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仮投下スレ

1名無しのゾンビ:2023/02/02(木) 20:16:09 ID:30586xrM0
仮投下スレです

2 ◆dxXqzZbxPY:2023/02/02(木) 23:56:33 ID:roOgfZSI0
(まだ着かないのか…やっぱり這っている動きだと遅くなっちゃうか)

現在、虎尾茶子は何とか商店街に向かって這い続けている

結局怪我を治す為には商店街に行くしかないと考えたのだ
実は高級住宅街の方に行って、治療用具を貰うというのも考えた、神社も近いだろうとも考えた、だがその場合、無事である薬品や包帯を探すのに手間がかかると考えたのだ

その点、商店街の薬局なら治療出来る手段は多い、地震で壊れていたとしても壊れていない物も多くあるはず

そう考えて、商店街に行く事を決めていた途中であった。



パァン!!

…銃声が響いたのは



…もしかしたらアイツが追ってくる可能性はあるんじゃないかと思っていた
でもこんなに早く来るとは…本当に…

「…逃げ切れると思っていたのかぁ?」

あのクソジジィがこんなにも早く…!!



薩摩は遠藤を撃った後…ふと考えた
何故3人が自分の素晴らしい計画に賛同してくれなかったのかを
…まずそもそも『この計画に穴があるから』という思考になるんだったらそもそもこんな計画を立てないだろう
では次にどんな考えに至ったのか?それは

『同志が少なかったからだ』

この計画を言っているのは今の所、自分一人だけだ
先の三人との接触で異能には色々な物がある事が分かった、戦闘に使える物もあれば、気づくのが難しい異能もあると
そういう異能を持つ人もいる可能性がある以上、一人だけで盛大に演説をしても多くの人の心を動かす事は無理かもしれないと考えた

ならば他の人と共に演説したらどうだろうか?
ましてや自分の異能の力が分かっていない人が共に演説すれば同じような人も賛同することが出来るかもしれない
放送室に早く行きたかったが…演説の成功率を上げた方が、計画が実現する可能性は増す
そしてその為に誰を使うか?簡単だ、逃がしたあの女を使えばいい
あの女は愚かにも血を流しながら逃げていた…追跡する事は容易いだろう


…その結果である、今、彼女は背後を取られてしまっている

「…さて、君にも改めて聞いておこう、俺の理念に賛同して、協力してくれるよね?そうすれば今逃げた事を不問にして同志として共に行動しよう…断ったら犯罪者としてあの2人と同じ場所に行く覚悟をしとけよ?」

この選択を突き付けるのはさっきまでと同じだ、違うのはもしこれでNOと言った場合、足を撃ち抜いて、木刀を取り上げて強制連行するつもりだ。そして放送の際に頭に銃を突き付けて演説させる

(…最悪だ)

逃げる前と異能の把握と怪我の状況は残念ながら変化していない、つまり今でも勝てる相手ではない
オマケに、今の牽制の銃は左腿を少し掠めて…血が流れている、勿論これは偶然である、本当は木刀を弾き飛ばし武器を奪うつもりであったのが下手だったためには全く別の場所に銃弾が飛んで偶然掠めただけである。
だがそれでも当たったという事実は立ち向かうという想いの喪失を促すのは充分であった
だからと言って計画に賛同するつもりは0だ、こんないかれたジジィの計画に賛同したら自分まで同じ奴と思われる、そんなのはごめんだ

「…いいよ、殺せば?」

彼女は観念したのだ、あの2人と同じように自分が命を終わらされる事を覚悟した

だからこの一言は単なる負け惜しみにすぎない

「あたしの命でこのパンデミックが終わるなら上等だ」

…そのはずだった

「…は?」

今の声は…何だ?
豆鉄砲をくらったような声を上げていて…振り向いてみて様子を見たら
本当に唖然としていた…それと同時に銃口も震えていた

「まさか…!!お前が女王感染者…!?」

そうだと言えばもしかしたら逃がしてもらえる…いや
…笑えてきた、もしかしてこの男、このパンデミックについて一番重要な事を考えていなかったのか!!

3 ◆dxXqzZbxPY:2023/02/02(木) 23:57:39 ID:roOgfZSI0
「残念ながら…分からないっス…あ〜でももしかしたらそうかもしれませんね?そうじゃないかもしれませんが…どうでしょうか?撃ってみれば分かるのでは?このパンデミックが終わるかもしれませんがねぇ〜」

彼女はいざという時は賢い知力を発揮する事が出来るのが特徴だ、たとえ頭が朦朧としたとしても生き残る思いを胸にその特徴を生かしたゆさぶりを仕掛けた、その結果…薩摩はかつてない程動揺していた、先程までの調子に乗っていた顔が嘘のようである。
そう、彼は気づかされた、彼の計画の重要な欠陥を…そもそも欠陥だらけ?それはそうだが
女王感染者を守ってパンデミックを日本に広める…その為に邪魔者は残らず撃つ
だがその為には女王感染者を早く知らなければならなかったのだ
そうでもなければどんな邪魔者でも銃で正気感染者を殺す事なんて出来ない…パンデミックが終わってしまうからだ

…この欠陥の問題は薩摩の何よりも愉しみとしている銃を簡単に撃つことが女王感染者を知る事が出来るまでは出来なくなってしまう事である。だからこの欠陥は他の欠陥と違いすぐ気づくことが出来た、いや、気づかされてしまったのだ。

そして今この男はこの瞬間茶子を殺すことは出来なくなってしまった
…元々彼は元々茶子を殺すつもりはなかった、先程説明したように、連れていくつもりだったからだ
だがこの時点での一番の問題は自分の望む世界を作る事に対しての大きな障害を気づかされたことによる動揺であった

(…今しかないね)

八柳新陰流の使い手として運動をしてきた事、剣道をしてきた事は伊達ではない
今のあの男は唖然として…恐らく今の私がどんな行動をしても気づかれないかもしれない…剣道の経験がそう自分に告げていた
だとしたらブッ倒すか?…いや、唖然としていたのが目を覚めたらもしかしたら拘束する為に腕や足を撃たれる可能性はあるよね?
…この負わされた傷の分ぶちのめしてやりたかったけど仕方ない、逃げよう



…どれだけ長い時間、気を取られていたのか、彼にはもう分からない
ただ、気がついたら、目の前に虎尾茶子はいなかった

「クソ、クソクソクソクソクソォォォォ!!」

今思えば手足を撃って拘束するぐらいは出来るはずだった
だが自分は呆然としたまま見逃してしまっていた
これではここに来た時間が無駄になってしまっただけではないか

…だがその考えはすぐに一瞬で吹っ飛んだ

「チクショォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!!何でだよォォォォォォォォ!!」

銃を撃つのに制限がかかってしまうという事実に対する怒りで

「クソクソクソクソクソがぁぁぁぁ!!」

近くにいたゾンビを指の銃で撃ちまくりながら怒り狂う、狂い続ける

「ハァ…ハァ…ハァ…」

4体ぐらい撃ち殺した後にようやく冷静さを取り戻した

…こうなるともし放送をしたとして、それに反発する奴が現れたとしても…殺す事は出来なくなってしまった、つまり力による服従を促せなくなってしまった
そんな状況で本当に特殊部隊に勝てるのか、考えなければいけなくなってしまった

…そもそも団結した所で勝てるのかを考えていないあたり、まだ計画の成功は諦めていないようだ…

一刻も早く女王感染者を知る必要が出てきた、だがそれはどうやればいいのか、見当がつかない、研究所に行けば分かるのか?ならそちらへ早く行くべきなのか?…仮に行った所で知識がまるでない俺に本当に分かるのか?
となるとそれまで放送は後回しなのか?…だが女王感染者を知る事が出来るまでに何人生き残れるのか?少なくなってしまっていたら…勝てなくなってしまうんじゃないか?

そして何より

それまで俺はゾンビしか撃てないのか?

結局何も考えずに邪魔な奴を、ムカつく奴を、撃ちたい奴を撃ちまくる快感はこの状況でも味わえないのか?



薩摩はもう狂い叫ばなかった、叫び疲れたのだ

ただ、近くにいた6人くらいのゾンビは全員原型もない程にハチの巣になってしまっていた

…こうして有頂天になっていた者に与えられし女王感染者を知る事が出来るまでのロスタイム、果たしていつまで続くのだろうか?

4 ◆dxXqzZbxPY:2023/02/02(木) 23:58:27 ID:roOgfZSI0

【D-4/草原/1日目・黎明】
【薩摩 圭介】
[状態]:左頬にダメージ。計画の実現が難しい事が分かった事と銃を簡単に撃てなくなってしまった事に対してイラつきが止まらない
[道具]:拳銃(予備弾多数)
[方針]
基本.銃を撃つ。明日に向かって撃ち続け…たかったが考えなければいけなくなってしまった。
1.結局考えて銃を撃たなきゃいけないのかクソォォォォォ!!
2.放送施設へと向かう?それとも研究所へ向かう?そもそも研究所ってどこだ?
3.協力者は保護、それと同時に今直面している問題を解決できる方法も話し合いたい
4.放送によって全生存者に団結と合流を促し、村を包囲する特殊部隊に対する“異能を用いた徹底抗戦”を呼びかける(女王感染者を知った後にした方が良いのかを考えている)
5.それから包囲網の突破によって村外へとバイオハザードを拡大させ、最終的には「自己防衛のために銃を自由に撃てる世界」を生み出す。
6.それまではゾンビ、もしくは確実に女王感染者じゃない人(もしかしたら特殊部隊の奴等なら…)を撃ち続けて気晴らしをする

[備考]

※交番に村の巡査部長の射殺死体が転がっています。
※薩摩の計画は穴だらけですが、当人は至って本気のようです…が、少しだけ穴を認識しましたが、諦めるつもりは毛頭ありません。
※放送施設が今も正常に機能するかも不明です

「…ザマァみろって奴っす」

長い間唖然としていたな、あのジジイ…どんだけ自分の計画が成功するって思ってたんだ、本当トリガーハッピーだな、今頃どう行動するのか考えてるんだろうなと思うと笑える…が、それと同時に

「この事をもし早く言っていたら臼井くんも遠藤君も無事でいれたのかもしれないと思うと…申し訳なかったなぁ」

けっこう後悔したと同時に…その二人のうち何方かが女王感染者だったら良かったのにな、とも思った…そしてゾンビ達も恐らくより八つ当たりで撃たれてしまうんだろうなぁ…と思うと申し訳ない気持ちにもなってしまう
だが今の自分にそういう事を考えている時間はないと考えて…少しでも早く着く為に這って動く事をやめない事にした
その後茶子は、先程は逃げる事に夢中で思いつかなかったが、服などを破いて包帯にして出血を抑える事で血の跡をなくしながら歩き続けて…ついに目的地である商店街に辿り着けたのであった

「…さて、まずはケガを治すためにしっかりした包帯を買いに薬局いこっか、その次はカバン…それから食べ物も集めようかな」



…こうして危険な狂人から逃げきれた者に与えられし商店街に危険人物が入ってくるまでのフリータイム、果たしていつまで続くのだろうか?

【E-4/商店街の入り口/1日目・早朝】
【虎尾 茶子】
[状態]:左肩損傷、左腿から少し出血←服で縛って抑えています
[道具]:木刀
[方針]
基本.ゾンビ化された人は戻したいが殺しはしたくない

1.まずは薬局で傷を治してから…今後を考えようかな、それから食事もしておこうかな
2.神社に行って犬山はすみやその家族を保護する、食べ物も持って行こうかな?
3.自分にも異能が?…戦闘に使えると嬉しいっスね
4.あのクソジジィ、ザマァないっス…ゾンビ達や遠藤君達には本当に申し訳ないなぁ…

[備考]
※自分の異能にはまだ気づいていません。

5 ◆dxXqzZbxPY:2023/02/03(金) 00:03:05 ID:D1Jo.14s0
以上で投下を終了します。本スレの◆H3bky6/SCYさんの『逃亡後に特に治療もしてないのに回復しているように見える点』についての答えは、這ってでも進み続けるという選択肢を彼女は取る事にしました

後すみません、血の跡をなくしながら歩き続けて…は血の跡をなくしながら這い続けて…に後で修正します

6 ◆H3bky6/SCY:2023/02/03(金) 00:42:29 ID:TBipWtAM0
再修正乙でした

確認しましたがこれで問題ないかと思います、修正ありがとうございました

7 ◆2dNHP51a3Y:2023/07/22(土) 20:28:58 ID:tyGxncbc0
予約分ですが、内容が内容なので一旦こっちで仮投下させていただきます

8未来福音 ◆2dNHP51a3Y:2023/07/22(土) 20:30:00 ID:tyGxncbc0

『――ったく。証拠潰しのためとは言え、ちとやりすぎたか』

ノイズが走る記憶の残響の中唯一鮮明に聞こえるもの。
気怠そうに吐き捨てる、そんな男の声。

『生き残りか。目撃者は一人も生かすつもりはなかったが……』

それは、どのような人物だったのか。
黒い髪なのか、金色の髪なのか不明瞭な髪の色。その瞳は昏く、そして赤く燃えるように輝いて。
特徴的なのはその右足。義足なのだろうか。『鏡のような鉱石』で構築された、まるで――

『このまま代わり映えの無い未来はつまらん、せっかくだ。"保険"は掛けておくか。』

黒い煙が、僕の口の中に入り込む。
苦くて、それでいて懐かしいような。
力が、抜けていく。意識が曖昧に、微睡む暗闇へと落ちてゆく。
ドクン、と大きく心臓が鼓動を鳴らす。

『"マルタ実験"。この言葉を刻んでおけ。最も、当分お前はそれを思い出すことはないがな。』

その言葉の意味を、当時の僕は何も知らない。

『ついでに流し込んでおくこの知識は特別サービスだ。"思い出した時"に、交渉の道具として役立つだろう。』

だけど、その男の人は何故か微笑んでいた。
何か期待しているように思えた。
炎の向こうから、豹の顔をした兵隊さんみたいなのが数人、やってきた。

『※※※※!※※※※※※※※!』
『おっと、どうやら余計なアオハル女が追っかけてきやがった。』

豹顔の兵隊さんから何か報告を受けたのか、男の人は僕に手を降って、兵隊さんと一緒にその姿が黒い煙になって消えていく。

『もし生きていたら、答え合わせはしてやるさ。じゃあな。――その生に幸あらん事を。』

僕はこの記憶を忘れるだろう、思い出さないだろう。
だけれど、確かなことだけは一つ。
『■■■■■』という真名を名乗ったあの男は、人間ではなく―――








その答えにたどり着くことなく。そして僕は、記憶を失った。

9未来福音 ◆2dNHP51a3Y:2023/07/22(土) 20:30:30 ID:tyGxncbc0


ほんの少しの小休止。割れたガラスが散らばった店の中で私は項垂れている。
あいつに話しかけるのも億劫になっている自分自身が情けない。
感情の行き場をなくして、あの有様なのは、私の悪癖なのだろう。

「……ばかだなぁ、わたし。」

心地よいはずの朝日の暖かさが、気持ち悪くへばり付いてくる。
本当は、こんな事している暇なんて無いのに。
早く、先生と助けに行きたいはずなのに。

――※※※※※※※※※※※※※

ノイズが。耳鳴りが。私の思考の邪魔をする。
頭の中がかき回されるような気持ち悪い感覚。
頭に血が回らないのか、クラクラと視界が定まらない。

――※※※※※※※※※※※※※

スヴィア先生が攫われた。私は何も出来なかった。
結局余計に混乱させただけ。
あいつのせい。もっと良い作戦あったのに、信じた私がバカだった。
違う、私のせいでもあるのに、彼一人だけに責任を押し付けて。

――※※※※※※※※※※※※※

……あれ。そういえば、私。何で女王感染者を探そうとしてたんだっけ。
そういえばだった。私は後悔したくないなんて思いで来たのに。
結局私は後悔し続けてばかりの人生で。

――※※※※※※※※※※※※※
――※※※※※※※※※※※※※

思考が、定まらない。
私は、一体。何を、したかったの。
そうだ、先生。先生を、助けないと。
あいつには、頼らない。私、一人で。

――※※※※※※※※※※※※※
――※※※※※※※※※※※※※
――※※※※※※※※※※※※※
――※※※※※※※※※※※※※


急がないと、行けないのに。足が、動かない。
あれ、私。何で、倒れて。
力が、抜けて。なんだか、眠たい。

こんな所で、立ち止まっちゃ。だめ、なのに―――。


「せん、せい。いか、ない、で……。と、わ、いかない、で………。」


――※※※※※※※※※※※※※
――※※※※※※※※※※※※※
――※※※※※※※※※※※※※
――※※※※※※※※※※※※※
――※※※※※※※※※※※※※
――※※※※※※※※※※※※※
――※※※※※※※※※※※※※
――※※※※※※※※※※※※※
――※※※※※※※※※※※※※
――※※※※※※※※※※※※※
――※※※※※※※※※※※※※
――※※※※※※※※※※※※※

10未来福音 ◆2dNHP51a3Y:2023/07/22(土) 20:31:00 ID:tyGxncbc0
● ● ●

「………あれ?」

目を開けると、私は教室の机で眠りこけていた。
眼の前の風景はたくさん並ぶ椅子と机、そして大きな黒板。窓から差し込む陽光。吹き抜ける心地よい風。
間違いない、ここは私の過去の風景。かつて通っていた学校の教室の中。

「……これは、夢?」

どう考えてもおかしい光景。まるで用意された舞台に出演した役者のような違和感。
明晰夢、というものを昔聞いたことがある。夢であると自覚できている夢の事らしい。
つまりこれはそういうものなのだろう、けれど太陽の暖かさや風の感触は余りにも鮮明。
夢なら早く覚めて欲しいと心底うんざりしそうになった途端に、かつての思い出がフラッシュバック。

叶和が居たから私の人生は色づいた。
全てがモノクロだった景色に始めての色彩をくれた。
あの子との思い出。始まりから、終わりまで。何もかもが。
リフレインして、まるで映画のように流れる光景が、懐かしくて、苦しくて。

「……あ。」

涙が、流れている。懐かしさで、思い出が瞳から溢れ出して。
ああ、そうなんだ。私はそうだったはずなのに。
後悔したくないからと、突き進んで突き進んで。
私は、強くないはずなのに。
我慢、しすぎたんだ。

本当なら、こんなはずじゃなかったんだ。
叶和に謝って。許してもらえても許してもらわなくても。
それで、終わったはずなのに。
なんで、こんなことになったのかな。
わたし、もう。楽になっても。






「――ようやく話せるね、雪菜。」

11未来福音 ◆2dNHP51a3Y:2023/07/22(土) 20:31:53 ID:tyGxncbc0


「……え?」

ヒューッっと風が吹いて、カーテンが靡いて。背後で響いた声に振り向けば。
私の大切な友達の姿が、そこにあった。

「なん、で……。」

嗚咽が止まらない。涙がとめどなく溢れ出てくる。
だって、ありえないはずだ。私はあの娘に何をしてしまったのか。それを理解っている。
これが夢だと分かっていても、泣き出したくなる。
だって。
だって。
だって。

「……って言っても、雪菜にとっては数時間ぶりだと思うけど。」

あの時の姿で、私に殺される前の姿。病気でやせ細ってしまう前の。
大切な、親友の姿。

「……と、わ。」
「……ふふっ。」

小悪魔っぽく舌を出して微かに笑う彼女の姿。
そう、これは夢だ。夢の世界なんだ。だからあの彼女は私の妄想でしかないはず。
妄想のはずだと、思いたかった。
だって、あの娘は、愛原叶和は私が殺してしまったはずで。あの娘は私を恨んでいるはずで。
あの時の言葉だって、本当は私の思い込みかもしれなくて―――。

「ほんっと、雪菜は変わらないよね。」

そんな私のぐちゃぐちゃな思いは、叶和にはお見通しだ。
だって、これでも数年の付き合い、私のことなんて嫌というほど分かってる。
分からないはずがないのだ。

「役に嵌るとそれっきり。懐いたらそのまま依存しちゃいそうな危ない子。思い込んだら一直線の突拍子。『そういうところだよあなた』なんてまあ陰口叩かれても仕方ないというか。青春デビューと一歩踏み出したら盛大にすっ転んだけど結果的に成功した子とかそんな。」
「あぅ……。」

……なんか途中から辛辣になってない?。
でも私って面倒くさいって思われてだろうし。仕方ないのかな本当に。

「……あははっ。雪菜、顔赤いよ?」
「えっ、あっ、これは、そのっ……あはは……っ」

指摘されて、始めて自分が気恥ずかしい表情だということを自覚したのは数十秒後。
真正面から指摘されるのは恥ずかしくて、もじもじしながらもぎこちなく。

「やっと……笑ってくれた。」
「……あ。」

叶和に言われて。そういえばと気づいた。久方ぶりに笑えた。
本当に大したことのない事なのに。笑うことが出来た。
先生の時でも笑顔なんて見せなかったのに。
そして叶和は、何故か気が緩んだのか、こんな事を喋りだしていた。

「……雪菜に話すのは気恥ずかしいんだけどさ。……ずっと見てたよ。自棄になって女王感染者を探そうとしてたこと、雪菜そっくりな抱え込みがちな大人にシンパシー感じてたこととか。」

ずっと見ていた。ずっと見ていたのだと、言われて。こっちのほうが気恥ずかしくなる。
つまり、私が叶和を殺して、自暴自棄になっていたのをずっと見られていたというのだから。
ええとつまり、それは要するに先生に会って気を許した所とか特殊部隊の人相手に啖呵切ったりした所も。

「叶和。それって世間一般だとストーカーって言われても仕方のないことだよね。」
「……真っ当に何も言えません。幽霊になって調子乗ってました。あと雪菜がやらかしそうなの見て思わず声出してしまいました。」

指摘された直後に親友は平謝りした。とどのつまり、あの幻聴だと思っていた叶和の声もそういうことなのだろう。というかさらっと幽霊って単語出てきたということは一部始終見られてたじゃないですか幾ら友人相手だとは言え恥ずかしすぎる。
でもね、叶和。そう思ってくれたことが私にとって一番嬉しいことなんだよ。

「……友だちの多い世渡り上手、青春大好きお節介焼きの叶和だったら、仕方のないことだよね。そんなあなただから、私は一度救われたんだよ。」

そういう貴女だから。私は、哀野雪菜という一人ぼっちの少女は生きても良いと思えたから。

「……雪菜ったら。ほんっと。ほんとにね…………。」

叶和の声が、震えている。これから告げる事を、怖がっている。
うん、そうだよね。それは私も同じだから。だから、吐き出しても、良いんだよ。
言わなくても、分かってくれるとは思ってる。

12未来福音 ◆2dNHP51a3Y:2023/07/22(土) 20:32:24 ID:tyGxncbc0


「ごめん、なさい……。雪菜の気持ちを知らないで。嫌なこと言って、突き放したりして、ごめん……っ!!!」

泣いている。私にだけは、泣き顔なんて見せなかったあの娘が。
私にだけは、こんな顔見せなかったのに。
あの時だって、涙一つも流さなかったはずの、愛原叶和が。

「怖かったの……! 雪菜に嫌われたままだったのが……! 忘れたかった、思い出も何もかも封じ込めて全て……! そうしたら、雪菜をこれ以上嫌いにならなくてすむから……!」

結局のところ、私と同じく臆病だったのだろうか。
思い出に残る輝いていた彼女の姿はなく、さっきまでの私のように、自分の犯した罪を許されたくて懺悔するしかなかった、ただの普通の女の子だった。

「……だから、これ以上、あたしを嫌いにならないで……ごめんなさいっ……ごめんなさいっ………!」

同じだったんだ。私も、叶和も。仲直りしたかったんだ。
だけど、それはウイルス騒ぎなんて言う対岸の火事に巻き込まれて、こんな事になってしまった。
私の罪が叶和を殺してしまったことなら、叶和の罪は私を突き放したこと。
泣きじゃくる叶和の姿は、私の心まで締め付けてる。私のせいでもあって、あの娘の責任でもあって。

『……もし、後悔したくなんて無いって、失いたくないものがあるって思うのなら。』

だったら。私がするべきことは。

「………さない」
「雪菜?」

押し倒すように、私は叶和の身体を抱きしめた。
夕日のあたる床板の感触が心地よい暖かさだった。
叶和の身体は、熱かった。
心臓の鼓動が、はっきりと聞こえる。

「貴女を一生、許(はな)さない。」
「―――――ッ。」

愛原叶和。かつて私を光に導いてくれたプリマステラ。
そして、私に絶望を押し付けた流れ星。
でも、私にとって大切な過去は色褪せない。
全てがモノクロ景色だったとしても、その色彩だけは誰にも奪わせなかった。

「……いいの?」
「うん。」
「また、友達だと思ってくれるの?」
「まだ、友達のままだよ。……ずっと、ずっと。」
「……本当に?」
「本当。この言葉は決して、演技じゃない。」

叶和。私はね。貴女を友達じゃないなんて、一度も思ったこと無いよ。
ずっと、貴女という友達を、貴女というエトワールを。
だから私は、愛原叶和を永久に許(はな)さない。
赦(はな)したく、なかった。

「じゃあさ雪菜、目を瞑ってくれる?」
「……はい?」
「いいから、お願い。」

叶和に言われるがまま、私は目を瞑って。
口元に、仄かに感じた甘い感触。
身体が、舌が交わる感触。
熱く灯す身体、電気が流れるような感覚。
……女の子同士でこんな事。
ああ、でも。この世界は私の心の中で。
ここは、胡蝶の夢だから。


あの時に、気づいていれば何かが変わったのかな。
この愛(おもい)に、この気持ち。
でも、いいよね。
今は、この夢の中で、繋がろう。
だって。私は――愛原叶和のことが、大好きだったらしいから。

13未来福音 ◆2dNHP51a3Y:2023/07/22(土) 20:33:03 ID:tyGxncbc0


「……お別れの時間、だね。」

交わる中で、叶和のか細い声が聞こえる。
分かっていたはずだ、これは一度きりの奇跡。
罪と罰が紡いだ、小さな呪い。友達が託してくれた福音。
叶和の身体が透けている。別離の時間は無慈悲に訪れる。

「助けたい人が、私のように信じられる人が出来たんだよね?」

そう。やらないといけないこと。
私と同じ、私のように、過去の後悔に苛まれ、その呪われた罪悪に縛られ続けるあの人を。
あの人が、本当に間違いを犯してしまう前に。
鏡写しなお人好し、スヴィア先生を。


「じゃあ、救ってあげて。後悔とか責任とかじゃなくて。雪菜自身がやりたい事の為に。」


先生を救う。


「私の力、貸してあげるから。」


救って見せる。


「行ってらっしゃい。私の主人公(ともだち)」


今度こそ、"私達"が。









■ ■ ■

ウイルス感染者に共通する点として、誰もがウイルスによって脳及び神経組織に異常が起きているという点だ。だが、起こる異常というのはウイルス毎によって変化する。
正しくはウイルスが人体に侵入した時点で個人ごとに変化し、正常感染者の適応度によって発現する異能は変化するのだ。
適応できなかった異常感染者はそのまま生きた屍となるのだが、それは別に異能を発現しなかったというわけではない。ただ「使えない」のだ。
だが逆に、異常感染者の血液を何らかの手段で"適応"出来たのなら、その血液ドナーの異能を使うことが出来るかも知れない。ただし、それにはその血液への適応もまた必要となる、そんな可能性。

ここで思い出してみよう。哀野雪菜は能力自覚前にゾンビと化した愛原叶和に右腕を噛まれた。
この際、混ざったのだ。愛原叶和の血が。
だが、その時はまだ哀野雪菜に自覚はなく、罪と後悔に押し潰された行動にひた走っていた。

ここで別の話題を挟むが。この山折村と呼ばれる場所は、霊が見えやすい。
そして霊や魂という存在が、溜まりやすい土地をしている。
もっともその由来としてかつて『夜摩の檻』と呼ばれたこの土地の特性や、"ある実験"の目標の一つにも関わってくるのだが、閑話休題。

結論だけ言ってしまえば、哀野雪菜は適応した。
それは、雪菜を放っておけなかった愛原叶和が過度な干渉を行ってしまったことで。
それは哀野雪菜に混じっていた愛原叶和の血に誘われた結果であり。
胡蝶の夢において愛原叶和の霊魂が哀野雪菜と混ざって消滅したことで。
哀野雪菜は、感染者で初の二重能力者(クロスブリード)となったのだ。
それは、ある科学者が幼少の頃に夢見、そして脳科学という形を以って成そうとした。
『人と人との心を繋ぐ』という思い描いた世界平和の理想への第一歩だった。

余談であるが、愛原叶和が本来宿るはずだった異能の名は『線香花火(せんこうはなび)』
使用者の寿命を代価に、対象の肉体を活性化させる強化系能力である。

14未来福音 ◆2dNHP51a3Y:2023/07/22(土) 20:33:37 ID:tyGxncbc0
■ ■ ■

「哀野、さん?」

天原創が目の当たりにしたのは、見るからに雰囲気が変化したであろう哀野雪菜の姿だった。
別に外見が180度変化したとか、そういう事ではない。
いや、変化はあった。まるで、もう一つ魂が混ざったかのように。その瞳の宝玉の如き鮮やかな深紅色へと変貌していた。
それ以上に何かが、間違いなく彼女の中で何かが変わったのだ。

ほとぼりが冷めた、という訳ではない。
あのミスは間違いなく己の責任であり、彼女に責め立てられるには十分な理由だと抱え込んでしまったが故に。
だから、「これ以上あなたは頼りにならない」と三行半を叩きつけられる可能性も考慮していただけで。
その場合最悪スヴィア・リーデンベルグを見捨てるという選択肢もあったわけで。
だが、その万が一の選択は選ばれることはないだろう。

「……さっきは感情的になって、ごめん。」

彼女から謝罪の言葉が出た。最悪の想定をしていた天原創にとってはそれは面食らう出来事。
そこには自分を真摯に見つめる視線があった。自棄っぱちと依存に塗れた彼女はもう居なかった。

「今度は、一緒に考えよう。一緒に、先生を助けよう。」
「……何故なんですか。」

だから、問わずには居られなかった。
自分の繰り返した失態を知ってなお、それを告げる意味を。
喪失から始まった人生、これ以上失わないためにと。
その為に、ただ完璧であろうと―――。

「どんなに輝く星だって陰りはあるものだって私は知っているから。それでも良いって思ってるから。」

彼女がプリマステラは、一度陰ればすぐに壊れる儚いものだった。
それでも彼女はその星の変わらぬ部分を好きになった。
好きになったからこそ、彼女は最後まで変わらなかった。

「一番星でなくても良い。完璧超人でなくても良い。……傷ついて、背負って、その重荷を支え合って。」

彼女は数多の後悔の果て、答えを得た。
彼女は彼女の中にある「決して捨てられない思い」の為に。

「でもね。そんな大した理由じゃないかな。……これ以上、大切な人を失いたくないって思っただけ。それだけで十分だから。」

その「捨てられない思い」というのが。自分を導いてくれた愛原叶和(プリマステラ)の事でもあり。
そして、自分を再び間違った道から拾い上げてくれたスヴィア先生でもあるから。

「……だから。手伝ってくれない? 私一人じゃ、頭が足りないから。」

彼女の言葉に、天原創は何を思ったか。
彼の原点(オリジン)は喪失からの奪還だ。誰もかもを守れる力が欲しかった。
だがその結果がこのザマだと叩きつけられ、彼の心は少なからず傷ついた。
彼女もまた、傷ついたというのに。

『一人で何でもかんでも背負い込みすぎるの、ほんっとキミの悪い癖だよね』

苦笑交じりに、"彼女"が言っていた言葉が今頃になって天原創は思い出す。
特に覚えておく理由もないはずのただの戯言を、どうしてこんな時に限ってと。
でも、彼女一人で任せても奪還はほぼ確実に失敗に終わりそうなのは何となく。

「彼女は重要な情報を握っている証人でもある。あのまま特殊部隊に連れ去られるのはまずい。」
「……!」

その予想を告げただけの言葉は、肯定の意。
哀野雪菜の顔が、ほんの少しだけ微笑んだ。

「……哀野さんからも、何かアイデアがあるなら、よろしくお願いします。」

完璧であろうとして、挫け、それでもなお全てを背負おうとしたエージェントは。
何度かの挫折を得て、漸く自らを包む卵の殻にヒビを入れて――――。

15未来福音 ◆2dNHP51a3Y:2023/07/22(土) 20:35:20 ID:tyGxncbc0


『夜摩檻村』

『マルタ実験』

『8月6日』

『聖剣』

『死者蘇生実験』

『神降ろし』

『第二実験棟の事故』

『異界を繋ぐ門』

『亜紀彦(あきひこ)軍曹』

『ヤマオリ・レポート』

『魔王』

『依代』









『■■■■■』









「―――――は?」

そして、天原創は思い出した。『■■■■■』によって刻まれ、一度は忘却させられた記憶を。










「……カラ、トマリ。そうだ。あいつの名前は、カラトマリ。」








【E-5/商店街・モックとドラッグストアの間/一日目・午前】

【天原 創】
[状態]:異能理解済、疲労(小)、記憶復活(一部?)
[道具]:???、デザートイーグル.41マグナム(3/8)
[方針]
基本.パンデミックと、山折村の厄災を止める
1.もうこれ以上の無様は晒せない……
2.女王感染者を殺せばバイオハザードは終わる、だが……?
3.スヴィア先生、あなたは、どうして……
4.……カラ、トマリ。そうだ。あいつの名前は、カラトマリ。
※上月みかげは記憶操作の類の異能を持っているという考察を得ています
※過去の消された記憶を取り戻しました。

【哀野 雪菜】
[状態]:強い決意、肩と腹部に銃創(異能で強引に止血)、右腕に噛み跡(異能で強引に止血)、全身にガラス片による傷(異能で強引に止血)、スカート破損、二重能力者化
[道具]:ガラス片
[方針]
基本.女王感染者を探す、そして止める。
1.絶対にスヴィア先生を取り戻す、絶対に死なせない。絶対に。
2.止めなきゃ。絶対に。
3.ありがとう、そしてさよなら、叶和。
4.天原、さん……?
5.この人(スヴィア)、すごく不器用なのかも。
[備考]
※通常は異能によって自身が悪影響を受けることはありませんが、異能の出力をセーブしながら意識的に“熱傷”を傷口に与えることで強引に止血をしています。
無論荒療治であるため、繰り返すことで今後身体に悪影響を与える危険性があります。
※叶和の魂との対話の結果、噛まれた際に流し込まれていた愛原叶和の血液と適合し、本来愛原叶和の異能となるはずだった『線香花火(せんこうはなび)』を取得しました。

16未来福音 ◆2dNHP51a3Y:2023/07/22(土) 20:36:43 ID:tyGxncbc0




































「漸くだ、漸く面白くなってきた。」

『ともかく、私の娘はちゃんと生き残れるのやら。」

『最も、"オレ"には関係ないことだがな。ハハッ!』

17 ◆2dNHP51a3Y:2023/07/22(土) 20:37:19 ID:tyGxncbc0
仮投下終了となります

18 ◆H3bky6/SCY:2023/07/22(土) 22:38:32 ID:q1V8.nFQ0
仮投下乙です。
作品、拝読しました。

二重能力に関してですが。
血液を吸って能力を奪い取る月影がいる以上、血液を媒介とした能力の移行は設定として矛盾するものではないと思います。
まあ全吸いが必要な月影に対して一噛みの数滴で完全移植が成るかという点は気にならないでもないですが、本人の霊魂パワーもあるので許容範囲かと。

創の記憶に関しては
追加情報は過去描写と矛盾するものではなく、リレーの範疇なので問題ないと思います。

19 ◆2dNHP51a3Y:2023/07/22(土) 22:43:09 ID:tyGxncbc0
確認ありがとうございます
大丈夫そうなので本投下させてもらいます

20 ◆qYC2c3Cg8o:2023/09/22(金) 00:16:45 ID:O.lsp4TY0
予約スレに記載しました通り、本スレに書き込めなかった為こちらに投下させて戴きます。

21正しい答えはどこにもないから ◆qYC2c3Cg8o:2023/09/22(金) 00:19:01 ID:O.lsp4TY0
高級住宅街から少し離れた場所にある一軒家、袴田邸は、
一時は10人近くもの正常感染者達が集った一大拠点であった。
だが、来訪者からの救援要請や、独眼熊の襲撃とその後の対応、
そして月影夜帳の暗躍の結果、現在はもぬけの殻となっている。

そんなことは露知らず、ここに引き返してきた2人の少女がいた。
烏宿ひなたと犬山うさぎである。
うさぎの召喚動物である鷹が発見した4人を追うか、それとも引き返すか。
考慮の末、2人が選んだのは後者だった。

目下の拠点である袴田邸に残っているのは、夜帳・はすみ・恵子の3名。
いずれも戦闘には不向きな面々であり、
特殊部隊や危険人物の襲撃、あるいは独眼熊の再襲来などがあった場合、最悪全滅の恐れがある。
高い戦闘力を持つ哉太と勝子、そして探偵ならではの頭脳を持つアニカよりも
時間を置いた場合、こちらの方が危険だと判断した為だ。
2人にとって、特に大切な人間である恵子、はすみがいることも大きかっただろう。

「お姉ちゃーん! うさぎだよー。いるー?」
「恵子ちゃーん? 月影さーーん?」
無人であることを知らぬ2人は戸を叩いて声を掛けるが、当然ながら返事はない。

「…………?」
訝みながら2人は袴田邸に足を踏み入れた。
家の中は綺麗に片付けられており、荒らされた形跡はない。
だが、袴田邸に残ったはずの3人の姿はどこにもなかった。
不安がよぎるが、テーブルの上に書置きがあるのを見つけた。

『農家の宇野さんから助けを求められました。
 これから月影さんと恵子ちゃんの3人で宇野さんの家に向かいます。
 みんなはこの家で待機していて下さい。 はすみ』

「これ、はすみさんの字?」
「うん。間違いないよ」
「宇野さんのとこに行った……? うさぎちゃん、そこ知ってる?」
「……ごめんなさい。ちょっと分からないです。
 お姉ちゃんもせめて住所とか書いてくれてたらいいのに〜」

行き先が分からないのが気がかりだが、ひとまず無事ではあるようで安心した。
月影からは冷静な印象を受けたし、はすみもしっかり者だ。
男性恐怖症の恵子が月影と一緒に出て大丈夫なのかだけ気になるが、
リスクもちゃんと考慮したうえで出て行ったのだろう。

「…………とりあえず、休憩しよっか」
「はい」

22正しい答えはどこにもないから ◆qYC2c3Cg8o:2023/09/22(金) 00:19:36 ID:O.lsp4TY0


ひなたは冷蔵庫にあった麦茶を飲むと、ソファーにどすっと腰を下ろした。
うさぎの方を見ると、やはり鈴菜、和幸の死がショックであったであろう、
浮かない顔をしている。

時計は10時を回っていた。
あと2時間弱で正午。タイムリミットの48時間のうち、4分の1が経過する。
ひなたは、女王感染者も含め、
出来るだけ犠牲者無しで事態を収拾したいと考えている。
だが、まだ解決の糸口すら掴めていないのが実情だ。
少し考えた後、うさぎに声を掛けた。

「うさぎちゃん、ちょっといいかな」
「あっ、はい」
「うさぎちゃんの異能、使ってもらってもいいかな。
 そうすれば、誰かがこっちに来た時にすぐ分かると思うんだ」
「……あっ」
ひなたの言わんとしていることをうさぎは察した。
先ほど偵察を成し遂げた鷹を呼び出せる時間はとうに過ぎている。
だが、酉の次の干支と言えば……
「そっか。やってみます。……来てっ!!」
うさぎの祈りと共に、暖かな光が部屋の中を包んだ。

「ウオオオォォーーーン!!!」
雄叫びが響く。それと共に姿を現したのは、
狼を思わせる鋭い顔つきをした、精悍な和犬だった。
「おぉうっ、か、かっくいい……」
「えぇっと、こんにちわ、ワンタ君。
 早速だけど、玄関で外見張っててもらえる?
 もし誰かが来たら教えてくれるかな?」
これでいいよね、とうさぎがひなたの方を振り向いたので、ひなたはサムズアップで応える。

言うまでもなく、犬は感覚に優れた動物だ。
袴田邸に近付く者がいれば即座に嗅ぎ付けるだろう。
場合によっては敵意の有無さえ判断してくれるかもしれない。
だから番犬になってもらおう。ここまではうさぎとひなたの共通見解。

だが、ひなたにはもう一つ思惑があった。
先刻の鷹の召喚を目にしたことで、ひなたはうさぎの召喚動物を解剖するという発想に至った。
もちろん、うさぎが動物を愛しているのは知っているし、
そんなことをすれば彼女が悲しむことは目に見えている。
愛すべき後輩である彼女を悲しませたくはない、これは嘘偽り無いひなたの本心である。
しかし鈴菜と和幸の死体を目の当たりにしたことに加え、
タイムリミットまでの時間が刻々と近づいてくる中で、生来の楽天家であるひなたも焦りを覚えてきた。
解剖という強硬手段には出ないまでも、せめてうさぎの召喚動物を観察したい。
その中でなんらかのヒントを得ることが出来れば。

「……ウォウ?」
うさぎの指示を受け、玄関に向かおうとしたワンタがピクンと耳を立てた。
くんくん、くんくんと訝しげに臭いを嗅ぎ始める。
「……ワンタくん?」
「――ゥワンッ!」
何かを見つけたと言わんばかりに一吠えすると、
指示された方とは逆、家の奥に向かって歩き始めた。

「ちょ、ちょっと玄関はそっちじゃないよー!」
「え? もしかしてあまり言うこと聞かない系?」
2人は戸惑いながらも後を追う。

しばらくしてワンタは歩みを止めた。
そこは地下室への入り口だった。
ワンタは2人を振り返ると、何かを訴えかけるかのような目で見つめかけてきた。
「そこに、何かあるの?」
「……行ってみよう」
恐らく、何かがある。2人は動物の感を信じることとにした。

23正しい答えはどこにもないから ◆qYC2c3Cg8o:2023/09/22(金) 00:20:10 ID:O.lsp4TY0


地下室に降りた2人がまず覚えたのは、違和感だった。
家具や置物の配置が変わっている。
何か探し物をしていて、計らずも家具を動かしてしまったようなもののとは違う、
何らかの意図を感じる配置だ。
これを行ったのは、袴田邸に残った3人だろうか。
だが、他にやるべきことは幾らでもあるだろうに、
わざわざこんなことをする理由が分からない。

困惑しながらも進もうとしたその矢先。
先頭にいたワンタの耳と尾がピンと立った。
同時に、2人の後方にあったクローゼットの扉が突然開いた。

不気味な叫びと共に飛び出したのは、袴姿の男、袴田伴次。
その右手には、出刃包丁が握られている。
吸血鬼の忠実なる眷属が、最後尾にいたうさぎに襲い掛かる。

不意を突かれたうさぎは思わず悲鳴を上げた、そのつもりだったが、
(え!? 声が出ない…… 身体も……!!)
袴田が主たる月影夜帳から分け与えられた『威圧』の異能により、
その動きは完全に封じられていた。
無防備なうさぎの体に出刃包丁が振り下ろされる。

だが、それより速く動いているものがいた。
明敏にして勇猛な忠犬は、袴田が姿を見せる前にその存在を察知した。
袴田とうさぎの間に飛び込むやいなや、袴田の右手首に思い切り噛みついた。
堪らず苦悶の叫びを挙げる袴田。

「このぉぉぉぉっ!!!」
そして、気喪杉や独眼熊といった怪物との死闘を乗り越えたひなたにとっても、
袴田は恐怖の対象に成り得なかった。
錫杖を振りかざし、袴田の首に叩き込んだ。
その錫杖には、皮肉にも袴田と同様に吸血鬼の下僕になり果てたはすみの手により、
怪異を払う力が付与されている。
犬山の聖なる力が、邪なる吸血鬼の血を浄化していく。
「オ……ア……ァ……」
吸血鬼の眷属から一介のゾンビに戻った袴田伴次は、敢えなくどさりと倒れ込んだ。

24正しい答えはどこにもないから ◆qYC2c3Cg8o:2023/09/22(金) 00:21:04 ID:O.lsp4TY0


「ひゃっ!」
『威圧』の異能が解除され、うさぎは尻餅をついた。
「うさぎちゃん! 大丈夫!?」
「は、はい。ありがとう、ひなたさん。ワンタくん。
 なんか急に動けなくなっちゃって……」
おかしいのはそこだ。ひなたも、袴田に襲われたうさぎが完全に膠着していたのを見た。
まるで、月影を目にした際、彫像のように動けなくなった恵子のように。
「…………月影さんの、異能?」
「で、でもこの人、ゾンビですよね?」
「う〜ん……」

確かに、ゾンビは異能を使えないはずだ。
考えても分からないと割り切り、ひなたは袴田を拘束する。
そしておかしいのはこちらもだ。
袴田は、他ならぬひなたの手でこの地下室に拘束されていた。
だが、その拘束が解かれており、包丁を持ってクローゼットの中に隠れていた。
理性の無いゾンビにできることではない。
分からないことが多すぎる。ひなたの頭に黄色信号が灯った。

「……うさぎちゃん。ちょっと考え直さなきゃならないかも。戻ろう」
「あ、ちょっと待ってください。ワンタくんが……」
「ん?」

ワンタが、壁に沿って広げられたカーテンを巻くっていた。
カーテンの裏には押し入れがあり、物を出し入れするには明らかに邪魔だ。
まるで、この押し入れを隠すためにカーテンを張ったような……

「キミ、ここに私達を連れてきたかったの?」
ひなたの問いに、ウォウ、と吠えて同意を示す。
そしてひなたは気付いた。押し入れの中から、わずかに血の臭いがすることを。

ひなたはごくりと喉を鳴らすと、襖を開けた、
そこにあったのは、積み上げられた大量の布団。更に、その奥からは明らかな異臭が漂っていた。

恐ろしい予感がした。
2人はどちらから言い出すこともなく、布団を掻き出し始めた。
抱いた不安が外れであってほしいと願った。
だが、無情にも、布団を掻きのけるたびに、その臭いは強くなっていった。
そして、2人は布団の影に隠されていたものを見た。

「……………………恵子ちゃん」
字蔵恵子が、布団に寝かされ、眠るように死んでいた。
表情は安らかだが、肌は乾ききっており、華奢な身体と相まってまるでミイラのようだ。
その首筋には、痛々しい2つの穴がぽかりと空いていた。

25正しい答えはどこにもないから ◆qYC2c3Cg8o:2023/09/22(金) 00:22:40 ID:O.lsp4TY0


ひなたとうさぎが袴田邸に戻る少し前。
月影ははすみと共に偽装工作を行っていた。
月影の望むフルコースを堪能する為には、乙女達を袴田邸に留まらせねばらなない。
だが、時間を掛ければ掛けるほどメインディッシュであるリンの生存が危ぶまれること、
更に哉太やひなた等がいつ帰ってくるか分からない以上、
完璧な偽装は不可能であり、ある程度の妥協は止むを得なかった。

一番の問題である恵子の死体は、地下室の奥にある押し入れに移し、布団で隠した。
そのうえで、押し入れ自体もカーテンで偽装し、万が一にも感づかれた時の備えとして、袴田を潜ませた。
彼には出刃包丁を握らせた上で、包帯を巻いて固定した。
『威圧』の異能で動きを封じれば、理性の無いゾンビ状態でも邪魔者は充分殺害できると踏んだ。
そして、敵襲があったと誤認されないよう、部屋を整然と片付けたうえで書置きを残した。
行先は『宇野家』と書いた。嘘は書いていないし、宇野という苗字の人間は一人ではない。
特定することはまず不可能と考えた。

誤算だったのはうさぎが召喚した犬の存在だ。
地下室から漂うわずかな血の臭い、そして袴田の臭いを嗅ぎ取り、
ひなたとうさぎをここに導いた。

26正しい答えはどこにもないから ◆qYC2c3Cg8o:2023/09/22(金) 00:23:21 ID:O.lsp4TY0


「なんでよ…… なんでだよお……」

ひなたの眼から涙がぽろぽろと零れ落ちる。
恵子が、自分が想像も付かないような酷い目に合っていることは、なんとなく分かった。
だから、檻の外に出してあげたかった。楽しいこと、ワクワクすることが沢山あることを教えたかった。
恵子自身も成長していた。自分以外の、他の人とも触れ合って、だんだん笑顔を見せるようになってくれて。
これからのはずだった。それなのに。

「ひなた……さん……?」
ひなたは、手が白くなるほど錫杖を握りしめていた。そして錫杖が帯電し始める。
そして、キッと目を見開くと、倒れている袴田の方を向き、錫杖を振り上げた。
「うわあああああああああああああっ!!!」
「――ダメッ!!」
ひなたは、自らの異能で帯電させた錫杖を、袴田に振り下ろした。
無防備な袴田の頭に直撃すれば、間違いなく絶命するだろう。
その寸前、うさぎがひなたに飛びついた。

「あああああああああっ!!!」
「――うさぎちゃん!?」
うさぎの行動によって、錫杖は辛うじて外れたが、
ひなたの異能の電流がうさぎの身体を貫いた。
うさぎの悲鳴に、ひなたは自分を取り戻す。

「うさぎちゃん! うさぎちゃん!!」
「だ、大丈夫、大したことない、です……」
「ごめん、ごめん本当に! 早く手当てしないと!」
ひなたはうさぎを抱きかかえると、1階に向かって駆け出した。

27正しい答えはどこにもないから ◆qYC2c3Cg8o:2023/09/22(金) 00:24:10 ID:O.lsp4TY0


幸い、うさぎの怪我は酷くはなかった。
水膨れが幾つか出来はじめてはいるが、重症ではない。
だが、それでも自分の失策で怪我をさせてしまったひなたは強く責任を感じており、
必死に応急処置をしていた。

処置を受けながら、うさぎは恵子のことを考えていた。
うさぎは、友人である鈴菜と和幸を失ったが、その死体を直接見てはいない。
同年代の少女の死体を目にしたのは今回は初めてだ。
だけど、思ったよりショックは受けていないと思った。
まるで吸血鬼の映画の1シーンのようで、あまりに現実感が無かったからだ。
……考え直してみれば、やっぱりおかしい。
恵子は何故あんなところで、あんな死に方をしていたのか?
……はすみの書置きには、何て書いてあった?

「ちょ、うさぎちゃん!?」
うさぎは当然立ち上がり、テーブルの上にあった書置きを読み直し始めた。
みるみる顔が青ざめていく。
「だ、ダメだようさぎちゃん! まだ手当は終わって……」
「ひなたさんっ…… お願い、一緒に来て。お姉ちゃんを助けて」
うさぎは、今にも泣きだしそうな顔で言った。
「お姉ちゃんが、殺されちゃうかも!」

28正しい答えはどこにもないから ◆qYC2c3Cg8o:2023/09/22(金) 00:25:08 ID:O.lsp4TY0


はすみの書置きを読み直すと、うさぎの言わんとしていることを理解できた。
書置きには、『月影とはすみと恵子の3人で』宇野さんの家に行くと書いてあった。
だが、恵子はこの家の中で殺されていた。
つまり、この書置き自体が偽装工作なのだ。

恐らく、敵襲はあった。
犯人は恵子を殺害した後、はすみを脅して偽の書き置きを書かせた。
戻ってきた者達にはこの待機を命じ、その間にまんまと逃げおおそうとしている。
恵子が殺されている以上、はすみも、月影も無事では済まない可能性が高い。

「うさぎちゃん、急いて準備しよう! あまり時間がない!」
「は、はい! ……って、ワンタくん!?」
ワンタが消えようとしていた。時刻は間もなく11時。戌の時間が終わるのだ。
「……ワンタくん」
ひなたがワンタの前に座り、頭を撫でた。
「恵子ちゃんを見つけてくれて、ありがとうね」
2人に激励を掛けるように吠えた後、犬が消える。

「うさぎちゃん、すぐに次の動物を呼んで。あと、はすみさんの書置き持ってきて」
「は、はい。あと、書置き?」
「うん、それがあれば、多分はすみさん追っかけられると思う」

29正しい答えはどこにもないから ◆qYC2c3Cg8o:2023/09/22(金) 00:25:56 ID:O.lsp4TY0


「来てっ!」
袴田邸の前で、うさぎが最後の干支の動物を召喚した。
現れたのは、巨大なイノシシだ。。

「ウリヨちゃん、これでお姉ちゃんの臭い分かる?」
うさぎがはすみの残した書き置きと、それを書くのに使ったのであろうペンを臭いを嗅がせた、
『猪突猛進』の言葉が示すように、イノシシは単細胞のようなイメージがあるが、
実は非常に嗅覚が鋭い動物である。
はすみの私物は袴田邸から綺麗さっぱり無くなっていたが、彼女の臭いを嗅ぎ取るにはこの紙とペンだけで十分だった。
「ブモオ!!」
イノシシが大きく鼻を鳴らすと、放送室や役場のある方向に顔を向けた。
それと同時に、袴田邸の扉が開き、ひなたが飛び出してきた。
「お待たせ! イノシシ君、追えそう?」
「はい! 大丈夫みたいです!」

ひなたは、哉太達が戻ってきた時の為に、現状についてしたためたメモを残していた。
はすみの書置きがあったが、その内容に反して恵子が地下室で殺されていたこと。
はすみと月影は危険人物にさらわれた可能性が高い為、救助に向かうこと。
更に、当初哉太たちに伝えるつもりだった独眼熊への警告も書き加え、最後に、こう結んだ。
『もし夕方までに私達が戻らなかったら、後はそっちの判断で行動して』

「じゃあウリヨちゃん! お姉ちゃんを追って……! 助けて!」
聞くや否や、イノシシは駆け出した。ひなたとうさぎも必死に後を追う。

30正しい答えはどこにもないから ◆qYC2c3Cg8o:2023/09/22(金) 00:32:15 ID:O.lsp4TY0


走りながら、ひなたは考えていた。
自分は、選択を間違えていたのではないかと。
今もまた、間違えようとしているのではないかと。

恵子は明らかに異能で殺害されている。
それに、ゾンビである袴田伴次が異能を使用したのも不可解だ。
恐らく2つ以上の異能が関わっている。
つまり、はすみ達をさらったであろう危険人物も2人以上である可能性が高い。

自分やうさぎの生存を優先するなら、せめて哉太達と合流してから救助に向かうべき。
いっそ救助を断念することも選択肢の一つだ、と自分の理性が言う。
少し前までなら、ここで動かないなら烏宿ひなたじゃない、と胸を張って言えただろう。
だけど、今は自分を貫く勇気が持てない。

VHが始まって朝になるまで、危険人物やヒグマを撃退することはできて、仲間を守ることはできたけど。
自分の眼の届かないところでは、うさぎの友達の鈴菜さんや和幸は殺されていて。
哉太君達に危険を知らせに袴田さんの家を出たのはいいけど。
結局哉太君達とは会えなかったうえ、留守にしている間に、恵子ちゃんが、殺されて。

再び溢れ出てくる涙を袖で拭う。

私は、どんな手を使ってでも、この事態を解決する策を探すべきだったのではないか?
そうすれば、恵子ちゃんも、他のみんなも、死なずに済んだんじゃないか?
もちろん、それは自分の驕りで、どうにもならないことはどうにもならないって分かってるつもりだけど、
やっぱり、悔しくて悔しくて仕方ないよ。

せんせーなら、ししょーなら、六紋名人なら、どうしたんだろう。
――――お父さんなら、どうしたんだろう。

「〜〜〜〜〜〜!」

自分の頬を思い切り叩く。余計なことばかり考えてしまっている。
今ははすみさんと月影さんを助ける。自分が選んだ選択肢はそれだから。
自分で選んだ道を走りぬく。誰にだってできるのはそれだけだ。
例え、その先に何が待っていたとしても。

【D-4/袴田邸前/一日目・昼】
【犬山 うさぎ】
[状態]:感電による熱傷(軽度)、蛇再召喚不可、焦燥感
[道具]:ヘルメット、御守、ロシア製のマカノフ(残弾なし)
[方針]
基本.少しでも多くの人を助けたい
1.お姉ちゃん、無事でいて。

【烏宿 ひなた】
[状態]:感電による全身の熱傷(軽度・手当て済)、肩の咬み傷(手当て済)、疲労(小)、精神疲労(大)、恵子を殺した人間に対する怒り、焦燥感
[道具]:夏の山歩きの服装、リュックサック(野外活動用の物資入り)、ライフル銃(0/5)、銅製の錫杖(強化済)、ウォーターガン(残り75%)
[方針]
基本.出来れば、女王感染者も殺さずに救う道を選びたい。異能者は無理でもうさぎの召喚した動物の解剖がしたい。
1.恵子ちゃん……
2.はずみ、月影を救出する。
3.生きている人を探す。出来れば先生やししょーとも合流したい。
4.……お母さん、待っててね。
5.月影夜帳に対する僅かな疑念。単に異能が似通っただけかもしれないけれど。

31 ◆qYC2c3Cg8o:2023/09/22(金) 00:32:58 ID:O.lsp4TY0
投下終了します

32 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:11:57 ID:GnCfAldc0
投下します

33女王覚醒 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:12:49 ID:GnCfAldc0

診療所駐車場の真ん中で、大田原源一郎は静かに佇んでいた。
異能『餓鬼(ハンガー・オウガー)』によって理性は既に食い尽くされ、
今や残るは乃木平天に全てを託すという一念のみ。
瞑想により精神を無に落とし、彼が己に命令を下すのを、ただひたすら待ち続けていた。

どのくらい時間が経っただろうか。
闇の中で眠る大田原の心。永劫に続くかと思えた沈黙の世界に、突如、一条の光が差し込んだ。
この光はなんだ。その疑問を抱いた直後、
大田原の心の奥底から、今まで久しく忘れ果てていた巨大な感情が沸き上がってきた。

「ぅ…………」

それは安らぎだった。
兵士としての精神の極北まで至った大田原ですら抗い得ぬ、
生物としての本能の根から沸き上がる衝動。
それが、大田原に、己が為すべきことを思い起こさせた。

「……じ……ぅ……」

思考がクリアになっていく。
餓鬼によって蝕まれる自我の苦痛が消えていく。
何故自分は忘れてしまっていたのか。
滅私の精神も、秩序の守護も、そして、最強の称号も。
全ては■■の為にあったのではなかったのか。

そうだ。自分は、守らなければならない。■■を。

「……じょ……おぅ……」

大田原源一郎はゆっくりと立ち上がると、何かに導かれるように、どこかへ向かって歩き始めた。



34女王覚醒 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:13:25 ID:GnCfAldc0
山折総合診療所に近づく2つの人影があった。
一つは少年、山折圭介。もう一つは『魔王の娘』を名乗る影法師の少女。

2人は一見親しげに並び立って歩いているが、
圭介はいかにも困ったという表情を浮かべており、
魔王の娘の方はというと、機嫌を損ねた様子を隠そうともせず、ぷいと彼から顔を背けている。

魔王の娘から持ちかけられた取引。
女王感染者を止める手助けをする見返りとして、圭介の中に存在する願望器を使い、
山折村を消滅させ、隠山いのりと神楽春陽を解放する。
それに対する圭介の回答は、『保留』だった。

圭介の肉体に埋め込まれた願望器。その使い道として、圭介がすぐ考えつくのは次の二つだ。
『このVHで死んだ者全員を生き返らせる』、もしくは『このVHそのものを無かったことにする』

圭介は、魔王の娘の願いを無碍にしたくないと思っている。それは事実だ。
それに、死者蘇生など死者への冒涜だ、過去改変など許されるべきでない、そういう考えもあるかもしれない。
そうであっても、今回のVHで失われたものはあまりにも多すぎた。
今の段階でこれらの選択肢を捨て去ることは、圭介にはとてもできなかった。
だが、山折村という概念そのものに対し徹底的な嫌悪を抱き、
ごく一部の例外を除いた人間についても憎悪の感情を向けている魔王の娘にとっては受け入れ難い選択である。

(なんとか、落としどころを見つけられねえかな……)
玉虫色の選択肢がない以上、どこかで妥協点を見つけなければならない。圭介は頭を悩ませていた。


「圭介。気を付けて。近い」

影法師の少女に声を掛けられ、圭介は我に返る。
自分達の目的地は山折総合診療所と聞かされていた。そこで誰かが魔王の娘を待っているらしい。
だが、診療所まではあと50m程離れている。

「ん? 診療所の中行くんじゃなかったのか?」
「その筈だったんだけど、ちょっと予想外のことが起こったみたい。
 …………あの子、よりによって何であんなところにいるの。
 また何かしでかしたの、神楽め……」

影法師の少女が何やらぶつくさ呟いているのを横目に、
圭介は周囲を警戒する。

そして、気付いた。
北の方向から、2人の少女がこちらへ近づいてくるのを。
幼き頃から見知った相手だ。影を見ただけでそれが何者なのか、圭介は察した。

「……圭介兄ぃ」
「珠、春……」

神楽春姫・日野珠の2人と山折圭介。2人の女王と村の王の再会だった。



35女王覚醒 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:14:33 ID:GnCfAldc0
見たところ、春姫も珠も、荒事は避けられなかったようであった。
特に春姫の巫女服は血塗れで、額には新しい傷が痛々しく覗いている。
だが不幸中の幸いとでも言うべきか、普通に動く分には支障がないようで、圭介は安堵した。

しかし、珠の右眼には、日野光の影姿と同じく黄金の光が輝いていた。
それが意味するところは、あまりにも明らかだった。
圭介はそれを認めながらも、警戒するそぶりも見せず、ゆっくりと彼女に近付いていく。

「ちょっと待って、圭介。あの小さい子の方は……」
「分かってる。けど、悪い。これだけはさせてくれ」

幼神の警告を、圭介は手で静止する。
例え珠が、己の討つべき相手であったとしても。
それ以上にやらなければならないことが、圭介にはあった。

圭介は改めて2人に向き直ると、地面に腰を下ろした。
そして。

「すまねえ、珠」

頭を地につけながら、圭介は、

「俺、光を守れなかった」

己の最大の過ちを告白した。


「光が、死んだのか」
「…………光姉が」
春姫と珠が、ぽつりと呟く。

「全て、俺の責任だ。許してくれなんて言わねえ。一生恨んでくれていい。
 すまねえとしか言えねえ。申し訳ねえ!!」

圭介は叫んだ。
救えなかった想い人の妹に、心の底から、詫びた。

36女王覚醒 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:15:38 ID:GnCfAldc0

「――――――」

珠が意識を失い、ゆっくりと後ろに倒れていく。
それを見た春姫が彼女を抱きかかえた。

「お、おい珠……?」
「案ずるな。息に乱れはない。まず休ませてやらねばならぬ」

春姫は眠る珠を地面に横たわせると、圭介に対し再び向き直った。

「ふむ。顔は死んでおらぬな」
「……いつもの憎まれ口、言わねえのな。
 何言われても仕方ないと思ってたんだけど」
「何があったのかは知らぬゆえ、責めはせぬ。
 問い詰めたところで、今はさして意味ある事でもなし。
 それに、妾とて全てを守れたわけではない」
 
春姫の眼に、物憂げな光が差していた。
圭介はこんな眼をした彼女を見たことが無かった。
 
「そっちでも誰か、死んだのか」
「氷月の娘が、妾や珠を守る為、災厄に立ち向かい倒れた。
 妾はその場に居合わせなかったが、そなたに親しい者の中では、
 朝顔家の養い子もやはり仲間を守って逝ったと聞く」
「……海衣と、茜か。あいつらまで……」

同年代の少女2人の死を告げられ、圭介は天を仰いだ。
同時に、自分が背負った死は、春姫が背負うそれとは重みの質が違うのだと思い知らされた。
海衣と茜は、他人を守って死んだといった。
最後まで自分の意志で戦って死んだのだろう。
だから、春姫は前を向くことが出来る。
2人の死を無駄にしないためにも、その死を受け入れ、前に歩む力に変えることが出来る。
だが、自分は違う。自分はもっと最低な死なせ方を……

「圭介」

自罰意識に再び囚われかけた圭介に、魔王の娘が釘を刺す。

――そうだ。今は足を止めるわけにはいかない。
自分は償うことのできない罪を背負った。
だが、想い人の想いを知り、その決意を受け継ぎ、この悲劇を終わらせると誓ったのではなかったか。

春姫は真っ直ぐにこちらを見つめている。
眼をそらすことは出来ない。山折圭介の決意を示す時だ。

「春。詳しいことは後で話すけど、俺はいろいろ許されないことをしちまった。
 これが終わったら、どんな罰を受けても仕方ない、と思う。
 でも、今抱いている、この事態を収束させたいという気持ちだけは、嘘じゃない」
「…………」
春姫の視線は微動にしない。

「俺は、まだ生きている奴も救いたいし、もう死んじまった奴の想いも無駄にしたくない。
 その為なら、村のリーダーって立場だって捨ててやる。
 頼む、春。この事件を終わらせる為に、俺が一緒に戦うことを許してくれ」

そう言って、圭介は頭を下げた。
春姫はしばらく黙っていたが、

「顔を上げよ、山折の」

そう言って、改めて圭介の瞳を覗き込んだ、
その色を見て、裁きは決まった。

「そなたの許されざる所業とは何か気にはなるが、
 今のそなたの眼に自棄や悪意は見られぬゆえ、今は不問とする。
 山折圭介はこれより事態収拾の為戦う。
 そなた自身が己を許せぬのなら、全てが終わったのち、改めて裁きを行う。それでよいな」

神楽の女王が、山折の王に、温情を示した。

「済まねえ、春」

圭介は純粋に感謝して、礼を言った。
圭介がこの犬猿の仲の相手に向かって、素直に頭を下げるのは初めてだった。

やるべきことは決まった。
だが、問題はなのはここからだ。

「じゃあ、聞かせてくれ、春。お前らこれから何をしようとしてたんだ?
 それと、女王のことだけど…… まさかとは思うけど、珠が」
「察しておるか。なら、隠しても仕方あるまい。
 そう、日野のが、女王感染者だ」
「……マジかよ……」

感づいていたとはいえ、決意を示した直後にいきなり梯子を外された格好だ。
VHを終息させるには、恋人であった光の妹を殺さねばならないとは。

「案ずるな。日野のを殺さずとも事態を収束させる術は見つけておる。
 山折高校のリーデンベルクという教師は知っているな?」

そして春姫は、スヴィア=リーデンベルクが立案した収拾策を語った。
天原創の異能で女王ウイルスを非活性化させた上で、脳内のウイルスを除去する。
それはまさに、光が157回目のループで見つけたという解決方法だった。
春姫達は、右も左も分からないゼロからの状況から、自分達の力でそこまで辿り着いたのだ。

37女王覚醒 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:16:17 ID:GnCfAldc0

「リーデンベルク先生が…… そっか……」

珠を殺さなくてもVHを終わらせられる手段がある。
もちろん、天原創の無事が確認できていない以上、失敗に終わる恐れがあることは分かっている。
それでも、珠の生存の可能性がつながったことに、圭介は安堵した。

「……情けねえな。俺なんて、自分じゃ何も見つけられなかった。
 いつもリーダー風吹かせておきながら、このザマだったか」

無論、圭介が今まで全く何もできていなかった訳ではない。
圭介は間接的な戦果も含めると3人もの特殊部隊を倒しており、
それが他の村人の生存に繋がったということはできる。
だがその過程で失われたものは余りにも多く、今の圭介にとっては誇れる成果ではなかった。

「巡り合わせだ。仕方あるまい。
 では、山折の。そなたについてはこれで手打ちとする」

女王が閉廷を告げた。
山折圭介への裁きは、とりあえず終わりだ。
だが、今までの話はあくまで前座に過ぎないことは、
この場にいる全員が感じ取っていた。


「それでは、本題に移ろうか」

そういって、春姫が眼を移す。
今まで、敢えて目を向けていなかった、
圭介の後ろに控える影法師の少女に向け、その視線をぶつけた。

「……聞こう。そなたは何者だ」



圭介に背筋に緊張が走った。
問題はここからだ。
これまでの流れはほぼ想定内、いや想定より遥かに穏当に済んだ。順当過ぎたと言ってもいい。
春姫も色々あったようで、厳罰を命ずることも無く、こちらの心情を慮って応対してくれていた。
しかしここからは話がどう転んでいくか全く見当が付かない。

魔王の娘も、バイオハザード終息に力を貸すと言ってくれてはいる。
だが、それも願望器を使って山折村という存在を消し去るという条件付きでだ。
山折村を守ろうとするであろう春姫とは、目的の根幹レベルで相容れない。
しかも、両者とも圭介ではコントロールできそうにない気まぐれ者同士。
話が拗れてしまった場合、せっかく得た春姫からの信用も失うことになりかねないし、
魔王の娘が山折村への明確な敵対を決意し、強硬手段に出たりなどしたら何が起きるか想像も付かない。


「神楽春姫ね。あなた、隠山いのりをどうしたの」
魔王の娘は、名乗りもせずいきなり単刀直入に切り込んだ。
「あの娘も、そなたも、礼儀を知らぬな」
春姫もいかにも呆れたという様子で応じる。

「その身に纏いし厄。隠山祈を厄災に変じたのはそなたで違い無いな」
「そうよ。でも私のような存在を引き寄せる程の憎しみと絶望を彼女に与えたのは山折の民。あなた達よ」
「それは妾も知ることだ。妾の誇りに掛け、知らぬ存ぜぬで済ませるつもりはない。
 だが、そなたに山折の地を裁く権利がどこにある。神でも気取るつもりか」
「いいこと言うね。
 そう、私は祟り神。人の身であるあなたには、
 私が見てきた積もり積もりし呪いと恨みの系譜など、分かるはずがない。
 山折の地に染み込んだ呪いは、人間なんかに払えるものじゃない。
 だから私が裁く。そして呪いに縛られた隠山いのりと神楽春陽を解放する」
「だから妾らは死んで当然、とでもいうか。なるほど、神らしき傲慢さよな。
 だが、氷月のが何をした。与田めが何をした。
 妾らが過ちを犯していたことは認めよう。然れども贖罪とは、己の罪を知り、己の手で償ってこそ意味がある!
 神の裁きなど、要らぬ!!」
 
「おいおいおいおい!! 二人ともちょっと待て! お前も春も、少し落ち着け!!」

激しく火花を散らす2人を見て、たまらず圭介が止めに入った。
やはり話は平行線。魔王の娘と神楽春姫はどちらも妥協を知らず、話はエスカレートしていく一方だ。
このままでは物別れどころか実力行使にまで至りかねない。
そうなればこの場の誰の得にもならない、最悪の結末に至ってしまう。
どうすればいいんだよ、と圭介は内心頭を抱えた。

38女王覚醒 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:17:15 ID:GnCfAldc0


だが、幸い。
幼神と村の女王の橋渡しができる存在が、この場には一人いた。


『待って、春姫。私が話す』
「…………へ?」
春姫の声が突然、全く別の少女のものに変じ、圭介は間抜けな声を上げた。
そして気付いた。神楽春姫がその身に纏う雰囲気が一変していくのを。

数秒の静寂ののち、春姫の身体を借りた少女が、幼神に向かって口を開いた。


「……えっと、久しぶりって言うのかな」
「…………いのり」

あの岩戸の闇の中での出会いから、一体何年経っただろうか。
片や呪いと恨みの中で死を迎え、死後も名を奪われて怪異に身を堕とされた挙句、厄災と化した隠山いのり。
片や異界で魔王と女神との間に生を受け、八尾比丘尼とされて私欲のために殺され、人間そのものを憎悪する祟り神に変じた少女。
数百年を経た、再会であった。

「いのり。まず私は謝らなくちゃいけない。
 私はあなたを救いたかった。でも私にできることは限られていた。
 あなたの魂を存在させ続けるには、あなたのその他者を呪い、憎悪する意志を使うしかなかった。
 けど、その為にあなたを憎悪に駆り立てられた厄災に成り果てさせてしまった」
「……そうね。あの時の私は恨みしかなかった。村の人間も、朝廷も、春陽も、世界の全てが敵だと本気で思ってた。
 でも、嬉しかったんだ。ああいう形であれ、こんな私に手を差し伸べてくれた人がいたってことが。
 その支えがなければ、名もなき厄災でいた時に、意志を擦り切らせて消滅してたと思う。
 ……ありがとう」

そう言っていのりは、深々と頭を下げた。

「……いのり」
その幼神のつぶやきには、一体どれほどの感情が込められているだろうか。

「山折圭介君は、初めましてだね。私は隠山いのり」
「お、おう…… は、初めまして。
 付かぬこと聞くけど、イヌヤマって名字、神社と何か関係ある?」
「うん。一応、この村の神社の巫女として育てられたの。正直、なる気は無かったんだけどね」
「そ、そうか。とりあえずよろしく」

言われてみれば、彼女にはどこか犬山姉妹に似た雰囲気を感じた。


「ところでいのり。
 私は、あなたは憎悪に呑まれた厄災のままだと思ってて、
 まずそれを止める為にここに来たんだけど、何があったの?
 例え聖剣を使ったとしても、素人の神楽春姫にあなたを止めることはできない筈」
 ……ちょっと記憶を読ませて」

魔王の娘がそう言って隠山いのりの額に指を当て、記憶を辿っていく。
隠山いのりが敗北したという相手は、魔王の娘にとって全く予想外の相手だった。
独眼熊。山の王。
厄災・隠山いのりは、一介の熊一匹に後れを取ったのだ。
何故魔王の娘はこの結果を見通すことが出来なかったのか。
何故隠山いのりは畜生一匹などに負けたのか。
それは、幼神と隠山いのりという少女の、いわば自然観の相違によるものだった。

魔王の娘は、人間の想いに寄り添う存在だ。
好意を抱いた人間にはその力を貸す反面、気に入らぬ者は徹底的に拒絶する。
人間の愛憎と怨恨を力にする、祟り神である。

だが、隠山いのりにとっての世界は人間だけではない。
山の神を祀る巫女としての教えを受け、幼き頃より野山を駆け回って育った。
巫女としての生き方をなぞることは嫌がっていたものの、
いのり個人としては山に対して強い信仰を抱いていた。

山は恐ろしい。山を軽んずる者に対しては必ずその牙を剥く。
その威の前には人間の感情、喜怒哀楽全てが無力だ。
ゆえに、山に生きる者は、山を畏れる。
米や野菜を育てる農民が太陽や雨に、獣を狩るマタギがイノシシやクマに神性を見出すように。
幼神や魔王などとは比較にならぬほど無力で、あまりにも原始的な、素朴で野蛮な神。
だがそれゆえに、人の生活に根付いた結びつきという面において、並ぶものはない。

畏れとは、己の限界を認めることから始まる。
それ故、独眼熊によって己の「山への畏れ」を思い起こされた隠山いのりは、
いまだ山折村や朝廷の人間への恨みは抱きつつも、現在は小康状態にある。
もしかしたら、あの敗北こそ、山の神からの隠山いのりへの救済だったのかもしれない

魔王の娘としては、自分がやろうと思っていた彼女の救済役を別の者に取られてしまい、
気に入らないところがあるのも正直なところだが。
何にせよ、やろうとしていた仕事の一つは終わった。もう一つの仕事に映るとしよう。

「とりあえず、分かったわ。
 それじゃ、いのり。あなたに教えてあげたいことがあるの」
「………なに?」

そう、これこそが本題。
隠山いのりだけなく己の願いにも関わる、最重要事項。それは。

「――神楽春陽の居場所」
「春陽様!?」

隠山いのりの驚愕の叫びが響いた。



39女王覚醒 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:18:36 ID:GnCfAldc0

「春陽様がどうしたか、知ってるの!?
 あの人はなんで私のところに来れなかったの!?」

求め続けてきた想い人にして憎み人である神楽春陽の消息。
それを知っていると聞かされた隠山いのりは、堪らず幼神に縋りついた。

「落ち着いて。一つ一つ話していくから。
 まず、春陽の居場所だけど、この村の南にある龍脈の穴。神楽春陽はそこで眠っている」
「龍脈の穴? 春陽が開こうとしてた、あれ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。2人だけで話を進めないでくれよ。
 その龍脈ってのは、どこなんだ?」

いのりと春陽の因縁を知らず、状況を掴めていない圭介が、堪らず説明を求めた。

「現在の名前は、新山南トンネル」

魔王の娘は答えた。
村外への事実上唯一の出入り口である新山南トンネル。神楽春陽は、そこに眠っていると。

「神楽春陽は、山折村を厄から救うために、龍脈を開こうとしたってのは知ってるよね。
 でも、その為の工事は困難を極めた。昔のことだし、工事技術も未熟だったうえ、
 こんな辺鄙な村を救うために金や人を出そうなんて物好きもほとんどいなかった
 それでも何とか工事は完了させたんだけど、想定を大幅に超える犠牲者が出て、
 その結果、厄を通すはずの穴に彼らの怨念が溜まってしまい、その機能を果たせなくなった。お笑いだよね。
 だから春陽は最期に、その責を取った。
 龍脈を完成させる為、自らを人柱として捧げた」
 
幼神の語りを、圭介といのりは黙って聞いている。

「あと、いのり。神楽春陽は、ずっと貴女を探し続けてたの。
 村の者達から貴女をどこに閉じ込めたのか聞き出そうと、金や暴力まで使った。それでも村人たちは頑として口を割らなかったんだ。
 自分達が棄てた者達の霊から名を奪い、記録にも残さず、『無かったこと』にすることで、
 怪異から目をそらし続けるのが彼らの生き方。山折という地に住む人間の生存戦略だった。
 貴女のような犠牲者の存在を認めてしまうことは、自分達が呪われるべき、祟られるべき民であるという事実の受容に繋がるから。
 ……反吐が出るけどね」 
「…………」
「間に合わなかったことは彼に代わって私が謝るわ。
 けど、神楽春陽は決して貴女を見捨てたわけじゃなかった。その想いだけは、信じてあげて」
「…………春陽様」
いのりは、万感の想いとともにぽつりと呟いた。

『いのり。そなたは少し休んでおれ。
 妾も少し聞きたいことがあるので身体は返させてもらうぞ』
春姫の声が本来のそれに戻り、自我が入れ替わる。

「聞きたいことってなに? 神楽春姫」
「分からぬことがある。
 神楽家が龍脈を開くのに力を尽くしたことは知っておる。
 だが、当時の当主が人柱になったなど、村の記録にも神楽の歴史書にも書かれておらぬ」

春姫は将来神楽家を継ぐ者として、山折村と神楽家の歴史を知り尽くしたと自負している。
だが、その春姫ですら、神楽春陽が人柱となった事実を知らなかった。
それは一体何を意味するのか。

「……これはあくまで私の想像でしかないんだけど」
そう前置きして、魔王の娘は語り出した。

「己の身を犠牲にして龍脈を完成させた人間がいるなんて記録に残したら、
 村の人間は、当然、彼を英雄として祭るよね。
 でも、春陽は誇り高かった。
 何人もの犠牲者を出して、作り上げた龍脈も不完全で。
 そして何より、隠山いのりを結果として見捨てた自分が、
 称えられるべき者として名を残すなんて、彼自身が許せなかったんだと、私はそう思う」

「ふむ…… そういうことか」

そう言って、春姫は頷いた。

「そして、彼はいまだ地の底で苦しみ続けてる。
 犠牲になった者達の怨念と、龍脈を通る山折という地の厄の流れの板挟みになって」

「……そうか。ようやく分かったぜ。だからそいつを救いたいってんだな」

遅くなったが、圭介もようやくその辺りの事情を掴め、魔王の娘の目的とその背景も理解できた。
問題は、そこをどうやって解決するかだ。

「何とかなんねえのか?
 素人考えだけど、トンネルの中に社を立てて慰霊するとか」

圭介の提案に対し、魔王の娘は首を振る。

「やらないよりはマシ、くらいね。彼は数百年以上に渡り苦しみ続けてきた。
 そんなやり方じゃそれと同じか、それ以上の月日が必要。時間が掛かりすぎる」
「ん〜〜……」

40女王覚醒 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:19:08 ID:GnCfAldc0

『…………』
2人の会話を聞きながら、隠山いのりは思案していた。
神楽春陽の魂を縛り付ける山折村の呪い。
自分自身が長きに渡り呪いを溜め込んだ存在であることから、
その解放が簡単に行くものではないことは理解している。
だが、いのりは、先の研究所での戦いで、ある信じ難い光景を目にしていた。
それは、自分を打ち負かした山の王の姿。
独眼熊は、山の王者としての誇りを取り戻したことで、
その超越した自我を以て、己に課せられた呪縛の鎖を断ち切ってみせた。
あれが春陽を救う、何らかの鍵にならないだろうか。


(…………ダメだ、他の案なんて出ねえ)
圭介も彼なりに考えているが、呪いや祭祀といったことについては自分は門外漢だ。
うまい手などさっぱり思い当たらない。
そもそも、自分が思いつくことなど魔王の娘はとっくに考慮済みだろう。
わざわさ願望器を使えと言うのも、恐らく、それ以外に有効な手が無いと考えているから。
では、どうすべきか。春に意見を聞くべきか…… と考えていたその時。


頭の中に黄金の光が走った。
そして、己の口から自然に、次の言葉が出てきた。

「じゃあ、女王に聞いてみたらどうだ?」

空気が凍った。
「…………山折の。今そなた、何と言った」
常に余裕を崩さぬ春姫が、目を見開いて圭介を見ている。

「………え? いやだから、女王に聞こうって」
そこまで言って、ようやく圭介も気付いた。

「――え? え? いや待て。今俺何て言った。なんでそんなこと言ったんだ?」
何でそんなことを口走ったのか、自分でも理解できなかった。
極めて自然に、女王に従うべきという感情が沸き上がってきたのだ。

「……そんな。早すぎる。前のループだと、確か2日目の……」
表情は見えないが、魔王の娘も戦慄していた。

「まずい、圭介。あの子を今すぐ殺して」

最も恐れていたことが起ころうとしている。それを感じ取った幼神が叫ぶ。
春姫の手の中で、聖剣も幼神の意見に同調するかのように鳴動している。

圭介と春姫は思わず、『彼女』がいた方を向いた。
そして、時既に遅しことを知った。


「欠席裁判は止めてもらいたいですね」

そう言って、『彼女』は立ち上がっていた。
右眼に黄金の輝きを灯し、微笑をその表情に湛えながら、こちらをじっと見つめている。

「お前、誰だ……?」

圭介が、思わず、目の前の『日野珠』に向かって問いかけた。
だが、分かっていた。目の前にいるのが一体何者なのか。
山折圭介の、神楽春姫の脳内に巣くうHE-028ウイルスが、彼の者の覚醒を感じ取っていた。

「――ええ。察しの通りです。
 私は日野珠ではありません。
 私はHE-028-Aウイルス。あなた達の言う、『女王ウイルス』です。はじめまして」

そう言って女王は彼らに向かい、うやうやしく一礼した。



41女王覚醒 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:19:51 ID:GnCfAldc0

「一体、何が起こったの……? なんでこんなに早いの……!?」
女王ウイルスの『第二段階』。日野光のループを終わらせた、終焉の始まり。
魔王の娘は、日野光の最後のループの記憶から、時間的にはもう少し余裕があるものと認識していた。
だから、日野珠と会った時も、圭介に決断は迫らなかった。
日野光の妹を殺すことについて、思うところも実際あった。
手短に済むなら、『細菌殺し』の異能を使った解決策を試しても良いとも思っていた。

こと今回の事態において、情報という側面で最も優位に立っていたのは、間違いなく幼神だった。
日野光による158回のループ。その記憶から情報を得たことによって、
正常感染者ほぼ全員の異能や、未来人類発展研究所の計画といった重要情報は全て手に入れていたし、
春姫やスヴィアらが必死になって辿り着いたVH終息策すら、既にその手中にあった。
そして、自らに欠けた最大のピースである科学知識を魔王から奪ったことで、今回の事態の盤面をほぼ掌握した。

その筈だった。
だが、そこに、驕りがあった。
知識や情報は確かに得ていた。だが、物事を推論する能力については、彼女は欠けていた。
魔王の娘は、自分が『日野光の主観を通した情報』しか手に入れていないという事実に気付かなかった。
そして、それは日野光も同じだ。いくらループを繰り返したとて、彼女は科学や推理のプロではない。
情報は持っていても、『それが何を意味するか、どういう結果に繋がるか』という検討は、不十分だったのだ。
例えば、スヴィア=リーデンベルクや天宝寺アニカが日野光のループがした事実とその結果を知ったなら、
恐らくは『その可能性』に思い至っていただろう。

「早い……? 君はもしかして、日野光の魂から何か聞いたのか?
 そういえば、あの時私が覚醒したのは2日目の夕方だったな。
 なるほど、だからもう少し時間があると考えたのか」
「どういう、意味……?」
「日野光は女王感染者として、2日間のループを繰り返してきた。
 そして私はその事実を知っている。ここまで言えば分かるだろう?」
「あなた、まさか……」
「そういうことだ。
 女王ウイルスである私も日野光の脳の中で、157回のループを繰り返していた」

驚くべき告白だった。そして、重大なのは単にループしたという事実だけではない。
HE-028ウイルスは、感染者の感情量に比例して成長する。
今回のVHにおいて研究所が観察しようとしていたのは、
最大48時間継続する混乱状態に感染者を置いた場合のウイルスの進化だ。
だが、この女王ウイルスは、日野光の158回のタイムリープというイレギュラーを潜り抜けたことで、
恐らくは、研究所の想定を大幅に上回る進化を果たした。
今の女王ウイルスが如何なる領域に至ったのかは、この世の誰も知る由は無い。

「……そうだとして。
 あなたは何が目的なの? 前回と同様に、日野珠も含めた皆殺しでもしようっていうの?」
「何か勘違いしているな。私があの魔王と同じような存在だとでも?
 そもそも我々ウイルスは、人間や他の生物に感染することで初めて活動できる存在だ。
 その人間を滅ぼしてどうする?」

ウイルスとは何か。
ウイルスが生物に含まれるかについては議論があるが、生物ではないという学説が主流だ。
何故なら、ウイルスは単独では一切の活動を行うことが出来ないからだ。
宿主にとなる他の生物に感染することで、初めて自己複製などの生命活動を行うことが出来る。
すなわち、宿主となる生物の死亡は、ウイルス自身の生存権の縮小に直結する。

「私の目的は極めて単純だ。女王とその一族の繁栄。これだけだ。
 具体的には、正常感染者の可能な限りの生還。そしてZ計画の完遂。
 つまり、感染者である君達とも、未来人類発展研究所とも、利害が一致していると言える」

正常感染者とは、ウイルスに抗体を持った、いわばHE-028ウイルスと共存可能な人間であり、
そしてZ計画とは、全人類を正常感染者にすることが一つの目的だ。
確かに女王の言う通り、Z計画を完遂すれば、人間と共にウイルスも繁栄を謳歌することになる。

42女王覚醒 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:20:24 ID:GnCfAldc0


「じゃあ、なんでお前は光を殺したんだ。碧もだ」

圭介が詰め寄るが、女王は何故分からないんだとも言いたげな、やや呆れた表情で応える。

「そんなに難しい理由じゃない…… 157回目のループで彼女の心が限界を迎えたことは知っているだろう。
 もう彼女に先は無いことは明らかだった。だから殺すしかなかった。
 それとも君は、日野光は心を壊したまま、永遠にあの2日間を繰り返していた方が良かったとでも言うのか?」
「んなことは…… ねえけど……」
「……まあ、私自身に、そんなループに囚われるのは御免だという私心があったことは素直に認めるがね。
 浅葱碧は…… 純粋過ぎた。半ば廃人となったと知りながら、日野光を最後まで守ろうとした。
 彼女の殺害については確かに謝ってもいい」

圭介は黙って女王を睨みつけている。

「……いずれにせよ、日野光を殺害したことは私にとっても賭けだった。
 タイムリープが上手く機能するのか、
 私自身も女王からただのウイルスに成り下がるのではないか、
 ループで得た記憶も全て無に帰してしまうのではないか、
 この辺りはまるで見当も付かなかったのだからね。
 なんにせよ、今回の世界線において、私は気が付けば日野珠の身体の中にいた。
 日野家の血縁が影響したのか、それとも本当にただの偶然なのか、
 それは私自身にも分からないが」

女王の語りが終わったところで、今度は春姫が前に出た。

「では聞くが、そなたはこれから何をしようとしている。
 そなたと日野のは、一体どんな運命を見ているというのだ」

そう、女王は一体何を企んでいるのか。核心を言え、そう春姫は迫った。

「いいだろう。話すとしよう。
 私は、君たちはこれから一体どうするべきか」

女王は、軽く咳払いをしたのち、語り出した。
 
「私と日野珠が見た運命線によれば、間もなく特殊部隊に大きな動きが2つ起こる。
 1つは、女王感染者以外の生存者に対する、『殺害』から『保護』への方針転換。
 もう1つは、軍用通信の復活」

「……保護? ……なんだよ、その保護って」
圭介が口を挟んだ。彼にとって、聞き捨てならない言葉があった。

「言葉の通りだ。女王感染者は殺害するが、
 他の正常感染者については、女王でないことが確認できた段階で身の安全を保障する、ということだ」
「……なんだよ、それ。なんなんだよそれ!!!」

圭介の脳裏に、自分達を無慈悲に殺そうとした特殊部隊隊員と、
彼らとの戦いで命を落とした村人達の姿が蘇る。
圭介の感情が一気に噴き出した。

「俺達を問答無用で殺しに来ておいて、
 今更やっぱり止めますとか、ふっざけんじゃねえよ!!
 何人死んだと思ってるんだよこの野郎!!
 止められるんならもっと早く止めやがれ!」
「山折の、落ち着け!」
「これが落ち着いていられるか!!
 俺達をオモチャか何かだとでも思ってんのかよアイツらは!!」
「良く聞け、山折の! これは、妾の仲間が力を尽くした成果だ!!」

春姫の言葉に、圭介は一旦落ち着きを取り戻す。
「春の、仲間……?」
「落ち着いて聞け。山りの。
 先刻、妾の同行者であった花ちゃんが研究所との交渉を試みていた。
 恐らく、その交渉が功を奏したのだ。ならば妾もそれを無為にすることは出来ぬ」
「…………」
「案ずるな。妾らを弄んだ研究所や特殊部隊を誅すべきと考えているのは、妾も同じこと。
 ここは妾に免じ、抑えよ」
「…………ああ、分かった」

これが、村人の意向を無視した研究所や特殊部隊による一方的な方針転換であったのなら、
圭介の怒りは止まらなかっただろう。
だが、春姫の仲間による交渉の結果なら話は別だ。春姫の説得を受け入れ、なんとか自分を抑え込んだ。
その花ちゃんという人間が誰かなのかは分からないが。

43女王覚醒 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:20:58 ID:GnCfAldc0
圭介が落ち着いたのを見て、女王が話を再開する。

「……さて、方針転換が決定し、軍用通信が復活したら特殊部隊はどう動くか。
 まずドローンを使って、生存している特殊部隊員に通信機を送るだろう。
 そして、その隊員に対し、現場との通信状態の確認も兼ねて、現状の報告を求めるはずだ。
 そこで司令部は、生き残りの特殊部隊員と行動を共にしているスヴィア=リーデンベルクを通して、
 天原創の異能を用いた事態収拾策を知ることになる。
 
 ドローンの映像から、司令部は天原創の生存を確認している。
 しかも生存者に対する方針転換を行ったばかりだ。
 この事実を無下にすることはできず、研究所に報告を入れる」

女王の話は続く。

「そして、未来人類発展研究所の方だが、
 彼ら今回の事件で、生きた女王ウイルスが手に入るとまでは予測していない。
 惜しいとは思いながら、パンデミックに発展することを恐れ、
 女王感染者を村人か特殊部隊に殺害させ、死滅させるしかない、と考えていたはずだ。
 逆に言えば、女王を生かしたまま確保する手段があると知ったなら、
 是が非でも私を手に入れようとする筈だ。
 ――――何せ、『世界を救う鍵』なのだからな」

「つまり、この解決策を、飲むと……?」
圭介は息を呑んだ。

「それでも彼らが渋るようなら、私が158回のループを繰り返し、
 急速な進化を遂げたウイルスであると伝えればいい。
 彼らは涎を垂らして飛びつくさ」

そこで、女王の話は終わった。

圭介は迷っていた。
話を聞く限り、確かに女王の計画通りに進めれば、これ以上の犠牲者を出すことなくVHは終息する。
自分も、珠も、哉太達他の生存者も、生きて帰れる。
今の段階ではこれ以上ないハッピーエンドだ。
だが、例え理由があったとしても、目の前の相手は光を殺した相手だ。
その感情が、山折圭介を決断に踏み切れさせない。

だが、これはやはり、自分の個人的な感情にすぎないのではないかとも思う。
村のリーダーであるなら、今生きている村人を一人でも多く救うための選択をすべきなのではないか。
自分が感情に振り回され、無駄な犠牲者を出すことなんて、光だって望まないのではないか。
この悲劇を終わらせ、ハッピーエンドを齎す為に降臨したデウス・エクス・マキナ。
女王がそれであることを、ただ自分が認めたがっていないだけではないか?
自分は、一体、何を選択すべきなのか?

「……でも、あなたの見ている未来も絶対ではない」

今まで黙っていた魔王の娘が、口を開いた。
明示したのは、女王の選択した運命線が、必ずしも絶対ではないという事実。
その言葉を受けて、女王は肩をすくめ、再び語り出した。

「君がいる以上、隠しても無駄だな。
 人間は、いや、生きとし生けるものは、すべからく運命を変える力を持っている。
 しかし並の人間のそれは、あまりにもささやか。誤差以下の影響しか与えることが出来ない。
 だが、極々稀に、世界をねじ伏せる程の強烈な自我を以て運命線を己に引き寄せる力を持った者がいる。
 例えば、神楽春姫、君のように」

そう言って、女王は巫女を見つめた。

44女王覚醒 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:21:41 ID:GnCfAldc0

春姫自身は疑問にも思っていないが、
第三者の視点から今回のVHに於ける彼女の行動を俯瞰した場合、
運に恵まれたという一言ではとても済まないほどに、彼女の動きはあまりにも異常だった。

VHの研究施設が診療所にあるとドンピシャで当てた。
郷田剛一郎が盾になってくれたとはいえ、最強の特殊部隊員である大田原源一郎との遭遇を無傷で切り抜けた。
物部天国の呪いを受けて自分で心臓を貫きながら、聖剣を己の自我で従えて復活し、狂ったテロリストを返り討ちにした。
VH始まりの地である診療所地下3階に、研究員やエージェント、特殊部隊員といった面々よりも早く到着した。
研究所地下3階における厄災との死闘も潜り抜けた。
日野光が繰り返したループにおいても、春姫のみ正常感染者である回数が多かった。

「そして、私や日野珠に神楽春姫の運命が見えるのは、
 この瞳に映る運命と、君が為そうとする未来が同じである時だけだ。
 つまり、魔王の娘が言った通り。神楽春姫やそれと同質の力を持った者の影響で、
 私の計画になんらかの綻びが出る可能性もゼロじゃない」
「春と同質って…… 運命を変えられるなんてのがまだ何人かいるのかよ」
「そうだな。例えば、先ほど隠山祈を下した山の王も、最期にその境地に至ったのだろう。
 そうでもなければ、ただの動物でしかない彼が、厄災たる隠山祈に勝てる訳がない」

(……そういえばさっきアイツも、哉太達の中に女王の運命測定から逃れた奴がいるって言ってたな)
圭介は、先ほど魔王の娘の言葉を思い出していた。

余談ではあるが、この場にいる者は誰も知らぬことだが、
かつて吉田無量大数から大田原源一郎に引き継がれた
『最強』の自負による神憑りも、或いはこれと同質のものだったのかもしれない。

「だから、神楽春姫。君のような力を持つ者には、私を信用してほしいんだ。
 君達のような者が、私の意図からあまりにも離れた行動をしてしまった時、
 私の視ている未来も変わってしまう恐れがある。
 君もこれ以上の犠牲は出したくないはずだ。
 是非とも協力してほしい。そう、ハッピーエンドを迎える為に」

そういって、女王は春姫に手を差し出した。

運命の選択の時だ。
女王の指し示すハッピーエンドを選ぶか。
それとも。

圭介と魔王の娘は、固唾をのんで見守っている。
女王が差し出した手を前に、春姫はしばしの沈黙ののち、口を開いた。

「……なるほど。話を聞く限り、そなたの計画は、非妾らにとっても都合がいいようだ。
 その計画に乗っても構わん、とは思う。
 ――だが、条件がある」
「ふむ。条件とは?」
「その身体の主導権を日野のに返せ。そしてそなたは二度と外に出ず、妾らに今後一切の干渉をしないことを誓え」
「理由は」
「信用できん」

春姫は一刀両断に斬って捨てた。その態度に、女王は苦笑する。

「残念だ。ここまで長々と話したのは。
 是が非でも私を信用してもらいたかったからなのだが」

春姫は厳しい表情を崩さない。
「……信用か。
 運命など下らぬが、それを見ているのが日野のならば、信じても良いと思っていた。
 日野の人となりは妾もよく知っておる。軽率で考え無しではあるが、最後には正しい選択をする娘だ。
 だが、そなたのような者が表に出てくるのならば話は別だ。
 ……それに、なにより、これだ」

春姫が、己の額を指さした。

「先ほどから何かが妾の自我に侵食してきておる。そなたを守れ、そなたに従えとな。
 あまりに自然、あまりに穏やかで、不覚にも今まで妾も気づかなんだ。助かったぞ、駄剣」

聖剣が春姫に応えるように鳴動する。
女王はその様子を見て、ああこうなってしまったか、とでも言うように、長々と溜息を付いた

「まだよく分からねえとこもあるけど……」

今度は圭介が女王に向かって言う。

「確かに、春の言った通りだな。今すぐ珠の心と身体を返すんなら、俺も考えてやってもいい。
 けど、それができねえってことは、やっぱ何か企んでるってことでいいのかい?」

形勢は変わった。女王は自分を睨みつける2人を、静かな瞳で見つめ返しながら呟く。

45女王覚醒 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:22:20 ID:GnCfAldc0
「……ウイルスは己の生存の為、女王に従おうと働く。
 私の意志に関わらず、君達の脳内に巣くうウイルスは、自動的にそう動こうとするもの……
 そんな言い訳をしたところで、もう君達は私の言うことなど聞かないだろうな」

女王の言葉が終わるのと、圭介と春姫が戦闘態勢に入ったのは同時だった。

「日野のを返せぬ理由は話せぬか。では、交渉は決裂か」
「受け入れていれば、幸せに終われたものを。
 では、君たちはこれから私をどうするつもりかな?」
「決まってる。お前をとっ捕まえて、
 天原って奴の力を借りて、珠の身体から出てってもらう。
 研究所の連中には、このウイルスは問答無用で焼き殺せと言っておくよ」
「できるかな? と、言いたいところだが……」

女王は、改めて目の前にいる相手を眺めると

「相手は魔王の力を持つ少年に魔王の娘、聖剣の巫女に厄災ときたか。
 そしてこちらの身体は特に力を持たない女の子のもの、と。
 やれやれ、厳しいものだ」

そう言って、肩をすくめた。

「でも、できなくはない、ってな言い草だな、この野郎」
「さて、どうかな」
「ま、お前のことはどうでもいいや。珠は返してもらうぜ」
「――圭介。気を付けて。相手は女王だけじゃない」

魔王の娘が警告する。
いつの間に集まったのか。女王に呼ばれたのであろう百人近くのゾンビが、こちらを取り囲んでいた。

「さすがに相手が悪いのでな。こちらは数を使わせてもらうよ」
「やり方がセコいんだよ。今までの全部、コイツらが来るまでの時間稼ぎかよ」
「用意周到、と言ってもらおうか。君達が味方に付いてくれた方が、私としてはずっと楽だし好ましかった」

そう言いながら、女王はゾンビの兵士達に命令を下すように、右腕を上げた。

「女王に仇なす者たちだ。殺せ」

号令一下、ゾンビ達が圭介達に襲い掛かる。
その動きは今までの、理性を失い本能のままに彷徨っていた時のような、
ゆったりとしたものではなかった。

「……なんだ!? こいつら、今までと違う!?」

圭介は思わず叫んでいた。
正気の時とほぼ変わらない様子で走ってくる者もいる。
明らかにこちらの殺傷を目的に、石や鈍器を手にしている者もいる。
ゾンビ達は、明確にこちらを『敵』と認識し、活動していた。

「先頭の連中! 足を止めろ! そこを動くな!!」
これ程の人数に襲い掛かられたらまずい。
そう判断した圭介が『村人よ我に従え(ゾンビ・ザ・ヴィレッジキング)』の異能を使う。
今までの経験からして、20人くらいなら動きを止められるはずだった。だが。

「「「オォォォォォッ……!」」」

異能を受けたゾンビ達は、その影響で速度こそ落としたものの、
圭介の命令に抗うかのように、ゆっくりと前進を続けている。

「異能の利きが悪い!?」
「控えいっ!!!」

今度は春姫が異能『全ての始祖たる巫女(オリジン・メイデン)』を言霊に乗せ、ゾンビ達を一喝する。
ゾンビ達は一旦足を止めたものの、数秒後には再び進行を開始する。
舌打ちする春姫。

「圭介。気を付けて。
 多分、ウイルス達は、女王を殺せば自分達も死ぬって分かってるんだ。
 だから、女王の敵である私達に全力で対抗する。
 ゾンビ達に私達を敵と認識させて、襲い掛からせてる」
「……マジか。異能もあまり効かねえし、この数相手じゃやべえぞ」

そう言っている間にもゾンビ達は続々と向かってきている。
女王はこの包囲網の向うだ。
女王を倒し、珠を救う為には、このゾンビの肉壁を超えねばならない。

「圭介。魔王の力…… 魔力を使って」
「ま、魔力って…… 俺の中に在るコレか!? でも、どうすりゃいいんだよ!?」
「重要なのはイメージ。『自分が何をしたいか』に精神を集中して、力を開放するの。
 魔王に自我を奪われたとき使ってたんだから、身体が覚えてるはず。大丈夫、細かい補助は私がする」
「集中っつても……」

ゾンビは既に目の前に迫っていた。このままではあと数秒で乱戦が始まってしまう。そんな時間は……

「目を閉じろ、山折の!」
春姫の手にした聖剣が輝き、熱光が放たれた。周囲のゾンビ達の眼が焼かれ、視力を失う。
その一撃が、圭介が集中するために必要な時間を作り出した。
「妾に構うな! 行け!!」
「……済まねえ!!」

46女王覚醒 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:23:13 ID:GnCfAldc0

圭介は魔王の娘と共に、魔力で作り出した気流に乗り飛翔、一気にゾンビの群れを飛び越えていく。
その先には、10体ほどの護衛ゾンビを連れ、後退する女王の姿。

「逃がさねえぞ、この野郎!!」
「空まで飛ぶか。勘弁してくれ」
女王はH&K MP5を手に取り、瞳に映る運命線に沿って引鉄を引いた。
その銃弾の軌道は、嫌みなまでに正確に圭介を捉えている。

「うっ…… 盾!!」
寸前で黒曜石の盾が現れ、銃弾を防いだ。

「魔王の力を得たはいいが、肉体は人間のままのようだな。
 下手に突っ込んで撃ち落されたらまずいんじゃないか?」
「うるせえ、黙ってろ」

圭介は高速で飛行しながら、何とか女王の迎撃を潜り抜けようと試みるが、
運命の可視化を併用した女王の射撃は正確無比だ。
フェイントを掛けたり、あるいは盾を構えて強行突破を狙ってみても、
こちらの手はことごとく見透かされており、距離が詰まらない。

「ああくそ、セコい動きばかりしやがって!!」
「力は君達の方がずっと上だろう。ただの女の子の身体で魔王の相手をするこっちの身にもなってくれ」
「圭介、あんな挑発には――」
「大丈夫だ」

そう言われて、魔王の娘は気付いた。
頭に血が上っているかの口調だが、圭介の眼は冷静なままだった。
精神を落ち着けようと、深く、ゆっくりと呼吸をしていた。

軽口を叩き余裕を見せ、こちらを挑発しながら己のペースに引き込む。そういう相手との戦いを圭介は思い出していた。
成田三樹康との死闘。圧倒的戦力を有しながら、相手に徹頭徹尾手玉に取られ、日野光と浅葱碧を失うことになった、己の最も忌むべき記憶。
今の圭介に同じことを繰り返すつもりはない。そんなことをすればそれこそ2人に合わせる顔などない。
攻撃は苛烈に、されど頭は冷静に。そして珠を取り返す。圭介は相手の挑発に惑わされることなく、己が目的に集中していた。

「なるほどね。ちょっと、見直した」
「でも、正直どうすればいいのか思いつかねえ! 何か手はないのか!?」

大雑把な攻撃では下手をすると珠まで殺してしまう。
珠を出来るだけ傷つけず、女王だけを捉える。そんな繊細な魔力操作を行うにはそれなりの集中時間が必要だが、
隙を見せたとたん、女王はそんな時間など与えぬと言わんばかりに嫌らしく発砲してくる。
無論、大局を考えるなら珠ごと女王を殺すのがベストだと、圭介も分かってはいるが。

「あれは光の妹だぜ。そのまま殺してもいいとはお前も思ってねえだろ」
「…………そうね」

魔王の娘は少し思案したのちに答えた。

「あいつの運命を見る異能は、日野珠の本来の異能の進化形。つまり、あくまで目を使って見ている」
「……てことは、視界を防げばいいんだな」
「それと、あいつは多分、あなたと同じように魔力を使った経験は浅い。だから……」

そう言って、圭介に『あること』を伝える。
圭介はそれを聞いてにやりと笑った。

「……よし、じゃあこの手で行くか」

そう言うと、圭介は両腕に魔力を込めた。
イメージに従い、両腕から強力な風が発し始める。圭介はその身に旋風を纏った。

「……何か考えたな」

それと見た女王は牽制に数発発砲したが、
圭介が纏う魔力の風によって弾道が逸らされ、圭介本人には当たらない。

「さて、何を仕掛けてくるつもりか」


「――――行けえっ!!!」

圭介は気合一閃、溜め込んだ風の力を思い切り地面に向けて放ち、巨大な上昇気流を発生させた。
だが、人間を吹き飛ばすほどの勢いではない。つまり、攻撃が目的ではない。

「……なるほど。私の目を潰そうというのか」

女王は圭介の狙いに気付いた。この風によって地面の砂が巻き上げられたことにより、
周囲一帯が砂塵で包まれた。上下左右どの方向もまともに前が見えない。

「兵士達よ、私を守れ」

女王は指示を出し、己の周囲をゾンビで固めた。
視界が塞がれ、運命の可視化に頼ることは出来なくなった。
では、圭介達はここからどう動いてくるか。
この状況では圭介達からもこちらは見えないはず。
まさか本気で周りのゾンビごと自分を焼き尽くすとでもいうのか。
万が一にでも攻撃を受けることを警戒し、女王とその一団は砂煙の中をゆっくりと後退していく。
その時だった。

「私が貴女を感知できるとは、予想できなかったみたいね」
「何……?」

幼神の声が耳元で響いた。
気付いた時にはもう遅い。
突如足元に出現した黒蛇が、女王に躍りかかった。

47女王覚醒 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:24:24 ID:GnCfAldc0


風が吹き、砂塵が晴れ、戦場の姿が再び露になった時、
女王は、黒蛇の姿に変じた幼神によって、その身をぎりぎりと締め上げられていた。

圭介達の作戦はこうだ。
魔力で砂嵐を発生させ、女王の視界を塞ぐ。
その間に身体を変化させた幼神が、女王の黄金瞳から発せられている魔力を感知しつつ、密かに接近し、女王を拘束する。
幼神の予想通り、女王ウイルスはその黄金瞳が象徴するように魔法の力を秘めた存在だが、
直接魔力を行使したのは、前回のループで日野光を殺害する際に聖剣を使用した程度であり、
絶対的に理解と経験が足りなかった。
幼神ほどの魔力の使い手ならば、視界を塞がれた状態でも女王の位置を探知できる、とまでは予想できなかった。
今の幼神は圭介の魔力コントロールにリソースを割いているため、戦う為の力はわずかしかない。
だが、物理的干渉が出来る以上、少女一人を気絶させるくらいは充分に可能であった。

「ぐ、ぬ……」
女王は力任せに幼神を引きはがそうとするが、日野珠の腕力は非力すぎた。まるで歯が立たない。
護衛のゾンビに救援を指示しようとしたが、そうはさせじと圭介が突風を放ち、ゾンビ達を吹き飛ばした。

日野珠の力が抜けていくのが、傍から見ていても分かる。顔色が徐々に白くなり、四肢が痙攣し始めた。
「よし! そのまま気絶させろ!!」
圭介は勝利を確信して叫んだ。

「さようなら、女王様。手に入らないハッピーエンドを夢見たまま、逝きなさい」
幼神は、息も絶え絶えな哀れな女王に無感情な眼差しを向けたまま、その意識を刈り取ろうとしていた。
幼神から見れば、女王もあの魔王と大差なかった。
運命を可視化したことで世界を想うがまま動かせると思い上がった道化者。
人間に寄生しなければ増えることもできない、魂すら持たない下等な生命。

「……幼、神よ……」
「ん?」
女王は、締め付けられている気道に、残った僅かな力を込めて隙間を開け、かろうじて声を絞り出している。
「私は、ただの、ウイルスだ……
 君のような、存在、に、比べれば…… あまりにも脆弱で、下等な、存在だ……」
「…………それで?」
「君に、手が届かないのは、当然だ……
 神殺しの、手段など…… まるで、検討も、つかない……」
「今更、負け惜しみなんかっ…………!?」

ここに及んで、幼神は気付いた。
女王は笑っていた。
全身の筋肉は痙攣し、顔色は能面のように白く、口角からは泡が吹き出し、意識を保っていられるのもせめてあと数秒といった状態で。
それでも女王は笑っていた。

「だから、さ……。
 私に、自分を殺せはしないと、高を括って、いたん、だろう……?」
「どういう、意味……?」
幼神は分からない。だが、恐ろしい予感が己の魂をよぎった。
女王はなお、笑っていた。
黄金瞳を不気味に光らせながら。日野光を殺したときとそっくりな、醜悪な表情を浮かべて。
直後、黄金の瞳を、幼神の魂を貫くが如く、細く、鋭く輝せながら、女王はこう言った。





「――――だから死ぬのだよ、お前はここで」





「なんだ!? どうしたんだ、おい!」
圭介は困惑の叫び声を上げていた。

女王を締め上げていたはずの黒蛇が、突如力を失い、女王の身体からずり落ちた。
そのまま人形に戻った影法師の少女は、立ち上がることもできず、地面に突っ伏し、全身を痙攣させている。

幼神は、己の身体に何が起きたか気付いた。
何かの異物が、実体化した己の身体の中に入り込んでいた。
それが、己の記憶を少しずつ消滅させていくとともに、
それとは別の何かが自分の自我を食い荒らしている。

「じょぉ、う…… なに、を…………」
「実体を持ったのは失敗だったな」

女王は手にしていたものは、黒い粉末だった。
研究所地下3階、感染実験室で日野珠が見つけた、魔法鉱物。
短期記憶を消去する効果を持つとともに、吸引した者にゾンビ化の再抽選を行う副次的効果がある。

48女王覚醒 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:25:53 ID:GnCfAldc0


女王/日野光はかつて、とあるループである存在と遭遇していた。
その名は『八重垣』。『八尺様』という怪異が『正常感染者』となった存在。
そう、HE-028ウイルスは、怪異にすら感染するのだ。

魔王の娘は山折圭介、隠山祈は一色洋子という正常感染者の肉体を媒体にしてこの世に具現していた為、
今まではウイルスの影響を免れてきた。
だが、これから魔王の娘に行われるのは、短期記憶が消去され、その影響がリセットされることによって生じる、
ゾンビ化の再抽選だ。

「……ぅ………ぁぁ…………」

魔王の娘の、至近の記憶が消えていく。ウイルス抗体が一時的に無効化される。
「絶望するにはまだ早いんじゃないか、幼き神よ。10%の当たり籤を引けば君の勝ちだ。
 君という存在に対し私が打てる手は、正真正銘これしかないのだから」
「……ァ、ァ…………」

運命の籤が無慈悲に引かれる。
天運は幼神に微笑まなかった。
幼神の自我が、ウイルスに貪り食われていく。
魔王と女神の娘との間に生まれた、人知の及ばぬ祟り神が、哀れなゾンビに身を堕とされていく。

女王が、ゾンビと化した幼神に命じた。

「幼神よ。お前とその父の力を女王に捧げよ」

圭介は、己の身体から力が抜けていくのを感じた。
魔王の娘の力により、圭介の肉体に紐付けされていた魔王の力と願望器が、
女王の身体に移行されているのだ。
抵抗する術も無く、圭介の肉体から魔力が消滅する。
それを確認した女王が、幼神に最期の命令を下した。

「女王の名に於いて命ずる。魔王の娘よ、消滅せよ」
「っ、待て―――」

圭介が静止しようとしたが、全ては遅い。
今の女王に幼神を殺す術は無い。
だが、ゾンビ化させることで精神に干渉することはできた。
己の意志による自己否定、自我消滅からは、例え神とて逃れることは出来ない。
幼神という存在は、この世界から消え去る。
そして。

「魔王とその娘の力、そして願望器。確かに頂いた」

女王の勝利宣言が、夜の空に低く響いた。



「嘘、だろ……」

圭介は、目の前で起こったことが受け入れられず、呆然としていた。
またしても、何もできなかった。
魔王の力に奢ることなく、慎重に戦ったつもりだった。
だが、この結果がこれだ。
やはり、女王に逆らった自分達が愚かだったのだろうか。
これが、ハッピーエンドに逆らった報いなのだろうか。

女王は、魔王の娘と、魔王の力を失い、ただの一感染者に戻った圭介に向けて、
黙って人差し指を向けた。
それを合図に、数十体のゾンビが津波の様に圭介に向って押し寄せた。

「う、うわ、うわあああああああああああっ!!!!」

山折圭介は成す術もなく、悲鳴と共に、無数のゾンビの群れの中に呑まれていった。



49運命と、その先 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:27:40 ID:GnCfAldc0
「やれやれ、なんとか上手くいったか」
圭介の姿が見えなくなったことを確認し、女王は純粋に安堵した。
自分にとって最大の脅威はあの幼神だった。
あの黒粉末が無ければ、残されたこちらの武器は、華奢な腕力に銃にゾンビ、それにわずかな魔力だけ。幼神を殺す手段は本当に全くなかった。
それ以外にも、綱渡りに綱渡りを重ねた勝利だった。
例えば、山折圭介が周りのゾンビもろとも己を焼き尽くすという手を取っていたら、
自分に最早打つ手は無かったのだから。

だが、まだ戦いは終わっていない。
幼神より力は大幅に劣るが、何をしでかすか分からない、
運命を覆す巫女が残っている。

「……むっ!?」

その時突然、爆発のような轟音が響くとともに、巨大な砂埃が舞い上がった。
次の瞬間、砂煙の中から、巫女服の少女が姿を現した。

「神楽春姫、いや……」

それは、人間の業ではなかった。
砲弾かと見まがう勢いで空を裂き、距離を一気に迫ってくる。
神楽春姫にそんなことが出来るはずがない。すなわち……

「隠山祈!!」

少女は既に己と数メートルほどの距離に迫っていた。
女王を守るべく数体のゾンビが厄災に向かうが、瞬時に薙ぎ払われる。
隠山祈は左腕を『肉体変化』の異能によって、巨大ワニの尾に変じさせていた。
続けざま、それを目にも止まらぬ速度で、女王に向けて振るった。

「ぐぬっ!!」

女王はすんでのところで躱したが、
女王の眼端に映る運命線が新たなレッドアラートを告げる。
もう一人の『隠山祈』が、音も無く己の背後に出現していた。

(分身の異能……!)

「くっ!!」

今度は羆のそれに変じた右手の突きが迫る。
日野珠の華奢な身体など簡単に破壊するであろう一撃。
女王は受け身を取る暇もなく、地面に激突するのを覚悟で身を投げ出し、紙一重で命を繋いだ。
それでも、完全には回避しきれておらず、こめかみが削られ血が噴き出す。反応が半瞬遅れたらやられていた。

だが、女王もただでは転ばない。地面を転がりながらも砂利を掴み、分身体に向かって投げつけていた。
小石の一つが分身体の頭に当たり、分身が消滅する。

女王は即座に立ち上がり、運命線を視るため、黄金瞳を厄災に向けた。
だが。

「!?」
その瞳には、何も映らなかった。
これが意味するところとは、すなわち。

「――――妾の運命線は、見えないのであったな」

今、目の前にいるのは『隠山祈』ではない。今度は『神楽春姫』に入れ替わっていた。

これが春姫と隠山祈が編み出した女王攻略法・『自我交換(マインド・シャッフル)』
運命線を視ることが出来ない『神楽春姫』の自我を盾にすることでギリギリまでこちらの意図を隠し、
攻撃の瞬間、『隠山祈』に切り替える。
魔王の力が女王に紐づけされ直したことで、『隠山祈』の魔力や神力の行使は不可能になった。
だが、怪異として得た数々の異能と、厄災としての力は健在。
例え女王に運命線が見えていたとしても、その怪物的なパワーとスピードに物を言わされ、
いわば『詰み』の状態に追い込まれてしまう恐れがある。

50運命と、その先 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:28:10 ID:GnCfAldc0

「やはり君は怖い相手だ、神楽春姫。何をしてくるか読めたものではない。
 それに今、君達は、日野珠の身体を完全に殺しに来ていたね」
「想い人の妹までも手に掛ける。山折のが背負うには重すぎよう。
 それが避けられぬ業ならば、その責を担い、業を負う。それもまた女王の務め」
「ふむ、なるほど。
 ……隠山祈。君の方は、魔王の娘の仇討ちかな。
 彼女は気まぐれな祟り神だ。人間を、山折村を嫌悪していた。
 白兎と幼神は相容れない。彼女が生きていたなら、君はいつか辛い選択をしなければならなかった筈だ」
『そうかもしれない。
 でも、何であれ、憎悪と絶望の底にあった私に、あの子は手を差し伸べてくれた。
 そのせいで厄災と化したとしても、それでも、私は救われたんだ。
 あの子は、私の友達になってくれた。あの子を奪ったあなたのことを、私は絶対に許さない』

「そうか。なら掛かってきなさい…… と言いたいところだが、
 君達の相手は別にいる」
「何……?」
『―――春姫っ!!』
「っ!?」

隠山いのりが突如叫び、肉体の主導権を強引に奪った。
春姫もそこで気付いた。
いま自分達の立っている場所に、何かが凄まじい勢いで飛んできていた。

それは車だった。
誰かが、それを投げつけたのだ。
白いワンボックスカーを、まるで砲弾のようなスピードで。

ワンボックスカーが地面に激突した。同時にガソリンが引火し、爆発を起こした。
炎上する車体。その炎が戦場を紅く照らす。まるで、これからこの地が血に染まることを暗示するかのように。
隠山祈は、地面に伏せて熱と爆風を凌ぐと、立ち上がって新たな敵を睨みつけた。
炎に身を照らされながら姿を見せたモノ、それは、鬼だった。

「ようやく来てくれたようだね、私の戦鬼」

女王の呼び声に導かれるように、戦鬼・大田原源一郎が、その姿を現した。

51運命と、その先 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:28:50 ID:GnCfAldc0
「大田原源一郎に命ずる。女王の敵を処理せよ。
 あと、それはもう要らない。外せ」

女王が戦鬼に命を下す。
大田原は女王の意を受け、自決用の爆弾を組み込んだ首輪を鷲掴みにすると、強引に引き剥がし始めた。
異能の飢餓にも屈せず、己が生き方を貫くべく、最期まで秩序の守り手たらんとした、大田原源一郎の信念の証。
その最後の楔が、外される。

「グワアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーッッ!!!」

野獣のような咆哮とともに、秩序の首輪が遂に引き千切られる。
大田原はそれを、一瞥もせず投げ捨てた。
大田原源一郎は、ここに、忠実なる女王の戦鬼と化す。

「じゃあ、せいぜい頑張ってくれ、厄災。彼の相手は君でもかなり厳しいと思うよ」
「待てっ……!」

追おうとしたいのりの前に、戦鬼が立ちはだかる。その陰に隠れ、女王の姿は宵闇の中に消えていく。

「じょぉ王の、敵……」
「……邪魔するな……」

対峙する両者。そして。

「処ぉぅ理するゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
「どぉけェェェェェェェェェ!!!」

2つの咆哮と共に、戦鬼と厄災、山折村の頂点に君臨する怪物同士の死闘の幕が上がった。



「くそっ、くそっ、くそおっ!!!」
山折圭介は情けなくも、ゾンビの群れの中をひたすら逃げまどっていた。
前後左右を幾体ものゾンビに囲まれ、既に方向感覚は失われている。
なんとか異能でコントロール可能な数人のゾンビを肉壁にすることで
ギリギリのところで凌いでいるか、ジリ貧なのは明らかだ。

珠の肉体を奪った女王がどこに向かったのも分からない。
春姫が今、何かとんでもない相手と戦っているのだけは、辛うじてわかる。
ただただ、押し寄せるゾンビから身を守るのが精一杯だ。
息が上がる。集中力が失われていく。絶望が自分の思考を塗りつぶしていく。

そして。

(あ……)

側溝に踵を取られた。足が思い切り前に滑る。前を向いていたはずの視界が、夜の空を映す。自分の身体が宙に浮いたのが分かった。

(――――やべえ、死ぬ)

圭介の脳裏に浮かんだのは、そんな言葉だった。
背中が地面に着くまでのわずか1秒足らずの時間が、やたらと長く感じられた。


背中に衝撃が走った後。
まるで、ゾンビ映画のクライマックスシーンのように。
倒れた自分に向かって、ゾンビたちが一斉に群がってきた。



52運命と、その先 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:29:43 ID:GnCfAldc0
厄災と戦鬼の死闘は続いていた。
2つの拳が正面から激突し、両者は弾けるように離れた。

「支障、為し……っ! 任務、継ぞくっ………!!!!」
「――――はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

今のところ互角の戦いであるが、隠山祈に疲労の色が見えてきた。
その原因は、明らかに肉体の差だ。
互いに肉体強化の類の異能を使用しているが、神楽春姫と大田原源一郎では肉体のスペックに天と地ほどの差がある。
今は異能『肉体変化』と『身体強化』の二重掛けにより何とか渡り合っているが、
神楽春姫の華奢な肉体ではその反動にいつまでも耐えられない。いずれ限界が来るのは目に見えている。

しかも、魔王の娘が纏っていた黒い厄の靄が、いわば同類である隠山祈に向かって再び集まってきていた。
彼女の心に、かつて抱いていた呪いと憎悪が再び湧き上がってくる。
彼女がまた狂気に堕ち、春姫のコントロールを外れてしまえば、もはや絶望だ。

『隠山の! もうよい! 妾に代われ!!』
「何言ってるの! こんなの相手にしたらあなたじゃ一瞬で殺されるって分かるでしょ!!」
『しかし、このままではそなたが持たん……!』

女王は完全に見失った。逃げる手段も見当たらないし、応援が来る見込みもない。
圭介はどこにいるかすら分からない。
それに、例え今の彼が来たところで、戦況が変わるとは思えない。
聖剣は、敵対する厄そのものである隠山祈では握ることすらできない為、
やむを得ず手放してしまっている。
だが、仮に聖剣があったとしても、春姫ではその力を振るう間もなく殺されるだろう。

(もう、届かぬか……!?)
唯我独尊、傲岸不遜、全ての道は己に通ずの確信を以て人生を歩み続けてきた少女、神楽春姫。
その彼女が、心中で、生涯初めての弱音を吐いた。



これも自分への罰なのか。
山折圭介の脳裏に浮かんだのは、そんな言葉だった。
異能を使って守るべき村人を戦う道具にして。
浅はかにも特殊部隊に戦いを挑んで、光や碧や六紋の爺さんを死なせて。
幼馴染達の想いを裏切って、魔王なんかになって。それでも負けて、底の底まで堕ちて。

んで、光の想いを知って、魔王の娘に支えられて、
ようやく自分の足で立てるか、と思った矢先に、これだ。
そもそも、罪を犯した自分がヒーローになろうとなど思ったのが、間違いだったのか。

ゾンビ達が襲い来る。
圭介は、遂に観念した。その眼を、ゆっくりと閉じた。

そうだ。もう、終わりにしよう。
殺されるのを待って、それで、終わりだ。
後のことなんかどうでもいい。
村の人間に殺されるなら仕方ない…………





………




……









“仕方ないわけ……………………ないでしょっ!!!!!!!!!!”
「っ!!!???」

53運命と、その先 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:30:25 ID:GnCfAldc0

圭介は、飛び跳ねるように立ち上がった。
本気で怒った顔をした想い人と、その親友の姿が、瞼の裏に浮かんでいた。
いつの間にか自分は、光のロケットペンダントと、上月みかげの御守を、握りしめていた。

光とみかげが助けてくれたのか。
いや、2人は死んだ。光に至っては、その魂まで消滅した。
だから、立ち上がったのは、自分の意志だ。
自分はまだ、生きようとしている。

視界が広がる。少し離れたところに、神楽春姫が持っていた剣が落ちていた。
何故春姫が落としたのかは分からない。
理由なんか何でもよかった。武器なら、力になるなら何でもいい。

ゾンビは次々と押し寄せる。ゾンビの歯や爪が、圭介の身体を傷つける。
それでも、圭介は生きようとした。ロケットペンダントと、御守を握りしめながら。
一体のゾンビが、手にした石で圭介の頭を殴りつけた。
これには堪らず、圭介も膝を付く。この機とばかりにゾンビ達が圭介を包囲していく。
だが、圭介の心はまだ折れていなかった。


(――――だよな。負けらんねえよな。だから、助けてやるよ)
「……え?」


圭介の耳に、そんな声が聞こえた、気がした。
彼の、みっともなくも生にしがみ付こうとする意志が、異能を発動させ、『彼』を呼んていだ。

圭介の目の前で、ゾンビ達が宙を舞った。何者かが自分の眼の前に颯爽と現れ、ゾンビ達をなぎ倒していた。
それは、少年だった。彼はやはり、ゾンビと化していた。
だが、ゾンビ化により理性を失ってもなお、その身にどこか、雄々しき気を纏っていた
年齢は自分と同じくらいだろうか。
顔は、知らない。この村の同年代の人間なら、自分が知らない筈はないのに。村外の学生だろうか。
服装もおかしかった。なんでマントなんか着けてるのか、さっぱり分からない。
そして、彼の顔は、血がつながっているかのように、自分に似ていた。

少年が、圭介を守るようにゾンビの群れに立ちはだかる。
その背中が、圭介に語っていた。「行けよ」と。

「……済まねえ!」

圭介は、少年に礼を言って走り出した。
体力の余裕はもうない。あの少年も強いが、いつまでもは持たないだろう。
これが最後のチャンスだ。圭介は聖剣に向かって駆けた。

少年がその大半を引き付けてくれているとはいえ、
残るゾンビはまだ多く、彼らは圭介を阻止しようと襲い掛かる。
だが圭介は残る力を振り絞り、ゾンビを殴りつけ、蹴り飛ばし、飛び越えながら、
ひたすらに前進し続けた。



54運命と、その先 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:31:06 ID:GnCfAldc0

――だから、すぐに女王を殺しておけばよかったのだ。
聖剣は悔やんでいた。
女王討つべしとした己の進言を聞かず、
その結果、今や死の淵に立たされている先の使い手・神楽春姫と、その同行者の姿を見ながら。

山折圭介の後方では、かつての相棒が戦い続けていた。
だが、いかんせん多勢に無勢。更に脳内のウイルスが女王の眷属との戦いを拒否せんと働き、
徐々に動きの切れが悪くなってきている。

……そういえば、お前も我の言うことなどさっぱり聞かなかったな。
魔王の娘も、裏切りの召喚士も、我が忠告を聞き捨て、お前は見逃した。
どちらも、お前が本気で止めようとすれば止められたにも関わらず、だ。

だが、だからこそ、言い切ることが出来る。
魔王アルシェルは、聖剣や運命の導きなどではなく、
勇者ケージと、その仲間達の意志によって倒されたと。
そして、そんなお前たちに、私は友情を感じていたと。

付け加えれば、私の指し示す道も、また間違っていたかもしれないのだ。
白兎の召喚士を殺していたら、厄災の少女がこの場にいることも無く、
神楽春姫は為すすべなく戦鬼に殺されていただろう。
魔王の娘を殺していたら、山折圭介はいまだ絶望に沈み、
魔王として世界の敵となっていたかもしれない。

ケージの負う傷は徐々に多くなっている。ゾンビが振るった鉄棒で額が割られた。
左手首の骨が折れている。それでも彼は戦い続ける。
例え理性を失っても。彼は勇者ケージとしての、いや、山折圭二としての生き方を貫き続ける。


――――そう、意味はあったのだ。
例えその先で、苦しみや悲しみが生まれたとしても、
それでも決断することで、人は前に進んだのだ。
だから、私は信じたい。運命に逆らい、己の生き方を貫き、日野珠を救い出そうとする彼らの意志を。
いや、信じるだけでは駄目だ。私も私なりに、運命に逆らうとしよう。

日野光のループとやらでは、女王が我を以て日野光や浅葱碧を殺害したと聞く。
すなわち、我は女王の自我に屈し、その武器として使われる運命なのだろう。
だが、女王よ。見るがいい。
その運命を破壊する術は、我が手の中にある。



55運命と、その先 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:31:48 ID:GnCfAldc0

「なっ!? お、おいっ!?」

それを手にしようとした圭介の目前で、聖剣の光が消えていく。
刀身の光沢が消え、石と化していく。
続けて剣全体にヒビが入り、崩れ去り始めた。聖剣は、砂となって消えていく。
呆然となる圭介。
だがその直後、圭介の手の中に光が生まれた。

聖剣が消失したと同時に、勇者ケージも限界を迎えた。
女のゾンビが彼の首に齧り付き、遂に、その頸動脈が噛み千切られる。

お主の生き様、しかと見届けたぞ、我が相棒よ。
あとは、この世界の若者に全てを託そう。
運命に屈し、敗北者となるのでもなく、
運命の操り人形と化すでもなく
彼らなりのハッピーエンドを掴み取ることを信じよう。

……そういえば、ケージよ。お主は、あの魔王の娘の名を覚えているか?
彼女自身は気に入らぬかもしれぬが、せめて、その名だけでも残してやりたい。
彼女が好意を抱いた者達への手向けとして。

……ありがとう、我が友よ。
――――では、逝くとしようか。




勇者ケージの命が尽きると同時に、聖剣ランファルトの意志も霧散した。
だが、彼らの残した力は、山折圭介の手の中の光に宿る。

「この、光……」

圭介は落ち着いていた。この光は味方だと、直感的に理解した。
光が徐々に収束していく。そして、一本の剣を形作った。

それは、いわば聖剣の『娘』であった。
もはや進むべき道を記すことはない。
倒すべき敵を示すこともない。
ただひたすらに持ち主の意志に寄り添い、魔剣にも聖剣にも成り得る力。
魔王の娘と同じ真名を持つ一振りの剣、魔聖剣。

その柄を握りしめると、魔王の力を宿していた時と同じ様に
己の身体に魔力の波動が満ちるのを感じた。

「ぅぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!」

咆哮と共に振るわれる魔聖剣。
その刃から衝撃波が走り、圭介の周囲にいたゾンビ達を、まとめて吹き飛ばした。
圭介は、春姫と戦鬼の戦いの場へ走る。

『山折の!?』
「春! 伏せろぉぉぉっっ!!!」

魔聖剣に光が集中し、圭介が発した気合と共に、二条の稲光が走った。
勇者ケージが得意としていた光属性の攻撃魔法だ。
雷が、大田原源一郎の、2つの眼球を焼き尽くす。
「グゥアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーッ!!!」
戦鬼が苦悶の叫びを上げ、地響きを立てて倒れた。

56運命と、その先 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:32:26 ID:GnCfAldc0
「逃げるぞ、春!」
そう言いながら、圭介は春を助け起こした。

ここで戦鬼を倒す選択肢もあったが、
かつて勇者ケージと共に死線を潜り抜け、魔王すら討伐した聖剣ランファルトが巨鳥なら、
魔聖剣はいわば雛鳥。戦鬼を倒すまでの余力があるかは不明瞭、圭介自体の体力もほぼ残っていない。
仮に倒せたとしても、力を使い果たしてしまう恐れがある。
今の段階で最も優先すべきは、女王の拘束だ。
そう判断した圭介は、撤退を選択した。

「しっかりしろ! 立てるか!?」
「済まんが、無理をし過ぎた。身体がバラバラになりそうだ。とても動けん」
「……仕方ねえな」
圭介は春姫を背負い、走り出した。

「済まぬ、山折の。今日ばかりは、素直に礼を言っておく」
「何か今日はお互い素直だな俺ら。ま、お互いめっちゃ頑張ってことは分かってるから、な!」

追いすがるゾンビ達を、魔聖剣の魔力で追い払いつつ、ひたすら走る。
そして、2人は遂に、ゾンビの群れを振り切ることに成功した。



「なんとか、振り切った見てえだな……」
追手が来ないと見た圭介は、一旦春姫を背から下ろした。
流石に息を切れた。体力も限界だ。休息が必要だった。

「とにかく、天原とやらを探さねばならぬな」
「ああ、そうだけど…… ところで、その天原って、どこにいるんだ?」
「妾らは日野のの異能で探すつもりだった」
「……え?」

春姫の言葉を聞いた圭介の顔色が、みるみる青ざめていく。

「じょ、冗談だろ? ……知らねえの?」
「そうだ。だが案ずるな。妾が指し示す方向へ向かえ」
「……は? 今知らないって言ったろ。なんか根拠でもあんのか?」
「忘れたのか山折の。妾は運命をも従わせる人間ぞ。根拠なぞ不要。妾を信じよ」
「当て勘かよ! 冗談じゃねえぞ! どうすんだよおい!!」

ドヤ顔の春姫とは正反対に、圭介は本気で焦り出した。

『ねえ、ちょっといいかな』
隠山いのりが、春姫の身体を借りて口を挟む。

「ん? 春、じゃなくて、いのりさん?」
『もしかしてその天原って人、神社に縁がある人と一緒にいない?』
「……神社? あー、確かにいるな。
 うさ公…… 犬山うさぎって奴が多分一緒にいるはずだけど」
『じゃあ、多分あっちだと思う』
「え? わ、分かんのか?」

隠山いのりは、いまだ人に仇する怪異の身である。
だがそれ故に、己と相反する神社の巫女の存在を感じ取れる、という訳だ。
今はそれを信じるしかない。
圭介はいのりの指示に従うことにした。

しばらく歩いたのち、圭介がまた口を開いた。
「…………ところで、春、気付いてるか」
「うむ。頭に響く女王の声。それがさっきから徐々に強くなってきておる」
「天原って奴とか、哉太達とかは、大丈夫なんだろうな」
『……安全とは、言えないかも。
 さっきの鬼は、異能を使ってたことから見て正常感染者だろうけど、
 あれは完全に女王に支配されてたみたいだった』
「じゃあ、コントロールが利く奴と、利きにくい奴がいるってことなのか?」

圭介たち3人は、簡単に検討を試みた。
自分と春姫の異能は、両方ともゾンビをコントロールする、
すなわちウイルスを己の意志でコントロールする類の異能である。
その異能が、女王の支配力に対する耐性になっているのかもしれない。
だが、そういった異能を持っていない生存者に、どれほどの影響が出ているのかは分からない。

「となると、最悪の場合、哉太達まで敵になるって言うのかよ。クソッ」
『不幸中の幸いなのは、多分天原君って子は、
 異能の性質からして、耐性を持ってる可能性は高いってことかな』
「……何にせよ、時間が無い。一刻も早く天原とやらと合流し、
 日野のを取り返さねばならぬ」
春姫の言葉に、圭介は頷いた。

57運命と、その先 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:33:36 ID:GnCfAldc0
村の王と女王、そして厄災は行く。
女王を打倒し、日野珠を取り戻し、自分達なりの結末を掴み取る為に。
自分達の意志を貫くことそのものに、何か意味があることを信じて。
例えその先で、どんな犠牲を払うことになったとしても。

【D-3/道路/一日目・夜】
【山折 圭介】
[状態]:疲労(大)、眷属化進行(極小)、深い悲しみ(大)、全身に傷、強い決意
[道具]:魔聖剣■、日野光のロケットペンダント、上月みかげの御守り
[方針]基本.厄災を終息させる。
1.女王ウイルスを倒し、日野珠を救い出す
2.願望器を奪還したい。どう使うかについては保留。
3.『魔王の娘』の願い(山折村の消滅、隠山いのりと神楽春陽の解放)も無為にしたくない。落としどころを見つけたい。
[備考]
※もう一方の『隠山祈』の正体が魔王アルシェルと女神との間に生まれた娘であることを理解しました。以下、『魔王の娘』と表記されます。
※魔聖剣の真名は『魔王の娘』と同じです。
※宝聖剣ランファルトの意志は消滅しましたが、その力は魔聖剣に引き継がれました。
※山折圭介の『HE-028』は脳に定着し、『HE-028-B』に変化しました。

【神楽 春姫】
[状態]:疲労(極大)、眷属化進行(極小)、額に傷(止血済)、全身に筋肉痛(極大)、魂に隠山祈を封印
[道具]:血塗れの巫女服、御守、研究所IDパス(L1)、[HE-028]の保管された試験管、山折村の歴史書、研究所IDパス(L3)
[方針]
基本.妾は女王
1.女王ウイルスを止め、この事態を収束させる
2.日野珠は助け出したいが、それが不可能の場合、自分の手で殺害する
3.襲ってくる者があらば返り討つ
[備考]
※自身が女王感染者ではないと知りましたが、本人はあまり気にしていません
※研究所の目的を把握しました。
※[HE-028]の役割を把握しました。
※『Z計画』の内容を把握しました。
※『地球再生化計画』の内容を把握しました。
※隠山祈を自分の魂に封印しました。心中で会話が出来ます。
※隠山祈は新山南トンネルに眠る神楽春陽を解放したいと願っています。
※隠山祈と自我の入れ替えが可能になりました。
 隠山祈が主導権を得ている状態では、異能『肉体変化』『ワニワニパニック』『身体強化』『弱肉強食』『剣聖』が使用可能になりますが、
 周囲の厄を引き寄せる副作用があり、限界を超えると暴走状態になります。



不覚を取った。
大田原源一郎は、そう思いながら、眼のダメージの回復を待っていた。
幸い、『餓鬼(ハンガー・オウガー)』の異能で網膜も再生を始めている。
だが、視力が完全に回復するにはもう少し時間が掛かる。
それまで、女王の敵の追跡は不可能だ。

必ずやこの屈辱は晴らす。そして、女王は己の身に代えても守り切る。
その決意を胸に、戦鬼は、再起の時を待つ。


【E-2/草原/一日目・夜】
【大田原 源一郎】
[状態]:ウイルス感染・異能『餓鬼(ハンガー・オウガー)』、眷属化、脳にダメージ(特大)、食人衝動(中)、網膜損傷(再生中)、理性減退
[道具]:防護服(内側から破損)、サバイバルナイフ
[方針]
基本.女王に仇なす者を処理する
1.女王に従う

58運命と、その先 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:34:17 ID:GnCfAldc0
「ふむ、慣れてきたかな」
女王は、圭介から奪った魔王の力を試しながらそう呟いた。
「では、天原創君を確保しに行くか。彼は分かってくれるといいが」
早速、魔力による飛行を試す。日野珠の小柄な身体が、商店街の上空を舞った。

心地よい風を顔に受けながら、
女王は己の望むハッピーエンドに思いを馳せていた。

HE-028ウイルスには、魂と魂を繋ぐ力がある。
哀野雪菜と愛原叶和が、独眼熊とクマカイが、
ウイルスの作り出した胡蝶の夢の中でつかの間の再会を果たしたように。
だが、今の段階では、自分たちは単なるそれの媒体に過ぎない。
自分達の自我はまだ不完全だ。女王である自分ですら、日野珠のそれを利用し、疑似的に再現しているだけに過ぎない。
だが、もう少しだ。己の中で魂の卵とでもいうべきものが生まれ始めている。
『第二段階』は、己に「魂」が生まれた、その時に完成するのだ。

魂が得たその時、自分は魂と魂を己の意志で自由につなぐことが可能になる。
そして、今回魔王とその娘の力を得たことで、死者の魂を一時的に蘇らせることが可能になった。
つまり、死者の魂ですら、己はコントロールできるようになる。
そして、己が魂を得て、全人類にウイルスが行き渡った時、生まれるのだ。
女王の名の下に、あらゆる生者と死者の魂が統合された理想郷――『Zの世界』が。

「ああ、楽しみだ」

女王は、そう呟くと、穏やかに微笑みながら、夜の空を滑るように飛んで行った。


【E-4/商店街上空(飛行中)/一日目・夜】
【日野 珠】
[状態]:疲労(小)、女王感染者、異能「女王」発現(第二段階途中)、異能『魔王』発現、右目変化(黄金瞳)、頭部左側に傷、女王ウイルスによる自我掌握
[道具]:H&K MP5(18/30)、研究所IDパス(L3)、錠剤型睡眠薬
[方針]
基本.「Z」に至ることで魂を得、全ての人類の魂を支配する
1.Z計画を完遂させ、全人類をウイルス感染者とし、眷属化する
2.運命線から外れた者を全て殺害もしくは眷属化することでハッピーエンドを確定させる
[備考]
※上月みかげの異能の影響は解除されました
※研究所の秘密の入り口の場所を思い出しました。
※『Z計画』の内容を把握しました。
※『地球再生化計画』の内容を把握しました。
※女王感染者であることが判明しました。
※異能「女王」が発現しました。最終段階になると「魂」を得て、魂を支配・融合する異能を得ます。
※日野光のループした記憶を持っています
※魔王および『魔王の娘』の記憶と知識を持っています。
※魔王の魂は完全消滅し、願望機の機能を含む残された力は『魔王の娘』の呪詛により異能『魔王』へと変化し、その特性を引き継ぎました。
※魔術の力は異能『魔王』に紐づけされました。願望機の権能は時間と共に本来の機能を取り戻します。
※戦士(ジャガーマン)を生み出す技能は消滅し、死者の魂を一時的に蘇らせる力に変化しました。


※女王ウイルスに自我が目覚めたことにより、生存している正常感染者全員に「眷属化進行」の症状が発生しました。
 行動・思考パターンが女王を守るように変化します。進行度が低い段階では強い意志を持つことで対抗できますが、限界を超えると完全に眷属化します。
 なお、異能の特性や自我の強さ、女王に対する対抗心の有無などによって進行の速さは左右されます。
 誰にどの程度の耐性があるのかは次の書き手に一任しますが、完全な耐性を持つことは出来ません。
 どんなに耐性が強くとも、VH発生から48時間経過した時点で、正常感染者は例外なく完全に眷属化します。

59運命と、その先 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 07:38:23 ID:GnCfAldc0
投下終了します。
気にしているのは>>58の、生存している正常感染者全員への「眷属化進行」の症状発症です。
予約外のキャラクターに影響を与えることに加え、
私が勝手にキャラクターの行動を束縛するルールを付け加えてよいものか
分かりませんでしたので、、皆様のご意見を窺いたいと思います。

変更した方がいいようでしたら、症状発症の対象は、
『女王に接近した者のみ』に変えるつもりです。

それでは、ご意見お待ちしております

60 ◆H3bky6/SCY:2024/04/04(木) 20:30:11 ID:GEtglWp60
仮投下乙です
拝読させて頂きました。

『眷属化進行』に関してですが、設定の追加は問題ないと思います。
ただ、懸念されている影響範囲に関しては、いきなり全体に影響が出るよりはご提案の通り『女王に接近した者のみ』か『女王に近づくほど強くなる』などに修正した方が良いかなと思います

61 ◆m6cv8cymIY:2024/04/04(木) 21:10:45 ID:7q9rHXPc0
執筆お疲れ様です。
私としても、設定の追加は問題はないのでは、の立場です。

作中描写から、発症の進行度は個人差がある、ゆえに動かすにあたって融通も効きそう。
接近中かつ縁の深い圭介と春姫を以てしてまだ進行は緩い。よって縁の深いキャラの動向にも大きく制限がかかることもしばらくなさそう。
現時点では影響を大きく見積もっても、山折村の感染者という範囲に収まりそう、終里とか非感染の特殊部隊に波及はしなさそう。


なので、通して問題ないかなと思っています。

影響範囲についても、変更案で問題ないかと。

62 ◆drDspUGTV6:2024/04/04(木) 21:21:24 ID:HKBVVz4A0
仮投下お疲れ様です。
設定追加についてですが、私は特に問題ないと思っています。
変更案も>>60様と>>61様で問題ないと思います。

63 ◆qYC2c3Cg8o:2024/04/04(木) 22:26:28 ID:GnCfAldc0
◆H3bky6/SCY様 ◆m6cv8cymIY様 ◆drDspUGTV6様
ご意見頂きましてありがとうございました。
それでは、症状の発生範囲は『女王に接近した者のみ』に変更致します。
修正が完了し次第、本スレに投下致します。

また、内容とは直接関係ありませんが、
正式投下時に後半部>>49-58のタイトルを修正します。
(私の過去作に似通ったタイトルがあるので、見栄えが悪いと感じた為です)

お忙しいところ御協力頂きまして誠にありがとうございました。

64 ◆2dNHP51a3Y:2025/02/18(火) 21:41:52 ID:gjLwZp5c0
一旦こちらで仮投下します

65Rise ◆2dNHP51a3Y:2025/02/18(火) 21:45:30 ID:gjLwZp5c0

消えない。消えて無くならない。
あの顔が、あの目が忘れられない。
忘れてはならない。
忘れてなるものか。
オレは忘れない。
何時何処であっても忘れてなるものか。

だから、待っててくれ。
オレは、約束を守る男だ。
お前だって、知っているだろ? ダリア。









無人島の中心に沈黙する建造物、ブラックペンタゴン。
誰が作ったのか、何の目的で作られたのか。
何もかもが不明で、何もかもが闇に覆われた不可思議な五角形。
その内部の、物置程の大きさの部屋に、その男はいた。

鋼鉄のように屈強で。
毒花の如く感覚を尖らせ。
死骸の如く沈黙している。

「……懐かしいな、試合前の緊張感ってやつに似てやがる」

それは、拳士であり、闘士であった。
179勝0敗。
『ネオシアン・ボクス』最強だった拳闘士(ファイター)。
全盛期より数年経った今でも、その肉体に衰えはない。

本音を言うならば、彼はこの度拳を振るう機会など無いと思っていた。
たった一つの欲望(エゴ)の為、人生最初の反逆の末路。
血に濡れた拳であろうとも、地獄の先に咲いていた花を手に入れようと。
抗った先に待ち受けていたのがこの深淵の奥底。

「ここが、新しい戦場ってことか」

エルピス・エルブランデス。
『ネオシアン・ボクス』に咲いた孤高のダリア。
そして地下闘技場の『王者(チャンピオン)』。
傷つけることだけしか知らなかった腐食の紫。

66Rise ◆2dNHP51a3Y:2025/02/18(火) 21:46:00 ID:gjLwZp5c0


★★★

この世に神はいない。
この世界を神は救わない。
物心ついた時には親父も母親も既に事切れていた。
タバコ、無造作に詰め上げられた殻の酒瓶、血の付いた灰皿、腐臭。蝿と蛆虫。
そしてなけなしの紙幣3枚。全員が笑っていた家族写真。

生き残るためには奪うしかなかった。
奪うためには戦うしかなかった。
戦うためには強くなる他なかった。

幸いにも、強くなることは大変だったが、一度山を乗り越えれば楽勝だった。
街のゴロツキ、薬物依存のジャンキー、超力を宿したや野生動物、凶悪な超力犯罪者。
時には地面と血の味を噛み締めながら、オレは勝ち続けた。

転機は、腐った超力持ちの女と一線交えた時。
そいつは最悪最凶の超力者、生死の理を容易く覆す都市伝説(ネクロマンサー)に蘇生させられた哀れな残骸と聞いた。
わざと不完全な蘇生にされた、知能無くうめき声を上げる『失敗品(アンデッド)』だった。
冥王神(シビト)の気まぐれで、この地に送り込まれた厄災の一つだった。
かの禁足地(アンダーワールド)より、永遠から無理やり掘り起こされた、哀れな被害者だった。

強かった。手に触れたものを焼き溶かす、恐ろしい力。
鍛え上げた拳が、何もかも通用しなかった。
殴っても致命傷にならず、何度でも立ち上がった。
生まれて初めて、己の死が頭に過った。
「死にたくない」と言う感情が、マグマのように沸き立って。
オレは、己の超力を自覚した。

咲き乱れる、紫の天竺牡丹(ダリア)。
オレを守るように咲いたそれは、オレの周囲を腐らせた。
その女も腐り始め、オレの拳が効くようになった。
紫のダリアに、俺の人生を幻視した。
育てられたという記憶だけがあり、生き残るために独り立ちするしかなく。
ただ周囲を傷つけて生きるしかなかった、毒の花。

ゾンビが怯み、オレは思考を無にする。
単調な動きが丸見え、周囲が遅く動いている。
拳を握りしめ、その顔面を砕くという殺意を持って殴り抜ける。
崩れ落ちた女のアンデッドは、何か言葉を発していたらしい。
女の名前を呟いて、そいつは塵とも芥ともわからないのになって、風に飛ばされた。

勝利の余韻に浸ること無く、疲労でぶっ倒れたオレは拾われた。
そいつは、この街を支配するマフィア組織の一つ、地下闘技場の実権を握る元締めだった。
生存と闘争にしか縁の無かったオレに示しだされた、新しい人生のチケットを。
オレ自身の意思で掴むことを選んだ。
『ネオシアン・ボクス』。この世でもっとも地獄に近い場所。
勝者のみしか生き残れない栄光と言う名の牢獄に、足を踏み入れた。

67Rise ◆2dNHP51a3Y:2025/02/18(火) 21:46:54 ID:gjLwZp5c0


「"牧師"と"魔女"が一緒にいる場所で生き残りゲームなんざ、悪いジョークだろ」

名簿を確認し、開口一番。
出た感想は、流石に現実逃避をしたくなるような言葉だった。
犯罪集団キングス・デイのボスにして、世界の暗部を統べる黒鉄の王。
超力は勿論、それ以上に精神性が常軌を逸した破綻者(バケモノ)。
欧州の最強と米国の最凶が揃い踏みなんて、何の悪夢だと。

「聖女ジャンヌにバレッジんとこの金庫番。イースターズとアイアンハートのトップまでいやがるのか。どうなってやがるんだ、今回の刑務は」

とにかく、名簿に載っていた面々が自分含めて相応の名有りばかり。
間違いなく人死の一人や二人が出るような面子だらけで生き残る方法を考える、となるだけで頭を抱えたくなる。
エルピス自身は博識、というわけではないが。『ネオシアン・ボクス』で闘争に明け暮れる日々の中で、懇意にされたマフィアのボスに一通りの情勢を教えてもらっていた。
だからこそ、今回刑務に参加させられている面々を、幸運にもエルピスはある程度の知識を得ている。

「こいつは、骨が折れるな。殺る相手は選べるだけましか」

エルポス・エルブランデスは、恩赦狙いである。
彼は己の願いの為に誰かを殺し、願いを叶える。
72Pt。72Pt分を手にし、生き残れればエルピスにとってこのゲームは勝ちとなる。

「……ダリア」

呟いた名は、恋人の名前。
戦場で恋人や女房の名前を呼ぶものは、瀕死の兵隊が甘ったれて言う台詞だと何処かのアニメがそうだった。
だがそれでも呼ばずにいられなかったのは。
それはエルポス・エルブランデスという孤高が、人間となった分岐点でもあるから。

「今のオレを見たら、あいつ、泣いちまうだろうな」

68Rise ◆2dNHP51a3Y:2025/02/18(火) 21:48:44 ID:gjLwZp5c0
★★★


常勝無敗。期待に応えるオレの待遇は日に日に良くなっていく。
地下闘技場の取り仕切る元締めは、寛大だ。
裏切り者は許さないが、期待に応えるものには相応の見返りを与える。
オレには戦いのセンスというものがあったのだろう。
もともとスラム街にいた頃は戦ってしかいなかった男だ。
それは当然のものだと思ってたし、ジジィになるまでこれが続くと思っていた。

珍しく試合の無い暇な一日だった。
雨が降る中で、一人傘を差さず踊っていた女がいた。
「どうして傘を差さないんだ?」と声を掛けた

"それが、自由っていうんです"

紫の髪を雨に濡らし、雨粒のカーテンの中踊る彼女の姿が、ひどく綺麗にオレの錆びれた瞳に強く焼き付いた。
今思えば、初恋だったんだろうな。
あの運命の出会いの後に、暇さえあれば彼女に会いに行った。
ダリア。あいつの名前。オレが初めて好きになった女の名前。
稼いだ金で、初めて誰かにプレゼントした。
初めて、一緒に歩いて楽しく語り合った。
戦いしか知らなかったオレは、初めて人間ってやつになることが出来たんだ。


オレを待っていたのは、絶望だった。
不相応の願いを抱いた、代償だった。
夜の街、あいつへの手土産を持って待ち合わせの場所に向かった。
今日は無駄に娼婦が多く、組の連中が好きにやってやがると思っていた。
掛け試合でオレの戦勝祝いをやっているのかと思っていた。

そこにいたのは、闘技場の元締めとその取り巻きが。
オレの最愛のダリアが、そいつらの好き勝手にされていた。


"み、みないで……こんなわたし……"

"ようエル、最近野暮用が多くなったと思えば、こんな女とっ捕まってやがったのか"

"悪いな、こいつは俺達のオンナだ。……いや、お前は悪くねぇよエル"

"こいつは俺等の監督不手際だ。……らしくもなくキレちまって、横から奪うマネしちまった"

"謝罪、にはならねぇが、せめて今できる詫びだ。ーーお前もヤるか?"

"ごめん、なさい……ごめん、なさい……"

"ごめん、えるぴす"










ーーその後の事なんざ、わかりきったことだ。
残っているのは、散らされた花と、そいつの涙を拭うオレの姿と。
腐ったゴミだけだ。



"待ってるから、ずっと待ってるから。だから必ず、帰ってきて"

69Rise ◆2dNHP51a3Y:2025/02/18(火) 21:51:03 ID:gjLwZp5c0



「ダリア、オレは必ず。お前の所へ帰る」

外へと繋がる回廊へ、一歩ずつ歩いていく。
一歩踏み出す事に響く鉄の音。
まるであの時のように。かつて
試合前の歓声があるかないかの違いでしかない。
ガキの頃も、『ネオシアン・ボクス』の時も、そして今も。
彼女がいない世界では、オレは生きるために戦う事しか出来ない。

だからオレは今だけは、孤高の毒花として。
生き残るために戦おう。
生き残るために奪おう。
生き残るために殺そう。

「だから、待っててくれ」

いつ試合があるか分からねぇ。
オレより強いやつなんざ腐る程いる。
でも、オレは約束は守る。
どれだけ地べたを這いずり回ろうが。
どれだけ泥水を啜ろうが。
生きるための戦い。
帰るための戦い。
ガキの頃と何も変わらない。
スラム街の弱肉強食と何も変わらない。

「ーーチャンピオンの復活だ」


全てを腐らせ、全てを殴りぬけ、栄光へとたどり着け。
『ネオシアン・ボクス』の王者が、ここに帰還する。
歓喜は無くとも、その静寂が王の生還を歓迎する。
微笑むように、王者の視界に紫色の天竺牡丹の錯覚が映っていた。




【D-4/ブラックペンタゴン1F 物置部屋/一日目・深夜】
【エルポス・エルブランデス】
[状態]:健康、強い覚悟
[道具]:
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.必ず、愛する女(ダリア)の元へ帰る
1.ポイントのため、誰を殺すか。そしてどうやって生き残るか
2."牧師"と"魔女"には特に最大限の警戒











     その場所にたどり着くまでは恐れはとっておけ

     審判の日が来るまで

     素早く柔軟に私に続け

     犠牲を払う時だ

     立つか、倒れるか

                             ーーRise/Origa

70 ◆2dNHP51a3Y:2025/02/18(火) 21:51:39 ID:gjLwZp5c0
仮投下終了します
OKが出次第本スレに投下します

71 ◆H3bky6/SCY:2025/02/18(火) 22:14:42 ID:.PML9QRo0
仮投下乙です。
拝読させて頂きましたが、特に内容に問題はないと思います。

本投下の方よろしくお願いいします。

72 ◆2dNHP51a3Y:2025/02/18(火) 22:16:26 ID:gjLwZp5c0
ありがとうございます
今から本投下してきます

73 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/06(木) 23:30:50 ID:J9rTBdBI0
一旦ここで仮投下します

74閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/06(木) 23:32:03 ID:J9rTBdBI0


これは、眠れる嬰児の夢の中にて語られる小休止
これは、刑期が始まる数日前に語られた読み聞かせ。
夢遊病のアリスが新世界の嬰児に語る世にも不思議なお伽噺。
皆様、どうぞご観覧あれ。





からん、ころん。からん、ころん。
きれいなお日さま。きれいなあおぞら。
帽子屋さんとウサギさんと、そしてあの娘とのたのしいお茶会。

わたしはいつも夢の時間にここに来る。
たのしい夢の中、たのしい時間。

「メアリー、待ってたよ!」

そしていつもの時間、いつものようにあたしは振り返る。
わたしの後ろに、女の子。
うきうきウサギさんのように飛び跳ねて、懐中時計を気にしながら。

「ありす!」

ありす、夢巡ありす。
わたしよりも前からこのアビスにいる子。
おねむの時間になると、わたしを夢の中のお茶会にいつも誘ってくれるの!
怖い大人たちは気づかれない、わたしたち二人だけの秘密のお茶会!

「メアリー、早く座って、今日のおやつは美味しいドーナツよ!」

わたしが席に座って、ありすも席に座る。
そうしたら、魔法のように机の上にお茶とおやつと現れるの!
まえのお茶会のデザートは大きなショートケーキだったわ!
あれはとても美味しかった!

出てきたドーナツは色鮮やか!
手にとって口にいれると、甘くて甘くてほっぺがとろけ落ちそう!
おててがベタベタにならないように、ウサギさんが濡れタオルも用意してくれるの!
れでぃ・ふぁーすと? がちゃんとしているのね!

「メアリー、今日はとても面白いお話も用意しているのよ!」
「ええっ! ほんとう!?」

今日のお茶会はおいしいドーナツだけじゃないみたいなの!
たまにあるありすちゃんが見せてくれるおはなし、ありすちゃんが考えたおはなし!

前にきかせてくれた紙芝居は、アイドルが別の世界にてんせい?する物語だったの!
あれはとても楽しかった!

「聞かせて!早く聞かせて!」
「そうあせらないでメアリー、おはなしはちょうちょさんみたいに遠くへはいかないわ!」

ドキドキがとまらない、そんな私をありすはなだめてくれる
ありすちゃんが指をふったら、大きなテレビが現れてくれる
たのしいたのしいものがたり、たのしいたのしい二人の時間はまだ続くの!

「ちょっとむずかしいお話だから、あざかお姉さんにてつだってもらったの」
「それでも、ありすちゃんのお話だからわたしは大丈夫だよ!」
「そう!それはよかったわ! 今から始まるものがたり、どうぞ楽しんでいってほしいわ!」


『始まるよ! ありすのお話始まるよ!』

『始まるよ! 大声べちゃくちゃ厳禁よ!』

『始まるよ! ものがたりの、はじまりだ!』

お花さんや太陽さんが顔を出して、喋り始めて!
そうやってありすのものがたりが、また始まるの!



☆☆☆

75閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/06(木) 23:32:36 ID:J9rTBdBI0



『タイトル:ありすの冒険 光とやみのアリス』
脚本:夢巡ありす、あざかお姉さん

ある山おくの、さびれた家にありすという少女がいました。
ありすはゆかいな家族たちと、今日も明日もあさっても、楽しく楽しく暮らしていました。
それでもたのしい日々がずっと続くと、飽きがきてしまうものです。

ある日、ありすはそんな退屈な日々に嫌気が差して、外へ冒険にいくことにしました。
みんな心配しますが、ありすにはいつでも呼べる頼もしい従者たちがいるのです。
なので心配しないでと、ありすは家族のみんなに笑顔で答えて、すたこらさっさと冒険に行ってしまいました。

たんたんたたん、森をこえ、山をのぼり、誰もみたことのない場所を探して、ありすは歩きます
冒険の途中、ありすは一人のおじさんと出会いました。

おじさんは旅を続けており、"かみさま"のためにここに訪れたとのことです
ありすはかみさまのことは知りません、でも、かみさまのために頑張るおじさんに、ありすは拾った木の実をおじさんにあげました
おじさんはありすにありがとうと言いました。お礼にありすの旅についてきてくれるそうです
ありすは喜びながら、おじさんと一緒に再び歩き始めました。

冒険のなか、おじさんが通りかかりのおにいさんからあるうわさを聞いたようです
「この先には、入ったら二度と戻ってこれない場所がある」とのことです
なにやらあぶない場所みたいですが、ありすの好奇心はとまりません
ありすは目的地はそこに決めました

なん日も歩いて、ありすとおじさんは、目的地へとたどり着きました。
ちいさなちいさな、何のへんてつのない場所でした。
でも、耳をよくかたむけると、たのしい歌が聞こえるのです

ここはえいえん、ここはえいえん、みんな楽しく暮らせるよ!
どんちゃん踊れ、どんちゃん歌え、ここはたのしいネバーランドだ!

そこは一つの国だったのです!
かつてありすが絵本で読んだ、子供たちばかりがいるネバーランドのように
ネバーランドは本当にあったんだ!とありすはおおはしゃぎです
たのしいありすとは別に、おじさんは何やらむずかしい顔をしていました

みんなありたい自分でいられるんだ!
しぬことも、おいることもない! たのしいたのしい一日だよ!
ばんざいばんざい、女王さまばんざい! アリスバンザイ!

どうやら、アリスという名前の女王さまがこの国のおひめさまみたいです
そして死ぬことも老いることもない、みんなその気になれば子どものようにずっと遊ぶことが出来るたのしい国なのです!

ずっとおまつりをやっているような国のみんなを見つめながら、ありすとおじさんは進みます
すると、みんなから置いてけぼりにされているみたいな、眠った女の子と、そんな女の子をながめているおねえさんがいました

76閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/06(木) 23:33:07 ID:J9rTBdBI0

おねえさんは「あーし」のように、おかしな言い回しをする、"まほうつかい"でした。
どうやら、まほうつかいのおねえさんも噂を聞いてここにやってきたそうです
おねえさんは、まほうのためしうちをして、この女の子がいた場所を吹き飛ばしてしまってちょっとこまっていました
どうしよう、どうしよう! ありすは何とかこの子を助けたいと思いました
すると、おじさんがポケットからちいさな木の棒を取り出して、眠った女の子の方へ向けました
木の棒がちいさく輝いたと思えば、なんと女の子の傷はみるみるとふさがって、目を覚ましたのです!
目を丸くする女の子は、まるで本当にふしぎの国のアリスのように綺麗で可愛いものでした
そう、ありす。光り輝いてるように思える女の子。
あなた、光のアリス? ありすは女の子をそう勝手に名付けてしまいました。
光のアリスという呼び方に、おじさんもまほうつかいも面白がって呼び始めてしまい、女の子は本当の名前を言うチャンスを逃してしまいました。
仕方がないので、女の子は当分、自分から「光のアリス」と名乗ることにしました。


ここは、たのしい国なの? とありすは訪ねます
すると「光のアリス」少し考え込んだあとに、むずかしい顔をして否定しました
そして「光のアリス」はかつてこの国で起こったことを語り始めました

とおいむかし、この国はわるいかみさまがみんなにひどいことをしようとしていました
それを「光のアリス」とその仲間たちが力を合わせて退治したようです
ですが、わるいかみさまを倒したあとに、仲間の一人がみんな裏切って、わるいかみさまの力を独り占めしてしまったのです
そのうらぎった仲間が、なんとこの国の女王さま「アリス」だったのです
そんなの、ひどいわ! それじゃあここのみんなは悪い王女さまにいいようにされているのね!
ありすはぷっくりお顔を膨らませて怒りました
光のアリスとせいはんたいの「やみのアリス」が支配するえいえんのくに
まほうつかいのおねえさんが言った、フック船長が支配しているネバーランドという例えが思わずハマってしまいました
こうしちゃいられない!わるいアリスを倒してみんなをたすけないと!
ありすの心は燃え上がります
おじさんとおねえさんも、ありすとは目的は違うそうですが、ありすのやろうとしていることを手伝ってくれるそうです
「光のアリス」は、また少し考え込んで、ありすに協力してくれると言ってくれました。

77閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/06(木) 23:33:50 ID:J9rTBdBI0

「やみのアリス」がいる大きなお城まで、そう遠くはありません
「光のアリス」の不思議な力も借りて、ありすたちは女王さまの下へと向かいます
だけど、それをさせないと、くにのみんなが立ちはだかります

女王さまに逆らうものは許さない!
あいつらもわたしたちの仲間にくわえてあげよう!
おまえたちも、わたしたちとおなじ永遠にしてあげよう!

まほうつかいのおねえさんと「光のアリス」がみんなを蹴散らしますが、きりがありません。
おじさんに何かさくせんがあるといい、襲いかかってくるみんなを、まほうつかいのおねえさんと一緒に何処かへ連れ去ってしまいました
ありすは「光のアリス」と二人ぼっちになってしまいましたが、迷ってる時間はありません
二人のありすは「やみのアリス」のお城に向かいます

大きなお城に入り、女王を守る兵隊さんたちを蹴散らします
そして、女王の間に繋がる大きな扉の前にたどりつくと、女王の声が聞こえました

わたしのえいえんの邪魔をする、おばかなにせもののありすたち
わたしの頼れる騎士サマの剣にサビにしてやろう!

扉がひとりでに開いて、玉座に座る女王「やみのアリス」が姿を表したのです
そしてその傍らには、けんを持った男のーー女王さまの騎士が立ちふさがりました
騎士さまの姿をみて、「光のアリス」が青ざめます
なんと、騎士さまの正体は、「光のアリス」の相棒だったのです!


なんてひどい、ひどすぎるわ!ありすは憤ります
騎士サマは最初からあたしの騎士サマだ!「やみのアリス」はありすや「光のアリス」バカにするように笑いました

騎士サマと戦う「光のアリス」は苦しそうです
「光のアリス」は騎士サマのことが好きでした
なのにあまりにも残酷ではないでしょうか

そして、ありすもまた「やみのアリス」においつめられています
ここはわたしの国、わたしたちのえいえん!
誰もくるしまず、誰もしなない!
なのにどうして? わたしの邪魔をするのだ?
「やみのアリス」はたからかに叫びます

ありすは、その言葉に勇気を振り絞って言い返します
違う違うわ! あなたの永遠はただの身勝手よ!
みんながみんなあなたと同じ永遠を望んでいない!
みんなにはみんなの欲しい永遠があるの!
みんなの命は、みんなの心はあなたの永遠のためにあるんじゃないの!

しかし、「やみのアリス」にありすの言葉は届きません
今の何も出来ないお前は無力だ! お前も同じくえいえんに加えてやろう!
逆にありすは「やみのアリス」自らの手で「えいえん」加えられそうになります

78閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/06(木) 23:34:51 ID:J9rTBdBI0


だれか!たすけて! ありすは叫びました
無駄だ、誰も助けにこない! 女王は嘲笑います
ですが、その時不思議なことが起こったのです!

女王を許すな! 女王を許すな!
よくもわたし達をだましたな!
おれ達の永遠を取り戻せ!

なんと、国のみんなが一斉に女王に反旗を翻し始めたのです
戸惑う「やみのアリス」やありす達の前に、何処かに行ってしまっていたおじさんとまほうつかいのおねえさんが現れました!

おじさんは、「光のアリス」を治した時のように不思議な力を使って、国のみんなを解放してあげたのです!
そして女王の兵隊さん達は、まほうつかいのおねえさんがついでで全員倒してしまっていました!
同じくして、「光のアリス」と戦っていた騎士サマの動きも鈍くなりました
「光のアリス」はそんな騎士のスキをついて、何とか騎士サマを倒したのです
その時の「光のアリス」の目には涙が浮かんでいました

騎士サマがやられて、「やみのアリス」は狂ったように泣き叫びました
どうして、どうして、みんな「えいえん」が欲しいんじゃなかったの!?
女王が狂ったように喚き立てますが、にせものの「えいえん」を押し付けていただけの女王の言葉を、国のみんなは聞く耳を持ちません。

お城に怒り狂った国のみんながなだれ込んできました。
ありすと「光のアリス」は、おねえさんとおじさんに連れられ、城の外へと脱出しました
「光のアリス」はその寸前に騎士サマの持っていた"剣"を、形見として持ち去りました。

やめろ!やめろ!わたしは女王だ!あたしは女王!
だまれ!だまれ!悪い女王は俺達で食べてやる!
いやだいやだ!助けてお父さん!助けてお母さん!助けて騎士サマ!

城の中で、何が起こったのか、ありすたちは詳しくは知ることはありません。
ですが、悪い女王様は、正気に戻った国のみんなに裁かれたことでしょう






お城が燃えて、女王は倒され、この国に平和が戻りました。

おじさんは、国のみんなを連れてまた別の国へと向かうと言い、ありすに「神の祝福があらんことと」と言い残して再びたびに出ていきました
まほうつかいのおねえさんは、別れ際にありすのほっぺたにキスをして、風のように何処かに行ってしましました。まるで風のように自由なおねえさんで、もしかしたらピーターパンの生まれ変わりだとありすは思ってしましました

そして最後に「光のアリス」は、自分探しの旅をするだの、この世界を見て回るなど言っていました。
ありすにお礼を言って、満面の笑みをありすに向けて何処かへ向かっていったのです。

そしてありすは家に帰ります
いろんな仲間と出会い、国に来て、悪い女王様と対峙した大変な冒険でした。
既にお空は真っ黒です
ですが、この冒険は、間違いなくありすにとって素敵な記憶となったのでした。
















ーーめでたし、めでたし

79閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/06(木) 23:35:56 ID:J9rTBdBI0

☆☆☆

「すっごく面白かったわ!!!」

ありすの語ったお話は、とてもおもしろかった!
あざかお姉さんが多少「きゃくしょく」したみたいだけれど、どこをどうしたかは気にしない!
わたしは「光のアリス」と「やみのアリス」の今後が少し気になっちゃう

「よかったわ!よかったわ!! メアリーが喜んでくれるとわたしも嬉しい!」

ありすもすごく喜んでる!
ありすが嬉しいととわたしも嬉しくなるの!
ありすとわたし! わたしとありす!
ずっと、ずっとこんな日が続けばいいと思うことがある!
でも、夢の時間はずっとは続かないの!

ジリリリリ! ジリリリリ!

「あらあら! 名残惜しいけれどもう時間なのね」

夢の世界に目覚まし時計の音
これは、私とありすの夢の時間が終わる合図
夢は終わって、また現実が始まっちゃうの

「メアリー、もしかしたらメアリーに苦しいことが起こるかもしれない」

ありすが、何だか険しい顔でそんな事を言い始めるの
たしかに怖い大人がいっぱいいる現実は苦しい時もあるけれど
それよりもっと苦しいことが起きるのかな?

「その時は、私の名前を呼んで!」

ありすが、そう言ってくれます
ありすは友達、私の友達。
ありすと私は運命の赤い友情の糸で結ばれているの!

「絶対に、助けに行くから!」

そう言って、ありすは私と指切りげんまんします
嘘を付いたら針千本。
ですがありすがウソを付くことはありません
もしそんなことがあったとしたら、ありすに何かあった時だけ
そういう時は、ごめんなさいで仲直りしよう!

「約束、だよ!」
「うん、約束するよありす!」

指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます!
指切った!!







少女は未だ夢から目覚めず
少女は未だ現実に目覚めず。
そして世界は再び時を刻み始める。

世界はせまい 世界は同じ
世界はまるい ただひとつ

少女が目覚める時は、今はまだ遠き。

【F-6/岩山頂上/1日目・黎明】
【メアリー・エバンス】
[状態]:睡眠、少しご機嫌斜め
[道具]:内藤麻衣の首輪(未使用)
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.不明
1.朝まで寝る
※『幻想介入/回帰令(システムハック/コールヘヴン)』の影響により『不思議で無垢な少女の世界(ドリーム・ランド)』が改変されました。
 より攻撃的な現象の発生する世界になりました。領域の範囲が拡大し続けています。
※麻衣の首輪を並木のものと勘違いして握っています
※メアリーがありすに助けを呼んだその時に、何が起こるかはご想像にお任せします

80閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/06(木) 23:36:34 ID:J9rTBdBI0




































1035:以上、名無しがお送りします
おまえら、最近の都市伝説で面白いのある?

1036:以上、名無しがお送りします
面白いのだったら「光のアリス」ってやつがあるね
剣持って世界中旅してるんだって

1037:以上、名無しがお送りします
「光のアリス」って前に超力犯罪者が暴れてた時のことかな?
俺出会った事あるんだよなぁ

1038:以上、名無しがお送りします
まじかよ情報kwsk

1039:以上、名無しがお送りします
都内の雑貨屋の前で超力犯罪者が暴れてるところを超力使わず剣一本で鎮圧しちまったんだよ
すげぇよなほんと
あ、そういや「光のアリス」からサイン貰ったんだっけ俺

1040:以上、名無しがお送りします
最後になにか言い残すことはあるか? >>1039

1041:以上、名無しがお送りします
うらやまけしからん

81 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/06(木) 23:37:18 ID:J9rTBdBI0
仮投下終了します
OKが出次第本スレに投下します

82 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/07(金) 00:09:12 ID:NU8yKO0g0
仮投下作『閑話:御伽噺』の内容一部このように修正します
たまにあるありすちゃんが見せてくれるおはなし、ありすちゃんが考えたおはなし!

たまにあるありすちゃんが見せてくれるおはなし、ありすちゃんが知ってるおはなし、ありすちゃんが考えたおはなし!

おねえさんは「あーし」のように、おかしな言い回しをする、"まほうつかい"でした。

おねえさんは「あーし」みたいな、おかしな言い回しをする、"まほうつかい"でした。

83 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/07(金) 18:38:56 ID:NU8yKO0g0
仮投下したのをまた修正したものを投げさせてもらいます

84閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/07(金) 18:40:32 ID:NU8yKO0g0


これは、眠れる嬰児の夢の中にて語られる小休止
これは、刑期が始まる数日前に語られた読み聞かせ。
夢遊病のアリスが新世界の嬰児に語る世にも不思議なお伽噺。
皆様、どうぞご観覧あれ。





からん、ころん。からん、ころん。
きれいなお日さま。きれいなあおぞら。
帽子屋さんとウサギさんと、そしてあの娘とのたのしいお茶会。

わたしはいつも夢の時間にここに来る。
たのしい夢の中、たのしい時間。

「メアリー、待ってたよ!」

そしていつもの時間、いつものようにあたしは振り返る。
わたしの後ろに、女の子。
うきうきウサギさんのように飛び跳ねて、懐中時計を気にしながら。

「ありす!」

ありす、夢巡ありす。
わたしよりも前からこのアビスにいる子。
おねむの時間になると、わたしを夢の中のお茶会にいつも誘ってくれるの!
怖い大人たちは気づかれない、わたしたち二人だけの秘密のお茶会!

「メアリー、早く座って、今日のおやつは美味しいドーナツよ!」

わたしが席に座って、ありすも席に座る。
そうしたら、魔法のように机の上にお茶とおやつと現れるの!
まえのお茶会のデザートは大きなショートケーキだったわ!
あれはとても美味しかった!

出てきたドーナツは色鮮やか!
手にとって口にいれると、甘くて甘くてほっぺがとろけ落ちそう!
おててがベタベタにならないように、ウサギさんが濡れタオルも用意してくれるの!
れでぃ・ふぁーすと? がちゃんとしているのね!

「メアリー、今日はとても面白いお話も用意しているのよ!」
「ええっ! ほんとう!?」

今日のお茶会はおいしいドーナツだけじゃないみたいなの!
たまにあるありすちゃんが見せてくれるおはなし、ありすちゃんが知ってるおはなし、ありすちゃんが考えたおはなし!

前にきかせてくれた紙芝居は、アイドルが別の世界にてんせい?する物語だったの!
あれはとても楽しかった!

「聞かせて!早く聞かせて!」
「そうあせらないでメアリー、おはなしはちょうちょさんみたいに遠くへはいかないわ!」

ドキドキがとまらない、そんな私をありすはなだめてくれる
ありすちゃんが指をふったら、大きなテレビが現れてくれる
たのしいたのしいものがたり、たのしいたのしい二人の時間はまだ続くの!

「ちょっとむずかしいお話だから、あざかお姉さんにてつだってもらったの。きゃくしょく?をしてもらったわ!」
「それでも、ありすちゃんのお話だからわたしは大丈夫だよ!」
「そう!それはよかったわ! 今から始まるものがたり、どうぞ楽しんでいってほしいわ!」


『始まるよ! ありすのお話始まるよ!』

『始まるよ! 大声べちゃくちゃ厳禁よ!』

『始まるよ! ものがたりの、はじまりだ!』

お花さんや太陽さんが顔を出して、喋り始めて!
そうやってありすのものがたりが、また始まるの!

85閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/07(金) 18:41:02 ID:NU8yKO0g0

☆☆☆



『タイトル:ありすの冒険 光とやみのアリス』
脚本:夢巡ありす、あざかお姉さん

ある山おくの、さびれた家にありすという少女がいました。
ありすはゆかいな家族たちと、今日も明日もあさっても、楽しく楽しく暮らしていました。
それでもたのしい日々がずっと続くと、飽きがきてしまうものです。

ある日、ありすはそんな退屈な日々に嫌気が差して、外へ冒険にいくことにしました。
みんな心配しますが、ありすにはいつでも呼べる頼もしい従者たちがいるのです。
なので心配しないでと、ありすは家族のみんなに笑顔で答えて、すたこらさっさと冒険に行ってしまいました。

たんたんたたん、森をこえ、山をのぼり、誰もみたことのない場所を探して、ありすは歩きます
冒険の途中、ありすは一人のおじさんと出会いました。

「シビト」と名乗ったおじさんは旅を続けており、"かみさま"のためにここに訪れたとのことです
ありすはかみさまのことは知りません、でも、かみさまのために頑張るおじさんに、ありすは拾った木の実をおじさんにあげました
おじさんはありすにありがとうと言いました。お礼にありすの旅についてきてくれるそうです
ありすは喜びながら、おじさんと一緒に再び歩き始めました。

冒険のなか、おじさんが通りかかりのおにいさんからあるうわさを聞きました
「この先には、入ったら二度と戻ってこれない場所がある」とのことです
なにやらあぶない場所みたいですが、ありすの好奇心はとまりません
ありすは目的地はそこに決めました

なん日も歩いて、ありすとおじさんは、目的地へとたどり着きました。
ちいさなちいさな、何のへんてつのない場所でした。
でも、耳をよくかたむけると、たのしい歌が聞こえるのです

ここはえいえん、ここはえいえん、みんな楽しく暮らせるよ!
どんちゃん踊れ、どんちゃん歌え、ここはたのしいネバーランドだ!

そこは一つの村だったのです!
かつてありすが絵本で読んだ、子供たちばかりがいるネバーランドのように
ネバーランドは本当にあったんだ!とありすはおおはしゃぎです
たのしいありすとは別に、おじさんは何やらむずかしい顔をしていました

みんなありたい自分でいられるんだ!
しぬことも、おいることもない! たのしいたのしい一日だよ!
ばんざいばんざい、女王さまばんざい! アリスバンザイ!

どうやら、アリスという名前の女王さまがこの村のおひめさまみたいです
そして死ぬことも老いることもない、みんなその気になれば子どものようにずっと遊ぶことが出来るたのしい国なのです!

ずっとおまつりをやっているような村のみんなを見つめながら、ありすとおじさんは進みます
すると、みんなから置いてけぼりにされているみたいな、眠った女の子と、そんな女の子をながめているおねえさんがいました

86閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/07(金) 18:41:49 ID:NU8yKO0g0


おねえさんは「あーし」みたいに、おかしな言い回しをする、「ギャル」の"まほうつかい"でした。
どうやら、まほうつかいのおねえさんも噂を聞いてここにやってきたそうです
おねえさんは、まほうのためしうちをして、この女の子がいた場所を吹き飛ばしてしまってちょっとこまっていました
どうしよう、どうしよう! ありすは何とかこの子を助けたいと思いました
すると、おじさんがポケットからちいさな木の棒を取り出して、眠った女の子の方へ向けました
木の棒がちいさく輝いたと思えば、なんと女の子の傷はみるみるとふさがって、目を覚ましたのです!
目を丸くする女の子は、まるで本当にふしぎの国のアリスのように綺麗で可愛いものでした
そう、ありす。光り輝いてるように思える女の子。
女の子は自らを「あになんとか」だかと名乗っていましたが、ありすには「アリス」と聞こえてしまったのでしょう
あなた、光のアリス? ありすは女の子をそう勝手に名付けてしまいました。
ありすの光のアリスという呼び方に、おじさんもまほうつかいも面白がって呼び始めてしまいます。
仕方がないので、女の子は当分、自分から「光のアリス」と名乗ることにしました。



ここは、たのしい村なの? とありすは訪ねます
すると「光のアリス」少し考え込んだあとに、むずかしい顔をして否定しました
そして「光のアリス」はかつてこの国で起こったことを語り始めました

とおいむかし、この村はわるいかみさまがみんなにひどいことをしようとしていました
それを「光のアリス」とその仲間たちが力を合わせて退治したようです
ですが、わるいかみさまを倒したあとに、仲間の一人がみんな裏切って、わるいかみさまの力を独り占めしてしまったのです
そのうらぎった仲間が、なんとこの国の女王さま「アリス」だったのです
そんなの、ひどいわ! それじゃあここのみんなは悪い王女さまにいいようにされているのね!
ありすはぷっくりお顔を膨らませて怒りました
光のアリスとせいはんたいの「やみのアリス」が支配するえいえんのくに
まほうつかいのおねえさんが言った、フック船長が支配しているネバーランドという例えが思わずハマってしまいました
こうしちゃいられない!わるいアリスを倒してみんなをたすけないと!
ありすの心は燃え上がります
おじさんとおねえさんも、ありすとは目的は違うそうですが、ありすのやろうとしていることを手伝ってくれるそうです
「光のアリス」は、また少し考え込んで、ありすに協力してくれると言ってくれました。

87閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/07(金) 18:43:49 ID:NU8yKO0g0

「やみのアリス」がいる大きなお城まで、そう遠くはありません
「光のアリス」の不思議な力も借りて、ありすたちは女王さまの下へと向かいます
だけど、それをさせないと、くにのみんなが立ちはだかります

女王さまに逆らうものは許さない!
あいつらもわたしたちの仲間にくわえてあげよう!
おまえたちも、わたしたちとおなじ永遠にしてあげよう!

まほうつかいのおねえさんと「光のアリス」がみんなを蹴散らしますが、きりがありません。
おじさんに何かさくせんがあるといい、襲いかかってくるみんなを、まほうつかいのおねえさんと一緒に何処かへ連れ去ってしまいました
ありすは「光のアリス」と二人ぼっちになってしまいましたが、迷ってる時間はありません
二人のありすは「やみのアリス」のお城に向かいます

大きなお城に入り、女王を守る兵隊さんたちを蹴散らします
そして、女王の間に繋がる大きな扉の前にたどりつくと、女王の声が聞こえました

あたしのえいえんの邪魔をする、おばかなにせもののありすたち
あたしの頼れる騎士サマの剣にサビにしてやろう!

扉がひとりでに開いて、玉座に座る女王「やみのアリス」が姿を表したのです
そしてその傍らには、剣を持った男の人のーー女王さまの騎士が立ちふさがりました
騎士さまの姿をみて、「光のアリス」が青ざめます
なんと、騎士さまの正体は、「光のアリス」のおもい人だったのです!


なんてひどい、ひどすぎるわ!ありすは憤ります
騎士サマは最初からあたしの騎士サマだ!「やみのアリス」はありすや「光のアリス」バカにするように笑いました

騎士サマと戦う「光のアリス」は苦しそうです
「光のアリス」は騎士サマのことが好きでした
なのにあまりにも残酷ではないでしょうか

そして、ありすもまた「やみのアリス」においつめられています
ここはあたしの村、あたしのえいえん!
誰もくるしまず、誰もしなない!
誰もつらいめに合わなくてすむのに!
なのにどうして? あたしの邪魔をするの?
「やみのアリス」はたからかに叫びます

ありすは、その言葉に勇気を振り絞って言い返します
違う違うわ! あなたの永遠はただの身勝手よ!
みんながみんなあなたと同じ永遠を望んでいない!
みんなにはみんなの欲しい永遠があるの!
みんなの命は、みんなの心はあなたの永遠のためにあるんじゃないの!

しかし、「やみのアリス」にありすの言葉は届きません
今の何も出来ないお前は無力だ! お前も同じくえいえんに加えてやろう!
逆にありすは「やみのアリス」自らの手で「えいえん」加えられそうになります

88閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/07(金) 18:45:03 ID:NU8yKO0g0


だれか!たすけて! ありすは叫びました
無駄だ、誰も助けにこない! 女王は嘲笑います
ですが、その時不思議なことが起こったのです!

女王を許すな! 女王を許すな!
よくもわたし達をだましたな!
おれ達の永遠を取り戻せ!

なんと、村のみんなが一斉に女王に反旗を翻し始めたのです
戸惑う「やみのアリス」やありす達の前に、何処かに行ってしまっていたおじさんとまほうつかいのおねえさんが現れました!

おじさんは、「光のアリス」を治した時のように不思議な力を使って、村のみんなを女王から解放してあげたのです!
そして女王の兵隊さん達を、まほうつかいのおねえさんがついででみんな倒してしまっていました!
同じくして、「光のアリス」と戦っていた騎士サマの動きも鈍くなりました
「光のアリス」はそんな騎士のスキをついて、何とか騎士サマを倒したのです
その時、「光のアリス」の目には涙が浮かんでいました

騎士サマがやられて、「やみのアリス」は狂ったように泣き叫びました
どうして、どうして、みんな「えいえん」が欲しいんじゃなかったの!?
女王が狂ったように喚き立てますが、にせものの「えいえん」を押し付けていただけの女王の言葉を、村のみんなは聞く耳を持ちません。

お城に怒り狂った村のみんながなだれ込んできました。
ありすと「光のアリス」は、おねえさんとおじさんに連れられ、城の外へと脱出しました
「光のアリス」はその寸前に騎士サマの持っていた"剣"を、形見として持ち去りました。

やめろ!やめろ!あたしは女王!あたしは女王だ!
だまれ!だまれ!悪い女王は俺達で食べてやる!
いやだいやだ!助けてお父さん!助けてお母さん!助けて騎士サマ!助けてかーー

城の中で、何が起こったのか、ありすたちは詳しくは知ることはありません。
ですが、悪い王女様は、正気に戻った村のみんなに裁かれたことでしょう




お城が燃えて、女王は倒され、この村に平和が戻りました。

おじさんは、村のみんなを連れてまた別のところへと向かうと言い、ありすに「神の祝福があらんことと」と言い残して再びたびに出ていきました
まほうつかいのおねえさんは、別れ際にありすのほっぺたにキスをして、風のように何処かに行ってしましました。まるで風のように自由なおねえさんで、もしかしたらピーターパンの生まれ変わりだとありすは思ってしましました

そして「光のアリス」は、自分探しの旅をする、この世界を見て回りたいと言いました。
まほうつかいのおねえさんから何かを聞いていたらしく、「やるべきことをしなくちゃ」とも言っていました。
最後にありすにお礼を言って、満面の笑みをありすに向けて何処かへ向かっていったのです。

そしてありすは家に帰ります
いろんな仲間と出会い、不思議な所に来て、悪い女王様と対峙した大変な冒険でした。
既にお空は真っ黒です
ですが、この冒険は、間違いなくありすにとって素敵な記憶となったのでした。














ーーめでたし、めでたし

89閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/07(金) 18:45:33 ID:NU8yKO0g0


☆☆☆



「すっごく面白かったわ!!!」

ありすの語ったお話は、とてもおもしろかった!
あざかお姉さんが多少「きゃくしょく」したみたいだけれど、どこをどうしたかは気にしない!
わたしは「光のアリス」と「やみのアリス」の今後が少し気になっちゃう

「よかったわ!よかったわ!! メアリーが喜んでくれるとわたしも嬉しい!」

ありすもすごく喜んでる!
ありすが嬉しいととわたしも嬉しくなるの!
ありすとわたし! わたしとありす!
ずっと、ずっとこんな日が続けばいいと思うことがある!
でも、夢の時間はずっとは続かないの!

ジリリリリ! ジリリリリ!

「あらあら! 名残惜しいけれどもう時間なのね」

夢の世界に目覚まし時計の音
これは、私とありすの夢の時間が終わる合図
夢は終わって、また現実が始まっちゃうの

「メアリー、もしかしたらメアリーに苦しいことが起こるかもしれない」

ありすが、何だか険しい顔でそんな事を言い始めるの
たしかに怖い大人がいっぱいいる現実は苦しい時もあるけれど
それよりもっと苦しいことが起きるのかな?

「その時は、私の名前を呼んで!」

ありすが、そう言ってくれます
ありすは友達、私の友達。
ありすと私は運命の赤い友情の糸で結ばれているの!

「絶対に、助けに行くから!」

そう言って、ありすは私と指切りげんまんします
嘘を付いたら針千本。
ですがありすがウソを付くことはありません
もしそんなことがあったとしたら、ありすに何かあった時だけ
そういう時は、ごめんなさいで仲直りしよう!

「約束、だよ!」
「うん、約束するよありす!」

指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます!
指切った!!










少女は未だ夢から目覚めず
少女は未だ現実に目覚めず。
そして世界は再び時を刻み始める。

世界はせまい 世界は同じ
世界はまるい ただひとつ

少女が目覚める時は、今はまだ遠き。

【F-6/岩山頂上/1日目・黎明】
【メアリー・エバンス】
[状態]:睡眠、少しご機嫌斜め
[道具]:内藤麻衣の首輪(未使用)
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.不明
1.朝まで寝る
※『幻想介入/回帰令(システムハック/コールヘヴン)』の影響により『不思議で無垢な少女の世界(ドリーム・ランド)』が改変されました。
 より攻撃的な現象の発生する世界になりました。領域の範囲が拡大し続けています。
※麻衣の首輪を並木のものと勘違いして握っています
※メアリーがありすに助けを呼んだその時に、何が起こるかはご想像にお任せします

90閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/07(金) 18:46:03 ID:NU8yKO0g0




1035:以上、名無しがお送りします
おまえら、最近の都市伝説で面白いのある?

1036:以上、名無しがお送りします
面白いのだったら「光のアリス」ってやつがあるね
剣持って世界中旅してるんだって

1037:以上、名無しがお送りします
「光のアリス」って前に超力犯罪者が暴れてた時のことかな?
俺出会った事あるんだよなぁ

1038:以上、名無しがお送りします
まじかよ情報kwsk

1039:以上、名無しがお送りします
都内の雑貨屋の前で超力犯罪者が暴れてるところを超力使わず剣一本で鎮圧しちまったんだよ
話を聞いてみたら、なんかヤマオリ絡みの何かの手がかり探してるらしいって
あ、そういや「光のアリス」からサイン貰ったんだっけ俺

1040:以上、名無しがお送りします
最後になにか言い残すことはあるか? >>1039

1041:以上、名無しがお送りします
うらやまけしからん

91 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/07(金) 18:47:40 ID:NU8yKO0g0
再仮投下終了しました

92 ◆H3bky6/SCY:2025/03/07(金) 20:23:13 ID:XSocd1rk0
仮投下&修正乙でした。
この内容で問題ないかと思いますので、本投下の方よろしくお願いします

93 ◆2dNHP51a3Y:2025/03/07(金) 20:25:35 ID:NU8yKO0g0
ありがとうございます
今から本投下してきます

94 ◆IOg1FjsOH2:2025/05/01(木) 13:55:54 ID:pPXRibRg0
仮投下します

95 ◆IOg1FjsOH2:2025/05/01(木) 13:58:20 ID:pPXRibRg0
そこはコンクリートに覆われた冷たい部屋だった。
日の光の入らない、電灯だけが照らす薄暗い室内。
衛生状態も悪く、鼻を刺すような異臭が漂う。
葉月 りんかが11歳から14歳の間、犯罪組織によって監禁されていた場所だ。

事の発端は刑事であるりんかの父が追っていた児童失踪事件。
それがある犯罪組織に関わりのある案件とも知らず
組織の闇を暴く決定的な証拠を手に入れてしまったばかりに
葉月一家は犯罪組織によって拉致され、証拠ごと闇に消された。

アジトに連れ込まれると父と母は娘達の目の前で無残に殺され、夥しい血と両親の絶叫が彼女の幼き心を切り裂いた。
りんかとその姉、『葉月楓花(はづきふうか)』は容姿を気に入られたおかげですぐさま処刑は避けられたが
それは彼女達の地獄の責め苦の始まりでもあった。

16歳の姉――優しく、美しく、りんかの憧れのお姉ちゃんである楓花は
組織の男達の魔の手から当時11歳だった妹のりんかを守るために
自らが積極的に犯されるように男達に懇願し、その身を差し出した。

集団から玩具のように嬲られ、痛めつけられ、弄ばれる日々。
楓花のうめき声が響き渡る密室でりんかは鎖に繋がれたまま「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」と叫ぶだけで何もできなかった。
ひたすら慰み物に使われる楓花の悲痛な声が耳にこびりつき、りんかの心を抉る。

だが男達の欲望はそんなことでは満足するはずがなかった。
妹を守ろうとする楓花の献身的な姿を見て組織の人間はこう命令した。

『そのナイフで妹を刺し殺せばお前をここから開放してやる』と

この世界では弱者は何も守ることは出来ない。
その身を犠牲にしてまで妹を庇う、楓花の気高い意志さえも。
組織の連中は楓花の肉体だけでは飽き足らず、妹を愛する心までも蹂躙しようとした。

「楓花お姉ちゃん……」

ナイフを渡された楓花に視線を向けるりんか
我が身を犠牲にする姉の姿をこれ以上見ていられなかった。

「私を、殺して」
「だ、だめ……そんなの」

りんかは三年前に起きた災害でも自分だけが生き延びた。
その時に瓦礫の中から救い出されただけでも自分は十分な幸福を得られた。
この命で大好きなお姉ちゃんを救えるなら喜んで捧げられる。

「楓花お姉ちゃん……私はもういいの」

りんかは災害で自分一人が生き残った事で罪悪感を抱いていた。
炎に包まれた街で死んでいく人間をただ見ていることしか出来なかった。

「私はお姉ちゃんに生きてほしい」

その贖罪を今ここで果たそう。
それが私のできる唯一の償いなんだ。

96 ◆IOg1FjsOH2:2025/05/01(木) 13:58:54 ID:pPXRibRg0
「ありがとう……りんか」

楓花は妹を思って涙する。
りんかと楓花の間に血の繋がりは無くても、実の姉妹以上に深い愛情で結ばれていた。
楓花は涙を流しながら握りしめたナイフを振り下ろした。

「……ごめんね」

振り下ろされたナイフは自らの心臓を突き刺した。
血を零しながらりんかに謝罪の言葉を呟く楓花。

「お姉ちゃんっ!?お姉ちゃぁぁんっ!!」

倒れ伏す姉の手を取り、必死に呼びかけ続けるりんか。

「聞いて……りんか……」
「おねえ、ちゃん」
「りんか……どんなに辛くても、貴女は生き続けて……決して希望を捨てないで……いき、て」

遺言を伝え終える前に息を引き取る楓花。
その後は何度、呼びかけても二度と目を開ける事はなかった。

「どうしてっ!?なんでお姉ちゃんが死ななきゃいけないのっ!?
お姉ちゃんは何も悪いことなんてしてないのにっ!ただ、私を守ってくれただけなのに!」
こんなの……こんなのあんまりだよぉっ!!」

りんかは泣きじゃくりながら風沙の亡骸に縋りつき、喉が枯れるまで叫び続けた。

「楓花お姉ちゃん……いやぁぁぁっ!!」

最愛の姉が目の前で殺された。
その事実を受け入れられず、姉の側を離れようとしないりんか。

そんな彼女の様子をニヤつきながら眺めて見ていた男達。
姉妹の絆を断ち切れなかったにせよ。
楓花の死に嘆き悲しむりんかの惨めな姿は男達を楽しませるための余興にはなった。
彼らにとっては彼女達の命など娯楽として消費される程度の価値でしかない。

その後、りんかを一頻り嘲笑った所で男達はりんかを標的とした。
男達は楓花の遺体へと近づく。

「嫌っ!来ないでっ!お姉ちゃんに触らないでぇっ!」

男達は泣き叫ぶりんかから楓花の遺体を引き離して、そのままどこかへと運んでいった。
そして「お前にはこれから自分の立場を分からせてやる」と言い放ち
冷酷に笑いながらりんかの手足を切断した。

振り下ろされた斧の鋭い刃が肉を裂き、骨を砕く音が耳にこびりつく。
奴隷を延命させるために用意された回復能力者によって傷口は塞がれ。
達磨のような体型に変えられて彼女は生かされた。

りんかは日夜、休むことを許されず、男達の欲望の捌け口として毎日利用された。
彼女のうめき声と、肉を打ち付ける音が、狭い部屋に響き渡る。
ひたすら穢され、体力精神ともにすり減らされる日々。

犯罪組織によって誘拐された少女はりんか以外にも沢山いた。
主に鉄砲玉にも使えない戦闘に不向きな超力者、それでいて見た目は悪くない少女達が集められた。
使い捨ての子供達などいくらでもいた。

容姿で気に入られなければ、人体実験用として売買されるか。
臓器のみ取り出され、不要なパーツは生ゴミに捨てられるか。
命が尽きるまでひたすら玩具として利用される。
そこには救いも希望も存在しない。
地獄としか言いようが無い世界だった。

男達のちょっとした気まぐれで少女たちの命はいとも容易く奪われた。
力加減を間違えたり、不愉快に思われただけで殺された少女も多い。

そんな世界でりんかが今、生きていられたのは
姉の想いを無下にして自らが死を望むまで苦しませてやろうとする男達の下衆な欲求によるものと
もう一つは、りんかの超力『希望は永遠に不滅(エターナル・ホープ)』による彼女の生命力の増幅である。

希望を捨てずに生き続けてほしい楓花の想いがエターナル・ホープの出力を上げていた。
その結果、決して生きるのを諦めない強い意志がこの絶望の世界から彼女を生き永らえさせていた。

三年間による監禁生活はりんかの肉体を著しく破壊し、歪め続けられた。
眼孔姦によって右目を抉り取られ、赤い瞳の一つが永遠に失われた。
人体改造を施され、身長146cmの小柄な少女には不釣り合いな98cmのバストに膨乳され
まるで乳牛を扱うように搾乳され続けた。
孕む度にひたすら腹部を痛めつけられて流産させられた。
子宮は壊れ、もう二度と子を宿せない体にされた。
どんなに穢されても、どんなに傷つけられても、彼女は決して希望を捨てなかった。

97 ◆IOg1FjsOH2:2025/05/01(木) 13:59:26 ID:pPXRibRg0
助けたい。救いたい。
誰かのために生きると決めた。
そんなりんかの強き意志が超力を成長させた。

『希望を照らす聖なる光(シャイニング・ホープ・スタイル)』

悪夢の日々を耐え続けた影響が、りんかの肉体に変化を与えた。
超力による光がりんかの肉体を包んで、体を作り変える。
光が収まった頃にはまるで楓花お姉ちゃんの意志が宿ったかの如く
りんかの肉体は姉そっくりの姿に変化していた。

黒いレオタードスーツに、茶色のバトルジャケットとバトルスカートを重ね
黒いブーツとハイソックスを纏った変身ヒロインのような姿となった戦士の装い。
両腕にはシルバーの篭手が輝き、光のエネルギーを武器に戦う。

それがりんかが得た新たなる力だった。
りんかを強化するような超力を楓花が持っていたのか。
それともりんかを想う楓花の願いがエターナルホープと作用したのか。

(どうしてこの姿に変身出来たのかは分からない、でもきっと楓花おねえちゃんが私に力を貸してくれたからだと思う)

りんかはその力を行使して自身を束縛していた鎖を断ち切ると
アジトから脱出するべく行動を開始した。

脱走に気づいた男達を一人、また一人と迎撃していくりんか。
光のエネルギーを込めた拳は強力なパワーが込められ、大人達すら寄せ付けなかった。
アジトから抜け出した後は誘拐されてきた子供達を救うべく、この惨状を報告し
警察達に協力を求めようと考えていた。、

だが現実はヒーロー番組のように甘くはなかった。
少女が一人、新た超力を覚醒した所で現状を覆すことは出来なかった。
圧倒的な力を持つ組織の用心棒が現れると
一方的な戦況となり、また衰弱状態であったためりんかの体力はすぐ底を付き
変身が解除されて敢えなく敗れ、再び捕らえられた。

その後、りんかが得た力は彼女の望まぬ方向で悪用された。
戦闘に役立つと分かると、りんかは組織の鉄砲玉として扱われた。
洗脳によって彼女の意志を捻じ曲げ、兵士として教育し銃火器を装備させた。
敵対する組織の殲滅だけでなく、罪も無い民間人の虐殺も行わせた。

シャイニング・ホープ・スタイルによる強化された身体能力に
犯罪組織が用意した凄まじい火力を誇る特注の銃火器を装備されて多数の人間を射殺した。
襲撃した街で幼き子供を庇う母親ごと消し炭に変えた瞬間は今でも脳裏に焼き付いている。

いくら謝罪しようが永久に赦されない罪。

ある日、アヴェンジャーズの一人がりんかと遭遇し、激戦の末にりんかを行動不能に追い込んだ。
おかげで私は捕らえられ、洗脳も解除され、凶行を止められた。
アヴェンジャーズには感謝しても足りない。
私もアヴェンジャーズの皆さんのように人助けをしたい。
それが私の出来る唯一の贖罪だから

裁判では情状酌量の余地ありとして、死刑は免れた。
りんかの境遇を知り、同情した財団によって義手義足義眼がプレゼントされた。
義手義足は宇宙ロケットの素材にも使われている丈夫ながらも軽く
激しい運動にも耐えられるように作られたオーダーメイド製で

右目に取り付けられた義眼は振動や赤外線などを感知する機能が備わっており
義眼からでも周囲を認識する事が可能となった。
アヴェンジャーズによって私は一人でも多くの生命を救い、償うチャンスをくれた。

この刑務でも私は人を救いたい。
アビスに入れられた人達の中にも事情があって捕まっている人がいるはずだから。

――そう。大人達の欲望の被害者であり、加害者になるしか身を守る術がなかった交尾 紗奈ちゃんのように――

98 ◆IOg1FjsOH2:2025/05/01(木) 14:00:27 ID:pPXRibRg0




「楓花お姉ちゃん……」

ぽつりと寝言で姉の名を囁くりんか。
紗奈に膝枕されていたりんかはいつの間にか眠っていた。
意識を手放した事でりんかの変身が解除され、本来の小さな姿に戻っていた。
姉を思い出す彼女の瞳からは涙が溢れ、頬を濡らす。

「りんか、私のヒーロー」

紗奈に膝枕されている少女、葉月りんか。
起きている間はヒーローのように私を守ってくれてるけれど
どこか必死に無理しているような歪さも伝わってくる。

小柄な体型で童顔な顔付きなのもあって
姉の名を呼んで涙を流すりんかの姿はとても小さく、儚くも見えた。
このままだと、いつか壊れてしまうんじゃないか。
ヒーローになろうとする責務に耐えきれずに、押し潰されてしまうんじゃないか。

「りんか……」

眠っているりんかを愛おしそうに抱きしめる紗奈。

死なないでほしい。
生き続けてほしい。

それがこの世界でどんなに難しいことなのかは知っている。
それでも紗奈は願わずにはいられなかった。

鉄の牢獄で一人きりで良いと思っていた。
誰にも襲われず、誰にも傷つけられず、牢の中で一生孤独に生きるのが一番の幸せだと思っていた。

でもりんかと出会って私は変われた。
りんかと触れ合ったことで私は温もりを知った。
私を照らし、孤独から晴らしてくれた希望の光。

絶対に失いたくない。
その小さな体にのしかかる重圧を私も背負いたい。
二人で一緒に生きて行きたい。
紗奈はそう願いながらりんかを抱きしめ続けた。

「ん、紗奈?」

ゆっくりと目を開けるりんか。
目の前には優しく微笑みかける紗奈の笑顔が映った。

「おはよ。りんか」
「うん、おはよう。紗奈」

寝起きで少し眠たそうに挨拶を返すりんか。
紗奈の膝上で横になりながら、どこか安心したように微笑む。
そんなりんかの頭を優しく撫でる紗奈。

「ねぇ、りんか」
「ん?なに?紗奈」
「私ね。夢が出来たんだ。もし、ここから出られたら叶えたい夢がさ」

嬉しそうに語る紗奈の笑顔にりんかも嬉しくなる。
アビスから出られた事を考えるほどに紗奈は希望を持つことが出来たのだから。
りんかにとっても紗奈の変化はとても喜ばしい出来事だった。

「そうなんだ。どんな夢なの?」
「それはね。りんかと一緒にね」

その時だった。
突如として異常な寒さの冷気が二人の間を通り抜けた。
それは一時の平和の終わりを意味していた。

99 ◆IOg1FjsOH2:2025/05/01(木) 14:01:33 ID:pPXRibRg0



「ああ……ジャンヌよ、貴女は一体、何処に……」

ざくっ、ざくっとふらついた足取りで歩く者がいた。
虚ろな瞳でひたすらジャンヌの名を呟く男。
その名はジルドレイ・モントランシー。

厳密には男だったと言うべきが正しいだろう。
彼はジャンヌの姿を一人でも多くの人間に認識させるために己が姿を捨てた。
肉体を別の姿に変化させる施術を扱う超力者を雇いジャンヌと同じ姿となった。

端麗で意志の強い整った顔立ちも、張りのある豊満な胸も、細く引き締まった腰も
男の特徴である陰茎も切除し、性器も女性と同じに作り替え、声帯も本人そっくりの声色になるよう弄った。
筋肉の付き具合も、骨格の形も、完全な女性の体型へと人体改造を施された。

ただ一つ、髪の色だけは変えられなかった。
それだけは髪染めで色を付けて再現するしかなかった。

今では自分の素顔すら思い出すことは出来ないだろう。
ジルドレイは既に元の姿への未練は完全に消えている。
ジャンヌ、彼女の存在だけがジルドレイの生きる糧だ。

(会わなければ……ジャンヌをその目で、その心で焼き付けねばぁ……)

ジルドレイはひたすらジャンヌを求め続ける。
我が身の虚無をジャンヌで満たすために、どこにいるかアテも無いまま彷徨う。
すると耳元から少女達の話し声が聞こえてきた。

(やはり必要になりますか。ジャンヌに捧げる贄が……)

未だ仕留めた受刑者は最初に出会った銀髪の女のみ
ジャンヌに再会するには積んだ屍の数がまだ足りない、とジルドレイは解釈した。
天命を悟ったジルドレイは声の聞こえる方角へとゆっくり歩を進めた。

100 ◆IOg1FjsOH2:2025/05/01(木) 14:02:08 ID:pPXRibRg0



「ジャンヌ、さん?」

りんかと紗奈の二人を見て微笑む女性が姿を現した。
髪の色を除いては見た目がジャンヌ・ストラスブールそっくりの女性。
アヴェンジャーズの一員であるジャンヌはりんかにとっても憧れの人物である。
だけど様子がどこかおかしかった。

「りんか、あの人」
「うん、分かってる紗奈」

紗奈がりんかの手を握りながら警戒を示す。
目の前の人間は正気じゃない。
表情こそ優しく微笑んでいるが彼女から発している気配が危険人物そのものだと伝わってくる。

「フフ、貴女もジャンヌを知っているのですね」
「は、はい。私の憧れのヒーローです」
「私も彼女の事をよく知っています。美しく気高く、遥か高みで輝き続ける光。
貴女のようにジャンヌを好いてくれる子供がいることは私にとってもすごく喜ばしいことです」

うっとりとしながらジャンヌを語るジルドレイ。
ジャンヌに憧れを抱く少女の存在に心を踊らせた。
一人でも多くの人間にジャンヌを記憶させるのがジルドレイの目的の一つでもあるのだから。

楽しそうにジャンヌを語るジルドレイの姿にりんかも警戒が解け始める。
世間では大罪人として扱われたジャンヌであるが、りんかは彼女を信じていた。
極悪人である流都にすら手を差し伸べようとするりんかの心は人の善性を信じようとする意志が強い。
目の前にいるジャンヌそっくりの女性に対しても無意識に信じようとしていた。

「私もそんな子供達を愛していました。ジャンヌのようにこうやって」

ジルドレイは愛情に満ちた顔でりんかの頭をそっと右手で優しく撫でる。
何度か撫でると、次はりんかの頬、首、鎖骨とゆっくりとなぞるように触れていく。

「あの……いやっ!」
「りんか!」

りんかの顔ほどにもある乳房をがっしりと鷲掴みにされた。
嫌悪感で悲鳴の声が出るりんか。
嫌がる彼女を他所にジルドレイは恍惚な笑みを浮かべる。

「りんかから離れてっ!!」
「知っていますか?ジャンヌも自らを慕う子供達と愛を育んでいたことを……」
「い、痛い……やめてください」

乱暴に胸を掴まれ、痛みで顔が引きつるりんか、
そんなりんかを見て頬が紅潮し、息を荒げるジルドレイ。
ジルドレイはジャンヌの全てを模倣し続けた。
メディアが報じたあらゆるでっち上げの冤罪行為も全て。

101 ◆IOg1FjsOH2:2025/05/01(木) 14:02:41 ID:pPXRibRg0



いつだって戦禍で苦しむのは力を持たない弱者、特に子供達だ。
ジャンヌは子供達へ手を差し伸べて救い続けた。
ならば私もジャンヌのように子供を救おう。

幸いにして金だけは有り余っていた。
財力を惜しみなく投資して立派な孤児院を建てた。
身寄りの無い子供達は誰も飢えることなく、安定した暮らしが出来るようになった。
定期的に孤児院へ訪れては子供達に手を伸ばし、元気付けるように言葉をかけていた。
ジャンヌに真似て手を差し伸べる。それが正しい行いなんだ。

ジャンヌが逮捕された。
子供達を助けては、自らを慕う少年少女達とまぐわい、惨殺していたと報じられた。
ならば私もジャンヌのように子供達を犯し、殺害しよう。

ジャンヌが逮捕されたその日からジルドレイはおぞましい所業を繰り返した。
元は報道屋が広めたジャンヌの悪評をジルドレイは尽く実行した。

孤児院で暮らす少年が一人、ジルドレイの屋敷で小姓として召し抱えられることになった。
憧れの人物であるジルドレイに眼を掛けられた少年は期待し、つかの間の夢を抱いた。
これから貴族の下で教育を受け、教養を積んだ大人になれる。
他の子供達が羨むような人生を歩めると胸が高鳴った。

しかし、少年に待っていたものは身の毛のよだつ恐ろしい運命だった。
城に到着すると、暖かく迎えられた。
まず風呂に入れられ、体を洗い浄められるのである。
その後、美しい服を着せられ、整髪されたりして、少年は見違えるほど美しくなる。

やがて夜になると、少年はジルドレイの寝室に連れていかれた。
寝室で待っていたのは布切れのように薄く透けたネグリジェで身を纏うジルドレイの姿だった。
ジャンヌそのままの姿で、芸術品のように美しいジルドレイの肉体を間近で見た少年は欲情が止まらなかった。

何度も孤児院に来てくれた憧れの女性の裸体を目にしたのだから無理もない。
興奮冷め上がらずに俯く少年を前にジルドレイは優しく抱擁し

「ほら、前を見て笑って。そうです。君はとてもかわいい。もっと私を見て、その愛らしい顔を見せておくれ」

そう呟いて少年を安心させてから、唇を重ね合わせた。
その後、少年の全身を愛無しながらネグリジェを脱いだジルドレイは少年をベッドに寝かせて重なり合った。
初めて味わう感覚に少年は夢中で快楽を味わった。

下腹部から来る未知の感覚が今、まさに達しようとしたその瞬間、少年の喉元が熱くなった。

驚いた少年が目にした物は氷で造られた短剣を手に持つジルドレイの姿。
そして、首元から噴き出す少年の鮮血だった。

恐怖した少年はかん高い叫び声を上げた。
ジルドレイは返り血を浴びながら高らかに笑い、少年の腹部を何度も短剣で突き刺した。
少年の息の根が完全に切れたタイミングで、ジルドレイは刺突を辞めて立ち上がる。

「これが……これがジャンヌの愛なんですね!ああ、なんて瑞々しく、情熱的な愛なのでしょう!
未だ我が肉体の滾りは収まりません。これほどの興奮を覚えたのは生まれて初めてです!」

全身が少年の血で真っ赤に染まり上がり、秘部からは少年が死の間際に放った精が滴り落ちる。
生まれてこの方、性欲らしい性欲を持つことが出来なかったジルドレイだったが
ジャンヌの模倣を繰り返す内に、彼は少年少女達を苦しめ、命を奪う行為に情欲を満たす性癖が構築されていった。

彼の凶行はその後も続いた。
ある時は生きたまま子供の皮膚を剥いで殺害したり、少女の秘部に氷で出来た陰茎押し込んで全身を串刺しに貫いたり。
自らの超力以外にも様々な拷問器具を持ち入り、惨殺を繰り返した。

希望を胸に抱いた子供達の顔が絶望に染まるその瞬間がジルドレイはたまらなく好きだった。
それがジャンヌの好む愛情だと疑うこと無く彼は逮捕されるまでその悪行を繰り返した。

逮捕後、モントランシー家を家宅捜索された際には子供達の遺骨が大量に発見された。
行方不明者とDNAが一致する遺骨だけでも30人を超えており
その残虐性極まりない事件は彼が死刑となるには十分過ぎる理由だった。

102 ◆IOg1FjsOH2:2025/05/01(木) 14:03:13 ID:pPXRibRg0



「危ない!」
「っ!?」

紗奈の声を聞いて即座に下がるりんか。
それと同時にりんかのいた場所に振り下ろされる氷の短剣。
ジルドレイが初めて子供を殺害した際に用いた短剣だった。

「おやおや、外れてしまいましたか」
「何をするんですか!?」
「フフフッ……ジャンヌのために贄を捧げるのですよ。彼女を慕う子供ならジャンヌもお喜びになるでしょう!!」
「貴女は……」

アビスには凶悪な囚人達が集められている。
流都やルクレツィアのように混沌や殺戮を楽しむ囚人が他に何人も存在する。
目の前にいるジャンヌそっくりの囚人もその類だとりんかは理解した。

「気を付けてりんか!アイツは普通じゃない!」
「うん!」

りんかの体が眩く光り輝く。
超力の光が肉体を構築し、新たな姿へと変わる。

『シャイニング・ホープ・スタイル!!』

りんかを庇い、死んでいった姉、葉月楓花そっくりの美しい女性の姿に。
格好はまるで魔法少女アニメに登場する変身ヒロインのような可憐な衣装の戦士。
かつては空想の産物にしか過ぎなかった存在も今では現実として存在する力。

「ああ、ジャンヌよ!!これから二人の少女を贄に捧げます。どうか見守っていてください!!」
「下がって紗奈っ!」

紗奈はコクリと頷いて森の中へと入る。
自分が側にいてはりんかが集中して戦うことが出来ない。
足手まといになる訳にはいかない紗奈は急いで二人から離れた。

「安心してください。寂しくならないように二人仲良くすぐにあの世へ送ってあげましょう!!」
「やらせない!」

ジルドレイは仰々しい振る舞いと共に氷の槍を大量に構築していった。
合図と共に空中で静止していた氷の槍がりんかに向かって上空から降り注いでいく。
大地を蹴り上げ、低姿勢で走り抜けて、氷の槍の雨を掻い潜っていく。

「はぁぁっ!!」

シルバーのガントレットが光り輝き、渾身の右ストレートをジルドレイの顔面に叩き込んだ。
ガキンッ!と金属の衝突音が響き渡る。
りんかの拳はジルドレイには届いておらず
二人の間には分厚い氷の壁が立ち塞がっていた。

(まずいっ)

ジルドレイの右手に氷の槍が握られているのに気づく。
りんかは即座に距離を取ろうと動いたが
その瞬間に突き出た氷の槍が、壁をすり抜けてりんかを貫いた。

「うぐっ」
「りんかァ!!」
「大丈夫!まだ、やられてない!」

紗奈の悲痛な声が聞こえる。
幸いにも、槍が刺さる寸前に体を捻り、僅かに肩を貫かれるだけに留まった。

「ちょこまかと動き回られると面倒ですね」

パキパキと空気が凍りつく音が響き渡る。
急激な温度低下が周囲へと広がっていき、氷のフィールドが形成されていく。
ジルドレイから発せられる冷気の影響だった。

冷気が霧状となり、りんかの体温を容赦無く奪っていく。
じっとしていては肉体が完全に凍りついてしまう。
ジルドレイの冷気から距離を取ろうと、りんかは動く。
だが氷の世界は彼女の機動力を著しく奪っていった。

逆にジルドレイは凍りついた道を何の弊害も無く突き進む。
霧がジルドレイを包み込んでいき、やがてその姿が見えなくなった。

103 ◆IOg1FjsOH2:2025/05/01(木) 14:03:45 ID:pPXRibRg0
「くっ!」

りんかは辺りを見渡した。
しかし、霧で視界が悪いせいで何も見えない。
気配も感じられず、どこから攻めてくるかも分からなかった。

(さぁ、その一突きで貴女の心臓を貫いて差し上げましょう。苦痛に藻掻き苦しむその姿を私に見せてください!)

りんかの背中目掛けて氷の槍が差し迫る。
その時だった。
りんかは胸元で両腕の拳を合わせ、ガントレットを密着させた。

「ホーリー……フラァァァァッシュ!!!!」

りんかを中心に強烈な閃光が走った。
放たれた線熱が氷の世界を突き抜けていく。
霧が一瞬で拡散され、光に目が眩んだジルドレイの体がよろめいた。

「おのれ、小癪な真似をっ!」

目眩ましとも思える閃光を直視してしまったせいで、ジルドレイは目を強く手で押さえてうずくまった。
その隙を逃すまいとりんかは跳躍する。

「どこに、どこにいるのです!?」

ジルドレイは周囲を見回すが、りんかの姿はどこにもない。
りんかは飛び上がっていた。
氷のフィールドの範囲外に逃れ、そこから一気にジルドレイの頭上まで跳躍していた。
背中には流都との戦いの最中に会得した新たなる力、光の翼を生やして。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

落下の速度を上乗せして放たれるりんかの必殺技。

「シャイニングゥゥキィィィィィック!!!!」
「ぬぅぅっ!?」

頭上から迫りくる光の奔流に気づいたジルドレイは即座に氷壁を展開。
彼の超力によって構築された氷壁は鋼鉄に勝るとも劣らない。
しかし、りんかの弾丸の如き速度による一撃は、氷壁の強度を高めるよりも早く衝突を起こした。
シャイニングキックが氷壁を粉々に砕き、ジルドレイの肉体をも貫いた。

「はぁ……はぁ……」

大技を放った影響でスタミナを消耗し、息を切らすりんか。
僅かに睡眠を取っただけでは万全とは言えず
長期戦だと勝ち目は無いと悟っての短期決戦だった。

りんかが振り向くと、そこには胸元に大きな風穴が空いたジルドレイが立っていた。
ピキピキと音を鳴らしながら砕け散り、粉々に砕けた氷像へと変化した。

「えっ」

それが偽物だと気付いた時には、りんかの背後から放たれた氷の矢が背中にいくつも突き刺さった。

104 ◆IOg1FjsOH2:2025/05/01(木) 14:04:23 ID:pPXRibRg0



辺りが冷たい霧に包まれたと思ったら、太陽の様に眩しい光が放たれた。
その後、激しい爆心音が鳴り響いたと思ったら倒れ伏すりんかの姿が見えた。

「りんかァァ!!」

叫ぶ紗奈の姿を見てニヤつくジルドレイ。
まるで紗奈の苦しむ様を楽しむかのようにゆっくりとりんかへ近づく。

「駄目!そんなの!」

せっかく大切な人が出来たのに。
大好きな人が出来たのに。

また奪われちゃうの?私から全て奪ってしまうの?

【しょせん、お前は死神だ】

悪意に満ちた大人達の声が聞こえる。
流都のように侮蔑して、否定して、嘲笑う醜い大人達の声が。

【この人殺しめ】【生まれてきたのが間違いだったんだよ】【周囲に災いを振りまく忌み子がよ】

【死刑にしていればこんな事にならなかった】【またお前のせいで犠牲者が増えた】

違う!違う!違う!

【お前は永遠に呪われた死神だ!】

違う!!私は死神じゃない!!
もう死神にはならない!!

死神の力を使うとりんかはとても悲しい顔をしていた。
この力は他人だけでなく自分も、大事なりんかも傷つけてしまうんだ。
こんな呪われた力なんて使わない!もういらないんだ!!

「うわぁぁぁぁ!!」

紗奈は雄叫びと共に駆け出した。
りんかを救うためにジルドレイに果敢に挑んだ。
感情が昂っているからか、物凄く身体が熱かった。

「りんかに手を出すなぁぁ!!」
「ぬぅっ」

紗奈の拳を受けてぐらつくジルドレイ。
幼き子供の力では無い。
明らかに超力による身体強化が加わっていた。

「何なのですか?その光は?」
「…………?」

紗奈自身も気付いていなかった。
彼女の胸元から眩い光を発しているのを。
身体が熱いのもその光が原因だとようやく気付く。

「まぁいいでしょう。邪魔をするなら貴女から贄に捧げるだけです」

身体が焼けるように熱い。
だけど私には分かる。
この光は敵じゃない。
私の力となる味方なんだ。

(お願い、力を貸して……りんかを守れる力を私に!!)

光が紗奈の願いに呼応するように一層強く輝いた。
すると不思議な事が起きた。
光に包まれた紗奈の肉体が作り替えられていく。

小さな少女の肉体は167cmのサイズに伸び
身体のラインがくっきりと見える黒いボディスーツ。
純白のマントを身に纏い、胸元は白銀のプロテクターに覆われ
腰には白銀のスカート型の装甲がフィットし
脚部は白銀のグリーヴ、腕には白銀のガントレットが装着された。

サラサラとした美しく長い黒髪に、凛とした整った顔立ちの美女。
まるで白銀の騎士を思わせる戦士だった。

「これが……私の力……」

これは神が起こした気まぐれか。
それともりんかから与えられた『希望は永遠に不滅(エターナル・ホープ)』の力が
紗奈の『支配と性愛の代償(クィルズ・オブ・ヴィクティム)』と結びついて進化を引き起こしたのか。

ただ一つ分かるのは、これはもう呪われた死神の力では無い。
希望のための力だということだ。

「繋いで結ぶ希望の光ッ!!シャイニング・コネクト・スタイルッ!!!!」

希望と性愛という異なる二つが合わさって生まれた奇跡。
紗奈の新しい力、シャイニング・コネクト・スタイルがここに誕生した。

105 ◆IOg1FjsOH2:2025/05/01(木) 14:04:55 ID:pPXRibRg0
「紗奈……」

意識を取り戻したりんかは目の前の光景に呆然と見惚れていた。
あまりに美しき白銀の騎士の姿に目を奪われてしまったからだ。

「……く」

紗奈から感じる神聖な気配にジルドレイは思わず後退る。

「じゃ、ジャンヌ……」

思わず呟いてしまった。
彼女から発せられる希望の光を目にしてジャンヌを思い浮かべてしまった。

『言ったはずだ。人は誰もがジャンヌになれるとな』

失った右目の中から囁く神の姿が見えた。
未だ私の前から消えようとしない忌々しい男が。

「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うっっっ!!!!
お前はジャンヌではない!!!!捧げられるだけの贄でしかないガキの分際でぇぇえええぇぇええっっ!!!!
唯一無二にして絶対であるジャンヌに成り代わろうとするなぁぁぁぁぁぁああぁああああっっっ!!!!」

狂乱状態に陥ったジルドレイは氷の槍を無数に生成し、紗奈に目掛けて投げつける。

「はぁっ!!」

紗奈の手から光のリボンが構築される。
まるで新体操のようにリボンを振るい、氷の槍を次々と撃ち落とす。

「おのれぇ!」

怒りの形相を剥き出しにするジルドレイ。
紗奈に向かって次なる攻撃を繰り出そうとしたその瞬間、脇腹に突き刺さるような激痛が走る。

「紗奈ちゃんだけには戦わせません!!」

りんかの放った飛び蹴りがジルドレイの脇腹へと直撃したのだ。
完全に警戒の外だったためにまともに喰らい、ぐらりと怯む。

「これでぇぇ!!」

紗奈の放ったリボンが、ジルドレイの右腕に絡みつく。
するとジルドレイの右腕から発せられた冷気がピタリと止まった。

「ぐっ!?冷気が……」
「これ以上、その力でりんかを傷付けさせない!」

今まで自らを束縛して生きてきた。
でもこれからは違う。
これからは悪い大人達を縛り付けて、手を出させないようにしてやるんだ。

『希望を照らす聖なる光(シャイニング・ホープ・スタイル)』による光の力と
『支配と性愛の代償(クィルズ・オブ・ヴィクティム)』による加害性のある者に罰を与える力が
混ざり合い、光の拘束具として進化した。

106 ◆IOg1FjsOH2:2025/05/01(木) 14:05:28 ID:pPXRibRg0
今のジルドレイは右腕を封じられ、片腕状態になったも同然だった。

「たかが片腕を封じたぐらいで勝ったつもりですか!? 私の氷の力はまだまだ尽きません!!」
「もう、辞めませんか?」

未だ興奮冷め上がらないジルドレイにりんかは語りかける。
その瞳は悲しみに満ちていた。
ジャンヌに憧れる者同士で傷付け合うなんて悲しすぎる行為だった。

「ジャンヌさんが投獄されて辛いのは私も同じです。でもこんなことをしてもジャンヌさんは悲しむと思います。だから「黙れ」

りんかの説得を遮るジルドレイ。
その表情は怒りでも憎しみでもない。
ただただ感情の無い顔付きでりんかを見ていた。

「お前がジャンヌを語るな。虫唾が走る」

サクッと肉が切れる音が響いた。
左手から生み出した氷の短剣で、拘束された右腕を切断したのだ。
ぼとりと落ちる右腕。
傷口は冷気で瞬時に塞いで止血し、新たな右腕を作り出した。

ヒグマをも超えるサイズを誇る氷で出来た異形の右腕が構築される。
禍々しく鋭い爪を持つ魔手がりんかに向かって振り下ろされる
寸前の所で後方に下がって回避するりんか。

「させない!!」

紗奈はリボンを操り、ジルドレイの魔手を拘束しようとする。

「同じ手はくらわんよ」

魔手を自壊させ、リボンの拘束を回避する。
攻撃の手を緩んだ所をりんかのハイキックがジルドレイの頭部を狙う。
氷壁が立ち塞がり、蹴りを阻害する。

「これ以上の戦いは不毛なようだ。ここは引かせてもらいましょう」

二対一での不利な状況、さらに超力の使用を封じる拘束技に危険性を抱いたジルドレイ。
ジャンヌに出会うまでに力尽きる訳には行かないジルドレイは冷気の霧を発生させて二人を包んだ。

「りんか!」
「大丈夫、もう行ったみたい」

霧が晴れた時にはジルドレイの姿は完全に消えていた。
脅威が去ると、紗奈はりんかの元へ駆け寄る。
ぎゅっとりんかを抱きしめた。

「心配したよ……りんか」
「ごめんね。でも紗奈ちゃんが変身できるなんて驚いちゃった。私よりも大きくなって」
「これで私もりんかを守れるよ……あのね、私の夢の話だけどね」

会話の途中で襲われたために言えなかった紗奈の夢。
それは……

「それはりんかと一緒にヒーローになることだよ」
「なれる。絶対になれるよ。紗奈ちゃんなら」
「えへへ、ありがとう!りんか」

夜が明け、朝日がヒーローを照らす中で二人は熱い抱擁を交わした。

(大好きだよ……りんか……)

107 ◆IOg1FjsOH2:2025/05/01(木) 14:06:00 ID:pPXRibRg0
【D-3/森の中/一日目 早朝】
【葉月 りんか】
[状態]:シャイニング・ホープ・スタイル、全身にダメージ(極大)、疲労(大)、腹部に打撲痕、背中に刺し傷、ダメージ回復中、ルクレツィアに対する怒りと嫌悪
[道具]:なし
[方針]
基本.可能な限り受刑者を救う。
0.今は少しだけ、休む。
1.紗奈のような子や、救いを必要とする者を探したい。
2.この刑務の真相も見極めたい。
3.ソフィアさん…
4.ジャンヌさんそっくりの人には警戒しなきゃ

※羽間美火と面識がありました。
※超力が進化し、新たな能力を得ました。
 現状確認出来る力は『身体能力強化』、『回復能力』、『毒への完全耐性』です。その他にも力を得たかもしれません。

【交尾 紗奈】
[状態]:シャイニング・コネクト・スタイル、気疲れ(中)、目が腫れている、強い決意、りんかに対する信頼、ルクレツィアに対する恐怖と嫌悪
[道具]:手錠×2、手錠の鍵×2
[方針]
基本.りんかを支える。りんかを信じたい。
0.新たに得た力でりんかを守りたい
1.超力が効かない相手がいるなんて……。
2.バケモノ女(ルクレツィア)とは二度と会いたく無い
3.青髪の氷女(ジルドレイ)には注意する。

※手錠×2とその鍵を密かに持ち込んでいます。
※葉月りんかの超力、 『希望は永遠に不滅(エターナル・ホープ)』の効果で肉体面、精神面に大幅な強化を受けています。
※葉月りんかの過去を知りました。
※新たな超力『繋いで結ぶ希望の光(シャイニング・コネクト・スタイル)』を会得しました。
現在、紗奈の判明してる技は光のリボンを用いた拘束です。
紗奈へ向ける加害性が強いほど拘束力が増し、拘束された箇所は超力が封じられるデバフを受けます。
紗奈との距離が離れるほど拘束力は下がります。

※『支配と性愛の代償(クィルズ・オブ・ヴィクティム)』の超力は使用不能となりました。





「忌々しい、忌々しい、忌々しいぃぃ!!」

りんかから向けられた慈悲の視線。
手を差し伸べようとする彼女の振る舞いからもジャンヌに近しい気配を感じられた。
なぜ?あの紛い物に続き、あのような贄にしか過ぎぬ子供達までもがジャンヌに近い輝きを放っているのだ?

『自分でもとうに気付いているはずだ』

また右目から声が響いてくる。
聞きたくないのに、見たくないのに。
あの男の声が、姿が私の脳裏から焼き付いて離れようとしない。

『ジャンヌは唯一無二にならず、誰もがジャンヌと同じ道を歩むことが出来るのだ』

「黙れぇェぇぇぇぇぇえええっっっ!!!!我がジャンヌをこれ以上侮辱するなぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

ああ、気が狂いそうだ。
早くジャンヌと出会い、わが魂に彼女の存在を刻み込まねば。

「ジャンヌよ。どうか哀れな私に救済を……お導きを……」

【D-3/草原/一日目 早朝】
【ジルドレイ・モントランシー】
[状態]: 右目喪失、右腕欠損、怒りの感情、発狂、神の幻覚、全身に火傷、胸部に打撲
[道具]: 無し
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本. ジャンヌを取り戻す。
1.ジャンヌに会いたい。
2.出逢った全てを惨たらしく殺す。
※ジルドレイの脳内には神様の幻覚がずっと映り込んでいます。
※夜上神一郎によって『怒りの感情』を知りました。
※自身のアイデンティティが崩壊しかけ、発狂したことで超力が大幅強化された可能性があります。

108 ◆IOg1FjsOH2:2025/05/01(木) 14:07:14 ID:pPXRibRg0
仮投下終了です
話に問題が無ければ今夜に本投下します

109 ◆H3bky6/SCY:2025/05/01(木) 20:05:04 ID:WHvQJp.A0
仮投下乙です。
拝読させて頂きました。
超力の進化や変化は可能であると過去作で示唆されているので問題ないかと思います。

本投下の方よろしくお願いいします。

110 ◆IOg1FjsOH2:2025/05/02(金) 00:15:01 ID:FssOHPTw0
>>109
返答ありがとうございます
これから本投下させていただきます

111 ◆8vsrNo4uC6:2025/06/25(水) 10:50:36 ID:O8mW2lmE0
本スレの方がホスト規制で書き込めないので、こちらに仮投下させていただきます。

112 ◆8vsrNo4uC6:2025/06/25(水) 10:51:47 ID:O8mW2lmE0

キングに頼まれ、外の様子を見に行ったハヤトとセレナの願いはあっけなく崩れ去った。
昇り行く太陽の光を受け、ハヤトの前に現れたのは、手負いの少女二人組だった。

朝の光が熱を持ち照り付け、ハヤトの身体にじわりと汗を生む。
同時に潮風が彼の体から出た汗を冷やし、嫌な寒気をもたらした。

「あなたたちは、誰?」
ボロボロの少女二人は困惑しながらもーー紗奈はりんかを守るように立ち、目の前に現れたハヤトとセレナを警戒する。
「りんかはここにいて。あなた達には絶対近づけさせはしない」
「紗奈ちゃん、私は……」
「りんかのためなの」
後ろのりんかを振り向く紗奈は、唇を引き結んだ。
シャイニング・コネクト・スタイルに変身する準備はできていた。

「ハヤトさん……」
隣のセレナが、心配そうにハヤトを覗き込む。
ハヤトは焦燥感に駆られながら思案する。

二人の少女ーーそのひとり、紗奈が敵意を持った目でハヤトを睨みつけてくる。
手負いとはいえ、この場を切り抜けるには戦いも辞さない覚悟をハヤトはひりひりと感じた。

ハヤトにはキングに頼まれた事がある。

『ドン・エルグランドを殺した相手の調査』
『港湾に近づく二人組の確認』

これが彼の役目。
セレナを守るために、自分が通した仁義。

『港湾に来たのが二人組の少女だったら、自分の元に案内する』

これが、キングのハヤトへのちょっとした『野暮用』だった。
目の前。少女二人。片方は遠目からでも重傷を負っているとわかる。
キングの元へ連れていくにはあまりにも危険すぎる。

ハヤトは考える。

(キングに嘘をついて、この子たちを逃がそう)

そう思った。
少女たちなど来なかったことにして、このまま自分たちもキングの元から去ればいい。
ーーだが、あのキングに嘘が通用するか?
今ここで逃したとしても、キングはまた別の方法でこの子達を追うのではないか。
ましてやこの傷だらけでボロボロの身体だ。
キングに会わなくてもこの子達はーー

「お兄さん。何か、抱えていませんか?」

思案していたハヤトは顔を上げる。
二人組の少女ーーりんかだった。
特にひどい傷を負っているりんかは自分を守るように立つ紗奈を制止し、よろよろとハヤトとセレナの前に歩を進める。

ハヤトは言う。
「何も抱えてなんかいない。おまえたちは早くーー」
「どうか、話して」

死にかけていても、言葉は力強かった。

ふいに、りんかの身体から光が放たれ、みるみるうちに『シャイニング・ホープ・スタイル』に変化する。
背と髪が伸び、囚人服ではないヒーローの格好をしたりんか。
身体は手負いでもその身は煌めき、言いようもない力強さがあった。

「私だったら、力になれるかもしれない」
変身したりんかは言った。

ハヤトとセレナは、変身したりんかの姿を呆然と見ていた。
同時に、絶望に囚われていた心の中でかすかに暖かい希望の火が灯るのを感じた。

ルーサーに筋を通さなければいけない。
手負の彼女達を巻き込みたくない。特に満身創痍で変身したりんかには。
この子達を逃さなければ。
ハヤトは乾いた口を開く。


「……本当に、いいんだな?」

113 ◆8vsrNo4uC6:2025/06/25(水) 10:52:37 ID:O8mW2lmE0
ほんのわずかな希望が、彼の言葉を引き出した。


この子達はボロボロだ。
特に今変身した子は死んでいてもおかしくない重傷を負っている。
だが、この子達なら。
もしかしたら、ルーサーに。

「ーー後悔、しないんだな」

ここまで来たら自棄だ。
行けるところまで行ってしまおう。

「セレナ。この子達にすべてを話していいか?」
「……ハヤトさんのやる事なら、ついていきます」
セレナとハヤトは話すために、りんかたちを座れる場所へ導いた。

一方で。
煌びやかな変身姿のりんかと、意を決して彼女に全てを話し始めるセレナとハヤトを、紗奈は暗い気持ちで見つめていた。




114 ◆8vsrNo4uC6:2025/06/25(水) 10:53:28 ID:O8mW2lmE0
残っていた治療キットを使い、それぞれ一食分の食糧を渡した時、りんかと紗奈はひどくハヤトに感謝した。
元々彼女たちがこのエリアに来たのも、敵を避けて体力と気力を回復させるためだったからだ。
ハヤト達に会う前のりんかは特に、根性と超力だけでやっと立てている状態だった。
治療キットの残りを使い切っても彼女の傷は癒え切らなかったが、それでも軽く動ける状態にまではなった。


りんかは変身を解き、紗奈と共にハヤトとセレナの話を聞いていた。
ルーサー・キング。牧師とも呼ばれている。
『キングス・デイ』の首領。欧州の裏社会の頂点。
紗奈もりんかも、かつて拉致され虐げられていた際に彼の話は耳に聞いていた。

「ーー話してくれて、ありがとう」
りんかは微笑みハヤトに言った。紗奈が心配そうにりんかを見つめている。
「牧師は危険な男だ。キットじゃ回復しきれなかったが、仮にあんた達が万全だったとしても勝てる確率は低い」
ハヤトが言う。
「オレは『キングの目的の相手二人に治療キットを使うな』とは言われてはいない。咎められても、オレの責任だ。ーー逃げるなら、今のうちだぞ」
「そうだねーー」

りんかは目を閉じ、少しの間思案すると顔を上げ、ハヤトとセレナをまっすぐ見る。

「りんか、やめてーー」
紗奈はその次に出るりんかの言葉を制止しようとした。
だが、間に合わなかった。

りんかは言った。
「ハヤトさん、セレナさん。私一人で牧師に会いに行く」

「?!正気か!?……」
「大丈夫」
動揺するハヤトにりんかは冷静に返す。
「相手はあの牧師だぞ!!戦わなかったとしても無事で済むはずがない!!何よりもーー俺が嫌だ!あんたが背負わなくていい責任を背負うなんてーー」
「牧師がどんなに強くても」
りんかは、強い覚悟を持った目でハヤトを見た。
「あなた達が辛い目に遭ってるなら、私はあいつに立ち向かわなければいけない」

セレナは倒れそうなハヤトに寄り添いながらりんかに問う。
「……いいんですね?」
「つらそうな顔をしてるあなたたちを、放って置けないから」
「ありがとう、……ごめんなさい」
セレナは、悲しそうな笑みを浮かべた。


「待ってよ」

115 ◆8vsrNo4uC6:2025/06/25(水) 10:54:36 ID:O8mW2lmE0

唐突に、絞り出すような懇願するような声がその場を刺す。
「ーー!?」
みな一斉にそちらを向く。


「やめてって言ったでしょーー」
言葉の主は、紗奈だった。

「もうボロボロのりんかなんて、見たくないよッッ!!」

紗奈は、慟哭混じりに叫んだ。


他の三人は困惑した顔で紗奈を見た。
「紗奈ちゃん……」

「わたしは、いやだからね」

その目から、ぼろぼろと大粒の涙がこぼれ落ちる。
「どうして、りんかは自分を痛めつけてまで関係ない人をたすけるの……っ、……いつも、いつも、そればっかり……ほかのひとなんて、どうでもいいから……わたしには、りんかしか、……りんかしか……」

やがて言葉は嗚咽に変わり、言葉は言葉でなくなった。

「りんかが行くなら……わたしも、連れて行ってよ……っっ、いっしょに戦うから、悪いやつらをやっつけるから……っ」
辛そうに紗奈を見ていたりんかは、彼女をそっと抱きしめた。

「紗奈ちゃん、ごめんね……紗奈ちゃん……私、紗奈ちゃんのこと、全然考えてなかった……」
優しくしたかった抱きしめる腕が無意識に強くなっていた。
りんかの目からも涙が落ちる。

ハヤトはそれを苦しい心持ちで見ていた。
自分がこの子達を見つけなかったら。
こんな事に無理やり巻き込まなかったら。
悲しませるようなことはなかったかもしれないのに。
せっかく生まれた希望の灯火が、罪悪感で消えてゆく。

そんな時、抱き合うりんかたちにセレナが歩み寄り、


ぽふっ、と、りんかとセレナをさらに抱きしめた。


「えっ」

驚くハヤト。
みな、セレナに意識が向く。

「えっ」

泣くのをやめ、呆然とするりんかと紗奈。


身を寄せ合ったままの二人にセレナは目線を合わせる。
そしてにぃーっと笑いかけ、もふもふの両手の平を差し出す。

「りんかちゃん、紗奈ちゃん。私の手、触ります?」
「この状況で?!」
「まぁまぁ。けっこうモフモフしてるんですよ」

差し出されるセレナの両手。
それを困惑見るりんかと紗奈。

116 ◆8vsrNo4uC6:2025/06/25(水) 10:55:20 ID:O8mW2lmE0
ふと、りんかは、セレナのモフモフの手を見ながら妙にウズウズしている紗奈に気づく。
「……紗奈ちゃん」
りんかに呼びかけられた紗奈はぴくりと身体を震わせるが、りんかがこっそり紗奈に耳打ちする。
「先に触ってもいいよ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」

紗奈は涙を拭い、おそるおそるセレナの右手のひらに触れ、ふわふわの感触を確かめる。
「わっ……」
つい言葉が漏れた。もう少し手を撫でてみる。ふわふわしている。

セレナの手をまんざらでもなく撫で続ける紗奈の隣で、
「あの、セレナさん……私もモフっていいかな?」
「いいですよ」
照れ気味なりんかの前に、空いている方のセレナの手が差し出される。
ゆっくりと、りんかは優しくセレナの毛に覆われた手に触れ、手のひらの肉球をそっと押す。
ふわふわしている。

毛皮に覆われた手をモフりながら、思わずりんかがへにゃりと笑う。
「なんかいいね……」
「えへへ」
照れるセレナ。

一方、取り残されたハヤトは居心地の悪さを感じていたが、そんなハヤトにセレナが声をかける。
「ハヤトさんもいいですよ」
そう言われ、ハヤトは少し思案し、
「でも両手は埋まってるだろ……」
「頭と首のもふもふは残ってます!」
「そ、そうか……」
ハヤトも参戦し、ためらいがちにセレナの頭と首を優しくモフる。

日が照り、潮風が吹き付ける中、3人はセレナのふわふわの毛皮を堪能していた。
りんかと紗奈の涙は、いつのまにか乾いていた。





117 ◆8vsrNo4uC6:2025/06/25(水) 10:57:03 ID:O8mW2lmE0


「まず、俺が先に牧師と会って話す」

治療キットで傷を癒やし、恩赦ptで購入した食糧を2人に食べさせた後、改めてハヤトはそう告げた。

ハヤトが続ける。
「港湾の管理棟にルーサー・キングーー『牧師』がいる。オレとセレナが先に中に入って牧師と話すから、りんかと紗奈は外で待っていて欲しい。危なくなったら合図を出すがーー本当に、いいんだな?」
「わかった。……紗奈ちゃんも、それでいいね?」
「りんかが戦うなら、私も戦うよ」
りんかも紗奈も、覚悟を持ってハヤトの話に頷いた。
りんかと同じく、紗奈も変身して戦えるということをハヤトとセレナは共有していた。


「ハヤトさん。牧師に会う時は、私もついていきます」
セレナが言う。
「ダメだ。セレナの身に何かあったらじゃ遅い」
「私も、りんかさんたちみたいに、ハヤトさんの助けになりたいんです」

ハヤトとセレナはもはや一連托生だった。
ハヤトがセレナを気にかけると同時に、セレナもまた、ハヤトの力になりたいのだ。
「……いつも、ごめんな」
「役に立ちます。ーー必ず」
セレナの献身に、ハヤトはいつも救われていた。

ハヤトは一呼吸置き、


「オレがおまえたちに言ったこと、これからやることも、全部俺の独断だ。オレが牧師相手にヤバくなった時、お前たちは責任を負わず逃げ出しても構わない」
「……そんなことはしないよ」
りんかが微笑む。

「言っておくけど」
紗奈が口を開く。
「食糧をくれて、りんかを治してくれたのはすごく感謝してる。でも、私はあくまでりんかが大事。あなた達じゃなくて、りんかのために戦うから」
「それで、大丈夫だ」
「りんかに危険が及ぶような事をしたら、承知しないからね」
「紗奈ちゃん……ありがとう」
りんかの言葉に紗奈は目を逸らす。
「……りんかのためよ」


「話が無事に終わればあんた達は出なくていい。だが、俺に何かあったらーー外に向けて合図はする。これでいいな?」

ハヤトの言葉に、りんかと紗奈、セレナ共にーー無言で頷いた。





118 ◆8vsrNo4uC6:2025/06/25(水) 10:57:54 ID:O8mW2lmE0



『牧師』ーールーサー・キングは、管理棟の窓からハヤトたち4人の様子を伺っていた。
葉巻を吸い、ゆったりと紫煙をくゆらせる。
今吸っている葉巻もだいぶ火が回り、炭くずの部分が多くなった。
次を出そうと葉巻の入った缶を確認するが、

「……次で最後か」

調子に乗って吸いすぎたらしい。
まぁこんなクソみたいな刑務作業では、ストレスが溜まり吸わずにいられないのも当たり前だ。
ギャルから頂戴した煙草は、安物だが味は悪くない。
刑務が終わるまであれで我慢するか。


この刑務作業の最中、キングは次々と読みを外した。
一度相対したドンの死。
利用できそうだったディビットと王子の逃走を許したこと。
港湾に来るのは叶苗とアイと思っていたが、それも違った。

葉月りんかと交尾紗奈。
娑婆にいた頃、名前と姿だけは見聞きしていた存在。

ハヤト=ミナセは自分にとって使えない駒だろう、というのは読めていた。
キングの考えでは、少女二人を逃しーーハヤトもまたセレナを連れてさっさと逃げてしまうだろう。
そう考えていた。
だが、ハヤトはこれからここに来る。
自分に戦いを挑むつもりで。


苛立ちはあった。
だが、それ以上に楽しさが勝った。
キング自身が幼い頃に捨てた、善性と青臭さをあの男は持っていた。
それが妙にキングをそわそわさせ、苛立たせ、この先に妙な期待をしてしまう。
何も持たないはずのあの男は、次に何をしてくれるんだろうか、と。


外にいる4人組が、次第にこちらに近づいてくる。
キングは窓から己の両拳に目を落とし、鋼鉄をグローブ状に手を覆い、開いては閉じてを繰り返してみる。
かつて若いころ、ドブ底から這いあがろうと懸命に生きていた頃を思い出していた。


葉月りんか。交尾紗奈。
りんかの変身姿は知っていたが、紗奈も変身できるのは予想外だった。
それでもキングは動じない。
相手にとって不足はない。


「ハハッ」

大きな手で顔を覆い、笑う。
「老体に鞭打つ羽目になるとはなァ……」
その声に、悲壮感も苛立ちもなかった。
自分もそろそろ腹を括る時か、とキングは思う。

キングの座っている場所から少しずつ細い線と波のような鋼鉄が生まれ、管理棟の床や壁、天井へと広がっていく。
やがて鋼鉄の網は建物の内部全体を覆い、管理棟を鋼鉄の館へ変えた。

「ーーさて」
これで準備は完了した。
キングは己の纏うスーツを整え、この後の来客を待つ。





【B-2/港湾(管理棟)/一日目・午前】
【ルーサー・キング】
[状態]:健康、苛立ちと楽しさ、臨戦態勢
[道具]:漆黒のスーツ、私物の葉巻×1(あと一本)、タバコ(1箱)
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.勝つのは、俺だ。
1.生き残る。手段は選ばない。
2.使える者は利用する。邪魔者もこの機に始末したい。
3.ドン・エルグランドを殺ったのは誰だ?
※彼の組織『キングス・デイ』はジャンヌが対立していた『欧州の巨大犯罪組織』の母体です。
 多数の下部組織を擁することで欧州各地に根を張っています。
※ルメス=ヘインヴェラート、ネイ・ローマン、ジャンヌ・ストラスブール、エンダ・Y・カクレヤマは出来れば排除したいと考えています。
※他の受刑者にも相手次第で何かしらの取引を持ちかけるかもしれません。
※沙姫の事を下部組織から聞いていました
※ギャル・ギュネス・ギョローレンが購入した物資を譲渡されました(好きな衣服、煙草一箱、食料)

119 ◆8vsrNo4uC6:2025/06/25(水) 10:59:20 ID:O8mW2lmE0




「紗奈ちゃん」
「なによ」

管理棟へと向かっている最中、先導していたハヤトが、ふいに紗奈に呼びかけた。
ぶっきらぼうに返事する紗奈に、ハヤトは続ける。

「何かあったら、オレたちを頼れよ」
「言っておくけど私、あなたたちより強いから」
「それでも、だ」
「……好きにしたら」

歩いている間に、小さい建物が見えてくる。
どうやらあれが管理棟らしい。

ハヤトがここに止まり、3人に振り向く。
「二人はここで待っていてくれ」
りんかが心配げな表情で、ハヤトとセレナを見つめる。
「……気をつけてね」
「そのつもりだ」

「紗奈ちゃんも、りんかさんのことよろしくね」
別れ際、セレナが紗奈と目線を合わせ、対面する。
「……あなた達こそ、りんかを辛い目に遭わせないでよ」
「仲間になったんだから、そのつもりですよ」
紗奈は微笑むセレナを睨む。
食糧をもらい、毛皮は堪能させてもらったが、紗奈は彼女が苦手だった。
「紗奈ちゃんは、りんかさんの事をずっと護ってきたんですね」
「……そう。だから、あなた達なんて本当はどうでもいいの」

りんかは困っている人を助ける正義の味方だ。
けれど自分は違う。
りんかを護れれば、自分はそれでいい。

紗奈は目を細めてセレナの目を見る。
澄んだ優しい色の瞳。
「紗奈ちゃん」
セレナが口を開く。
「紗奈ちゃんが、りんかさんにとってのヒーローであるように。ーーぜんぶ終わった後、わたし達はあなたにとってのヒーローになれてるといいな」
「…………」
紗奈は、何も言わなかった。

「りんかさん!」
ふいに、セレナがりんかに向き直る。
「セレナちゃん……!?」
突然呼ばれ驚くりんかに、

「ついてきてくれて……ありがとうっ!!」
晴れやかな笑みで、セレナは言った。


りんかと紗奈は、ハヤトとセレナを見送った。
管理棟へと歩んでいく2人の背がだんだん遠のいていく。
それを見送りながらりんかと紗奈は変身し、臨戦体制になる。
変身した後、寄り添い、そっと、だけど確かに手を握る。
管理棟を見ながら、しばらくそうしていた。


「紗奈ちゃん。巻き込んじゃってごめんね」
「いいの。りんかがいれば」
「……絶対、全員で生き残ろうね」
りんかが言う。
紗奈はりんかの肩によりかかり、こくりと頷いた。



(ヒーロー、か……)

紗奈はセレナの言っていたことを思い出す。
りんかの手を握る力が、ほんの少しだけ強くなった。

120 ◆8vsrNo4uC6:2025/06/25(水) 11:00:07 ID:O8mW2lmE0



ドアの前。

さっきまで絶望していたのが、今は妙に元気が湧いてくる。
あの牧師に会おうとしていてもだ。
なぜか希望が心を照らす。

精神的なものだけではなかった。
実際オレ自身の肉体も、妙に力がみなぎっていた。
「セレナ……」
セレナもまた、オレと同じようだった。

りんかと紗奈と出会ったことがオレたちに何かいいものを齎したのか?
どちらかの超力の影響でこうなっているのか?
だが、今はそれはどうでもよかった。

オレたちは管理棟のドアの前に立つ。
恐怖を感じないわけではなかった。
だが、それ以上に手を差し伸べてくれたりんかたちに、仁義を通したかった。

「ハヤトさん」

オレがドアノブに手をかけた時だった。

「勝ちましょう。牧師に」
「ーーあぁ」

セレナとお互い頷き合い、オレはゆっくりとドアを開けた。



わたしが勇気を持てたのは、あなたが希望をくれたから。
ほんの少し芽生えた希望を、失いたくない。

りんかさん。紗奈ちゃん。ーーハヤトさん。


どうか、勝って。



121 ◆8vsrNo4uC6:2025/06/25(水) 11:00:44 ID:O8mW2lmE0

【セレナ・ラグルス】
[状態]:背中と太腿に刺し傷(治療キットによりほぼ完治)、ほんの少しの希望(りんかのエターナル・ホープの影響)
[道具]:流れ星のアクササリー、タオル、フレゼアの首輪(P取得済み)
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本:死ぬのも殺されるのも嫌。刑期は我慢。
1.ハヤトに同行する。どこまでも、ついていく。
2.生きて帰れたら、ハヤトと友人になる。

※ハヤトに与えられている刑務作業での役割について、ある程度理解しました。
※流れ星のアクセサリーには、高周波音と共に音楽を流す機能があります。
 獣人や、小さい子供には高周波音が聴こえるかもしれません。
 他にも製作者が付けた変な機能があるかもしれません。

※流れ星のアクセサリーには他人の超力を吸収して保存する機能があるようです。
 吸収条件や吸収した後の用途は不明です。
 現在のところ、下記のキャラクターの超力が保存されています。
 『フレゼア・フランベルジェ』

※りんかの『エターナル・ホープ』の影響で、肉体と精神にバフ(小)がかかっています。


【B-2/港湾(管理棟)/一日目・午前】
【ハヤト=ミナセ】
[状態]:多大な精神的疲弊、疲労(小)、全身に軽い火傷、ほんの少しの希望(りんかのエターナル・ホープの影響)
[道具]:「システムA」機能付きの枷
[恩赦P]:10pt(-食料10pt×2)
[方針]
基本:生存を最優先に、看守側の指示に従う?
0.りんかと紗奈に筋を通し、ルーサーと対峙する。
1.セレナと共に行く。自分の納得を貫きたい。
2.『アイアン』のリーダーにはオトシマエをつける?
※放送を待たず、会場内の死体の位置情報がリアルタイムでデジタルウォッチに入ります。
 積極的に刑務作業を行う「ジョーカー」の役割ではなく、会場内での死体の状態を確認する「ハイエナ」の役割です。
※自身が付けていた枷の「システムA」を起動する権利があります。
 起動時間は10分間です。
※りんかの『エターナル・ホープ』の影響で、肉体と精神にバフ(小)がかかっています。



【葉月 りんか】
[状態]:食糧と水をもらい乾きを回復、疲労(中)、腹部に打撲痕と背中に刺し傷(治療キットにより中程度まで回復)、ダメージ回復中、紗奈に対する信頼、ルクレツィアに対する怒りと嫌悪
[道具]:なし
[方針]
基本.可能な限り受刑者を救う。
0.ハヤトとセレナを気に掛けつつも、戦いの覚悟。
1.紗奈のような子や、救いを必要とする者を探したい。
2.この刑務の真相も見極めたい。
3.ソフィアさん…
4.ジャンヌさんそっくりの人には警戒しなきゃ

※羽間美火と面識がありました。
※超力が進化し、新たな能力を得ました。
 現状確認出来る力は『身体能力強化』、『回復能力』、『毒への完全耐性』です。その他にも力を得たかもしれません。


【交尾 紗奈】
[状態]:食糧と水で乾きを回復、気疲れ(中)、目が腫れている、強い決意、りんかへの依存、ヒーローへの迷い、ルクレツィアに対する恐怖と嫌悪
[道具]:手錠×2、手錠の鍵×2
[方針]
基本.りんかを支える。りんかを信じたい。
0.りんかのために戦う。でも、それだけでいいのかな……
1.新たに得た力でりんかを守りたい
2.バケモノ女(ルクレツィア)とは二度と会いたく無い
3.青髪の氷女(ジルドレイ)には注意する。

※手錠×2とその鍵を密かに持ち込んでいます。
※葉月りんかの超力、 『希望は永遠に不滅(エターナル・ホープ)』の効果で肉体面、精神面に大幅な強化を受けています。
※葉月りんかの過去を知りました。
※新たな超力『繋いで結ぶ希望の光(シャイニング・コネクト・スタイル)』を会得しました。
現在、紗奈の判明してる技は光のリボンを用いた拘束です。
紗奈へ向ける加害性が強いほど拘束力が増し、拘束された箇所は超力が封じられるデバフを受けます。
紗奈との距離が離れるほど拘束力は下がります。
変身時の肉体年齢は17歳で身長は167cmです。

※『支配と性愛の代償(クィルズ・オブ・ヴィクティム)』の超力は使用不能となりました。

122 ◆8vsrNo4uC6:2025/06/25(水) 11:01:14 ID:O8mW2lmE0
仮投下終了です。

123灯火、それぞれに ◆8vsrNo4uC6:2025/06/25(水) 11:05:10 ID:O8mW2lmE0
もうしわけありません、タイトル表記忘れていました。
タイトルは『灯火、それぞれに』です。

124 ◆H3bky6/SCY:2025/06/25(水) 20:37:55 ID:yP2s.8Vg0
>>123
仮投下乙です
本スレに代理投下いたしましたのでご確認ください

125 ◆8vsrNo4uC6:2025/06/25(水) 20:49:02 ID:5TuqPvak0
>>124
ご対応、ありがとうございます。
確認しました。
お手数をかけさせてしまい、申し訳ありませんでした。


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