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【伝奇】東京ブリーチャーズ・伍【TRPG】

221尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE:2018/04/17(火) 00:43:50

――――

「前回の事の顛末は聞いてるな。……那須野が敵に回った。そして、祈の嬢ちゃんを絶望させる事を宣言した」

黒面の那須野について語る尾弐の口調は険しく、うっすらと憎悪と……別の感情が混ざった複雑な色が見て取れる。

「……那須野が敵に回った以上、今後の戦いはこれまでの様にはいかねぇ筈だ。これまであいつが敵に向けていた手腕は、俺達に向けられる。
 心理的にも、戦略的にも、あらゆる手段で追い詰めて来るのは間違いねぇ」

「恐らく―――――人も死ぬ。今回みてぇに。或いはそれ以上に」

そのまま一呼吸置き、尾弐は続ける。

「その死んだ理由が自分自身であった時……被害者が身近な人間であった時、それに嬢ちゃんは耐えられるか?」

そこまで言って、自分の言葉が余りに冷たいものになっている事に気付いたのだろう。
尾弐は一度咳をして仕切り直す。

「嬢ちゃんは、頑張ったさ。強大な妖怪でもねぇのに、傷だらけになりながら……それでも目の前の人間を救ってきた。
 どうしようもねぇ妖壊を倒す事で、被害を食い止めてきた。そいつぁ、並みの妖怪や人間には真似できねぇ事だ。すげぇと思うぜ」

だから

「……もう、いいんじゃねぇか?」

吐き出される言葉は、非道く優しい。労わるような慈愛の気配させ見て取れる。

「もう、十分だろ。お前さんは良くやったよ。だから、これ以上傷つく必要はねぇだろ。
 こんな血まみれの生活は忘れて、同じ年の奴らと楽しく過ごしていけばいいんだ」

そして、自身でも卑怯だと思いながらも尾弐は言葉を加える。

「俺が言える立場じゃねぇのは重々承知してるが……颯も晴陽も、お前さんが幸せに生きる事を望んでる筈だぜ」

死者の言葉を騙る事への罪悪感か、尾弐は食べ終えた食器を流し台へと運ぶ為に席を立つ。
そして、祈に背を向けたまま言葉をかける

「那須野の事なら心配すんな。妖壊になった以上――――アレは俺がきっちり始末してやるさ。嬢ちゃんに手は出させねぇよ」

言葉に嘘は無い。それは尾弐の意志を明確に示している。
もしも祈が尾弐の甘い毒の様な言葉に従うのならば、彼は全力で約束を、祈の日常を守る事だろう。
出会う妖壊を全て情け容赦なく殲滅し、那須野と東京ドミネーターズに対しても、持ち得るあらゆる悪意と暴力を持って戦う事だろう。

もとより、那須野が東京ブリーチャーズを去った時点で、尾弐黒雄には敵を殲滅するまで戦う以外の未来は無いのだ。
ならば、祈一人だけでもその宿業から守れる事は尾弐にとって僥倖なのである。

……その後、一頻り掃除や後片付けをした後、昼食用兼夕食用の肉じゃがを作ってから尾弐は祈の家を出た。

「……嬢ちゃんがどうするかは、嬢ちゃんの判断に委ねるつもりだがよ。嬢ちゃん自身が苦しい選択は選ぶんじゃねぇぞ」

そう言い残して。



……仲間は、仲間の為を想い言葉を掛ける。
けれど、その言葉が必ずしも金言であるとは限らない。
今回において、尾弐の言葉はある種の毒だ。自分自身を許させる為の甘言だ。
だが、尾弐がそんな言葉しか掛ける事が出来なかったのは仕方ないと言えるだろう。

間違った者からは間違った答えしか返って来ない。

尾弐自身が取り返しがつかない程に間違っているのに、どうして彼が祈に正しい言葉を掛けられただろうか。
……願わくば、祈が尾弐の言葉に惑わされない事を。
ノエルの願いと、ポチの希望をこそ選んでくれる事を。

那須野橘音――――悪魔によって齎された不協和音を鳴らしながら、それでも日々は巡る。


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