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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

129小閑者:2017/08/06(日) 23:56:28

 間髪入れずに飛んできた執務官補佐兼管制官エイミィ・リミエッタの罵声にクロノが怯む。
 相手の目的が分からない以上、この場に留まり交戦を続けるとは限らないのだ。自分にとってリスクが高いと判断すれば逃走するのは当然である。
 得られた情報として魔法が使えない可能性が高かったため逃げ場の無くなる魔法を選んだ積もりだったが、暗闇に慣れた視力には炎の明かりは眩し過ぎた。普段のクロノであればこんなミスはしないがやはり恭也の戦い方が異質に過ぎたため動揺していたのだ。勿論、言い訳にしかならない事は承知しているため口にする積もりは無いのだが。

 待て、魔法が使えない?

 エイミィの続いて発せられる筈の批難の言葉が届く前に、クロノは魔法杖を、屋上において恭也があの位置から身を隠せる唯一の場所である給水タンクに向ける。すると、磁石の同極が弾かれる様に上着を一枚減らした恭也が現れた。如何に非常識な身のこなしが出来るからと言って高層ビルの屋上から逃げ出す事は出来なかったのだ。ただし、現れたと言っても両手を挙げてなどと殊勝な態度ではない。
 恭也は給水タンクから飛び出すとフェイントを織り交ぜながらクロノとの距離を猛烈な勢いで詰めていった。
 焦ったのはクロノである。先程の火炎魔法で自身の不利は理解出来ている筈なのにこれ以上無駄に足掻く意味が分からなかったのだ。勿論、反撃を想定して既に詠唱は済んでいるが、無駄な争いはクロノの好むところではない。目的は時間稼ぎなのか?

「これ以上抵抗するな!大人しく投降しろ!」
「馬鹿か貴様は!?何処の誰とも知らん様な子供に殺傷能力の高い武器を突きつけられた状態で大人しく出来る奴など居るものか!」

 無駄を覚悟で呼びかけたクロノの言葉に、きっちりと返答する恭也。勿論、この間も距離を詰めるために走り続けている。クロノは想定外の被疑者の台詞に思わず言葉に詰まるが言い負かされる訳には行かない。誰が子供だ!っじゃなくて!

「お前が攻撃してこなければこちらからも攻撃しない!」
「貴様が馬鹿なのはよく分かった。先程までバカスカ攻撃しておいてその台詞を信じる奴がいるなら紹介してくれ。詐欺の鴨にしてやろう」
「う」

 やはり無理だった。
 恭也に対して安全と言える距離があるかどうか分からないが、少なくともあと僅かで瞬殺されかねない距離(背後から近付いた時のそれだ)に達しようとしていたため、思考を一旦保留したクロノは飛翔して距離を稼いだ。
 それにしても“鷺の鴨”とは何だろう?どちらも鳥類とは言え別の種類の筈なんだが。

「分かった、高所からで悪いがここでデバイスを仕舞おう。これなら良いだろう?まずは話を聞いてくれ」
「なるほど、貴様の事を誤解していた様だ」
「やっと聞いてくれる気になったか」
「貴様が馬鹿なのではなく、俺を馬鹿にしていた訳だな」
「何故そうなる!?」
「デバイスとやらがなくても魔法を使える事位知っている」
「では、どういう条件なら話を聞いてくれるんだ?」
「そうだな、せめて俺にも反撃の機会はあるべきだ。屋上に降りろ。距離は俺が先制した時の倍の間隔を空けても良い」
「飲める訳無いだろう」

 話し合いに応じようと言う恭也の条件をクロノは即答で拒否した。
 デバイス無しで魔法を使用できる事を知っていると言う発言は、以前から魔導師との接触があった事を意味する。あそこまできれいに誘導弾を躱して見せた恭也に対して何を今更、と思うかもしれないが、「初見で躱すせる者が絶対に居ないか?」と問われた時に最前線で戦ってきたクロノは「存在する可能性はある」と回答するだろう。ユーノたちの「絶対に居ないとは言えない」と言う答えとは一見同じでありながら大きな隔たりがある。
 そして、“魔法について何らかの知識を得ている”被疑者が提示してきた条件だ。それはつまり、恭也にとって、仮にクロノが魔法を発動しようとした場合に対処できる距離であり、外的要因などで事態が悪化した場合にクロノを制して人質に出来る距離だと考えるべきだ。先程までの遣り取りが恭也の運動能力の限界だとは限らないし、飛び道具を所持している可能性も否定できないのだ。


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