヌッと一本の腕が伸びてくる。といっても肉身の腕ではない、腕のような形状をとった半透明の妖気の塊だ。
腕は天邪鬼の襟首をむんずと掴むと、問答無用で天邪鬼を鳥居の中に引きずり込んだ。
それから、音もたてずに消滅する。その間、数秒さえもない。
天邪鬼はろくな抵抗もできないまま拉致されてしまった。
記録はそれで仕舞いである。
どうやら、天邪鬼は奇襲に備えて自分の周りに記録用の宝珠を飛ばしていたらしい。
宝珠は記録を再生した時点ではじけて消えてしまったので、他の仲間に同じ映像を見せることはできない。
が、ポチが口頭で目撃したものを伝えることはできるだろう。
そして。
ポチは気付くだろう。ヴァプラの霧の中で、自分の背後の空気がほんの僅か。
産毛が揺れる程度にそよいだのを。
ポチが身を翻すと、そこにはいつの間にか、忽然とひとつの真っ赤な鳥居が出現していた。
そこからポチがつい今しがた宝珠の映像で見たものと同じ、半透明の腕が一本伸びてくる。
腕はポチを捕えようとするが、ポチが回避、ないし攻撃するとすぐに鳥居の中に引っ込んでしまう。
と同時、鳥居もスゥ……と静かに消滅する。
探索組として単独行動しているポチをこれ幸いと攫いに来た、ということであろう。
だが、周囲に滞留しているヴァプラの霧の身体がそれをぎりぎりのところでポチに察知させた。
ポチがヴァプラの特性を分析し、有効利用できるように訓練したがゆえであろう。
つまり、特訓の成果が出たということだ。
「ご……ご無事で、教官〜」
ゆらゆらと漂う霧の中に、気遣わしげな表情が浮かぶ。
ヴァプラは本当にポチのことを案じているようだった。
110
:
那須野橘音
◆TIr/ZhnrYI
:2020/01/16(木) 20:32:16
一方、ぶち壊し組として工場の解体に乗り出した尾弐とロノヴェは、順調に工場を解体していた。
尾弐の指示を受けたロノヴェが渾身の力で棍棒を振り下ろすと、鉄筋コンクリートの壁面がウェハースのように粉々になる。
解体業者もビックリの手際だ。この分だと数時間で工場は跡形もなくなり、ただの瓦礫の山と化すことだろう。
「や、やめた方がいいでありますよ!みすみす我々の隠れられる場所を破壊することないであります!」
「ここは、まず安全の確保!全員で集まって、それから方策を考えた方がいいであります!」
「いやいや、ホント、そういうのやめた方がいいでありますよ!いのちだいじに!いのちだいじに!であります〜!」
尾弐とロノヴェが解体作業に勤しむ傍らで、すっかり及び腰になったベリスがなんとか蛮行をやめさせようと忠告してくる。
もちろんロノヴェは反応しない。一応天魔として付き合いは長いはずだが、完全に無視されている。
一方で尾弐の命令には忠実に従う。尾弐の洗脳……もとい教育が行き届いている証左であろう。
「みゆき殿も言った方がいいでありますよ!?こんなことしたって、疲れるだけであります!」
「ヴァプラ君とポチ殿を呼び戻し、全員で安全なところに退避!そして逆転のチャンスを待つであります!」
尾弐たちが無反応だと知ると、今度はみゆきに標的を変える。
なんとか自分の安全だけは確保して、他の連中を捨て石にしようという魂胆が見え見えである。
いかにも保身第一のクズ野郎という感じだが、裏を返せばテンプレのような悪魔ムーブとも言える。
逆に橘音(アスタロト)やロノヴェ、ヴァプラらの方が悪魔らしくないのである。
そして。
そんなベリスの背後に、音もなく真紅の鳥居が出現した。
ロノヴェはまったく気付いていないが、尾弐とみゆきは半透明の腕がベリスを鳥居に引きずり込もうとしているのが見えるだろう。
「ひッ、ひええええええええええええ!!!」
ベリスが尻もちをついて悲鳴を上げる。
攻撃をしても効果はないが、半透明の腕はすぐに引っ込んでしまう。
が――引っ込んだ腕の代わりに、鳥居の奥からさながらマシンガンのように弾丸が飛来してきた。
ドガガガガガガッ!!
「ぴゃわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ベリスは頭を抱えて逃げ回った。うるさい。
弾丸が盲撃ちのようにしばらく周囲を薙ぎ払い、命中しなかった弾丸が床に零れる。
……いや。それは、正確には弾丸ではなかった。
大豆だ。
みゆきやベリスにとっては命中しても「いたたたた!めっちゃ痛い!」くらいで済むが、尾弐にとっては弾丸より危険である。
妖怪界広しと言えども、大豆を武器とする妖怪は一体しかいない。
鳥居の奥から、ひとりの人影がゆっくりと姿を現す。
アズキ色の髪をショートカットにし、アズキ色のイモジャージの上に半纏を着込んで、山盛りのアズキが入った枡を抱えた女。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!東京ブリーチャーズ非正規メンバー、新井あずき!見〜参!!」
あずきは自信満々にそう言うと、これでもか!とばかりに胸を反らした。
「ぎゃああああああああ!刺客でありますー!小官を殺しに来た地獄からの使者でありますーっ!!」
ベリスがこの世の終わりのような悲鳴を上げる。
地獄からの使者はお前だろというツッコミはしてはいけない。
「さあ、やっちゃいますよー!アタシの小豆を怖れぬ者からかかってらっしゃい!なんちて!……あ、あれ?」
あずきは枡の中の小豆を鷲掴みすると、やっとブリーチャーズに気付いて大きな目をぱちぱち瞬かせた。
「ノエル君?なんでこんなところに?尾弐ぃさんも……あれ?あれれ?どういうこと?」
「いや、アタシはここに召喚されたんで、てっきり悪い妖壊がいるものとばかり……」
気付けば、鳥居はいつの間にか姿を消している。あずきを送り出してお役御免となったらしい。
あずきは召喚された、と言った。それはつまり狐面探偵七つ道具のひとつ、召怪銘板が使用されたということに他ならない。
111
:
那須野橘音
◆TIr/ZhnrYI
:2020/01/16(木) 20:32:28
「アタシを召喚した相手?いやー見えなかったなー。召怪銘板はチラッと見えたけど、他の妖怪とかはいなかった気が」
あずきは首を傾げた。
「と・に・か・く!召喚された以上は役目を果たすのが東京ブリーチャーズ非正規メンバーの宿命ってやつ?」
「前はぜ〜んぜん戦えなかったけど、あれからアタシも修行しました!小豆洗う合間とか、寝る前とかに!」
「ってことでぇ!ノエル君、どーんとアタシに任せちゃってよー!フフッ、今宵の小豆は血に飢えておるわ……!」
どうやら、かつての酔余酒重塔での戦いで自分がまったくの役立たず、小豆のオマケであったことが堪えていたらしい。
あずきはあずきなりに身体を鍛えていたという。チャランポランな者の多い非正規メンバーの中では極めてまともである。
いかにも強者(雰囲気だけ)というオーラを出しながら、あずきはなんか格好いいっぽいポーズを取った。
なお、現在はまだ昼間である。
だが。
目下、狐面探偵七つ道具が奪われており、奪った犯人によって召喚がなされた、ということは。
あずきはブリーチャーズの敵、ということになる。
ブリーチャーズ的にも、あずきが敵によって召喚されたというのなら非正規メンバーであっても排除しなければならない。
あずきが召喚主に操られでもして、小豆が尾弐に命中でもすれば取り返しのつかないことになる。
ここはあずきをさっさと倒して、送還するのが一番安全である。
しばしの静寂の後、やっと事態を正確に把握できたらしいあずきはダラダラと脂汗を流しながら、
「……おや……?ひょっとしてアタシ、死ぬのでは……?」
と、呟いた。
*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*
「ひどい……ひどすぎる……次回から小豆値上げしてやるぅぅぅぅ……」
東京ブリーチャーズにボコボコにされたあずきは、捨て台詞を吐きながら消滅していった。
修行したとは言っても、しょせん付け焼刃。手加減したみゆきにもボコられる有様である。
あずき自体は相変わらず単なるお笑い要員と言った感じであったが、事態は思ったよりも切迫している。
黒幕が召怪銘板を使いこなしているとしたら、今後も銘板に登録された妖怪が刺客として送り込まれてくる可能性がある。
今のあずきのような手合いならまだしも、おとろしや犬神といった強者が召喚された場合はまずいことになるだろう。
そして、そんな状況をもっとも憂慮しているのがベリスであった。
「ひぃぃぃぃ……だから言ったのであります!こんなことはしないで、安全な場所にみんなで隠れた方がいいってー!」
ベリスは最初から一貫して、残った全員で安全な場所に隠れるという提案を続けている。
しかし――
「『どうせ、みんな無事なのでありますから』!もう済んだ連中はほっといて、こちらが無傷で逃げる方法を考えるであります!」
ベリスはただ何も考えず、ただただ身の安全だけを図ろうとしていたわけではなかった。
いや、身の安全第一なのは事実なのだけれども。
「皆様おバカさんでありますか!?それでもベリアル卿を倒した東京ブリーチャーズでありますか!」
唾をまき散らしながら、ベリスは語勢を強くしてみゆきや尾弐に言い募った。
「もし相手に殺意があるとしたら、三バカ君たちはとっくに死んでいるであります!」
「三バカ君は明らかに意識を失う程度に叩きのめされ放置されている――つまり、手心を加えられているであります!」
「天魔は妖怪に手加減する理由がないでありますし、妖壊はそもそも手加減なんて気の利いたことはできないであります!」
「ついでに言えば、仲間に気取られず対象を攫えるほどの力があれば、人知れず殺すことだってできるはずであります!」
「それを敢えてせず、攫うだけに留めた――それは殺意のないことの裏付け、他に目的があることの証拠でありますよー!」
怒涛の解説だ。弁舌だけは超一流、という橘音の評価は間違いではなかった。
ベリスは自ら何かをするようなやる気もなく、保身を第一とし、他人をこき使うことしか考えていない天魔である。
が。それは裏を返せば人材を最大限有効活用する手腕に長け、守りに関しては盤石の方策を練ることができるということだ。
……精いっぱい好意的な解釈をした場合、だが。
「さらに、小豆洗い君は人影を見なかったと証言しているであります!しかし犯人は敷地内にいる、とすれば――」
橘音のお株を奪う推理で、ビシィ!とベリスは右手の人差し指を突き出し虚空を指した。
「犯人は『人型ではない』!!つまり、犯人は――ぶぴぃ!!!??」
犯人を明かしかけたところで、ベリスは横合いから飛んできた何かの一撃を喰らい、奇声を上げて吹き飛んだ。
そのまま、ロノヴェが破壊した建屋の瓦礫に激突し、くたり……と脱力する。気絶したらしい。
だが、それで犯人探しが振り出しに戻ってしまった――ということはない。
犯人は、すでに東京ブリーチャーズの目の前にいた。
112
:
那須野橘音
◆TIr/ZhnrYI
:2020/01/16(木) 20:32:47
みゆき、尾弐、ベリス、ロノヴェの四名から5メートルほど離れた場所に、一振りの日本刀が浮かんでいる。
その鞘や柄の拵えに、みゆきと尾弐は見覚えがあるだろう。
狐面探偵七つ道具のひとつ――『鬼切』童子切安綱。
天下五剣のひとつにも数えられる、妖異殺しの神刀である。
何者かによって三バカの手から奪われたはずの刀が忽然と出現し、尋常ならざる紫色の妖気を纏って宙に浮かんでいる。
どうやら、童子切安綱がどこからか飛来してきてベリスの横っ面をしばき、昏倒させたらしい。
《……オオオ……おおおおぉぉぉおおぉぉおぉぉぉおおぉおぉおおぉおおぉぉぉ……》
妖気を芬々と放つ童子切安綱から、声が聞こえる。
《膝を折り、こうべを垂れよ……われは朝家守護、正四位下春宮権大進源頼光が佩刀、童子切安綱なる……》
童子切は荘重な声音で告げた。
そう。
確かに、工場跡地には東京ブリーチャーズと三バカ、おミソ三柱の他に『人影』はなかった。
だが、妖怪に人型でなければならないという決まりはない。
狐面探偵七つ道具は、いずれも名にしおう大妖怪の所有する由緒正しい妖具である。格としては並の妖怪よりよほど位が高い。
古い道具がいつしか意思を持ち、妖怪に変ずる『付喪神』――
彼らがただ人に使われるだけの妖具に甘んじている理由など、どこにもないのである。
《うぬら、東京ブリーチャーズに申し渡す――》
《主命により、帝都鎮護に使役されるは善い――われらの本懐である》
《されど、これは如何なものか――最早、われらの寛恕の範疇を遥かに超えておる……!》
宙に浮いた童子切がぷるぷると震えた。憤慨しているらしい。
《事情が呑み込めぬと申すか……度し難き愚かしさ、やはり激憤を以て断罪せしめるより他になし》
《われら重代の宝具を敬い祀らぬばかりか、あまつさえ――あまつさえ――》
ゴッ!!と音を立て、童子切を取り巻いていた妖気が爆発的に燃え上がる。
《われで!この安綱で!豚バラを切るなどと―――――!!!!!》
三バカ、すごいことしてた。
そういえば、三バカが倒れていた近くには土鍋とカセットコンロがあり、切られた大根や豚バラのパックが転がっていた。
恐らく、三バカは腹ごしらえをするのに童子切を包丁代わりに使ったのだろう。
平安時代最強の妖異殺し、源頼光の愛刀として国宝にも指定されている童子切が、そんな雑な扱いを許すはずもない。
ブチギレて三バカをブチのめし、ついでに日頃雑に道具を扱っているブリーチャーズも懲らしめようとした――
というのが、ことの真相らしい。
《わたしを担いで運ぶな……鳥居とは本来、ひとつ所に鎮座しておるもの……軽々に持ち運ぶものにあらず……》
ズズ……と虚空から妖気を纏った鳥居が出現する。天神細道だ。
《設定だけで本編に出番がなかった……》
聞き耳頭巾がふわふわと宙を漂って恨み言を言う。すみません。
《いや、俺に「ヘイ!Siri!」とか「OK.Google」とか言われても答えらんねぇし!まして「アレクサ電気つけて」とか無理だし!》
召怪銘板がぶーたれる。どう見ても橘音が悪いです本当にありがとうございました。
《先だって捕えた三名には、既に過酷なる罰を与えておる……。うぬらも神妙に縛につくがいい――!!》
童子切が宣告すると同時、六種類の道具が出現する。七つ目の姿は見えない。
どう考えてもこちら(三バカ)が悪いのだが、説明したところで七つ道具の怒りは収まらないだろう。
といって、あっさり投降することもしづらい。そうすればおミソ三柱は東京ブリーチャーズが負けたと思うだろう。
ベリスは別にどうでもいいが、そうすると今まで辛い特訓をこなしてきたロノヴェとヴァプラが報われない。
で、あれば。
この強大な宝具である狐面探偵七つ道具を制することこそが、ロノヴェとヴァプラの自信回復に繋がるであろう。
なお、ポチとヴァプラはいつでもみゆきと尾弐に合流できる。
七つ道具はそれぞれ以下の特性を持つ。
召怪銘板:東京ブリーチャーズ非正規メンバーの妖怪をランダムに召喚して攻撃
迷い家外套:ブリーチャーズが七つ道具に攻撃しようとすると前方に立ち塞がって結界を構築。攻撃を防御する
聞き耳頭巾:後方に陣取り、ブリーチャーズの行動パターンを予見して他の道具に回避を促す
天神細道:ワープを繰り返しながら、視覚から妖気の腕で殴打してくる
姥捨ての枝:ただ浮いているだけで何もしてこない穏健派(?)
童子切安綱:鞘による殴打。抜刀はしてこない。宙を自在に舞い攻撃と回避を繰り返す
113
:
御幸 乃恵瑠
◆4fQkd8JTfc
:2020/01/20(月) 00:29:00
>「何もないであります!」
「それ何も見て無いの略でしょ!」
仕事が早すぎたベリスに、みゆきは瞬時にツッコミを入れた。
仕方が無いので自分で見て、大根や豚バラが妙にスパッと真っ二つになってるなあ、等と思うのであった。
>「色男にポチ助。ここは敢えて二手に分かれるってのはどうだ?」
>「具体的に言うなら、探索組とぶち壊し組への組分けだ」
>「要するに追い込み式の狩りだ。仮に敵が結界の中に居た場合、逃げ隠れする為の遮蔽物をぶっ壊していけば、何れは出てこざるを得ねぇだろ?」
>「それに、建物をぶち壊していく最中で橘音達か七つ道具を見つけられるかもしれねぇ。ついでに、空間が減れば減るほど探索すべき場所を絞っていける筈だ」
>「俺はロノヴェに手伝わせて、片っ端から、工場の建物を解体して行こうと考えてる」
>「分かった。じゃあ、追い込みは任せるよ……僕らは、どうしたものかな」
「ポチ君はヴァプラ君と一緒に探索するのがいいんじゃないかな?」
こうして尾弐とロノヴェはぶち壊し組、ポチとヴァプラは解体組となった。
残ったみゆきとベリスはというと……
>「や、やめた方がいいでありますよ!みすみす我々の隠れられる場所を破壊することないであります!」
>「ここは、まず安全の確保!全員で集まって、それから方策を考えた方がいいであります!」
>「いやいや、ホント、そういうのやめた方がいいでありますよ!いのちだいじに!いのちだいじに!であります〜!」
騒ぐベリスの後ろで、みゆきは尾弐とロノヴェの破壊工作を黙々と見守っていた。
>「みゆき殿も言った方がいいでありますよ!?こんなことしたって、疲れるだけであります!」
>「ヴァプラ君とポチ殿を呼び戻し、全員で安全なところに退避!そして逆転のチャンスを待つであります!」
「落ち着いて。敵はあのきっちゃん達を攫うぐらいの奴らだ――安全なところなんて無いんだからどこにいたって一緒さ」
全く落ち着ける要素の無い返事をするみゆき。
ところでみゆきは見ているだけで、作業に参加する様子はない。ベリスのダメ妖怪っぷりが伝染したのだろうか。
「童は破壊活動に集中する二人が不意打ちを受けないように警戒してるの。
決してサボってるわけじゃないから! 適材適所万歳!」
遠距離攻撃が出来るみゆきと小心者である意味危険感知能力が高いベリスは奇襲警戒組――ということにしておこう。
ということでみゆきは、ベリスの背後に突如出現した鳥居に気付いた。
どこかで見た事があるような鳥居だな、と思うみゆき。
「後ろ後ろー!」
>「ひッ、ひええええええええええええ!!!」
鳥居から伸びてきた腕に引っ張りこまれるかと思いきや、腕はすぐに引っ込み、マシンガン式に弾丸が飛んできた。
114
:
御幸 乃恵瑠
◆4fQkd8JTfc
:2020/01/20(月) 00:31:39
>「ぴゃわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ベリスに駆け寄っていたみゆきも当然流れ弾をくらう。
「ぎょえぇええええええええええ……え? 小豆? クロちゃん、こっちに来ないで!」
ベリスやみゆきが小豆にあたってもギャグで済むが、尾弐に当たったらシャレにならない。
尾弐への刺客かと想定し、警戒を促す。
>「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!東京ブリーチャーズ非正規メンバー、新井あずき!見〜参!!」
>「ぎゃああああああああ!刺客でありますー!小官を殺しに来た地獄からの使者でありますーっ!!」
「な〜んだ、君か〜。びっくりさせないでよ、もう!」
>「さあ、やっちゃいますよー!アタシの小豆を怖れぬ者からかかってらっしゃい!なんちて!……あ、あれ?」
>「ノエル君?なんでこんなところに?尾弐ぃさんも……あれ?あれれ?どういうこと?」
「それはこっちの台詞だよ!」
>「いや、アタシはここに召喚されたんで、てっきり悪い妖壊がいるものとばかり……」
つまり何者かによって召喚された直後に鳥居を通ってきたということだろうか。
「実は召怪銘板が何者かに奪われちゃって。君はそいつに召喚されたと思うんだ。 誰に召喚されたの?」
>「アタシを召喚した相手?いやー見えなかったなー。召怪銘板はチラッと見えたけど、他の妖怪とかはいなかった気が」
「なるほど、敵は姿を消せる妖怪なのかな……?」
>「と・に・か・く!召喚された以上は役目を果たすのが東京ブリーチャーズ非正規メンバーの宿命ってやつ?」
>「前はぜ〜んぜん戦えなかったけど、あれからアタシも修行しました!小豆洗う合間とか、寝る前とかに!」
>「ってことでぇ!ノエル君、どーんとアタシに任せちゃってよー!フフッ、今宵の小豆は血に飢えておるわ……!」
やる気満々のあずきに、みゆきは言いにくそうに告げる。
「大変申し訳ないんだけど、紹怪銘板で召喚された妖怪は召喚者の命令に従う気がするようなそうでないような……」
>「……おや……?ひょっとしてアタシ、死ぬのでは……?」
帰ってもらおうにも、ここは結界に閉ざされているのでそれも出来ない。
紹怪銘板の仕様上、戦闘不能になると強制送還されるようなので、その手でいくしかないようだ。
とはいっても尾弐や増してやロノヴェでは、殺さない程度に戦闘不能にする力加減が難しいのだろう。
115
:
御幸 乃恵瑠
◆4fQkd8JTfc
:2020/01/20(月) 00:32:27
「ここは童が……」
みゆきはおもむろにノエルの姿になると、フ○スクを口に放り込んだ。
「あずきちゃん、ごめん……!」
「えぇ!? 近い近い近い!」
あずきを壁際まで追い詰めて壁に手を付く。俗に言う壁ドンである。
忘れられがちだがノエルは超絶イケメン(※ただし外見に限る)のため、思わず目を閉じるあずき。
ノエルは超至近距離で超爽やか過ぎる息を吹きかけた。ちなみに昔話ではこれで爺さんが凍死している。
あずきは妖怪のため命に別状は無いが、あっさり凍えて戦闘不能になって送還されていった。
――恐怖の捨て台詞を残して。
>「ひどい……ひどすぎる……次回から小豆値上げしてやるぅぅぅぅ……」
「それは勘弁してぇええええええ!!」
ところでフ○スクを食った意味はあったのだろうか。CMか? スポンサーなのか!?
「まずいな……敵が紹怪銘板を持っているとなると何が送り込まれるかわかったもんじゃない……。
しかも透明になる能力を持っているとすれば隠れ場所をなくしてもあまり意味はないということか……」
ノエルは今度は乃恵瑠の姿になって迷推理を繰り広げ始める。
乃恵瑠になっているのは4つの人格の中では一応一番頭がいいからだろう。
「ということはよく不審者対策に受付に置いてあるカラーボール……は無いから雪玉を投げまくれば姿を現してくれるかも……!」
……これでも4つの人格の中では一番頭がマシなのである。多分。
>「ひぃぃぃぃ……だから言ったのであります!こんなことはしないで、安全な場所にみんなで隠れた方がいいってー!」
>「『どうせ、みんな無事なのでありますから』!もう済んだ連中はほっといて、こちらが無傷で逃げる方法を考えるであります!」
「どうして無事だと分かる……? まさか、敵の内通者かッ!?」
>「皆様おバカさんでありますか!?それでもベリアル卿を倒した東京ブリーチャーズでありますか!」
>「もし相手に殺意があるとしたら、三バカ君たちはとっくに死んでいるであります!」
>「三バカ君は明らかに意識を失う程度に叩きのめされ放置されている――つまり、手心を加えられているであります!」
>「天魔は妖怪に手加減する理由がないでありますし、妖壊はそもそも手加減なんて気の利いたことはできないであります!」
>「ついでに言えば、仲間に気取られず対象を攫えるほどの力があれば、人知れず殺すことだってできるはずであります!」
>「それを敢えてせず、攫うだけに留めた――それは殺意のないことの裏付け、他に目的があることの証拠でありますよー!」
「ベリス殿がやる気を出している……! 槍でも降るのではないのか!?」
発言の内容ではないところに感心している乃恵瑠であった。
116
:
御幸 乃恵瑠
◆4fQkd8JTfc
:2020/01/20(月) 00:33:23
>「さらに、小豆洗い君は人影を見なかったと証言しているであります!しかし犯人は敷地内にいる、とすれば――」
>「犯人は『人型ではない』!!つまり、犯人は――ぶぴぃ!!!??」
「ベリス殿!」
突然奇声をあげて吹き飛んだベリス。そして、目の前には日本刀が浮かんでいた。
「犯人を当てただと!? ベリス殿……そなた、本当に頭は良かったのだな! 橘音殿ほどではないが!」
>《膝を折り、こうべを垂れよ……われは朝家守護、正四位下春宮権大進源頼光が佩刀、童子切安綱なる……》
>《うぬら、東京ブリーチャーズに申し渡す――》
>《主命により、帝都鎮護に使役されるは善い――われらの本懐である》
>《されど、これは如何なものか――最早、われらの寛恕の範疇を遥かに超えておる……!》
「一体どうしたのだ?」
>《事情が呑み込めぬと申すか……度し難き愚かしさ、やはり激憤を以て断罪せしめるより他になし》
>《われら重代の宝具を敬い祀らぬばかりか、あまつさえ――あまつさえ――》
>《われで!この安綱で!豚バラを切るなどと―――――!!!!!》
「三バカかぁああああ! 妙に豚バラスパッと切れてると思ったぁあああああああああ!」
>《わたしを担いで運ぶな……鳥居とは本来、ひとつ所に鎮座しておるもの……軽々に持ち運ぶものにあらず……》
「それは……手頃なサイズで持ち運びに便利だし……いけなかったか?」
>《設定だけで本編に出番がなかった……》
「待て、早まるな! まだ最終章でワンチャンある!」
>《いや、俺に「ヘイ!Siri!」とか「OK.Google」とか言われても答えらんねぇし!まして「アレクサ電気つけて」とか無理だし!》
「橘音殿無茶ぶりし過ぎィ!」
>《先だって捕えた三名には、既に過酷なる罰を与えておる……。うぬらも神妙に縛につくがいい――!!》
「過酷なる罰……一体どんな恐ろしい罰なんだ……!」
ガクブルしながら乃恵瑠は深雪の姿になり、相手方にホワイトアウトをかけ時間稼ぎをする。
そしてベリスを起こしにかかる。童子切安綱は、真っ先にベリスを気絶させてきた。
敵の中で真っ先に倒す相手のセオリーは、一番弱くてすぐ倒せるというのが一つ
もう一つは――放置しておくと地味に厄介な相手だ。
あるいはその両方が重なっている場合もあるが。
117
:
御幸 乃恵瑠
◆4fQkd8JTfc
:2020/01/20(月) 00:34:00
「ベリス殿、起きろ! そなたは後ろで見ていて我に危険が迫ったら知らせるのだ。
我らが負ければそなたも過酷な罰を受けることになるぞ!」
一体でも強大な力を持つ妖具の付喪神が6つ――これは守りの戦いになるだろう。
保身第一のベリスだからこそ、自分の身に危険が迫っているとなればやる気になるはずだ。
それともう一つ、ベリスは橘音ほどではないが少なくともノエルよりは頭がいい。
命令される側より命令する側の方に回った方が真価を発揮できるのではないか――そう思ったのだった。
尤も、同じような感じで気絶させられたであろう三バカはどうやっても目を覚まさなかったので、ベリスも目を覚ますかどうかは分からないのだが。
でもこちらは腐っても天魔なのでワンチャンあるかも。
「極寒の地の氷の神よ、我に力を与えたまえ。言葉は氷柱、氷柱は剣。身を貫きし凍てつく氷の刃よ、今嵐となり我が障壁を壊さん!エターナルフォースブリザード!!
……よっしゃあ! 噛まずに言えた!」
詠唱付きのエターナルフォースブリザードは2章以来だが、あれから数々の激戦を潜り抜けてきただけあって今度は噛まずに言えた。
妖具達は一斉に氷漬けになった。深雪は思わずガッツポーズをした。
「ふははははは! どうだ童子切安綱! 凍り付いて抜刀できぬだろうあいたたたた痛い痛い!」
氷漬け状態の童子切安綱にポカポカ殴られながら逃げ回る深雪。
どっちにしろ抜刀はしてこない仕様なのだが、あいにくラ○ブラなんて持ってないのでそんなことは知る由も無いのであった。
118
:
尾弐 黒雄
◆pNqNUIlvYE
:2020/01/26(日) 20:03:35
>「分かった。じゃあ、追い込みは任せるよ……僕らは、どうしたものかな」
>「野蛮すぎるであります……日本のオーガは脳味噌まで筋肉でできてるでありますか……?だから、安全な場所に……」
ベリスの懸念も馬耳東風。
ポチから賛同の意を得、ノエルからも特段の否定は無かったため、尾弐は宣言した言葉の通りに廃工場の解体に手を出した。
「ロノヴェ、パターンは伊の3だ。乾坤一擲、ぶちかましてやれ」
ロノヴェに攻撃の指示を出すと同時に、上着を脱ぎ捨て肩に掛けた尾弐も拳を振るう。
空を抉る様な音と共に繰り出されたアッパー気味の拳は、廃工場の鉄骨にぶつかり、地響きと共にそれを『く』の字に折り曲げた。
勢いのまま、埋没していた部分を地上へと抉りだされた鉄柱は、腹の底に響く様な崩壊音を鳴らして壁の一部ごと地面に横たわる。
これぞ、鬼という妖怪の理外の剛力。
ロノヴェによる嵐の如き破壊も合わさり、このままいけば尾弐達は、重機など用いずとも廃工場は瓦礫の山に代える事だろう。
>「や、やめた方がいいでありますよ!みすみす我々の隠れられる場所を破壊することないであります!」
>「ここは、まず安全の確保!全員で集まって、それから方策を考えた方がいいであります!」
>「いやいや、ホント、そういうのやめた方がいいでありますよ!いのちだいじに!いのちだいじに!であります〜!」
>「落ち着いて。敵はあのきっちゃん達を攫うぐらいの奴らだ――安全なところなんて無いんだからどこにいたって一緒さ」
「黙ってろ天魔、こちとら命よりも大事なモンを攫われてんだ。第一、色男の言うとおり安全な場所なんてねェだろうが」
そして、相変わらずベリスの意見はスルーである。
雑に答えながら蹴りを繰りだし、放置されていた壊れた作業機械をせんべいのように潰していく尾弐。
それでも完全に無視を決め込まない辺り、無言で漂白される妖壊に比べれば多少なり扱いはマシだと言えよう
>「ひッ、ひええええええええええええ!!!」
「いい加減にしねぇか。黙ってろって何回言や――――」
そして、その尾弐の律義さが今回は吉と出た。
振り返った尾弐。その真横を『何か』が通り抜けたのだ。
「あン? 何だこい……つ……は……?」
疑問の言葉は、通り抜けた『何か』の正体を知ると共に引き攣ったものに変わっていく。
直径5ミリ程の大きさ。艶のある表面は小豆色の――――というか、小豆だった。あずき豆である。
>「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!東京ブリーチャーズ非正規メンバー、新井あずき!見〜参!!」
>「ノエル君?なんでこんなところに?尾弐ぃさんも……あれ?あれれ?どういうこと?」
>「いや、アタシはここに召喚されたんで、てっきり悪い妖壊がいるものとばかり……」
>「それはこっちの台詞だよ!」
「…………。ノエルの言う通りだな。何でお前さんが此処に居るんだ……というか待て。召喚だと?」
数ある妖怪の中でも小豆を武器にする妖怪といえば彼女、小豆洗いしかいない。
更に、彼女が東京ブリーチャーズとして召喚されたのであれば、それは七つ道具の一、召怪銘板によるものに他ならない。
119
:
尾弐 黒雄
◆pNqNUIlvYE
:2020/01/26(日) 20:04:03
>「と・に・か・く!召喚された以上は役目を果たすのが東京ブリーチャーズ非正規メンバーの宿命ってやつ?」
>「前はぜ〜んぜん戦えなかったけど、あれからアタシも修行しました!小豆洗う合間とか、寝る前とかに!」
>「ってことでぇ!ノエル君、どーんとアタシに任せちゃってよー!フフッ、今宵の小豆は血に飢えておるわ……!」
なれば、その力によって呼び出された新井あずきと東京ブリーチャーズが衝突するは必定。
>「……おや……?ひょっとしてアタシ、死ぬのでは……?」
「お前さん相手だと、死亡率はオジサンの方が高いんだがな……」
もしも新井あずきが正面から尾弐とぶつかれば、尾弐を打倒出来る可能性は高いだろう。
豆というものは悪鬼にとってそれ程までの脅威なのだ。
戦車の砲弾を耐えるであろう尾弐の肉体も、たった一粒の豆に打ちのめされる。
例え数々の死線を乗り越えようと、そうあれかしは変わらないのである。まあ、最も――――
>「あずきちゃん、ごめん……!」
>「ひどい……ひどすぎる……次回から小豆値上げしてやるぅぅぅぅ……」
この場に尾弐以外の東京ブリーチャーズが居る時点で、そうはならないのであるが。
結局の所、尾弐以外にとってはどれだけ早かろうと豆は豆なのである。
ノエルにあずきアイスのごとく氷結された新井あずきは、あっというまに撃退されて送還されていった。
「ったく、敵に使われるとつくづく厄介なモンだな、七つ道具ってのは」
送還を確認した後にそう言った尾弐の声は疲れが多大に混じっているが、それも仕方ないと言えよう。
今回は無事に切り抜けられたが、再び非正規メンバーが召喚される可能性は極めて高いのだから。
そして、非正規メンバーと言っても、彼等は尾弐達に劣っているという訳では無い。
むしろ、状況を限定すれば尾弐を凌駕する性能を発揮する妖怪は多数存在する……それ故に、敵に回すと厄介極まりない。
犬神やおとろしなど、想定される『敵』を想起しつつ、尾弐は廃工場の解体を再開しようとし
>「ひぃぃぃぃ……だから言ったのであります!こんなことはしないで、安全な場所にみんなで隠れた方がいいってー!」
>「『どうせ、みんな無事なのでありますから』!もう済んだ連中はほっといて、こちらが無傷で逃げる方法を考えるであります!」
だがそこで、ベリスの悲鳴のような主張を聞き、尾弐は本日初めて彼の天魔の為にその手を止めた。
>「皆様おバカさんでありますか!?それでもベリアル卿を倒した東京ブリーチャーズでありますか!」
>「もし相手に殺意があるとしたら、三バカ君たちはとっくに死んでいるであります!」
>「三バカ君は明らかに意識を失う程度に叩きのめされ放置されている――つまり、手心を加えられているであります!」
>「天魔は妖怪に手加減する理由がないでありますし、妖壊はそもそも手加減なんて気の利いたことはできないであります!」
>「ついでに言えば、仲間に気取られず対象を攫えるほどの力があれば、人知れず殺すことだってできるはずであります!」
>「それを敢えてせず、攫うだけに留めた――それは殺意のないことの裏付け、他に目的があることの証拠でありますよー!」
堰を切った様に語りだすベリス。
保身を中心に置いた発言ではあるものの……いや、そうであるからこそ、その洞察は的を射ている
その発言を聞いた尾弐は、ここにきて、ようやくベリスという天魔について理解をした。
怠惰、自分勝手、保身偏重。つまり
「首が回らない程に追い詰められて……それこそ、崖っぷちのギリギリでようやく真価を発揮するって訳か」
>「さらに、小豆洗い君は人影を見なかったと証言しているであります!しかし犯人は敷地内にいる、とすれば――」
>「犯人は『人型ではない』!!つまり、犯人は――ぶぴぃ!!!??」
そんな風に、尾弐がベリスへの評価を若干ながら上方修正したその直後
急襲――――突如として何かがベリスを吹き飛ばし、その意識を刈り取った
咄嗟に警戒を最大限まで強めた尾弐は、攻撃を行った何かへと意識を向ける。すると其処には
120
:
尾弐 黒雄
◆pNqNUIlvYE
:2020/01/26(日) 20:04:21
「童子切安綱だと……!?」
虚空に舞う、一振りの剣。名を童子切安綱。
纏うその妖気を、尾弐黒雄が見紛うものか。
>《……オオオ……おおおおぉぉぉおおぉぉおぉぉぉおおぉおぉおおぉおおぉぉぉ……》
>《膝を折り、こうべを垂れよ……われは朝家守護、正四位下春宮権大進源頼光が佩刀、童子切安綱なる……》
(持ち主が透明人間って訳じゃなさそうだ……つまり、付喪神の類って事か?)
持ち手の無いまま、されど確かに顕現する童子切安綱。
彼の存在は威厳有る声で尾弐達へと語りかける。
>《うぬら、東京ブリーチャーズに申し渡す――》
>《主命により、帝都鎮護に使役されるは善い――われらの本懐である》
>《されど、これは如何なものか――最早、われらの寛恕の範疇を遥かに超えておる……!》
>《事情が呑み込めぬと申すか……度し難き愚かしさ、やはり激憤を以て断罪せしめるより他になし》
>《われら重代の宝具を敬い祀らぬばかりか、あまつさえ――あまつさえ――》
それは、怒りの言葉。それは嘆きの言葉。
東京ブリーチャーズが、童子切安綱を大義無き事へ使用したという、不義への憤慨。
長き時を経て霊格を得た彼を激昂させた悪行とは即ち
>《われで!この安綱で!豚バラを切るなどと―――――!!!!!》
>「三バカかぁああああ! 妙に豚バラスパッと切れてると思ったぁあああああああああ!」
「……あのバカ共、やらかした事はそこらの妖壊よりも性質が悪ぃな!」
由緒ただしき霊剣で豚バラを切るなどというイヤミ達の愚考に、尾弐は思わず掌を額に当てて呻く。
そして、その童子切安綱の怒りに呼応するように次々と七つ道具――――それに宿る付喪神達がその姿を現す。
彼等は、自分達の扱いの粗雑さに対して各々苦言を呈し、尾弐達に懲罰を与える事を宣言する。
彼等の怒りを耳にした尾弐は、諦めた様に両手を上げる。
「あー……お前さん方の怒りは最もだし、何ならウチの大将がやらかした分についてはオジサンが謝罪する。すまなかった」
あまりに素直なあっさりとした謝罪。
七つ道具からしてみれば、そんな謝罪程度で許せる所業ではないのだろうが、しかし尾弐は七つ道具が何かを言う前に更に言葉を重ねる。
「ただな、これだけは言わせてくれ」
「――――よりにもよってテメェ等が、あのバカ共と東京ブリーチャーズを同一視してんじゃねぇ!!」
謝罪の後に吐き出されたその言葉は、あまりに堂々とした敵対宣言。
七つ道具からしてみれば、尾弐の発言は逆切れにしか見えないだろう。だが、尾弐にも言い分はあるのだ。
見方によっては七つ道具は、長き時を共に戦い、危機を乗り越え、天魔ベリアルとの決戦をも走り抜けた戦友であると言える。
つまり、尾弐からしてみれば……ある種の戦友だと思っていた相手に、『お前らあの腹出して踊ってた妖怪と類友だろ?』と言われた様なものなのである。
基本的に自分が頭を下げて収まる場面であれば躊躇わずに頭を下げる尾弐であるが、さすがにこれは許容できないらしい。
>「極寒の地の氷の神よ、我に力を与えたまえ。言葉は氷柱、氷柱は剣。身を貫きし凍てつく氷の刃よ、今嵐となり我が障壁を壊さん!エターナルフォースブリザード!!
>……よっしゃあ! 噛まずに言えた!」
ノエルが氷結の妖術を大規模展開したのをトリガーにして、動き出す。
「橘音達は無事みてぇだから、ぶち壊すような真似はしねぇが――――多少の傷と汚れくらいは覚悟しとけ!!」
冷気の霧に紛れ、尾弐が初手に選んだのは投擲攻撃。
彼は手近に有った――――手近に有った、壊れて錆びた『ロードローラー』をむんずと掴むと、そのまま七つ道具の天神細道に向けて投げつける。
ぶち壊す真似はしないと言ったていた気がするが……どれだけ殴っても耐え抜いたロノヴェとの特訓の結果、その辺りの尾弐の感覚が大分麻痺しているらしい。
「ロノヴェ!パターン伊2、6、9と呂3、8に加えて波9、11をランダムでやれ!俺と離れた相手への攻撃を厳守だ!」
ロノヴェに攻撃パターンの指示を出し尾弐が攻撃している相手と別の七つ道具をターゲットに攻撃するよう告げると、今度は先ほどぶち壊した鉄骨を片手に掴み、手近に居た七つ道具達へと薙ぎ払う様に叩き付ける。
実に力任せの乱雑な攻撃であるが、それでいい。それがいい。ノエルが機先を制し、尾弐が暴れ回れば、その分彼が活躍する機会は生まれる
(『刈り取り』は任せるぜ、ポチ助――――!)
その優れた聴覚とヴァプラによる索敵でこちらの状況を把握しているであろうポチ。
彼の奇襲に期待しつつ、尾弐は役割を果たすべく大暴れを始めるのであった。
121
:
ポチ
◆CDuTShoToA
:2020/02/02(日) 19:09:19
「……どうなってるんだ?」
ポチがぼやいた。
今までに得られた情報を統合すると、まずこの結界の中に、未確認の人物は存在しない。
『連中はすでに我々の来訪に感付いているやもしれん。奇襲には充分注意しろ――』
そして、天邪鬼は突然背後に現れた鳥居によって拐われた。
あれは、天神細道――のはずだ。
だが天神細道は一方通行の空間転移を可能とする道具だった――こちらも、だったはずだ。
天神細道に隠された使用法があったのだろうか。橘音すら知らなかった使用法が。
「……ん」
深く考え込むポチの背中を、ふとヴァプラが撫でた。
咄嗟に振り返る。目の前に、赤い鳥居があった。
いつの間に現れたのかは分からない。だが、何をされるのかは分かった。
「引きずり出してやるよ……!」
伸び来たる腕を屈み込んで躱す。同時にそれを掴み、背負い投げの要領で引きずり出す――つもりだった。
しかし手応えはない。腕には、実体というものがないようだった。
不在の妖術ではなく、この腕は単に、鳥居の権能が見かけ上の形として現れているだけなのかもしれない。
ならば――鳥居そのものを狙えばどうか。もちろん壊す訳にはいかない。
だが捕まらず、なおかつ「下手人の元へ」と念じながら飛び込む事は出来る。
しかしそれを実行に移す前に、鳥居は消えてしまった。
「……面倒だな」
ポチが舌を鳴らす。こちらが隙を見せた時にだけ襲いかかり、決して深追いしない。
厄介な戦術だった。対抗策がないとすら言える。
それは本質的に狼の狩りと同じだった。逃げ切る方法が分からない分、余計に厄介ですらある。
>「ご……ご無事で、教官〜」
「……ああ。君が教えてくれなかったら、危なかったかもだけど」
ポチはどうせ答えの出ない思考を打ち切って、ヴァプラを振り返り、微笑む。
本心からの笑みだった。たった一週間とは言え自分の訓練した相手が、その成果を見せてくれたのだ。
嬉しくないはずがなかった。
「とりあえず……みんなのとこに戻ろうか。情報を共有して……それからどうしたもんかな。
橘音ちゃんがいれば、もう分かんない事は大体判明して、あとバトるだけでいいんだけどなぁ」
ぼやきながら、ポチは、先ほどからずっと破壊音が聞こえてくる方へ歩き出した。
122
:
ポチ
◆CDuTShoToA
:2020/02/02(日) 19:09:50
>「ひぃぃぃぃ……だから言ったのであります!こんなことはしないで、安全な場所にみんなで隠れた方がいいってー!」
ポチが皆に合流すると、ベリスはまだ喚いていた。
「なに、そいつまだウダウダ言ってるの?尾弐っち、いっぺん二人で黙らせちゃおう……」
>「『どうせ、みんな無事なのでありますから』!もう済んだ連中はほっといて、こちらが無傷で逃げる方法を考えるであります!」
「……なんだって?そんな事、なんでお前に……」
>「皆様おバカさんでありますか!?それでもベリアル卿を倒した東京ブリーチャーズでありますか!」
>「もし相手に殺意があるとしたら、三バカ君たちはとっくに死んでいるであります!」
>「三バカ君は明らかに意識を失う程度に叩きのめされ放置されている――つまり、手心を加えられているであります!」
>「天魔は妖怪に手加減する理由がないでありますし、妖壊はそもそも手加減なんて気の利いたことはできないであります!」
>「ついでに言えば、仲間に気取られず対象を攫えるほどの力があれば、人知れず殺すことだってできるはずであります!」
>「それを敢えてせず、攫うだけに留めた――それは殺意のないことの裏付け、他に目的があることの証拠でありますよー!」
怒涛の演説に、ポチは何も口を挟めない。
口を挟む余地を見つけられなかった。
>「さらに、小豆洗い君は人影を見なかったと証言しているであります!しかし犯人は敷地内にいる、とすれば――」
>「犯人は『人型ではない』!!つまり、犯人は――ぶぴぃ!!!??」
しかしその推理の結論が明かされる瞬間、ベリスは何者かにぶん殴られて、吹っ飛んだ。
瓦礫に受け身も取れずに突っ込んで、そのまま気を失ったようだった。
《……オオオ……おおおおぉぉぉおおぉぉおぉぉぉおおぉおぉおおぉおおぉぉぉ……》
「……ああ、なるほど」
ベリスを打ちのめした下手人は――まだ、そこにいた。
>《膝を折り、こうべを垂れよ……われは朝家守護、正四位下春宮権大進源頼光が佩刀、童子切安綱なる……》
>《うぬら、東京ブリーチャーズに申し渡す――》
>《主命により、帝都鎮護に使役されるは善い――われらの本懐である》
>《されど、これは如何なものか――最早、われらの寛恕の範疇を遥かに超えておる……!》
「だけど、分からないな。なんで、あんたが僕らを襲うんだ?
あんな馬鹿どもに盗まれたのは、確かに失態だったけど……」
《事情が呑み込めぬと申すか……度し難き愚かしさ、やはり激憤を以て断罪せしめるより他になし》
《われら重代の宝具を敬い祀らぬばかりか、あまつさえ――あまつさえ――》
《われで!この安綱で!豚バラを切るなどと―――――!!!!!》
>「三バカかぁああああ! 妙に豚バラスパッと切れてると思ったぁあああああああああ!」
>「……あのバカ共、やらかした事はそこらの妖壊よりも性質が悪ぃな!」
「ああ……そりゃ、ひどい。本当にひどい……なんてしょうもないオチ……」
《わたしを担いで運ぶな……鳥居とは本来、ひとつ所に鎮座しておるもの……軽々に持ち運ぶものにあらず……》
《設定だけで本編に出番がなかった……》
《いや、俺に「ヘイ!Siri!」とか「OK.Google」とか言われても答えらんねぇし!まして「アレクサ電気つけて」とか無理だし!》
「……とりあえず、拐った橘音ちゃんは好きにしていいからさ。シロを返してくれない?
僕ら、もう帰るから。ああ……帰りに、いやみに一発くらい蹴り入れとこうか……」
《先だって捕えた三名には、既に過酷なる罰を与えておる……。うぬらも神妙に縛につくがいい――!!》
「……なんだと?」
不意に、ポチの全身から妖気が滾った。
地獄のように昏く、血潮のように熱い、『獣(ベート)』の妖気だった。
123
:
ポチ
◆CDuTShoToA
:2020/02/02(日) 19:13:40
>「あー……お前さん方の怒りは最もだし、何ならウチの大将がやらかした分についてはオジサンが謝罪する。すまなかった」
>「ただな、これだけは言わせてくれ」
「おい、もう一回言ってみろ」
>「――――よりにもよってテメェ等が、あのバカ共と東京ブリーチャーズを同一視してんじゃねぇ!!」
「僕のシロに、何をしたって? おい、シロは関係ないだろ」
シロは関係ない。そうだ。今回の話に、本当にシロは関係ない。
尻目達がしでかした事にも、橘音の七つ道具の扱いにも、とことん、全く、これっぽっちも関係がないのだ。
それを――過酷なる罰を与えたなどと聞かされたのだ。ポチは一瞬でブチ切れた。
勿論、それは所詮「お灸を据えた」の延長に過ぎないのだろうが、関係ない。
>「極寒の地の氷の神よ、我に力を与えたまえ。言葉は氷柱、氷柱は剣。身を貫きし凍てつく氷の刃よ、今嵐となり我が障壁を壊さん!エターナルフォースブリザード!!
>……よっしゃあ! 噛まずに言えた!」
周囲に吹き荒れる風雪。
>「橘音達は無事みてぇだから、ぶち壊すような真似はしねぇが――――多少の傷と汚れくらいは覚悟しとけ!!」
>「ロノヴェ!パターン伊2、6、9と呂3、8に加えて波9、11をランダムでやれ!俺と離れた相手への攻撃を厳守だ!」
尾弐がロノヴェと共に暴れ回る。いつもと同じだ。
隠れ身を得意とするポチが、その真価を最も発揮し得るシチュエーション。
だが――
「……ロノヴェ君。主役を譲ってあげるよ。奴ら、君のカモだぜ。意味は分かるね?」
言うや否や、ポチは七つ道具へと襲いかかる。
強烈な打撃で、『ノエルの風雪によって彼らに纏わりつく氷を、落とす』ように。
一週間の修行期間で、ポチはロノヴェの為にいくつかの戦法を考えた。
ポチには何の得もない話だったが、楽しかった。
ロノヴェの能力が、あまりにも「狼の狩り」に適していたからだ。
反撃を受けず、敵に纏わりつく事の出来る体質。
攻撃手段も工夫次第だった。霧の身体を圧縮、膨張させれば、それは簡易的な爆発となる。
敵の足元に水溜りを作ったり、延々と大音響を耳元で鳴らしてやったり。
幻影で敵の動きをコントロールする事も出来る。
そして何より――「湿気」が強い。
強烈な湿気を浴び続ける事は、大抵の物体に対して有害だ。
金属は錆びつき、生物は病気になり――有機物は、腐り落ちる。
つまり――木材や布などは。刀の柄紐はもっと繊細だ。
ノエルの瞬間的な冷凍ではそうはならない。
「なあ、別に僕はずうっとお前らと殴り合っててもいいんだけどさ。
やめて欲しいなら、さっさと言えよ。でないと何日でも、何週間でも僕らは粘るからな」
敵が疲弊し、腐るようにして倒れるまで纏わりつく霧。
それは形は違えど間違いなく、狼の狩りの体現者と言えた。
124
:
那須野橘音
◆TIr/ZhnrYI
:2020/02/07(金) 22:12:54
>――――よりにもよってテメェ等が、あのバカ共と東京ブリーチャーズを同一視してんじゃねぇ!!
>僕のシロに、何をしたって? おい、シロは関係ないだろ
《……なんだと?》
怒ったのに、逆に怒られた。これにはさすがの狐面探偵七つ道具も困り顔である。顔ないけど。
ゆらゆらと虚空を漂っていた六種類の妖具が、やおら円陣を組んでひそひそ話を始める。
召怪銘板の液晶画面に『審議中 しばらくお待ちください』という文字が表示されていた。
《東京ブリーチャーズと真・東京ブリーチャーズとは違うものなのか……?わたしにはよくわからぬ……》
《えー!?つーかここはうちのリーダーがごめんなさい!じゃあみんなで罰受けます!っていう流れじゃないの!?》
《完全にGMの想定外の流れですわコレ》
《ええい、とにかくなんかもう殴る!殴らずにはおれぬ!》
《あ、ワタシ隅っこで見てるんで。がんばー》
七つ道具(六種類)はブリーチャーズそっちのけでしばらく協議の時間を設け、5分くらい小声で話し合った。
それからようやく結論が出たらしく、再度ブリーチャーズへと向かい合う。
《協議の結果――連帯責任である!断罪に酌量の余地なし!!》
童子切安綱が宣言する。……開き直った。
姥捨の枝だけ戦場を離脱する。ずるい。それはGMだってメタネタくらい使いたくなる。
とにもかくにも、狐面探偵七つ道具(五種類)は一斉に東京ブリーチャーズへと襲い掛かった。
>極寒の地の氷の神よ(ry
(前略)深雪がエターナ(中略)で猛烈な吹雪を起こし、狐面(後略)を(略)。
七つ道具(五種類)は氷漬けになったが、まったく行動に支障はないらしい。
安綱などはお構いなしに氷漬けの刀身で深雪をポカポカ殴った。
他の道具たちも氷漬けのまま、恐るべき速度でブリーチャーズに迫る。
>橘音達は無事みてぇだから、ぶち壊すような真似はしねぇが――――多少の傷と汚れくらいは覚悟しとけ!!
《愚か者め!我らに傷をつけると、主人が黙っておらぬぞ!》
尾弐の言葉に反論する天神細道。微妙に情けないことを言っているのには気付いていないらしい。
ぶぅん!と音を立て、尾弐が手近なロードローラーを投げつける。
ロードローラーはたいていその辺に転がってるものだからね。仕方ないね。ってカイロ在住の吸血鬼も言ってた。
直撃すればいかな大妖怪の妖具とてダメージは免れないだろう。――が、天神細道はまったく動かない。
《……来い……!》
それどころか受け止める気でいる。ロケット砲のような速度で投擲されたロードローラーが、天神細道に激突――
しなかった。
巨大なロードローラーは音もなく鳥居の中へと吸い込まれ、跡形もなく消え去ってしまった。
天神細道が通すものに大きさは関係ない。その力でもってロードローラーを別の空間へと通過させてしまったのだ。
そして。
《この程度でわたしを倒せると思うな……!今度はこちらから行くぞ……!ぬぅぅぅんっ!!》
気合一発、天神細道がまるで生き物のように大きく仰け反る。
そして次の瞬間、鳥居からミサイルさながらの速度でロードローラーが尾弐へと射出された。
言うまでもなく尾弐の投げつけたロードローラーである。
天神細道は一旦別空間へと通過させたロードローラーを、今度は同じ速度で元の場所へと通過させ直したのである。
つまり――天神細道に飛び道具を使っても、まず間違いなく跳ね返される、ということだ。
《我らを甘く見るでない……我ら七器は名だたる大妖怪の至宝、すべての付喪神の頂点ぞ……!倒せるものか、たとえ――》
ゴッ!と音を立て、天神細道から膨大な妖気が迸る。
《たとえ、お笑い上等のギャグ回であってもな――!!!》
メタネタはほどほどにしてください。
125
:
那須野橘音
◆TIr/ZhnrYI
:2020/02/07(金) 22:13:11
>ロノヴェ!パターン伊2、6、9と呂3、8に加えて波9、11をランダムでやれ!俺と離れた相手への攻撃を厳守だ!
「……う」
尾弐の飛ばした鋭い指示に、ロノヴェは小さく返事をするとすぐに行動を開始した。
いつもはボーっとして、目の前を飛んでいるチョウチョをずっと目で追っているようなロノヴェだが、特訓の成果が生きている。
ロノヴェはふわふわと宙を漂っている迷い家外套へと狙いを定めた。その手の棍棒が唸りを上げる。
が、当たらない。まるで闘牛士のケープよろしく、迷い家外套は身を翻してロノヴェの攻撃を避けた。
《愚か者め――思い知れ!》
迷い家外套と召怪銘板が合流し、ロノヴェに立ちはだかる。
召怪銘板の液晶画面が明滅し、妖怪が召喚される。
画面から異常なほど長い右脚がにゅ、と伸びると、ロノヴェの顔面を強烈に蹴りつける。
足長の脚だ。だが、顔面を痛撃されたというのにロノヴェはまったく痛がりもしない。
次に召怪銘板は液晶画面から凄まじい勢いで雷撃を放った。これは雷獣の持つ妖術であろう。
しかし、これも効かない。並の妖怪ならば一撃で感電し、ケ枯れしてしまうであろう電撃を全身に浴びても、ロノヴェは怯まない。
本当に当たっているのか疑問に感じるレベルの動じなさである。
《ぐぬぬ……ならばこれはどうだ!?これは!?》
その後も召怪銘板は火車の妖術で巨大な火の玉を作ったり、野槌の能力で地面から土の槍を出したりしたが、悉く不発に終わった。
体力と頑丈さだけなら天魔七十二将随一。ただしINTはゼロ。それがロノヴェである。
そして――INTがゼロだけに、ロノヴェは余計なことを考えない。
ただただ、機械のように尾弐に教えられたこと、指示されたことを実行する。
だが――
グォンッ!と唸りを上げ、ロノヴェが棍棒を高く振り上げる。その直後、渾身の力を込めて振り下ろす。
自動車を一撃でただの鉄塊に変える、膂力に裏打ちされたシンプルかつ必殺の一撃である――が、当たらない。
ロノヴェの攻撃はすべて迷い家外套の結界によって防御され、あるいは逸らされ、こちらもまた不発に終わる。
七つ道具はロノヴェの硬さに歯が立たず、ロノヴェは七つ道具の結界を打ち破る方策を持っていない。
互いに完全な手詰まりである。千日手と言うべきか。
膠着状態に陥った三者は無言で睨み合った。
だが、その状況をポチの指示を受けたヴァプラが打ち破る。
>……ヴァプラ君。主役を譲ってあげるよ。奴ら、君のカモだぜ。意味は分かるね?
「は……はいぃ〜」
ヴァプラはロノヴェよりは知能が高い。すぐに、ポチの意図するところを察した。
結局のところ、ヴァプラがおミソ扱いされていたのは生来の気の弱さもあるが、自身の特性を把握していなかった点にある。
朝の日差しと共に消えてしまう、儚い朝靄。それが自分だと、ヴァプラはずっと思ってきた。
だから、おミソとバカにされ役立たずと罵られても、それが自分の分限だと考え反論する気も起らなかったのだ。
しかし――今は違う。
ポチが聞き耳頭巾に襲い掛かる。しかし、聞き耳頭巾は周囲の声を聞き、ポチの爆速の攻撃を躱してゆく。
直撃は避けているが、ポチの攻撃の巻き起こす衝撃がガリガリと七つ道具に纏わりついた氷を削り取る。
細かく砕け散った氷が、さながらダイヤモンドダストのように周囲に飛散する。
そして。
《こ……、これは……》
聞き耳頭巾はいつの間にか、自らの身体が重くなっていることに気が付いた。
……濡れている。
ヴァプラの広がった空間で戦い、またポチの削った氷の飛沫に晒されるうち、身体が水を吸ったのだ。布なのだから当然である。
そして、水を吸えば当然、その体積は重くなる。重くなれば、動きも鈍くなる。
バゴンッ!!
《っぶぉ!?》
突然、聞き耳頭巾の背後で爆発が起こった。ヴァプラが自らの身体の一部を圧縮させ、次いで急激に膨張させたのだ。
疑似的な爆発による奇襲。これには万物の声を聞き分ける聞き耳頭巾も対処できない。
吹き飛ばされ、召怪銘板たちのいる場所までふらふらと移動する。
《大丈夫か、聞き耳の》
《ぐ、ぐぐ……大事ない……》
《いや、つーか、なんでこいつらこんなガチなの……ブックってもんが読めないの……》
《ぬぅ……ならば仕方あるまい、我らの真の力を解放するときが来た……!》
《えー。あれやるの?》
童子切安綱が提案し、離れた場所にいた姥捨の枝も仲間たちに合流する。
七つ道具(六種類)はブリーチャーズと対峙し直すと、奥の手を出すべく妖気を纏った。
126
:
那須野橘音
◆TIr/ZhnrYI
:2020/02/07(金) 22:13:23
六体の付喪神たちが、ただならぬ妖気を放っている。
《ゆくぞ……我らの真の力を見よ――!合体!!!》
童子切安綱がそう号令をかけると同時、七つ道具(六種類)が散開する。
そして、それぞれが莫大な妖気を放出する。ひとつ在るだけで国を統べることさえ可能な宝具が、妖気をひとつに纏めあげる。
出来上がったのは――身長が5メートルばかりもありそうな、妖気でできた青黒い巨人。
ただし、そのディティールは甘い。顔はのっぺらぼうだし、身体にも当然あるべき凹凸や起伏がない。
まるで粘土を大雑把な人型に形成しただけのような巨人だ。
そんな巨人に、七つ道具たちがまとわりついてゆく。
右手には童子切安綱。胸部には迷い家外套。
左手に姥捨の枝、腰部分には天神細道。
そして頭部に聞き耳頭巾が収まり、顔面に召怪銘板が張り付いた。
召怪銘板の液晶画面に、ぎょろりと巨大な一つ目が表示される。ドット絵のような、荒いグラフィックの単眼だった。
妖気の巨人と合体した七つ道具は、背を仰け反らせて大きく咆哮した。
《完ッ成!スゥゥゥゥゥパァァァァァァツクモキィィィィィィィィィング!!!!!》
なんか日曜朝に放送している特撮番組のロボットみたいなのが出て来た。
ただし、ヒーロー側っぽいネーミングに反して外見は完全に悪の組織が作った巨大メカのそれである。
「……う!」
ロノヴェが突進し、棍棒を振りかぶる。スーパーツクモキングの巨躯に対抗できる肉体の持ち主はロノヴェしかいない。
だが。
《スーパーツクモ・プロテクション!!》
ガギィンッ!!
スーパーツクモキングが前方に展開した結界が、ロノヴェの一撃を阻む。
迷い家外套の能力だ。やはり、単純な物理攻撃は七つ道具には通用しない。
返礼とばかりにスーパーツクモキングが右腕の童子切安綱(の鞘)でロノヴェを殴りつける。
頑丈さでは他の追随を許さないはずのロノヴェの体躯が、スーパーツクモキングに殴打されてぐらり、と傾く。
「く……く〜ら〜え〜……」
仲間の仇討ちとばかり、ヴァプラがスーパーツクモキングへと纏わりつく。
先程聞き耳頭巾に痛撃を食らわせた戦法だ。いくら周囲の声が聞こえても、全方位から前触れなしに来る爆発は避けられまい。
と、思ったが。
《スーパーツクモ・ヒィィィィィィト!!!》
顔面の召怪銘板が発光する。と同時、スーパーツクモキングの全身が赤くなってゆく。
全身が炎で構成された妖怪、つるべ火の妖術を用い、全身を赤熱化させたのだ。
じゅぅっ……と水分の蒸発する音がする。ヴァプラは悲鳴を上げた。言うまでもなく、霧は熱に極めて弱い。
「ひひ……ひぃぃぃぃぃぃ〜……」
《莫迦め……究極の付喪神たる我ら!愛と正義と理不尽の化神、スーパーツクモキングに勝てると思ったか!!》
自分で理不尽って言っちゃった。
さらに、スーパーツクモキングは胸の前で両腕をクロスさせると、妖気を収束させ始めた。
ロボットアニメとかだと完全に必殺技のムーブである。逃げてー!
《喰らうがいい……日本の付喪神の底力を!必殺!スゥゥゥゥパァァァァツクモ・ブレスタァァァァァァァァァ!!!!!》
クロスさせていた両腕を開き、臨界点に達した胸元の妖気を解放する。
巨大なレーザーと化した妖気が東京ブリーチャーズを襲う。凄まじい破壊の奔流が廃工場の壁をぶち抜き、大気が鳴動する。
というか日本の付喪神なのに横文字の必殺技しかない。
スーパーツクモ・プロテクションで物理攻撃は防御され、スーパーツクモ・ヒートでヴァプラの霧も通じない。
飛び道具はおそらく天神細道の力で跳ね返されるであろうし、しかもブリーチャーズ非正規メンバーの妖術まで使ってくる。
見た目は悪ふざけ以外の何物でもないが、スーパーツクモキングの強さは本物である。
《我らに刃向かったことの罪深さ、そろそろ理解できたか……!ならば、粛々と断罪を受け入れるがいい……!》
ずしん……と重い音を立て、巨人が東京ブリーチャーズへと一歩を踏み出す。
東京ブリーチャーズ最大の敵、その名はスーパーツクモキング――!!
127
:
那須野橘音
◆TIr/ZhnrYI
:2020/02/07(金) 22:15:14
《さあ……、最初に我らが断罪を受け入れたいのはどいつだ!悪い子はいねがぁぁぁぁぁ!!!》
何か色々混ざってる。
ともかくも東京ブリーチャーズは未曽有の危機に陥った(気がする)。
「う……う〜ん」
そんなとき、深雪の近くでひっくり返っていたベリスが目を覚ました。
ベリスは最初はボンヤリとスーパーツクモキングを見ていたが、徐々に意識がハッキリしてくると、
「ひぎゃあああああああああ!?なんでありますかあのバケモノはーっ!?あ、悪魔!悪魔でありますーっ!!」
と喚いた。自分も悪魔だというのを完全に忘却している。
そのやかましさに、ファミコンレベルのドット絵めいた単眼がぎょろりとベリスをねめつける。
ベリスはすっかり怖気づいて腰を抜かし、尻餅をついたまますさささ……と存外素早い動きで後退した。
《最初にやられたいのはうぬかぁ!スーパーツクモ・ビィィィィィィィィィム!!!》
「ぅ……!」
スーパーツクモキングの単眼から光線が放たれる。
だが、その一撃をロノヴェが前面に出、我が身を挺してベリスを守った。
こと対物理攻撃に関しては無類の頑強さを誇るロノヴェが、がくりと片膝をつく。恐るべき威力の光線と言わざるを得ない。
「ロ、ロノヴェ君!」
「お……おのれぇぇ〜……」
《無駄だというのが分からぬか!スーパーツクモ・タイフゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!》
同胞を攻撃されて怒ったのか、ヴァプラが再びスーパーツクモキングに纏わりつこうとする。
スーパーツクモキングは姥捨の枝がついた左腕をグルグルと回転させた。
途端に腕から竜巻状の突風が吹き荒れ、ヴァプラの霧状の肉体を吹き飛ばす。火の他、強い風も霧の大敵である。
ヴァプラは文字通り霧散してしまった。ふたたび身体を構築するには、数分はかかるだろう。
ベリスは悲痛な声をあげた。
「ヴァプラ君……!」
《フハハハハハハ!空にそびえるくろがねの城、スーパーツクモキングは伊達じゃない!!》
スーパーツクモキングが背を仰け反らせて勝利宣言する。……やっぱり色々混ざっていた。
尾弐の剛力も、ポチの不在の妖術も、七つ道具(六種類)の堅牢な防御の前には有効だとは成り得ない。
このままでは、東京ブリーチャーズは全滅必死であろう。
……しかし。
「よくも……よくも、小官の朋輩を!」
それまでヘタレ具合を隠そうともせず、保身第一というスタイルを崩そうとしなかったベリスが、ゆらりと立ち上がる。
その双眸にロノヴェとヴァプラの仇を討たんとする意志が燃えているのが、深雪たちにも分かるだろう。
「東京ブリーチャーズの方々……、小官に力を貸して欲しいであります!」
「正直言ってあのデカブツは恐ろしいでありますし、叩かれると致そうでありますし、戦いたくないであります!」
「でも……創世記戦争から一緒にやってきた朋輩を傷つけられて、おめおめ逃げ出す方がもっと嫌であります……!」
どうやら、この怠惰と小心を絵に描いたような天魔にも、ほんの少し。ささやかな矜持というものはあったらしい。
「アレは妖具の集合体であります、そして合体にはメリットもあればデメリットもあるであります」
「すなわち――今までバラバラに攻撃しなければいけなかったものが、一箇所に集中している――!」
「つまり、あの巨人の合体を制御し統制している『頭脳』に相当する部位を撃破できれば……」
「わざわざ六器すべてを各個撃破するまでもなく、一度にすべてを行動不能にできるはずであります!」
ビシィ!とベリスはスーパーツクモキングの顔面、一つ目の表示された召怪銘板を指さした。
「攻撃ポイントは、あの一点!顔面のタブレットであります!」
128
:
那須野橘音
◆TIr/ZhnrYI
:2020/02/07(金) 22:16:33
確かに、スーパーツクモキングの顔面に張り付いた召怪銘板が五体を統御しているように見える。
そこを撃破できれば、強大無比なスーパーツクモキングを打倒することも不可能ではないだろう。
「各々手前勝手に攻撃をしていたのでは、永遠にスーパーツクモキングの牙城は崩せないであります……!」
「ヤツの防御結界を、ほんの一瞬だけでも消すことができたなら……」
ベリスはそう言って東京ブリーチャーズを見たが、いい案が浮かばないらしい。
そこは、やはり橘音や天邪鬼よりはやや劣るといったところだろうか。
……しかし。
そんなとき、ブリーチャーズの背後で声が聞こえた。
「どうやら――」
「ここはオラたちの――」
「出番みたいね……!ウフッ☆」
うーん。聞きたくなかった。
見れば、先ほどまで狐面探偵七つ道具にしばかれて気絶していた三バカが復活し、腕組みしてドヤ顔している。
何 し に 出 て 来 た 。
「あのでけぇのを何とかすりゃぁいいってんでしょ?なら、俺っちたちも力を貸しますぜ。この真・東京ブリーチャーズが!」
「あいつを笑わせれば、酒ぇ呑ませてくれんだろぉ?じゃあいくらでも踊るぞぉ」
「やっぱり、最後にはアタイが決めなきゃいけないのよね。ヒロインってつらいわぁ」
完全にこいつらのせいなのだが、本人たちは全く悪びれない。というか自分のやったことの罪深さに気付いていない。
とはいえ、この三人組が幻惑だとか行動不能だとかの技に長けているのは間違いない。
訓練前のまだ弱かった状態のときとはいえ、三バカはロノヴェやヴァプラを破っているのである。
どこまで通じるかは分からないが、スーパーツクモキングに対しても試してみる価値はあるだろう。
通じなかったら通じなかったで、三バカがスーパーツクモキングの前に消し炭となるだけである。
「……信用してもいいのでありますか?この人たち……」
さしものベリスも懐疑的な眼差しを向ける。完全にお前が言うなだが、この際仕方ない。
「さあ――、やってやりやしょうぜ!指示をお願いしまさぁ!」
尻目が勢い込んで言う。自分の実力というものを相変わらず完全に見誤っている。
《フハハハハ!雑魚がいくら増えようと、この最強モビルス……もとい妖怪、スーパーツクモキングは止められぬ!》
スーパーツクモキングがブリーチャーズたちを前に童子切安綱を振り上げる。
眼前に立ちはだかる、巨大な敵。
様々な確執を乗り越え(?)つつも、ひとつの戦いに勝利すべく手を結んだ(?)妖怪たち。
絵面だけはなんか熱血な感じになりながら、戦いは佳境を迎えつつあった。
129
:
御幸 乃恵瑠
◆4fQkd8JTfc
:2020/02/11(火) 00:30:22
>「なあ、別に僕はずうっとお前らと殴り合っててもいいんだけどさ。
やめて欲しいなら、さっさと言えよ。でないと何日でも、何週間でも僕らは粘るからな」
「そういう手か……!」
ポチの作戦を悟った深雪は、地味にみぞれを降らせてみたりする。
「なんというか……地味だな……。あいたたたた痛い痛い!」
このままでは七つ道具(六つ)が湿気で劣化するよりも深雪がボコボコになる方が先かと思われたが、ヴァプラが爆発によって聞き耳頭巾に痛打を与えた。
すると七つ道具(六つ)の付喪神たちは集まり、何やら打ち合わせを始めた。
>《大丈夫か、聞き耳の》
>《ぐ、ぐぐ……大事ない……》
>《いや、つーか、なんでこいつらこんなガチなの……ブックってもんが読めないの……》
>《ぬぅ……ならば仕方あるまい、我らの真の力を解放するときが来た……!》
>《えー。あれやるの?》
「真の力だって!? 今までのは本気じゃなかったのか……!」
と、真面目に驚いている深雪。
言われてみれば童子切安綱は一切抜刀してこなかったし、姥捨の枝に至っては一切何もしてこなかった。
>《ゆくぞ……我らの真の力を見よ――!合体!!!》
>《完ッ成!スゥゥゥゥゥパァァァァァァツクモキィィィィィィィィィング!!!!!》
「気を付けろ、物凄い妖気だ……! 微妙にデザインが雑なのはきっと弱く見せかけるための作戦」
>「……う!」
>《スーパーツクモ・プロテクション!!》
深雪が台詞を言い終わる前にロノヴェが突撃し、あっさり返り討ちにあった。
>「く……く〜ら〜え〜……」
「あ、この流れはアカンやつ……」
>《スーパーツクモ・ヒィィィィィィト!!!》
>「ひひ……ひぃぃぃぃぃぃ〜……」
「やっぱり……」
>《莫迦め……究極の付喪神たる我ら!愛と正義と理不尽の化神、スーパーツクモキングに勝てると思ったか!!》
「理不尽は合ってるとして愛と正義がどこにあるのか問い詰めたい、小一時間問い詰めたい!」
>《喰らうがいい……日本の付喪神の底力を!必殺!スゥゥゥゥパァァァァツクモ・ブレスタァァァァァァァァァ!!!!!》
巨大なビームが廃工場の壁を突き抜けてった。
「これ街の被害とか大丈夫なのか!? そうだ、橘音殿の結界があるから大丈夫なのか!」
そんな心配をしている場合ではない。
130
:
御幸 乃恵瑠
◆4fQkd8JTfc
:2020/02/11(火) 00:31:27
>《我らに刃向かったことの罪深さ、そろそろ理解できたか……!ならば、粛々と断罪を受け入れるがいい……!》
>《さあ……、最初に我らが断罪を受け入れたいのはどいつだ!悪い子はいねがぁぁぁぁぁ!!!》
絶体絶命のピンチに陥ったところで、ベリスが目を覚ました。
>「う……う〜ん」
「やっと起きたか……!」
>「ひぎゃあああああああああ!?なんでありますかあのバケモノはーっ!?あ、悪魔!悪魔でありますーっ!!」
「駄目だって! そんなに騒いだら!」
橘音や天邪鬼がいない今となってはこれでも貴重なブレインポジションなのである。
起きた瞬間にまた戦線離脱させられては話にならない。
>《最初にやられたいのはうぬかぁ!スーパーツクモ・ビィィィィィィィィィム!!!》
「言わんこっちゃない! 間に合うか!?」
氷の壁を作り防御しようとする深雪。が、眼前に巨体が飛び出してきた。
ロノヴェが身を挺してベリスを守ったのだ。
>「ぅ……!」
>「ロ、ロノヴェ君!」
>「お……おのれぇぇ〜……」
>《無駄だというのが分からぬか!スーパーツクモ・タイフゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!》
ヴァプラはスーパーツクモタイフーンの前では成す術も無く、霧だけあって霧散してしまった。
>「よくも……よくも、小官の朋輩を!」
「ベリス殿……!」
今まで保身第一でしかなかったベリスがついに闘志を瞳に宿し立ち上がる。
>「東京ブリーチャーズの方々……、小官に力を貸して欲しいであります!」
>「正直言ってあのデカブツは恐ろしいでありますし、叩かれると致そうでありますし、戦いたくないであります!」
>「でも……創世記戦争から一緒にやってきた朋輩を傷つけられて、おめおめ逃げ出す方がもっと嫌であります……!」
「よくぞ言った! この雪の女王の名にかけて――必ずや二人の仇を討とうぞ!」
単純な深雪は、創世期戦争からのおミソ同士の美しき絆にあっさり感動したらしい。
……別に当初の目的である橘音達の救出ひいては七つ道具(六つ)の無事な姿での回収を忘れたわけではない、多分。
131
:
御幸 乃恵瑠
◆4fQkd8JTfc
:2020/02/11(火) 00:32:19
>「アレは妖具の集合体であります、そして合体にはメリットもあればデメリットもあるであります」
>「すなわち――今までバラバラに攻撃しなければいけなかったものが、一箇所に集中している――!」
>「つまり、あの巨人の合体を制御し統制している『頭脳』に相当する部位を撃破できれば……」
>「わざわざ六器すべてを各個撃破するまでもなく、一度にすべてを行動不能にできるはずであります!」
「なるほど! そして頭脳にあたる部位とは!?」
>「攻撃ポイントは、あの一点!顔面のタブレットであります!」
>「各々手前勝手に攻撃をしていたのでは、永遠にスーパーツクモキングの牙城は崩せないであります……!」
>「ヤツの防御結界を、ほんの一瞬だけでも消すことができたなら……」
「どうやって消すのだ!?」
気まずい沈黙が場を支配した、その時!
>「どうやら――」
>「ここはオラたちの――」
>「出番みたいね……!ウフッ☆」
「いつの間に!?」
満を持して三バカの再登場である!
>「あのでけぇのを何とかすりゃぁいいってんでしょ?なら、俺っちたちも力を貸しますぜ。この真・東京ブリーチャーズが!」
>「あいつを笑わせれば、酒ぇ呑ませてくれんだろぉ?じゃあいくらでも踊るぞぉ」
>「やっぱり、最後にはアタイが決めなきゃいけないのよね。ヒロインってつらいわぁ」
全ての発端となった元凶がこいつらだったような気がしなくもないが、今は脇に置いておくとしよう。
>「……信用してもいいのでありますか?この人たち……」
「ここは我に任せろ――バカとハサミは使いようってな!」
深雪は不敵に笑って応えた。三バカ登場でろくでもない名(迷)案を思い付いたようだ。
とはいえ、三バカは揃いも揃ってステータスをびっくりに全振りした妖怪。
使いようによっては敵に一瞬の隙を作る事が出来るかもしれない。
>「さあ――、やってやりやしょうぜ!指示をお願いしまさぁ!」
「あやつらに東京ブリーチャーズの何たるかを叩きこんでやろうぞ!
我が歌いだしたら皆の得意技を炸裂させるのだ! それだけでいい!」
自分の実力を完全に見誤っているのも、むしろ好都合。
ベリス達と戦った時とは違い最初からやる気MAXのため、やる気にさせる手間が省けるというものだ。
……ん? 歌いだしたら?
132
:
御幸 乃恵瑠
◆4fQkd8JTfc
:2020/02/11(火) 00:33:40
>《フハハハハ!雑魚がいくら増えようと、この最強モビルス……もとい妖怪、スーパーツクモキングは止められぬ!》
「それはどうかな? ――氷面鏡の大迷宮《アイスミラーラビリンス》!」
深雪は割とガチめの大妖術を発動。
戦闘フィールドは氷の多面鏡で出来た巨大なドームの内側のような空間に塗り替えられた。
無数の合わせ鏡が出来て見辛くて仕方がないが、どれが本物のスーパーツクモキングか程度は分かるだろう。
というのも、生物は左右二つの目で見ることによって、距離感を掴んでいる。
が、スーパーツクモキングは今のところ単眼。こちら側のメンバーのどれが本物だか分からないはずだ。多分!
そして深雪はノエルの姿になり、理性の氷パズルをギターに変化させた。ついでに服装も無駄にキラキラしたステージ衣装のようになっている。
理性の氷パズルはあらゆる武器防具に変化する妖具だった気がするが、ギターは武器だ。(断言)
ゲームによってはギターが武器のキャラもいるし必殺技ではギターで敵をぶん殴ってその度にぶっ壊したりしてるけど修理代かさみそう。
というわけでギターは武器だ(二回目)
「ノエル行っきまーす!――東京ブリーチャーズ公式テーマソング、”東京妖魔戦記”!」
多分公式ではない気がするなあ。そんな事はお構いなしに、ノエルはギターを構えると、叫んだ。
「僕の歌を聞けぇえええええええええええ!」
前奏の和風音階のアルペジオを掻き鳴らし、マジで歌い始めちゃった!
そういえば巨大ロボットに何故か歌で立ち向かう主人公どっかにいたね!
でもお前は熱気じゃなくて冷気だ! 残念!
さて、これだけだとバカが一人で奇行を始めただけだが、今はバカは一人じゃない!
三バカという最恐のバックダンサーズがいた! 音楽は――そう、はらだしが踊りだすトリガー。
はらだしの妖術(?)が効果を発揮するには、通常ならば踊る前に注目を集めるという過程が必要だが、今はフィールド全域が合わせ鏡のため嫌でも目に入ってくる。
それも無限に増殖した形で。
同様に、尻を突き出して左右に高速移動することで敵に恐怖(?)を与える尻目も、
見返り美人ならぬ見返りブス(※そもそも美人とかブスとかいう問題ではない)するだけで
敵に精神的ダメージを与えることが出来るいやみも、単純計算すればその効果は無限倍だ。
今やスーパーツクモキングは、どこを向いても全方位を無限に増殖したバカに取り囲まれ、逃れる術はないのだ!
バカが無限大! 希望が見えない! 絶望しかない! びっくりするほどユートピア!
これぞバカが集合した時という特殊な状況下だけで発動できる必殺技。
名付けて ―― バ カ 大 銀 河 !!
尤も、名だたる大妖具の集合体がこんなしょうもない技で行動不能になったりはしないだろう。でもそれでいい。
ほんの一瞬、防御結界を張ることを忘れさせることが出来れば、それで充分なのだから!
「クロちゃん、ポチ君、今だああああああああああああああ!!」
133
:
尾弐 黒雄
◆pNqNUIlvYE
:2020/02/13(木) 21:42:25
……しかしまあ、随分と面倒臭ぇ事になってきやがった。
>《ゆくぞ……我らの真の力を見よ――!合体!!!》
>《完ッ成!スゥゥゥゥゥパァァァァァァツクモキィィィィィィィィィング!!!!!》
>「気を付けろ、物凄い妖気だ……! 微妙にデザインが雑なのはきっと弱く見せかけるための作戦」
「……いや、オジサン的にはデザインとか以前にもっと色んなモンが雑な気がするんだがなぁ?」
ぶん投げたロードローラーを投げ返してきたりするのは、まあ仕方ねぇ。
仮にも大妖怪達の所有物だ。むしろそれくらいの事はして然るべきなんだろう。
しかしさすがに、こいつぁ反則だ。想定外過ぎるだろ。
あの七ツ道具ども、合体しやがった。
……今まで合体する要素も、接合する部分とかもまるでなかったよな?
オジサンにゃよくわからねぇが、ああいう理不尽な合体が最近の流行りなのか?
>《スーパーツクモ・プロテクション!!》
「おいロノヴェ!マズそうなら一旦引け!」
俺がそんな事を考えてる最中に、訓練でどれだけ吹き飛ばしてもたじろがなかったロノヴェが連中の一撃を受けてふらついた。
それを目にした俺は、指示を出しながら距離を取る。
どれだけふざけてるとはいえ、結局のところ連中は七ツ道具だ。
それなりに丈夫なオジサンでも童子切安綱相手に殴られ続ければ悔しいが平気でいる自身はねぇ。
矢継ぎ早にヴァプラを退けたスーパーツクモ……ツクモ……面倒だな。呼び方はツクモ太郎とかで良いか。
そのツクモ太郎は俺達の様子を見て勝ち誇った様な視線を向ける。
>《莫迦め……究極の付喪神たる我ら!愛と正義と理不尽の化神、スーパーツクモキングに勝てると思ったか!!》
……さぁて、この言いぐさには、温厚なオジサンでも流石に腹が立つな。
何が腹立つのかといえば――――まあ全部なんだが、特に、これだけの性能があるのに赤マントとの決戦時に披露しなかった事が腹立たしい。
いっそ、鉄骨を屋根に投げて瓦礫で生き埋めにしてやろうかと思い、手に力を込め
>《喰らうがいい……日本の付喪神の底力を!必殺!スゥゥゥゥパァァァァツクモ・ブレスタァァァァァァァァァ!!!!!》
>《我らに刃向かったことの罪深さ、そろそろ理解できたか……!ならば、粛々と断罪を受け入れるがいい……!》
「んなっ!?レーザーだと!?」
>「これ街の被害とか大丈夫なのか!? そうだ、橘音殿の結界があるから大丈夫なのか!」
「ンな事より全力で回避しろ色男!熱量攻撃とはお前さんが一番相性が悪ぃだろうが!」
おいおい、あのツクモ太郎レーザービームを胸元から吐き出しやがった!
即座に鉄骨を棄てて地面を転がるようにしてとっさに避けたのは正解だった。
レーザーは工場の壁をバターみてぇにぶち抜いていやがる。こいつをまともにくらえばどうなるかは、流石に想像したくねぇな。
最も……そんな状況でも、退く訳にはいかねぇんだが。
134
:
尾弐 黒雄
◆pNqNUIlvYE
:2020/02/13(木) 21:43:12
>《我らに刃向かったことの罪深さ、そろそろ理解できたか……!ならば、粛々と断罪を受け入れるがいい……!》
「は……生憎、包丁一本御せないようじゃあ趣味が料理と名乗れねぇんでな。きっちり抑えつけて持ち帰らせて貰うぜ、人切り包丁と付属品共」
しかしまあ、物理無効に必殺の飛び道具たぁ、随分とえげつねぇ。反則だ。
さぁて、どうしたもんか――――どうやって、こいつをぶち壊してやろうか。
向かってくるツクモ太郎相手に、右手を開閉しながら俺が攻略法を考えていると
>「ひぎゃあああああああああ!?なんでありますかあのバケモノはーっ!?あ、悪魔!悪魔でありますーっ!!」
「……お前さん、もう悪魔廃業しちまっていいんじゃねぇか?」
さっきまで意識を失っていたベリスが開口一番、ツクモ太郎を見て悲鳴をあげやがった。
……というか、ベリスの奴は朝起きて最初に目にすんのが悪魔(テメェ)だろうが。
何をビビッて――――ああ、そういや天魔の上位勢は、世に聞くルシファーって奴とか、あのベリアルとか、そういう奴等だったな。
そりゃあ、怯えもするか。同じ天魔でもアレは色々と違い過ぎる。
なんとなく可哀相な物を見る目でベリスを見ていたが、とうの本人はそんな俺の視線に気付く余裕はないらしい。
悪霊に追い詰められた人間の様に、尻餅をついたまま後退し……
>「駄目だって! そんなに騒いだら!」
>《最初にやられたいのはうぬかぁ!スーパーツクモ・ビィィィィィィィィィム!!!》
そして、ツクモ太郎はどうにもその叫び声が気に入らなかったらしい。
敵意に気付いたノエルの制止は間に合わず、また天魔相手には躊躇いもねぇらしい。ツクモ太郎はベリスに向けてビームを放ってきやがった。
俺もとっさにベリスを逃がそうと動いたが――――その反応は、自分でも分かるくらいに遅かった。
……そりゃそうだ。言っちまえば、俺にとってベリスはどうでもいい相手だ。
顔見知りだが、ただ知っているだけ。道端で見かけて困ってりゃあ嫌々声でも掛けてやるが、命を賭けられる程に大切な相手じゃない。
そんな感情が、俺の行動を鈍らせた。
舌打ちをし、テメェのくだらない打算を振り切ろうと手を伸ばすが、恐らくもう間に合わない。
俺の手は、届かない
だが
>「ロ、ロノヴェ君!」
>「ヴァプラ君……!」
奴等は違った。
天魔ロノヴェ。天魔ヴァプラ。
落ちこぼれと言われ天魔の中で馬鹿にされてきた二体は、俺なんぞよりも遥かに早くベリスを守ろうと動き出していた。
ビームの直撃を受けて膝を突くロノヴェ。
突風によりその体を霧散させられたヴァプラ。
誰からも見下されてきた連中は、確かに――――確かに仲間を守り抜いて見せた。
>「よくも……よくも、小官の朋輩を!」
>「東京ブリーチャーズの方々……、小官に力を貸して欲しいであります!」
>「正直言ってあのデカブツは恐ろしいでありますし、叩かれると致そうでありますし、戦いたくないであります!」
>「でも……創世記戦争から一緒にやってきた朋輩を傷つけられて、おめおめ逃げ出す方がもっと嫌であります……!」
>「よくぞ言った! この雪の女王の名にかけて――必ずや二人の仇を討とうぞ!」
その身を犠牲にしても仲間を守ろうとする者。
仲間の犠牲に怒り奮起する、弱者。
ハ――――こりゃあ何ともまあ、随分にありきたりな、お涙ちょうだいの寸劇じゃねぇか。
まるで娯楽活劇の時代劇やガキ向けの漫画だな。
長く生きた間に、見飽きる程に何度も見た事のある展開だぜ。
「『だから、嫌いじゃねぇ』――――天魔ベリス、こいつは貸しだぜ。デケェ貸しだ。このツクモ太郎をぶちのめした後で、お前達から利子付けて返して貰うから覚悟しとけよ」
単純?偽善?嗤いたきゃいくらでも嗤え。
こういう物をキレェだと思えたから、俺は此処に居るんだ。
135
:
尾弐 黒雄
◆pNqNUIlvYE
:2020/02/13(木) 21:44:01
>「アレは妖具の集合体であります、そして合体にはメリットもあればデメリットもあるであります」
>「すなわち――今までバラバラに攻撃しなければいけなかったものが、一箇所に集中している――!」
>「つまり、あの巨人の合体を制御し統制している『頭脳』に相当する部位を撃破できれば……」
>「わざわざ六器すべてを各個撃破するまでもなく、一度にすべてを行動不能にできるはずであります!」
>「攻撃ポイントは、あの一点!顔面のタブレットであります!」
「一点集中の極所攻撃って奴か――――しかしまあ、お前さんも判ってると思うが」
ベリスの奴は短い間に状況を看破し、打開策を提案する。
伊達に天魔とは名乗ってねぇと思わせる、流石とも言える頭の冴えだ。
だが、ベリスが提案した戦法を実行するにはツクモ太郎の貼った結界をぶち破らないとならねぇ。
ならねぇんだが……腐っても七つ道具の張った結界。力技だけでぶち破れる気がしねぇな。
ベリスの奴もそれを理解してるらしく、苛立ったように沈黙しちまってやがる。
こんな時に橘音と外道丸がいてくれりゃあ、妙案を思い浮かべてくれるんだろうが……
……そういや、命に別状はないとはいえ、ツクモ太郎の野郎二人に傷でも付けてねぇだろうな。
もし少しでも傷つけてやがったら、カビが生えるまでサウナにでもぶち込んでやろうか。
ようは壊さなきゃいいだけだ。逆に言えば、価値を台無しにする方法なんざいくらでも……
……っと、考えが逸れた。
>「どうやって消すのだ!?」
「あー……例えば、色男が全方位から氷で範囲攻撃をしてる間に俺が悪鬼化して全力で拳をぶち込む」
「その時に出来るかもしれねぇ僅かな結界のひずみから、ポチ助が不在の妖術を使って滑り込むって手段も――――いや、無理か。あの結界の強度だと成功率が低すぎるな」
ここにいるメンバーは基本性能が高いんだが、俺も含めて術だの呪いだのって言ったモンの行使には詳しくねぇ。
それでも、他に打開策も思い浮かばない以上、一か八か力技で挑むしか
>「どうやら――」
>「ここはオラたちの――」
>「出番みたいね……!ウフッ☆」
そんな風に、力任せに暴れる覚悟を決めようとしたその瞬間。
背後から、ぶん殴りたい汚い声が聞こえてきやがった。
>「あのでけぇのを何とかすりゃぁいいってんでしょ?なら、俺っちたちも力を貸しますぜ。この真・東京ブリーチャーズが!」
>「あいつを笑わせれば、酒ぇ呑ませてくれんだろぉ?じゃあいくらでも踊るぞぉ」
>「やっぱり、最後にはアタイが決めなきゃいけないのよね。ヒロインってつらいわぁ」
>「いつの間に!?」
本当に何時の間に、だ。妖気が小せぇ上に闘気もミミズ以下だから気付けなかった。
けどまあ間違いなく、間違えようも無く、声の主は例の三バカだった。
>「……信用してもいいのでありますか?この人たち……」
「ダメに決まってんだろ。あのバカ共はお前さんの言葉より余程信用できねぇよ」
視界に入れるだけでも苛立つが、かといって連中を殴りにいってツクモ太郎に不意を突かれたら本末転倒だ。
思わず出そうになる舌打ちを堪えながら、ツクモ太郎に視線を戻す。
あのバカ共には何の期待もしねぇ。橘音の善意を悪意で踏み躙ったあの連中に、俺は何の価値も認めねぇ。
>「ここは我に任せろ――バカとハサミは使いようってな!」
…………だが、どうやらノエルの考えは俺とは違ったらしい。
あの色男は、協力を申し出た三バカに対して逡巡なくその手を取った。
全くどうしようもない。本当に、奴さんはバカが付く程にお人よしだ。
騙された相手の手を取るなんざ正気じゃねぇ――――が
「あのバカ共には何の価値も見いだせねぇが、色男が言うなら、まあ……な」
生憎と、俺はノエルという妖怪を信用している訳で。
だからこそ、奴さんの信頼の分だけ、俺は三バカの利用価値を認めざるを得ねぇ。
大きくため息を吐いてから、俺は一歩後ろに下がった。
136
:
尾弐 黒雄
◆pNqNUIlvYE
:2020/02/13(木) 21:45:29
>「ノエル行っきまーす!――東京ブリーチャーズ公式テーマソング、”東京妖魔戦記”!」
……。
……。
……。
いや……なんだコレ。妖術繰り出した辺りまでは、ちっとばかしいけると思ってたんだが、なんだコレ
今、俺の眼の前で繰り広げられているのは、ある意味で地獄絵図。もしくはサバト。
多面鏡の中で繰り広げられる三バカ+1の四重奏だ。
とにもかくにも酷い。酷すぎる。異邦の邪神でも召喚する気なのか?
表向き無表情でいるが、色んな意味で頭が痛ぇ。
>「クロちゃん、ポチ君、今だああああああああああああああ!!」
おいおい、色男。そんな迫真の様子で「今だ」って言われても流石のオジサンも困っちまうぜ?
この状況で俺に一体何をしろって言うんだお前さんは。
だが、色男の期待の視線は外れない。密かに一歩横にズれても追ってくる。
もう一歩ズれてもまだ追って来やがる。
……なるほど、ノエリストからは逃げられねぇって訳か。
わかった。ならいい。こうなりゃ、男らしくやるべきことをやる覚悟を決めるとするかね。
俺は二歩後ろに下がると、地面を踏みしめ加速し――――
「――――絵面が汚ぇんだよ!!!!」
はらだしのケツに、回し蹴りを叩き込んだ。
悪鬼の膂力で蹴り上げられたはらだしは、汚い花火みてぇにツクモ太郎へと射出されていく。
腹は出したままだし、多分妖力も働いてる事だろう。
そのまま諸共に潰れてくれねぇかと僅かに期待しつつ、俺は突っ込み(物理)を入れて少しだけスッキリした絵面に息を吐き、次の砲弾(尻目)へと視線を向ける事にした――――
137
:
ポチ
◆CDuTShoToA
:2020/02/20(木) 03:00:10
>《こ……、これは……》
「げはは……やっちまいな、ヴァプラ君」
>《っぶぉ!?》
ヴァプラの気化炸裂が聞き耳頭巾を吹き飛ばす。
その体は既に十分な量の水分を吸っている。
つまり、狼の狩りは既に成立した。ヴァプラの牙は獲物に傷を付けた。
後は霧の中でのらくらと戦っていれば、七つ道具は腐食するか、カビが生える。
付かず離れずの距離を保つだけでも、勝負はつく。
「それで?頭を下げて許しを乞うべきはどちらか、理解出来たかな?」
>《ぬぅ……ならば仕方あるまい、我らの真の力を解放するときが来た……!》
>《えー。あれやるの?》
「なんだ、まだやる気なの。カビが生えてから後悔しても、知らない……」
>《ゆくぞ……我らの真の力を見よ――!合体!!!》
「……合体?」
ポチが思わず童子切安綱の言葉を反復した。
七つ道具達が放出した妖気が巨人の形を取る。
その五体の各部に七つ道具が纏わりつき、結合していく。
>《完ッ成!スゥゥゥゥゥパァァァァァァツクモキィィィィィィィィィング!!!!!》
>「気を付けろ、物凄い妖気だ……! 微妙にデザインが雑なのはきっと弱く見せかけるための作戦」
>「……いや、オジサン的にはデザインとか以前にもっと色んなモンが雑な気がするんだがなぁ?」
「ううん、とりあえずさ……上半身に比べて、足が貧相すぎない? ただの粘土細工じゃん」
そうは言ってみるものの、それ――超ツクモキングを構築する妖気は確かに膨大だ。
単純に体が大きければリーチも長い。
僅かに間合いを詰めてみるものの、その動きは捕捉されているようだった。
不在の妖術を使いながら懐に飛び込むのは――リスクが大きい。
>「……う!」
膠着状態から、最初に動いたのはロノヴェだった。
彼は状況はどうあれ、とにかく前に出て、その強大な暴力を振るう以外に出来る事はない。
>《スーパーツクモ・プロテクション!!》
だが迷い家外套の結界がそれを阻む。
空間を拡張出来るのなら、その応用で固定化する事が出来ても何も不思議ではない。
>「く……く〜ら〜え〜……」
次いでヴァプラが攻撃を仕掛ける――
>《スーパーツクモ・ヒィィィィィィト!!!》
しかしそれも、今度は召怪銘板による妖術召喚によって退けられた。
物理的な攻撃に対しては結界を張り、氷雪と霧の妖術には妖術召喚によって対抗可能。
>《莫迦め……究極の付喪神たる我ら!愛と正義と理不尽の化神、スーパーツクモキングに勝てると思ったか!!》
>《喰らうがいい……日本の付喪神の底力を!必殺!スゥゥゥゥパァァァァツクモ・ブレスタァァァァァァァァァ!!!!!》
更には地面と、工場の外壁を容易く焼き切る光線砲。
ポチも、認めざるを得なかった。
>「これ街の被害とか大丈夫なのか!? そうだ、橘音殿の結界があるから大丈夫なのか!」
>「ンな事より全力で回避しろ色男!熱量攻撃とはお前さんが一番相性が悪ぃだろうが!」
「これは……少し真面目にやらないと、しんどいかもよ、ノエっち」
この超ツクモキングは――見た目はとことんクソだが、確かに強いと。
138
:
ポチ
◆CDuTShoToA
:2020/02/20(木) 03:00:46
>《さあ……、最初に我らが断罪を受け入れたいのはどいつだ!悪い子はいねがぁぁぁぁぁ!!!》
超ツクモキングが一歩前へと踏み出した。
ポチは――近寄られた分だけ、下がる。
無闇に挑みかかるだけではロノヴェ達の二の舞だ。
>「う……う〜ん」
何かしらの策を練る必要がある――ポチがそう考え出した時、ふと声が聞こえた。
ベリスの声だ。
>「ひぎゃあああああああああ!?なんでありますかあのバケモノはーっ!?あ、悪魔!悪魔でありますーっ!!」
>「……お前さん、もう悪魔廃業しちまっていいんじゃねぇか?」
超ツクモキングの単眼がベリスを睨む。
ポチは――これはこれで、悪くない展開だと思った。
敵の行動をつぶさに観察する機会が得られるのは、いい事だ。
例えば光線砲が放たれる時、結界はどうなっているのか。
完全に閉鎖された状態では光線は撃てないように思えるが――もしそうなら、そこが突破口になる。
>《最初にやられたいのはうぬかぁ!スーパーツクモ・ビィィィィィィィィィム!!!》
そして放たれた光線は――
「ぅ……!」
ベリスに届かなかった。
>「ロ、ロノヴェ君!」
ロノヴェが身を挺して、その圧倒的な熱量を防ぎ切ったのだ。
>「お……おのれぇぇ〜……」
ヴァプラが再び超ツクモキングに挑みかかる。
先ほどと同じ事をされればそれだけで跳ね返されると、分かっているはずなのに。
>《無駄だというのが分からぬか!スーパーツクモ・タイフゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!》
>「ヴァプラ君……!」
それでも、ヴァプラは挑んだ。そうしなければならなかったからだ。
恐らくは遥か昔から連れ添ってきた友達を、傷つけられたのだ。
じっとしている事など、出来るはずがなかった。
>《フハハハハハハ!空にそびえるくろがねの城、スーパーツクモキングは伊達じゃない!!》
そして――
>「よくも……よくも、小官の朋輩を!」
それは、ベリスも同じだった。
>「東京ブリーチャーズの方々……、小官に力を貸して欲しいであります!」
>「正直言ってあのデカブツは恐ろしいでありますし、叩かれると致そうでありますし、戦いたくないであります!」
>「でも……創世記戦争から一緒にやってきた朋輩を傷つけられて、おめおめ逃げ出す方がもっと嫌であります……!」
「……ふん。今まで散々サボってきたくせに、随分と虫がいいじゃないか」
>「『だから、嫌いじゃねぇ』――――天魔ベリス、こいつは貸しだぜ。デケェ貸しだ。このツクモ太郎をぶちのめした後で、お前達から利子付けて返して貰うから覚悟しとけよ」
「正気かい? 尾弐っち。悪いけど、僕はお断りだね」
ポチが両手で、前髪を掻き上げる。
狼の王より受け継いだ銀の毛並み、その王冠を正すように。
「――ヴァプラ君の仇を取るんだろ? だったら、貸しになんかしなくていいさ。頼まれなくたって、やってやるよ」
愛する妻を拐われ、狼の狩りを伝授した弟子を二度も傷つけられた。
これ以上じっとしていられる訳がないのは、ポチも同じだった。
『獣(ベート)』の妖気を身に纏い、人への変化を解いて、人狼の姿を取る。
そして――
>「あのでけぇのを何とかすりゃぁいいってんでしょ?なら、俺っちたちも力を貸しますぜ。この真・東京ブリーチャーズが!」
>「あいつを笑わせれば、酒ぇ呑ませてくれんだろぉ?じゃあいくらでも踊るぞぉ」
>「やっぱり、最後にはアタイが決めなきゃいけないのよね。ヒロインってつらいわぁ」
それから僅か一分もしない内に、何故か状況は訳の分からない方へと転がっていた。
139
:
ポチ
◆CDuTShoToA
:2020/02/20(木) 03:02:21
>「……信用してもいいのでありますか?この人たち……」
>「ダメに決まってんだろ。あのバカ共はお前さんの言葉より余程信用できねぇよ」
「同感だね。なあなあで後からナメた口きかれたら、僕本当にそいつらを殺しちゃうかも……」
>「ここは我に任せろ――バカとハサミは使いようってな!」
「ええ……やめとこうよ。それって賢い人が言うセリフじゃん。ノエっちのキャラじゃないって」
>「あのバカ共には何の価値も見いだせねぇが、色男が言うなら、まあ……な」
「……まぁ、止めたところで聞きやしないか。ううん、頼むから足だけは引っ張るなよ……」
>「さあ――、やってやりやしょうぜ!指示をお願いしまさぁ!」
>「あやつらに東京ブリーチャーズの何たるかを叩きこんでやろうぞ!
我が歌いだしたら皆の得意技を炸裂させるのだ! それだけでいい!」
「あ、これ駄目そう。どうしたもんかな、マジで……」
>《フハハハハ!雑魚がいくら増えようと、この最強モビルス……もとい妖怪、スーパーツクモキングは止められぬ!》
「クソ、うるさいな……ろくに漫画も読めないポンコツのくせに、いちいち小ネタ挟みやがって……」
>「ノエル行っきまーす!――東京ブリーチャーズ公式テーマソング、”東京妖魔戦記”!」
>「僕の歌を聞けぇえええええええええええ!」
「あー!もう!駄目だ!全然考えまとまらない――」
ポチは頭を抱えて叫んで――しかし何かを閃いたように、僅かに目を見張る。
ふと、思い至ったのだ。
周りがうるさくて、やっている事もバカバカしい。そのせいで考えがまとまらない。
それは、もしかしたら超ツクモキングも同じかもしれないという事に。
とりわけ――巨大な妖力と、他五体の能力をも制御している召怪銘板は、特に。
>「クロちゃん、ポチ君、今だああああああああああああああ!!」
瞬間、ポチは地を蹴った。作戦が立ったのだ。
まず召怪銘板の集中力を完膚なきまでにへし折る。
そしてその結界の制御を失わせられれば最上。
それが叶わないなら不要な光線砲を打たせて、その瞬間に結界に穴が開くものと踏んで、不在の妖術で突っ込むまで。
>「――――絵面が汚ぇんだよ!!!!」
「ああ、もう。ひどい音楽だ。うるさいなあ――」
そして――最後の一撃を通す為の伏線も、既に張られていた。
ポチは地を蹴り、駆け出すと同時、深く息を吸い込んで叫んだ。
「――Hey、Google!このうるさい音楽を止めてよ!ねえ、アレクサ聞いてる!?」
140
:
那須野橘音
◆TIr/ZhnrYI
:2020/02/26(水) 19:21:39
>ノエル行っきまーす!――東京ブリーチャーズ公式テーマソング、”東京妖魔戦記”!
>僕の歌を聞けぇえええええええええええ!
どこかで聞いたようなセリフと共に、ギターを携えたノエルが爆音で歌い始める。
それと同時に尻目が尻を高々と掲げたかと思うと高速で左右に動き始め、
はらだしがノエルの歌声に合わせ……ている風でもなく手前勝手に頓狂な踊りを開始し、
特に踊り的なスキルを持たないいやみもその場のノリでクネクネと踊り始める。
空間を覆うように幾重にも張り巡らされた氷の鏡の中に映り込むのは、無数のノエルと三バカ。
ノエルはともかく、三バカは一人ずつ存在するだけでもキツイ外見をしている。――それが、鏡によって無限に増殖していた。
どこに視線を逸らそうと、その先には必ずバカ(ノエル含む)がいる。
それはまさに、バカの万華鏡――
>名付けて ―― バ カ 大 銀 河 !!
ええ……。
これにはさすがのGMも苦笑い。
氾濫する津波の如きバカ。むろん、物理的な攻撃力は皆無である。
普通の妖壊なら、こんな頓狂な空間などたちどころに破壊してしまうことだろう。
しかし。
《ウゴオオオ……なんだ、このおぞましい空間はァァァ!
あまりにも醜い!醜すぎる!目が腐る!それに耳も腐るぞォォォォォォ!!!》
効いた。
七つ道具(六種類)のうち、視力と聴力を司る二種類に甚大なダメージを与えられている。
スーパーツクモキングは液晶画面の目を瞑り、両手で聞き耳頭巾を押さえて仰け反った。
液晶画面のドット表示が巨大な単眼から真っ赤な『×』に変わっている。
>クロちゃん、ポチ君、今だああああああああああああああ!!
ノエルが声を限りに叫ぶ。
流れ的にはシリアスな感じではあるが、ノエルの周りには無数の尻と腹とオカマが存在している。怖い。
>――――絵面が汚ぇんだよ!!!!
ノエルの号令に合わせるように、尾弐が頓馬な踊りを踊っていたはらだしの尻に強烈な蹴りを叩き込む。
「どぉだぁ〜?オラの踊り、おんもしれぴぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!????」
尻を痛撃され、はらだしは甲高い悲鳴を上げながら爆速でスーパーツクモキングへと飛んで行く。
自分めがけて弾丸よろしく突っ込んでくるはらだしに気付き、スーパーツクモキングは左手を突き出した。
スーパーツクモ・プロテクションの構えだ。
だが、そこですかさずポチが策を発動する。素早く駆け出すと同時――
>――Hey、Google!このうるさい音楽を止めてよ!ねえ、アレクサ聞いてる!?
そう、声を限りに叫んだのだ。
《あっ、わたしはスーパーツクモキングです。あなたにちゃんと名前を覚えてもらえるように、もっと頑張りますぅぅぅ!!》
ポチの無茶振りによってスーパーツクモキングは一度痙攣すると、ビープ音を鳴らしながら束の間静止した。
見れば、顔面の召怪銘板の液晶表示がブラックアウトしている。
ノエルと三バカの狂演、そしてポチの計略でフリーズし、再起動しているらしい。
もちろん、結界を張ることもできない。結果棒立ちになったスーパーツクモキングははらだしと正面衝突した。
「ぼぴゃぁ!?」
はらだしがまた汚い悲鳴を上げる。
効果は覿面だ。ぐらぁ……と合体した付喪神たちの巨体が揺れる。
召怪銘板の液晶画面には『電源を切らないでください』との表示が出ている。まだまだ再起動は終わらないらしい。
さらに尾弐が尻目、いやみと矢継ぎ早に妖怪ロケットを繰り出すと、スーパーツクモキングはゆっくり崩れ落ちていった。
悪(?)は滅びた。
141
:
那須野橘音
◆TIr/ZhnrYI
:2020/02/26(水) 19:21:51
《やはり六体ではダメか……七体合体でアルティメットツクモキングになれてさえいれば……うごごご!》
戦意を喪失し、バラバラになった七つ道具たちが無念そうな声をあげる。
熾烈な(?)戦いであったが、七つ道具たちはまったく傷ついていない。さすが大妖怪の持ち物と言うべきか。
《まぁ、我らも豚バラを切らされる、雑な扱いを受けるなどして頭に血がのぼっておった。許せ》
「猛省してほしいであります!小官の機転がなかったら、今頃東京ブリーチャーズは全滅していたであります!」
東京ブリーチャーズの目の前をふわふわと漂いながら、七つ道具は謝罪した。
ビームによって甚大なダメージを受けたロノヴェも、バラバラにされてしまったヴァプラも、もう元に戻っている。
無傷のベリスだけがこれでもかと胸を反らして威張り散らしていた。
なお、三バカは尾弐の弾丸キックを喰らった衝撃とスーパーツクモキングに激突したダメージでまだ気絶している。
《三尾たちはこちらだ。来るがいい》
天神細道をくぐり、全員で別の場所に移動する。
移動した先は、いつか訪れた玉藻御前の居宮・華陽宮によく似た建物の中だった。
長い廊下を歩き、襖を開いて部屋のひとつに入る。
と、そこには橘音と天邪鬼、シロの姿があった。
三人の近くには、豪奢な蒔絵の箱がひとつ鎮座している。狐面探偵七つ道具最後のひとつ、竜宮の玉手箱だ。
三人が脱走したりしないよう見張り役をしているらしい。
「ひぃぃ〜……どうしてこのボクが!地獄の大公爵アスタロトがこんなことを〜……」
「元は貴様のせいであろうが。ええい、サボるな!しっかりやれ!」
「……あ。あなた――」
十畳くらいの部屋の中には古茶碗や色褪せた掛け軸、古傘、古靴など無数の器物が所狭しと置いてある。
それらの器物には手足が生え、顔が浮き出て、まるで生き物のように走り回ったり各々遊んだりしていた。
どうやら、この部屋にある器物はすべて年経た付喪神であるらしい。
そして、そんな部屋の真ん中に三人が座り、古靴のほつれを繕ったり傘を張り直したりと修繕作業に勤しんでいた。
古着を縫い直していたシロがポチや尾弐、ノエルに気付き、声をあげる。
「あーっ!クロオさん!ボクを助けに来てくれたんですか!?よかったぁ〜っ!」
尾弐の姿を認めるや否や、橘音はすぐに立ち上がって尾弐へと飛び掛かるように抱きついた。
《付喪神の頂点たる我らを蔑ろにすることは許さぬ。それでなくとも、近頃の化生は器物を粗末に扱いすぎる》
《ということで、こ奴らには罰を与えておった。この場にあるすべての輩(ともがら)への奉仕が終わるまで、ここから帰さぬ》
先に七つ道具に囚われた三人はこの空間に送られ、付喪神への奉仕という名の修繕作業に従事させられていた。
七つ道具の言っていた過酷なる罰というものらしい。
「チッ……寺におった頃を思い出すわ。まぁ私が繕っていたものの大半は私が壊したものだったわけだが」
ぶつぶつと文句を言いながらも、天邪鬼は手当たり次第に壊れた瀬戸物や草履などを修繕してゆく。
恐るべきスピードだ。中には壊れたスクーターやテレビといった複雑な機構のものまであるのに、簡単に修理してしまう。
平安時代随一の天才児という伝承は伊達ではないらしい。
「こういった作業は初めてですが……ふふ、なかなか楽しいものです。あなたもご一緒にいかがですか?」
針と糸を使って繕い物をしながら、シロがポチへ微笑む。
そこに強制労働の痛苦は微塵もない。――むしろ、たくさんの付喪神に懐かれている。
狼の女王としての包容力、といったものだろうか。シロがそっと古い毛布を撫でると、それは子犬のように甘えた声を出した。
「ボクは早く帰りたいですぅぅ……クロオさぁん、連れて帰ってぇ……」
橘音も負けじと甘い声を出すと、尾弐の胸にすがりついたまま上目遣いにおねだりした。
もともと貴族階級の上級天魔である。壊れたものは捨てるのが常で、修理などできるはずもない。
《愚か者……この部屋のすべての器物を繕うまで、決してこの空間からは出られぬぞ――!》
しかし、七つ道具は梃子でもこの罰を免除してやる気はないらしい。
『東京ブリーチャーズが』、すべての付喪神を直すまでは――。
142
:
那須野橘音
◆TIr/ZhnrYI
:2020/02/26(水) 19:22:03
「ひぃ、ひぃ……も、もう勘弁しておくんなせぇ……もう東京ブリーチャーズは名乗らねぇですから……」
「酒……酒が呑みてぇぞぉ……。オラ、縫い物なんてできねぇ……」
「イヤよイヤよイヤよぉぉぉ!こんな地味な場所で繕い物だなんて、アタイのキャラじゃないわぁぁぁ!!」
結局、七つ道具の課した奉仕活動の罰は尻目、はらだし、いやみの三バカが受けることになった。
彼らも真・東京ブリーチャーズを名乗る以上、ブリーチャーズには変わりない。
三人のペースでは部屋の中に満載された付喪神たちのすべてを修繕するには、数百年はかかるだろう。
だが、もともと妖怪は不老不死。その程度の時間は何でもない。
それが終わるまで三バカは部屋から一歩も出られず、もちろん酒食も化粧もできないが、いい薬であろう。
三バカを生贄にする代わりに橘音、天邪鬼、シロは無罪放免となった。
ともあれ、お騒がせ妖怪たちに関する一連の騒動はこれで一件落着――
とは、ならなかった。
ベリス、ロノヴェ、ヴァプラのおミソ三柱が東京ブリーチャーズと改めて対峙する。
「ムハハハハハハハ!すべてはこのベリスの計算のうちであります!」
ベリスが高笑いを上げる。
「東京ブリーチャーズの諸君!貴君らに鍛えられたお陰で、我々は強くなったであります!」
「もはや、誰にもおミソとは言わせないであります!我らの実力をもってすれば、出来ないことはぬぁい!であります!」
「ということで、今までのお礼に貴君らを叩き潰させて頂くでありますよー!ムハハハハハッ!」
「貴君らの首をルシファー様に見せつけのもいいでありますね!手塩にかけて育てた者に殺される気持ちはどうでありますか?」
どうやら、以前とは別人のように強くなったロノヴェ、ヴァプラの二柱でブリーチャーズに報復しようとしているらしい。
まさに、恩を仇で返す行いだ。……といっても天魔である。そのあたりの道理を説いても仕方ないということだろうか。
ベリスはともかく、ロノヴェとヴァプラはもはや以前の無能ではない。
それは、彼らを鍛え上げた尾弐とポチが誰よりもよく理解しているだろう。
ベリスはしてやったりというドヤ顔を浮かべているが、ロノヴェとヴァプラの表情からは何の感情も読み取れない。
もともとボーッとしており、頭脳労働はベリスに一任という感じであった二柱である。
この裏切りも、ベリスに言われるがままという感じなのであろうか。
元々卓越したフィジカルを持っていたものが、さらに研ぎ澄まされ俊敏な行動も可能になったロノヴェ。
霧の特性を最大限に生かし、変幻自在の攻撃で相手を惑わせ自身の身体の中に呑み込んでしまうヴァプラ。
今まで東京ブリーチャーズが戦ってきた天魔七十二将の中でも、上位の難敵となることは間違いなかった。
じり……と三柱が東京ブリーチャーズに対して間合いを詰めようとする。
その圧は数日前とは比べ物にならない。まさに、天魔と言うべき魔気の放出である。
「ムハハハハハーッ!さあ、ロノヴェ君!ヴァプラ君!彼らを血祭りにあげ、我ら三柱復権の第一歩とするであります!」
ばっ!とベリスが右手を突き出し、同輩に指示を出す。
ロノヴェが手に持った棍棒を大きく振りかぶる。
ヴァプラがゆら……と身体を拡げ始める。
そして。
ごちん。
ロノヴェの掲げた棍棒がベリスの頭に振り下ろされ、ヴァプラの霧の圧縮と膨張による衝撃がベリスの腹部を痛撃した。
「アフン!?」
二柱の攻撃を受け、ベリスは一瞬で轟沈した。
気絶したベリスの身体を、ロノヴェがひょいと肩に担ぎ上げる。
「……き。教官、み、みじかい、間、でし、たが。お、お世話、に、なりま、した」
尾弐の方に向き直り、ロノヴェがぺこりと頭を下げる。
「皆さんの〜……お陰で……強く、なれま……した……。この……御恩は〜……決して、忘れま……せんん〜」
ヴァプラもポチの顔を見て、ゆらゆらと揺らめく顔を俯かせた。お辞儀をしたらしい。
「じ、地獄、へ、帰り、ます。やく、約束、通り、人間は、傷つけ、ません。こ、これ、これにて、おいとま、を」
「楽しかった……ですぅぅ〜……また、またいつか……いつか、お会い致しましょうぅ〜……」
幾度も幾度も頭を下げながら、ロノヴェとヴァプラ(とベリス)は去っていった。
一連の騒動は、今度こそ終わった。
143
:
那須野橘音
◆TIr/ZhnrYI
:2020/02/26(水) 19:22:15
「へぇ〜、そんなことがあったんだ……。ちょっと見てみたかったかも」
「何を言っているのです、祈。そんなおぞましい下等妖怪どもを視界に入れては、目の穢れというものですわ」
後日。下校途中にSnowWhiteへ顔を出した祈とレディベアが先日の出来事を聞き、それぞれリアクションを取る。
祈はあっけらかんと『仲間が増えるってのはいいことじゃん』と言っている。当事者でない者のお気楽さである。
そんな醜い者の参入は願い下げだと言うレディベアの方が、まだしも状況を理解している。
「そうかなぁ。腹出して踊るとみんなが笑うとか、平和でいいなーって思うんだけど」
物も言いようである。
「まぁ……何にしても厄介事はまるっと解決しましたから!結果オーライとしておきましょう!」
橘音が強引に話を纏めにかかる。三バカのこともおミソ三柱のことも、もう考えたくないといった様子である。
もっとも、おミソ三柱に関しては契約書を作成したデータを流用して召怪銘板に登録しておいた。
ベリスを召喚することはまずないだろうが、ロノヴェとヴァプラに関しては非正規メンバーとしていつでも召喚可能である。
尾弐とポチの言った、もう東京ブリーチャーズだ――という言葉が履行されたことになる。
その辺りは抜け目のない橘音だった。
「にしても、だ。有名税とは言うものの、高い授業料になったものだな」
カウンターのスツールに胡坐をかいて座った天邪鬼が言う。
一時は濡れ衣を着せられ、妖怪裁判にかけられ解散の危機に陥ったこともあったが、
今や東京ブリーチャーズといえば日本のみならず、海外にまでその名が轟いている。
何せ、神の長子たる天魔王ベリアルの襲撃から帝都東京を守り切り、逆転勝利まで収めてしまった精鋭部隊である。
その名声は留まるところを知らない。
当然、有名になればそれだけ厄介事も増える。今回はまさに、そんな名声がもたらした事件だった。
「名前が売れるっていうのも、考えものですね……」
べしゃ。とテーブルに突っ伏し、橘音は長い溜息をついた。
と、そんなとき。カララン……と店のドアベルが鳴る。
「あ、いらっしゃ――――」
颯が入口の方を見遣り、シロがお盆を手に取る。
だが、入ってきたのは人間の客ではなく――
「ここが東京ブリーチャ―ス入隊試験の会場ですか?」
「やっと到着したべぇ!いやぁ〜、ハイカラな店だっぺなぁ!東京はやっぱ違うっペぇ!」
「ハイハイ、どなたさんも失礼しまっせ!おたくさんが東京ブリーチャーズの頭領はんでっか?」
「OH!ワタシ、ハジメテ東京キマシタネー!東京ブリーチャーズト行ク帝都ツアー、楽シミデース!」
不意に、ドカドカと妖怪たちが大挙して押し寄せる。その数は数十、いや数百人もいるだろうか。
SnowWhiteの外を見ると、妖怪たちが長蛇の列を作っているのが見える。
橘音は顔面蒼白になってぶるぶる震えた。
「ま、まま、まさか……これって全部、ブリーチャーズ目当ての……?」
「みたいねぇ……」
困ったように右頬に手を当てながら、颯が肯定する。
妖怪たちは押し合いへし合いしながらブリーチャーズへ口々に注文を付ける。その数は三バカの比ではない。
「あっははははっ!これが御幸たちの言ってたやつかー!」
「わ、笑い事ではありませんわよ!?祈!」
そうこう言っている間にも、妖怪たちはどんどん店の中に入ってくる。
「尾弐殿!拙者とぜひお手合わせ願いたい!」
「狼王様、我らロシアに棲むハイイロオオカミの族長より親書を預かって参りました」
「姫様、女王陛下の命で姫様がお仲間にご迷惑をおかけしていないか確認にきました〜!」
もはや、SnowWhiteの店内は立錐の余地もないほどぎゅうぎゅう詰めになってしまっている。
「も……もう、有名税はこりごりです〜〜〜〜〜!!!!」
さながら通勤ラッシュの満員電車の中のような状態になりながら、橘音は悲鳴を上げた。
どっとはらい。
144
:
御幸 乃恵瑠
◆4fQkd8JTfc
:2020/02/29(土) 11:31:13
>「――――絵面が汚ぇんだよ!!!!」
>「どぉだぁ〜?オラの踊り、おんもしれぴぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!????」
>「――Hey、Google!このうるさい音楽を止めてよ!ねえ、アレクサ聞いてる!?」
尾弐のケツスパンキングによって砲弾のように飛んでいくはらだし。
そこはポチの無茶ぶりが炸裂し、召怪銘板がフリーズして結界を張ることが不可能となった。見事な連携である。
>「ぼぴゃぁ!?」
駄目押しとばかりに尻目といやみも飛んでいく。
七つ道具(6つ)はバラバラになったが、傷一つ付いていない。
もしもぶっ壊れたらシャレにならないところだったが、当初の目的も達成できて結果オーライ。
「やったぞ! 我らの愛と勇気と希望とゴリ押しと無茶振りとその他諸々の力の勝利だ!」
>《やはり六体ではダメか……七体合体でアルティメットツクモキングになれてさえいれば……うごごご!》
>《まぁ、我らも豚バラを切らされる、雑な扱いを受けるなどして頭に血がのぼっておった。許せ》
>「猛省してほしいであります!小官の機転がなかったら、今頃東京ブリーチャーズは全滅していたであります!」
>《三尾たちはこちらだ。来るがいい》
天神細道を抜けて向かった先では、豪奢な蒔絵の箱に見張られて橘音達が過酷なる罰を受けているところだった。
竜宮の玉手箱というらしい。
「原典通りだと開けたらお爺さんになる箱だけどそれってめっちゃ使い道ないような……」
145
:
御幸 乃恵瑠
◆4fQkd8JTfc
:2020/02/29(土) 11:33:44
>「ひぃぃ〜……どうしてこのボクが!地獄の大公爵アスタロトがこんなことを〜……」
>「元は貴様のせいであろうが。ええい、サボるな!しっかりやれ!」
>「……あ。あなた――」
>「あーっ!クロオさん!ボクを助けに来てくれたんですか!?よかったぁ〜っ!」
>《付喪神の頂点たる我らを蔑ろにすることは許さぬ。それでなくとも、近頃の化生は器物を粗末に扱いすぎる》
>《ということで、こ奴らには罰を与えておった。この場にあるすべての輩(ともがら)への奉仕が終わるまで、ここから帰さぬ》
>「チッ……寺におった頃を思い出すわ。まぁ私が繕っていたものの大半は私が壊したものだったわけだが」
>「こういった作業は初めてですが……ふふ、なかなか楽しいものです。あなたもご一緒にいかがですか?」
平安生まれの天邪鬼が何故か電化製品まで修理し、狼が原型であるシロが器用に縫物をして布製品を直している。
「二人とも、凄いね……」
>「ボクは早く帰りたいですぅぅ……クロオさぁん、連れて帰ってぇ……」
「ああ、事務所にあるものが壊れたらすぐ捨ててたもんねぇ……」
>《愚か者……この部屋のすべての器物を繕うまで、決してこの空間からは出られぬぞ――!》
ノエルは、もぞもぞと起き出してきたばかりで状況を把握していない三バカに声をかけた。
「スーパーツクモキングを倒せたのは君達が身を挺して突撃してくれたおかげだ!
そこで君たちを真・東京ブリーチャーズと見込んでお願いがある!
将来付喪神の祟りの犠牲が出るのを未然に防ぐことが出来る超重要任務だ――」
かくして、真・東京ブリーチャーズはその超重要任務を引き受けることになった。
>「ひぃ、ひぃ……も、もう勘弁しておくんなせぇ……もう東京ブリーチャーズは名乗らねぇですから……」
>「酒……酒が呑みてぇぞぉ……。オラ、縫い物なんてできねぇ……」
>「イヤよイヤよイヤよぉぉぉ!こんな地味な場所で繕い物だなんて、アタイのキャラじゃないわぁぁぁ!!」
「まあまあ、数百年もかければ終わるから」
ノエルはこのパーティーの中では珍しく人間や動物にルーツを持たない生粋妖怪なので
天然で言っているかもしれないのが怖いところ。
どうでもいいが竜宮の玉手箱は向こう数百年三バカの監視にあたることになりそうなので結局七つ道具(6つ)は継続なのだろうか――
146
:
御幸 乃恵瑠
◆4fQkd8JTfc
:2020/02/29(土) 11:34:30
こうして三バカは少なくとも数百年の間は片付いたが、おミソ三柱が再び攻め込んできた。
>「ムハハハハハハハ!すべてはこのベリスの計算のうちであります!」
>「東京ブリーチャーズの諸君!貴君らに鍛えられたお陰で、我々は強くなったであります!」
>「もはや、誰にもおミソとは言わせないであります!我らの実力をもってすれば、出来ないことはぬぁい!であります!」
>「ということで、今までのお礼に貴君らを叩き潰させて頂くでありますよー!ムハハハハハッ!」
>「貴君らの首をルシファー様に見せつけのもいいでありますね!手塩にかけて育てた者に殺される気持ちはどうでありますか?」
「ベリス君、どうしたの!? 君はきっと操られているんだ……! 思い出して! 童との熱い友情を!
力を合わせて巨大な悪(?)を打ち倒したことを……!」
みゆきの悲痛な叫びは届かない。まあ相手はある意味天魔オブ天魔だから仕方がない。
>「ムハハハハハーッ!さあ、ロノヴェ君!ヴァプラ君!彼らを血祭りにあげ、我ら三柱復権の第一歩とするであります!」
>「アフン!?」
>「……き。教官、み、みじかい、間、でし、たが。お、お世話、に、なりま、した」
>「皆さんの〜……お陰で……強く、なれま……した……。この……御恩は〜……決して、忘れま……せんん〜」
>「じ、地獄、へ、帰り、ます。やく、約束、通り、人間は、傷つけ、ません。こ、これ、これにて、おいとま、を」
>「楽しかった……ですぅぅ〜……また、またいつか……いつか、お会い致しましょうぅ〜……」
「え、あ、うん……! 元気でね! ベリス君にもよろしく!」
147
:
御幸 乃恵瑠
◆4fQkd8JTfc
:2020/02/29(土) 11:35:26
後日、SnowWhiteを訪れた祈が事の顛末を皆から聞く。
>「へぇ〜、そんなことがあったんだ……。ちょっと見てみたかったかも」
>「何を言っているのです、祈。そんなおぞましい下等妖怪どもを視界に入れては、目の穢れというものですわ」
>「そうかなぁ。腹出して踊るとみんなが笑うとか、平和でいいなーって思うんだけど」
「あはは! そうだね、あの踊りは一回見てみるのもいいかもしれない!」
祈がはらだしの踊りを見たらシロのように笑って行動不能になるのか、
みゆきのようにハイテンションになるのか、はたまた別の効果が出るのか、ちょっと気にならないでもない。
まあ数百年も経てば出て来るから、と言いかけてやめておくみゆきであった。
半妖の祈が数百年後に生きているかは誰にも分からない。
>「まぁ……何にしても厄介事はまるっと解決しましたから!結果オーライとしておきましょう!」
>「にしても、だ。有名税とは言うものの、高い授業料になったものだな」
>「名前が売れるっていうのも、考えものですね……」
突然店のドアベルが鳴ったかと思うと、妖怪達が大挙して押し寄せてきた。
>「ここが東京ブリーチャ―ス入隊試験の会場ですか?」
>「やっと到着したべぇ!いやぁ〜、ハイカラな店だっぺなぁ!東京はやっぱ違うっペぇ!」
>「ハイハイ、どなたさんも失礼しまっせ!おたくさんが東京ブリーチャーズの頭領はんでっか?」
>「OH!ワタシ、ハジメテ東京キマシタネー!東京ブリーチャーズト行ク帝都ツアー、楽シミデース!」
>「ま、まま、まさか……これって全部、ブリーチャーズ目当ての……?」
>「みたいねぇ……」
>「あっははははっ!これが御幸たちの言ってたやつかー!」
>「わ、笑い事ではありませんわよ!?祈!」
「正確には本拠地は下の階なんだけど……まあいっか!」
と、呑気に構えていたみゆきだったが……
>「尾弐殿!拙者とぜひお手合わせ願いたい!」
>「狼王様、我らロシアに棲むハイイロオオカミの族長より親書を預かって参りました」
>「姫様、女王陛下の命で姫様がお仲間にご迷惑をおかけしていないか確認にきました〜!」
瞬く間に満員電車のような状態になった店内に流石に焦り始めた。
「一応この前女王を継承したんですよ、ねえ姫様!」
「そんなことより入り過ぎィ! 定員オーバーだから!」
>「も……もう、有名税はこりごりです〜〜〜〜〜!!!!」
「次は最終話、じゃなくて終点、東京でございまーす!!」
最近妙にかさむ店の修繕費に頭を悩ますみゆきは、意味不明な絶叫をあげた。
148
:
尾弐 黒雄
◆pNqNUIlvYE
:2020/03/09(月) 10:32:55
蹴りの勢いで空を跳んで行くはらだしの悲鳴が聞こえる。
多分、奴さんはツクモ太郎の結界にぶち当たって何の成果も残せずに終わるだろう。
けどまあそれでいい。というより、どうでもいい。
打つ手がねぇなら、景観を盛大に汚す3バカ連中を排除するのが先決だ。
とにもかくにも今必要なのは状況を動かす事だ
人を、物を、技を、時間を
一見どうしようもねぇ状況に見えても、何かを動かせばそこに活路が生まれる時はある。
俺だけじゃあどうにもならねぇ事だろうと、仲間にとってはどうにかなる状況である時もある。
>――Hey、Google!このうるさい音楽を止めてよ!ねえ、アレクサ聞いてる!?
>《あっ、わたしはスーパーツクモキングです。あなたにちゃんと名前を覚えてもらえるように、もっと頑張りますぅぅぅ!!》
――――そら、こんな具合にだ。
全く、流石だなポチ助。
妖怪としての特性なのか獣としての習性なのかはわからねぇが、敵の隙を作り見出す事にかけて比類が無いぜ。
まさか、そんな方法でツクモ太郎を無力化出来るたぁ、俺には思い付かなかった。
……さて、厄介な結界は壊れて敵は混乱の渦中。反撃の心配もねぇときた。
ここまで御膳立てされて何も出来けりゃあ、男が廃るってモンだ。
「東京ブリーチャーズを僭称する馬鹿野郎共。本家の先輩として、最後にオジサンが強大な敵との戦い方を教えてやるよ」
混乱するバカ二人を前にして、思わず人様には見せられない類の笑みを浮かべてしまった気がするが、きっと気のせいだ。俺は大きく足を後ろに引き――――
「――――とりあえず、当たって砕けろ」
数秒後。虚空に汚い悲鳴が二つ増え、さらに暫くの後に蛙の潰れたような声が二つ聞こえた。
・・・
>《まぁ、我らも豚バラを切らされる、雑な扱いを受けるなどして頭に血がのぼっておった。許せ》
>「猛省してほしいであります!小官の機転がなかったら、今頃東京ブリーチャーズは全滅していたであります!」
戦いは終わった
今、俺の目の前では、ひと暴れした事で幾分か冷静さを取り戻した七つ道具の連中と、それに対して子犬の様にギャンギャン騒ぐヴァプラという光景が繰り広げられている
ヴァプラの奴は自己評価が随分と過大な気もするが……まあ、いいだろ
奴さんが奴さんなりに頑張ってたのは俺も見てたからな。天魔とはいえ今日くらいは見逃してもバチは当たらねぇ筈だ。そんな事よりも、だ
「おい、ツクモ太……ゴホン、七つ道具。そろそろ橘音達を返しちゃくれねぇか」
《三尾たちはこちらだ。来るがいい》
……もうちっとばかしゴネるかと思ったが、どうにも連中は素直に橘音達の所へ案内してくれるみてぇだな
勝負の結果に実直なあたりは、腐っても大妖怪の所有物品って事か
149
:
尾弐 黒雄
◆pNqNUIlvYE
:2020/03/09(月) 10:33:29
通り慣れた天神細道を潜って移動してみれば、そこはやたらと豪華な建物の中。
御前の住処に似た雰囲気だが、あそこよりは幾分か空気が軽く感じる。
そのまま随分と長ぇ廊下を真っ直ぐと進むと
>「ひぃぃ〜……どうしてこのボクが!地獄の大公爵アスタロトがこんなことを〜……」
>「元は貴様のせいであろうが。ええい、サボるな!しっかりやれ!」
>「……あ。あなた――」
そこには、橘音と外道丸、シロがいた。
周囲を動き回る付喪神共の事なんざ頭に入ってこねぇ。思わず数歩、足を進め
>「あーっ!クロオさん!ボクを助けに来てくれたんですか!?よかったぁ〜っ!」
直後、衝撃と共に小さな体が俺の胸に飛び込んできた。
突然の事に思わず手を彷徨わせちまったが直ぐに我に帰り、俺は橘音の頭を少し乱暴に撫でる
「おう、助けに来たぜ橘音。怪我はねぇか?」
言葉を掛けつつその様相に視線を走らせるが、幸いな事に怪我も無く無事みてぇだ。
……。
ああ――――本当に良かった。安心した。
目の前の女が生きて、笑ってくれている。
それだけの事で、胸の奥に溜まってたヘドロみてぇな何かが消えて行くのを感じる。
叶うならこのまま抱きしめでもしてやりたいところだが、残念な事にそういう訳にもいかねぇ。
>「チッ……寺におった頃を思い出すわ。まぁ私が繕っていたものの大半は私が壊したものだったわけだが」
>「こういった作業は初めてですが……ふふ、なかなか楽しいものです。あなたもご一緒にいかがですか?」
楽しそうに作業をするシロ嬢と、口では文句を言いつつもやはりどこか楽し気に見える外道丸。
彼等の労働[がんばり]に報いるために俺が今するべき事は、三人をここから連れ戻す事だ。
>「ボクは早く帰りたいですぅぅ……クロオさぁん、連れて帰ってぇ……」
「あいよ、大将。……さて、七つ道具。これだけ頼られた以上、オジサンとしちゃあ一刻も早く連れ去っちまいてぇ所なんだ。だから、交渉をしようぜ」
>《愚か者……この部屋のすべての器物を繕うまで、決してこの空間からは出られぬぞ――!》
七つ道具の要望は東京ブリーチャーズによる数多の器物の修繕。
俺の要望は、この誰よりも可愛らしい妖狐と1000年来の悪友、大事な仲間の無二の女。
一触即発の空気の中
>「スーパーツクモキングを倒せたのは君達が身を挺して突撃してくれたおかげだ!
>そこで君たちを真・東京ブリーチャーズと見込んでお願いがある!
>将来付喪神の祟りの犠牲が出るのを未然に防ぐことが出来る超重要任務だ――」
聞こえてきたノエルの声に引き摺られる様にして視線を動かせば、そこには状況を理解出来ていない3バカの姿
……ああ。そういえばツクモ太郎達の中では、不本意な事にこいつらも東京ブリーチャーズ扱いだったんだよなぁ?
視線が合った連中の顔が引き攣った気がしたが、多分気のせいだろう。
150
:
尾弐 黒雄
◆pNqNUIlvYE
:2020/03/09(月) 10:33:50
・・・
その後3バカがなにか喚いていた気もするが、急に耳が遠くなったのかオジサンには何も聞こえなかった。
まあ、連中の事なんざ考えるだけで時間の無駄だ。それよりも
>「……き。教官、み、みじかい、間、でし、たが。お、お世話、に、なりま、した」
目の前で俺に礼を言っているロノヴェだ。
短い間の付き合いとはいえ、ベリスの奴が裏切るであろう事は想像していたから大して驚きはしなかった。
だが、ロノヴェ……お前さんのその行動は、俺には想像も出来なかったぜ
俺は、訓練の名前を借りてお前さんをぶん殴ってただけだぞ?
強くするって目的に嘘は無かったが、そこに天魔への憎悪が無かった訳じゃねぇ。
それに、お前さんだってまるで痛みがなかった訳じゃねぇ筈だ。
だから、お前さんに恨まれる覚悟はしてたし、憎まれる事も理解してた。
だってのに、お前さんはなんで俺なんざに感謝の言葉を吐くんだ
言葉を返そうと口を開くが、眉間に皺が寄るばかりで上手く言葉が思い浮かばない。
そんな俺を前に、ベリスを背負ったロノヴェは再度頭を下げる
>「じ、地獄、へ、帰り、ます。やく、約束、通り、人間は、傷つけ、ません。こ、これ、これにて、おいとま、を」
そうして、奴さんはそのまま立ち去ろうとし
「……おい!まあ、アレだ。たまには飯でも食いに来い。そいつら二人と一緒にな」
去り際に何とか絞り出した俺の言葉が届いたのかどうかは判らない。
だが、僅かに見えたロノヴェの横顔は、確かに笑っていた。
151
:
尾弐 黒雄
◆pNqNUIlvYE
:2020/03/09(月) 10:34:49
後日談。
一連の騒動の後始末を終えた俺達は、SnowWhiteにて今回の顛末を祈の嬢ちゃんとベアの嬢ちゃんに語り聞かせていた。
>「へぇ〜、そんなことがあったんだ……。ちょっと見てみたかったかも」
>「何を言っているのです、祈。そんなおぞましい下等妖怪どもを視界に入れては、目の穢れというものですわ」
>「そうかなぁ。腹出して踊るとみんなが笑うとか、平和でいいなーって思うんだけど」
>「あはは! そうだね、あの踊りは一回見てみるのもいいかもしれない!」
「やめとけやめとけ。あのヨゴレ妖怪共は、嬢ちゃん達の教育上良くねぇぞ」
興味津々な祈の嬢ちゃん。至極真っ当に懸念を示すベアの嬢ちゃん。面白半分にそれもまた良しとする色男。
三者三様な反応だが、オジサンとしちゃあ嬢ちゃん達にアレはみせちゃならねぇモンと思う
>「まぁ……何にしても厄介事はまるっと解決しましたから!結果オーライとしておきましょう!」
橘音に至っては、考えるのも嫌なんだろうな。早々に話題を切り替えるべく、連中の話を纏めちまった。
……まあ、いいか。
長々とするような話題でもねぇし、それに問題自体は解決したんだ。
>「にしても、だ。有名税とは言うものの、高い授業料になったものだな」
>「名前が売れるっていうのも、考えものですね……」
「あまりに有名になった名前の何と重荷になる事か、ってな。全く、新人騒動はもう勘弁だぜ」
溜息を吐きながら今回の騒動を忘れる為に、注文していたアイスコーヒーのコップに手を掛ける。
冷えたそれをそのまま喉に流し込んでいると――――唐突に来客を知らせるベルが鳴った。
……何か、嫌な予感がする。
上手くは言えないが、こう……ロクでもない事が起きる時の虫の知らせのような奴だ。
正直言って見たくはねぇが、それでも渋々首を動かし入口を見てみれば
>「あ、いらっしゃ――――」
>「ここが東京ブリーチャ―ス入隊試験の会場ですか?」
>「やっと到着したべぇ!いやぁ〜、ハイカラな店だっぺなぁ!東京はやっぱ違うっペぇ!」
>「ハイハイ、どなたさんも失礼しまっせ!おたくさんが東京ブリーチャーズの頭領はんでっか?」
>「OH!ワタシ、ハジメテ東京キマシタネー!東京ブリーチャーズト行ク帝都ツアー、楽シミデース!」
>「ま、まま、まさか……これって全部、ブリーチャーズ目当ての……?」
>「みたいねぇ……」
>「あっははははっ!これが御幸たちの言ってたやつかー!」
>「わ、笑い事ではありませんわよ!?祈!」
「なっ!? おま、ちょっと待て!こいつら何人居んだよ!勘弁してくれ!」
玄関からずらりと続く見知らぬ妖怪連中の群れ!むしろ大河!
そんじょそこらの百鬼夜行より多い数がこの店に入り切る訳ねぇだろうが!?
>「尾弐殿!拙者とぜひお手合わせ願いたい!」
>「狼王様、我らロシアに棲むハイイロオオカミの族長より親書を預かって参りました」
>「姫様、女王陛下の命で姫様がお仲間にご迷惑をおかけしていないか確認にきました〜!」
>「そんなことより入り過ぎィ! 定員オーバーだから!」
「おいそこのテメェ!ドサクサに紛れて橘音を触ろうとしてんじゃねぇ!!………誰だ今俺の尻触った奴は!!?」
>「も……もう、有名税はこりごりです〜〜〜〜〜!!!!」
>「次は最終話、じゃなくて終点、東京でございまーす!!」
「だあーっ!どいつもこいつも!いい加減にしやがれええええっっ!!!!」
帝都の朝の満員電車もかくやといった具合になった店内での俺の叫びは、しかし無数のざわめきに飲まれて空しく消えていくのであった。
帝都のどこかで、とある妖怪達の騒がしい日々は今日も続いていく――――
152
:
ポチ
◆CDuTShoToA
:2020/03/13(金) 23:36:36
なんやかんやあって、悪は滅びた。
超ツクモキングはバラバラに崩れ落ちた。
>《やはり六体ではダメか……七体合体でアルティメットツクモキングになれてさえいれば……うごごご!》
「はぁ……疲れた。今度、僕らも五人で合体技でも作る?技名は……そうだなぁ、ブレーメンの音楽隊とか」
うんざりとした語調。
>《まぁ、我らも豚バラを切らされる、雑な扱いを受けるなどして頭に血がのぼっておった。許せ》
>「猛省してほしいであります!小官の機転がなかったら、今頃東京ブリーチャーズは全滅していたであります!」
>「おい、ツクモ太……ゴホン、七つ道具。そろそろ橘音達を返しちゃくれねぇか」
>《三尾たちはこちらだ。来るがいい》
天神細道を潜ると、そこは雅やかで古風な建物の中だった。
確かにシロのにおいがする。
七つ道具の案内を待たずに、ポチはそのにおいを辿って廊下を進む。
>「ひぃぃ〜……どうしてこのボクが!地獄の大公爵アスタロトがこんなことを〜……」
>「元は貴様のせいであろうが。ええい、サボるな!しっかりやれ!」
辿り着いた部屋にはシロと、橘音と天邪鬼がいた。
ポチが小さく、安堵の溜息を吐いた。
>「……あ。あなた――」
その周囲には大量の――大勢の小さな付喪神がいる。
何をしているのか、されているのか、させられているのか、ポチにはすぐには理解出来なかった。
>《付喪神の頂点たる我らを蔑ろにすることは許さぬ。それでなくとも、近頃の化生は器物を粗末に扱いすぎる》
>《ということで、こ奴らには罰を与えておった。この場にあるすべての輩(ともがら)への奉仕が終わるまで、ここから帰さぬ》
「……ええと、つまり?」
>「チッ……寺におった頃を思い出すわ。まぁ私が繕っていたものの大半は私が壊したものだったわけだが」
「ああ、そういう事」
>「こういった作業は初めてですが……ふふ、なかなか楽しいものです。あなたもご一緒にいかがですか?」
シロが優しげな手つきで古い毛布を撫でる。
「……そうだね。だけど僕、縫い物なんてした事ないからさ……君が教えてよ」
ポチとしては、シロが見つかった時点でこの事件は解決したようなものだ。
だから彼女がそう言うなら、あえて拒む理由はなかった。
>「ボクは早く帰りたいですぅぅ……クロオさぁん、連れて帰ってぇ……」
「はは……奇遇だね。君があのバカ三人を連れてきた時は、僕も同じ事を考えてたよ」
>「あいよ、大将。……さて、七つ道具。これだけ頼られた以上、オジサンとしちゃあ一刻も早く連れ去っちまいてぇ所なんだ。だから、交渉をしようぜ」
>《愚か者……この部屋のすべての器物を繕うまで、決してこの空間からは出られぬぞ――!》
「……そもそもさ。事の発端は君が豚バラ肉を切らされた事でしょ?
だったら、凄む相手を間違えてるんじゃない?」
ポチが、件の三バカ達に視線を向けた。
>「スーパーツクモキングを倒せたのは君達が身を挺して突撃してくれたおかげだ!
そこで君たちを真・東京ブリーチャーズと見込んでお願いがある!
将来付喪神の祟りの犠牲が出るのを未然に防ぐことが出来る超重要任務だ――」
かくして事件は一件落着した。
最後にベリスの奸計によってエクストラバトルが始まる気がしたが、気のせいだった。
153
:
ポチ
◆CDuTShoToA
:2020/03/13(金) 23:37:00
>「皆さんの〜……お陰で……強く、なれま……した……。この……御恩は〜……決して、忘れま……せんん〜」
「また、その内遊びにおいでよ。君は、狼じゃないけど……立派な狼だ」
>「じ、地獄、へ、帰り、ます。やく、約束、通り、人間は、傷つけ、ません。こ、これ、これにて、おいとま、を」
「もし困った事があったら、僕の名前を出せばいい……まぁ、今の君には必要ないかもね」
>「楽しかった……ですぅぅ〜……また、またいつか……いつか、お会い致しましょうぅ〜……」
「……うん、僕も楽しかった。またね」
>「へぇ〜、そんなことがあったんだ……。ちょっと見てみたかったかも」
>「何を言っているのです、祈。そんなおぞましい下等妖怪どもを視界に入れては、目の穢れというものですわ」
>「そうかなぁ。腹出して踊るとみんなが笑うとか、平和でいいなーって思うんだけど」
>「やめとけやめとけ。あのヨゴレ妖怪共は、嬢ちゃん達の教育上良くねぇぞ」
「例え数百年後だろうと、もう二度と会いたくないね……それだけ時間があれば、何か変な進化とかしてても不思議じゃないし」
ここ、逆襲の真・東京ブリーチャーズへの伏線です。
>「まぁ……何にしても厄介事はまるっと解決しましたから!結果オーライとしておきましょう!」
「ま、そういう事にしとこっか。楽しい事もあったし……」
>「にしても、だ。有名税とは言うものの、高い授業料になったものだな」
>「名前が売れるっていうのも、考えものですね……」
>「あまりに有名になった名前の何と重荷になる事か、ってな。全く、新人騒動はもう勘弁だぜ」
>「あ、いらっしゃ――――」
ともあれ、これで東京ブリーチャーズはいつも通りの日常を取り戻した。
めでたしめでたし――
>「ここが東京ブリーチャ―ス入隊試験の会場ですか?」
とは、ならなかった。
皆、気づいていなかった――あるいは考えたくなかった。
確かに真・東京ブリーチャーズは数百年の封印を受けた。
だがそれによって東京ブリーチャーズの知名度が落ちた訳ではない。
>「やっと到着したべぇ!いやぁ〜、ハイカラな店だっぺなぁ!東京はやっぱ違うっペぇ!」
>「ハイハイ、どなたさんも失礼しまっせ!おたくさんが東京ブリーチャーズの頭領はんでっか?」
>「OH!ワタシ、ハジメテ東京キマシタネー!東京ブリーチャーズト行ク帝都ツアー、楽シミデース!」
つまり――第二、第三の三バカが現れる可能性は、依然として残されたままだったのだ。
>「なっ!? おま、ちょっと待て!こいつら何人居んだよ!勘弁してくれ!」
>「ま、まま、まさか……これって全部、ブリーチャーズ目当ての……?」
>「みたいねぇ……」
「……あー、そうだ。僕、失せ物探しの依頼寝かせたままだったんだ……なんて」
>「あっははははっ!これが御幸たちの言ってたやつかー!」
>「わ、笑い事ではありませんわよ!?祈!」
>「尾弐殿!拙者とぜひお手合わせ願いたい!」
>「狼王様、我らロシアに棲むハイイロオオカミの族長より親書を預かって参りました」
「え?何?オオカミ?ああ、君もオオカミなの!丁度いいや!ちょっと手伝って欲しいんだけど――」
>「も……もう、有名税はこりごりです〜〜〜〜〜!!!!」
>「次は最終話、じゃなくて終点、東京でございまーす!!」
>「だあーっ!どいつもこいつも!いい加減にしやがれええええっっ!!!!」
「……ああ、もう、退屈しないなぁ」
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