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仮投下スレ

1名無しさん:2015/07/15(水) 00:22:03 ID:YFA/rTa20
作品の仮投下はこのスレでお願いします

525 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:18:27 ID:574g.qOo0
ーースクリーンの画面には煌びやかな衣装を纏ったアイドルが歌い踊っている。

そんな光景を『怪物』ジャック・ハンマーは、深く座席に座り眺めていた。

(……さて)

映画館でジャックが求める参加者は見つけられなかった。人がいた‘形跡’こそあるものの、それが‘いつ’であるのか判断がつかない。
トイレに散乱していたガラクタ然り、目の前で上映している映像然り。一階に一つだけ劇場のドアが開いていたが、これも‘いつ’であるのか彼には分からない。
その劇場には非常口が存在していたが、開いたのは場内を調べ終わった後。
まさか足音だけを聞いて、話もせず逃げる者がいるとはとても思えず、いたとしてもそんな腰抜けは
放っておいても勝手に死んでいくだろうと様々な考えはあったが、単に場内に隠れている方が可能性は高いとそちらを優先しただけである。
ともあれ、獲物を見つけられずその報酬を取れなかったジャックは流れていた映像に足を止め、人一人いない貸切の劇場で、少しだけ疲労した体を休めていた。

ーー否、限界を超えたジャック・ハンマーはこの世界が終わる三日間を休みなく戦い続けることなど、東から西へ太陽が昇るより当たり前のことであり、鶏が卵を産むことより簡単なこと。

では、貴重な時間を使ってまで進撃を止めた訳とはーー

(……勇次郎ヨ、なぜ死んだのだ)

目的であり目標であり、ジャックの人生そのものと言っても過言ではない、父、範馬勇次郎。
その『死』をこの身に深く刻みつけるため、ジャックは留まる選択を選んだ。

(地上最強ではなかったのか、貴様の強さはそんなものだったのか)

武に生きる者であるならば範馬勇次郎を知らない者はいない。
この世のどんな生物であろうとも、彼を相手にすれば最弱に成り下がる。
勝てないからではない。圧倒的な戦力差ゆえ、ボロ布のように扱われ自らの強さの核を砕かれてしまうからだ。
アリがティラノサウルスに挑んで負けたとして、アリの強さを証明など出来るであろうか。
踏み潰されて死ぬ、所詮、アリはアリ。根本から勝てる要素などない。
一方的な蹂躙は相手の心を折り、そして二度と立ち上がることのない体になる。
例え 、癌細胞であろうとも勇次郎に打ち勝つとは不可能であり、核爆弾を使おうとも殺すことは出来ない。
そんな、自他共に最強と謳われている彼が、この地で命を落とした。

(負けた……などと言うつもりはないだろうな、勇次郎)

範馬勇次郎が負けたらそれはもう範馬勇次郎ではない。範馬勇次郎をした‘なにか’だ。
地上最強から最強を取ったら、そこらにいる有象無象の生物と何一つ変わらないということ。
そこにジャックが求める範馬勇次郎はいない。最強である彼だからこそ目標とする意味がある。
ティラノサウルスだろうと負ければアリだ。ジャックはアリに微塵も興味はない。

(……戦えば、自ずと分かること)

暗雲に支配されつつあった心を、拳でもって破壊しヤシの実も�筋り取る歯で�筋み砕く。
ノイズが掛かったまま戦いに赴くなど、これから出会う全ての者に失礼な態度である。
ジャックは全力で彼らを潰し優勝を勝ち取る。勇次郎を倒すという最大の目標は潰えたものの、その心までも、その戦いの道までも失ったわけではない。
それとこれとは、別。勇次郎の問題は参加者である彼らに関係はない。

(…………)

僅か、一分にも満たない思考は、防音加工してある扉を貫くほど強烈な音によって途切れる。
足を上げ落とした、その動作だけで床を踏み鳴らしたジャックは、大きく凹んだ床に目もくれず立ち上がる。


決意も新たに、出撃の時は来た。


(刃牙、お前はどんな選択をする)


『怪物』は一歩を踏み出す。





【G-6/映画館/一日目・午前】
【ジャック・ハンマー@グラップラー刃牙】
[状態]:頭部にダメージ(小)、腹八分目、服が濡れている
[服装]:ラフ
[装備]:喧嘩部特化型二つ星極制服
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
     黒カード:刻印虫@Fate/Zeroが入った瓶(残4匹)
[思考・行動]
基本方針:優勝し、勇次郎を蘇生させて闘う。
   1:人が集まりそうな施設に出向き、出会った人間を殺害し、カードを奪う。
   2:機会があれば平和島 静雄とも再戦したい
[備考]
※参戦時期は北極熊を倒して最大トーナメントに向かった直後。
※喧嘩部特化型二つ星極制服は制限により燃費が悪化しています。
 戦闘になった場合補給無しだと数分が限度だと思われます。


◇◇◇

526 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:22:30 ID:574g.qOo0
『怪物』が来襲していた事などいざ知れず、非常口を通り映画館から外へ出た遊月は振り返る事もせず去っていく。

『化け物』の危険を知らせるため、ラビットハウスへと走る。




【G-6/市街地/一日目・午前】
【紅林遊月@selector infected WIXOSS】
[状態]:口元に縫い合わされた跡、決意
[服装]:藍色のロングコート@現地調達
[装備]:令呪(残り3画)@Fate/Zero、超硬化生命繊維の付け爪@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード
[思考・行動]
基本方針:叶えたい願いはあるけれど、殺し合いはしたくない
1:シャロを探し、謝る。 今は、ラビットハウスに戻る。
2:るう子には会いたいけど、友達をやめたこともあるので分からない…。
3:蒼井晶、衛宮切嗣、折原臨也を警戒。
[備考]
※参戦時期は「selector infected WIXOSS」の8話、夢幻少女になる以前です

527 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:23:04 ID:574g.qOo0
投下終了します

528名無しさん:2015/11/28(土) 16:40:53 ID:bavq3zpo0
投下乙です
指摘もないようですし、本スレに投下して大丈夫だと思います

529 ◆DGGi/wycYo:2015/12/03(木) 23:36:39 ID:jNueIgOs0
仮投下します

530震えている胸で  ◆DGGi/wycYo:2015/12/03(木) 23:38:57 ID:jNueIgOs0
――放送が終わり、少しの間をおいてシャロさんが「よかった」と呟く。
きっと、この殺し合いに巻き込まれている友達の名前が誰も呼ばれなかった。
だからほっと一息をつくこと自体は、何も悪いことではありませんでした。

それは私だって同じ。
もし、少しでもタイミングがズレていたら。
もし、今自分たちのいる場所が禁止エリアになるということに気付いて神経が尖っていなければ。
理由はどうあれ、遊月の名前が呼ばれなかった、それだけで私も同じ言葉を口にしたと思います。

私は何も言わず黙っていて、シャロさんは違った。
ただ、それだけの違いでした。

でも、私やシャロさんは良くても。
良しとしない、いや、出来ないだけの理由が“彼女”にはありました。
その事実に、もっと早く気付くべきでした。


*  *  *


3時間後にはここ、F-3が禁止エリアになる。
ここから北のE-3まではさほど距離がないから早く移動した方がいい。
皆にそう伝えようとして顔をあげた小湊るう子が感じたのは、不穏な空気。

シャロはともかく、夏凜とアインハルト、特に後者の様子が何だかおかしい。
蹲っているその身体が僅かに震えている。

「あんた……」

夏凜が何か言おうとするが、もう遅い。
急にアインハルトが立ち上がったかと思うと、目にも止まらない速さで紗路の元へ踏み込む。

「っ!?」

そして、横顔にその拳を叩き込んだ。
魔法に慣れていない人間がパニッシャーを展開するには猶予が足りず、紗路の身体は宙を舞う。

「シャロさん!?」

慌てて数メートル程吹き飛ばされた紗路の元へ急ぐ。
動かないが、軽く気を失っているだけでまだ息はある。
直撃を受けた左頬はしばらく腫れるだろうが、幸い命に別状は無さそうだ。

振り返ると、アインハルトがすぐ後ろまで来ていた。
彼女の姿は先刻までの少女のそれではなく、成人女性のようになっている。
あまりの事態に足が竦み、腰が抜ける。
それでも、このままでは危険だと感じたるう子は、何とかして紗路を庇おうとする。

アインハルトの拳が再度放たれる。
思わず目を閉じる前に見えたのは、嘆くような表情と、飛び散る赤いもの。
ああ、人間の血というものは、こんなにも綺麗なのか――。


いや、違う。今のは血ではない。
るう子は、それに見覚えがあった。
色こそ違うが、神社で見たものと同じ……?

恐る恐る目を開けると、アインハルトを遮るようにして立つ、1人の少女の姿。

「夏凜さん!」

2本の刀を手に、三好夏凜がアインハルトを食い止めている。
その背中は震え、何も語らないが、ただ“逃げなさい”と告げられているような気がして。

「…分かりました」

るう子もただそれに従い、カードから出したスクーターでシャロと共に北へと走る。
その後を追おうと動きを見せるアインハルトだが、

「させないわよ」

彼女の意図を読み取った夏凜が阻止する。
邪魔をされたと判断したアインハルトは、黙って夏凜と向き合った。

「どういうつもり、アインハルト。
何で桐間紗路を殴ったの?」

答えることもなく彼女は次から次へと拳、蹴りを繰り出し、夏凜はそれら全てに対処しつつ、違和感に覚える。
今の彼女の攻撃は犬吠埼風に殺されかけていた時と違い、八つ当たりという表現が丁度いい。
どうにも、感情任せの攻撃としか思えないのだ。

531震えている胸で  ◆DGGi/wycYo:2015/12/03(木) 23:39:51 ID:jNueIgOs0
拳と刀がぶつかるたび、火花が散らされる。
やがて、左肩に紅いサツキの花弁が一枚灯る。
これが何を意味するかは、夏凜には容易に想像出来た。
以前だったら気にも留めなかったことだが、今はそうもいかない。

あの日、風はこう言った。
“満開の後遺症は治らない、過去に犠牲になった勇者がいた”と。
流石にこれ以上こんなことで戦闘を続けるのは良くないと判断し、夏凜は呟いた。

「…………高町ヴィヴィオ」

その名を聞いた途端、ぴたりと拳が、アインハルトの動きが停止する。
ビンゴ、やはり原因はそれだ。

「アンタは友達の名前が呼ばれて、シャロは呼ばれなかった。
それを知ってか知らずか、彼女は良かったと言い放った。
だから殴ったってところでしょう、でもね――」
「違うんです」

いつの間にか元の華奢な少女に戻ったアインハルトが、口を開く。

「何が違うっていうのよ」
「友達だとか親友だとか……ヴィヴィオさんは、そんな簡単な言葉で表せる人じゃ、ないんです」

答えるアインハルトの両目からは、大粒の涙が零れていて。
ほとんど表情を変えない彼女が、この時ばかりはうっすらと苦笑いしている。
夏凜の目には、そう映っていた。


*  *  *


ひとまずE-3、かつてアインハルトたちと出会った道路の脇まで出たるう子はスクーターを停止させた。

「ん……」
「シャロさん、気が付きましたか」

気を失っている少女を連れて運転するのは少々苦労したが、今のところ大事には至っていない。

「夏凜さんがアインハルトさんを説得してくれている筈です、きっと大丈夫ですよ」
「ねえ、るう子ちゃん。私、悪いこと、しちゃったのかしら」

左頬に手をあて、反省するように尋ねる。
紗路自身、何故殴られたのかくらいはうっすら理解していた。
まさかこんなことになるだなんて、夢にも思わなかったが。

「シャロさんは、悪くありませんよ」
「……だって」
「るうだって、遊月が死んでないって分かってほっとしました。
こんな、殺し合いなんてものに巻き込まれたら、誰だって同じだと思うんです」
「でも、私が余計なことを言ったせいで、あの2人は」
「シャロさんのせいじゃないですよ、気にしないでください。
でも……2人が戻ってきたら、ちゃんと謝りましょう。
大丈夫、きっと戻って来て……許してくれますよ。るうも一緒に、謝ります」

どんなにカードゲームの腕が上達したって、どんなにセレクターバトルで心が成長したからといって。
小湊るう子は、結局は非力な一般人の少女であるという事実は変わらない。
だから、彼女が桐間紗路にしてやれることは、それくらいしか無かった。

「…………ありがと」

もう1人の非力な少女は、申し訳なさそうに感謝の意を述べた。


【E-3/エリア南部、道路脇/朝】

【桐間紗路@ご注文はうさぎですか?】
 [状態]:疲労(小)、魔力消費(小)、左頬が軽く腫れている
 [服装]:普段着
 [装備]:パニッシャー
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)
     黒カード:不明支給品0〜1(確認済み)
 [思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。みんなと合流して、謝る
   0:アインハルトたちが来るのを待って、謝る
   1:研究所か放送局に向かう
   2:パニッシャーをもっと上手く扱えるように練習する?
 [備考]
  ※参戦時期は7話、リゼたちに自宅から出てくるところを見られた時点です。


【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:微熱(服薬済み) 、魔力消費(微?)体力消費(微)
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
[装備]:黒のヘルメット着用
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(8/10)
    黒カード:黒のスクーター@現実、チタン鉱製の腹巻@キルラキル、風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?
         ノートパソコン(セットアップ中、バッテリー残量残りわずか)、宮永咲の不明支給品0〜2枚 (すべて確認済)
     宮永咲の魂カード
 [思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
   0:アインハルトさんたちを待つ。
   1:遊月、浦添伊緒奈(ウリス?)、晶さんのことが気がかり。
   2:魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
   3:ノートパソコンのバッテリーを落ち着ける場所で充電したい。
   4:研究所に向かうか、東の市街地に向かうか。



✿  ✿  ✿

532震えている胸で  ◆DGGi/wycYo:2015/12/03(木) 23:41:02 ID:jNueIgOs0


「そういうのじゃないって、じゃあ何なのよ。
友達、血縁、或いは想い人……結局はそういった関係のどれかなんじゃないの?」

夏凜には、アインハルトの言葉の意味は分からない。
アインハルトもまた、理解してもらおうとは思っていない。

「いいんです、別に。私はまた彼女を守ることが出来なかった。
この殺し合いの中で、大切な人が死んでしまった。
夏凜さんもそうなんでしょう?」
「っ――」

急にその話に触れられ、返す言葉が見当たらない。
犬吠埼樹、今では大切な勇者部の一員が死んだという事実は、少なからず夏凜の心に衝撃を与えた。

正直、夏凜自身も無責任な発言をした(と思っている)紗路に小言くらいは言うつもりでいた。
それでもしなかったのは、突如アインハルトが暴れ出したから。
今ここで止めなければ、きっと戻れなくなる。
かつて暴走した風を止めようとした時の経験から、それは痛いほど分かっているつもりだった。

「今の私には、ヴィヴィオさんが全てでした。
あの人のお陰で、色んな人と出会えて、私の狭かった世界は変わりました。
ただ強さだけを求めて彷徨っていた私に、あの人たちが、ヴィヴィオさんが手を差し伸べてくれた」

一度言葉を区切り、アインハルトは叫んだ。

「でも! 死んでしまったら、何も意味はありません。
私はコロナさんやリオさん、ノーヴェさん、それになのはさんやフェイトさんたちに、何て言えばいいんですか!?
私はもう、あの人たちに顔向けなんて出来ない! もう、私には――」
「ふざけんじゃ………ないわよ!」

業を煮やした夏凜が、言葉と共に渾身の平手打ちを飛ばす。
あなたに何が分かるんだ、と視線を飛ばすアインハルトに、叫んだ。

「あんたに何があったかは知らない。
そりゃ、大切な人が死んだからヤケクソになりたくなる気持ちは分かるわよ。
でも言ったでしょう、あんたがどんなに悔やんだって、人に八つ当たりしたって、死んだ人は戻りはしないの!」

それに、と夏凜は続ける。

「コロナって言ったかしら、その子はまだ生きているんでしょう?
その子だってあんたと死んだ高町ヴィヴィオの友達なのよね?
だったら……次にすべきことくらい、あんた自身でも分かるでしょう!?」

話が終わり、アインハルトは「……ごめんなさい」と小さく声を放つ。
それが何に対しての“ごめんなさい”なのか、夏凜には分からない。
ただ、一応この場は収束したのだと理解し、変身を解いて額の汗を拭った。


✿  ✿  ✿


とりあえず紗路たちに合流して謝ろうという話になり、2人は北へと歩いて行く。
飛ぶなり何なりすれば早いのだろうが、ここがやがて禁止エリアになるという事実を思い出したお陰でそれどころでは無かった。

道中横に並んでいた2人だったが、突如夏凜が足を止めた。

「夏凜さん?」

アインハルトが様子を伺うが、夏凜はスマホの画面を凝視しながら驚愕の表情を見せているだけ。

「夏凜さん、あの、大丈夫ですか……?」
「嘘でしょ……ん、あ、大丈夫よ、何でもない」

さっとスマホを後ろに隠し、夏凜は取り繕ったように笑ってみせる。
そう、ですか……と呆気に取られたアインハルトの少し後ろを歩きながら、再びスマホの画面を見返す。

本当に通信機能が失われているのかと色々と弄っていた時に、偶然見つけたものだった。
使えないと思っていたチャット機能がいつの間にか使えるようになっている。
(もっとも勇者部のみが使えるアプリであるNARUKOではなく、至って普通のチャット機能だったのだが)

問題は画面に映し出されていた一つの文章。
……出来るなら、見間違いであって欲しかった。

533震えている胸で  ◆DGGi/wycYo:2015/12/03(木) 23:41:53 ID:jNueIgOs0
『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』

るう子たちと合流する前の彼女なら、これは誰かが悪意を持って流した嘘だと一蹴しただろう。
だが、今はるう子から得た1つの確かな情報がある。

“東郷美森は既に宮永咲という少女を殺害している”

「(まさか、東郷が……)」

考えたくない。
あの東郷が、同じ勇者部の仲間を殺しているだなんて。

それでも、考えざるを得ない。
樹の姉である風がこの文章を見て、何を思うか。
東郷の親友である友奈がこの文章を見て、何を思うか。

考えれば考えるほど、最悪の構図が目に浮かんで来る。
アインハルトにあんな説教をした手前、相談することも適わない。
それでも何とかして、気持ちの整理を付けないといけない。
だって、自分がきちんとしなければ、誰が彼女たちを一丸にまとめ上げられる。
他に適任なのはるう子だろうが、彼女に戦闘能力は一切ない以上危険だ。

「どこにいるのよ、友奈……」

アインハルトにも聞こえないように、弱弱しい助けを求める。
双刀の勇者は、まだ挫けるわけにはいかない。


*  *  *


拝啓、ヴィヴィオさん。

あなたを喪ったことは辛いですが、私は何とか大丈夫です。
コロナさんのことは、どうか心配しないでください。
もし、いつか、どこかで会えたなら。
その時は、また――――


【F-3/エリア北部/朝】

【三好夏凜@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、精神的疲労(小)、満開ゲージ:1
[服装]:普段通り
[装備]:にぼし(ひと袋)、夏凜のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
     黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:繭を倒して、元の世界に帰る。
   0:助けて、友奈……
   1:研究所、放送局どこに向かう……?
   2:東郷、風を止める。
   3:機会があればパニッシャーをどれだけ扱えるかテストしたい。
   4:紗路たちと合流する
[備考]
※参戦時期は9話終了時からです。
※夢限少女になれる条件を満たしたセレクターには、何らかの適性があるのではないかとの考えてを強めています。
※夏凛の勇者スマホは他の勇者スマホとの通信機能が全て使えなくなっています。
 ただし他の電話やパソコンなどの通信機器に関しては制限されていません。
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという情報(大嘘)を知りました。

【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:魔力消費(小)、歯が折れてぼろぼろ、鼻骨折 (処置済み)、精神的疲労(大)
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)
    黒カード:0〜3枚(自分に支給されたカードは、アスティオンではない)
    高速移動できる支給品(詳細不明)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
   0:ヴィヴィオさん……。
   1:紗路たちと合流し、謝る。
   2:私が、するべきこと――。
   3:コロナを探し出す。
   4:余裕があれば池田華菜のカードを回収したい。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後からです。

[備考2]
4人が共有している情報
※夏凛、アインハルト、シャロ、るう子の4人は互いに情報交換をしました。
※現所持品の大半をチェックしました。
※るう子、シャロ、アインハルトはパニッシャーを使用しました。
 効果の強弱は確認できる範囲では強い順にアインハルト、るう子、シャロです。
 バリアジャケットを装着可能ですが、余分に魔力及び体力を消耗します。

4人の推測
1:会場の土地には、神樹の力の代替となる何らかの『力』が働いている。
2:繭に色々な能力を与えた、『神』に匹敵する力を持った存在がいる。
3:参加者の肉体は繭達が用意した可能性があり、その場合腕輪は身体の一部であり解除は不可で 本当の肉体は繭がいる場所で隔離されている?
  もし現在の参加者達の身体が本来のものなら、幽体離脱など精神をコントロールできる力を用いることである程度対応可能ではと考えています。

534 ◆DGGi/wycYo:2015/12/03(木) 23:42:48 ID:jNueIgOs0
仮投下を終了します
指摘等あればお願いします

535名無しさん:2015/12/03(木) 23:57:26 ID:wU5NTj5Q0
投下乙です
アインハルトが苦笑いとは言え、笑っている描写に違和感が
漫画を読めば分かりますが、彼女にとって笑顔とはかなり大事な意味があるものなので

536 ◆DGGi/wycYo:2015/12/04(金) 00:00:04 ID:MpOz9id.0
>>535
あくまであれは夏凜視点でそう見えただけでアインハルト自身は表情を変えてない、のつもりで書きました
本投下の際には何かしら修正を加えます

537 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:42:43 ID:aRXx8lUc0
仮投下します

538 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:44:19 ID:aRXx8lUc0
平和島静雄は、暴力が嫌いである




「臨也じゃ…ない!?」
平和島静雄が学生の割には老け顔の大男蟇郡苛と合流してしばらく
互いに情報交換をするうち、静雄にとっては寝耳に水な事実が判明した

「ああ、あの折原という男、越谷小鞠が殺された時間帯はずっとラビットハウスという喫茶店にいた。この俺自身も一緒にいたのだから間違いない。
さらに言えばこの殺しあいが始まった直後、折原は先ほど話した空条承太郎と一条蛍の二人と合流している。
普通の少女である一条はともかく、空条は中々の使い手のようであった。
折原も中々小賢しいようだが、空条に隠れて誰かを殺せるとは思えんぞ」

言われてみれば不自然な点は多くあった
詳しく思い出そうとすると暴れたくなってしまうので朧気だが、あの妙な館内放送では臨也の声はしなかった
あの耳障りな声がしなかったおかげ…いや、せいでキレる寸前でありながら小鞠を巻き添えにしないために隠して行く程度の判断力は残ったのだ

考えてみれば、臨也にはわざわざ自分の声を誤魔化す必要はない
あの声で「シズちゃん」なんて呼ばれたら、それだけで静雄がキレると知っているのだから、それをしない理由もない

さらに、臨也はああ見えて直接凶器を持って静雄以外の誰かを殺そうとしたことはなかった

女の子を殴る趣味はないと言って笑いながら女の子の携帯電話を踏みつけるような人間だが…
普段からナイフを隠し持っていて初めて会った時も(静雄の方から殴りかかったとはいえ)斬りかかってくるような人間だが…





折原臨也は、人間を直接殺すような人間ではない



「じゃあ…誰なんだよ…!クソが…!」

539 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:47:01 ID:aRXx8lUc0





蟇郡苛は、平和島静雄を評価していた
誰かを失った悲しみを背負う者同士、一種のシンパシーがあったのかもしれない
先ほどの一瞬の衝突の際、生身でありながら極制服着用者を凌駕するような一撃を放ってきたこともあり、これから共に戦う者として頼りになるとも思っていた
短気で熱くなりやすいようだが、直情型なのは自分も同じだ

だからだろうか…
彼は余計なことを言ってしまった


「うむ、あのキャスターという外道を討伐した後、衛宮殿に話を聞こう」

「衛宮?」

「うむ、ゲームセンターの様子を確認しに行ったのは彼だからな。
俺が平和島を越谷小鞠殺しの下手人だと思ったのも――」
そして、蒲郡は説明してしまった

ラビットハウスで香風智乃が腕輪探知機を使ったこと
その結果、ラビットハウスのあるG―7エリアに蒲郡苛と香風智乃含め八人もの参加者がいたこと
その後折原臨也を含む四人組と合流したこと
その四人組の中の衛宮切嗣が残る二人――平和島静雄と、越谷小鞠を探しに行ったこと
衛宮切嗣が越谷小鞠の死体を発見し、平和島静雄が犯人の可能性が高いと話したこと






バキ、と何かが折れる音がした
蒲郡が驚いて横を見ると、なんと平和島静雄が車の縁を手で砕いていた

「何をする!」
車を止めて蒲郡は思わず叫ぶ

「衛宮…衛宮切嗣…」
「おい、平和島?」
ただならぬ雰囲気で呟く平和島静雄に、蟇郡は困惑する

540 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:51:02 ID:aRXx8lUc0


平和島静雄は、決して頭の良い人間ではない
小学生の頃、同級生である岸谷新羅が言っていた「一世代での進化」という推察も、未だによく理解できていない(これに関しては静雄が馬鹿というよりは新羅が天才すぎただけなのだが)
だが、物を一切考えられないような能無しでもない
あの時G―7エリアにいた八人
空条承太郎
一条蛍
折原臨也
香風智乃
蟇郡苛
衛宮切嗣
越谷小鞠
そして自分―――平和島静雄

そのうち、自分と小鞠を除いたら六人
その六人のうち、折原臨也を含む五人がラビットハウスにて待機
越谷小鞠を殺せるのは…唯一単独行動をとっていた、衛宮切嗣だけだということが分からないような能無しではない





「ええええぇぇぇぇぇぇえ゛みいいいいいいぃぃぃぃい゛や゛あああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!!!!」




喉も裂けよと言わんばかりの絶叫をあげる平和島静雄
車から素早く降りたと思ったら、なんと車を持ち上げだしたではないか!

541 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:52:06 ID:aRXx8lUc0






平和島静雄は、暴力が嫌いである


「落ち着けぇ!!!確かに状況証拠的には衛宮殿が怪しいかもしれんが、彼はこの便利な乗り物を快く俺に譲ってくれた!とても悪人には見えん!」
持ち上げられた車から飛び降りて着地した蒲郡は、持ち前の大声で一喝した後に静雄に説得を試みる
蟇郡にとって衛宮切嗣という男は、物欲しげな視線を送ってきた自分に対して快くコシュタ=バワーを譲ってくれた上に、気遣う言葉さえかけてくれた恩人だ

さらに言えば蟇郡はこの殺し合いに巻き込まれてから、パラレルワールドといった「なんだかよく分からない」現象に遭遇した
そんな「なんだかよく分からない」中で、状況証拠だけで恩人を殺人者だと決めつけるほど短気ではなかった


だが…

「あああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
平和島静雄の暴力には、理屈も理論も通用しない

激情を抑えきれない静雄は、とうとう車を空高く放り投げてしまった
数瞬の後、大きな音を立てて落下した車は、いつかの壊惨総戦挙(かいさんそうせんきょ)でサバイバル自動車部に襲撃された時のようにボロボロになってしまった
そしてなんと、静雄は南東…ラビットハウスの方面へ行こうとしているではないか!

(平和島静雄という男…見誤ったか!)
短気なところもあるが、信用できる男だと思っていた
しかし、あまりにも短気すぎてすぐに我を忘れるほどの怒りを見せる男だったようだ
完全に回りが見えなくなっているようで、あれではもしラビットハウスに行ったら衛宮だけでなく周りの人間も巻き込んで暴れるだろうことは容易に想像できた

これでは、折原臨也の言った『誰であろうと喜び勇んで暴力を振るう悪いやつ』というのも、ある意味的を射ている
本人に悪気はなくても、結果的にそうなってしまうのだ

「行かせんぞ!!」
蟇郡は静雄の前に立ちふさがる

「三ツ星極制服、最終形態…!」
(だが!!そんな人間だからこそ、風紀部委員長として手綱を握らなければならん!)
蟇郡の身体を光が包む
なんか全裸になってるようにも見えるが、光で局部は隠れているのでよしとしよう

542 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:54:10 ID:aRXx8lUc0


「縛の装・我心開放!!極戦装束!!!」
そして、蟇郡は『変身』した
そこに先ほどまでの制服の面影はない
顔には防具のような戒めがあり、腹部は大きく開いている
さらに両腕が金属質の布で覆われており、右腕には炎を纏っている

「さぁ、気が済むまで俺を殴れ!」
蟇郡は静雄の激情を受け止めることにした
言葉での説得が通じないなら、肉体言語で臨むまでだ

「邪魔だああああああ!!」
完全に我を失っている静雄は、全力で腕を振りかぶる

(我心開放に変身した以上、多少殴られようがかまわん!俺の胸を貸してやる!)
自らの防御能力に絶対の自信を持つ蟇郡は、静雄が落ち着くまで彼の攻撃を受けきることにした

「こい!平和島静雄!」
平和島静雄の拳が縛りの装の腕に当たり…










「ああ〜いいぞぉ、もっとだ、もっと責めろ、俺を責めてみろ〜!」
蟇郡の甘い声が周囲に響き渡った…









「お前、変態だったのか…」
余りにも予想外の出来事に怒りが霧散した静雄は、複雑そうに呟く

平和島静雄は、暴力が嫌いである
折原臨也以外には好んで暴力を振るわない彼は、一度激情が収まると、とりあえず話を聞く気にはなった

「変態ではない、変身だ!」
『変態』などという言いがかりをつけられた蟇郡は『変身』を解いて断固抗議するが、とにかく今は平和島が冷静なうちに話をするべきだと判断した

「先ほどの情報交換でも話したように、この島にはなんだかよく分からないものが溢れている
状況証拠だけでは犯人と断定はできん!なにより今は、あのキャスターという外道を成敗するべきであろう!!」

キャスター討伐が本来の目的だった以上、静雄もこれには反論できなかった

543 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:55:15 ID:aRXx8lUc0


「しかし!お前が彼を疑うのもまた道理!
キャスター討伐を終えた後、改めてもう一度彼に話を聞く!
それで構わんな!!?」

「…ああ」
渋々といったように返事をする静雄

完全に納得したわけではないようだが、ひとまず落ち着かせることができたようである

「さぁ、時間を浪費してしまった
乗れ!!放送局へ急ぐぞ!!」

示される通りに助手席へ乗り込めば、蟇郡の運転でボロボロのオープンカーは走り始める
かくして、今度こそ衝突は必至であった筈の二人は一人の甘い嬌声によって再び道を同じくした

静雄は、老け顔の変態の大男と二人きりたぁうすら寒いな、と内心で愚痴をこぼした
それから、本当ならばこの車の後部座席に、小さくて怖がりなメイド服の少女が一人乗るかもしれなかったと考えて
犠牲者は俺だけで充分かもな、と遠くの空を見た

【E-4 T字路/朝】


【蟇郡苛@キルラキル】
[状態]:健康、顔に傷(処置済み、軽度)、左顔面に少しの腫れ
[服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放
[装備]:コシュタ・バワー@デュラララ!!(蟇郡苛の車の形)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
   黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル
[思考・行動]
基本方針:主催打倒。
   0:放送局に行き、外道を討ち、満艦飾を弔う。
   1:平和島静雄の手綱を握る
2:キャスター討伐後、衛宮切嗣から話を聞く
   3:皐月様、纏との合流を目指す。優先順位は皐月様>纏。
   4:針目縫には最大限警戒。

[備考]
※参戦時期は23話終了後からです
※主催者(繭)は異世界を移動する力があると考えています。
※折原臨也、風見雄二、天々座理世から知り合いについて聞きました。


【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:折原臨也およびテレビの男(キャスター)への強い怒り 衛宮切嗣への不信感
[服装]:バーテン服、グラサン
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:ボゼの仮面@咲-Saki- 全国編
         不明支給品0〜1(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:あの女(繭)を殺す
  0:テレビの男(キャスター)をブチのめす。そして臨也を殺す
  1:蟇郡と放送局を目指す
  2:犯人と確認できたら衛宮も殺す
  3:こいつ(蟇郡)、変態だったのか…

[周辺への影響]:
E-4エリアのT字路にて、平和島静雄がコシュタ・バワー@デュラララ!!を空高く放り投げました
近隣エリアにいれば、コシュタ・バワーを目撃できたかもしれません

544 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:58:23 ID:aRXx8lUc0
仮投下終了です
結構な距離を移動しましたが、車だったので一応時間は朝にしました
その辺りも含め、何かご意見ありましたら指摘お願いします

タイトルはちょっと迷ったんですが、「変態ではない!変身だ!」を考えています

545名無しさん:2015/12/08(火) 21:08:39 ID:utatR3Ck0
遅くなりましたが仮投下乙です
一つだけ気になったのは、コシュタ・バワーは形を自由に事が出来るのにボロボロのままなのは少しおかしいのではないかという点ですね
そこ以外には特に問題無いと思います

546名無しさん:2015/12/08(火) 21:11:06 ID:utatR3Ck0
重要なところが抜けてました
形を自由に変える事が出来るのに、です

547 ◆45MxoM2216:2015/12/08(火) 21:50:01 ID:nV/ZZI6.0
>>545
ご指摘ありがとうございます
本投下の際には修正しておきます

548One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:08:01 ID:reOR3keM0
─────どうして、あんなことを言っちゃったんだろう。

零してしまった言葉が、どうして亀裂を生んだのか。
その理由が分からないほど、彼女は馬鹿ではない。
周囲のことを全く考えず、自分勝手な言動を漏らして。
そのせいで、要らぬ亀裂を、要らぬ対立を招いてしまった。

思えば、遊月の時もそうだった。
自分の都合で酷い事を言って、相手に嫌な思いをさせてしまう。
ここに来てから、そんなことばっかりだった。
どうしてだろう。

だって私は、取り繕う事には慣れていた筈だったじゃない。

そうだ。
あの木組みの町で、自分は皆に嘘を吐きながら、その嘘を頼りにして皆と繋がっていた。
お嬢様である桐間紗路。
それが求められていたような気がしたから、頑張って期待に応えようとしていた。
そうすれば、ココアもチノも、リゼ先輩も、一緒にいてくれるから。

………ああ、でも。

嘘がバレたから、どうせもう、一緒には居られないのかな。

そんな事を、桐間紗路は考えていた。






放送が終わってから、大体数十分が経過した頃。
小湊るう子と桐間紗路は、未だに道路脇近辺にいた。

「………遅い、ですね」

そう。
三好夏凜、そしてアインハルト・ストラトス。
先程まで同行していた二人が、何時になってもやって来なかったのだ。
放送直後に起こった、小さないざこざ。
それが原因となって、一旦彼女達は二人ずつになっていた。
しかし、合流しない事には、先の和解も出来なければ
だからこそ、彼女達は此処で合流する為に待っていたのだが。
そして、その合流が出来ない事が、何よりの問題になっていた。
勿論、彼女達は待つだけだったのでは無い。
一度は先の場所に戻り、その周辺を探したりもしたが、結果は芳しく無く。
彼女達と逸れてしまった、という事実だけが、得られた唯一の情報だった。

「やっぱり、私達が東に行っちゃったと思ってるのかな……?」

そのシャロの呟きに、るう子は頷く。
恐らく、考えられるのはそれくらいだろう。
アインハルトはかなり取り乱しているようだったが、あの様子なら夏凜は禁止エリアについての文言は耳に入っているだろう。
そして、非力である二人だけで、危険人物も集まりやすいと思われる放送局に向かう可能性は小さいというのは、向こうも理解している筈。
そうなれば、残るは東。
市街地か、或いは研究所の方角に向かっただろう、と推測するのはそう難しくない。

「一回、東に向かった方が良さそうですね」

となれば、自然と結論はそうなる。
出しっ放しにしていたスクーターに跨るが、シャロは何やらまだ考えているようだった。

「どうしたんですか?」
「あー……、定晴は言う事聞くか分からないから、どうしようかなって」

るう子の質問にそう答えつつ、溜息を吐くシャロ。
先程までなら、四人で三つの乗り物に乗れた為に、万が一暴走しても無理矢理抑え込む事が出来ただろう。
だが、それが一つ減ってしまった今、るう子のスクーターだけでそれをするに少々荷が重いだろう。

「それじゃあ、二人乗りで行きましょうか?」

「るう子がいいならそれで良いけど………もう体調は大丈夫なの?」
「ええ、大分回復したのでいけそうです」

心配の言葉をかけられつつも、るう子は気丈な返事を返す。
事実、風邪薬の服用と休息によって、彼女の体調はほぼ平時と変わらないと言ってもいい程度に回復していた。
スクーターの運転も無理ではないだろうし、

「よし、行きましょう!」

549One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:10:49 ID:reOR3keM0
肉を叩く音。
上がる嬌声。

「………………えっ」
「………………えっ」

再び、肉を叩く音。
再び、上がる嬌声。

「………………えっ」
「………………えっ」

三度、肉を叩く音。
三度、上がる嬌声。

「「………………………………………えっ、えっ」」

そこで繰り広げられていた光景は、有り体に言えば異常だった。
バーテン服の男が、轟音と共に拳を振るえば。
半裸のようにも見える男が、甘い声を出す。
文字通り、『打てば響く』というものだ。
響いているのは、こう、聞いていると不安になるものなのだが。

「………ええっと、どうしましょう」

呟いた言葉はしかし、シャロはまだしも発言したるう子自身さえしっかりと認識していたか怪しい。

元は、進んでいた途中に空飛ぶ車を発見した事だった。
どう見てもまともな人間が出来る事ではないそれを見て、しかし彼女達も引くわけにはいかなかった。
というのも、放り投げられたのが恐らくE-4の交差点であるからだ。
ここから市街地に行くなら恐らく確実に通る場所だし、そうで無くともそこに夏凜やアインハルトがいる可能性が無い訳では無い。
それに、この付近にいるなら、危険人物としてやがて出会う可能性がある相手の姿を確認しておくのは悪手ではないだろう。
最悪の事態を想定し、いつでもスクーターが発進出来るようにした上で、シャロもパニッシャーを出す準備を整え。
道路から外れたところでそれを目に入れて─────そこから、今に至った。

シャロもるう子も、年頃の乙女だ。
一般人には当て嵌まらない性癖というものの存在は知っている。
特にるう子は、実際に弟に好意を向ける少女を知っている。
それらを偏見し差別する程、彼女達の価値観は固定されてはいない。
けれど。
男同士で、しかも道のど真ん中で、ここまでの有様を見せつけられれば、動けなくなるのも当然というものだろう。

永遠にも感じられるその時間が終わり、二人の男が何やら会話を始め。
そこで、漸く少女達も正気を取り戻した。

「る、るう子ちゃん!早く逃げるわよ!」
「は、─────」

はい、と答えようとして、るう子の動きが止まる。
その目線の先を追って、シャロもまた動きが止まる。

いつの間にか服を着て、車に乗り込んでいた「打たれる側」の男が。
しっかりと、こちらを見ていた。
勘違いか?
いや、ここはかなり開けた場所だ。背後に何かある訳でもなければ、相手と自分の間に何かがある訳でも無い。

そして。
相手がその右腕を上げた時、二人はしっかりと認識した。

あの男は、確かに私達二人を見ている、と。

「………い、いやあああああああああっっっっ!!!??」

アクセルをフルスロットル。
凄まじい唸りと共に、バイクが猛進を始める、
二人の女子は、全力で「変態と危険人物のコンビ」から逃走を始めた。

550One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:11:35 ID:reOR3keM0
「ちょ、ぅお、落ち、落ち、落ち!」

振り落とされそうになるシャロが慌ててパニッシャーを使い、しっかりと姿勢を固定する。
感じた事のない時速80キロオーバーの風圧に圧倒されながらも、逃げる事に全神経を費やす少女二人の脳内に「速度を下げる」という選択肢はない。

尤も、殺し合いという環境の中ではなかったとしても。
聞いているだけでその勢いがわかる轟音を響かせる程の拳を持つ相手を見ても野次馬に行くような事はしないし、道路のど真ん中で嬌声を上げる男はそもそもお近づきになりたい人間はそもそも稀だろう。
だから、その相手がこの殺し合い屈指の実力を誇り、且つ彼女たちと同じく主催の打倒を目指しているという事実をそこに見出すのは不可能だっただろう。

かくして。
暫く道なりに飛ばした彼女達が見たのは、旭丘分校へと続く坂。
問答無用とばかりに駆け上がり、その校庭の中心で一度停止する。

「………ま、撒いた………?」
「多分………」

その一言で、はあ、と二人が息を吐く。
何だったんだ。
二人の心中を占めるその疑問を、しかし二人共暗黙の内に思考の奥底に葬った。
それこそ、年頃の乙女と言うべき二人に手に負えるような問題ではないだろう、と感じ取ったからだ。
ともかく校舎の中に入りながら、空気を変える為にるう子が提案する。

「………と、とりあえず。
少しだけ休憩したら、また南下しましょう。
南からぐるっと回り込めば市街地に出れます。そこからなら、ラビットハウスが近いでしょう」

地図を見、パソコンを立ち上げながらそう指摘し、選択したルートを提示してみる。
途中までは同意していたシャロだったが、ラビットハウスという単語には少し肩を震わせ。
どうでしょうか、と目を向けたるう子に、彼女は心ここに在らず、といった雰囲気で言葉を零す。

「でも、夏凜とアインハルトには……」
「夏凜さんがスマホを持ってますから、多分伝わると思います」
「そ、そうね」

挙動不審。
明らかに、と言う程ではないが、かと言って隠し通しているとも言えない。

─────やっぱり、まだラビットハウスには……

彼女の事情は聞いている。
それに、もしかしたら先程彼女と口論になったという遊月が向かっている可能性もあるのだ。
どうしても足が遠のいてしまう、というものだって、当然あるだろう。
そんな風に思いながらも、るう子はチャットに文面を打ち込む。

『義輝と覇王へ。フルール・ド・ラパンとタマはティッピーの小屋へ』

無論、これは暗号だ。
フルール・ド・ラパンとはシャロ、タマがるう子、そしてティッピーの小屋がラビットハウスとなっている。
そして、義輝が夏凜、覇王がアインハルト。
各々の知り合いにも伝わる暗号という事で、それぞれが自分を指した言葉を代名詞としたのだ。
地名は殆ど暗号化出来なかった為に、ラビットハウスか映画館、その他いくつかくらいしか婉曲的に伝える事が出来る場所は無いが、まあ上々だろう。
このチャットにおける唯一の問題点は、東郷や風、晶、そしてウリスなど、「暗号が通じ、かつゲームに乗っているかその可能性がある参加者」だが、かといってそれらを恐れて使わないのは本末転倒にも程がある。
少なくとも、とにかく合流を急ぎたい今、使わない手は無いだろう。
そうして、彼女はその文面を送信した。

551One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:12:31 ID:reOR3keM0

「る、るう子、ああああれ!」

その直後、分校に声が響き渡る。
シャロの緊迫した叫び声に驚くと、窓の外を見ていたらしいシャロが半泣きになって訴えていた。

「あ、あああああいつらが来ちゃったわよ!?」

その一言で、るう子の表情も凍りつく。
この状況であいつらが誰を指すのかなど、今更言うまでもない。
先程のあの二人が、また追ってきたという事だ。
善人か悪人かはともかくとしても、やはり現状接するにはこちらに決め手が少ない。
辛うじて自衛に使える武器といえばパニッシャー程度だが、激しく動揺しているこの二人では使いこなせるかどうかは怪しい。
兎に角、現状をどうにかして打開しなければ。

「今すぐ出たら、流石にエンジン音で気付かれるわよね…」
「裏口までこっそり抜け出して、裏山に逃げ込みましょう」

恐らくは、それが一番の手だ。
顔を揃えて頷くと、息を潜めて静かに歩き出す。

「…………れは……………………だな………」
「……こと………………がる…………………」

僅かに聞こえてくる声から方向が分かるのが幸いとばかりに、二人はその反対方向へ歩を進める。
と。

「「────────ッッッッ!!?」」

木造校舎ならではの、重さに軋む床の音。
しっかりとした現代の学校に籍を置く二人が全く警戒していなかったそれが、想像以上の音を響かせる。
こうなっては、もう形振り構ってはいられない。
偶然開いていた窓から全力で飛び出し、そのまま校舎裏へ走る。
幸いすぐに追ってくるような影は見えないが、そういつまでも振り返っていられる訳でも無く。
全力で逃げる二人が、漸く見つけたものは─────

「………!こ、ここを使いましょう!」

校舎の裏山から伸びる、小さな小道。
舗装してあるという訳では無いが、余計な草は殆ど生えていない。
僅かな起伏に注意すれば、スクーターでも余裕で飛ばせるような道。

200メートル程で小さな小屋がある突き当たりに出て、そこから南方向へと続きそうな方へと曲がり更に進む。
やがて地面は獣道のようなそれへと変わっていったものの、分校からは結構な距離を置けた。

「……ふう、ひとまず安心ですね」

背後から迫る気配も無い事を確認し、再び落ち着きを取り戻す二人。
あの交差点の邂逅から、気付けばもうそこそこの時間が過ぎている。

「さっきみたいな速度だとキツイし、普通の速度で行きましょうか」
「そうですね、あれはもう勘弁です…」

思い出したように陰鬱な顔を揃えつつも、スクーターを発進させる。
宣言通り、先程よりは速度を落とした発進。
しかし、その数刻後、彼女達は再び自分の足で歩く事になっていた。

「やっぱりちょっとガタガタですね……どうします?」
「うーん……さっさとあの二人から離れたいけど、こうも地面がガタガタしてるとねえ。
定晴を出すって手もあるけど、どうしたものかしら」

ひとまずスクーターから降りて、歩きながら相談を始める。
道の様子─────決して運転出来ない訳ではないが、それなりのオフロードだ。
道幅も少々狭く、西側は崖とまでは言わないがそれなりに傾斜がある。もしスクーターの速度で落ちれば、ちょっとした怪我で済むかどうかは怪しいかもしれない。
どうしたものか。
ひとまずもう一度スクーターに跨り、るう子は何ともなしに空を見上げ─────その動きが、止まる。

552One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:14:10 ID:reOR3keM0

あの光は見間違いだろうか?
いや、あんな光を二度も、真紅の色違いも含めれば三度も見ておいて、今更こうも似た物を見続けるものか。

あの姿は見間違いだろうか?
いや、本来現実に有り得そうもないあんな浮世離れした姿を、ここで幻視する事に何の意味があるだろうか。

ならば、本来全く別の存在である筈の二つが一つとなっているのは、一体どういうことなのだろうか。

「………ウリス!?いや、東郷美森さん………!?」

だが、遅過ぎた。
るう子が気付き、シャロがその叫びに気付いてバイクに飛び乗って。
その時には既に、その手には銃があり。

疑問の叫びへの返答は、放たれた弾丸だった。

シャロが跨った直後に、スクーターのエンジンをフルスロットルにして─────しかし、間に合わない。
目の前の地面が爆ぜた音と、衝撃と共に襲ってきた浮遊感が、ほぼ同時に二人の少女を襲った。

「─────ッ!!」
「か、はっ」

声にならない悲鳴と、吐息にならない呼吸が、不協和音となって響いたかと思えば。
まるで鞠のように、るう子とシャロは地面へと叩きつけられた。
辛うじて二人とも崖下へと落下する事は避けられたが、それでもその身を動かす事が出来ない程の痛みが全身を覆っている。

「気分は………最悪、かしらね」

近付いてきた少女の声が、るう子の耳に入る。
激痛の中で顔を上げれば、そこにあるのは二重の意味で現実には有り得ない姿。

「ウリス……その、格好……」
「あら、もしかして貴女もこの格好を……『勇者』とやらを知っているのかしら?」

青白い装束を身に纏ったルリグ─────『ウリス』は、そう言って妖しくその表情を歪ませた。

「本当ならもっと話したい事もあるのだけれど、こっちも色々事情があるの」

その手に握る青白の銃を、るう子の眉間へと向けながら。





「さようなら、小湊るう子」

553One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:15:07 ID:reOR3keM0
数刻前の事。
辺りを望遠スコープで見渡しながら、ウリスは思考を重ねていた。

先程から、押している車椅子に乗った東郷美森との会話は無い。
無論、それだけなら特に何を思う事もない。
アナティ城から先程の狙撃まで、彼女との会話はほぼ無かったに等しいのだから。
仮初めの同盟関係を結んではいるが、その実互いに互いを利用する腹積もりなのは明確だ。
だが、会話が無いという事と、会話している余裕そのものが無いという事は大きな違いを持つ。
此処が獲物を喰い合うデスゲームの中であるから、尚更だ。

そして、この行動が敵からの逃避行である以上。
本来なら、今持っている全ての『荷物』を捨て去り、少しでもその身を軽くするべきなのだろう。
特に、『目立つ様な形状』をしている上に、『行動を大きく制限する』ようなものがあったら、そんなものは邪魔以外の何物でもない。

つまり、東郷美森という存在そのものが。
現状、ウリスにとっては最大の妨げになっていると言って差し支えないのだ。

だが、自分は今もこうやって車椅子を押している。

無論、どうしようもない様な時は遠慮無く放り出すだろう。
だが、そうでなければ捨てない程には、東郷美森には利用価値がある─────いや、利用しなければいけない理由がある。

(隠し事─────一体何を、腹の中に抱えているんでしょうね?)

自分が何かを企んでいる事は、恐らく向こうも承知の上だろう。
現に自分も、既に彼女に対する全くのデマを島中に撒き散らしているのだから。
そもそもこのバトルロワイアルの中で、ゲームに乗っている人間同士の同盟に、何の策謀も巡らせない方が間違っているだろう。
東郷美森は、そんな事をする馬鹿な人種には到底見えない。

(だったら、話さざるを得ない状況にさせる)

これは、恐らく「貸し」になる。
見捨てる事が出来るのに、見捨てずに共に逃げたという事実。
その代償として、知っている事を語らせる。

無論、向こうが嘘を吐く事も出来る。
適当な事を言って誤魔化す事も、或いは都合の悪い真実だけを隠す事も。
だが、そこから下手な亀裂が出来れば、そこで彼女は終わりだ。
この関係は「同盟」から「隷属」へと変わり、手札の無い彼女に打つ手は無くなる。
勿論彼女もそれを弁えているだろうから、何か策を打ってくる可能性はあるが。
─────尤も、どれもこれも今自分達に迫っているピンチを抜け出せたらの話だ。

と。
そこで、ウリスは発見する。

「─────朗報よ」

スコープの中に捉えた、スクーターで走る見覚えのある少女。
それを見たウリスは、小さくほくそ笑んだ。

554One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:17:59 ID:reOR3keM0





全身の鈍痛と、青白い幻想じみた少女が持つ銃。
それが、全てを告げていた。

(この、まま、じゃ)

死ぬ。
そんな現実を突き付けられて、しかし紗路の思考は落ち着いていた。

桐間紗路は、確かに一般人だった。
けれど、少しだけ。
少しだけ、一般人より「死」について学んだ。
だから、死がどのようなものか、ほんの少しだけ理解を深めていた。
それが彼女自身の失言のお陰だというのは、皮肉な話だが。
先程の、一言。
アインハルトと夏凜の友人の死を、結果的に自分は侵してしまった。

だから、考えた。
彼女なりに、死というモノについて。

そのお陰で彼女は、それを直前にして尚、ほんの少しだけ冷静さを失わずにいられた。

どうしようもない、破滅。
それが、死だ。

仮に、自分の言った何気無い一言が、他人の琴線に触れてしまっても。
仮に、自分の事でいっぱいいっぱいで、他人を慮る事が出来なくても。
仮に─────期待に無理に応えようとして、嘘を吐いていたのがバレても。
それくらいなら、関係が完全に失われたりしない。
精一杯謝って、修復出来るかもしれない。
またやり直して、また皆で笑い合える日が来るかもしれない。

死は、そんな一切の希望を踏み躙る。
何も伝えられない。
それが今、自分に迫っている。

(─────嫌だ)

それは、嫌だ。
もう二度と、皆と会えない。
ココアが作った暖かくて美味しいパンも、チノが淹れたコーヒー……は体質で飲めないけれど。
千夜が自信満々で見せてくる和菓子の変な名前も、リゼ先輩が見せるかっこいい姿と時折見える可愛さも。
全部、全部、壊れてしまう。
それは。

「………い、やぁっ!」

だから、彼女は叫んだ。
死にたくないという、ただ一つの、生きる者として当然の感情を。
けれど、それは決して諦念ではない。

諦めたくない。
死にたくない。
もっと、もっと─────生きたい。

だから、彼女は、立ち上がった。

パニッシャー。
魔法のデバイス。
それを握り締めて、彼女は─────

555One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:19:12 ID:reOR3keM0





─────すとん、と。

やけに綺麗な音が、やけにその場に響いた。
掠れた声で、え、と力無く言葉を発するるう子と。
驚きが収まり、ふ、と顔を歪ませるウリス。
胸─────心臓に生えた一本の矢を見下ろして、何も言う事が出来ないシャロと、そして。



すとん。



間髪入れず、二の矢をシャロの頭部へと命中させた東郷が。

その音を、静かに聞き届けていた。

―――――え?
―――――わた、し?

ゆっくりと頽れる自分の体が、やけに非現実じみていて。

滲み出る血が、何処か現実味の無い暖かさを伴って流れ出ていく。

―――――い、や。

「や、めて」

訴える。

目の前に迫る、死刑執行人に―――――ではなくて。

「わたしを、ひとりに」

それは、嘆願か贖罪か。
彼女が最期に見たものは、離れていく三人の姿で。

「しない、でぇ………」





―――――だってうさぎは、寂しいときっと死んでしまう。

【桐間紗路@ご注文はうさぎですか? 死亡】

556One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:20:10 ID:reOR3keM0
至近距離からの矢が、その頭部に突き刺さって。
助かる見込みがないなんて、もう誰の目にも明らかだった。

「─────しゃ、ろさああああああんっっ!!」

静寂を破ったのは、るう子の悲鳴だった。
それを愉快そうに眺めながら、ウリスは背後から近付いてくる東郷へと声を掛ける。

「ありがとう、助かったわ」
「………いえ、先程までの『借り』は返しましたから」

その台詞に、僅かにウリスが眉を顰める。
思惑がバレていた、というのは、想定の範囲内であっても気分が良いものではない。
それに、今回は看破された上でその想定を
あの怪物の事に気を取られていたとしても、やはり注意不足。
教訓を肝に銘じながら、表情を元のそれへと戻した。

「それで」
「分かってるわ」

転がっているスクーターを検分する。
凹んでいる部分があるのは仕方ないが、乗り物としては正常に起動してくれるようで。

「さて、随分とお待たせしちゃったわね?」

一方のウリスは、改めてるう子へと銃口を向けていた。
その目を涙に濡らしながら、尚も此方を睨んでくる彼女。
そんな彼女へと、ウリスは歪んだ笑顔を浮かべ。

「さよなら─────は、もう少し後みたいね」

え、とるう子が呟いた時には、彼女は首根っこを掴まれていた。
無理矢理立たせられた、と理解すると同時に、目に入ってきたのは─────

(さ、さっきの人達!?)
「貴様等─────」
「あら、変な事はしないのがこの子の為よ?」

飛び出しかけた二人を止めたのは。
こめかみに銃器を突きつけられた小湊るう子と、突きつけているウリスの姿。
単純にして強力な手段─────人質だ。

これには、男達─────静雄と蟇郡も、押し黙るしかない。
一歩間違えば、二人に抱えられた少女は死ぬ。
静雄ですら、怒りを極限まで抑え大人しく手を上げている。
これといって切れる札も存在しない二人には、ただそれしか出来なかった。
その間に、東郷が車椅子からスクーターへと移ると共にその操作を確かめる。
ウリスも油断無くその銃口を向け続け、二人の行動を抑えている。
それらを見る事しか出来ない自分に、蟇郡は腹を立てる。
少女二人を追ってここまで来たものの、その二人を見失い。
悲鳴を聞いて駆けつけた時には、既に手が出せぬ状況。
何という醜態だ、と思わずにはいられない。

と。

「…………東、郷さん、ウリスっっ……!」

ボロボロになったるう子が、小さく、だが蟇郡達にも聞こえる程度の声を発した。
本人は朧げな意識の中で呟いたその言葉は、しかしそれ以外の四人にはそうはならない言葉。
ウリスはともかくとしても、東郷という名はしっかりと名簿に刻まれている。
いや、そうでなくとも。
本名が明らかになった─────その事実が重要な事は、言わずもがなで。
だからこそ、そちらに全員の意識が動き。
その一瞬の間隙に、素早く蟇郡が行動を起こそうとする。
そして、ウリスもそれを迎え撃つように銃を構え。
新たなる戦端が、ここに開かれる─────筈だった。

557One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:21:16 ID:reOR3keM0
だが。
小湊るう子の言葉と、蟇郡の行動。
それは、東郷とウリスの警戒心を引き付けるに足りるもので。
だからこそ、二人はそれへの対処に追われてしまった。
だが、彼女達二人は正に一刻も早く動くべきだったのだ。
彼女達がバイクを欲したその大元の理由を、忘れるべきではなかったのだ。
それなのに。
彼女達は、その対応を一時的に忘れてしまっていた。
だからこそ。



怪物は、牙を剥く。



植物の枝や葉が薙ぎ倒される音が聞こえた、という時にはもう遅かった。
ウリスが思わず振り返った、その次の瞬間には─────電流が走るような音、そして青い障壁と共に、彼女の身体が吹き飛んでいた。
引き金が引かれ銃声が響くが、衝撃によりあらぬ方向を向いた銃口から放たれた弾丸はるう子を撃ち抜く事はなく。
結果として残ったのは、唐突な展開に驚きを隠せない東郷と、その場でただ立っていた蟇郡、静雄。
そして。

「─────弱い。が、手応えも無い」

彼等の中心に降り立った、怪物だった。




再び、時刻は巻き戻る。
ジャック・ハンマーは、ただひたすらに山を駆けていた。
時たま立ち止まり、獲物の位置を探るかのように鼻を鳴らす。
野性動物染みた行動だが、それは自己暗示のようなものだ。
今の彼は、人間の知性を持ちながら、野性の獰猛さを併せ持つハンター。
そんな自分を自覚し、ならばとそれを意識して動く。
そうしてひた走る彼の形相は、正しく怪物染みていた。

やがて、彼は一つの城に辿り着く。
アナティ城。
彼はその場所に辿り着き、されどその中には入らず背を向けた。

彼の獣のようなカンが告げていた。
これは、巣だ。
しかし、帰るべき巣という訳ではない。
恐らくは、あの少女たちは一定時間ここにいたが、現在はもう離れている。
僅かなズレに、しかし彼は動揺しない。
巣を当てられたのだから、その巣から逃げ出した獲物を捕らえるのは決して難しいとは思わない。
むしろ、巣を当てた自分ならば、敵を見つけるなど造作も無いだろう、と。

恐らく、この『寄り道』が無ければ、東郷とウリスはもっと早くに捕まっていただろう。
そういう意味では、彼は不幸であり、あの二人は幸運だった訳だが─────それはさておき。
ジャックは、再び鼻を鳴らす。
そうして、その足を向けるのは─────北。
再びその足を進め始めた彼は、正しく獲物を狩る肉食獣のようだった。

そして、数刻ののち。
彼は発見する。
何かに相対している、スクーターに跨った少女と、少女を抱えそのこめかみに銃口を向ける別の少女。
狙撃手は─────あの弾丸の性質から見ても、浮世離れした外見で銃を握る少女だろう。



怪物は、地を蹴った。

558One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:22:47 ID:reOR3keM0
反応が早かったのは、東郷だった。
目の前の怪物に構う事なく、スクーターでウリスとるう子の回収に向かう。
ジャックへの応対を後回しにしたのは、ウリスが恐れていたものがこれだと瞬時に理解したから。

そして、そんな彼女を─────ジャックは無視し、再びウリスへと迫る。

(─────これと並ぶ程に速い!?)

東郷は驚愕する。
彼女がいかに初めての運転で速度を落としているとはいえ、スクーターに並ぶ事が出来る生身の人間など存在するのか。
起き上がったウリスが、銃口を向け立て続けに弾丸を放つ。
だが、それらは大半が回避され、身体に届いたものも薄皮一枚を切り裂くに留まる。
馬鹿な─────東郷だけでなく、ウリスもそれに驚愕を隠せない。
確かに、ウリスの射撃スキルは決して高くない。
あくまで一般人の女子中学生の域を出ない彼女が銃撃に慣れている筈は無いのだから、それは致し方ないことだろう。
けれど、僅か数メートルの距離から放たれた弾丸を、こうも容易く連続で回避するのか。

―――――化け物

東郷の脳裏に、そんな言葉が脳裏をよぎる。
しかし、今はそんな事を考えている余裕は無い。
このままでは、ウリスは殺され、恐らくその次は非力かつ手近な自分かあのるう子という少女。
しかし、東郷は届かない。
ある一部分以外はあくまで一般的な体型の少女の域を出ず、またその下半身を全く活かせない彼女より、ジャックの方が早いのは道理だった。
一瞬の内に、ジャックの手がウリスへと伸び─────

「ぬ」

その身体ごと、押し返された。
かといって、ウリスが唐突に筋力を高めただとかそういう訳では無い。
至近処理からの、狙撃銃の生成。
それが二人の距離を無理矢理こじ開け、迫り来る敵から僅かに距離を置いた。

「手を!」

その、一瞬の間隙。
そこを突いて、東郷がウリスの手を握る。
手を引くと同時に、勇者の力を以てるう子を離さぬままスクーターの後部へと飛び乗る。
再びマフラーが爆音を吹き出して、三人を乗せたスクーターが遠ざかる。

─────逃さん。

勿論、喧嘩を売られた彼が、そうやって簡単に「勝ち逃げ」を逃す筈も無い。
すぐさまそれを追うために、走り出そうとした─────その瞬間。

「三つほど、聞きたい事がある」

ガシリと。
ジャックの左肩を力強く掴む、巨大な人影があった。
振り返って、彼はその男の体を確かめる。
自分をも上回る身長、金髪に濃い色の肌。その肉体も中々の鍛えようだ。
中々に戦い甲斐がある相手だ、と判断する。
先の少女達は力押しでどうとでもなる。今はこの男を倒し、カードを奪い、自らの力をより高めるべきだ。

「まず、一つ─────」

その言葉が巨漢から発された時には、彼はもう拳を放っていた。
ここからでも狙え、かつ人間の急所である鳩尾への一撃。
どんな人間だろうと、腹を抱え悶え苦しむような一撃。

「その服は、貴様が誰かから奪った物か?」

だが。
それ越しに、ジャックに伝わってきた感触は─────肉を打ち据える柔らかなそれでは無い。
まるで、何重にも鍛え上げた鋼を叩いたかのような硬いもの。

「沈黙は肯定と見なすぞ─────次の質問だ。
貴様がその服を奪った相手は、小柄な少女だったか?」

気付けば、彼の右手は。
巨漢の左腕に装着されたプロテクターのようなそれによって、完全に止められていた。
鉄や鋼の比では無い、圧倒的なまでに「硬い」というものを突き詰めたような感触だった。
ならば、と。
今度は身体を大きく捻り、プロテクターが存在しない顔面へと上段蹴りを放つ。

「最後の、質問だ」

今度のそれは、躱される。
いくら予備動作が大きいとはいえ、巨躯には似合わぬ素早い動作での回避。
面白そうだ─────そう感じ、更に数発の拳を打ち込む。

559One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:23:50 ID:reOR3keM0



「貴様は、その少女を─────殺したか?」

それも往なし、カウンターを放ってくる巨漢。
しかし、各分野での歴戦の強者達を下す彼に仕掛けるには些か安置。
油断無く躱し、本命の拳を顔面へと叩き込む。
既に両腕は打ち据えられ、ガードは間に合わない。
無防備になった頭部へと、凄まじい威力の拳が吸い込まれ。

「………沈黙は、肯定と見なすと言った筈だッッッッ!!!」

それでも、蟇郡苛は倒れなかった。
尚も立ち続ける彼を前に、ジャックは小さな疑問を覚える。
この男は、ここまで大きな男だったか、と。
その身から発せられる威圧感に、呑まれないまでも僅かに気圧される。

「満艦飾の仇、今ここで!貴様を打ち倒してくれるッッ!!」

蟇郡は、決して倒れない。
満艦飾マコの極制服を前に、彼は倒れる訳にはいかなくなった。
その目は激しい怒りを宿し、今にもその身体を弾丸のように放たんとする。
それに応えるように、ジャックもまた

「………つまり」

だが。
ジャックへと投げ付けられた車椅子が、二人の激突を妨げる。

「テメェはもう、誰かを殺したって事だよなぁ…………?」

二人が驚いて振り向けば。
そこには、一匹の「化け物」がいた。

「だったらよぉ……………………殺されても文句は言えねぇよなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」

平和島静雄という、怒りに燃える化け物が。
その存在にジャックが対応するよりも早く、彼は先程と同じように、コシュタ・バワーをぶん投げた。
自動車の形をしたそれを、ジャックは受け止めようとし─────反対に、弾き飛ばされる。
ジャックとぶつかって戻ってきたコシュタ・バワーだけが小道に残り、吹き飛んだジャックを追うように静雄も駆けて行く。

「くっ…!!」

蟇郡が僅かに逡巡する。
奇しくも、自分より怒りを見せている静雄のお陰で冷静さを取り戻した彼は、それでも逸る鼓動を抑えながら思考を纏めた。
まず、あの少女達─────どう考えても危険だ。
人質と称されたもう一人の少女の身も危ない以上、迅速な対処が求められる。

そして、今現れた男。
平和島静雄のように、現実を超越したレベルではないにしろ、あの男の筋力は並大抵のものではない。
それに、満艦飾の仇だとするならば。
蟇郡苛という一人の個人としては、決して許してはいけない存在である。

(放送局も気になるが、すぐそこにいる殺人者を逃していいものか─────断じて否!)

車での一撃で吹っ飛んだのを見るに、単純なパワーなら静雄が上回っているであろう以上、あの男は彼に任せてもそこまでの問題にはなるまい。
どちらかと言えば、負傷しているとはいえ何らかの力と人質を持っているあの少女達の方が厄介だ。
先に対処すべきは彼女達―――――しかし、そこで何も考えず特攻するような真似はする筈もない。
蟇郡とて馬鹿ではない。このまま孤軍で特攻しても、また同じように人質を盾にされるのは目に見えている。
となれば、選ぶべき行動は一つ。
この付近で、同じように殺し合いに反抗している誰かを探す。
しかし、遠くに逃げられては堪らない。
遅くとも正午の放送が始まるまでには、あの少女を奪還せねばなるまい。
つまり、こうだ。
協力者を探しながら付近のエリアを移動し、仲間が見つからず放送の数十分前になってしまった場合は単独でも行動を開始。
それが、今の蟇郡苛に出来る最善だろう。
そうと決まれば、と急いで車へと乗り込みかけて、一度それを取り止める。
小走りで死体へと駆け寄り、丁寧に担ぎ上げて後部座席へと寝かせる。
そこで、蟇郡はふと気付く。
彼女の制服が、ゲームセンターで出会った天々座理世と同じものだと。
それに、そうだとすればチノの証言とも一致する。

「……すまない、桐間紗路。後になってしまうが、必ず然るべき形で弔おう」

一瞬の、空白の後に。
そう呟いて、改めて蟇郡は車を走らせた。

560One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:25:04 ID:reOR3keM0



「今回は、貴女に随分と助けられたわね」
「…少なくとも、先程逃げる時の分のお礼はお返し出来たかと」

スクーターに乗り、南西へと向かう三人。
るう子は先程ウリスと共に吹き飛ばされた時にはもう気絶しており、未だ目覚める気配は無い。
目指すのは、最も近く、且つ東郷が一度訪ねて勝手が分かっている温泉。
彼女が乗り捨てた車椅子も、貸し出しサービスと称してそこそこの数の予備が存在しているのは確認済みだ。
ひとまずはそこで休息を挟み、改めて市街地か、或いは西の放送局を目指す。
先の男達に追われている可能性がある為に、そこまで長居は出来ないが。
少なくとも、先の狙撃から始まった一連の危機は脱したと見ていいだろう。
けれど、東郷の心は決して晴れてはいなかった。

『私を、一人にしないでぇ………』

先程自分が殺した少女の、最期の言葉。
それが、ずっと彼女の心に突き刺さっている。



東郷美森には、小さな欺瞞がある。

無論、勇者部の仲間を終わりのない地獄から抜け出させる、というのも、彼女の偽らざる本心である。
けれど、彼女を動かしているのは、決してそれだけではない。
乃木園子。
東郷美森が、まだ鷲尾須美と呼ばれていた頃の友人の存在。
彼女と接した事で、東郷は気付いてしまった。

どんなに固く誓った約束も。
どんなに強く願った祈りも。
どんなに強い絆で結ばれた、友達さえも。
華が散れば、それは全て「無かった事」になってしまう。

それが、東郷美森が世界を壊すもう一つの理由。
もう、忘れたくない。
もう、忘れられたくない。
全てが忘却の彼方に消え去るくらいなら、せめて優しい記憶の中で眠ってしまいたい。
だから、東郷美森は他でもない「世界の破滅」を願った。

(─────余計な事を考えている暇は、無いわね)

果たして、それに彼女自身が気付いているのかどうかは分からない。
けれど少なくとも、シャロの最期の言葉と自分の願いが重なったのは事実で。
意識的にか、はたまた無意識的にか、その言葉は東郷の思考に僅かな澱を残した。

その澱がどうなるか─────それは、未だ分かりはしない。

【G-4/道路/一日目・午前】
【東郷美森@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、両脚と記憶の一部と左耳が『散華』、満開ゲージ:4
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:弓矢(現地調達)、黒のスクーター@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(17/20)、青カード(17/20)、定晴@銀魂、不明支給品0〜1(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いに勝ち残り、神樹を滅ぼし勇者部の皆を解放する
     0:無駄な事を、考えている暇は………
     1:南東の市街地に行って、参加者を「確実に」殺していく。
     2:友奈ちゃんたちのことは……考えない。
     3:浦添伊緒奈を利用する。
     4:ただし、彼女を『切る』際のことも考えておかねばならない。
[備考]
※参戦時期は10話時点です

561One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:26:25 ID:reOR3keM0
【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】  
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(中)
[服装]:いつもの黒スーツ
[装備]:ナイフ(現地調達)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)      
     黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?
     ボールペン@selector infected WIXOSS
     レーザーポインター@現実
     東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[思考・行動]
基本方針:参加者たちの心を壊して勝ち残る。
     0:温泉で休息。
     1:東郷美森、及び小湊るう子を利用する。
     2:使える手札を集める。様子を見て壊す。
     3:"負の感情”を持った者は優先的に壊す。
     4:使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。    
     5:蒼井晶たちがどうなろうと知ったことではない。
     6:出来れば力を使いこなせるようにしておきたい。
     7:それまでは出来る限り、弱者相手の戦闘か狙撃による殺害を心がける
[備考]
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという嘘をチャットに流しました。
※変身した際はルリグの姿になります。その際、東郷のスマホに依存してカラーリングが青みがかっています。

【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:全身にダメージ(大)、左腕にヒビ、微熱(服薬済み)、魔力消費(微?)、体力消費(大)、気絶
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
[装備]:黒のヘルメット着用
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(8/10)
    黒カード:チタン鉱製の腹巻@キルラキル、風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?
         ノートパソコン(セットアップ完了、バッテリー残量ほぼ0%)、宮永咲の不明支給品0〜2枚 (すべて確認済)
     宮永咲の白カード
 [思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
   0:…………………………
   1:シャロさん………
   2:ウリスと東郷さんに対処したい。
   3:遊月、晶さんのことが気がかり。
   4:魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
   5:ノートパソコンのバッテリーを落ち着ける場所で充電したい。


周囲より比較的開けた、広場のような場所。
そこが、平和島静雄とジャック・ハンマーの第二ラウンドのリングだった。
だが、それは早くも─────一方的な様相を呈していた。

静雄が振るう竹を、辛うじてジャックが回避する。
その隙を突いて接近した静雄が、竹を踏み割りつつ拳を叩き込もうとし。
紙一重でそれを受け流し、しかし次の一撃にその身を引かざるを得なくなる。
平和島静雄の優勢は、誰が見ても明らかだった。

ある意味では、当然。
ジャックも静雄も、先のコンディションから大きな変化を経てはいない。
寧ろ、ジャックは山を越える走りを見せた事で若干の疲労があると言ってもいい状態。
そんな状態での再戦が、先の結果と何ら変わるはずが無かった。

562One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:27:41 ID:reOR3keM0
そして、何時しかジャックは追い込まれていた。
崖っぷち。
それに気が付いたのと時を同じくして、静雄の拳が彼へと迫っていた。

一瞬、気付くのが遅れ。
回避が、間に合わず。
反射的に両腕をクロスさせるが、それで守れるような拳ではないのはジャックにも分かっていた。

落ちる。
その瞬間、ジャックはそう思った。
そこに余計な思考は無く、ただ純粋に生物としての直感がそう彼の全身へと伝えていた。
極限状態。
全身の機能が、そう悟った。

無論、そんなことで何かの異能が彼に宿る訳ではない。
あくまでジャックの力はその肉体に起因するものであり、それに魔術や異形といったモノは何ら関係していない。
けれど。
そんなものに頼らなければ強くなれないのか。
そんなものでしか、強さを得る事は出来ないのか。

否。
人間の身体の限界は、更なるその先の力をまだ引き出して余りある。

両腕をクロスさせた、渾身のガード。
ジャックのそれは、平和島静雄の拳を「受け止めていた」。

「お……?」

静雄の動きが、一瞬だけ停止する。
先程までなら、今の拳はこの男をガードごと吹き飛ばしていた筈だ。
しかし、そうはならず、男は崖下には落ちずに留まっている。

─────何だ?

余計な思考が、ノイズとして静雄の頭を満たす怒りを過ぎった。
その一瞬を突いて、ジャックが反撃に出る。
至近距離からの拳を左腕で受け止め、そのまま伸びた腕を掴もうとするが―――――その行動が、一瞬遅れた。
静雄の伸ばした左手は空を切り、一方のジャックは再び拳を放たんとする。
その時には、二人共理解が追いつきかけていた。

─────力が、上がっている。

二人の拳が再び、正面からぶつかり合い。
そして、そのまま『静止した』。
これが先程までなら、ジャックの右手は弾き飛ばされ、静雄による更なる一撃に防戦一方になっていただろう。
なのに、そうはならなかった─────ジャック・ハンマーの強さが、僅かながら平和島静雄へと通じていた。




平和島静雄という人間の、強さの秘密。
それは偏に、彼が生来「常に火事場の馬鹿力を発揮出来た」というスキルの恩恵に他ならない。
火事場の馬鹿力とは、人間工学的にも証明されている歴とした人間の身体のシステムの一つだ。

人間が異常や危機を感知した時、脳がそのストッパーを解除し、危機から逃れる為に全力を尽くす事を求める。
これを、静雄は「怒り」というスイッチのみで発動させる事が出来た。
だからこそ、どんなに鍛えた格闘家であろうとも。
平常時での単純な力比べをした時、きっと彼の前に立つ者はいないだろう。

だが、それは裏を返せば。
平常時の彼と同等か、或いはそれ以上の力を持つ存在が、「火事場の馬鹿力」を発揮したならば。
理論上、彼を上回る事は可能である、ということだ。

勿論これは、書いてある程に容易い事ではない。
火事場の馬鹿力を発揮する身体に耐え切る為に、平和島静雄の肉体はかの闇医者に「人間一代の中での進化」とまで言わしめる程の成長を遂げている。
既に人間を殆ど超越している彼の肉体と「同等の力の発揮」するなど、それこそ人間の限界そのものを超越している必要があるだろう。

そして、ジャック・ハンマーは。
その、人間の限界を超越している類の人間だった。
数多のドーピングや手術によって生まれたその肉体を、一日30時間という矛盾を乗り越え明日をも知らぬトレーニングで育て上げた彼が、生命繊維で編まれた極制服により更なる強化を施されている今。
「怒っていない平和島静雄」と、素の力が並んでいてもおかしくはない。

563One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:29:17 ID:reOR3keM0




─────いや、それでも、まだ。

「だったら…………なんだってんだあああぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」

今の平和島静雄には、届かない。
越谷小鞠の死、キャスターの放送、そして名も知らぬ少女の死体と、同じ少女を人質にする卑怯な少女。
それら全ての怒りが内包された今の平和島静雄は─────計り知れない程の馬鹿力を引き出している。
ジャックの顔面に、渾身の右アッパーが突き刺さる。
筋肉の鎧を突き抜ける、全てを破壊するような衝撃。
もろにそれを喰らった肉体が、上空数メートルまで吹き飛ばされる。
後方に大きく吹っ飛び、しかしそれでも立っているジャックへと。

「人の左腕食ってくれるたぁいい度胸してんじゃあねーか………」

池袋に神社が存在する鬼子母神のような表情を浮かべながら、静雄はゆっくりと歩みを進める。

─────まだ、足りないか。

そこで、ふと冷静になったジャック・ハンマーは悟った。
冷静になった事で、今の爆発的な力の奔流が無くなった事。
同時に、纏う服の力が失われた事。
それらが無ければ、目の前の存在に立ち向かうのは不可能だ、という判断が下る。

─────口惜しいが、戦うべきは決して今ではない。

不意に、ジャックから静雄へと何かが投げつけられる。
それをいとも容易く払いのけ─────砕けた瓶から飛び出してきた気色の悪い蟲に、静雄は僅かに眉を顰める。
けれど、それも一瞬。
迫り来る蟲も簡単に叩き落とし、こんなものを投げつけやがってよし殺す、と静雄が前を見ると。
ジャックは既に、彼に背を向けて走り始めていた。

「何………逃げてんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

勿論、それを見逃す静雄ではない。
弾丸のように地を蹴った彼の身体が、凄まじい速度でジャックの背中へと迫る。
逃走するジャック。
追い掛ける静雄。
森を駆け抜ける二人の鬼ごっこは、暫く続き。
その進行方向上に、ふと二人分の人影が現れる。
遠目にも分かる、黒いコートに身を包んだ青年の姿。
そして、良く見えないが、恐らくは成人女性のような姿。
二人の影を見て、ジャックは思考する。
使えるな、と。

あの程度の女ならば、先の自分にも簡単に投げつける事が出来る。
人間という弾が突然飛来して、驚かない人間はそうはいまい。
いや、仮に平和島静雄が驚かないような特異な側の人間だったとしても、それで不意を突ければそれでいいのだ。
更に男の方も蹴り飛ばしてやれば、あの男と言えどもたたらを踏む筈。
その隙に、傍にあるそこそこ流れが速い渓流から一気に下ってしまえばいい。

そこまで思考したところで─────ジャックは、自分の頭が何かに掴まれるのを感じた。

564One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:31:05 ID:reOR3keM0
─────ジャック・ハンマーがそれを知らないのは、当然の事だっただろう。
彼は知らない。
平和島静雄が、どんな生活を送り、どんな人間関係を築いてきたのかを
彼は知らない。
平和島静雄が、最も嫌っている人間の名を。

驚愕する。
先程まで、恐らくは十メートル程の距離があった筈なのに。
まさか、平和島静雄とは
そして、次の瞬間─────身体を包む浮遊感に、ジャックは静雄の意図を理解する。
まさに今、自分もそれをしようとしていたのだから。
成る程確かに、自販機を軽々と放り投げる彼の膂力ならばそれも可能だろう。
だが、とジャックは考え直す。
そうまでして、平和島静雄は何がしたいのか。
或いは、あの二人のどちらかが、彼にとって因縁のある相手なのか。
だとしたら、それは果たしてどんな人間なのか─────

彼の考察は、正解だった。
キャスターへの怒りも、衛宮切嗣への怒りも、東郷美森への怒りも、今目の前にいたジャックへの怒りさえも。
平和島静雄から、その人間への怒りには到底敵いやしない。
いや、違う。
それまでの怒りが、その姿を見た瞬間に全てその相手への怒りへと変換されたのだ。
ジャック・ハンマーが知り得なかった、平和島静雄の因縁の相手。
その名は─────

「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」

最早天をも割らんと響く咆哮と共に、ジャックの身体が宙に浮く。
100キロを超えるジャックの肉体が軽々と振りかぶられ、そのまま野球のボールのように投げられる。
筋骨隆々の大男が一見普通の細身の男に投げられるその姿は、平和島静雄を知らぬ者には到底信じられぬ光景。
そして、それはあまりに正確に過ぎるコントロールで、黒コートの男へと迫る。
退避する少女も、ジャック自身も、男がぶつかって悲惨な事になる光景を幻視した。
けれど。
男は、たった今『イザヤ』と呼ばれた青年は。
それを、あろうことか、数歩歩いただけで回避した。
何にも命中する事なく空中を飛行するジャックは、図らずも当初の予定通り渓流へと落下し。
そして、図らずも彼の思い通り、静雄がそれを追う事も無かった。
尤も、その理由までは彼の思い通りにはならなかったのだが。

落とされるか自分から入るか、という差異はあれど、結果的に渓流に入ったジャックはそのまま川の流れに従って逃走を果たした。
渓流の先、水が地下へと流れる最下流で、彼は起き上がる。
案の定とでも言うべきか、近くには平和島静雄の姿も先程の男女の姿も見えない。

ふむ、と一息吐き、現在地を確認する。
G-4、その南東の端に自分はいるらしい。

ここから西に行けば、平和島静雄との再会は難しくない。
だが、今は休息だ。
服の力や、先の溢れんばかりの力。
その代償か、残る体力は少なく、両腕も決して良い状態とは言えない。
だが、あれらを行使出来なければ、あの男には─────ひいては、その先にいる範馬勇次郎に勝てはしない。
自分の本領を完全に出し切り、その先の勝利を掴む為にも。
ジャック・ハンマーは、束の間の休息を得る。

【G-4/エリア南東端/一日目・昼】
【ジャック・ハンマー@グラップラー刃牙】
[状態]:疲労(大)、頭部にダメージ(小)、腹部にダメージ(中)、服が濡れている
[服装]:ラフ
[装備]:喧嘩部特化型二つ星極制服
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
     黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:優勝し、勇次郎を蘇生させて闘う。
   0:一時休息。
   1:人が集まりそうな施設に出向き、出会った人間を殺害し、カードを奪う。
   2:平和島静雄との再戦は最後。
[備考]
※参戦時期は北極熊を倒して最大トーナメントに向かった直後。
※喧嘩部特化型二つ星極制服は制限により燃費が悪化しています。
 戦闘になった場合補給無しだと数分が限度だと思われます。

565One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:32:48 ID:reOR3keM0



「全く、こんな状況で数少ない知り合いに人間を投げつけるなんて、本当に俺の事が嫌いで嫌いで堪らないんだねえ─────シズちゃん」
「ったりめぇだろうが…………いぃぃぃぃざぁぁぁぁやぁぁぁぁ……………」

飄々と語る臨也と、烈火のように
対象的な二人の間に流れる空気は、一見して剣呑だと読み取れるものだった。
そんな空気に相応しく、相当の威圧感を佇まいから生み出している静雄。
そして、そんな彼の威圧感など何処吹く風と言うようにいつも通りに振る舞う臨也。
両者の緊張が、あっという間にピークへと達しそうになり。

「何をしている、折原に平和島!」

と。
その一触即発の空気に、巨大な声が割り込んだ。
聞き覚えの無い声ならば無視もしただろうが、生憎それは二人にとって初めて聞く声では無かった。

「おやおや、蟇郡さんじゃあないですか」
「テメェ、蟇郡……」

温泉へと乗り込む仲間を探す、蟇郡苛。
その目的を果たす為にひとまず静雄とも合流を図ろうとした彼だが、それでもこの空気には驚く他無い。
彼が出会った、殺し合いに乗った参加者はまだあの筋骨隆々の大男だけだが。
たとえこの後にどんな敵が現れようと、ここまで剣呑な雰囲気になるのは無いだろうと断言出来るほどに、その空気は凄まじいものだった。
臨也の静雄に対する物言いや、静雄から臨也への暴言の数々から察してはいたが。
それでも、ここで初めて蟇郡苛は理解する。
折原臨也と平和島静雄。
池袋の町で何度もぶつかり合った二人は、ここに再会し。
そして、こんな殺し合いの中でさえ。
彼等は決して相容れないし、互いに互いを否定して『殺し合う』という事を。

「が─────今はその時ではない!」

けれど。
如何なる因縁があろうと、今目指すべきは主催の打倒。
たとえどのような因縁があろうと、皆が生き残り元の世界へと帰るならば、潰しあっている場合ではない。
この二人が、「相手は絶対に殺してから帰る」と誓っているような人間だとは知らぬままに、彼は一人決意を固める。

「貴様等にどのような因縁があるかは知らん!だが、この状況で争うのは愚策!因縁の清算は後回しにして、先ずはこの場にいる悪意を持つ連中を断たねばならん!」
「悪意を持つってんならよぉ……まずはこのノミ蟲野郎をぶっ飛ばすべきだろうがよぉ………!?」

無論、冷静な臨也はまだしも、静雄が引き下がる筈は無い。
く、と蟇郡は歯噛みする。
死者を利用するようなこの言葉は使いたく無かったが、仕方がない。
そうでもしなければ、この男は再び助けられる物を見捨てる事になる。
そんな事は、決してさせる訳にはいかないのだから。

「平和島、先の少女はまだ生きている。それを下らぬ因縁などで放り投げ─────」






蟇郡苛がそれを知り得なかったのは、やはり仕方が無いことだった。
彼は放送後、ラビットハウスに戻る事無く放送局へと向かったのだから。
そんな彼に、折原臨也がどうしてここに居るのかという、その理由を推察しろと言うのは、酷だっただろう。
だから、蟇郡は叫んでしまった。

「越谷小鞠の惨劇を、繰り返すというのか!?」

566One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:34:44 ID:reOR3keM0


折原臨也は思考する。

(まあ、正直今シズちゃんに構ってる暇はないよねぇ)

蟇郡も「彼女」もいる現状、ここで静雄に対して何かをするには蟇郡の目が問題だ。
本来ならばそれでも何らかの策を講じただろうが、こと今に限ってはそれよりも優先したい事がある。
臨也は心の中でほくそ笑む。
今、自分の目の前にある状況を。
とてもとても楽しい、最高の「人間観察」の機会を。
それをモノにする為に、臨也はその口を開いた。

「蟇郡先輩の言う通りだよ。ここで俺を殺せば、君は多分誰からの信用も無くすよ?
それに、今は俺より先に─────君に話がある子がいるからね」

それは静雄にとって、いつもの煙に巻く発言の一環だと思っていた。
その少女というのも、大方池袋で侍らせているような狂信者の類いだろうと。
それには騙されないとでも言うように、一歩一歩臨也へと歩を進め。

「越谷小鞠ちゃんの後輩、一条蛍ちゃんがね」

だが。
その一言で、彼の思考が急速に冷えていく。

コシガヤコマリ。
ソノコウハイ。
イチジョウホタル。

それらのワードが、平和島静雄の中で繋がると同時に。

「平和島、静雄さんですか」

彼へと、声がかけられた。

一条蛍は怖かった。
今、目の前で臨也に向かって人間を投げつけたこの男が。
彼の前評判通りの危険な男だと、心からそう思った。

「答えて、答えて下さい」

けれど、蟇郡の言葉が本当なら、彼は本当に知っている事になる。
越谷小鞠の死の真相を、彼は知っているという事になる。

「小鞠先輩を、殺したのは」

ならば、聞かなければならない。

「あなたなんですか?」

越谷小鞠の後輩である、『被害者遺族』一条蛍として。

「─────小鞠先輩は、誰が殺したんですか!」

『容疑者』平和島静雄へと。

【G-4/南部/一日目・昼】
【蟇郡苛@キルラキル】
[状態]:健康、顔に傷(処置済み、軽度)、左顔面に少しの腫れ
[服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放
[装備]:コシュタ・バワー@デュラララ!!(蟇郡苛の車の形)、パニッシャー@魔法少女リリカルなのはvivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
   黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル、桐間紗路の白カード
[思考・行動]
基本方針:主催打倒。
   0:な、一条………!?
   1:この場にいる仲間と共に、温泉の敵を打倒する。
   2:放送局に行き、外道を討ち、満艦飾を弔う。
   3:平和島静雄と折原臨也の激突を阻止。
   4:キャスター討伐後、衛宮切嗣から話を聞く
   5:皐月様、纏との合流を目指す。優先順位は皐月様>纏。
   6:針目縫には最大限警戒。
   7:分校にあった死体と桐間の死体はきちんと埋葬したい。
[備考]
※参戦時期は23話終了後からです
※主催者(繭)は異世界を移動する力があると考えています。
※折原臨也、風見雄二、天々座理世から知り合いについて聞きました。
※桐間紗路の死体はコシュタ・バワーに置かれています。

【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:折原臨也、テレビの男(キャスター)、少女達(東郷美森、浦添伊緒奈)への強い怒り 衛宮切嗣への不信感 若干の疲労
[服装]:バーテン服、グラサン
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:ボゼの仮面@咲-Saki- 全国編
         不明支給品0〜1(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:あの女(繭)を殺す
  0:コマリの………?
  1:テレビの男(キャスター)とあの女ども(東郷、ウリス)をブチのめす。そして臨也を殺す
  2:蟇郡と放送局を目指す
  3:犯人と確認できたら衛宮も殺す

567One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:35:37 ID:reOR3keM0
【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:ナイフ(コートの隠しポケットの中) スマートフォン@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
    黒カード:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:生存優先。人間観察。
    0:さて、面白くなってきたねえ。
    1:ひとまず目の前の状況をまとめる。シズちゃんは……どうしよう。
    2:2人で旭丘分校へ向かう。……予定だったけど、どうなるかな?
    3:衛宮切嗣と協力し、シズちゃんを殺す。
    4:空条承太郎君に衛宮切嗣さん、面白い『人間』たちだなあ。
    5:DIOは潰さないとね。人間はみんな、俺のものなんだから。
[備考]
※空条承太郎、一条蛍、風見雄二、天々座理世、香風智乃と情報交換しました。
※主催者(繭)は異世界および時間を移動する力があると考えています。
※スマートフォン内の『遺書』は今後編集される可能性があります。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という推理(大嘘)をしました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。

【一条蛍@のんのんびより】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:フルール・ド・ラパンの制服@ご注文はうさぎですか?、カッターナイフ@グリザイアの果実シリーズ、ジャスタウェイ×2@銀魂、越谷小鞠の白カード
[思考・行動]
基本方針:れんちゃんと合流したいです。
   0:答えて………!!
   1:旭丘分校を目指す。
   2:折原さんを、信じてもいいのかも……。
   3:午後6時までにラビットハウスに戻る。
[備考]
※空条承太郎、香風智乃、折原臨也、風見雄二、天々座理世、衛宮切嗣と情報交換しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。

568 ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:40:11 ID:reOR3keM0
仮投下を終了します。
あと、>>548の下から3行目について、途中で抜けていたみたいなので。正しくは、

スクーターの運転だって無理ではないだろうし、二人乗りでも問題はないだろう。

です

569 ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:52:41 ID:reOR3keM0
すいません、他にも幾つか抜けと消し忘れがあったので

>>564
まさか、平和島静雄とは
の部分は削除、

>>565
飄々と語る臨也と、烈火のように

飄々と語る臨也と、烈火のように猛り狂う静雄。

ですね
本投下の際は修正しておきます

570名無しさん:2016/01/09(土) 01:13:33 ID:Yj.5Eu1k0
投下乙です
シャロちゃん・・・遊月にも夏凜ハルトにもチノたちにも謝ること叶わずか
そして勇者をやめた(?)東郷さんはキル数1位に

一つ指摘ですが、
>そこで、蟇郡はふと気付く。
>彼女の制服が、ゲームセンターで出会った天々座理世と同じものだと。
>それに、そうだとすればチノの証言とも一致する。

リゼちゃんはグリザイア出典のメイド服を着用、シャロちゃんは普段着ですのでここは矛盾するかと

571 ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 23:12:21 ID:reOR3keM0
>>570
指摘ありがとうございます。
該当部分等を修正した上で、明日中には本投下したいと思います。

572 ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:28:25 ID:XANdSxh60
仮投下します

573あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:29:33 ID:XANdSxh60


M:『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』

Y:『私、結城友奈は放送局に向かっています!』

R:『義輝と覇王へ。フルール・ド・ラパンとタマはティッピーの小屋へ』


「……」

――『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』
――『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』
――『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』

――『M』


「………………」


*  *  *

574あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:30:20 ID:XANdSxh60


「ぅ……ん……?」

右目を照らす眩しい光で覚醒した少女は、まず自分が仰向けに寝かされていること、そして両手両足を縛られていることに気が付いた。口は……塞がれて居ない。
次に判ったのは、ここが畳の上だということ。
最後に視認したのは……東郷美森と、浦添伊緒奈――ウリスが同じ空間にいたこと。

「おはよう、小湊るう子」

ウリスの手には、レーザーポインターが握られている。
そうか、私は――。

「迂闊に叫んだりすると、殺しはしないけど痛い目を見るわよ」
「……二、三、質問があります」

ため息を吐いた東郷が、ウリスに代わって話し始めた。
車椅子の彼女はその膝にノートパソコンをのせていた。恐らく、持っていたカードは全て奪われたのだろう。
腹巻だけは見逃してくれたようだが、時間の問題かも知れない。

「あなたがチャットに書き込んでいたと思われる内容について、詳しく聞かせてもらいます。
それも含めて、ここまでの動向を全て。答えない場合や嘘を吐いた場合は――」
「あまり好きじゃないけど、手足に刺したっていいのよ」

とっくに乾いている血の付いたボールペン片手に、ウリスが笑う。
どう考えてもこれは質問ではなくて尋問、いや拷問なのだが、打つ手の無い今、素直に答えるのが懸命だろう。
二人を刺激しないよう、るう子は慎重に話した。

神社を出たあとは、“フルール・ド・ラパン”つまり先程亡くなった桐間紗路と遭遇、続いて“義輝”三好夏凜、“覇王”アインハルト・ストラトスと合流。
わけあって一旦二組に別れた後、なかなか戻って来ない二人のために流したチャットの文章。
“ティッピーの巣”は、ラビットハウスのこと。

「残る“タマ”はるう子。成る程、考えたじゃない」
「あなたは黙っていてください。では、その方たちと交換した情報も話せるだけ話してもらいます。
最低限……私のことについてどこまで話したか」

やはり踏み込んできたか。
ウリスとはともかく、るう子と東郷はこれが初対面ではない。

殺し合いが始まってすぐのこと。
宮永咲を殺害し、るう子をも殺そうとして、……いつの間にか姿を消していた、あの出来事。
彼女は間違いなく殺し合いに乗っている。
どういうわけか“あの”ウリスと共に行動しているのだ。同じ目的同士、手を組んだのだろうか。
そんな東郷にとって、『車椅子の少女に殺されそうになった』という情報を広められるのは大きな痛手だろう。

「――つまり、三好夏凜を通じて私が殺人を犯したという話が彼女とアインハルト・ストラトスに今も伝わっている。間違いはないですね」
「……はい」

事実、その情報は伝播した。
彼女の知り合いと出会えたのは本当にただの偶然なのだが、本人にとっては不都合であるに違いない。

575あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:31:49 ID:XANdSxh60
「じゃあ、さっさとそいつらも始末した方があなたの身のためなんじゃないかしら」
「……考えておきます」

カタカタとパソコンに何かを打ち込む東郷。
後ろから覗けたなら、集めた情報をテキストファイルに打ち込む姿を見ることが出来ただろう。
それを抜きにしても、彼女の異常なタイピング速度は機械音痴なるう子や、ウリスでさえも目を見張るものがあった。
ともかく尋問はこれで終わったらしい。

「じゃあ、私は外の様子を見てくるわ。
盗み聞きなんて無粋な真似はしないから、お二人で積もる話でもあればどうぞ。
……ああ、小湊るう子を勝手に殺したりしたらダメよ、東郷美森さん」

そう言うと、ウリスは“スマートフォンをるう子にわざと見せるように持ちながら”部屋を出た。

「(あれって……)」

ウリスが離れたのを確認した東郷は、テキストファイルを他人に見られないよう暗号化、そしてパソコンをシャットダウン、カードに収納。
もしここが殺し合いの場でなかったなら、是非ともパソコンというもののイロハを習いたいくらいの手際の良さだった。
当の本人はといえば……顔色はお世辞にも良いとは言えず、下手をすれば嘔吐してもおかしくはなかった。

「風邪薬だけど、私持っていたんで、よかったら……」
「余計なお世話です」
「でも……」

るう子には、気になることが幾つもあった。
咲との会話を盗み聞きしていた彼女は、小湊るう子の人となりを多少は把握している。
それにウリスも居るのだから、情報は筒抜けだろう。
だがるう子は、三好夏凜から聞いている情報程度でしか東郷美森という少女のことを知らない。
人助けをする勇者の一員である彼女が何故殺し合いに乗っているのか、理由が分からない。
何故ウリスと一緒に行動しているのか、どう見ても不仲なのに、何故。
何よりも。

「携帯電話、ウリス……伊緒奈さんに取られちゃったんですか?」

目下最大の疑問点は、そこだった。

「あなたには関係のないことです」
「見ました、チャット。東郷さんが犬吠埼樹って人……同じ勇者部の人を殺したって」
「関係ないって言っているでしょう」
「ちょっとだけヘンだと思ったんです。幾らチャットが始まったのが最初の放送の後だからって、何で書く必要があるのかなって」
「だから、あなたには……」
「でも、東郷さんとウリスが居て、ウリスがあれを持ってて……」
「いい加減にして!」

東郷の声色には、隠せない動揺がはっきりと表れていた。
事実、彼女はかなり焦っていた。


*  *  *

576あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:32:48 ID:XANdSxh60

「どうするつもりかしら」
「この子から持っている情報を聞き出して、後は始末するつもりです。ところでその手紙は?」

旅館に着いた時、二人の目に真っ先に飛び込んできたのは一通の手紙。
ウリスはそれを手早く回収してざっと目を通すと、東郷に見せることなくポケットにしまった。

「殺すのは後にするわ。まだまだ利用価値があるみたいだし」

どういう意味だ、と聞いても無駄なのだろう。
ウリスが客間でるう子を縛っている間に、彼女の所持していたノートパソコンのケーブルをコンセントに繋いだ。
そして、チャット機能が午前6時に開放されたということに気付き、書き込みに目を通す。

「……」

真っ先に書き込まれていたあの一文。書き込み主は『M』。
最初は冗談だろうと思い、ウリスの顔をちらりと見た。
視線に気付いた彼女は、煽るような笑みだけを返した。

次にあった書き込みは、友奈のものだった。書き込み主は『Y』、イニシャルも一致する。
きっと私のことを心配してくれているのだと、すぐに分かった。
こんな、既に四人を手に掛けた、勇者という言葉から掛け離れてしまった私を。

最後の書き込みは、聞き覚えのある『義輝』、そして神社でるう子が言っていた『タマ』。るう子が夏凜と会っているということが、容易に想像出来た。
書き込み主は『R』。るう子のRだとしたら、全て説明が付く。

ウリスが私のイニシャルである『M』を騙り、そのスマートフォンで嘘を流したのだ、と。

頭を抱えていた矢先、るう子が目を覚ました。
嘘を吐いたと分かれば始末する――そのつもりで放った言葉が、ウリスの横槍でただの拷問に成り下がる。
しまいには、殺すべき相手にすら心配されていた。

分かっている。
この八方塞がりな状況を打破するためには、ウリスという悪意の塊を切らなければならない。
だが彼女は勇者の力をいつでも使え、自身の手には、弓矢だけ。

「(どうすればいい……どうすれば……)」

ぴしゃり、と東郷の思考をまたしても遮ったのは、襖が開かれた音。

「さて、そろそろお話も済んだかしら」
「ウリス……」
「心配することはないわ小湊るう子。タマに会えるかも知れないわよ」
「え?」

どういうことだ、東郷も問い詰める。
すると、玄関で見つけた手紙を取り出した。
さっきは見る前にウリスに取られたが、封筒には『小湊るう子へ』と書かれている。

「知ったツラした奴がタマを持っていることが分かったわ」
「それって……」
「三回目の放送までにはあなたを探しにここに戻ってくるって、ねっ!」

るう子の首筋にあてられたウリスの手から、バチバチと電流が流れ出す。

「づ、あぁっ!?」

意識を失ったるう子を抱えるウリスの手には、手袋のようなものがされていた。

「スタンガン……ではないようですが」
「用途は同じね、ガンじゃなくてグローブだけれど。そろそろ行きましょうか」


玄関を出て、スクーターに三人乗り。幸いにも車椅子は折り畳めるのでさほど荷物にはならない。
が、やはり三人だと全速力とはいかないか。

「そういや定春……例のデカい犬とやら、乗り物として使えるのかしらね」
「生き物ですから、何をするかは分かりません。今は不確定要素を増やすべきではないかと」
「ふーん……」

別に構わない。彼女はいつものように、悪意に満ちた笑みを浮かべる。

577あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:33:25 ID:XANdSxh60
手紙の主である“アザゼル”と名乗る人物。文面には、彼が悪魔であることが書かれていた。
心当たりが一つ。
高圧的な態度を取り、あまつさえ自分を放り投げた忌まわしいあの男のことだとしたら。
あの時は遅れを取ったが、今この手には勇者の力がある。

煮え湯を飲まされた相手が、“人質”の友人を手札に持っていて、更に“人質”を探している。
ここまで面白く重なった偶然を利用しない手はない。
問題は彼の行方だが、最初に出会った場所とこの旅館に訪れたという事実。
そのままの進路で、禁止エリアを避けつつ人を探しているとなれば……行く先は決まりだ。

三人を乗せたスクーターが向かうは放送局。
アザゼルが居なかったとしても、東からの追跡者から逃げるには必然的に通ることになる。
その後は島を反時計周りするか、それとも“ティッピーの巣”に向かうか……?

「(精々首を洗って待ってなさいよ、クソったれさん)」



東郷美森は考えた。
今ここで隙を付けばウリスを殺せるかも知れない。だが、無理だろう。
犬吠埼風の悪ふざけの一撃すら難なく耐えた勇者の精霊防御だ。
きっと、ただの弓矢でも結果は同じだろう。

るう子を利用してでも、主導権を取り戻す。
思考回路の大半をそこに割いた結果、彼女は気付かなかった。
このスクーターが、放送局に向かっていることに。
三好夏凜や結城友奈が向かっている、放送局に。


*  *  *

――現在チャットルームには誰もいません――

――入室者有り――


K:『友奈?友奈なの?私よ、にぼっしーよ』


――退室しました――

――現在チャットルームには誰もいません――



【G-3/宿泊施設付近/一日目・昼】
【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】  
[状態]:全身にダメージ(小)、疲労(小)、スクーター運転中
[服装]:いつもの黒スーツ
[装備]:ナイフ(現地調達)、スタングローブ@デュラララ!!
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(19/20)、青カード(18/20)、小湊るう子宛の手紙    
    黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?
     ボールペン@selector infected WIXOSS
     レーザーポインター@現実
     東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である
     スクーター@現実
     宮永咲の不明支給品0〜1(確認済)
[思考・行動]
基本方針:参加者たちの心を壊して勝ち残る。
     0:放送局に向かう。アザゼルを見つけ次第復讐する。
     1:東郷美森、及び小湊るう子を利用する。
     2:使える手札を集める。様子を見て壊す。
     3:"負の感情”を持った者は優先的に壊す。
     4:使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。    
     5:蒼井晶たちがどうなろうと知ったことではない。
     6:出来れば力を使いこなせるようにしておきたい。
     7:それまでは出来る限り、弱者相手の戦闘か狙撃による殺害を心がける
[備考]
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという嘘をチャットに流しました。
※変身した際はルリグの姿になります。その際、東郷のスマホに依存してカラーリングが青みがかっています。
※チャットの書き込み(3件目まで)を把握しました。

578あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:34:10 ID:XANdSxh60

【東郷美森@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、両脚と記憶の一部と左耳が『散華』、動揺、満開ゲージ:4
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:弓矢(現地調達)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(17/20)、青カード(17/20)、
    定春@銀魂、不明支給品0〜1(確認済み)
    風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?
    ノートパソコン(セットアップ完了、バッテリー残量少し)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いに勝ち残り、神樹を滅ぼし勇者部の皆を解放する
     0:早急に浦添伊緒奈を切りたい
     1:南東の市街地に行って、参加者を「確実に」殺していく。
     2:友奈ちゃんたちのことは……考えない。
     3:浦添伊緒奈と小湊るう子を利用して、始末する。
     4:どうすれば……?
[備考]
※参戦時期は10話時点です
※チャットの書き込み(3件目まで)を把握しました。

【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:全身にダメージ(小)、左腕にヒビ、微熱(服薬済み)、魔力消費(微?)、体力消費(中)、両手両足拘束、気絶
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
[装備]:黒のヘルメット着用
[道具]:腕輪と白カード
    黒カード:チタン鉱製の腹巻@キルラキル
     宮永咲の白カード
 [思考・行動]
基本方針:誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
   0:……………。
   1:シャロさん………
   2:ウリスと東郷さんに対処したい。
   3:遊月、晶さんのことが気がかり。
   4:魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
   5:東郷さんとウリス、仲が悪いの……?


【スタングローブ@デュラララ!!】
宮永咲に支給。
鯨木かさねが使用していたグローブで、肘に付けたスイッチを押すと電流が流れる。

579 ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:34:54 ID:XANdSxh60
仮投下を終了します

580 ◆DGGi/wycYo:2016/03/02(水) 15:45:53 ID:ho6pdns.0
放送案を投下します

581第二回放送 -カプリスの繭-  ◆DGGi/wycYo:2016/03/02(水) 15:47:25 ID:ho6pdns.0
――白い部屋、大きな窓、繭。

時を告げる重厚な針が二つ、頂上で重なる。
少女は手近な窓を一つ開け、“向こう側”へと語りかけた。


『――正午。こんにちは、とでも言えばいいかしら。二回目の定時放送の時間よ。
今あなたたちが何をしているかなんて関係ないわ。
大事な放送なんだもの、きちんと繭の話を聞きなさい。聞かない子はどうなっても知らない。
まずは禁止エリアの発表よ。


【B-8】
【E-5】
【H-4】


午後三時になったら、今言った三つの場所は禁止エリアになる。死ぬのがイヤならそこから離れるのをお勧めするわ。
それから、A-4に掛けてあった橋が直ったの。だからここの禁止エリアは解除してあげる。頭の片隅にでも置いておきなさい。

それじゃあ、死んじゃったみんなの名前を言うわよ。


【ランサー】
【保登心愛】
【入巣蒔菜】
【雨生龍之介】
【蒼井晶】
【カイザル・リドファルド】
【範馬刃牙】
【高坂穂乃果】
【桐間紗路】
【花京院典明】
【キャスター】
【ジャン=ピエール・ポルナレフ】
【折原臨也】
【蟇郡苛】


さあこれで全員、14人よ。6時間前の分も合わせたら……残りは39人。
ふふ、まさかたった半日でこんなに死んでいくなんて思わなかったわ。
ここまで残ってきた人はとっても強いのか、誰かに守ってもらったのか、それともとっても運がいいのか、どうかしら。

でもあなたも、あなたも、そしてあなたなんかも。横に居る子に突然裏切られたりしないように気をつけた方がいいわよ。
もしかしたらその子はこの放送で大切な人が呼ばれたことで行動を変えた、なんてことがあるかも知れない。
他人が何を考えているかなんて、分かりっこないんだから。

それじゃあこの放送はここでおしまい。
次はまた6時間後、夕方6時。その頃に繭の声が聞ける子は……何人かしら。期待しているわ』


*   *   *

582第二回放送 -カプリスの繭-  ◆DGGi/wycYo:2016/03/02(水) 15:47:52 ID:ho6pdns.0

放送が終わり、再び部屋は静まり返る。
窓の向こうを幾つか覗いてみるが、なかなか面白いことになっている。
ここまで来たのだ。恐らく誰もが一人や二人、或いはそれ以上の知人友人等を失っていてもおかしくはない。
驚きや嘆き、その他諸々が色濃く伝わって来る。



「ふむ……」



繭のすぐ傍で、一つの声がした。

「何を見ているの?」

“男”はグラスに注いだワインを片手に、沢山の窓の中のある一つをじっと見ていた。
繭に声を掛けられた男は、にこりと微笑み返すだけだ。
ちらりとその窓を覗くと、参加者の一人である青年の姿が映っている。

「…………」

繭には、彼が何を考えているかは判らない。
この殺し合いを持ち掛けてきたのは彼なのだが、如何せん彼が何を思ってやっているのか、それが理解出来ない。

少女はただ一言、男の名前を呟いた。



「ヒース・オスロ……」



※A-4の橋が修理され、渡れるようになりました。
それに伴い、A-4の禁止エリア状態が解除されます。

583 ◆DGGi/wycYo:2016/03/02(水) 15:48:13 ID:ho6pdns.0
放送案投下を終了します

584 ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:22:36 ID:NLj2Npss0
放送案投下します。

585第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:23:36 ID:NLj2Npss0


  命が、消えていく。
  虚空に解けた夢が、消えていく。
  魂は一枚のカードに封じられ、ゆっくりと、人は死んでいく。
  
  ディルムッド・オディナが死んだ。
  その呪いで多くの錯乱を生み出し、されども前を向いたその果てに、彼の英雄譚は呆気なく終わりを告げた。
  魔王の剣に抱いた誉れも、友への誓いも切り裂かれ。
  守ると誓ったものを守れずに、無念の中で朽ち果てた。

  保登心愛が死んだ。
  同伴者の本性に気付くことなく同じ道を歩み続けたが、きっと彼女は幸運だったのだろう。
  痛みも恐怖もないままに、魔王の断頭台で首を刎ねられ。
  苦痛の芸術の矛先となるより先に、舞台から転げ落ちた。

  入巣蒔菜が死んだ。
  彼女の生き様を語ることは、あまりにも難しい。確かなのは、眠り姫が成せたことは何もなかったということ。
  眠りの園で心地よく微睡みながら、叩き切られ。
  何かを残すこともなく、無念ですらなく、ただ死んでいった。

  雨生龍之介が死んだ。
  若き青さを胸に、この箱庭でも自分の芸術へ没頭し続けた男。彼の首を絞めたのは、その芸術趣向だった。
  迂闊が招いた銃声を前に、あっさりと撃ち抜かれ。
  最後に答えらしいものを得ながら、永遠の眠りについた。

  蒼井晶が死んだ。
  深愛する少女の為にと刃を隠し持ち、状況の変化に翻弄されながらも戦った少女は、あまりに不運だった。
  父を喪った子鬼を前に、セレクターが出来ることは何もなく。
  自身の思いの行く末さえ知らぬまま、その首はあらぬ方向へねじ曲がった。

  カイザル・リドファルドが死んだ。
  誰よりも正しい騎士道精神で、箱庭の殺し合いへと刃向かった彼の末路は、予定調和。
  少女の狂乱を見抜けず、その正しさが仇となり、血反吐を吐いて。
  かつて友と呼んだ男に全てを託し、魂の牢獄へ収監された。

  範馬刃牙が死んだ。
  最強の男、範馬勇次郎の死を前にして、若いグラップラーの心は簡単に壊れた。
  勝利を目前で摘み取られ、一人の男が修羅となるきっかけを生み出して。
  その遺骸はグラップラー・刃牙としてではなく、ただの『範馬』として海の底へと投げ捨てられた。

  高坂穂乃果が死んだ。
  愛と恐怖と友情に狂い果て、多くの罪を犯した少女に立ちはだかった死神は、最強の神衣であった。
  彼女が敵うわけもなく、されども最期に――犯した全てを赦されて。
  運命に翻弄され続けたスクールアイドルは、その生き様とは裏腹の、安らかな眠りに落ちた。

  桐間紗路が死んだ。
  迷いと罪悪感で対立を招いた、どこまでも普通の少女だった彼女。
  あまりにも殺し合いの場には向かない娘は、堕ちた勇者の矢に貫かれて。
  臆病な一匹のうさぎは、独りを恐れて、孤独に死んだ。

  花京院典明が死んだ。
  目の前で殺され続けた、見えざる敵に敗北し続けたスタンド使い。
  彼が勝利を収めることはついぞなく、宿敵の養分に成り果てて。
  それでも最期に勝利を宣言し、人間賛歌を証明した。

  ジル・ド・レェが死んだ。
  信仰に狂った魔元帥は、あまりにも多くの混乱と、数多の怒りを会場中に生み出した。
  盟友の書なくして彼の本領が発揮されることはなく、神衣の怪物に一蹴され。
  怨嗟の絶叫をあげながら、その妄執もろとも、粉みじんになって死んだ。

  ジャン=ピエール・ポルナレフが死んだ。
  優しく気高い騎士は、一人の少女に気を取られた。それは、生命戦維の怪物を相手取る上で致命的すぎた。
  その報いとばかりに、その背を片太刀の欠けた鋏で貫かれ。
  かつて守れなかった、妹のところへと旅立っていった。

  折原臨也が死んだ。
  愛する、愛する、愛する。彼は心の底から、人間という生き物を愛していた。
  愛に基づき寿命を縮め、まさに蟲を踏み潰すように、情報屋は怪物に蹂躙されて。
  一足先に、彼はあるかもわからない天国を目指す。

  蟇郡苛が死んだ。
  本能字学園の生きた盾という自らの役割を貫き、彼は常に盾であり続けた。
  顔面半分を貫かれてもなお、不沈艦・蟇郡を沈めること叶わず。
  一縷の後悔も、その胸になく。最後まで忠誠を貫いて、漢は逝った。

586第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:24:04 ID:NLj2Npss0


  日輪が、箱庭の頂上へと昇る。
  数多の物語と。
  数多の無念と。
  数多の未来と。
  数多の絶望を載せて。
  時は進む、それはまるで物語の頁を捲るように。

  
 「――元気にしているかしら。定時放送の時間よ」


  白い部屋からの起爆剤が、投下される。

587第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:24:29 ID:NLj2Npss0
◯  ●


 『あれから、十四人が死んだわ。
  ある者は勇ましく、ある者は迷走の末に、ある者は無念の中で、死んでいったわ。
  残っているのは三十九人。次に日が沈む頃には、きっと盤面の駒数は半分を切るでしょうね』

  くすくすと、その声は嗤う。
  生者全ての腕輪から発せられる声。
  繭――箱庭の主であり、参加者達の絶対支配者。
  そして、打開を目指す者にとっての不倶戴天の敵。
  その声は鈴の鳴るような音色で、昼を迎える箱庭によく響く。

 『じゃあ、早速死んだ子の名前を――』

  ふふっ。
  また、繭が嗤った。
  神経を逆撫でするような、声だった。

 『――言う前に、新しい禁止エリアを教えてあげないとね。
  今回も、封鎖されるのは三箇所よ。
  ペナルティは六時間前に言ったのと同じだから、勘違いしたりしないようにね。
  

  【B-5】
  【E-3】
  【G-7】

  
  ……以上三つのエリアが、三時間後の午後三時にはもう入れなくなるわ。
  鉄道に乗っている間は入れるのは変わらないし、そこは安心していいわよ。
  
  ああ、それと。 
  時間をかけちゃってごめんなさいね。
  A-4の橋の修理が、ついさっき完了したわ。これからは普通に通れるようになる』

  どくん。
  どくん。
  どくん。
  会場中から、心臓の鼓動が聞こえてくるようだった。
  すべての参加者にとって、最も大事な事項。
  すなわち――誰が死んで、誰が生きているのか。
  それを、繭の声が読み上げる。
  笑みを、浮かべた。
  にちゃあと、唾液が歯と歯の間で糸を引いた。

588第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:27:09 ID:NLj2Npss0

 「では、死者の名前を読み上げるわ。
  よく聞きなさい。そして受け止めるの。
  もう戻らない命を噛みしめて、これからのゲームに臨んで。


  【ランサー】
  【保登心愛】
  【入巣蒔菜】
  【雨生龍之介】
  【蒼井晶】
  【カイザル・リドファルド】
  【範馬刃牙】
  【高坂穂乃果】
  【桐間紗路】
  【花京院典明】
  【キャスター】
  【ジャン=ピエール・ポルナレフ】
  【折原臨也】
  【蟇郡苛】


  ――はい、全部で十四人。生き残りは、あと三十九人。
  そろそろゲームも中盤で、もっと加速してくる頃かしら。
  さあ、噛み締めなさい。
  そして自分が何をすべきかを、理解するの。『選択』するのよ。
  ……ふふ。
  それができたなら、これからどう生きるかなんて、自ずと見えてくるはずよ――」


  囃し立てる声。
  それは愉快そうに嗤ってから、最後を締め括った。


 「次の放送は午後十八時――また、私の声が聞けるといいわね」

589第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:27:42 ID:NLj2Npss0
●  ◯


 「随分とご機嫌だったではないか、娘よ」
 「…………」

  放送を終えた繭へ、そう笑いかけたのは、いけ好かない男だった。
  黄金の頭髪を逆立たせ、目が痛くなるような同色の鎧を纏った美しい風貌の男。
  古代バビロニア――繭が生まれる遥か、遥か以前の時代に名を馳せたとされる、万古不当の英雄王。
  真名・ギルガメッシュ。繭は、そう聞かされている。
  『あいつ』が呼んだ、『いざという時』の為のカードの一枚であると、聞かされている。

 「ギルガメッシュ」

  繭にはわかる。
  というよりも、こいつの笑い方を見ていれば誰でもわかることだ。
  この男は、馬鹿にしたように笑う。――嗤うのだ。
  繭のことを、いつもいつも、憐れな道化を見るような瞳で見る。

 「『あいつ』は、何をするつもりなの」
 「くく――流石の貴様でも気付くか。あれが、おまえの望みとは違う方へ歩もうとしていることに」
 「……答えて」

  繭にとっての命の恩人。
  繭だけでは追い付かない部分を、補ってくれた協力者。
  タマヨリヒメを支給品に混入させた、張本人。

 「さてな。それには未だ時期が早い――今はそう答えておこうか」

  だが、と、黄金の男は付け加える。

 「我(オレ)に言わせれば、貴様も奴も、等しく愉快な見世物だ。
  存分に躍るがよいぞ、我がそれを許す」

  くつくつと笑い、霊体になって消え去る姿を見送って…… 
  繭は、ぎりっと歯を噛み締めた。
  やっぱり、こいつは嫌いだ。
  そう、改めて思うのだった。

  ――事態は、少しずつ、少しずつ……彼女の手を離れて、どこかへ向かい始めている――

  黄金は笑う。
  己を呼んだ者。
  紛れもない邪悪へ。
  人類種の仇敵へと。
  その在り方を心の底から嫌悪しつつも、さりとて、彼女達の奏でる音色はあまりにも愉快であったから。
  今はまだ、協力する。
  サーヴァントらしく、従属に預かって。
  黄金の王は、事態を俯瞰するのみ――。

 「何を夢見る、鬼龍院羅暁」

590 ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:28:09 ID:NLj2Npss0
投下終了です

591 ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:04:32 ID:4lDIj7gE0
放送案投下します

592第二回放送 -その老人は黒幕- ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:09:39 ID:4lDIj7gE0
白い部屋。このゲーム二度目となる死の宣告を下すべく、口を開いたのは主催者の『一人』である繭だった。

「ごきげんよう。皆、ゲームを楽しんでくれているかしら」

繭の声には自らが加害の立場にあるという優越感が含まれていた。
元の世界でどれだけ圧倒的な力を持つ人物であろうとも、この会場では等しくゲームの駒でしかない。
繭という絶対的な存在の前に成すすべもない塵芥にも劣る虫けら共である。
にもかかわらず、身の程知らずにもゲームに乗らず脱出を目指しているものがいる。
最初の内は見逃していたが、いい加減あの駒たちには自分の立場を分からせなければならない。。

「でもね、楽しむのは結構だけど、あんまり生意気な態度を見せて私を不快にさせない方がいいわ」

歌うように、けれども若干声のトーンを落として繭が言う。

「ここからの脱出なんて、できるわけがないんだから。脱出なんて無駄な事を考えるのはやめなさい」

それはあまりにも残酷な恫喝であった。お前らはここから出られない、ここで殺しあうしかないという呪いのい言葉。ゲームの過酷な現実を再度参加者に突きつける悪魔じみた宣言である。

「例えゲームに乗っていても、繭に露骨な反抗心を持ってる奴は気に入らないわ」

ギリッ、と歯をかみ締める。

「まさかとは思うけど、優勝した後、繭を倒そうと考えてる奴なんていないわよねぇ?」

反抗心を持つのは構わないにしても、それを隠そうともしない一部の参加者の態度は非常に不愉快だ。
ここでは繭が支配者であり、参加者はゲームの駒でしかない。駒が支配者に生意気な態度をとるなど許されることではない。

「もう一度、思い出した方がいいわ。今あなた達の命を握っているのが誰なのか」

再び声に加害の立場にいる人間特有の優越感が宿る。

「優勝しても、繭の機嫌を損ねたら、その場でカードにすることも、できるってことを、理解しなさい」

命を握られている人間の立場からすれば恐ろしいことこの上ない発言。それが分かっているからこそ、繭はその言葉を一言一言、刻みこむように参加者たちに告げた。

593第二回放送 -その老人は黒幕- ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:11:28 ID:4lDIj7gE0
「それじゃあ、禁止エリア……今回も発表してあげるから感謝しなさい」


【B-7】
【C-2】
【G-7】


「次は脱落者ね」


【ランサー】
【保登心愛】
【入巣蒔菜】
【雨生龍之介】
【蒼井晶】
【カイザル・リドファルド】
【範馬刃牙】
【高坂穂乃果】
【桐間紗路】
【花京院典明】
【キャスター】
【ジャン=ピエール・ポルナレフ】
【折原臨也】
【蟇郡苛】


「さっきはキツイ言葉をかけたけど、あなた達には期待もしているわ。その期待を裏切らないように、ゲームに励みなさい」

594第二回放送 -その老人は黒幕- ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:12:54 ID:4lDIj7gE0
◆◆◆


放送を終えた繭は背後に控える協力者に向き直り言葉をかけた。

「それで、聞きたいことは分かっているわよね」

協力者は男であった。整った顔立ちに真紅のスーツを見事なまでに着こなした中年男性はオルゴールを片手に握っている。

「さて、まずは怒りを静めてもらえないかな。君に怒った顔は似合わない」

猫なで声で繭を宥めながら男性は繭にチョコレートを差し出した。
繭はそれを乱暴に受け取ると、ビニールを破って中身を取り出し口に運び、もきゅもきゅと租借する。

「君が何を言いたいのかは理解しているとも。タマヨリヒメが何故、参加者の支給品に紛れ込んでいるかだろう」

男性は、まるで舞台役者のような素振りで両手を翳しながら、繭の疑問を言い当てる。

「そうよ、私の質問に答えてくれるわよね……ヒース・オスロ」

その男はヒース・オスロと名乗る人物だった。

「非常に申し上げにくいのだが、あれは私の手違いだ。君には大変申し訳ないと思っている」

全く焦った様子もなく、オスロは淡々と告げた。

「ッ! 手違いで済む話ではッ!」
「落ち着くんだ、繭。腕輪がある限り奴らは我々に反抗できない。それに例の保険もあるだろう」

子供に言聞かせるような調子でオスロ。

「それは、そうだけれど」
「タマヨリヒメを誤って支給品に紛れ込ませてしまったことは改めて謝罪する。すまなかった」
「……もう、いいわ」

言いながら手のひらを差し出す繭。その意を汲み取ってオスロは再びチョコレートを手渡す。

「一つじゃ足りないわ」

更に三つほど受け取ってから、繭は満足げに頷き、その場を後にした。

595第二回放送 -その老人は黒幕- ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:14:35 ID:4lDIj7gE0
◆◆◆


繭が去った後、オスロの周りに一匹、また一匹とおぞましい何かが集まり始めた。
その正体は蟲だ。ゲーム参加者の一人である間桐雁夜が使役していたのと同種の蟲であった。
しかし、これはおかしい。間桐雁夜は既に脱落しており、現在はカードになっている。
そもそも、仮に脱落していなかったとしても、参加者の一人でしかない間桐雁夜が、この部屋の中に入ってこれるはずがない。
となればこの蟲を使役するのは、間桐雁夜とは別の人物であることになる。
ならば蟲が同種であることには、どう説明をつければよいのか。
その答えは至って単純である。蟲を使役する人間が間桐雁夜の関係者であれば説明がつく。

「カカカ、クカカカ、娘の世話が随分と板についているようじゃな」

姿を現したのは老人であった。
名を間桐臓硯。否、マキリ・ゾォルケンと呼ぶのが適切であろうか。
500年の時を生きる、正真正銘の妖怪であり、この舞台を整えた黒幕とも呼べる人物だった。
元の世界ではテロリストでしかないオスロが繭にこの舞台を提供できたのも、裏でこの老人が動いたからである。

「順調、順調、実に順調に儀式が進んでおる」
「全てこちらの目論見どおりですね」

グラスを二つ用意してそれにワインを注ぎながらオスロはそう口にした。
『タマヨリヒメ』が参加者の手に渡ったのも計画通り、言外にそう言い含める。

「ゲーム、いやあなたの言葉を借りるなら儀式か。その儀式が完成すれば、貴方は願いを叶える」

優勝者にはどのような願いも叶えるというのは欺瞞であった。
それはある意味では聖杯戦争やセレクターバトルと同じような仕組み。
勝ち残れば願いが叶うなどといったふわふわした言葉など、本気で信じる方が間抜けなのである。
単に願いが叶う、叶わないで言えば叶う、セレクターバトルではなく聖杯戦争寄りなこのゲーム。
しかし、その願いを叶えるのは優勝者ではなく間桐臓硯なのだ。

ではオスロはどうなのか。願いを叶えられるのは一人だけである。隙を突いて臓硯を出し抜くつもりなのか。
否である。あの妖怪を自分がどうこうできると思うほど、オスロは自意識過剰ではない。
確かにオスロは戦闘のプロであり、特にナイフによる近接戦に秀でているが、あの怪物を殺しきる自信はなかった。
オスロが欲したのは願いを叶える権利ではなく優勝者の肉体である。優勝者を元の世界に返すつもりなど初めからありはしなかったのだ。
臓硯は願いを叶え、オスロは優勝者の体を手に入れる。利害の一致によって両者は手を結ぶことができた。

「ご子息については残念でしたね。早々に退場することになってしまって」
「所詮あれは生き残れる器ではない。が、死に方が気に入らんがな」
「というと?」
「あれはもっと無様に見苦しく足掻いて死ぬと思うとったが、期待はずれにも程がある」

カッ、と臓硯が不愉快そうに白い床に杖を付く。

「そんなことより、貴様はどうなのだ。確か目をかけていた小僧がいただろう。風見雄二だったか」
「正直なところ、期待以上ですね」

雄二に殺しの技を仕込んだのはオスロであり、彼の戦闘技能の高さはオスロ自身が一番よく分かっていた。
しかし、このゲームには人間を超越した化け物たちが参加している。どれだけ一般レベルで強かろうと、あれらにその常識は通用しない。

「あの環境で雄二はここまで生き残った。他人と共闘したとはいえ針目縫を相手にして生存しているのも評価に値する」

優勝者として雄二が再び手元に戻ってくるのであれば、それはそれで良いかもしれない。
そんなことを思いながらオスロは自らがグラスに注いだワインに口をつけた。

596 ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:16:15 ID:4lDIj7gE0
放送案投下終了します

597 ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:32:31 ID:8YOKizEM0
遅くなりましたが、自分も放送案を投下させていただきます

598第二回放送 -EXODUS- ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:34:49 ID:8YOKizEM0



踊るように、少女が跳ねる。
バレエのように美しく舞うその身体は、重力を感じさせない動きで空を横切り。
黒い背景に映えていた彼女の姿は、やがて壁が保護色の白となって部屋へと溶け込んだ。

「ふふっ」

少女━━━━━繭の機嫌は悪くなかった。
殺し合いの中で生き残った人間の数は、既に当初の半数に近い。
この分ならば、もうすぐ行われる自分の放送が終わって間も無く半数を切るだろう。


少女は思い出す。

自らの行いに悔いながら、無惨に死んでいった少女を。

何も出来なかった自らを呪い、最後にはただ捨て台詞を吐いて死んでいった青年を。

自分の最期の行動となったそれが根本から間違っており、救われた筈の少女を人殺しにしてしまった青年を。


思い出す度に、彼女の昏い心は嗤う。
堕ちていく魂の行く先である、自分がいた永遠の孤独。
絶望と失意に塗れそこへ叩き込まれる魂が、孤独で傷付いた彼女の心を歪ながらも癒している。


だが、同時に少女は思い出す。

悲惨な現実に何度も何度も打ちのめされ、最早何も信じられなくなりながら、最期の最期でほんの僅かに救われた少女を。

自分の愛する存在へとその身を捧げ、末期の意識の中で自分の全てに決着をつけ、最期の瞬間までその愛を貫いた青年を。

目の前の少女を救う事も斃す事も出来ず、それでも尚その生き様に一切の悔いは無いと言い切り、仁王立ちのまで逝った漢を。


それらを思い出す度に、繭の心はざわざわと揺れる。
魂をカードに閉じ込めて、永久に孤独を味合わせる。
嘗ての少女と同じ境遇で、嘗ての少女と同じ生涯の孤独に陥れる。
その言葉に偽りはないにも関わらず、希望を抱いて現世を去った彼等が、繭の心を揺らめかせている。

或いは、その言葉を信じていないのか。
死んで尚、天国へと導かれ、そこで救いがあるなんて思っているのか。
それとも、カードに閉じ込められて尚、誰かに希望を残したのか。
死ねば皆独りの筈なのに、まるでその先に誰かがいるとでもいうのか。

そして、繭が何より腹を立てているのは。
まるで、見せつけられているようだった事だ。
お前には、これが無いと。
お前には、こんな細やかな希望すら許されていないのだと。
お前には━━━━━救いも何もない孤独しか知らないお前には、分かるまい、と。

腹立ちを紛らわせるように、彼女はその足を進める。
向かう先は、決まっていた。






「やあ〜、こんにちは〜」

間延びした声が、広い部屋に響く。
部屋の中には、一つだけポツンと置かれているベッド以外には特に物が存在していない。

「こんにちは、乃木園子さん」
「園子でいいよ、まゆゆ〜」

気の抜けたような間延びした声で、更に変な呼び名で呼ばれた事にむっとしながらも、すぐに表情を元に戻す。

この場所に来た理由は二つ。
一つは、この少女が何らかの行動を起こしていないか確認する為。
乃木園子━━━━━彼女自体が殺し合いに賛同するような人物ではない事は分かっている。
ゲームの維持の為には居て貰わなければ困る存在だが、核心に近い分下手な謀反を起こされる訳にもいかない。
そう言っていたのは「あいつ」。
その顔が脳を過ぎったが、特に気にする事もなく意識から消した。

そして、もう一つは。

599第二回放送 -EXODUS- ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:36:24 ID:8YOKizEM0

「ねえ、あなたもそろそろ、殺し合いの会場は見飽きたかしら?」
「…………まあね〜。これだけ見てれば、見覚えのある景色ばっかりにもなってくるかな〜」

その言葉に、繭は顔を歪める。
にやりと笑う彼女を見返す園子に、繭は小さく囁いた。




「━━━━━それじゃあ、面白いものを見ましょうか」

そう言うと同時に、幾つもの窓が壁に現れる。
ふわふわと浮かんでいるそれを、薄笑いを浮かべて眺める繭と、顔色一つ変えないまま━━━━━尤も顔自体は包帯に隠れているのだが━━━━━見据える園子。
そうして間も無く、その窓が開く。
その中に移るのは、一人の少女。
ポニーテールに纏めたオレンジ髪の少女が、虚ろな目で何処かを見ている姿。



『…………ねえ、ちゃん……………』



ふと漏らしたその言葉から、園子も彼女の境遇を察する。
恐らくは姉が巻き込まれ、命を落としたのだろう。
二人はそうして暫く眺めていたが、全くと言っていい程動きのない彼女に飽きたかのような表情の繭が腕を振ると同時にその窓は閉じた。

「あの子は、あんまり動かなかったけれど…………他の子も見るかしら?」
「…………ううん、いいや」
「そう」

つれない返事に呆れながら、窓を全て消していく。
様々な柄や色で彩られた窓枠の中からは、全て今のように『観客』の姿が眺められるようになっている。



━━━━━『観客』を呼ぶにあたって、「あいつ」が制限したのは一つだった。

戦いに秀で、肝も据わっているような、そんな「強者」を呼ばない事。

それさえ守れば、何人呼ぼうが構わない、と言われた。

結局、『観客』として招いた人として選ばれたのは、平凡な毎日を生きているような少女達だった。

例えば、喫茶店で働く先輩や同級生に憧れる少女達。
例えば、廃校となる母校を救う為に歌を歌い踊りを踊る事を決意した少女達。
例えば、当たり前の平和になった世界で、当たり前のように平和な格闘技を行う少女達。
『観客』として招かれたのは、そんな少女達だった。

だが、それでいい。
繭にとって最も我慢ならない人種は、そういった「当たり前の日常を謳歌する人々」だったから。

険しい道程の中で、親しい仲間を殺される、或いは失った、そういう運命の中にいる、だとか。
得てして「強者」は、そういった不幸な環境に身を置く事が多い。
或いは、そういった不幸な環境にあったからこそ、「強者」となれたのか。

何であれ、そんな彼等だから、繭はまだ我慢出来た。
あの殺し合いに閉じ込めたほんの一部だけで、まだ十分だった。

けれど。
そんな残酷な現実など何処吹く風と、日常を謳歌する少女達。
或いは安穏と。
或いは平凡と。
そうやって過ごしていた少女達に対しては、それだけで済ませたくはなかった。

殺し合いとは別に、閉じ込めた部屋の中でひたすら殺し合いを鑑賞させる。
先輩や後輩や仲間や、そんな人々が打ちのめされ、死んでいく様を、まじまじとその目に焼き付けさせる。
悲しみに咽び泣く姿、激情に駆られ叫ぶ姿、ただ放心する姿━━━━━様々な彼女達の姿は、殺し合いとは別に繭の心を満たしてくれた。

600第二回放送 -EXODUS- ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:38:43 ID:8YOKizEM0

ふと改めて、目の前の少女を見る。

目の前の少女、乃木園子は『観客』ではない。
あの世界を保つ為に用意された、歴とした舞台装置の一つだ。
だが、その境遇に、繭は僅かに興味を覚えていた。

一人の仲間が死に。
もう一人の仲間には忘れられ。
動かない体で、二年間延々と縛られている少女。
その境遇に、僅かに親近感を抱いていたのかもしれない。

だから、と。
繭は、園子へと口を開いた。

「ねえ、あなたはどう思う?
とっても可哀想なあなたは、この殺し合いをどう思っているのかしらね?
あなただって、本当はあの子達に嫉妬して━━━━━」



「━━━━━それ以上何か言ったら許さないよ?」

その言葉に、繭の身体は一瞬硬直した。
園子の言葉遣いや表情は、一切変化していない。
だが、その言葉に込められた怒りは、繭の心を押し潰す程に激しく煮え滾っている。

想定の範囲内、ではあった。
怒りを向けられて当然だし、その反応を楽しむ為にそう言ったとも言えるのだから。
下手に繭に手出しをすれば、何もかもがおじゃんになるのは園子にも分かっているだろう。
それを見越して煽るような言い方をした。

だから、それでも。
一時的に恐れこそすれ、繭はその言葉に心を変える事はなかった。
話は終わったとばかりに立ち上がり、そのまま放送に向かおうかと考え始めた。


それで、終わりのはずだった。





だが。
激情が収まった様子の少女が、ふと目を伏せて。
小さく、呟いた、言葉は。





「…………でも、うん。
━━━━━しょうがないよね、あなたも。
だから」




その、言葉は。



「私は、あなたを責めたりはしないよ」



繭の心に、一つの楔となって突き刺さった。



「……………ふ、ふふ、そうね、そうかもね」

ぎこちなく振り返り、口角を吊り上げて笑顔を形作る。
その表情のまま園子を見据えながら、逃げるように彼女はその部屋を後にする。
再びそこに残るのは、暗闇と小さなベッド、そしてそれに横たわる少女だけだった。

「……………だって、私がどうこう言える訳じゃあないからね」

ぽつりと。
友の思うままの世界の滅亡を、何をするでもなくただ見届けようとした事。
それを思い出しながら、残された少女も呟いていた。



部屋から出た瞬間に、繭は壁に拳を叩きつけた。

「何で…何でよ………!!」

苛立ちをそのまま口から吐き出すように、そんな言葉がついて出る。


それは、或いは望んでいた言葉なのかもしれなかった。
「同情」。
自分と同じ孤独にある少女に、自分を理解して欲しかったという感情が皆無だったとは、彼女自身も言い切れないかもしれなかった。


けれど、実際に彼女から言われたそれは。
自分と同じ、孤独な少女からのそれは。
気が変になりそうな程に、繭の心を打ち砕いた。

601第二回放送 -EXODUS- ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:42:36 ID:8YOKizEM0


人の善意に触れる事が無かった、永遠の孤独の中にあった少女への。
人の善意を信じ、自らも善行を積む世界で、孤独になってしまった少女の言葉。
元が同じ孤独であるからこそ、繭はそこから生まれる心の違いに気付かされてしまっていた。

許せる、という事が。
許せてしまう、という事が。
繭には、どうしようもない程に見せつけられているように感じた。


自分が手にする事が無く、与えられる事もなかった━━━━━優しさだとか温もりだとか、そんな「当たり前」を。


「━━━━━許さない」

そして。
だからこそ、彼女は更に募らせる。
自分がそれを手に出来なかった事への怒りを。
それを手に入れて、輝かしい日々を送っている人々への憎しみを。
彼女の騒めく心が、更に加速していく━━━━━その時。

「繭様」

不意に、少女の背後から声が掛かる。
少女が振り返ると、そこにいるのは一人の女性。
黄色のスーツに身を包んだキャリアウーマンのような彼女━━━━━鯨木かさねは、繭に対して言葉を続ける。

「そろそろ放送の時間です。準備の方を━━━━━」
「…………ねえ」

鯨木の声を遮って、繭が口を開く。
そこから紡がれる言葉の内容に、鯨木は僅かに眉を顰めた。

「頼み事があるの」

より、絶望を加速させる為に。
自分という存在の道連れに、共に絶望に堕ちる人々の姿を見る為に。

「あいつには、内密にしてほしいんだけど━━━━━どうかしら?」

繭は、そんな言葉を言い放つ。
まるで、苛立ちを吐き棄てるように。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


『お待たせ。
ふふっ、良かったわね。前の放送から六時間、無事に私の声を聞けて。
もしかしたら、全く無事じゃないかもしれないし、私の声なんてむしろ聞きたくないなんて怒っている人も多いかしら?
でも、私のこの話を聞き逃して勝手に自滅なんてしたくないでしょう?
だったら、しっかり聞いておいた方が良いわよ。

まずは報告。
前の放送でも教えた、A-4の橋だけど……ついさっき、修理が終わったわ。
それと一緒に、A-4の禁止エリア設定もおしまい。また最初と同じように、島を行き来出来るようになったわよ。
お互いの島に、もしかしたら気になる人もいるんじゃないかしら?
探す為に、あるいは━━━━━殺す為に。
せっかく直したんだもの、ちゃんと使ってくれると助かるわ。

じゃあ、次。
とっても重要な、禁止エリアの発表よ。


【B-5】
【E-3】
【G-5】


今回の禁止エリアは以上よ。
今そこにいるって人は、急いで出ていった方がいいんじゃないかしら?
近くにいる人も、うっかり入っちゃってカードに閉じ込められたくはないでしょうから、気をつける事ね。

602第二回放送 -EXODUS- ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:43:43 ID:8YOKizEM0

そして、お待たせ。
多分皆お待ちかねの、この六時間での死者の発表よ。
ふふっ、皆不安かしら?好きな人が、仲間が、呼ばれちゃうかもしれないって?
それじゃあ、発表するわよ。



【ランサー】
【保登心愛】
【入巣蒔菜】
【雨生龍之介】
【蒼井晶】
【カイザル・リドファルド】
【範馬刃牙】
【高坂穂乃果】
【桐間紗路】
【花京院典明】
【キャスター】
【ジャン=ピエール・ポルナレフ】
【折原臨也】
【蟇郡苛】



以上、おしまい。
今回は。前回と合わせれば………ふふっ、もう半分を切りそうね。
たった半日でこれなんて、皆頑張っているみたいね。
それに、半分だから………そろそろ皆一人くらい、知り合いが呼ばれちゃったんじゃないかしら?

最後に、二つ言いたい事があるわ。
でも、どっちも直接言っちゃうのはつまらないわね。
まず、一つは………そうね、ヒントは学校よ。
もう知っている人も少しいるみたいだから、分からない人は実際に行ってみるか、その人達に聞いてみるのはどうかしら?
もう一つは━━━━━もう忘れちゃってるかしら?それなら、思い出して、とだけ言っておくわね。
それとも、まだ知らないだけなら━━━━━もう一回、自分の手札を見直しておきなさい。カードバトルなら、自分の手札を把握する事はとっても大事なんだから。

━━━━━それじゃあ、今回の放送はここまで。
もしもまだ生き残れていたら、六時間後にまた会いましょう』




そうして。

様々な思惑を乗せて、ゲームは更に加速していく。

その終着点も━━━━━その最深部に蠢く存在すらも、未だ明かさないままに。






※A-4の橋の修理が完了し、同エリアの禁止エリア設定が解除されました。
※繭が鯨木に頼んだ頼み事の内容は後続の書き手さんにお任せします。

603 ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:44:27 ID:8YOKizEM0
投下を終了します。

604 ◆DGGi/wycYo:2016/03/04(金) 15:11:21 ID:b2ZrrbAM0
少々加筆修正したものを再投下します 一応指定はなかったので修正スレではなくこちらで。

605第二回放送 -カプリスの繭-  ◆DGGi/wycYo:2016/03/04(金) 15:12:10 ID:b2ZrrbAM0
――白い部屋、大きな窓、繭。

カードに閉じ込められた魂は一度この部屋に送られ、すぐに別の窓へと再び閉じ込められる。
バタンと大きな音を立て、また一つの窓が閉じた。

やがて時を告げる重厚な針が二つ、頂上で重なる。
少女は手近な窓を一つ開け、“向こう側”へと語りかけた。


『――正午。こんにちは、とでも言えばいいかしら。二回目の定時放送の時間よ。
今あなたたちが何をしているかなんて関係ないわ。
大事な放送なんだもの、きちんと繭の話を聞きなさい。聞かない子はどうなっても知らない。
まずは禁止エリアの発表よ。


【B-8】
【D-3】
【F-6】


午後三時になったら、今言った三つの場所は禁止エリアになる。死ぬのがイヤならそこから離れるのをお勧めするわ。
それから、A-4に掛けてあった橋が直ったの。だからここの禁止エリアは解除してあげる。頭の片隅にでも置いておきなさい。

それじゃあ、きっと一番欲しがっているお話、ここまでに死んじゃったみんなの名前を言うわよ。
大事な人が死んだなら……この後の身の振り方は、当然分かっているわよね?


【ランサー】
【保登心愛】
【入巣蒔菜】
【雨生龍之介】
【蒼井晶】
【カイザル・リドファルド】
【範馬刃牙】
【高坂穂乃果】
【桐間紗路】
【花京院典明】
【キャスター】
【ジャン=ピエール・ポルナレフ】
【折原臨也】
【蟇郡苛】


さあこれで全員、14人よ。6時間前の分も合わせたら……残りは39人。
ふふ、まさかたった半日でこんなに死んでいくなんて思わなかったわ。
ここまで残ってきた人はとっても強いのか、誰かに守ってもらったのか、それともとっても運がいいのか、どうかしら。

でもあなたも、あなたも、そしてあなたなんかも。横に居る子に突然裏切られたりしないように気をつけた方がいいわよ。
もしかしたらその子は大切な誰かが死んだことで行動を変えた、なんてことがあるかも知れない。
他人が何を考えているかなんて、分かりっこないんだから。

それじゃあこの放送はここでおしまい。
次はまた6時間後、夕方6時。その頃に繭の声が聞ける子は……何人かしら。
半分? もっと少ない? 期待しているわ』


*   *   *

606第二回放送 -カプリスの繭-  ◆DGGi/wycYo:2016/03/04(金) 15:12:27 ID:b2ZrrbAM0

放送が終わり、再び部屋は静まり返る。
窓の向こうを幾つか覗いてみるが、繭にとってはなかなか愉快な光景が広がっている。
既に半日が過ぎたのだ。誰もが一人や二人、或いはそれ以上の知人友人等を失っていてもおかしくはない。
現に誰もが驚き、嘆き、涙を流し、放心する。彼も、そして彼女も。


「ふむ……」



繭のすぐ傍で、一つの声がした。

「何を見ているの?」

金髪の“男”はグラスに注いだワインを片手に、沢山の窓の中のある一つをじっと見ていた。
繭に声を掛けられた男は、にこりと微笑み返すだけだ。
ちらりとその窓を覗くと、参加者の一人である青年の姿が映っている。
名前は確か『風見雄二』だったか。

男の傍には、いつからそこに居たのか風見雄二に瓜二つな青年が立っていた。
白髪赤眼の彼もまた、沈黙を崩さない。

「…………」

繭には、彼らが何を考えているかは判らない。
この殺し合いを持ち掛けてきたのは金髪の男であり、ルール調整や舞台となる島の準備等をお膳立てしたのも彼だ。
だが何がそこまで彼、若しくは彼らを駆り立てるのか、どうしても理解することが出来ない。


ヴヴヴ、と何かが振動する音。
その発生源であるスマートフォンをポケットから取り出すと、男は誰かとの会話を始めた。


「ああ、君か――」



少女はただ一言、憎しみの混ざった声色で男の名前を呟いた。



「ヒース・オスロ……」



※A-4の橋が修理され、渡れるようになりました。
それに伴い、A-4の禁止エリア状態が解除されます。

607 ◆DGGi/wycYo:2016/03/04(金) 15:13:11 ID:b2ZrrbAM0
以上で修正版を投下終了します
ダメだ、ということでしたら様子を見て破棄という形で構わないです

608名無しさん:2016/03/04(金) 16:28:05 ID:KGnSVus.O
乙です
問題はないと思います

609 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:15:12 ID:3jm/cueA0
一旦、仮投下させていただきます。

610 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:15:53 ID:3jm/cueA0


 人との出会いは一期一会。


 時期や出会い方が違うだけで……最高にいい出会いもあれば。
 どんな相性のいい相手同士でも――最悪の破滅に導いてしまうこともある。

 だからこそ、彼女は人と人との出会いを大切にしていた。

 
 ――――『ここ』に連れて来られるまでは。



 ◆ ◆ ◆

611 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:16:51 ID:3jm/cueA0



 あれから、しばらく歩いた。

『あの場から逃げた自分は間違っていない』
 
 そう何度も心の中でいい聴かせながら歩く。
 自分の行為の正当性を肯定するかのように。
 

(近くには人は……いないようやね……)


 地図の示す通りであれば間違いはないはずである。
 希は大きく溜息を吐き、辺りを見渡す。
 ……人の気配は感じられない。

(中に誰かおるんかな……)

 左手で研究所の扉を開ける。
 ゆっくりと……出来る限り気配を消して、音を立てずに。
 左手に縛斬・餓虎を持ち、いつでも護身は出来るように準備はする。

(……ッ!?)

 最初の部屋で希が見たのは破壊された痕跡。   
 思わず、目を瞑りたくなるような光景。
 しかし、希は決して目を逸らしたりはしない。 
 
 あの化け物たちならばこれくらいの惨状を作り出すくらいはできそうだ。
  
 あの守護霊? 幽霊?のようなもので戦っていたポルナレフ。
 そのポルナレフの仲間らしき学ランの男――承太郎。
 その二人相手を手玉に取っていた名前がわからない眼帯の少女。
 そんな奴らの戦いを目の当たりにしたら、そんな考えに至ってしまった。
 
(……そんな人らには学校に近づいて欲しくないわ……)

 国立音ノ木坂学院。
 最初から決めていた絶対に行かないと決めていた場所。
 希は3年間その学校に通っていた。
 一度の転校もせずに、同じ学校に通い続けた。
 そこが自分の『場所』と初めて思える所だった。

 その『場所』で出会えた『奇跡』。

 この殺し合いでその『場所』も『奇跡』を奪われた。

「ホンマ……勘弁してほしいわ……」
 
 思わず、声に出てしまった。

 溜息を吐いて、希は思もう。
 あの少女―――繭と言ったか。
 あの化け物どもばかり集まるここにただの少女達を呼んで彼女は何がしたいのか?
 狩られるための小動物(ターゲット)として呼ばれたのか?
 必死に生きるために戦って死ねとでも言いたいのか? 
 だが今、そんなことを自分が考えても埒が明かない。
 ただ、あの繭という少女が非常にスピリチュアルな雰囲気を醸し出していたのはよく覚えている。


(……絵里ち、穂乃果ちゃん……ウチは『穢れた奇跡』にもう縋るしかないんよ……)


 この汚れてしまった手ではどんなに綺麗な『奇跡』を掴んでも汚れてしまう。
 ましてやこんな殺し合いで叶うような『奇跡』だ。
 
 だが……今はそれでも構わない。

612 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:17:35 ID:3jm/cueA0

 
 一人で研究所の奥をどんどん歩いていく。
 非常に静かな自分の足音だけが反響しているのだけがわかる。
 人の気配どころか、奥はまだ綺麗な状態であった。
 そして、未だにここが何を研究している研究所なのかもわからない。

(…………どういうことやねん)

 思わず声に出してツッコミたくなった。
 そう考えた時、ふと時間が気になった。
 放送の時間が近づいて、もうそろそろのはずだ。
 
 希は一先ず、近くの部屋に入った。
 その部屋にあったのはテーブルと椅子と一台のコンピューターだけであった。
 
(このコンピューター使えるんかな……?)
 

 腰を掛ける前にコンピューター周りを調べてみる。
 コンセントは差さっている。
 しかし、ディスプレイは真っ黒で自分の貌しか映さない。
 電源のスイッチらしきものは見当たらない。
 あるのはカードの挿入口らしきものだけ。

「………ほんまわけわからんわ……」

 ここに着いて何度目かの溜息が零れそうだった時であった。


  『――正午。こんにちは、とでも言えばいいかしら。二回目の定時放送の時間よ』

 
 ――二回目の放送が始まってしまった。

「…………」

 まずは禁止エリアが発表された。
 この研究所の隣のエリアが指定されていた。
 ここが禁止エリアでない、今はそれだけで十分だった。
  
  
  『それじゃあ、きっと一番欲しがっているお話、ここまでに死んじゃったみんなの名前を言うわよ』

 希は大きく息を呑む。

(絵里ちと穂乃果ちゃんは大丈夫やろうか……)

 会いたくない二人の顔が過る。
 それと同時に別のことを思ってしまった。

(……出来ればあの眼帯の女の子が神父さんや承太郎と呼ばれた人を殺してくれてるとええんやけどな)

 初めて人の不幸を願ってしまった。
 自分の胸の中で罪悪感に似たようなドス黒い感情が沸き上がっている。  

 固唾を呑み、繭の声に耳を立てる。

613 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:18:20 ID:3jm/cueA0


『ランサー』

 知らない名前。

『保登心愛』

 知らない名前。

『入巣蒔菜』

 知らない名前。

『雨生龍之介』

 知らない名前。

『カイザル・リドファルド』

 知らない名前。

『範馬刃牙』

 知らない名前。


『高坂穂乃果』


「……………え?」


『桐間紗路』

 ……………。

『花京院典明』

 ……………。

『キャスター』

 ……ことりの仇で自分の右手をこんなにした男。

『ジャン=ピエール・ポルナレフ』

 ……自分が見殺しにした男。

『折原臨也』

 ……………。

『蟇郡苛』

 ……………。

 その名前で死者の発表は終わった。
 もうその声を聴きたくなかった。

614 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:19:07 ID:3jm/cueA0

 だが、太陽が沈んだ。
 太陽が無ければ星や月はもう輝くことはできない。
 
 虚ろな目には黒いディスプレイに反射したただただ弱く惨めな自分の顔だけが映る。
 自身の頬に涙が伝っていくのが、はっきりとわかった。


「…………穂乃果ちゃん…………」


 μ'sのリーダー。
 自分の大切な友達。
 
 いつもひたすら真っすぐで皆を引っ張っていた。
 
 彼女には言葉に出来ないほどの感謝している。
 
 あの伸ばした手には皆が救われた。


 絵里もにこもことりも……。


 ここにはいない、海未も花陽も凜も真姫も……。


 自分だって。


 ――――彼女の大切なものはこの理不尽な場所でまた奪われてしまった。


 零れ落ちる涙が止まらない。
 溢れ出る感情を抑えきれない。


 色々な感情がぐちゃぐちゃに混じり合って自分でも分からない。
 
 
 放送が終わって数分経ってもその場を動けなかった。


 ただただその場から動きたくも何もしたくなかった。


「絵里ち……ウチはどうしたらええんや………」


 親友の名前が自然と出てしまった。
 会いたくないはずなのに今は無性に会いたい。
 会って何をしたいのか? 何を話したいのか? 
 それは自分でもわからない。

615 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:19:51 ID:3jm/cueA0


 その時である。
 

 彼女の目の前に突然起動し始めた。

(放送が終わって……動き始めたん……?
 最初からそう言う設定されてたんかな……?)

 しばらく、じっとコンピューターを眺める。
 すると、ディスプレイにこう表示された。

『IN
 RED……5
 BLUE……5
 BLACK……1
 WHITE……1

 OUT
 BLACK……1』

「………なるほど、カードの交換機っちゅうわけか………」

 ディスプレイに表示される文字列で希は理解した。
 恐らくは第二回放送までオミットされていたのだろう。

(ウチがいたからスイッチが入ったんかな? 偶然か? それとも……)
 

 そんなことはわからない。
 だが、それでも彼女は欲しかった。


 ―――力が欲しかった。


 ―――私たちの夢を守る力が欲しかった。

616 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:20:32 ID:3jm/cueA0
 

【D-4/研究所内/日中】

【東條希@ラブライブ!】
[状態]:精神的疲労(大)、右手首から先を粉砕骨折(応急処置済み)
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:縛斬・餓虎@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(8/10)、ヴィマーナ@Fate/Zero(4時間使用不能)
基本方針:μ's全員を生き返らせるために優勝狙い。
  0:カードの交換機を使う?
  1:集団に紛れ込み、隙あらば相手を殺害する。
  2:にこと穂乃果を殺した相手に復讐したい。
  3:絵里ちには会いたくない……?
[備考]
※参戦時期は1期終了後。2期開始前。



【カードの交換機について】
・研究所に配置されており、一人あたりのカードの交換上限はない。
・赤カード5回分or青カード5回分or黒カード2枚or白カード1枚で新たな黒カード1枚と交換できる。
・出てくる黒カードは完全にランダム。超当たりアイテムもあれば超ハズレアイテム、重複もありうる。

617 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:22:04 ID:3jm/cueA0
以上で仮投下終了となります。
問題点等がありましら、ご指摘ください。

618名無しさん:2016/03/08(火) 19:43:48 ID:yqs5xVlE0
仮投下乙です
カード交換機の「重複もありうる」は消した方がよろしいかと
ただでさえ書き手の意思次第でいくらでも贔屓が出来るシステムなのに、例えば神威純潔にエアにアヴァロンが一気に出た、のような超強化が簡単にされるようになるのは困りますので
もっと言うならカード交換機自体がキャラへの贔屓等の荒れる原因になりかねないので、ない方が良いのではとも思いました

本投下時にどうされるかは書き手氏に一任します

619 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 21:36:48 ID:MgQz1tlc0
ご指摘ありがとうございます。
カードの交換機の件は全カットし、誤字等を修正したものを後ほど投下します。

620 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:51:41 ID:4/9DJ61M0
遅くなりました 一旦仮投下します

621記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:52:54 ID:4/9DJ61M0
香風智乃という少女は幼い頃に母を亡くし、父と祖父、そして一匹のウサギと共に育ってきました。
友達と呼べる存在に出会えたのは中学の頃で、やがて自宅兼喫茶店には一人、また一人とバイトの少女がやって来ました。

チノの全てを変えたのは、その二人目のバイト――保登心愛であると言っても過言ではありません。

ココアはあっという間にチノに馴染み、血縁関係でもないのに馴れ馴れしく「姉と呼んでくれ」と頼んできたりもしました。
人懐っこい彼女は次々と友達を増やし、やがてチノを含めて全員の繋がりを作り上げました。

そんな彼女に対し、チノも最初はそっけない態度ばかりを取っていましたが、季節が過ぎ、徐々に心を開き始めていました。
ココアのことを、たった一度だけれど「お姉ちゃん」と呼ぶくらいには、チノ自身も知らず知らずのうちに懐いていたのかも知れません。

そんな矢先のことでした。


保登心愛が、死んだのは。



*    *    *

622記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:53:56 ID:4/9DJ61M0


二階にあるチノの部屋に集まった六人は、テーブルを囲むように座った。
行われているのでは合コンなどではない。情報交換だ。

とりわけ言峰綺礼の持っていた情報は、ほとんど市街地の範囲内から動いていない残りの彼らにとって非常に有用なものばかりだった。

一つ、殺し合いが始まって早々、DIOの館にてDIO本人と出会ったというもの。
ゲームセンターで起こった越谷小鞠殺人事件――その容疑者の一人であると折原臨也が示していた男。
ここでポルナレフとも出会い、館を破壊した上での逃走。もう彼は別の拠点に移っているだろうと綺礼は語る。

二つ、綺礼がポルナレフから聞かされていた『敵』の話。
正体不明のスタンド能力を使うDIOと、その配下、ヴァニラ・アイス。
吸血鬼であるDIOの血を分けてもらっていたが故に日の下に出られないが、空間を一瞬で飲み込む凶悪なスタンド使いだと言う。

三つ、逃げられてしまったが、東條希に出会ったこと。
元々はごく普通の学生だったにも関わらず、今は繭の思惑通りに“仕上がってしまい”その手を血に染めた少女。
そして彼女の友人の中には、キャスターの放送で呼ばれた者も居るという。
キャスターのことを知る綺礼が言うには、もう――。

四つ、今なお生き残っていてかつ綺礼の知る者たちに関して。
雨生龍之介とキャスター……残虐な連続殺人鬼。
ランサーにセイバー……誇りを持った騎士たち。
衛宮切嗣……手段を選ばないフリーランスの傭兵であり、平和島静雄とDIOに並ぶ、越谷小鞠殺人事件のもう一人の容疑者。

雄二はそれらをメモに手早く書き出すと、数枚の束になっている、びっしりと書かれたメモを手渡した。

「俺たちが持っている情報や仮説を全て書き記している。役に立つ筈だ」
「すまないな。しかし、これだけのものを書いて肩の傷は大丈夫なのか」
「ほとんど針目縫が来る前に書き終えてある。それに傷の手当はした。さっきのメモ程度ならどうということはない」

ならば良し、と綺礼もメモの束に視線を走らせる。

「そう言えば君の持っていたアゾット剣や紅林の持っていた令呪についての話がまだだったな」

その言葉に誰もが、特に雄二の意識が綺礼の方に向き――


――遮るように、第二回放送が始まった。





「……え」

最初に口を開いたのは、チノだった。
その意味は、この場に居る誰もが理解していた。

「リゼ、さん……」
「チノ……」

勿論リゼもよく分かっている、が。

「縁起でもないようなこと、言わないでください」
「!?」

623記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:54:40 ID:4/9DJ61M0
リゼと遊月が困惑する中、男たちは彼女の言っていることを瞬時に把握した。

確かに“似ている”。
すぐそこに居る天々座理世と先ほど放送を行った繭の声は、どういうわけか少々似通っていた。
そして、チノにとって大切な人が死に……それを、彼女は受け入れられなかった。
だから彼女は――

「あ、おい!」

横に居た遊月を押しのけ、部屋から走り去るチノ。
誰か追えばいいのに、そう思いつつ周りを見るが。
皆が同じだ。リゼは勿論、他の皆もどこか重苦しい雰囲気を漂わせている。

「くそっ」

仕方がない、と遊月はチノの後を追った。
少し遅れて、思い出したようにすっと立ち上がった雄二も部屋を発つ。


「……はぁ」

三人が部屋を出た後、リゼは仰向けに寝転がる。
そして目元を隠すように顔に腕を乗せ、誰ともなしに語り始めた。

「ココアは、何というか……ヘンな奴だった」

二人は黙って話を聞いている。

「私も、チノも、シャロも、千夜も、マメの二人も……みんなに分け隔てなく接してさ。
しかも出会ってすぐからそうだ。傍から見れば、馴れ馴れしいもいいところだ。
……私とのファーストコンタクトは、ちょっとアレな形だったけど」

思い出す。あの時は下着姿に拳銃という、あまりにも奇抜すぎる対面の仕方だった。

「でも……あいつが居て、シャロが居て、みんなが居て。
ちょっと平和ボケしてるって言われるかも知れないけど、それが当たり前の日常だった」

図々しいとは分かっていても。

「正直さ、ここでチノがいつものようにコーヒーを淹れていて、最初の放送で誰も呼ばれなかった。
もしかしたらこのまましばらくしたら千夜がシャロを連れて来てさ、ココアはいつもみたいに迷子になりながらもここに来て。
そうしたら、みんなで一緒に帰れるって――」

思っていたのに。言葉の端は、嗚咽で途切れた。

畜生、私はあいつらの中では一番年上なのに。一番しっかりしなくちゃいけない筈なのに。


「……すまない、一人で色々喋ってしまった」

気にするな、と返す承太郎。
彼とて同じだ。

「(ポルナレフ、花京院……それに……)」

承太郎とて仲間を喪うことは初めてではない。けれども、決して慣れているわけでもない。
ただ目を閉じ、奥歯を噛み締め、彼らの顔を思い浮かべた。
目の前で針目縫に殺されたポルナレフ。どこで誰に殺されたのか、肉の芽に操られていたかさえ分からない花京院。それに、蟇郡苛に折原臨也。
……最後の一人は思い浮かべるべきか少し考えたが、気にしないことにする。

泣き叫びはしない。どうして死んでしまったのかなどとは問わない。
ただ、心の中で別れを告げた。今はそれだけだ、と判断した。

目を開けた承太郎は、そのまま綺礼に視線を移す。
ペンを走らせているそのメモは、恐らく魔術についての記述だろう。

「なあ、神父さん――いや、言峰綺礼」
「改まって何だ」

筆を止め、承太郎に顔を向ける。

「この放送で色々気になることはある」

蟇郡苛が死んだ。
折原臨也が死に、一条蛍が生きている。
キャスターも、蒼井晶も。他複数の危険人物が死んだ。
そして、衛宮切嗣や平和島静雄の名前はまだ挙がっていない。

これからどうするだとか。
『DIOが平和島静雄を洗脳した』という臨也の推理についてだとか。
臨也が死んだ今、蛍の安否はどうなっただとか。

「だがその話は後でする。……天々座、少し席を外すぞ」
「ああ、分かった」

来い、と綺礼に促し、承太郎は部屋を出た。

624記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:55:32 ID:4/9DJ61M0

「……千夜はどうしてるんだろう」

一人になった部屋で、リゼはボソリと呟いた。
千夜にとって、ココアは親友、シャロに至っては幼馴染だ。

たまにネガティブ思考になる彼女だ。もしかしたら。

「(考えないでおこう)」

今はしばらく、一人で居たい。


*   *   *


チノの向かった先は、リゼたちの居る部屋のちょうど真上――ココアの部屋。
息を切らせ、扉を開ける。

「ココア、さん」

誰も居ない。

「居るんですか」

ベッドが膨らんでいる。

「ココアさん、起きてください」

布団を捲る。

「っ……」

うさぎの人形が入っていただけ。

ガチャリ。誰かが入ってきた。

「居た……」

息を切らせて、彼女は入ってきた。
涙でぼやけた視界が、その姿を捉える。

「ココアさん、今までどこに居たんですか!」
「お、おい……」
突然チノに抱きつかれたココア――ではなく紅林遊月は、少し考えて、理解した。

自分が今着ている服は、ラビットハウスの色違いの制服。
バータイムの服を除けばチノの水色、行方不明のココアのピンク、リゼに借りている紫。
更に、自分の声は“保登心愛”と少し似ているとチノは言っていた。
まさか、私を“ココアさん”だと――?

「違う、私は“ココアさん”じゃない」
「今度は何の冗談ですか……私の部屋にリゼさんたちも居ます。早く会ってあげてください」

落ち着け、と言わんばかりにチノの顔を真正面から覗き、手をあてる。
私は紅林遊月だ。決して保登心愛ではない。

「私の顔に、何か付いてますか」
「付いてるも何も、私は……」

「その辺にしておいた方がいい」

開きっぱなしの扉の外から、第三者の声が聞こえた。

「ちょうど良かった。風見さん、チノが……」

焦る遊月を制止するように、雄二は言う。

「チノ、部屋に戻っていてくれ。彼女を連れてすぐに戻る」
「でも、ココアさんが」
「五分だ。五分だけ、時間をくれ」

彼がそう言うとチノは大人しく引き下がり、部屋を出た。
パタンと扉が閉まると、雄二は遊月に向き直った。

「遊月、少しの間でいい。チノに合わせてくれないか」
「……え?」
「何かおかしいところでもあるか」

おかしいも何も。
何故私がそんなことをしなければいけないんだ、というのが本音だった。
チノ自身に僅かな苦手意識を持ってしまっている私が。

「私に、ココアさんの代わりなんて務まらないよ」
「判っている。それでも頼みたいんだ」

冗談だろう、と言いたくなる。
だが、彼の目は冗談を言う人のそれではない。

「……もしかしてだけど風見さん」
「何だ」

今から思い返しても、何故そんな質問が出たかはよく分からない。

「風見さんにも、姉か妹、居たの? それに、入巣蒔菜って確か」

その質問に対し雄二は、と短く肯定した。


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